
布川郁司氏
「パンプルピンプルパムポップン、ピンプルパンプルパムポップン!」
魔法の呪文で、どこにでもいる普通の小学生の女の子がトップアイドルに変身するという魔法少女アニメ『魔法の天使クリィミーマミ』をはじめ、『ニルスのふしぎな旅』『うる星やつら』『スプーンおばさん』『幽☆遊☆白書』『みどりのマキバオー』『BLEACH』『NARUTO』『キングダム』など、1979年の設立から現在に至るまで、コンスタントに人気アニメを制作し続けるアニメーションスタジオ・株式会社ぴえろ。
その設立者にして、現在、取締役顧問を務める布川郁司氏が、株式会社ぴえろ(設立当初は、株式会社スタジオぴえろ)立ち上げから現在に至るまでの歴史や、アニメ制作のリアルで生々しい裏事情を(ほんのちょっぴり)開陳した書籍が、『「クリィミーマミはなぜステッキで変身するのか?」-愛されるコンテンツを生むスタジオの秘密-』(日経BP社)だ。
本書は、上記のようなアニメ制作秘話的なエピソード、スタジオ運営の苦労といった、アニメファンなら気になるエピソードのみならず、現在、日本動画協会理事長の布川氏ならではの、アニメ業界に対する提言や問題提起も盛り込まれた「経営者・ビジネス的視点で語るアニメ業界本」という、なかなか興味深い内容となっている。そこで今回は、本書の内容に触れつつ、アニメ業界の問題点と今後について率直に語ってもらった!
■きっかけは、後進育成の精神から
──スタジオ経営者視点のアニメ業界本ということで、いろいろと興味深く読ませていただきました。まずは、本書執筆のきっかけを教えてください。
布川郁司氏(以下、布川) やっぱりアニメって、作るよりも見るほうがいいよね、とはよく言うんですが(笑)、その一方で何か作りたい、表現したいという若い人は常にいます。ただ、どう行動したらどうなるのか、というハウツーを示す人は今まであまりいませんでした。また、個人制作アニメは別として、映像作品を作る上でどうしてもお金の問題が付きまといますし、スタッフも必要となります。そこで、スタジオを作った経験がある自分から後の世代に向けて、現場からマネジメントに至るまでの体験を残しておいてもいいかなと思っていたところに、ちょうど日経BP社さんから本書のお話をいただきました。
──個人的には、ぴえろ立ち上げ時にタツノコプロのスタッフが移籍するような形でやってきた、というエピソードについて、ご本人が詳細に語っているという部分が非常に興味深かったです。そのおかげで、当時はタツノコプロからだいぶ恨まれてしまったそうですが……。
布川 今はもうタツノコさんとは和解していますよ(苦笑)。ただ、やっぱりゼロから始めるスタジオにとって、キャリア、名声を積んだ方をどうコントロールするかというのは非常に大きなことなんです。アニメーションというのは数百人のスタッフで作るものですが、実際のところ、クオリティの素になるのはライターや監督、キャラクターデザイン、作画監督など、10人くらいのメインスタッフのキャスティング次第という側面があります。あとはスケジュールと資金と、どれだけ作業者を募ることができるか。そこを押さえれば、みなさんもすぐにアニメプロダクションを作れますよ。ただ、そのラインを敷く時には、当然生臭い話もあるわけです。お金がないなら、志で誘うしかないわけです(笑)。そこを読み取っていただければ。
──そんなアニメ業界の「本音」が書かれた本書ですが、布川さんは文中で、クリエイターはモチベーションを維持するためにスタジオを転々と移動し、さまざまな作品に携わるということに対して、肯定的に言及しています。その一方で、株式会社ぴえろは、クリエイターを積極的に新卒採用し、社内に抱えるような動きもしています。
布川 当然、クリエイターとしての要求と会社の体制維持という両者が衝突する面もありますね。ただ、これは人材育成、人材教育につながってくる話です。結局、今は新人が学ぶ場がないんですよね。アニメの制作の数は腐るほどあるけど、やはりフランスで言うところのゴブラン(フランス・パリに存在するアニメーション校。『スペースダンディ』にも参加するロマン・トマをはじめ、多くの人材を輩出している)のような、スペシャリストを育成したり、学べる場が日本のアニメ業界には少ないんです。というのも、プロダクションが人材を育成するのは、非常にコストがかかることなんです。育成するための人材も割けないから、どうしても先輩の背中を見て育ってくれという部分があります。新卒採用は、その場を作るという意味合いもあります。
