"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』

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イラクで戦死した米兵が"アンデッド"となって活躍する
ホラー・アクション・コメディ『ゾンビ処刑人』。
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 宗教はコドクが嫌いな人間が生み出したグレートな発明品だ。今よりもずっと生きるのが困難だった時代、頭のいい人が"天国"というフィクションの世界を考え出したことで、悲惨な生活を送る人々は死んでからの将来に希望を持つことができた。また、天国とセットになった"地獄"の存在を広めることで、際限なく欲望に突っ走る人間の行動を抑制することに成功した。今ではどの宗教団体もお金儲けに忙しいが、無宗教な若者たちにとって新たな信仰の対象となりつつあるのがゾンビという存在。ゾンビは20世紀後半のスクリーンの中に生まれた新しい神さまなのだ。フツーの神さまは天国で人間の行動を眺めているが、ゾンビは墓場から甦った身近な"ケガレの神さま"である。コドク感や無力感に悩まされそうになったら、とりあえずゾンビ映画を観る。自分だけでなく、みんな空虚に街をさまよい歩くゾンビみたいなものだと、ちょっぴり安心する。ゾンビは不思議な一体感を与えてくれる。隠れキリシタンさながらに、ホラー映画マニアがひそひそと通い詰めるシアターN渋谷で、現在上映中なのが『ゾンビ処刑人』。イラク戦争で命を落とした若い米兵がゾンビとして甦り、愛する母国に巣食う悪人どもを食い殺していく。  『ゾンビ処刑人』の原題は『THE REVENANT』。帰還者、幽霊といった意味になる。戦場に派兵された兵隊が別人になって帰ってきたという設定の映画は、若松孝二監督の『キャタピラー』(10)をはじめ力作が多い。トビー・マグワイア主演の『マイ・ブラザー』(09)もそんな一本だった。正義感が強く、優しい性格だったサムはアフガニスタンで凄惨な体験をし、心がぶっ壊れてしまう。若妻や弟はサムを温かく迎えるが、どうしてもサムはかつてのような平和な生活に戻ることができない。サムは戦場での恐怖体験と自分の手を汚してしまったという自責の念に押し潰されて、生きたままゾンビのような存在になってしまう。『ゾンビ処刑人』のゾンビ化した主人公バートは、トラウマを抱え込んだサムの姿を極端にデフォルメしたものだろう。ただの悪趣味な絵空事では済まない、ブラックな社会風刺が『ゾンビ処刑人』全編に漂う。
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墓場から甦ったバート(デヴィッド・
アンダース)は犯罪者を求めて夜の街を徘徊。
腐った目でも悪党は見逃さない。
 『ゾンビ処刑人』のストーリーはこうだ。イラク戦争に従軍していたバート(デヴィッド・アンダース)が、星条旗に包まれて冷たい遺体となって米国に帰ってきた。お墓に埋められるバートを見て、親友のジョーイ(クリス・ワイルド)、婚約者のジャネットたちは泣き崩れる。なんで愛国心に燃え、心が純粋なヤツほど早く死んじまうのだろうか。ある晩、ジョーイの自宅のドアをノックする者が現われた。そいつは墓から這い出てきたばかりのバートだった。イエス・キリストは死んでから3日後に復活を遂げたとされているが、バートは死んでからずいぶん経っているので、体の半分が腐りかかっていている。ツ~ンと匂うサワー風味だ。イラクで特殊な化学兵器でも浴びたのか、おかしなウィルスにでも感染したのか分かんないけど、とりあえず親友が帰ってきた。イェ~イと喜び合う、おめでたいバートとジョーイ。どうも、元々この2人は脳みそが足りなかったらしい。  空腹感を訴えるバートのためにジョーイは手料理を用意するが、内臓を防腐処理されてしまっているためかバートは自分の内臓ごとゲロゲロしてしまう。仕方なくバートは血液バンクに侵入して、生き血をちょうだいする。くぅ~、たまんないねぇ。イラクでひと仕事してきたバートの体に生き血が染み渡る。といっても、そう何度も血液バンクのお世話になるわけにもいかない。どうしたものかと2人が悩んでいたところを強盗が襲い掛かり、バートを蜂の巣にしてしまう。バーカ、笑わせんなよと、すでに死んでいるバートは驚く強盗を返り討ちに。この瞬間、2人の頭に発明のランプがピカッと光る。そうだ、街中にはびこる悪党どもを成敗して、その代償として生き血をいただいてしまえばいいじゃん。オレたち、チョー頭いい! かくしてバート&ジョーイは"夜回り先生"ならぬ"夜回りガンマン"として世間で噂の存在となっていく。
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バートと親友ジョーイ(クリス・ワイルド)
は"夜回りガンマン"として街の噂に。
犯罪都市LAは彼らにとって格好のえさ場。
 本作で監督デビューを果たしたのは、ケリー・プリオー。監督・脚本・編集・製作を1人で兼ねている。彼は『エルム街の悪夢4/ザ・ドリームマスター最後の反撃』(88)などの作品でSFXアーティストとしてのキャリアを磨いていたが、『ファンタズム』(79)のヒットで知られるドン・コスカレリ監督の『プレスリーvsミイラ男』(02)に参加したことから人生の転機を迎える。この恐ろしく超低予算なホラー映画にケリー・プリオーは撮影とVFX担当で関わったことで、「自分も監督作を作りたい!」と考えるようになった。この『プレスリーvsミイラ男』は"キング・オブ・ロックンロール"エルビス・プレスリーが実はヨボヨボになりながらも生きていて、老人ホームで寝たきりのお年寄りたちを狙う姑息なミイラ男と対決するというもの。プレスリーが老体にムチ打ちながら、アメリカンヒーローとしての自覚から戦いに挑む姿が涙を誘った。この作品には、ケリー・プリオーを奮い立たせ、『ゾンビ処刑人』を作らせてしまうほどの特殊な"何か"が秘められていたらしい。  インスパイアを受けた作品に問題があったのか、はっきり言ってケリー・プリオー監督の処女作『ゾンビ処刑人』は、カメラワークも演出のテンポもかなりのトホホさ。トロイ・ダフィー監督の『処刑人』(99)ほどの派手なガンアクションもなし。だいたい、ジョーイは死体のくせに意識を持っているのがおかしい。ゾンビ映画としては、限りなく邪道。ゾンビなのかバンパイアなのか、はっきりしない。いずれにしろ、バートは恐ろしく中途ハンパな"ケガレの神さま"なのだ。でも、相棒のジョーイはそんなバートがうらやましい。バートは生前よりも、死んでからのほうが生き生きとしている。自分もバートのようになりたいと願い、やがてその夢は叶えられる。バートとジョーイの関係は、低予算ホラー映画を嬉々として作るドン・コスカレリとケリー・プリオーの関係でもあるようだ。  愛車カマロに乗ったバート&ジョーイは、かつてのブッチ&サンダンスやボニー&クライドのように怖いもの知らずで暴れ回る。法律もモラルも存在しない闇夜の街で、2人のショットガンが火を吹くことで灯りをともす。体は腐っているが、心までは腐っちゃないぜ。ゾンビ処刑人となった2人こそ、現代社会の"明るい救世主"なのだった。 (文=長野辰次) zonbisyokei04.jpg 『ゾンビ処刑人』 監督・脚本・編集・製作/ケリー・プリオー 出演/デヴィッド・アンダース、クリス・ワイルド、ルイーズ・グリフィス、エミリアーノ・トーレス、ジェイシー・キング 配給/AMGエンタテインメント 11月19日(土)よりシアターN渋谷ほか全国順次公開中 <http://ameblo.jp/zombieshokeinin>
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"時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」

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松江哲明監督が日本映画学校の卒業制作として完成させたデビュー作
『あんにょんキムチ』。ユーモアを交え、自身のアイデンティティーを
掘り下げていく。(c)日本映画学校 Tip Top
 サブカル界の新旗手として脚光を浴びるドキュメンタリー作家・松江哲明監督。在日コリアン3世である自身のアイデンティティーを見つめたデビュー作『あんにょんキムチ』(99)はボックス東中野(現ポレポレ東中野)ほか全国でロングラン公開され、セルフドキュメンタリーブームの先駆けとなった。その後も童貞くんならではのピュアな世界観を題材にした『童貞。をプロデュース』(07)、34歳の若さで夭折した人気AV女優・林由美香の埋もれた作品に着目した『あんにょん由美香』(09)といった松江監督ならではというしかないユニークな作品を発表。全編74分ノーカットで撮影した『ライブテープ』(09)は第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞を受賞している。身近な題材を掘り下げ、エンターテイメント性の高いドキュメンタリー作品を次々と生み出している松江監督だが、『あんにょんキムチ』『童貞。をプロデュース』ほか代表作の多くは実はソフト化されていない。また、被写体との距離感を大切にする松江監督は、カンパニー松尾や平野勝之らのAV作品から多大な影響を受けており、松江監督自身もAV作品に参加している。最新作『トーキョードリフター』の公開を控え、松江監督が関わったこれまでの未ソフト化作品やAV作品を含めて傑作・珍作を一堂に集めた特集上映が「松江哲明グレイテスト・ヒッツ1999−2011」なのだ。  無邪気なイノセントスマイルで知られる松江監督だが、『ハメ撮りの夜明け 完結編』(04)は松江監督がクリエイターとしての志と性欲の狭間で苦悶する表情が何とも印象的な作品となっている。この作品はカンパニー松尾率いるAVメーカーHMJM(ハマジム)をめぐるCS放送向けのドキュメンタリー番組。演出・構成を手掛ける松江監督はインタビュアーとして、カンパニー松尾がかつて所属した伝説的AVメーカー・V&Rプランニングの代表である安達かおるを訪ねる。そして安達から「AVとは男と女が裸になって触れ合う人間臭い映像表現」という言葉を聞き出す。ならば、"ハメ撮り"はAV監督みずからが真っ裸になって被写体になってしまう最上級のセルフドキュメンタリーではないのか。取材相手のひと言が松江監督を突き動かす。
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『ハメ撮りの夜明け 完結編』。松江監督は、
クリエイターとして、また男として大きな決断
を迫られる。(c)ハマジム
