"80後"世代の代弁者 中国売れっ子写真家の「未来系アート」

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「Red Peach Blossom.2」(c)Chen Man
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第24回 フォトグラファー チェン・マン(陳漫/Chen Man)  中国で、今最もホットな写真家は?  と聞けば、100人中100人がチェン・マン(陳漫)の名前を挙げるだろう。Weibo (ユーザー数3億人超の中国のTwitter+Facebook的SNS)のフォロワー、なんと50万人。コン・リーやフェイ・ウォン、あのベッカムまでもが彼女にポートレートを撮ってほしいと熱望する、スーパーアイドル・カリスマ・フォトグラファーだ。  
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『DRAGON BALL 1』
(集英社)
「子どものころは、いわゆる中国人にとっての昔話の定番『西遊記』よりは、アニメの『天書奇談』や『哪吒鬧海(ナーザの大暴れ:中国の神話小説『封神演義』の一挿話を題材とした中国を代表する長篇アニメーション)』、それに『ドラゴンボール』に夢中になっていましたし、ミッキーマウスやドナルドダックは常に身近な友だちでした。そしてマイケル・ジャクソンの音楽を聞きながら、家族とはテレビの『春節聯歓晩会(年越しに放映される中国版大紅白歌合戦)』を見るという、さまざまなカルチャーがミックスした環境で育ったんです」  彼女は「80後(バーリンホウ)」と呼ばれる世代の代弁者でもある。中国の一人っ子政策の下で1980年代以降に生まれ、蝶よ花よと育てられ、高等教育を受けた、今や中国の産業構造を変えるほどの影響力を持つとされる「80後」は、中国がこの数十年で駆け抜けた超高速近代化の申し子だ。
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「Five Element-Water [Beauty]」(c)Chen Man
「私たちは、空想が実際の物に取って代わられることを目撃した、極めて現実的な世代と言われています。"富める条件のあるものから裕福になれ"という、80年代以降の改革開放政策後の中国の、怒涛のような発展と変化の波を浴びながら育った世代でもあります。インターネットに囲まれ、世界中のさまざまな情報が混沌と渦巻くグローバルな状態で、自分たちのアイデンティティを作り上げてきました」  彼女の作品には、そうした時間や東西の距離を越えた、混沌としたパワーが充満する中国の状態が、過剰なまでに見事に現れている。
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「Vision Golden Fish Goblin」(c)Chen Man
「現代の西洋的な技術革新と中国的な伝統的価値観の共存、というテーマは、私がアート作品を創る原動力でもあり、一貫したコンセプトでもあります」  もともとは絵を描くのが好きだったというチェン・マン。学生時代に写真とフォトショップという「絵画の拡張機能」に出会い、自分のイマジネーションを100%表現できる手法を「発見」したという。一見、どこまでが写真でどこまでがポスト・プロダクションか分からない彼女の作品には、さまざまな「絵解き」が隠されている。一つの要素が物語を語り出すと、カラフルな全体像が別の色を帯びて見え始め、まるで一遍の絵物語を鑑賞しているようだ。  また、チェン・マンは、中国古代からの哲学概念である「天人合一」を常に意識している。これは、自然界を大宇宙とするなら、人(人体)は小宇宙であり、構造は同じものだという考え方で、自然界と人間はお互いに影響し合うものだという。この思想は、現代の中国社会にも脈々と生き続けているが、しかし、急速な経済発展によって、中国の生態環境は憂うべき状態に陥っている。それを改善するためには、人々の意識の改革が求められている、とチェン・マンは言う。
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「Four Seasons-Spring [Beauty]」(c)Chen Man
「難しいことではないんです。私は、内面的な平安や清らかさが、自分を取り巻く外部の環境に影響すると考えています。だから、まずは自分たちを愛し、意識することが大事だと思うんです」  プライベートでは2児の母で、子どもの話になると途端にメロメロになってしまうチェン・マン。彼女がこうした思想を持つに至ったのは、アーティストである以上に、自分が母という存在になったことも大きいのかもしれない。  昨年11月に、上海のMOCA(上海現代美術館)で、チェン・マンの一大回顧展が開催された。オープニング・レセプションでは、31歳にしてチャイナ・ドリームを掴んだ彼女と一緒に写真の収まろうと、中国のセレブやトップモデルが列をなす光景に驚かされた。  そんなスーパースター、チェン・マンの日本での初個展(http://www.diesel.co.jp/art/exhibition.html)が東京で開かれている。
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「Super Woman」(c)Chen Man
「本当にわくわくしています。日本にはまだ行ったことがないのですが、私にとっての日本は『ドラえもん』であり『ドラゴンボール』です。小さいときに日本の漫画に夢中になりましたが、日本の作品は真面目で、すべてをきちんと仕上げる姿勢に影響を受けました」  彼女はまた、環境に対する日本の合理的な思想やアプローチを評価しており、もっと世界に広めるべきだと言う。なぜならそれは、「愛と美のスタイルが見事に調和したものだと思うからです」。  世界中から仕事のオファーが引きも切らないチェン・マン。現在、個人的なアート・プロジェクトも目白押しだという。 「中国と西洋の素晴らしさ共存させ、自分独自の視覚言語としての表現をさらに拡げた新作を考えているところです」  自分の作品から「愛」を感じとってもらえるとうれしい、というチェン・マンの、「未来系アート」を堪能できる機会は、今後も増えていくに違いない。 (取材・文=中西多香[ASHU]) portrait-of-chen-man.jpg ●チェン・マン フォトグラファー。1980年、中国・モンゴル自治区に生まれ、北京で育つ。中国中央美術学院でグラフィック・デザインと写真を専攻する。在学中に開始した中国のファッション誌「VISION」の表紙の連作が中国雑誌史上最もユニークなカバーイメージと評価され、セレブリティから撮影オファーが殺到。「80後(バーリンホウ)」=「一人っ子政策」世代を代表するチェン・マンは、チャイナ・ドリームを象徴する存在でもある。「VOGUE」「ELLE」「Esquire」(いずれも中国版)を始め、世界中のファッション誌でも活躍。作品は、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(ロンドン)や今日美術館(北京)などに収蔵されている。<http://www.chenmaner.com> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
DRAGON BALL 1 つっかも~ぜ~♪ amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.23】「ヤクルトとカップヌードルに洗礼?」MOJOKOのユーモラスな世界 【vol.22】「狂気とポップカルチャーが融合!? 香港のアーティストが追求する"不完全な美" 【vol.21】「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学" 【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ" 【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト 【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト 【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能 【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界 【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター 【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界 【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

「ヤクルトとカップヌードルに洗礼?」MOJOKOのユーモラスな世界

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Attack on Golden Mountain(c)MOJOKO
