森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン!

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大手デベロッパーに勤務する小町圭(松山ケンイチ)と
町工場の二代目・小玉健太(瑛太)。2人とも鉄道を深く愛するが、
恋愛はちょっと奥手。(c)2012『僕達急行』製作委員会
 トンネルを抜けると、そこは“森田芳光ワールド”だった。鉄道オタクな2人の青年を主人公にした森田芳光監督作『僕達急行 A列車で行こう』は、軽快な仕上がりのコメディーだ。ビジネス・サクセスストーリーらしき筋書きは一応あるが、デビュー作『の・ようなもの』(81)やヒット作『間宮兄弟』(06)を思わせる、ノホホンとした主人公たちのあくせくしない生き方を肯定的に描いたもの。『椿三十郎』(07)、『サウスバウンド』(07)に続く出演となった松山ケンイチには東北新幹線の“こまち君”、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)の瑛太にはスマートなデザインでロングラン人気を誇る“こだま君”と登場キャラクターそれぞれに列車の名前を冠するといった遊び心も森田監督らしい。2011年12月に急逝した森田監督の遺作となったが、作品には湿っぽさはまったくなく、また巨匠めいた説教臭さも微塵もない。どこまでも軽やかでユーモラスさに溢れた“森田芳光ワールド”が広がる。
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こまち君は音楽を聴きながら風景を
眺めるのが好き。こだま君は列車のディテー
ルが好き。同じ鉄道オタクでも、楽しみ方
が異なる。
 登場キャラクターの名前だけではなく、本編には「わたらせ渓谷鐵道」をはじめ関東周辺、九州各地の合計20路線80モデルの電車が登場する。走っている路線が違い、年代や製作者が異なれば、当然ながら列車のデザインはまるで変わってくる。最新鋭の特急電車もあれば、のんびりした各駅列車もある。それぞれの列車がそれぞれの風景の中を、毎日きちんとダイヤに合わせて走っていく。きかんしゃトーマスさながら、それぞれの列車には顔があり、漂う風格も異なる。街と街を繋ぐ、それらの列車が走る様子は、人間社会の営みそのもの。主人公のこまち君とこだま君は、どの列車も同じように愛おしそうに見つめ、耳をそばだてる。主人公たちの列車に注ぐ暖かい眼差しは、森田監督が現代社会を生きる人々に向けたものでもあるようだ。  『メイン・テーマ』(84)では携帯電話が普及する前夜のパーソナル無線をツールとして登場させ、『(ハル)』(96)ではパソコン通信で繋がる男女の新しい関係を、『わたし出すわ』(09)では経済至上主義となった現代社会で、お金では買えない友情を探し求めるヒロインの姿を描いた森田監督。時代の流れの中で、変容していく人間関係をずっと見つめてきた。時代を先取りしていたため、ヒット作に恵まれ続けたわけではなかったが、その時代その時代を生きる若者たちを肯定的に捉えてきた。少なくともオリジナル作品に関してはその視線は一貫していたように思う。本作でも、同じ趣味で繋がるこまち君とこだま君の“絆”とか“友情”とはちょっとテイストの異なる、損得勘定のないゆるやかな関係が心地よい。
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レールビューが自慢のマンションを2人は見学。
人によって生活における快適条件はまるで違う
ことが分かる。
 森田監督には『わたし出すわ』の公開前に、日刊サイゾーのインタビューでお目にかかった。大監督然とせず、にこやかな表情で「何でも言ってください、聞いてください。ボクで答えられることなら、何でも話します」という、ふんわりとした懐の持ち主だった。本作と同じくサラリーマンものである『そろばんずく』(86)がコケたことに話題が及ぶと「あはは。自分では失敗作だとは思ってないけど、ファンは付いて来れないよね」と笑い飛ばした。『それから』(85)のような評論家たちが絶賛する作品を撮ると、その後は逆に人を喰ったようなオリジナル作品が作りたくなるのだと語った。また、シネコンが主流となった映画界があまりに最大公約数的なものばかり追い求めていくと、こぼれ落ちていくものも多くなるんじゃないかと危惧した。今はまだ自分の技術が追いつかないけど、予算があればスタンリー・キューブリックみたいな大作にも取り組んでみたいと将来のことを聞かせてくれた。人気監督らしく服装には気を付けてきたつもり、本当はビンボーなのにね……とも笑って打ち明けてくれた。日本映画=古くさいもの、というイメージを打ち壊したかったそうだ。もっともっとインタビューしたかったし、もっともっと作品を撮り続けてほしい監督だった。利害関係から離れた人間関係をとても大切にする人だった。  こまち君もこだま君も、仕事に対してはマジメで、他人を気遣う思いやりもある。でも、それ以上に趣味のこととなると目がランランと輝き、初対面の人とも趣味を通じて瞬く間に打ち解けてしまう。その一方、なかなか異性との恋愛にまでは巧く手が回らない。『僕達急行』は万事OK、大成功とはならない展開がほどよい塩加減だ。主人公は2人とも人当たりのよい好青年だが、何でも解決できるほど器用ではないし、恋愛なんてどうでもいいよと割り切れるほどクールでもない。また、2人が所属するそれぞれの業界も、新しいニーズを切り開いていかないと生き残れないシビアさがある。それでも、発車ベルが鳴り、列車が動き始めると、こまち君もこだま君もこれからどんな風景が待っているのか胸が高鳴る自分がいることに気づく。希望と不安は仲の良い一卵性双生児だ。ドキドキとワクワクを一緒に乗せて『僕達急行』が発車する。発車オーライという森田監督の明るい声がどこからか聞こえてきそうだ。 (文=長野辰次) bokusyu4.jpg 『僕達急行 A列車で行こう』 脚本・監督/森田芳光 主題歌/RIP SLYME 音楽/大島ミチル 出演/松山ケンイチ、瑛太、貫地谷しほり、ピエール滝、村川絵梨、伊東ゆかり、伊武雅刀、星野知子、笹野高史、西岡徳馬、松坂慶子 配給/東映 3月24日(土)より丸の内TOEIほか全国ロードショー公開 <http://boku9.jp/>
森田芳光組 森田映画とは――。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン!

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大手デベロッパーに勤務する小町圭(松山ケンイチ)と
町工場の二代目・小玉健太(瑛太)。2人とも鉄道を深く愛するが、
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 トンネルを抜けると、そこは“森田芳光ワールド”だった。鉄道オタクな2人の青年を主人公にした森田芳光監督作『僕達急行 A列車で行こう』は、軽快な仕上がりのコメディーだ。ビジネス・サクセスストーリーらしき筋書きは一応あるが、デビュー作『の・ようなもの』(81)やヒット作『間宮兄弟』(06)を思わせる、ノホホンとした主人公たちのあくせくしない生き方を肯定的に描いたもの。『椿三十郎』(07)、『サウスバウンド』(07)に続く出演となった松山ケンイチには東北新幹線の“こまち君”、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)の瑛太にはスマートなデザインでロングラン人気を誇る“こだま君”と登場キャラクターそれぞれに列車の名前を冠するといった遊び心も森田監督らしい。2011年12月に急逝した森田監督の遺作となったが、作品には湿っぽさはまったくなく、また巨匠めいた説教臭さも微塵もない。どこまでも軽やかでユーモラスさに溢れた“森田芳光ワールド”が広がる。
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こまち君は音楽を聴きながら風景を
眺めるのが好き。こだま君は列車のディテー
ルが好き。同じ鉄道オタクでも、楽しみ方
が異なる。
 登場キャラクターの名前だけではなく、本編には「わたらせ渓谷鐵道」をはじめ関東周辺、九州各地の合計20路線80モデルの電車が登場する。走っている路線が違い、年代や製作者が異なれば、当然ながら列車のデザインはまるで変わってくる。最新鋭の特急電車もあれば、のんびりした各駅列車もある。それぞれの列車がそれぞれの風景の中を、毎日きちんとダイヤに合わせて走っていく。きかんしゃトーマスさながら、それぞれの列車には顔があり、漂う風格も異なる。街と街を繋ぐ、それらの列車が走る様子は、人間社会の営みそのもの。主人公のこまち君とこだま君は、どの列車も同じように愛おしそうに見つめ、耳をそばだてる。主人公たちの列車に注ぐ暖かい眼差しは、森田監督が現代社会を生きる人々に向けたものでもあるようだ。  『メイン・テーマ』(84)では携帯電話が普及する前夜のパーソナル無線をツールとして登場させ、『(ハル)』(96)ではパソコン通信で繋がる男女の新しい関係を、『わたし出すわ』(09)では経済至上主義となった現代社会で、お金では買えない友情を探し求めるヒロインの姿を描いた森田監督。時代の流れの中で、変容していく人間関係をずっと見つめてきた。時代を先取りしていたため、ヒット作に恵まれ続けたわけではなかったが、その時代その時代を生きる若者たちを肯定的に捉えてきた。少なくともオリジナル作品に関してはその視線は一貫していたように思う。本作でも、同じ趣味で繋がるこまち君とこだま君の“絆”とか“友情”とはちょっとテイストの異なる、損得勘定のないゆるやかな関係が心地よい。
