『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。
2011年の師走のある日。東京から大阪に嫁いでいった親戚のユカリ姉ちゃんから、数年ぶりに電話がかかってきた。電話の向こうのユカリ姉ちゃんは、狼狽した様子で声を荒げている。一体何があったというのか? ユカリ姉ちゃんの話を聞いて、俺は恐怖に身震いした。
2011年11月24日木曜日、午後6時。閑静な住宅街が広がる大阪市東成区にて、最初の事件は起こった。

上下薄緑色の作業服に、緑色のママチャリに乗った30前後の男。

その男が、暗い住宅街を歩いていた若い女性を追い抜きざまに、

なんと、顔にウンコを塗りたぐり、猛スピードで走り去ったそうだ……。
※この先もウンコの絵が続くため、あえてウンコの色を一番ウンコっぽくない「ピンク」に塗っておきましたが、実際は茶色極まりないウンコです。
男はその日、30分の間に同じ手口で計5人もの若い女性の顔にウンコを塗りたぐり、行方をくらませたという。
その翌週の木曜である12月1日にも、

男は同じ手口で2人の女性の顔にウンコを塗りたぐって逃走。また、その翌々週の木曜である12月8日にも、

男は同じ手口で2人の女性の顔にウンコを塗りたぐって逃走。被害者の数、3週間で計9人。
犯行は半径1キロ圏内、決まって木曜日の夕方~夜であったことから、いつの間にやら男は「木曜日の男」と呼ばれ、住民たちから畏怖される存在になったという。

ユカリ姉ちゃんの家は、まさにこの1キロ圏内で、いつ顔にウンコを塗りたぐられてもおかしくない状況下に、発狂寸前であった。

近所の主婦たちの間では、「木曜日の男」の話題で持ち切りとなり、さまざまな憶測が飛び交ったそうだ。

また、東成区限定のローカル番組内でも連日、この「木曜日の男」のことが放送され続けたという。
女性たちはただただ恐怖に戦き、男性たちは犯人だと疑われることを恐れ、木曜日には気軽に自転車に乗れない心と身体になってしまったそうだ。

この事態に、大阪府警も立ち上がった。現場に残されたウンコのDNA鑑定をし、60人もの私服警官を街に投入して、厳戒態勢で臨んだという。
そして迎えた4度目の木曜日、2011年12月15日。午後6時半。共働きのユカリ姉ちゃんは、仕事帰りに「1キロ圏内」の保育園に子どもを迎えに行くことになった。

1キロ圏内に突入した姉ちゃんは、帽子とマスクを装備。長い髪をジャケット内に隠し、男っぽい雰囲気でいくことにしたそうな。
それでも万一、ウンコを塗りたぐられた時のために、応急処置用のミネラルウォーターと石鹸とファブリーズまで装備したというから周到だ。
「木曜日の男」のせいか、普段と比べて明らかに人気の少ない東成区。保育園までの道のりは200メートルほどだったが、この時ばかりは「8.5キロくらい」に感じたという。
と、その時。

不気味に静まり返った暗い住宅街で、目つきの鋭い怪しげな男が近づいてくるではないか……!

……彼は、「木曜日の男」を逮捕するために配備された私服警官だった。
保育園に到着したユカリ姉は、娘を抱きかかえると、無我夢中で家まで全力疾走したそうだ。

結局この日、「木曜日の男」は現れなかった。

というのがユカリ姉ちゃんはじめ、近所の主婦の方々の見解だそうだが、真相は闇の中だ。
「木曜日の男」は、2011年12月8日を境に、ピタリと現れなくなった。次いつ現れるのか、大阪市東成区の人々は落ち着かない日々を送っているという。
「木曜日の男」の一刻も早い逮捕を、東京都北区という超安全圏からお祈りしております……!
(文・イラスト=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。