戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』

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戦場で手足を失った久蔵(大西満信)は、名誉の"軍神"として帰ってくる。
テレビ局主導の製作委員会方式では決して作られない、ホンモノの映画だ。
(c)若松プロダクション
 夜店で評判のフリークスをお見せいたしますというオドロオドロしい見せ物感覚と、正義の戦争なんかあるわきゃねぇだろうという明快なメッセージ性が、若松孝二監督の新作『キャタピラー』では見事に両立している。上映時間3時間10分の超大作『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)でも自己総括を求められた遠山美枝子(坂井真紀)が自分で自分の顔面を殴り続け、顔面崩壊する過程を延々と描き、観る者の背筋を凍らせた若松監督だが、今回の見せ物感覚はさらに最上級形だ。お国のために日中戦争に出兵した久蔵(大西信満)は妻・シゲ子(寺島しのぶ)の待つ農家に帰ってくるが、久蔵は戦争で両手両足を失い、芋虫状態となっていた。しかも顔半分はケロイドで覆われ、聴覚も失い、しゃべることもできない。だが、食欲と性欲だけは異常にある。生きた"軍神"となって帰ってきた夫の世話するシゲ子は"妻の鑑"として村中で讃えられるが、シゲ子にとっては家の中が戦場である。畑仕事でくたくたとなったシゲ子を、食欲と性欲だけの肉の塊となった久蔵が責め立てるのだった。  最初は久蔵の性のはけ口となっていたシゲ子だが、やがて手足のない久蔵の下の世話から食事の面倒まで全てをひとりでやらなくてはいけない貞淑な妻の反撃が始まる。1日中、部屋で寝ているだけの久蔵の上にシゲ子は股がり、シゲ子から挑発するようになる。戦場での忌まわしい記憶がフラッシュバックする久蔵は、シゲ子の求めに応えることができない。「この役立たず!」とシゲ子は"軍神"となった夫を罵倒する。さらには身動きのできない久蔵をリヤカーに乗せて外へと連れ出す。シゲ子は畑仕事中、久蔵をあぜ道に放置する。通りかかった村人たちは「あぁ、軍神さまだ。ありがたや」と拝んでいく。出兵前に夫の暴力に耐えてきたシゲ子の考え出した陵辱プレイである。そんな日々を重ね、やがてシゲ子は自分なしでは何もできない肉の塊である久蔵に愛おしさを覚えるようになっていく。怒りや憎しみ、悲しみも含めての夫婦愛、家族愛ではないのかと、このフリークスショーは客席に訴えかけてくる。
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食欲と性欲しか残されていない久蔵は、毎晩の
ごとく妻・シゲ子(寺島しのぶ)の体を執拗
に求める。
 ベルリン映画祭のコンペ部門に出品された本作は、若松監督の狙い通りに寺島しのぶに最優秀女優賞が贈られた。「これで宣伝費をかけずに済む」と若松監督はにんまり。常に体制側とは反対の立場から映画を撮り続ける"インディペンデント映画の帝王"若松監督は製作・配給まで全てを自分でやることをモットーにしている希有な映画人だ。自分でお金の管理ができないと、自分の思った通りの作品を撮ることも上映することもできないことを肌身に染みて知っているからだ。前作『実録・連合赤軍』は自宅と名古屋で経営している映画館「シネマスコーレ」を担保にして製作費2億円を捻出。クライマックスの「あさま山荘」での攻防シーンは仙台に所有していた若松監督の別荘でロケを行ない、物の見事に別荘をぶっ壊してみせた。若松監督にとって、映画製作=オノレの人生なのだ。  本作は江戸川乱歩の怪奇小説『芋虫』からインスピレーションを受けていることから、若松監督が日本文藝家協会にタイトル使用の許可を求めたところ、150万円を請求されたそうだ。「冗談じゃない」と若松監督が断ると、「じゃあ、50万円でいいので」と言われたらしい。「バナナの叩き売りじゃあるまいし」と若松監督はとっとと"芋虫"から英訳の"キャタピラー"に変更した。都内での先行上映時に語ったエピソードだが、タイトルが"キャタピラー"になったことで、戦車や戦争を連想させるよりベターなタイトルとなったわけだ。転んでも決してただで起きないのが、若松監督の仕事の流儀である。
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ベルリン映画祭銀熊賞を受賞した寺島しのぶ。
「日本では、"また脱いだんですか?"としか
尋ねられない」と寺島は日本のマスコミをチクリ。
 サイゾー本誌2005年9月号で若松監督をインタビューした際、ヤクザの世界から映画業界に転職した経緯を語ってくれた。17歳のときに父親とケンカして実家を飛び出し、宮城から夜行列車に乗って上京。カリントウ工場で働いていたが、カリントウを煮詰めていた巨大鍋の中に同僚が誤って落ちて死んだことから、マジメに勤めるのがバカバカしくなった。新聞配達、肉体労働などを経て、新宿を拠点にする暴力団の組員となり、縄張り内で撮影される映画やドラマのロケ現場に立ち会ううちに、「映画の世界は面白そうだな」と思うようになったと語る。その後、対立する組との抗争から半年ほど拘置所に入り、塀の中でヤクザ稼業から足を洗い、映画の世界に進むことを決意する。留置所での体験がよほど強烈だったのだろう、若松作品には監禁、もしくは抑圧された若者の怒りが爆発するストーリーが多い。また、このとき取り調べをした警察官たちが横柄な態度だったため、若松作品は終止、反体制的立場から描かれることとなった。若松監督は銃と爆弾の代わりに、映画でもって社会を挑発し続ける。  今年74歳になったと思えないほど過激なアナーキストの若松監督だが、その一方では撮影で余ったロケ弁当はホームレスに配るなど心優しい一面も持つ。また、これは映画館スタッフに聞いた話なのだが、公開初日に若松監督は赤飯を炊いて自分でオニギリを握り、上映館まで自転車を漕いで赤飯のオニギリを運ぶのだそうだ。かっこ良すぎるよ、若松監督!  他人の敷いたレールを走ることなく、無限軌道(キャタピラー)のごとく荒野を突き進む若松監督だが、不合理なものは大キライ。大本営発表に疑問を呈する。入場料がどの作品も1,800円という均一料金になっている日本の映画界に対しても、本作は一石を投じている。「戦争の真実を若い人に知ってほしい」という考えから、高校生は料金500円、大学生・専門学校生800円という格安プライス。大人でも前売り1,000円という安さだ。ベルリン映画祭受賞のニュース以降、『キャタピラー』を上映したいという全国の映画館から申し入れが殺到しており、配給も手掛ける若松監督は「この値段で構わないという映画館とだけ話をしている」という。  本作はリハなし、全シーンほぼ一発撮り、撮影期間わずかに14日間という強行スケジュール(それでも早撮りのため12日間で撮影終了)で撮り上げられたため、全シーンに緊張感がみなぎっている。何もできずに悶え苦しむ久蔵が壁に頭を打ち付けて流血するシーンは血糊ではなく、リアルな出血である。また、それを見たシゲ子は笑い転げるが、これは寺島のアドリブ。共演者の出血を見て笑い出すという寺島の役への没頭ぶりがすごい。そんな中で、女物の着物を羽織ったキチガイ男をゲージツ家のクマさん(篠原勝之)が演じており、コメディリリーフ的な役割を果たしている。元々は脚本になかったキャラクターで、新潟のロケ地に若松監督から呼び出されたクマさんは、よく分からないままキチガイ男を演じていたそうだ。村中が本土決戦に備え、竹槍やバケツリレーの訓練に励む中、キチガイ男は赤フンドシ姿でひとり気ままに村中をゲラゲラ笑いながら徘徊する。  ネタばれになってしまうが、映画のラストでキチガイ男はポツダム宣言受諾を伝える玉音放送を聞き、シゲ子と共に「終戦、ばんざ~い!」と叫ぶ。玉音放送は聴き取りにくかった上に「耐えがたきを耐え......」という言葉から、いよいよ本土決戦かと勘違いした人も多かったという。その玉音放送を聴いて喜ぶキチガイ男は、実はかなりのインテリということだろう。マーティン・スコセッシ監督の『シャッターアイランド』と通じる風刺の効いたエンディングとなっている。世の中が狂っているのなら、まともな人間はキチガイのふりをするしか生き延びる手だてはないのだ。 (文=長野辰次) cata04.jpg 『キャタピラー』 企画・製作・監督/若松孝二 脚本/黒沢久子、出口出 撮影/辻智彦、戸田義久 主題歌「死んだ女の子」元ちとせ 出演/寺島しのぶ、大西満信、河原さぶ、地曳豪、ARATA、篠原勝之、吉澤健 8月6日(金)広島、8月9日(月)長崎にて先行上映、14日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー公開 <http://www.wakamatsukoji.org>
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白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』

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バイセクシャルであることをカミングアウトしているミーガン・フォックス。
主演作『ジェニファーズ・ボディ』では男女を問わず、
妖しい魅力で次々と虜にしていく。まさに適役!
