イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』

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7,000人の候補からチャン・イーモウ監督に見初められた
新人女優チョウ・ドンユィ。"13億人の妹"と呼ばれている。
(c) 2010, Beijing New Picture Film Co., Ltd and Film Partner
(2010) International, Inc. All Rights Reserved.
 チャン・イーモウ監督は中国映画を代表する監督であると同時に、アイドル映画の巨匠でもある。『紅いコーリャン』(87)のコン・リー、『初恋のきた道』(99)のチャン・ツィイー、『至福のとき』(00)のドン・ジェ......と無名の美少女たちを発掘し、彼女たちが女優へと変身していく瞬間を記録してきた。カメラマン出身だけに、手垢の付いていない彼女たちがどうすれば一番映えるのか考え抜いた色彩美と設定を用意する。ちなみに『単騎、千里を走る。』(05)に主演した高倉健も、イーモウ監督にとって長年のアイドルだった。イーモウ流アイドル映画の主人公たちは恐ろしく健気な反面、周囲を驚かせるほどの無鉄砲ぶりを発揮する。かわいい顔して、やることはけっこー大胆。観客はすっかりイーモウ魔術に掛かってしまう。近年は歴史大作『HERO』(02)、『LOVERS』(04)、『王妃の紋章』(06)で商業的成功を義務づけられていたイーモウ監督だが、新作『サンザシの樹の下で』はイーモウ監督が本来得意とする名もなき庶民を主人公にした小品。7,000人の候補から選ばれた新人女優チョウ・ドンユィがキラキラと原石の輝きを放っている。
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イーモウ監督ならではのサービスショット。
水着の上にあえて白いシャツを着せて、
水浴びさせる。
 『007』シリーズのボンドガールをもじって、イーモウ監督作のヒロインたちは謀女郎(モウガール)と呼ばれる。新たにモウガールズ入りしたチョウ・ドンユィは『白線流し』(96年、フジテレビ系)に出演していた頃の酒井美紀、モーニング娘。4期生としてデビューしたばかりの加護亜依を彷彿させるスーパーイノセントキャラクター。中国でも今どきこの手のおぼこキャラは珍しいらしく、"13億人の妹"と呼ばれているそうだ。中国大陸は大きなお兄さんたちでいっぱいだ。それはともかく、久々のアイドル映画『サンザシの樹の下で』でイーモウ監督の演出が冴え渡る。ドンユィ演じるジンチュウは恋仲となる青年と直接手を握ることができず、木の棒を挟んで間接的に手を握る。小川で水遊びするときは、相手に水着姿を見せるのが恥ずかしいので白いシャツを上に羽織る。母親には処女かどうか鼻の骨を押されて確かめられる。いつしか観客は絶滅寸前の希少動物を双眼鏡で追い掛けているかのような気分に陥るのだ。  時代背景は文化大革命期(1966~1978)。町の若者たちは「農村に学べ」という国の方針(上山下郷運動)に従って、地方の農家に居候して汗を流す生活を送っていた。町の高校に通う少女ジンチュウ(チョウ・ドンユィ)もそんなひとり。赤いサンザシの花が咲くと言い伝えられる農村へ教育実習に赴く。ジンチュウの父親は「反革命分子」の烙印を押され、獄中にいる身。そのため一家は肩身の狭い生活を送っていた。幸いジンチュウは成績が良く、うまくすれば学校に残って教職に就けるかもしれない。同級生たちからは仲間はずれ扱いされていたジンチュウだが、農村で親切に接してくれる好青年スン(ショーン・ドウ)が現われる。ボーイ・ミーツ・ガール。青春映画の幕開けですな。
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自転車で2人乗りするスン(ショーン・ドウ)
とジンチュウ(チョウ・ドンユィ)。青春映画
に自転車シーンは必須だね。
 農村でのスンとの淡い交流も束の間、ジンチュウは町に戻ることになるが、「本当に赤いサンザシの花が咲くか確かめよう」と2人は約束を交わす。こうして「反革命分子」の娘と将来有望な青年との遠距離恋愛が始まった。ジンチュウは高校を卒業して教員見習いになるが、恋愛にうつつを抜かしていることが学校にバレたら大問題。ジンチュウは教師になれないどころか、一家全員が路頭に迷うわけですよ。しかし、恋愛は禁じられれば禁じられるほど燃え上がるというもの。人目を盗んでの2人の逢瀬は、段々とエスカレートしていく。  中華版『世界の中心で、愛をさけぶ』と称される中国のベストセラー小説『サンザシの恋』が原作となっているが、イーモウ監督自身が文革期に辛酸を舐めた世代。イーモウ監督の父親は中国共産党と敵対する国民党の軍人だったため、イーモウ一家はまさに「反革命家族」として最下流の生活を余儀なくされていた。イーモウ監督は本来なら工場勤務の名もない労働者として一生を終えるはずだったが、26歳で幸運にも北京電影学院撮影科に入学でき、どん底生活から脱するチャンスを手に入れた。映画が好きで映画監督になったのではなく、どん底人生と決別するために映画の道に進んだ人だ。映画の世界で生きていく覚悟が違う。周囲の目を気にしながら家族のために優等生を演じ続けるジンチュウは、若い頃のイーモウ監督に限りなく近い。
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革命的舞踊を披露するチョウ・ドンユィ同士。
チャイナドレスより人民服が似合う純朴キャラ
です。
 イーモウ監督はやがて文革後の自由な空気の中で才能を育んだ"第五世代"の俊英監督として頭角を現わす。公私に渡るパートナーだったコン・リーと別れた後も、『あの子を探して』(97)、『初恋のきた道』とヒットさせ、押しも押されぬ世界的巨匠となる。とはいえ、中国には検閲制度があり、自由気ままに作品を作ることはできない。その上、近年は「ハリウッド映画に負けるな」と商業的な成功も課せられるようになった。演出を委ねられた北京五輪開・閉会式は、失敗が絶対に許されない国家的大プロジェクトだった。現在公開中の松本人志監督作『さや侍』で主人公の脱藩浪士は"三十日の業"に処せられるが、イーモウ監督の場合は"一生の業"だ。どん底生活からは脱したが、国が許可した作品内容で、芸術的&興行的に両立する作品を常に求められる。若いインディペンデント系の監督からは「魂を売った」と中傷されるが、それでもイーモウ監督は映画を撮り続けなくてはならない。現在はクリスチャン・ベイルが出演する次回作『Nanjing Heroes』を製作中だ。これは南京事件を題材にしたもの。日本での公開は波紋を呼ぶことは間違いない。  『サンザシの樹の下で』の後半、スンは体調を崩して病院に入院する。スンは国の命令で鉱物資源を調査していたところ、どうやら白血病を発症したらしい。スンの体調が優れないことを知ったジンチュウは母親の警告、病院の規則を破ってまで病棟に忍び込んでスンの看病をしようとする。ずっと優等生で過ごしてきたジンチュウのささやかなる抵抗だ。イーモウ監督は国家の意向に従いながらも、やんわりと自己主張する。政治や社会の前では、個人の感情なんてあまりにもちっぽけに過ぎない。愛し合う者同士も簡単に引き裂かれてしまう。でも、愛し合った当事者同士の記憶だけは鮮明に残る。心の中の記憶だけは誰にも引き裂くことができない。やがてジンチュウとスンにとって思い出のサンザシの花が咲く季節が訪れる。2人の想いが宿ったサンザシは、一体何色の花を咲かせるのだろうか? (文=長野辰次) sansaji05.jpg 『サンザシの樹の下で』 監督/チャン・イーモウ 出演/チョウ・ドンユィ、ショーン・ドウ、シー・メイチュアン 配給/ギャガ 7月9日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー <http://sanzashi.gaga.ne.jp>
初恋のきた道 かわいいなぁ。 amazon_associate_logo.jpg
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ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』

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メタリカが楽曲提供している『メタルヘッド』。
ナタリー・ポートマンの初プロデュース作なのだ。
(c)2010Hesher Productions,LL
 アスリートでいえば"ゾーン状態"に入っているのだろう。今年のアカデミー賞主演女優賞を受賞したナタリー・ポートマンが絶好調だ。仕事に追われている研修医が幼なじみとセックスフレンド契約を結ぶエロチックコメディー『抱きたいカンケイ』がこの春スマッシュヒットし、『ブラック・スワン』もオスカー受賞効果で絶賛ロングラン公開中。7月2日(土)より公開されるSF大作『マイティ・ソー』ではアメコミ世界にシェークスピア劇っぽい格調を与え、継母役を演じた感動の家族ドラマ『水曜日のエミリア』も同日公開。スクリーンごとに様々なナタリー・ポートマンがいる。『ブラック・スワン』で共演したフランス人振付師ベンジャミン・ミルピエと出来ちゃった婚し、6月にめでたく出産。公私ともにイケイケでアゲアゲ。そんなナタリー・ポートマン出演作の中で最も異彩を放っているのが、6月25日より公開中の『メタルヘッド』。新人監督スペンサー・サッサーの長編デビュー作である本作で、ナタリー・ポートマンは助演&初プロデュースを買って出ている。  メタルヘッドと聞いて、「ヘビメタ映画かよ」と思った人はご明察。不景気な小さな街に大迷惑なヘビメタ野郎が流れてきて、ひと騒ぎ起こす物語なのだ。母親を交通事故で亡くして塞ぎ込んでいる少年TJ(デヴィン・ブロシュー)の家に、ヘッシャー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)と名乗るヘンテコなヘビメタ野郎が勝手に上がり込んできて、居候を決め込む。このヘッシャーなる男、パンツ一丁で家の中をうろうろし、近くの電柱によじ登り、無断でケーブルをいじって有料のアダルトチャンネルを見放題にしてしまう。誘ってもいないのにテーブルに着いて晩飯を食べ出す。ガレージでヘビメタ音楽を大音量で流す。少年TJは口あんぐり。しかも、趣味はお手製の爆弾づくり。見るからにヤバい人なので、怖くてお引き取り願えない。同じ居候でも、『侵略!イカ娘』(テレビ東京系)のようなかわいげはまったくないでげそ。
