
(c)2015 ONE Championship
必殺技の“一本拳”が、ついに炸裂した!――地下格闘技出身の渋谷莉孔(30)が10月9日、マレーシア・クアラルンプールで行われたアジア最大の総合格闘技イベント『ONE Championship』に二度目の参戦。フィリピン人ストライカー、ユージーン・トケーロ(34)を圧倒し、念願の海外初勝利を掴んだ。日刊サイゾーでは、無傷で凱旋した渋谷を直撃取材するとともに、コーチの大沢ケンジ(38=和術彗舟會HEARTS代表)もゲストに招き、当日の戦いぶりや勝因を分析してもらった。前回の善戦と今回の勝利で国内外のトップファイターたちから一目置かれるようになり、ファン層も広がった渋谷。さらなるステップアップを目指すべく、年内に次戦を行い、ファン交流イベントも開催するという。地下から世界に殴り込みをかけた元アウトサイダーは、果たしてどこまで成り上がるのか?
* * *
完勝だった。5分3ラウンド、ほぼすべての時間帯を寝技で支配し続けた渋谷が、3–0の判定でトケーロを下し、海外初勝利を挙げた。
帰国した渋谷を都内の飲食店に招き、インタビューを行った。減量の反動で食欲が増しているのか、はたまた元から大食いなのか、彼が迷わずオーダーしたのは「厚さ7センチ、重さ720グラム」のマグナム・ステーキ! これをひとりでたいらげながら、淡々とした口調で自身の試合を振り返る。そこに客観的な戦評も加えるべく、所属ジムの大沢代表にも同席してもらった。

――海外初勝利、おめでとうございます。スタンドのヒジ打ちを得意とするトケーロを警戒して、もっと様子見をするかと思いきや、しょっぱなから積極的に距離を詰めて行きましたね。
渋谷 もっと全体的に競ると思ったんですけど、1ラウンドの開始早々、相手からローキックを何発か入れられたときに、「コイツ、たいしたことねえな。行けるな」と思いました。蹴られてカッとなったわけじゃないけど、「ぶっ殺してやる」って感じで、絶対に打撃を当てる自信を持って前に出たら、案の定コンビネーションがヒットした。そのあとタックルしてからは、勝手に体が動いてくれました。
――タックルした直後、頭部にヒジ打ちを何発か食らっていましたが。
渋谷 反則覚悟で後頭部を打って来るというのは想定済みだったから、別になんとも思わなかったです。痛くもなかったし。
――大沢さんは、序盤の戦いをどう見ていましたか?
大沢 イメージ通りだな、と。そんなに寝技ができそうな相手じゃないから、打撃で勝負しながら組めたら組んで、寝技で仕留めようという作戦だった。最初に打撃をバチンバチンって当てたとき、相手が圧力で負けたというか、ひるんだ感じがあったから、「あ、行けるな」と。ひるんだところでタックルに行って寝技に持ち込む。ここまではもう、イメージ通り。ただ、そんなに上手く行くわけないとも思った。上手く行くわけない、行くわけない……と思っているうちに、試合が終わっちゃったんですけどね(笑)。

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――相手にほとんど何もさせなかったですね。
大沢 寝技って実力差があると、相手は何もできないんですよ。何もさせないだけの差があったんだな、と。
渋谷 相手が弱かったというより、自分のレベルが予想以上に上がっていた感じっすね。やりながら「あぁ俺、強くなってんなぁ」って思いました。
大沢 課題はフィニッシュだな。KOするか、キメるかしないと、勝っても観客の印象に残らない。
渋谷 そこが心残りですね。年に何回かしか出られない大舞台で、せっかく絵を描いたのに、最後、額に入れられなかった、みたいな。僕は試合をアートとしてとらえているんですよ。もっとヒザとかを真上から落としたほうが作品の完成度が上がって、もっと客席も沸いたのかな、という悔いはあります。
――客席を沸かせるために、スタンドで打撃戦をすることは考えなかったですか?
渋谷 2ラウンドは打撃でやっちゃおうかと思っていたんですけど、意外なことに、相手のほうからタックルを仕掛けてきて、僕が倒されちゃった。それでムキになって、2ラウンドも3ラウンドも寝技で攻めたんですけど、仕留め切れなかったですね。
――大沢さんにお聞きしますが、今回みたいな相手を完全に仕留めようと思ったら、どう戦えばよいのでしょう?
大沢 マット・ヒューズ・ポジション(横四方固めの体勢から自分の足と腕を使って相手の両腕を固定して)から、もっと激しくヒジやパウンドを落とし続ければ、TKOを取れたはず。
――サイドポジションからヒジを顔面にグリグリ押しつけつつ、ヒザで側頭部を蹴る場面が続き、けっこう効いているようにも見えましたが。
渋谷 あれで終わるかな、と思ったんですが……。練習でヒザを使うと相手に大ケガをさせちゃうから、ヒザの使い方に関してはあまりシミュレーションできていなかったですね。
――2ラウンドの終了間際にパウンドを数発、思い切り振り下ろす場面がありました。あそこは見ていて興奮しました。
渋谷 さぁこれから! ってときに、ちょうどゴングが鳴っちゃいましたけどね。
大沢 でも、判定とはいえ勝ったのはデカイよ。勝つと負けるとはでは大違いだから。どんなに善戦しても負けたら評価されないのが格闘技の世界だから。
渋谷 ですね。あと今回は、一本拳(別項参照)をきれいに決められたのがうれしかったです。最初に左フックを当ててトケーロを流血させましたけど、あれ、一本拳なんです。2戦目にして、ようやく必殺技が炸裂しました。
大沢 ようやく決まったな(笑)。