 京都在住のエロ女子大生に会いに行くカンパニー松尾の後を追って、松江監督もカメラを片手に付いて行く。そして夜。1日ずっとカンパニー松尾と女子大生の野外での痴態を見守っていた松江監督は、宿泊先のホテルでまだフェロモンを発し続けている女子大生についつい手が伸びてしまう。ふすま1枚を挟んで、隣室にはカンパニー松尾がいるにも関わらず。ちなみに、この頃の松江監督は付き合っていた彼女と「ハメ撮りはしない」と約束していたそうだ。女子大生のフェロモン、ハメ撮りしちゃダメという彼女、隣室で休んでいる師匠・カンパニー松尾......、さまざまなファクターが松江監督の頭をよぎる。ハメ撮りを経験しないでAV作品を本当に撮ったことになるのか? でも、彼女との約束はどうする? クリエイターとして、また男として、そしてカンパニー松尾に師事するものとして、大きな一線を踏み越えるのかどうか。興奮と緊張のあまり、松江監督は汗で全身ズブ濡れ状態。そんな松江監督がみずから決断を下すことで、この作品はエンディングを迎える。  『姉妹でDON!』(06)はハマジム製作のWEB配信用AV作品。カンパニー松尾プロデュース作で、松江監督は演出・編集を担当。AV女優・宮地奈々の新作AVを撮影することになり、生き別れた姉妹が数年ぶりに再会するというチープなドラマが用意されている。実はこの姉役を演じるのは、宮地奈々の実姉。妹がAVをやっていることを知って、AVに興味を持ち、妹には内緒で出演応募してきたのだ。そこで生き別れた姉妹が再会、姉役の女優は本当の姉でしたという"ドッキリ"が仕掛けられた。ところが宮地奈々は非常に鋭い勘の持ち主で、インタビュアーでもある松江監督の「姉妹の仲はどうだった? 仲よかったんだ」という不用意な質問から、薄々と仕掛けが待っていることに気づく。ドッキリは早々に破綻するのだが、逆にここからが抜群に面白い。プロのAV女優である宮地奈々は、実姉との撮影現場での遭遇がただのドッキリで済むのか、それとも実姉とのレズプレイにまで突入するのかで葛藤しているのだ。一方のお姉さんは初めてのAV出演でテンションが上がりっ放し。プロである妹と素人である姉との表情の違いがあまりにも対称的。製作サイドの企画意図や演出を軽〜く呑み込んで、予想外の展開を見せながらカメラは回り続ける。これぞ、ドキュメンタリーの醍醐味だろう。
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カンパニー松尾プロデュースによる
『姉妹でDON!』。演出意図を越えた
予想外の展開をカメラは記録する。
(c)ハマジム
 かつてドキュメンタリー監督たるものは、取材対象に対して客観的な立ち場から向き合わなくてはならない、干渉してはいけないと言われてきた。"ハメ撮り"なんて、そんな旧来のドキュメンタリーの決まり事の正反対に位置する行為だ。原一男監督が『ゆきゆきて、神軍』(87)でドキュメンタリー映画の常識を突き破り、森達也監督が『A』(98)、『A2』(01)で破れた穴をさらに広げ、AV作品を経験した松江監督はエンターテイメントにまで押し上げた感がある。  関西ローカルで放映された『谷村美月17歳、京都着。~恋が色づくそのまえに』(07)はディレクターズカット版の上映。この作品は演出・山下敦弘、構成・向井康介、撮影・近藤龍人、編集・松江哲明、いわゆる"ロスジェネ"黄金メンバーが集結したセミドキュメンタリー。人気若手女優・谷村美月が京都へ遊びに行き、幼なじみのお兄ちゃんと再会するが、お兄ちゃんには彼女がいて......。谷村美月の女優としてのポテンシャルと10代の少女の純真な素顔が複雑に絡み合った絶品の味わいとなっている。製作サイドが用意した"仕掛け"はあるのだが、谷村美月が見せる幼なじみへの淡い憧れ、年上の女性へのジェラシーが垣間見える表情はホンモノ。この作品を観ていると、どこまでがフィクションで、どこまでがノンフィクションかという線引きをすることがどうでもよく思えてくる。そのくらい谷村美月がキュートだし、彼女の魅力を最大限に引き出したスタッフの労をねぎらいたい。谷村自身も「この作品は私にとって特別。親戚のお兄ちゃんたち(山下監督たちのこと)と一緒に作った思い出みたいなもの」と語っていた。
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劇場初公開となる『ライブテープ、二年後』。
ミュージシャン・前野健太と松江監督との
知られざる関係に迫っている。
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 12月10日(土)より公開される松江監督の最新作『トーキョードリフター』は、2011年5月に撮影されたライブドキュメンタリー。『ライブテープ』でタッグを組んだミュージシャン・前野健太が再び被写体となっている。3.11以降の自粛と節電のためにネオンが消えてしまった夜の東京を背景に、前野健太が新宿、下北沢、渋谷......とさまよいながら弾き語りをひと晩続ける姿を記録している。わずか半年前のことなのに、暗い東京が遠い昔のことのように感じられる。ネオンが消えた暗く静かなあの東京では、電車の中ではみんなが席を譲り合い、路上でしゃがみ込んでいる人がいれば声を掛け、公共広告機構のCMが流れるテレビの前で今後のエネルギー問題について真剣に話し合おうと考えていた。でも、街にネオンの灯りが戻ると同時に、ほとんどの人がそのことを忘れてしまった。いや、忘れてはいないが、目の前の日常に押し流されて、考える余白を失ってしまった。74分ノーカットという縛りのあった前作『ライブテープ』に比べると、夜の東京を宛てもなく漂流する『トーキョードリフター』はスキマだらけの作品だ。しかし、そのスキマ/余白は、あの暗い東京であの時の自分は何を考えていたのかを思い起こしてくれる。松江監督が今後どこに向かうのか注目したい。 (文=長野辰次) ●「松江哲明グレイテスト・ヒッツ1999-2011」 11月19日(土)~12月9日(金)連日21時よりオーディトリウム渋谷にて上映 <http://tokyo-drifter.com/GH> 11月   19日(土)『ライブテープ』『ライブテープ、二年後』   20日(日)『あんにょん由美香』   21日(月)『STRANGE DAYS メイキング・オブ・奇妙なサーカス』+トーク・ライブ   22日(火)『ハメ撮りの夜明け 完結編』『セックスと嘘とビデオテープとウソ』   23日(水)『あんにょんキムチ』『カレーライスの女たち』   24日(木)『赤裸々ドキュメント・天宮まなみ』『川本真琴 アイラブユーって聴こえる』   25日(金)『ライブテープ』   26日(土)『童貞。をプロデュース』   27日(日)『前略、大沢遥様』『谷村美月17歳、京都着。~恋が色づくそのまえに』   28日(月)『ライブテープ』   29日(火)『セキ☆ララ』   30日(水)『ハメ撮りの夜明け 完結編』『セックスと嘘とビデオテープとウソ』 12月   1日(木)『あんにょん由美香』   2日(金)『ドキュメント・メタル・シティ』   3日(土)シークレット★上映+トーク・ライブ   4日(日)『あんにょんキムチ』『カレーライスの女たち』   5日(月)『双子でDON!』『姉妹でDON!』   6日(火)『童貞。をプロデュース』   7日(水)『あんにょん由美香』   8日(木)『ライブテープ』   9日(金)サプライズ★上映+トーク・ライブ 『トーキョードリフター』は12月10日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開 配給/東風 <http://tokyo-drifter.com>
ライブテープ コレクターズ・エディション 12月7日発売。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪

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2004年に製作され、2010年に追加撮影が行われた劇映画『カリーナの林檎』。
少女の目を通して、原発事故による家族離散の哀しみを描いている。
(c)2011カリーナプロジェクト
 映画『カリーナの林檎 チェルノブイリの森』は、現代人が関わるさまざまな罪について問い掛けてくる。"絶対"ということなどありえないのに、政府と電力会社の「絶対に安全です」という甘言を受け入れて原発建設を認めてしまったこと。1986年に起きたチェルブイリ原発事故の教訓を生かせずに、福島第一原発事故を防げなかったこと。そして、起きてしまった進行形の惨事に対して自分には何ができるのかということ。さらに、別の問題がもうひとつある。03年に撮影されたこの映画は、04年に不祥事を起こして映画界から去った今関あきよし監督の作品だということ。過去に過ちを犯した映画監督の作品に対し、「作品は別もの」「すでに罪は償っている」と考えるのか、それとも「過ちを犯すのが人間だ」と考えるのか。7年ごしで日の目を見ることになった『カリーナの林檎』は、実に多くのことを観る側に投げ掛けてくる。  今関監督は富田靖子主演作『アイコ16歳』(83)で商業デビューを飾り、持田真樹や浜崎あゆみが出演した『すももももも』(95)、モーニング娘。の主演作『モーニング刑事。抱いてHOLD ON ME!』(98)などの劇場作品を手掛け、新人アイドルの瑞々しい表情を捉えることで定評があった。チェルノブイリ原発事故禍を題材にした劇映画『カリーナの林檎』は、03年に撮影された自主制作作品だ。今関監督ら日本人スタッフはチェルノブイリ原発に隣接するベラルーシ共和国で取材を重ねた上で、現地キャストを使って春、夏、冬と複数回にわたって現地でロケ撮影を行い、04年に一度完成させている。モー娘などのアイドル映画で得た印税を使って、原発問題に向き合った自主映画を完成させたことが美談として当時は語られていた。日本に先駆けてベラルーシやリトアニアでの上映が決まり、会場やパンフレットなどの準備が整い、後は今関監督みずからフィルムを持って現地入りするのを待つという段階で、監督個人が起こした不祥事が発覚した。監督自身の判断で、公開は中止となる。
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撮影時8歳だったカリーナ役のナスチャ・
セリョギナちゃん。撮影現場には台本を
持ち込まないという大物女優ぶりを見せた。
