『アウトサイドで生きている』(タバブックス)は、超独特の世界観を持つ“アウトサイダー・アーティスト”の生きざまが詰まった1冊だ。 “アウトサイダー・アーティスト”とは、いわゆる専門的な美術教育を受けず、独学自習で制作を続ける人々のことを指す。彼らの生み出す作品を眺めていると、「なぜ?」「なんのために?」という思いが浮かんでくるものの、解釈不能すぎて思考停止してしまう。けれど、同時に世間の常識を飛び越えて、膨大な時間や尋常ではないエネルギーの過剰さに―――凡人は打ちのめされる。 著者は、おそらく日本唯一のアウトサイダー・キュレーター・櫛野展正氏。知的障害のある人が利用する福祉施設でアート活動支援を16年間も行い、昨年、広島県福山市に「クシノテラス」というアートスペースをつくった。世の中から無視され、正当な評価を受けていない作品の価値を見直そうと奮闘している。 本書には、櫛野氏が全国を飛び回って出会った18名の表現者たちが登場する。カブトムシ、クワガタ、コガネムシの死骸を2万匹以上集めて体長180cmもの千手観音像をつくり上げた大正8(1919)年生まれの男性、ご近所からも愛されている、ショッキングピンクの作品であふれるアートハウスの家主、行政の反対を押しのけてアートを描く路上生活者、25年以上も料理のイラストを描き続ける歩行障害を患った元調理師などなど。 彼らの作品は、コスパ、コスパと、生産性や効率性が叫ばれる世の中で、特にもうかるわけでもなさそうに見える。いや、絶対にもうからないだろう。そのモチベーションは一体なんなのか? 人の出入りを拒むように茂みに覆われ、廃材などでつくられた無数の仮面が建物全体に貼りつけられた「創作仮面館」の館主・岡田昇(自称)さんは、こんなことを話している。 「ゴミからゴミをつくったんです。俺は世間のゴミだしね」 「子どものときに両親が亡くなって、ずっと1人で生きてきてね。仲間もいなければ友だちもいない。モテたこともないんだから。(中略)そんな人間がやることは、1人でできることでしょ。絵を描くとか、最終的にみんなそこに行くんですよ」 本書には、岡田さんのように孤立したり、愛人と息子が失踪し、寂しさから彼らの名前を堂々と店舗外観に描く、ド派手なカラオケ喫茶マスターなど、何かを表現しなくては生きていけない人が数多く登場する。会社員の人もいるし、世間で言うところの“道を外れている”人もいる。立場も暮らし方もバラバラだが、彼らは誰になんと言われようと自分のやりたいことを続け、好きなように生きている。 誰かのせいにして、やりたいことをできないことにしていないか? ページを閉じたとき、そう突きつけられた気がした。 (文=上浦未来) ●くしの・のぶまさ 日本唯一のアウトサイダー・キュレーター。1976年生まれ。広島県在住。2000年より知的障害者福祉施設で介護福祉士として働きながら、福山市鞆の浦にある「鞆の津ミュージアム」でキュレーターを担当。2016年4月よりアウトサイダー・アート専門ギャラリー「クシノテラス」オープンのため独立。社会の周縁で表現を行う人たちに焦点を当て、全国各地の取材を続けている。クシノテラス http://kushiterra.com/『アウトサイドで生きている』(タバブックス)
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常識でがんじがらめの世界の日常を覆す、表現者たちの物語『アウトサイドで生きている』
『アウトサイドで生きている』(タバブックス)は、超独特の世界観を持つ“アウトサイダー・アーティスト”の生きざまが詰まった1冊だ。 “アウトサイダー・アーティスト”とは、いわゆる専門的な美術教育を受けず、独学自習で制作を続ける人々のことを指す。彼らの生み出す作品を眺めていると、「なぜ?」「なんのために?」という思いが浮かんでくるものの、解釈不能すぎて思考停止してしまう。けれど、同時に世間の常識を飛び越えて、膨大な時間や尋常ではないエネルギーの過剰さに―――凡人は打ちのめされる。 著者は、おそらく日本唯一のアウトサイダー・キュレーター・櫛野展正氏。知的障害のある人が利用する福祉施設でアート活動支援を16年間も行い、昨年、広島県福山市に「クシノテラス」というアートスペースをつくった。世の中から無視され、正当な評価を受けていない作品の価値を見直そうと奮闘している。 本書には、櫛野氏が全国を飛び回って出会った18名の表現者たちが登場する。カブトムシ、クワガタ、コガネムシの死骸を2万匹以上集めて体長180cmもの千手観音像をつくり上げた大正8(1919)年生まれの男性、ご近所からも愛されている、ショッキングピンクの作品であふれるアートハウスの家主、行政の反対を押しのけてアートを描く路上生活者、25年以上も料理のイラストを描き続ける歩行障害を患った元調理師などなど。 彼らの作品は、コスパ、コスパと、生産性や効率性が叫ばれる世の中で、特にもうかるわけでもなさそうに見える。いや、絶対にもうからないだろう。そのモチベーションは一体なんなのか? 人の出入りを拒むように茂みに覆われ、廃材などでつくられた無数の仮面が建物全体に貼りつけられた「創作仮面館」の館主・岡田昇(自称)さんは、こんなことを話している。 「ゴミからゴミをつくったんです。俺は世間のゴミだしね」 「子どものときに両親が亡くなって、ずっと1人で生きてきてね。仲間もいなければ友だちもいない。モテたこともないんだから。(中略)そんな人間がやることは、1人でできることでしょ。絵を描くとか、最終的にみんなそこに行くんですよ」 本書には、岡田さんのように孤立したり、愛人と息子が失踪し、寂しさから彼らの名前を堂々と店舗外観に描く、ド派手なカラオケ喫茶マスターなど、何かを表現しなくては生きていけない人が数多く登場する。会社員の人もいるし、世間で言うところの“道を外れている”人もいる。立場も暮らし方もバラバラだが、彼らは誰になんと言われようと自分のやりたいことを続け、好きなように生きている。 誰かのせいにして、やりたいことをできないことにしていないか? ページを閉じたとき、そう突きつけられた気がした。 (文=上浦未来) ●くしの・のぶまさ 日本唯一のアウトサイダー・キュレーター。1976年生まれ。広島県在住。2000年より知的障害者福祉施設で介護福祉士として働きながら、福山市鞆の浦にある「鞆の津ミュージアム」でキュレーターを担当。2016年4月よりアウトサイダー・アート専門ギャラリー「クシノテラス」オープンのため独立。社会の周縁で表現を行う人たちに焦点を当て、全国各地の取材を続けている。クシノテラス http://kushiterra.com/『アウトサイドで生きている』(タバブックス)
テレビで堂々と宣言! 村上隆の作品は「ブラック企業」で生産されていた!?
ルイ・ヴィトンとのコラボ、ベルサイユ宮殿での作品展開催など、世界的な名声を轟かせているアーティスト・村上隆。ただ、一方で「芸術はビジネス」だと公言し、作品作りからマーケティングまでをシステマティックに行う村上のやり方は、美術界から「工場で工業製品のようにアートを量産している」という批判を受けてきた。 だが、村上の“工場”は、ただの工場ではなかったようだ。場合によっては殴られることも覚悟しなければならない、「超ブラック」な労働現場だったのである。 その事実が判明したのは、2月16日に放映された『夏目と右腕』(テレビ朝日系)。この番組は、夏目三久がトップクリエイターの右腕的人物を紹介する番組なのだが、この日は村上の会社である有限会社カイカイキキの女性プロデューサーが出演し、そのアトリエの様子が公開されたのだ。 まず驚愕したのは、スタッフの多さと勤務システムだった。埼玉県の工場を改築した巨大なアトリエで、何十人ものスタッフが黙々と作業をこなしている。下絵を描くデータチーム、絵を描くペイントチーム、乾燥やツヤ出しを行う仕上げチームと、作業分担が細かく決められ、昼勤・夜勤のシフト制が敷かれ、24時間365日年中無休! しかも毎日、仕事を始めるときには必ず朝礼(夜勤の場合は夜礼)が開かれ、全員が集まって、ラジオ体操、大声でのあいさつの復唱を行う。 その様子はまるで「ワタミ」のようで、とてもアート作品を作っているとは思えないものだったが、もっとびっくりしたのは、そのスタッフへの扱いだった。 番組では、現場に貼り出された、こんな村上の注意書きが大写しされていた。 「これは村上隆の絵です。君たちの絵画的な個性を求めていません!! 大きな勘違いです!! 作業員の絵画的な快感にゆだねたつもりは一切ありません!! それは大きな勘違いです!!」 下絵から仕上げまでをやらせながら、スタッフを“作業員”呼ばわりというのは、まるで奴隷工場の工場主のようだが、自らこの番組に出演した村上はまったく悪びれることなく、こう話す。 「うち、離職率95%以上ですからね」「みんなアーティストになりたくて、チャンスがあると思って来たら、村上の手伝いばかりやらされて嫌になって辞めていく」 だが、95%の離職率は、単に「村上の手伝いが嫌だから」ということではないだろう。むしろ原因になっているのは、その恐怖支配ではないだろうか。 というのも、村上はスタッフを頻繁に怒鳴りつけるのだが、そのやり方がすさまじいらしい。周囲に響きわたるほどの大声を出し、白目を剥き、3時間も怒っていることもあるという。 実際、番組ではスタッフ全員に配布されるという「村上の取り扱い説明書」が紹介されたのだが、そこには「村上さんに怒られている時の話の聞き方」と題して、こんなことが書かれていた。 「多少殴られることも覚悟して、正々堂々と村上さんの目を見て誠実に対応しましょう」 要するに、カイカイキキでは「多少殴られることもありうる」ということだ。ブラックどころか、一歩間違えればパワハラや傷害で訴えられかねないような話だが、村上自身はおそらく、なんの問題も感じていないだろう。数年前、村上は自身のTwitterでこうつぶやいている。 「ブラック企業がどうちゃらとか、したり顔で書いてる奴ら、おまえらきちんと働いてんのかよ、とか思うぜ。なにがブラックなんだよ。無責任、自分だけが有利に金もらいたい。楽したい。嫌なこと言われたくない。じゃあ、社会的な現場で仕事するな」 実は、村上のカイカイキキに限らず、有名アーティストやクリエイターの経営する会社にはブラックな体質を指摘する声が多い。最近では、大ブレークした「くまモン」のデザイナー・水野学が、社内でスタッフに暴力を振るっていたことや、くまモンを部下に作らせていたことなどを「週刊文春」(文藝春秋)が報じた。 自分に憧れている若いアーティスト志望者を洗脳支配し、修行という名のもと、低賃金・不眠不休で働かせ、ストレスのはけ口のように暴力を振るう。 あのオシャレなアートやデザインが、こんな現場から生み出されているとは信じたくないが、これが日本のクリエイティブの現実らしい。 (文=和田実)『芸術起業論』(幻冬舎)
まさに“シンガポール・ドリーム”! 国宝級アート・ディレクターが、憧れの地・日本でブレイク間近

