――日本で実際に起きたショッキングな事件、オカルト事件、B級事件、未解決事件など、前代未聞の【怪事件】を隔週で紹介する…!

※イメージ画像:Thinkstockより
【今回の事件 池袋・買春男性死亡事件】
枕営業は不倫ではない……。
昨年の4月に東京地裁で出された判決が、つい最近、話題になった。
長年に渡って夫と肉体関係を持ち続けていた銀座のクラブのママを、妻が訴えていた裁判で、始関正光裁判官は、その訴えを退けた。
判決は次のように下った。
「顧客と性交渉を反復・継続したとしても、それが『枕営業』であると認められる場合には売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではない」
賛否両論あるだろうが、注目すべきは「売春」を商売と認めたことだ。
売春防止法では、第1条で、「売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすもの」としている。法律の世界では売春は、決して正当な商行為とは認められてこなかったのに、だ。
過去には「売春という道を選んだのだから、危険な目に遭うのも仕方ない」とされたことに鑑みるに、ずいぶんと世の中の考え方が変わったといえるだろう。ではその頃の事件をみていこう。
■善良に見える男性の隠された野蛮な素顔
昭和62年4月15日、池袋で事件は起きた。
椎名香澄(仮名、21)は、ホテルにひとりで派遣されていく風俗嬢をしていた。まだデリヘルという言葉はなく、同じ業態をこの時代はホテトルと呼んだ。店から指示を受けて行ったのは、地下に映画館のある池袋のビジネスホテル。島村隆也(仮名、28)が、ロビーで待っていた。真面目なサラリーマン風に見える。実際に島村は、NTTの社員だった。
「若くてきれいな人が来てくれて、嬉しい」
ダブルベッドのある部屋に入ると、島村はそんなことを口にして、香澄を喜ばせる。通常のコースは2時間で3万円だが、ダブルの4時間で6万円、そして交通費としての1万円を加えて、計7万円を島村は香澄に手渡した。香澄の住むマンションの1カ月の家賃とほぼ同じ額だ。
香澄は店に電話をかけ、契約が成立したことを報告した。
■豹変した男性の性的暴行を受ける
受話器を置いて振り返ると、みぞおちに何かが飛んで来た。男の拳だった。力の抜けた香澄を、島村はベッドに押し倒す。
「おとなしくないと、殺すぞ」
手に持ったナイフを、島村は香澄に突きつけた。香澄の手に当たり、切れて血が出る。島村はそこにバンドエイドを貼った。その後、島村は香澄の両足首を浴衣の帯で、両手首を用意していたガムテープで縛る。大型バックから取り出した三脚を立て、8ミリビデオをセットする。様々なものが、テーブルに広げられる。ポラロイドカメラ、バイブレーター、マッサージゼリー、ローソク、ハサミ、ロープ、ゴム手袋、浣腸薬、ゆで卵、にんじん、きゅうり、バナナ……。
島村はビデオのスイッチを入れる。
「動くなよ。肌に傷がつくぞ」
島村はナイフの先でストッキングを裂いた。最初に殴打したこともそうだが、当然のことながら、こんなことはSMクラブでも許されることではない。
「口を開けてしゃぶれよ」
島村はフェラチオを強要し、それをポラロイドカメラで撮影した。
■屈辱的な行為を強制される
島村は裸になり、香澄の緊縛を一旦解いた。そして彼女の股を大きく開かせ、右手と右足、左手と左足をそれぞれ帯で縛るという、より屈辱的なポーズにさせた。バイブレーターを香澄の股間に当てながら、島村は自分の話した言葉を彼女に繰り返させる。
「私は男の公衆便所です。やりたくなったらきてください」
「私は悪い女だから、うんと虐めて」
香澄が感じている振りをして体をよじっているうちに、帯がゆるんできた。島村は、ゴム手袋とハサミを用意している。ハサミで何をするつもりだろう。このままでは殺されてしまうかもしれない。香澄は、そう感じた。
熱中しているうちに、島村に隙ができた。すぐ近くに転がっているナイフを引き寄せて、香澄は体の下に隠した。ハサミを持って島村がベッドに上がってきたので、香澄は手に取ったナイフを突きつけた。
「なにすんだ。このヤロウ!」
島村は香澄の髪の毛をつかんで壁に打ち付けたが、彼女はナイフを彼の胸に突き刺した。逃れようとする香澄と、捕まえようとする島村。その間に、ナイフは幾度も島村の体を刺す。島村は叫び声を上げると、ばったりと倒れた。動き回りながらの出血したため、失神したのだ。香澄はフロントに電話した。
「助けて、早く、助けてよ。救急車呼んで。死んじゃう、死んじゃうよ!」
■
事件発覚後、驚きの判決が下される
ホテルの従業員が駆けつけた時、香澄は全裸だった。島村は、出血多量で死亡したことが運ばれた病院で確認された。香澄は警察に現行犯逮捕される。裁判が始まると、法廷には有力な証拠が提出された。島村がセットしたビデオに一部始終が映っていた。危害を加えてきたのは島村であり、香澄がナイフを手に取ったのは正当防衛である、と香澄の弁護人は無罪を主張した。
検察は懲役5年を求刑し、こう主張した。
「売春契約をした以上、性的自由及び身体の自由は放棄されており、保護に値しない。客によっては危険のあることも知っていたはず。被告人は命の危険もなかったのに、憤怒のために殺意を持って被害者を刺殺した」
12月18日に出た判決は、懲役3年。判決はこう述べた。
「女性自らが招いた危険という面もあり、被害者を死に至らしめたのは過剰防衛だった」
彼女は控訴し、高裁判決は昭和63年6月に下された。
「被害者からの暴行、脅迫や異常なまでのわいせつ行為を耐えがたく感じたのは無理からぬことで、被告人が本能的にナイフを振って犯行に及んだことは、同情に値する」として、有罪は変わらなかったが、執行猶予が付いた。それでも「売春婦と一般婦女子との間では性的自由の度合いが異なる」として、正当防衛は認められなかったのだ。今この事件が起きていたら、一体どんな判決が出ているのだろうか?
(文=深笛義也)
■深笛義也(ふかぶえ・よしなり)
1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。18歳から29歳まで革命運動に明け暮れ、30代でライターになる。書籍には『エロか?革命か?それが問題だ!』『女性死刑囚』『労働貴族』(すべて鹿砦社)がある。ほか、著書は
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※日本怪事件シリーズのまとめは
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