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第23回 アーティスト MOJOKO(モジョコ)  数年前、"シンガポールの裏原宿"と呼ばれる"ハジ・レーン"という小さな路地にある、地元の若者が経営するオシャレブティックで、フリーペーパー「Kult」 を手にしたときの衝撃。ローカルなのか無国籍なのか判然とせず、うさん臭くて尖っている、なのに愛嬌のあるユーモラスな世界に一瞬で引き込まれた。「シンガポールでこんな"変なこと"をしているクリエイターがいる」と、妙にうれしくなった。  その頃、ファンククリス・リーたちの「地元の飲み会」で、いつもゆるゆると和んでいるイギリス人、スティーブ・ローラーがいた。そして彼がイラン生まれの香港育ちで、MOJOKO(モジョコ)というアーティスト名でシンガポールをベースに活動し、さらに「Kult」のクリエイティブ・ディレクターでもあると知ったときの2度目の衝撃。だが同時に、いろいろなことが腑に落ちた。
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『ガンダム30thアニバーサリー
コレクション
機動戦士ガンダム』
(バンダイビジュアル)
 子ども時代を過ごした香港で、MOJOKOはほかの香港人の子どもたちと同様、日本のコミックカルチャーの洗礼をもろに受けて育ったという。その最初の記憶は、テレビで流れる日本のアニメーション。ガンダムやドラえもん、タツノコプロの『ゴールドライタン』や『宇宙の騎士テッカマン』の超ハイパーカラーは、今も鮮明に覚えている。 「僕の人生における最重要品目は、ヤクルトとカップヌードル。それとスーパーマーケットにディスプレイされていた、日本語の商品広告やポスター。意味は全然分からないけど、パッケージやポスターに印刷されているグラフィカルな文字の形に惹かれました。カラフルで生き生きして、子どもの僕にはたまらない刺激だった」  広告であれ娯楽であれ、日本の「グラフィックに妥協しない姿勢」は、彼の作品作りに大きく影響しているという。
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Megadeath02(c)MOJOKO
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Trasher(c)MOJOKO
「特に日本のゲームはすごい。香港の大きなゲームセンターには、カプコンの最新ゲームを宣伝するグラフィックスが店中に飾られていた。僕は、ほとんどの時間をゲームセンターで過ごしていたから、強烈な体験として残っているし、初期のテレビゲームカルチャーや、任天堂のスーパーファミコンには、今でもすごく影響を受けていると感じるんだ」  MOJOKOの手法として知られる、東西津々浦々の大量のグラフィックや文字のコラージュ。ひとつひとつはてんでバラバラのスタイルや意味を持つものが、作品の上では、不思議な統一感を醸し出す。「みんな違うけど、みんなどこか同じ」ということを視覚的に感じる驚きや楽しさ。それは、多くの国で暮らした経験を持つMOJOKOからのメッセージでもある。"MOJOKO語"は、世界共通の"見ることで通じる"言語なのだ。
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CultureFuck(c)MOJOKO
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Nodody can save us(c)MOJOKO
 MOJOKOにとって、アジアで暮らすことは「驚きに満ちあふれたもの」だという。 「古いもの、新しいものに限らず、素晴らしいタイポグラフィやパッケージ、職人の技、建物の装飾などなどが至るところに存在している。シンガポールなんか、一つの標識に、タミル語、マレー語、英語、中国語が書かれているんだよ。みんな、そういうものに普通に囲まれて暮らしているんだ。そんなふうにすさまじくミックスされたカルチャーが、ハイブリッドなアイデアを大量に生み出していく力になるのだと思う」  プロジェクトを構想するときには、現地のカルチャーや感受性に目を配りながら、かつ国際的な視点を持つことが大切だというMOJOKO。 「そのイメージソースは、香港とシンガポールの広告。多文化、多国籍の人たちが暮らす場所だから、広告も言語の壁を越えた多くの人々に狙いを定めている。つまり、そういうものを日常的に見ている人たちは、視覚的なリテラシーが高いということ。僕は"イメージという言語"を探求したい。そしてグラフィックによって、文化や言語を越えて、僕のアイデアを伝えたいと思っているんだ」
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Kult magazine
 これからも「Kult」の活動はもちろん、これまでも数多くこなしてきた展覧会のキューレーションも続けていきたいという。 「アーティストとしては、インドやブラジル、日本で展覧会をするのが夢です。インタラクティブ・アートの展示をしてみたい」  地元のクリエイティブ界でもすっかり"顔"になりながら、そこで収まることなく、飄々と国籍や文化を越えてフィールドを拡げていく。世界中のどこにいても"MOJOKO語"を目にする日は近いかもしれない。 (取材・文=中西多香[ASHU]) Mojoko_portrait.JPG ●スティーブ・ローラー イラン生まれ。シンガポール・ベースの英国人アーティスト。イタリアのファブリカ、ニューメディア部門での訓練後、商業的、個人的な実験的プロジェクトに多数従事。現在Kult magazineのクリエイティブ・ディレクターであると同時に、現地のアンダーグラウンドな活動に、キュレーター、アーティストとして関わっている。グラフィック&インタラクティブ・デザインのバックグラウンドを持つ彼の最近の作品は、世界中のマスメディアに現れる現代における衝撃的なイメージを反映させたもので、世界中の多くのメディアで紹介されている。 <http://www.mojoko.net.> <http://www.stevelawler.com> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
ガンダム30thアニバーサリーコレクション 機動戦士ガンダム 『機動戦士ガンダム』劇場3部作の第1弾。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.21】「狂気とポップカルチャーが融合!? 香港のアーティストが追求する"不完全な美" 【vol.22】「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学" 【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ" 【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト 【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト 【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能 【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界 【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター 【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界 【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

「クール・ジャパンなんてウソ」"精子人形"村上隆が日本のアニメ業界に苦言

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「芸術起業論」(幻冬舎)