テセウスがアート・ディレクターを務めた、ルイ・ヴィトンと
草間彌生氏のコラボレーションを記念したファイン・ブック。
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、日本のポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第30回
アート・ディレクター
テセウス・チャン(Theseus Chan)
今年建国47周年という若い母国よりも少しだけ年長のテセウスは、「国宝」(!?)の呼び名さえ持つ、シンガポールを代表するアート・ディレクターだ。歴史の浅いシンガポールのデザイン業界において、初めて世界的な評価を得たクリエイターであり、現地の若手が崇拝するマスター的存在。当地のヒーローであるPHUNKやクリス・リーも、テセウスにだけは決して頭が上がらないという。
さぞや押しの強そうな人物と思われるかもしれないが、実際には「多くの前世を経験し、徳を積んでこられたのでしょう」と拝みたくなるような、一見お坊さんのような風貌。本人はいたって腰が低く、注目されるのが苦手で、業界のパーティーなどにはまず足を運びたがらない。
テセウスがデザイナーという職業を意識しだしたのは、かなり早かったという。

「WERK No.18」
「僕が学生の頃は、デザイナーになるなんて言ったら、“馬鹿なことはやめろ”と説得されるか、変わり者扱いされるのがオチでした。銀行員か公務員になって安定した収入を得るのが一番の親孝行、と、多くのシンガポール人が信じて疑わなかった時代です」
そんな状況も、ここ10年ほどで随分変わってきた。シンガポールをアジアのアート&デザインのハブにし、経済効果を狙うというもくろみの下、政府主導のさまざまなバックアップ施策が実行されてきたのだ。一般市民へのデザインの認知度も上がり、クリエイターをめぐる環境もだいぶ整えられたように見える。若手デザイナーの数も増え、デザイナーを目指す学生を応援こそすれ、それを止める親や親戚もいなくなった。

