
アニメ『Fate/Grand Order - First Order-』公式サイトより
神話や伝承、物語、実在人物などを元にした個性的なキャラクターたちと、彼らを巡る物語が大きな話題を呼んでいる大人気スマートフォンRPG『Fate/Grand Order』(cTYPE-MOON / FGO PROJECT)。各方面へのタイアップも数々行われており、これからの展開がとても気になるところです。
今回は、同スマートフォンRPGに登場する膨大な数のキャラクターの中から、昨年末に放送されたTVアニメ『Fate/Grand Order -First Order-』(TOKYO MX)に登場したキャラクターのみに絞り、その原典や宝具の元ネタ、意外と知られていないワンポイントなどをご紹介していきたいと思います。
■マシュ・キリエライト


上:『Fate/Grand Order -First Order-』、BD&DVDジャケット 下: Wikimedia Commonsより。ケルト十字
アニメのヒロインであり、ゲームでは最初にサーヴァントとなるマシュ。彼女の持つ盾の宝具「ロード・カルデアス」のデザインの元は、イギリスの西側にある島国アイルランドのみにその痕跡を残す、
「ケルト系キリスト教」独自の十字架「ケルト十字」だと思われます。
ケルト十字とは、ケルト文化の伝統的な組み紐模様とラテン十字(キリスト教の十字架)を組み合わせたものです。ラテン十字の部分に組み紐模様が刻まれ、十字の交差部分に円盤またはそれを囲む輪がある、というのが特徴です。
ところで古くのキリスト教は、教えの伝わっていない地域を見つけると、その地方土着の神を悪しきものと認定し、布教をスムーズにする(
記事参照)という戦略を取っていました。
ところが、今となってはその理由はわかりませんが、アイルランドにやってきた布教者たちはそのような強硬策を取りませんでした。彼らは、アイルランド土着の信仰と神話をキリスト教と融合させて取り込む、という懐柔策によって教えを広めたのです。
結局古い神々と神話は、文献資料として残されはしたものの忘れられ、キリスト教への信仰のみが残りました。ですが古い時代に2つの信仰が融合した結果として、アイルランドには現在でもケルトとキリスト教が融合した、ケルト十字など独特の信仰の痕跡が残されているのです。

<Wikimedia Commonsより。円卓を囲むアーサー王と円卓の騎士>
ちなみに「ロード・カルデアス」の正体とされる
「アーサー王の円卓」は、1150年ごろに書かれたアーサー王物語のひとつ『ブリュ物語』にてはじめて登場したアイテムです。
これは「騎士たちの着くテーブルを円形にすることで席順の意味を無くし、身分の差を気にしない発言を可能とする」ために、アーサー王が作ったとされるものです。さらに円卓が使われていたという明確な記録や記述は、それ以前の史実にもアーサー王伝説にもありません。
つまり、
今でも国際会議などで使われている円卓は、12世紀に書かれたアーサー王物語から現実へ輸出されたもの、と言えるのです。
■メドゥーサ(ギリシャ神話)
真っ先に登場した敵サーヴァントのメドゥーサですが、実は「メドゥーサ」とは個体名であり、「ヘビの髪の毛に、敵を硬直または石化させる能力を持つ女性の化け物種族名」を指す言葉ではありません。
原典であるギリシャ神話内でのメドゥーサは「ゴルゴン」という化け物種族の1体であり、神話文献によっては姉が2人います。長女ステンノ、次女エウリュアレ、三女メドゥーサという構成で、彼女たちはいわば
「ゴルゴン三姉妹」とでも呼ぶべき存在です。
名前自体が亜人種族名と勘違いされるほどに、メドゥーサの知名度が非常に高い理由は、ギリシャ神話に「鏡の盾を持った英雄ペルセウスに挑まれ、首をはねられた」という有名な逸話があるためでしょう。
『Fate/Grand Order』では今のところ「ゴルゴンという単体の化け物(ゴルゴーン)」と「ゴルゴン3姉妹(ステンノ、エウリュアレ、メドゥーサ)」が採用されていますね。

<Wikimedia Commonsより。ハルペーを持ち、メドゥーサの首を掲げる英雄ペルセウス>
メドゥーサが振るっていた大鎌のような、先端に極端に曲がった刀身の付いていた宝具はゲームと同じく、
神話でメドゥーサの首を切り落とした剣「ハルペー(ハルパ)」をモデルにしたものと思われます。ハルペーは古代ギリシャ語で「鎌」を意味する単語であり、各種文献では「鎌剣」などと訳されています。
ここで「武器は大鎌だったのになぜ剣が?」という疑問を抱かれたかと思いますので、史実におけるハルペーから追って説明していきましょう。