 "股間の白い液で投げ縄人形"で一躍オタクカルチャーを世界に広めた村上隆氏の発言が波紋を広げている。  これは、朝日新聞デジタルに掲載された村上氏へのインタビューの中で、インタビュアーから「『クール・ジャパン』の旗手として注目されているが」と問われた村上氏が以下のように反論したもの。 「『クール・ジャパン』なんて外国では誰も言っていません。うそ、流言です。日本人が自尊心を満たすために勝手にでっち上げているだけで、広告会社の公的資金の受け皿としてのキャッチコピーに過ぎない。外国人には背景や文脈のわかりづらい日本のマンガやアニメが少しずつ海外で理解され始めてはいますが、ごく一部のマニアにとどまり、到底ビジネスのレベルに達しておらず、特筆すべきことは何もない。僕は村上隆という一人の芸術家として海外で注目されているのであってクール・ジャパンとは何の関係もない」  村上氏の作品といえば、旧来の日本のマンガやアニメからの影響が色濃く、2008年には競売会社・サザビーズが行ったオークションに裸の少年が精液を飛ばすフィギュア『My Lonesome Cowboy』が出品され、1,516万ドル(約16憶円)で落札されたことが大きな話題となった。  そんな村上氏の発言に対し、ネット上では「そんなことは知っているけどお前がゆうな」「オタク文化をパクって無知な欧米人に見せたくせに」「アニメの方からもおまえなんかと一緒にされるのは願い下げだろ」など辛辣なコメントが頻発している。  しかし、その一方で村上氏は、「クール・ジャパン」の問題点についても冷静に指摘。 「(クール・ジャパン戦略は)広告会社など一部の人間の金もうけになるだけ。アーティストには還元されませんし、税金の無駄遣いです。今やアニメやゲームなどの業界は、他国にシェアを奪われて、統合合併が相次ぎ、惨憺(さんたん)たる状態。クリエーターの報酬もきわめて低いうえ、作業を海外に下請けに出すから、人材も育たない。地盤沈下まっただ中です」  こうした村上の指摘に、アニメ雑誌編集者は「うなずける一面もある」と言う。 「確かに、日本のアニメ業界はその苛酷な労働環境から若手が育たず、そればかりか、原画だけ国内で作って動画は海外スタジオへ丸投げするのが当たり前になりつつあります。日本国内の優秀な監督や作画監督も叩き上げのアニメーターが少なくありませんから、このままでは日本のアニメ文化は死んでしまうかもしれません。今の業界のシステムでは、実際に筆を動かしている現場まで金が下りてこないんですよ。局と広告代理店が先導する現在のアニメの在り方は、もはや限界に来ているといえるでしょうね」(同編集者)  現在、2月にカタールで開かれる個展に向け、東日本大震災後の日本をテーマにした全長100メートルの「五百羅漢図」を制作中だという村上氏。同インタビューの中では「サブカルチャーと伝統絵画を結びつけた独自の作風で活躍する美術家」として紹介されている。  作品についてはさておき、「作家が直接的に作品を金に換える」という方法においては比肩する者がないという評価も受ける村上氏。アニメ業界が"アートの錬金術師"に学べることも、もしかしたら少なくないのかもしれない。
芸術起業論 物議を醸してこそアート? amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・フランス人にはまったく無視されていた! 芸術家・村上隆作品展をめぐる反対運動「やったもん勝ち」なんて当たり前! 海外マンガ・アニメ違法投稿サイトの実情Jカルチャーは韓国に"いいとこどり"されている!?  「クール・ジャパン」今後の課題

「クール・ジャパンなんてウソ」"精子人形"村上隆が日本のアニメ業界に苦言

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「芸術起業論」(幻冬舎)
 "股間の白い液で投げ縄人形"で一躍オタクカルチャーを世界に広めた村上隆氏の発言が波紋を広げている。  これは、朝日新聞デジタルに掲載された村上氏へのインタビューの中で、インタビュアーから「『クール・ジャパン』の旗手として注目されているが」と問われた村上氏が以下のように反論したもの。 「『クール・ジャパン』なんて外国では誰も言っていません。うそ、流言です。日本人が自尊心を満たすために勝手にでっち上げているだけで、広告会社の公的資金の受け皿としてのキャッチコピーに過ぎない。外国人には背景や文脈のわかりづらい日本のマンガやアニメが少しずつ海外で理解され始めてはいますが、ごく一部のマニアにとどまり、到底ビジネスのレベルに達しておらず、特筆すべきことは何もない。僕は村上隆という一人の芸術家として海外で注目されているのであってクール・ジャパンとは何の関係もない」  村上氏の作品といえば、旧来の日本のマンガやアニメからの影響が色濃く、2008年には競売会社・サザビーズが行ったオークションに裸の少年が精液を飛ばすフィギュア『My Lonesome Cowboy』が出品され、1,516万ドル(約16憶円)で落札されたことが大きな話題となった。  そんな村上氏の発言に対し、ネット上では「そんなことは知っているけどお前がゆうな」「オタク文化をパクって無知な欧米人に見せたくせに」「アニメの方からもおまえなんかと一緒にされるのは願い下げだろ」など辛辣なコメントが頻発している。  しかし、その一方で村上氏は、「クール・ジャパン」の問題点についても冷静に指摘。 「(クール・ジャパン戦略は)広告会社など一部の人間の金もうけになるだけ。アーティストには還元されませんし、税金の無駄遣いです。今やアニメやゲームなどの業界は、他国にシェアを奪われて、統合合併が相次ぎ、惨憺(さんたん)たる状態。クリエーターの報酬もきわめて低いうえ、作業を海外に下請けに出すから、人材も育たない。地盤沈下まっただ中です」  こうした村上の指摘に、アニメ雑誌編集者は「うなずける一面もある」と言う。 「確かに、日本のアニメ業界はその苛酷な労働環境から若手が育たず、そればかりか、原画だけ国内で作って動画は海外スタジオへ丸投げするのが当たり前になりつつあります。日本国内の優秀な監督や作画監督も叩き上げのアニメーターが少なくありませんから、このままでは日本のアニメ文化は死んでしまうかもしれません。今の業界のシステムでは、実際に筆を動かしている現場まで金が下りてこないんですよ。局と広告代理店が先導する現在のアニメの在り方は、もはや限界に来ているといえるでしょうね」(同編集者)  現在、2月にカタールで開かれる個展に向け、東日本大震災後の日本をテーマにした全長100メートルの「五百羅漢図」を制作中だという村上氏。同インタビューの中では「サブカルチャーと伝統絵画を結びつけた独自の作風で活躍する美術家」として紹介されている。  作品についてはさておき、「作家が直接的に作品を金に換える」という方法においては比肩する者がないという評価も受ける村上氏。アニメ業界が"アートの錬金術師"に学べることも、もしかしたら少なくないのかもしれない。
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狂気とポップカルチャーが融合!? 香港のアーティストが追求する"不完全な美"

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"the 161 series" (c)Tore
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第22回 アーティスト Tore Cheung (トーレ・チョン)  香港のアーティスト、Tore(トーレ)は現在27歳。絵はまったくの独学だが、大学卒業後、フリーで活動を始めると、すぐにその才能が認められ、イラストレーターとして雑誌や新聞で活躍するようになる。本人は「ビギナーズ・ラックだった」というが、その作風には、技術を超えた個性が際立っている。
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『おにいさまへ...DVD-BOX1』
(パイオニアLDC)
 少女漫画のようにきらきら星の目を持つ女の子たち。はっきりとした明るい色づかい。しかし、ポップだからこそ逆に危険な香りが際立つ背景の中で描かれた彼女たちの表情は、深い狂気をはらんでいる。  幼いころ、朝ご飯のときに必ずテレビで見ていたアニメ、『おにいさまへ...』(NHK、出崎統監督)。 「なんでその番組がついていたのかよく分からないんですが......とにかく毎日、朝ご飯を食べながらショックを受けていました」  自殺やドラッグ、レズビアンや暴力など、およそ子ども向けとはいえない要素がてんこもりだったそのアニメは、幼いトーレに、朝っぱらから大変な恐怖を与えたという。 「きれいで痩せっぽちで、イノセントな瞳を持つ女の子たち、クラシックでアンティークな装い......夢見るような美しさの裏には、暗いメッセージが隠されていたんです」
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"illustration for Jet Magazine" (c)Tore
 しかしそれは逆に、彼の世界観を広げることにもなる。 「人生っていろいろあるんだなと。僕が"かわいい、でも怖い"という矛盾したテーマを選ぶのは、この原体験がもたらしたものだと思います」  幼児期に既に「人生の暗い部分」を疑似体験した彼の1990年代は、日本のポップ・カルチャーとともにあった。カヒミ・カリィ、コーネリアス、ピチカート・ファイヴ。内田有紀や、ともさかりえ、広末涼子、PUFFY......「Zipper」(祥伝社)や「CUTiE」(宝島社)といった女性向けファッション誌は、安くなった古本を買い込み、サンリオが発行する「いちご新聞」(一体どこで手にいれたのか?)まで購読していたという。こうした「渋谷系」のアーティストと「ポップ・スター」やおしゃれガール雑誌は、日本がはじけていた頃の象徴でもある。トーレは「日本のカラフルで楽しいグラフィックやイラストを見るのが大好きだった」という。
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"Joystick_sticker project 2" (c)Tore