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レールビューが自慢のマンションを2人は見学。
人によって生活における快適条件はまるで違う
ことが分かる。
 森田監督には『わたし出すわ』の公開前に、日刊サイゾーのインタビューでお目にかかった。大監督然とせず、にこやかな表情で「何でも言ってください、聞いてください。ボクで答えられることなら、何でも話します」という、ふんわりとした懐の持ち主だった。本作と同じくサラリーマンものである『そろばんずく』(86)がコケたことに話題が及ぶと「あはは。自分では失敗作だとは思ってないけど、ファンは付いて来れないよね」と笑い飛ばした。『それから』(85)のような評論家たちが絶賛する作品を撮ると、その後は逆に人を喰ったようなオリジナル作品が作りたくなるのだと語った。また、シネコンが主流となった映画界があまりに最大公約数的なものばかり追い求めていくと、こぼれ落ちていくものも多くなるんじゃないかと危惧した。今はまだ自分の技術が追いつかないけど、予算があればスタンリー・キューブリックみたいな大作にも取り組んでみたいと将来のことを聞かせてくれた。人気監督らしく服装には気を付けてきたつもり、本当はビンボーなのにね……とも笑って打ち明けてくれた。日本映画=古くさいもの、というイメージを打ち壊したかったそうだ。もっともっとインタビューしたかったし、もっともっと作品を撮り続けてほしい監督だった。利害関係から離れた人間関係をとても大切にする人だった。  こまち君もこだま君も、仕事に対してはマジメで、他人を気遣う思いやりもある。でも、それ以上に趣味のこととなると目がランランと輝き、初対面の人とも趣味を通じて瞬く間に打ち解けてしまう。その一方、なかなか異性との恋愛にまでは巧く手が回らない。『僕達急行』は万事OK、大成功とはならない展開がほどよい塩加減だ。主人公は2人とも人当たりのよい好青年だが、何でも解決できるほど器用ではないし、恋愛なんてどうでもいいよと割り切れるほどクールでもない。また、2人が所属するそれぞれの業界も、新しいニーズを切り開いていかないと生き残れないシビアさがある。それでも、発車ベルが鳴り、列車が動き始めると、こまち君もこだま君もこれからどんな風景が待っているのか胸が高鳴る自分がいることに気づく。希望と不安は仲の良い一卵性双生児だ。ドキドキとワクワクを一緒に乗せて『僕達急行』が発車する。発車オーライという森田監督の明るい声がどこからか聞こえてきそうだ。 (文=長野辰次) bokusyu4.jpg 『僕達急行 A列車で行こう』 脚本・監督/森田芳光 主題歌/RIP SLYME 音楽/大島ミチル 出演/松山ケンイチ、瑛太、貫地谷しほり、ピエール滝、村川絵梨、伊東ゆかり、伊武雅刀、星野知子、笹野高史、西岡徳馬、松坂慶子 配給/東映 3月24日(土)より丸の内TOEIほか全国ロードショー公開 <http://boku9.jp/>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? 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[第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』

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『鰐』(96)で監督デビューし、年1本ペースで新作を撮り続けてきた
キム・ギドクだが、『悲夢』(08)以降は隠遁生活を送るようになっていた。
(c)2011 KIM Ki-duk Film production. All Rights Reserved.
 『魚と寝る女』(00)、『悪い男』(01)、『春夏秋冬そして春』(03)、『サマリア』(04)、『弓』(05)、『絶対の愛』(06)、『ブレス』(07)......、1作ごとに世界から注目を浴びてきた韓国映画界の鬼才キム・ギドク監督。低予算ながら年1本を上回るハイペースでキム・ギドクでしか描けないひりつく世界を切り開いてきたが、オダギリジョー主演作『悲夢』(08)以降、映画界から姿を消した。韓国内ではキム・ギドク失踪説、廃人説がささやかれた。キム・ギドクが原案を手掛けたアクションコメディ『映画は映画だ』(08)は興行的に大成功を収めたが、トラブルから収益金を回収できなかったなどの噂が伝わってきた。国際的な映画祭での高評価とは裏腹に、自身の監督作は韓国内では興行成績が伴わないという話はずいぶん前から聞いていたが、韓国映画界きっての才人の置かれた状況はかなり深刻なものらしい。キム・ギドク監督の3年ぶりとなる新作『アリラン』は、キム・ギドク自身が主演・撮影・監督を兼任したセルフドキュメンタリーだ。町はずれの山のふもとに建てられた掘っ建て小屋で、人知れず隠遁生活を送るキム・ギドクの姿を記録している。  雪に閉ざされたボロ小屋の中で、寒さをしのぐためテントを張って眠るキム・ギドク。世俗的なものを嫌って自給自足する仙人のようでもあり、自分の殻に篭る引きこもりのニートのようでもある。かつては野球帽をかぶり、少年みたいな溌剌とした表情を浮かべていたキム・ギドクだが、久しぶりに見る彼は髪に白いものが混じり、映画の現場を離れて一気に老け込んだ印象を与える。足元は誰からもその存在を忘れられた鏡餅のようにひび割れてしまっている。スキンクリームさえない生活らしい。小屋には同居するネコが一匹いるが、キム・ギドクの話し相手はもっぱらビデオカメラだ。キム・ギドクがビデオカメラを相手にしゃべり倒すことで、彼が映画界を離れていった理由が見えてくる。
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掘っ建て小屋の中にテントを張って暮らすキム
・ギドク。商業路線に走る同業者に毒づきなが
らも、仕事のオファーを待っている。
 『映画は映画だ』は、キム・ギドク監督のもとで助監督を務めてきたチャン・フン監督のデビュー作。この映画がヒットしたことで、チャン・フン監督はメジャー映画会社に引き抜かれてしまった。頼りにしていた助監督に突然去られたことが、キム・ギドクにとってはよっぽどショックだったらしい。チャン・フン監督は師匠のもとを離れて撮った第2作『義兄弟』(10)もヒットさせているが、キム・ギドクはかつての愛弟子が商業的に成功したことを「資本主義の誘惑に負けた」と愚痴る。また、悪役を得意とする人気俳優のことを「悪役は自分の内側にある毒素をそのまま吐き出せばいいだけ」と罵倒する。さらに、『悲夢』では主演女優イ・ナヨンが自殺を試みるシーンで、現場での手違いからイ・ナヨンはマジで首吊り状態となり、意識を失うという事故が起きていたことを明かす。もしかしたら、自分の撮影現場でひとりの人間の命が絶たれていたかもしれない。一体、お前が作ってきた映画とは何なんだ? お前は何様のつもりなんだと自問自答する。人間の業を息苦しくなるまで見つめた数々の傑作を生み出し、ベルリンやベネチアといった国際映画祭で絶賛されてきた大監督だけに、ファンはつい彼のことを聖人視してしまうが、ひとりぼっちになったキム・ギドクは自分の意に沿わない行動をとった弟子をなじり、他人の成功を妬み、現場で起きてしまった不手際にいつまでもクヨクヨする人間臭い人間だったのだ。  酒に酔ったキム・ギドクは淋しさを紛らわせるために、ビデオカメラの前で朝鮮民謡「アリラン」を歌い始める。歌いながら感極まって涙ぐむキム・ギドク。数時間後、酔いが醒めたキム・ギドク本人がビデオを再生しながら「やりすぎだな」と自嘲する。これまで俳優たちを演出してきたキム・ギドクが、このセルフドキュメンタリーでは自分自身にダメ出しをする。オレは世界の映画祭で賞を獲ってきたんだと自負する強気のキム・ギドクがいれば、映画製作につきもののトラブルでメソメソする気弱なキム・ギドクがいる。才能の枯渇に恐怖心を抱くキム・ギドクもいれば、誰かがドアをノックしたのではないかと外の気配をいつも気にするキム・ギドクもいる。孤高のピン芸人のひとりボケ&ツッコミの練習風景を見ているようでもあり、ビーチボーイズ時代のブライアン・ウィルソンがスタジオに篭り、アルバム『SMiLE』で自己の内面世界を歌ったようでもある。また頭の中に様々なキャラクターが同居する多重人格者の交代人格が現われる様子を映した記録映像っぽくもある。外界から閉ざされた何もない小屋の中で、たったひとりのキム・ギドクはそこで考えうる最大限のエンターテイメントショーを繰り広げる。
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自分で撮った映像を確認するキム・ギドク。クリ
エイターとしての葛藤を細かく綴ったビデオ
日記のような内容だ。