 実刑判決を下された今関監督は、函館少年刑務所に1年7カ月服役。出所後はいくつかの職場を転々とし、現在は映画・映像とはまったく関係のない仕事に就いているそうだ。だが、法的なみそぎは終えたものの、重い十字架は背負ったままだった。今関監督の熱意に賛同し、体を張ってチェルノブイリ原発跡までの取材・撮影に帯同してくれたスタッフ、実際にベラルーシで暮らしていたキャスト、ヒロインである少女カリーナを演じるためにロシアからやって来た撮影時8歳だったナスチャ・セリョギナちゃん。そしてベラルーシ国立小児血液学センターの病棟で取材に協力してくれたものの、映画完成の知らせを聞くことなく血液ガンで亡くなった少女......。今関監督が償わなくてはならない罪は、裁判所が与えた刑罰よりもずっと重く、長いものだった。  チェルノブイリ原発事故が招いた悲劇を描いた『カリーナの林檎』を観て驚くのは、現在の"フクシマ"で同じことが起きていることだ。ベラルーシ共和国に住む少女カリーナは、夏休みを豊かな自然に囲まれた農村にある実家で過ごしていた。カリーナの家族は、実家の近くにある隣国の原発事故の影響でバラバラになってしまった。お母さんは原因不明の病気で入院し、お父さんは入院費を稼ぐために遠いモスクワまで出稼ぎに行った。実家は優しいおばあちゃんがひとりで守っているが、この農村のすぐ近くまで居住禁止地域に指定されており、村に残っている人はもう少ない。夏休みが終わり、カリーナは都会で生活する叔母さん夫婦に再び引き取られる。おばあちゃんが地元で獲れた新鮮なリンゴをお土産に持たせてくれたが、叔母さんはリンゴに触れることなく棄ててしまう。
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大好きなお母さんが入院してしまったのは
原発事故の影響らしい。カリーナは
自分にできることは何かを懸命に考える。
 田舎の生活が気に入っているカリーナは、都会での生活に馴染めない。入院中のお母さんのお見舞いに行くと「泣いちゃダメ。泣くのはうれしいときだけよ」と逆に励まされる。お母さんはこんな物語も教えてくれた。「チェルノブイリのお城には悪い魔法使いがいて、毒を撒き散らかしているのよ」と。やがてお母さんの病状が悪化し、出稼ぎ先から慌てて帰ってきたお父さんの表情も晴れない。実家に残っていたおばあちゃんも体を壊してしまう。カリーナは神さまに懸命に祈るが、なかなか祈りが通じない。そこでカリーナは決意する。神さまには祈りが届かないみたいだから、私がチェルノブイリまで行こう。魔法使いに直接、毒をもう出さないように頼んでみよう。カリーナはお小遣いと体力のすべてを使って、チェルノブイリにある悪い魔法使いのいるお城へと向かう。  「放射能の危険を省みず、チェルノブイリまで撮影に同行してくれたスタッフやキャストの期待を裏切ってしまったことの後悔の念、映画はもう公開できないかもしれないという不安を服役中はずっと感じていた」と今関監督は話す。服役中は京都大学原子炉実験所助教・小出裕章氏の書籍を取り寄せて放射能について学び、またロシア語の通信教育を受けていたそうだ。ベラルーシで劇映画を1本撮っただけで終わりにしたくなかったし、出所したら迷惑を掛けてしまったベラルーシやロシアの人たちに自分の言葉で謝りたかった。また、自分に何か課さなくては、刑務所の中でいたたまれなかったという。ベラルーシまで足を運ぶなど関係者への謝罪をひと通り済ませてから、映画とは無関係の仕事を求人誌で見つけて地道に働き始めた。その一方、映画をお蔵入りさせてしまったことへの罪悪感はずっと感じ続けていた。2011年がチェルノブイリ事故から25年目になることから、蓄えを切り崩してチェルノブイリでの再撮影を行い、チラシやポスターを手配するなど、劇場公開の準備を2010年から進める。そんなとき、3.11による福島第一原発事故が発生。再び公開中止になることも考えたそうだ。
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大人たちは教会で神さまに祈りを捧げるが、
それ以上は行動しようとしない。カリーナは
不思議に思う。
 今関監督は、『カリーナの林檎』が公開されること=自身の監督復帰、とは考えておらず、また映画が公開されることで監督個人がバッシングを浴びることも覚悟しているという。  「自分が犯した過ちは変えられませんし、映画が公開されることで自分に跳ね返ってくるものがあるのは当たり前だと思います。でも、それも覚悟の上で上映するつもりです。今年がチェルノブイリ事故から25年。この機会を逃すと公開するのが難しくなることから決意しました。ボク個人の問題で映画の公開を堰き止めてしまった。ボク自身がその堰を開けなくちゃいけない。これ以上、スタッフやキャストに迷惑を掛け続けられない。ボク個人への中傷があっても、それはスタッフやキャストには関係のないことですから。今は別の仕事に就き、映画の公開のため3カ月間休職させてもらっている形です。日本での公開がひと段落したらベラルーシでの上映もできればと考えていますが、新作を今後撮るかどうかについては全くの白紙状態なんです」と今関監督は語る。  犯してしまった過ちは、どうすれば償うことができるのだろうか。『カリーナの林檎』は、ただ神さまに祈りを捧げるだけでは現実の問題は解決には向かわない、という至極もっともな正論を投げ掛けてくる。少女カリーナが運んできた赤いリンゴは、果たしてどんな味がするのだろうか。観る人によって、自然の恵みにも禁断の果実にも感じられるはずだ。 (文=長野辰次) karina00.jpg 『カリーナの林檎 チェルブイリの森』 監督・脚本/今関あきよし 脚本/いしかわ彰 撮影・編集/三本木久城 音楽/遠藤浩二 録音/浜口文幸 日本語ナレーション/大林宣彦 出演/ナスチャ・セリョギナ、タチアナ・マルヘリ リュディミラ・シドルケヴィッチ、イゴリ・シゴフ、オルガ・ヴォッツ、セルゲイ・シムコ、アンドレイ・ドゥビク、ターニャ・イェフレェミェンコ、リザ・ミンキナ  配給/カリーナプロジェクト 11月19日(土)よりシネマート六本木ほか全国ロードショー <http://kalina-movie.com> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』

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貞淑な人妻・いずみ(神楽坂恵)は"2つの顔を持つ女"美津子(冨樫真)
から堕ちていくことで得る生の実感を学ぶ。
(c)2011「恋の罪」製作委員会方式
 公私ともに充実期を迎えている園子温監督。『愛のむきだし』(08)、『冷たい熱帯魚』(11)に続いて、『恋の罪』も官能サスペンスの傑作に仕上がっている。園監督との婚約が発表された神楽坂恵は『冷たい熱帯魚』を上回る裸の体当たり演技を披露。オーディションで選ばれた冨樫真、『踊る大捜査線』シリーズでおなじみの水野美紀も一糸まとわぬ姿でそれぞれ怪演、巧演ぶりを見せている。『冷たい熱帯魚』では実在の愛犬家殺人事件を題材にしていたが、今回は1997年に起きた「東電OL殺人事件」を下敷きにしたストーリーだ。渋谷のラブホテル街を舞台に、女たちの心の奥に秘められた欲望を園監督はむき出しにしていく。  被害者が一流企業に勤めるエリートOLだったことからセンセーショナルな話題となり、現在も再審請求中の「東電OL殺人事件」。映画製作サイドからの実録犯罪映画のオファーに対し、園監督は気乗りせず、そのまま放置していたと話す。前作『冷たい熱帯魚』は「女なんかクソだ。みんな死んでしまえ!」というサイアクな精神状態で撮り上げた園監督だが、その結果、日本映画では珍しくスコーンと突き抜けた犯罪サスペンスに仕上がり、ある種の手応えを感じたそうだ。「東電OL殺人事件」もそのまま実録ドラマにするのではなく、女たちの本質に迫ったものにならできるのではないか。『冷たい熱帯魚』が男性主体の作品なら、女性を主体にした作品にできるのではないかと考えたわけだ。「女なんかクソだ」という気持ちが、どん底に堕ち切ることで、やがて「女性への感謝の気持ち」に向かっていったと園監督は語っている。
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渋谷のラブホ街で起きた殺人事件を追う和子
(水野美紀)。殺された女性は他人とは
思えなかった。
 舞台こそ「東電OL殺人事件」が起きた渋谷の円山町になっているが、ラボホテル街での売春を生き甲斐にしている高学歴の女性・美津子(冨樫真)が中心の実録風ドラマにはせず、美津子から"生きる喜び"を教えてもらう大人しい人妻・いずみ(神楽坂恵)が転落していく過程を見せる形でストーリーが進んでいく。実在の事件の真相に迫るものではなく、どうしようもなく心の渇きを抱える女性たちの深層心理を探るものだ。その美津子といずみが巻き込まれた殺人事件を追うのが女刑事・吉田和子(水野美紀)。迷路のように入り組んだラブホテル街で3人の女たちの物語がクロスする。  人気作家と結婚したいずみは、夫の帰りを自宅でじっと待ち続ける専業主婦。ただ夫の帰りを待ち続ける生活に退屈し、スーパーマーケットでパートを始める。「美味しいソーセージ、いかがですか?」とお客に愛想を振りまくが、なかなか振り向いてもらえない。砂漠に水をまくような徒労感を覚える。そんなとき、いずみに声を掛けてきたのがモデル事務所のスカウトだった。おだてられたいずみは、好奇心から撮影スタジオを訪ね、フラッシュを浴びる喜びに浸かる。最初は水着撮影だったのが、ヌード撮影、さらにはアダルトビデオの撮影......となし崩しで事が進んでいく。口では拒んでいるいずみだが、自分がまるで別人になっていくような快感の虜になる。モラルの鎖から解放されたいずみは、奔放に男遊びを楽しみ始めた。
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いずみを別世界へ誘う美津子(冨樫真)。
「美津子といずみの関係は、園監督と私の関係
と重なる」と神楽坂は話す。
 そんないずみがラブホテル街で出会ったのが、ケバケバしい化粧をした異形の女・美津子だった。美津子はいずみに対し「好きでもない男とのセックスはお金を取らなきゃダメだ!」とたしなめる。雷に打たれたようなショックを受けたいずみは、美津子を"心の師匠"と仰ぎ、行動を共にする。美津子に勧められるまま、わずかな金額で見知らぬ男たちに体を任せるいずみ。下品になればなるほど、身も心も軽くなっていくことをいずみは実感する。  モラルの鎖から解き放たれた女2人は行き着くところまで行き着き、やがてラブホテル街から忽然と姿を消してしまう。そして、近所のボロボロの廃アパートから、女性の首なし死体が発見される。被害者は誰なのか? 犯人は変質者なのか? 犯行の動機は何なのか? 捜査を担当する刑事の和子は渋谷界隈で裏風俗に関わる人々、消息を断ったOLや人妻の足跡を追うが、対象者があまりにも多過ぎて途方に暮れる。事件を追う和子には、妖しいネオンに彩られたラブホテル街がゴールのない迷宮のように映る。  昼と夜では別人の顔を持つ美津子役の冨樫真、おっとりした人妻からクライマックスに向かって表情が大きく変わっていくいずみ役の神楽坂恵、愛憎渦巻く女2人のバチバチ演技がカタストロフィーを呼ぶ。世間の目、社会のルールという枠組みから飛び出した2人は、堕ちていけば堕ちていくほど、生の輝きを放つ。『冷たい熱帯魚』の陽気な殺人鬼・村田(でんでん)が快楽を追求する姿が生き生きとしていたのと重なって映る。家庭というフォーマットや社会常識に疑問を投げ掛けてきた園監督らしい"肉欲のパラダイス"がスクリーンに広がる。