(c)2009Twentieth Century Fox
 今どきの女子たちの生態を赤裸々に描いた"ガールズ・ムービー"。男子には理解しがたい世界だが、しかしそれゆえに興味がそそられるジャンルでもある。ミーガン・フォックス主演の『ジェニファーズ・ボディ』は、ガールズならではの甘美な世界にホラーテイストをブレンドした新しいタイプの米国映画だ。『トランスフォーマー』(07)で顔を売った若手セクシー女優ミーガン・フォックスと『マンマ・ミーア!』(08)でメリル・ストリープの娘役を演じた清純派アマンダ・セイフライドが田舎の女子高生に扮し、女同士の友情、羨望、嫉妬が絡み合う関係を演じる。ミーガンがエロっぽい仕草で男どもを挑発するシーンやアマンダとのレズシーンといったサービスショットを盛り込みつつ、美しくて強いものに純粋に憧れる田舎の高校生たちの心情を伝えている。  米国中西部の田舎町で暮らすアニータ(アマンダ・セイフライド)は内気で目立たない女の子。ボーイフレンドは一応いるものの、正直言ってダサ系。しかし、アニータには高校でいちばん人気の女子ジェニファー(ミーガン・フォックス)と幼なじみの親友であることが何よりもの自慢だった。2人はBFF(Best Friends Forever)と記したペアペンダントをいつも身に付けるほどの仲良しで、周囲からは「レズビアンじゃないの?」と噂されている。そんなある日、アニータはジェニファーに連れられてインディーズバンドのライブに出かけるが、ライブハウスが火事で全焼するという大事故が発生。何とかアニータは生還するが、その晩からジェニファーの様子がおかしい。今までは田舎町にしてはイケてるオネーチャンだったジェニファーが、全身から妖しい美しさを発するミステリアスな美女に変身してしまったのだ。ジェニファーの体に何が起きたの? アニータの心の中に、親友を心配する気持ちと同時に、不安、好奇心、恐怖、嫉妬......といったさまざまな感情が渦巻き始める。やがて高校の男子生徒どもが一人、また一人と惨殺死体となって発見される。そして事件の度にジェニファーは美しさを増していく。
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アニータ(アマンダ・セイフライド)は
親友のジェニファーに連れられてライブ
ハウスに行き、とんでもない事故に巻き込まれる。
 わがままなジェニファーに振り回される親友アニータを好演したアマンダ・セイフライドは、まだ品行方正なアイドルだった時代のリンジー・ローハンが主演したガールズ・ムービー『ミーン・ガールズ』(04)にも出演している。『ミーン・ガールズ』は人気コメディエンヌ兼脚本家である才女ティナ・フェイが仲良し女子高生グループの世界を描いたコメディだが、新しいスカートを買うときやボーイフレンドができたときは必ず事前にグループ内の承諾を得なくてはならないなど、女子の厳しいルールに男子は驚かせられる。かわいい女の子も、グループ内の人間関係をキープするので大変らしい。まだ人格が固定されず、精神的に不安定な彼女たちは、美しくてクールなものに憧れる。美しくてクールなものは、崇拝するに値するものだと彼女たちは信じている。  女子高生を主人公にしたガールズ・ムービーで、もう一本おすすめなのがソーラ・バーチ&スカーレット・ヨハンソンの主演作『ゴーストワールド』(01)。社会に迎合したものを徹底的にバカにしていた2人のトンガリ系女子高生が、高校卒業後2人の関係に少しずつ距離が生じる過程をリアルに描いている。卒業後は割り切ってコーヒーショップで働き始めるスカヨンに対し、ソーラ・バーチは仕事先で無難な人間関係をどうしても築くことができない。自分に正直すぎて、自分の居場所を失っていく姿が哀しい。都会と違って、田舎は気取らずに伸び伸びと暮らせるなんて大間違い。小さな共同体の閉鎖的な空気が、かわい子ちゃんたちを苦しめるのだ。  本作『ジェニファーズ・ボディ』の世界は、デビュー作『JUNO/ジュノ』(07)でアカデミー賞脚本賞を受賞したディアブロ・コディが生み出したもの。ストリッパーやテレフォンセックスのオペレーターなど過激な職歴の持ち主のコディだが、本人は「キャラクターを考えるのに、とても役立った」とサバサバと語っている。歯に衣着せぬ物言いで、バッシングされることも多い。『ジュノ』ではパンクロックとB級ホラー映画が大好きという16歳のヒロインが田舎町でシングルマザーになる道を選び、たくましく生きる姿を描いた。本作でもホラー映画的なスリリングな展開よりも、ジェニファーが周りに媚びることなく強く美しくなっていく様子に主眼が置かれている。その一方、9.11以降、異分子を排斥したがる米国の保守的な空気をチクチクと皮肉る。死傷者を出したライブハウスの事故以降、町中は一斉に自粛ムード、地元のラジオ局からは追悼ソングが連日連夜流される。そんなどんよりした雰囲気を物ともせず、真っ赤なルージュを引いたジェニファーの唇が艶かしく輝く。  失業者が町に溢れ、地方都市のシャッター通り化が進んでいるのは、米国も日本も変わらない。学校を卒業しても、仕事があるかどうか分からない。将来にキラキラとした明るい希望は当分持てそうにない。それなら、昔からの自分を理解してくれている地元の友達を大切にしなくちゃ。そのうち別れるはめになる恋人より大事だもんね。でもって、10代の輝きを記録するため、メイクやファッションの研究も怠りません。ガールズ・ムービーのヒロインたちは、どんどん美しくなっていく。それはまるで社会不安と反比例しているかのようだ。 (文=長野辰次) 『ジェニファーズ・ボディ』 脚本/ディアブロ・コディ 監督/カリン・クサマ 出演/ミーガン・フォックス、アマンダ・セイフライド、アダム・ブロディ、ジョニー・シモンズ、J.K.シモンズ 配給/ショウゲート 7月30日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー公開 <http://www.jennifers-body.jp>
JUNO/ジュノ<特別編> 彼氏がダメダメなんだな。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ……夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ

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気弱な童貞くんコロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)は美女を助け、
脱童貞のチャンス到来。しかし、美女はすでにゾンビ菌に感染していた。
あ~、もったいない......。なんて言ってないで逃げ出せよ!
(c)2009 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES,INC ALL RIGHTS RESERVED.
 ジョージ・A・ロメロ監督が『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)、『ゾンビ』(78)、『死霊のえじき』(85)のゾンビ三部作を発表して以降、実に数多くのゾンビ映画が世界中で作られてきた。ゾンビが猛ダッシュで追いかけてくるイギリス映画『28日後...』(02)、ゾンビ発生をドキュメンタリータッチで描いたスペイン映画『REC/レック』(07)、米国の金髪セクシーゾンビたちが競演する『ゾンビ・ストリッパー』(08)など、ゾンビ映画は年々増殖を続けている。さて、そもそも"ゾンビ"とは何なのか。『ゾンビ映画大事典』(洋泉社)を読んだところ、1928年に発表されたノンフィクション本『The Magic Island』から"生きる屍=ゾンビ"の概念が広まったらしい。カリブ海の島国ハイチでブードゥー教の信者と1年間生活を共にした著者ウィリアム・シーブルックによると、ハイチでは呪術師が一度死んだ人間をゾンビとして甦らせ、農作業などの重労働に従事させていたとのこと。死んだ後も奴隷のように働かせられるとは、ハイチのゾンビも難儀だなぁ。でも、ゾンビ人間なら今の日本にもうじゃうじゃいるよ。マスコミ業界なんて、上司の命令か人気アンケートの結果でしか動かない、"思考停止状態"の超保守的ゾンビ社員だらけ。保険付きの美味しい企画にだけわらわらと群がる。しかも、ゾンビ社員の無気力さは、次々と感染するから要注意。欧米や日本など閉塞的状況に陥っている国々でゾンビ映画がやたらと作られていることは無関係じゃないと思うよ。  そんなところにドドーンと現われたのが、爽やか系青春ゾンビ映画『ゾンビランド』。気弱な主人公がゾンビランドと化した合衆国で、ゾンビと戦いながら恋と友情にハッスルしちゃうコメディタッチのロードムービーなのだ。ゾンビ映画だけど、爽快で胸キュン。このギャップが気持ちいいな~。全米で09年10月に公開され、興行成績初登場1位を記録したヒット作。ゾンビ映画のコメディというと、イギリスの新鋭エドガー・ライト監督の『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04/日本ではビデオリリースのみ)が"ゾンビ愛"に満ちた名作パロディとして誉れが高いけど、本作はパロディというよりはゾンビ映画の世界観を使って、主人公がタフに成長するドラマ性に比重を置いた作品。これがデビュー作となるルーベン・フライシャー監督は製作が決まるまでは『28日後...』ぐらいしかゾンビ映画は観ていなかったらしい。本作はゾンビ映画に詳しくないゾンビ・ビギナーでも充分に楽しめる"開かれたゾンビ映画"ってわけ。  