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他人の家に上がり込んで勝手にメシを喰う
ヘッシャー。『(500)日のサマー』(09)
のジョセフ・ゴードン=レヴィットが主演。
 普通ならTJの父親(レイン・ウィルソン)が「なんだ、お前は!?」とヘッシャーを追い出すところだろうが、TJの父親も愛妻を事故で亡くしたショックから立ち直れずに、精神安定剤を服用して目をトロンとさせたまま。ヘッシャーを追い返す気力はなく、まったく頼りにならない。家主であるTJの祖母(パイパー・ローリー)はヘッシャーのことを「TJの新しいお友達」と思って、いそいそと食事の用意をしている。お~い、見ず知らずのヘビメタ野郎が家の中を侵略していることに気付けよ。そうでなくてもTJは母親の不在が受け入れられない上に、学校では悲惨なイジメに遭っているのに。もうこれ以上、トラブルは増やしたくない。TJは「ひょっとしてヘビメタ野郎はワルぶっているだけで、実はイイ人なのでは?」と思ってみたりするけど、イジメの実態を知ったヘッシャーは火に油を注ぐ始末。こいつはヘビメタ野郎どころか、人の不幸を楽しんでいる悪魔野郎だよ。TJは決心する。もう誰も頼ってはダメだ。子どもだろうが喪中だろうが、自分の力で降り注ぐ火の粉は振り払わなくてはいけないのだと。  本作で初プロデュースを経験したナタリー・ポートマンは、近所のスーパーマーケットでレジ打ちしている冴えない女・ニコール役で助演。ニコールは真面目さだけが取り柄のメガネブスというキャラクターだ。スーパーマーケットの駐車場でTJがイジメられているのを見て、子どものケンカに割って入る。多分、学生時代は副生徒会長か何かだったんだろう。品行方正で通した学生時代はそれなりに夢を抱いていたのかもしれないけど、学校を出てみたら就職先がまるでない。食べていくためにスーパーマーケットで働いているが、もっと働いて稼ごうにもワーキングシェアで勤務時間を増やすこともできない。恋人いない歴も更新中。できることといえば、イジメに遭っている少年を一時的に助けたことぐらい。ニコールは自分が何のために生きているのかさっぱり分からない。そんなところに現われたのが、悪趣味で下品でマナーのマの字も知らないヘビメタ野郎のヘッシャーですよ。TJを引き連れて登場したヘッシャーの傍若無人ぶりは、清く正しく細々と生きてきたニコールには衝撃的だった。自由気ままに一人で生きているヘッシャーの裸姿に、ニコールは心の奥で「きゅん」と感じちゃう。
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ヘビメタ野郎のヘッシャーはすぐ上半身裸に
なる。お前はジャニーズか。お腹には趣味の
ワルいイカれたタトゥーあり。
 主人公が自分とは異なる境遇で育った他者と出会い、新しい価値観に揺さぶられていく。映画における王道的ストーリーだ。『男はつらいよ』(69)の原型となった山田洋次監督の『なつかしい風来坊』(66)、森田芳光監督のブレイク作『家族ゲーム』(83)、井筒和幸監督の大ヒット作『パッチギ!』(05)もそうだ。『キック・アス』(10)のクロエ・グレース・モレッツ主演でリメイクされたスウェーデン産のヴァンパイア映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)、SFバディムービー『第9地区』(09)もしかり。"ハリウッドの良心"クリント・イーストウッドの主演作&監督作の多くは『グラン・トリノ』(08)をはじめ、他者との出会いをテーマにしている。もちろん他者との出会いがすべてハッピーエンドとは限らない。『硫黄島からの手紙』(06)のような歴史的悲劇を招くことが多々ある。それは他者との出会いが想像以上のエネルギーを生み出すからだ。  他者の存在を認めることで、はじめて自己が確立される。だが、他者を受け入れる際に、自分の都合のいい部分だけを受け入れるわけにはいかない。ヘビメタ野郎のヘッシャーからヘビメタ音楽を取り上げれば、ただのつまらない腑抜けた男になってしまうだろう。他者をそのまま受け入れることは、自分自身を全肯定することでもある。ただし、受け入れる側に体力と気力がないと、他者に自分の存在を飲み込まれてしまう。  TJやニコールはヘビメタ野郎のヘッシャーと出会うことで、ままならない現実社会に絶望するのではなく、ままならない現実社会を受け入れて生きていくために必要なものを学んでいく。周りから嫌われないように静かに大人しく生きていくのではなく、嫌われてもいいからフルボリュームでギュインギュインいわせて生きてみろよ。鼻つまみ者のヘッシャーは、イカした悪趣味な置き土産を残して小さな街を去っていく。彼の正体は誰も知らない。 (文=長野辰次) metalhead04.jpg 『メタルヘッド』 製作・監督・脚本・編集/スペンサー・サッサー 出演/ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ナタリー・ポートマン、レイン・ウィルソン、デヴィン・ブロシュー、パイパー・ローリー  配給/フェイス・トゥ・フェイス+ポニーキャニオン 6月25日よりシアターN渋谷ほか全国順次ロードショー公開中 <http://www.metalhead-film.com/>
ライヴ・イン・メキシコ~栄光の一夜! 伝説! amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』

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ハビエル・バルデム主演の親子ドラマ『BIUTIFUL ビューティフル』。
映画を見終わってから、じんわりと熱いものが込み上げてくる。
(C)2009 MENAGE ATROZ S. de R.L. de C.V.,
MOD PRODUCCIONES, S.L. and IKIRU FILMS S.L.
 "世界のクロサワ"が『七人の侍』(54)を撮る前に発表した作品が、志村喬主演の『生きる』(52)だ。黒澤明監督のヒューマニズム性を最も象徴した作品といわれている。メキシコ生まれのアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督は、19歳のときにメキシコで開かれた黒澤明回顧展で『生きる』を観たそうだ。そのイニャリトゥ監督が『ノーカントリー』(07)で冷血な殺し屋を演じたハビエル・バルデムを主演に、スペインのバルセロナを舞台に撮り上げたのが『BIUTIFUL ビューティフル』。"人間は死に直面して、生命の美しさを知る"という名台詞で知られる『生きる』に、イニャリトゥ監督がインスパイアされて作ったものだ。ロシアの文豪トルストイの小説『イワン・イリイチの死』に影響を受けた黒澤明のモノクロ映画を、メキシコの青年が27年後にスペインで自己流にアレンジして映画化した。世界は一本の糸で結ばれていることを『バベル』(06)で唱えたイニャリトゥ監督らしい。  といっても、黒澤監督の『生きる』に似ているのは最初の設定だけ。バルセロナの片隅で2人の子どもを育てているヤモメ男のウスバル(ハビエル・バルデム)は医者から末期ガンであることを宣告され、残された時間をどう過ごすか考える。『生きる』の主人公は市役所で苦情処理の仕事に打ち込み、あっぱれ立派な児童公園を残してあの世へ旅立つ。一方、本作の主人公ウスバルは幼い頃に両親に死に別れ、兄と2人で汚れ仕事に手を染めながら生きてきた。違法入国した中国人やセネガル人たちにヤバい仕事の仲介をしている。中国人たちには偽のブランド品バッグや海賊版DVDを作らせ、セネガル人には街角でドラッグの売買をさせている。『生きる』の公務員とは住む世界が違うので、辿り着くゴールはまったく異なる。
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2人の子どもたちの世話を甲斐甲斐しく焼く
ウスバル。自分が重病であることを言い出せ
ない。
 ウスバルは決して根っからの悪人ではない。だが、自分が生きるため、家族を食べさせていくために、違法労働者たちからずいぶんピンハネしてきた。でも自分が死ぬことが分かり、せめて少しでも思い残すことがないようにと善行に努める。残される子どもたちのために別れた妻との復縁を試みる。寒々しい地下室で寝泊まりしている中国人労働者たちをねぎらって暖房機を取り付ける。ドラッグの密売をしていたセネガル人が母国へ強制送還されたので、彼の奥さんと赤ちゃんの面倒を看る。無事にあの世へ行けるよう、せっせと良いことを積み重ねていく。  しかし、まぁ、デビュー作『アモーレス・ペロス』(99)に『21グラム』(03)で死体の山を築いてきたイニャリトゥ監督は甘くない。というかサディストだ。ウスバルの施した善意は、見事なほどことごとく裏目に出てしまう。復縁した妻はまだ双極性障害が完治しておらず、おねしょをした息子にDVを振るう。地下室で暖房機を付けっ放しで寝ていた中国人たちは、翌朝みんな冷たくなっていた。ろくに教育を受けていないウスバルも中国人も、暖房機を使うときは換気をこまめにしましょうという常識を知らなかったのだ。ウスバルが子どもたちのために残した大金はセネガル人の女性が持ち出し、空港へ向かう。黒澤監督の『生きる』というよりは、根本敬のカルト漫画『生きる』のような超ブラックな展開だ。
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ウスバルは別れた妻との復縁を試みるが、