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園監督の厳しい演出に最後まで耐え切って
みせた神楽坂。クライマックスでは別人のような
表情に変化している。
 過激に突っ走れば突っ走るほど印象に残る神楽坂と冨樫に対し、事件を客観的に調べる刑事役の水野は割りを食うかっこうとなっているが、作品のバランスを保つためにグッと抑えた水野の大人の演技にも座布団を送りたい。殺人課の刑事である和子は、どうしようもなく不倫にハマっている。自宅に帰る前にラブホテルに寄って、どうでもいい男と性交するのが彼女にとっての"清めの儀式"なのだ。彼女は毎日のように人間の裏側を見つめ、殺人事件の真相を追っている自分の肉体を、別の形で汚すことで正気を保っている。犯罪まみれでドロドロの体のまま、小学生の娘や優しい夫が待つ家庭に戻るわけにはいかない。夫以外の男を相手に小出しに狂うことで、彼女はカタストロフィーを招くことを回避している。ギリギリのところでインモラルな世界へ堕ちていくことを防いでいる和子は、フツーの人々の代表でもある。そのことを理解して、水野は振り切った演技になる一歩手前でググッと我慢してみせている。  正直なところ、『冷たい熱帯魚』のようなギンギンの官能さを求めて劇場に足を運んだ男性は、「あれ?」という違和感を感じるかもしれない。ヒロイン3人はバンバン脱ぎまくっているのだが、男が思い描くようなエログロさとは微妙に異なる仕上がりとなっているからだ。園監督は「女性賛歌の映画」と語っており、成瀬巳喜男監督の『浮雲』(55)、『女が階段を上がる時』(60)、『女の中にいる他人』(66)といった女性映画を、現代的に、園監督流にしたものといってもいいだろう。園監督が常識や限界という言葉に縛られずに自在に映画を撮り上げているように、園監督作のヒロインたちも"窮屈なモラル"を脱ぎ捨て、生身の女の輝きを発している。 (文=長野辰次) koitsumi05.jpg 『恋の罪』 監督・脚本/園子温 出演/水野美紀、冨樫真、神楽坂恵、児嶋一哉(アンジャッシュ)、二階堂智、小林竜樹、五辻真吾、深水元基、内田慈、町田マリー、岩松了、大方斐紗子、津田寛治 配給/日活 11月12日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー R18 <http://www.koi-tumi.com>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』

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ビンボーな女子大生ルーシー(エミリー・ブラウニング)は、
高額バイトの面接先で下着姿にさせられ、体の隅々をチェックされる。
(C)2011 Screen Australia, Screen NSW, Spectrum Films Pty Limited,
Cardy&Company Pty Ltd, Lindesay Island Pty Ltd and Magic Films Pty Ltd.
 日本人初のノーベル賞受賞作家であり、三島由紀夫の師匠でもあった川端康成の代表作のひとつに『眠れる美女』がある。人生の終わりが近づいていることを実感している老人が"眠れる美女の館"で美しい全裸の少女たちに添い寝してもらうことで、生きる喜びや後悔の念など様々な想いを蘇らせながら眠りに就く物語だ。原田芳雄、大西結花の主演作(95)など、度々映画化されている。川端康成のこの官能文学をモチーフにしたのが『スリーピングビューティー 禁断の悦び』。今年のカンヌ映画祭コンペ部門に選ばれたオーストラリア映画。『ピアノ・レッスン』(93)の監督として知られるジェーン・カンビオンが制作にあたり、女流監督ジュリア・リーの処女作となる。ヒロインには、妄想SFガールズムービー『エンジェル ウォーズ』で"セーラー服戦士"ベイビードールを演じた新進女優エミリー・ブラウニングを起用。当初予定されていたミア・ワシコウスカに代わっての登板だが、セーラー服を脱ぎ捨てたエミリー・ブラウニングが陶磁器のように白い肌を惜しみなく披露している。  川端康成の『眠れる美女』が老人目線で描かれていたのに対して、現代劇『スリーピングビューティー』はエミリー・ブラウニング演じる金欠女子大生ルーシーが主人公。テレビ東京系でかつて放映されていた深夜番組『給料明細』の人気コーナー"潜入!高収入バイト"ばりのドキドキ感が楽しめる。ルーシーはかなりの美人だが、人付き合いが苦手。バーで「ドラッグやんない?」と声を掛けられれば断ることができず、男からセックスを求められるとコイントスに身を委ねる受け身な性格。しかも、ひどくビンボーだ。学費、家賃の支払いに加え、母親が自分のクレジットカードを使うことを容認している。事務仕事、居酒屋、医療機器の人体実験......と様々なバイトを掛け持ちする。公衆電話を見つけると、小銭が残っていないか手を伸ばす癖まで付いてしまっている。本人はマジメに働いているつもりなのだが、人生に対してなげやりな態度がちらつき、周囲を常にイライラさせてしまう。そんなルーシーにも唯一心を許せる恋人がいるが、彼は心を病んでいて入退院を繰り返している。ルーシーはいくら稼いでもお金が足りない。
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年配のセレブたちの給仕係を勤めるルーシー。
だが、この仕事は次の職種に進むための
顔見せに過ぎなかった。
 ルーシーは大学に置いてあったフリーペーパーで高額バイトを見つける。なんと時給250ドル! 仕事内容は高齢者向けの給仕係なのだが、フツーな給仕で高給なわけがない。職場に着いたルーシーはまず下着姿にさせられ、さらに唇には「下の唇と同じ色の口紅を塗るように」と女性マネージャーに命じられる。他のウエイトレスたちはもう慣れているのか、下着どころか堂々とトップレス姿で給仕している。みんな口紅の色は、ルーシーよりずっと深く黒ずんでいる。自分も数日経てば、すっかり慣れっこになるのだろうか。お客は身なりのいいセレブ系のおじいちゃんたちばかりだが、ルーシーは他人の視線を浴びながら仕事をしていると息苦しくなってしまう。どうも、この仕事も長続きしそうにない。  人付き合いが苦手、でもなるべく短期間で高収入を稼ぎたい。そんなルーシーにぴったりの新しい仕事が紹介される。派遣先は郊外にある高級そうな屋敷。ルーシーはベッドの上で裸になり、睡眠薬を飲んでただ眠っていればいいだけの至極単純なアルバイトだ。ルーシーが眠っている間、身元のしっかりした老紳士たちが現われ、ルーシーとベッドを共にしてから帰っていくというもの。世間では"シュナミティズム"と呼ばれる回春サービスを楽しむための秘密サロンというわけだ。お客は無抵抗な彼女の体を穴が空くまで視姦するもよし、匂いをくまなく嗅ぎ回るもよし、全身をなで回すもよし。ただし、本番行為だけは禁止されている。ルーシーは目を閉じて、子どものようにぐっすり眠っていればいい。お客も自分の老いさらした肉体や変態的嗜好性を知られずに済む。両者にとって得づくめの契約内容である。  ルーシーは、こう考える。睡眠薬を飲んで眠っている間、自分は死んでいるのだと。死んでいる間は何をされても記憶に残らない。眠りから目覚めれば、新しい生命と共に新しい生活が始まるのだと。ルーシーは恋人と一緒に暮らせる高級マンションを購入して、そこで誰からも干渉されずに今後は生きていこうと決意し、睡眠薬入りのお茶を飲み干す。眠りから覚めれば、人生がオールリセットされているのだと信じ込んで......。
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高額バイトの初日、ルーシーは「下の唇と
同じ色の口紅を塗るように」とマネー
ジャーから命じられる。
 自分自身の小学校時代の思い出だが、同級生のひとりが「人間は毎日、死ぬんだ」と休み時間にひどくマジメな顔で語っていた。同級生によると、人間は夜になると眠りに就く。眠っている間は体は動けないし、記憶もないので死んでいるのと同じ状態なのだそうだ。その説明を聞いて「眠っている間も心臓は動いているし、夢を見るから死んでないんじゃないか」と思ったが、同級生は「母親からそう教わったんだ」と力説していたので、自説は口にしなかった。小学生が読む本には載っていない、大人の世界には大人の学説が、ひょっとするとあるのかもしれないという考えが頭の片隅をかすめたからだ。  『スリーピングビューティー』を観ていて、小学校時代の同級生の言葉がふと思い出された。「人間は毎日、死ぬんだよ」。同級生の母親はどのような体験に基づいて、そんなデカダンスな考えを自分の息子に教えたのだろうか。同級生の母親は夢を見ることは、まったくなかったのだろうか。それとも川端康成のように睡眠薬を常用していたのだろうか。その同級生はしばらくして引っ越してしまったので、今ではもう確かめることはできない。  「人間は、毎日死ぬんだよ」。小学生の男の子が口にしたこの言葉を思い浮かべると、切ないような気が楽になるような不思議な気分に陥る。 (文=長野辰次) sleep04.jpg 『スリーピングビューティー 禁断の悦び』 監督・脚本/ジュリア・リー 出演/エミリー・ブラウニング、レイチェル・ブレイク、ユアン・レスリー、クリス・ヘイウッド 配給/クロックワークス 11月5日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー R15 <http://sleeping-beauty.info>
眠れる美女 (少女の文学 1) エロチシズムとデカダンス。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い

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上司が人格者であるとは限らない。ニック(ジェイソン・ベイトマン)
の直属のボスであるデビッド(ケビン・スペイシー)は二手三手先を読んで、
ネチネチと責め続ける。
(C) 2011 NEW LINE PRODUCTIONS, INC.