世界唯一の超大国として我が世を謳歌していた合衆国だが、汚染肉で作ったハンバーガーが原因でゾンビウィルスが感染爆発。またたく間に合衆国はゾンビランドに。気弱な青年コロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)は胃弱で、しかも引きこもり気味だったことから感染を免れていた。人間、何が幸いするか分からない。生物の歴史とは、環境の変化に対応できなかったマジョリティーが滅び、マイノリティーが生き残るという進化の繰り返しの歴史なのだ。マイノリティーばんざ~い! コミュニケーションべた、サイコー! 主人公コロンバスの捻れた青春がこうして始まる。  コロンバスは無人化した町へ出て、これまで感じなかった開放感を味わう。トイレで粘っているとゾンビが襲ってくるので、のんびりウンコしてられないけど、ゾンビの襲撃さえもコロンバスにとっては単調な生活に刺激を与えてくれるスパイス。故郷の両親とはウマが合わなかったけど、とりあえず安否を確かめに行こうと実家に向かう途中、マッチョ野郎タラハシー(ウディ・ハレルソン)と出会う。平穏な時代なら口を利くこともなかっただろう性格が真逆な2人だが、ゾンビランドを生き延びるために協力し合う。さらに美人の詐欺師姉妹ウィチタ(エマ・ストーン)とリトルロック(アビゲイル・ブレスリン)も旅の仲間に加わる。ゾンビと戦う旅の中で、コロンバスは今まで味わうことのなかったウキウキ感で体中が満たされていく。
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コロンバスは旅の道中、マッチョ野郎のタラハ
シー(ウディ・ハレルソン)と行動を共に
することに。名作『ショーン・オブ・ザ・デッ
ド』同様、男同士の友情にホロリ。
 コロンバスは生き延びるため、ルールを作る。学校の教科書と違って、すべて自分の経験則から考え出したもの。ゾンビの攻撃から逃げ切れるよう常にダッシュで走ることをルール1、ゾンビを見たら迷わず2度撃ちすることをルール2、トイレにご用心をルール3......などのサバイバル・ルールを自分に課す。ルール17は"英雄になるな"。英雄気取りのキャラクターに死亡フラグが立つことはゾンビ映画のお約束。さて、合計31のルールだったが、旅の途中で何度かルールは書き改められる。ゾンビをぶっ殺すことのみを生き甲斐としているタラハシーだが、甘~いスポンジケーキ「トゥインキー」には目がない。荒廃したショッピングモールを見つけると、トゥインキーの在庫がないか夢中になって探し出す。合成保存料たっぷりのトゥインキーを食べている間だけ、タラハシーはゾンビランドになる前の幸福だった時代を思い出すことができるらしい。マッチョ野郎の過ぎ去りし過去を想い偲び、コロンバスはルール32に「ささやかなことを楽しめ」と付け加える。幸せの尺度に大きいも小さいもないことをコロンバスはマッチョなオッサンから学ぶのだった。  刺激に満ちた愉快な旅も、いつかは終わりを迎えるもの。コロンバスたちと別れたウィチタ&リトルロック姉妹は、ゾンビがいないと噂される夢の遊園地「パシフィックランド」に向かう。だが、ゾンビがいない理想郷なんて、現実社会に絶望した人間が生み出したただの幻想。ネオンに釣られて大量のゾンビたちがぞろぞろと遊園地に集まる。生きる希望と悪夢とが混然となった遊園地を、気弱でしかも胃弱なコロンバスは全力疾走で駆け抜ける。それはゾンビから逃げるためではなく、ゾンビに取り囲まれたウィチタたちを救出するため。ルール17に記された"英雄になるな"をコロンバスは自分から破棄する。  ルールは状況に応じて、自分の判断で書き換えるものなんだよ。自分は脳ミソがスポンジ化したゾンビじゃなくて、生きた人間なんだからさ! 死亡フラグを物ともせず、コロンバスはゾンビの大群に立ち向かう。ルールを破り、恐怖に打ち勝ったコロンバスは、このとき本当の意味での自由な人間となる。  ゾンビ人間に普段から悩まされているみなさん、この夏はサイコーにご機嫌な『ゾンビランド』にレッツゴーだね。 (文=長野辰次) 『ゾンビランド』 監督/ルーベン・フライシャー 脚本/レット・リース、ポール・ワーニック 出演/ウディ・ハレルソン、ジェシー・アイゼンバーグ、エマ・ストーン、アビゲイル・ブレスリン、ビル・マーレイ 配給/日活 7月24日(土)よりヒューマントラスト渋谷ほか全国ロードショー公開 R15+ <http://www.zombieland.jp>
ゾンビ大事典―VSゾンビ生存マニュアル 本気で生き残るために。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』

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豊川悦司主演作『必死剣 鳥刺し』。
海坂藩の藩士・兼見三左エ門は不敗の剣"鳥刺し"の使い手だが、
その剣を抜くときは本人も死を覚悟しなくてはならない。
(c)2010「必死剣 鳥刺し」
 生きるということは、ひどくかっこ悪いということである。藤沢周平の時代小説は、そのことをまざまざと教えてくれる。藤沢作品の原作小説で描かれている主人公たちは、およそ時代劇のヒーローらしくなくビンボーで、見苦しい。義憤に駆られて正義の剣をかざすというよりも、生きるのが不器用で藩内の勢力争いに巻き込まれ、知らない間に窮地に立たされてしまう。できれば、命にかかわるやりとりなどしたくない。他の人に代わってほしい。しかし、上司の命令には逆らえない。渋々と覚悟を決めた主人公はとりあえず女を抱き、そして翌朝には誰も引き受けて手のない任務へと赴く。サラリーマンの多くは藤沢作品のストイックな主人公に自分の姿を投影しながら、小説に読み耽る。  藤沢周平の人気短編集「隠し剣」シリーズには、さまざまな秘剣・隠し剣が登場する。隠し剣というと聞こえがいいが、基本的にどれも相手の虚を突く、邪剣・だまし討ち剣ばかり。山田洋次監督の『隠し剣 鬼の爪』(04)を最初に観たときは"鬼の爪"の正体にひどく後味の悪さを覚えたものだ。秘剣はどれも武士として他人には見せられない邪道剣ゆえに封印されてきたものであり、またその剣筋を見た者は口外されぬよう息の根を止めなくてはならない。だが、隠されれば隠されるほど、人はその正体を見たくなるもの。寡黙で目立たない性格ゆえに秘剣を伝授された主人公の前に、その噂を嗅ぎ付けた剣客たちが次々と現れる。皮肉なパラドックスの中で藤沢作品の主人公たちはあがき苦しむ。  平山秀幸監督によって映画化された『必死剣 鳥刺し』は、『隠し剣 孤影抄』(文春文庫)に収録された一編。豊川悦司を主演に起用し、ハードボイルドタッチの本格的時代劇に仕立てている。"必死剣 鳥刺し"とはその剣を抜けば、必ず相手を仕留めるという必勝不敗の剣。しかし、その剣を使うとき、剣の遣い手は半ば死んでいるという。"鳥刺し"はいつ、誰に対して抜かれるのか。緊迫した空気を終止はらみながら、物語は静かに進んでいく。  東北地方の小藩・海坂藩に仕える兼見三左エ門(豊川悦司)は若い頃に剣術修行に励み、秘剣"鳥刺し"を編み出していた。しかし、愛妻・睦江(戸田菜穂)が病気で亡くなり、兼見は生き甲斐を失ってしまう。そんな折、藩主の側室・連子(関めぐみ)が政事に口をはさむことから藩内に不満が噴出していた。愚直な兼見は藩政を憂うあまり、連子を城内で刺殺。自分も切腹する覚悟だった。だが、藩の上層部からのお達しは、1年間の閉門という極めて寛大な処分。もちろん藩主や藩の上層部は兼見への温情から軽い処分を下したのではない。藩主と敵対する分家の帯屋隼人正(吉川晃司)という剣豪が存在するため、"生きた盾"として生かされているに過ぎなかった。藩のために尽くせば尽くすほど、藩の上層部からいいように利用される。江戸時代の下級武士・兼見の苦悩と上司に恵まれない現代のサラリーマンの悲哀がスクリーンの中で溶け合っていく。
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クライマックスは15分にわたる殺陣シーン
が展開。豊川悦司と立ち回りを演じた吉川
晃司は「グルーヴ感が出るまで、お互いに
徹底的にやりあった」と話す。
 原作者である藤沢周平(1927~97)は、山形県の農家生まれ。苦学の末に鶴岡市で中学校の教員になるが、肺結核のためにわずか2年で休職。生徒たちに慕われる人気教師だったものの教壇に戻ることは叶わず、30歳で上京し食品関係の業界新聞の記者として食い扶持を得ることになる。いくつかの編集部を渡り歩き、59年に同郷の女性・三浦悦子さんと結婚。63年2月に長女・展子さんが生まれるも幸せは長くは続かず、同年10月に28歳の若さで悦子さんが病死。72年に「暗殺の年輪」で直木賞を受賞し、47歳にしてようやくサラリーマン生活に別れを告げ、本格的に作家活動を始めたという大変な遅咲き人生だった。不幸に度々遭いながらも慎ましく生きてきた姿は、『たそがれ清兵衛』(02)をはじめとする藤沢作品の主人公そのものだ。代表作『蝉しぐれ』(文春文庫)では初恋の女性への想いを断ち切って、現実と折り合いをつけていく主人公の姿が切ない。普段は温厚な藤沢作品の主人公たちだが、隠し剣を抜く瞬間だけ、ままならない人生を生きてきた藤沢周平自身の内なる叫び声が聞こえてくる。  『必死剣 鳥刺し』に話を戻そう。物語の中盤までは兼見の蟄居生活が淡々と描かれる。外部との交流を断った兼見が心を許せるのは亡くなった妻の姪である里尾(池脇千鶴)だけ。里尾の献身的な支えに対し、兼見は報いることができずにいる。帯屋隼人正との対決を控え、兼見はひと晩だけ里尾を抱く。そして壮絶を極めるクライマックスへ。身長186cmの豊川と182cmの吉川、ともに上背のある2人の激突だけに殺陣シーンは見応えあり。さらに2人の決着がついた後に、どんでん返しが待っている。  『愛を乞う人』(98)でのDVシーン、『OUT』(02)での死体解体シーンで徹底した演出を見せた平山監督が、本作のラスト15分間にわたる殺陣シーンでも兼見のコドクな戦いを妥協なく撮り上げている。男臭いハードボイルド時代劇の中で、池脇千鶴、戸田菜穂、関めぐみの女優陣が適材適所で配されているのも好ポイント。豊川悦司演じる兼見が藤沢作品の主人公にしてはかっこ良すぎるのが難点だが、そこは商業映画なので仕方ない。ただ、兼見が"鳥刺し"を使う相手は原作通りとはいえ、やはりひどく哀しみを覚える。いくら死を覚悟した剣の達人であっても、兼見は自分が属する藩の枠組みそのものからは最後まで解き放たれることができない。サラリーマンのやり場のない怒りと哀しみがラストに漂う。 (文=長野辰次) hissatsu03.jpg 『必死剣 鳥刺し』 原作/藤沢周平 脚本/伊藤秀裕、江良至 監督/平山秀幸 出演/豊川悦司、池脇千鶴、吉川晃司、戸田菜穂、村上淳、関めぐみ、小日向文世、岸部一徳  配給/東映 7月10日より丸の内TOEIほか全国公開中 <http://www.torisashi.com>
