元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』

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『おはスタ』出身の人気チャイドルとして活躍した安藤聖が大学、
社会人を経験後に初主演した『バカがウラヤマシイ』。かわいい顔して
「バカは選択肢がないから、悩まなくていい」なんて過激発言が飛び出す。
 アントニオ猪木の名言に「バカになれ」があるが、"燃える闘魂"猪木にケンカを売るようなタイトルではないか。10月9日(土)より公開される映画『バカがウラヤマシイ』。キビシイ氷河期が続く"就活"をテーマに、20代のスタッフ&キャストが生み出した新鮮味に溢れるコメディだ。ヒロインは、ベッキー、蒼井優、平井理央アナといった人気者を次々と輩出した『おはスタ』(テレビ東京系)の元"おはガール"安藤聖。一時期は芸能界を離れ、フツーに大学生、社会人として生活を送っていた安藤だが、女優への道が断ちがたく、小劇場などで地道にキャリアを積み、カムバックした。  『バカがウラヤマシイ』のヒロイン・希(安藤聖)は、美人で頭の回転も良く、何でもそつなくできてしまう。学生時代はずっと成績優秀で通してきた希は就職活動も余裕で楽勝とタカをくくっていたのだが、現実社会の厳しさは学校内で常にトップだった彼女の想像を上回るものだった。人気企業、有名企業はことごとく不採用となる。面接会場ではうまく場の空気を読んで、面接官に対して100%の模範解答をしているのに。なんで? どーして? 生まれて初めて人生でつまずいた希は、自分の全人生、全人格を否定されたような失意に打ちのめされる。  結局、希は誰も知らない地味~な会社に腰掛け入社し、再就職できるチャンスを待つことに。なんで私がこんな地味な会社に? 憤懣やるせない希は、街で「そこの輝いている彼女、芸能界に興味ない?」とスカウトマンに声を掛けられる。やっぱり、見る目がある人には私の良さが分かるのよ~♪ 思わず、芸能プロダクションへの登録料としてなけなしの有り金を振り込んでしまう。当然ながら、その芸能プロダクションは存在しません。まさか自分がブーム遅れの振込め詐欺に遭うとは......。泣きっ面にハチ。弱り目に祟り目。13日の金曜日は仏滅だった。エイリアンに寄生されたジェイソンに襲われたようなダブルショック! 就職活動に失敗して以来、どんどんドツボへと堕ちていく希。  不幸のスパイラルに陥った希は、地味な会社の中でもさらに地味な資料室で社史の編纂をしている先輩社員の曽根さん(古舘寛治)に出会う。開口いちばんの台詞が「仁丹、食べる?」。年頃の女の子は仁丹なんか食べません。見るからにうさん臭い曽根さんだが、「週末だけでも、アルバイトやんない?」と希に声を掛けてくる。ヤバい匂いがぷんぷんするけど、金欠状態の希は背に腹は換えられない。希が曽根さんのアパートを訪ねると、そこには"花おじさん"なる看板が掲げてあった。曽根さんが代表を務める怪しげなこの会社、友達や親戚が少ない訳ありな新郎or新婦のためにニセの友人として結婚披露宴に出席したり、お見合いパーティーの賑やかしとして宴会を盛り上げるのが仕事。よーするに"サクラ"の派遣事業ですな。  ギャラはけっこーいいのだが、まぁ曽根さんをはじめとする"花おじさん"のメンバーたちの仕事に対する取り組みのアバウトなこと。失敗してもヘラヘラと笑っている曽根さんたちに希は腹を立てるが、派遣先ではお得意のそつのなさを生かして、サクラ役をかいがいしく演じる。人にはおおっぴらに言えない秘密のアルバイトだけど、自分の能力を生かせる場所を見つけ、希はちょっぴりうれしい。失敗しながらも懲りずに仕事を楽しんでいる"花おじさん"のメンバーの影響を、希は少しずつ受けていくようになる。
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新入社員の希(安藤聖)は先輩社員の曽根
(古舘寛治)から「仁丹、食べる?」と声
を掛けられる。コメディ映画の新鋭・沖田修一
監督の『このすばらしきせかい』(06)、
『南極料理人』(09)で味のある演技を
見せていた古舘が本作でも好演。
 本作の脚本&監督は、専門学校「東京ビジュアルアーツ」映画学科の学生・鋤崎智哉くん、24歳。スタッフも同校に籍を置く学生たち。下北沢の短編映画館トリウッドと東京ビジュアルアーツが協力して立ち上げた「トリウッドスタジオプロジェクトの」シリーズ第5弾として製作されたもので、鋤崎監督の実体験をベースにしている。明治大学という有名大学に入学し、ずっと苦労知らずで生きてきた鋤崎監督は友人と真顔で「バカがウラヤマシイよ」とこぼしていたそうだ。ところが映画の希同様に就職活動は思うようにいかず、自分が本当にやりたいこと、本気になれることは何かを突き詰めて考えた結果、明治大学卒業後に東京ビジュアルアーツに再入学し、映像製作の道を志すことになった。『バカがウラヤマシイ』は鋤崎監督のちょっとばかり早すぎる、そしてかなり恥ずかしい自伝的ストーリーなのだ。  ヒロイン・希に選ばれた安藤聖の半生も映画には投影されている。8歳のときにミュージカル『アニー』で舞台デビューし、"おはガール"として人気者だった安藤は、その後も『ひとりでできるもん!』(NHK教育)や昼ドラなどに出演。しかし、次第にテレビの仕事からフェードアウト。大学進学後は芸能界から離れ、フツーにイベント制作会社に就職していた。08年2月の「EX大衆」をめくると、チャイドルのその後を追った特集で安藤は社会人時代について語っている。「正直、かなり仕事のデキる子だったんですよ(笑)。でも裏方をやってると、『何で私が前に出てないんだろう?』とか『絶対、私のほうが司会がうまい』って思っちゃうんです。それまで漠然とした想いがハッキリしたものになって、会社をやめて本格的に女優をやろうと決心したんです」。退職後の彼女は、劇団ポツドールなどの舞台を中心に女優業を再開している。結局、いくら才能があってもルックスに恵まれていても、本人が本気モードになってない限り、何も始まらないし、人の心は動かないということですな。  ちなみに『バカがウラヤマシイ』を上映する下北沢のトリウッドは、古着屋の2階にある座席数47席という本当に小さなミニミニシアター。シネコンに行き慣れている人はびっくりするくらい、こじんまりした空間だ。本作のエグゼクティブ・プロデューサーでもある大槻貴宏支配人は、4,000万円の借金を背負って99年にゼロからこの映画館を造っている。開館10周年を迎えた09年、無事に借金を返済。その間、『純喫茶磯辺』(08)、『さんかく』(10)の吉田恵輔監督、『白夜行』など話題作の公開を控える深川栄洋監督、『ほしのこえ』(02)、『雲のむこう、約束の場所』(04)の新海誠監督といった人気監督を世に送り出してきた。個人経営で映画館を運営するなんてかなり大変なはずだが、大槻支配人は鼻歌でも歌っているかのように、いつもヘラヘラ顔で笑っている。『バカがウラヤマシイ』に出てくる"花おじさん"に雰囲気がちょっぴり似ている。効率至上主義のシネコンとは異なる、小さな小さな映画館があることを知っているだけでも、公園の片隅で四葉のクローバーを見つけたような幸せを感じさせるのだ。 (文=長野辰次) baka03.jpg 『バカがウラヤマシイ』 監督・脚本/鋤崎智哉 出演/安藤聖、古舘寛治、山本剛史、鈴真紀史、播田美保 製作・配給/トリウッドスタジオプロジェクト(東京ビジュアルアーツ、トリウッド) 10月9日(土)より下北沢トリウッドにてロードショー公開 <http://ameblo.jp/baka-ura>
くたばれ!就職氷河期 自分が悪いのか、社会が悪いのか。 amazon_associate_logo.jpg
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元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』

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『おはスタ』出身の人気チャイドルとして活躍した安藤聖が大学、
社会人を経験後に初主演した『バカがウラヤマシイ』。かわいい顔して
「バカは選択肢がないから、悩まなくていい」なんて過激発言が飛び出す。
 アントニオ猪木の名言に「バカになれ」があるが、"燃える闘魂"猪木にケンカを売るようなタイトルではないか。10月9日(土)より公開される映画『バカがウラヤマシイ』。キビシイ氷河期が続く"就活"をテーマに、20代のスタッフ&キャストが生み出した新鮮味に溢れるコメディだ。ヒロインは、ベッキー、蒼井優、平井理央アナといった人気者を次々と輩出した『おはスタ』(テレビ東京系)の元"おはガール"安藤聖。一時期は芸能界を離れ、フツーに大学生、社会人として生活を送っていた安藤だが、女優への道が断ちがたく、小劇場などで地道にキャリアを積み、カムバックした。  『バカがウラヤマシイ』のヒロイン・希(安藤聖)は、美人で頭の回転も良く、何でもそつなくできてしまう。学生時代はずっと成績優秀で通してきた希は就職活動も余裕で楽勝とタカをくくっていたのだが、現実社会の厳しさは学校内で常にトップだった彼女の想像を上回るものだった。人気企業、有名企業はことごとく不採用となる。面接会場ではうまく場の空気を読んで、面接官に対して100%の模範解答をしているのに。なんで? どーして? 生まれて初めて人生でつまずいた希は、自分の全人生、全人格を否定されたような失意に打ちのめされる。  結局、希は誰も知らない地味~な会社に腰掛け入社し、再就職できるチャンスを待つことに。なんで私がこんな地味な会社に? 憤懣やるせない希は、街で「そこの輝いている彼女、芸能界に興味ない?」とスカウトマンに声を掛けられる。やっぱり、見る目がある人には私の良さが分かるのよ~♪ 思わず、芸能プロダクションへの登録料としてなけなしの有り金を振り込んでしまう。当然ながら、その芸能プロダクションは存在しません。まさか自分がブーム遅れの振込め詐欺に遭うとは......。泣きっ面にハチ。弱り目に祟り目。13日の金曜日は仏滅だった。エイリアンに寄生されたジェイソンに襲われたようなダブルショック! 就職活動に失敗して以来、どんどんドツボへと堕ちていく希。  不幸のスパイラルに陥った希は、地味な会社の中でもさらに地味な資料室で社史の編纂をしている先輩社員の曽根さん(古舘寛治)に出会う。開口いちばんの台詞が「仁丹、食べる?」。年頃の女の子は仁丹なんか食べません。見るからにうさん臭い曽根さんだが、「週末だけでも、アルバイトやんない?」と希に声を掛けてくる。ヤバい匂いがぷんぷんするけど、金欠状態の希は背に腹は換えられない。希が曽根さんのアパートを訪ねると、そこには"花おじさん"なる看板が掲げてあった。曽根さんが代表を務める怪しげなこの会社、友達や親戚が少ない訳ありな新郎or新婦のためにニセの友人として結婚披露宴に出席したり、お見合いパーティーの賑やかしとして宴会を盛り上げるのが仕事。よーするに"サクラ"の派遣事業ですな。  ギャラはけっこーいいのだが、まぁ曽根さんをはじめとする"花おじさん"のメンバーたちの仕事に対する取り組みのアバウトなこと。失敗してもヘラヘラと笑っている曽根さんたちに希は腹を立てるが、派遣先ではお得意のそつのなさを生かして、サクラ役をかいがいしく演じる。人にはおおっぴらに言えない秘密のアルバイトだけど、自分の能力を生かせる場所を見つけ、希はちょっぴりうれしい。失敗しながらも懲りずに仕事を楽しんでいる"花おじさん"のメンバーの影響を、希は少しずつ受けていくようになる。
