
虚構新聞
「現実と虚構の区別をあいまいにするような報道」をモットーに、架空のニュースを配信している「虚構新聞」(
http://kyoko-np.net/)が、4月で10周年を迎える。“99%がウソの情報”と公言しているにもかかわらず、昨年11月には日本ユニセフ協会の寄付金をネタにした記事が削除依頼を受けたり、食品偽装をネタにした風刺記事が現実になってしまったりと、ここ数年はネット上だけでなく社会を騒がすことも少なくない。そこで社主のUK氏に、ネット社会の変化も含め、この10年を振り返ってもらった。
――4月で10周年を迎えますが、現在の心境は?
「『気がつけば10年』という感じです。もともと凝り性なので、日課のように自分の妄想を書き続けていたら、こんなに時間がたっていたという……。過去2度ほど批判の集中砲火を浴びてやめたくなったこともありますが、それと同じくらい応援や励ましの声を頂いたので、ここまで持ちこたえることができました」
――現在の更新頻度は、どれくらいなんですか?
「最近は週2本程度です。毎日更新もできなくはないですが、記事を粗製乱造したくないのと、そこまでPV稼ぎをしたいわけでもないので……。月間PVは、平均して150万くらいでしょうか」
――これまで、ネタとして書いた風刺記事が現実となってしまったケースも少なくありませんが、その中でも特に印象深いのは?
「なんといっても、昨年7月の『森永グロス』の一件です(「森永チョコレート『ダース』144個入りの『グロス』発売へ」と報じたところ、森永の社員が実際に『グロス』を作り、12個限定で販売した/
http://kyoko-np.net/special06.html)。いまだに出来レースと言われますが、まったくそんなことはなく、急遽発売が決まったので、慌てて謝罪記事を準備し、お台場で行われる『グロス』販売会場までの交通宿泊の手配や本業の調整など、本当に忙しかったです。滋賀からお台場まで行って帰って5万円使って、手元に残ったのは1500円のグロス1箱だけでした……。でも、この件がきっかけで、一皮むけたような気はします」
――こういったケースとは別に、橋下徹市長のTwitter義務化騒動(「橋下市長、市内の小中学生にツイッターを義務化」と報じたところ、騙される人が続出)や日本ユニセフ協会からの猛抗議(「日本ユニセフ、寄付金の流れ透明化へ」という記事が日本ユニセフ協会の逆鱗に触れ、削除させられた)など、ネット上だけでなく社会を騒がすケースも出てきています。趣味で始めたサイトがここまで発言力を持ってしまったことについて、どう思いますか? また、ご自身としては「メディアを運営している」という意識はあるのでしょうか?
「メディアという意識は、特にないです。たまたま『新聞』を名乗ったので、そう思われるかもしれませんが、本質的にはかつて隆盛を極めた個人テキストサイトの生き残りです。読者が増えたから言える/言えないというより、現実化する/しないのほうが深刻な悩みです。『森永グロス事件』のように記事が本当のことになってしまうたびに、読者からの信頼がどんどん失われてしまうので……」
――最近では、こういった“シャレ”が通じないユーザーや、ネットに対する警戒心やリテラシーが低いユーザーも散見されます。虚構を売りにするサイトの運営者として、何か気を使っていることはありますか?
「“記事をちゃんと最後まで読めば、おかしなところに気がつく”というのが、まず基本ですね。企業の業績や株価に影響を及ぼすような記事は、絶対に書かないですし。ただ、そういったユーザーに対して、今以上に何か配慮しようとは考えていません。すでに全ページに『虚構新聞』とロゴを入れていますし、ファビコンにも『虚』の文字を入れています。リンクを踏まなくても、ドメインを見れば判別できます。最近は他の新聞サイトと同様、ヘッダーに『虚構新聞』と入れるべきだという声も耳にしますが、逆に言えば、ちゃんとしたメディアはヘッダーにサイト名を入れているのですから、ヘッダーに情報元を記載していないようなサイトは信ぴょう性に欠けると、最初から疑ってかかったほうがいいでしょう。もちろん騙されて怒る方がいらっしゃるのは承知しています。でも、それと同時に、騙されるのを楽しんでいる方もいらっしゃることもご理解いただければありがたいです」
――こういったユーザーの出現のほか、この10年間でネット上の雰囲気に何か変化を感じますか?