 職場の上司をぶっ殺してやりたいと考えたことのある人は手を挙げてください。ハ~イ。予想通り、けっこういますな。じゃあ、上司の机の上にトグロウンコする、会議用のコーヒーに抜き立ての鼻毛をブレンドする......そんなことを夢想してうっとりした人はもっと多いのでは? ざわざわ。あらら、みんなもっと正直になろうよ。まぁ、そんな控えめなところが日本人の美徳ですが、便秘とストレスの溜め過ぎは体に毒というもの。サラリーマンたちの心の奥底に渦巻く、黒い願望を代行してくれるのが『モンスター上司』だ。モンスター級の横暴さ、陰湿さで部下を振り回す上司どもは、きれいさっぱりと"消えて"もらったほうが世のため、会社のため。それまで社畜として働いてきた3人のマジメな男たちが立ち上がる。
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デール(チャーリー・デイ)の女ボス・ジュリア
(ジェニファー・アニストン)は患者が
麻酔で眠っている最中に関係を迫る。デール
に逃げ場なし。
 ところが、主人公3人が勤める各職場のモンスター上司たちはかなり手強い。ケビン・スペイシー、ジェニファー・アニストン、コリン・ファレルとそれぞれピンで主役を張る大物俳優たちがイヤ味な上司役を存在感たっぷりに演じている。主人公たち3人が日本ではまだ無名の存在なのとは対照的。モンスター上司の筆頭格"パワハラ上司"を演じるのはオスカー俳優のケビン・スペイシー。昇進をエサに、部下のニック(ジェイソン・ベイトマン)を奴隷のようにこき使う。その上、朝6時の早朝出社に1分遅れただけで、ネチネチと責め続ける神経質な性格。ブラッド・ピットの元妻で好感度女優のジェニファー・アニストンは、イメージを180度変えた"セクハラ上司"。婚約したばかりの助手デール(チャーリー・デイ)に対し、勤務中にエロトークをガンガン炸裂させる歯科医役だ。二枚目俳優のコリン・ファレルはハゲヅラを被っての"バカハラ上司"に。先代社長にかわいがられていた経理担当のカート(ジェイソン・サダイキス)に有害廃棄物の違法投棄を指示するわ、職場でコカインを吸うわ、コンプライアンスのコの字も知らないバカ息子社長だ。  「セクシーな女上司からのセクハラなら、毎日がパラダイスじゃん!」と思わず顔がほころぶM体質な人もおられるかもしれないが、職場はイメクラやコスプレパブではございません。実際に一線を越えちゃったら、もう職場は閉ざされた肉欲地獄。妻帯者の場合は家庭崩壊の危機ですよ。恋人や婚約者がいる身なら確実にその後の人生が変わります、ダメなほうに。幸せな家庭生活なんて、ビニール傘のようにモロくて壊れやすいもの。さらに、3人のモンスター上司たちは、今は不況のため転職や再就職が難しいことをよ~く知っていて、逃げ場のない部下たちをイビって楽しんでいるから始末が悪い。
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カート(ジェイソン・サダイキス)は二代目
社長ボビー(コリン・ファレル)の経営者
らしからぬアンモラルな言動に振り回される。
 酒場でそれぞれの上司の鬼畜さをグチっていたニック、デール、カートの3人は、酒の勢いを借りて、ついに上司どもを抹殺することで合意。ここから、いっきに藤子不二雄A先生チックなブラックな世界に突入! 『魔太郎がくる!!』の浦見魔太郎のように「こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か」と復讐心を抱いた3人の前に、「ドーン!!!」と『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造のごとく怪しい男(ジェイミー・フォックス)が現われる。怪しい男は"殺人コンサルタント"を名乗り、上司たちを消し去るナイスなアイデアを提供するのだった。ちなみに"黒いボランティア"喪黒福造と違って、彼の情報提供は有料です。  殺人コンサルタントからのアドバイスは、有料なだけに実用的。まずはターゲットの行動パターンを熟知し、相手の弱みを握れというもの。仕事そっちのけで上司たちのプライベートを追跡し始めた3人は、目がランランと輝き出す。やがて、会社では威張り散らしている"パワハラ上司"のデビッドは美人妻が浮気していないかどうか心配のあまり、周囲にイライラをぶつけていたなどの事情が見えてくる。まぁ、日本映画なら、後半には"セクハラ上司"のジュリアは男からヒドい棄てられ方をしたトラウマを持っている、"バカハラ上司"のボビーはワーカホリックだった先代社長から幼い頃に愛情を注がれた記憶を持たずに育ってしまった......などの同情できる要素を盛り込み、最後は上司と部下が本音をぶつけ合って大団円、なんでしょうが、そこはご安心ください。「和をもって尊しとなす」という聖徳太子の教えを今も律儀に守る日本と違って、「力こそ正義」を掲げる米国です。松崎しげるやみのもんたの顔よりも、超ブラックなクライマックスを迎えます。
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デール役のチャーリー・デイいわく「主人公
の3人は、フロイト的に見ると原始的衝動、
自我、超自我の関係になるんだ」と心理分析。
 いい大人が酒の勢いでバカなことをやらかすという設定は、『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09)と同様に日々マジメに働く社会人なら共感を覚えるもの。米国では公開1カ月で1億ドルを突破する大ヒット作となっている。普段は黙々と働く日本人サラリーマンも、『モンスター上司』を観て、気分がスカッとしたなら儲けモンじゃないすかね。筆者は"バカハラ上司"に悩まされているカートが上司の歯ブラシを尻の穴に突っ込んで、元に戻すシーンに「そうか、こういう手があったか!」と喝采を送りましたよ。  まぁ、映画を観たからといって、職場でのイジメや上司の態度が改まるわけではないので、DVと同じように外部からはわかりにくい職場でのトラブルは日記などにメモすることをお勧めします。自分の置かれている状況が客観的に見えてくるし、裁判になった場合は証拠になり、うまくすると藤子不二雄A先生が『魔太郎がくる!!社会人編』を描いてくれるかもしれません。 (文=長野辰次) monster05.jpg 『モンスター上司』 監督/セス・ゴードン 出演/ジェイソン・ベイトマン、チャーリー・デイ、ジェイソン・サダイキス、ジェニファー・アニストン、コリン・ファレル、ケビン・スペイシー、ドナルド・サザーランド、ジェイミー・フォックス  配給/ワーナー・ブラザース映画  10月29日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー PG12 <http://wwws.warnerbros.co.jp/horriblebosses>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』

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マスタードガスを手に入れた少女(韓英恵)と少年(笠井しげ)は、
世界を敵に回した戦争を始める。
(C)2009 PURE ASIAN PROJECT
 見て見ぬふりをする、全ての人間へ宣戦布告する。常識や一般論を振りかざして、今の社会を生み出した大人たちへ宣戦布告する。そしてバッシングを恐れ、世間におもねろうとする自分自身へ宣戦布告する。片嶋一貴監督の『アジアの純真』は第二次世界大戦中に旧日本軍が製造したマスタードガスを手に入れ、世界を相手に戦いを挑む高校生テロリストたちの物語だ。彼らテロリストたちの合い言葉は「世界を変えたい」。クソみたいな社会を変えようと、彼らは毒ガス入りのガラス瓶をカバンに詰め込み、行動を起こす。フィクションの物語だが、テロリストたちの標的があまりにも不謹慎なことから物議を醸している。ロッテルダム映画祭で賛否を呼び、国内の映画祭からは出品を断られ、都内の映画館からも公開を見送られ、完成から2年間"お蔵入り"していた問題作であり、公開前からネット上で"反日映画"として叩かれている。本作が置かれている現状は、そのまま劇中の主人公たちが閉塞感にもがき苦しむ心情とぴたりと重なり合う。  主人公は、それまでずっと殻に閉じこもるようにして生きてきた3人の若者たちだ。時代は2002年。北朝鮮バッシングのさなか、在日朝鮮人の少女(韓英恵)は、チマチョゴリを着ていた姉をチンピラに刺し殺されてしまった。その場に居合わせながら、足がすくんでしまった少年(笠井しげ)は贖罪の意識から少女と行動を共にするようになる。そしてもう1人は、母親の過剰な愛情にうんざりしている引きこもりのマコト(黒田耕平)。兵器工場跡地から発掘されたガラス瓶入りのマスタードガスを手に入れたマコトは、ニュースを見て後からやって来た少年少女に「同じことを考えている仲間がいたんだ。うれしいよ」と自分が見つけた毒ガス入り瓶のうち6本を譲り渡す。「世界を変えよう」を別れの言葉に、少年少女はある集会場へ、マコトは渋谷のスクランブル交差点へと向かう。
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テロを決行した後、自転車に乗って逃走する
少年と少女。お互いの名前を明かさないまま、
2人は旅を続ける。
