“エンタの神さま”ツイ・ハークが大復活! B級映画マニアの心を焦がす『王朝の陰謀』

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才能がありすぎるがゆえに、冷遇されてきたディー判事(アンディ・ラウ)。
近年のツイ・ハーク自身を思わせる主人公だ。
 永遠のケレン味職人、こけおどし美学の求道者、ホラ吹き大魔人、黒忍者ハッタリくん……。どれも、香港映画界の巨匠ツイ・ハークに捧げたい尊称だ。もちろん、B級映画を愛する人間にとって、最大級の誉め言葉のつもり。“香港のスピルバーグ”と呼ばれたツイ・ハークといえば、ちょっとエッチな伝奇ファンタジー『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』、ジョン・ウー監督の出世作となった香港ノワール『男たちの挽歌』、ジェット・リーが驚異的な身体能力を発揮した武侠ロマン『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』などの人気シリーズを80~90年代に大ヒットさせた人気プロデューサー&監督。ツイ・ハークが表舞台に引っ張り上げたジョン・ウーがハリウッドで大成功し、香港に凱旋後も超大作『レッドクリフ』をメガヒットさせたのとは対照的に、近年のツイ・ハークはかつての輝きが失われた感があった。すみません、それって間違った認識でした。ツイ・ハークの本当の黄金時代はこれから始まるんじゃないかと思えるほど、アンディ・ラウ主演作『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』が破壊的に面白いんですよ。
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都市伝説でおなじみ“人体発火事件”が唐の都
で連続発生。巨大仏の建立に関わる王朝貴族が
次々と犠牲になる。
 史実や民間伝承に巧みにフィクションを注入し、観る者をイマジネーションの世界に誘い込むのが、ツイ・ハーク作品の面白さ。本作の主人公は、ディー・レンチェ判事。唐の時代、中国四千年の歴史にあって唯一女帝の座に就いた則天武后に仕えた実在の名判事。“中国のシャーロック・ホームズ”と称されている人物だ。超常現象を一切信じない現実主義者のディー判事が、唐の都を騒がせる“人体発火事件”の真相を解き明かすというミステリー仕立てになっている。  ツイ・ハークはアイデアマンゆえに、SFXや小道具などに凝りすぎるきらいがあったが、今回はディー判事による謎解きという縦軸がしっかりあるため、内容にブレがない。ディー判事(アンディ・ラウ)を支えるキャラクターたちも明快。SMの女王さまばりにムチを操る男装の麗人チンアル(リー・ビンビン)、アルビノっぽいビジュアルの若い司法官ペイ(ダン・チャオ)がそれぞれの思惑を胸に隠しながらディー判事の捜査に同行し、共に王朝転覆をめぐる陰謀を追う。人体発火事件に加え、牛久大仏を遥かに凌駕する巨大仏、言葉をしゃべる鹿、敵の武器の弱点を瞬時にリサーチする降龍杖……とツイ・ハークならではケレン味たっぷりなキーアイテムが続々登場。まさにアイデアのマトリョーシカ状態。それでもって今回は、それらのアイデアがディー判事の謎解きによって見事にググ~ンと収斂されていくんです。  今回の設定の中で、ひときわユニークなのが物語中盤に登場する“亡者の市”。漢時代に地割れによって沈んだ旧市街地が地下に残っており、お尋ね者や訳ありな人たちが徘徊するアンダーワールドを形成している。犯罪に関する裏情報を収集するなら、裏社会の住人に尋ねるのがいちばんということで、ディー判事ら一行は地下都市へと降りていく。洞窟で撮影されたというこのパートは、香港アクション映画の伝統芸であるワイヤーアクションが満載。各キャラクターが敵味方入り乱れて、洞窟内をビュンビュン飛びまくる。ちなみに本作のアクション監督はサモ・ハン。80年代の香港映画を思わせる、ユーモラスさのあるアクションが本作の味わいをより深めてくれます。
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デ、デカい! バベルの塔かスカイツリーかと
いうくらいの高さを誇る超高層仏“通天仏”。
クライマックスで大崩壊しちゃいます!