 映画の後半、キム・ギドクはビデオカメラへの心情吐露を続けるうちに、彼の内面は多重人格でいうところの怒り・破壊衝動のキャラクターが主人格となっていく。昔から得意だった機械いじりの腕を活かして、模造銃を作ることに情熱を注ぎ出す。それまではぼんやりした毎日を送っていたキム・ギドクだが、何かに取り憑かれたかのように夢中になって模造銃を完成させ、思いあまって外へ飛び出す。そして手製の銃に4発の銃弾を込める。3発の銃弾は、自分のもとを去った弟子、弟子を引き抜いたメジャー映画会社のプロデューサー、悪役を自慢げに演じることで演技派を自認している人気俳優に向けたものだろうか? それでも、まだ1発の銃弾が残る。最後の1発は新作を撮るのか撮らないのか、いつまでもグズグズする自分自身へ向けたものなのか。そして、最後の一発は銃口から発射されるのか。  優れた映画監督とは、きっと職業的な多重人格者なのだろう。ひとりの人間の中に破壊衝動に走る暴力男がいれば、救済を願う娼婦もいる。あの世に片足を突っ込んだ老人がいれば、無垢なる瞳を輝かせて世界を肯定する少年少女もいる。自分の中にいる様々なキャラクターたちが葛藤することで生まれてきた命題や矛盾を、俳優やスタッフたちの力を借りることで映画という形に整えて、脳の外へと取り出す。「アリラン」を熱唱する自分を見つめるキム・ギドクを見ながら、そんなことを考えた。自分自身をギリギリの生活環境に追い込むことで、キム・ギドクは自分の脳内のせめぎあいを丸々と描いてみせた。彼はまたもや新しい世界を切り開くことに成功した。キム・ギドクにとって引き金を引くということは、映画を撮るということに他ならないのだ。 (文=長野辰次) ariran4s.jpg 『アリラン』 監督・脚本・撮影・音響・美術・出演/キム・ギドク 配給/クレストインターナショナル 3月3日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー公開中 <http://www.arirang-arirang.jp>
キム・ギドク初期作品集BOX(4枚組) 大人買い。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』

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1930年代のパリを舞台にした『ヒューゴの不思議な発明』。
身寄りのないヒューゴ少年(エイサ・バターフィールド)が
コドクから解放される様子を描く。
(C)2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved
 コドクな少年が、ある宗教の存在によって救済される。その宗教とは、キリスト教でも仏教でもイスラム教でもない。教会で神父さまのありがたい説教に耳を傾ける代わりに、その宗教はスクリーンに投影されたフィクションの世界に胸を躍らせることで、信者たちの心はすっきりと浄化される。マーティン・スコセッシ監督の最新作『ヒューゴの不思議な発明』は、ひとりぼっちの少年と"映画教"との幸福な出会いについて描いている。本作は映画教の教祖であるジョルジュ・メリエスにまつわる光と影のドラマであり、スコセッシ監督自身の映画教への信心深さを伝えるものだ。  『ヒューゴの不思議な発明』はスコセッシ監督にとって初の3D作品であり、家族向け映画でもある。『タクシードライバー』(76)、『レイジング・ブル』(80)、『グッドフェローズ』(90)のようなバイオレンスシーンを期待して劇場に足を運ぶと肩すかしをくらう。予告編を見ると、機械人形をめぐる大冒険ファンタジーのような印象を抱くが、それもビミョーに異なる。近年は古典映画の修復事業にも取り組むスコセッシ監督が、主人公ヒューゴ少年(エイサ・バターフィールド)を介して映画創成期の偉人ジョルジュ・メリエス(1861~1938)の業績を讃える内容となっている。
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『キックアス』(10)のヒットガールで人気者
になったクロエ・グレース・モレッツが共演。
今回は殺戮シーンはなし。
 映画史上初となるSF映画『月世界旅行』(1902)の監督として有名なジョルジュ・メリエスは、もともとは奇術師であり、パリで小さな劇場を経営する興行主でもあった。新しいもの、珍しいもの好きなメリエスは、リュミエール兄弟が開発したシネマトグラフに驚嘆し、みずから映画の製作・監督・上映を始める。生まれたばかりの映画はイリュージョン、錬金術の一種だったのだ。リュミエール兄弟が作っていた映画はもっぱら世界各地のエキゾチックな光景を映し出したドキュメンタリー的内容だったが、奇術師兼劇場オーナーであったメリエスが製作・監督することで映画は幻想性・演劇性を持つもショーへと変容していった。メリエスは映画の中で、アポロよりも早く月世界へ行き、メフィストに変身し、美とエロス溢れる女神たちをスクリーンいっぱいに踊らせた。いわゆるエンターテイメントとしての映画を生み出したのが、メリエスだった。フィルムに着色したカラー映画や撮影カメラを2台並べた3D撮影にも取り組んだパイオニアだった。  2月16日、来日会見を開いたスコセッシ監督は、プロデューサーと奥さんから『ヒューゴの不思議な発明』のヒューゴ少年はスコセッシ監督自身であることを指摘されたと語った。NYのダウンタウンで生まれ育ったスコセッシ監督は、ぜんそくに苦しむ脆弱な少年だった。運動することも動物や植物に触れることもできなかったスコセッシ少年の心が唯一ときめいたのは、父親に連れられて映画館へ行くとき。映画を観ながらイマジネーションの世界で、スコセッシ少年は存分に暴れ回った。敬虔なカトリック信者でもあったスコセッシ少年は司祭になることも考えたが、神学の道はドロップアウトしてしまう。そんな彼を受け入れてくれたのが、またもや映画の世界だった。近所で育った俳優のロバート・デ・ニーロやハーヴェイ・カイテルらと組んで、映画の世界で名を挙げていく。『タクシードライバー』をはじめとするバイオレンスものは、自由に遊ぶことができなかった少年時代の裏返しだったのだ。
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パパ・ジョルジュ役を演じたのは『ガンジー』
(82)、『エレジー』(08)の名優ベン・
キングスレー。風格あります。
 スコセッシ少年をはじめ、世界中に熱烈な信者を抱える映画教だが、映画が誕生した19世紀末は映画教に携わる人たちにとっては受難の時代だった。メリエスは生涯に500本以上の作品を撮る人気監督だったが、巨大化していく映画産業の波に押し流され、多くのフィルムは消失し、晩年はモンマルトル駅のキヨスクでひっそりオモチャを売って生計を立てていた。メリエスが映画製作にのめり込むきっかけを作った発明家シャルル・エミール・レイノーは世界初のアニメーション作家として映画史に名を残しているが、生きている間はお金と名声に恵まれなかった。苦労して作った作品を河に棄てて、失意のうちに他界している。また、スコセッシ監督は少年の頃に観たイギリス映画『マジックボックス』(51)がとても印象に残っていると会見で話した。『マジックボックス』はイギリスの発明家ウィリアム・フリーズ・グリーンの伝記もの。撮影カメラ、映写機の仕組みを発案した人物だが、グリーンもまた悲劇的な一生を終えている。彼らに共通していたのは今までにない新しい発明品をつくることで、みんなが驚いたり、喜んだりするのを生き甲斐としていたこと。発明でお金儲けすることは後回しだった。発明王エジソンのようなビジネス的才能には恵まれなかった。いわば、彼らは映画教の誕生に尽力した聖なる殉教者たちなのだ。  実態のないものを信じるという点では、宗教も映画も同じだ。コドクな人間を救うということも、巨大化した宗教や映画は信者たちから金を巻き上げるシステムへと変じていくことでも似ている。スコセッシ監督自身、恵まれた環境でメジャー大作を撮るようになり、興行成績とは反比例して、かつての映画教原理主義者的な過激さは薄れていった印象を与える。そのことを大人としての成熟と見るか、社会への迎合と見るかは人それぞれだろう。ただし、『ヒューゴの不思議な発明』を観る限り、少年時代の自分を救ってくれた映画と映画史の先人たちへの信仰心をスコセッシ監督は忘れていないことは確かなようだ。 (文=長野辰次) hugo4.jpg 『ヒューゴの不思議な発明』 監督/マーティン・スコセッシ 脚本/ジョン・ローガン 出演/ベン・キングスレー、エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、サシャ・バロン・コーエン、ジュード・ロウ 配給/パラマウント ピクチャーズ ジャパン 3月1日(木)よりTOHOシネマズ有楽座ほか全国ロードショー <http://www.hugo-movie.jp>
ヒューゴの不思議な発明 公式ガイドブック ファン必読。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』

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退屈な田舎を出て、都会で働くメイビス(シャーリーズ・セロン)。
「私は他の人とは違う」という根拠のない自信だけで生きている。
(c) 2011 Paramount Pictures and Mercury Productions, LLC.
All Rights Reserved.