 その後、大人になったトーレが追いかけたのは、一転して「日本のダークサイドもの」。荒木経惟の写真、寺山修司の映画、椎名林檎や戸川純の音楽、丸尾末広の漫画、大竹伸朗のコラージュ......。 「僕の作風は、子どもの頃に体験した明るくてスィートな日本と、大人になって知ったダークな日本が混合したものなんです」  トーレの作品は、香港ではどのように受けとめられているのだろう。トーレによれば「香港人は、分かりやすいものにひかれる傾向がある」という。
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"new substance" (c)Tore
「アーティストにとってそういう状況は、複雑なアイデアを分かりやい表現に落とし込むという、挑戦しがいのある状況でもあります。ちょうどいいバランスに到達するのは、かなり難しいことだから」  つまりトーレは、そうした微妙なバランス感覚に優れた表現者なのだ。  最近、日本の「わびさび」に関する本を読んで感動したという。 「日本人が、"不完全で、永遠のものではない"美をいかに表現するのか、ということに、すごくインスピレーションを受けました」  かわいさ、怖さ、わびさび......。「来年は個展を開きたい」というトーレは、これからも絶妙なバランスの上で、その作風をより深化させていくのだろう。 tore-portrait.jpg●Tore Cheung 1984年香港生まれ。ドローイング、ペインティング、コラージュを制作するトーレは、香港理工大学でヴィジュアル・コミュニケーションを学び、その後フリーランスとして活動。雑誌やファッション、音楽などの分野で作品を発表している。現在は香港のファッションブランド、Daydream Nationでテキスタイル・デザインも担当。初の作品集は、2009年に出版された『Mexican Bun Crumbs』。 <http://tearmeboreyou.temptemps.com/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
おにいさまへ...DVD-BOX1 アニメの枠を超えたアニメです。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.21】「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学" 【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ" 【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト 【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト 【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能 【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界 【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター 【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界 【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

狂気とポップカルチャーが融合!? 香港のアーティストが追求する"不完全な美"

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"the 161 series" (c)Tore
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第22回 アーティスト Tore Cheung (トーレ・チョン)  香港のアーティスト、Tore(トーレ)は現在27歳。絵はまったくの独学だが、大学卒業後、フリーで活動を始めると、すぐにその才能が認められ、イラストレーターとして雑誌や新聞で活躍するようになる。本人は「ビギナーズ・ラックだった」というが、その作風には、技術を超えた個性が際立っている。
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『おにいさまへ...DVD-BOX1』
(パイオニアLDC)
 少女漫画のようにきらきら星の目を持つ女の子たち。はっきりとした明るい色づかい。しかし、ポップだからこそ逆に危険な香りが際立つ背景の中で描かれた彼女たちの表情は、深い狂気をはらんでいる。  幼いころ、朝ご飯のときに必ずテレビで見ていたアニメ、『おにいさまへ...』(NHK、出崎統監督)。 「なんでその番組がついていたのかよく分からないんですが......とにかく毎日、朝ご飯を食べながらショックを受けていました」  自殺やドラッグ、レズビアンや暴力など、およそ子ども向けとはいえない要素がてんこもりだったそのアニメは、幼いトーレに、朝っぱらから大変な恐怖を与えたという。 「きれいで痩せっぽちで、イノセントな瞳を持つ女の子たち、クラシックでアンティークな装い......夢見るような美しさの裏には、暗いメッセージが隠されていたんです」
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"illustration for Jet Magazine" (c)Tore
 しかしそれは逆に、彼の世界観を広げることにもなる。 「人生っていろいろあるんだなと。僕が"かわいい、でも怖い"という矛盾したテーマを選ぶのは、この原体験がもたらしたものだと思います」  幼児期に既に「人生の暗い部分」を疑似体験した彼の1990年代は、日本のポップ・カルチャーとともにあった。カヒミ・カリィ、コーネリアス、ピチカート・ファイヴ。内田有紀や、ともさかりえ、広末涼子、PUFFY......「Zipper」(祥伝社)や「CUTiE」(宝島社)といった女性向けファッション誌は、安くなった古本を買い込み、サンリオが発行する「いちご新聞」(一体どこで手にいれたのか?)まで購読していたという。こうした「渋谷系」のアーティストと「ポップ・スター」やおしゃれガール雑誌は、日本がはじけていた頃の象徴でもある。トーレは「日本のカラフルで楽しいグラフィックやイラストを見るのが大好きだった」という。
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"Joystick_sticker project 2" (c)Tore
 その後、大人になったトーレが追いかけたのは、一転して「日本のダークサイドもの」。荒木経惟の写真、寺山修司の映画、椎名林檎や戸川純の音楽、丸尾末広の漫画、大竹伸朗のコラージュ......。 「僕の作風は、子どもの頃に体験した明るくてスィートな日本と、大人になって知ったダークな日本が混合したものなんです」  トーレの作品は、香港ではどのように受けとめられているのだろう。トーレによれば「香港人は、分かりやすいものにひかれる傾向がある」という。
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"new substance" (c)Tore
「アーティストにとってそういう状況は、複雑なアイデアを分かりやい表現に落とし込むという、挑戦しがいのある状況でもあります。ちょうどいいバランスに到達するのは、かなり難しいことだから」  つまりトーレは、そうした微妙なバランス感覚に優れた表現者なのだ。  最近、日本の「わびさび」に関する本を読んで感動したという。 「日本人が、"不完全で、永遠のものではない"美をいかに表現するのか、ということに、すごくインスピレーションを受けました」  かわいさ、怖さ、わびさび......。「来年は個展を開きたい」というトーレは、これからも絶妙なバランスの上で、その作風をより深化させていくのだろう。 tore-portrait.jpg●Tore Cheung 1984年香港生まれ。ドローイング、ペインティング、コラージュを制作するトーレは、香港理工大学でヴィジュアル・コミュニケーションを学び、その後フリーランスとして活動。雑誌やファッション、音楽などの分野で作品を発表している。現在は香港のファッションブランド、Daydream Nationでテキスタイル・デザインも担当。初の作品集は、2009年に出版された『Mexican Bun Crumbs』。 <http://tearmeboreyou.temptemps.com/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
