雑誌不況が叫ばれて数年、2016年も休刊や廃刊に至った女性誌がいくつもある。一方で、新創刊やリニューアルで話題を振りまいた女性誌も存在する。そんな今年の動向について、女性ファッション誌の研究歴20年、「新社会学研究」(16年創刊、新曜社)で「ファッション&パッション」のコラム連載も担当する甲南大学の栗田宣義教授に聞いた。
■モテ系、赤文字系が凋落
――今年、最も印象的だった女性誌のトピックを教えてください。
栗田宣義氏(以下、栗田) 「AneCan」(07年創刊、小学館)の休刊は大きな出来事でした。「AneCan」は、「CanCam」(1981年創刊、小学館)を卒業したえびちゃん・もえちゃん雑誌。まさに2人のための媒体でした。一昨年にABC販売部数公査(以下、ABC公査)から離脱していますから、すでに1年前には休刊が決まっていたのでしょう。小学館は雑誌余命を伸ばしに伸ばして、10年間よく頑張りました。その意味では編集部の努力は称賛に値します。
注目はその母体だった「CanCam」です。えびもえブームの06年当時、ABC公査で64万部が売れていたのが、10年後の今は6万8000部で、その10分の1。そうなってほしくはありませんが、「CanCam」がいよいよ最後を迎えたら、小学館は女性ファッション誌から撤退するのかもしれませんね。それとも、沽券にかけて守り抜くのか。
「AneCan」休刊に先立つこの数年間、「egg」(大洋図書)「小悪魔ageha」(インフォレスト、現:主婦の友社)「姉ageha」(同)「Happie nuts」(インフォレスト、現:ネコ・パブリッシング)「BLENDA」(角川春樹事務所)「Ranzuki」(ぶんか社)といったギャル系雑誌の休刊が続いていました。一見、ギャル系はもう終わったのかな、とも思えるのですが、そのような逆風の中で「JELLY」(06年創刊、ぶんか社)は、日本雑誌協会JMPAによる印刷部数では、20万4,000部出ているのです。その値のおおよそ3分の2が、ABC公査に近似するので、実売でも13~14万部が売れていることになります。かつて、実売百万部を誇った「non-no」(71年創刊、集英社)が15万部に届かず、豪華な付録で他誌を圧倒する宝島社の旗艦誌「sweet」(99年創刊)や「SPRiNG」(96年創刊)でさえも、17万~20万部という状況下で13万部はすごい数字です。「CanCam」の2倍も売れているのですから。一方、赤文字系の老舗「JJ」(75年創刊、光文社)が6万6,000部、「ViVi」(83年創刊、講談社)は11万2,000部、「Ray」(88年創刊、主婦の友社)は6万部です。
「小悪魔ageha」「姉ageha」が主婦の友社の支援を経て復刊されたことや、「JELLY」の好調を見ると、ギャル系の休刊は、乱立していた媒体が適正な数まで淘汰、整理されたのに過ぎず、その陰で、見えにくいのですが、むしろ、モテ系、赤文字系が次第に売れなくなってきたといえるでしょう。
■「mer」は10年代のヒット雑誌
――ギャル系以外で、好調な動きの女性誌はありますか?
栗田 近年、若い世代向けで成功したのは、「mer(メル)」(13年創刊、学研プラス)。これは、2010年代のヒットですね。音楽活動なども器用にこなし、マルチな活躍を続ける主力モデルの三戸なつめさんが「前髪パッツン」というコピーとともに有名になった雑誌です。ファッション系統のジャンルは、ナチュラルな自分らしさを強調した「わたし系・ピュア系」。三戸さんのヘアメイク、ファッションやライフスタイルは社会現象にまでなりました。わたし系・ピュア系の元祖ともいえる青文字系・ストリート系の雑誌としては、ボーイズファッションを女子に取り入れた先駆的存在の「mini」(00年創刊、宝島社)、古着リメイクで一世を風靡した「Zipper」(93年創刊、祥伝社)などがあります。残念ながら、伝統ある老舗版元の雑誌は、日々進化を遂げてゆくストリートやそれを映すウェブの動向や情報に、どうやら編集部や編集体制が追いついていけなくなってしまったようです。16年中には、ストリートスナップの意義と価値を日本に広めた伝統誌「SEDA」(91年創刊、日之出出版)が休刊、かつては女子高校生必読誌の1冊だった「Zipper」も、休刊こそしていませんが、月刊から季刊化しています。
モデルのイメージだけに頼らず、読者イベントやウェブなどと誌面の連動企画を上手に生かし、わたし系・ピュア系という新系統を生み出した「mer」で成功した学研ですが、過去にファッション誌の休刊も経験しています。「non-no」に匹敵する14万1,000部を売る(ABC公査)、今や最強のローティーン誌「nicola」(97年創刊、新潮社)よりもさらに古く、30年の歴史を誇ったローティーン誌は同社の「ピチレモン」(86年創刊)だけでした。残念ながら「ピチレモン」は15年中に休刊してしまいました。そこでリストラした人材や資源を、「mer」に投入してくれているのかもしれません。学研は、半世紀もの長きにわたって「科学」や「学習」といった学年誌を作ってきた経験と伝統の蓄積があるので、雑誌制作において、最も大切な判断材料となる、読者年齢のセグメントや、時代・世代で嗜好や志向が大きく変わってくることを、経営者が充分に理解しているのでしょう。それは重要なことです。
■「ku:nel」は復刊で赤文字系に?
