犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』

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実在した犯罪ファミリーを描いた『アニマル・キングダム』。
家族の固い絆の前に、メルボルン警察は手が出せない。
 広大なオーストラリアを舞台にした『アニマル・キングダム』は、ノンフィクションタッチのワイルドな映画だ。"野生の王国"といっても、かわいらしいカンガルーやコアラの親子の生態を追ったほのぼの系ドキュメンタリーではない。飢えたライオンやハイエナよりも、もっと凶暴な犯罪者ファミリーが登場する。タランティーノが2010年公開映画のベスト3に挙げたことからも分かるように、インディペンデント臭が濃厚に漂う良質のバイオレンス映画なのだ。ヘビメタ野郎のかっこうをした聖者による救済劇『メタルヘッド』(10)の脚本家として注目を集めたデヴィッド・ミショッドの監督デビュー作であり、1988年にメルボルンで警察官射殺事件を起こしながら無罪となったトレヴァー・ペティンギルとその家族がモデルとなっている。  17歳のジョシュア(ジェームズ・フレッシュヴィル)は、ひどくボンクラな高校生だ。母親がヘロインの過剰摂取でリビングでぶっ倒れているのに気づいても、電話で救急車を呼ぶこと以外は何もできずにいる。救命隊が到着しても、ぼぉ~とテレビのクイズ番組を眺めているだけ。女手ひとつで自分を育ててくれた母親の葬式をどう行なえばいいのか分からず、ただオドオドするばかり。結局、ジョシュアはずっと疎遠状態だった祖母スマーフ(ジャッキー・ウィーヴァー)に連絡をして、すべてを任せる。久しぶりに会うスマーフは、大きくなった孫のジョシュアを愛おしそうに抱きしめてくれた。他に身寄りのないジョシュアは、スマーフ家の世話になる。スマーフの3人の息子たち=おじさんたちも明るくジョシュアを受け入れてくれた。母との慎ましい2人暮らしが長かったジョシュアは、スマーフ家のにぎやかな家庭生活が新鮮に映る。困ったときは、やっぱり血縁が頼りになるなぁとジョシュアはしみじみ思う。だが、ジョシュアのそんな考えは甘かった。スタバに並ぶ、どのスイーツよりも大甘だった。
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豪州のベテラン女優ジャッキー・ウィーヴァー
は、『アニマル・キングダム』の好演で2011
年米国アカデミー賞助演女優賞にノミネート。
 スマーフ家のおじさんたちは定職に就いていないが、なぜか羽振りがいい。それは一家が犯罪で荒稼ぎしているからだった。亡くなったジョシュアの母親が実家と縁を切ったのは、息子の教育を考えてのことだったのだ。いちばん上のポープおじさんは強盗の常習犯。全身タトゥーでいかつい2番目のクレイグおじさんは麻薬のディーラー。3番目のダレンおじさんは兄たちのアシスタントを務めている。スマーフおばあちゃんは、そんな息子たちの健康ために毎朝フレッシュジュースを作り、息子たちがひと仕事しに出掛けるときは、ハグ&キスで見送るなどスキンシップを欠かさない。スマーフおばあちゃん自身が犯罪に直接加わることはないが、一家の精神的な支柱だ。司法関係者や警察内の麻薬捜査官とも親しくし、裏情報に精通している。"ゴッドマザー"スマーフを軸に一家はまとまり、せっせと犯罪に勤しんでいた。ある日、仕事仲間のバズが警察に射殺されてしまい、おじさんたちが動揺していると、スマーフは優しく諭す。「哀しいとき、辛いときは、誰かに八つ当たりなさい。それが我が家のルールよ」と。スマーフはとっても情が深い。でも、やっぱりどっかおかしい。  最初こそ、"お客さん"扱いされていたが、ジョシュアもだんだんと環境に慣れ、ガールフレンドのニコールを家に連れてくるようになる。お年頃のニコールは、型破りで刺激的なスマーフ家に興味津々。ジョシュアは犯罪者一家に居候しながら、風変わりな青春時代を過ごすはめになる。だが、ジョシュアがお客さん扱いされたのは最初だけ。バズを射殺した警察官に報復するため、ポープおじさんはジョシュアに盗難車を調達するように命じる。本業である犯罪モードに入ったときのポープおじさんには、誰も逆らえない。こうしてジョシュアも警察官殺しに加担させられる。もう自分はただの居候ですとは言い逃れできなくなる。一方、スマーフ家を追っていたネイサン刑事(ガイ・ピアース)は新入りのジョシュアに狙いを絞り、ジョシュアから切り崩すことでスマーフ家の一網打尽を図る。ジョシュアは大きな選択を迫られる。一般社会のルールに従って犯罪者一家を警察に売るのか? それとも、スマーフ家の恩義に報いて立派な犯罪者への道を突き進むのか?
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刑務所を舞台にした『預言者』。マリクは
マフィアのボスにアゴで使われながら、
弱肉強食の世界で生きていくノウハウ
を学ぶ。
 『アニマル・キングダム』と同日公開される、もう1本の興味深い作品が、刑務所を舞台にしたフランス映画『預言者』。読唇術の心得のある難聴のOLが犯罪に巻き込まれる『リード・マイ・リップス』(01)、ドラッグ売買しながらプロのピアニストを目指す若者を主人公にした『真夜中のピアニスト』(05)などのフレンチ・ノワールで知られるジャック・オディアール監督の久々の新作。2009年のカンヌ映画祭コンペ部門でミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』(09)と争い、グランプリを受賞している。こちらも無学無教養な19歳の青年が刑務所という閉じた空間で犯罪者たちから処世術を学び、大人へと成長していくストーリーだ。高崎山のサルのように、力で順列が決まる犯罪者たちの生態が赤裸々に描かれている。  傷害罪で6年の禁固刑に処せられたアラブ系の青年マリク(タハール・ラヒム)は、フランスの刑務所にブチ込まれる。刑務所の中はコルシカ系のマフィアのボス・セザール(ニエル・アレストラップ)が牛耳っている。刑務所にいながら遠隔操作で麻薬の売買を行ない、大儲けしている大悪党だ。看守たちもセザールに買収されており、刑務所の中に正義はない。誰もマリクを助けてくれない。マリクはセザールの使いっ走りをさせられながら、監獄の中で読み書きを覚え、さらにセザールをはじめとする前科者たちから、ビジネスセンス、交渉術、組織の運営術......などを貪欲に学んでいく。オディアール監督が説明的な台詞をいっさい排しているため飲み込みづらさがあるものの、本人に何かを吸収しようという意欲さえあれば、刑務所だろうがどこだろうが、そこが本人にとっての学校となることが説かれている。  『アニマル・キングダム』のスマーフおばあちゃんも、『預言者』のセザールも、常人とは異なる独自の哲学の持ち主だ。己の経験に基づいた自信を持ち、荒くれどもを束ねている。無学で世間知らずなジョシュアやマリクにとっては、それぞれ得難い保護者であり、教育者でもある。ジョシュアもマリクも、彼らから世間で生きていくための多くのことを学んでいく。その中でも彼らが学んだ、いちばん大切なものは"判断力"だろう。知識とは学ぶためにあるのではなく、勝負どころでの判断力、決断力を磨くためのものだということ。主人公たちは学んできた知恵を振り絞って、自分が磨いてきた判断力が正しいかどうかを物語の後半で実証することになる。主人公が自分の判断力を試すとき、それは暴力が支配する学校からの"卒業"である。 (文=長野辰次)
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(c)2009 Screen Australia,
Screen NSW, Film Victoria,
The Premium Movie
Partnership,
Animal Kingdom Holdings
Pty Limited and
Porchlight Films Pty Limited.
