
大手デベロッパーに勤務する小町圭(松山ケンイチ)と
町工場の二代目・小玉健太(瑛太)。2人とも鉄道を深く愛するが、
恋愛はちょっと奥手。(c)2012『僕達急行』製作委員会
トンネルを抜けると、そこは“森田芳光ワールド”だった。鉄道オタクな2人の青年を主人公にした森田芳光監督作『僕達急行 A列車で行こう』は、軽快な仕上がりのコメディーだ。ビジネス・サクセスストーリーらしき筋書きは一応あるが、デビュー作『の・ようなもの』(81)やヒット作『間宮兄弟』(06)を思わせる、ノホホンとした主人公たちのあくせくしない生き方を肯定的に描いたもの。『椿三十郎』(07)、『サウスバウンド』(07)に続く出演となった松山ケンイチには東北新幹線の“こまち君”、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)の瑛太にはスマートなデザインでロングラン人気を誇る“こだま君”と登場キャラクターそれぞれに列車の名前を冠するといった遊び心も森田監督らしい。2011年12月に急逝した森田監督の遺作となったが、作品には湿っぽさはまったくなく、また巨匠めいた説教臭さも微塵もない。どこまでも軽やかでユーモラスさに溢れた“森田芳光ワールド”が広がる。

こまち君は音楽を聴きながら風景を
眺めるのが好き。こだま君は列車のディテー
ルが好き。同じ鉄道オタクでも、楽しみ方
が異なる。
登場キャラクターの名前だけではなく、本編には「わたらせ渓谷鐵道」をはじめ関東周辺、九州各地の合計20路線80モデルの電車が登場する。走っている路線が違い、年代や製作者が異なれば、当然ながら列車のデザインはまるで変わってくる。最新鋭の特急電車もあれば、のんびりした各駅列車もある。それぞれの列車がそれぞれの風景の中を、毎日きちんとダイヤに合わせて走っていく。きかんしゃトーマスさながら、それぞれの列車には顔があり、漂う風格も異なる。街と街を繋ぐ、それらの列車が走る様子は、人間社会の営みそのもの。主人公のこまち君とこだま君は、どの列車も同じように愛おしそうに見つめ、耳をそばだてる。主人公たちの列車に注ぐ暖かい眼差しは、森田監督が現代社会を生きる人々に向けたものでもあるようだ。
『メイン・テーマ』(84)では携帯電話が普及する前夜のパーソナル無線をツールとして登場させ、『(ハル)』(96)ではパソコン通信で繋がる男女の新しい関係を、『わたし出すわ』(09)では経済至上主義となった現代社会で、お金では買えない友情を探し求めるヒロインの姿を描いた森田監督。時代の流れの中で、変容していく人間関係をずっと見つめてきた。時代を先取りしていたため、ヒット作に恵まれ続けたわけではなかったが、その時代その時代を生きる若者たちを肯定的に捉えてきた。少なくともオリジナル作品に関してはその視線は一貫していたように思う。本作でも、同じ趣味で繋がるこまち君とこだま君の“絆”とか“友情”とはちょっとテイストの異なる、損得勘定のないゆるやかな関係が心地よい。

レールビューが自慢のマンションを2人は見学。
人によって生活における快適条件はまるで違う
ことが分かる。
森田監督には『わたし出すわ』の公開前に、日刊サイゾーのインタビューでお目にかかった。大監督然とせず、にこやかな表情で「何でも言ってください、聞いてください。ボクで答えられることなら、何でも話します」という、ふんわりとした懐の持ち主だった。本作と同じくサラリーマンものである『そろばんずく』(86)がコケたことに話題が及ぶと「あはは。自分では失敗作だとは思ってないけど、ファンは付いて来れないよね」と笑い飛ばした。『それから』(85)のような評論家たちが絶賛する作品を撮ると、その後は逆に人を喰ったようなオリジナル作品が作りたくなるのだと語った。また、シネコンが主流となった映画界があまりに最大公約数的なものばかり追い求めていくと、こぼれ落ちていくものも多くなるんじゃないかと危惧した。今はまだ自分の技術が追いつかないけど、予算があればスタンリー・キューブリックみたいな大作にも取り組んでみたいと将来のことを聞かせてくれた。人気監督らしく服装には気を付けてきたつもり、本当はビンボーなのにね……とも笑って打ち明けてくれた。日本映画=古くさいもの、というイメージを打ち壊したかったそうだ。もっともっとインタビューしたかったし、もっともっと作品を撮り続けてほしい監督だった。利害関係から離れた人間関係をとても大切にする人だった。
こまち君もこだま君も、仕事に対してはマジメで、他人を気遣う思いやりもある。でも、それ以上に趣味のこととなると目がランランと輝き、初対面の人とも趣味を通じて瞬く間に打ち解けてしまう。その一方、なかなか異性との恋愛にまでは巧く手が回らない。『僕達急行』は万事OK、大成功とはならない展開がほどよい塩加減だ。主人公は2人とも人当たりのよい好青年だが、何でも解決できるほど器用ではないし、恋愛なんてどうでもいいよと割り切れるほどクールでもない。また、2人が所属するそれぞれの業界も、新しいニーズを切り開いていかないと生き残れないシビアさがある。それでも、発車ベルが鳴り、列車が動き始めると、こまち君もこだま君もこれからどんな風景が待っているのか胸が高鳴る自分がいることに気づく。希望と不安は仲の良い一卵性双生児だ。ドキドキとワクワクを一緒に乗せて『僕達急行』が発車する。発車オーライという森田監督の明るい声がどこからか聞こえてきそうだ。
(文=長野辰次)
『僕達急行 A列車で行こう』
脚本・監督/森田芳光 主題歌/RIP SLYME 音楽/大島ミチル 出演/松山ケンイチ、瑛太、貫地谷しほり、ピエール滝、村川絵梨、伊東ゆかり、伊武雅刀、星野知子、笹野高史、西岡徳馬、松坂慶子 配給/東映 3月24日(土)より丸の内TOEIほか全国ロードショー公開 <http://boku9.jp/>





