彼女は薬物依存症で自分の感情がコントロール
できない状態だ。
 お得意の群像劇『バベル』でグローバル化した国際社会を描いたイニャリトゥ監督だが、本作ではウスバルという一人の男の中に世界がゴォゴォと音を立てて渦巻いている。ウスバルの父親は、ウスバルがまだ母親のお腹の中にいた頃、メキシコへ逃亡して船上で病死してしまった。ウスバルの父親はカタルーニャ人で、フランコ政権の独裁を嫌って亡命したのだ。ウスバルは父親についての記憶がまったくない。自分たち家族が食べていくためにセネガル人にドラッグの売買をさせていたが、自分の妻がドラッグ依存症になってしまった。汚れ仕事から手を引き、まっとうな仕事を探そうにも、外国人労働者たちが安い日当で働いているので、転職のしようがない。ウスバルの生活はタコ足配線でこんがらがったコードで縄跳びしているような毎日だ。  同じハビエル・バルデム主演の『それでも恋するバルセロナ』(08)では芸術と情熱の街として表の顔を紹介されたバロセロナだが、本作ではバルセロナの移民街を中心に、大都市の裏の顔が映し出される。イニャリトゥ監督によると、フランコ政権によってカタルーニャ語の使用が禁じられた時代にウスバルは育ったそうだ。ウスバルはスペインにいながら母国語を失った"言語難民"でもあるのだ。
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ウスバルと古くからの付き合いのある霊媒師。
2人とも思いを残してこの世を去る者の苦しさ
を知っている。
 本作のアソシエイトプロデューサーとして『トゥモロー・ワールド』(06)のアルフォンソ・キュアロン監督と共に、『ヘルボーイ』(04)、『パンズ・ラビリンス』(06)のギレルモ・デル・トロ監督が参加している。デル・トロ監督はキュアロン監督を通じて、同じメキシコ人で、同世代であるイニャリトゥ監督のデビュー作『アモーレス・ペロス』の編集を手伝ったという仲。『バベル』では冗漫にならないようにまとめたほうがいいと助言している。本作ではウスバルが死んだ人間とコミュニケーションする特殊能力を持つ一面が盛り込まれているが、そんなスピリチュアル系のシーンは特撮好きなデル・トロ監督っぽくもある。デル・トロ監督は日本のアニメやSFドラマが大好きなことで有名。黒澤作品を敬愛するイニャリトゥ監督とも波長が合うようだ。  いよいよウスバルは自分のドッペルゲンガーが見えるようになり、残された時間はわずかとなる。ウスバルは鎮痛剤で痛みをこらえながら、最後の最後まであがき続ける。『生きる』の志村喬のように自分の作った公園でブランコに乗って「ゴンドラの唄」を歌う悠長な真似はできない。結局、ウスバルは2人の子どもたちに何も残してあげることができない。長女にダイヤの指輪を渡すが、本物かどうか怪しい。もし、本物なら遅かれ早かれ誰かに盗まれるだろう。ウスバルが子どもたちにしてあげられたことは、「ビューティフルって、どう綴るの?」と尋ねる長女に対して、優しく「素直に発音通りに綴ればいいんだよ」と教えてあげたことぐらい。学校に通えなかったウスバルは子どもたちに英語の「Beautiful」の綴りを「Biutiful」だと教える。子どもたちは多分、この先この綴りの間違いでさんざん笑いものになるだろう。でも、残された子どもたちにとっては、間違った綴りが父親との温かい思い出となるのだ。  ウスバルが死んだ後、2人の子どもたちは辛い現実社会に放り出される。それでも子どもたちは生きていく中で、心がワクワクすることにもいつか出会うだろう。そのとき、彼女たちは「Biutiful!」と感じるはずだ。 (文=長野辰次) bi05.jpg 『BIUTIFUL ビューティフル』 監督・脚本/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 出演/ハビエル・バルデム、マリセル・アルバレス、エドゥアルド・フェルナンデス 配給/ファントム・フィルム 6月25日(土)より、TOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー <http://biutiful.jp/>
世界はつながっている。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』

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人口1万4,000人の浦河町で1918年から
営業を続けている「大黒座」。写真は93年時の旧大黒座と
先代館主の三上政義さん。
 "映画を見ない人生より、見る人生のほうが豊かです"。これは北海道の南岸・浦河町にある映画館「大黒座」の3代目館主・三上政義さんの言葉だ。確かに映画を見なくても人間は死なないし、映画を見てもお腹は膨れない。でも、しかし、なのだ。映画を見る人生と見ない人生ではずいぶんと違う。できればDVDではなく、映画館の暗がりの中で知らない人と一緒に笑ってみたい、泣いてみたい。やっぱり、町に映画館があるとうれしい。スクリーンの向こう側は、現実世界とは異なる"鏡の世界"だ。たとえ鏡の世界に入れなくても、鏡の世界の存在を知っているだけで心が踊る。とはいえ、鏡の世界を維持していく映画館経営者は大変だ。週末はみんな車に乗って郊外のシネコンに向かう。客足が減る一方、ドルビーだデジタルだと新しい機材を次々と導入しなくてはいけない。現在の大黒座は政義さんの息子・三上雅弘さんが4代目となり、2008年に開業90周年を迎えた。ちなみに浦河町の人口は1万4,000人である。そんな北国の小さな町で大黒座はどうやって1世紀近くも営業を続けてこられたのか? ドキュメンタリー映画『小さな町の小さな映画館』はその謎を解き明かしていく。  大黒座が建てられたのは1918年、大正7年のこと。雅弘さんの曾祖父にあたる大工の三上辰蔵は、もともと自宅に旅芸人たちを泊まらせていた。そのうち旅芸人たちの余興を楽しみに三上家に集まる人たちが増え、どうせ大工なんだからと自前で劇場を作ったそうだ。映画上映だけでなく、浪曲や講釈ものもやっていたので大黒館ではなく大黒座となった。辰蔵の娘ヨネが2代目を継ぎ、1950年代はまさに映画黄金時代で、漁港に面する大黒座は羽振りのいい漁師たちで連日連夜賑わった。やがて政義さんが3代目となるが、70年代以降の映画産業は斜陽化。入場料よりストーブ代のほうが高くつく状態となる。都会の映画館では『E.T.』(82)や『子猫物語』(86)が大ヒットしていたが、フィルムの貸し出し料金が100万円と高く、大黒座はこの2本は上映できなかった。配給会社からは「これを買えないようなら、映画館はやめたほうがいい」と言われている。
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4代目館主の三上雅弘さん。「石にかじりつ
いても映画館を続けようと考えているわけで
はありません」と自然体の経営が信条。
 政義さんは何度も閉館を考えるが、風雪にさらされ続けてきた大黒座は映画スタッフの目に留まり山田勇男監督の『アンモナイトのささやきを聞いた』(92)や恩地日出夫監督の『結婚』(93)のロケ地に選ばれている。また地元の映画ファンたちが映画サークルを結成し、温かく応援してくれた。このように紹介すると映画の神様が微笑む幸運な映画館のようだが、現実はもっとシビアだ。映画館だけでは赤字なので、三上さん一家はクリーニング店を併設して、副業の黒字で何とか補填しながら運営を続けてきた。映画の上映開始時間だけ、政義さんの妻・雪子さんがモギリ嬢を務めている。政義さんが亡くなり、東京の大学に進学して稼業を継ぐ気のなかった息子の雅弘さんが4代目となった。これまで赤字を補っていたクリーニング業も、最近の若者はクリーニングの必要がないファッションを好むようになったため、経営は本業・副業どちらも厳しい。  では、大黒座を支えているのは何か? 本作の中で紹介される、ひとりの女子高生の思い出が印象的だ。映画好きな彼女が大黒座で見た映画の中で記憶にいちばん残っているのは、SF映画『エイリアン2』(86)だという。映画そのものは大したことなかったけれど、映画館を出ると目の前に見慣れた港の風景が広がっていたのがひどく不思議に思えたらしい。ついさっきまで宇宙の彼方にいたはずなのに。その女子高生は札幌の大学に進学したため、大黒座は熱心なお客をひとり失ってしまう。だが、彼女は札幌で見た映画の感想を手紙に綴り、大黒座に送り続けた。この女性は、後に4代目館主・雅弘さんの夫人となる佳寿子さん。父・政義さんが亡くなり、4代目を継ぐかどうか悩む雅弘さんが「ひとりでやっていく自信がない」と漏らした際に、無責任に「がんばって」と声を掛けることができず、「一緒にやろう」と嫁いだ。映画館運営は"映画愛"だけではやっていけない。もっと深い覚悟がないと続かないのだ。
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雅弘さんの母・雪子さん。クリーニング業の傍
ら、大黒座のモギリをしている。お客さんゼロで
も動じない年季の入った看板娘だ。
 雅弘さん・佳寿子さん夫妻の長女は、現在やはり地元を離れて、尾道の公立大学に通っている。入学の際に付き添った佳寿子さんは尾道に一軒だけ映画館(シネマ尾道)があることを知り、ホッとしたと話す。親類縁者のいない遠い町に娘を送り出すことに不安を感じていたが、娘の暮らす町に映画館があると分かり、親戚を見つけたような安心感を覚えたそうだ。長女は大学に通う傍ら、シネマ尾道でボランティアスタッフをし、見た映画の感想を実家に手紙で報告しているという。遠く離れていても、北国で生まれ育った家族の営みが綿々と続いている。  大黒座に通うお客さんも味のある人が多い。愛知でエンジニアをしていた櫻井さんは、浦河町に移り住んで和鶏の飼育をゼロから始めた。和鶏が産んだ健康卵は美味しいと評判だが、手間やエサ代が高くつくことから利潤がなかなか上がらない。毎日鶏を相手に苦闘している櫻井さんだが、大黒座の上映作品は欠かさず見ている。映画を見て、面白かったときはエビスビール、まぁまぁだったときは普通のビール、つまらなかったときは発泡酒を飲むそうだ。また、毎年11月になると大黒座では「大黒座まつり」が開催される。これは雅弘さんの古くからの友人である、地元在住の漫画家・鈴木翁二さんが発起人となって開いた「映画酒場・民衆BAR」が名前を変えたもの。祭りの日の大黒座ではロビーに食事や酒が並び、映画の特別上映のほかに、ステージ上で様々な出し物が延々と続く。初代・辰蔵の頃、旅芸人や地元の人たちが集まっての宴会も、きっとこんな風だったんだろう。幸福なデジャブ感で大黒座が満たされていく。
