美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』

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同名ライトノベルを映画化した『魔法少女を忘れない』。
ピースサインする谷内里早、メガネっ娘に扮した森田涼花、
2人の美少女の魅力が弾ける。
(C)しなな泰之/集英社・『魔法少女を忘れない』パートナーズ
 あまりに美しい夕焼け空や満天の星空を眺めていると、もうすぐあの世からお迎えが来るんじゃないか、世界の終わりが近づいているんじゃないかみたいな錯覚に襲われる。人間は自分のキャパシティーを超えた美しいものに遭遇すると、うれしさを通り越して泣き出したくなる。現在公開中の『魔法少女を忘れない』は、あまりにキュートすぎる魔法少女(正確には元魔法少女)に出会ってしまった普通の高校生の切ない青春映画だ。同名ライトノベルを原作に、『妄想少女オタク系』(07)で腐女子の青春を描いた堀禎一監督が10代の少年少女の放つ一瞬の輝きを丹念にカメラに収めている。  高校生の悠也(高橋龍輝)の家に、ひとつ年下の妹・みらい(谷内里早)がやってきた。悠也は妹のことはよく知らない。唯一分かっていることは、彼女は"魔法少女"、正確には"元魔法少女"だということ。もう魔法を使うことも、空を飛ぶこともできないらしい。なぜ、ひとりっ子の悠也の妹に突然なったのか細かい経緯は不明だが、そこは元魔法少女なので、何か不思議な力が働いたのかもしれない。いずれにしろ普通の高校生だった悠也の日常が、元魔法少女の妹ができたことで全く違った風景へと変わる。それは妹のみらいにとっても同じだった。魔法少女として孤独に生まれ育ったみらいには温かい家族の記憶がない。初めてできた家族である兄の悠也に生まれたてのヒヨコのようになつき、何でもない当たり前の食事や高校への登下校が楽しくてたまらない。ずっとひとりぼっちだった元魔法少女にとって、人間の兄と過ごす日常生活は特別に愛しいものなのだ。
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小動物系の愛くるしい笑顔をみせる"元魔法
少女"みらい(谷内里早)。ツインテールが
たまらんです。
 みらいは魔法は使えないが、そのイノセントな笑顔でたちまち学校中の人気者になる。悠也の親友・直樹(碓井将大)は、みらいにぞっこんだ。夏休みになり、悠也は直樹たちと一緒に海水浴に繰り出す。幼なじみの千花(森田涼花)とも現地で合流する。おニューの水着を着て、波打ち際ではしゃぐ千花、みらいたち。引率の希美先生(前田亜希)はそんな彼女たちを遠い目で見つめる。絵に描いたような、あまりに美しい青春のひとコマだ。でも、映画を観ている人間は経験則で知っている。青春映画の中であまりに美しいシーンがあると、その後には残酷な運命が待ち受けていることを。  "魔法少女"には哀しい定めがある。人間社会で暮らす"魔法少女"は魔法少女を卒業して、普通の少女になる際に、人間の記憶から消えてしまわなくてはならないのだ。みらいはすでに"元魔法少女"なので、間もなくみんなの記憶から消えてしまうカウントダウン状態にある。昔、再放送で見たアニメ『魔法使いサリー』の最終回のように、みんなの記憶の中から魔法少女は存在しなくなってしまうのだ。みらいを忘れてなるものかと、悠也たちは忘れられない強烈な思い出を残そうと努める。そして、その思い出を写経するかのように懸命に白いノートに書き込む。みらいにコクって振られた直樹は、そんな辛い体験さえもノートに刻みつける。悠也を巡って、ビミューな三角関係にある千花も、みらいと過ごした時間を必死でノートに記録する。みらいの思い出がみんなの心から消えてしまうということは、すなわち元魔法少女の死を意味するからだ。そして元魔法少女の死は、イノセントな季節の終わり=青春時代の終焉でもある。
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"委員長"のあだ名で呼ばれる優等生の千花
(森田涼花)。なぜか時代劇口調で話すユニ
ークちゃんだ。
 元魔法少女みらいを演じた谷内里早は、トミーこと俳優・国広富之の次女で、ティーン向けファッション誌「ピチレモン」のモデルとして活躍した1993年12月生まれの美少女だ。悠也の幼なじみで、いつも時代劇風の口調で話す千花は、アイドリング!!!11号としてデビューし、SFアクション映画『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』(10)で大活躍してみせた1992年9月生まれの森田涼花。ツインテール姿で、「お兄ちゃん、よろしくね」と真っすぐな目線であいさつする谷内、いつもは優等生然としているものの、浅瀬で溺れかかってしまうなどチグハグな脆さを垣間見せる森田。10代の少女ならではの2人の輝きが、脳裏に焼き付いて離れない。  4月23日、池袋のテアトルダイヤでの初日舞台あいさつを終えた堀監督にコメントをもらった。10日間という限られた期間でのオール福岡ロケで撮影された本作は、若手キャストの魅力を活かすために、演出らしい演出はしなかったという。 「(キャストが決まって)2度目に会ったとき、彼女たちはちゃんと原作小説を読んできていて、それぞれ自分たちなりにキャラクターについて考えてきていたんです。なら、それを信じてみようと。10代の彼女たちの考えたものを信じてみようじゃないかと思ったんです。大人の俳優を演出する場合は、こちらの仕掛けたものと俳優の持っているものとの間で火花が起きて、そこから面白いものが生まれる可能性があるけれど、若い彼女たちの場合はそのままのほうが魅力が活かせるんじゃないかと考えたんです。まぁ、このやり方は1回しか通用しないものですけどね」  一生に一度の輝きをカメラに収めるために、あえて"1回しか通用しない演出"を施したということらしい。また、元魔法少女と人間が共存する不思議な世界観をすんなり受け入れた若いキャストたちの感性の柔軟さも堀監督は評価している。
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『翔んだカップル』(80)『ごめん』(02)
と青春映画には自転車が必須アイテム。
何でもない登下校シーンがキラキラと輝く。
「昭和世代のボクとは違って(堀監督は69年生まれ)、若い彼女たちの前には異なる風景が広がっているように感じますね。彼女たちの目に映っている世界は前向きなもの、希望を感じさせるものだと思います。彼女たちが女優として大成するかどうかは、今後の彼女たち次第でしょうが、彼女たちと一緒に現場を過ごせて、とても楽しかった。監督として、本当に幸せな時間でしたね」  劇中、悠也とみらいが自転車に乗るシーンが度々登場する。悠也もみらいもガムシャラにペダルを漕ぐ。それは、まるで記憶の糸車を懸命に紡いでいるかのようだ。彼らが上映時間1時間35分の中で紡いでみせたものは、一生に一度しか放つことのできない青春の輝きが織りなす黄金のタペストリーだ。そして完成したてのタペストリーは"空飛ぶ絨毯"と化して、原作小説とは異なる世界へと飛んで行く。『魔法少女を忘れない』は、作品そのものが魔法のような映画だ。 (文=長野辰次) mahou05.jpg 『魔法少女を忘れない』 原作/しなな泰之 脚本/中野太、ますもとたくや 監督/堀禎一 主題歌/JURIAN BEAT CRISIS「キミといた証」 出演/高橋龍輝、谷内里早、森田涼花、碓井将大、前田亜希、伴大介 配給/テレビ西日本、SPOTTED PRODUCTIONS 4月23日より池袋テアトルダイヤほか全国順次公開中 <http://maho-shoujyo.jp/>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』

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演奏力に難があるものの、"理想の女性"ラモーナへの愛情パワーで、
スコット(マイケル・セラ)はバンドバトルを勝ち抜いていく。
(c)2010universal studios.AII RIGHTS RESERVED
 真実の愛を求めて、さまよい続ける現代のピルグリム(巡礼者)たちの物語である。表向きはアクションコメディというスタイルをとっているが、ギャグと恋愛バトルの狭間に意外な深遠さが潜む。小難しい心理学用語や哲学用語を使うことなく、もっと身近なロックやビデオゲームをモチーフに、生身の人間を愛するがゆえに悩み、傷つきながらも、現実の世界に向き合うことを覚えていくオタク青年たちの姿が描かれる。それがエドガー・ライト監督の『スコット・ピルグリムvs.邪悪な元カレ軍団』だ。『スーパーバッド 童貞ウォーズ』『JUNO/ジュノ』(07)でヘタれ青年を演じたら全米いちの座に輝いたマイケル・セラを主演に起用し、レディオヘッドのプロデューサーとして知られるナイジェル・ゴッドリッチが音楽を担当、主人公たちのバンドの劇中曲をベック(ベック・ハンセン名義)が作曲。ゴージャスな"サブカル・オペラ"とでも称すべき世界が広がる。  エドガー・ライト監督というと、ゾンビ映画に胸いっぱいの愛を注ぎながらも、ダメ男同士の泣かせる友情ものに仕立ててみせた『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04/日本ではDVDスルー)で注目を集めたイギリスの俊英。続く『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(07)は、『男たちの挽歌』(86)、『ハートブルー』(91)といったB級アクション映画への限りない愛情の結晶体として作られ、国籍を問わず世界中で大ヒット。08年に日本でも遅ればせながら劇場公開された。その後、"映画オタク"の兄貴分であるクエンティン・タランティーノ監督の豪邸に居候するなど米国で活動するようになり、本格的ハリウッド進出第1作となったのが『スコット・ピルグリムvs.邪悪な元カレ軍団』。本作にもB級映画と同じくらいエドガー監督が大好きなロック、コミック、ビデオゲームへのディープな愛が隅々にまで詰まっている。川島なお美の体はワインでできているそうだが、エドガー監督は骨の髄までサブカル魂が宿っているのだ。
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NYからトロントにやってきたラモーナ(メア
リー・エリザベス・ウィンステッド)。
彼女をゲットするには7人の元カレを倒さ
なくてはいけない。
 トロントに住む22歳のスコット・ピルグリム(マイケル・セラ)が主人公。無職で、ホモホモな友達のアパートに居候している身だが、ロックバンド"セックス・ボブオム"のベーシストとして地元のライブハウスで地道に活動中。最近は17歳の中国人女子高生ナイブス(エレン・ウォン)と交際を始め、ゲームセンターで「ニンジャ ニンジャ レボリューション」を一緒に楽しむという、それなりにリア充生活を送っていた。ところがNYから来た"運命の女性"ラモーナ(メアリー・エリザベス・ウィンテッド)と出会ったことから、スコットのハッピーでサイアクな日々が始まる。ムリめな女ゆえに、玉砕覚悟でデートを申し込んだら、あっさりとOK。どうやら、ラモーナは失恋の痛手を冷ますため、トロントにやってきたらしい。ナイブスというガールフレンドがいながら、スコットは有頂天。ベース演奏も好不調の波が激しすぎ。そんなスコットを脅かすのが、ラモーナが過去に付き合った7人の元カレたちの存在だった。ま、美女と付き合うなら、誰しも気になる存在ですな。自分は果たしてラモーナの元カレたちよりイケてるのか? メジャーバンドで活躍するトッド(ブランドン・ラウス)やテクノユニットのカタヤナギ・ツインズ(斉藤祥太、斉藤慶太)、売れっ子音楽プロデューサーのギデオン(ジェイソン・シュワルツマン)らラモーナの元カレたちとタイマン勝負するハメに陥る。現代は決して平穏な時代ではない。イイ女を巡って、男たちが競い合う恋愛戦国時代なのだ。  『ホット・ファズ』の日本公開時に来日したエドガー・ライト監督にインタビューする機会があった。エドガー監督の生まれ育ったイングランドの田舎町は、それこそ『ホット・ファズ』に出てくる『ウィッカーマン』(73)の孤島みたいな超保守的な町で、エドガー監督にとっては映画、ビデオゲーム、コミック、ロックに触れているときだけが自由に息をしていられる瞬間だったそうだ。妄想オタク少年だったエドガー監督は、やがて8ミリカメラやビデオカメラを使って、自分の理想世界を映像として表現する術を身に付けていく。『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ホット・ファズ』は過去のB級映画のオマージュシーン満載なコメディ映画だが、根底には閉塞的な現実を脱して、自分が生きるための居場所を切り開きたいというエドガー監督の切実さが礎石のようにがっちりと埋め込まれている。
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スコットを一途に想い続ける中国
人女子高生のナイブス(エレン・
ウォン)。『らんま1/2』の中国娘
シャンプーが元ネタか?