隠し剣孤影抄 人をアゴで使う側に、一度はなってみたいものです。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』

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初めての部屋を訪問する際には、必ず「入ってもいい?」と
尋ねる礼儀正しい吸血少女エリ。
「いいよ」と言われなかったエリは、血の涙を流すことに。
(c)EFTI_Hoyte van Hoytema
 スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』は、12歳の少年オスカーの初恋を描いた作品だ。学校でイジメに遭っているオスカーは気が優しくて、イジメっ子たちにやり返すことができずにいる。両親は離婚しており、母親は仕事で忙しい。父親は新しい恋人(男性)に夢中だ。オスカーにできることと言えば、日が沈んでからアパートの中庭の木にナイフを突き立てて、将来は立派な殺人鬼になれるようイメージトレーニングに励むことぐらいだった。そんな一人ぼっちのオスカーに初めて友達ができる。アパートの隣室に最近引っ越してきた美少女エリだ。コドクな者同士の魂が惹かれ合うような出会いだった。でも、エリはときどきひどく顔色が悪く、それに獣のような変な臭いがする。オスカーがキャンディをあげると、エリは吐き出してしまう。見た目はオスカーと同じ12歳の少女だが、実は200年前から生きながらえているヴァンパイアだったのだ。  ウルトラシリーズ屈指の名作『ウルトラセブン』ではアンヌ隊員(ひし美百合子)はモロボシ・ダン(森次晃嗣)が地球人ではないことに気づきながらも愛の告白をする。手塚治虫の短編コミック『るんは風の中』の主人公・アキラはポスターの中の少女・るんに夢中になる。人はときどきフツーではない、異形の相手に恋をしてしまう。恋に陥るという行為は誰にも止めることはできない。思春期の入り口に立つオスカーもまた、ミステリアスなエリにどんどん魅了されていく。隣室同士のオスカーとエリは、壁越しに覚えたてのモールス信号を送り合いながら、絆を深めていく。だが、オスカーの暮らす静かな町では次々と猟奇的な殺人事件が発生していた。やがて、オスカーはエリの正体を知ることになる。人間としてのモラルを守るのか、それとも初恋の成就を選ぶのか。オスカーの心は揺れ動く。  北欧ならではの静寂な森、真っ白な雪原に流れ落ちる鮮血。初恋の甘いセンチメンタルに混じって、静かな恐怖がじわじわと広がる。原作小説『モールス』(ハヤカワ文庫)を執筆したヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストは"スウェーデンのスティーヴン・キング"と呼ばれる新進作家だ。映画化にあたって、自ら脚本も担当している。トーマス・アルフレッドソン監督による映画版は、地元スウェーデンだけでなく、欧米各地の映画賞を受賞。今年10月には米国人キャストによるハリウッドリメイク版が全米公開されることが決まっている。  スウェーデンと言えば、生活水準が高く、社会保障が整っている平穏な国というのが一般的なイメージだろう。だが、それゆえに結婚・出産後に自立を求める女性も多く、離婚・別居してしまう夫婦が後を絶たない。オスカーのように母親と父親の間を定期的に行き来する子どもは珍しくない。原作小説ではオスカーだけでなく、イジメっ子のヨンニも片親であることが描かれている。ヨンニもまた家庭内にトラブルがあり、そのはけ口がオスカーに向かっているのだ。トーマス監督は言う、「確かに人々は、スウェーデンのことを"世界一モダンな国"と呼びます。でも、その副作用のひとつが片親の多さなのです」と。また、原作者ヨン・アイヴィデの出生地であり、映画のロケ地となっているのは、首都ストックホルムの郊外にあるブラッケベリという小さな町。トーマス監督によると、ブラッケベリという町は、第二次世界大戦後の豊かな時代に人工的に造られ、社会民主主義の理想を体現したニュータウンなのだそうだ。歴史のない新しく清潔な町で、次々と不可解な惨劇が起きるというのも本作の怖さだろう。
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学校で陰湿なイジメに遭っていたオスカーは、
エリという味方が見つかっただけで毎日が
ハッピーになる。
 キュートで獰猛なヴァンパイア・エリを演じたリーナ・レアンデションは07年2月の撮影時は役と同じ12歳だった。トーマス監督いわく、「動物に例えるなら、オオカミみたいな女の子を探した」そうだ。キャスティングは1年がかりで、エリ役オーディションはボーイッシュな少女だけでなく、ガーリッシュな少年にもあたっている。ちなみにリーナはスウェーデン人とイラン人とのハーフ。エキゾチックな雰囲気がエリ役にうまくハマっている。また、エリのために新鮮な"食料"を調達する中年男・ホーカン(ペール・ラグナル)が非常にいい味を出している。大人計画主宰者・松尾スズキは「じいさん萌え~。」を感じたほどらしい。ホーカンはヴァンパイアではなく、平凡な人間なのだが、秘めたる性癖のために彼もまたコドクを強いられている。ホーカンにとってエリは冷酷なヴァンパイアである前に、コドクを癒してくれる唯一の女神だったのだ。中年男ホーカンが12歳のオスカーに嫉妬し、エリに不器用な純愛を捧げるシーンは本作の大きな見どころとなっている。  エリは凶暴なヴァンパイアではあるが、礼儀正しい吸血少女でもある。初めて訪問した部屋に入る際には、必ず「入っていい?」と尋ねる。1897年にブラム・ストーカーが発表した怪奇小説『ドラキュラ』に登場するドラキュラ伯爵以来、由緒ある吸血鬼族のマナーなのだ。エリの正体を知ったオスカーは、エリの「入っていい?」という問いに対し、イジワルげに黙り込む。「入っていいよ」と言ってもらえないエリは、黒目がちな大きな瞳から赤い血の涙をドクドクと流す。目だけなく、全身から鮮血が逆流しだす。オスカーはようやく気づく。エリはオスカーの傷ついた心が呼び寄せた合わせ鏡的存在なのだと。エリは、誰にも理解されないもうひとりのオスカー自身なのだと。  本作の"白眉"とも言えるこのシーンだが、かなり難航した撮影だったらしい。良質のジュブナイル映画を志向するトーマス監督とホラー映画に造詣の深い原作者ヨン・アイヴィデとの間で、意見の食い違いがあったのだ。トーマス監督は「エリが血を流すなんて、やりすぎ、論外だと最初は思った。原作者のヨンに説得されて撮った」と話す。しかし、それはそれで面白い。エリという異形の恋人を自分は受け入れる度量があるのかどうか。YESとNOの答えがせめぎあうオスカー少年のざわめく心理が反映された微妙なシーンに結果的に仕上がったと言えるだろう。  ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』は、前世紀末の英国における移民の増加に対する社会不安が生み出したと言われている。第二次世界大戦直前の41年に製作された怪奇映画『狼男』は、ナチスドイツによるユダヤ人狩りが背景となっている。50~60年代に量産されたモンスター映画の多くは、核兵器に対する恐怖がモチーフとなっている。映画には往々にして、その時代の空気、社会情勢が反映される。スウェーデン映画『ぼくのエリ』にも、そういった社会背景があるのかと、トーマス監督に尋ねた。「その質問に対するボクの答えはNOだね。エリはオスカーの持っていないもの、怒りの象徴なんだよ」とトーマス監督は説明する。社会的存在というよりも、もっと個人的なメンタリティーから12歳の吸血鬼エリは生まれたとトーマス監督は考えている。なるほど、ならばスウェーデンに限らず、親の勝手な都合でコドクを強いられる少年少女は世界中に多い。吸血鬼エリは、これから世界各地に出没することになりそうだ。  コドクな人間の前に現れる美少女吸血鬼エリ。「入ってもいい?」というエリの問いかけに、あなたならどう答える? (文=長野辰次) elly03.jpg ●『ぼくのエリ 200歳の少女』 監督/トーマス・アルフレッドソン 原作・脚本/ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト 出演/カーレ・ヘーデブラント、リーナ・レアンデション、ペール・ラグナル 配給/ショウゲート 7月10日(土)より銀座テアトルシネマほか全国順次公開 <http://www.bokueli.com>