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新入社員の希(安藤聖)は先輩社員の曽根
(古舘寛治)は「仁丹、食べる?」と声
を掛けられる。コメディ映画の新鋭・沖田修一
監督の『このすばらしきせかい』(06)、
『南極料理人』(09)で味のある演技を
見せていた古舘が本作でも好演。
 本作の脚本&監督は、専門学校「東京ビジュアルアーツ」映画学科の学生・鋤崎智哉くん、24歳。スタッフも同校に籍を置く学生たち。下北沢の短編映画館トリウッドと東京ビジュアルアーツが協力して立ち上げた「トリウッドスタジオプロジェクトのシリーズ第5弾として製作されたもので、鋤崎監督の実体験をベースにしている。明治大学という有名大学に入学し、ずっと苦労知らずで生きてきた鋤崎監督は友人と真顔で「バカがウラヤマシイよ」とこぼしていたそうだ。ところが映画の希同様に就職活動は思うようにいかず、自分が本当にやりたいこと、本気になれることは何かを突き詰めて考えた結果、明治大学卒業後に東京ビジュアルアーツに再入学し、映像製作の道を志すことになった。『バカがウラヤマシイ』は鋤崎監督のちょっとばかり早すぎる、そしてかなり恥ずかしい自伝的ストーリーなのだ。  ヒロイン・希に選ばれた安藤聖の半生も映画には投影されている。8歳のときにミュージカル『アニー』で舞台デビューし、"おはガール"として人気者だった安藤は、その後も『ひとりでできるもん!』(NHK教育)や昼ドラなどに出演。しかし、次第にテレビの仕事からフェードアウト。大学進学後は芸能界から離れ、フツーにイベント制作会社に就職していた。08年2月の「EX大衆」をめくると、チャイドルのその後を追った特集で安藤は社会人時代について語っている。「正直、かなり仕事のデキる子だったんですよ(笑)。でも裏方をやってると、『何で私が前に出てないんだろう?』とか『絶対、私のほうが司会がうまい』って思っちゃうんです。それまで漠然とした想いがハッキリしたものになって、会社をやめて本格的に女優をやろうと決心したんです」。退職後の彼女は、劇団ポツドールなどの舞台を中心に女優業を再開している。結局、いくら才能があってもルックスに恵まれていても、本人が本気モードになってない限り、何も始まらないし、人の心は動かないということですな。  ちなみに『バカがウラヤマシイ』を上映する下北沢のトリウッドは、古着屋の2階にある座席数47席という本当に小さなミニミニシアター。シネコンに行き慣れている人はびっくりするくらい、こじんまりした空間だ。本作のエグゼクティブ・プロデューサーでもある大槻貴宏支配人は、4,000万円の借金を背負って99年にゼロからこの映画館を造っている。開館10周年を迎えた09年、無事に借金を返済。その間、『純喫茶磯辺』(08)、『さんかく』(10)の吉田恵輔監督、『白夜行』など話題作の公開を控える深川栄洋監督、『ほしのこえ』(02)、『雲のむこう、約束の場所』(04)の新海誠監督といった人気監督を世に送り出してきた。個人経営で映画館を運営するなんてかなり大変なはずだが、大槻支配人は鼻歌でも歌っているかのように、いつもヘラヘラ顔で笑っている。『バカがウラヤマシイ』に出てくる"花おじさん"に雰囲気がちょっぴり似ている。効率至上主義のシネコンとは異なる、小さな小さな映画館があることを知っているだけでも、公園の片隅で四葉のクローバーを見つけたような幸せを感じさせるのだ。 (文=長野辰次) baka03.jpg 『バカがウラヤマシイ』 監督・脚本/鋤崎智哉 出演/安藤聖、古舘寛治、山本剛史、鈴真紀史、播田美保 製作・配給/トリウッドスタジオプロジェクト(東京ビジュアルアーツ、トリウッド) 10月9日(土)より下北沢トリウッドにてロードショー公開 <http://ameblo.jp/baka-ura>
くたばれ!就職氷河期 自分が悪いのか、社会が悪いのか。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』

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人の心を読むテレパスである七瀬(芦名星)は、
夜行列車の中で同じテレパスのノリオ(今井悠貴)、
予知能力者の岩淵了(田中圭)と運命的な邂逅を果たす。
(C)2010「七瀬ふたたび」製作委員会
 『時をかける少女』と並んで熱烈な人気を誇る、筒井康隆のSF小説『七瀬ふたたび』が初映画化された。1975年に出版された同作が映像化されるのは、これで5度目となる。ヒロインは人の心を読む、美しき〈テレパス〉火田七瀬(芦名星)。特殊能力に恵まれたゆえにコドクな人生を歩んできた七瀬は、さまざまな能力を持つ仲間たちと出会う一方、異端者の存在を嫌う巨大組織の迫害に遭い、壮絶なサイキックバトルを繰り広げる。これまでのテレビドラマ版にはミステリアスな雰囲気の多岐川裕美(NHK/79年)、ホステス姿がセクシーだった水野真紀(フジテレビ系/95年)、ボーイッシュなイメージの渡辺由紀(テレビ東京系/98年)、介護施設で健気に働く蓮佛美沙子(NHK/09年)と多彩なタイプの七瀬が登場した。いかに映像クリエイターたちが『七瀬ふたたび』という物語と七瀬というヒロインを愛してきたかが分かるだろう。  『時をかける少女』が思春期の淡い初恋を描いたように、『七瀬ふたたび』も単なる超能力バトルに終わらない、美しく悲しく切ない物語だ。七瀬はいくつもの顔を持っている。七瀬と同じ〈テレパス〉である幼いノリオ(今井悠貴)にとっては"慈愛の保護者"であり、離れた物体を動かす〈テレキネシス〉のヘンリー(ダンテ・カーヴァー)にとっては"正しき指導者"、筒井作品でおなじみ〈タイムトラベラー〉の藤子(佐藤江梨子)にとっては心を丸裸にして見せることのできる"唯一の親友"、〈予知能力者〉である岩淵了(田中圭)にとっては未来を大きく揺るがす"運命の恋人"なのだ。過去の七瀬を演じてきた女優たちのタイプがバラバラなのは、製作者たちの思い描く七瀬像がそれぞれ違うからだろう。まるで阿修羅像のように幾つもの顔を持つ七瀬を家長にして、七瀬を慕う超能力者たちは"疑似家族"を構成し、さすらいの旅を続ける。  七瀬たちが目指すところは、世間から異端者の烙印を押された自分たちが静かに暮らせる安息の地。自分の持つ特殊能力に悩まされることなく、仲間と支え合って慎ましく生活できればよい。中国でいうところの"桃源郷"、チベットでいうところの"シャンバラ"、日本最南端の島・波照間島でいうところの"パイパティローマ"、宮沢賢治ならば"イーハトーブ"、宮崎駿でいうなら『未来少年コナン』(NHK)で描かれる"ハイハーバー"ですよ。しかし、どこまで行っても七瀬たちは白眼視され、さらに巨大組織が執拗に追撃してくる。せっかく七瀬という最大の理解者に巡り会えた超能力者たちだが、殉教者のようにひとり、またひとりと抹殺されていく。
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七瀬を中心にした超能力集団。ヘンリー
(ダンテ・カーヴァー)は七瀬の命令に
よって念動力を発揮し、藤子(佐藤
江梨子)は時間をリセットするタイム
リープ能力を持つ切り札的存在だ。
 多岐川裕美主演の『七瀬ふたたび』に初遭遇したときは衝撃的だった。原作小説を知らず、「いきなり"ふたたび"と言われてもなぁ」とテレビの前で困惑した覚えがある。またそれ以上に、自分の信じる者のために命を張って巨大な敵と戦う超能力者たちに"滅びの美学"を感じ、胸を締め付けられた。70年代の終わりにNHKで作られた第1作は、たぶんに製作者は"あさま山荘事件"に象徴される学生運動の終焉をドラマに重ね合わせていたように思う。  『ガメラ 大怪獣空中決戦』『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(95)などのヒット作で知られる"時空マスター"伊藤和典が劇場版『七瀬ふたたび』のシナリオを書き上げたのは10年前。原作のクライマックスから始まるケレン味たっぷりの構成にしている。ちなみに兄・小中千昭とのコンビで数多くのSFファンタジー作品を発表してきた小中和哉監督が劇場版の企画に携わったのが13年前。主演女優が見つからず難航したとのことだが、すんなり製作されていれば、オウム事件を彷彿させる問題作として賛否両論が沸き上がったはずだ。  原作者であり、永遠のヒロイン・七瀬を生み出した創造主である筒井康隆氏、いや筒井先生には河崎実監督作『日本以外全部沈没』(06)の劇場公開の際にインタビューする僥倖に恵まれた。テアトル新宿の狭い控え室で、『日本以外全部沈没』や『七瀬ふたたび』を執筆した70年代のエピソードを扇子片手に語ってくれた。70年代当時、『日本沈没』の小松左京氏やショートショートの星新一氏は売れっ子だったものの、SF作家は作家とは認められておらず世間から孤立した存在だったという。SF作家仲間でニューオータニのバーや六本木のイタリア料理店「シチリア」に度々集まっては、気炎を上げていたそうだ。  無礼講の酒の席で小松左京氏は「沈没成金」と囃され、作風と180度違う毒舌ぶりを発揮していた星新一氏は「オレのジョークにみんな笑い転げるのに、オレの小説がつまらないのはなぜだ?」などと自虐的な会話が飛び交っていたとのこと。そんな言葉のやりとりからブレインストーミング的に珍作『日本以外全部沈没』が生まれたんだよ、と筒井先生は振り返った。興に乗ったSF作家御一行は夜中の横浜中華街にまで繰り出し、大騒ぎしていたとも。作家として認められないSF作家たちの抑圧されていたエネルギーが渦巻いていた宴会だったようだ。世間や巨大組織を相手に戦いを挑む七瀬たち超能力者集団は、溢れ出す豊かなイマジネーションを持て余すSF作家たち若き日の写し絵だったのかもしれない。  "クールビューティ"芦名星が演じた劇場版の七瀬は、これまでの七瀬に比べて超ポジティブだ。七瀬と同じ〈テレパス〉でありながら超能力者抹殺計画の現場指揮を執る狩谷(吉田栄作)に対し、狩谷の思い出したくない幼い頃のトラウマを掘り起こし、心の傷のかさぶたをむしる取るという荒業を七瀬は見せつける。"理想郷"とは誰もいない逃走先にあるのではなく、目の前の問題をクリアしなくては手に入らないことを悟った七瀬は、最後まで戦い抜く覚悟を決める。美しくもはかない超能力者だった七瀬は、スクリーンの中で闘うヒロインとして新しく甦った。CGを多用して、もっと派手なサイキックアクションにしても良かったのではという声もある。しかし劇場版『七瀬ふたたび』は、今までになく"ふたたび"という意味を強く感じさせる1作であることは間違いない。 (文=長野辰次) nns0003.jpg筒井康隆作家生活50周年記念映画『七瀬ふたたび』 原作/筒井康隆 脚本/伊藤和典 監督/小中和哉 出演/芦名星、佐藤江梨子、田中圭、前田愛、ダンテ・カーヴァー、今井悠貴、平泉成、吉田栄作 配給/IMJエンタテインメント + マジックアワー 10月2日(土)よりシネ・リーブル池袋、シアターN渋谷ほか全国ロードショー ※本編上映前に中川翔子初監督作となる短編『七瀬ふたたび プロローグ』を上映。出演/芦名星、多岐川裕美 <http://www.7se-themovie.jp>