 マスタードガスは第一次世界大戦でドイツ軍が初めて実戦投入した化学兵器。近年ではフセイン政権時代のイラクで自国のクルド人虐殺に使用されている。本作では日中戦争用に製造されたマスタードガスが終戦後も処分されずに、地下に埋まっていたという設定だ(実際に戦後、日本や中国でマスタードガスが見つかって死傷者が出る事故が度々起きている)。毒ガスが詰まったガラス瓶を手にした少女と少年が向かう先は、なんと北朝鮮拉致被害者家族の会。少女の姉を殺したのは街のチンピラたちであって、明らかに標的を誤っている。しかも、2人は普段着のまま、コンビニで市販されているマスクで顔を覆っただけで、テロを決行する。阿鼻叫喚と化す集会場。ずっと他人と触れ合うことを避けて生きてきた2人は、とんでもない過ちを犯すことで世界にアクセスする。"マスタードガス"は主人公たちが心の中に溜め込んで"猛毒化した感情"であり、そして"被害者家族の会"は触れることが最も憚れる"タブーとしての存在"の比喩である。  少年少女は間違った方法で、世界に対し強引にアクセスする。姉の死とは無関係の人たちを犠牲にした罪悪感、恐怖にとらわれる少女。それまで、ほとんど口を開くことなく、少女に黙って従ってきた少年だが、暴挙をきっかけに対照的に生きる活力を発揮し始める。自転車の後ろに少女を乗せ、街を棄てて逃避行の旅に出る。罪の意識、生の痛みを伴った2人が自転車に乗って新しい世界を求めるシーンが、モノクロならではの静謐な映像で描かれる。  少年少女が誤った方法ながら世界にアクセスするに対し、もう1人のテロリスト・マコトはもっと悲惨だ。少年少女がテロを決行したニュースに触発されたマコトは、ガラス瓶を手に渋谷の人混みの中に立つが、どうしても最後の一線を踏み越えられない。それが人間としての正しい理性だ。だが、その理性のために、彼はずっと"良い子"として家庭という名の檻の中で苦しみ続けてきた。結局、マコトは自宅に戻り、かわいがっていた小犬を外へ出してから家の中でマスタードガスを解き放つ。彼にとっての"世界"は家の中でしかなかったのだ。
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『誰も知らない』(04)、『疾走』(05)など
で存在感を見せた韓英恵が主演。片嶋監督の
次回作『たとえば檸檬』にも主演している。
 製作費2,000万円を自力で調達し、2週間というタイトなスケジュールで本作を撮り上げた片嶋監督。これまでも小栗旬の主演作『ハーケンクロイツの翼』(04)、古田新太主演のブラックコメディ『小森生活向上クラブ』(08)と社会の常識に反旗をひるがえすテロリストたちの作品を撮り続けているブレのない監督だ。片嶋監督のプロフィールを見ると、なぜテロリストたちを主人公にした異色作を撮り続けているのかわかる。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)で健在ぶりを知らしめた若松孝二監督のもとで、『われに撃つ用意あり』(90)などの作品にスタッフとして参加。さらに『殺しの烙印』(67)、『ツィゴイネルワイゼン』(80)といった映画史に残るカルト作品を放った鈴木清順監督と組み、『ピストルオペラ』(01)、『オペレッタ狸御殿』(05)のプロデューサーを務めている。  「確かに若松監督と清順監督から受けた影響は大きい。若松監督からは"本当に自分がやりたい作品を作るためには、資金集めから配給まで全て自分でやる"という物づくりの姿勢を学んだ。清順監督とはプロデューサーとしては頭を抱えることばかりだったけど、あの人は本当のパンク精神の持ち主。2人はタイプはまるで違うけど、気骨がある生き方をしてるという点では通じるものがある」と片嶋監督は話す。また、作家の村上龍が監督した『トパーズ』(92)の助監督として、半年間一緒に村上龍と過ごした経験も、かなり面白いものだったそうだ。なるほど、『コインロッカー・ベイビーズ』『昭和歌謡大全集』などの村上龍の小説世界を『アジアの純真』は彷彿させるものがある。また、脚本の井上淳一も若松監督の薫陶を受けており、いちばん好きな映画に長谷川和彦監督の『太陽を盗んだ男』(79)を挙げている。  片嶋監督によると、『アジアの純真』の企画が発案されたのは2002年。9.11同時多発テロ後に米国が正義を振りかざしアフガニスタンに攻め込み、日本では小泉総理の訪朝により拉致事件が明らかとなり、日本で暮らす在日朝鮮人へのバッシングが強まった時期になる。ナショナリズム一色に染まる風潮の中で、息苦しい状況に風穴を開けてやりたいという意欲から企画が立ち上がった。10歳のときに『ピストルオペラ』でデビューした韓英恵が高校生に成長するのを待って撮影が行なわれ、2009年に完成。3.11の傷がまだ癒えることのない2011年秋に公開されることになった。  少年少女の自転車に乗っての逃避行は、日が暮れた海辺で終わりを告げる。このシーンで終わっていれば、テロに純潔を捧げた若者たちの哀しい青春映画として観客の共感を少なからず得たかもしれない。だが、片嶋監督はクライマックスで、さらにアクセルを踏み込む。ここまで熱心に見ていた観客たちが、「えぇっ」と驚くエンディングへと突っ走る。『アジアの純真』は、"当たり障りのない"作品ばかりラインナップされた今の映画界に投げ込まれた毒ガス弾だ。片嶋監督が放った一撃がどれだけ"差し障りのある"ものなのか、劇場で体感してみてほしい。 (文=長野辰次) ajiajyunshin04.jpg 『アジアの純真』 脚本/井上淳一 監督/片嶋一貴 出演/韓英恵、笠井しげ、黒田耕平、丸尾丸一郎、川田希、澤純子、パク・ソヒ、白井良明(ムーンライダーズ)、若松孝二 配給/ドッグシュガームービーズ 10月15日(土)より新宿K's cinema、11月5日(土)より名古屋シネマスコーレ、12月3日(土)より大阪第七藝術劇場ほか全国順次公開 <http://www.dogsugar.co.jp/pureasia> ※ 劇中でコメンテイター役を演じた若松孝二監督と片嶋監督の対談が10月18日(火)に行なわれる他、連日ゲストを招いてのトーク&イベントを開催! <http://pureasianproject.blog.fc2.com/blog-entry-2.html>
アジアの純真 ......ではない。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』

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ぴったり息の合った演技を見せる宮崎あおいと
堺雅人の共演作『ツレがうつになりまして。』。
(c)2011「ツレがうつになりまして。」製作委員会
 うつ病にかかった会社員の夫とそれまでグータラだった売れない漫画家の妻が、あたふたしながらも病気との付き合い方を学んでいくコミックエッセイ『ツレがうつになりまして。』(幻冬舎)が宮崎あおい、堺雅人の共演で映画化された。宮崎&堺の夫婦役は2008年のNHK大河ドラマ『篤姫』以来となる2度目。俳優としてお互いの実力を認め合う2人が、『ツレうつ』でも息の合った芝居を見せる。今回の企画は06年に出版された原作に魅了された佐々部清監督が幾つもの映画会社を回り、3年がかりで実現させたもの。佐々部監督というと『半落ち』(04)、『夕凪の街 桜の国』(07)など"泣かせ"の職人監督的イメージがあるが、今回は"泣かせ"演出は控えめ。慣れない病気のために、ずっと家の中で顔を突き合わせることになる結婚5年目の夫婦がささいなエピソードを積み重ねながら、絆を深めていく様子をユーモラスに描いている。  外資系の会社に勤めているツレ(堺雅人)はある朝、突然会社に行けなくなってしまう。だが、"突然"と感じたのは妻のハル(宮崎あおい)だけ。ツレが毎朝満員電車に揺られて通勤していた会社では大きなリストラが行なわれ、職場に辛うじて残ったツレは辞めていった同僚たちの仕事も背負わされていたのだ。ハルの前では「会社から期待されている」「ちょっとだけ昇給した」と明るく振るまっていたツレ。だが、空元気は長くは続かず、心の中のヤル木がぽっきり折れてしまう。ハルに背中を押されて病院に行くと、あっさり「心因性のうつ病」と診断される。あわてたハルはツレに会社を辞めさせるが、会社を辞めてプレッシャーから解放されたはずなのに、ツレの症状は全然良くならない。逆に「自分は社会から必要とされていない」とこぼし、ペットとして飼っているイグアナのイグに対してまで「こんな飼い主で申し訳ない」と泣いて謝る始末。布団に包まって、寝込んでしまう。
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ツレとハルが暮らす一軒家を舞台にしたワン
シチュエーションっぽい設定。宮崎あおい
と堺雅人の2人芝居を中心にドラマは展開。
 ツレの病気のことを知った、ツレの兄(津田寛治)が見舞いに来て、「お前は一家の大黒柱なんだから、がんばれ」と励ます。その"がんばる"ことができずに苦しむツレは、身内の言葉に余計に落ち込む。やがてツレの退職金、失業手当が切れるが、うつ病は患者の都合に合わせては治ってくれない。それまでダメ人間を自称してのほほんと過ごしていたハルが働かざるを得なくなる。「ツレがうつになりまして......」と夫の病名を編集部にカミングアウトしてまで、苦手としていた営業回りを始める。  8月に公開された『神様のカルテ』では徹夜続きの激務をこなす町医者(櫻井翔)を陰からしっかり支える"理想の嫁"を演じた宮崎だが、今回の嫁役はもっとリアル路線。ツレが職場の重圧から次第に体調を崩しているのに気づかず、テレビのバラエティー番組をひとりで見てバカ笑いしている。ツレが不眠や背中痛を訴えても、「夜更かししているせいだよ」と冷たい。さらに夜中にツレのイビキがうるさいと、隣の部屋で寝ることを命じる。以来、2人は別々の部屋で寝る生活を送る。  ツレがうつ病だとわかって、ハルは急いで本を読みあさるが、すぐには良妻にはなれない。うつ病にはアミノ酸を多く含んだ納豆がいいと知り、さっそく食卓に並べるが、「臭いから、静かに掻き回して」とハルの口からはつい小言が出る。気分転換を兼ねてツレは食事を作るが、どうも味覚の調子が悪く、味付けがうまくいかない。しょんぼりしているツレを「私より上手だよ」とハルは慰めるが、「家事の下手なハルさんに褒められてもうれしくない」と返され、逆ギレしてしまう。生活費を稼ぐために引き受けたイラスト集の締め切りが迫ると、もうツレの世話どころではない。いつものようにネガティブ発言を繰り返すツレに向かって、「うるさい! 今はそれどころじゃないっ!」と怒鳴りつけてしまう。
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うつ病になって電車に乗れなくなったツレ