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ポスターをせっせと張る雅弘さんの妻・佳寿
子さん。大黒座はwebでの告知はしてないので、
昔ながらの宣伝と口コミが命。
 埼玉在住の森田惠子監督は08年から大黒座の撮影を始め、持ち出しで映画を完成させた。NTTの時報や番号案内の声で知られる中村啓子をナレーションに起用したのは、昔からの知り合いで友達価格で頼めたかららしい。聞き覚えのある声が"町の映画館"の身近さを伝える。森田監督によると、「大黒座がドキュメンタリー映画になる」ということを知って、昔から浦河に住んでいる町民たちが驚いたそうだ。自分たちが生まれるずっと前からある当たり前の存在なので、1万4,000人の町に映画館があることのレアさがピンとこなかったらしい。今年の2月から大黒座をはじめ、北海道や各地で上映が始まり、徐々にだが大黒座を、町の映画館を再評価する声が広がっている。  自分には関係のない鏡の世界の出来事のはずなのに、どうして映画を見ていると泣けてきたり、笑えたり、頭に来たり、ほんわかしたりするのだろか。中には映画館を出た瞬間にきれいさっぱり忘れてしまう映画もあれば、逆立ちしても理解できない作品もある。映画のプログラムは、凸凹だらけでふぞろいな人生に似ている。やはり、映画を見ない人生より、見る人生を選びたい。 (文=長野辰次) daikokuya.jpg 『小さな町の小さな映画館』 プロデューサー・監督・撮影/森田惠子 構成・編集/四宮鉄男 語り/中村啓子 音楽/遠藤春雄 配給/アルボス 6月18日(土)~7月1日(金)ポレポレ東中野にて毎朝10時20分よりモーニングショー、7月30日(土)~8月5日(金)シネマ尾道にて上映 http://www.chiisanaeigakan.com
ニュー・シネマ・パラダイス 不朽の名作。 amazon_associate_logo.jpg
<http://www.chiisanaeigakan.com> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』

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是枝裕和監督の新作『奇跡』。九州新幹線の一番列車が
すれ違う瞬間に奇跡が起きるという噂を聞きつけた兄弟が
願掛けの旅に出る。
(c)2011『奇跡』製作委員会
 桜島が大噴火すればいい。少年たちは冗談ではなく純粋な気持ちで、そう願う。このご時勢に不謹慎極まりない願いだが、少年たちは真剣だ。両親が別居してしまい、小学6年と4年になる息子たちは、鹿児島と福岡で別々に暮らしている。桜島が大噴火を起こせば、両親はケンカどころじゃないと思い直して、また一緒に暮らせるに違いない。兄弟はそれぞれ親に内緒で、九州新幹線のルートに沿って願掛けの旅に出る。『誰も知らない』(2004)、『空気人形』(09)などシニカルな社会派作品で知られる是枝裕和監督の新作『奇跡』は、少年たちが大人になるための通過儀礼として死体を捜しに行く『スタンド・バイ・ミー』(1986)の日本版といった趣きの作品だ。  この春に全線開通したJR九州新幹線のタイアップ企画かよと思われがちな作品で、実際にそうなのだが、『DISTANCE』(01)でオウム真理教問題を取り上げ、『誰も知らない』『空気人形』で生きることの痛さ、『歩いても 歩いても』(08)で心に傷を負いながら生きていく家族の姿を描いてきた是枝監督ゆえに、鉄道マニアの動員を狙っただけのイベント映画にはしていない。将来の見通しがつかない、どんよりとした社会情勢の中で、子どもたちの目線に立つことで、より低く、足元を見据えながら描いている。子どもたちを主人公にした『誰も知らない』ではシビアな結末を用意した是枝監督だが、監督自身が『歩いても 歩いても』の後、子どもが生まれたこともあり、シビアさの中にほんのりと希望が感じられる作品に仕上げてある。
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兄の航一(前田航基)は母(大塚寧々)に
連れられ、鹿児島で暮らす祖父母の世話に
なる。街の真ん前に活火山があることが信じ
られない。
 主人公は2人の兄弟。兄の航一(前田航基)は母親(大塚寧々)と共に鹿児島で暮らす祖父母(橋爪功・樹木希林)の実家で世話になっている。弟の龍之介(前田旺志郎)は福岡で売れないミュージシャンをしている父親(オダギリジョー)と気ままな生活を送っている。兄弟は父と母が新しい恋人を作らないよう監視しながら、「家族がまた一緒に暮らせるように」と密かに連絡を取り合っている。そんなとき、航一は学校で噂を耳にする。もうすぐ開通する九州新幹線の博多発の「つばめ」と鹿児島発の「さくら」の一番列車がすれ違う瞬間に凄いエネルギーが生じて、奇跡が起きると。そして、その瞬間を目撃した人は願いが叶うと。航一と龍之介はこの噂を信じて、それぞれクラスメイトを伴って鹿児島と福岡を出発。「つばめ」と「さくら」が出会う熊本で合流する約束を交わす。  子どもたちの願いが切実だ。航一の親友・真(永吉星之介)は、家族同然だった飼い犬が死んでしまい、生き返らせたいと願う。死んだ犬をカバンに詰め込んで熊本に向かう。蘇ったら、それこそスティーヴン・キング原作の『ペット・セメタリー』(89)だよ。父親に似て、女の子にモテモテの龍之介はクラスメイトの女子たちを連れてくる。中でもひと際目立つ美少女・恵美(内田伽羅)がいる。恵美の願いは「女優になりたい」というものだが、これは志なかばで妊娠してしまい、女優業を諦めた母親(夏川結衣)の夢を代わりに叶えようというもの。だが母親は恵美の優しい性格では女優として成功しないよと否定的だ。恵美が女優を目指しているのは、詳しくは触れられないが、テレビのCMやドラマに出るようになれば、別れた父親が自分の存在に気づいてくれるかもしれないという想いもあるのだろう。もしかしたら、父親が会いに来て「がんばったな」と誉めてくれるかもしれない。母親に対して「立派に育てたな」と言ってくれるかもしれない。意外にも子どもたちの願いは、自分のことよりも家族のことを心配し、思い遣るものが多い。
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弟の龍之介(前田旺志郎)と父(オダギリ
ジョー)は福岡で、男2人で気ままな生活を
送っている。龍之介は積極的に地元に溶け込む。
 『空気人形』のオダギリジョーがいい年齢して売れないミュージシャン、『歩いても 歩いても』の阿部寛がデリカシーに欠ける小学校の教員、やはり『歩いても 歩いても』の樹木希林がハワイアンに熱心な祖母と、是枝作品オールスターキャストかというくらい豪華なキャストがそろっている。大人たちは完成された人間ではなく、みんな欠点、短所を持っているが、それぞれ自分が選んだ道をマイペースで生きている。子どもたちは敏感で、マイペースで生きている大人の心配はさほどしないが、母親が暗い顔をしていると自分に原因の一端があるのではと気に病んでしまうのだ。  小学生のお笑いコンビとしてすでに活躍中の"まえだまえだ"が、航一・龍之介兄弟を達者に演じているのに加え、劇中で目を惹くのが、龍之介のクラスメイトの美少女・恵美を演じた内田伽羅。本木雅弘、内田也哉子夫妻の長女(1999年生まれ)で、祖母である樹木希林から勧められ、本作のオーディションを受けて女優デビューを果たした。すでに雑誌のグラビアや映像出演は経験していたが、本格的な演技は初となる。熊本に着いたものの、泊まるところがなくて航一・龍之介たちが困っていると、女優志望の恵美が機転を利かせて老夫婦(高橋長英・りりィ)の家に迎え入れられる。園子温監督の『紀子の食卓』(06)、三木聡監督の『転々』(07)をはじめ、映画の中で"疑似家族"は度々重要なモチーフとして描かれるが、本作で子どもたちと老夫婦がひと晩だけの"疑似家族"を演じるこのシーンは格別に美しい。少年少女たちと老夫婦は"子離れ・親離れ"の儀式を疑似体験する。たったひと晩のうちに、少年少女たちはぐんぐん大人へと成長していく。
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龍之介のクラスメイトの恵美(内田伽羅)の
将来の夢は女優になること。夢が叶うかどうか
分かるのは、まだまだ先のことだ。
 クライマックスはいよいよ九州新幹線の「つばめ」と「さくら」が交差する瞬間だ。少年少女たちはあらん限りの大声で自分たちの願いを叫ぶ。彼らの願いは果たして叶うのだろうか? 奇跡は本当に起きるのだろうか? 多分、少年少女たちが思い描いたような具体的な奇跡は、リアリスティックな是枝作品上では起きないだろう。それでもエンディングには、鹿児島の銘菓かるかんのように軽やかな甘い後味が残る。母親たちは帰ってきた我が子がすっかり大人の表情になっていることに驚く。熊本で暮らす老夫婦は久しぶりに懐かしく温かい時間を取り戻すことができた。子どもたちは気づいていないが、奇跡を願いに行った彼ら自身が、小さな幾つもの奇跡を起こしていたのだ。そのことは"誰も知らない"ではなく、観客は知ることになる。漫画家・楳図かずお先生の『わたしは真悟』での言葉だが、「奇跡は誰にでも起きる。だが、そのことに誰も気づかない」と。そういうことらしい。 (文=長野辰次) kiseki05.jpg 『奇跡』 監督・脚本・編集/是枝裕和 音楽・主題歌/くるり 出演/前田航基、前田旺志郎、林凌雅、永吉星之介、内田伽羅、橋本環奈、磯邊蓮登、オダギリジョー、夏川結衣、阿部寛、長澤まさみ、原田芳雄、大塚寧々、樹木希林、橋本功 配給/GAGA 6月4日より九州先行公開中、6月11日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー <http://kiseki.gaga.ne.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? 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理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』