おにいさまへ...DVD-BOX1 アニメの枠を超えたアニメです。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.21】「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学" 【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ" 【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト 【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト 【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能 【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界 【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター 【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界 【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学"

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「Talk is not talk」(c) Graphicairlines
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第21回 アート・ユニット Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)  膨らんだほっぺと、どこを見つめているのか分からない小さな瞳。ふてぶてしさと諦観を同居させたような、でもどこか憎めないキャラクター「Fat Face(ファット・フェイス)」が香港の街中に現れたのは、数年前。小さな虫のようにFat FaceにまとわりつくMeaty(ミーティ)と一緒に、グラフィティとして路上をにぎわせ、フィギュアになり、グッズになり、さらにはペインティングやインスタレーションとなって、ギャラリーやメディアで紹介されると、香港であっという間に話題となった。そしてFat Face+Meatyは、今ではおなじみのご近所さんのようにローカルの若者に親しまれている。  このキャラクターの生みの親、Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)は、Tat(タット)とVi(ヴィ)の2人組のアート・ユニット。香港の人気コミック・アーティスト、Tak(※記事参照)も彼らの大ファンで、地元の雑誌の連載記事で、彼らのスタジオ訪問をしているほど。そのイラストレポートには、日本の漫画がぎっしり詰まった本棚が......「私たち、オタクなので」。
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『46億年物語』
 ふたりとも、子どものころから日本のアニメを見て、漫画を読んで、ゲームで遊んで過ごしたという。 「子どものころは完全にゲームオタクだった」  Tatがハマったのは、『スーパマリオブラザーズ』に『ドラゴンクエスト』、『ファイナル・ファンタジー』『夢工場ドキドキパニック』『忍者龍剣伝』『スーパーロボット大戦』。Viは、ツウ好み(?)の名作『46億年物語』。 「生物の進化が体験できるんですよ! 一番のお気に入りでした」  ゲームやアニメは、ふたりにファンタジーの世界をもたらしたという。それらは自分たちと一緒に成長し、彼らの生活にとってなくてはならないものになった。 「日本の作品は、キャラクターデザインが非常に優れていますよね。キャラクターを使って、物語や作家のメッセージを伝えるのがとてもうまい。わたしたちも多くのキャラクターを作っていますが、そういう影響は受けていると思います」
speak is not speak_s.jpg 
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「Speak is not speak」「Tell is not tell」(c) Graphicairlines
 彼ら自身は、自分たちのキャラクターにどんなメッセージを込めているのだろう。Viによると、Fat Faceの膨らんだほっぺたは「欲望の膨張」の現れだという。 「私たちは、常に、あらゆることを"もっと、もっと"と欲しています。富を増やし、強い権力を望み、より高いビルを建てたいと競い、大量のモノを買って、消費する......そんな人間の貪欲さが、ほっぺたをどんどん膨らませてしまうんです」  そしてFace Faceの周りでうろちょろしているMeatyは、Fat Faceのお肉で、体の中にひそむ欲望や貪欲さが視覚化されたものだ。  お世辞にも「きれい」とは言えないこのキャラだが、これをさまざまなメディアに落とし込み、表現することによって、Tat とViは「醜さの美学」を追求しているという。
live-in_s.jpg alter_boy_s.jpg Beautiful-freaks._sjpg.jpg
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「live in 25sq.ft.」「alter_boy」「Beautiful freaks」(c) Graphicairlines
「私たちは完璧な絵画の技術を持っているわけではありません。自分たちのスタイルは未熟で、不完全だということも分かっています。でも私たちは、醜さの中には、ある種の美しさがあると信じているんです。メインストリームの市場には、美しさにおける一定の"基準"があるけど、私たちにとっての"醜さの美学"というのは、メインストリームから外れたところにあるものだと思っています」  これから、ドローイングやペインティングを含め、自分たちの満足のいく作品をもっともっと作っていきたいというTatとVi。  「毎年、新作を作って個展を開きたい。それに、自分たちの作品を香港だけではなく、他の国でも紹介したいと思っています」とVi。そして「アート活動以外に、GLA GLA DI GUOというバンドもやっているので、もっと面白いパフォーマンスや音楽も作っていきたいですね」と口をそろえる。  彼らのこんな「欲望」を聞けば、Fat Faceも頬を膨らますのをやめて、微笑みだすに違いない。 (取材・文=中西多香[ASHU]) gal_portrait.jpg ●Graphicairlines TatとViのふたりによるアート・ユニット。香港をベースに、2002年にタッグを組み、香港のストリート・アート・シーンでデビュー、話題をさらう。出版活動や展覧会を通して作品を発表するかたわら、2006年からはオリジナルのデザイン・グッズなどの制作も開始。グッズは、香港のデザインショップや、彼らのウェブで購入可能。 <http://www.graphicairlines.com/galnew/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
46億年物語 懐かしい。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ" 【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト 【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト 【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能 【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界 【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター 【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界 【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学"

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「Talk is not talk」(c) Graphicairlines
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第21回 アート・ユニット Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)  膨らんだほっぺと、どこを見つめているのか分からない小さな瞳。ふてぶてしさと諦観を同居させたような、でもどこか憎めないキャラクター「Fat Face(ファット・フェイス)」が香港の街中に現れたのは、数年前。小さな虫のようにFat FaceにまとわりつくMeaty(ミーティ)と一緒に、グラフィティとして路上をにぎわせ、フィギュアになり、グッズになり、さらにはペインティングやインスタレーションとなって、ギャラリーやメディアで紹介されると、香港であっという間に話題となった。そしてFat Face+Meatyは、今ではおなじみのご近所さんのようにローカルの若者に親しまれている。  このキャラクターの生みの親、Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)は、Tat(タット)とVi(ヴィ)の2人組のアート・ユニット。香港の人気コミック・アーティスト、Tak(※記事参照)も彼らの大ファンで、地元の雑誌の連載記事で、彼らのスタジオ訪問をしているほど。そのイラストレポートには、日本の漫画がぎっしり詰まった本棚が......「私たち、オタクなので」。