『アニマル・キングダム』 監督・脚本/デヴィッド・ミショッド 出演/ジェームズ・フレッシュヴィル、ジャッキー・ウィーヴァー、ベン・メンデルソーン、ジョエル・エドガートン、ガイ・ピアース、サリヴァン・ステイプルトン、ルーク・フォード PG12 配給/トランスフォーマー 1月21日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー <http://www.ak-movie.com>
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(C) 2009 WHY NOT PRODUCTIONS, 
CHIC FILMS, PAGE114,
FRANCE 2 CINEMA, UGC
IMAGE, BIM DISTRIBUZIONE
『預言者』 監督・脚色/ジャック・オディアール 出演/タハール・ラヒム、ニエル・アレストラップ、アデル・ベンチェリフ、ヒシャーム・ヤクビ  配給/スプリングハズカム 1月21日(土)よりヒューマントラスト渋谷ほか全国順次ロードショー <http://www.sumomo.co.jp>
メタルヘッド こちらも合わせて。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』

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実在した犯罪ファミリーを描いた『アニマル・キングダム』。
家族の固い絆の前に、メルボルン警察は手が出せない。
 広大なオーストラリアを舞台にした『アニマル・キングダム』は、ノンフィクションタッチのワイルドな映画だ。"野生の王国"といっても、かわいらしいカンガルーやコアラの親子の生態を追ったほのぼの系ドキュメンタリーではない。飢えたライオンやハイエナよりも、もっと凶暴な犯罪者ファミリーが登場する。タランティーノが2010年公開映画のベスト3に挙げたことからも分かるように、インディペンデント臭が濃厚に漂う良質のバイオレンス映画なのだ。ヘビメタ野郎のかっこうをした聖者による救済劇『メタルヘッド』(10)の脚本家として注目を集めたデヴィッド・ミショッドの監督デビュー作であり、1988年にメルボルンで警察官射殺事件を起こしながら無罪となったトレヴァー・ペティンギルとその家族がモデルとなっている。  17歳のジョシュア(ジェームズ・フレッシュヴィル)は、ひどくボンクラな高校生だ。母親がヘロインの過剰摂取でリビングでぶっ倒れているのに気づいても、電話で救急車を呼ぶこと以外は何もできずにいる。救命隊が到着しても、ぼぉ~とテレビのクイズ番組を眺めているだけ。女手ひとつで自分を育ててくれた母親の葬式をどう行なえばいいのか分からず、ただオドオドするばかり。結局、ジョシュアはずっと疎遠状態だった祖母スマーフ(ジャッキー・ウィーヴァー)に連絡をして、すべてを任せる。久しぶりに会うスマーフは、大きくなった孫のジョシュアを愛おしそうに抱きしめてくれた。他に身寄りのないジョシュアは、スマーフ家の世話になる。スマーフの3人の息子たち=おじさんたちも明るくジョシュアを受け入れてくれた。母との慎ましい2人暮らしが長かったジョシュアは、スマーフ家のにぎやかな家庭生活が新鮮に映る。困ったときは、やっぱり血縁が頼りになるなぁとジョシュアはしみじみ思う。だが、ジョシュアのそんな考えは甘かった。スタバに並ぶ、どのスイーツよりも大甘だった。
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豪州のベテラン女優ジャッキー・ウィーヴァー
は、『アニマル・キングダム』の好演で2011
年米国アカデミー賞助演女優賞にノミネート。
 スマーフ家のおじさんたちは定職に就いていないが、なぜか羽振りがいい。それは一家が犯罪で荒稼ぎしているからだった。亡くなったジョシュアの母親が実家と縁を切ったのは、息子の教育を考えてのことだったのだ。いちばん上のポープおじさんは強盗の常習犯。全身タトゥーでいかつい2番目のクレイグおじさんは麻薬のディーラー。3番目のダレンおじさんは兄たちのアシスタントを務めている。スマーフおばあちゃんは、そんな息子たちの健康ために毎朝フレッシュジュースを作り、息子たちがひと仕事しに出掛けるときは、ハグ&キスで見送るなどスキンシップを欠かさない。スマーフおばあちゃん自身が犯罪に直接加わることはないが、一家の精神的な支柱だ。司法関係者や警察内の麻薬捜査官とも親しくし、裏情報に精通している。"ゴッドマザー"スマーフを軸に一家はまとまり、せっせと犯罪に勤しんでいた。ある日、仕事仲間のバズが警察に射殺されてしまい、おじさんたちが動揺していると、スマーフは優しく諭す。「哀しいとき、辛いときは、誰かに八つ当たりなさい。それが我が家のルールよ」と。スマーフはとっても情が深い。でも、やっぱりどっかおかしい。  最初こそ、"お客さん"扱いされていたが、ジョシュアもだんだんと環境に慣れ、ガールフレンドのニコールを家に連れてくるようになる。お年頃のニコールは、型破りで刺激的なスマーフ家に興味津々。ジョシュアは犯罪者一家に居候しながら、風変わりな青春時代を過ごすはめになる。だが、ジョシュアがお客さん扱いされたのは最初だけ。バズを射殺した警察官に報復するため、ポープおじさんはジョシュアに盗難車を調達するように命じる。本業である犯罪モードに入ったときのポープおじさんには、誰も逆らえない。こうしてジョシュアも警察官殺しに加担させられる。もう自分はただの居候ですとは言い逃れできなくなる。一方、スマーフ家を追っていたネイサン刑事(ガイ・ピアース)は新入りのジョシュアに狙いを絞り、ジョシュアから切り崩すことでスマーフ家の一網打尽を図る。ジョシュアは大きな選択を迫られる。一般社会のルールに従って犯罪者一家を警察に売るのか? それとも、スマーフ家の恩義に報いて立派な犯罪者への道を突き進むのか?
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刑務所を舞台にした『預言者』。マリクは
マフィアのボスにアゴで使われながら、
弱肉強食の世界で生きていくノウハウ
を学ぶ。
 『アニマル・キングダム』と同日公開される、もう1本の興味深い作品が、刑務所を舞台にしたフランス映画『預言者』。読唇術の心得のある難聴のOLが犯罪に巻き込まれる『リード・マイ・リップス』(01)、ドラッグ売買しながらプロのピアニストを目指す若者を主人公にした『真夜中のピアニスト』(05)などのフレンチ・ノワールで知られるジャック・オディアール監督の久々の新作。2009年のカンヌ映画祭コンペ部門でミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』(09)と争い、グランプリを受賞している。こちらも無学無教養な19歳の青年が刑務所という閉じた空間で犯罪者たちから処世術を学び、大人へと成長していくストーリーだ。高崎山のサルのように、力で順列が決まる犯罪者たちの生態が赤裸々に描かれている。  傷害罪で6年の禁固刑に処せられたアラブ系の青年マリク(タハール・ラヒム)は、フランスの刑務所にブチ込まれる。刑務所の中はコルシカ系のマフィアのボス・セザール(ニエル・アレストラップ)が牛耳っている。刑務所にいながら遠隔操作で麻薬の売買を行ない、大儲けしている大悪党だ。看守たちもセザールに買収されており、刑務所の中に正義はない。誰もマリクを助けてくれない。マリクはセザールの使いっ走りをさせられながら、監獄の中で読み書きを覚え、さらにセザールをはじめとする前科者たちから、ビジネスセンス、交渉術、組織の運営術......などを貪欲に学んでいく。オディアール監督が説明的な台詞をいっさい排しているため飲み込みづらさがあるものの、本人に何かを吸収しようという意欲さえあれば、刑務所だろうがどこだろうが、そこが本人にとっての学校となることが説かれている。  『アニマル・キングダム』のスマーフおばあちゃんも、『預言者』のセザールも、常人とは異なる独自の哲学の持ち主だ。己の経験に基づいた自信を持ち、荒くれどもを束ねている。無学で世間知らずなジョシュアやマリクにとっては、それぞれ得難い保護者であり、教育者でもある。ジョシュアもマリクも、彼らから世間で生きていくための多くのことを学んでいく。その中でも彼らが学んだ、いちばん大切なものは"判断力"だろう。知識とは学ぶためにあるのではなく、勝負どころでの判断力、決断力を磨くためのものだということ。主人公たちは学んできた知恵を振り絞って、自分が磨いてきた判断力が正しいかどうかを物語の後半で実証することになる。主人公が自分の判断力を試すとき、それは暴力が支配する学校からの"卒業"である。 (文=長野辰次)
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(c)2009 Screen Australia,
Screen NSW, Film Victoria,
The Premium Movie
Partnership,
Animal Kingdom Holdings
Pty Limited and
Porchlight Films Pty Limited.
『アニマル・キングダム』 監督・脚本/デヴィッド・ミショッド 出演/ジェームズ・フレッシュヴィル、ジャッキー・ウィーヴァー、ベン・メンデルソーン、ジョエル・エドガートン、ガイ・ピアース、サリヴァン・ステイプルトン、ルーク・フォード PG12 配給/トランスフォーマー 1月21日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー <http://www.ak-movie.com>
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(C) 2009 WHY NOT PRODUCTIONS, 
CHIC FILMS, PAGE114,
FRANCE 2 CINEMA, UGC
IMAGE, BIM DISTRIBUZIONE
『預言者』 監督・脚色/ジャック・オディアール 出演/タハール・ラヒム、ニエル・アレストラップ、アデル・ベンチェリフ、ヒシャーム・ヤクビ  配給/スプリングハズカム 1月21日(土)よりヒューマントラスト渋谷ほか全国順次ロードショー <http://www.sumomo.co.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』

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戦場から生還した男は笑いの世界に魅了される。
この何者でもない男は、吉本に入っていなかったかもしれない、
もう一人の板尾創路の姿だろう。(c)「月光ノ仮面」製作委員会
 名優としての誉れが高い、板尾創路が主演・監督を兼ねた第2作『月光ノ仮面』。この作品は"地獄"から帰還を果たした男の物語だ。地獄に一歩足を踏み入れれば、そこはもう生と死の境界線はない。生と死の区別がなければ、もちろん自分と他者を隔てるアイデンティティーも存在しない。『月光ノ仮面』では"戦場"という名の地獄を共にした2人の男(板尾創路、浅野忠信)のうち、一人が死に、一人が生き残る。アイデンティティーなんてものは鉄の雨に洗われて、砕け散ってしまった。そうして生き残った、ひとりの男が戦後復興期の日本に帰ってくる。
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寄席に現われた復員兵を見て、弥生(石原
さとみ)は「森乃屋うさぎが帰ってきた」
と駆け寄る。弥生は本作のキーパーソン。