 "ホラーとコメディは紙一重の違い"とはよく言われるが、シャーリーズ・セロン主演作『ヤング≒アダルト』は、まさにその典型例。男は「こーゆー勘違いしたヤツ、いるいる」と腹を抱え、女は「あまりにリアルすぎて、他人事と思えない」と顔を引きつらせる。男女の視点の違いによって、爆笑コメディにもサイコホラーにも転じる。同性が引いてしまうほどに、シャーリーズ・セロンのすっぴん演技が迫力満点だ。田舎暮らしの女子高生の孤高の生き方を描いた『JUNO/ジュノ』(07)で高い評価を得た女流脚本家ディアブロ・コディとジェイソン・ライトマン監督が再タッグを結成。青春時代の栄光にすがりつくアラフォー女の断末魔の叫びが耳に突き刺さる。  ミネアポリスでひとり暮らしをしているメイビス(シャーリーズ・セロン)は37歳のバツイチ。自称作家だが、実際はゴーストライター。唯一の定期収入源であるヤングアダルト小説「花のハイスクール」の連載打ち切りを編集者に告げられ、メイビスの心はブルーだ。おかしい、こんなはずがない。自分が思い描いた未来予想図では、ベストセラー作家になって、セレブな生活三昧を送り、ウハウハなはずなのに。習作のつもりで書き始めたティーン向け小説でつまずくなんて、ありえない。そうだ、これはちょっとしたスランプなのだ。大いなる飛翔を遂げるための、準備段階なのだ。まだまだ若い私だけど、エネルギー全開にリセットするには自分の黄金時代に帰るのが一番! メイビスは"女王さま"として君臨していた高校時代のイノセントパワーを取り戻そうと、久しぶりに田舎に帰省する。高校時代の最愛の彼氏とヨリを戻すことができれば、最強無敵の自分に復活できると思い込み、故郷へと愛車を走らせる。大惨劇の始まりである。
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メイビスは高校時代の元カレ、バディ
(パトリック・ウィルソン)と再会。彼と
結ばれなかったことから人生の歯車が狂い
出したと思い込んでいる。
 タイミングよく、高校時代の元カレであるバディ(パトリック・ウィルソン)からメールが届いた。地元で結婚したバディに初めての子どもが生まれたので、今度その子の誕生パーティーをやるよ、という知らせ。これは私がスランプで落ち込んでいることを遠隔地から察した、バディからのスピリチュアルメッセージに違いない。やはり、2人は運命で結ばれているんだわ。子どもの誕生パーティーを口実に、私との再会を願っているのね。彼も家庭という名の牢獄から解放されたがっているのよ。待ってて、すぐに行くから! メイビスの思い込み度数がどんどん上昇していく。  メイビスはカーステレオに、今どき珍しいカセットテープをセットする。流れてくる曲は、ティーンエイジ・ファンクラブの1991年のヒット曲「ザ・コンセプト」。どうやら、このカセットテープは高校時代にバディがメイビスにプレゼントしたものらしい。メイビスは高校卒業後も毎日のように、この曲を聴いてはうっとりしていた。この曲はメイビスにとって、ときめいていた10代の頃に帰ることができるタイムマシンなのだ。1本のカセットテープを後生大事にしているメイビス。本人は20年間ずっと本命の彼氏のことを想い続けている純愛娘のつもりだが、傍から見ると充分に狂気をはらんだ幕開けである。  ふだんはスッピンにキティちゃんのTシャツを着古している、いかにも売れてないライター然としたメイビス。元カレに会うために、ウィッグを付けて髪のボリュームを増し、エステで肌つやを良くし、決め決めのネイルで自分のハートをアゲアゲにし、胸元の開いたセクシードレスに着替える。戦闘態勢はばっちり。だが、田舎には妙に明るいファミレスかダッサ~い場末のバーしかなく、メイビスは浮きまくり。久しぶりに会ったバディから社交辞令で「いやぁ、昔と全然変わってないね」と言葉を掛けられ、有頂天となるメイビス。周囲から見れば、厚化粧した若づくり女が妻子持ちの元カレにキャインキャインはしゃぎながら尻尾を振っているようにしか映らない。しかし、おのれの主観映像のみで生きているメイビスは、まったく他人の視線には気づいていない。曲がり道くねくねしたけど、やっぱり自分は運命の王子さまと結ばれるシンデレラなのよと、頑なに信じ込んでいる。史上最凶に痛い女・メイビス。自己チューで田舎の人間をバカにしている高慢チキ野郎だが、自分自身にとことん愚直で正直なメイビスの生き方に、観客はほんのちょっぴりシンパシーを感じ始める。
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元カレ、バディの自宅で催されたお誕生会で、
バディの奥さんと接近遭遇。「私のほうが
美人じゃん」とメイビスは心の中で叫ぶ。
 誰しもいつまでも若々しくありたいし、自分が思い描いた夢は大事にしたいし、自分がいちばん輝いていた頃を知っている彼氏・彼女とゴールインできれば、多分サイコーに幸せなんだろう。でも、時代の移り変わりや年齢に合わせて幸せの尺度を調整できないと、とんでもない悲劇を招く。日本でもバブル世代の残党にいがちなタイプですよ。映画のクライマックス、ついにメイビスはバディの自宅で催される誕生パーティーへと足を踏み入れる。ここまで映画を観て、傲慢なビッチのくせに心は10代のままのメイビスに徐々に感情移入し始めていた我々は「やめろ~、行くな~!」と念じるのだが、その内なる声はメイビスには届かない。ブライアン・デパルマ監督の学園ホラーの名作『キャリー』(76)ばりの大惨劇にメイビスは遭遇するはめとなる。  アカデミー賞主演女優賞に選ばれた『モンスター』(03)で実在した連続殺人鬼に扮したシャーリーズ・セロン。あのときも体重を10kg以上増量したブヨブヨ姿に驚愕させられたが、今回もコメディ演技で体を張り、すっぴん顔にヌーブラヌードまで披露する姿勢が素晴らしい。美人女優でオスカーを受賞した栄光に輝きながら、ハズすと目も当てられないことになるこの手のコメディに果敢に挑むなんて、ほんと"女優の鑑"ですよ。  元カレのことが忘れられずに田舎に帰省したメイビスは、逆にボロボロに傷つくことになる。同時にメイビスの心の中を支配していた、ガラス細工の夢の世界も音を立てて崩壊していく。メイビスはずっと青春時代の残像に引きずられ、がんじがらめになっていたのだ。偶像による支配から脱したメイビスは、新しい物語を紡ぐことを余儀なくされる。遅ればせながら自分の青春時代にようやくピリオドを打ったメイビス。彼女の新しい人生がここから始まる。 (文=長野辰次) y_a1s.jpg 『ヤング≒アダルト』 監督/ジェイソン・ライトマン 脚本/ディアブロ・コディ 出演/シャーリーズ・セロン、パトリック・ウィルソン、パットン・オズワルト、エリザベス・リーサー 配給/パラマウント ピクチャーズ ジャパン 2月25日(土)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー <http://www.young-adult.jp>
モンスター 通常版 女優の鑑! amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』

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その大きさで否応なく人目を惹くギザの大ピラミッド。何のために造ったのかとまず疑問を抱かせることが目的だった?
 豊臣秀吉は6本指だった! 幻のアトランティス大陸は南極大陸のことだった! オーストリアで見つかった700年前の壁画にミッキーマウスが描かれていた! 世間一般では"トンデモ系"と称されているが、この手の歴史異聞を耳にするとザワザワするじゃないですか。教科書には載っていない情報に、頭の中がシュワシュワシュワ~となって、脳ミソがトロピカルジューシーになりますよ。2月18日(土)から公開されるフランス映画『ピラミッドの謎 5000年の嘘』は、これまでの古代エジプトに関する常識を覆す驚愕の歴史ドキュメンタリー。2月8日に『ザ・ベストハウス123』(フジテレビ系)でネタバレ放映したところ、同映画のHPにアクセスが殺到し、サーバーがダウンしたほどの大反響を呼んだ。  本作はギザの大ピラミッドについて37年間にわたって調査研究を重ねたジャック・グリモーの原作本をベースに、パトリス・プーヤール監督が6年間かけて検証した上で映画化したもの。本作の序盤はピラミッドに体する素朴な疑問から始まる。高さ146m、底辺の一辺が230mという古代最大の建造物であるギザの大ピラミッド。紀元前2700~2500年ごろにクフ王の墓として建造されたと言われ、雄大さと均整のとれた調和美を誇る。その大ピラミッドは200万個もの巨石で構成されているわけだが、これまでの学説通り工期20年だとすると、セダン1台分の重量のある巨石を1日12時間労働と考えて、2分30秒のペースで積み上げていったことになる。クレーンなどない時代に、である。現代の建築技術を駆使しても、これだけの大プロジェクトを20年で完成させるのは至難の技。そこで工期20年という定説に疑問が生じるのだが、従来の考古学に携わる学者たちはそのことに触れられるのを嫌がる。大ピラミッドの建造期間がもっと長かったとすると、在位期間が20年足らずだったクフ王の統治期と合わなくなってしまうためだ。そうなるとピラミッド=王の墓、という学説が根底から揺らいでしまう。
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春分と秋分の日だけ、大ピラミッドが八面体であることが目視できる。当然ながら、緻密な建築技術が必要だ。