「WERK No.18」

「WERK No.18」
しかし、テセウスからすると、事態はそれほど楽観できたものではない。
「残念なことに、今、多くのデザイナーは、クオリティーを追求したり、そのプロジェクトが自分のキャリアやクライアントにもたらす成果のために努力するのではなく、とにかく“仕事をとる”ことに精力を傾けがちです。そのためのダンピングもお構いなし。デザイナーはプライドをなくし、クライアントのデザインに対する意識は低いまま。市場は成熟するどころか、後退しているようにさえ感じます」
辛口なようだが、「上から降ってくる」施策を享受した、いかにも教科書的なデザインが大量生産されれば、競争のポイントはクオリティーからずれていくばかり。むしろ網の目をくぐり、破り壊してでもやり遂げたい、強いデザインスタイルを持つべきなのだ、とテセウスは言う。
テセウスがデザインで常にお手本にしていたのは、80~90年代の日本の雑誌。「流行通信」「スタジオボイス」「Mr.ハイファッション」……行ったこともない日本の雑誌を手に入れては、ボロボロになるまで研究していた。中でも、コム・デ・ギャルソンが1988~91年に出していたフリーペーパー「six」は、テセウスのデザイン・バイブルといっていい。シックでゲリラ的精神にあふれ、妥協のないビジュアル・センスで見る者を圧倒する……それはテセウスに、自らのクリエイティブの発露をも促し、2000年から、世界のマガジンフリークの垂涎の的である「WERK(ヴェルク)」を、年に2回自費出版し続けている。同時に「いつか縁があって、自分のデザインを認めてくれる人たちと日本で仕事ができれば」と夢見ていたという。

「OnPedderNewNews 2012 S/S」
そんなテセウスの夢が、ここ数年で次々と現実化している。日本がらみのプロジェクトが目白押しなのだ。2009年に「師匠」と呼ぶ田名網敬一氏との出会いをきっかけに、2010年、田名網氏とPHUNKのコラボ展覧会のPR誌「The Tanaami Times」のアート・ディレクションを担当。2011年に田名網氏をフィーチャーした「WERK No.18 Keiichi Tanaami - Psychedelic Visual Master」を発行。2012年の1月と3月には、同じく田名網氏を迎え、長年アート・ディレクターを務める香港の高級セレクト・ショップOnPedderの顧客向けマガジン「OnPedderNewNews」(http://onpedder.com/pedderzine_fullbook/part7/index.html)での競演を果たしている。

「LV - YK」ファイン・ブック
7月には、彼がアート・ディレクターを務めた、ルイ・ヴィトンと草間彌生氏のコラボレーションを記念したファイン・ブック(発行:ルイ・ヴィトン ジャパン。ドーバーストリートマーケット銀座のみでの期間限定販売/http://ginza.doverstreetmarket.com/new/louis_vuitton.html)が発表され、大きな話題となった。アーティストへの深い理解とリスペクト、そしてチャレンジ精神を120%出し切った本の出来栄えに、草間氏本人も大絶賛したという。ユニクロ銀座では、8月に「UT 東京土産」プロジェクト(http://www.uniqlo.com/jp/store/feature/uq/ut/tokyoomiyage/)をリリース、テセウスが来日のたびに気になっている日本語をモチーフにデザインしたTシャツが販売されている。

「UT 東京土産」プロジェクト
さらには今年12月、日本のグラフィック・デザインの殿堂、ggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー/http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/)での日本初個展が開催されるなど、まさに今年は「テセウス祭り」とでも呼びたくなるほどの盛り上がりを見せている。
「僕にとって、日本はクリエイティブのお手本にあふれた国。自分たちの仕事を気に入ってくれる人たちが日本にもいると思うと、本当に勇気づけられます」というテセウス。今年の「祭り」はほんの序の口。来年は、日本中にテセウスのデザインがあふれていくことだろう。
●テセウス・チャン
WORK代表/WERKマガジン クリエイティブ・ディレクター。1961年シンガポール生まれ。マッキャン・エリクソンなどを経て、97年に、広告・デザイン・ファッション・出版の枠を超えて活動するデザイン・オフィスWORKを設立。2000年に創刊した「WERK」は、印刷技術の限界に挑むインディペンデント・マガジンとして、世界中に熱狂的なファンを持つ。04年から09年まで、東南アジアで唯一のコム・デ・ギャルソン ゲリラストアを運営。同時にビジュアル誌「Guerrilazine」を制作。06年、シンガポール・プレジデンツ・デザイン・アワード受賞。09年「WERK」16号でD&AD賞イエローペンシル受賞。
<http://www.workwerk.com/>
<http://www.ashu-nk.com/ASHU/work.html>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
■バックナンバー
【vol.29】「ゴジラに出てくる怪獣が大好きだった」インドネシアの“落書きアーティスト”が描くジャカルタの今
【vol.28】香港フィギュアブームの火付け役! ‟『AKIRA』にヤラれた”作家が手がける近未来物語
【vol.27】“田名網チルドレン”続々……アジア各地で熱烈支持されるサイケデリック・マスター
【vol.26】『銀河鉄道999』はアップル並みのインパクト? 韓国の催眠術的ポートレイト
【vol.25】ネタ元は日本の特撮ヒーロー? インドネシア式ファンタジー
【vol.24】"80後"世代の代弁者 中国売れっ子写真家の「未来系アート」
【vol.23】「ヤクルトとカップヌードルに洗礼?」MOJOKOのユーモラスな世界
【vol.22】「狂気とポップカルチャーが融合!?」香港のアーティストが追求する"不完全な美"
【vol.21】「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学"
【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ"
【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト
【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト
【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能
【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界
【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター
【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界
【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界
【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」
【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター
【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン
【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー
【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海
【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能
【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界
【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト
【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点
【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん
【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶
【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢
「ゴジラに出てくる怪獣が大好きだった」インドネシアの“落書きアーティスト”が描くジャカルタの今

「bigballs 2011」(c)Darbotz
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、日本のポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第29回
ストリート・アーティスト
ダルボッツ(Darbotz)
cumiは、インドネシアの首都・ジャカルタをベースに活動するアーティスト、ダルボッツの描く代表的なキャラクターだ。ジャカルタの街のあちらこちらにタギングされたcumiは、“イカのお化け”であり、ジャカルタというケオティック・シティを征服しようと立ち向かうアーティストの分身でもある。cumiは、高密度でひしめく波の間で暴れている。過剰で、粗野とも受け取れる作品のスタイルは、ダルボッツに言わせると「ジャカルタそのもの」なのだという。
人口1,000万人超を抱えるアジア屈指の国際都市、ジャカルタ。高層ビルが林立し、巨大ショッピングモールがひしめくランドスケープは、アジアのほかの大都市と変わらず、発展著しいインドネシアの勢いそのものを映し出している。しかし、キラキラ輝く高層ビルの足元には、ゴミと埃にまみれた貧困層の暮らすスラム街が広がるなど、貧富の差は凄まじく、深刻な社会問題も頻発している。