 本作について触れる前に、鈴木清順監督のことを話したい。清順監督といえば、原田芳雄主演作『ツィゴイネルワイゼン』(80)で生きているのか死んでいるのか分からない、夢うつつの世界を耽美的に描いたカルトな映画監督だ。2006年に自選DVD BOXがリリースされた際に、鼻に酸素チューブを挿した清順監督に話を聞く機会に恵まれた。清順監督の作品は、どれも虚無感と底が抜けたようなシュールな笑いが満ちている。その理由について率直に尋ねたところ、「そりゃー、やっぱり戦場を経験したからですよ」と清順監督はハッキリと答えた。  清順監督は20歳のときに、学徒出陣でフィルピンへ向かっている。ところが肝心の戦地に着く前に、乗っていた船団が米軍の襲撃を受けてことごとく撃沈。海に放り出された人間が残っていた船にハシゴを伝って上がろうとすると、そこを狙い撃ちにされた。また懸命に泳いで島に上陸しようとした人間は陸地で待ち構えていた敵兵の射撃の標的となった。何もできずに海にぷかぷかと浮かんでいた清順監督は、その光景を眺めながら笑うしかなかったそうだ。底抜けなドタバタ喜劇を観ているようだったという。ただし、倒れていく味方の兵隊から流れ出し、海を染める鮮血は血糊ではなく、本物の血だった。清順監督はそのまま流れに身を任せ、海を数日間漂い続けて命拾いした。そうして生き残った清順監督は戦後、食べていくために映画業界に入り、『殺しの烙印』(67)をはじめとするヘンテコな映画を次々と撮っている。米国のSF作家カート・ボネガットが味方によるドレスデン爆撃を辛うじて生き延びて、『スローターハウス5』などのナンセンス小説を生み出した経緯に通じるものがある。
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過剰な演技をしない浅野忠信と"引き算"
タイプの板尾創路。俳優としてのテイストが
似ていることから初共演となった。
 戦争こそ経験していないが、板尾創路もまた"地獄"を経験している。『板尾日記5』(リトルモア社)を読まれた方なら、2009年8月以降の彼が最愛の存在を失ったドン底状態から、どれだけ肉体的・精神的に苦しみながら復帰を果たしたかをご存知だろう。『板尾日記5』の帯に記された「あと、300年は生きたいと思います。」という言葉には、芸人として新たに生きる決意をした人間の凄みが伝わる。哀しみを吹っ切るために、テレビの収録や映画づくりに没頭していた感がある。その一方、妻のことを精いっぱい思い遣っている。井口昇監督のSF大作『電人ザボーガー』(11)では、巨大化した自分の娘を爆破するという過酷なミッションを劇中で背負った。板尾創路が『ザボーガー』の主役・大門豊に決まった際、映画スタッフからは「脚本を変えたほうがいいのでは」という声も上がったが、「板尾さんに決まったからといって、脚本を変えたら、それは板尾さんに対して失礼」という井口監督の英断によって当初の脚本通りに映画は完成した。『ザボーガー』で愛するものに別れを告げる板尾創路の顔は、哀しみと同時に愛するものに出会うことができた喜びと生きることへの慈しみが混じり合った、彼にしか演じられない表情だった。  『月光ノ仮面』のモチーフとなっているのは、古典落語の中でもシュールさを極めた『粗忽長屋』。長屋で暮らす熊さんはうっかり死んでしまい、同じ長屋に住む八さんに教えられて、自分の死体を浅草まで回収しに行くというものだ。2011年11月に亡くなった"落語界の革命児"立川談志が得意とし、二・二六事件の最中に反乱部隊の屯所で一席披露したエピソードで知られる五代目柳家小さんも十八番としていた。その『粗忽長屋』を大胆にアレンジした形で映画は進む。
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監督業と主演俳優を掛け持つ板尾創路。
「作品が勝手に独り歩きしていく感じが好き
なんです」と語っている。
 終戦後、復興を遂げつつある街に、ひとりの復員兵が現われる。笑い声が聞こえてくる寄席へと男の足が向かう。笑いに釣られて、男は高座に上がってしまう。男は舞台袖に控えていた噺家たちに取り押さえられ、「あそこはオレたちにとっての戦場なんだ」と諌められる。男は戦争ですべての記憶を失っていたが、どうやら戦前に大人気を集め、真打ち昇進寸前だった"森乃家うさぎ"らしい。婚約者だった弥生(石原さとみ)は男の顔が火傷で別人のように変わってしまったことに驚くが、無事に生きて帰ってくれたことに大喜び。満月の夜、男に抱かれる。やがて、記憶喪失の男はリハビリを兼ねて、場末の小屋の高座に上がることに。だが、生きるか死ぬかの地獄をかいくぐってきた男が物語る笑いは、常人の理解を越えたものだった。  主演である板尾創路は、独り言のように『粗忽長屋』を呟くが、前作『板尾創路の脱獄王』に続いて、台詞らしい台詞はない。板尾創路と戦友である浅野忠信の目のやりとり、また板尾と石原さとみの身体的な距離から、それぞれの心情を察するしかない。男が一世一代の笑いを披露する、ラストの高座シーンも、観た人間によってどのようにも解釈できるものになっている。ただ言えることは、噺家にとっての高座、芸人にとって舞台は戦場であるのと同時に、彼らにとって生を完全燃焼させるための場所だということだろう。板尾創路の笑いに対する想いと覚悟が凝縮化したエンディングが、観る者を静かに待ち受けている。 (文=長野辰次) gekkou5.jpg 『月光ノ仮面』 監督/板尾創路 脚本/板尾創路、増本庄一郎 出演/板尾創路、浅野忠信、石原さとみ、前田吟、國村隼、六角精児、津田寛治、根岸季衣、平田満、木村祐一、宮迫博之、矢部太郎、木下ほうか、柄本佑、千代将太、佐野泰臣  配給/角川映画 1月14日(土)より角川シネマ有楽町、シアターN渋谷ほかロードショー <http://www.gekkonokamen.com>
板尾創路の脱獄王 こちらも合わせて。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! 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早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』

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中国から黄海を渡って韓国に密入国した中国系朝鮮族のグナム(ハ・ジョンウ)。
代理殺人を請け負うと同時に、ソウルで消息を絶った妻を追う。
(c) 2010 WELLMADE STARM AND POPCORN FILM
ALL RIGHTS RESERVED.
 年明け第1弾から、2012年ベスト1映画と目される作品が公開される。実在した快楽連続殺人鬼ユ・ヨンチョル事件を題材にした犯罪サスペンス『チェイサー』(08)で衝撃的デビューを果たしたナ・ホンジン監督の第2作『哀しき獣』だ。新人監督はデビュー作に自分の持てる情熱のすべてをブツけるため、デビュー作には尋常ならざる力作が多い。ゴダールの『勝手にしやがれ』(60)しかり、トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』(74)しかり、阪本順治の『どついたるねん』(89)しかり、ヤン・イクチュンの『息もできない』(10)しかり。逆に第2作以降は、デビューを果たした安堵感からボチボチな作品にまとまってしまいがち。しかし、『哀しき獣』はそんな"デビュー2作目のジンクス"を大きく覆す。前作『チェイサー』以上に超ハード、人間社会の暗部をえぐる社会派サスペンスに仕上がっている。  韓国だけで500万人を動員した『チェイサー』は快楽殺人鬼とデリヘル経営者が息詰まる大追跡劇を繰り広げた。殺人鬼を追い掛けるデリヘル経営者は正義感からではなく、商品であるデリヘル嬢にちょっかいを出すヤツが許せずに犯人探しを始めるという動機が斬新だった。規則に縛られて、犯人を取り逃がす警察組織を嘲笑した。きれいごとでは済まない人間の本音にガンガン迫る演出が冴え渡った。殺人鬼を演じたハ・ジョンウとデリヘル経営者を演じたキム・ユンソクの大熱演ぶりが絶賛された。『哀しき獣』も『チェイサー』に引き続き、ハ・ジョンウとキム・ユンソクが競演。ロシアと北朝鮮との国境に近い中国の延辺朝鮮族自治州を振り出しに、韓国のソウル、そしてプサンへと大追跡、そしてトンカチとナタを手にした大流血バトルが繰り広げられる。
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中国の延辺朝鮮族自治州で借金生活を
送っていたグナムは、麻雀仲間のミョン(キム・
ユンソク)から儲け話を持ち掛けられる。
 前作では快楽のために美女を次々と拉致殺害するサイコパスだったハ・ジョンウは、今回は朝鮮族自治州で暮らすしがないタクシードライバーのグナム役。借金まみれのグナムはお金のために殺人依頼を請け負う。その依頼をまっとうすれば借金がチャラになるからだ。平凡なタクシードライバーである自分に、見ず知らずの人間を殺すことができるのか。しかも、まったく土地勘のない韓国に密入国して。結局、グナムは殺人依頼を引き受ける。韓国に出稼ぎに行ったまま消息不明になっている愛妻を見つけ、連れ戻したいという個人的な目的があったからだ。妻と娘と再び一緒に暮らすことがグナムの夢だ。グナムは10日間という期間限定でソウルにいる大学教授を殺害し、その親指を切り取って持ち帰ることを命じられる。グナムは大連経由で黄海を渡航して、韓国に不法入国する。代理殺人と妻探しでいっぱいいっぱいなのに、グナムが想像もしなかった事態がソウルで巻き起こる。グナムに殺人依頼の仲介、及び韓国への密入国の手引きをする犬商人ミョン役がキム・ユンソク。一見、『冷たい熱帯魚』(10)のでんでんさながら動物好きで温厚な人物に見せながら、お金になるならどんな仕事でも仲介する闇ブローカー役だ。ハ・ジョンウもキム・ユンソクも前作とまるで異なるキャラクターを演じきり、韓国映画俳優の懐の深さを感じさせる。  日本人には馴染みが薄いが、主人公のグナムもミョンも中国の延辺朝鮮族自治州で暮らす朝鮮族(中国系朝鮮人)という設定。ナ・ホンジン監督に聞いたところ、もともとは『チェイサー』の最初の構想では快楽殺人鬼とは別に中国系朝鮮族がらみの殺人事件をサブプロットとして考えていたそうだ。『チェイサー』の脚本を書き上げるためにソウル警察に密着取材していたところ、朝鮮族の女性がソウルで失踪し、中国にいる姉が届け出たことでソウル警察が動き始めた事件があったという。その失踪した女性はソウル市内で男性と同棲していたが、「中国に帰る」と女性が言い出したために、同棲中の男性に殺されて貯水池に棄てられた。捜査に密着していたナ・ホンジン監督は、殺人を犯した男性が逮捕され、嗚咽する姿を見ている。ソウルには朝鮮族が固まって暮らすコミュニティーがあるが、朝鮮族の人々の閉鎖的な暮らしぶりも強烈な印象を残したようだ。警察取材を終えたナ・ホンジン監督は、快楽殺人鬼とは対照的に愛憎のもつれから殺人を犯す男のエピソードをサブプロットとして交え、『チェイサー』の初期ストーリーを構成した。だが、『チェイサー』の内容があまりにも過激で濃厚すぎることから、製作会社や出資者たちの要請により、ストーリーを簡略化することになり、泣く泣く朝鮮族のサブプロットを外したそうだ。
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お金になることなら何でもやるミョン。
後半からはミョンも韓国に乗り込んで大流
血戦を繰り広げる。キム・ユンソク大々熱演。