 エドガー監督は、人気UKバンド・アッシュの元ギタリスト、シャーロット・ハザレイの元カレとしても知られる。彼女にくっついて、2005年のFUJI ROCK FESTIVALに来たのが初来日だったらしい。クールな美人ギタリストとオタク系の映画監督という不思議な組み合わせの2人がどんな交際を重ねていたか詳細は不明だが、本作は原作があるとはいえ、オタクな主人公スコットはどこかエドガー監督自身を彷彿させる。狭い音楽業界で彼女の元カレたちに度々出くわす展開は、エドガー監督の実体験も少なからず投影されていることだろう。  さて、スコットはヘタれ男のくせに、"高嶺の花"ラモーナと"アジアの純真"ナイブスを二股してしまう。高橋留美子の人気コミック『めぞん一刻』や『うる星やつら』を思わせる設定だなぁと思っていたら、どうもカナダ在住の原作者ブライアン・リー・オマリーが高橋留美子のファンらしい。それにしてもスコットから棄てられてしまう女子高生ナイブスが、たまらなくキュートじゃないか。ダサ男から二股掛けられた上に、一方的に別れを告げられるという二重の屈辱を味わいながらも、彼に振り向いてもらおうと健気に体を張る。「自分が好きになった人は自分のことを無条件で愛してくれる」と思い込んでいるイノセントな存在のナイブスが、スコットに傷つけられながらも大人の女に成長していく様が本作の大きな大きなサブテーマでもある。  ラストシーン、スコットたちの動向を見守っていた観客にとっては「えっ?」と驚かせる結末が待っている。人を愛すること、幸せをつかみとることは、時として他の人を傷つけることもある。生きるということは、人を傷つける痛みも自覚した上で、次のステージに進まなくてはならないということ。『スコット・ピルグリム』は従来のラブコメ映画が描いてきた甘い甘いハッピーエンドとは異なる、リアルな心の痛みを観た者に残す。ハッピーだけど、どこか心の片隅はブルー。現代のピルグリムたちの巡礼の旅は続く。 (文=長野辰次) sukopi04.jpg 『スコット・ピルグリムvs.邪悪な元カレ軍団』 原作/ブライアン・リー・オマリー 脚本/マイケル・バコール&エドガー・ライト 監督/エドガー・ライト 出演/マイケル・セラ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、キーラン・カルキン、クリス・エヴァンス、アナ・ケンドリック、アリソン・ビル、ブランドン・ラウス、ジェイソン・シュワルツマン、エレン・ウォン、斉藤祥太、斉藤慶太 ユニバーサル映画作品 配給協力/パルコ+アステア 4月29日(金)より渋谷シネマライズほか全国順次公開 <http://www.scottpilgrimthemovie.jp>
めぞん一刻 1 新装版 元ネタ? amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』

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精神病院に隔離された5人の少女たちは、"妄想力"を武器に現実世界に戦いを挑む。
(C)2011 WARNER BROS. ENTERTAINENT INC. AND LEGENDARY PICTURES
 天使なんか、この世にいない。少女はそうつぶやく。天使が助けてくれないなら、自分で自分を救うしかない。自分自身が天使になって、戦うしかない。ザック・スナイダー監督の新作『エンジェル ウォーズ』は精神病院に閉じ込められた少女が、唯一の持てる武器"妄想力"によって現実世界に戦いを挑むファンタジーアクションだ。少女の頭の中で紡がれた神話的ストーリーが空想と現実を隔てた分厚い壁をこじ開ける。セーラー服の少女に襲い掛かる巨大な鎧武者、第一次世界大戦の戦場に突如現われるモビルスーツ、火を吐くドラゴンと大型戦闘機との空中戦......実写とCGが融合した妄想世界を、『300〈スリーハンドレッド〉』(07)、『ウォッチメン』(09)で成功を収めたスナイダー監督が誰にも気兼ねすることなく思う存分に描いた。  主人公のベイビードール(エイミー・ブラウニング)は最愛の母を病気で失い、嘆き悲しんでいた。ずっと天使に祈りを捧げていたのに、自分の祈りは通じなかったのだ。母がいなくなった後の現実世界では、母が死んだ衝撃以上の試練が待っていた。色欲まみれの継父は、ベイビードールと幼い妹を手込めにしようとする。ベイビードールが身を守るために手にした拳銃から飛び出した弾丸は、非情にも継父ではなく妹に命中してしまう。天使なんか、どこにもいない。ベイビードールは精神病院の隔離病棟に送り込まれ、5日後にはロボトミー手術(前頭葉切除)を受けることになる。  精神病院に足を踏み入れた時点から、ベイビードールの妄想はすでに始まる。病院職員への絶対服従を強いられる隔離病棟が、現実を受け入れられないベイビードールには妖しい売春宿に映る。家族を失った自分は売春宿に売り飛ばされ、5日後には大富豪とベッドを共にしなくてはならないと思い込む。売春宿には大きな舞台があり、娼婦たちはそこでダンスを披露し、男たちに選ばれていくのだ。ダンスの腕前を見せるように命じられたベイビードールは目を閉じ、流れる音楽に合わせてイマジネーションを膨らませる。そこには誰も見たことのない世界が広がっていた。空想の世界で、ベイビードールはセーラー服姿の戦士に変身し、悪しき者たちと戦う。そして賢者(スコット・グレン)から「5つのアイテムを手に入れれば、この世界から解放される」という啓示を授かる。同じ閉鎖病棟に入院しているスイートピー(アビー・コーニッシュ)ら4人の少女たちも、ベイビードールの発する波長と同調し、5つのアイテムを求めて共に戦う。
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ベイビードール(エミリー・ブラウニング)は
自由を勝ち取るため、5つのアイテムを求めて
戦い続ける。
 リメイク作『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)で監督デビューし、『300』『ウォッチメン』とグラフィックノベルの映画化でヒットメーカーの仲間入りしたザック・スナイダー監督にとっては、初のオリジナルストーリーとなる。ベイビードールたちが舞い降りる戦場は、日本の寺院だったり、ゾンビ兵士がうようよする第一次世界大戦時ふうの塹壕だったり、懐かしい未来社会だったりと、限りなくコミックやゲームの世界に近い。モビルスーツのデザインは日本のアニメに影響されたそうだ。押井守監督のメタフィクション的空間の中で、井口昇監督っぽい妄想トレインがハリウッド予算を燃料に大暴走するという趣きとなっている。ご都合主義な展開が繰り広げられるが、そこは少女の妄想ワールドなので全然OKなのだ。といっても、ただの妄想バカ映画では終わらず、"フィクションの持つ力は現実を変えることができるか"という映画が抱える普遍的テーマが主軸となっている。  非力な少女が空想力を武器に現実と戦うという設定には、ギレルモ・デル・トロ監督の代表作『パンズ・ラビリンス』(06)がある。『パンズ・ラビリンス』はスペイン内戦を時代背景に、ファシズムを受け入れない少女が自分の生み出した空想世界に殉じていく哀しい物語だった。『エンジェル ウォーズ』はロボトミー手術が盛んに行なわれていた1960年代の精神病院が舞台となっているが、このフェンスで覆われた隔離病棟は、未来という出口の見えない現代社会のメタファーだろう。閉鎖病棟で職員たちに抑圧されているベイビードールたちは、生きづらさを抱える現代の若者の姿でもある。  自分のやりたいことをやろうとすれば、協調性のない非社会的人間との烙印を押され、周囲に合わせていると個性がない、自主性がないと罵倒される。マジメで純真な人間ほど、実社会に出るとボロボロにされてしまう。嫌でも自分の殻に篭らざるを得ない。劇中でベイビードールがとった行動は妄想から生み出されたものであって、社会的ルールから逸脱したものだ。しかし、ベイビードールがイマジネーションを武器に、己の殻をブチ破って現実世界に突破口を開こうとする姿勢は、同じ病棟で息を潜めていた他の少女たちに生きる希望を与える。
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ベイビードールの見る空想世界は現実と密接に
リンクしている。彼女の目には、病院のセラピ
ストが売春宿のボスの愛人に映る。
