
新宿・歌舞伎町をほろ酔い気分で歩いている。場所はあずま通り。区役所通りから一本、中に入った細い通りだ。もう一本入るとさくら通りになる。車が一台通れるような細い道だ。酩酊している訳ではないので、ある程度周囲の様子は認識できる。
すると前方から集団が歩いてきた。細いあずま通りをふさぐように。
「っち、横に広がって歩きやがって」
気が短い僕は、ムッとしながらその集団のど真ん中を突っ切ろうとした。が、数十メートル手前で気がついた。
「……ヤクザだ」
突っ切らないまでも、横を通りすぎることもできたが、さっと横道にそれて集団をやり過ごした。十年前の出来事だ。こんな情景は現在では見ない。暴対法改正までは見られたかもしれないが、暴排条例以降は皆無といっていいだろう。これがいわゆる「ヤクザのパトロール」、つまり「地回り」である。当時僕は、「物騒だな」と不愉快に思っていたし、あまり見たくない光景だった。
しかし、である。これがなくなったおかげで、迷惑防止条例のラインを越えているのではと思うキャッチや黒人の客引きが繁華街に増殖してきた。
地回りを住宅街や商店街でやったら、それは迷惑だし見たくもない。ただ繁華街では別かもしれない、と思うようになってきた。以前、歌舞伎町では風林会館の一階に「パリジェンヌ」という喫茶店があり、そこは僕が愛読していた漫画の『殺し屋1』にも出てくるが、ヤクザの会議場と化していた。だだっ広い店内の半分以上ヤクザが席を占め、何やら会議をしているのだ。ちなみにここでは発砲事件も起きている。
僕などは酩酊した時、少し寝たいから「パリジェンヌ」でうとうとして、はっと目が覚めたら周り中ヤクザで「会議」の真っ最中だったことがある。あわてて顔を伏せ、寝たふりをしたものだ。
また、ライターと飲んでいて、腹が減ったから餃子を食べようということになり区役所通り沿いの2階建ての餃子屋に入った。2階のトイレに行こうとすると、店員が苦笑しながらダメだという。いやいや、行きたいので、と2階に行ったら、2階が全席ヤクザでこれまた会議をしていた。店員が止めた理由がわかった。引き返すのも何なんで「すみません。ちょっとトイレを……」とトイレの前にいたヤクザに言ったら「ああ、はい」と言いながら席をあけた。
こんな光景はもう見られない。
地回りはヤクザの示威行為ではあるが、歌舞伎町、六本木などではたまに行われていて、誤解のないように言っておくが、それを歓迎していることはないものの、現在の悪質なキャッチなどを見ていると、繁華街においては必要だったのではないかと思うようになってきた。
例えば彼らは「わかりやすい恰好」をしているので、見かけたら避ければよいし、一般人に意味もなく手を出すことはない。今横行している、悪質なキャッチと違って。
客の前に立っただけでも迷惑防止条例違反であるはず。歌舞伎町を歩いている黒人が寄ってくる。日本人のキャッチが引きとめる。最近こんなことがあった。20メートルくらいしつこく、日本人のキャッチが歩いてくる。「行かないよ」と言ったら「行かないなら歌舞伎町なんかに来るなよ」との捨て台詞。
「ちょっと待て」と言ったらタバコをこっちに投げ、10メートルくらい先から走ってきた。咄嗟にタックルの体勢を取ったが、用事があるのを思い出してパンチをかいくぐってやり過ごした。場所はラーメン店「天下一品」の前あたりである。こんな状態である。そう思った。
機会があってヤクザの組長に取材することになった。歌舞伎町では誰でも知っている親分である。しかし、見かけは普通っぽく見えるし、服装も稼業のそれではない。
歌舞伎町さくら通りを歩いていると、事もあろうかキャッチが「DVDありますよ」と彼に声をかけてきた。周りで見ていた「関係者」たちが血相を変えて寄ってきて「バカ野郎、誰にキャッチしてんだ」と怒鳴りつけた。
僕はその話を聞いて呆れた。親分にまで声をかけるんだから、一般人はたまらないよな、と。暴対法でも暴排条例が施行されても、ヤクザはいなくならない。むしろ堅気にさせて、やっていることはヤクザのそれにする。あるいは架空請求などでご老人から金を取ろうとする。こういうのは論外だが、繁華街の在り様としてヤクザの地回りはあってもいいんじゃないかと今は思っている(当時は嫌だったが)。
ヤクザの語源は様々だが「役に座る」と書いて役座という説がある。その土地土地に顔「役」がいて、外からのヤカラを追い払うというものだ。「暴対法と暴排条例でヤクザはいなくなる」と言って喜んだ警察官僚がいたそうだが、余計に治安が悪くなっている気がする。
読者の皆さんにおかれましては、歌舞伎町も六本木もキャッチについて行かなければ安全だ、と言いたいところだが、アフリカ人を含む悪質なキャッチも多くなってきた。
僕からすれば完全に逆効果だ。それ以前はヤクザは分かりやすかった。だから近づかなければよい。それが今は通じなくなっている。どの時代にもどの国にもヤクザはいる。北朝鮮のような国は別だ。そして、無法なギャングや愚連隊を取り締まるのがヤクザだった。それが現在はいない。警察は果たして取り締まれるのか。僕にはどうもそうは思えない。「繁華街の在り様」がおかしくなっている。
(文=久田将義)
●ひさだ・まさよし
1967年東京都世田谷区生まれ。神奈川県横浜育ち。法政大学社会学部を卒業後、(株)産経メディックスに入社。その後、三才ブックスに入社、「別冊ラジオライフ」編集部に所属。後に、ワニマガジン社へ移籍、その傍ら、ムック「ワニの穴」シリーズの編集人。2000年、ミリオン出版に移籍し「ダークサイドJAPAN」の創刊編集長。2001年、「実話ナックルズ」編集長。2005年、「実話ナックルズ」編集長兼任で「ノンフィクスナックルズ」「THE HARD COREナックルズ」創刊、2012年9月末日にミリオン出版を退社。2012年9月より、ニコニコでブロマガ「久田将義の延長!ニコ生ナックルズ」を配信開始。
・久田将義の延長!ニコ生ナックルズ
<
http://ch.nicovideo.jp/hisada>