「いわゆる“不謹慎”のボーダーラインがどんどん下がっている気はしますね。例えば、事故死に関する記事を書けば、それが架空の人物であっても『ウソでも誰かが死ぬなど書いてはいけない』という声は上がりますし……。それだけ、ネットというメディアが、テレビをはじめとしたメディアと同様に一般化してきた証拠でもあるんでしょうけれど」
――確かに「ネトウヨ」や「マスゴミ」「情弱」など、ネット上のスラングがテレビなどでも頻繁に聞かれるようになりましたね。虚構新聞は右寄りといわれることもありますが、どういったスタンスで記事を作っているんですか?
「確かに、長らく民主党政権をネタにしてきた経緯もあって、そう言われた時期もあったのですが、右だろうが左だろうが、変なことをやっていたらネタにしています。『女性手帳』(
http://kyoko-np.net/2013051401.html)とか、ブラックな某議員とか、面白そうな記事になるのであれば、政治的スタンスなどはどうでもいいです。表現上の注意を挙げるなら、そういう政治的に極端に偏った勢力が喜んで飛びついてくるような記事は書かないです。逆に見出しで飛びつかせて、内容は真逆にするような仕掛けを入れたりはしますが」
――虚構新聞の「風刺」に、タブーはあるんですか?
「『この話題はタブーだから避けよう』と思ったことはないです。ただ、タブーだからあえて踏み込むというわけではなく、まずは記事として面白くなるかどうかが最優先事項です。『タブーを破るから面白い』というのは安易すぎるかなと。そう思っていた時期もありましたが、年を取って多少考え方にも変化が出てきましたね」
――少し話しが変わりますが、ここ最近、2chまとめサイトへの転載禁止が波紋を広げています。虚構新聞の記事も、こういったまとめサイトにたびたび転載されていますが、今回の騒動をどう見ていますか?
「いろいろまとめサイトを見て回っていますが、どこも苦労しているなあという印象です。もともと管理人のキャラを売りにしていたところは、そのままその個性を生かして別の道を歩んでいけそうですが、単に転載と編集だけで煽っていたようなところは、それまで名前すら明かされていなかった管理人が急に表に出てこざるを得なくなって、しかもコメント欄に『お前誰だよ』的なことが書かれているのを見て、なんだか哀愁のようなものを感じましたね。このまま転載禁止が続くなら、無個性なまとめサイトは淘汰されていくのではないでしょうか」
――そもそも、彼らキュレーター(管理人)と虚構新聞のようなクリエーターとの間に、幸せな関係はありえるのでしょうか?
「本紙の記事の中にも、そういうキュレーターの目に留まって広まったものが少なくないので、多くの人に読まれたい/見られたいというクリエーター視点からすれば、ポジティブな方向での共生関係は十分あり得ると思います。ただ一方で、それが負の方向に働くと、私人を晒し上げ、ネットリンチになるので、そのあたりはキュレーターの倫理観に依存するしかないでしょうね。ただ、今まで見てきた中では、ネット社会においてもなお“因果応報”“人を呪わば穴二つ”という言葉は生きているように思います。“明日は我が身”かもしれませんが……」
――虚構新聞として、今後やりたいことはありますか?
「私としては、読者に楽しんでもらえればそれで十分です。ただ、サイトを通じた収入があることも確かなので、これを元手に2020年の東京五輪までに東京支局を作って、五輪の観光がてら見に来てもらえるような場所が提供できればいいなとは思っています。どこかビルの一室から電光パネルで『速報:男子やり投げの槍が、投てき中、場外まで飛び出たので頭上に注意!』とか、どんどん流していければ楽しいですね」
(構成=編集部)