ロッタちゃん はじめてのおつかい ロッタちゃんだけじゃないのよ。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』

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1968年府中市で起きた"昭和最大のミステリー"三億円事件。
映画『ロストクライム 閃光』は犯人像、三億円の行方について具体的に迫る。
(c)2010「ロストクライム-閃光-」製作委員会
 伊藤俊也監督の『ロストクライム 閃光』は、1968年12月10日に起きた未解決事件"3億円事件"を題材にした迫真のサスペンスだ。3億円事件は白バイ警官に変装した犯人が現金輸送車にダイナマイトに見せかけた発煙筒を仕掛け、現金輸送車ごと持ち去るという大胆かつ鮮やかな手口で日本中を沸き返らせた。東京芝浦電機(現・東芝)の府中工場の従業員たちに手渡されるはずだった3億円は、現在の貨幣価値にすると30億円になるとも言われている。奪われた3億円は保険で補填されたため、従業員たちへのボーナスは翌日には届けられた。給料の銀行振込は3億円事件がきっかけで進んだとされている。また、現金を奪った際に誰も傷つけず、正確な被害額が2億9430万円だったことから"憎しみのない犯罪"と形容されてきた。だが、"憎しみのない犯罪"など存在するのだろうか。『女囚701号 さそり』(72)シリーズをはじめ、『犬神の悪霊』(77)、『誘拐報道』(82)、『プライド 運命の瞬間』(98)と体制側からの見解や社会の常識に対して常に反対の立場から映画を撮り続けてきた伊藤監督は、この"憎しみのない犯罪"に対して疑問を投げ掛けている。  3億円事件には被害者がいないと言われてきたが、これは大きな間違い。事件発生から1年後の69年12月に毎日新聞が「3億円事件に重要参考人」の勇み足スクープを報じ、この報道に釣られる形で警察は府中市在住の元運転手Kさんに対し、任意同行を求めた。このことから各マスコミは競って、Kさんを顔写真付きの実名で報道。事件の4日前に銀行に送られてきた脅迫状の切手に付着していた唾液の血液型とKさんの血液型が同じB型だったこと、運転に手慣れていたこと、タイプライターが使えたことなどの理由から疑われたが、翌日には事件当日のアリバイが証明され釈放された。しかし、その後もマスコミは3億円事件の特集を組む度にKさんをカメラで追い、コメントを求め続けた。このことからKさん一家は離散。Kさんは精神不安定となり、流浪の生活を送った。そして08年9月に放浪先の沖縄で自殺を遂げている。  「死は美しい」という言葉を残したのは、立川の不良少年グループのリーダー格だった19歳の少年Sだ。彼も3億円事件を語る上で欠かせない。父親が白バイ警官であり、事件現場から近い立川市周辺での車の窃盗歴があることから、事件直後から重要参考人として捜査線に浮かんでいた。しかし、事件から5日後に「死は美しい」という書き置きを残し、国立市の自宅で青酸カリにより服毒死している。自宅には少年Sの両親しかおらず、本当に自殺だったのかは闇に閉ざされたままだ。少年Sが死んだことで、警察側の士気は一気に下がったという。
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ベテランの片桐刑事(奥田瑛二)と新人の片桐
刑事(渡辺大)は、"三億円事件"に取り憑
かれたように真相を追っていく。
 警察側の捜査にも謎が多い。事件発生から4カ月後になって、手詰まり状態を打破するために"捜査の神様"と称された平塚八兵衛刑事を捜査に参加させる。平塚刑事は「吉展ちゃん誘拐事件」の真犯人を自白させた鬼刑事として知られ、警察側はメンツを守るために遅ればせながら切り札を投入した形だった。だが、平塚刑事は3億円事件=単独犯説に固執し、グループ犯行説の可能性を切り捨て、捜査の幅を狭めている。結局、捜査は迷走を続け、平塚刑事は75年3月に定年退職、同年12月に3億円事件は時効を迎えた。7年間に及ぶ捜査で容疑者リストは11万人に上り、捜査費用は被害金額の3倍となる9億円を要した。  原作小説『閃光』(角川書店)の中で、ジャーナリストでもある原作者・永瀬隼介氏は、3億円事件=グループ犯行説と仮定し、警察側には事件の真相を明かすことのできない特殊な事情があったのではないかと推定している。事件が起きた68年は10月に新宿騒乱事件が起きるなど、学生運動がもっとも熱く激しかった時代。運動に加わっていた当時の学生たちは、チェ・ゲバラがキューバ革命を成功させたように日本でも革命が起きると信じていた。対する警察は国家の治安を守ることが最大の任務。警察の威信を揺るがしかねない"3億円事件"の真相は、警察タブー(桜タブー)として秘密裡に封印されたのではないかというのが永瀬氏の推理だ。  映画『ロストクライム』では定年退職を間近に控えたベテラン刑事・滝口(奥田瑛二)は野心家の新人刑事・片桐(渡辺大)と組んで、すでに時効となっている3億円事件の真相に迫る。ある意味、伊藤監督による超シリアス版『時効警察』である。時効はとっくに過ぎたものの、3億円事件は否応なく事件に関わってしまった人たちの人生を大きく変えてしまったのだ。2人の刑事は3億円事件の真犯人を挙げることで己の虚栄心を満たそうという考えから、やがて3億円事件によって人生を台無しにされてしまった人々の無念、怨念を晴らすことに全力を注ぐことになる。だが、正義感に突き動かされた2人の行動は、身内であるはずの警察側の"組織防衛"という名の分厚い壁によってさえぎられてしまう。  当然だが、『ロストクライム』にはコメディドラマ『時効警察』のような明るいエンディングは待っていない。人々が抱き続けた無念、怨念、後悔の念は40年以上の歳月を経て、より深まり、ドロドロの底なし沼と化している。2人の刑事はミイラ取りがミイラになる覚悟で、底なし沼にズブズブと足を踏み入れる。この底なし沼は想像以上に深い。後戻りができなくなってしまった2人は、果たして底なし沼から無事に生還できるのだろうか。 (文=長野辰次) lostcrime03.jpg 『ロストクライム 閃光』 原作/永瀬隼介 監督/伊藤俊也 出演/渡辺大、奥田瑛二、川村ゆきえ 武田真治、かたせ梨乃、宅麻伸、原田芳雄、夏八木勲 配給/角川映画 7月3日(土)より角川シネマ新宿、有楽町スバル座ほか全国ロードショー <http://www.lostcrime.jp/>
閃光 真実は闇の中。 amazon_associate_logo.jpg
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女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』

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常識なんかブチ破れ! 退屈な日常に対し、反乱を起こした
革命児たちの熱血コメディ『ソフトボーイ』。佐賀県の公立高校を舞台にした実録ドラマだ。
(c)2010「ソフトボーイ」製作委員会
 どんな君でも、たちまち女の子にモテモテになる! うさん臭い通販グッズのキャッチコピーのようだが、男子なら気になってしまう文句だろう。映画『ソフトボーイ』は、そんな甘い言葉にまんまと釣られて集まった軟派な高校生たちの物語だ。舞台は佐賀県の小さな田舎町。佐賀出身のはなわが「SAGA」で歌ったように、若者が夢中になれるようなものはまるでない。だが、公立牛津高校に通う高校3年生のノグチくん(賀来賢人)は、重大なことに気づく。佐賀県には男子ソフトボール部が一校もない。ということは、今すぐ男子ソフトボール部を創部さえすれば、無条件で全国大会に出場できるではないか! 佐賀の何もなさを逆手にとったナイスなアイデアだ。田舎で退屈な日常を送っている高校生にとって全国大会出場は大ニュース。部員は否がおうにも女子にモテモテ(のはず)。ノグチくんはさっそく親友のオニツカくん(永山絢斗)を巻き込んで、男子部員を集め始める。まるで漫画のようなストーリーだが、牛津高校男子ソフトボール部創部の実話がベースとなっている。  楽して全国大会に出場しよう。そして女子にモテよう。動機は恐ろしく不純だ。それに仮にも全国大会。そう簡単に出場できるのか。そんな問題はさておき、ノグチくんは高校最後の夏を最大限に楽しもうと猛ダッシュ&猛チャージ。学校中の、まだ部活に入っていない男子生徒に声を掛けまくる。ノグチくんとオニツカくんが『七人の侍』(54)の島田勘兵衛と片山五郎兵衛に見えてくる。そうしてノグチくんの元に集まった七人の侍ならぬ、九人のソフト部員たちは、鼻つまみ者のヤンキー野郎、運動神経ゼロのメタボくん、女子マネージャー目当てのミスターガリ勉、まったく状況を理解できていない海外からの留学生......。こうしてソフトボール未経験者ばかりの即席凸凹チームが誕生する。ついでにノグチくんの幼なじみのクサナギ(波瑠)が女子マネージャーを務めることに。  部員たちは、ソフトボールはおろかスポーツもろくに経験していない。もちろん、女子にモテモテになりたいんだけど、何より、お祭り男のノグチくんに声を掛けられたのが単純にうれしかったのだ。教室と自宅を往復するだけの単調な生活を過ごしていた彼らにとって、自分を必要としてくれる人間が現れたのだ。ピッチャー、レフト、ライト、女子マネージャー、と誕生したばかりのまっさらなチームで各自に役割が与えられる。楽して人気者になろうという不純な動機から始まったチームだが、グラウンドに集まって体を動かして汗を流すうちに、次第に気持ちよくなってくる。ひと夏、みんなでお祭りに夢中になってもいいんじゃないかという気になってくる。