 そして、クライマックスの舞台となるのは、スカイツリーとためをはるくらいの超高層大仏“通天仏”。真犯人との対峙は、2時間ドラマでは崖の上かビルの屋上と決まっている。人はなぜ、高い所に登ると「許してくれ。オレがやった」とか「結婚しよう。今度一緒に登るときはきっと3人だね」とか余計なことを口走しちゃうんだろうか。それはまぁ置いといて、きちんとサスペンスドラマのツボを押さえてくれるツイ・ハークのサービス精神がうれしい。そして、謎の解明と同時に始まるのが、通天仏の大崩壊! このお約束感がたまらんッ。正直いって、この巨大仏がいかにもCGでの書き割りっぽいんだけど、このチープさ、こけおどし感こそ、香港映画のダイゴ味でしょう!  溢れんばかりの才能がありながらも日の当たる場所に出ることができずにいるディー判事はツイ・ハーク自身の心情が投影されているのかなぁとか、かつては志をともにした仲間との決別はツイ・ハークとジョン・ウーの関係を匂わせているのかなぁとか、そんな周囲が邪推する諸々の恩讐もB級映画ならではのうさん臭さもすべて巻き込んで巨大仏がぶっ倒れていく。ザ・カタルシス。神も仏も名声も、頼るべきものはもう何もない。後に残るは、観客を徹底的に楽しませるべきエンターテイメント道だけである。  ツイ・ハーク卿、ここに大復活! “香港のスピルバーグ”といういかがわしい呼称の代わりに、今後はエンターテイメント道を突き進む彼の背中を追う“ツイ・ハークの息子”たちが世界各地から続々と現われることだろう。『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』という長たらしい邦題の本作は、王朝貴族の人体だけでなく、B級映画マニアのハートまで熱く焦がしてくれる快作だ。 (文=長野辰次) ocho4.jpg 『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』 監督/ツイ・ハーク アクション監督/サモ・ハン 出演/アンディ・ラウ、リー・ビンビン、ダン・チャオ、レオン・カーフェイ、カリーナ・ラウ 配給/ツイン 配給協力/太秦 5月5日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開 <http://www.dee-movie.com/> (c)2010 Huayi Brothers Media Corporation Huayi Brothers International Ltd. All Rights Reserved. ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第168回]人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』 [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! 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“エンタの神さま”ツイ・ハークが大復活! B級映画マニアの心を焦がす『王朝の陰謀』

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才能がありすぎるがゆえに、冷遇されてきたディー判事(アンディ・ラウ)。
近年のツイ・ハーク自身を思わせる主人公だ。
 永遠のケレン味職人、こけおどし美学の求道者、ホラ吹き大魔人、黒忍者ハッタリくん……。どれも、香港映画界の巨匠ツイ・ハークに捧げたい尊称だ。もちろん、B級映画を愛する人間にとって、最大級の誉め言葉のつもり。“香港のスピルバーグ”と呼ばれたツイ・ハークといえば、ちょっとエッチな伝奇ファンタジー『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』、ジョン・ウー監督の出世作となった香港ノワール『男たちの挽歌』、ジェット・リーが驚異的な身体能力を発揮した武侠ロマン『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』などの人気シリーズを80~90年代に大ヒットさせた人気プロデューサー&監督。ツイ・ハークが表舞台に引っ張り上げたジョン・ウーがハリウッドで大成功し、香港に凱旋後も超大作『レッドクリフ』をメガヒットさせたのとは対照的に、近年のツイ・ハークはかつての輝きが失われた感があった。すみません、それって間違った認識でした。ツイ・ハークの本当の黄金時代はこれから始まるんじゃないかと思えるほど、アンディ・ラウ主演作『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』が破壊的に面白いんですよ。