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反戦&学生運動が盛り上がった1960年代末を舞台にした
『マイ・バック・ページ』。妻夫木聡が記者、松山ケンイチが学生運動の
闘士を演じる。(C) 2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会
 とてもナイーブな青春映画『マイ・バック・ページ』を極めて乱暴に説明すると、大学を卒業して間もないヤル気に満ちた新社会人が理想と現実の狭間にパックリと口を開いた"落とし穴"に足をすくわれてしまう痛いドラマである。朝日新聞社に入社し、20代を週刊朝日、朝日ジャーナルの記者として過ごすが、ある事件に関わったことから同社を懲戒免職となった評論家・川本三郎氏の実体験を綴った同名エッセイが原作だ。時代設定は"全共闘運動"が盛り上がった1969年~1972年だが、映画の主人公・沢田のように、理想を追い求めすぎたために職場で浮いてしまい、退職・転職を余儀なくされた人は今も少なくないだろう。マジメで情熱的な若者ほど陥りやすい、実社会に潜む"落とし穴"の存在を、長編映画は『天然コケッコー』(07)以来となる山下敦弘監督がじっくりと丁寧に描き出している。
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学生運動を取材する週刊誌記者の沢田(妻夫木聡)
は年齢が近いこともあり、体制打破を訴える学
生たちにシンパシーを感じていた。
 大手新聞社に入社した沢田(妻夫木聡)は週刊誌編集部に配属されるが、まだ学生気分が抜け切っていない。記者であることを隠して、『男はつらいよ』(69)の寅さんよろしくテキ屋への潜入体験取材をするが、気のいいテキ屋の仲間たちに自分の正体を偽っているのが心苦しい。大きな組織に籍を置き、安全な立場から取材していることに"良心の呵責"を感じる。編集部に戻った沢田は、学生運動の最前線を取材する先輩記者(古舘寛治)に刺激を受け、自分もスクープをものにしたいと考えるようになる。そんなときに出会ったのが、自称"活動家"の大学生・梅山(松山ケンイチ)だった。学生運動の波に乗りそびれた野心家の梅山と、早く一人前の記者になろうと焦る沢田とが不幸な形で出会ってしまった。CCRの反戦ソング「雨を見たかい」をギターで弾き語る憎めない男・梅山は沢田から取材費を度々せびりながら、ついに"革命"を決行。梅山の指示を受けた柴山(中村蒼)らが自衛隊駐屯所を襲撃する。  劇中で描かれる自衛官殺害シーンは、学生運動が過激化していった1972年に起きた「朝霞自衛官殺害事件」を再現したもの。梅山が起こしたセンセーショナルな事件を、懇意にしていた沢田はスクープとして独占取材するが、会社上層部は記事の掲載をストップする。梅山は思想犯ではなく、殺人犯だと断定したのだ。上司は梅山に関する情報を警察に提供するように命じるが、沢田はジャーナリストとしての大鉄則"取材ソースの守秘"にこだわる。記者としてのアイデンティティーを最後まで貫き通すか、それとも上司の命令に従って警察に協力し、残りの人生は定年退職まで何もなかったように静かに黙って過ごすのか。沢田は二者択一を迫られる。
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東大安田講堂事件に感化された梅山(松山ケンイチ)
は、仲間を集めて"赤邦軍"を名乗るようになる。
 松山ケンイチ演じる梅山という男は、まったく意味不明な男だ。思想的信条があって、自衛隊を襲撃するわけではない。何かデカいことをやって世の中を変えたいと思っているものの、でもどう世の中を変えたいのかが分からないまま行動を起こしてしまう。梅山の溜め込んだエネルギーの爆発場所がステージや映画製作の現場なら良かったが、彼が仲間を巻き込んでジャンプした着地点は政治テロという名の殺人事件だった。原作にはなかった梅山の視点が映画では大きな比重を占めており、全共闘世代の若者たちの血気にはやった行動が、ひとりの自衛官の命を奪った事実が生々しく再現されている。『リンダ リンダ リンダ』(05)など軽妙な青春コメディを得意にしていた山下監督が、超シリアスな演出で新境地を切り開いている。  出演シーンは限られているが、物語上の重要なキーパーソンとなっているのが、忽那汐里演じる倉田眞子。沢田が配属された週刊誌のカバーガールを眞子は務めており、社会の毒をまだ浴び切っていない2人は仲良くなり、日比谷へ一緒に映画を観に出掛ける。2人が観る映画は、アメリカン・ニューシネマの隠れた名作『ファイブ・イージー・ピーセス』(70)。ジャック・ニコルソンが女癖の悪い放蕩のピアニストを演じたこの作品は、ラストがドラマチックな『俺たちに明日はない』(67)や『真夜中のカーボーイ』(69)と比べて、非常に地味な作品。沢田は「つまらなかったね」と感想を漏らすが、眞子は「面白かった」という。ジャック・ニコルソンが父親の前で泣くシーンがいいのだという。眞子は「私はきちんと泣ける男の人が好き」と沢田に語る。
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編集部に遊びに来た表紙モデルの眞子(忽那汐里)。
沢田は、眞子とのちょっとした会話に安らぎを
覚える。
 社内的政治に右往左往する社員記者たちと違って、眞子はこの時代のイノセントさの象徴のような存在だ。眞子のモデルとなったのは、「週刊朝日」のカバーガールを2年間務めた保倉幸恵さん。気取りのない明るい笑顔で人気者となった彼女は、その後は時代劇コメディ『天下御免』、永島慎二原作の『黄色い涙』などのNHKドラマに出演し、女優としての活躍を期待されていた。しかし残念なことに、彼女は1975年に22歳の若さでみずから命を絶っている。カメラに向かって笑顔を振りまいていた彼女もまた現実社会の"落とし穴"に陥ってしまったのだ。そして、彼女は2度と戻ってくることはなかった。  アメリカン・ニューシネマの主人公たちは、みんな自由を求めて旅を続けた。そして、どこにも自分たちが求める自由や理想郷がないことが分かると、最後は潔く死んでいった。『俺たちに明日はない』のボニーとクライドも、『明日に向かって撃て!』(69)のブッチとサンダンスも、『イージーライダー』(69)のビリーとキャプテン・アメリカも、みんな最後はカッコよく犬死にした。でも、現実は映画とは違う。例え、どこにも夢や自由や理想郷がないと分かっていても、生きながらえていかなくてはならない。会社に辞表を届けた沢田は、世間では青春と呼ばれるイノセントな季節が自分の中でエンドマークが打たれたことを悟る。立ち寄った居酒屋で沢田が飲むビールは苦い。あまりにも苦い。 (文=長野辰次) 『マイ・バック・ページ』 mbp006.jpg 原作/川本三郎 脚本/向井康介 監督/山下敦弘 撮影/近藤龍人 出演/妻夫木 聡、松山ケンイチ、忽那汐里、石橋杏奈、韓英恵、中村 蒼、長塚圭史、山内圭哉、古舘寛治、あがた森魚、三浦友和 配給/アスミック・エース 5月28日より新宿ピカデリー、丸の内TOEIほか全国公開中 http://mbp-movie.com/
週刊真木よう子 中野の友人 山下×井口昇×真木よう子という。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』

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日本初の音響デザイナーとして活躍した大野松雄氏。
『アトムの足音が聞こえる』は、彼の破天荒な半生を追い掛ける。
(c)シネグリーオ2010
 未来社会を音でデザインした、ひとりの天才がいた。その天才の名前は大野松雄。音楽マニアには"日本初の音響デザイナー"として名前を覚えられているが、日本初のテレビアニメ『鉄腕アトム』(63~66年、フジテレビ系)の効果マンといったほうが分かりやすいだろう。アトムの歩くときの、ピョコピョコという足音を生み出した裏方さんである。ロボットであるはずのアトムだが、その足音は非常にかわいらしく、足音にアトムの人格が備わっていた。アトムが生きている時代は未来だから、現代にない新しい素材が開発されているに違いないというのが大野氏の考えだった。大野氏は登場して間もない電子音楽を使って、"この世ならざる音"を生み出すことに情熱を注いだ。そんな天才的職人の半生を追ったのが、『パンドラの匣』(09)、『乱暴と待機』(10)などの劇映画で知られる冨永昌敬監督のドキュメンタリー映画『アトムの足音が聞こえる』である。  "この世ならざる音"を追い求めた大野氏の『鉄腕アトム』での仕事ぶりは、その後の日本のアニメ界に多大な影響を与えた。『宇宙戦艦ヤマト』(74年、日本テレビ系)で宇宙の広大さを電子音で表現した柏原満氏は大野氏の直弟子であり、『機動戦士ガンダム』(79年、テレビ朝日系)の効果音を担当した松田昭彦氏も大野氏の影響を大きく受けたと話す。世界中で人気を博した日本のSFアニメは、大野氏の存在なしではかなり評価の違ったものになっていたようだ。また柏原氏は『サザエさん』(フジテレビ系)、『ドラえもん』(テレビ朝日系)などの長寿アニメの効果音も手掛けている。タラちゃんが駆け足するときの不思議な足音は、どうやらアトムの足音の名残りらしい。大野松雄の存在を知らない人も、彼が生み出した、もしくは彼の影響を受けた"この世ならざる音"を耳にしながら、少年少女期を過ごしていたわけだ。