NHK少年ドラマシリーズ 七瀬ふたたびI 初代。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』

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歪んだ家庭で育ったれん(佐藤寛子)は、棄てられたネオンを拾ってきては
修理するロマンチストの紅次郎(竹中直人)に次第に惹かれていく。
(c)2010「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」製作委員会
 プニプニとした幼虫が美しくも妖しい成虫へと脱皮していく様に見とれてしまうような魅力が、『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』にはある。中学・高校で生徒会長を務め、清純派グラビアアイドルとして活躍した佐藤寛子が"元生徒会長""清純派"という殻を脱ぎ捨て、大人の女優へと艶やかに"変態"してく姿を、『花と蛇』(03)、『人が人を愛することのどうしようもなさ』(07)の石井隆監督がカメラで舐め回すようにじっくりと撮り上げている。芸能界はもちろん、現実社会でもいつまでも清純派、優等生のままではいられない。泥水をすする覚悟と社会悪に対する免疫を身に付けていかないと、自分の思うようには生きていけない。そんな汚物だらけのドブ川のほとりで佐藤寛子演じる石井ワールドのニューヒロイン・れんは蛹から孵化し、広い空へ羽ばたいていくチャンスをうかがっている。  『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』は、小劇場出身の余貴美子が名美役を大熱演した前作『ヌードの夜』(93)から7年後という設定だ。"何でも代行屋"の紅次郎、こと村木(竹中直人)は名美に一度は騙されながらも名美の悲惨な境遇に同情して、男の純情を捧げた過去を持つ。だが、もう名美はこの世にはいない。心の中に大きな空洞を抱えたまま生きながらえてきた紅次郎の前に、可憐な少女の面影を残すれん(佐藤寛子)が現れる。れんの依頼は「父の遺灰を散骨した際に、大事な形見のロレックスも落としてしまった。捜してほしい」というもの。富士の樹海から腕時計を探し出せという無茶な案件だったが、紅次郎は運命の悪戯か腕時計を見つけ出してしまう。紅次郎をすっかり信頼したれんは、再び仕事を依頼する。かつて自分が世話になった女性"たえ"が今どうしているのか調べてほしいと。樹海捜査に比べれば楽な仕事かと思いきや、夜のネオン街を尋ね歩いても、なかなか"たえ"の消息はつかめない。ようやく紅次郎は彼女の手掛かりを得るが、それは人間の心の闇へとつながる地獄の扉の鍵だったのだ。  佐藤寛子が体当たりの演技でれん役に取り組んでいるが、れんの家族がまたすごい。石井監督の代表作である『死んでもいい』(92)に出演し、大女優としての底力を発揮してみせた大竹しのぶが母・あゆみ、『フリーズ・ミー』(00)で男たちを次々と血祭りにした井上晴美が姉・桃役を演じている。あゆみ、桃、れんの3人で古びたバーを営み、客の中からうまくカモになりそうな高齢者を見つけるとこっそりと保険金を掛けた後に、富士の樹海まで連れ出して自殺に見せかけて処理していたのだ。人間を食って生きる、現代の"鬼女"たち。この恐ろしい事実に気付いた紅次郎は、「れんは、いやいや人殺しを手伝わされているに違いない」と信じ込む。そして、雨に濡れた子犬のように潤んだ瞳を向けるれんに対し「これが最後の人殺しだからね」とお人好しぶりを発揮し、のこのこと富士の樹海へと付いて行ってしまう。
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バーに来たお客を、まるで食虫植物のように
捕食して生きる鬼母・あゆみ(大竹しのぶ)
と姉・桃(井上晴美)。れんは2人に逆らえない。
 佐藤寛子が1カ月の特訓で修得したセクシーなポールダンスや豊満なバストを披露してのローションプレイ&ヘアヌードで前半から中盤を引っぱり、富士の樹海の奥にある洞窟"ドゥオーモ"でのクライマックスへと突入する。地獄の血の池に白いハスの花が咲くがごとく、石井ワールド全開である。死体置き場となっている巨大洞窟=人間の心の闇なのだ。深い闇の中で母あゆみと姉の桃は金への執着心を剥き出しにし、れんは家族の呪縛から解放され、そして紅次郎は生来の"性善説の男"へと純化していく。  セットではなく、実在する山奥の石切り場で撮影された"ドゥオーモ"シーンが圧巻だ。ここから先はネタバレを含むが、石井作品はネタばれしても、魅力が目減りすることがないと確信している。スタンガンを振り回し、凶行に走るれんの姿は紅次郎の知っているれんではなく、紅次郎が見つけ出すことのできなかった幻の女"たえ"だったのだ。れんは鬼のような母親と姉と一緒に生活するため、否応なくもうひとつの顔である"たえ"を二重人格さながらに使い分けていたのである。そして観客は、さらにそこにもうひとつの顔を見る。清純派のイメージを振り切るかのように暴走する佐藤寛子の素顔を。"ドゥオーモ"の重い暗闇の中で、清純派グラビアアイドルだった佐藤寛子は映画女優・佐藤寛子へと"変態"していく。  グラビアアイドルが本格的な女優へと転身するのは至難の業だ。大手芸能事務所所属のアイドルならまずグラビアで顔と名前を広めてから、テレビタレントや女優として売り出していくという手法が使われるが、一介のアイドルたちにはグラビアから女優へのルートはつながっていない。読書家でもある佐藤寛子は新潮社の文芸誌「波」で読書日記を07年~09年にわたって連載していたが、その中で一時期は自己啓発本を読みあさっていたと記している。プロ意識の強い彼女は、グラビアの仕事に対して否定的な発言は一切していないが、それでも本来は女優志望で芸能界入りしたものの、自分の目指す道になかなか進めない状況を突き破りたい想いが強かったはずだ。そして女優を徹底的に追い込むハードな演出で知られる石井監督作のヒロインという大きなチャンスを、彼女は見逃すことなくがっちりとつかんでみせた。  『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』は、グラビアアイドル時代にテレビのバラエティー番組に出ていても、どこか所在なさげに微笑んでいた佐藤寛子に"女優魂"が宿ったメモリアルな1作だ。まさに石井監督は佐藤寛子からグラビアアイドル時代のイメージを惜しみなく奪い去った。 (文=長野辰次) nude03.jpg 『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』 監督・脚本/石井隆 出演/竹中直人、佐藤寛子、東風万智子、井上晴美、宍戸錠、大竹しのぶ、 配給/クロックワークス R15+ 10月2日(土)より銀座シネパトス、シネマート新宿ほか全国ロードショー <http://www.nude-ai.com>
ヌードの夜 デラックス版 艶めかしい。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』

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斬って斬って斬りまくれ! 庶民を虫ケラ扱いする明石藩主(稲垣吾郎)を
亡き者にするため、島田新左衛門(役所広司)ら13人の刺客たちは
明石藩の大名行列を丸ごと壊滅に追い込む。
(c)2010「十三人の刺客」製作委員会
 2時間ドラマ、Vシネマでキャリアを重ね、『オーディション』(00)、『殺し屋1』(01)などのインディペンデント映画で大暴れしてきた三池崇史監督の"荒ぶる魂"がメジャーシーンで見事に結実した。工藤栄一監督の集団抗争時代劇の傑作『十三人の刺客』(63)を、役所広司、市村正親、松本幸四郎、稲垣吾郎ら三池組初参加となるキャストを迎え、超ド派手に甦らせたのだ。すでに『クローズZERO』(07)、『ヤッターマン』(09)といったメジャーヒット作を放っている三池監督だが、本作によって、さらに1ステージ上に上がった感がある。敵味方が入り乱れて殺戮を繰り広げる展開は和風西部劇『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)と同じだが、本作は太平の時代において"死に場所"を探し求める侍たちを主人公にしたことで"死を意識することで、ギラギラと輝き出す男たち"という三池作品のメインテーマがくっきりと浮かび上がっている。カリギュラばりの暴君を演じた稲垣吾郎がクライマックスで「迷わずに愚かな道を選べ。その方が面白い」というセリフを吐くが、この言葉こそ三池美学の神髄だろう。  封建制度という確固たる社会システムが200余年にわたって続いた江戸時代も後半。武士はすっかり官僚化し、真剣を抜く機会を失っていた。そんな折、幕府直参の島田新左衛門(役所広司)に密命が下る。暴虐の限りを尽くしている明石藩主(稲垣吾郎)を暗殺せよというもの。将軍の弟でもある明石藩主は次期老中に選ばれており、明石藩はおろか日本全体が地獄絵図と化すことは必至。その前に闇に葬れという。新左衛門のもとに放浪の剣豪・平山九十郎(伊原剛志)をはじめとする選ばれし刺客たちが集う。誰しも命は惜しい。しかし、侍として生まれ、二本差しをしているからには侍らしく生きてみたい。"侍らしく生きてみたい"とは"侍らしく死んでみたい"の同義語だ。しかも、今回の仕事は史上最悪の暴君と刺し違えるという大義がある。それまで安穏と暮らしていた新左衛門たちの瞳が、死を意識することで俄然輝き始める。
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捨て身で明石藩と渡り合う覚悟の新左衛門たち
選ばれし侍たち。果たして、この中の何人が
生き残るのか?