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都市伝説でおなじみ“人体発火事件”が唐の都
で連続発生。巨大仏の建立に関わる王朝貴族が
次々と犠牲になる。
 史実や民間伝承に巧みにフィクションを注入し、観る者をイマジネーションの世界に誘い込むのが、ツイ・ハーク作品の面白さ。本作の主人公は、ディー・レンチェ判事。唐の時代、中国四千年の歴史にあって唯一女帝の座に就いた則天武后に仕えた実在の名判事。“中国のシャーロック・ホームズ”と称されている人物だ。超常現象を一切信じない現実主義者のディー判事が、唐の都を騒がせる“人体発火事件”の真相を解き明かすというミステリー仕立てになっている。  ツイ・ハークはアイデアマンゆえに、SFXや小道具などに凝りすぎるきらいがあったが、今回はディー判事による謎解きという縦軸がしっかりあるため、内容にブレがない。ディー判事(アンディ・ラウ)を支えるキャラクターたちも明快。SMの女王さまばりにムチを操る男装の麗人チンアル(リー・ビンビン)、アルビノっぽいビジュアルの若い司法官ペイ(ダン・チャオ)がそれぞれの思惑を胸に隠しながらディー判事の捜査に同行し、共に王朝転覆をめぐる陰謀を追う。人体発火事件に加え、牛久大仏を遥かに凌駕する巨大仏、言葉をしゃべる鹿、敵の武器の弱点を瞬時にリサーチする降龍杖……とツイ・ハークならではケレン味たっぷりなキーアイテムが続々登場。まさにアイデアのマトリョーシカ状態。それでもって今回は、それらのアイデアがディー判事の謎解きによって見事にググ~ンと収斂されていくんです。  今回の設定の中で、ひときわユニークなのが物語中盤に登場する“亡者の市”。漢時代に地割れによって沈んだ旧市街地が地下に残っており、お尋ね者や訳ありな人たちが徘徊するアンダーワールドを形成している。犯罪に関する裏情報を収集するなら、裏社会の住人に尋ねるのがいちばんということで、ディー判事ら一行は地下都市へと降りていく。洞窟で撮影されたというこのパートは、香港アクション映画の伝統芸であるワイヤーアクションが満載。各キャラクターが敵味方入り乱れて、洞窟内をビュンビュン飛びまくる。ちなみに本作のアクション監督はサモ・ハン。80年代の香港映画を思わせる、ユーモラスさのあるアクションが本作の味わいをより深めてくれます。
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デ、デカい! バベルの塔かスカイツリーかと
いうくらいの高さを誇る超高層仏“通天仏”。
クライマックスで大崩壊しちゃいます!
 そして、クライマックスの舞台となるのは、スカイツリーとためをはるくらいの超高層大仏“通天仏”。真犯人との対峙は、2時間ドラマでは崖の上かビルの屋上と決まっている。人はなぜ、高い所に登ると「許してくれ。オレがやった」とか「結婚しよう。今度一緒に登るときはきっと3人だね」とか余計なことを口走しちゃうんだろうか。それはまぁ置いといて、きちんとサスペンスドラマのツボを押さえてくれるツイ・ハークのサービス精神がうれしい。そして、謎の解明と同時に始まるのが、通天仏の大崩壊! このお約束感がたまらんッ。正直いって、この巨大仏がいかにもCGでの書き割りっぽいんだけど、このチープさ、こけおどし感こそ、香港映画のダイゴ味でしょう!  溢れんばかりの才能がありながらも日の当たる場所に出ることができずにいるディー判事はツイ・ハーク自身の心情が投影されているのかなぁとか、かつては志をともにした仲間との決別はツイ・ハークとジョン・ウーの関係を匂わせているのかなぁとか、そんな周囲が邪推する諸々の恩讐もB級映画ならではのうさん臭さもすべて巻き込んで巨大仏がぶっ倒れていく。ザ・カタルシス。神も仏も名声も、頼るべきものはもう何もない。後に残るは、観客を徹底的に楽しませるべきエンターテイメント道だけである。  ツイ・ハーク卿、ここに大復活! “香港のスピルバーグ”といういかがわしい呼称の代わりに、今後はエンターテイメント道を突き進む彼の背中を追う“ツイ・ハークの息子”たちが世界各地から続々と現われることだろう。『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』という長たらしい邦題の本作は、王朝貴族の人体だけでなく、B級映画マニアのハートまで熱く焦がしてくれる快作だ。 (文=長野辰次) ocho4.jpg 『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』 監督/ツイ・ハーク アクション監督/サモ・ハン 出演/アンディ・ラウ、リー・ビンビン、ダン・チャオ、レオン・カーフェイ、カリーナ・ラウ 配給/ツイン 配給協力/太秦 5月5日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開 <http://www.dee-movie.com/> (c)2010 Huayi Brothers Media Corporation Huayi Brothers International Ltd. All Rights Reserved. ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第168回]人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』 [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』