 ベイビードールたちが暴れ回る狂気の世界を見ていると、一人のアーティストの名前が思い浮かぶ。"アウトサイダー・アート"の代表的作家であるヘンリー・ダーガー(1892~1973)だ。ヘンリー・ダーガーは不幸な生い立ちの中で、きちんと絵画を学ぶ機会も環境も与えられなかったが、清掃員として働いた後はアパートの自室に篭り、1万5,000ページにも及ぶ世界最長の絵物語『非現実の王国で』を60年以上にわたって描き続けた。"非現実の王国"では"ヴィヴィアン・ガールズ"と名付けられた男性器を持つ美少女たちが無慈悲な大人たちを相手に壮絶な戦いを繰り広げた。ヘンリー・ダーガーが部屋いっぱいに溜め込んだ膨大な量の作品群は、最晩年にアパートの家主が気づくまで誰にも知られず、まったく世間に評価されることがなかった。だが、ヘンリー・ダーガーは"非現実の王国"でヴィヴィアン・ガールズと共に戦場を駆け巡っていたのだ。歴史上のどんな英雄よりも、過激で情熱的な生涯をヘンリー・ダーガーはアパートの一室で過ごしている。もしかするとベイビードールたちが活躍する戦場は、ヴィヴィアン・ガールズたちが戦う"非現実の王国"とどこかで通じているかもしれない。  ベイビードールの破天荒な行動は、ついに現実世界でひとつの奇跡を呼び起こす。そしてベイビードールの戦いは、映画が終わっても幕が降りることはない。なぜなら、映画を観た観客の頭の中で、ベイビードールの新しい戦いが始まるからだ。ザック・スナイダー監督は、ひとりの少女が天使になる瞬間を描いている。 (文=長野辰次) angelwars04.jpg 『エンジェル ウォーズ』 脚本・監督・製作/ザック・スナイダー 脚本/スティーブ・シブヤ 出演/エミリー・ブラウニング、アビー・コーニッシュ、ジェナ・マローン、バネッサ・ハジェンズ、ジェイミー・チャン、カーラ・グギーノ、オスカー・アイザック、ジョン・ハム、スコット・グレン 配給/ワーナー・ブラザース映画 4月15日(金)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー <http://www.angelwars.jp>
ウォッチメン スペシャル・エディショ こういうヒーロー、マジで切望。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦

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彼氏がきっかけで"神聖かまってちゃん"にハマる高校生の美知子(二階堂ふみ)。
『ガマの油』(09)でヒロインを演じた新進女優だ。
(c)2011『劇場版 神聖かまってちゃん』製作委員会
 ネット配信時代のカリスマバンド・神聖かまってちゃんをフィーチャリングした新感覚の群像劇『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』が現在、渋谷シネクイント、下北沢トリウッド、ポレポレ東中野で公開中だ。ドラマ部分の撮影は、わずか10日間。そのうち神聖かまってちゃんのメンバーの撮影は3日間のみ。『SRサイタマノラッパー』(09)でインディーズ映画ならではの闘い方を示した入江悠監督が、メジャー系の監督なら匙を投げてしまうようなタイトなスケジュールの中で映画化してみせた。脚本は18稿に及び、1~2月に撮影。3月28日に完成し、31日に初号&完成披露試写、4月1日にシネクイントにて先行上映、4月2日から一般公開という怒濤の早業で、昨年メジャーデビューを遂げた神聖かまってちゃんの孕む熱気をそのまま映画に取り込んでいる。  映画『ロックンロールは鳴り止まないっ』は音楽ドキュメンタリーではなく、神聖かまってちゃんというリアルな存在を含んだ劇映画だ。かまってちゃんのライブ1週間前から物語は始まる。プロの棋士を目指す高校生の美知子(二階堂ふみ)は兄が自室に引きこもり、両親は美知子に大学進学を強要するなど家庭内はぎくしゃくしている。そんなとき、彼氏からかまってちゃんのライブに誘われ、予習用にとCDを渡される。付き合いで何となく聴き始めた美知子だが、やがてかまってちゃんの曲は将棋盤上で日々闘う美知子の心のテーマソングとなっていく。ところがライブの日は、将棋のアマ王座決定戦と被ることが発覚。彼氏との約束か、自分の夢への第一歩かで、美知子の心は大きく揺れる。  一方、かおり(森下くるみ)はショーパブでダンサーとして働くシングルマザー。ひとり息子の涼太(坂本達哉)はかまってちゃんの「芋虫さん」の動画にハマっており、幼稚園でもノートパソコンを手離さない。幼稚園のお友達たちも「死にたいな~、生きたいな~♪」と「芋虫さん」の歌詞を涼太と一緒に口ずさむようになったことから、かおりは幼稚園の園長から厳重注意を受ける。仕事と子育てで、かおりの頭と体はパニック寸前だ。
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"神聖かまってちゃん"のボーカル・の子。
過去のイジメ体験や未来への不安を率直に歌い、
非リア充な人々に絶大な人気を誇る。
 そしてもうひとりの主人公が、かまってちゃんのインディーズ時代からのマネジャーであるツルギ(劔樹人本人)。音楽業界30年のベテランプロデューサー(堀部圭亮)から、かまってちゃんの代表曲「ロックンロールは鳴り止まないっ」を引きこもりへの応援ソングとしてキャンペーン用にアレンジし、大々的に売り出していこうと持ち掛けられ、ツルギは大いに悩む。応援ソングに使われれば、CDの売上げは100万枚、武道館でのライブも確実、年末には『紅白歌合戦』にも出場できるという。すでに、キャンペーン用のポスター案まで大手広告代理店によって作られている。ツルギはキャンペーンの件は伏せて、かまってちゃんのメンバー、mono、ちばぎん、みさこに相談すると、「そりゃ、武道館でライブしてみたいですよ」「CD100万枚売れれば、いいですよね」と率直な答えが返ってくる。でもねぇ、キャンペーン用に分かりやすい歌詞に変え、聴きやすくアレンジして大ヒットさせることが、果たしてかまってちゃん的な幸せなのか? ツルギは悩み続ける。そしてライブ当日、美知子、かおり、涼太、ツルギは、それぞれ違った立ち位置から、かまってちゃんと向き合うことになる。  ライブハウスのステージ上では、かまってちゃんのボーカル・の子が「ロックンロールは鳴り止まないっ」を絶唱する。2010年9月に渋谷AXで行なわれた伝説のライブだ。高校生の美知子にとってのビートルズやセックスピストルズとは何か? シングルマザーのかおりにとってのロックンロールとは? 涼太ら幼稚園児にとってのdo daとは? そして、音楽業界で生きるツルギにとってのかまってちゃんとは? それぞれの心の中で「ロックンロールは鳴り止まないっ」が響き渡る。
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昼は清掃員、夜はショーパブで働くシングル
マザーのかおり(森下くるみ)。いつまで
体を張って働けるのか、不安を隠せない。
 映画『ロックンロールは鳴り止まないっ』のプロデューサーのひとりである大槻貴宏氏は、都内のミニシアター、下北沢トリウッドとポレポレ東中野の支配人でもある。公開初日の前夜である4月1日にはシネクイントでの先行上映と共に、ニコニコ動画での有料配信も行なった(先行上映と有料配信の収益は、東日本大震災の義援金に充てられる)。動画配信は大槻支配人が強くプッシュしたそうだ。従来の映画は、劇場公開の後、一定期間を置いてからDVD化なりネット配信されるものだったが、今回はまず動画配信し、劇場公開するという逆パターンに挑んだことになる。ニコニコ動画やYouTubeから人気に火がついた神聖かまってちゃんだからこその試みだ。  「ネット配信することで、劇場に足を運ぶお客さんは減る可能性はあります。でも中には、やっぱり映画館のスクリーンで見たいという熱心なファンもいれば、客席で他の人たちと一緒になって見ることで映画の面白さを知る若いファンもいると思うんです」と大槻支配人は語る。今回の試みは、「映画館=映画を上映する場所」という固定観念から、「映画館=情報を発信する場所」と改めて定義づけし直したことになる。大槻支配人はさらに言う。「ミニシアターブームは90年代で終わり、ミニシアターは従来の意味での役割はすでに終えたのかもしれません。でも、いつまでも過去を振り向いていられない。新しい時代に向かって進んでいかないとね」  4月1日に予定されていた神聖かまってちゃんの両国国技館でのワンマンライブが震災の影響で中止になったこともあり、映画も公開を延期し、きちんとプロモーションをやった上で上映したほうがいいのではという声もスタッフから出ていたそうだ。でも、映画『ロックンロールは鳴り止まないっ』は"3.11"直後の今、公開する意味のある作品だろう。"3.11"はそれまでの常識やシステムがもう通用しないことに薄々気づいていながらも無難にやり過ごそうとしていた日本人の受け身の思考を粉々に打ち砕いた。今までのスタイルにしがみついていては、明日は見えてこないし、今日を生きていけない。自分にとって本当に大切なものは何か? 自分の心を心底震わせてくれるものは何か? 映画『ロックンロールは鳴り止まないっ』は極ごくシンプルなテーマを投げ掛けてくる。 (文=長野辰次) ●『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』 監督・脚本・編集/入江悠 劇中歌・主題歌/神聖かまってちゃん 出演/二階堂ふみ、森下くるみ、宇治清高、三浦由衣、坂本達哉(子役)、劔樹人、野間口徹、堀部圭亮、神聖かまってちゃん(の子、mono、ちばぎん、みさこ) 配給/SPOTTED PRODUCTION 4月2日より渋谷シネクイント、ポレポレ東中野、下北沢トリウッドほか全国順次公開中 <http://www.kamattechan-movie.com>