 続いて「へぇ~」と思わせるのが、ギザの大ピラミッドは四面体ではなく八面体であるということ。普段は気がつかないが、年に2回、春分と秋分のときだけ真東から太陽が昇り、ピラミッドに日が射すと八面体であることが明らかになる。地理学的、天文学的、建築学的にも非常に緻密な計算の上で、あの巨大な建造物は生み出されたのだ。さらにピラミッドの寸法には黄金数、円周率、平方根......といった様々な数学上のデータが潜んでいることを本作は指摘する。これだけの繊細な数値に基づいていながら、天災の数々にびくともしない耐震設計まで施されていたことにも驚きを覚えずにいられない。  当然ながら、ここまでピラミッドに関する情報を知ると、観ている側も強い疑問を抱くことになる。そんなにスゴいもの、手間ひまかかるものを、何のために造ったのかということ。ただエジプトの王様が自分の権力を誇示したいだけなら、単純にデカく見えるものをデ~ンと建てるだけでよかったはず。数千年単位でその巨大さをキープしながらも、古代エジプト人が非常に優れた文明を有していたことを分かる人には分かるように手掛かりを散りばめていることには大きな意味があるのではないか。本作はこう説く。ピラミッドは王様の墓ではなく、我々現代人に何かを伝えるために古代人が残した"巨大かつ恒久的な言語"なのだと。
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非常に高い精度で東西南北の方位を示しているピラミッド。巨大な方位盤であり、日時計であることが分かる。
 4000年以上もの歳月を越え、古代エジプト人が現代人に伝えようとした言葉とは何か? 国家規模であれだけの大プロジェクトを完成させ、自分たちエジプト文明が滅んだ後の末裔にまで伝えようとしているのだから、よっぽどの重要事項であるはずである。ここで、ふと脳裏を横切るのが映画『100,000年後の安全』(09)だ。日本でも福島第一原発事故後の2011年4月に緊急公開され、大きな話題を呼んだ北欧製のドキュメンタリー作品。フィンランドで建設中の高レベル放射能廃棄物の最終処分場、通称"オンカロ(隠された場所)"をめぐるものである。使用済み核燃料は処理するのが非常に難しい。ロケットに積んで、太陽に打ち込んでしまえというプランもあったが、結局は固い岩盤を掘削した地下500mに永久埋蔵されることになる。放射能レベルが生物にとって無害になるまで最低10万年は要するため、その処分場は10万年後の人類にも分かるように「ここは危険。近づくな!」と警告を発さなくてはならない。果たして10万年後の人類に、現代の言語やイラストの意味が通じるのか? 未来の人類は核廃棄物処分場を宗教的儀式の施設や財宝の埋蔵地などと勘違いして、掘り起こしたりしないだろうか? 現実の核廃棄物を前にして、科学者たちの間でSFめいた問答が繰り広げられる。多分、数万年後の未来人たちは、現代人がピラミッドのことを認識できる程度にしか、オンカロのことを理解できないに違いない。  『ピラミッドの謎』の後半は、いよいよ大ピラミッドに隠されたメッセージが解き明かされる。原作者ジャック・グリモーの考えはこうだ。ピラミッドは古代からのメッセージであるのと同時に、非常に精巧に造られた巨大な時計であると。では、その巨大な時計はいったいどのような時間を刻んでいるのか? その時間は何を知らせるものなのか? ここから本作は一気にイマジネーションの世界へと飛び出していく。イースター島やインカ文明との関連性、宇宙単位で語られる地球の歴史、そして未来のビジョン。諸星大二郎先生の奇想コミック『暗黒神話』などにハマった人には堪らない、超弩級の驚愕展開が待ち受けている。
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パトリス・プーヤール監督は「より多くの人に知ってほしいという使命に駆られ、作品を完成させた」と語る。
 1月に来日したパトリス・プーヤール監督にコメントを求めたところ、このような言葉が返ってきた。「もし、私がこの映画で提示している結論をひと言で言ってしまうと、気が狂っていると思われるかもしれません。しかし、映画で描かれる事実の数々を目にすると、きっとみなさんも今まで教えられてきた学説について疑問を感じるようになり、新たな仮説についても心を開いて考えられるようになるでしょう。何と言っても事実は事実なのですから、否定することはできません」。  グラハム・ハンコックの『神々の指紋』(翔泳社)から受けた影響について聞いてみると、「調査を始める当初、『神々の指紋』を読み、充実した内容に驚きました。素晴らしい本であることは認めますが、でも残念ながら私が求めていたことは書かれておらず、読み終わった後に少し不満が残りました。事実の断片を紹介するだけでは、何も訴えることができないと感じたからです」とのこと。また、プーヤール監督によると、ピラミッドにはまだまだ隠された謎が残されているらしい。本作の反響次第では、続編に取り掛かりたいとも語っている。  目先の1分1秒に追われがちな現代人だが、5000年、1万年単位で地球を眺めることで、これまでとは違った光景が見えてくることを本作は教えてくれる。ここまで壮大な歴史エンターテイメントには、そうそう劇場ではお目にかかれないだろう。 (文=長野辰次) piramid021505.jpg ●『ピラミッドの謎 5000年の嘘』 原作/ジャック・グリモー 監督/パトリス・プーヤール 日本語監修/大地舜 日本語ナレーター/森川智之 配給/スターサンズ 2月18日(土)より新宿バルト9、丸の内TOEI、渋谷TOEIほか全国ロードショー http://pyramid-movie.jp
神々の指紋 (上) 人類が失った記憶とは......。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? 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韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』

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韓国映画界のマイスター、イ・チャンドン監督の最新作『ポエトリー アグネスの詩』。
カルチャースクールで深淵なる人間ドラマが奏でられる。
(c )2010 UniKorea Culture & Art Investment Co. Ltd. and PINEHOUSE FILM.
 韓流映画の進化、ここに極まり。韓国映画はここ10数年間で驚異的な成長を遂げてきた。長年続いた軍事政権時代に溜め込まれた国民の"恨(ハン)"が映画という"よりしろ"を見つけて一気に吹き出した感がある。パク・チャヌク、キム・ギドク、ポン・ジュノ、ナ・ホンジン......とんでもない才能を次々と生み出してきた。韓国映画が国際的な評価を受けるようになった、その先鞭となったのがイ・チャンドン監督の『ペパーミント・キャンディー』(99)。軍事政権時代に起きた光州事件から民主化運動を経て、高度成長を遂げた激動する韓国社会の20年間を自殺男(ソル・ギョング)が体験する走馬灯現象として鮮やかに描いてみせた。イ・チャンドン監督は続く『オアシス』(02)でベネチア映画祭監督賞を受賞、『シークレット・サンシャイン』(07)ではチョン・ドヨンにカンヌ映画祭主演女優賞をもたらした。1作ごとにより研ぎ澄まされた作品を放ってきたイ・チャンドン監督だが、最新作『ポエトリー アグネスの詩』ではカンヌ映画祭脚本賞を受賞。怒濤の進化を遂げてきた韓国映画の完成形とでも評すべき珠玉の人間ドラマに仕上がっている。また、"詩"を題材にすることで、人間と人間のすき間を埋める"メディア"の在り方について問い掛けてくる。  『ポエトリー』には、韓国映画が得意とする連続殺人鬼も裏社会も北朝鮮の特殊工作員も出てこない。主人公は人が良さそうな初老のおばちゃんだ。主人公ミジャ(ユン・ジョンヒ)は地方都市で暮らすおしゃれなおばちゃん。娘はプサンで働いており、中学生になる孫息子と2人で暮らしている。介護の仕事だけでは生活は苦しいが、いくつになっても少女のように明るく振る舞っている。ミジャはふと子どもの頃に教師から「詩の才能がある」と褒められたことを思い出し、カルチャースクールで詩の創作を学び始める。カルチャースクールの講師はこう語る。「人生で大切なことは"見る"ことです。みなさんはリンゴを見たことがありますか? いいえ、あなたたちはリンゴを見たことがありません。リンゴがどんなことを考え、何を伝えようとしているのか分からないようでは"見た"ことにならないのです」と。講師は1カ月後に詩を書いて提出するよう課題を出した。
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ミジャ(ユン・ジョンヒ)はアルツハイマーの
疑いがあり、自分の言葉を残そうと懸命。
タイムリミットサスペンスでもある。
 ミジャは美しい花を眺めたり、風のそよぐ音に耳を澄ませるが、ちっとも詩が思い浮かばない。どうすれば、人の心に届くような詩が書けるようになるのかしら? そんなとき、とんでもない事件が発覚する。数日前に孫息子の通う中学校で女子生徒の自殺が起きたのだが、自殺の原因は同級生の男子たちによる集団暴行だった。そして数か月にわたって集団暴行していた男子生徒のひとりが孫息子だったのだ。少女のように天真爛漫に振る舞って生きてきたミジャは、自分が自分の暮らす家庭すら"見て"なかったことを思い知らされる。  さらにミジャは人間社会の暗部を否応なく見つめさせられる。女子中学生を自殺に追い込んだ男子生徒たちの保護者が集まり、慰謝料を払うことで遺族の口止めを図ることになったのだ。学校側もスキャンダルが広まることを恐れ、示談を急がせている。いくら払えば女子中学生の自殺がなかったことになるか、保護者たちはソロバンを弾く。生活に余裕のないミジャには、たったひとりの孫息子のためとはいえ慰謝料を工面するあてがない。ミジャが美しい詩を書こうとすればするほど、ドス黒い人間の暗黒面が顔をもたげてくる。慰謝料の支払いの期限と同時に、詩を発表する日が近づいてくる。
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ミジャの孫息子ジョンウク(イ・デビッド)。
ミジャが愛情を注いで育てたが、最近は
「ムカつく」としか口にしない。
