
AKB48の10期研究生“いずりな”こと伊豆田莉奈
AKB48の歴史は、4期以降は研究生の歴史である。
現在、13期までが加入している大所帯であるAKB48。1~3期は順番に加入、それぞれチームA、K、Bとして活動し、4期以降は一旦、研究生として先輩メンバーの休演時のアンダー(代役)を経て、正規メンバーに昇格するというスタイルをとっている。研究生はチームA、K、Bと、現在はチーム4も含め、4チームの公演を覚え、同じチームでも複数のポジションも担当する。さらに公演前の前座やバックダンサーを務めながら、次のスターを夢見て、表現力を磨いている。その中でも、昨年メンバー最多となる200回以上の公演に出演し、全チームで合計12ポジションも習得している10期研究生の“いずりな”こと伊豆田莉奈(いずた・りな)にスポットを当てる。
2010年3月、中学2年生の終わりにオーディションでAKB48「言い訳Maybe」を歌い、10期生として合格した伊豆田。レッスン期間を経て、6月19日に市川美織、仲俣汐里ら10期生とともにチームB 5th「シアターの女神」公演のアンダーとして公演デビューを果たした。伊豆田が最初に任されたのは、チームBのエースである渡辺麻友のポジション。アンダーは、その研究生の注目度によって決まる傾向があり、渡辺のポジションを担った伊豆田は次第に成長を遂げていく。そこから彼女は、持ち前のダンス習得の早さを発揮し、9月13日には、AKB48の公演で最も難易度が高いとされるチームA 6th「目撃者」公演に片山陽加のアンダーで出演するなど、次々に先輩のポジションをマスターしていった。
■仲間、先輩も認めた伊豆田莉奈の努力
その後も彼女は公演のポジションを次々に覚え、B 5thでは北原里英、宮崎美穂の位置、チームK 6th「RESET」公演では板野友美のポジションと、公演ユニットのメイン的なアンダーを任されるようになる。同じ公演でも狭い範囲でフォーメーションが入れ替わる公演は、覚える数が多いほど、混同する確率が高くなる。だが、彼女はそれを巧みに覚えていくのだった。
2011年のゴールデンウィークには出演が続き、同じく公演出演が多かった阿部マリア、伊豆田、鈴木紫帆里と、それぞれの名前の頭の1文字を取って「チームアイス」を名乗り、互いに励ましあう仲となっていった。常に微笑をたたえながら、先輩の話を聞くその姿に、正規メンバーの中にも彼女を認める者が現れ始める。チームB公演で共演することが多かった佐藤すみれとは、頻繁に二人で出掛け、互いの家に泊まりに行くなど、「もはや家族」とすみれが語るほど、交友を深める。それは、伊豆田が懸命に努力していることを認めているからだった。
そんな中、7月22~24日に行われたコンサート「よっしゃぁ~行くぞぉ~! in西武ドーム」の2日目、23日に、同期の阿部マリア、入山杏奈が新たに発足するチーム4へ昇格することが発表される。先に昇格していた仲俣汐里、市川美織に続いて10期から4人が昇格を果たしたのだった。仲間に先を越される中、9月20日開催の「AKB48 24thシングル選抜じゃんけん大会」には、カッパのコスチュームで参戦。これは『有吉AKB共和国』(TBS系)の「化け物と化したAKBを救え 超常現象グルメ」という企画に出演した際に彼女が扮したものだったが、じゃんけんでは、菊地あやかに敗れてしまい、選抜入りはならなかった。
だが、このカッパキャラを通して、小嶋陽菜や篠田麻里子から慕われることになり、意外な効果を発揮したのだった。
■生誕祭で初めて明かした“不器用さ”
10月1日に、ついにチーム4の「僕の太陽」公演が始動する中、伊豆田は11月26日に16歳の誕生日を迎え、その当日の彼女にとって初の生誕祭がチームB公演で行われた。そこで、彼女は涙をこぼしながら初めて秘めていた胸の内を語ったのだった。
「いろんな公演に出させてもらっていて、ファンの皆さんには『いずりなは、器用なんだね』と言ってもらえて、うれしいんですけど、内心はすごい不器用で、自分の意見も言えないし、嫌なことも断れなくてそのままやっちゃったり、子供っぽいし、何もできないんですよ……。だから、これからは、ちょっとずつ自分の意見も言える大人に近づいていけたらいいなと思います」
器用だから多くのポジションができたわけでなく、不器用ながら、自らの努力でポジションを覚えていたことを、初めて明かした伊豆田。そんな彼女に、自分も同じく過去に多くのポジションをこなした経験のある佐藤亜美菜は、公演の映像が配信されている『AKB48 LIVE!! ON DEMAND』の“手書きコメント”で伊豆田にメッセージを送った。
「(伊豆田が)まゆゆのアンダーを久々にやった時、口では『大丈夫です!』と言ってたから、『さすが、いずりな。できる子だな』と思ってたら、自己紹介MCでしゃべる時に足がめっちゃ震えてて、『あ、まだ15歳だもんな。もっと支えてあげなきゃ』って思いました。いずりな! ひとりじゃないよ!! みんな仲間だ」
同じ状況を経験した先輩からのエールと、熱意あるファンの声援に包まれ、少女はひとつ大人になったのだった。
■チームB昇格フラグからのまさかの展開
2012年3月23~25日には、コンサート『業務連絡。頼むぞ、片山部長!in SSA』が開催される。伊豆田は、チームBの空いたポジションを担当しており、一部のファンの間では「いずりなのチームB昇格フラグ」ともてはやされていた。同様にチームKには12期生・大森美優が参加し、公演に励んでいる二人の昇格はファンからは順当なものだとウワサされた。