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ぱっと見は、『セックス・アンド・ザ・シティ』っぽい
オシャレ映画だけど、開けてびっくり、
お下劣ギャグ満載の『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』。
 よく、女子が給湯所やトイレに集まって盛り上がっているじゃないですか。一体、何を話しているのか気になるんだけど、「男子にはちょっと言えない内容ね、グフフ」とか言われるのがオチなわけですよ。そーゆー男子にとっては大秘境にも感じられる、女子たちのブラックボックス的な世界を過激なコメディにしたのが『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』。本作は大ヒットコメディ『40歳の童貞男』(05)のジャド・アパトー監督がプロデュース、『宇宙人ポール』(11)でキリスト教原理主義者の父親に育てられた片目のヒロインを演じたクリステン・ウィグが主演&脚本。でもって、やることは結婚式前夜の独身男たちのアホバカぶりを描いた『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪な二日酔い』(10)の女性版といった趣き。『40歳の童貞男』『ハングオーバー』に負けず劣らずな、下ネタ&アホネタが浅草サンバカーニバルばりの大パレードを繰り広げます。
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アニー役のクリステン・ウィグ(画像左)と
リリアン役のマーヤ・ルドルフ。共に即興
コメディ劇団グラウンドリングス出身で、息が合ってます。
 テーマは結婚式を間近に控えた“女たちの友情”。恋も仕事も崖っぷちな主人公アニーにクリステン・ウィグ、アニーのセンスの良さやユーモアを理解する大親友リリアンに『お家をさがそう』(09)のマーヤ・ルドルフ。この2人、共に同じ即興劇団出身で米国の人気お笑い番組『サタデーナイトショー』で共演していたという実生活でも大親友同士。日本でいえば、WAHAHA本舗で苦労を共にし合った久本雅美と柴田理恵みたいな関係ですか。仕事がうまく行かなくても、男に棄てられても、お互いに悩みをさらけ出し、ジョークにしてゲラゲラ大笑いすれば、元気を取戻すことができたアニーとリリアン。でも、気がつけば、2人ともそろそろアラフォーと呼ばれるお年頃に。久しぶりに会ったリリアンが婚約宣言、しかも相手がエリートサラリーマンだったので、アニーはショックを覚える。表向きは「おめでとう」と言うものの、自分だけ取り残されたコドク感がどこからともなく心の中に吹き込んでくる。さらにリリアンから、やっかいな頼まれ事をされる。花嫁介添え役である“ブライズメイズ”の仕切り役をいちばんの親友であるアニーに務めてほしいと。  もちろん私に任せてよ、と胸を叩いてみせるアニーだが、リリアンが諸々の事情で選んだ4人の花嫁介添え役はかなりの個性派ぞろい。スーパーセレブなヘレン(ローズ・バーン)は、リリアンの婚約者の上司の妻。金銭感覚があまりに違い、やたらとイニシアチブを取りたがる出しゃばりタイプ。アニーにとって唯一の親友であるリリアンを自分の世界に取り込もうとしている。もう1人の要注意人物は、婚約者の妹であるメーガン(メリッサ・マッカーシー)。デヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』(99)をこよなく愛する武闘派だ。見るからにトラブルメーカーな匂いをぷんぷんさせているメーガンだが、リリアンにとって義妹になるわけで、介添え役から外すわけにいかない。初対面な上に、ライフスタイルのばらばらなメンバーを束ねて、アニーは大親友の晴れの宴を盛り上げるために途方もない苦労を背負いこむはめに。
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いつもお上品なセレブ妻・ヘレン(ローズ・
バーン)。アニーとはどうも気が合わない
タイプ。女同士の友情は成立するのか?
