
『はらはらなのか。』で商業デビューを飾る酒井麻衣監督。女の子のイノセントな魅力を引き出す天才!
全力歯ぎしり、レッツゴー♪ 園子温監督の半自伝的映画『地獄でなぜ悪い』(13年)は当時17歳だった二階堂ふみが火傷しそうなほどにラブリーだったが、二階堂ふみ演じるミツコの少女時代に扮したのが、2003年生まれの原菜乃華だった。園子温作詞作曲のCMソングを天真爛漫に歌い踊り、ヤクザ役の堤真一にメンチを切る少女時代のミツコを見て、「この娘は大物になる!」と予感した人は少なくないだろう。原菜乃華はその後も『おはスタ』(テレビ東京系)のおはガールに選ばれるなど、美少女への階段を順調にステップアップ中。
そんな成長過程にある彼女の撮影時12歳の魅力がみっちり詰まった主演映画が、酒井麻衣監督の商業デビュー作『はらはらなのか。』だ。その道の巨匠・大林宣彦監督の名作『時をかける少女』(83年)や『さびしんぼう』(85年)を思わせる、現実世界とフィクションがせめぎあうドキュメンタリータッチのファンタジー映画となっている。
原案となっているのは原菜乃華主演の舞台『まっ透明なASOべんきょ~』。2015年に中野・ザ・ポケットで上演された劇団Z-lionの公演をベースに、初めて舞台に主演することになった少女のナイーブな心情をクローズアップした多重構造の作品へと酒井監督によってアレンジされている。ジュニアアイドルから本格的に芸能界に羽ばたこうとする原菜乃華のイノセントな輝きは今だけのもの。素顔の原菜乃華もかわいいが、作品の世界に足を踏み入れ、役にハマった瞬間の表情は何とも言えない愛らしさがある。フィクションの世界に同化する演者としての恍惚感を、どうやら彼女はすでに知っているようだ。
本作に主演した原菜乃華をサポートするキャストも気になる配役ぞろい。父親(川瀬陽太)とケンカして家を飛び出したナノカ(原菜乃華)を優しく見守る喫茶店の若い店長・リナには元SKE48の松井玲奈。SKE卒業後、初の映画出演となる松井玲奈だが、本作では前にグイグイと出る役ではなく、舞台デビューを控えて揺れ動くナノカの心情を理解する落ち着いたお姉さんキャラ。SKE時代も松井珠理奈という好対象な存在があったからこそ “ダブル松井”としてファンの印象に残った。松井玲奈には夜道を照らすお月さまのような穏やかな魅力がある。ナノカが通い始める中学校の生徒会長には、16歳の新進アーティスト・吉田凛音を起用。吉田が学校内で明るく歌い踊るミュージカルシーンも見せ場のひとつだ。それぞれのキャストに合わせて“当て書き”された脚本ゆえ、松井玲奈も吉田凛音も等身大にのびのびと振る舞っている。
キャストの自然な魅力を引き出した酒井麻衣監督も1991年生まれの注目の逸材。インディーズ映画の登竜門「MOOSIC LAB 2015」でグランプリ&最優秀女優賞&観客賞ほか6冠に選ばれた前作『いいにおいのする映画』(15年)はスクリーンからは伝わらないはずの“匂い”をモチーフにしたユニークなファンタジー映画だった。本作はナノカ主演の舞台をベースに、二重三重のマトリョーシカふうドラマに仕立ててある。ナノカの若くして亡くなった母親役を魔法アニメ『シュガシュガルーン』(テレビ東京系)などの人気声優としても活躍した松本まりかが演じており、松本まりか、松井玲奈、原菜乃華と世代の異なる女優たちが“演じることの面白さ”をバトンリレーしていくことになる。女優陣のそれぞれのキャリアと実年齢を活かした配役の妙が楽しい。
酒井麻衣監督の前作『いいにおいのする映画』は魔法使いなることを夢見る女子高生の物語だったが、京都造形芸術大学映画学科を卒業し、一度は就職も経験した酒井監督にとって、映画製作の現場こそが魔法の国だった。『はらはらなのか。』の製作発表会見で酒井監督は「『いいにおいがする映画』のときは周りのプロのスタッフさんを魔法使いだと思っていた。今回は菜乃華ちゃんや凛音ちゃんを輝かせる魔法使いの側でいたい。シンデレラになってほしいです」と語っている。シンデレラ誕生の瞬間に立ち会いたい。
(文=長野辰次)

酒井監督と『いいにおいのする映画』に続いての出演となったmicci the mistake。ホラー映画ではありません。
『はらはらなのか。』
監督・脚本/酒井麻衣 音楽・主題歌/チャラン・ポ・ランタン
出演/原菜乃華、吉田凛音、粟島瑞丸、チャン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン、micci the mistake、上野優華、広瀬斗史輝、水橋研二、松本まりか、川瀬陽太、松井玲奈
配給/SPOTTED PRODUCTIONS 4月1日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
http://haraharananoka.com