■事実婚は、自分にとって最適な結婚生活を実現できる“カスタマイズプラン”
――36歳の時に、“事実婚”で再婚されていますが、なぜ、事実婚を選択されたんですか?
水谷さるころさん(以下、水谷) まず事実婚についてお話しすると、事実婚はいわゆる婚姻届を提出し、法律で認められた夫婦ではありませんが、「夫婦ですよ」という状態を指す広い言葉なんです。事実婚にもいろいろあるのですが、うちの場合は、生活実態をより法律婚に近い状態にするために、住民票を一緒にして同一世帯にして「未届けの妻」にするという方法をとっています。行政は、保育園や子どもの医療保険などに関する手続きにおいて「世帯」を単位として見ているので、籍は実は関係がないんです。
共働きでお財布が別、どちらが扶養されるわけでもなく納税も別だと、法律婚をするメリットは少ないんじゃないかと思って。働いて生きていきたい女性にとっては、結婚すると、「世の中って、こんなふうなの?」とガッカリすることが多いんですよね。きちんと、わかりやすく看板を立てていかないと、保守的な結婚の考えの人に、仕事の面でも、家庭の面でも引っ張られてしまう。法律婚は“おまかせ安心パック”、事実婚は自分にとって最適な結婚生活を実現できる“カスタマイズプラン”のようなイメージです。
――おもしろい考え方ですね。
水谷 世間には、保守的な“結婚村”というのがあると感じることが多くて。村人は、村の掟から外れることをすごく嫌います。「結婚したのに、そんなに夜遊びするの?」とか、「毎日ごはんつくってないの?」とか圧をかけてくるわけです。うちは、夫がごはんをつくってるので、それを言うと、すごい嫌な顔をされて「あいつはダメ嫁だ」というレッテルを貼ってくる人がいるんですよ。理想のルールの通りにしてほしい、という圧をかけてくる。だから、私はその村から抜けようと思ったんです。私が欲しいのは、結婚じゃなくて家族ですから。
結婚村の人は、同居が続いていると、「どうして結婚しないの? 早く結婚した方がいいんじゃない?」とか言います。でも、事実婚なら、「婚」がついているので、牽制にもなりますし、「ルールが違います」と伝えやすいんですよね。
――事実婚をして、大変だったことはありますか?
水谷 やっぱり親を説得するのが大変でした。「なんで、そんなことするの?」と聞かれますから。でも、「保守的な結婚観が嫌だから」とは言えないじゃないですか(笑)。いかにうまくオブラートに包みながら、「事実婚の方がいい」「普通に結婚しているのと変わらない」と伝えられるか。「名前も変わらないし、うちはフェアな関係だから」と言い続けると、私がごはんをつくっていないことなども、徐々にとやかく言われなくなっていきます。ただ、理解してもらうには、最低でも3年は必要だと思います。
――親世代を納得させるのは、なかなか難しそうですね。
水谷 うちは夫も私も両方とも再婚で、親の期待値がものすごく下がっていて、パートナーがいてくれるだけでも安心という状態だったので、説得しやすかったと思います。
友達にも事実婚にしようとした女の子がいたんですが、初婚でそれを言いだすと、味方がひとりもいない。自分の親も、相手の親も嫌がるし、パートナーは「どっちでもいい」みたいな状況。女性側が「事実婚の方がいいな」と思っていたとしても、初婚でそこに至るのは難しいのが現実だと思います。
■事実婚が増えたら、法律が変わるかもしれない
――ところで、お子さんもいらっしゃいますよね。事実婚で特に問題はないですか?