「high five 2012」(c)Darbotz

(c)Darbotz
「僕は、自分の描くもので、自分の居場所を語っている。君が僕の作品から、暑苦しさやせわしなさ、ヒリヒリしたものを感じるとしたら、それはまさに僕自身がジャカルタに対して持っている思いだ。好きでも嫌いでも、ここは僕たちが生活して、死んでいくところ。ここでなんとかやっていくしかないんです」
描くものに、自分の気持を代弁させているというダルボッツ。その作品を象徴するのが、先に触れたイカ怪獣cumiと、執拗に繰り返される、波のような鱗のような独特のパターンだ。それは、インドネシアの伝統的な工芸品であるバテック(ジャワ更紗)の文様を想起させる。

(c)Darbotz
「大学の卒業プロジェクトで、インドネシアに伝わるさまざまな図柄を研究したんですが、そのとき、自分は、自分のルーツであるインドネシアのデザインがすごく好きなんだってことに気づいた。インドネシアらしいものを自分の作品でも表現したいと思ったんです」と言うダルボッツ。そんな彼を驚かせたのは、それが日本のある伝統的な図柄にもつながっているということ。

「M for monster 2012」(c)Darbotz
「浮世絵とかで描かれる波模様と僕のインドネシアパターンに、通じるところがある! って、あるとき気がついたんです。最初はまったく意識してなかったんですが、よく見るとすごく似ている......ね、“セイカイ”でしょ?」
そして、彼のキャラクターたちは、日本の奇妙な生き物や怪獣にも多大な影響を受けている。
「それこそ、数えきれないたくさんの日本の漫画やアニメに囲まれて育ちましたから。いまだに覚えているのは、『ウルトラマン』『宇宙刑事ギャバン』『仮面ライダー』...... 家の近くに日本のビデオばかり揃えているレンタルビデオ店があったので、いつもそこから借りて。毎週日曜日の朝は、テレビで『ドラえもん』と『聖闘士星矢』を見る。日本のロボット系や漫画の影響は、インドネシアでも相当大きいですよ。僕が好きだった漫画は『かりあげクン』。ゴジラに出てくる怪獣は大好きだったなあ。それと、『AKIRA』と黒澤明の『乱』も」

「NIKE the look of sport installation 2012」
(c)Darbotz
「Polluted 2011」(c)Darbotz

「high five 2010」(c)Darbotz
グラフィティにとどまらず、クライアントや、海外のアーティストとのコラボレーションなど、これまで精力的に活動してきたダルボッツにとって、今年は比較的「静かな」年だという。「新米パパとしての日々を楽しんでいるんです(笑)」。それでも、今年中にはゲリラストアを立ち上げるなど、複数のプロジェクトが進んでいるという。
今年10月には、待望の初来日を果たすというダルボッツ。「いつか日本でプロジェクトができたら最高」というインドネシアのイカ怪獣は、東京という都市を、果たしてどのように見るのだろうか。
●ダルボッツ
インドネシア、ジャカルタ生まれジャカルタ育ち。当地を代表するストリート・アーティスト。ヒップホップ・カルチャーの影響を受け、グラフィティやアート制作を中心に、マーチャンダイズ、ファッション・デザインなど、幅広く活動している。彼の作品を代表するイカのお化け cumiは、Google Chromeやナイキなどのキャラクターとしても使用された。内外のアーティストとのコラボレーションにも精力的で、ギャラリーなどでの展覧会にも多数参加。
公式サイト <http://thedarbotz.com/>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
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【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能
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【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター
【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界
【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界
【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」
【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター
【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン
【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー
【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海
【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能
【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界
【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト
【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点
【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん
【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶
【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢
香港フィギュアブームの火付け役! ‟『AKIRA』にヤラれた”作家が手がける近未来物語

「Apexplorers character T-rex 」(c)Winson Ma
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、日本のポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第28回
キャラクター・デザイナー
ウィンソン・マー(Winson Ma)
鉄人兄弟(brothersfree) 。アクション・フィギュア好きの人なら、一度は聞いたことがあるだろう。香港のマイケル・ラウ、エリック・ソーと並んで、2000年代初頭に旋風を巻き起こした「香港アクション・フィギュア」ブームの一翼を担い、今もなお世界中に根強いファンを持つ、アクション・フィギュア・クリエイティブユニットだ。
ウィンソン・マーが、友人のケニー・ウォン、ウィリアム・ツァンと共に「鉄人兄弟」をスタートさせたのは2000年。香港で、彼らのごく身近な存在である工事現場の労働者たちをモチーフにしたアクション・フィギュアのシリーズ「brothersworker」は、衝撃的なデビューを遂げた。「フィギュアはアートだ」と、誰しもが実感せずにはいられないほどの世界観と高いクオリティを持った彼らの作品は、フィギュア界に確実に新しいエポックを残した。
しかし06年、「広告代理店のクリエイティブ・ディレクターとしての待遇を捨て、貯金を削ってまで自分たちのアクション・フィギュアを作りたかった」鉄人兄弟の3人は、それぞれの道を選ぶことになる。
「カルチャーとかデザインとかの枠を超えて、あの時期、鉄人兄弟は、頂点に駆け上った。3人でやるべきことのすべてを成し遂げた結果だし、何より僕たちの作品が多くの人に受け入れられたことが自信になった」というウィンソンは、その後、自身の会社Winson Classic Creationを設立。自身初のオリジナル・シリーズ作品「Apexplorers(エイプクスプローラーズ)」を発表する。自らストーリーを作り、全キャラクターデザインを手がけた近未来物語。フィギュアだけでなく、ムービー、イラストなど、メディアミックスで展開されている。