 物語の序盤を牽引するのは、明石藩主の残虐さだ。明石藩主を演じた吾郎ちゃんの歪んだ二枚目ぶりがステキ! 清純派女優・谷村美月をあっさり手込めにするわ、暴政を諌めるために自害した明石藩江戸家老(内野聖陽)の遺族を庭先でハンティングするわ、もうやりたい放題。庶民なんか、それこそ虫ヘラ扱い。明石藩主の暴虐ぶりは、オリジナル版よりかなり膨らませて描いてある。ちなみにリメイク版の脚本は、三池監督とのコンビでSMテイストたっぷりの快作『オーディション』『インプリント ぼっけえ、きょうてえ』(06)を手掛けた天願大介。さすが、人生の最後にエロチックコメディ『赤い橋の下のぬるい水』(01)を撮った巨匠・今村昌平監督のご子息ですな。  インディーズ映画の帝王・若松孝二監督の新作『キャタピラー』には"芋虫男"が登場したが、三池監督は東宝配給のメジャー作品である本作に"だるま女"を登場させる。明石藩主の残酷さによって、この世のものと思えぬ無惨な姿に変えられた女性を目の前にして新左衛門の怒りのエネルギーは沸点に達する。これまでも三池作品には『極道恐怖劇場 牛頭』(03)、『インプリント』『ヤッターマン』『ゼブラーマン2 ゼブラシティの逆襲』(10)と度々にわたって奇妙なクリーチャーが現れた。これは三池監督が自作に押した一種の焼き印だろう。このクリーチャーの異形度を見て、観客は三池監督の本気度を察する。三池作品のご神体であるクリーチャーを目撃したら、もう観客は逃げられない。すでに三池ワールドの虜である。
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13番目の刺客となる"山の民"
木賀小弥太(伊勢谷友介)。封建制
度の枠に捕らわれない自由奔放な男だ。
 新左衛門たち12人の刺客たちは、参勤交代で明石領に帰る道中の明石藩一行を襲撃することに。血戦の場を中山道の小さな宿場町・落合宿と決め、早回りするため山奥の獣道を突き進む。ここで出会うのが、山の民・木賀小弥太(伊勢谷友介)。オリジナル版では落合に住む郷士という設定だった小弥太が、三池版では流浪の民となる。山の民とは"サンカ"ですよ。都市伝説上では縄文人の生き残りとも言われ、日本社会とは異なる独自の文化を持つワイルドな集団。社会のシステムから離れて別個のコミュニティを築いている山の民にとっては、幕府も侍のプライドも全く関係ないのだが、小弥太は「こりゃー、面白いことが起きる」と本能的に嗅ぎ取る。その日その日を面白く生きることが山の民・小弥太にとっての唯一のルール。侍でもないのに、小弥太は自分のルールに従って新左衛門たちに付いていく。こうして"13番目の刺客"が新たに加わる。黒澤明監督の不朽の名作『七人の侍』(54)がラッキーナンバーなのに比べ、なんとも不吉な、されど悪運が強そうな数字ではないか。  落合宿に双方が到着し、13人vs.300人の大決戦がいよいよ始まる。敵も味方も逃げられないように、宿場町から出るための橋は爆破される。同時に三池節も大爆発。オリジナル版の30分に及ぶ激闘は時代劇史上最長の殺陣シーンとされてきたが、それを遥かに上回る50分の大激闘が繰り広げられるのだ。明石藩主だけを殺りゃいいんであって他の明石藩士たちは見逃してあげればいいじゃんと思う人もいるだろうが、三池版の新左衛門は明石藩士たちも主君を守るために体を張った一流の侍と見なし、容赦なく斬り掛かる。自分と同等、もしくは格上の相手に決死の戦いを挑むからこそ、男たちの輝きは増していくのだ。『ワイルドバンチ』(69)のラストさながら、敵も味方も血を噴き出しながらバタバタと倒れていく。そして落合宿は大炎上。後に残るのは、侍としての生をまっとうした男たちの屍と全てが無へと帰するカタルシスのみ。  リメイク版のラスト、意外な人物が血まみれになった新左衛門に「ありがとう」という言葉を投げ掛ける。その言葉はこれだけの血湧き肉踊る力作に参加することができたキャスト&スタッフの喜びの声でもあり、2時間21分の大スペクタクルショーを堪能した観客の声を代弁したかのようでもある。ありがとう、三池監督! そんな言葉が劇場出るアナタの口からも溢れるに違いない。 (文=長野辰次) 13shikaku04.jpg 『十三人の刺客』 原作/池宮彰一郎 脚本/天願大介 監督/三池崇史 出演/役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、高岡蒼甫、六角精児、浪岡一喜、近藤公園、石垣佑磨、窪田正孝、伊原剛志、松方弘樹、吹石一恵、谷村美月、斎藤工、阿部進之介、内野聖陽、光石研、岸部一徳、松本幸四郎、稲垣吾郎、市村正親 配給/東宝 9月25日(土)より全国ロードショー PG-12 <http://www.13assassins.jp>
十三人の刺客 11月1日発売。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』

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『ミレニアム2 火と戯れる女』より。リスベットは犯罪組織の黒幕"ザラ"と対決。
無痛症の巨人も現われ、リスベットは苦戦を強いられる。
(C)Yellow Bird Millennium Rights AB, Nordisk Film, Sveriges Television AB, Film I Vast 2009
 まるでディズニーランドのようにチリひとつ落ちていない、美しく清潔な北欧の街で、DV、性的虐待、人身売買、強制売春、連続殺人......と、おぞましいしい事件が次々と発覚する。世界的な大ベストセラーとなった『ミレニアム』三部作(早川書房)はスウェーデンが舞台だ。男女平等、福祉社会の見本とされている洗練されたモダン国家・スウェーデンだが、当然ながら社会の裏側に回れば、そこには洗練されることのない人間の性衝動、システム化の進んだ社会ゆえの、ねじれ曲がって歪んだ欲望が渦巻いている。『ミレニアム』シリーズの女性調査員・リスベットは、ミステリー史上最強にして最凶のヒロインだ。弁護士、医者、大富豪、政治家といった権力者たちが地位や名声を隠れ蓑にして社会的弱者である女性や子どもたちをいたぶり、慰みものにしていることを断じて許さず、徹底的に追い詰める。身長154cm体重42kgと痩せた少年のような体型のリスベットだが、鼻にはピアス、鋲つきのパンクファッション、そして背中には大きなドラゴン・タトゥーを背負う。多感な少女時代を精神病院の閉鎖病棟で不当に過ごしたリスベットは、ちょっとでも気を緩めると自分のトラウマに押し潰されそうになる。その恐怖を踏みこらえるために全身にピアスとタトゥーを刻んでいるのだ。  日本で1月に公開された映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』では, リスベット(ノオミ・ラパス)は天才的ハッカー、そして映像記憶能力という特殊な才能を発揮し、社会派雑誌「ミレニアム」の記者ミカエル(ミカエル・ニクヴィスト)と共に巨大企業の経営者一族に隠された少女失踪事件の真相を暴いてみせた。第1部『ドラゴン・タトゥーの女』が1話完結の密室ミステリーとしての味わいがあったのに対し、9月11日(土)より連続上映される『ミレニアム2 火と戯れる女』『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』は2部構成のハードボイルドタッチの社会派サスペンスだ。世界を揺るがす秘密組織との戦いへとスケールアップしている。『ドラゴン・タトゥーの女』ではリスベットが後見人である性悪弁護士ビュルマンからSEXを強要されるくだりが描かれていたが、『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』ではリスベットの忌まわしい生い立ち、精神病院で虐待された地獄の少女時代が明らかにされていく。リスベットは洗練されたモダン社会の中で虐げられてきた女性や子ども、医師や弁護士の一方的な判断で社会的不適合者の烙印を押された人々の怒りや哀しみを一身に背負ったキャラクターだったのだ。  3部作を通してリスベットを演じたノオミ・パラスの素顔はチャーミングな北欧美女だ。「キネマ旬報」(10年1月15日号)のインタビューで、パラスは「スウェーデンという国は他所から見れば表面的にはすごく平穏で、問題のあまりない国のように映る。ところが内部には暗い面があって、それについて人は語ろうともしないし、存在することも認めようとしない傾向にある」と語っている。ハリウッドでのリメイク版は、『セブン』(95)、『ファイト・クラブ』(99)のデヴィッド・フィンチャーが監督することが決定。ミカエル役は『007』シリーズで生身のジェームズ・ボンドを演じたダニエル・クレイグ。気になるリスベット役は、海賊映画からの卒業を表明したキーラ・ナイトレイ、アミダラ姫ことナタリー・ポートマン、『プリティ・プリンセス』(01)のアン・ハサウェイらが名乗りを挙げての争奪戦となった。結局はリメイク版『エルム街の悪夢』(10)の新人女優ルーニー・マーラにお鉢が回った形だが、ハリウッドの人気女優たちが自分の今までのイメージをぶち壊すのにリスベット役を渇望したことは容易に理解できる。女を憎む暴力的な男たちを次々と処刑台送りにするリスベットという異形のヒロイン像は、それほどまでに魅惑的だ。
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ダメ男は私が裁いてあげる! 加護亜依が
『ミレニアム2&3』の宣伝部長に就任。
ヒロイン・リスベットを模したゴスメイク&
ソフトモヒカンヘアでイベントに登壇した。
