
彼氏がきっかけで"神聖かまってちゃん"にハマる高校生の美知子(二階堂ふみ)。
『ガマの油』(09)でヒロインを演じた新進女優だ。
(c)2011『劇場版 神聖かまってちゃん』製作委員会
ネット配信時代のカリスマバンド・神聖かまってちゃんをフィーチャリングした新感覚の群像劇『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』が現在、渋谷シネクイント、下北沢トリウッド、ポレポレ東中野で公開中だ。ドラマ部分の撮影は、わずか10日間。そのうち神聖かまってちゃんのメンバーの撮影は3日間のみ。『SRサイタマノラッパー』(09)でインディーズ映画ならではの闘い方を示した入江悠監督が、メジャー系の監督なら匙を投げてしまうようなタイトなスケジュールの中で映画化してみせた。脚本は18稿に及び、1~2月に撮影。3月28日に完成し、31日に初号&完成披露試写、4月1日にシネクイントにて先行上映、4月2日から一般公開という怒濤の早業で、昨年メジャーデビューを遂げた神聖かまってちゃんの孕む熱気をそのまま映画に取り込んでいる。
映画『ロックンロールは鳴り止まないっ』は音楽ドキュメンタリーではなく、神聖かまってちゃんというリアルな存在を含んだ劇映画だ。かまってちゃんのライブ1週間前から物語は始まる。プロの棋士を目指す高校生の美知子(二階堂ふみ)は兄が自室に引きこもり、両親は美知子に大学進学を強要するなど家庭内はぎくしゃくしている。そんなとき、彼氏からかまってちゃんのライブに誘われ、予習用にとCDを渡される。付き合いで何となく聴き始めた美知子だが、やがてかまってちゃんの曲は将棋盤上で日々闘う美知子の心のテーマソングとなっていく。ところがライブの日は、将棋のアマ王座決定戦と被ることが発覚。彼氏との約束か、自分の夢への第一歩かで、美知子の心は大きく揺れる。
一方、かおり(森下くるみ)はショーパブでダンサーとして働くシングルマザー。ひとり息子の涼太(坂本達哉)はかまってちゃんの「芋虫さん」の動画にハマっており、幼稚園でもノートパソコンを手離さない。幼稚園のお友達たちも「死にたいな~、生きたいな~♪」と「芋虫さん」の歌詞を涼太と一緒に口ずさむようになったことから、かおりは幼稚園の園長から厳重注意を受ける。仕事と子育てで、かおりの頭と体はパニック寸前だ。

"神聖かまってちゃん"のボーカル・の子。
過去のイジメ体験や未来への不安を率直に歌い、
非リア充な人々に絶大な人気を誇る。
そしてもうひとりの主人公が、かまってちゃんのインディーズ時代からのマネジャーであるツルギ(劔樹人本人)。音楽業界30年のベテランプロデューサー(堀部圭亮)から、かまってちゃんの代表曲「ロックンロールは鳴り止まないっ」を引きこもりへの応援ソングとしてキャンペーン用にアレンジし、大々的に売り出していこうと持ち掛けられ、ツルギは大いに悩む。応援ソングに使われれば、CDの売上げは100万枚、武道館でのライブも確実、年末には『紅白歌合戦』にも出場できるという。すでに、キャンペーン用のポスター案まで大手広告代理店によって作られている。ツルギはキャンペーンの件は伏せて、かまってちゃんのメンバー、mono、ちばぎん、みさこに相談すると、「そりゃ、武道館でライブしてみたいですよ」「CD100万枚売れれば、いいですよね」と率直な答えが返ってくる。でもねぇ、キャンペーン用に分かりやすい歌詞に変え、聴きやすくアレンジして大ヒットさせることが、果たしてかまってちゃん的な幸せなのか? ツルギは悩み続ける。そしてライブ当日、美知子、かおり、涼太、ツルギは、それぞれ違った立ち位置から、かまってちゃんと向き合うことになる。
ライブハウスのステージ上では、かまってちゃんのボーカル・の子が「ロックンロールは鳴り止まないっ」を絶唱する。2010年9月に渋谷AXで行なわれた伝説のライブだ。高校生の美知子にとってのビートルズやセックスピストルズとは何か? シングルマザーのかおりにとってのロックンロールとは? 涼太ら幼稚園児にとってのdo daとは? そして、音楽業界で生きるツルギにとってのかまってちゃんとは? それぞれの心の中で「ロックンロールは鳴り止まないっ」が響き渡る。

昼は清掃員、夜はショーパブで働くシングル
マザーのかおり(森下くるみ)。いつまで
体を張って働けるのか、不安を隠せない。
映画『ロックンロールは鳴り止まないっ』のプロデューサーのひとりである大槻貴宏氏は、都内のミニシアター、下北沢トリウッドとポレポレ東中野の支配人でもある。公開初日の前夜である4月1日にはシネクイントでの先行上映と共に、ニコニコ動画での有料配信も行なった(先行上映と有料配信の収益は、東日本大震災の義援金に充てられる)。動画配信は大槻支配人が強くプッシュしたそうだ。従来の映画は、劇場公開の後、一定期間を置いてからDVD化なりネット配信されるものだったが、今回はまず動画配信し、劇場公開するという逆パターンに挑んだことになる。ニコニコ動画やYouTubeから人気に火がついた神聖かまってちゃんだからこその試みだ。
「ネット配信することで、劇場に足を運ぶお客さんは減る可能性はあります。でも中には、やっぱり映画館のスクリーンで見たいという熱心なファンもいれば、客席で他の人たちと一緒になって見ることで映画の面白さを知る若いファンもいると思うんです」と大槻支配人は語る。今回の試みは、「映画館=映画を上映する場所」という固定観念から、「映画館=情報を発信する場所」と改めて定義づけし直したことになる。大槻支配人はさらに言う。「ミニシアターブームは90年代で終わり、ミニシアターは従来の意味での役割はすでに終えたのかもしれません。でも、いつまでも過去を振り向いていられない。新しい時代に向かって進んでいかないとね」
4月1日に予定されていた神聖かまってちゃんの両国国技館でのワンマンライブが震災の影響で中止になったこともあり、映画も公開を延期し、きちんとプロモーションをやった上で上映したほうがいいのではという声もスタッフから出ていたそうだ。でも、映画『ロックンロールは鳴り止まないっ』は"3.11"直後の今、公開する意味のある作品だろう。"3.11"はそれまでの常識やシステムがもう通用しないことに薄々気づいていながらも無難にやり過ごそうとしていた日本人の受け身の思考を粉々に打ち砕いた。今までのスタイルにしがみついていては、明日は見えてこないし、今日を生きていけない。自分にとって本当に大切なものは何か? 自分の心を心底震わせてくれるものは何か? 映画『ロックンロールは鳴り止まないっ』は極ごくシンプルなテーマを投げ掛けてくる。
(文=長野辰次)
●『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』
監督・脚本・編集/入江悠 劇中歌・主題歌/神聖かまってちゃん
出演/二階堂ふみ、森下くるみ、宇治清高、三浦由衣、坂本達哉(子役)、劔樹人、野間口徹、堀部圭亮、神聖かまってちゃん(の子、mono、ちばぎん、みさこ)
配給/SPOTTED PRODUCTION
4月2日より渋谷シネクイント、ポレポレ東中野、下北沢トリウッドほか全国順次公開中
<http://www.kamattechan-movie.com>