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『46億年物語』
 ふたりとも、子どものころから日本のアニメを見て、漫画を読んで、ゲームで遊んで過ごしたという。 「子どものころは完全にゲームオタクだった」  Tatがハマったのは、『スーパマリオブラザーズ』に『ドラゴンクエスト』、『ファイナル・ファンタジー』『夢工場ドキドキパニック』『忍者龍剣伝』『スーパーロボット大戦』。Viは、ツウ好み(?)の名作『46億年物語』。 「生物の進化が体験できるんですよ! 一番のお気に入りでした」  ゲームやアニメは、ふたりにファンタジーの世界をもたらしたという。それらは自分たちと一緒に成長し、彼らの生活にとってなくてはならないものになった。 「日本の作品は、キャラクターデザインが非常に優れていますよね。キャラクターを使って、物語や作家のメッセージを伝えるのがとてもうまい。わたしたちも多くのキャラクターを作っていますが、そういう影響は受けていると思います」
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 彼ら自身は、自分たちのキャラクターにどんなメッセージを込めているのだろう。Viによると、Fat Faceの膨らんだほっぺたは「欲望の膨張」の現れだという。 「私たちは、常に、あらゆることを"もっと、もっと"と欲しています。富を増やし、強い権力を望み、より高いビルを建てたいと競い、大量のモノを買って、消費する......そんな人間の貪欲さが、ほっぺたをどんどん膨らませてしまうんです」  そしてFace Faceの周りでうろちょろしているMeatyは、Fat Faceのお肉で、体の中にひそむ欲望や貪欲さが視覚化されたものだ。  お世辞にも「きれい」とは言えないこのキャラだが、これをさまざまなメディアに落とし込み、表現することによって、Tat とViは「醜さの美学」を追求しているという。
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「live in 25sq.ft.」「alter_boy」「Beautiful freaks」(c) Graphicairlines
「私たちは完璧な絵画の技術を持っているわけではありません。自分たちのスタイルは未熟で、不完全だということも分かっています。でも私たちは、醜さの中には、ある種の美しさがあると信じているんです。メインストリームの市場には、美しさにおける一定の"基準"があるけど、私たちにとっての"醜さの美学"というのは、メインストリームから外れたところにあるものだと思っています」  これから、ドローイングやペインティングを含め、自分たちの満足のいく作品をもっともっと作っていきたいというTatとVi。  「毎年、新作を作って個展を開きたい。それに、自分たちの作品を香港だけではなく、他の国でも紹介したいと思っています」とVi。そして「アート活動以外に、GLA GLA DI GUOというバンドもやっているので、もっと面白いパフォーマンスや音楽も作っていきたいですね」と口をそろえる。  彼らのこんな「欲望」を聞けば、Fat Faceも頬を膨らますのをやめて、微笑みだすに違いない。 (取材・文=中西多香[ASHU]) gal_portrait.jpg ●Graphicairlines TatとViのふたりによるアート・ユニット。香港をベースに、2002年にタッグを組み、香港のストリート・アート・シーンでデビュー、話題をさらう。出版活動や展覧会を通して作品を発表するかたわら、2006年からはオリジナルのデザイン・グッズなどの制作も開始。グッズは、香港のデザインショップや、彼らのウェブで購入可能。 <http://www.graphicairlines.com/galnew/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
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黒坂圭太『緑子/MIDORI-KO』×山村浩二『マイブリッジの糸』 公開記念対談(後編)

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黒坂圭太監督(左)と山村浩二監督(右)
前編はこちらから ■タルコフスキーの『ストーカー』 黒坂 TSUTAYA渋谷店のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)ブースで、8月から10月まで、山村さんと僕のおすすめが10本ずつ紹介されることになったんですよね。山村さんの方が先に原稿を入れていたので、タイトルがかぶると良くないかなと思ってPFFの担当者にうかがったら、ものの見事にかぶっていませんと。ただ1本だけ二人とも押している映画があって、それがタルコフスキーの『ストーカー』だったんです。 山村 そうなんですか。僕の普段のベストならカール・ドライヤーや小津、加藤泰、ムルナウなんかが入ってくるんですが、今回は一般の人に向けてなので、"映画のうそに魅せられて"というサブタイトルをつけて映画の虚構性に自覚的な作品を選んだんです。『プレイタイム』(ジャック・タチ)と、ブニュエルの『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』、本当はブニュエルなら『皆殺しの天使』を入れたかったんですがレンタルになかったので。それから『アメリカの友人』(ヴィム・ヴェンダース)とオーソン・ウェルズの『フェイク』、鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』、タルコフスキーが入って、カレル・ゼーマンの『盗まれた飛行船』、『カメレオンマン』(ウディ・アレン)、『シェルブールの雨傘』(ジャック・ドゥミ)、それからフェリー二の『8 1/2』(はっかにぶんのいち)です。黒坂さんは他には何を入れたんですか? 黒坂 ヤン・シュヴァンクマイエルの『オテサーネク』、塚本晋也の『東京フィスト』、近藤喜文の『耳をすませば』、パトリック・ボカノウスキーの『天使』、デヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』、そして『ストーカー』に、松本俊夫の『修羅』、それにセシル・B・デミルの『十戒』、ロナルド・ニームの『クリスマスキャロル』、最後は映画初体験として大映の『大魔神』(安田公義)ですね。特に『ストーカー』は本当に素晴らしい作品なのに意外と若い人たちが見てないので再び注目してほしいという願いを込めて選びました。 山村 『ストーカー』は実は迷ったんですよ。タルコフスキーの中で好きなのは、もうちょっと古い『アンドレイ・ルブリョフ』のあたりなんですけど、いろんなものを映し込もうとしてるのに、そこには映り込まない何かが漂っていて、気が周りに満ちているような映画だなというところで選びました。タルコフスキーの中でも、役者の表情の撮り方に惹き付けられた映画です。個人的な思い出話ですが、エストニアに行った時、マッティ・キュットというアニメーターがロケ地を案内してくれたんですよ。彼がストーカーになって(笑)、廃工場は進入禁止なんですが、そうっと入り込んで、これはストーカー体験を追体験している! って喜んだ思い出があります。
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『緑子/MIDORI-KO』より
黒坂 僕は『ストーカー』はベスト1にしてもいいくらいです。劇映画の形式でここまで風景に、例えば水や火や土といったものに、命が吹き込まれたような映画は初めてで、まさに風景こそが主役と思ったんです。人間は「風景の視線」から観察の対象として描かれている。アニメーションという言葉の語源がアニミズム、つまり命を吹き込む意味だとすると、コマ撮りしているかどうかに関係なく、これこそ究極のアニメーションではないかと。そういう見方をすれば、この映画は"キャラクター"が本当に豊かで、ほとばしる水しぶきとか、水たまりの中に沈んでいるイコンのレプリカみたいなやつとか、壊れた注射器とか、そんなものたちがやたらとおちゃめで愛らしく感じられるんですね。 ■先生と呼ばれたくない 黒坂 山村さんは非常に勤勉で、毎日起きる時間が決まっていて、1日の仕事量も決めてピタっと終わらせるそうですが。あまりに自分と対照的なので、どうやったらモチベーションが持続できるかお聞きしたいです。 山村 多分、締め切りを破る度胸がないんだと思います(笑)。アニメーションって、あとで焦っても取り返しがつかないじゃないですか。それを経験上よく分かっていますし、そのためには日々、積み重ねてゆくしかない。やっぱりクオリティーを上げるために、1枚でもいい絵を多く描かなきゃっていう思いはあって、コツコツやるしかないなと。黒坂さんは、やっぱり夜型ですか?  黒坂 乗ってくると朝も夜もぶっ続けで、トイレの中でもどこでもやっちゃうし、逆にテンションが低いと、ギリギリまで手を付けないタイプなので、本当にお恥ずかしい限りです(笑)。山村さんは、ホームページもご自身で運営されているんですよね? 山村 はい、全部自分でやってます。アニメーションズのホームページもやってますしアニメーションズ・フェステバルの公式ホームページも僕が作ってます。マメなんです!(笑) 黒坂 大学教授の仕事と、ご自分のプロダクションの社長業もやっていらして、よく制作する時間があるなと本当に感心します。僕も教職と作品づくりで二足のわらじなんですけれど、悲しいことに事務処理能力がゼロに近いんです。