つまんね そっか。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』

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大阪生まれの梁英姫監督の姪っ子にあたるソナちゃん。
ピョンヤンの外貨レストランで、アイスクリームを愛おしそうに食べる。
 そこは"地上の楽園"と謳われ、9万人以上もの人々がユートピアを求めて海を渡った。これはファンタジーのお話ではなく、戦後の日本で起きた現実の出来事。1959年から84年にかけて行なわれた北朝鮮への"帰国事業"のことだ。当時は在日への民族差別がキツく、日本での就職が難しいことから多くの若者たちがまだ見ぬ祖国へと次々と入国していった。社会主義国の北朝鮮では完全就職と生活保護が約束されていたのだ。日本の大手新聞もこぞって「民族の大移動」「バラ色の地上の楽園」「新国家の建設」と美化して讃えた。しかし、北朝鮮と日本は未だに国交が結ばれず、一度北朝鮮に渡った人たちの日本への再入国はほとんど許されていない。では、理想を抱いて"地上の楽園"に向かった人たちは、その後どのような生活を送ったのか? その疑問に答えたのが、在日二世である梁英姫(ヤン・ヨンヒ)監督のドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』(05)だった。  70年代、大阪で生まれた梁監督が6歳のときに、3人の兄たちは帰国事業で北朝鮮へと渡った。父親が朝鮮総連のバリバリの幹部だったこと、2番目のコナ兄さんが建築家を目指し、日本では就職が難しかったことなどの理由で帰国事業に参加した。当時は韓国よりも、ソ連の援助を受けていた北朝鮮のほうが経済的に安定しているように見られていた。しかし、実際の北朝鮮での生活は甘くなかった。"地上の楽園"という謳い文句は、絵に描いたモチに過ぎなかったのだ。その上、ソ連が崩壊したことから、90年代の北朝鮮は数百万人にも及ぶ飢餓者を出すなど、生活状況はさらに厳しいものになっていく。そんな中、梁監督は朝鮮学校の修学旅行で北朝鮮に初めて入国したのをきっかけに、3人の兄たちとの交流を深めていく。3人の兄たちは慣れない環境で苦労しながらも、母親の仕送りに助けられ、北朝鮮の首都・ピョンヤンでそれぞれ結婚し、慎ましく家庭を築いていた。  梁監督はピョンヤンで暮らす兄たち家族の何気ない日常生活をビデオカメラで10年間にわたって記録し続けた。兄たちの住むマンションは手入れが届いていて意外と暮らしやすそうだが、水道は早朝の2時間しか使用できないこと、頻繁に停電が起きること。街を歩いているとパレードの練習に励んでいる集団に出くわすが、中にはイヤイヤそうに練習に参加している人もいること。道端でヤミ商品である練炭があけっぴろげに日干しされていること。外貨レストランでお金を払えば、アイスクリームを食べることができること。姪っ子のソナは目を輝かせてアイスクリームをひと匙ずつ大事そうに食べる。マスコミ報道が伝えない、素顔のピョンヤンが梁監督の映像には収められていた。『ディア・ピョンヤン』は、ベルリン国際映画祭最優秀アジア映画賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭特別賞など各国で高い評価を受ける。だが、梁監督が自分の家族のプライベート映像として撮影した『ディア・ピョンヤン』の公開後、梁監督は北朝鮮政府から入国を禁じられてしまう。
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日本からせっせと仕送りを続ける梁監督のお母
さん。ピョンヤンで生まれた孫たちの成長ぶり
が何よりもの生き甲斐だ。
 「ピョンヤンで撮影した映像は、出国の際に空港で全部検閲されたものなんですけどね。"あいつを入国させると、また面倒を起こすに違いない"と思われてしまったみたいですね。兄たち家族に会えないのはツラいし、淋しいけど、まぁ、しゃあないです(苦笑)。北朝鮮に誉めてもらうつもりで作ってないので」と梁監督は語る。朝鮮総連からは"謝罪文"を提出すれば入国を許すと言われたそうだが、梁監督が謝罪文を書く代わりに作ったのが、5年ぶりの続編となる『愛しきソナ』。前作は3人の息子たちを北朝鮮へ送ったことに後悔の念を抱く元総連幹部の父親と"放蕩娘"梁監督との和解が主軸となっていたが、今回はピョンヤンで暮らす姪のソナをヒロインに据え、これまで撮り溜めた120時間に及ぶビデオテープを再構成している。  95年、コナ兄さんの娘、ソナが3歳のときから梁監督はビデオカメラを回し始めた。『愛しきソナ』の英題は"SONA,the other Myself"。梁監督は"在日二世"として大阪で生まれ、朝鮮学校で北朝鮮の教育を受けて育った。ソナもまた、日本からの"帰国者二世"としてピョンヤンで生まれ、日本からの仕送りのお陰で元気に育っている。日本と北朝鮮の狭間で悩みながら育った梁監督にとって、姪っ子のソナはカワイイだけの存在ではなく、「もしも、自分も北朝鮮に渡っていたら」という、もう一人の自分の姿なのだ。吉本新喜劇を見て育った陽気なコナ兄さんの娘であるソナも茶目っ気たっぷりな女の子。日本と北朝鮮とのダブルスタンダードの中で、ソナがどのようなアイデンティティーを培っていくのか、梁監督は気になって仕方ない。  梁監督の母親が今もせっせと仕送りを続けているお陰で、ピョンヤンで暮らしている兄たちは北朝鮮の標準以上の生活を維持できている。とはいえ、日本のような自由はなく、また日本からの帰国者であることから差別にも遭う。やがて、ソナは日本にいる祖父・祖母を思いやる賢い少女に育っていく。たまに日本から来る"気ままな叔母さん"梁監督の土産話にワクワクしながらも、決してカメラの前で「日本に行きたい」とは口にしない。不用意な発言をすれば、自分だけでなく家族に迷惑が掛かることを子どもながら、すでに理解しているからだ。梁監督がNYや東京で観てきた演劇の話をせがみながらも、その前に「カメラを止めてちょうだい」とそっと言う。
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在日二世である梁監督と日本からの帰国者二世で
あるソナちゃん。梁監督が北朝鮮へ入国禁止に
なった詳細は4月18日発売の「サイゾー」本誌をご
覧あれ。
 ソナの家庭は、正直かなりヤヤこしい。ソナの父親であるコナ兄さんはピョンヤンで3回結婚しており、3人いる子どものうち、2人の兄とソナは母親が異なる。ソナのお母さんは病院での診察代を倹約したことから、若くして病気で亡くなってしまった。3番目の奥さんは、3人の子どもたちと血は繋がっていないが、内職をしながら子どもの世話に励んでいる。コナ兄さんは建築関係の仕事に就いているものの、国からの給料だけでは一家は食べていけないからだ。日本からの仕送りもいつ途切れるか分からない。だが、家族の絆は非常に固い。ソナがイジメに遭って泣いて帰ってくると、ソナの兄はイジメっ子がソナに二度と手を出さないようボコボコにしてしまうそうだ。食べたいものを食べ、聴きたい音楽を聴き、思ったことをそのまま口にする自由は、ピョンヤンでの生活にはない。では不幸なのかというと決してそうではない。不自由=不幸ではないことが、梁監督の映像から伝わってくる。  梁監督が北朝鮮への入国を禁じられたことから、ピョンヤンの映像は2005年で終わりとなる。梁監督がカメラを回せない代わりに、16歳になったソナから英語で綴られた手紙が届く。金日成総合大学英文科に合格できたことを知らせる内容だ。NYに留学した経験を持つ梁監督の影響を受けたのだろう、ソナの将来の夢は世界各国を巡る通訳になることだそうだ。  梁監督が撮った『ディア・ピョンヤン』と『愛しきソナ』は、自分の家族を描いた極めてパーソナルな映像記録だ。だが、両作品はとても大事なことを教えてくれる。"ユートピア"とはどこかに行けば待っているものではなく、自分たちの手で築くものだということを。 (文=長野辰次) sona04.jpg ●『愛しきソナ』 監督・脚本・撮影/梁英姫 配給/スターサンズ  4月2日(土)よりポレポレ東中野、4月23日(土)よりK's cinemaほか全国順次公開 <http://www.sona-movie.com>
Dear Pyongyang - ディア・ピョンヤン 「憎らしくも愛おしい」。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』

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洗練された都会の女性ヘウォン(チ・ソンウォン)は、
故郷の離島で幼なじみのボクナム(ソ・ヨンヒ)と再会する。ビバ、女の友情!