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アニメ『鉄腕アトム』のサウンド・エフェク
ト集である『鉄腕アトム・音の世界』。
大野氏の革新性は、古さを感じさせない。
 アトムの足音の意外な正体も解き明かされるが、本作は大野氏の天才ぶりを讃えるのが主題ではない。天才的な音の職人・大野松雄の、天才ならではの人間的な面白さを冨永監督は掘り下げていく。アニメ『鉄腕アトム』の原作者兼演出家であった手塚治虫に対して、大野氏は「印刷媒体でのあなたの仕事は尊敬しますが、映像に関してはド素人。素人は黙っててください」と言い放っている。"漫画の神様"に、ここまで言った人はそうそういなかったはずだ。天才だからこそ神様に向かって、ガチでケンカをすることもできた。また、アニメファンにとって、伝説的作品である『ルパン三世』第1シリーズ(71~72年、日本テレビ系)のエンドロールには"サウンド 大野松雄"と堂々とクレジットされているが、実際は名前を貸しただけで、本人はまったく『ルパン三世』には関与していなかったことが明らかにされる。天才であると同時に、かなりテキトーな一面も持ち合わせていたようだ。大野松雄とは一体どんな人物なのか、興味が湧いてくる。  大野氏が直接手掛けたテレビアニメは、結局『鉄腕アトム』だけだが、その後は『惑星大戦争』(77)などの映画を、さらに「つくばEXPO'85」のパビリオンなどの空間音響システム・デザイナーとして才能を発揮する。いち裏方に留まらず、ドキュメンタリー映画の製作・監督も手掛けている。大野氏が拠点とした東京・青山の大野スタジオ(綜合社)は、前衛芸術家が集まる梁山泊と化していたそうだ。だが、やがて借金で首が回らなくなり、大野氏は夜逃げしてしまった事実が告げられる。冨永監督は大野氏の亡命先である関西へと向かい、いよいよご本人が登場。滋賀県にある知的障害者たちのための施設「もみじ寮・あざみ寮」で年に一度開かれる寮生たちが出演する公演の音響を手掛けている大野氏のもとを、冨永監督は訪ねる。
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『機動戦士ガンダム』の迫力あるサウンドも、
『鉄腕アトム』の影響を受けていた。
(c)創通・サンライズ
 大野氏は1930年生まれ(東京・神田生まれの江戸っ子)。見た目は好々爺然としているが、冨永監督によるとやはり油断ならない人物だったそうだ。初対面の日、和やかな雑談の最中に軍事評論家・田母神俊雄の話題が出たとたん、「あの野郎、戦争も知らないくせに、いい加減なこと言いやがって!」と過激な口ぶりとなり、冨永監督をワクワクさせている。その一方、撮影中には「若い人はだめだな。頭が固いな」と何度も嫌みも言われたそうだ。  そんな大野氏の口からこぼれる職人哲学がサイコーに振るっている。「プロとは、いつでもアマチュアに戻れること。そして、どんなに手を抜いても、相手を騙せること」。実に含蓄ある言葉ではないか。確かに、プロ野球のエースは、ここぞという勝負どき以外は全力投球しない。全イニングを全力投球すれば、肩を故障してしまう。いかに手を抜いて、最善の結果を残すかがプロの仕事というわけだ。大野氏は「これだという仕事以外は手を抜いていたよ」と笑いながら語る。そう言いながら、大野氏は「あざみ寮、もみじ寮」の舞台公演をボランティアとして無償で長年支えている。「痩せても枯れても、かつてその道でプロと呼ばれたから、手抜きはできない」と言う。「プロとは手を抜くこと」という言葉と相反するが、これは「プロとは、いつでもアマチュアに戻れること を指すのだろう。  「あざみ寮・もみじ寮」で過ごす大野氏の表情は、とてもおおらかだ。都落ちした"過去の人"には見えない。天才・大野氏にとって、「あざみ寮・もみじ寮」はどのような場所なのだろうか。冨永監督にコメントを求めた。 冨永監督「あざみ寮・もみじ寮という場所は、僕らのような外部の人間に対しても大変にウェルカムなところで、とても居心地がよく、大野さんが何かとあそこに入り浸るのも雰囲気として理解できました。なにしろ、大野さんと寮生さん(施設生活者)や職員のみなさんとは40年のつきあいですから、ほとんど兄弟のような関係なんじゃないでしょうか。たとえば体育館です。あそこは大野さんの音響実験室みたいになっていて、大野さんが作り出す大音量の凄まじい音さえ、施設の日常に溶け込んでいるといった感じです。みんな、大野さんのことを"奇怪な音づくりに没頭する兄貴"くらいに思ってるんじゃないですか」
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オープンリールデッキを使って演奏する音楽
集団「Open Reel Ensemble」。孫世代のクリ
エイターたちも大野松雄をリスペクトしている。
 冨永監督作品は、『パビリオン山椒魚』(06)や『パンドラの匣』でジャズミュージシャンの菊地成孔、『乱暴と待機』で相対性理論と大谷能生といった気鋭のアーティストを起用し、オシャレな音楽のイメージがあるが、型破りな天才・大野松雄氏の生き様に触れたことで、今後どのような化学反応が生じるのかも気になるところだ。 冨永監督「僕の映画の音楽がオシャレかどうかはともかく、大野さんから何らかの刺激を受けたのは間違いありません。ただそれは、自分とはまったく異質な人物から人生が変わるほど影響を受けたというわけではなく、もともと僕が持っていたであろう大野松雄的な部分が、大野さんに会ったことで自覚できたということだと思います。大野さんについては心から尊敬する一方で、夜逃げしたとか、歯がなかったりとか、そういう刹那的な部分は手本になりませんが......」  プロとはうまく手を抜くこと。ピョコ。そして、いつでもアマチュアに戻れること。ピョコピョコ。アトムの足音と天才職人の言葉が、いつまでも胸にエコーし続ける。 (文=長野辰次) 『アトムの足音が聞こえる』 監督/冨永昌敬 ナレーター/野宮真貴 音響効果/パードン木村 出演/大野松雄、柴崎憲治、竹内一喜、大和定次、杉山正美、高橋巌、柏原満、桜井勝美、田代敦巳、町田圭子、小谷映一、ひのきしんじ、松田昭彦、Open Reel Ensemble、齋藤昭、湧井康貴、村上浩、由良泰人、レイ・ハラカミ、金森祥之  配給/東風 5月21日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開中 <http://www.atom-ashioto.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? 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[第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』

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死んでも死んでも、図太く生き返る富江(仲村みう)。
「美人薄命」という言葉は富江の辞書にはないのだ。
(c)Junji Ito (c)2011東映ビデオ
 富江は人気者だ。『リング』(98)の貞子、『呪怨』(03)の伽倻子にハリウッド進出は先を越されたが、シリーズ第1作『富江』(99)が公開されて以来、劇場版だけで過去7作が作られている。初代富江を菅野美穂が演じた後、宝生舞、酒井美紀らが"魔性の女"富江を代々演じてきた。宮崎あおい主演『富江 最終章・禁断の果実』(02)で打ち止めになるのかと思いきや、その後もしぶとく甦っている。死んでも死んでも、何度でもタフに甦るのが富江という女の魅力だ。わがままな女王さま気質なくせに、ひとりぼっちを嫌がる寂しがり屋でもある。艶やかな黒髪と左目の泣きぼくろに男は一度魅了されてしまうと、「富江のことを一番愛しているのは自分だ」という強迫観念に囚われてしまう。第8作となる『富江 アンリミテッド』で、今まで以上にチャーミングな富江像を創造したのは井口昇監督。成海璃子主演『まだらの少女』(05)、AKB48の前田敦子主演『栞と紙魚子の怪奇事件簿』(08年/日本テレビ系)といったアイドル系ホラー作品で才能をいかんなく発揮した異能の天才である。  井口監督版『富江』のタイトルロールを飾るのは、仲村みう。ローティーン時代から過激な水着やゴスロリファッションで男たちを悩殺してきた"小悪魔系"タレントだ。2009年には17歳にして、所属事務所の取締役に就任して話題となった。多分、世界でもっとも若くて美しい取締役タレントだろう。最近は松本莉緒、あびる優らギャル系の富江が続いていたので、黒髪でミステリアスな雰囲気を漂わせる仲村みうは、伊藤潤二の原作のイメージに近い適役と言える。今回の富江は、高校で写真部に籍を置く内気な少女・月子の姉という設定。人間でないはずの富江に、妹や両親がいるという異色の設定にまず驚かせられる。妹の月子をティーン誌のモデルとしても活躍する若手女優の荒井萌がナイーブに演じた他、月子が憧れる柔道部の俊夫先輩をACのCMで顔なじみになった大和田健介、井口作品に度々登場するヒロインの親友"よしえ"をAKB48の多田愛佳が演じている。
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富江の奔放さ、ミステリアスさに男たちは虜に
なってしまう。そして、また富江を巡って学園内
バトルロワイアルが勃発する。
 井口監督が紡ぐ悪夢の物語は、血の惨劇で開幕する。月子が美しい姉・富江をカメラで撮影していると、建設中のビルから資材が落ちてきて、富江の首筋に突き刺さる。登場してすぐに絶命してしまう不憫な富江。月子はそんな忌まわしい事故から1年経った今でも、なぜ誰からも愛された姉ではなく、ドジでノロマな自分が生き残ってしまったのかと自分自身を責めながら暮らしている。そんなとき、ふいに富江が自宅に帰ってきた。姉を失った心の傷を互いにケアし合うことで辛うじて成り立っていた月子の家庭は、姉が帰還したことで逆にあっけなく崩壊する。帰ってきて早々に「キャビアが食べたい、フォアグラが食べたい」と富江はわがまま放題だ。月子が「姉さんはおかしい」と訴えると、富江は父親に月子を折檻するように命じる。富江の命令を嬉々として受け入れる父親。母親は助けてくれない。でも、富江はイジワルなだけでなく、傷ついた月子のためにお風呂を沸かして、一緒に入浴することでスキンシップを図ることも忘れない。傲慢なくせに優しい富江。美しいけどグロテスクな富江。矛盾していればしているほど、富江は謎めいていて魅力的だ。