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『マイブリッジの糸』より
(c)National Film Board of Canada /
NHK / Polygon Pictures
山村 絵を描いている人はそれが普通ですよ。だから絵を描くんですよね。僕の方が変わってるんだと思います。資金繰りなどいろいろ苦労した時期はもちろんありましたが、あくまで現場で作っている人間でいることをポリシーにしています。作家であることが一番のスタンスだし、大学で教えていますけど、先生と呼ばれたくないんです。勤勉に朝起きるのも、社会的な仕事をきっちりこなしながら、絵を描く時間をどう確保するかを常に考えて必死でやっているからです。 黒坂 「先生と呼ばれたくない」というのは、とても共感します。僕は"後進の育成"という言い方が大嫌いなんですよ(笑)。それって、もう自分自身が進むことは放棄して偉そうにアグラかいてる人みたいじゃないですか。もし僕が生徒の立場で、そういう人から"育成"されたら凄く嫌だなーと思うので(笑)。今回TSUTAYAのPFFブースでおすすめ映画の一本に入れた『東京フィスト』は、崖っぷちに立っているボクサーが、草食系へなちょこサラリーマンをパワフルに鍛え上げてから、最後にそいつをボコボコにすることで自分のアイデンティティを再確認するという話なんです。モノ創りの現場で教えている以上は、いつも生徒相手に本気で闘争心を燃やせるような緊張関係がないと、つまらないですよね。 山村 僕も逆にライバルを作るつもりで教えています。自分を打ちのめすような人が出てきてくれないと、面白くないですから。それに負けじと自分も進んでいけますからね。 (取材=鎌田英嗣、写真=駒井憲嗣) ●くろさか・けいた 1985年『変形作品第2番』がPFF入選。『海の唄』『みみず物語』『個人都市』などの短編映画を次々と発表。手がけた作品は数多くの映画祭や美術館で上映されている。代表作のMTVステーションID『パパが飛んだ朝』(1997)は、アヌシー、オタワの二大アニメ映画祭をはじめ数々の国際賞に輝き、世界中で放映された。一方、Dir en greyのPV『Agitated Screams of Maggots』(2006)は、あまりの背徳的過激さから賛否両論を巻き起こし、テレビやDVDで修正を余儀なくされた。近年では即興アニメとペインティングによるライブ・パフォーマンスも行っている。武蔵野美術大学 映像学科教授。 『緑子/MIDORI-KO』 20XX年、東京。謎の光によって生み落とされたヒトとヘチマの合体生物"MIDORI-KO"は意志を持ち喰われることを恐れ逃げ出した。よってたかって"MIDORI-KO"を襲う人間たち、逃げ惑う"MIDORI-KO"。欲望丸出しの滑稽で奇妙な争奪戦の果てに訪れる世界とは? 繊細な線と線の戯れ。色と色が折り重なる独特の美しさとグロテスクさ。色鉛筆一本で描かれた幻想的で摩訶不思議な世界観は、ユーリ・ノルシュテイン、ウィリアム・ケントリッジなど緻密で繊細な描写で知られる世界のドローイングアニメーションの巨匠たちに匹敵する画力と構成力を持つ。エンディングに流れる曲は芥川賞作家・川上未映子のオリジナル曲『麒麟児の世界』。 9月24日(土)より、渋谷アップリンクXはじめ、全国順次公開。 映画公式サイト<http://www.midori-ko.com//>  ●やまむら・こうじ 1964年生まれ。東京造形大学卒業。90年代『カロとピヨブプト』『パクシ』など子どものためのアニメーションを多彩な技法で制作。02年『頭山』がアヌシー、ザグレブをはじめ世界の主要なアニメーション映画祭で6つのグランプリを受賞。これまで国際的な受賞は60を超える。10年文化庁・文化交流使としてカナダで活動。11年カナダ国立映画制作庁との共同制作で『マイブリッジの糸』が完成。『くだものだもの』『おやおや、おやさい』(共に福音館書店)など絵本画家、イラストレーターとしても活躍。DVD作品集は日本、フランス、北米で発売されている。東京藝術大学大学院映像研究科教授。 『マイブリッジの糸』 時間を止めることはできるだろうか? 時間を反転することは? 映画の発明に大きなインスピレーションを与えた 写真家エドワード・マイブリッジと、母と娘のもうひとつの物語が、時空を超えて織りなす映像詩。カリフォルニアと東京、19世紀と21世紀を往き交いながら、マイブリッジの波乱に満ちた人生に焦点を当て、一方では母親のシュールな白日夢を紡いでいる――それは、人生の過ぎ去る一瞬をとらえたい、幸福の瞬間を凍結したいという、人間の飽くなき欲望を探る、私的な対位法である。サウンドデザインの巨匠、ノルマン・ロジェにより音の世界に彩られ、J.S.バッハ作の透明な音色の上に浮遊する「瞬間」と「永遠」を体感させてくれる。 9月17日(土)より、東京都写真美術館にて3週間限定公開。 映画公式サイト<http://www.muybridges-strings.com/>
ヤン・シュヴァンクマイエル コンプリート・ボックス 摩訶不思議。 amazon_associate_logo.jpg
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黒坂圭太『緑子/MIDORI-KO』×山村浩二『マイブリッジの糸』 公開記念対談(前編)

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黒坂圭太監督(左)と山村浩二監督(右)
 日本のインディペンデント・アニメーション・シーンを代表する二人の作家の新作が、奇しくも今月相次いで公開される。  黒坂圭太監督による初の長編アニメ『緑子/MIDORI-KO』は、13年の歳月をかけて3万枚を超える原画をひとりで描き上げた驚異の作品。かたや日本人としては初めてカナダ国立映画制作庁(NFB)との企画で誕生した、山村浩二監督の短編アニメ『マイブリッジの糸』。  作品のタイプはかなり異なるが、どちらもオリジナリティーあふれる渾身の傑作だ。かねてより親交のある二人が、お互いの仕事についてじっくりと語り合った。 ■二人の出会い 山村浩二監督(以下、山村) 黒坂さんとのお付き合いは、僕がまだ学生上がりの頃、「アニメーション80」(1980年に東京造形大学、武蔵野美術大学の学生を中心に結成された、個人映像作家による制作及び上映を目的としたサークル)からですから、26年くらい? 黒坂圭太監督(以下、黒坂) もう四半世紀以上はたっているんですね。 山村 その頃が一番頻繁にお会いしていたような気がします。月一くらいで会合があったり上映があったりして。黒坂さんは僕の先輩ですから、先にイメージフォーラムで作品を発表するなど活躍されていて、僕はまだ新人の若造で、隅っこの方で......。 黒坂 ただ、制作年代でいうと山村さんの処女作の方が古いんですよね。僕は『変形作品第1番』が84年ですから。 山村 僕はアニメーション80に参加したのは85年からでした。それに一応中学・高校から作品は作っていましたが、今でも人様に見せられるような作品だとすると卒業制作の『水棲』が1987年なのでやはり4〜5年は黒坂さんの方が早いです。 黒坂 そういう意味では、僕も人様に見せられるのは『海の唄』(88)以降だから。 山村 そんなこと言ったら僕も『頭山』(02)以降になっちゃいますよ(笑)。 ■『マイブリッジの糸』の緻密な構造 黒坂 『マイブリッジの糸』というタイトルから、マイブリッジの写真を主軸にしたコンセプチュアルな映画を想像してたんです。だいぶ昔の山村さんの作品ですが『遠近法の箱』(90)など、どちらかと言えば視覚的な、映像自体のメカニズムに根ざした作品群の系譜に来るものなのかなと。それがマイブリッジという人物そのものにスポットを当てた作品と聞いて、今までの山村作品とは違う、いわゆる人間ドラマになるのかとすごく興味がありました。 山村 実は『年をとった鰐』(05)で、初めて恋愛映画を撮ったつもりだったんですけど、確かに鰐なので人間ドラマではないですね(笑)。
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『マイブリッジの糸』より 
(c)National Film Board of Canada /
NHK / Polygon Pictures