だが、2日目の24日に衝撃の発表が行われた。チーム4への追加メンバーが明かされるが、そこに伊豆田の名前はなかった。さらに、松井珠理奈のSKE48チームSとAKB48チームKの兼任、渡辺美優紀のNMB48・チームNとAKB48・チームB兼任というサプライズがもたらされた。その翌日には前田敦子の卒業も発表され、波乱の展開でコンサートは幕を閉じた。だが、伊豆田はGoogle+でチーム4に昇格したメンバーたちにエールを送り、改めて自分を律して、決意を語ったのだった。
「本当におめでとう! そして莉奈も頑張るから頑張って欲しい! 自分に足りないものをなくして少しでも上にあがって行けるように絶対に諦めたくないです! 周りには沢山のメンバーさんがいるしスタッフさんがいるしそして皆さんがいるので心強いです!」
チーム4が16人揃い、彼女が昇格できる場所はなくなった。だが、秋元康総合プロデューサーはAKB48から5番目となる新チーム・チーム8の結成構想があることを発表し、新たな望みが生まれたのだった。そんな伊豆田には、先輩から励ましの声が届き、仲谷明香はGoogle+で「いずちゃん(伊豆田)が頑張ってること、みんな知っているでござる」と激励した。さらに、コンサートの翌日の劇場公演では、チームB公演を行い、そこで前日までのコンサートの話になり、伊豆田が「3日間チームBさんのステージに立てたことが本当にうれしかった」と語ると、メンバーから「ありがとう」と声が上がり、河西智美が伊豆田にこう語りかけた。
「いずりなちゃんは、すごいがんばって覚えてくれて、私たちよりも完璧に振りを覚えてるぐらい。そういうところを、私たちの方が見習わなきゃいけないね」
選抜常連メンバーである河西からも絶賛されるほど、伊豆田はコンサートに心血を注いでいたのだった。そんな中、全国ツアーが行われることになり、伊豆田はチームBの4月11日の広島市文化交流会館、12日の神戸国際会館こくさいホールでの公演に参加した。メンバーたちがアイデアを出し合い、過去の公演曲など新たな挑戦も行った公演となったが、そこで、自己紹介の際に伊豆田は「チームBさんのツアーに連れてきてもらえて、うれしいです」と歓喜の涙を流したのだった。
■同期、姉妹グループの研究生同志の絆
AKB48において、最も研究生からの昇格が遅かったのは大家志津香で、2007年5月の4期生合格から2010年7月まで、約3年2カ月の間研究生だった。だが、チームAへの昇格は2009年8月に発表されており、実質2年3カ月ともいえる(当時はセレクションという研究生から落とされる制度もあったが)。だが、伊豆田莉奈は2010年3月に合格し、2012年6月現在、昇格の予定はなく、2年3カ月経過した。
それでもなお、伊豆田が努力を続けていられるのは、ファンの支え、夢への熱意、そして、同じく研究生として支えてくれる同期の仲間がいるからだろう。小林茉里奈は「いずりなは昨日新たに河西さんポジションを覚えて出たらしくて。すごいなあ!!
しかも時間なくてもちゃんと間に合わせるとこや中途半端なパフォーマンスにはしないとこ。いずりなのこと尊敬するっ!」とモバメ(モバイルメール)で明かしている。そして、実は公演出演回数は伊豆田よりは少ないものの、ポジションは伊豆田以上の13覚えている藤田奈那は痛めた足や腰にテーピングをしながら踊り、3月には「肩と肋骨を痛めてしまっていて、昨日と今日はテーピングをして公演に出演させていただいたのですが、今日のおやつ公演の時に痛みに耐えられず、過呼吸を起こしてしまいました」とGoogle+で明かすほど、痛みと戦いながら活動を続けている。さらに、SKE48の研究生で生き様を舞台に叩きつけるように踊る斉藤真木子とも伊豆田は交流を深めている。「笑い顔」とメンバーから呼ばれる笑顔で、同期、先輩、後輩、姉妹グループとも交流し、AKB48劇場公演を支えているのだった。
彼女のレアな苗字である伊豆田を調べたところ、神社などで精進潔斎(肉食を断ち、行いを慎んで身を清めること)する人・斎(いつき)から、斎田(いつきだ)になり、それが訛って伊豆田になったという説があるようだ。
AKB48にとって、神社のように日参する場所はAKB48劇場であり、まさに彼女はそこで精進を続けて、確実に成長してきた。そんな彼女の好きな言葉は、AKB48のリーダーのあの名言のようだ。今年、高橋みなみの生誕祭の行われた公演に参加した伊豆田はこう明かしている。
「莉奈はたかみなさんの『努力は必ず報われる』って言葉が好きなので今日のたかみなさんのコメントを聞いて、信じて、これからももっともっと頑張ろうって思いました!」
今年も60回以上公演に出演し、AKB48劇場を支えている伊豆田。多くのポジションを覚えている彼女には、きっと彼女にしか見られない景色が見えているはずだ。だが、これはいつか必ず自分だけのポジションを勝ち取るための鍛錬。秋元康氏は語る。
「夢は、伸ばした手の1ミリ先にある。たった1ミリ先にあっても、実際に触れられなければ、遠く先にあるように思えてしまう。でも、そこでくじけて手を伸ばすことをやめてしまうと、永遠に夢をつかむことができない。見えない夢に手が届くことを信じて、懸命に伸ばし続けてみよう」
助走が長ければ長いほど、より高く、遠くへ飛べるはずだ。チームB 5th公演のラストナンバー「僕たちの紙飛行機」のように。
(文=本城零次<
http://ameblo.jp/iiwake-lazy/>)