(c)2010 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved
 韓国映画界から、また新しい才能が生まれた。『チェイサー』(08)のナ・ホンジン監督(74年生まれ)、『息もできない』(08)のヤン・イクチュン監督(75年生まれ)ら韓流映画の型にハマらない骨太な新人監督たちが世界的な注目を集めた。サバイバル・サスペンス『ビー・デビル』でデビューを果たしたチャン・チョルス監督(74年生まれ)も振り切った演出で、2010年のカンヌ映画祭を賑わした存在だ。『ビー・デビル』の韓国での公開タイトルは、『キム・ボクナム殺人事件の顛末』。韓国で実際に起きた複数の性的虐待事件を組み合わせたもの。閉鎖的な社会の中で、SOSを発しながらも周囲から黙殺されてしまうヒロインの悲しみが描かれる。  青い海に囲まれた美しい孤島が舞台。島民は全員合わせて9人という、とても静かな環境だ。ソウルの銀行に勤めるOL・ヘウォン(チ・ソンウォン)は都会の煩わしい人間関係を忘れるため、少女時代を過ごした懐かしい島で休暇を過ごすことに。島では幼なじみだったキム・ボクナム(ソ・ヨンヒ)が、ヘウォンとの再会を喜び、歓迎してくれた。ボクナムは島で結婚し、島から出ることなくずっと暮らしていたのだ。単調な島の暮らしの中で、ひとり娘の成長だけがボクナムの生き甲斐だった。
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島での虐待生活に耐え続けてきたボクナムだっ
たが、"命より大切なもの"を奪われたこと
から大逆襲に出る!
 ボクナムと旧交を温めるヘウォンだったが、次第にこの島はどこか異常なことに気づく。ヘウォンの前では明るく振る舞っているボクナムだが、家に戻ると毎晩のように夫のDVに遭い、姑からは奴隷同然にこき使われ、さらには義弟の性欲処理までさせられていたのだ。他の島民たちは、そんな光景はもう見慣れてしまったらしく、誰もボクナムを助けようとはしない。ボクナムは親友のヘウォンに「私と娘をソウルに連れて行って」と懇願するが、束の間の休暇を過ごしに来たヘウォンには、気が重い頼みだった。ボクナムと距離を置こうとする。もう誰も助けてくれない。精神的に追い詰められたボクナムの心の中のストッパーが外れた。ついにボクナムの逆襲が始まる。  チャン・チョルス監督は、韓国の鬼才キム・ギドク監督の代表作『春夏秋冬そして春』(03)、『サマリア』(04)で助監督を務めることでキャリアを磨いてきた。師匠であるギドク監督からは「観客の目をスクリーンから逸らさせないこと」「劇中の会話は、実際の日常会話よりもテンポを早くすること」などを学んだそうだ。そして、本作では何よりも師匠譲りの"痛い"描写をふんだんに見せてくれる。ボクナムの逆襲シーンがあまりに過激な描写となったため、日韓でR18指定になってしまったほど。また、主人公である島育ちの女・ボクナムを演じたのは、『チェイサー』で快楽殺人鬼のターゲットとなる美人風俗嬢に扮したソ・ヨンヒ。出資会社はもっと知名度の高い女優の起用をチョルス監督に求めたそうだが、有名女優たちが作品内容を知って尻込みしたため、ソ・ヨンヒに主演の座が回ってきた。ひとり娘を愛するあまり、"逆・鬼子母神"と化すボクナム役を全身全霊で熱演してみせた。
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『チェイサー』とは180度異なるブチ切れ演技
を見せたソ・ヨンヒ。「包丁を舐めるシーンは
側で見てててゾッとした」とチョルス監督。
 2010年11月の東京フィルメックスで来日したチャン・チョルス監督に話を聞く機会があった。チョルス監督自身が6歳のときにようやく電気が通じたという田舎で育ち、男尊女卑の風潮の強い村の中で母親が理不尽な目に遭うのを子どもの頃に度々見ていたという。「海外では『この島のようなことが韓国ではありうるのか?』とよく質問されます。でも、韓国ではそのことは、まったく尋ねられません。あちこちで頻繁に起きているわけではなくても、今でもありえない話ではないということなんです」と説明する。多分、韓国の田舎に限らず、ボクナムのようなスケープゴートはどこの国でも、どこの社会でも存在するはずだ。そして、ボクナムの救いを求める視線に気づかないふりをする島民やヘウォンも。  "復讐バイオレンス"というジャンルをデビュー作に選んだ理由についても聞いてみた。チョルス監督によると、韓国映画界はブームが去った現在では実績のない新人監督が商業デビューを果たすのは非常に困難な状態にあるそうだ。映画監督志望の若者は大勢いるものの、出資会社がなかなか見つからないという状況の中で、1人消え、2人消え......と段々と減っていき、チャンスを狙って待ち続ける人間の心の中に、次第に澱が積もっていくらしい。このまま自分は、永遠に監督デビューできないままなのか? 社会の中で、誰にも知られずに埋もれて一生を終えるのか? いや、何としても自分の映画を撮り上げたい。そして、一本だけ監督したものの、誰にも見向きもされずには終わりたくない。映画界に自分の爪痕を残したい。映画監督として、ちゃんと社会と関わって生きていきたい。そんな閉塞的な現状を打破するために選んだ題材が、『キム・ボクナム殺人事件の顛末』だった。映画の中のボクナムと同様に、チョルス監督も精神的に追い詰められ、突破口を見出すために懸命だったのだ。  平穏なときに変わらぬ友情を誓い合ったヘウォンとボクナムだったが、島で起きた事件をきっかけに、2人の間には埋めがたい深い溝があることが露呈する。結局、島の環境が閉鎖的だったのではなく、ボクナムに対する周囲の人間の心が閉鎖的だったのだ。だが、心のストッパーを外したボクナムは、そんな溝さえもビョーンと飛び越えて、島から逃げ出そうとするヘウォンのもとへと迫ってくる。善悪の彼岸を飛び越えたボクナムは、悲しいほどにタフでワイルドだ。実績を持たないチャン・チョルス監督と地味な演技派女優というイメージの強かったソ・ヨンヒは、本作でもって韓国映画界にしっかりと爪痕を残した。映画監督として、女優として、映画界できっちりとサバイバルするために。 (文=長野辰次) ●『ビー・デビル』 監督/チャン・チョルス 出演/ソ・ヨンヒ、チ・ソンウォン 配給/キングレコード R18+ 3月26日(土)よりシアターN渋谷ほか全国順次公開 <http://www.kingrecords.co.jp/bedevil>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』

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スコットランドの離島で育った少女アリスは、パリからやってきた
タチシェフの奇術を本当の魔法だと思い込んでしまう。
(C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.
 目の前に立ち塞がるどうしようもない現実の重みを、ほんの一瞬だけでも忘れさせてくれるのが一流のイリュージョニスト(奇術師)だ。ドラえもんの四次元ポケットのように、シルクハットの中から次から次へとサプライズを取り出してみせ、観客にひと時の夢を楽しませてくれる。もちろんシルクハットの底には仕掛けが隠されているが、イリュージョニストは決してタネを明かすことはしない。そそくさとステージを降り、観客が見た一瞬の夢を永遠の夢に変えてしまう。イリュージョニストは"粋"でなくては務まらない職業なのだ。映画『イリュージョニスト』は、フランスの喜劇王ジャック・タチ(1907~1982)が書き残したシナリオ"FILM TATI No.4"を、『ベルヴィル・ランデブー』(02)の人気アニメーション作家であるシルヴァン・ショメ監督が現代に甦らせたもの。ジャック・タチ作品ならではの"粋"の極意を、ショメ監督が哀惜の念を込めて見事にアニメーション化している。  『ぼくの伯父さんの休暇』(52)、『ぼくの伯父さん』(58)で、子どもと犬たちに慕われる"とぼけたオジさん"ムッシュ・ユロを演じ、世界的な人気を博したジャック・タチ。彼の監督作品の中でSEXや暴力が描かれることはなく、その上パントマイム出身だけに台詞もほとんどない。無声映画を思わせる静謐な世界だ。市井の人々の暮らしのおかしみに、額縁職人の家系に生まれた美術センスとシャレた音楽を施すことで、傑作コメディーに仕立てている。"FILM TATI No.4"は、『のんき大将』(48)、『ぼくの伯父さんの休暇』『ぼくの伯父さん』に続く、長編第4作『イリュージョニスト』として人気絶頂期に実写化されるはずだった。
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主人公タチシェフのキャラクターは、往年の
喜劇王ジャック・タチの容姿や立ち振る舞いが
丹念にコピーされている。
 『イリュージョニスト』は1950年代終わりのパリから物語は始まる。ベテラン手品師のタチシェフ(ジャック・タチの本名!)は、パリの劇場でシルクハットから白うさぎが飛び出す昔ながらの演目を続けてきたが、今のパリっ子は誰も見向きもしない。腰をくねらせる長髪の歌手の金切り声に、若者たちは夢中だ。仕事のない老手品師は、やむを得ず、欧州各地へのドサ回りの旅に出る。言葉の通じないスコットランドの離れ島でも淡々と"営業"を続ける老手品師。ただ一人、ボロ旅館で働く無垢な少女アリスだけが、目を輝かせてくれる。世話をしてもらったお礼にと、タチシェフは少女に赤い靴をプレゼントして、島を去っていく。  ところが、少女はタチシェフの奇術を本当の魔法と思い込んで、付いてきてしまう。いまさら、赤い靴は買ったものだとタネ明かしすることもできない。このとき老手品師は思う、自分は大勢の人たちに夢や驚きを与えるプロのエンターテイナーのつもりで生きてきたが、実は純真な子どもを騙してきたペテン師だったのではないかと。身寄りのない少女を島に追い返すことができず、老手品師と白うさぎと少女とのエジンバラでの共同生活が始まる。生まれて初めての都会に驚き、喜ぶ少女。老手品師は、街に似合う新しい靴とコートを魔法で取り出す。もう彼の財布はすっからかんだ。それでも老手品師は言葉の通じない街で不慣れなアルバイトをしながら、少女の前で魔法を使い続ける。  大衆演芸、自転車、駄犬への狂おしいまでの愛情を詰め込んだ『ベルヴィル・ランデブー』での長編デビューを控えていたシルヴァン・ショメ監督に、シナリオ"FILM TATI No.4"の存在を教えたのはジャック・タチの愛娘、ソフィー・タチシェフ。ソフィーはジャック・タチの晩年の作品『トラフィック』(71)や『パラード』(74)にフィルム編集者として参加しており、ジャック・タチの世界観を誰よりも理解している女性だった。ショメ監督が『ベルヴィラ・ランデブー』の劇中に、『のんき大将』の映像を使用したいと頼んだ際、ソフィーは父親の世界観と若いショメ監督のイメージする世界が通じることを感じとり、映像の使用許可だけでなく父親の遺稿を託すことを決める。まさに明断だ。彼女自身が、父親が残した魔法を見たかったに違いない。だが残念なことに、ソフィーは『イリュージョニスト』の映画化をショメ監督に依頼して間もなく、2001年に他界してしまう。
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ウサ公と放浪の旅を続ける手品師のタチシェフ。
旅先の風景や大衆演芸の世界の描写にショメ
監督は並々ならぬ情熱を注いだ。