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ノグチくんに巻き込まれるようにして男子ソフト
部を創部することになったオニツカくん(永山
絢斗)と女子マネージャーのクサナギさん(波瑠)。
青春だなぁ。
 現代社会において、時代をクリエイトするヒーローは果たして存在するのだろうか。『アイアンマン』や『スパイダーマン』といったアメコミのヒーローは基本的にアメリカの国益にかかわる事件にしか出動しない。力道山や長嶋茂雄といった日本のヒーローはテレビというメディアが生み出した、高度経済成長期のヒーローだ。事なかれ主義が幅を利かせる現代において、新しいヒーローの出現をただじっと待つのはムダというもの。それよりはお祭り野郎を神輿に担いで、一緒にお祭りをやるほうが現実的だし、自分自身も楽しめるではないか。ノグチくんは九州に多い、お調子者のお祭り野郎気質。イチローや中田英寿のように運動神経に秀でたスーパースターではないが、家族や級友たちが気づかなかった各メンバーの隠れた長所を引っ張りだすスーパープロデューサーなのだ。後先考えない無責任さがノグチくんの欠点だが、それは言い換えれば人並みはずれた行動力でもある。  素人ばかりで全国大会に出場できるのか。出場できても、恥をかくだけじゃないのか。男子ソフト部に対する校内の目は冷たい。でも、頭であれこれ考えているだけじゃ、何も始まらない。人生はヴァーチャルゲームじゃないんだから。ノグチくんは言う、「やってみらんとわからんばい」。常識なんて誰が決めたんだ? やってみなくちゃ、わからない。わかならいからこそ、面白いんだよ。映画『ソフトボーイ』は、そんな極めてシンプルなメッセージで貫かれている。ノグチくんたち牛高ナインが周囲にバカにされればされるほど、彼らの輝きは増していく。前例がないなんて言葉は自分たちには関係ねぇ、常識なんてブタに食わせろっ。  本作でメガホンをとった豊島圭介監督は『怪談新耳袋 ノブヒロさん』(06)などホラー系の作品で知られる存在。さわやかなスポーツものを描くのも初なら、全国公開のメジャー作品を撮るのも初。でも、ノグチくんの「やってみらんとわからんばい」を監督自身が体現してみせた。ホラー系作品で怪事件に巻き込まれた人々の心理を描いてきた演出力を生かして、田舎の高校生たちの心の揺れ動きやおバカなことに熱くなる楽しさといったポイントを押さえて、軽快なテンポの青春コメディ映画に仕立てることに成功している。豊島監督もそのことは実感できたらしく、「笑って、グッと来て、ちょっと泣ける、という王道のような作品を(たぶん)作れたことに自分でもびっくりしてます」とコメントしている。  さて、部員が9人集まれば、すぐに全国大会に出場できるのかといえば、そー甘くはなかった。出場の手続きをしようとしたところ、出場校の少ない県は他県との代表決定戦をクリアしなければいけないことが発覚する。がーん。当然だが、対戦校は付け焼き刃の牛高よりもずっと長い間、真面目に練習に取り組んでいる。でも、ノグチくんは動じない。「やってみらんとわからんばい」。校外へ飛び出した牛高ナインはビギナーズラックに恵まれる一方で、それ以上の試練にも遭遇する。いつもは強気のノグチくんも、たまに心が折れそうになる。有明湾に沈む夕日を見て、ひとりで泣きたくなることもある。でも、もうその頃には牛高ナインはノグチくんにすっかり感化されており、ノグチくんにこう言うのだった。「やってみらんとわからんばい」。  大ヒット作『ROOKIES 卒業』(09)のような大勝利がラストに待っているわけではない。牛高ナインは実戦で大恥をかくはめになる。しかし、その大恥も「やってみなくちゃわからない」貴重な体験なのだ。ノグチくんに騙されるようにしてソフトボールを始めたナインは、ノグチくんとひと夏、共に汗を流したことでその後の人生が大きく変わっていく。お祭りの陶酔感をもう一度味わおうと夢を追いかけ続ける者もいれば、平穏な日常に戻ってしっかり根を張って生きることを選択する者もいる。では、彼らはノグチくんが言ったように「女子にモテモテ」になったのか? 本作はその疑問に対する答えをちゃんと用意している。少なくとも彼らは「モテモテ」になるのと同じくらい大事なことを、あの夏から学んだ。現実はヴァーチャルゲームよりも、ずっと面白いんだということを。 (文=長野辰次) softboy03.jpg ●『ソフトボーイ』 監督/豊島圭介 脚本/林民夫 主題歌/倉木麻衣 出演/永山絢斗、賀来賢人、波瑠、大倉孝二、加治将樹、中村織央、斎藤嘉樹、西洋亮、加藤諒、松島庄汰、タイラー、平山真有、鎌田奈津美、いしのようこ、広澤草、白石みき、綾田俊樹、堀部圭亮、上野由岐子、はなわ、山口紗弥加 6月19日(土)より全国ロードショー (c)2010「ソフトボーイ」製作委員会 http://www.softboy.jp
紺野さんと遊ぼう ウフフの巻 知る人ぞ知るこのシリーズも豊島作品。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』

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北野武監督にとっては『座頭市』(03)以来となるバイオレンス映画『アウトレイジ』。
暴力シーンのアイデアを箇条書きにして、そこにキャストを当てはめていくことで
ストーリーを考えたと話す。(c)2010『アウトレイジ』製作委員会
 バイオレンスシーンのオンパレードなことから、カンヌ映画祭では賛否を呼んだ北野武監督の『アウトレイジ』。極悪非道(アウトレイジ)なヤクザたちのサバイバルものだが、北野監督特有の乾いた演出のため、言われているほど残酷さは感じさせない。ヤクザも警察もワルばっかりだが、ワル=人間としての本能や欲望に忠実な生き物として描かれている。ヤクザ映画というよりは、むしろ資本主義経済の完成型である現代社会を風刺した、たけし流企業ドラマと言えるだろう。仁義や兄弟の絆を尊ぶ昔気質のヤクザは小ずるいヤクザに利用され、さらに小ずるいヤクザが肥え始めたところで、一見ヤクザに見えないビジネスヤクザが美味しくいただく。地域に密着した個人経営の商店がいくら頑張っても巨大チェーン店に飲み込まれてしまうように、人間社会における"食物連鎖"の図式が畳み掛けるような怒濤の展開で描かれていく。  本作でまず食い物にされるのは、お人好しな村瀬(石橋蓮司)率いる村瀬組の面々。関内会長(北村総一朗)が君臨する大手グループ・山王会の傘下に入れてもらおうと、村瀬は兄弟の杯を交わした池元(國村隼)にせっせと覚醒剤の売上げを貢いでいる。しかし、池元はその金を山王会に上納せず、私腹を肥やしていた。そんな折、池元が村瀬と内密でつるんでいることが関内に怪しまれ、池元組は建前として村瀬組とケンカすることに。しかし村瀬に金をもらっている手前、池元は自分からは手が出せない。そこでいつも面倒な仕事を押し付けている大友(ビートたけし)率いる大友組に「ちょっと村瀬組を締めてくれ」と頼む。だが、血の気の多い大友の仕掛けるケンカが「ちょっと」で済むはずがない。こうして硝煙と暴力で血塗られた北野オペラが幕を開ける。  1992年に暴対法が施行され、ヤクザ社会は大きく変わった。昔ながらの絵に描いたようなヤクザは姿を消し、表向きは会社や飲食店など経営に鞍替えした組織が多いと言われている。ヤクザたちも食べていくために懸命だ。ふだんは"いい人"役が多い加瀬亮が本作ではキレると怖いインテリヤクザ・石原に扮している。石原はヤクザらしからず、外国語に堪能で、ソロバン勘定も得意。世界地図のどこにあるのかよく分からない小国を買収し、治外法権である大使館内でのカジノ運営を始める。闇カジノなので税金を納める必要もなく、これが大当たり。ヤクザ社会も腕っぷしや度胸でなく、ビジネスセンスに優れた人間が重宝される。いくら結束力の強さを誇る武闘派ヤクザたちも、現代社会で生きる限り、お金の力には勝てない。『仁義なき戦い』(73)の時代はもう遥か昔。仁義や男気はおろか、ヤクザたちの命懸けの抗争さえも、巨大な経済戦争の前では、あまりにもちっぽけなものでしかない。
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大友(ビートたけし)率いる大友組の金庫番・
石原(加瀬亮)は、何を考えているか分からない
不気味なインテリヤクザだ。