<Wikimedia Commonsより。ハルペーを持つクロノス神>
本来のハルペーは、剣というよりは片手用の鎌のような形状をしていた刃物、と記録のみが残されている武器です。その内容によれば、ハルペーは古代ギリシャで実際に使われていた剣だ、というのですが、あまりにも古い時代に作られ、同時に使われなくなったようで、さらに現物が見つかっていないため、正確な外見はわかっていません。

<Wikimedia Commonsより。16世紀、大鎌の外見で描かれたアダマスの鎌>
ただし、剣であるにも関わらず「鎌(ハルペー)」という名前で呼ばれていることから、現在ではギリシャ神話の天空神ウラヌスの男根を切り取り去勢した鎌「アダマスの鎌」と混同、または同一視されている例が非常に多く見られます。
アダマスの鎌も元々は小さな鎌だったのですが、見栄えを良くするためか絵画などでは次第に大きく描かれるようになり、結果として西洋の死神が持つような巨大な鎌とされるに至ったのです。
これらを顧みるに、おそらくメドゥーサの持つハルペーは、
大鎌として描かれているアダマスの鎌とハルペーを、あえて同一視した上で作られたハルペーなのだと思われます。
■クー・フーリン(ケルト神話・アルスターサイクル)
ケルト神話群のひとつ「アルスターサイクル」の主人公格であるクー・フーリンに関しては、彼のキャスターとしての適正及び、登場した宝具「ウィッカーマン」の解説に留めたいと思います。
必殺の槍ゲイ・ボルグを操るランサーとしてのイメージが強いクー・フーリンですが、神話から見てもキャスターの資質は十二分です。
神話内では大跳躍の術(山を飛び越えるほどの高さまでジャンプする術。(
日本におけるケルト文化や妖精研究の第一人者、井村君江氏の著書の翻訳のみで「鮭飛びの術」)を我流で身に付けるなど、優れた魔術の才能を見せています。
言うまでもないでしょうが、彼に武芸と魔術を授けた人物は、教え子を必ず超一流の戦士に育て上げる、自らも優れた戦士であり魔術師でもある名教師スカサハです。
数多くいた弟子たちの中でも、特にクー・フーリンは目をかけられており、師スカサハから直々に「お前には私の持つすべての技を伝授する」と宣言されています。そしてクー・フーリンは、スカサハの持つすべての武芸、戦術、魔術を身に付け、ダメ押しにスカサハ秘蔵の必殺の槍「ゲイ・ボルグ」とその投げ方を伝授されたのです。
さらに付け加えるならば、クー・フーリンは神の血を引く半神半人の英雄であります。超人的な戦闘能力に併せて、魔術にも長けていて当然でしょう。

<Wikimedia Commonsより。18世紀、伝承を元に想像で描かれたウィッカーマン>
次に、アニメ内でアーチャーとセイバーオルタにとどめを刺した「ウィッカーマン」です。
ウィッカーマンとは、紀元前1世紀ごろのガリア地方(現在のフランス)に住むガリア人(ケルト人の一派)が行っていた「柳の枝の編み細工で巨大な人形を作り、その中に人間や家畜を詰め込み、人形もろとも燃やす人身御供の儀式」とされています。
ウィッカーマンが世に知られたきっかけは、ガリア地方をわずか7年で征服した、後の欧州最強国家ローマ帝国の基礎を作った偉人「ガイウス・ユリウス・カエサル」の著書『ガリア戦記』内の記述です。それによれば、カエサルはウィッカーマンについて
「ガリア人には神に生け贄を捧げる習慣がある。ある者たちは柳の枝の編み細工で巨大な像を作り、内部に人間を詰め込んで燃やし、人々は炎に取り巻かれて死んでいく」と触れています。
注意点としては、これはあくまでも
「戦争に勝利し支配者となったローマ側、カエサルの観測による一方的な記録」という点です。ガリア側によるウィッカーマンの記録は一切残されておらず、当人たちが何を目的として行っていた儀式なのかも不明瞭です。よってウィッカーマンの儀式はカエサルの勘違い、誇張、果ては敵側を蛮族として扱っての捏造、征服の正当化、という可能性もあります。すなわち、正しいとも間違いとも言い切れないのです。
■干将・莫邪(古代中国の物語)

