
都心のマンションに集まった8人のスケベ人間たち。男と女の本音やセックス観の違いなどが次々と表出していく。
映画館に足を運んだあなたは、客席が暗くなった途端に巨大な渦に巻き込まれるだろう。性欲という名の激しい潮流にあなたは逆らうことができず、スクリーンの中へどっぷり引きずり込まれてしまう。『愛の渦』は、“乱交パーティー”に集まった男女のひと晩だけの関係を描いたR18指定作品。あなたは、自分自身があたかも乱交パーティーに参加したスケベ人間になったかのようなドキドキ感ワクワク感を抱いて、このドラマを最後まで体感することになる。
『愛の渦』は人気演劇ユニット「ポツドール」が2005年に初上演した舞台の映画化。「ポツドール」を主宰する三浦大輔監督は、この作品で演劇界の芥川賞と呼ばれる岸田戯曲賞を受賞している。ドキュン系の男女のイタい恋愛模様を描いた大根仁監督の『恋の渦』(13)も「ポツドール」の舞台を映画化したものだ。あまりにも下世話すぎる世界で、身も蓋もないような男と女の本音丸出しトークが飛び交うのが三浦作品の魅力。『愛の渦』ではマンションの一室に集まった8人の男女がオールナイトでまぐわいつつ、身も心も裸になっていく様子が描かれる。
上映時間123分中、着衣時間はわずか18分半という本作に、出演した女優陣は全員オーディションで選ばれた。三浦監督によると、オーディション参加者にはバスタオル姿になってもらったそうだが、どれだけ本作への出演意志があるのかを本人に直接確かめるという意味合いもあったらしい。バスタオル・オーディションの結果、ヒロインに選ばれたのは新進女優の門脇麦。NHK大河ドラマ『八重の桜』で綾瀬はるかの姪を演じ、東京ガスのCM「ガスの仮面」でバレエを踊っていた注目株。さらに『東京大学物語』(06)で水野遥を演じた三津谷葉子、満島ひかり主演作『カケラ』(10)でレズ友を演じた中村映里子、舞台で活躍する赤澤セリといったチャレンジ精神溢れるプロフェッショナルな女優たちが抜擢されている。女優陣に絡む男優陣も『ラストサムライ』(03)の子役からすっかり大人に成長した池松壮亮、人気ドラマ『半沢直樹』(TBS系)でブレイクした名バイプレイヤーの滝藤賢一、日本映画界でヒール役を一身に担う新井浩文、『SRサイタマノラッパー』(09)のデブラッパー役でおなじみの駒木根隆介という個性派ぞろい。どんな組み合わせでも、面白いドラマが展開しそうな顔ぶれではないか。

ニート青年役の池松壮亮と性欲の強い女子大役の門脇麦。2人ともブレイクが確実視されている期待の若手俳優です。
舞台版の初上演の際に「3~4回、実際に乱交パーティーに参加した」とあっけらかんと話す三浦監督だけに、乱交プレイが始まる直前のリビングルームに漂うモヤモヤ感がとてもリアルに描かれている。男も女もみんなエッチ目的で集まっているのに、誰かが口火を切るまではお互いに空気を読み合い、ビミョーな駆け引きが繰り広げられる。すでにバスタオル一枚で臨戦態勢になっているものの、まだ自分の性欲に素直になりきれない男たち女たち。初対面の集まりでは、ついつい遠慮しがちでお行儀のいい日本人。裏風俗を舞台にした『愛の渦』だが、裸の日本人論としても興味深い。
無口な女子大生(門脇麦)とニートくん(池松壮亮)、ヤリチンのフリーター(新井浩文)と派遣OL(三津谷葉子)、サラリーマン(滝藤賢一)と保育士(中村映里子)、童貞(駒木根隆介)と常連(赤澤セリ)の顔合わせで一回戦がひとまず済み、リビングルームは一転して和やかな雰囲気に。打ち解けたムードの中で、それぞれ自分の職種やパーティーに参加した動機を語り始める。お互いに恥ずかしい部分を見せ合った仲なので、普段は家族や知人にも話さないような本音まで打ち明けてしまう。まぁどうせ、ひと晩だけの付き合いだし。一期一会の男女の関係が何だかものすごく高尚なものにさえ感じられてくる。そして二回戦へと進むと、密室下に置かれた8人の男女関係は早くもズブズブなものになり、遠慮も恥じらいもない下半身主体の対話へと移行していく。ここらへんの空気感、人間関係の変容ぶりは、長年にわたって舞台演出を手掛けてきた三浦監督だけに抜群にうまい。

大胆なヌードシーンに挑んだ門脇麦。心が揺れ動く様子がそのまま表情に現われるところが彼女の魅力だ。
乱交パーティーを主宰する店長役の田中哲司、従業員役の窪塚洋介、途中から参加するスワッピング希望のカップルを演じた柄本時生と信江勇も含め、キャスト全体のアンサンブルが実にお見事。その中でもひと際印象に残るのは、やはりマジメそうな女子大生を演じた門脇麦。乱交プレイが始まるまでバスタオル姿でリビングルームに佇んでいる様子からはガチな緊張感が漂う。新人に近いキャリアでいきなり初ヌードに挑むことになってしまい、マジで緊張しまくっていたらしい。それがベッドルームでは一転、大胆な騎乗位プレイで鮮烈なエロスと汗を発散させる。緊張した表情から一気に感情を解放させていく姿には、誰しもクギづけになるだろう。
ひと晩だけの秘密の関係。本音と性欲を存分に吐き出したからといって、パーティー参加者たちの人生がこの夜をきっかけに大きく変わるわけではない。でも、8人の男女の痴態を観ているうちに、いやおうなく湧き出てくる性欲と社会的動物としてのモラルとの狭間で揺れ動く人間の他愛なさが、無性に愛おしく感じられてくるはずだ。人間とは、どうしようもなくバカでスケベで面倒くさ~い生き物らしい。『愛の渦』は人間と呼ばれる動物の正体を真っ正面から描いてみせた。映画を観ていた自分自身の正体を見破られたようで、上映が終わった後はどこか清々しさを感じさせる。
(文=長野辰次)
『愛の渦』
原作・脚本・監督/三浦大輔 出演/池松壮亮、門脇麦、新井浩文、滝藤賢一、三津谷葉子、中村映里子、駒木根隆介、赤澤セリ、柄本時生、信江勇、窪塚洋介、田中哲司 R18+ 配給/クロックワークス 3月1日(土)よりテアトル新宿ほか公開
(c)2014「映画 愛の渦」製作委員会
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