
地方都市で暮らす若者たちの凄惨なサバイバルストーリーとなっている『孤高の遠吠』。出演者は全員リアルな不良たちだ。
静岡県富士宮市に焼きそばに続く、新しい名物が生まれた。それは実録不良映画だ。富士宮出身の小林勇貴監督(1990年生まれ)が地元の不良たちをそのまま出演させたご当地実録犯罪映画『孤高の遠吠』は、今年2月に開催された「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のオフシアター部門コンペティションにてグランプリを受賞。3月26日(土)より都内の渋谷アップリンクにて凱旋上映されることになった。同映画祭コンペ部門の審査委員長をつとめたベテラン脚本家・柏原寛司氏は「我々プロが大人の事情で撮れないようなものをやってしまう向こう見ずさが、忘れていた青春を思い出させる」と評している。
過激な作品の上映で知られる「カナザワ映画祭」で“期待の新人 カナザワ映画祭賞”を受賞した小林監督の前作『NIGHT SAFARI』(14)に続く実録不良映画である『孤高の遠吠』。富士宮一帯の実にいい面構えをした輩(やから)たちが続々と登場する。『クローズZERO』(07)や『ドロップ』(09)などのヤンキー映画では人気俳優たちが不良役を演じたわけだが、小林監督の作品では実際に地元で鳴らしている不良たちが暴走、抗争、窃盗に明け暮れた自分たちの青春をリアルに演じており、役づくりでは得られない独特の空気感を醸し出している。

バイクデビューしただけで集団リンチされる。不良カーストの最下層に組み込まれ、さらにヤクザに恐喝されるとんでもない事態に……
気になる『孤高の遠吠』の内容だが、ストーリーは小林監督が不良たちを取材して回った実話を繋ぎ合わせたもの。ユヅキ、カミオ、リョータ、ショーヤの4人組は、クラブで声を掛けてきたナカニシ先輩とマキヨシ先輩から原付きバイクを購入する。念願の原付きを手に入れ、心地よいスピードとエンジン音に陶酔する4人。だが、このときから4人は、地元の不良社会のヒエラルキーの中に否応なく組み込まれていく。狭い町に逃げ場はどこにもなく、集団リンチ、拉致監禁、拷問された挙げ句に手なずけられ、単車窃盗や原付き狩りに強制参加させられるはめに。「実話ナックルズ」(2015年4月号)に掲載された小林監督のコメントによると「富士宮では不良デビューするとさらわれ、山でリンチされるんです。俺の友達もさらわれた。リンチをしすぎて草が生えなくなった場所もある」とのことだ。
揮発性スプレーとライターを組み合わせた簡易火炎放射器での威嚇、工場にあるフォークリフトで吊るし上げてのリンチ、単車窃盗で稼いだ金で風俗嬢たちを連れ出しての焼肉屋での豪遊などが生々しく描かれている。映画の中に映し出される夜の町は、まるで犯罪都市ゴッサムシティのようだ。昔からの商店街はシャッター通り化し、均一化された再開発が進む地方都市の不穏な裏の顔が暴かれていく。東京で働いていた小林監督は、週末ごとに地元に帰ってほぼ順撮りでの撮影を重ね、半年がかりで本作を撮り終えた。合計前科69犯という富士宮の単車窃盗団ユキヤ&モトキと愛車を盗まれて怒り狂う富士市の怪物的ヤンキー・ウメモトジンギとの対決に向かって物語は爆走していく。週末ごとに撮られていることもあり、シーンごとにブツ切れ感があり、またプロの俳優ではないために台詞が聞き取りにくい箇所もあるが、そういったマイナス要素さえも逆に商業ベースの映画にはない荒々しさを際立てる要素となっている。

富士市の怪物的ヤンキー・ウメモトジンギ。愛車を盗まれたことから、富士宮の不良たちを手当たり次第に締め上げていく。
原付きバイクを手に入れた少年が、不良たちによって車の中に拉致され、「原付き降りるか、死ぬかどっちか選べ」と包丁で脅されるシーンがある。このときの少年はビビりながらも「どっちもいやです」と精一杯の抵抗をみせる。この台詞のやりとりは、「映画をやめるか、それとも死ぬか」という小林監督が自分自身に向けた問い掛けでもある。ちょっとでも目立つことをすれば、地元の怖い先輩たちから圧力がかかる。狭い社会のルールからはみ出すことは許さない。それでもバイクに乗らずにはいられない。映画を撮らずにはいられない。地方都市で暮らす若者の切実な叫び声が聞こえてくる。
人気コミックを原作にして、大手事務所に所属するCMやTVドラマで顔なじみ感のある好感度俳優たちをキャスティングしたヒットの方程式に従った既成の商業映画にはない、熱く危険な初期衝動が『孤高の遠吠』には込められている。
(文=長野辰次)

『孤高の遠吠』
監督・脚本・編集/小林勇貴 出演/渡辺優津紀、神尾和希、日比野翔矢、増田亮太、赤池由稀也、小林元樹、梅本佳暉、中西秀斗、牧野慶樹、中込篤、石川ボン 3月26日(土)より渋谷アップリンクにて上映
※ 4月1日(金)には19時30分の回の上映終了後に『ライチ☆光クラブ』(16)の内藤瑛亮監督と小林監督とのトークショーあり。また、小林監督の前作『NIGHT SAFARI』(14)も緊急特別上映される。