 サイコパスが主人公の『チェイサー』に対し、『哀しき獣』は金銭欲や人間の愛憎のしがらみから起きる犯罪なだけに、より身近な怖さがある。ナ・ホンジン監督がさらに取材を進めたところ、身元が分かりにくい不法入国者に代理殺人を安い金額で請け負わせる事件が増加しているという。また、中国の延辺にもシナリオハンティングのために長期滞在し、中国系朝鮮族の人々のお金への異常なまでの執着心に驚いたそうだ。「お金のために、人間として大事なものを彼らは失っているように感じた」とナ・ホンジン監督は語っている。  前作『チェイサー』同様に、本作も全力疾走で標的を追い掛ける物語だ。しかも、今回の主人公グナムは2つのものを同時に追い掛けなくてはならない。借金を帳消しにするための代理殺人のターゲットを探し出し、さらに連絡の取れなくなった妻を見つけるというダブルミッションだ。それも、まったくの土地勘のない異国で。物語後半はひとり娘が待つ故郷・延辺へ帰るための脱出方法を考えながら、同時に代理殺人を依頼した黒幕の正体を暴こうとする。さらにクライアントの都合によって、状況は刻一刻と変わっていく。警察の捜査網も迫ってくる。誰が味方で、誰が敵なのか分からない。本作を観るこちら側も頭をフル回転しないと、闇社会の中に置いてけぼりをくらいそうなほど怒濤のストーリーが展開される。  2つのものを同時に追い掛けることは、現代人に課せられたテーマだろう。一兎を追うもの二兎を得ず、と言われた牧歌的な時代はとうに終わってしまった。現代社会では地道に一兎を追うだけでは家族を養っていけない。グナムが手を染める汚れ仕事は"現実"であり、愛する妻を連れ戻そうとする行為は"理想"という言葉に置き換えることができる。主人公のグナムは、常に"現実"と"理想"を同時に追い掛け続けなくてはならない。人並み外れた体力を誇る犬商人のミョンならいざしらず、平凡で痩身の男・グナムにとって2つのものを同時に追い続けることは過酷な任務だ。しかし、次第に追い詰められていったグナムは悟る。追い掛けるものがちゃんとあるうちは、まだ自分は幸せだったんだと。代理殺人を依頼した黒幕の正体を知り、それまで懸命にサバイバルしてきたグナムは、もう何も追い掛ける気力を失ってしまう。  2つのものを同時に追い掛けるという行為は、ナ・ホンジン監督にも課せられている。デビュー作をさらに上回るクオリティーと、そして興行的な成功。本作が韓国ではR19指定となったことについて尋ねると、ナ・ホンジン監督は「自分が映画館で観たいと思う作品を撮った。大人が本当に面白いと思える映画を作ろう、と出資者や製作会社にも了解してもらった」と説明した。『チェイサー』以上に振り切った演出と三転四転する予測不能なストーリー展開もあり、韓国内での観客動員は残念ながら前作『チェイサー』には及ばない。韓国の俊英監督をもってしても、2つのターゲットを同時にものにするのは至難のワザなのだ。だが、明確にいえることは、理想も現実もどちらも懸命に追い掛けなくては手に入らないということ。ナ・ホンジン監督自身も、まだ2つのターゲットを追い掛けている途中なのだ。観る側も、その姿を見失わないよう懸命に追わなくてはならない。 (文=長野辰次) kanashiki04.jpg『哀しき獣』 監督/ナ・ホンジン 出演/ハ・ジョンウ、キム・ユンソク、チョ・ソンハ、イ・チョルミン、カク・ピョンギュ、イム・イェウォン、タク・ソンウン、イーエル、チョン・マンシクほか 配給/クロックワークス 1月7日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー
チェイサー ゾクゾク......。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! 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父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』

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自己模倣に陥ることなく、園子温監督が自身の新しい可能性を切り開いた『ヒミズ』。主演の染谷将太と二階堂ふみはベネチア映画祭で新人賞を受賞。
(c)「ヒミズ」フィルムパートナーズ
 暗黒の荒野に、ちっぽけな灯りをともす映画だ。園子温監督の最新作『ヒミズ』は、園監督らしく暴力と絶望に覆われている。しかし、暴力と絶望がガレキの山のように積み重なった現実社会の最果てに、主人公はようやく希望を見出す。その希望は誰かに与えられたものでもなく、また道端に都合よく落ちていたものでもない。のたうち回り、泥まみれ血まみれになりながら、自分の体を雑巾のようにギリギリまで絞り込むことで染み出てきた一滴のシズクにすぎない。でも、その一滴のシズクの価値を分かち合える存在が現われる。そして、その相手はシズクが体中を満たすまで待つという。ヒミズ(モグラの仲間)のようにずっと世間に背を向けて暗い世界で生きてきた主人公に、初めて朝が訪れる。
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中学生の茶沢景子(二階堂ふみ)は変わり者の同級生・住田のことが気になって仕方ない。住田語録を書き溜めている。
 2011年、『冷たい熱帯魚』『恋の罪』と立て続けにヒットを飛ばした園監督。低迷する邦画界にあって、ひとり気を吐く存在だ。連続殺人鬼(でんでん)が人間の肉体だけでなくモラルさえもバラバラにしてしまう『冷たい熱帯魚』では救いのないバッドエンディングを用意することで、「愛とか希望とかに囚われずに生きてみろ」と力強いメッセージを発信した。突き抜けた演出の『冷たい熱帯魚』を撮り上げたことで、園監督自身もサイアクな精神状態から立ち直ることができたと語っている。続く『恋の罪』では『熱帯魚』と同様に猟奇殺人事件を描きながらも、坂口安吾の『堕落論』のごとくドン底まで落ち切ることでようやく地に足を着けて生きることに成功するヒロイン(神楽坂恵)の変身ぶりを描いてみせた。そして『ヒミズ』は、『熱帯魚』『恋の罪』に続く完結編に位置する物語といっていい。『熱帯魚』でモラルから解き放たれ、『恋の罪』でドン底まで落ちる覚悟を決め、『ヒミズ』に至ることでついに前に進むことができる。
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住田の家に、居場所を失った人々が集まる。住田は血の繋がった家族ではなく、新しい仲間たちに支えられる。
 園監督は代表作である『紀子の食卓』(06)、『愛のむきだし』(08)などで、人間社会を構成するいちばんの基本単位である"家族"は、もうスカスカの空っぽであることを繰り返し描き続けてきた。温かくて愛に満ちた家庭なんて、ただの幻想にしか過ぎないと。映画というフィクションで、現実社会に横たわる形骸化した家庭像を打ち壊してきた。その破壊作業は『熱帯魚』『恋の罪』の興行的、作品的成功で一応の成果をみたといっていいだろう。だが、夢とか希望とかを徹底的に否定してきたものの、否定しきれないものが手元に残った。暴力と絶望だけでは破壊しきれない、ほんの小さな希望の種が見つかった。監督自身の厳格だった父親との死別をモチーフにした『ちゃんと伝える』(09)にも予兆が感じられたが、生身の人間として、クリエイターとしての心境の変化というヤツだろう。今まで家族を否定する作品を撮り続けてきたが、『恋の罪』の公開時に『熱帯魚』に続いてヒロインを演じた神楽坂恵と入籍している。12月20日に放映された生トーク番組『スタジオパークからこんにちは』(NHK総合)では、自身の結婚のことを「人生の実験」と称した。  固定観念に囚われないのが園監督の魅力だ。これまでオリジナル脚本にこだわってきた園監督だが、『ヒミズ』は古谷実の同名コミックが原作。ここにも園監督の心境の変化が感じられる。ストーリーはおおむね原作に沿った形で進む。だが、クランクイン前に東日本大震災が起きたことから、舞台設定が首都圏のある地方都市から3.11後の被災地へと大きく変わった。主人公は中学生の住田(染谷将太)。家は河川敷で貸しボート屋を営んでいる。震災で家や仕事を失った人々(渡辺哲、吹越満、神楽坂恵)が家の裏に住み着き、小さなコミュニティーを築いている。学校では教師が「夢を持て」「住田、がんばれ」とうるさい。でも、住田はもう充分にがんばっている。それに夢を持てば、失望して落ち込むだけではないか。夢も希望も持たずに、平凡に生きるのが住田の夢だ。学校で浮いている住田の存在が気になってしかたないのが、クラスメイトの茶沢景子(二階堂ふみ)。ストーカーばりに、住田の言動を追い掛ける。『愛のむきだし』のユウとヨーコの立ち場を入れ替えたような関係だ。
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『冷たい熱帯魚』で注目を集めたでんでんが今回もキーパーソン役で出演。世直しを考える住田に拳銃をプレゼントする。
 住田の父親(光石研)はアル中で放蕩生活を送り、たまに帰ってきては金を無心して、息子である住田に「お前が死んでいれば保険金が手に入ったのに」と残酷な言葉を浴びせる。母親(渡辺真紀子)は愛人と一緒に姿を消した。"フツーに生きる"という住田のささやかな夢さえも、あっけなく崩れる。フツーに生きたい。でも、フツーに生きることはとてつもなく難しい。好奇心から住田に付きまとっていた茶沢さんが、ここから俄然大きな存在となっていく。他人に迷惑を掛けずにフツーに生きる、という自分のルールにがんじがらめになっていく住田のことが放っておけない。住田は住田自身が考えている以上に、とても純粋で真っすぐな人間なのだ。  茶沢さんは住田に殴られても、川に突き落とされても、メゲずに住田におせっかいを焼き続ける。住田にかまうことが茶沢さんの生き甲斐となる。いつしか、茶沢さんのおせっかいは大きな愛となって、住田を包み込む。自分で自分を傷つける住田の無垢なる魂を救い出したい。はっきりいって、余計なお世話である。でも、愛とは余計なお世話なのだ。また、時には相手のことを信じてじっと待つ行為も愛である。住田に対してガチンコでぶつかり続けることで、茶沢さんは恋に恋する少女から、母性愛に満ちた大人の女性へと変貌していく。  土手を転げ落ちてパンツ丸見え状態となり、汚水の流れる川に顔まで浸けられてズブ濡れとなる茶沢役の二階堂ふみが輝いている。園監督の現場といえば、俳優が何も考えられなくなるまでダメ出しを続ける過酷な演出で知られるが、ベネチア映画祭から帰国した二階堂に聞いたところ、「愛に満ちた現場だった」「園監督は優しかった」「染谷くんと本気でやり合えばやるほど、楽しかった」と撮影時を振り返った。園監督は俳優が中途半端に抱えている先入観や常識を叩き壊すためにダメ出しをするわけだが、まだ10代と若く柔軟な感性を持つ染谷と二階堂は、園監督が用意したフィクションの世界でより自由に羽ばたくことができたのだろう。暴力と絶望だらけの物語なのに、不思議なことに爽快感、開放感が溢れているのだ。  ノーフューチャーな物語のはずが、主人公ふたりの放つ生命力のキラメキが絶望や孤独感を上回り、別の意味を持つ物語へと昇華している。同じことが劇中の台詞にもいえる。序盤、教師が口にしていた「夢を持て」「住田、がんばれ」というウザったい台詞が、母性愛に目覚めた茶沢の口からこぼれることで全く異なる宝石のような言葉となって住田に降り注ぐ。言葉には意味がない。茶沢の住田への一途な想いが、言葉に形を借りて心臓から飛び出してきたのだ。住田は初めて言葉の意味を知る。そして、とても不確かで曖昧なものだけれども、言葉にはならない"愛"というものが地上にあることを知る。それと同時に自分は自分が作った檻の中に閉じ篭っていたことに気づく。  保険金が手に入らなかったことを後悔し、それでも空っぽになった家から離れることができない住田の父親は、3.11以前の価値観や幻想を振りまき続ける古い社会システムのメタファーだろう。住田はそんな父親を自分の手で葬り去った。父親の存在がなくなれば、問題が解決するわけではない。むしろ、すべては自分の責任として押し寄せてくる。物語のラストで銃声が響き渡る。それは住田が再生するために放たれた号砲である。 (文=長野辰次)
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『ヒミズ』 監督・脚本/園子温 原作/古谷実 出演/染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満、神楽坂恵、光石研、渡辺真紀子、黒沢あすか、でんでん、村上淳、窪塚洋介、吉高由里子、西島隆弘(AAA)、鈴木杏  配給/ギャガ PG12 1月14日(土)より新宿バルト9、渋谷シネクイントほか全国ロードショー http://himizu.gaga.ne.jp
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? 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米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決!