一本拳とは、中指もしくは人差し指だけを突き出して、そこにパワーを一点集中させる殴り方。自分がケガをするリスクもあるが、当たれば相手に与えるダメージも大きい。渋谷は今年3月の海外初進出のときから、この一本拳を必殺技として使うと予告していた。もちろんルール上、反則ではない。

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――クアラルンプールで戦うのは二度目でしたが、客席の反応はいかがでしたか?
渋谷 入場のときからヤバかったっす。ハンパじゃなかったっす。特に現地の中学生くらいの少年ファンがたくさんいて、ものすごい声援を送ってくれました。
――前回のアドリアーノ・モラエス戦を見て、渋谷選手のファンになった少年が多いのかもしれませんね。ちなみに前回はメインイベントでしたが、今回は12試合中7試合目でした。現地での人気を考えると、もっと終盤の試合順でもよかったような気もしますけど。
大沢 格闘技の場合、人気だけじゃなく、結果も見られちゃうんですよ。前回は確かにいい試合だったけど、負けは負け。今回は勝ったけど、この1勝だけでは、そんなに扱いは変わらないんじゃないかな。次も勝って、本当にファンを引きつけたら、扱いも変わってくるはずです。
――次戦の予定は?
渋谷 今年の12月にやることだけは決まりましたが、詳細はまだ言えません。
大沢 渋谷にはいずれ『ONE Championship』でベルトを取ってほしいですね。そうすればますます面白くなる。今年から大晦日の格闘技興業(RIZIN)も復活するし、日本の総合格闘技は再び盛り上がりつつあります。そんな中、正規の路線じゃないところから這い上がってきた渋谷みたいな存在は面白いし、テレビ的にも使いやすいし、活躍できる力もある。アウトサイダー(前田日明主催の不良の格闘技大会)出身で、地下格闘技の世界でも戦っていた渋谷は、最初こそ色眼鏡で見られがちだったけど、いまや国内外のトップファイターたちからも、うるさ型の格闘マスコミからも、その力量を認められつつありますからね。
――大沢さんから見て、「格闘家・渋谷莉孔」の最も優れている点はどこでしょうか?
大沢 「気持ち」でしょうね。正直、日本じゃたいした戦績を挙げていないし、トップファイターと試合をやった経験もほとんどないんですよ。なのに、ああいう海外の大舞台で、ビビらず前に向かって行ける。こないだの対戦相手のトケーロは、打撃も強いし圧力もすごいという評判を関係者から聞いていたから、僕は試合前、「打撃勝負はキツイだろうから、組み技中心で考えたほうがいいんじゃないか?」と提案したんですけど、渋谷は「打撃でもしっかり勝負できるようにしておきたい」と言ったんです。で、実際、開始直後に打撃のコンビネーションで相手を飲み込んじゃった。その前のアドリアーノ・モラエスとのタイトル戦のときも、相手は格上なのに、打撃の真っ向勝負でひるませていたから、やっぱ、気持ちがつえーんだな、と。

