
実在した犯罪ファミリーを描いた『アニマル・キングダム』。
家族の固い絆の前に、メルボルン警察は手が出せない。
広大なオーストラリアを舞台にした『アニマル・キングダム』は、ノンフィクションタッチのワイルドな映画だ。"野生の王国"といっても、かわいらしいカンガルーやコアラの親子の生態を追ったほのぼの系ドキュメンタリーではない。飢えたライオンやハイエナよりも、もっと凶暴な犯罪者ファミリーが登場する。タランティーノが2010年公開映画のベスト3に挙げたことからも分かるように、インディペンデント臭が濃厚に漂う良質のバイオレンス映画なのだ。ヘビメタ野郎のかっこうをした聖者による救済劇『メタルヘッド』(10)の脚本家として注目を集めたデヴィッド・ミショッドの監督デビュー作であり、1988年にメルボルンで警察官射殺事件を起こしながら無罪となったトレヴァー・ペティンギルとその家族がモデルとなっている。
17歳のジョシュア(ジェームズ・フレッシュヴィル)は、ひどくボンクラな高校生だ。母親がヘロインの過剰摂取でリビングでぶっ倒れているのに気づいても、電話で救急車を呼ぶこと以外は何もできずにいる。救命隊が到着しても、ぼぉ~とテレビのクイズ番組を眺めているだけ。女手ひとつで自分を育ててくれた母親の葬式をどう行なえばいいのか分からず、ただオドオドするばかり。結局、ジョシュアはずっと疎遠状態だった祖母スマーフ(ジャッキー・ウィーヴァー)に連絡をして、すべてを任せる。久しぶりに会うスマーフは、大きくなった孫のジョシュアを愛おしそうに抱きしめてくれた。他に身寄りのないジョシュアは、スマーフ家の世話になる。スマーフの3人の息子たち=おじさんたちも明るくジョシュアを受け入れてくれた。母との慎ましい2人暮らしが長かったジョシュアは、スマーフ家のにぎやかな家庭生活が新鮮に映る。困ったときは、やっぱり血縁が頼りになるなぁとジョシュアはしみじみ思う。だが、ジョシュアのそんな考えは甘かった。スタバに並ぶ、どのスイーツよりも大甘だった。

豪州のベテラン女優ジャッキー・ウィーヴァー
は、『アニマル・キングダム』の好演で2011
年米国アカデミー賞助演女優賞にノミネート。
スマーフ家のおじさんたちは定職に就いていないが、なぜか羽振りがいい。それは一家が犯罪で荒稼ぎしているからだった。亡くなったジョシュアの母親が実家と縁を切ったのは、息子の教育を考えてのことだったのだ。いちばん上のポープおじさんは強盗の常習犯。全身タトゥーでいかつい2番目のクレイグおじさんは麻薬のディーラー。3番目のダレンおじさんは兄たちのアシスタントを務めている。スマーフおばあちゃんは、そんな息子たちの健康ために毎朝フレッシュジュースを作り、息子たちがひと仕事しに出掛けるときは、ハグ&キスで見送るなどスキンシップを欠かさない。スマーフおばあちゃん自身が犯罪に直接加わることはないが、一家の精神的な支柱だ。司法関係者や警察内の麻薬捜査官とも親しくし、裏情報に精通している。"ゴッドマザー"スマーフを軸に一家はまとまり、せっせと犯罪に勤しんでいた。ある日、仕事仲間のバズが警察に射殺されてしまい、おじさんたちが動揺していると、スマーフは優しく諭す。「哀しいとき、辛いときは、誰かに八つ当たりなさい。それが我が家のルールよ」と。スマーフはとっても情が深い。でも、やっぱりどっかおかしい。
最初こそ、"お客さん"扱いされていたが、ジョシュアもだんだんと環境に慣れ、ガールフレンドのニコールを家に連れてくるようになる。お年頃のニコールは、型破りで刺激的なスマーフ家に興味津々。ジョシュアは犯罪者一家に居候しながら、風変わりな青春時代を過ごすはめになる。だが、ジョシュアがお客さん扱いされたのは最初だけ。バズを射殺した警察官に報復するため、ポープおじさんはジョシュアに盗難車を調達するように命じる。本業である犯罪モードに入ったときのポープおじさんには、誰も逆らえない。こうしてジョシュアも警察官殺しに加担させられる。もう自分はただの居候ですとは言い逃れできなくなる。一方、スマーフ家を追っていたネイサン刑事(ガイ・ピアース)は新入りのジョシュアに狙いを絞り、ジョシュアから切り崩すことでスマーフ家の一網打尽を図る。ジョシュアは大きな選択を迫られる。一般社会のルールに従って犯罪者一家を警察に売るのか? それとも、スマーフ家の恩義に報いて立派な犯罪者への道を突き進むのか?