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アメリカンスラングを連発する宇宙人ポール。
ボイスキャストは、『50/50』が公開中の米国俳優セス・ローゲン。
(c)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
 もしも、ドラえもんがタケコプターやタイムマシンを使うたびにリベートを要求する守銭奴ロボットだったら。もしも、オバケのQ太郎が下ネタばかり連発するセクハラお化けだったら。きっと多分、のび太も正太も、もっとずっと人間臭くてタフな大人に成長したんじゃないだろうか。SFコメディ『宇宙人ポール』は、観る者にさまざまなイマジネーションを掻き立ててくれる。少年向けの藤子不二雄ワールドに対し、『宇宙人ポール』はホモネタ、宗教ネタが盛りだくさん。英国産コメディ『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(07)の主演コンビであるサイモン・ペッグとニック・フロストを米国に招き、青春コメディの傑作『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(07)のグレッグ・モットーラ監督が70~80年代のSF映画をモチーフに、バディもの、ロードムービー、カーアクションといった米国映画の伝統的ジャンルの枠組みの中で、最後にホロリとさせる大人向けのコメディに仕立てている。新しくて、どこか懐かしい映画だ。  本作のアイデアは、『ショーン・オブ・ザ・デッド』の撮影の合間に生まれたもの。「次はどんなのやる?」とプロデューサーに尋ねられ、脚本家でもあるサイモンとニックは飲み屋のヨタ話的に「漫画オタクのイギリス人が、米国横断中に宇宙人に遭遇するってどうよ」と答えて盛り上がったそうだ。その後、続く『ホット・ファズ』の撮影も終わりが見えてきた段階で、「前に話したネタ、行けるんじゃねぇの」とプロデューサーに勧められ、実際にサイモンとニックはシナリオハンティングがてら米国大陸横断の旅に出た。男ふたりの西部旅行中、ホモに間違えられることもあったらしい。いつもなら、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ』で組んだ盟友エドガー・ライト監督が映画化するところだが、エドガー監督は『スコット・ピルグリムvs.邪悪な元カレ軍団』(10)の製作で多忙だったため、『スーパーバッド』のヒットで知られるグレッグ監督が演出することに。エドガー&サイモン&ニックの定番英国トリオなら、もっとマニアックな笑い満載になったかもしれないけど、米国人のグレッグ監督を入れたことで神経質な英国風の笑いとは違った米国っぽいゆったりした構えになったように思う。"ちょっとした冒険"に挑んでみようは、本作のテーマでもある。
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SF作家のクライヴ(サイモン・ペッグ)と
メタボなイラストレーターのグレアム(ニック
・フロスト)。ホモ達と間違えられるほど
仲良し。
 世界中のオタクたちの憧れであるサンディエゴのコミコンから物語はスタート。イギリスのSF作家クライヴ(サイモン・ペッグ)と相棒であるイラストレーターのグレアム(ニック・フロスト)はコミコンを楽しんだ後、長年の夢だったアメリカ西部の旅に出る。レンタカーに乗った2人は、『スタートレック/宇宙大作戦』のロケに使われたヴァスケス・ロックス、ロズウェル事件で有名なエリア51、UFOが頻繁に出没することで知られるETハイウェイのメールボックスなどを巡る。SF好き、UFO愛好家にとっては堪らないルートだ。イギリスとはまるで異なる荒野のハイウェイを東進していた2人は、暴走カーの炎上事故を目撃する。恐る恐る2人が事故現場を覗き込むと、そこに現われたのは「ポール」と名乗る小型の宇宙人。いわゆるリトル・グレイと呼ばれるタイプである。ボーイ・ミーツ・ガールならぬ、オタク・ミーツ・エイリアン。ポールによると、60年にわたって米国の秘密施設に拘束され続け、解剖手術が間近に迫ったために逃げ出してきたという。  この宇宙人ポール、すっかりアメリカでの生活に馴染んでしまっており、アメリカンスラングをバンバン使う。まるで日本人以上に日本語のダジャレを連射するデーブ・スペクターみたい。見た目はおっかないけど、憎めないエイリアンなのだ。まぁ、すぐにズボンを下ろしたがるお下劣ギャグはやめてほしいけど。ポールの能天気な言動を見る限り、全然切迫しているように思えないが、実は施設を脱走したことから非情なる捜索隊に追われているらしい。旅は道連れということで、クライヴはポールを気前よく車に同乗させる。グレアムはちょっと迷惑そうだけど。
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ETハイウェイを走ってたら、モノホンの宇宙人に
遭遇。『未知との遭遇』『E.T.』など
スピルバーグねた、盛りだくさん。
 宇宙人ポールがアメリカの西部に不時着したのは1947年という設定。第二次世界大戦が2年前に終結し、もう少しでソ連と核戦争になるところだったキューバ危機(62年)まで、ちょっと間のあった平和な時代。そんな平穏なときの米国に着陸できたのが、ポールにとっては幸いだった。元々から好奇心旺盛で地球にやって来たポールには、陽気でフランクで冒険好きという古き善き時代の米国人の気質が刷り込まれている。夜空を仰ぎながらの焚き火を愛し、女性や子どもに対しては親切。ジョン・ウェインが演じた映画の中の騎兵隊のようでもある。収容施設では友好的な職員の計らいで、西部劇を見ながら地球の文化を吸収していったに違いない。  かつて西部劇の舞台となった雄大なランドスケープを眺めつつ、2人のオタクと下ネタ好きな宇宙人との旅は続く。途中、キリスト教原理主義者の家庭で育った片目の美女ルース(クリステン・ウィグ)を連れ出したことから騒ぎが大きくなるが、クライヴとルースはいいムードに。そんな様子を見て、グレアムはルースに対してジェラシーを覚える。グレアムとクライヴはホモ達ではないが、グレアムは唯一無二の親友であるクライヴのことをずっと想い続けていたのだ。今回の米国旅行は、子どものまま大人になったグレアムとクライヴにとって、かなり遅めの卒業旅行でもあった。グレアムはこの旅を通して、クライヴへの想いにケジメをつける覚悟でいたのだ。人間ってバカだし、残酷なことをヘーキでやる。この広い西部の荒野でネイティブアメリカンたちを虐殺し、核実験を繰り返してきた。でも、人間は物すごくナイーブで、いじらしかったりもする。60年前にポールは地上に落ちてきたとき、優しい少女に看病してもらった記憶がある。遠い星からやって来たポールは、そんな矛盾だらけの人間のことが大好きなのだ。ポールとの旅を通して、クライヴ、グレアム、ルースたちの心の目が開かれていく。やがて、スピルバーグ監督の若き日の代表作『未知との遭遇』(77)でマザーシップが降りてきたワイオミング州のデビルズタワーが近づいてくる。彼らの卒業旅行も、もうそろそろ終わりだ。  5年ほど前だが、UFO特番のプロデューサーとして有名な矢追純一氏に話を聞く機会があった。人間は大人になるに従って、子どもの頃に見えていたさまざまなものが見えなくなってしまうそうだ。空飛ぶ円盤とかお化けとか妖精とか。それは大人が"社会常識"という名前のメガネを掛けることで、社会生活を営む上で役に立たないものを意識の外に追いやるということらしい。社会常識という名のメガネさえ外せれば、クライヴやグレアム、そしてルースのように宇宙人ポールに出会えるのかもしれない。下世話でお下劣ギャグを連発するポールが愛おしく思えてくる。 (文=長野辰次) uball04.jpg 『宇宙人ポール』 監督/グレッグ・モットーラ 脚本/サイモン・ペッグ、ニック・フロスト 出演/サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ジェイソン・ベイトマン、クリステン・ウィグ、ビル・ヘイダー、ブライス・ダナー、ジョン・キャロル・リンチ、シガニー・ウィーヴァー、セス・ローゲン  ユニバーサル映画作品 配給協力/アステア+パルコ PG12 12月17日より渋谷シネクイント、シネ・リーブル池袋、ユナイテッド・シネマ豊洲、立川シネシティにて先行ロードショー中 12月23日(金)より全国ロードショー <http://paulthemovie.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』