(堺雅人)だが、ハル(宮崎あおい)との
記念日を祝うため思い切って街へ出掛ける。
 当然だが、現実の生活は映画よりも、もっとシビアだ。ハルに怒鳴られたツレは自殺を考えるが、劇中のハルは異変を察知してツレは九死に一生を得る。だが、原作によるとツレが自殺寸前だったことに作者は気づかず、「漫画にするから」とツレに書かせていた日記を後で読んでから、その事実を知ってゾッとしたとある。一歩誤っていれば、コミックどころではなかった。また、映画では売れない漫画家だったハルは、いちばん身近なツレの病気を題材にすることで漫画家としてブレイクを果たすが、実際には病気を扱った内容にNGを出す編集者や夫の病気を打ち明けてから付き合いがフェードアウトした編集者もいたそうだ。09年に出版された萩原流行夫妻の共著『Wうつ』(廣済堂出版)の内容も生々しい。先にうつ病になった奥さんのまゆ美さんに対し、萩原は女性問題を起こして、さらに追い詰める形となってしまった。萩原の何気なく発した言葉が、病気を患っているまゆ美さんには「うっとうしい、死ね!」という言葉に聞こえたのだ。その後、萩原自身がうつ病になったことで、ようやくまゆ美さんの辛さを理解できたとある。  『ツレうつ』の主眼は"どうすれば、うつ病を治せるか"ではない。パートナーが病気になったことで、これまで気づかなかったこと、見逃していたものがしっかりと実感できるようになってきたということ。お互いの言動にカチンときてケンカもするし、うつ病の回復は一進一退だ。でも、パートナーがいてくれるという幸せがそこにはある。ツレの病気がきっかけで、それまで友達同士の延長のようだったハルとツレの関係は一歩二歩と先へ進んでいく。飼い主の2人が落ち込んだり、はしゃいだりしているのを横目で見ながら、縁側ではイグアナのイグが気持ち良さそうにひなたぼっこしている。いつもマイペースなイグアナが、小さな幸福のシンボルとなっている。 (文=長野辰次) tsureusu04.jpg 『ツレがうつになりまして。』 原作/細川貂々 脚本/青島武 監督/佐々部清 出演/宮崎あおい、堺雅人、吹越満、津田寛治、犬塚弘、梅沢富美男、田山涼成、大杉蓮、余貴美子  配給/東映 10月8日(土)より丸の内TOEIほか全国ロードショー <http://www.tsureutsu.jp>
ツレがうつになりまして。 人ごとじゃない。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』

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アルツハイマー病治療の新薬によって高い知能を持ったチンパンジーのシーザー。
他の類人猿たちに呼び掛け、人類に対し革命の狼煙を上げる。
(c)2011 Twentieth Century Fox Corporation
 神話が誕生する瞬間、革命が起きるその場に自分が立ち会っているかのような奇妙な高揚感にとらわれる異色作だ。『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』の原題は『Rise of the Planet of the Apes』。未来の地球は類人猿によって支配されているという衝撃的なSF映画『猿の惑星』シリーズ(68~73年)のエピソードゼロにあたる。なぜ人類は滅亡の道を歩み、進化した類人猿たちによって支配されてしまったのか旧シリーズでは具体的に描かれなかった謎の部分"ミッシング・リンク"が解き明かされる。ティム・バートン監督のリメイク版『PLANET OF THE APES』(01)が不完全燃焼だったのに対し、1972年生まれの新鋭ルパート・ワイアット監督は一匹の英雄・シーザーが神話の扉を開く過程を鮮やかに描いてみせた。  本作の主人公は、チンパンジーのシーザー(アンディ・サーキス)。アフリカの密林で暮らしていた母親のチンパンジーは動物実験のために捕獲され、米国の製薬会社が運営する研究施設へ送り込まれる。若き天才神経科学者ウィル(ジェームズ・フランコ)によってアルツハイマー病治療のための開発中の新薬を投与され、母親チンパンジーの頭脳は飛躍的に発達。だが、妊娠していた母親チンパンジーはお腹の我が子を守るために施設を脱走しようと暴れたため、処分されてしまう。こうして悲劇の英雄・シーザーは肉親の姿を目に焼き付けることなく、この地上に誕生した。罪悪感からウィルはシーザーを自宅に引き取り、育てることに。母親の遺伝子を受け継いだシーザーは成長すると共に優れた知能を持つようになる。
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自我に目覚めたシーザーは、自分に下された
天命を悟る。飼い主であるウィル(ジェーム
ズ・ブランコ)へ別れを告げることに。
 アルツハイマー病を患うウィルの父親チャールズ(ジョン・リスゴー)をいたわるなど人間以上の優しさ、思いやりを持つようになるシーザー。また、シーザーが恋のキューピッドとなり、ウィルは美人獣医キャロライン(フリーダ・ピント)と結ばれた。天使のような無垢な心を持つシーザーを中心に、ウィル、キャロライン、新薬のお陰で回復の兆しを見せるチャールズたちは平和な日々を過ごす。シーザーにとっては、ウィルという保護者に守られ、何の悩みもなく、"楽園"で暮らしているかのような幸福な時代だった。  だが、近所の住人とトラブルを起こしたチャールズを守ろうとしたことから、シーザーは危険な猛獣と見なされるはめに。裁判所の命令で、シーザーは霊長類保護施設という名の動物園に強制送還される。檻の中に閉じ込められた自分を、どうしてウィルは救い出してくれないのか? シーザーにとっては自分を育ててくれた父親同然であり、"神"のような万能の存在だったウィルから見捨てられたとしか思えない。プライドの高いシーザーは、施設のバカな管理人たちから執拗な嫌がらせを受ける。救世主のエピソードには欠かせない、まさに受難の日々だ。自分は一体何者なのか? 自分は何のために生まれてきたのか? 檻の中で自問自答を繰り返し、自我に目覚めたシーザーは、ついに決心する。施設内で閉じ込められている他のチンパンジー、オラウータン、ゴリラたちを率いてシーザーは蜂起する。このとき、銃を持った管理人はシーザーに向かって「檻に戻れ」と威嚇するが、シーザーははっきりと人間の言葉で「NO!」と答える。シーザー革命の始まりである。『新・猿の惑星』(71)でコーネリアスが語った進化の歴史と多少異なるが、旧約聖書でいうところのモーゼの"出エジプト"にあたる記念碑的瞬間であることに間違いない。
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金門橋で類人猿と人間がついに武力衝突。
ウィルとキャロライン(フリーダ・ピント)
の手に負えない事態となる。
 シーザーが次々と起こす"奇蹟"を後押しするのは、長年にわたって人間たちによって薬物実験の犠牲となり、狭い動物園の中で見せ物にされ、家畜やペットとして抑圧されてきた動物たちの底知れぬ怒りだ。シーザー率いる革命軍は一大勢力となり、サンフランシスコの金門橋にて米軍と対峙する。ここに旧人類となる人間と新人類となる類人猿たちとの歴史的な一戦の火ぶたが切られる。高い知能と文明を誇る現代人が猿軍団に負けるなんてアホな......と思うなかれ。人類の歴史を振り返ってみても、中世の日本では優雅を極めた平安貴族たちは、野蛮で教養のないド田舎の武士たちに権力の座を奪われた。モンゴルの大草原で育ったチンギス・ハーンは騎馬軍団を率いて、当時の最先進国だった中国を攻め滅ぼし、欧州にまで勢力を伸ばした。高度に発達しきった社会は、勇猛さを持った新興勢力によって駆逐されることは歴史が証明している。文明の衰退パターンを研究した歴史学者アーノルド・J・トインビー(1889~1975年)によると、「オールを漕ぐことを忘れたとき、文明は滅びる」そうだ。  オリジナル版『猿の惑星』(68)の原作者ピエール・ブール(1912~1994年)は『戦場にかける橋』(57)の作者としても知られており、実際に第二次世界大戦中にビルマ(現ミャンマー)で日本軍の捕虜となり、収容所生活を送っている。そのときの体験から『戦場にかける橋』だけでなく、支配者と被支配者の関係が逆転する『猿の惑星』のアイデアも生まれたと言われている。『続・猿の惑星』(70)では核兵器によって地球が滅亡に追い込まれる恐怖が描かれるが、これは米国とソ連だけでなく英国、中国、フランスも核開発に乗り出した冷戦時代の世相が反映されたもの。『猿の惑星』シリーズは、ただの絵空事ではなく、現実社会の"写し鏡"なのだ。映画はエンターテイメントであるのと同時に、その時代を生きる人間たちの意識・無意識を収集する受信機の役割も果たす。  類人猿が突然変異的に進化するかどうかは別として、現代社会が人類史上の大きな分岐点に置かれているのは確かだろう。『猿の惑星:創世記』が将来、"予言書"と呼ばれないことを祈りたい。 (文=長野辰次) saruwaku04.jpg 『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』 監督/ルパート・ワイアット 出演/ジェームズ・フランコ、フリーダ・ピント、ジョン・リスゴー、アンディ・サーキス  配給/20世紀フォックス映画 10月7日(金)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー <http://www.foxmovies.jp/saruwaku>
猿の惑星 コンプリート・ブルーレイBOX (初回生産限定) [Blu-ray] 甘く見んなよ! amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! 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刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き!

