
NPO法人ルーキーズを立ち上げた山田豪理事長。ルーキーズの運営費を調達するため、理事長みずから金策に走り回っている。
落ちこぼれの高校球児たちが熱血教師のもと甲子園を目指す野球漫画『ROOKIES』はテレビドラマ化、さらに映画化され、大ヒットを記録した。だが、フィクション上の存在であるはずの二子玉学園高校野球部を地で行く野球チームが実在することはご存じだろうか。愛知県常滑市で活動するNPO法人ルーキーズは諸事情から高校をドロップアウトした球児たちに「再び野球と勉強の場を」与えることを目的に2010年に設立されたクラブチーム。全国から集まったルーキーズの選手たちは午前中は高卒資格の取得を目指して勉強し、午後は廃校のグランドに移動してみっちりと汗を流す。人気漫画にあやかって命名されたこのチームに密着取材したドキュメンタリー映画が2月15日(土)より劇場公開される。タイトルは『ホームレス理事長−退学球児再生計画−』。えっ、ホームレス? 落ちこぼれ球児たちが更生していく汗と涙と感動のドキュメンタリーじゃないの。こちらの先入観を思いっきり裏切る想定外のドラマがスクリーン上で繰り広げられる。製作したのは『平成ジレンマ』(11)『死刑弁護人』(12)など一筋縄で済まないドキュメンタリーを次々と放っている東海テレビだ。
おはようございます。朝、あいさつを交わしながらルーキーズのメンバーをカメラが映し始めると、いきなりカメラに向かってガンを飛ばし、つかみかかろうとする新入部員がいる。不用意に近づく相手に噛み付こうとする野獣さながらの眼光が光る。この子たちが野球を通してどう更生していくのか、ワクワクするオープニングだ。やがてカメラは昼休みにひとりぼっちでお弁当を食べている少年を捉える。愛知県の野球強豪校に入ったが、自分だけ練習メニューを外されて球拾いばかりさせられたので1年で退部し、そのまま中退した。親の勧めでルーキーズに入ったものの、ここでもハブられている状態らしい。いじめられっ子が不良ぞろいのチームにどう溶け込むのか、ますます期待が高まる。だが、この少年はいきなり一塁からホームスチールを狙うかのような大暴走を見せる。試合に遅刻した少年は警察に伴われて現われた。沖縄の県立高校を甲子園にまで導いた実績を持つ池村英樹監督に、少年が遅刻したわけを説明する。その理由とは「昨晩、母親とケンカして刃物を持ち出し、自分で自分の手首を切ろうとしました」。そこまで聞いた池村監督は少年の頬を往復ビンタ。ビンタビンタの9連発。2013年に東海エリアでローカル放送された本作は、体罰シーンがあることからフジテレビは全国放送を見送ったが、劇場版ではそのままノーカットで流れる。