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死んだはずの姉・富江が転校生として再び現
われ、妹の月子(荒井萌)は目が点になってしま
った状態。
 大林宣彦監督の青春ファンタジーの名作に『ふたり』(91)がある。事故で死んだ聡明な姉・千津子(中嶋朋子)は内気な妹・美加(石田ひかり)のことが心配で幽霊となり、妹が一人前になるまで励まし続けるというハートフルな怪談ストーリーだ。大林監督の『ふたり』に出てくる姉は心優しい幽霊だが、井口監督版『富江』の姉はとてもイジワルだ。愛情表現の裏返しで、かわいい妹をイジメ倒してしまう。サディスティックな姉とじっと耐える内気な妹との倒錯した姉妹愛が、井口監督独特の美学として闇夜にひっそりと花を咲かせる。冒頭で富江は「写真は、撮った人の心次第で変わるものよ」と月子に教えるが、その台詞はそのまま井口作品に当てはまる。映画には映画を撮った人の想いも一緒に映り込む。被写体のことが好きすぎて、自分が考えうる最上級の方法で追い詰めて行く井口監督の愛情が映像から溢れ出している。  富江は人間じゃなくてモンスターなのに、妹や家族がいるのはおかしいと思う人もいるだろうが、大林監督の『ふたり』の姉・千津子は妹・美加が生み出したイマジナリーフレンドだったように、『富江 アンリミテッド』は月子が見る悪夢の世界なので、物語に矛盾や破綻があってもいっこうに構わないのだ。とりわけ、月子が通う高校で親友の佳恵(多田愛佳)や柔道部を巻き込む"鮮血の放課後"は、悪夢のテーマパークといった趣きとなっている。悪夢なので、どこまで逃げても、富江は追い掛けてくる。夢から醒めれば富江から逃げ切れることは分かっているが、でも不思議と富江と別れるのは寂しくて、目を醒すことをためらってしまう。もう少し、もうちょっとだけ、富江という悪夢を楽しんでいたくなる。
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月子の親友・佳恵を演じる多田愛佳(AKB48)。
井口作品には"よしえ"という名前の女の子が
度々登場し、いつも悲惨な目に遭う。
 それにしても、"富江"とは一体何者なのだろうか? 富江が現われることで、女たちはその奔放さに嫉妬心を抱き、男たちは富江を愛するあまり独占欲に駆られてしまう。その結果、富江は登場する度に殺され、体をバラバラにされてしまう。それでも富江は甦る。バラバラにされた分だけ増殖して。恋愛という行為が先の読めないミステリーであるように、富江の正体を探ることも一種の官能性を伴う行為である。ひとつの仮説として、富江は人間が普段は封印している"欲望"のメタモルフォーゼと考えられないだろうか。社会生活を営む人間は学校でも職場でも、欲望剥き出しのままでは生活できない。大なり小なり、自分の内側から湧いてくる欲望や感情を押し殺しながら暮らしている。感情や欲望の赴くまま素直に行動すれば、「あいつはおかしい」と社会不適合者の烙印を捺されてしまうからだ。その押し殺した感情や欲望の生まれ変わりが富江なのだ。感情や欲望は押し殺せば押し殺すほど、自分の内側に澱として溜まっていく。富江は忘れかけた頃に突然ふいに現われ、学校や職場を混乱に陥れる。富江は殺しても殺しても何度も甦る。それは自分の内側で本来ずっと生き続けているものだからだろう。  富江はモンスターであるが、同時に言いたいことは何でもズバズバと言う口の悪い親友でもある。また、いつまでも若いままでいたい、異性に振り向いてほしい、もっと自由に生きてみたいと願う自分自身の理想像でもある。井口監督の『富江 アンリミテッド』を観ていると、思春期の頃に妄想していた実にさまざまな想いが次々と甦ってくる。富江のことがますます愛おしく思えてくる。 (文=長野辰次) tomie05.jpg 『富江 アンリミテッド』 原作/伊藤潤二 脚本/継田淳、井口昇 監督/井口昇 出演/荒井萌、多田愛佳(AKB48/渡り廊下走り隊)、大和田健介、大堀こういち、川上麻衣子、仲村みう 配給/ティ・ジョイ、CJ Entertainment Japan R15+ 5月14日より新宿バルト9ほか全国ロードショー公開中 <http://www.tomie-unlimited.com>
富江 こちらは菅野美穂主演。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』

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バレリーナのニナ(ナタリー・ポートマン)は、苦闘の末に黒鳥役を
自分のものにする。ダークサイドに引込まれたアミダラ姫みたい。
(c)2010Twentieth Century Fox
 13歳のときに『レオン』(94)で衝撃的デビューを飾ったナタリー・ポートマン。『スターウォーズ』エピソード1~3(99~05)ではアミダラ姫を演じ、知名度は抜群。ハーバード大学を卒業した知性に加え、『Vフォー・ヴェンデッタ』(06)ではスキンヘッドになり、『クローサー』(04)ではストリッパー役、『宮廷画家ゴヤは見た』(06)では廃人役に果敢に挑むなど、与えられた役に情熱を注ぎ自分のものにする根性もある。ただし、女優としてあまりに生真面目な性格が災いして、どの作品でも平均点以上の高評価を受けるものの、デビュー作を上回る代表作を残すことができずにいた。天才少女として世に出てしまった優等生のジレンマってヤツですな。そんな格好の素材を手に入れたのが、ダーレン・アロノフスキー監督。『レスラー』(08)で"過去の人"ミッキー・ロークを再生してみせたアロノフスキー監督が、ナタリー・ポートマンに対して同じようなセミ・ドキュメンタリーの手法を再び使ったのが『ブラック・スワン』。完全なる"2匹目のドジョウ"狙いだが、これが見事に成功した。20代の終わりを迎えたナタリー・ポートマンにアカデミー賞主演女優賞をもたらしている。  10カ月掛けて毎日5時間のトレーニングに励んだというナタリー・ポートマンが今回演じたのは、NYの人気バレエ団に所属するバレリーナ・ニナ役。元バレリーナである母親と小さな頃から二人三脚で稽古を続け、実力は充分にあるが、ブレイクすることができずにいる。長年、バレエ団の看板を背負ってきたプリマのベス(ウィノナ・ライダー)が引退することになり、次回公演「白鳥の湖」は若手から新しいプリマが抜擢されることになった。ルックスもよく、キャリアもあるニナはプリマの有力候補のひとりだ。しかし、演出家のルロイ(ヴァンサン・カッセル)はニナに冷たく言い放つ。「キミは白鳥役は完璧に演じることができる。だが、黒鳥役を表現することができない」と。小さな頃から母ひとり娘ひとりで練習漬けの生活を送ってきたニナには、女性としての色気、人間的な面白みが欠けていたのだ。あまりに図星な指摘を受け、ナタリー・ポートマン演じるニナは動揺を隠せない。
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ルロイ(ヴァンサン・カッセル)はセクハラ
野郎か、それとも鬼演出家なのか。ニナの周囲
にいる人間それぞれの二面性が描かれている。
 バレエの人気演目である「白鳥の湖」は、ひとりのバレリーナが清純なお姫さまの化身である白鳥と、魔性の化身である黒鳥の2役を演じ分けるのが見どころ。いわば聖女と娼婦という真逆の役を、同じ舞台で演じ分けなくてはならない難しい内容なのだ。男性経験の少ないニナに対し、演出家のルロイは「オレが大人の女への手ほどきをしてやろう」とエロい目つき&手つきでセクハラ攻撃を仕掛けてくる。黒鳥パートをセクシーかつ奔放に演じる新人・リリー(ミラ・クニス)もライバルとして現われる。辛うじてニナはプリマに選ばれるものの、今度は想像以上のプレッシャーに押し潰されそうになる。白い肌にジンマシンが浮かび、ニナは無意識のうちに掻きむしってしまい、日を追うごとに血まみれになっていく。さらには自分のドッペルゲンガーと出会うなど、どんどん妄想の世界に引きずり込まれてしまう。  ニナがこっそりルージュを盗むほど、憧れ続けた旧プリマのベスを演じたのは、ウィノナ・ライダー。『ビートルジュース』(88)、『シザーハンズ』(90)などに出演し、10代の頃は絶大な人気を誇ったアイドル女優だった。『シザーハンズ』で恋人役を演じたジョニー・デップと離別してから、次第に人気が下降していき、30歳になって万引き事件を起こす転落人生を味わっている。本作では身も心もルロイに捧げ、プリマを務めてきたものの、浮気性のルロイと破局してからは一気に下降人生をたどってしまう"終わった女"を生々しく演じている。  一時期は人気を博したものの、私生活のつまずきから身を崩してしまう旧プリマ役にウィノナ・ライダー、優等生イメージの殻をなかなか破れずにもがく新プリマ役にナタリー・ポートマン。アロノフスキー監督は露骨なまでに新旧人気女優のパブリックイメージを、そのまんま劇中に持ち込んでいる。物語という虚構の中に現実を織り交ぜる。さらにナタリー・ポートマン演じるニナは、公演が近づくにつれ、ますます悪夢と現実の区別がつかなくなっていく。夢かうつつか、ライバルであるリリーと同じベッドでレズプレイに及んでしまう。そして、ついに「白鳥の湖」は幕を上げ、舞台という虚構がニナというちっぽけな現実を丸ごと飲み込んでしまう。
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ナタリー・ポートマンは13歳までバレエを
習っていたが、今回の役作りのために1日5
時間の水泳とバレエの特訓を10か月間続けた。