「Apexplorers character Ice & Laser」(c)Winson Ma

「Apexplorers character Otto」(c)Winson Ma

「Apexplorers character Otto & Ice」(c)Winson Ma
「世界初めて三極(北極、南極、エベレスト登頂)を極めた香港の女性冒険家、レベッカ・リーが、探検先から地球に関する貴重な資料をたくさん持ち帰った。彼女は僕の友人なんだけど、鉄人兄弟を立ち上げる前に、彼女のプロジェクトに協力したこともあって……。Apexplorersは、彼女の冒険談や、環境保護データを基にした物語なんです」
鉄人兄弟時代とはかなりかけ離れたコンセプトだったため、ウィンソン自身も「環境をテーマにしてフィギュアをデザインすることが果たして正しいことなのか、迷った」という。「鉄人兄弟のスタート以降、この10年の間に、アクション・フィギュア・ブームも、何度も引き潮を迎えていたし」
しかし、ウィンソンの迷いは杞憂に終わる。
「ラッキーだよ。香港だけでなく、台湾、日本、アメリカ、中国などの市場で受け入れられ、多くのメディアが話題にしてくれた」

「Apexplorers Fashion product 2012」(c)Winson Ma

「hand made Adam figure @ 2004」(c)Winson Ma
ウィンソンに、どんなジャパニーズカルチャーの影響を受けたのか、聞いてみた。
「アニメ、SF映画にゲーム……とくに日本のキャラクターデザインとストーリー作りにはすごいものがある。例えば『Dr.スランプ』のラブリーなキャラクターとクレイジーで笑えるストーリー、『バイオハザード』のエキサイティングな展開と人物像。『AKIRA』は、アニメもコミックも、両方ヤラれました。スクリーニングの表現方法はショックの連続で、広告代理店で働いていた頃は、資料としていつも手元に置いていました」
そして、彼の敬愛する日本のアーティスト、空山基。
「すごくセクシーで、大胆なところがたまらない」

「Ice & Laser sketch」(c)Winson Ma
彼の描く近未来ストーリーやキャラクターの端々には、そうした要素をウィンソン流に咀嚼した片鱗がうかがえる。しかし、それはもはやジャパニーズカルチャーの模倣ではなく、ウィンソン・オリジナルになっている。
昨年、鉄人兄弟誕生10周年を記念する展覧会が香港で行われ、多くのファンが駆けつけた。そのことを喜びながらも、ウィンソンは、将来に向けての自分の計画に焦点を合わせている。目下、中国最大のウェブショップ「Taobao.com」とのコラボ企画であるApexplorersミニフィギュアがローンチを控えているという。

「Taobao 2012 project @ China」(c)Winson Ma
「その後は、Apexplorersのエピソード2を年内に発表し、来年には、Apexplorersファッションブランドを立ち上げたい。それと並行して、中国で僕のブランドをアップグレードするために、もっとたくさんのコラボレーション企画に参加したいと考えています」
かつてウィンソンに大きな影響を与えた『AKIRA』のように、香港発のApexplorersが、さまざまなメディアを通して、中国、そして世界の人たちに衝撃を与え続けている。
(取材・文=中西多香[ASHU])
●ウィンソン・マー
香港生まれ。コマーシャル・アート業界で経験を積み、2000年にケニー・ウォン、ウィリアム・ツァンと共に鉄人兄弟(brothersfree)を設立。アクション・フィギュアのデザインや、著名ブランドとのコラボレーションに従事。05年にWinson Classic Creation設立。自身がデザインしたキャラクター「Apexplorers/Jungle」が、07年HKDA Awardsの銀賞を受賞。リーバイス、ノキア、コカ・コーラ、キヤノンなど、国内外のブランドとのコラボレーションも多く手がける。
<http://www.winsoncreation.com/>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
■バックナンバー
【vol.27】“田名網チルドレン”続々……アジア各地で熱烈支持されるサイケデリック・マスター
【vol.26】『銀河鉄道999』はアップル並みのインパクト? 韓国の催眠術的ポートレイト
【vol.25】ネタ元は日本の特撮ヒーロー? インドネシア式ファンタジー
【vol.24】"80後"世代の代弁者 中国売れっ子写真家の「未来系アート」
【vol.23】「ヤクルトとカップヌードルに洗礼?」MOJOKOのユーモラスな世界
【vol.22】「狂気とポップカルチャーが融合!?」香港のアーティストが追求する"不完全な美"
【vol.21】「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学"
【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ"
【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト
【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト
【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能
【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界
【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター
【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界
【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界
【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」
【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター
【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン
【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー
【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海
【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能
【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界
【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト
【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点
【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん
【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶
【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢
『銀河鉄道999』はアップル並みのインパクト? 韓国の催眠術的ポートレイト

(c)Seungyea Park
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第26回
アーティスト
スンイェ・パク(Seungyea Park )
非常に繊細で、写実主義を極めた筆致で描かれたポートレイト。でも、何かが変。もう一度見る。えも言われぬ不安感に襲われつつ、今度は細部を見極めようと、見入ってしまう。そして普通の「人」のポートレイトにはあり得ないモノや部分を見つけては、恐怖や、嫌悪感にも似た感情が湧き出るのを押さえることができない。それなのに、シュール感と現実感が絶妙なバランスで共存している彼女の人物画を前にすると、この「人」たちの存在も簡単に受け入れてしまいそうになるのだ。
韓国のアーティスト、Seungyea Park(スンイェ・パク)は、そんな自分の作品を「催眠術的ポートレイト」と称している。

(c)Seungyea Park
スンイェの作品はほとんどが人物画だ。中性紙の上に、アクリルとボールペンを使って彼女が描き出したいのは「人の内面に棲むモンスターと、外部に現れたモンスター」。
「本当は誰にでも見えているかもしれないモノなのに、私たちは実は何も見ていない、あるいは、現実をそのまま受け入れようとしない、ということを表現したいのです」
スンイェは最近、20代のほとんどを過ごしたアメリカから、家族のいる韓国に戻って来た。
「韓国は私の生まれた場所で、現在の私の生活と活動の場でもあります。刺激的で、特殊なトレンドが生まれるところ。一方で、あらゆる種類のニーズに対するたくさんのチャンスがある場所でもあります」

(c)Seungyea Park

(c)Seungyea Park
作品を韓国で売るのは簡単なことではないが、展覧会企画やアーティスト・イン・レジデンス、助成金などが、彼女の活動を支えているという。
そして、自分の作品に影響を与えるのは、どこか特定の国の文化ではない、としながらも、アメリカと日本の文化の存在は大きい、という。
「だって、それらはもはやほぼ世界中に広がっているものだから。子どものころは、『銀河鉄道999』や『鉄腕アトム』を見て、バービー人形と遊んで育ちました。21世紀のアップルが世界中に与えたインパクトと同様、巨大産業の影響からは逃れられないということです」
「アメリカには、韓国的なもの、アメリカ的なもの、日本的なもの、中国的なもの、そしてヨーロッパ的なものが混在しています。学校や友人、仕事の現場に、それらは普通にあり、確実に言えるのは、そうしたさまざまなカルチャーが、私の中にミックスされているということです」