 でもなぜ、ジャック・タチは『イリュージョニスト』の脚本づくりに2年の歳月を費やしながらも、製作に踏み切らなかったのだろうか。『ぼくの伯父さんの休暇』『ぼく伯父さん』の人気キャラクターであるユロ氏を愛したファンの前に年老いた姿を見せたくなかったから、手品シーンを完璧に演じることができなかったから......さまざまな理由があったようだ。それに加えて、もうひとつ言われているのが、『イリュージョニスト』の内容がジャック・タチにとって、あまりにリアルすぎるため映画化が見送られたという説。というのも、ジャック・タチ自身が映画界に入る前の独身芸人時代に婚外子をもうけていたことが最近になって明らかになったから。若い頃はさぞモテただろう元二枚目の老紳士が、イギリスの片田舎で暮らす少女のために甲斐甲斐しく尽くす『イリュージョニスト』の物語は、"贖罪"の意識で書かれたのではないかと。  もしジャック・タチが映画界に転身せずに、演芸の世界にこだわり続けていたら。そして、もし旅先で生き別れた自分の子どもに会っていたら。『イリュージョニスト』は、ジャック・タチが果たせなかった、切ない願望の世界であるらしい。結局、ジャック・タチは『イリュージョニスト』の企画はお蔵入りさせ、主人公がいない画期的な大作コメディー『プレイタイム』(67)に着手するが、『プレイタイム』は大コケしてしまい、生涯借金に追い立てられることになる。  実写では生々しくなるエピソードを、シャメ監督は温かみのある手描きのアニメーションとして端正な一本の映画に昇華させてみせた。シャメ監督もアニメ製作に理解のないフランス映画界には随分と不満を持っており、フランス映画界の異端児的存在だったジャック・タチに深いシンパシーを抱いていたようだ。喜劇王ジャック・タチの幻の作品が、娘ソフィーからショメ監督へと粋なバトンリレーによって新たに命を吹き込まれて劇場公開される。これを"イリュージョン"と呼ばずして、何と呼ぼうか。 (文=長野辰次) ●『イリュージョニスト』 オリジナル脚本/ジャック・タチ 脚色・作曲・キャラクターデザイン・監督/シルヴァン・ショメ 声の出演/ジャン=クロード・ドンダ、エルダ・ランキンほか 3月26日(土)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国順次公開 配給/クロックワークス、三鷹の森ジブリ美術館 <http://illusionist.jp>
ベルヴィル・ランデブー 食わず嫌いはもったいない。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』

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"アイルランドの稲妻"と呼ばれた実在のボクサー、
ミッキー・ウォードとその家族を描いた『ザ・ファイター』。
主演のマーク・ウォールバーグは3年かけてボクサー修行を積んだ。
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 聖書に出てくるカインとアベルの時代から、兄弟は妬み、いがみ合うものと相場が決まっている。家族の古いアルバムを開くと、第1子である兄の写真が圧倒的に多く、弟は兄と一緒の写真ばかりで、弟がピンで写っている写真はかなり少ない。シャッターを押された回数が愛情に比例しているようで、ささいなことだが弟には恨めしい。その一方、親の愛情を浴びて伸び伸びと育った兄が奔放に才能を発揮する姿は、弟にとってはいちばん身近な、まぶしい記憶であったりもする。兄弟の間で渦巻く感情は、憎しみと愛情が紙一重の非常に厄介なものなのだ。日本においても海彦と山彦しかり、角川春樹と角川歴彦しかり、若貴しかり......。『ザ・ファイター』は実在のボクサー、ミッキー・ウォードと兄ディッキーを主人公にした壮絶なる家族ゲンカ&家族愛を描いた感動のボクシング映画である。  ボクサーのミッキーは、異父兄ディッキーの影響を受けて、プロの世界に入ったものの、ただいま連戦連敗中。その原因は家族。技巧派ボクサーとして活躍したディッキーは引退した今は、ミッキーの専属トレーナー。だが、数年前からドラッグに手を出し、練習時間になっても姿を見せない。マネジャーである母アリスは、いまだに甘えん坊のディッキーのことを溺愛してやまない。ファイトマネー欲しさで、ミッキーにとって不利な試合をアリスとディッキーは平気で組んでしまう。そんな環境でミッキーが勝てるわけがなかった。ミッキーはリングに上がる前に、まず家族と闘わなくてはならなかったのだ。トレーニングに集中できる大手ジムに移籍したいとミッキーが口にすると、母と兄は「家族を見捨てるつもりか?」と即座に却下する。ミッキーに恋人ができると7人の無職の姉たちが「あんなビッチと付き合うな」と騒ぎ出す。ドラッグ中毒のダメ兄を演じたクリスチャン・ベールと鬼母アリスを演じたメリッサ・レオが、アカデミー賞助演男優賞、助演女優賞をダブルで受賞。そんな実力派俳優たちが生々しい親子ゲンカを繰り広げる、亀田ファミリーもびっくりな濃い人間ドラマだ。
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ドラッグ中毒で、マーシー状態となってしまった
兄ディッキー。ダメ兄を演じたクリスチャン・
ベールは見事、アカデミー賞助演男優賞を受賞。
 ミッキー・ウォードは、アイルランド系の米国人ボクサーで、マサチューセッツ州の工場街ローウェルを拠点に活躍した。地味なローカルボクサーだったが、引退直前の38歳のときに大ブレイクを果たした。2002年に元世界王者アルツロ・ガッティとの試合が組まれ、この一戦は最終ラウンドまでハードパンチの応酬となり、ノンタイトル戦ながら年間最高試合に選ばれている。勝敗抜きに、最後まで闘志を絶やさなかった両者の姿に会場は熱狂。この一戦で株を上げたミッキーは、立て続けにガッティとの同一カードが組まれ、計3戦ともボクシングファンを狂喜させるエキサイティングな試合内容となった。  遅咲きの英雄ミッキー・ウォードの伝記映画の製作に名乗りを挙げたのは、本作で主人公ミッキーを演じたマーク・ウォールバーグ。マーク自身も、ミッキーと同じアイルランド系の血筋でマサチューセッツ州のボストン出身。9人兄弟のビンボー一家に育ち、10代の頃は感化院に送られるワルだった。そんなマークがワルの道から足を洗ってショービジネスの世界に進めたのは、兄ドニーの存在があったから。人気ラップグループ「ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック」の一員だった兄がプロデュースする形で、白人ラッパーとして芸能デビュー。その後、兄弟ともに俳優に転身し、マークは巨根ポルノ男優の成り上がりストーリー『ブギーナイツ』(97)で注目を集め、『ディパーテッド』(06)では主演のレオナルド・ディカプリオやマット・デイモンを喰う熱演ぶりで人気俳優となった。
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兄に優しく、弟に厳しい鬼母アリスを演じた
メリッサ・レオ。父親の異なる合計9人の姉弟
をまとめる家長役で、こちらもアカデミー賞
助演女優賞に。
 マーク・ウォールバーグにとって、ビンボーな家庭に育ち、兄から大きな影響を受けたミッキー・ウォードは、スポーツの世界におけるもうひとりの自分だったのだろう。自腹で専属トレーナーを雇い、3年間にわたってボクサーとしてのトレーニングを積んでいる。ちなみに専属トレーナーに支払ったギャラは、本作での俳優としての出演料を4,000万円も上回るものだったそうだ。出演料以上の金額を投じて役づくりする、役者バカ。そして、そのバカならではの熱気が、さらなるバカを突き動かす。  07年にミッキー・ウォードの伝記映画が製作されると発表された段階では、兄ディッキー役はマーク・ウォールバーグと同じボストン出身の知性派俳優マット・デイモンと報じられていたが、ハリウッド的な事情がいろいろあったらしく、結局はクリスチャン・ベールがヤク中の兄貴を演じることになった。クリスチャン・ベールはマークより実年齢は3歳年下だが、そこは当代一のカメレオン俳優。異常なまでの役づくりで、「本気でボクシング王座を目指した」というマークの役者バカぶりに応えてみせた。13kgの減量だけでは『マシニスト』(04)の30kg減量伝説を上回れないことから、後頭部の地毛を抜き、歯の並びを変えるという熱の入れよう。何よりもドラッグの怖さを広めるためのドキュメンタリー番組の取材クルーのことを、自分がボクサーとしてカムバックするまでを長期取材していると思い込んでいるクレイジーぶりがいい。ボクシング版『サンセット大通り』(50)だよ。  ドラッグ中毒の兄ディッキーがちんけな窃盗罪で刑務所送りとなり、恋人シャーリーンの強い勧めもあり、ようやくミッキーは家族から離れてのトレーニングを開始する。ちゃんとミッキーのコンディションを考慮した試合が組まれ、ミッキーは遅ればせながら連勝街道を進み出す。もともとミッキーには地力があった上に、母や兄との連日の場外乱闘のお陰で精神的なタフさが身に付いていた。そして、もう家族に責任をなすり付けることができないギリギリの状況へ自分を追い込んだ。ずっと溜め込んでいた母や兄への苛立ち、そして失敗はすべて家族のせいにしてきた自分自身への怒りがリング上で大噴火する。
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ミッキーのビッチな恋人を演じたエイミー・
アダムスも好演。ミッキーの7人の姉とドツキ
合う。アダムスは無名時代、「フーターズ」
で働いていた苦労人。
 正直、ここまで見て、『ザ・ファイター』は家族から自立して、恋人と共に新しい環境で成功をつかみとる苦みのあるハッピーエンドの物語だと思っていた。だが、さらなるハードルが劇中のミッキーを待ち受けていた。自分の現状を見つめ、ダメなものはダメと"否定"することでプロとしての新しい第一歩を踏み出すことができたミッキーだが、もうひとつ上のステージ(世界タイトル戦)に進むためには、ただ"否定"するだけでは不充分なことをミッキーは理解していた。自分自身のアイデンティティーである家族、そして兄という存在から、ミッキーはきれいさっぱりと"決別"するのか、それとも"肯定"して胸焼けしそうな家族全員を飲み干してみせるのか。大一番の前に、より大きな難問がミッキーの前に立ちはだかる。  大一番の試合結果は置いといて、ひとつ言えることは、ミッキーとディッキーの兄弟にとって幸いだったのは、親から受け継ぐさしたる財産がなかったことだろう。下手に親の財産があると、兄弟は骨肉の争いを演じることになる。やはり兄弟の縁というヤツは、どうしようもなく生涯付きまとってくるものらしい。 (文=長野辰次) fiter05.jpg 『ザ・ファイター』 監督/デヴィッド・O・ラッセル 出演/マーク・ウォールバーグ、クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、メリッサ・レオ  配給/ギャガ 3月26日(土)より丸の内ピカデリーほか全国順次公開 <http://thefighter.gaga.ne.jp>
ディパーテッド 特別版 ハリウッドスターたじたじ。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像"

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"復讐バイオレンスもの"として甦った『トゥルー・グリット』。
作品の知名度に頼った近年の安易なリメイクブームに対して、
コーエン兄弟は現代的テーマを浮かび上がらせることで一線を画している。
(c) 2010 PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.