 『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』の日本公開にあたり、宣伝部長として加護亜依がリスベットばりのボンテージ衣装で試写イベントに登壇した。小さな体ながら、踏まれても踏まれても立ち上がる強靭な精神の持ち主であることが起用理由とのこと。気持ち良さげに女王さまファッションを披露した加護ちゃんは「リスベットって、本当は強くなくてコドクな女性。それでタトゥーやピアスなどで、自分の中の痛みと強さを表現しているんじゃないかと思う。彼女の強さの中にあるコドクな一面に惹かれますね」と語った。喫煙問題からハロー!プロジェクトを離れ、今はひとりぼっちで慣れないジャズを歌う加護ちゃんも、巨大権力を物ともせずに戦い続ける孤高のヒロインに人一倍シンパシーを抱いているらしい。  ひとりぼっちで戦ってきたリスベットだが、『ドラゴン・タトゥーの女』で少年がそのまま大きくなったような正義漢・ミカエルに出会ったのに続き、『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』ではリスベットを守ろうとする仲間が次々と現れる。2メートルの巨人男が殺人マシーンさながらにリスベットに迫るが、リスベットのレズフレンドであるミリアム・ウーや元プロボクサーであるパロオ・ロベルトらが体を張ってリスベットを守る。世間からは社会的落伍者と見なされているハッカー仲間の"疫病神"さえも、数少ない友人であるリスベットの窮地を救うために部屋を飛び出して、夜のストックホルムを走り回る。殺人容疑を掛けられたリスベットが被告席に立つ裁判では、ミカエル、警備会社の元上司、"疫病神"たちが傍聴席からリスベットを見守る。リスベットこそ、神なき時代の信じうる高潔な女神であることを彼らは知っているのだ。ピアスやタトゥーで覆われた肉体の中には、とても純粋な魂が隠されており、その魂こそこの世で真っ先に救済されるべきものだと彼らは信じている。
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シリーズ完結編『ミレニアム3 眠れる女と
狂卓の騎士』は法廷劇へと展開。事件の真相を
つかんだ雑誌記者ミカエルにも危険が迫る。
 自分の殻の中に籠っていたリスベットは、ミカエルとのSEXを済ませた後はそそくさと自分のベッドに戻る様子が『ドラゴン・タトゥーの女』で描かれていたが、そんなリスベットのクールな態度が、シリーズ完結編『眠れる女と狂卓の騎士』では変化し始める。裁判を通してリスベットの思い出したくない過去がえぐり出されるが、同時にリスベットは自分のために尽力してくれる人たちの存在を受け入れていく。巨人との戦いで重傷を追ったリスベットを献身的に治療した医者のアンデルスには「病院食じゃなくて、ピザが食べたい」と甘えてみせる。裁判中の拘置所では女刑務官の「必要なものがあれば言って」という申し出に、「じゃあ、タバコ」と軽口まで叩くようになる。『ドラゴン・タトゥーの女』では無言に近かったことを思えば、なんという変わりようだろう。  裁判を終えたリスベットはメイクを拭き取り、とても女らしい柔和な表情を浮かべる。現代社会の人身御供、もしくは殉教者的存在だったリスベットが、生きた人間、ひとりの女性になった瞬間である。北欧神話では神々は巨人族との戦いの果てに滅亡への道をたどるが、リスベットは戦う女神からひとりの女性になることで目の前に広がる現実社会で生きて行くことを選択する。まがまがしくドロドロした人間社会だが、リスベットは自分はひとりぼっちではないことを実感する。 (文=長野辰次) m4.jpg 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』 原作/スティーグ・ラーソン 監督/ニールス・アルゼン・オプレブ 出演/ミカエル・ニクヴィスト、ノオミ・ラパス、スベン・バーティル・タウベ、レーナ・エンドレ 販売元/アミューズソフトエンタテインメント 定価(税込み)3990円 DVD発売中 『ミレニアム2 火と戯れる女』R-15 『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』PG-12 原作/スティーグ・ラーソン 監督/ダニエル・アルフレッドソン 出演/ミカエル・ニクヴィスト、ノオミ・ラパス、アニカ・ハリン、ペール・オスカーション、レーナ・エンドレ、ゲオルギ・スタイコフ、ミッケ・スプレイツ、ペーテル・アンデション、ソフィア・レダルプ、ヤスミン・ガルビ、ヨハン・シレーン、ターニャ・ロレンツソン、パオロ・ロベルト、アンデルス・アルボム・ローセンダール 配給/ギャガ 9月11日(土)よりシネマライズ渋谷ほかにて連続公開 <http://millennium.gaga.ne.jp>
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 上質サスペンス。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』

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手取り3万~15万円のギャラでカメラの前で性をさらす企画AV女優たちの生き様を描いた『名前のない女たち』。同名のノンフィクションシリーズを劇映画化したものだ。
(c)「名前のない女たち」製作委員会
 「夢あるの? 変わりたいと思わない? 人生なんて自分の行動次第でどうにでもなるよ。もし、自分でない誰かになってみたら面白いと思わない?」  家庭内で居場所がなく、職場でも地味で目立たない22歳のOL・純子は街でスカウトマンに優しく声を掛けられたのがうれしかった。普段から人から頼まれるとイヤと言えない性格の純子は、そのまま事務所に連れて行かれる。道に落ちている小石のように黙って生きてきた自分が、まさか女優デビューするなんて夢にも思わなかった。ただし、女優といっても"AV女優"。しかもAV女優でもメーカー側がイチオシする"単体女優"ではなく、ギャラが安く、ハードなプレイを要求される"企画女優"として。パッケージに名前がクレジットされることのない"名前のない女"としてである。  純子は初めてのAVの撮影現場でオタク少女"ルル"という名前を与えられる。男優との絡みはどうしようもなくぎこちないものになったが、それがかえって新鮮に映ったらしく、監督からは「ルル、よかったよ」と誉められる。他人から誉めてもらったのなんて、いつ以来だろう。自分を必要としてくれる場所があることを知り、心の中でガッツポーズをする純子。それからの純子は家族や職場に秘密で、週末だけ企画女優・桜沢ルルに変身する。撮影内容はどんどん過酷になるが、頑張れば頑張っただけ事務所の社長やスタッフ、さらにはファンが「よくやったね」と誉めてくれる。企画AVという消耗品の世界で、桜沢ルルは純子という名の窮屈な殻を脱ぎ捨て、ささやかな輝きを放つ。
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人から嫌われないよう、目立たないように生き
てきた平凡なOL・純子(安井紀絵)だが、「自分
ではない誰かになってみたくない?」というスカ
ウトマンの言葉に心が揺れ動く。
 AV専門誌「オレンジ通信」(東京三世社)に9年間にわたって連載された中村淳彦氏の企画AV女優へのインタビューシリーズは、2002年に『名前のない女たち』(宝島社)として単行本化され、その後も『名前のない女たち2』『名前のない女たち3 "恋愛"できないカラダ』『名前のない女たち最終章 セックスと自殺のあいだで』と出版され、累計25万部のベストセラーとなっている。本作は"ピンク四天王"としてピンク映画で活躍後、『刺青』(05)、『乱歩地獄・芋虫』(05)など一般映画に進出した佐藤寿保監督が原作シリーズからエッセンスを抽出して劇映画化したものだ。コスプレ少女・ルルに変身する平凡なOL・純子にオーディションで選ばれた新人女優・安井紀絵、体の奥から湧いてくる怒りの衝動をどうすることもできない元ヤンキーのAV女優・綾乃に園子温監督の『エクステ』(07)、石井隆監督の『人が人を愛するどうしようもなさ』(07)などに出演経験のある佐久間麻由をキャスティング。2人ともヘアヌードシーンを含めた大胆演技に挑んだ。ネームバリューのない若手女優を起用したことで、劇映画ながらノンフィクション度数が高い作品に仕上がっている。  もうひとりのヒロイン・綾乃は、男にお金を貢ぐためにAVだけでなく風俗でも働くようになる。男に依存しなくては生きていけない体質なのだ。AVの世界に足を踏み入れたばかりの純子があまりに不器用で危なっかしいことから、ついつい世話を焼いてしまう綾乃。他人の心配なんかしていられる立場じゃないが、綾乃の世話好きは逆に家族や友人、恋人から自分もかまって欲しかったという寂しさの現われだろう。精液を拭き取ったティッシュペーパーが丸めて捨てられるように、次々と企画女優たちが使い捨てられるAVの世界。人気を誇った単体女優も飽きられれば企画女優に格落ちする。そんな出口のない深い森の中で、綾乃と純子は次第に距離を縮めていく。いつか自分たちのことを誰も知らない遠い南の島に行って、嘘や見栄で塗り固めた自分たちの人生をリセットできればいいよねと夢を共有する。
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事務所の社長(鳥肌実)におだてられ、NGなしの
売れっ子AV女優になっていく純子。業界歴の長い
綾乃(佐久間麻由)は危なかっかしくて見ていら
れない。