水谷 別にないですね。びっくりするほど、何もありません。久々に「おぉっ!」と思ったのは、この間、息子が手術をして、半日入院した時です。たくさん書類があったので、保護者として、私と夫でサインをしていたんです。
そうしたら、息子が手術室に運ばれていった後に、「ちょっとお話が……」と呼び出されて、「お母様とお子さんのお名前が違うんですけど、どういったご事情でしょうか?」と聞かれました。今まで1回も聞かれたことがなかったから、気がつかなかった。「うちは事実婚なので母子別姓で、息子の籍は夫側。でも親権者は私です。生活は一緒にしていて、家族です」と伝えたら、それで終わりでした。それぐらいですね。
――お子さんの籍は旦那さん側ですか? 入籍しない場合、女性側の籍に入るのかと思っていました。
水谷 子どもの名前は夫側の姓にしたかったので、一度、籍を入れて、夫の姓(野田)で産んで、離婚しているんです。
ご指摘の通り、結婚をしないで子どもを産むと、自動的に女性側の籍に入ります。別に自分の子どもを自分の姓にしたいという願望もないですし、夫の姓の方が親戚も多くて仲間もいっぱいでいいかなと思って。私の親は「娘の子が自分と同じ姓」なのを喜ぶ人たちでもなかったので子どもを自分の姓にするメリットもなくて。
でも、結婚しないで野田姓にするには、家庭裁判所に行ったり、手続きがなかなか面倒臭いんです。それで出産する時だけ入籍して、野田になって、産んでから離婚しました。それなら、書類を出すだけで終わりますから。
――わざわざ結婚&離婚されていたんですね。一度籍を入れたら、そのまま流されてしまいそうですが。
水谷 私がもう結婚したくないと思う理由のひとつに、結婚すると、金融機関の名前の変更があるんですよ。私の場合、取引先の多数の会社に入金用口座の変更をお願いする必要があるので、本当に大変。ですから、半年ぐらいであれば、準備期間として、クレジットカード会社や金融機関からも何も言われないので、結婚して半年くらいで離婚という方法をとりました。
それから、小さな政治的な主張という意味合いもなくはありません。今、日本では夫婦別姓が認められていません。今後もしも事実婚をしている人が増えて、半分とはいかなくても、1~2割ぐらいの無視できない数になってきたら、事実上、法律婚の必要性が低くなっているから、ということで、法律が変わるかもしれない。制度を実情に合わせるべきと主張した方が、法律が変わることが多いですから。今の状態で、選択的別姓の運動をしても、昭和22年に廃止されはしたものの、女性が男性側の戸籍に属する「家制度」の名残がある日本では難しいと思っています。
男女差別なんて、もうないよね? と思っていましたが、それは、先人の働く女性が戦ってくれたおかげで、そう感じていただけで、まだ道は半ば。今は過渡期だからしょうがないですよね。
――もっと事実婚を浸透させていくには、どうしたらよいと思いますか?
水谷 一番簡単なのは「結婚しました」と言って、事実婚状態にしておくことだと思います。事実婚で不便だと思ったら籍を入れれば、何の不便もない。婚姻届なんて、書くだけ書いて、しまっておけばいいんですよ。本当にそれでいい。結婚式も挙げて、「結婚しました」と言って、婚姻届も書いて、棚にしまう。引っ越しの時に「未届けの妻」にしておけば、実質的にも「妻」だし、子どもが生まれた時に、婚姻届を使うかどうか考えればいい。私のおすすめは、“しれっと事実婚”です。
「結婚したら、夫が支配的になった」とか「結婚前の約束は嘘だった」といった場合でも、関係を解消しやすい。浮気は事実婚でも民事で裁判できますから、法律婚はするなら相続問題が現実的になる頃、事実婚20年目の記念などに「20年仲良くできたね」と、してみてもいいんじゃないかな――と思ったりしています。
(上浦未来)
水谷さるころ(みずたに・さるころ)
1976年千葉県生まれ。女子美術大学短期大学部卒業。イラストレーター。マンガ家、グラフィックデザイナー。99年「コミック・キュー」(イースト・プレス)にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ!30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末を『30日間世界一周!』(イースト・プレス、以下同)としてマンガ化(全3巻)する。そのほかの著書に旅マンガ『35日間世界一周!!』(全5巻)、『世界ボンクラ2人旅!』(全2巻)がある。趣味は空手。