高野連によると2009年の高校野球部入部者は6万1201人、途中退部者は9218人に上る。ルーキーズは高校中退者たちの受け皿となるのか。
このドキュメンタリーは生半可ではないな。そう思い始めた矢先、カメラはNPO法人ルーキーズを設立した山田豪理事長をクローズアップしていく。グランド、寮、ユニフォーム、室内練習場、移動バスを備えたルーキーズの経営は赤字まみれだ。山田理事長は毎日金策のために走り回っている。チーム運営のためのミーティングに参加できないほど忙しい。夜、ようやく自宅のアパートに戻る理事長。晩ご飯はバナナだけという侘しい中年男のひとり暮らし。それにしても理事長は自宅に戻ってから灯りを点けようとしない。ん、もしかして? そう、ルーキーズの借金返済に追われ、自宅の電気・ガス・水道は停められてしまっているのだ。数日後、理事長はネットカフェで寝泊まりするようになる。家賃を滞納し、ついにネットカフェ難民に。ここまで観た人は誰もが思うだろう。子どもたちの世話を焼く前に、まず自分自身の生活をどうにかしろよッ!
ドキュメンタリーを作る上であまりにも美味しい素材を見つけてしまったのは東海テレビのひじ(「土」に「、」=以下「土」)方宏史ディレクター。本作が初めてのドキュメンタリー番組だ。ところが、美味しすぎる素材を追い掛けるうちに、土方ディレクターたちもただの傍観者でいられなくなってしまう。車の中で待機していた土方ディレクターらは山田理事長に呼び出されて、ぞろぞろと車外へ。そうです、あなたの予感は当たりました。借金返済の期限が迫った理事長は「筋違いかもしれませんが、助けてください」と頭を下げる。土下座までして、取材クルーにお金を無心する。1日だけでいいので20万円ほど貸してほしいと。いや、それはちょっと。「何が足りないのですか?」と泣きながら訴える理事長に対し、土方ディレクターは「被写体に関わることで状況を変えることはできません」とドキュメンタリー取材者としての正論を繰り返すことしかできない。こんな状況を記録できるはずがないと音声マンがマイクを片付けて撤収しようとするのを、カメラマンは片手で引き止める。頭を地面に擦り付け、ボロボロと涙をこぼすこの中年男から、目を逸らすことは許されない。それがドキュメンタリー取材者としての最低限の礼儀なのだ。土方ディレクターによると、このシーンの撮影でカメラマンは泣きながらカメラを回し続けたそうだ。
山田理事長の暴走はますます続く。借金返済に行き詰まった理事長の手には闇金融の借入申込書が握られている。さすがに見かねた取材クルーは「危ないんじゃないですか」と口を挟むが、このときの理事長は驚くほど毅然とした表情で言い放つ。「何が危ないんですか? ルーキーズがなくなって、子どもたちを守れなくなるほうが危ないんです」。もはや誰も理事長を止めることができない。自宅を失いながらも、ルーキーズ存続のために頭を下げて寄付金を募り続ける山田理事長。グランドで子どもたちを厳しく指導する池村監督も前任地・岡山の高校では体罰指導が問題視され、高校球界を去るはめになった過去が明らかになる。理事長にとっても監督にとっても、ルーキーズが唯一の心の拠り所なのだ。このドキュメンタリーは子どもたちが再生を目指す夢物語である以上に、人生の奈落へと追い詰められた大人たちが子どもたちと一緒に何とか再浮上しようと死にものぐるいで足掻き続けるズタボロの物語であることに気づかされる。

かつて沖縄県下のトップ進学校・那覇高校を夏の甲子園に導いた実績を持つ池村英樹監督。子どもたちと厚い信頼関係を築いている。
ネットカフェで暮らす山田理事長がパソコンを相手にオセロゲームに興じるシーンが印象的に挿入される。オセロゲームは4つある角を先に抑えることが勝利のセオリーであることは小学生でも知っているが、理事長はあえてこのセオリーの逆を行く。4つの角を奪われて圧倒的に不利な状況から逆転勝利することに喜びを見出す。ひと言でいえば、この理事長はおかしな人、ただの変人にすぎない。でも、そんな変人でなければ、落ちこぼれた球児たちが再生できる受け皿を作ろうなんて思わないし、行動に移さない。頭のいい人はもっと効率よく、お金儲けできるビジネスのほうへ行ってしまう。宮沢賢治の詩に登場するデクノボーそのものではないか。社会から脱落しかかった子どもたちを救おうとして、自分自身が社会の最底辺へと堕ちていく理事長。あまりにも支離滅裂で矛盾に満ちた男をカメラは追い続ける。
およそ4年間にわたってNPO法人ルーキーズを取材してきた土方ディレクターはこう語る。「ボクシングに例えるなら、山田理事長はすでに完全KOされているボクサー。不思議なことに、それでも理事長はリング上に立ち続けているんです。自分からは決して負けを認めようとしない。負けを認めないから、負けることがない。勝つことはないけど、絶対に負けない人。ルーキーズは赤字経営ですが、あの理事長がいる限り潰れることはないと思います」。
このドキュメンタリーはルーキーズの内情をあまりにも赤裸々に伝えており、ルーキーズのプロモーションには全然なりそうにない。だが、とてつもない人間賛歌のドラマに仕上がっている。こんなにデタラメで、無計画で、かっこ悪い人生を送っていても、ルーキーズの理事長は堂々と図太く全力で生きている。どんなに借金まみれになっても、高邁な志だけは掲げることをやめようとしない。……と、何とかいい話でまとめようとしたのだが、クライマックスで理事長は長年取材してきた土方ディレクターもルーキーズ関係者も観客も開いた口が塞がらないような奇ッ怪な行動に走る。生きるということは不可解さの連続である。理事長はそのことを体現化した、まさに生きた教科書だった。
(文=長野辰次)

『ホームレス理事長−退学球児再生計画−』
プロデューサー/阿武野勝彦 音楽/村井秀清 音楽プロデューサー/岡田かずえ 撮影/中根芳樹 音声/栗栖睦巳 効果/久保田吉根 TK/河合舞 編集/高見順 監督/土方宏史 制作・配給/東海テレビ 配給協力/東風 2月15日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー
(c)東海テレビ放送
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