(c)Seungyea Park
彼女に、ポートレイトを描き続ける理由を聞いてみた。
「人を描くのが好きなんです。顔は、その人の背景にある多くの歴史的なものを表している。それは美しく、壊れた大きな鏡――システムとも言えるし、私たちが属する社会とも言える――のかけらのようでもあります」
人々の中に、外に、巣食うモンスターたち。それは、彼らの暮らす生活や社会のひずみともいえるのかもしれない。そして、そうしたものを、スンイェは視覚化するのだ。
「私の絵は、モンスターたちが争う戦場みたいなものかもしれませんね」
現在所属するNational Art studio of Koreaは「自分が人々に向けて、自分が何を打ち出していくべきかを考えるのに適したところ」だというスンイェ。年末には、ソウル市のスポンサーによる個展の計画も進んでいる。
これからは、インスタレーションや書籍、ビデオなど、自分のドローイングをより多くの媒体を使って、メディアミックスの形でプレゼンテーションしていきたいという。
「とにかく、もっともっと作品作りを楽しみたいんです」
私たちの内面と外面にいるモンスターたち。スンイェにしか見えないそれらを、その作品を通して、もっと見せてほしいと思うのは、筆者だけではないはずだ。
(取材・文=中西多香[ASHU]
●スンイェ・パク
ソウルで生まれ育つ。高校卒業後、アメリカに渡り、ニューヨークのSouthampton Longisland UniversityでBFA(美術学士)を、C.W .POST of Southampton Long Island Universityで修士を取得後、アーティストとして活動を開始。現在はソウルをベースに、展覧会や出版を通じて作品の発表を続ける。2011年、Sovereign Asian Art Prize のTOP30 ファイナリストに選出される。
<http://blog.yahoo.com/artpark>
<http://www.saatchionline.com/spunkyzoe>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
■バックナンバー
【vol.25】ネタ元は日本の特撮ヒーロー? インドネシア式ファンタジー
【vol.24】"80後"世代の代弁者 中国売れっ子写真家の「未来系アート」
【vol.23】「ヤクルトとカップヌードルに洗礼?」MOJOKOのユーモラスな世界
【vol.22】「狂気とポップカルチャーが融合!?」香港のアーティストが追求する"不完全な美"
【vol.21】「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学"
【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ"
【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト
【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト
【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能
【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界
【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター
【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界
【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界
【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」
【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター
【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン
【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー
【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海
【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能
【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界
【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト
【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点
【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん
【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶
【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢
『銀河鉄道999』はアップル並みのインパクト? 韓国の催眠術的ポートレイト

(c)Seungyea Park
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第26回
アーティスト
スンイェ・パク(Seungyea Park )
非常に繊細で、写実主義を極めた筆致で描かれたポートレイト。でも、何かが変。もう一度見る。えも言われぬ不安感に襲われつつ、今度は細部を見極めようと、見入ってしまう。そして普通の「人」のポートレイトにはあり得ないモノや部分を見つけては、恐怖や、嫌悪感にも似た感情が湧き出るのを押さえることができない。それなのに、シュール感と現実感が絶妙なバランスで共存している彼女の人物画を前にすると、この「人」たちの存在も簡単に受け入れてしまいそうになるのだ。
韓国のアーティスト、Seungyea Park(スンイェ・パク)は、そんな自分の作品を「催眠術的ポートレイト」と称している。

(c)Seungyea Park
スンイェの作品はほとんどが人物画だ。中性紙の上に、アクリルとボールペンを使って彼女が描き出したいのは「人の内面に棲むモンスターと、外部に現れたモンスター」。
「本当は誰にでも見えているかもしれないモノなのに、私たちは実は何も見ていない、あるいは、現実をそのまま受け入れようとしない、ということを表現したいのです」
スンイェは最近、20代のほとんどを過ごしたアメリカから、家族のいる韓国に戻って来た。
「韓国は私の生まれた場所で、現在の私の生活と活動の場でもあります。刺激的で、特殊なトレンドが生まれるところ。一方で、あらゆる種類のニーズに対するたくさんのチャンスがある場所でもあります」

(c)Seungyea Park

(c)Seungyea Park
作品を韓国で売るのは簡単なことではないが、展覧会企画やアーティスト・イン・レジデンス、助成金などが、彼女の活動を支えているという。
そして、自分の作品に影響を与えるのは、どこか特定の国の文化ではない、としながらも、アメリカと日本の文化の存在は大きい、という。
「だって、それらはもはやほぼ世界中に広がっているものだから。子どものころは、『銀河鉄道999』や『鉄腕アトム』を見て、バービー人形と遊んで育ちました。21世紀のアップルが世界中に与えたインパクトと同様、巨大産業の影響からは逃れられないということです」
「アメリカには、韓国的なもの、アメリカ的なもの、日本的なもの、中国的なもの、そしてヨーロッパ的なものが混在しています。学校や友人、仕事の現場に、それらは普通にあり、確実に言えるのは、そうしたさまざまなカルチャーが、私の中にミックスされているということです」