刑務所を舞台にした『預言者』。マリクは
マフィアのボスにアゴで使われながら、
弱肉強食の世界で生きていくノウハウ
を学ぶ。
『アニマル・キングダム』と同日公開される、もう1本の興味深い作品が、刑務所を舞台にしたフランス映画『預言者』。読唇術の心得のある難聴のOLが犯罪に巻き込まれる『リード・マイ・リップス』(01)、ドラッグ売買しながらプロのピアニストを目指す若者を主人公にした『真夜中のピアニスト』(05)などのフレンチ・ノワールで知られるジャック・オディアール監督の久々の新作。2009年のカンヌ映画祭コンペ部門でミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』(09)と争い、グランプリを受賞している。こちらも無学無教養な19歳の青年が刑務所という閉じた空間で犯罪者たちから処世術を学び、大人へと成長していくストーリーだ。高崎山のサルのように、力で順列が決まる犯罪者たちの生態が赤裸々に描かれている。
傷害罪で6年の禁固刑に処せられたアラブ系の青年マリク(タハール・ラヒム)は、フランスの刑務所にブチ込まれる。刑務所の中はコルシカ系のマフィアのボス・セザール(ニエル・アレストラップ)が牛耳っている。刑務所にいながら遠隔操作で麻薬の売買を行ない、大儲けしている大悪党だ。看守たちもセザールに買収されており、刑務所の中に正義はない。誰もマリクを助けてくれない。マリクはセザールの使いっ走りをさせられながら、監獄の中で読み書きを覚え、さらにセザールをはじめとする前科者たちから、ビジネスセンス、交渉術、組織の運営術......などを貪欲に学んでいく。オディアール監督が説明的な台詞をいっさい排しているため飲み込みづらさがあるものの、本人に何かを吸収しようという意欲さえあれば、刑務所だろうがどこだろうが、そこが本人にとっての学校となることが説かれている。
『アニマル・キングダム』のスマーフおばあちゃんも、『預言者』のセザールも、常人とは異なる独自の哲学の持ち主だ。己の経験に基づいた自信を持ち、荒くれどもを束ねている。無学で世間知らずなジョシュアやマリクにとっては、それぞれ得難い保護者であり、教育者でもある。ジョシュアもマリクも、彼らから世間で生きていくための多くのことを学んでいく。その中でも彼らが学んだ、いちばん大切なものは"判断力"だろう。知識とは学ぶためにあるのではなく、勝負どころでの判断力、決断力を磨くためのものだということ。主人公たちは学んできた知恵を振り絞って、自分が磨いてきた判断力が正しいかどうかを物語の後半で実証することになる。主人公が自分の判断力を試すとき、それは暴力が支配する学校からの"卒業"である。
(文=長野辰次)

(c)2009 Screen Australia,
Screen NSW, Film Victoria,
The Premium Movie
Partnership,
Animal Kingdom Holdings
Pty Limited and
Porchlight Films Pty Limited.
『アニマル・キングダム』
監督・脚本/デヴィッド・ミショッド 出演/ジェームズ・フレッシュヴィル、ジャッキー・ウィーヴァー、ベン・メンデルソーン、ジョエル・エドガートン、ガイ・ピアース、サリヴァン・ステイプルトン、ルーク・フォード
PG12 配給/トランスフォーマー 1月21日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー <http://www.ak-movie.com>

(C) 2009 WHY NOT PRODUCTIONS,
CHIC FILMS, PAGE114,
FRANCE 2 CINEMA, UGC
IMAGE, BIM DISTRIBUZIONE
『預言者』
監督・脚色/ジャック・オディアール 出演/タハール・ラヒム、ニエル・アレストラップ、アデル・ベンチェリフ、ヒシャーム・ヤクビ
配給/スプリングハズカム 1月21日(土)よりヒューマントラスト渋谷ほか全国順次ロードショー <http://www.sumomo.co.jp>











