 暴力と金に支配された現代社会をシニカルに描いた『ノーカントリー』(07)で2008年のアカデミー賞作品賞&監督賞&脚色賞を受賞したコーエン兄弟。同じ価値観を共有する兄弟がタッグを組むことで、年々激しさを増すハリウッドのコマーシャリズムの濁流に抗い、独自の道を歩んでいる。自分たちのアイデンティティーである1960年代のユダヤ人ファミリーを主人公にした半自伝的コメディー『シリアスマン』(現在公開中)に続いて、新作『トゥルー・グリット』では米国人のアイデンティティーである"西部劇"の名作『勇気ある追跡』(69)をリメイクした。『ノーカントリー』が"現代の西部劇"と称されただけに、『勇気ある追跡』の現代的なリメイクはまったく違和感がない。19世紀末の開拓期に起きた殺人事件の顛末を、いつものコーエン兄弟らしくシニカルに描き出している。撮影時13歳だった新人女優ヘイリー・スタインフェルドの健気さと、『クレイジー・ハート』(09)で名優の評価を取り戻したジェフ・ブリッジスの妙演もあり、コーエン兄弟史上最大のヒット作となっている。  原作者は別人だが、コーエン兄弟が監督したことで、『ノーカントリー』と『トゥルー・グリット』はよく似た内容となっている。『ノーカントリー』で無慈悲な殺人鬼に追い掛けられたコーエン作品の常連俳優ジョシュ・ブローリンが、『トゥルー・グリット』では14歳の少女に執拗に追われる。『ノーカントリー』では麻薬の取り引き現場に残されていた大金をネコババしたジョシュ・ブローリンだが、今回は牧場主を殺して、たった2枚の金貨を奪ったことから牧場主の娘マティ(ヘイリー・スタインフェルド)に地の果てまで追い詰められる。とは言え、開拓期の米国南部は少女がひとり旅をすることすら憚れる時代。そこでマティは、殺しのプロである保安官とは名ばかりの酔いどれジジイのコグバーン(ジェフ・ブリッジス)に金を払って復讐代行を依頼する。コグバーンがもらった金で飲んだくれることは容易に予測できたので、ちゃんと復讐を遂行するかどうかを見届けるため、マティは現地まで同行する。テキサス・レンジャーのラビーフ(マット・デイモン)も懸賞金の掛かったお尋ね者を捕らえるため捜索の旅に加わる。
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1,500人のオーディションから選ばれた新人女優
ヘイリー・スタインフェルド。『レオン』(94)、
『片腕マシンガール』(07)、『キック・アス』
(10)に通じる美少女による復讐劇なのだ。
 自分の決めたルールを頑なに守り、周囲の大人にまで強要する14歳の少女、生きるために汚い仕事にも手を染めてきた片目の酔っぱらい、弾道距離の長いカービン銃を持っているが、頭が固くて融通の効かないテキサスの田舎者という波長の合わない3人が、司法の手の及ばないインディアン居住区に逃げ込んだ獲物を追跡していく。マティたちが出発するのは米国南部アーカンソー州のフォートスミスという町だが、「セントルイス以西には法律は存在せず、フォートスミス以西には神も存在しない」と当時の米国では言われていた。法律も神も守ってくれない異界にまで少女は足を踏み入れ、父親殺しの犯人に天罰を与えようとする。だが、そのために予想外の血が流れ、指がもげ、死体の山ができていく。"人を呪わば穴ふたつ"で、少女自身も穴に落ち込み、大きな犠牲を払うことになる。  『勇気ある追跡』で酔いどれ保安官コグバーンを演じたのは、"米国映画史上最大のスター"ジョン・ウェイン。飲んだくれながらも、ここぞというときはバシッと決めるコグバーン役でアカデミー賞主演男優賞を獲得している。40年という時間を経て、この酔いどれ保安官を演じたのがジェフ・ブリッジス。『ラスト・ショー』(71)や『サンダーボルト』(74)で好演し、将来の大スターを約束されていたジェフ・ブリッジスだが、ジョン・ウェインが"無敵のヒーロー"を演じた旧き善き時代はすでに終わり、曲がり角を迎えた米国社会と米国映画界でキャリアを重ねることになる。『800万の死にざま』(86)や『フィッシャー・キング』(91)など、理想と現実の狭間にぱっくりと口を開いた深い溝に落ち込んで、もがき苦しむ"屈折した元ヒーロー"を演じることが多かった。『タッカー』(88)や『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(89)で芸達者ぶりを見せてはいたが、"米国でもっとも過小評価されている男優"と呼ばれ続けてきた。
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アル中の老保安官、コミュニケーション能力に
難のあるテキサス・レンジャー、頑固な14歳の
少女による地獄への三人旅。ジェフ・ブリッジス
はモンタナの牧場主だけに騎乗アクションはさすが。
 『アイアンマン』(08)ではコクのない悪役に甘んじていたジェフ・ブリッジスが、名優として再評価されたのが低予算映画『クレイジー・ハート』。豊かな才能に恵まれながらも、アルコールと女に溺れてしまった老カントリー歌手が、年齢の離れたシングルマザーと出会い、それまでの自堕落な生活を断ち切ろうとする。米国人にとって、西部劇と並ぶもうひとつのアイデンティティーと言える"カントリー・ソング"をジェフ・ブリッジスはしみじみと歌い上げ、昨年のアカデミー賞主演男優賞を受賞した。『トゥルー・グリット』の老保安官コグバーンも、過去のあやまちや日々の生活の煩わしさをアルコールで紛らわして生きながらえてきたが、自分の意思を決して曲げようとしない14歳の少女と出会うことで、コグバーンの心の奥底にずっと長い間眠っていた"トゥルー・グリット"が目覚める。現実世界でも、作品に恵まれ出した最近のジェフ・ブリッジスは俳優としてかつての輝きを取り戻したようだ。  『勇気ある追跡』のジョン・ウェインは"強くて正しいアメリカ"としてのシンボルを揺らぐことなく演じたが、同じ原作の『トゥルー・グリット』でジェフ・ブリッジスは目先の金銭やアルコールに踊らされながらも、心の中の"聖域"だけは懸命に守ろうとする年老いた一人の男をリアルに演じてみせる。両作品の間には40年間という歳月の中で米国社会が失ってきたものと、かろうじて残っているものがくっきりと浮かび上がる。リメイクした意義が、そこにある。そしてコーエン兄弟は、いつものオフビートな笑いの代わりに、泣かせには走らないオフビートな感動をクライマックスに用意した。  最後にジョン・ウェインとジェフ・ブリッジスの接点をもうひとつ。ジェフ・ブリッジスの出世作『ラスト・ショー』で閉館される映画館で最後に上映されるプログラムが、『赤い河』(48)だった。『赤い河』はアメリカの黄金時代に作られたジョン・ウェイン主演の西部劇の代表作だ。ジェフ・ブリッジスは、ヒーローに憧れながらもヒーローになれない男をずっと演じてきた。ジョン・ウェインのようなオールドタイプのヒーローにはなれなかったが、ジョン・ウェイン以上の名優と呼んで何ら差し支えないだろう。 (文=長野辰次) tg04.jpg 『トゥルー・グリット』 原作/チャールズ・ポーティス 製作総指揮/スティーブン・スピルバーグ 監督・製作・脚色/ジョエル&イーサン・コーエン 出演/ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、ヘイリー・スタインフェルド  配給/パラマウント ピクチャーズ ジャパン 3月18日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開 <http://www.truegritmovie.com/intl/jp>
ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション 名作。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代

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中立公正なんかクソくらえとばかりに主観まるだしの記事を書きなぐった
伝説のフリージャーナリスト、ハンター・S・トンプソン。
型破りな取材スタイルは"ゴンゾー・ジャーナリズム"と呼ばれた。
(c)2008HDNet Films,LLC