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雑居房で過ごす5人の男たちは、
お正月の「おせち料理」を賭けて熱きフードバトルを繰り広げる。
(c)2011『極道めし』製作委員会 (c)土山しげる/双葉社
 花輪和一原作、崔洋一監督作『刑務所の中』(02)で一躍有名になったのが、刑務所で大晦日の晩に出てくる"おせち料理"。鮭の切り身、エビフライ、チキンカツ、コブ巻き、タマゴ焼き、ようかん、ミカン、年越しソバ、そして翌朝には雑煮......と食べ切れない品数が並ぶ。食べることが数少ない楽しみである受刑者にとって、年に一度きりのごちそうである。シャバにいながらもコンビニ食で正月を過ごす人間にも、羨ましく感じられるほどだ。土山しげる原作の人気コミックを映画化した『極道めし』では、この"おせち料理"を巡って受刑者同士が壮絶なバトルを繰り広げる。おせち争奪戦のルールは簡単。雑居房で同房となった受刑者たちは、それぞれがこれまでに食べた最高に美味しかった料理の自慢話を披露し合う。他の受刑者たちの喉を鳴らすことができれば1点。最高得点者は、参加者のおせち料理から好きな1品を選び取ることができる。エビフライだろうが雑煮だろうが、容赦なく奪い取られるので、参加者はそれこそ血まなこだ。年末の刑務所で、空前の激熱フードバトルが巻き起きる。  このフードバトルに勝利するには、巧みな話術以外にも秘訣がある。キャビア、フォアグラ、フグの刺身、松坂牛のステーキといった高級料理の美味しさをいくら自慢しても得点には結びつかない。刑務所で年末を過ごす彼らは、そういったグルメには縁のない暮らしを送ってきたので、高級料理の味は想像できないのだ。誰もが食べたことのある庶民的料理でなくては、共感は得られず、高得点は望めない。そして、それぞれの自慢話が進むにつれ、参加者たちの思い出の味にはある共通点があることが浮かび上がってくる。
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八さん(麿赤兒)が少年時代に食べた思い出
のすき焼き。子供の目には、肉を焼く父親の
姿が頼もしく映った。
 204房の牢名主・八さん(麿赤兒)の勝負めしは、少年時代に食べた"すき焼き"。食料事情の悪かった時代、苦労して手に入れた肉を父親が威厳を持って鉄鍋の上に広げた。育ち盛りの兄弟で競い合うようにしてハシを伸ばした。上京してホストになったアイダ(落合モトキ)は職場でトラブルを起こし、田舎の実家へ逃げ帰った。母親は何も聞かずに黙って炊きたての白いご飯に、産まれたての生卵を添えてくれた。空腹のあまり、夢中になって"卵かけご飯"をかき込むと、口の中で卵の甘みが広がった。新入りの健太(永岡佑)にとって忘れられない味は、恋人のしおり(木村文乃)が最後に作ってくれた"インスタントラーメン"。どこでも売っている袋入り即席ラーメンだが、麺の上には焦がしネギと熱々のネギ油がたっぷりトッピングされている。丼の底には刻みキャベツも隠されている。ろくな物を食べていないヤクザ者の健太の健康を考えた栄養食だ。スープの温かさが健太の体に染み渡る。受刑者たちが語る"思い出のグルメ"はどれもレストランや料亭で出されるメニューではなく、自分のために家族や恋人が作ってくれた家庭料理ばかり。刑務所送りとなった彼らにとって、数少ない幸福な、温かい宝物のような記憶なのだ。思い出の中のごちそうを、受刑者たちは貪り分け合う。
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中華料理店で働きながら、恋人・健太の出所
を待つしおり(木村文乃)。自分のラーメン
店を持つのがしおりの夢だ
 三木聡監督のロードムービー『転々』(07)では、天涯孤独で育った大学8年生の文哉(オダギリジョー)はひょんなことから借金取り(三浦友和)とその知人(小泉今日子、吉高由里子)らと"疑似家族"となり、夕食を共にする。いつも、ひとりで食事を済ませていた文哉にとっては、初めての家族団らんのひと時。何でもない普通のカレーライスをひと口食べ、文哉は涙を流す。食事を摂る上で大切なことは、どんなごちそうを食べるかではなく、誰と食べるかであることを『転々』の中の偽物家族たちは教えてくれた。『転々』をはじめ、B級グルメを扱った映画には秀作が多い。伊丹十三監督の『タンポポ』(85)、荻上直子監督の『かもめ食堂』(05)、沖田修一監督の『南極料理人』(09)などなど。ただし、それらの作品は料理人が主人公であるのに対し、『極道めし』は食べる側が主人公だ。作った側の苦労や思いやりを考えずに、ガツガツと平らげ、「ごちそうさま」のひと言もない、礼儀知らずな大バカモノたちばかりだ。  本作のメガホンをとったのは前田哲監督。そんな大バカモノたちの視点から、心に染み入るグルメ映画を撮り上げた。思い出の逸品をシズル感たっぷりに映し出すことはもちろん、大バカモノのためにせっせと調理に励む家族や恋人たちの姿を丁寧にクローズアップしてみせる。とりわけ、身勝手な恋人のためにラーメン用のネギをけなげに刻む木村文乃の後ろ姿が何とも美しい。愛する者のために台所に立つヒロインの背中に後光が差している。『ブタがいた教室』(08)では食べる側と食べられる側のシビアな関係に着目した前田監督だが、本作では作る側と食べる側との関係性をドラマとして見せることで、過去の名作グルメ映画に肩を並べる作品へと押し上げることに成功した。  本作を観ているうちに、次第に自分自身の体験も蘇ってくる。働きすぎてポックリ亡くなってしまった母親のことだとか、昔付き合っていた彼女のことだとか。自分にとって大切な人であるはずなのに、でもどんな話をしたとか、そのときどんな表情をしていたとか、肝心な記憶はどんどん曖昧になっていることにも気づく。そうなのだ、自分も大バカモノのひとりなのだ。刑務所の中にいる健太たちと大して変わらない、恩知らずの大バカモノなのだ。自分にとって大切な人の顔がうろ覚えになっているくせに、狭い台所から聞こえてきた野菜を刻んだり、油がはねる音、吹き溢れた鍋から漂う匂いの記憶だけは鮮明に覚えている。そして、二度と食べることのできないあの味も。五感の中に記憶されている"極めし"こそが、男にとっての"桃源郷"なのだろう。思い出の中の料理ほど、美味しいものはない。 (文=長野辰次) gokumeshi04.jpg 『極道めし』 原作/土山しげる 脚本/羽原大介、前田哲 監督/前田哲  出演/永岡佑、勝村政信、落合モトキ、ぎたろー(コンドルズ)、麿赤兒、木村文乃、田畑智子、田中要次、木下ほうか、でんでん、木野花、内田慈  配給/ショウゲート 9月23日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー <http://gokumeshi-movie.com>
極道めし(8) ゴクリッ。 amazon_associate_logo.jpg
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