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――気持ちの強さは、どこから来ていると思いますか?
大沢 不良魂じゃないですか? 格闘技って、ケンカが強い奴じゃないと最後の最後に勝ち切れないんですよ。ケンカって、諦めない奴が最終的に勝ちますから。……お前、ケンカ強かっただろ?
渋谷 (ステーキを口に運ぶ手を止めて)……あ、強かったです。でもぶっちゃけ言うと、アウトサイダーのときも地下格のときも、そんなに本番に強かったわけじゃないんですよ。どうやったら本気を出せるのか? ということを、1年半ぐらい前にいろいろ考え直した結果、本番に強くなったんです。
――どうやったら本気を出せるんですか?
渋谷 これは悪口じゃないんですけど、いろんな人の試合を見ていて、「みんな練習では強いのに本番では弱いな」と思うことが多くて。バックステージではけっこう弱気っていうか、空元気な選手がすごく多いんですよね。9割ぐらいの選手がそう。
――空元気とは?
渋谷 めっちゃノッてる風に見せているけど、たぶんノッてないんだろうな、みたいな。
大沢 ハッハッハ(笑)。弱気を隠すために強がったり、緊張を怒りに見せかけたりな。
渋谷 昔は自分も空元気野郎だったんですけど、最近は、特にこないだの試合なんかは、楽しい感情しかなくて。バックステージにいるときから、本当に楽しくて、ただのパーティー野郎だったんですよ。入場のときも観客の顔が全員見えて、コイツらの前でどう格好つけてやろうか、とか、そんなことしか考えていなかったんですよ。格好つければ結果的にいいポジション取りができるし、いいフォームでパンチやキックも打てるし、パフォーマンス全体がアップする。倒すとか倒されるとかを考えるよりは、格好つけることを第一に考えたほうがいいということに、あるとき気付いたんですよね。
――かつて渋谷選手のセコンドを務め、先日「ROAD TO UFC JAPAN」を勝ち上がった石原夜叉坊選手に、考え方が近いですね。
渋谷 夜叉坊は「女子にモテるため」に全精力を注いで、結果を出していますよね。でも、客席が全員男だったらどうすんねん? と夜叉坊には問いたい(笑)。格闘技は男のファンも多いんで、自分の場合は「老若男女全員にどんだけ格好つけるか」ってことを考えます。そうすると蹴りとかパンチとかも、練習以上のものが出せるんです。練習したことを100パー出すっていうよりは、自分を1000パー、2000パー出す、っていう感覚。そんぐらい出るもんだと思っているんで。本番では。
大沢 その出し方を細かく教えるセミナーでも開くか(笑)。

――ところで、720グラムのステーキを完食しましたね。次戦は12月なのに、そんなに食べて大丈夫ですか?
渋谷 まだ軽い減量段階だから、大丈夫。それに、肉はタンパク質と水分だから、食べてもそんなに太らないんですよ。
――渋谷選手はいつも、「試合前の数カ月間で約30キロ落とす」と言っていますが、そういう大幅かつ急激な減量って、格闘技の世界では当たり前なんですか?
大沢 渋谷の場合、やり方が普通じゃない。元がデブだから(笑)。
渋谷 もともと超デブで、中学で90キロあったんで。けっこう太りやすい体質なんです。
大沢 太りやすいんじゃなくて、食生活が悪いんだろ?
渋谷 悪いですね。詰められるだけ詰めちゃうし、食いながら寝るのも好きだし。
――そういう人は、30キロ落とすのもラクなんですか?
渋谷 ラクではないです。でも、何度もやってコツを学んだし、慣れましたね。
大沢 そのへんのノウハウも、興味ある人が多そうだな。ファン交流イベント的なセミナーを開いたら、マジで面白いかもね。

というわけで、以下のイベントを開催することが正式に決まったらしいので、最後に告知しておこう。
★渋谷莉孔セミナー開催決定!
「不良のパンチは当たるんです。組みつく奴からの逃げ方を教えます!」
「試合もケンカもやることは一緒」という考えのもと、強いパンチの打ち方や、負けないメンタルの作り方、女性にもできる簡単護身術、減量やダイエットのコツなどを、渋谷莉孔がオリジナリティ溢れるロジックでわかりやすく指導。質疑応答コーナーや、記念撮影コーナーもあり。希望者は渋谷のパンチやキックを体感できるかも!?
日時/2015年12月12日(土曜日)19時00分〜20時30分
会場/和術慧舟會HEARTS
http://www.hearts-mma.com/
東京都渋谷区代々木2-20-12呉羽小野木ビル1FA号
TEL:03-6383-4057
定員/先着20名。年齢・性別不問。格闘技未経験者も歓迎。
参加者はトレーニングウェアをご持参ください。
料金/前売り……4500円(振込先はメールにてご案内します)
当日券……5000円(前売りで定員に達した場合、当日券の販売は行いませんのでご注意ください)
応募/E-mail:contact@hearts-mma.com
メールの件名に「渋谷莉孔セミナー参加希望」と明記し、
本文欄に、氏名・年齢・住所・電話番号をご記入の上、
上記アドレスまでメールをお送りください。
折り返しのメールにて、振込先等をお伝えします。
(取材・文)岡林敬太