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エネルギー資源を求めて日本は太平洋戦争に踏み切る。
石油ショックによって建設が加速化した原発禍と重なる日本が抱える根底的な問題だ。
(c)2011「山本五十六」製作委員会
 日本はなんで国力が10倍以上ある米国に無謀にも戦争を挑んじゃったのか? 『聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実』は、真珠湾奇襲攻撃を計画し、日米開戦の口火を切った連合艦隊司令長官・山本五十六の視点を中心に、太平洋戦争の発端から敗戦までを2時間20分の尺にまるっと収めたものだ。「文藝春秋」の記者時代に大座談会『日本のいちばん長い夏』を企画したことで知られる作家・半藤一利氏を監修に迎え、エネルギー資源を海外に頼る日本がエネルギー資源の輸出国である米国と戦争を始めることになった経緯と、その顛末を分かりやすくまとめている。戦争シーンは主にCGで描かれ、流血場面は極力少ない。バイオレンス描写を売りにした戦争映画が多い中、本作は戦争映画というよりは、70年前から今も変わらない日本人の精神構造について言及した問題提起作となっている。『八日目の蝉』が好評を博した戦後生まれ(1961年)の成島出監督が撮り上げた。  日中戦争が膠着状態に陥っていた1939年から物語は始まる。庶民は不況にあえぎ、内閣はことごとく短命で交替していく。日本中を先行きの見えない閉塞感が覆っている。派手な戦争をまた始めれば、景気は回復するのではないか? ドイツ、イタリアと軍事同盟を組んで、英米の圧力を押し返せ! そんな世論が広まっていた。ドイツと手を組めば米国との開戦は必至。国際情勢に詳しい山本五十六(役所広司)をはじめとする海軍が猛反対し、一度は三国同盟はお流れとなる。だが、アドルフ・ヒトラー率いるナチスドイツの欧州での快進撃の前に、「勝ち馬に乗りそびれるな」と結局は三国同盟を締結。山本五十六が予見したように、日米関係は一気に開戦へと向かう。1941年12月、国力に勝る米国との戦争は短期決戦による早期講和しかないと連合艦隊を指揮する山本五十六は真珠湾奇襲に成功するも、この戦果に大喜びした軍の上層部は戦域を拡大。米国との講和の機会を狙っていた五十六の思惑は、日本中の大熱狂に掻き消されてしまう。
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海軍次官から連合艦隊司令長官に拝命された山本
五十六(いそろく)。名前の由来は父親が56歳
のときに生まれたことから。
 本作で描かれているのは、山本五十六の武勇伝ではなく、日本人のおめでたい気質だ。ヒトラーの著書『わが闘争』の抄訳版には日本のことを見下した記述が省かれていることを知らずに、若い軍人たちは感激している。真珠湾攻撃は米軍の空母を叩くという目的が果たせなかったのに、「米軍は恐れるに足らず」とお祭り状態。自分たちの都合の悪いことには目をそむけ、都合のいい部分だけを見て大喜びする。現状を冷静に分析し、対策を練らなければいけないはずの軍の上層部や政治家たちも"都合のいい報告"に一緒に浮かれる。マスコミは都合のいい報告をさらに腕の見せ所とばかりに美化して広め、伝言ゲームのごとく現実とはまるで異なるニュースが流れる。庶民たちも嘘だらけのニュースを信じ込むことで安心する。みんなそろって、ぬか喜び。島国だけで自給自足していた時代ならいざしらず、血にまみれた歴史を踏み越えてきた諸外国にとっては格好のカモ。なんともおめでたい国・ニッポン。まさに、バンザ~イ、バンザ~イだ。
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ミッドウェー海戦で日本海軍は大敗。次代を担
うと期待された山口多聞(阿部寛)ほか多く
の部下と主力艦隊を失う。
 ミッドウェー海戦での大敗後、日本軍大本営は損害を矮小化して発表し、"撤退"という表現を使わずに"転進"と言い換える。新聞社の若手記者・真藤(玉木宏)は「それは転進ではなく撤退なのでは?」と大本営発表に疑問を挟むと、先輩記者の宗像(香川照之)が「国威発揚こそが我々の役割じゃないか」とたしなめる。真藤は反論できない。これとよく似たことを最近の日本人は経験している。福島第一原発事故で政府と東電側はかたくなに"メルトダウン"という言葉を使おうとせず、多くのマスコミはその大本営発表に同調した。太平洋戦争時と今の日本人の精神構造と行動パターンは変わっていない。また、「絶対に沈まない」と称された日本海軍のシンボル・戦艦大和は肝心の燃料がないという設計者が思いもしなかった想定外の理由から活躍の機会を失う。最後は片道分の燃料だけ積んでオトリ作戦に使われ、世界に誇る巨大戦艦は撃沈した。科学の粋を集め、「絶対に安全」と謳われた原発も、想定外の震災で大惨事を招いている。"絶対"という言葉ほど、もろくて危険なものはない。
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山本五十六を取材する新聞記者の宗像(香川
照之)と真藤(玉木宏)。宗像は五十六を
「あなたは世論がまったく分かってない」
と責める。
 本作では山本五十六を完全無欠な英雄に祭り上げることは避けている。日米開戦に反対し、戦争の主力が軍艦ではなく戦闘機になることを先見していた五十六だが、真珠湾攻撃とミッドウェー海戦で戦略の真意を連合艦隊中に徹底させることができず、そのことが致命傷を招く。また軍の中枢と距離を置いたことから、どんどん溝が生じて、五十六の真意がさらに伝わらなくなる。そして問題点が改善されないまま、次の局面へと押し流されてしまう。山本五十六もまた、どうしようもなく日本人的な人間として描かれている。  全編を通して印象に残ったのが、画面の狭苦しさだ。本来なら戦争映画は大スペクタクルシーンが見どころになるはずだが、主なシーンは五十六と参謀たちが詰める旗艦内の長官室、新聞社の編集室、記者の真藤が行き着ける小さな小料理屋、そして五十六と家族が暮らす質素な自宅。ほとんど室内でドラマが進む。密室の中で重要事項が決定されていく。予算的な都合だけでなく、演出的な意図もあるようだ。強いて開放感の感じられるシーンを挙げるとすれば、南洋の島で最後の夜を過ごす五十六がウイスキーを片手に気心の知れた部下たちと一緒に故郷の長岡甚句を歌う場面くらいだろう。いや、開放感があるシーンがもうひとつある。軍隊に徴兵された記者の真藤は、日本の敗戦にともない職場のあった東京に戻ってくる。都合のいいニュースが飛び交っていたあの東京は、焼け野原となっており、まったく何もなくなっていた。まるでキャンバスのように真っ白だ。あまりの何もなさに、真藤は唖然とするのと同時に、小さな希望も感じたのではないだろうか。 (文=長野辰次) gojyuroku5.jpg 『聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実』 監修/半藤一利 脚本/長谷川康夫、飯田健三郎 特撮監督/佛田洋 監督/成島出 出演/役所広司、玉木宏、柄本明、柳葉敏郎、阿部寛、吉田栄作、椎名桔平、益岡徹、袴田吉彦、五十嵐隼人、坂東三津五郎、原田美枝子、瀬戸朝香、田中麗奈、中原丈雄、中村育二、伊武雅刀、宮本信子、香川照之 配給/東映 12月23日(金)より全国ロードショー <http://isoroku.jp>
聯合艦隊司令長官 山本五十六 提督の真骨頂。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! 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[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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追悼……"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化

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『竜馬暗殺』『祭りの準備』に続く、黒木和雄監督&原田芳雄のタッグ作
『原子力戦争 Lost Love』。風吹ジュンさんもお若い。
(c)1978文化企画/ATG
