
島田裕巳氏
日本人と「葬式」の関係が変化している。イオンが葬式ビジネスに参入し、ヤフーでもネットで葬式を申し込む「ヤフーの葬儀手配」というサービスをリリースした。肝心の内容も、かつては当たり前だった、寺やセレモニーホールを使用した大々的な葬式から、少人数で行われる「家族葬」や、通夜・告別式などを行わない「直葬」へと徐々に変化しつつある。
だが、葬式の世界における変化はとどまることを知らない。これまで『葬式は、要らない』『戒名は、自分で決める』(幻冬舎新書)などの著書を執筆し、従来の葬式のあり方に対して疑問を呈してきた宗教学者で作家の島田裕巳氏は、新著『0葬』(集英社)にて、遺骨も引き取らない新たな葬式のスタイル「0葬」を提案している。
いったい、日本人の「死」に対する意識はどのように変わったのか? そして、未来の葬式はどのような姿をしているのか? もしかしたら、葬式のない時代がすぐそこまで迫っているのかもしれない……。
――これまで島田さんの著書では、葬式や戒名など、死をめぐる慣習についての疑問が投げかけられてきましたね。
島田裕巳(以下、島田) 葬式をめぐっては、日本社会の考え方が急激に変わりつつあるのを感じます。通夜も告別式も行わない「直葬」というスタイルも、言葉が誕生してからわずか数年のうちに、すっかりと定着してしまいました。
――これまでの大規模な葬式の方法から、中身が削ぎ落とされていって、どんどんと簡略化されています。この変化には、どういう事情があるのでしょうか?
島田 高度経済成長の時代に都市化が起こりました。その時に都会に出てきた世代が、ちょうど亡くなる時期に差し掛かっています。それが一番大きな理由ですね。また、経済的な状況が悪化していることで、葬式にお金をかけられない、あるいは平均年齢が上がることによって大往生が増えているなど、さまざまな要因がかかわっています。
――島田さんの著書によれば、葬式の平均費用は231万円ということです。正直「そんなにかかるのか……」と、驚いてしまいました。けれども直葬ならば、費用も20万円程度と、これまで10分の1に抑えられます。
島田 もちろん、お金を持っている人は立派な葬式を挙げればいいんです。けれども、問題はお金のない人。その人たちがどのように葬式を執り行うかについて、これまでの社会は答えられていませんでした。簡略化された葬式という選択肢が、これまで与えられてこなかったんです。
――「直葬」を実際に選択する人は、どのくらいいるのでしょうか?
島田 葬式の情報サービス会社「鎌倉新書」が2012年に行った調査によれば、関東地方では22.3%が直葬でした。人を弔うことにお金をかけても仕方がない、という人は増えています。ただし、まだお墓に関しては必要と考える人は多い。同じく鎌倉新書の調査では、東京都では平均278.3万円が、お墓の購入代金として使われています。お墓にこれだけお金がかかるから、葬式にお金をかけられない。直葬が広がる背景には、こういった事情もあるのでしょう。
――この先、日本人の葬式はどのように変化していくのでしょうか?
島田 現在は、貯金のある高齢者も多いですが、これからは、高齢者でもどんどんお金がなくなっていくから、葬式や墓には、今以上にお金はかけられなくなります。
――やはり、簡素化の方向に進んでいくんですね。
島田 そもそも、葬式や墓にこんなに金がかかるのは現代に特有のことで、かつては葬式にほとんどお金はかかりませんでした。また、現在でも、韓国で37.3万円、アメリカで44.4万円、イギリスで12.3万円と、諸外国では日本よりもはるかに安価に葬式を挙げているんです。そこで考えたのが、遺骨を引き取らない0葬です。遺骨がなければ高額の費用がかかる墓も必要なく、火葬代だけで済みます。
――遺骨すら引き取らない……そんなことが可能なんですか?
島田 一部の火葬場では可能です。そのような選択肢があること自体、普通は知りませんよね。0葬が普及するかどうかはわかりませんが、そういう方法もあるという可能性を提示したかったんです。世界的にも、こんなにも骨を大事にする国は珍しいんですよ。
――外国の葬式では、火葬場から骨を引き取らない人も多いそうですね。
島田 日本国内でも、実は葬式の方法は地方によってまちまち。東京では通夜、葬式を挙げてから火葬をしますが、東北地方では通夜をして葬式をする前に火葬をしてしまう地域もある。そもそも、正しい葬式なんていうものはないんです。
――島田さん自身の葬式は、どのように挙げてほしいですか?
島田 何もしなくていいですよ。
――0葬の実践ですね(笑)。
島田 葬式自体、はたして本当に意味があるのでしょうか? 本当に深く付き合っている人でもない限り、葬式には行く必要はないと思います。
――ただ、自身の葬式ではなく、両親などの喪主を務めるのであれば、生前の意向や世間体なども考えなければならず、事情は異なるのではないでしょうか?
島田 そうですね。ただ、とりあえず火葬して、それからゆっくりと考えようと思います。火葬をしてからその後を決めれば、時間的な余裕が生まれます。それから、どのような葬式をするかを考えても遅くはないはずです。
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])
●しまだ・ひろみ
1953年生まれ。東京都出身。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(宗教学専攻)。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員などを歴任。現在、東京女子大学非常勤講師。NPO法人「葬送の自由をすすめる会」会長。