黒坂 海外の短編アニメーション映画を見ていると、大変失礼ながら、いわゆる"名作"と呼ばれている巨匠の作品にも、物語が陳腐なもの、あるいは逆にストーリーが複雑すぎて映像的に弱くなっているものが結構あると思うのです。ところが『マイブリッジの糸』は、13分で読み解くのが困難な、ある意味とても難解な物語なのに、イマジネーションに満ちた映像の魅力にしっかり支えられ、それがまったく苦になりません。もともとアニメ作家は絵を描きたいわけだから、とかく手法が先行しがちになりますが、この作品は絵とストーリーが綿密なフーガになっている印象を受けました。バッハのように、あるところでは絵が主旋律となり、またあるところではそれが逆転し、融合したり衝突したりしながらひとつの"うねり"を形成している。作品そのものが音楽の構造に近いですね。かつてここまで緻密な結構を持ったアニメーションはなかったんじゃないでしょうか。 山村 いやあ、ありがとうございます! 今回はバッハの『蟹のカノン』を、このタイミングでこう使うという構成をかなり厳密に事前に決めていたんです。それで仮の効果音と、音楽もピアノだけの仮バージョンを入れた状態で編集を決め込んで、それからミュージシャンを誰にしようと考えました。カナダには優秀なサウンドデザイナーやプロデュサーが大勢いるのですが、以前から面識があって、いつか一緒にお仕事をしたいと思っていた巨匠ノルマン・ロジェさんにお願いしました。 ■短編のはずだった『緑子/MIDORI-KO』 山村 『緑子/MIDORI-KO』の出発点は何だったのですか? 黒坂 実は、元々は自主企画ではなく、環境汚染問題を扱った15分くらいのキャンペーン映像だったんです。当初は、もっとファンタジーっぽくて勧善懲悪のストーリーでした。 山村 黒坂さんの作品の中では異質な感じがしたので、その経緯を聞いて納得しました。オーダーされていながらも、その葛藤から自分で作っていくうちに、こういうものが出て来たんですね。絵のうまさだけで見ていられると言うと失礼なんですけど、一瞬一瞬が印象派の作家の絵を見ている気分になるというか、ドガのデッサンみたいな力強さに圧倒されました。『緑子/MIDORI-KO』は内容的には一種のスカトロジーだと僕は思ってるんですが(笑)、アブノーマルなキャラクター設定やストーリー展開が、逆にすごくポップだと思ったんですね。それまでのアンダーグラウンド色の強かった黒坂作品の中でも、『みみず物語』(98)や『海の唄』に共通するものはあるのですが、ポップさという点では、真逆の方向に弾けたという印象を受けました。
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『緑子/MIDORI-KO』より
黒坂 注文仕事って、意外と自分の回路にない部分に歩み寄ることになって、広がりが出るという意味ではいいですね。でも結局、普通の作品展開にはならなくて、どんどんいつも通りになっちゃって、自主企画に近い状態になったのです。決定的なのは、ちょうどこの作品に着手した時期に子どもが生まれたことですね。うちでは赤ん坊をロシアの子どもみたいに布で簀巻きに巻いてあやしていたんですが、それがそのままMIDORI-KOの造形になっているんです。 ■アート・アニメーションの世界 黒坂 僕はMTVの『ATAMA』(94)を作って初めて"アート・アニメーション"というジャンルを認識したんですよ。 山村 そもそもアート・アニメーションというジャンルがあるのかという疑問もありますが。 黒坂 確かに(笑)。ストーリーやキャラクターはあるけれど、いわゆるセル画タッチと違う"絵画テイストのアニメ"とでも呼んだら良いのか...もともと僕は、そういった作品群に全く興味がなく、ユーリ・ノルシュテインもフレデリック・バックも名前しか知らず、バックの最新作『大いなる河の流れ』を94年の広島国際アニメーションフェスティバルで初めて見たんです。「こういう世界があったんだ!」と、目からウロコ状態でした。それまでは主に分解写真を再撮影する手法で作品作りをしていましたが、そろそろマンネリ気味でモチベーションが落ちてきており、「動画を描いてコマ撮りする」というスタンダードなアニメ制作が逆に新鮮だったんです。そんな中で出てきたのが、不思議の国のアリスのみたいなかわいらしい女の子とグロテスクな生物が、晴れた日にラウンジで一緒にお茶を飲みながら世間話をしているようなイメージでした。『緑子/MIDORI-KO』の発端とも言えるイメージで、94年に描いたスケッチが残っています。 山村 黒坂さんは絶対楽しんで作っているなと感じます。その純粋さが、ある意味、本当の自主制作だと思います。余計なタガがはまっていないというか、だからこそ長編として完成したというのは本当にレアなケースだなという気がしますね。 黒坂 海外では、こういうことをやっているアニメーターは多いのですか? 山村 海外でも長編に挑戦するインディペンデントの作家が増えてきていて、ひとつのトレンドかなと思います。フィル・ムロイというイギリスの作家は、リミテッド(※動きを簡略化しセル画の枚数を減らすアニメ手法)ですが、長編をすでに3〜4本作っていて、暴力やSEXの問題を提起しています。彼の場合はシナリオ重視で、絵を描くのが非常に早くて、ミニマル・ミュージックのように数枚の口パクだけで長編を作ってしまう。彼と、その先駆けのビル・クリンプトンは、デッサンのタイプとしては黒坂さんにちょっと近いかもしれません。クリンプトンは昔から長編を手がけていますが、すごくドローイングが達者で、独自のデフォルメというかキャラクターを作って、グロテスクな表現が多い。今までは長編=商業ベースという見えない束縛がありましたけど、自主制作で長編もありだっていうひとつの形が見えてきたのかもしれません。まあ、シュヴァンクマイエルなんかも典型的にそうなんですけれどね。 (後編へ続く/取材=鎌田英嗣、写真=駒井憲嗣) ●くろさか・けいた 1985年『変形作品第2番』がPFF入選。『海の唄』『みみず物語』『個人都市』などの短編映画を次々と発表。手がけた作品は数多くの映画祭や美術館で上映されている。代表作のMTVステーションID『パパが飛んだ朝』(1997)は、アヌシー、オタワの二大アニメ映画祭をはじめ数々の国際賞に輝き、世界中で放映された。一方、Dir en greyのPV『Agitated Screams of Maggots』(2006)は、あまりの背徳的過激さから賛否両論を巻き起こし、テレビやDVDで修正を余儀なくされた。近年では即興アニメとペインティングによるライブ・パフォーマンスも行っている。武蔵野美術大学 映像学科教授。 『緑子/MIDORI-KO』 20XX年、東京。謎の光によって生み落とされたヒトとヘチマの合体生物"MIDORI-KO"は意志を持ち喰われることを恐れ逃げ出した。よってたかって"MIDORI-KO"を襲う人間たち、逃げ惑う"MIDORI-KO"。欲望丸出しの滑稽で奇妙な争奪戦の果てに訪れる世界とは? 繊細な線と線の戯れ。色と色が折り重なる独特の美しさとグロテスクさ。色鉛筆一本で描かれた幻想的で摩訶不思議な世界観は、ユーリ・ノルシュテイン、ウィリアム・ケントリッジなど緻密で繊細な描写で知られる世界のドローイングアニメーションの巨匠たちに匹敵する画力と構成力を持つ。エンディングに流れる曲は芥川賞作家・川上未映子のオリジナル曲『麒麟児の世界』。 9月24日(土)より、渋谷アップリンクXはじめ、全国順次公開。 映画公式サイト<http://www.midori-ko.com//>  ●やまむら・こうじ 1964年生まれ。東京造形大学卒業。90年代『カロとピヨブプト』『パクシ』など子どものためのアニメーションを多彩な技法で制作。02年『頭山』がアヌシー、ザグレブをはじめ世界の主要なアニメーション映画祭で6つのグランプリを受賞。これまで国際的な受賞は60を超える。10年文化庁・文化交流使としてカナダで活動。11年カナダ国立映画制作庁との共同制作で『マイブリッジの糸』が完成。『くだものだもの』『おやおや、おやさい』(共に福音館書店)など絵本画家、イラストレーターとしても活躍。DVD作品集は日本、フランス、北米で発売されている。東京藝術大学大学院映像研究科教授。 『マイブリッジの糸』 時間を止めることはできるだろうか? 時間を反転することは? 映画の発明に大きなインスピレーションを与えた 写真家エドワード・マイブリッジと、母と娘のもうひとつの物語が、時空を超えて織りなす映像詩。カリフォルニアと東京、19世紀と21世紀を往き交いながら、マイブリッジの波乱に満ちた人生に焦点を当て、一方では母親のシュールな白日夢を紡いでいる――それは、人生の過ぎ去る一瞬をとらえたい、幸福の瞬間を凍結したいという、人間の飽くなき欲望を探る、私的な対位法である。サウンドデザインの巨匠、ノルマン・ロジェにより音の世界に彩られ、J.S.バッハ作の透明な音色の上に浮遊する「瞬間」と「永遠」を体感させてくれる。 9月17日(土)より、東京都写真美術館にて3週間限定公開。 映画公式サイト<http://www.muybridges-strings.com/>
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