豚の漫画を描いたことで、ハンガリーに国賓として招かれた不可思議な出来事をまとめたコミックエッセイ『ブタが好きすぎてハンガリーの国賓になりました』(ポプラ社)。この本の刊行を記念して、著者の松本救助さんとハンガリー大使のトーク、ハンガリーの国宝である「マンガリッツァ豚」を食べる試食会が1月24日に開催された。国宝といえば、日本では建築物や仏像、美術品など、歴史があり、大切に保存するべきものというイメージがあるが、豚が「国宝」であるとは、そして、その豚を食べるって、いったいどういうことなのか!? 確かめるため、ハンガリー大使館に行ってみた。
■数を増やすだけでなく、食文化も伝えていかなければならない
同書には、松本さんが国賓としてハンガリーを訪れた経緯や、首都ブダペストの和食店での首相との会食、豚の農園訪問、朝の人気番組への出演など、いち漫画家にもかかわらず、“豚好き”ということから、手厚いおもてなしを受けた体験がコミカルに描かれている。大の豚好きである松本さんが「思ったより毛がごわごわして、スチールウールみたいだった」というマンガリッツァ豚は、丸っこく、羊のような毛に覆われているのが特徴。
そのマンガリッツァ豚が国宝になったのはなぜなのか? トークショーでは、日本語を含め5カ国語に堪能なイケメンのパラノビチ・ノルバート大使から説明があった。
「かつては1,000万頭いたのですが、第二次大戦後に減少し、1991年には191頭になっていました。私が子どもの頃は、動物園でしか見られなかったんです。マンガリッツァ協会のトート会長がスペインのセラーノハムの専門家と協力して、『遺伝子銀行』を作りました。マンガリッツァの遺伝子を守りつつ、おいしいサラミや生ハムなどを市場に戻す戦略を立てたのです。現在は5万頭前後で、ハンガリー全体で飼育されている豚の1.5%程度。2004年に国宝に認定されました」
しかし、なぜ国宝なのに食べても構わないのだろうか? その問いに対して大使は、「昔から食べていたので、ただ数を増やすだけでなく、食文化も伝えていかなければならないのです」と語る。つまり、動物園のようなところで保護するのではなく、日常生活の中にある存在として大切にしていくという考え方のようだ。
■「国宝の豚を勝手に漫画にして、怒られる!」
そんな貴重なマンガリッツァ豚を主人公にした『Bar:Mangalica』(バー・マンガリッツァ)という漫画をウェブで連載していたことから、松本さんはハンガリーに国賓として招待されるに至った。同作は、バーのマスターを務める豚が客の女性の話を聞いて心を癒やすという内容。マンガリッツァ豚の加工販売を行う食品会社ピック社のF澤さんが、偽物の商品にマンガリッツァの名が使われていないか、定期的にネットで調べていたところ、その漫画を見つけ、松本さんに連絡したのがきっかけだ。
その時の状況を松本さんは「いきなり『所長がお呼びなので来てください』と言われて……」と恐縮した様子で振り返った。「国宝の豚を勝手に漫画にして、やばい! 怒られる!」とおびていたという。ところが、実際ピック社を訪れると、予想外に歓迎され、食品の展示会「FOODEX JAPAN」のために、同社とコラボレーションした漫画を制作することに。その後、ハンガリー大使館にも招待されて、マンガリッツァ協会のトート会長と会い、同国政府から国賓として招待されることになった。
■世界一太っている豚
マンガリッツァ豚はハンガリーの輸出品では看板商品だが、高級な食材。高級である理由は飼育に手間がかかるからだという。
「まず、生まれる子豚の頭数が少ない。そして、育てる期間が長いのです。白ブタが8~9カ月で育つのに対し、マンガリッツァは12~15カ月かかります。世界一太っている豚で、脂が多く、体脂肪率が60~70%になります。肉は3割しかとれないため、値段が高くなるのです。政府のサポートがないと、なかなか育てられない」(パラノビチ大使)
ちなみに脂(ラード)は、バターの代わりにパンに塗ったり、調理やお菓子作りに使うという。もともとハンガリーでは伝統的にラードがたくさん使われ、ラードパンは居酒屋の定番おつまみなのだとか。
なお、パラノビチ大使によると、マンガリッツァ豚の輸出先としては日本が第1位。日本ではブランド肉が人気で、日本人は肉の特徴をよく理解しているからだという。
マンガリッツァ豚は、東京・表参道にあるブダペストの老舗カフェ「ジェルボー」の支店などで食べられる。ハンガリー政府もサポートする希少なブランド肉だけに、漫画を通じてその背景が広まれば、知名度も人気も上がるかもしれない。