
『ドン・ジョン』を初監督したジョセフ・ゴードン=レヴィット。ビッチなヒロイン役は当初よりスカーレット・ヨハンソンをイメージしたもの。
世間的にはまったくどうでもいい問題だが、男性にとっては重大な問題がある。それは奥さんや恋人がいる男性がこっそりエロコンテンツを鑑賞してオナニーをした場合、浮気になるのかどうかということ。多分、女性に質問したら「バッカじゃないの!」と一笑に付されるのがオチだろう。しかし、女性が「もうお腹いっぱい」と言いながらも「デザートは別腹だから」とスイーツに手を伸ばすように、男性にとってオナニーはセックスとは異なる別腹みたいなもの。かといって奥さんや彼女に「あっちさえちゃんとやってくれれば別に構わんよ」と公認されるのは、ちと違う。あくまでも内緒の秘め事、密やかな愉しみでありたいのだ。こんな男性にとって切実でありながら、今まで誰も口にしなかった問題を堂々と映画化したのが、ジョセフ・ゴードン=レヴィット主演・監督作『ドン・ジョン』。『(500)日のサマー』(09)や『インセプション』(10)などに出演したイケメン俳優のジョセフが、大マジメかつユーモアたっぷりに“オナニーの自由化問題”を論じているなんて親近感が湧くではないか。
独身青年のジョン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は甘いマスクで清潔好き、ジム通いが趣味というマッチョ野郎。シャツの上からも分かる筋肉質のボディで、女性たちを虜にしてしまう。男友達と夜ごとクラブに繰り出しては、お目当ての女性を口説き落とせるかどうか賭けを楽しんでいる。まぁ、だいたいの女性はモノにできる。現代のドン・ファンこと“ドン・ジョン”が彼の愛称だ。日替わりの美女たちとベッドを共にするジョンだったが、もうひとつ欠かせない日課が彼にはあった。それは自宅のパソコンのエロサイトを鑑賞しながらのマスターベーション。もちろん生の女性とのセックスもいいが、マスターベーションだと自分の好きなタイプの女性を相手に、自分の好きな体位で、しかも自分の好きなタイミングでイクことができる。ジョンに言わせれば「正常位なんて、女の子の胸がぺちゃんこになるサイテーの体位」らしい。ジョンにとっては、オナニーこそがイマジネーションの世界で自由自在に楽しむことができる至福の時間なのだ。

美男美女のお似合いカップルの誕生と思いきや、AV中毒者と恋愛映画マニアが出会ってしまった悲喜劇の始まりだった!
そんなジョンに運命の出会いが待っていた。サイコーのルックスとエロ~いボディを持つバーバラ(スカーレット・ヨハンソン)に目がクギづけとなるジョン。バーバラは全身からエロエロ光線を発している。「このビッチ、すぐにエッチできる」と踏んだジョンだったが、バーバラは意外にも身持ちの固い女性だった。「ちゃんとお付き合いした相手じゃないとエッチしない」とのこと。いいじゃない、いつもと違った焦らしプレイとしてお付き合いしようじゃないの。バーバラと恋愛映画を観に出掛けたり、ドライブデートしたりとエッチまでの手順を律儀に踏むジョン。果てには「私、学校に通っている男性が好き」という不可解なバーバラの希望に従って、夜学に通い始めるジョンだった。まぁ、これだけお預けをくらった後なので、バーバラとの初セックスはそりゃ燃えましたよ。巨乳ちゃんだし、ちゃんとフェラもしてくれる。男性としてはこれ以上はない満腹感。でも、やっぱりその晩も、バーバラが寝ている間にベッドを抜け出してエロサイトを開いてしまうジョン。カルマは急に止まらないってね。「オナニー、最高!」とジョンが心の歓声を上げようとした瞬間、バーバラがむっくり起きてくる。「信じらんない!」と怒り出すバーバラ。「いや、これは男友達から来たエロメールなんだ」と必死でごまかすジョン。誰もが羨む最高の恋人を手に入れたジョンだが、何だか気の毒に思えてくる。
「もう二度とエロサイトは見ない」と誓わせられたジョン。その後も「お友達を集めて食事会を開きましょう」「ご両親に会わせて」とバーバラの希望を叶えていく。絵に描いたような幸せに向かって突き進む2人だったが、どこか釈然としないものをジョンは感じる。そんな折、夜学でワケありふうの熟女・エスター(ジュリアン・ムーア)と出会うことに。ジョンが教室の片隅でスマホのエロ動画を眺めているのに気づいたエスターは「これ、おすすめ。名作よ」と古いポルノ映画をジョンに手渡す。なんだ、このオバはん。妙に慣れ慣れしいし、キモいよ。ところがエロサイトが原因でバーバラとケンカしたことを相談しているうちに、あらまベッドを共にする仲に。ただのオバはんと思っていたエスターだが、エッチの経験は豊富。何よりもジョンをしっぽりと包み込むように、またこちらと呼吸を合わせて、今まで知らなかったような超絶快感の世界に誘ってくれる。なっ、なんてセックスって奥が深いんだ! ドン・ジョンと呼ばれていい気になっていたジョンだが、自分はお釈迦さまの手の平で粋がっていた一匹のサルにすぎなかったことを思い知らされる。

夜学で知り合うワケありふうな熟女エスター(ジュリアン・ムーア)。フラワーチルドン世代っぽい、大らかなセックス観の持ち主。
オナニー問題を論じる上で見逃せないのがジョンの宗教観。本作ではジョンはイタリア系米国人で、毎週欠かさず家族と一緒に教会に通う敬虔なカトリック信者という設定になっている。ちなみにバーバラはユダヤ系の子女という設定。みなさんもご存知のとおり、オナニーの語源は旧約聖書の創世記にまで遡る。ユダの息子オナンは亡くなった兄の嫁タマルと結婚するが、オナンはタマルを妊娠させることを嫌って膣外射精する。そのことからオナンは神の怒りを買って絶命することに。死んで名を残したオナン。古来よりオナニーは命懸けの行為だったことが分かる。ジョンもまた、神ならぬバーバラにエロサイトを観ていることがバレないか、ひやひやしながらエロ妄想に耽るのだった。
至高の美女バーバラ、超絶熟女エスターとタイプの異なる女性の狭間で、ジョンは愛の意味をおぼろげながら知ることになる。恋愛は自分の理想を相手に求めがちだ。相手が自分の理想に近ければ近いほど、自分の理想像を相手に押し付けてしまう。でも、それはとても独りよがりな行為だったことにジョンは気づく。数多くの女性たちとセックスしてきたジョンだが、これまでのセックスはどうやらオナニーの延長でしかなかったらしい。ワオッ、まるでセカンド童貞になったような気分♪ そんな初々しい表情を現代のドン・ファンは見せるのだった。
(文=長野辰次)
『ドン・ジョン』
監督・脚本/ジョセフ・ゴードン=レヴィット 出演/ジョセフ・ゴードン=レヴィット、スカーレット・ヨハンソン、ジュリアン・ムーア、ロブ・ブラウン、グレン・ヘドリー、ブリー・ラーソン、ジェレミー・ルーク、トニー・ダンザ 配給/KADOKAWA R15+ 3月15日(土)より角川シネマ有楽町、ほか全国ロードショー (c)2013 Don Jon Nevada,LLC.ALL Rights Reserved.
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