 美文麗文と称される記事ほど、事実を描いていない。文章がこぎれいにまとまればまとまるほど、真実がこぼれ落ちて行く。素晴らしい名文ほど、現実から乖離していく。ゴンゾー(ならず者)ジャーナリズムの開祖であるハンター・S・トンプソンは作品を通して、そのことを教えてくれる。トンプソンの記事には、やたらとLSD、メスカリン(幻覚剤)、売春婦、強姦、豚野郎などお上品でない言葉が並ぶ。記事に客観性はまるでなく、内容は取材対象からどんどんと逸脱していく。トンプソンがフリージャーナリストとして活躍した60年代後半から70年代前半の米国は"黄金時代"が終わり、ベトナム戦争のドロ沼化、キング牧師の暗殺、フラワームーブメント......と変動の時代だった。時代のうねりを活写するなら、うねりのある文章でなくては正しく捉えることができない。ロックスターがギターをブチ壊すかのように、トンプソンはタイプライターを叩き続け、時代のヒーローとなった。『GONZO』はゴンゾー・ジャーナリストとして人気を博し、晩年は山荘に篭り、2005年2月20日に拳銃自殺を遂げたハンター・S・トンプソンの破天荒な生涯を検証したドキュメンタリー映画であり、トンプソンの死と"自由の国"米国の死を重ね合わせた追悼作品でもある。  本作のナレーションを務めるのは、俳優のジョニー・デップ。トンプソンの代表的ルポルタージュ『ラスベガスをやっつけろ!』(筑摩書房)が98年に映画化される際に、トンプソンの山荘で共同生活を送り、トンプソンのヘアスタイルからしゃべり口調、タイプの打ち方までコピーしている。役づくりというよりも、反権力のシンボルとして生きたトンプソンのことが好きで好きで堪らなく、トンプソン自身になりたかった。どのくらいトンプソンのことが好きだったかというと、トンプソン自身が生前に発案した葬式とは思えないド派手なお別れセレモニーの運営費用を、ジョニー・デップが払っているほどだ。"限界ってヤツは、限界を越えたヤツらにしか分からない。生きているヤツらは、コントロールできる範囲まで引き返すか減速する。そして俺はまだ限界を超えていない"など、トンプソンの著書から抜粋した文章をジョニー・デップが読み上げながら、『GONZO』はトンプソンの生涯を振り返っていく。  1937年ケンタッキー州に生まれたトンプソンは、父親を早くに亡くし、本家"ロスト・ジェネレーション"の人気作家F・スコット・フィッツジェラルドに憧れるビンボーな少年時代を過ごす。プエルトリコのスポーツ紙の記者を勤めた後、まず"ヘルズ・エンジェルズ"の体験取材で名前を知られるようになる。これはファッションヘルス店の体験ルポではなく、当時の全米を震撼させていた巨大暴走族グループへの潜入ルポだ。処女作『ヘルズ・エンジェルズ 地獄の天使たち 異様で恐ろしいサガ』(国会刊行会)として出版されるが、印税の分け前をよこせというヘルズ・エンジェルズの要求をトンプソンが断ったことから、ボコボコにされる。しかし、トンプソンは怪我の代償として、問題の渦中に自分の体を投じるという取材スタイルをものにする。折られた肋骨の痛みは、ゴンゾー・ジャーナリズムへの陣痛だった。
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トンプソンを取材にきた「タイム誌」の記者に
対して発砲するなど奇人変人ぶりを発揮。愛用
のマグナム44やサブマシンガンを含め、
22丁の銃器を所有していた。
 さらにトンプソンは、シカゴの政治集会でベトナム反戦を唱える学生デモに加わり、警官たちから警棒でボコボコにされる。トンプソンの原稿は、知性や理性ではなく、騒乱の渦中に飛び込むことで体中に湧いてくる大量のアドレナリンで書き進められた。暴走族にボコボコにされるまで接近し、警官にボコボコにされることで権力を憎んだ。ボコボコにされる度に、ゴンゾー・ジャーナリズムは確立されていった。アドレナリンに任せてタイピングした熱気ほとばしる生原稿は、推敲や校正することなく、持ち歩いたファックスで編集部へ速攻送信した。もちろん、編集部が頼んだページ数や文字数など知ったこっちゃない。この部分は、売文稼業の末端にいる身として、ぜひとも見習いたい。  そしてゴンゾー・ジャーナリズムの完成形となったのが、71年に「ローリングストーン誌」で連載された『ラスベガスをやっつけろ!』だ。ヘルズ・エンジェルズの取材中に覚えたLSDをはじめとする極彩色のドラッグ類で終始キメながらサモアの怪人とデロデロ珍道中を繰り広げる。当初の取材目的だった砂漠のバイクレースはスタートだけ立ち会って、後はホテルで車中でバッドトリップしながらのドロドロデロデロな悪夢体験記となる。そんなイカレポンチな記事の底辺に流れているのは、"自由な国"米国の夢の残りかすを探しに"夢の街"ラスベガスに出掛けたけど、どこにもそんなものは在りませんでした~というガッカリ感。やっぱりね、という諦めの境地でさらにドラッグを吸い込み、バカ笑いの果てにどんよりとした空虚さを思い知る。それが、数年後にベトナム戦争で初めての敗北を味わう米国民のリアルな気分だった。  『ラスベガスをやっつけろ!』で注目の存在となったトンプソンは、米国最大のイベントである大統領選挙のルポをするようになる。宿敵だったはずのニクソン大統領と車中でアメフト談義を交わし、支援するジョージ・マクガバン上院議員が民主党大統領候補に選出される際には他の候補者をガセネタで蹴落とした。フィツジェラルドに憧れていたトンプソンは、フィッツジェラルドとは違った形で有名人となる。短パンにコンバースのバスケットシューズを履いたサングラス姿で酒やドラッグをあおり、虚実入り交じった原稿を書きなぐる。気に喰わないことがあると拳銃をぶっ放した。その奇人ぶりで、スタージャーナリストとなったのだ。
独特な文体、政治的発言が多いことから、
日本では紹介される機会が限られていたトンプ
ソン。中島らもさんが本格的ノンフィクションを
残していたら、日本でもゴンゾー・スタイルが
発生したかも。
 トンプソンのジャーナリストとして素晴らしいところは、決して"いい人"と思われようとしなかったことだ。露悪的に努め、世間の常識に飲み込まれることに抗い続けた。気に喰わないことがあるとすぐ発砲したと言われるが、トンプソンの拳銃は世間の常識やしがらみに向かって火を噴いていたのだ。『GONZO』では大統領取材中、トンプソンのアシスタント的役割を果たした年下の作家ティム・クラウスが登場し、ジャーナリストとしていちばんイケイケだった頃のトンプソンの素顔を語っている。取材に同行していたティム・クラウスによると、トンプソンの印象は"温かい人"であり、"ドラッグや酒に決して溺れることがなかった"と証言している。汚物まみれの真実により近づいた原稿をものにするために、"ならず者"という仮面を被って突撃取材していたことが分かる。しかし、やがて、その仮面の姿が一人歩きするようになる。  一連の大統領選挙の取材を経て、トンプソンは全米中にキャラクターが知れ渡り、取材活動に支障をきたすようになり、晩年はスキーリゾート地として知られるアスペンの山荘に篭りがちとなる。2001年9月11日の世界貿易センタービルが崩れ落ちるニュースを見て、ブッシュ政権による弾圧政治の危惧を訴えるが、かつてのような旺盛な執筆活動が再開されることはなかった。『ラスベガスをやっつけろ!』は"アメリカンドリームの終焉"をドタバタ喜劇として描いたが、9.11以降のブッシュ政権が起こした行動は、トンプソンが愛した"自由の国"米国の完全なる崩壊劇だった。笑いを挟む余地が、そこにはまったくなかった。テレビの画面には、毒舌や拳銃では歯が立たないハイテク兵器が飛び交っていた。  2005年2月20日、トンプソンは自宅で拳銃自殺を遂げた。以前から拳銃自殺することを公言していたことから、家族は覚悟していたらしい。トンプソンの遺体を見つけた息子のフアン・トンプソンは澄み渡ったアスペンの青空に向かって、銃を3発ぶっ放している。それは、父ハンター・S・トンプソンが、ハンター・S・トンプソンらしく自分の人生に幕を降ろしたことへの礼砲だったそうだ。 (文=長野辰次) gonzo04.jpg 『GONZO ならず者ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンのすべて』 監督/アレックス・ギブニー ナレーション/ジョニー・デップ インタビュー出演者/ジョージ・マクガバン、ジミー・カーター、パット・ブキャナン、トム・ウルフ、アニタ・トンプソン、フアン・トンプソン、ラルフ・ステッドマン、ソニー・バージャーほか 配給/ファントム・フィルム 2月19日よりシアターN渋谷、シネマート新宿ほか全国順次公開中 <http://gonzo-eiga.com>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学