 発売されてすぐに原作本を購入したが、原作者・中村氏がセレクトした企画女優たちの精神病歴、自傷歴のあまりのすさまじさに、途中でページをめくる手が止まってしまった覚えがある。小学生時代の大半をホームレスとして過ごした女、セックス依存症で多重人格の女、引きこもりでリスカ癖のある女、有名企業に勤めていたが借金返済のために夫に内緒で出演を続ける主婦......。さらに『名前のない女たち最終章』では中学時代の3年間、実の父親から性的虐待を受け続けたという超弩級のDV体験者も登場する。飯島愛のようなタレントになることを夢想する若い子もいるが、中村氏は断言する。「飯島愛はタレントとしての才能があったから成功したのであって、過去にAV女優だったこととはなんの関係もない」と。それでも男たちのバーチャルな欲望を満たすため、AVの世界に足を踏み入れる女性は後を絶たない。市場規模1,000億円と推定されるAV業界で、年間にリリースされる作品数は2万本。AV女優として働く女性たちの数は、年間でおよそ1万人と言われている。そのうち95%が"企画女優"なのだ。  社会のシステムからはみ出してしまった若い女の子たちの一種の受け皿となっていたAV業界だが、当然ながらそこは女の子たちを更生させるための機関ではなく、女の子たちの性と体と自尊心を切り売りする場所である。倫理観や道徳心を取り払ったAVの現場を繰り返すうちに、彼女たちは女性器だけでなく、心をすり減らし、さらに睡眠薬や精神安定剤をあおるうちに内臓や神経までもが疲弊していく。中村氏が取材した企画女優たちの中には若くして病死した子、自分から死を選んだ子、精神を病んでしまった子が少なくない。その後は消息を断ったケースがほとんどなので、正確な実態は分からないままだ。中村氏は『名前のない女たち最終章』の中で"メディアは人間の足を引っ張ることはあるが、決して人を救うことはできないと悟った"と記している。現在、中村氏はノンフィクションの執筆を続ける傍ら、高齢者のデイサービスの運営に取り組んでいるそうだ。  映画『名前のない女たち』のラスト、AV界で束の間の人気者になったルルは素顔の純子に戻り、ドブ臭の漂う渋谷川を小さなボートに乗って、静かに静かに下っていく。うまくすれば海に出て、綾乃といつか約束したように南の島にまで辿り着けるかもしれない。ボートに横たわる純子は眠っているようにも、死んでいるようにも見える。このエンディングは、消えていった多くのAV女優たちを弔うための"映画葬"ではないだろうか。大勢の女の子たちが自分の肉体と性を捧げ、ボクらの鬱屈としたコドクな夜を慰めてくれた。不器用すぎて、サヨナラも言いそびれたまま去っていったAV女優たちを鎮魂するかのように、小さなボートは海に向かって進んでいく。サヨナラ、名前のない女の子たち。 (文=長野辰次) namaenashi04.jpg 『名前のない女たち』 原作/中村淳彦 脚本/西田直子 撮影/鈴木一博 主題歌/戸川純「バージンブルース」 監督/佐藤寿保 出演/安井紀絵、佐久間麻由、鳥肌実、河合龍之介、木口亜矢、鎌田奈津美、草野イニ、新井浩文、渡辺真紀子ほか 配給/ゼリアズエンタープライズ+マコトヤ 9月4日(土)よりテアトル新宿、新宿K's cinemaほかロードショー <http://namaenonaionnatachi.com>
名前のない女たち ショーゲキ。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』

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米国ミネソタ州のホスピスで暮らす"おくりねこ"のオスカー。
人間の死を予期する特殊な能力を有している。
(c)La bascule and Ana films
 和歌山県太地町におけるイルカの追い込み漁の実態を告発した米国映画『ザ・コーヴ』は2010年上半期の映画界の話題を独占したが、もう1本、日本人と動物の関係を考えさせるドキュメンタリー作品がフランスから上陸した。ミリアム・トネロット監督による『ネコを探して』がそれだ。19世紀のフランスでは"自立と自由の象徴"としてネコは画家や文化人らに愛されたが、さまざまな仕草のネコを描いた安藤広重の浮世絵が少なからず影響を与えているという。夏目漱石の『吾輩は猫である』も愛読しているトネロット監督は、米国や英国のネコたちも紹介するが、とりわけ日本のネコたちの紹介により時間を割いている。フランスの女性監督の目には、日本人とネコの関係はかなり特殊なものに映っているようだ。  アニメーションを導入に使うことで、ネコの肉球のごとくソフトタッチに始まる本作だが、日本人とネコの関わりを伝える序盤のエピソードにネコ愛好家は鋭いツメでえぐられるような衝撃を受けるだろう。世界初の公害病である水俣病の存在を人間社会に初めて伝えたのは水俣の海辺に暮らすネコたちだったのだ。確かに水俣病問題を最初に報道した1954年8月1日の「熊本日日新聞」の記事内容は『水俣市の漁村で百余匹いた猫が全滅し、ねずみが急増。あわてて各方面から猫をもらってきたが、これまた気が狂ったように死んでいく』というものだった。やがてネコだけでなく、痙攣や神経症状を呈する人間の患者が相次ぎ、"原因不明の奇病"として水俣病の存在が56年に公表される。メチル水銀が魚介類に蓄積され、それを摂取することによって起きたメチル水銀中毒と判明したのは59年。日本政府が公害病として認定したのは68年になってからだ。  水俣病の存在が報告されてからも工場廃水を流し続けたチッソ社は自社の無罪を証明するため、「400号」と名付けたネコに3カ月間にわたって工場廃水を飲ませる動物実験を行なっている。ネコ400号は人間の水俣病患者と同じ症状を見せたが、チッソ社はこの実験結果を公表せず、チッソ工場と水俣病は無関係であることを主張。また、チッソ社の付属病院だけでなく、熊本大学でもメチル水銀で汚染された魚をネコたちに与え続けるという動物実験が行なわれた。水俣病で苦しんでいるのは人間だけではなかったのだ。トネロット監督は水俣病研究の犠牲となったネコたち数万匹を弔う慰霊碑に手を合わせるかのようにカメラを向ける。
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ネコに鍼灸を施す獣医師・石野孝氏。
ペットの高齢化・美食化が進み、成人病の予防
は欠かせない。
 どーんと沈みきったネコ愛好家の気持ちを和ませてくれるのは、和歌山電鐵貴志川線貴志駅のスーパー駅長たま。人気者の駅長たまのお陰で、赤字ローカル線だった貴志川線は廃線を免れた。福を招く"招き猫"たまを写メに収めようと大勢の客が貴志駅を利用する。たまが駅長に就任したことによる経済効果は11億円にもなるという。芸術の国フランスではネコは自由のシンボルとして見られているのに比べ、どうも日本のネコたちは人間に対し献身的な役割を背負わされているようだ。秋田犬ハチが軍国化の進む戦前の日本で主人に尽くす"忠犬ハチ公物語"として美談化されたことを彷彿させる。  公共機関である鉄道を守っているのは、日本のスーパー駅長たまだけではない。英国鉄道では長い年月、信号ケーブルを齧るネズミを駆除するためのネコたちが公費で飼われていた。英国の鉄道員たちはネコをネズミ獲りの職人として認めていたのだ。ネコと人間がお互いに支え合った古き良き時代。しかし、90年代に英国鉄道は完全民営化され、職員の25%がリストラされたと同時に200匹の職人ネコたちも解雇された。経済効率至上主義の民営企業は、ネコたちに与えるエサ代は無駄な出費と考えたのだ。民営企業はネコのエサ代だけでなく、レールの点検作業や補修費なども省くようになり、民営化された英国鉄道では死者を出す大事故が続発。英国鉄道の民営化は失敗した、として立て直しが進められている。  自由気ままなネコの性質は、よく女性に例えられるが、米国ミネソタ州にあるホテル「キャットハウス」はちょっと妖しげ。オランダの風俗街「飾り窓」のように、さまざまなタイプの美猫たちはお客が来るのを毛づくろいしながら待っている。このホテルでは、お客は指名したお気に入りのネコちゃんと個室でひと晩、ベッドを共にすることができるのだ。自宅でネコを飼っているけど、ちょっと違う種類のネコと浮気してみたい人たちに大人気。1匹のネコを相手に3Pプレイを楽しむ夫婦もいるし、死んでしまったネコにそっくりなネコを見つけてペットロスでぽっかり開いた心の穴を塞ごうとする婦人の姿も。美しいネコたちは、それぞれ得意な仕草でお客の心をトロトロにとろかせる。  ミネソタ州の"猫のホテル"に比べ、せわしく狭苦しい印象を与えるのは、日本の猫カフェ。お気に入りのネコの喉をさすりながら、日本の若者たちは「大人になってもネコはカワイイ」「野良ネコはいやだけど、飼いネコならなってもいい」と口にする。猫カフェに押し込まれたネコたちはツメが切られ、去勢されたおとなしいネコばかり。さらに日本人はネコをペット服で着飾り、健康のために動物専用の鍼灸へ連れていく。人間を癒すために多大なストレスを抱える日本のネコたち。トネロット監督はネコは人間社会を映し出す鏡、過剰なペット・ビジネスに今の日本文化が象徴されていると感じている。  ネコをめぐる旅の最後に登場するのは、超能力ネコのオスカー。人間の死を正確に予期するというスピリチュアル系の不思議ネコだ。オスカーは米国のロードアイランド州にある認知症患者のためのホスピスで暮らしている。普段は人間にあまり寄り付かないオスカーだが、死期が迫った患者を察知すると、亡くなる約4時間前からその患者のベッドに上がり、寝ずの番をするという。認知症で家族さえ判別できなくなっている患者も、かわいいネコが自分の横で丸まっていることで苦しみが和らぐらしい。死を予告するネコと聞くと不吉に考える家族もいるんじゃないかと思うが、オスカーが病室にいることで付き添う家族の気持ちも慰められている。オスカーと共に多くの患者を看取った医者のデイヴィッド・ドーサ氏はノンフィクション本『オスカー 天国への旅立ちを知らせる猫』(早川書房)の中で、人間の体が機能しなくなることで体内にケトン体が分泌され、ケトン体の匂いをオスカーは嗅ぎ分けているのではないかと推測している。戦場では先の長くない負傷兵からは甘い匂いが漂ってくるという衛生兵の談話も紹介している。しかし、それだけではオスカーの不思議な能力は説明できない。危篤患者が2人いる場合は、オスカーは身寄りのいないコドクな患者のベッドを選ぶのだ。オスカーはホスピス内で自分がやらなくてはいけない任務を熟知しているらしい。  本作を見終わって写真家アラーキーこと荒木経惟氏の言葉が思い浮かんだ。アラーキーは人妻熟女だけでなくネコ好きでも知られる。野良ネコのいる風景を撮り続けた『東京猫町』(平凡社)はネコ好きにはたまらない写真集だ。路地裏に佇むネコたちを追った『東京猫町』の中でアラーキーは、"猫が歩いている町はイイ町なのです"と語っている。"猫が消えちゃったら東京は廃墟になっちゃうんだろーニャア"とも言う。東京から、日本から、ネコがいなくなりませんように。 (文=長野辰次)
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(c)Jerome Jouvray