 ライバルのリリーに役を奪われるんじゃないか、自分の母親は娘がプリマに選ばれたことに嫉妬しているのではないか。周囲の人間のネガティブな面ばかり目に入り、ニナは身も心のズタボロ状態。そんな体調で、舞台に立てるのか? いや、ニナは半ば狂気に取り憑かれながら、舞台に出ることに固執する。それまでのいい子ちゃんから、何が何でも「白鳥の湖」の主役の座は手離さないという欲望がドス黒く渦巻き、遅ればせながら優等生のニナの中に自我が芽生える。コンディションは最悪だ。でも、どんな状況でも舞台を演じ切ってみせるのがプロフェッショナルの仕事であり、プリマである証明なのだ。『レスラー』でミッキー・ローク演じる老レスラーが心臓疾患を抱えながらリングに上がったように、ニナも自分の肉体を犠牲にして舞台中央でクルクルと踊り続ける。  もはやニナが立つ舞台は虚構でも現実でもない。その両者の向こう側にある彼岸の境地で、役と一体化したニナは力強く羽ばたく。彼岸の境地では、もう白鳥だろうが黒鳥だろうが、それは大した問題ではない。ニナはたった1回きりの舞台を演じ切るために、自分の演じる役と心中する。彼岸の境地に建てられた特設舞台には、未来とか過去という時間の概念はないのだ。誰にも真似できない、ニナだけが演じられる一生一代の大舞台である。観客は、ただただ唖然として見入るしかない。  『ブラック・スワン』を演じ切ったナタリー・ポートマンは、念願のオスカー像を手中に収めただけでなく、リードダンサー役で共演したベンジャミン・ミルピエの子供を身籠るという二重の喜びを手にした。虚実が渾然となった作品を最後まで演じ切ることで、公私ともにナタリー・ポートマンは大人の女優に転身することに成功した。そして、それはなんだかんだ言っても『レオン』や『ビューティフル・ガールズ』(96)で眩しく輝いていた"アイドル女優"の消滅でもあり、ナタリー・ポートマン自身の青春期の幕引きでもあった。  ひとりのアイドル女優が舞台の上で死んだ。そして、彼女は大人の女優として甦った。 (文=長野辰次) swan04.jpg 『ブラック・スワン』 監督/ダーレン・アロノフスキー 振り付け/ベンジャミン・ミルピエ 出演/ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダー 配給/20世紀フォックス映画 5月11日(水)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー <http://www.blackswan-movie.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第116回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第115回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』

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地下世界"アガルタ"を旅するアスナ(声:金元寿子)とシン(声:入野自由)は
異形の神"ケツァルトル"に遭遇する。
(c)Makoto Shinkai/CMMMY
 アニメ界の物静かな革命児・新海誠監督。29歳のときに発表したデビュー作『ほしのこえ』(02)は、脚本・作画・編集と全てひとりで手掛け、アニメーション=大人数を仕切って商業ベースで作るもの、というそれまでの常識を大きく覆してみせた。その後、『雲の向こう、約束の場所』(04)、『秒速5センチメートル』(07)ではスタッフの人数は増大したものの、"セカイ系"とも呼ばれる独自の作家性は薄れることなく、しっかりキープしている。新海作品は一貫して、"心の距離"がテーマだ。太陽系外にまで行ってしまった同級生の女の子と携帯メールでやりとりをする『ほしのこえ』をはじめ、新海作品の優しい主人公たちは、離ればなれになってしまった、かつて心を共鳴させあった相手を想い続ける。4年ぶりの劇場公開作『星を追う子ども』では、主人公・アスナの初恋の相手・シュンは、若くして死後の世界へと旅立った。"死"という重い現実が2人の間を大きく隔てる。それでもアスナは、もう一度シュンに逢いたいと願う。アスナは地下に隠された黄泉の世界へと降りて行く。  モノローグが多用される穏やかな印象の強い新海ワールドだが、今回は壮大さを極めた大冒険ファンタジーとなっている。たった1度逢っただけのシュンのことが忘れられない中学生のアスナは、死んだ妻を想い続ける教師のモリサキと共に、"アガルタ"と呼ばれる地下世界へと向かう。それこそ三途の川を渡って。"アガルタ"には人類が失ってしまった英知が今も残され、どんな願いも叶うという。アスナとモリサキ、さらに死んだシュンと瓜二つの弟シンが交わり、異形の神々ケツァルトルや闇に生息する夷族たちと遭遇しながら、秘境の果てを目指して進む。
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アスナにとって初恋の相手であるシュン。アスナ
の父親の形見の鉱石ラジオをきっかけに2人は心を
通わせる。
 アスナが暮らす田舎町の牧歌的な風景や"アガルタ"に広がる神秘的なパノラマは、新海作品ならではの美しさ。その中でおやっと思わせるのが、アスナにとって命の恩人であり、初恋の相手となるシュン。スタジオジブリ作品に出てきそうな、ヒーロー然としたイケメンくんだ。声優には『千と千尋の神隠し』(01)でハクを演じた入野自由を起用していることから、たまたまではなく意図的なキャラクター造形であることが分かる。その一方で、古事記に登場するイザナギの"黄泉下り"をモチーフにした伝奇的ストーリーと異形の神々たちの存在は、カルト漫画家・諸星大二郎の『暗黒神話』『妖怪ハンター』などを彷彿させるオドロオドロしさがある。宮崎駿アニメの口当たりの良さと諸星大二郎のダークさをブレンドさせた新種のカクテルを飲み干すかのような気分。不思議な酔い心地の中で、死んだ人間に再会したいというアスナとモリサキの切実さが強烈なキックを放つ。
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中学校の教師・モリサキ(声:井上和彦)と共に、
アスナは地下世界を目指す。日本神話、ギリシャ
神話を彷彿させる展開だ。
 人間は死んだらどうなるのか? "死"を考えることは決してネガティブなことではなく、"生"を突き詰めて考えている人間なら必ずブチ当たる命題だろう。人が死ぬということはどういうことなのか? 死んだ人間は完全に消滅してしまうのか? 死んだ人とは2度とコミュニケーションすることはできないのか? 人間が生きている間には決して正解が得られない難問に対して、新海監督はアニメーションというフィクションの世界の中で、果敢にその回答を導き出そうと試みる。イマジネーションの最果てまで行き着けば、人知を超えた答えが見えるのではないかと。静かなる革命児・新海監督ならではの大いなる実験旅行だ。最果ての地に辿り着くためには、セカイ系と揶揄されようが、既成のアニメーションやコミックからの拝借物だろうが、全てを燃料に換えて、前へ前へと進まなくてはならなかったに違いない。  4月26日、『星を追う子ども』の完成披露試写会が有楽町「よみうりホール」で行なわれた。舞台挨拶に登壇した新海監督は、本作には明確な元ネタがあることを明かしている。 新海「劇場パンフにも書いたんですけど、本作のいちばん最初のきっかけは、小学生のときに読んだ小説で、地下世界アガルタという言葉はそのとき知ったんです。でも、小説の途中で、作者が亡くなって、未完で終わってしまった。他の作家の手で補完した形のエンディングが書かれていたんですが、当時10歳だったボクは"どうも違うな"と思ったんです。自分なら、どんな物語が読みたいかをずっと考えました。また、その小説に触れることで、人が死ぬということはどういうことなのかも考えました。ずっと続けてきたことが途中で終わってしまうということが、人が死ぬということなんだと、子どもの頃に感じたんです」
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アガルタの空を飛び交う巨大な船"シャクナ・ヴィ
マーナ"。どうやら、あの世とこの世を結んでい
るらしい。
 新海監督が元ネタだという児童小説(タイトルは劇場パンフで明かすとのこと)は『星を追う子ども』と設定や登場人物はまるで違うが、地球空洞説に基づいた"アガルタ"と呼ばれる地下世界での冒険談となっている。アガルタには地上の人類を上回る高度な文明が古代より続き、"ビマーナ"という名の飛行艇が地底世界の空を飛んでいる。小学生だった新海監督は、ワクワクしながらその小説のページをめくり、いつか自分も"未知なる世界"アガルタに行ってみたいと思ったのだろう。  では、どうすれば、アガルタの扉を開けることができるのか。大人になった新海監督は、少年時代に頭の中に広がっていたイマジネーションの世界を自分の手でアニメーションにすることで実像化してみせた。そしてそのイマジネーションの世界を全力で突き進むことで、地底の黄金郷・アガルタに辿り着くことに成功した。アガルタに行けば、どんな願いも叶うという。死んだ人間にさえ、再会させてくれるらしい。心の中に巣食う喪失感さえ、埋め合わせてくれるらしい。5月9日、そのアガルタの扉が開く。あなたなら、何を願うだろうか? (文=長野辰次) hoshiwooukodomo05.jpg 『星を追う子ども』 原作・脚本・監督/新海誠 作画監督・キャラクターデザイン/西村貴世 美術監督/丹治匠 音楽/天門 声の出演/金元寿子、入野自由、井上和彦 配給/メディアファクトリー、コミックス・ウェーブ・フィルム 5月7日(土)よりシネマサンシャイン池袋、新宿バルト9ほかにて全国ロードショー http://www.hoshi-o-kodomo.jp
秒速5センチメートル 圧倒的な情景、情景。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第115回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学