 劇中で触れられる女子中学生集団暴行事件だが、これは韓国で実際に起きた事件。イ・チャンドン監督は事件名を明言していないが、2004年に起きた「密陽女子中学生集団暴行事件」と思われる。女子中学生が男子学生たちに数か月間に及んで暴行を繰り返された事件だ。スキャンダルの発覚を恐れ、学校、保護者、地元の警察は事件をなかったことにしようとし、加害者である男子学生たちは立件されなかった。逆に被害者である女子中学生がネットなどで個人情報を晒されている。また、この事件が明るみになったのをきっかけに他の地域でも同様な性犯罪事件が起きていたことが次々と発覚し、韓国社会に大きな衝撃を与えた。キム・ギドク監督の助監督を経てデビューした新人チャン・チョルス監督の復讐バイオレンス映画『ビー・デビル』(10)もこの事件からインスパイアされたものだ。  『ポエトリー』の主人公ミジャは、詩を書くことで現実を見つめる手だてを知る。詩を通して、人間のキレイな部分と汚い部分の両面を知ることになる。これはイ・チャンドン監督にとっての映画を撮るという行為と同じなのだろう。イ・チャンドン監督は映画を撮ることで、民主化と同時に激変していった韓国社会をスクリーンに映し出してきた。民主国家として自由を手に入れ、さらに携帯電話やパソコンの普及によって情報伝達力は格段に発達した。けれども社会の豊かさやテクノロジーの進化と反比例して、こぼれ落ちるように孤立化していく人も少なくない。イ・チャンドン監督は映画を撮ることで、孤独を抱えるそんな現代人に寄り添おうとしている。
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詩の朗読会で知り合ったパク・サンテ刑事。
人間社会の暗黒面を知る2人は、美しい詩を
求める同志でもあった。
 映画の後半、カルチャースクールだけでは詩の書き方が身に付かないと感じたミジャは、有志による詩の朗読会に出掛け、ひとりの男と出会う。ふてぶてしい態度で、いつも下ネタジョークを口にし、詩の朗読会には相応しくない下品な男だ。この男の職業は刑事。警察組織の不正を摘発しようとして地方都市に飛ばされた、はぐれ刑事だった。職業柄、毎日のように人間のドス黒い面を見なくてはならないこの刑事は、自分なりに美しいものを求めて詩の朗読会に通い続けていたのだ。犯罪者たちを追い掛けるその体で、彼もまた美しい一編の詩を自分の内側から絞り出そうともがいている。  現実を見つめることは恐ろしい。美しいもの、汚いもの、自分にとって都合の悪いものも、有りのままに受け止めることは容易なことではない。イ・チャンドン監督は映画を通して静かに語り掛けてくる。詩を書くことも、映画を撮ることも、自分の人生を歩くことも、そこから始まるんだよと。ミジャが最後に詠む一編の詩はとてつもなく美しい。 (文=長野辰次) poetly5.jpg 『ポエトリー アグネスの詩』 監督・脚本/イ・チャンドン 出演/ユン・ジョンヒ、イ・デビッド、キム・ヒラ、アン・ネサン、パク・ミョンシン 提供・配給/シグロ、キノアイ・ジャパン 2月11日(土)より銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー<http://poetry-shi.jp>
オアシス 純愛だけじゃない? amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』

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高倉健がレポーターを務めた『むかし男ありけり』。
健さんもエーブンさんも、檀一雄の愛人の前で固まってしまう。
(c)RKB毎日放送
 "エーブンさん"と聞くと、映像関係の仕事に多少なりとも関わっていた人間は特別な感慨が湧く。特に地方出身者は憧れと親しみと同時に、「エーブンさんのようには自分はなれない」という畏怖の念も抱く。エーブンさんこと、木村栄文(きむら・ひでふみ)さんはRKB毎日放送という福岡にあるローカル局のいちディレクターだった。ローカル局の限られた予算と時間をやりくりして、独自の視点によるドキュメンタリーをコツコツとつくり続けた人だ。ローカル局制作のテレビ番組というと地味でしょぼいイメージがあるが、エーブンさんはローカル局に身を置くことを逆に強みとし、視聴率や流行に左右されずに、丹念に取材を進め、オリジナリティー溢れる番組をつくり続けた。エーブンさんが手掛けたドキュメンタリーの多くはローカルでしか放送されなかったが、文化庁芸術祭で大賞をはじめ6度の受賞を果たし"賞男"とも呼ばれた。でも、賞男らしい野心ギラギラさは感じさせず、いつもひょうひょうとしていた。同僚たちが局内で出世したり、東京に出て成功を収めることにも動じることなく、エーブンさんは生まれ故郷である福岡に腰を据え、ずっと現役ディレクターとして番組づくりにこだわった。  2011年3月22日に76歳で亡くなったエーブンさんの1周忌を控えて企画されたのが公開講座『木村栄文レトロスペクティブ』。2011年山形国際ドキュメンタリー映画際で上映されたエーブンさんの代表作12本を特集上映するものだ。無頼派作家・檀一雄がポルトガルや博多湾に浮かぶ能古島で過ごした晩年の足取りを追う『むかし男ありけり』(84)は俳優・高倉健がレポーターを務めている。石炭の産地として戦後の日本を支えた筑豊の歴史を辿る『まっくら』(73)では、『まんが日本昔ばなし』(TBS系)の名ナレーター・常田富士男と『百物語』の語り部として知られる白石加代子が廃墟と化した炭坑町の住人/もののけとして登場する。ところどころでエーブンさんはマイクを片手に画面に顔を出し、人懐っこい笑顔を浮かべたり、取材相手から逆に質問され困惑したりする。まるで手塚治虫の漫画に出てくるヒョウタンツギのようでもある。ローカル局でこんなにも個性豊かな番組づくりが行なわれていたことに驚かせられる。ふだんはテレビ番組に出演しない"健さん"こと高倉健だが、「エーブンさんの番組なら、ノーギャラで構いません」といって引き受けたそうだ。ローカル局だから、いやエーブンさんだからこそ出来たドキュメンタリーばかりだ。
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筑豊炭坑の歴史を追った『まっくら』には
白石加代子、常田富士男らが登場。炭坑事故
で亡くなった人たちと遺族に想いを寄せる。
 中央には負けんよ、ローカルを舐めなさんな、そんな気負いはエーブンさんのドキュメンタリーからは感じられないが、やはりローカルならではの題材や視点で構成されている。『桜吹雪のホームラン 証言・天才打者大下弘』(81)は西鉄ライオンズ黄金期の4番打者・大下弘の評伝。福岡の人間にとって大下は伝説のホームランバッターだ。きれいな弧を描くホームランをぽんぽん打つことから"ポンちゃん"と呼ばれた。打たれた相手チームのピッチャーも「ポンちゃんなら仕方ない」と思わせる清々しいホームランを打つ人だった。仲のよいピッチャーからはあまり打たない、全国各地の遊郭には大下の達筆なサイン色紙が飾ってあった、キャンプ地で朝帰りしてそのまま練習に参加した......。現在のプロアスリートの世界では考えられないことを平然とやる人だった。  大下の終生のライバルだった元巨人の川上哲治は「大下くんも現役時代はずいぶん稼いだでしょうに。野球も人生も同じで、将来のことを考えてやらないと」とインタビューに答える。後輩を連れて遊び回らなければ、もっと長い現役生活を送ることができたし記録も残せたし、引退後も悠々自適に暮らせただろうにということだ。だが、大下の稼いだお金の多くは、女手ひとつで育ててくれた母親がヒロポン中毒になったための治療費に注がれた。川上は大下の笑顔の裏の心情までは知らなかった。また、大下はシーズン中でも自宅に集まってくる野球少年たちにごちそうを振る舞い、少年たちの空腹と心を満たした。若手選手たちを引き連れて野球ファンの待つ歓楽街へ繰り出し、飲み代は全部ひとりで払った。稼いだお金は貯め込まずに社会に還元することが、大下の美徳だった。番組に登場する人たちは川上哲治を除いて、みんな愉快そうに"ポンちゃん"との思い出を語る。彼らがポンちゃんとポンちゃんの打ったホームランのことを思い出すとき、彼らの頭の中には桜吹雪が舞っている。記録より記憶に残る男とは大下弘のことを指すのだろう。
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西鉄ライオンズの4番打者・大下弘を
主人公にした『桜吹雪のホームラン』。
今や死語となった"男のロマン"を再現する。
 『記者それぞれの夏 紙面に映す日米戦争』(90)もローカル局ならではのアプローチだ。太平洋戦争中、日本と米国のジャーナリストたちが戦局をどのように記事にしたかを検証したもの。太平洋戦争が勃発し、米国で暮らしていた日系人たちは強制収容所に集められた。米国に数多くある新聞の中で、ワシントン州にあるベインブリッジ島の発行部数わずか3,000部のローカル紙「ベインブリッジ・レビュー」だけが市民権を持つ日系人を収容所送りにした行為は違憲であることを訴え続けた。終戦後、多くの日系人たちが米国での居場所を失ってしまったのに対し、ベインブリッジ島でイチゴ栽培をしていた300人の日系人たちは無事に島に戻り、元の生活に戻ることができた。「ベインブリッジ・レビュー」の責任発行者であるウッドワード夫妻の存在が大きかったという。ローカル紙は独自の視点を持つメディアであり、全国メジャー紙の縮小版ではないことをこのドキュメンタリーは教えてくれる。
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『あいラブ優ちゃん』はエーブンさん自身が
カメラを回し、ナレーションも手掛けた
エッセイ風ドキュメンタリーだ。