『ネコを探して』 監督/ミリアム・トネロット 出演/"駅長"たま、"おくりねこ"オスカー、"鉄道員"エリカ、"カメラねこ"ミスター・リー、"お泊りねこ"ジンジャー、鹿島茂、石野孝ほか 配給/ツイン 渋谷シアターイメージフォーラムほか全国順次公開中 <http://www.neko-doko.com>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』

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原恵一監督の新作『カラフル』。一度死んだ"ぼく"の魂は、自殺した中学生・小林真の体に入り、期間限定で生き直すことになる。(c)2010森絵都/「カラフル」製作委員会
 自分の足にぴったりのシューズさえあれば、もっと地に足をつけて生きていけるのに。自分に自信が持てず、フワフワとした毎日を送る10代の少年にとって、自分に合ったシューズがあるかどうかは重大な問題なのだ。原恵一監督の新作アニメ『カラフル』はタイトルとは裏腹に、恐ろしく地味な中学生の日常生活が描かれる。直木賞作家・森絵都の原作小説は一度死んだ"ぼく"が天使に命じられ、自殺した直後の中学生として生き直すという青春ファンタジーだが、原監督はアニメーション的手法を使って色彩感覚溢れる作品に脚色することを抑えている。誰しもが体験した退屈でうっとおしい、大人と子どもの中間にあたる中学生の心の揺れ動きを丁寧にすくい取る。冴えない中学生・小林真として生き直すことになったぼくは、「足元だけでもオシャレに」とネットでレアものシューズを購入するが、すぐさま不良に取り上げられる。そんなとき、小林真の同級生・早乙女くんがイケてるシューズを揃えているディスカウント店の場所を教えてくれた。お手頃価格でお気に入りのシューズを手に入れたぼく/小林真はうれしくてたまらない。新しいシューズと早乙女くんという友達を手に入れたぼく/小林真は、学校に行く足取りも軽やかになる。中学生男子のそんな日常生活を原監督は実写さながらのリアルさで描く。 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(02)、『河童のクゥと夏休み』(07)と3作続けて高い評価を得ている原監督。『河童のクゥ』で独立するまでは、シンエイ動画に長年勤め、『ドラえもん』『エスパー魔美』(共にテレビ朝日系)などの藤子・F・不二雄原作のテレビアニメシリーズの演出を手掛けてきた。いわば藤子・F・不二雄の提唱する"SF(すこし・不思議)ワールド"の体現者だった。平凡な日常にちょっとした闖入者や時空の歪みが生じることで、愛しい風景へと変わっていく。原監督はその"平凡な日常"を描くのが抜群にうまい。日常をきちんと描くことで、ファンタジーの面白さがより生きてくる。『河童のクゥ』でも上原家の世話になる河童のクゥの居候生活を快活に描いたが、本作では日常描写にますます磨きがかかった。自殺を考えた小林真の鬱屈した生活は、観ているほうも息苦しさを覚えるほどだ。  あの世とこの世の狭間でさまよっていた"ぼく"の魂は関西弁で話す変な天使・プラプラに命じられて、自殺したばかりの中学3年生・小林真の体に入り、期間限定で生き直すことになる。でも、なんで平凡な中学生・小林真は自殺を考えたのか。小林真は勉強ができず、クラスで無視され続けている存在。友達は一人もいない。家族ともコミュニケーションが取れずにいる。唯一の心の拠りどころは美少女・ひろかだったが、想いを寄せているひろかが援助交際をしていることを知り、さらに母親が不倫している現場を目撃したことから、小林真は自殺へと走ってしまった。プラプラに小林真の暗い過去を教えられたぼくは、ため息をつくしかない。
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コンビニで買った何でもないフライドチキンも、
友達の早乙女くんと分け合って食べることで、
ぼく/小林真にとって忘れられない味となる。
 今さら他人の体と頭を使って受験勉強する気にもなれないぼくがどんよりと街を歩いていると、小林真の同級生である早乙女くんとばったり出くわす。名前はかっこいい早乙女くんだが外見はダサ系で、ぼく/小林真はこれまで口を利いたことがなかった。早乙女くんは卓球部に3年間所属しながら、万年補欠だったらしい。成績も小林真といい勝負。そんな早乙女くんは受験勉強もせずに街で何をしていたのかというと、1969年に廃線となったチンチン電車・東急玉川線(玉電)の路線跡に沿って、停留所跡をひとつひとつ訪ね歩いていたのだ。廃線めぐりとは中学生のくせに、何と渋い趣味。愛読誌は「東京人」(都市出版)か「散歩の達人」(交通新聞社)か。しかし、早乙女くんの「思い出すことで、消えてしまったモノが甦る」という言葉に、一度死んでしまっているぼく/小林真は深く共鳴する。玉電のくだりは原作小説にはない映画版のオリジナルエピソードだが、往年の玉電のモノクロ写真が挿入された途端に、それまでぼく/小林真の精神状態と重なって沈んでいたスクリーンが一気に色づいていく。ドラマ運びと演出によって、作品に色彩を施そうという原監督のこだわりに脱帽だ。  早乙女くんと知り合い、さらにシューズを一緒に買いに出掛けたことで、ぼく/小林真の冴えない日常生活にぽつんと灯りがともされる。高校なんてどうでもいいと思っていたが、早乙女くんと同じ公立高校を受験してみようという気になってくる。本作のクライマックスは、家族とコミュニケーションできずにいたぼく/小林真が、家族と夕食を囲むシーン。小林真の唯一の特技である絵の才能を伸ばすために私立高校へ進学するよう母親と兄は熱心に勧め、ぼく/小林真は家族と対立してしまう。「友達と同じ高校を受験したい」「当たり前の高校生活を送ってみたい」と主張する。ぼくの選択が正しいかどうかは問題ではなく、これまで学校に行かない、母親を無視する、自分の命を絶つ......と社会や家族に対して拒絶の形でしか自分の感情を表現できなかった小林真が初めて自分の意思を表示したのだ。家族の台詞のやりとりの中に、考え方の相違、対立、理解、笑い、そして少年が成長の階段を昇り出す鮮やかな一歩が描かれる。食卓を囲んだ家族の会話だけで作品のクライマックスを成立させてしまう原監督の力技がお見事。こんな卓越した演出力を持つ監督は、実写畑を含めても日本映画界にそうそういない。刺激的な非日常的要素をちりばめた作品が氾濫する今のアニメ界において、淡々とした日常生活が展開される原恵一ワールドの存在がファンタジーではないだろうか。  『河童のクゥ』の公開時に原監督をインタビューした。『オトナ帝国』『戦国大合戦』が絶賛された分、ハードルが高くなってプレッシャーを感じるのではと尋ねたところ、原監督は「ハードルはあったほうがいい」と答えた。「劇場版『クレヨンしんちゃん』を作りながら、次のハードルはもっと高く、もっと高くと意識するようになったんです。特に『オトナ帝国』はボクにとって転機になった作品。テクニックに頼っちゃダメ。自分にとっての切実なテーマに誠実に取り組もう。そして、切実なものはちゃんと受け取り手にも届くんだということが分かった作品なんです。だからハードルを意識することで、そのときの気持ちに立ち返ることができるんです」と原監督は語った。作品さながらに誠実さが感じられる人柄だ。  また、これだけリアルな演出ができるなら、実写の監督もやれるのではと尋ねると、「アニメではなく邦画を作っている意識なので、実写の話があれば考えないことはないですけど、自信はありませんよ(笑)。でも、やっぱりアニメならではの良さがあるんです。長年やっているのでうんざりしている部分もあるけど、実写に比べるとアニメは瞬発力が比較的求められない。実写の場合は、日が沈むまでに撮影を終わらせなくちゃいけないとか常に瞬発力が求められますからね。役者さんもひとりひとり自我がありますし。アニメにももちろん瞬発力は必要ですが、コンテを描きながら『さぁ、どうしようか』と立ち止まって考える余裕がアニメにはあるんです。まぁ『河童のクゥ』は立ち止まりすぎて、製作に時間がかかっちゃいましたけど(苦笑)」。  一本気な性格、でも飄々としてマイペース。原監督は本作の名キャラクター・早乙女くんによく似ている。また、『戦国大合戦』の"青空侍"のようでもあるし、『河童のクゥ』の犬の"オッサン"のようでもある。日本の映画界に、こんなマイペースで信頼できる監督がいてくれることが、いち映画ファンとしてうれしい限りである。  小林真としての生をまっとうしたぼくは、晴れて生まれ変わることになる。きっかけを与えてくれた天使のプラプラともお別れ。ドラえもんに依存しきっているのび太に比べ、プラプラはぼくの前に最低限必要なときにしか現れない理想的な距離を保っていた。それも早乙女くんという友達ができてからは、プラプラはほとんど姿を見せなくなる。西原理恵子原作『いけちゃんとぼく』(09)では、父親を亡くした少年を"イマジナリー・フレンド"のいけちゃんが優しく見守る。ネコ型ロボットのドラえもんも天使のプラプラも一種のイマジナリー・フレンドと言っていいだろう。少年が大人へと成長していくと、イマジナリー・フレンドは消滅する運命にある。しかし、それは悲しい別れではなく、祝福されるべき別れなのだ。 (文=長野辰次) color03.jpg 『カラフル』 原作/森絵都 脚本/丸尾みほ 監督/原恵一 声の出演/冨澤風斗、宮崎あおい、南明奈、まいける、入江甚儀、藤原啓治、中尾明慶、麻生久美子、高橋克実 配給/東宝 8月21日(土)よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー公開 <http://colorful-movie.jp>
河童のクゥと夏休み 【通常版】 [DVD] 「泣ける大人アニメ」ですって。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』

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いかがわしい宗教セミナーではなく、80~90年代に実在した米軍
"超能力部隊"のトレーニング風景。みんなで断食、瞑想、自己解放ダンスに励んでます。
(c)Westgate Films Services,LLC.All Right Reserved.