(c)Seungyea Park
彼女に、ポートレイトを描き続ける理由を聞いてみた。
「人を描くのが好きなんです。顔は、その人の背景にある多くの歴史的なものを表している。それは美しく、壊れた大きな鏡――システムとも言えるし、私たちが属する社会とも言える――のかけらのようでもあります」
人々の中に、外に、巣食うモンスターたち。それは、彼らの暮らす生活や社会のひずみともいえるのかもしれない。そして、そうしたものを、スンイェは視覚化するのだ。
「私の絵は、モンスターたちが争う戦場みたいなものかもしれませんね」
現在所属するNational Art studio of Koreaは「自分が人々に向けて、自分が何を打ち出していくべきかを考えるのに適したところ」だというスンイェ。年末には、ソウル市のスポンサーによる個展の計画も進んでいる。
これからは、インスタレーションや書籍、ビデオなど、自分のドローイングをより多くの媒体を使って、メディアミックスの形でプレゼンテーションしていきたいという。
「とにかく、もっともっと作品作りを楽しみたいんです」
私たちの内面と外面にいるモンスターたち。スンイェにしか見えないそれらを、その作品を通して、もっと見せてほしいと思うのは、筆者だけではないはずだ。
(取材・文=中西多香[ASHU]
●スンイェ・パク
ソウルで生まれ育つ。高校卒業後、アメリカに渡り、ニューヨークのSouthampton Longisland UniversityでBFA(美術学士)を、C.W .POST of Southampton Long Island Universityで修士を取得後、アーティストとして活動を開始。現在はソウルをベースに、展覧会や出版を通じて作品の発表を続ける。2011年、Sovereign Asian Art Prize のTOP30 ファイナリストに選出される。
<http://blog.yahoo.com/artpark>
<http://www.saatchionline.com/spunkyzoe>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
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【vol.25】ネタ元は日本の特撮ヒーロー? インドネシア式ファンタジー
【vol.24】"80後"世代の代弁者 中国売れっ子写真家の「未来系アート」
【vol.23】「ヤクルトとカップヌードルに洗礼?」MOJOKOのユーモラスな世界
【vol.22】「狂気とポップカルチャーが融合!?」香港のアーティストが追求する"不完全な美"
【vol.21】「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学"
【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ"
【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト
【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト
【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能
【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界
【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター
【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界
【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界
【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」
【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター
【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン
【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー
【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海
【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能
【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界
【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト
【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点
【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん
【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶
【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢
特撮ヒーローのエッセンスが満載! インドネシア式ファンタジー

「An Old Apartment Of Coaliti」(c)Eko Nugroho
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第25回
アーティスト
エコ・ヌグロホ(Eko Nugroho)
インドネシアのジョグジャカルタに生まれ、現在もそこをベースに活動するアーティスト、エコ・ヌグロホ。大小さまざまな島から成るインドネシアの国土の東西幅は、実はなんとアメリカ合衆国の国土よりも長い。それぞれの島や土地に独自の文化や風習があり、特にエコが住むジョグジャカルタは、王宮文化が色濃く残る、今でも舞踏や影絵、楽団などの伝統芸能が盛んな国際都市だ。豊かな文化に恵まれたインドネシアにいることの恩恵を感じているというエコのルーツは、ジャワ文化。彼によれば、これはかなりパワフルなもので、彼の作品にも強い影響を与えているという。

「1919-13」(c)Eko Nugroho

「Generasi Monoton」(c)Eko Nugroho
「インドネシアの政治状況は昔も今も変わらず“サイテー”ですが、そこに暮らす人々は、笑顔を絶やすことがない。庶民の暮らしだって、決していいとは言えない状態だけど、みんなものを分け合い、助け合っている。それが僕にとっては本当に美しいと感じることなんです」
エコは、絵画だけでなく、刺繍で作った絵画や、等身大の彫刻、影絵や巨大壁画など、身の回りのさまざまなメディアを自在に繰りながら、自分の世界を作り上げている。彼の作品にしばしば登場するのは、体の一部がモンスターや、ほかの物体に変形した人間(?)。それは進化の過程なのか、何者かに侵略されてしまった姿なのか……。現実と空想世界が渾然一体となった作品は、常に「人間の本質は何か」と、問いかけているようだ。
それにしてもこの、不気味なのにちょっと愛嬌もあり、寂しげにも見えるモンスターたち、どこかでお目にかかったような、懐かしさを感じるのだが……?

「Dungu」(c)Eko Nugroho

「I Was Politician」(c)Eko Nugroho
「子どものころに体験したファンタジーが、僕の作品に強い影響を与えているのは確かです。もちろん、日本からのものも多いですよ。遠い昔、僕が6歳のときに、近所の人がベータ・ビデオのプレイヤーを持っていて、日本のヒーローものをそれはたくさん見せてもらったんです」
『宇宙刑事ギャバン』『超電磁マシーンボルテスV』『怪傑ライオン丸』『メガロマン』……次から次へとタイトルが出てくる。どうやらその頃の彼の脳味噌は、日本のヒーローアニメや怪獣ものに、かなり“侵略”されていたようだ。
「僕の中では、奇怪な容貌を持つキャラクターや、お面をつけたキャラクターが、地域社会でみんなと一緒に普通に生活している、という、極めて不思議な物語の数々が始終渦巻いていました」
最近は、植田まさしの漫画にハマっており、大好きなジブリ作品のサウンドトラックを聞きながら楽しんでいるという。

(c)Eko Nugroho
現在、パリ市立近代美術館で個展(http://www.mam.paris.fr/fr/expositions/eko-nugroho)が開催されており、続いて今年中には、ベルリンのARNDTギャラリーでも個展をする予定だという。海外での活動も多く、インドネシアではすでにベテラン・アーティストとして評価されているエコだが、実際は苦闘の毎日らしい。
「インドネシアで“アーティスト”になると決意すること自体、まったく普通じゃありえないことです。アーティストの生活がどんなに困難を伴うものか、みんな知っていますからね。政府からの支援もなく、いいアート施設や美術館もない。孤軍奮闘の厳しさも感じています」
それでも、エコがインドネシアをベースにアーティストとして活動するのは、普通の人々の生活に、美しさを感じているから。彼は、地域社会で暮らすことこそが、作品を生み出すプロセスの大切な要素だと繰り返す。そして、そんなリアルな生活に根ざした「インドネシア式ファンタジー」に溢れる彼の作品こそが、私たちが待ち望んでいるものなのだ。
●エコ・ヌグロホ
1977年、インドネシア、ジョグジャカルタ生まれ。インドネシアン・インスティテュート・オブ・アート(ジョグジャカルタ)を2006年に卒業後、インディペンデントのアーティストとして活動を開始する。これまでに、ニューヨーク、ベルリン、北京、パリ、アムステルダム、ヘルシンキ、日本などでの国際展に参加。作品は、TROPENMUSEUM(アムステルダム)、シンガポール美術館(シンガポール)、ギャラリー・オブ・モダンアート(GOMA/ブリスベン)、アジア・ソサエティ・ミュージアム(ニューヨーク)、パリ市立近代美術館(パリ)、アート・ギャラリー・オブ・サウス・オーストラリア(AGSA/アデレード)に所蔵されている。
<http://ekonugroho.or.id>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
"80後"世代の代弁者 中国売れっ子写真家の「未来系アート」
null
●チェン・マン
フォトグラファー。1980年、中国・モンゴル自治区に生まれ、北京で育つ。中国中央美術学院でグラフィック・デザインと写真を専攻する。在学中に開始した中国のファッション誌「VISION」の表紙の連作が中国雑誌史上最もユニークなカバーイメージと評価され、セレブリティから撮影オファーが殺到。「80後(バーリンホウ)」=「一人っ子政策」世代を代表するチェン・マンは、チャイナ・ドリームを象徴する存在でもある。「VOGUE」「ELLE」「Esquire」(いずれも中国版)を始め、世界中のファッション誌でも活躍。作品は、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(ロンドン)や今日美術館(北京)などに収蔵されている。<http://www.chenmaner.com>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>