人材育成という意味では、個人でNUNOANI塾という講座も開いています。ハリウッドなどではプロデューサーや撮影マンが監督したり、ハリウッドスターがプロデュースをやったりと、それぞれの役割は固定されていない。でも、日本はあまりにも監督は監督、みたいに固定的です。そうではなく、映像を作る上でお金をどう集めてくるか、企画書をどう書くか、それをどこに持って行けばお金を持ってこられるのか、といったことができるプロデューサー、監督、演出家が今後のアニメ業界を考える上で必要だと考えています。そういう人材のために、大学や専門学校以外の場で伝えていきたいですね。
■クールジャパン、その実態
──近年、不況の影響もあり、アニメ制作における資金調達が困難だという話もちらほらと聞こえてきますし、本書の中でも資金調達の難しさについて言及されています。また、人材教育の機会が減りながらも、そのためのリソースも割きにくいということで、布川さんは今後のアニメ業界の制作体制に対する不安はありませんか?
布川 日本のテレビアニメ史は『鉄腕アトム』以降、もう50年もたっているわけですが、その間、何度も「業界はもうダメだ!」って言われつつ、何度も立ち上がってきました。別に、お上から助成してもらっているわけじゃありません。それって、すごいことだと思います。「まだやってるんだ」みたいなスタジオって、けっこうあるんです(笑)。自助努力でやっていくという業界全体の精神は、これからも変わらないんじゃないかなと思います。ただ、一つでもいい環境を後世に託そうとするならば、正直言って我々の業界だけじゃしんどいというのも事実です。
そこで今、日本動画協会の理事長をやっている関係で(3月で退任)、いろいろな場に行ってそういう話をしているのですが、なかなか我々の産業というものが理解されないんです。海外から言われるようになって、みんな「アニメ、アニメ」と言ってるけど、政府の人たちにはコンテンツ産業──特にマンガ、アニメ、ゲームについての知識がないと思います。フランスやアメリカのイベントで、何万人が来場したとか報道されても、外務省の人なんかは全然現場に来ませんからね。彼らは、そういう文化を、むしろ恥だと思っている節もあります。オタク産業とかコスプレとか言われても困ったもんだね、っていう空気なんだけど、今、世界中の若者がそういう文化の影響を受けていることは事実です。
──輸出産業、クールジャパンと言いつつも、その程度の認識なんですね。
布川 それと、予算が単年度という点も厳しいです。コンテンツは、単年度の計画で成果を出すことは難しいんです。よく業界外から「アニメ業界に宮崎駿さんの後継者はいるんですか?」って質問されるんですが、継続的に若手のためにチャンスを作ってあげたら、第2、第3の宮崎駿さんのような人はいくらでも生まれると思いますよ。実際に才能がある人は、まだまだ日本にいるんだから。我々のような民間も、そういう人を育てていく努力をしないといけないし、行政側もそういう場を作りやすい社会を作らないといけないと思います。継続的な戦略でないと、人材は輩出されません。
もう一つ、今、日本のアニメは世界中で大量に違法ダウンロードされています。経産省の試算によると、単年度でアメリカで2兆円も奪われている計算です。今頃になってみんな騒ぎだして違法ダウンロードをなんとかしようとしているけど、遅きに失した感はありますが、ようやく官民一体となって撲滅させるべく動きだしました。ただ一つ言えるのは、現にメディアとしてダウンロードは存在している。音楽業界なんかは早い段階からYouTubeでバンバン曲を流して、ライブで生の金をつかもうという方向に転換しているから、我々アニメ業界もビジネスモデルをそういうふうに変えないといけないと思っています。
テレビからネットへとメディアが移行している今、次はどういうスタイルに集約されていくのかは分からないけれども、どのようにインフラを整備してコンテンツを誘導していくのか、ということは民間だけでは厳しいですよね。現在、ハードの進化が先行して、ソフトの権利確保が遅れている状況です。このままいくと、誰も作る人がいなくなっちゃうという不安があります。せっかく作っても、タダで奪われていく状況に、むなしさを覚える人もいるでしょう。そうならないように、今後出るものをどう有償化していくかをみんなで考えていかないと、映像業界全体が沈没すると思います。