――「ku:nel」(マガジンハウス)の大胆なリニューアル復刊は話題になりました。
栗田 「ku:nel」(03年創刊)は一昨年の76号で休刊し、4カ月休んだ後、77号で16年1月に復刊しました。それに伴い、タイトルを赤くし、題字が最近は前より25%ほど大きくなっています。76号までは、表紙のテキストサイズや文字数は企業情報誌のような作りだったのに、復刊後は女性ファッション誌とカバーの作り方が同じになりました。各号ごとコンセプトのキャッチは、創刊から一昨年の休刊あたりまでは短い。「お宅訪問」「装いの花束」とか、10字未満で、これは情報誌と同じ。しかし、最近は、15文字程度に増えていて、赤文字系の形式と同じ。つまり、ファッション誌では凋落気味の赤文字系の戦術をうまく「横取りした」形です。
ただ、内容はライフスタイル誌です。マガジンハウスはライフスタイル誌で会社を支えてきた伝統があるので、「ku:nel」で半世紀越しにチャレンジしているのかなとも思う。「GINZA」(97年創刊)もそうです。単一コンセプトではなく、自由度が高い。ファッション、メイクの看板にとらわれていません。例えば、最新号の「おいしい生活」というコンセプトは、通常のファッション誌のキャッチフレーズではありません。稼ぎ頭の「an・an」(70年創刊)ではできないことを、別働隊の「GINZA」でやっている印象です。
■付録ブームの現在
――宝島社が先頭を切って始めた付録は、いまや定番となりました。
栗田 宝島社は、半年前くらいから、女性ファッション誌の表紙を、ネット販売のアマゾンに、発売日前の予約販売では載せなくなりました。表紙の代わりに、付録の写真を出しています。初めてみたとき、なにかの間違いかと思ったほど驚きました。付録に敏感な消費者へのアピールなのでしょう。付録に関していえば、宝島社以外で元気良いのは、新潮社のローティーン誌「ニコ☆プチ」(06年創刊)と「nicola」。新潮社は伝統ある版元ですが、ファッション誌参入の歴史は浅い。両誌は10年後にも確実に残る雑誌だと思います。ファッション誌では新興勢力の宝島社と新潮社が付録の企画や制作に強く、売り上げに大いに貢献しているようですね。対照的に、大手や老舗出版社は弱い傾向があり、苦戦しています。
■webと女性誌のこれから
――webサイトやアプリが人気だった「MERY」(現在は閉鎖)が、雑誌を創刊したのも今年です。
栗田 雑誌「MERY」は、アマゾンのライフスタイル雑誌ランキングで102位です。ランキングの1ケタ台に「an・an」(70年創刊、マガジンハウス)や、「sweet」があって、20位あたりに「暮しの手帖」(暮しの手帖社)などがあり、その中で102位となると、あまり売れていないのかもしれません。まだ判断は早いのですが、ウェブサイトとして運営していた方が良かったのかも。キュレーション・サイトとしては、ずば抜けて好調で、「MERY」と「@cosme」をみれば、雑誌を読まなくても、それぞれ現代日本のメイクとコスメが全部わかる、という一人勝ちの状態でした。おそらくは、経営者あるいは制作スタッフが、紙媒体への強い期待と夢を持っていたと推測されます。ネット全盛時代に紙で出版できるということは、高級ブランドと同じ意味を持っているのです。喩えていうならば、ネットはユニクロやしまむらなどファストファッションに相当し、紙媒体はエルメスやシャネルなど高級ブランドにあたります。その立ち位置は限られ、極めて希少な存在。昔からその場所を占めてきた老舗か、まったく新しいコンセプトで登場するか否か。「MERY」の今後の成功を祈りたいですね。
――「情報はwebでタダで得られるから、お金を出して雑誌を買う必要がない」という声も多いです。
栗田 情報にお金を払わないのではなく、いままで雑誌代に支払ってきた分が通信料に代わってきたのでしょう。ネットだと、インスタグラムは個人がアップする写真が桁違いに充実しているので、おしゃれな若者層には、とても便利です。既存の雑誌もSNSのアカウントを持ち、Twitterやインスタをやってはいるものの、結局、それは紙媒体の寿命を早めているのに過ぎません。いまは紙媒体の雑誌からwebへの移行期。では、紙媒体の女性誌はまったくなくなってしまうのか? と考えると、買うことに価値を見いだせるような希少性のある「ブランドとしての」雑誌だけが残ります。紙媒体最盛期の40誌~50誌体制から、ローティーン誌、ヤング誌、ヤングアダルト誌、ミドルエイジ誌、全部併せても15~20誌残るかどうか、というところでしょう。



