 細木数子がテレビから消えたと思ったら、お次はパワースポットブーム。日本人は、スピリチュアルねたが大好き。もちろん米国にもそちら系の信仰者は少なくないわけで、米国陸軍には"第一地球大隊"という名称の超能力部隊が80~90年代に実際に存在したそうだ。じっと見つめるだけで、ヤギの心臓が止まってしまう恐ろしいサイキックソルジャーも所属していたというからスゴい! 2004年に出版された『実録・アメリカ超能力部隊』(文春文庫)は、英国のジャーナリストであるジョン・ロンスンが"第一地球大隊"の関係者たちを取材して回ったノンフィクション小説。70年代末から準備がすすめられた"第一地球大隊"のプロジェクトは、当時大ヒット中だった映画『スター・ウォーズ』(77)にちなんで"ジェダイ計画"と命名され、戦わずして世界を平和に導くスーパー戦士の育成に力を注いだという。この本にオカルト雑誌『ムー』(学研)の読者ムー民よりも早く飛びついたのが、ハリウッドの大物俳優ジョージ・クルーニー。自ら主演&プロデュースを買って出て、『スター・ウォーズ』シリーズでおなじみユアン・マクレガーや、ジェフ・ブリッジス、ケヴィン・スペイシーら実力派キャストを集めて、『THE MEN WHO STARE AT GOATS』(邦題『ヤギと男と男と壁と』)として映画化した。   03年、ミシガン州の地方紙記者ボブ(ユアン・マクレガー)は妻の浮気を知り、傷心を抱いたまま、戦時下のイラク取材を志願。道中のホテルで米国人リン・キャシディ(ジョージ・クルーニー)と知り合う。この男こそ、超能力部隊に所属し、"ヤギ殺し"として恐れられたサイキックソルジャーだったのだ。自分はジェダイ戦士であると名乗るリンによると、「世界の紛争地にパラシュートで降り立ち、キラキラ目線や平和の象徴である音楽や小動物を使って争いを解決すること」がジェダイ戦士の使命だそうだ。なんだかな~。キラキラ目線とは、ニッコリ微笑むだけで相手の戦意を喪失させてしまうジェダイ戦士の必殺技。その他、ジェダイ戦士は必要とあれば、自分の姿を相手から見えなくすることも、壁を通り抜けることも可能らしい。出会ってすぐは「特ダネ、いただき!」とリンにすり寄ったボブだが、もうこのへんの話になると呆れて返す言葉もない。  自分こそは超能力戦士と信じて疑わないリンと半信半疑で行動を共にすることになったボブとのロードムービーとして展開する本作だが、角川春樹プロデューサーの半自伝的アニメ『幻魔大戦』(83)や"幸福の科学"が製作した宗教戦争アニメ『仏陀再誕』(09)みたいなド派手なサイキックバトルを期待していると肩すかしを食らうので用心のほどを。『幻魔大戦』や『仏陀再誕』の実写版というよりは、『ゴーマニズム宣言』で知られる小林よしのりの初期の人気作『異能戦士』に近い、脱力系コメディなのだ(本筋から脱線するが、『異能戦士』はヒロインの知世ちゃんが超ラブリーだった。石原さとみ主演で誰か実写化してくれないだろうか)。
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リン(ジョージ・クルーニー)は見つめただけ
でヤギを殺せる恐るべきサイキック兵士だった。
多くの動物たちが超能力実験の犠牲となっている。
合掌......。
 映画の中でも描かれるが、このトンデモ系超能力部隊が80年代に発足したのは、ベトナム戦争で米国が深いキズを負ったという社会的背景があった。ベトナムに従軍した新兵のうち80~85%は敵兵に遭遇しても忙しいふりをして発砲しないか、もしくは標的に当たらないように射撃していた。そして残りの15~20%のうち、2%はもともと戦場に着く前から精神的に問題があった人間で、そうでなかった兵士たちは敵兵を殺すことを目的で射撃した自分の行為に苦しみ続けたという調査結果が出ている。『実録・アメリカ超能力部隊』の中心人物であるジム・チャノン中佐もベトナムから帰還後に鬱病を患うが、その後ニューエイジ思想にどっぷり浸かり"敵を武力で傷つけることない愛と平和の軍隊"としての超能力部隊の設立を軍の上司に申請する。折しもソ連の超能力兵士が念力による大統領暗殺を企んでいるという噂が米軍上層部の耳に入り、ジェダイ計画にGOサインが出たという経緯があった。  超能力部隊の初代隊長を務めたジム・チャノン役に劇中であたるのが、ジェフ・ブリッジス演じるビル・ジャンゴ陸軍小隊長。映画ではベトナム従軍中に銃撃された際に「優しさこそが武器なのです」という天の啓示を受けたことから一念発起し......というくだりがあるが、ここらへんのエピソードはデイヴィッド・モアハウス著『CAI「超心理」諜報計画 スターゲイト』(翔泳社)に同じような記述がある。『スターゲイト』は米国のCIAにやはり実在したエスパー捜査官による自伝もの。レインジャー隊員だったモアハウスはヨルダンでの演習中に流れ弾が頭を直撃。命に別状はなかったが、このとき天使たちと出会い、「平和を追求しなさい、平和を教えなさい」との啓示を受けたそうだ。その後、幻覚や悪夢を度々見るようになったモアハウスは軍の命令でCAIの遠隔透視諜報計画「スターゲイト」に参加し、遠隔視(リモート・ビューイング)の第一人者となる。遠隔視とは、いわゆる透視能力のこと。遠く離れたターゲットに意識を集中することで、幽体離脱した状態となり、ターゲットに自在に接近できるという。モアハウスは行方不明者の安否、ドラッグを密輸する船の所在地、組織内にいるスパイは誰かなどを次々と当てただけでなく、過去や未来、さらには火星まで旅行したそうだ。  遠隔視できたら、憧れのアイドルの部屋なんか覗き見放題でウハウハじゃんと思いがちだが、リモート・ビューアーになると見たくないものまで見えてしまうので、精神科のお世話にずいぶんとなるらしい。人並みはずれた能力があるというのは、それはそれでまた大変なんスね。それでもアナタは、アイドルの部屋を覗き見したいですか?  さて、超能力部隊は過去の話かと思いきや、原作者ジョン・ロンスンによると超能力部隊の作戦マニュアルにあった"音楽を一種の心理的拷問として利用する"というアイデアは9.11同時多発テロ以降も米軍で継承され、イラク戦争で捕虜となったイラク兵たちにメタリカなどのヘビメタ音楽、さらには子ども向けのアニメソングやセサミストリートの曲をエンドレスで聞かせ自白を迫るなどの拷問が行なわれたそうだ。また、このニュースが流れた際に、米国内では「なぜ『タイタニック』の主題歌を使わないのか」「楽曲の使用料はどうなるのか?」といった意見が飛び交ったとのこと。  最後に本作の邦題について。原題は原作本と同じく『THE MEN WHO STARE AT GOATS(ヤギを見つめる男たち)』だが、CSチャンネル『千原ジュニアの映画製作委員会』の番組内で千原ジュニアの考えた『ヤギと男と男と壁と』なる覚えにくく、口にしにくい邦題が付けられている。この邦題、今から超能力でどうにかならないだろうか? (文=長野辰次) yagi03.jpg 『ヤギと男と男と壁と』 原案/ジョン・ロンスン『実力・アメリカ超能力部隊』 監督/グラント・ヘスロヴ 出演/ジョージ・クルーニー、ジェフ・ブリッジス、ユアン・マクレガー、ケヴィン・スペイシー、スティーヴン・ラング、ロバート・パトリック 配給/日活 8月14日(土)よりシネセゾン渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー公開 <http://www.yagi-otoko.jp/>
実録・アメリカ超能力部隊 まじっすか!? amazon_associate_logo.jpg
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