『Fate / Stay Night Unlimited Blade Works』 TV Series Season 2ジャケットより。士郎とアーチャーがそれぞれ手にしているのが干将・莫邪
毎度おなじみ、アーチャーの扱っていた2本の剣は、古代中国の文献を由来とする宝具「干将・莫邪」という、2本同時に作られた夫婦剣です。1世紀の歴史書『呉越春秋(ごえつしゅんじゅう)』、4世紀の志怪小説集『捜神記(そうじんき)』によれば、
亀甲状の文様が施されているのが雄剣干将、波紋状の文様が施されているのが雌剣莫邪となります。
干将・莫邪は、中国由来の伝説の剣としては知名度の高い存在であり、日本を含めた数多くの作品に登場しています。ですがどういう訳か、先述した2つの文献を含め、原典といえるすべての作品内において剣の制作方法や登場人物、さらには物語の内容、結末にまで差異が見られるのです。
また「剣を作る際、妻莫耶が炉中に身を投じた」というエピソードも非常に有名で、これに準じた設定は数多くの作品に登場しています。原文(於是干將妻乃斷髮剪爪、投於爐中)は確かにそのようにも読めるのですが、
「妻莫耶が自身の髪の毛と爪を切り、それを炉中に投じた」と見たほうが無難でしょう。
何故なら、
この物語が成立したころ(紀元前5~2世紀)の中国では「髪の毛にはその人の命が宿っている」とされていたからです。つまり髪の毛を切って火の中に投げ込んだ、という時点で、その時代においては十二分に命を削っているのです。
■セイバーオルタ(トマス・マロリー『アーサー王の死』)
セイバー、すなわちアーサー王に関しては、物語の成立とアルトリア・ペンドラゴン実在の可能性について触れるに留めます。
現代における「アーサー王伝説」とは、基本的にはイギリスの騎士トマス・マロリーが15世紀に完成させた小説『アーサー王の死』のみを指すものです。
実は『アーサー王の死』の大本となる「アーサー王伝説」とは、5~6世紀ごろにブリテン島(現在のイギリス)を守った戦士の活躍が伝説化したものです。アーサーという人物は、8世紀ごろに成立した『ブリトン人の歴史』という文献にはじめて登場するのですが、この時点では王ではなく、部隊を率いる一指揮官にすぎませんでした。
ですが10世紀になると、アーサーをブリトン人の王とした物語がいくつかの文献にまとめられ、アーサーは王として伝説化しました。やがてイギリス、ドイツ、フランスと、ヨーロッパのほぼ全域にアーサー王物語が広まります。
それに触発された当時の作家たちは、こぞって「アーサー王や円卓の騎士が活躍する物語」や「アーサー王と彼に仕えるオリジナル騎士の物語」を作り出していったのです。
結果として、各国で独自の発展を遂げたアーサー王物語が大量に作られました。当然のことですが、それら物語群は数々の作家が各々に書き上げた作品であるため連続性はなく、登場する人物や設定などもそれぞれで異なっています。
マロリーは、それら大量かつ雑多なアーサー王物語を集めて読み漁り、良い設定や要素、エピソードなどを拾い集めてつなぎ合わせ、ひとつの連続した物語としてまとめ書き上げました。その物語こそが、アーサー王物語の集大成『アーサー王の死』なのです。
かなり強引な考え方ではありますが、世に出なかった、すなわち【太字ここから】マロリーが採用せず、かつ後世に残されなかった作品の中に「アーサー王が実は女性であった」という物語が存在していた可能性はなきにしもあらず【太字ここまで】、なのです。
――実のところ、記事としてひとつに収める必要があるため、かなりの情報量を盛り込んではいるのですが、これでも相当な内容を端折っています。
これら元ネタの情報は、知れば知るほど物語や小ネタへの理解、キャラクターへの思い入れが増すものですので、ぜひお気に入りのサーヴァントについて調べてみて下さい。
■文・たけしな竜美
オタク系サブカルチャー、心霊、廃墟、都市伝説、オカルト、神話伝承・史実、スマホアプリなど、雑多なジャンルで記事執筆、映像出演、漫画原作をしています。お仕事募集中です!
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