 カンヌ映画祭を控えた北野監督にインタビューする機会に恵まれた。北野監督自身の心象風景を描いた『TAKESHIS'』(05)、『監督・ばんざい!』(07)、『アキレスと亀』(08)の"内面三部作"に対し、今回は「エンタテイメントに徹した」という北野監督。三部作のような難解なイメージを持たれると観客動員が鈍るので、ヒット作『座頭市』(03)と同じくエンタテイメント作であることを強調しているのだろう。その一方、現代社会の風刺劇であることは認めている。二枚舌が得意な自民党や民主党の先生たちが保身に駆け回る政界劇のメタファーとして観ることもできるし、一般の観客なら、自分のいる職場や学校での派閥争いと重ね合わせながら観ることができる群像劇だそうだ。  北野監督は昔気質のヤクザ・大友組長を演じている。東京のいちばん端っこの下町で生まれ育った少年時代の北野監督にとって、古き良き時代のいなせなヤクザは憧れの対象だった。北野監督が育った町内は職人が多く、北野監督のように高校・大学へと進学する人間は珍しかった。進学できず、職人にもなれなかった落ちこぼれは、ヤクザになるしかなかったと話す。 「オレが生まれたのは、東京の片隅だからね。笑っちゃうよ。昔はさ、タクシーで行こうとしても、タクシーは行ってくんなかったよ。うちの近所はビンボー人ばっかりだったから(笑)。職人ばっかりの町で、ヤクザになるヤツも多かった。近所に小さな組があって、ヤクザのお兄さんに子どもの頃は憧れたよ。『煙草なんか吸ってんじゃねぇ。オレみたいになるぞ』とか言われたり、お小遣いもらったりしてさ。あの頃は『かっこいいなぁ』と思ったよ。オレが子どもの頃は町のみんながビンボーで、ヤクザになるのは特別なことじゃなかったんだよ」  94年のバイク事故からの復帰作『キッズ・リターン』(96)では高校から落ちこぼれた若者たちの姿を哀歓を込めて描いている。ある者はプロボクサーを目指し、ある者はヤクザの世界に足を踏み入れ、ある者は妻子を養うために不眠不休でタクシーを運転し、またある者は売れるかどうか分からないお笑いの世界へ飛び込む。無知=純真な若者たちは社会の荒波に簡単に飲み込まれていく。学校だけでなく、社会からも落ちこぼれていく。ビンボーながらもご近所同士で助け合って暮らしていた昔の下町で育った北野少年の目には、下町の外には荒涼とした別世界が広がって映っている。狭い下町を出ていくなら、その世界で生きていくしかない。そんな冷たい世界には"キタノ・ブルー"と呼ばれる醒めた青色がよく似合う。  また、北野作品には少年のような大人が度々登場する。北野監督自身が演じる大友が歯医者やサウナ風呂で大暴れするシーンは、冷血なヤクザの組長というよりも手のつけられないガキ大将のようだ。タチの悪い暴力大将かと思えば、自分よりも先に若頭の水野(椎名桔平)を逃がそうとし、刑務所の中では囚人たちが戯れる草野球をつい観戦してしまう。また大友率いる大友組の子分たちも、他の社会で受け入れられなかった個性的な面々が集まっている。今回は出演していない「たけし軍団」のようでもある。  北野監督はバイオレンス映画の他にも恋愛映画や将来的にはコメディ映画を撮ることを考えているそうだ。しかし、ベッドシーンなどの演出は恥ずかしくてやりづらいらしい。コメディも「これが北野印のお笑い映画だ」と言い切るのが照れくさくて、どうしても『みんな~やってるか!』(95)みたいに逃げた形になってしまうという。「もう少し年をくってボケてくれば、平気で恋愛ものやコメディも撮れるんじゃないかな」と苦笑いしてみせた。  "世界のキタノ"と称される北野武監督の頭の中には、もうひとりの北野武が存在する。もうひとりの北野武は、大のイタズラ好きで、そのくせシャイで、女性の前に立つと顔が赤くなる少年のようなキャラクターだ。北野作品には所々に北野少年の目線が感じられる。どんなに悲惨な暴力シーンを描いていても、北野作品がいとおしく感じられる瞬間だ。 (文=長野辰次) auto03.jpg ●『アウトレイジ』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 出演/ビートたけし、椎名桔平、加瀬亮、三浦友和、國村隼、杉本哲太、塚本高史、中野英雄、石橋蓮司、小日向文世、北村総一朗 配給/ワーナー・ブラザーズ映画/オフィス北野 6月12日(土)より丸の内ルーブルほか全国ロードショー <http://office-kitano.co.jp/outrage> ※6月11日(金)夜8時30分より、南青山・レッドシューズにてプレミアイベント「アウトレイジ★ナイト」を開催。
新 仁義なき戦い BOX 古きよき時代のヤクザ? amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

“リアルと虚構の狭間”を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』

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"誰も見たことのないアントニオ猪木がここにいる"という
宣伝文が躍る猪木初主演作『ACACIA アカシア』。
猪木いわく「これが最初で最後の主演映画」とのことだ。
(c)『ACACIA』製作委員会
 アントニオ猪木が希代のエンタテイナーであることは誰もが認めるところだろう。プロレスというマッスルショーを繰り広げる一方で、モハメド・アリとの世紀のセメントマッチ、ジャイアント馬場との確執、プロレスラー初となる国会議員当選とその後のスキャンダル......等など、脚本家には思い付けない破天荒な現実のドラマを次々と提供してきた。現実の中に適量のフェイク(演出)を仕込むことで、マスコミを煽り、ファンを陶酔させてきた。リアルとファンタジーを隔てる壁の上を絶妙のバランス感覚で突っ走ってきた、いわば"フェイクドキュメンタリーの天才"である。  アントニオ猪木はリングの上で覆面を被ることはなかった。すでに猪木寛至が"アントニオ猪木"というキャラクターを演じているからだ。長年、糖尿病に悩まされてきた猪木だが、ファンの前では「元気ですかーっ。元気があれば何でもできる」と決めゼリフを吐き続けた。自分はヤバいくらい血糖値が上がっているにも関わらず。リングを降りても、ファンの目がある限り、アントニオ猪木はリアルとフィクションのギリギリの狭間を生きてきた。引退してからすでに12年が経つが、猪木のようにファンの幻想を掻き立ててくれるプロレスラーはもういない。  「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」という名言を現役時代に残した猪木だが、意外なジャンルから挑戦状が送りつけられた。挑戦状の送り主は、作家兼ミュージシャンである辻仁成。ホテルでばったり出くわした猪木に、「ボクの映画に出演してください」と直談判してきたのだ。そのときの辻仁成の表情がマジだったらしく、猪木は「やってやろうじゃねぇの。男に二言はない」と承諾。そうして生まれたのが、辻仁成原作・脚本・監督、アントニオ猪木初主演映画『ACACIA アカシア』というわけだ。  アントニオ猪木が演じる主人公は、元プロレスラーの大魔神。かつては悪役覆面レスラーとして暴れ回ったが、巡業中にひとり息子を亡くし、妻(石田えり)とも離別。今は高齢者たちが暮らす集合住宅で用心棒を兼ねてひっそりと暮らしている。そんな折、大魔神は近所に住むいじめられっ子のタクロウになつかれ、子育てを放棄した母親(坂井真紀)に代わって、タクロウをしばらく預かることに。年老いた元プロレスラーとコドクな少年とのひと夏の友情が育まれていく。絵に描いたような映画的ストーリーが、演技未経験の猪木を中心に進んでいく。  ドラマよりも過激な人生を歩んできたアントニオ猪木が、辻仁成監督が用意した虚構世界に降りていって、はたして面白いものになるのか。正直いって、それは無理というもの。しかし、ストーリーとは関係ないシーンで、俳優には出せない猪木ならではの魅力がこぼれ落ちていく。眼鏡を掛けた大魔神が縫い物などの家事に勤しむ様子は、ファンの前で過激なエンタテイナーを演じてきたアントニオ猪木とは異なる静謐な佇まいだ。タクロウを連れて山に登り、黙って空を眺める。詩集『馬鹿になれ』( 角川書店)を上梓した詩人らしいロマンチストの横顔を感じさせる。リングに立てなくなった老レスラーの哀愁はそこにはなく、むしろひとり暮らしを伸び伸びと楽しんでいる快活さが感じられる。
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港に取り残された古いフェリーも猪木マジックに
かかれば、ブラジルへ渡航中の豪華客船にたちま
ち変身するのだった。
 新橋のイノキ・ゲノム・フェデレーションでアントニオ猪木を囲む機会があった。当日集まった記者は情報誌や女性誌が中心だったこともあり、「まだ完成した映画は観てないんだ。演技論とか難しい質問は勘弁してくれよ」と言いつつ、猪木はリラックスした表情で語り倒した。「プロレスと芝居は似てますか?」という非常に率直な質問を女性記者が投げ掛けたところ、猪木もストレートに返答した。「それは似てると思いますよ。やっぱりね、一流レスラーはお客の心をつかむのがうまい。ボクシングはセコンドがアドバイスしてくれるけど、プロレスラーはひとり一人がプロデューサーなんです。プロレスラーは頭が良くないとトップに立てません」  さらに猪木は「みんな、もっとバカになれ」と持論を広げる。「人間、もっと恥をかかないとダメ。恥を恐れていては人前で演技もできないしね。バカになれ、とことんバカになって、恥をかけということ。自分を裸にしてしまえば、もう怖いものはないよ。今は情報社会ということで、行動を起こす前から結果が見えてしまっている。でも、やってみなくちゃ分からない。バカなことを自分から進んでやる。そうじゃないと、人に夢を与えることはできないよ」  筋肉バカではダメだと言う一方で、「もっとバカになれ」と説く猪木。物すごく矛盾した論説だ。しかし、猪木からしてみれば、実人生を生き抜くということは、"矛盾"という名のとぐろを巻いた大蛇を相手にダンスを踊るようなものなのだろう。人間としての器が大きければ大きいほど、より巨大な"矛盾"と組み合うことができる。そういえば、アントニオ猪木の全盛期の必殺技は「コブラツイスト」だった。  アントニオ猪木は、壮大な宝探しの計画についても語った。キューバのフィデル・カストロ氏からプレゼントされた"友人猪木島"の周辺には75隻もの船が沈んでおり、猪木島には沈没船が積んでいたインカの財宝が隠されているとのこと。徳川埋蔵金を遥かに上回る埋蔵額で、今の不景気が吹っ飛ぶくらいらしい。夢を語るときのアントニオ猪木はまるで少年のようだ。しかも、猪木の語る夢に耳を傾けている人たちまで少年少女にしてしまう魔力を秘めている。猪木マジックにかかって、痛い目に遭った人もずいぶん多いに違いない。  映画『アカシア』のクライマックス、猪木=大魔神はさめざめと泣く。実人生で猪木は最初の結婚で生まれた長女を8歳のときに病気で失っている。また、猪木の父親代わりだった祖父はブラジル行きの移民船内で猪木少年が買ってきた青いバナナを食べて腸閉塞を起こし、カリブ海で水葬されている。プロレスの世界で師匠だった力道山は、ナイトクラブでヤクザに刺され、天国に旅立った。猪木と激闘を繰り広げてきたプロレスラーたちの多くも、今はもうこの世にいない。猪木はスクリーンの中で、おいおいと泣く。しかし、それは老人が自分の人生を悔いてむせび泣く姿ではなく、夏の終わりに少年が大切なものを失ってしまったことに気づき泣きじゃくっているかのようだ。映画の中で猪木が号泣する姿は、フェイクだろうか、それともリアルだろうか。 (文=長野辰次) akasia03.jpg ●『ACACIA アカシア』 原作・脚本・監督/辻仁成 出演/アントニオ猪木、石田えり、林凌雅、北村一輝、坂井真紀、川津祐介 配給/ビターズ・エンド 6月12日(土)より角川シネマ新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー <http://www.acacia-movie.com>