 生まれ故郷に腰を据え、淡々と番組をつくり、ひょうひょうと生きたエーブンさん。どの作品にも作り手の息づかい、肌のぬくもりが感じられる。一介のサラリーマンでしかない男が、どうしてこうもタフさをキープできたのか。エーブンさん自身がカメラを回した『あいラブ優ちゃん』(76)を観ることで合点がいった。『あいラブ優ちゃん』はエーブンさんの当時小学生だった長女・優ちゃんを中心にエーブンさん一家の生活をそのまま映し出したセルフドキュメンタリー。優ちゃんは先天性の障害を持つが、とっても天真爛漫。運動会はいつもドンケツ、でもニコニコ笑いながら最後まで走り切る。エーブンさんも奥さんも優ちゃんの世話でヘトヘトになるが、同時に保護者としての強さと生きるもの全てへの慈愛のまなざしを身に付けるようになっていく。優ちゃんが今後生きていくことになる社会が少しでも住みやすいよう、そう願いながらローカル局で地道に番組づくりに励んだ。エーブンさんが残したドキュメンタリーの数々は、娘の将来を想う父親の祈りの記録でもあったのだ。  エーブンさんは自分の番組づくりを進める一方、アートネイチャー社をスポンサーに、若手スタッフを主体にしたドキュメンタリー番組『電撃黒潮隊』のプロデューサーも務めた。九州・沖縄・山口でローカルネットされた『電撃黒潮隊』は1992年~2002年にわたって毎週オンエアされた。エーブンさんは九州の他局に籍を置く若いディレクターたちを「自分の手に負えないものに挑もうよ」という言葉で励ましたそうだ。地方で暮らしながら、自分の手に負えないものをカメラで追い掛けて、エーブンさんは"伝説のディレクター"となった。自分の手に余るものに挑むことが"伝説の男"への第一歩らしい。 (文=長野辰次) 「木村栄文レトロスペクティブ」 2月11日(土)~3月2日(金)オーディトリウム渋谷ほか全国順次開催 主催/RKB毎日放送、映画美学校、東風 <http://kimura-eibun.com> 『苦楽浄土』(70)第25回芸術賞大賞 『飛べやオガチ』(70)第14回ギャラクシー賞期間選奨 『いまは冬』(72) 『まっくら』(73) 『鉛の霧』(74)1974年日本民間放送連盟賞テレビ社会番組最優秀賞ほか 『あいラブ優ちゃん』(76)第14回ギャラクシー賞大賞 『記者ありき 六鼓・菊竹純』(77)第5回放送文化基金賞ドキュメンタリー番組 番組賞ほか 『鳳仙花 近く遥かな歌声』(80)第35回芸術祭大賞 『絵描きと戦争』(81)第36回芸術祭優秀賞 『むかし男ありけり』(84)第39回芸術祭優秀賞ほか 『桜吹雪のホームラン 証言・天才打者大下弘』(89)1989年日本民間放送連盟賞テレビ娯楽番組最優秀賞 『記者それぞれの夏 紙面に映す日米戦争』(90)第6回芸術作品賞
記者ありき―六皷・菊竹淳の生涯 勉強させていただきます。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』

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高倉健がレポーターを務めた『むかし男ありけり』。
健さんもエーブンさんも、檀一雄の愛人の前で固まってしまう。
(c)RKB毎日放送
 "エーブンさん"と聞くと、映像関係の仕事に多少なりとも関わっていた人間は特別な感慨が湧く。特に地方出身者は憧れと親しみと同時に、「エーブンさんのようには自分はなれない」という畏怖の念も抱く。エーブンさんこと、木村栄文(きむら・ひでふみ)さんはRKB毎日放送という福岡にあるローカル局のいちディレクターだった。ローカル局の限られた予算と時間をやりくりして、独自の視点によるドキュメンタリーをコツコツとつくり続けた人だ。ローカル局制作のテレビ番組というと地味でしょぼいイメージがあるが、エーブンさんはローカル局に身を置くことを逆に強みとし、視聴率や流行に左右されずに、丹念に取材を進め、オリジナリティー溢れる番組をつくり続けた。エーブンさんが手掛けたドキュメンタリーの多くはローカルでしか放送されなかったが、文化庁芸術祭で大賞をはじめ6度の受賞を果たし"賞男"とも呼ばれた。でも、賞男らしい野心ギラギラさは感じさせず、いつもひょうひょうとしていた。同僚たちが局内で出世したり、東京に出て成功を収めることにも動じることなく、エーブンさんは生まれ故郷である福岡に腰を据え、ずっと現役ディレクターとして番組づくりにこだわった。  2011年3月22日に76歳で亡くなったエーブンさんの1周忌を控えて企画されたのが公開講座『木村栄文レトロスペクティブ』。2011年山形国際ドキュメンタリー映画際で上映されたエーブンさんの代表作12本を特集上映するものだ。無頼派作家・檀一雄がポルトガルや博多湾に浮かぶ能古島で過ごした晩年の足取りを追う『むかし男ありけり』(84)は俳優・高倉健がレポーターを務めている。石炭の産地として戦後の日本を支えた筑豊の歴史を辿る『まっくら』(73)では、『まんが日本昔ばなし』(TBS系)の名ナレーター・常田富士男と『百物語』の語り部として知られる白石加代子が廃墟と化した炭坑町の住人/もののけとして登場する。ところどころでエーブンさんはマイクを片手に画面に顔を出し、人懐っこい笑顔を浮かべたり、取材相手から逆に質問され困惑したりする。まるで手塚治虫の漫画に出てくるヒョウタンツギのようでもある。ローカル局でこんなにも個性豊かな番組づくりが行なわれていたことに驚かせられる。ふだんはテレビ番組に出演しない"健さん"こと高倉健だが、「エーブンさんの番組なら、ノーギャラで構いません」といって引き受けたそうだ。ローカル局だから、いやエーブンさんだからこそ出来たドキュメンタリーばかりだ。
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筑豊炭坑の歴史を追った『まっくら』には
白石加代子、常田富士男らが登場。炭坑事故
で亡くなった人たちと遺族に想いを寄せる。
 中央には負けんよ、ローカルを舐めなさんな、そんな気負いはエーブンさんのドキュメンタリーからは感じられないが、やはりローカルならではの題材や視点で構成されている。『桜吹雪のホームラン 証言・天才打者大下弘』(81)は西鉄ライオンズ黄金期の4番打者・大下弘の評伝。福岡の人間にとって大下は伝説のホームランバッターだ。きれいな弧を描くホームランをぽんぽん打つことから"ポンちゃん"と呼ばれた。打たれた相手チームのピッチャーも「ポンちゃんなら仕方ない」と思わせる清々しいホームランを打つ人だった。仲のよいピッチャーからはあまり打たない、全国各地の遊郭には大下の達筆なサイン色紙が飾ってあった、キャンプ地で朝帰りしてそのまま練習に参加した......。現在のプロアスリートの世界では考えられないことを平然とやる人だった。  大下の終生のライバルだった元巨人の川上哲治は「大下くんも現役時代はずいぶん稼いだでしょうに。野球も人生も同じで、将来のことを考えてやらないと」とインタビューに答える。後輩を連れて遊び回らなければ、もっと長い現役生活を送ることができたし記録も残せたし、引退後も悠々自適に暮らせただろうにということだ。だが、大下の稼いだお金の多くは、女手ひとつで育ててくれた母親がヒロポン中毒になったための治療費に注がれた。川上は大下の笑顔の裏の心情までは知らなかった。また、大下はシーズン中でも自宅に集まってくる野球少年たちにごちそうを振る舞い、少年たちの空腹と心を満たした。若手選手たちを引き連れて野球ファンの待つ歓楽街へ繰り出し、飲み代は全部ひとりで払った。稼いだお金は貯め込まずに社会に還元することが、大下の美徳だった。番組に登場する人たちは川上哲治を除いて、みんな愉快そうに"ポンちゃん"との思い出を語る。彼らがポンちゃんとポンちゃんの打ったホームランのことを思い出すとき、彼らの頭の中には桜吹雪が舞っている。記録より記憶に残る男とは大下弘のことを指すのだろう。
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西鉄ライオンズの4番打者・大下弘を
主人公にした『桜吹雪のホームラン』。
今や死語となった"男のロマン"を再現する。
 『記者それぞれの夏 紙面に映す日米戦争』(90)もローカル局ならではのアプローチだ。太平洋戦争中、日本と米国のジャーナリストたちが戦局をどのように記事にしたかを検証したもの。太平洋戦争が勃発し、米国で暮らしていた日系人たちは強制収容所に集められた。米国に数多くある新聞の中で、ワシントン州にあるベインブリッジ島の発行部数わずか3,000部のローカル紙「ベインブリッジ・レビュー」だけが市民権を持つ日系人を収容所送りにした行為は違憲であることを訴え続けた。終戦後、多くの日系人たちが米国での居場所を失ってしまったのに対し、ベインブリッジ島でイチゴ栽培をしていた300人の日系人たちは無事に島に戻り、元の生活に戻ることができた。「ベインブリッジ・レビュー」の責任発行者であるウッドワード夫妻の存在が大きかったという。ローカル紙は独自の視点を持つメディアであり、全国メジャー紙の縮小版ではないことをこのドキュメンタリーは教えてくれる。
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『あいラブ優ちゃん』はエーブンさん自身が
カメラを回し、ナレーションも手掛けた
エッセイ風ドキュメンタリーだ。