 "永遠のアウトロー"原田芳雄さんが今年7月19日に亡くなった。300年続く"村歌舞伎"を守る筋金入りのカブキ者を演じた主演作『大鹿村騒動記』の封切りを見届けてから旅立った。原田芳雄さんの代表作というと、鈴木清順監督と組んだ幻想談『ツィゴイネルワイゼン』(80)、若松孝二監督と組んだハードボイルド作『われに撃つ用意あり』(90)などのイメージが強烈だが、いちばん主演&出演数が多かったのは黒木和雄監督とのコンビ作だった。『竜馬暗殺』(74)を皮切りに、『祭りの準備』(75)、『浪人街』(90)、『スリ』(00)、『父と暮らせば』(04)などの秀作を残している。原田芳雄&黒木和雄の名タッグ作の中で"幻の作品"と化していたのが、福島原発のお膝元・いわき市でロケを敢行した社会派サスペンス『原子力戦争 Lost Love』(78)。ビデオ化されたものの長らく廃盤扱いだったが、12月7日(水)にようやく初DVD化された。  原作は田原総一朗氏のドキュメンタリーノベル『原子力戦争』(筑摩書房)。田原氏が東京12チャンネル(現テレビ東京)でドキュメンタリー番組のディレクターを務めていた時代の作品だ。小説版の主人公はテレビ局のディレクター。原発問題を取材しているうちに、魑魅魍魎のごとく原発利権に群がる怪しい人物たちに次々と遭遇していく。原発建設予定地には億単位の金がバラまかれ、まず地元の人たちの金銭感覚や人間関係をズタズタにしてから開発が進むこと。原発推進派には企業主体か官僚主導かで派閥争いがあること。反対運動側にも補償金目当ての亡者が少なくないこと。原発で下請け業者として働いていた人たちが白血病で亡くなっても、肝臓病とカルテが書き換えられること。電力会社側が言う"無事故"とは、事故を起こさないことではなく、事故を外部に漏らさないよう、もみ消すということ。事故を追求しようとした県議は懲罰委員会に掛けられたこと......。仮名による小説という形にすることで、原発に関するさまざまな問題を赤裸々に暴いている。田原氏はこの小説の雑誌連載を続けたことで東京12チャンネルを退職することになると同時に、身の危険も感じたそうだ。
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ミステリアスな未亡人を演じたのは国際派
モデルとして活躍した山口小夜子。福島原発
に近い小名浜での撮影だ。
 映画版『原子力戦争』では、主人公の坂田(原田芳雄)は原発問題や政治にはまったく関わりのないただのチンピラ。情婦をソープランドで働かせて、東京でヒモの生活を送っていた。情婦は母親の三回忌に出るために東北の小さな町に帰省したが、それっきり連絡がない。おかしく思った坂田は情婦の故郷を訪ねるが、実家で暮らす父親(浜村純)からけんもほろろに追い返される。真っ白なスーツにサングラス姿の坂田は、異分子としてすぐに町中に知れ渡った。東京から左遷されてきた新聞記者・野上(佐藤慶)が坂田に近づき、耳打ちする。数日前に原発の技師が女性と心中した溺死体が浜辺で見つかったが、その女性が捜している相手ではないのかと。  なんで自分の女は、見も知らぬ原発技師と心中したのか? 坂田はさっぱり見当がつかない。だが、女に食べさせてもらっていたヒモとしての仁義から、坂田は女の不可解な死因を調べ始める。亡くなった原発技師の未亡人(山口小夜子)や情婦の妹(風吹ジュン)たちと接触していくうちに、情婦の兄は地元の漁業組合をまとめる立ち場にあり、将来は市長選出馬を目論んでいることが分かる。また、原発技師は原発の構造に重大な欠陥があることに気づき、その証拠を公表しようと考えていた。どうやら、原発技師を口封じする際に、情婦は心中と見せかけるための道連れになってしまったようだ。東京でソープ嬢として働いていた情婦は、野心家の兄にとって邪魔者だったに違いない。原発推進派によれば、原発建設はエネルギー資源に乏しい日本国の将来を支えるための必要不可欠な国家プロジェクト。その尊い生け贄に、面識のない2人が選ばれてしまったのだ。坂田は危険を承知で原発技師が残した原発事故の証拠写真を持ち歩く。真犯人が誰であるか確かめるために。
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恋人の死因を調べようとした坂田(原田
芳雄)は暴漢たちに襲われる。坂田の行動は
相手にすべて筒抜けだった。
 撮影中はずっと東電の監視者が現場近くに張り付いていたという本作。話題となったのが、主人公の坂田が福島原発にアポなしで乗り込むシーンだ。エントランスで警備員たちは、撮影クルーに対して撮影を止めろと立ち塞がる。その騒動がドキュメンタリータッチで映し出される。DVDには特典映像として田原総一朗氏のインタビューが収録されているが、「黒木監督は3割くらいは原田さんが逮捕されるのを望んでいたのではないか」と語っている。当然、そのぐらいの覚悟があって、原田芳雄さんは『原子力戦争』に主演することを引き受けていただろう。映画を成立させるためなら自分の体を張ったし、そうすることが主演俳優の務めだと考える人だった。  原田芳雄さんには1度だけだが、『たみおのしあわせ』(07)の公開時にインタビューさせてもらった。ある手違いから自分は誤った取材場所に向かってしまったため取材時間に遅れてしまったのだが、焦りと緊張で汗ダラダラ状態だったこちら側を原田芳雄さんはにこやかに迎え入れてくれた。サングラスを外した目が優しかった。原田芳雄さんは高校を卒業して、しばらくの間、銀座でサラリーマンをしていたそうだ。といっても、会社にはしょっちゅう仮病をつかって、気が向いたときにしか出社しなかったとのこと。職場には全然顔を出さないくせに、社員による草野球大会ではピッチャーで4番を打ち、忘年会の余興では上司や先輩を差し置いて大トリを飾っていた。楽しそうに自身のサラリーマン時代を語ってくれた。原田芳雄さんが俳優座に入ることを決め、会社に退職届を出しにいくと、会社中の人たちが大喜びで送り出してくれたそうだ。  型破りで気骨があって、男のフェロモンむんむんで、そして優しくてユーモアたっぷりで、映画を愛した人。原田芳雄さんという素晴らしいスターが日本のインディペンデント映画シーンにいたことを胸に刻みたい。 (文=長野辰次) genshiryokuwar04xs.jpg 『原子力戦争 Lost Love』 原作/田原総一朗 脚本/鴨井達比古 監督/黒木和雄 出演/原田芳雄、山口小夜子、風吹ジュン、磯村みどり、西山嘉孝、早野寿郎、草薙幸二郎、石山雄大、浜村純、戸浦六宏、和田周、三戸部スエ、鮎川賢、阿藤海、榎木兵衛、岡田英次、佐藤慶  12月7日(水)DVDリリース 発売・販売/キングレコード
原子力戦争 Lost Love 追悼。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』

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代理犯罪を命じられたニック(ジェイシー・アイゼンバーグ)たちは、
モデルガンを片手に銀行に押し入るはめに。
 『ソーシャル・ネットワーク』(10)の大ヒットで注目の若手俳優に躍り出たジェシー・アイゼンバーグ。最新主演作『ピザボーイ 史上最凶のご注文』は、『ゾンビランド』(09)でウマの合ったルーベン・フライシャー監督との再タッグ作となる。『ゾンビランド』はゾンビが大量発生した終末世界を背景にした、アイゼンバーグ扮する童貞くんの爽やかな青春コメディだった。アイゼンバーグのほか、共演したエマ・ストーンは現在公開中の『ラブ・アゲイン』や2012年公開の『アメージング・スパイダーマン』のヒロインに抜擢され、セクシーな金髪ゾンビを演じたアンバー・ハードも『ザ・ウォード/監禁病棟』(10)、『ドライブ・アングリー3D』(11)などで主演を務めている。若手俳優たちが続々とジャンプアップした縁起のいいゾンビ映画だった。そんなゾンビパロディに続く本作は、サスペンスの王道であるタイムリミットものとバディアクションを合体させたもの。米国の地方都市で暮らすフリーターが、過去のB級映画を模倣した代理犯罪に右往左往する姿を描いている。  ピザ屋の宅配係ニック(ジェシー・アイゼンバーグ)は、バイト中に事件に巻き込まれる。郊外の廃車置き場までピザを届けに行ったところ、『猿の惑星』(68)のマスクを被った2人組の男に拉致されてしまったのだ。この2人組は爆弾づくりが趣味のニート野郎。アカデミー賞受賞映画『ハートロッカー』(08)の"人間爆弾"みたいにニックに時限爆弾を巻き付けてしまう。爆弾魔コンビは「10時間以内に、10万ドルを用意しろ」という。映画『ニック・オブ・タイム』(95)や『60セカンズ』(00)の悪党のような代理犯罪を企んでいるらしい。自分たちの手を汚さずに、他人のニックに危ない橋を渡らせようという姑息なヤツらだ。しかも、10万ドルという金額がハンパだ。
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ニックとは幼い頃からの付き合いとなるインド
人のチェット(アジズ・アンサリ)。絶縁中
でも親友のためなら、ひと肌脱ぐぜ!