アントニオ猪木名勝負十番 ♪イノキ、ボンバイエ~ amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』

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暴力がもたらす後味の悪さを井筒和幸監督がこってりと描いた『ヒーローショー』。
生々しいリンチシーンが続くため、R15指定となっている。
(c)2010「ヒーローショー」製作委員会
 すっぽりと顔を覆うマスクを被ってステージへ駆け上がると、「わぁ!」と子どもたちの歓声が沸く。悪役に向かってパンチを突き出すと、悪役はいとも簡単に吹き飛んでいく。子どもたちの歓声はさらに高まる。テレビ番組のキャラクターに扮した自分の一挙手一投足に、子どもたちはすっかり夢中だ。心地よいアドレナリンと汗が全身に流れる。しかし、ショーが終わり、ステージ裏でマスクを脱ぐと、そこは現実の世界。食費や家賃の心配をしなくてはならない。誰しも子どもの頃は、正義の味方、ヒーローになることに憧れた。でも、世の中は"善と悪"の二元論で語られるようなシンプルなものではないことは、さすがにもう分かっている。サンタクロースがクリスマスケーキの販促係であるように、ヒーローは正義の味方ではなく、おもちゃ会社の味方なのだ。やり場のない苛立ちを抱えた若者たちが刹那的な刺激を求めて暴力にのめり込む。井筒和幸監督の最新作『ヒーローショー』は、特撮ヒーローのアトラクションに出演するアルバイトスタッフの間で起きたトラブルが取り返しのつかない殺人事件へと発展していく異色問題作だ。  『パッチギ!』(04)、『パッチギ! LOVE&PEACE』(07)でキャリアのピークを極めた感のある井筒監督。『ガキ帝国』(81)で島田紳助・松本竜助、『岸和田少年愚連隊』(96)でナインティナインを主役に起用し、『パッチギ!』の沢尻エリカ、高岡蒼甫も売れっ子になった。まだ色の付いていない新人俳優を徹底的にシゴくことでリアルな青春映画を撮り上げることに定評がある。今回、製作を請け負った吉本興業の中から井筒監督が主役に抜擢したのは、『爆笑レッドシアター』(フジテレビ系)などに出演し、次世代芸人として期待されているジャルジャルの後藤淳平と福徳秀介。2カ月間にわたる合宿でリハーサルを重ね、初主演作に挑んでいる。  お笑い養成学校に通うユウキ(福徳秀介)を中心に物語は進む。ユウキはフジヤマボーイというお笑いコンビを組んでいたが、相方は早々にお笑いの世界を諦めてしまった。新しい相方と組んでネタ発表のステージに上がるが、今度は自分が台詞を飛ばしてしまうなど、どうも冴えない。そんなとき、元相方の剛志から新しいアルバイトに誘われる。ヒーローショーの悪役、ヒーローの引き立て役だ。ところがステージ上でヒーロー役のノボルと怪人役の剛志がガチンコでケンカを始めた。ノボルが剛志の彼女を寝取ってしまったことが原因だ。気の収まらない剛志は刺青を入れた悪友に頼んでノボルたちを締めてもらうことに。ノボルたちも勝浦在住の元自衛官の勇気(後藤淳平)に応援を依頼。夜の勝浦を舞台に、両者間の暴力の応酬は次第にエスカレートし、ついに犠牲者が......。
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殺人事件がきっかけで出会ってしまう、
元自衛官の勇気(後藤淳平:写真左)と
気弱な芸人志望のユウキ(福徳秀介)。
 『ガキ帝国』『岸和田少年愚連隊』『パッチギ!』でもド派手なケンカシーンが登場するが、閉鎖的状況を打破しようともがく若者たちのエネルギーが外側に向かってバクハツする様として肯定的に描かれていた。それに対し、今回の夜の勝浦で繰り広げられる暴力ショーはあまりに短絡的で陰惨。集団で暴行を重ねるうちに引っ込みがつかなくなり、誰も「やめよう」と言い出せないままに最後の一線を越えてしまう。救急車を呼んで警察沙汰になることを恐れ、暴力ショーの犠牲者を山に埋めてしまう。元相方の剛志に言われるままに付いてきたユウキは、その惨劇をただ呆然と見つめる。観客もその場に居合わせて傍観しているかのような、イヤ~な気分に陥る。暴力や殺人をドラマを盛り上げるためのカタルシスとして描くことを嫌う井筒監督らしい、徹底した演出だ。  人間の死や暴力を美化した戦争映画、バイオレンス映画を井筒監督は忌み嫌う。それも当然だろう。1991年、製作費10億円を投じた大作時代劇『東方見聞録』の撮影中、若手俳優がオープンセットの滝壺で溺死するという事故が起き、井筒監督は業務上過失致死罪で書類送検されている。『東方見聞録』は劇場公開されることなく、ひっそりとビデオリリースされるにとどまった。製作会社のディレクターズカンパニーは翌年倒産。そのため遺族への補償金8,000万円を井筒監督は個人で払い続けている。少しでもお金を稼ぐために1曲5万円のカラオケビデオの仕事も引き受けていた。テレビ番組で毒舌を吐いている姿を「映画も撮らずに、タレント業に精を出している」と中傷されたが、世間からどう思われるかよりも遺族へ補償金を支払い続けることのほうが大事だった。崔洋一監督に声を掛けられ、『マークスの山』(95)の死体役も引き受けている。このときの井筒監督の死体ぶりは秀逸だ。人間の命の重さを背負って生きている監督なのだ。  それにしても井筒監督は、さすらいの人生を送っている。自主製作でピンク映画を撮ることでキャリアを積み、角川春樹プロデューサーが君臨していた角川映画で『二代目はクリスチャン』(85)を撮り、ディレクターズカンパニー時代には『犬死にせしもの』(86)を残すが、"映画監督の理想郷"ディレカンはバブルの崩壊と共に倒産。ようやくシネカノンで『のど自慢』(98)、『パッチギ!』といったキャリアにふさわしい作品をものにするも、シネカノンも安住の地とはならなかった。  「マンスリーよしもと」(ヨシモトブックス)10年6月号に掲載された井筒監督のコメントが興味深い。 「若い者というのは時代が変われど何も変わってないと思います。ただ、どんどん動いていく時代の流れに対応できず、ハジかれ、歪められていく子たちがいるだけで、そして今の社会や政治は、そんな風にして仮想の世界にしか拠り所を持てない連中を、ちゃんと見つめていない。(中略)ユウキの芸人志望という設定も、別に福徳を意識したもんじゃなくて最初からです。お笑いの養成所がさっき言った"拠り所のない奴ら"のための受け皿のひとつと僕は見えた」  さすらいの映画監督が寄るべなき若者たちに向けて撮った『ヒーローショー』。残酷な殺人ショーの後も、物語は起承転結の枠組を踏み外し、ぬかるみを歩くように続いていく。後半は勇気とユウキとの奇妙なロードムービーへと転調する。気弱なユウキは、自衛隊仕込みの勇気の暴力に怯え、逃げ出したくても足が動かない従属関係に陥る。村上龍のサイコサスペンス『イン ザ・ミソスープ』を連想させる展開だ。今までだらしなく生きてきたから、自分は殺されてしまうに違いないという恐怖にユウキは支配されてしまう。ユウキの叫び声がスクリーンに響き渡る。「オレには敗者復活戦、ねぇのかよ? もう一度、生き直させてくれよ!」  ユウキの発するSOSを聞きつけて現れる正義の味方はどこにもいない。ヒーローもいなければ、神さまもいない。じゃあどうすればいいのか。どんなに過酷な状況でも、目の前の現実に向き合って自分で対処するしか方法ない。自分で道を選び、とにかく一歩一歩前に進むという気が遠くなる作業だ。その上、自分の選んだ道に出口があるのかどうかも分からない。しかし、ユウキの前には、張りぼてのヒーローショーのステージとは違ったリアルな世界が広がっていた。これまで他人任せにして生きてきたユウキにとって、それはとても新鮮な光景だった。 (文=長野辰次) hiro03.jpg『ヒーローショー』 監督/井筒和幸 脚本/吉田康弘、羽原大介、井筒和幸 出演/後藤淳平、福徳秀介、ちすん、米原幸佑、桜木涼介、林剛史、阿部亮平、石井あみ、永田彬、結城しのぶ、大森博史、筒井真理子、木下ほうか、升毅、光石研 配給/角川映画 5月29日(土)よりロードショー R15+ <http://hero-show.jp/>
パッチギ! エリカ~!!! amazon_associate_logo.jpg
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