 生まれ故郷に腰を据え、淡々と番組をつくり、ひょうひょうと生きたエーブンさん。どの作品にも作り手の息づかい、肌のぬくもりが感じられる。一介のサラリーマンでしかない男が、どうしてこうもタフさをキープできたのか。エーブンさん自身がカメラを回した『あいラブ優ちゃん』(76)を観ることで合点がいった。『あいラブ優ちゃん』はエーブンさんの当時小学生だった長女・優ちゃんを中心にエーブンさん一家の生活をそのまま映し出したセルフドキュメンタリー。優ちゃんは先天性の障害を持つが、とっても天真爛漫。運動会はいつもドンケツ、でもニコニコ笑いながら最後まで走り切る。エーブンさんも奥さんも優ちゃんの世話でヘトヘトになるが、同時に保護者としての強さと生きるもの全てへの慈愛のまなざしを身に付けるようになっていく。優ちゃんが今後生きていくことになる社会が少しでも住みやすいよう、そう願いながらローカル局で地道に番組づくりに励んだ。エーブンさんが残したドキュメンタリーの数々は、娘の将来を想う父親の祈りの記録でもあったのだ。  エーブンさんは自分の番組づくりを進める一方、アートネイチャー社をスポンサーに、若手スタッフを主体にしたドキュメンタリー番組『電撃黒潮隊』のプロデューサーも務めた。九州・沖縄・山口でローカルネットされた『電撃黒潮隊』は1992年~2002年にわたって毎週オンエアされた。エーブンさんは九州の他局に籍を置く若いディレクターたちを「自分の手に負えないものに挑もうよ」という言葉で励ましたそうだ。地方で暮らしながら、自分の手に負えないものをカメラで追い掛けて、エーブンさんは"伝説のディレクター"となった。自分の手に余るものに挑むことが"伝説の男"への第一歩らしい。 (文=長野辰次) 「木村栄文レトロスペクティブ」 2月11日(土)~3月2日(金)オーディトリウム渋谷ほか全国順次開催 主催/RKB毎日放送、映画美学校、東風 <http://kimura-eibun.com> 『苦楽浄土』(70)第25回芸術賞大賞 『飛べやオガチ』(70)第14回ギャラクシー賞期間選奨 『いまは冬』(72) 『まっくら』(73) 『鉛の霧』(74)1974年日本民間放送連盟賞テレビ社会番組最優秀賞ほか 『あいラブ優ちゃん』(76)第14回ギャラクシー賞大賞 『記者ありき 六鼓・菊竹純』(77)第5回放送文化基金賞ドキュメンタリー番組 番組賞ほか 『鳳仙花 近く遥かな歌声』(80)第35回芸術祭大賞 『絵描きと戦争』(81)第36回芸術祭優秀賞 『むかし男ありけり』(84)第39回芸術祭優秀賞ほか 『桜吹雪のホームラン 証言・天才打者大下弘』(89)1989年日本民間放送連盟賞テレビ娯楽番組最優秀賞 『記者それぞれの夏 紙面に映す日米戦争』(90)第6回芸術作品賞
記者ありき―六皷・菊竹淳の生涯 勉強させていただきます。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』

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歴代大統領を脅し、マスコミを巧みに操作して、半世紀にわたって
FBI長官の座を守った怪人物J・エドガー・フーバーの生涯を、
レオナルド・ディカプリオが嬉々として演じている。 (C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
 77歳で亡くなるまで、FBI(連邦捜査局)初代長官の座に居座り続けた男、J・エドガー・フーバー。その在位期間は禁酒法の時代1924年からニクソン大統領がウォーターゲート事件を引き起こした1972年までの約半世紀にもわたる。罷免権を持つ米国大統領でさえ、彼には逆らうことができず、米国の"影の大統領"と呼ばれた。FBIの組織づくりに手腕を発揮し、科学的捜査方法を導入するなどの功績を残す一方、生涯独身だったためにホモ説が囁かれる謎多き怪人物でもあった。1930年生まれのクリント・イーストウッド監督は最新作『J・エドガー』の中でエドガー・フーバーの生涯に迫ると同時に、犯罪やスキャンダルに満ちた米国の裏面史を振り返っている。スクリーンの中で自分が決めた掟にのみ従うアウトローを演じ続けてきたイーストウッドが、米国の"正義"を守り続けてきたエドガー・フーバーをどのように描いたのか興味深い。  歴代大統領たちは当然ながら目の上のたんこぶ的存在であるエドガー・フーバーを権力の座から引きずり降ろそうとしたが、その度にエドガー・フーバーはFBI名物である"機密ファイル"をちらつかせて大統領たちを黙らせた。機密ファイルには要人たちの極秘情報が記録されており、ルーズベルト大統領夫人の不倫相手、ケネディ大統領の海軍時代からの女性関係などもしっかり収めてあった。人間だれしも、他人には知られたくない過去があるもの。あの手この手で成功を収めた権力者ならなおのこと。エドガー・フーバーは8人の大統領のもとでFBI長官を務めたが、誰ひとり彼に引導を渡すことができなかった。エドガー・フーパーはマスコミ関係者の詳細な素性も調べ上げた。エドガー・フーバーは情報収集力で民主国家・米国を支配した"闇の王様"だった。
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20代にしてFBI初代長官に就任したエドガー
・フーバーは、捜査官たちに規律と身だしなみ
を求める。
 なぜ、そこまでしてエドガー・フーバーは、権力の座にこだわり続けたのか? 自分の信じる"正義"を貫くためだとイーストウッド監督は説いている。エドガー・フーバーが長官に就任して間もないFBI創設期に起きたのが、リンドバーグ愛児誘拐事件。世界初となる大西洋横断飛行に成功した国民的ヒーローであるチャールズ・リンドバーグの2歳に満たない息子が1932年に誘拐された事件だ。エドガー・フーバーはこの事件をきっかけに指紋照合システムを作成し、それまでの誘拐犯罪の捜査が州単位で行なわれたのを米国全域で捜査できるリンドバーグ法の成立に情熱を注ぐ。市民の生活を犯罪者たちの恐怖から守るという大義名分によって、FBIは大きな力を持つようになった。一方、エドガー・フーバーの意欲とは裏腹に、誘拐事件は哀しい結末を迎える。科学捜査によって逮捕した犯人も、冤罪の可能性が高いと言われている。  だが、エドガー・フーバーの信念は頑として変わらない。厳格な家庭で育てられたエドガー・フーバーは卑劣な犯罪者が許せない。法を犯すギャングたちをヒーローのごとく扱うマスコミも許せない。米国を揺るがす共産主義者たちは徹底的に排除する。自分に従わない人間はとことん痛めつける。FBIの権力をますます強めていく。すべては己の信じる"正義"を守るためだ。そのためにはキレイごとは言ってられない。電話の盗聴や内部告発を装ったタレ込みも厭わない。民衆への影響力が大きい政治家や映画スターたちのスキャンダルを握り、犯罪のない国家づくりへと邁進する。イーストウッド監督が人間の心の闇まで見つめて映画をつくるように、エドガー・フーバーも人間社会の暗部を監視することで米国を牛耳ったのだ。  『J・エドガー』では、レオナルド・ディカプリオが理想に燃える青年期からぶよぶよになる晩年の姿まで怪人物エドガー・フーバーをひとりで演じ切る。ディカプリオ演じる晩年のエドガー・フーバーは自分の老いを認めたくなく、"強壮剤"という名のドラッグを常用する。正義一直線で生きてきた彼は、口述筆記で輝かしい自分の回顧録を残そうとする。教育熱心だった母親(ジュディ・デンチ)との絆、リンドバーグ愛児誘拐事件の苦い顛末、ジョン・ディリンジャーをはじめとするギャングスターたちとの抗争と人気絶頂期、キング牧師のノーベル平和賞受賞妨害工作......さまざまな時代の出来事がエドガー・フーバーの脳裏を駆け巡る。老いのせいかドラッグのせいか、都合のいいエピソードがジグゾーパズルのようにバラバラにシャッフルされて渦巻く。イーストウッド監督は、ひとりの人間の一生はそうそう簡単に分かるもんじゃないよとでも言いたげだ。
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毎年クリスマスは母親と過ごす、孝行息子の
エドガー・フーバー。その横には副長官
クライド・トルソンが寄り添った。
 ゲイであることを公表して、マイノリティーのための公権運動に取り組んだハービー・ミルクの伝記映画『ミルク』(08)で知られる脚本家ダスティン・ランス・ブラックが関係者への入念な取材を重ねて、本作のシナリオを担当。生涯を独身で通し、FBI副長官のクライド・トルソン(アーミー・ハマー)と毎日欠かさず食事を共にしていたことからホモ説、バイセクシャル説が噂されたエドガー・フーパーだが、本作では彼の私生活をスキャンダラスな視点から暴くことはしていない。公私にわたってエドガー・フーバーに寄り添ったクライド・トルソンとの関係を"尊敬"と"信頼"の最上級形のものとして捉えている。2人の男の熱い関係を、男臭いキャラクターを演じてきたイーストウッド監督がどのように描いているかも見どころとなっている。  エドガー・フーバーの個人秘書を務めたヘレン・ガンディ(ナオミ・ワッツ)も実在の人物。エドガー・フーバーをFBI長官就任以来ずっと支え続けた女性だ。恋愛感情で結ばれた男女の多くが一生の愛を誓いながらも、熱が醒めるのと同時に別れていくのに対し、エドガー・フーバーとヘレン・ガンディは尊敬できるボスと忠実な秘書という関係を終生通した。世間的な恋愛関係や婚姻関係とは異なるが、これも一種の愛の形なのかもしれない。  価値観やモラルが時代によってどんどん変わっていくように、歴史上の人物の評価も時代によって大きく変わっていく。どれだけの名声を手に入れたかという生涯人気度数よりも、本人がどれだけ自分の信じた道を突き進むことができたかという信念走行距離のほうに、イーストウッド監督は人物評価において重きを置いている。権力の座に固執し続けたエドガー・フーバーは、若かりし頃に自分が掲げた"正義"の旗印がすっかりドドメ色に変色してしまっていることに気づかない。共産主義者の排斥に努めながら、彼自身が共産国の独裁者のような恐怖政治を強いることになった。客観的に観れば、あまりにも"痛すぎる人生"だ。でも、エドガー・フーバーはどんなに時代が変わろうとも、醜聞まみれになろうとも、自分が死ぬ前日まで仕事に打ち込み、自分が頑なに信じる"正義"を貫いた。自分が信頼を寄せる部下たちを家族同然のように愛し、生涯を共にした。自分の人生を全力でまっとうしたひとりの男として、イーストウッド監督はある種の敬意を込めて描いている。 (文=長野辰次) edgar04.jpg 『J・エドガー』 製作・監督/クリント・イーストウッド 脚本/ダスティン・ランス・ブラック 出演/レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ、アーミー・ハマー、ジョシュ・ルーカス、ジュディ・デンチ  配給/ワーナー・ブラザース映画 丸の内ピカデリーほか1月28日(土)より全国ロードショー <http://wwws.warnerbros.co.jp/hoover>
FBIフーバー長官の呪い 盗聴マニアにして同性愛者。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! 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