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「Red Peach Blossom.2」(c)Chen Man
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第24回
フォトグラファー
チェン・マン(陳漫/Chen Man)
中国で、今最もホットな写真家は? と聞けば、100人中100人がチェン・マン(陳漫)の名前を挙げるだろう。Weibo (ユーザー数3億人超の中国のTwitter+Facebook的SNS)のフォロワー、なんと50万人。コン・リーやフェイ・ウォン、あのベッカムまでもが彼女にポートレートを撮ってほしいと熱望する、スーパーアイドル・カリスマ・フォトグラファーだ。

『DRAGON BALL 1』
(集英社)
「子どものころは、いわゆる中国人にとっての昔話の定番『西遊記』よりは、アニメの『天書奇談』や『哪吒鬧海(ナーザの大暴れ:中国の神話小説『封神演義』の一挿話を題材とした中国を代表する長篇アニメーション)』、それに『ドラゴンボール』に夢中になっていましたし、ミッキーマウスやドナルドダックは常に身近な友だちでした。そしてマイケル・ジャクソンの音楽を聞きながら、家族とはテレビの『春節聯歓晩会(年越しに放映される中国版大紅白歌合戦)』を見るという、さまざまなカルチャーがミックスした環境で育ったんです」
彼女は「80後(バーリンホウ)」と呼ばれる世代の代弁者でもある。中国の一人っ子政策の下で1980年代以降に生まれ、蝶よ花よと育てられ、高等教育を受けた、今や中国の産業構造を変えるほどの影響力を持つとされる「80後」は、中国がこの数十年で駆け抜けた超高速近代化の申し子だ。

「Five Element-Water [Beauty]」(c)Chen Man
「私たちは、空想が実際の物に取って代わられることを目撃した、極めて現実的な世代と言われています。"富める条件のあるものから裕福になれ"という、80年代以降の改革開放政策後の中国の、怒涛のような発展と変化の波を浴びながら育った世代でもあります。インターネットに囲まれ、世界中のさまざまな情報が混沌と渦巻くグローバルな状態で、自分たちのアイデンティティを作り上げてきました」
彼女の作品には、そうした時間や東西の距離を越えた、混沌としたパワーが充満する中国の状態が、過剰なまでに見事に現れている。

「Vision Golden Fish Goblin」(c)Chen Man
「現代の西洋的な技術革新と中国的な伝統的価値観の共存、というテーマは、私がアート作品を創る原動力でもあり、一貫したコンセプトでもあります」
もともとは絵を描くのが好きだったというチェン・マン。学生時代に写真とフォトショップという「絵画の拡張機能」に出会い、自分のイマジネーションを100%表現できる手法を「発見」したという。一見、どこまでが写真でどこまでがポスト・プロダクションか分からない彼女の作品には、さまざまな「絵解き」が隠されている。一つの要素が物語を語り出すと、カラフルな全体像が別の色を帯びて見え始め、まるで一遍の絵物語を鑑賞しているようだ。
また、チェン・マンは、中国古代からの哲学概念である「天人合一」を常に意識している。これは、自然界を大宇宙とするなら、人(人体)は小宇宙であり、構造は同じものだという考え方で、自然界と人間はお互いに影響し合うものだという。この思想は、現代の中国社会にも脈々と生き続けているが、しかし、急速な経済発展によって、中国の生態環境は憂うべき状態に陥っている。それを改善するためには、人々の意識の改革が求められている、とチェン・マンは言う。

「Four Seasons-Spring [Beauty]」(c)Chen Man
「難しいことではないんです。私は、内面的な平安や清らかさが、自分を取り巻く外部の環境に影響すると考えています。だから、まずは自分たちを愛し、意識することが大事だと思うんです」
プライベートでは2児の母で、子どもの話になると途端にメロメロになってしまうチェン・マン。彼女がこうした思想を持つに至ったのは、アーティストである以上に、自分が母という存在になったことも大きいのかもしれない。
昨年11月に、上海のMOCA(上海現代美術館)で、チェン・マンの一大回顧展が開催された。オープニング・レセプションでは、31歳にしてチャイナ・ドリームを掴んだ彼女と一緒に写真の収まろうと、中国のセレブやトップモデルが列をなす光景に驚かされた。
そんなスーパースター、チェン・マンの日本での初個展(http://www.diesel.co.jp/art/exhibition.html)が東京で開かれている。

「Super Woman」(c)Chen Man
「本当にわくわくしています。日本にはまだ行ったことがないのですが、私にとっての日本は『ドラえもん』であり『ドラゴンボール』です。小さいときに日本の漫画に夢中になりましたが、日本の作品は真面目で、すべてをきちんと仕上げる姿勢に影響を受けました」
彼女はまた、環境に対する日本の合理的な思想やアプローチを評価しており、もっと世界に広めるべきだと言う。なぜならそれは、「愛と美のスタイルが見事に調和したものだと思うからです」。
世界中から仕事のオファーが引きも切らないチェン・マン。現在、個人的なアート・プロジェクトも目白押しだという。
「中国と西洋の素晴らしさ共存させ、自分独自の視覚言語としての表現をさらに拡げた新作を考えているところです」
自分の作品から「愛」を感じとってもらえるとうれしい、というチェン・マンの、「未来系アート」を堪能できる機会は、今後も増えていくに違いない。
(取材・文=中西多香[ASHU])
●チェン・マン
フォトグラファー。1980年、中国・モンゴル自治区に生まれ、北京で育つ。中国中央美術学院でグラフィック・デザインと写真を専攻する。在学中に開始した中国のファッション誌「VISION」の表紙の連作が中国雑誌史上最もユニークなカバーイメージと評価され、セレブリティから撮影オファーが殺到。「80後(バーリンホウ)」=「一人っ子政策」世代を代表するチェン・マンは、チャイナ・ドリームを象徴する存在でもある。「VOGUE」「ELLE」「Esquire」(いずれも中国版)を始め、世界中のファッション誌でも活躍。作品は、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(ロンドン)や今日美術館(北京)などに収蔵されている。<http://www.chenmaner.com>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
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