──海外のアニメファンの中には、「作品を応援したい」という善意から違法にアップロードされたアニメを見て、日本のアニメが好きになったというパターンも少なくはないそうです。ファン同士のつながりでアニメ文化が盛り上がる、という文化交流的な側面とは別に、日本のアニメ業界にお金が回ってこないという問題がありますね。
布川 そこに何か黒幕的に仲介する奴がいて、大儲けしているなら、そこを潰せばいいんだけど、そうじゃないからね。なんだかファンのボランティアみたいな形でやっているから。そういう意味で、あえて「奪われている」と言います。だから、これからのアニメビジネスは難しくなると思いますね。スタジオを立ち上げてお金がない、というのとは別の次元でね。
■組むべきは、大企業よりも海外スタジオ
──テレビ、映画、パッケージ商品、ネット配信など、さまざまな形でアニメが視聴されるようになった現在ですが、布川さんはどんなメディアが理想だと思いますか?
布川 自分たちの作品が正当に評価を受けて、正当な報酬を受けられるメディアじゃないですかね。メディアというものをずっと対象として仕事をしてきたわけだけど、昔はテレビと映画しかなかったわけです。それがビデオが出現して、今はネット配信が出てきた。おそらく、そこ(ネット)が次のメディアの行く末なんでしょう。
今、グーグルなんかがスマートテレビを作っていますし、今後、国境なきテレビを作っていこうというのは戦略としてあると思います。我々は、そういう戦略を感じた上で物作りをしないと、全部奪われるだけになってしまうでしょうね。
──今後、日本のアニメも、明確に世界をターゲットにした作品作りを意識する必要があると思いますか?
布川 日本ほど幅広いジャンルのアニメや漫画を持っている国は、ほかにはないと思います。毎週、「ジャンプ」(集英社)や「サンデー」(小学館)、「マガジン」(講談社)といった週刊漫画雑誌が発行され、合わせて数百万部も出ている。アニメの『サザエさん』も、45年も放送されている。おまけに深夜にアニメをやっている国なんて、ほかにないでしょ。こんなにアニメが好きな国は、稀有だと思いますよ。それが日本だけじゃなくて、海外に広がっていったという部分だけを見れば、非常に大きなマーケットになっていると思います。これから考えることは、そこでどういう世界戦略を取るかということです。うちだったら、現在も『NARUTO』が60カ国語で放送されているわけで、昔だったら考えられないことです。
最近はアニメスタジオが大手資本の傘下に入ることも増えてきましたが、うちもいい相手がいたら、いつでもタッグを組んでもいいと思っていますよ。まあ、現在代表取締役社長の本間道幸が独立独歩でいきたいという意志があるので、今のところはそういう予定はありませんが。とはいえこれからの問題として、マーケットが世界まで広がるならば、組む相手が日本の企業じゃなくてもいいんじゃないですか?
──最後に、今後ぴえろとしては、どんなアニメを作っていきたいですか?
布川 どんなアニメを作るか、というよりも、アニメを制作するラインを維持するということはけっこう大事なことだと思います。何を理想化するか、という個人の思惑はあるけれども、会社としては常にラインが維持されて、スタッフの才能がそこで発揮されることを願うばかりです。さらに作品がヒットすれば、よりうれしい。そして、いろんな人たちが評価を受ける、ということが一つの目標です。並の答えだけどね(笑)。
もう一つ、可能性として海外のスタジオとの合作をもっとやっていきたい。今までは海外との合作があったとしても、それはどちらかの下請けみたいなもので、合作とは言えないものが多くありました。でも、これからはお互いに企画を出し合い、それぞれの国の戦略でアニメをヒットさせるということを共同でやっていくという方法を模索したいです。
(取材・文=有田俊[シティコネクション])
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