 ニックはいつもつるんで『リーサル・ウェポン』(87)などの古いDVDを一緒に観ていた幼なじみのインド人チェット(アジズ・アンサリ)に助けを求める。B級映画好きな2人が思い付いたのは、傑作アクション映画『ハートブルー』(90)のサーファー強盗団を真似てマスクを被って銀行を襲うというもの。ちなみに『ハートブルー』と『ハートロッカー』は同じキャスリン・ビグロー監督作品だが、シリアス調の『ハートロッカー』にはニックはまるで興味がないらしい。かくしてユダヤ系&インド系のマイノリティーコンビとニートな爆弾魔コンビ(ダニー・マクブライド、ニック・スウォードソン)という2組の"ダブル"バディものとして、ドラマは紆余曲折しながら転がっていく。  ニックたちの暮らす街は、ミシガン州にある地方都市。若者たちが遊ぶ場所はなく、あるものいえばファストフード店くらい。ベストセラー『下流社会』(光文社新書)の著者である消費社会研究家・三浦展氏が提唱するところの"ファスト風土化"されてしまった街だ。当然ながら地元には、若者たちが就職できる職場はほとんどない。ニックは気の合わない上司のもとでピザの宅配バイトを仕方なく続け、チェットは教員免許を持っているものの非常勤の講師で我慢している。ニックの恋人は職を求めて大都市へ出ていくという。本当はニックに止めてほしいが、しがないフリーターのニックには止めることができない。ファスト風土化された街ゆえに、すでに血縁・地縁は消滅してしまっている。ニックの両親はずいぶん昔に離婚してしまった。ニックがピザを届ける先の家庭も、子どもたちが留守番をしていて大人の姿はない。子どもたちはそんな生活に慣れているようだ。唯一、爆弾魔コンビの首謀者には同居中の父親がいるが、元軍人である父とニートな息子との関係が良好なわけがない。この親子関係のもつれが事件の発端となる。三浦氏いわく、短絡的な犯罪が多発するのも匿名性の強いファスト風土の特徴らしい。
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こちらは小太りな悪党コンビ(ダニー・マク
ブライド、ニック・スウォードソン)。かくして
"ダブル"バディムービーとして話は展開。
 ファスト風土を舞台にした本作の隠れテーマは、"共通言語としての映画"である。家族とバラバラに過ごし、幼なじみ以外とは近所の住民たちとの付き合いもなく、自室に引きこもるように暮らしている主人公たちは、B級映画を媒介にしてコミュニケーションしている。ニックたちは『リーサル・ウェポン』シリーズのタフな主人公に憧れ、また男の友情を学んだ。一方の爆弾魔コンビは、ホームシアターに映し出された『13日の金曜日』の殺人鬼ジェイソンを一緒にレイプすることでお互いに唯一無二なバカ友であることを確かめ合う。街がどんどんファスト風土化されていく中、彼らにとってアクション映画やホラー映画が数少ない遊び相手であり、人間関係を学ぶ教材でもあったのだ。B級映画の銃声や爆裂音を子守唄代わりに、彼らは大きくなっていった。  このように紹介すると『ピザボーイ』を社会派映画と勘違いする人もいそうだが、シリアスさを微塵も感じさせないエンターテイメント作品に仕立てているのがルーベン・フライシャー監督のいいところ。同じミシガン州を舞台にしたコーエン兄弟の『ファーゴ』(96)によく似た犯罪ドラマだが、コーエン作品のような格調の高さとも無縁で、ひたすら2組のバディたちのバカさ加減がゆるい笑いを誘う。前作『ゾンビランド』同様に、きっちり脚本を練った上でのゆるゆるさなので退屈させない。エディ・マーフィー&ニック・ノルティ主演『48時間』(82)ばりのカーチェイスで盛り上がるクライマックス後、エンドロールにはとっておきのオチが待っているのでお見逃しないように。尻尾にまでアンコが詰まったタイ焼きのように、上映時間ギリギリまでぎっしりバディムービーへの愛情が込められているのだ。 (文=長野辰次) pizza04.jpg 『ピザボーイ 史上最凶のご注文』 製作/ベン・スティラー 監督/ルーベン・フライシャー 脚本/マイケル・ディリバーティ 出演/ジェシー・アイゼンバーグ、アジズ・アンサリ、ダニー・マクブライド、ニック・スウォードソン 配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント PG12 12月3日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー <http://www.pizza-boy.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! 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"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』

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イラクで戦死した米兵が"アンデッド"となって活躍する
ホラー・アクション・コメディ『ゾンビ処刑人』。
c)2011.Putrefactory Limited,LLC
 宗教はコドクが嫌いな人間が生み出したグレートな発明品だ。今よりもずっと生きるのが困難だった時代、頭のいい人が"天国"というフィクションの世界を考え出したことで、悲惨な生活を送る人々は死んでからの将来に希望を持つことができた。また、天国とセットになった"地獄"の存在を広めることで、際限なく欲望に突っ走る人間の行動を抑制することに成功した。今ではどの宗教団体もお金儲けに忙しいが、無宗教な若者たちにとって新たな信仰の対象となりつつあるのがゾンビという存在。ゾンビは20世紀後半のスクリーンの中に生まれた新しい神さまなのだ。フツーの神さまは天国で人間の行動を眺めているが、ゾンビは墓場から甦った身近な"ケガレの神さま"である。コドク感や無力感に悩まされそうになったら、とりあえずゾンビ映画を観る。自分だけでなく、みんな空虚に街をさまよい歩くゾンビみたいなものだと、ちょっぴり安心する。ゾンビは不思議な一体感を与えてくれる。隠れキリシタンさながらに、ホラー映画マニアがひそひそと通い詰めるシアターN渋谷で、現在上映中なのが『ゾンビ処刑人』。イラク戦争で命を落とした若い米兵がゾンビとして甦り、愛する母国に巣食う悪人どもを食い殺していく。  『ゾンビ処刑人』の原題は『THE REVENANT』。帰還者、幽霊といった意味になる。戦場に派兵された兵隊が別人になって帰ってきたという設定の映画は、若松孝二監督の『キャタピラー』(10)をはじめ力作が多い。トビー・マグワイア主演の『マイ・ブラザー』(09)もそんな一本だった。正義感が強く、優しい性格だったサムはアフガニスタンで凄惨な体験をし、心がぶっ壊れてしまう。若妻や弟はサムを温かく迎えるが、どうしてもサムはかつてのような平和な生活に戻ることができない。サムは戦場での恐怖体験と自分の手を汚してしまったという自責の念に押し潰されて、生きたままゾンビのような存在になってしまう。『ゾンビ処刑人』のゾンビ化した主人公バートは、トラウマを抱え込んだサムの姿を極端にデフォルメしたものだろう。ただの悪趣味な絵空事では済まない、ブラックな社会風刺が『ゾンビ処刑人』全編に漂う。
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墓場から甦ったバート(デヴィッド・
アンダース)は犯罪者を求めて夜の街を徘徊。
腐った目でも悪党は見逃さない。
 『ゾンビ処刑人』のストーリーはこうだ。イラク戦争に従軍していたバート(デヴィッド・アンダース)が、星条旗に包まれて冷たい遺体となって米国に帰ってきた。お墓に埋められるバートを見て、親友のジョーイ(クリス・ワイルド)、婚約者のジャネットたちは泣き崩れる。なんで愛国心に燃え、心が純粋なヤツほど早く死んじまうのだろうか。ある晩、ジョーイの自宅のドアをノックする者が現われた。そいつは墓から這い出てきたばかりのバートだった。イエス・キリストは死んでから3日後に復活を遂げたとされているが、バートは死んでからずいぶん経っているので、体の半分が腐りかかっていている。ツ~ンと匂うサワー風味だ。イラクで特殊な化学兵器でも浴びたのか、おかしなウィルスにでも感染したのか分かんないけど、とりあえず親友が帰ってきた。イェ~イと喜び合う、おめでたいバートとジョーイ。どうも、元々この2人は脳みそが足りなかったらしい。  空腹感を訴えるバートのためにジョーイは手料理を用意するが、内臓を防腐処理されてしまっているためかバートは自分の内臓ごとゲロゲロしてしまう。仕方なくバートは血液バンクに侵入して、生き血をちょうだいする。くぅ~、たまんないねぇ。イラクでひと仕事してきたバートの体に生き血が染み渡る。といっても、そう何度も血液バンクのお世話になるわけにもいかない。どうしたものかと2人が悩んでいたところを強盗が襲い掛かり、バートを蜂の巣にしてしまう。バーカ、笑わせんなよと、すでに死んでいるバートは驚く強盗を返り討ちに。この瞬間、2人の頭に発明のランプがピカッと光る。そうだ、街中にはびこる悪党どもを成敗して、その代償として生き血をいただいてしまえばいいじゃん。オレたち、チョー頭いい! かくしてバート&ジョーイは"夜回り先生"ならぬ"夜回りガンマン"として世間で噂の存在となっていく。
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バートと親友ジョーイ(クリス・ワイルド)
は"夜回りガンマン"として街の噂に。
犯罪都市LAは彼らにとって格好のえさ場。
 本作で監督デビューを果たしたのは、ケリー・プリオー。監督・脚本・編集・製作を1人で兼ねている。彼は『エルム街の悪夢4/ザ・ドリームマスター最後の反撃』(88)などの作品でSFXアーティストとしてのキャリアを磨いていたが、『ファンタズム』(79)のヒットで知られるドン・コスカレリ監督の『プレスリーvsミイラ男』(02)に参加したことから人生の転機を迎える。この恐ろしく超低予算なホラー映画にケリー・プリオーは撮影とVFX担当で関わったことで、「自分も監督作を作りたい!」と考えるようになった。この『プレスリーvsミイラ男』は"キング・オブ・ロックンロール"エルビス・プレスリーが実はヨボヨボになりながらも生きていて、老人ホームで寝たきりのお年寄りたちを狙う姑息なミイラ男と対決するというもの。プレスリーが老体にムチ打ちながら、アメリカンヒーローとしての自覚から戦いに挑む姿が涙を誘った。この作品には、ケリー・プリオーを奮い立たせ、『ゾンビ処刑人』を作らせてしまうほどの特殊な"何か"が秘められていたらしい。  インスパイアを受けた作品に問題があったのか、はっきり言ってケリー・プリオー監督の処女作『ゾンビ処刑人』は、カメラワークも演出のテンポもかなりのトホホさ。トロイ・ダフィー監督の『処刑人』(99)ほどの派手なガンアクションもなし。だいたい、ジョーイは死体のくせに意識を持っているのがおかしい。ゾンビ映画としては、限りなく邪道。ゾンビなのかバンパイアなのか、はっきりしない。いずれにしろ、バートは恐ろしく中途ハンパな"ケガレの神さま"なのだ。でも、相棒のジョーイはそんなバートがうらやましい。バートは生前よりも、死んでからのほうが生き生きとしている。自分もバートのようになりたいと願い、やがてその夢は叶えられる。バートとジョーイの関係は、低予算ホラー映画を嬉々として作るドン・コスカレリとケリー・プリオーの関係でもあるようだ。  愛車カマロに乗ったバート&ジョーイは、かつてのブッチ&サンダンスやボニー&クライドのように怖いもの知らずで暴れ回る。法律もモラルも存在しない闇夜の街で、2人のショットガンが火を吹くことで灯りをともす。体は腐っているが、心までは腐っちゃないぜ。ゾンビ処刑人となった2人こそ、現代社会の"明るい救世主"なのだった。 (文=長野辰次) zonbisyokei04.jpg 『ゾンビ処刑人』 監督・脚本・編集・製作/ケリー・プリオー 出演/デヴィッド・アンダース、クリス・ワイルド、ルイーズ・グリフィス、エミリアーノ・トーレス、ジェイシー・キング 配給/AMGエンタテインメント 11月19日(土)よりシアターN渋谷ほか全国順次公開中 <http://ameblo.jp/zombieshokeinin>
ゾンビ映画大事典 みんなゾンビ大好き。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! 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