 『セック・アンド・ザ・シティ』(08)みたいにおしゃれな世界を舞台に、とんでもない下ネタが飛び交う。中でも極めつけは、リリアンの花嫁衣装の試着にみんなで出掛けた日の惨劇。試着前にアニーの薦める安くて美味しいブラジル料理店でランチを取るが、どうも肉料理の素材に不都合があったらしく、メンバーはキリキリと差し込むような腹痛に襲われる。しかも、超高級セレブなブライダルショップでの試着中に。脂汗を流しながら必死で耐えるリリアンたち。おいしいランチが、おそろしいウンチに大変身! まぁ、お下劣と思うでしょうが、でもその後もすったもんだあった挙げ句のクライマックスは意外とすっきり爽快感のある後味。男同士のシンプルな友情に比べ、結婚を機に別世界に嫁ぐことになる女性の場合は嫉妬、世間体、新しいコミュニティとの迎合といった様々な難問が渦巻いているわけで、それらの葛藤を踏み越えた女たちのノーウーマンノークライな絆に、男も知らず知らずに涙腺をピンポイント攻撃されるわけですよ。  人生で最も華やかなメモリアルイベントである結婚式を題材にした作品で、もう一本のお薦めがスパニッシュホラー『REC/レック3 ジェネシス』(4月28日より公開、入場料1000円)。謎のウィルスに感染したアパートの住人たちが次々と凶暴化していく様子を主観映像で追った人気シリーズ。『REC/レック』(07)では報道カメラ、『REC レック2』(09)はアパートに突入した警察隊のCCDカメラによる映像という設定だったけど、今回は感染源であるアパートとは別設定に。結婚式の楽しげ様子を記録していたホームビデオにウィルス感染した列席者たちが続々とゾンビ化していく姿が映し出されるというもの。教会での結婚式というサイコーにおめでたい席が、ゾンビたちによって血に染まるという天国から地獄への急降下していくドライブ感は、観る者の顔を引きつらせる。さらに新郎新婦の親族や親友たちがゾンビ化して襲いかかってくるという恐怖。途中から主観映像という『REC』シリーズのお約束が放り出されることも気にならないほどの阿鼻叫喚っぷりです。
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アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた
メリッサ・マッカーシー。オスカーを受賞した
『ヘルプ』のオクタビア・スペンサーとは
下ネタ対決となった。
 しかし、ラテン女はとことんタフですなぁ。周りがゾンビだらけで花婿は行方不明という絶体絶命な状況の中で、花嫁のクララ(レティシア・ドレラ)は「今日は私にとっての一生に一度のハレの日なのよ!」「絶対に幸せになってみせる!!」と驚異的なサバイバル能力を発揮。花婿の前では楚々としていた花嫁クララだが、ウェディングドレス姿でチェーンソーを振り回し、ゾンビたち(ついさっきまで身内)をバッタバタと八つ裂きにしていく。幸せの邪魔をするヤツは身内でもゾンビでも容赦しねぇ! 花嫁の怒髪天パワーはゾンビを上回る迫力っす。  『ブライズメイズ』と『REC3』を続けて観て思いました。人類が男子だけだったら、もうとっくの昔に人間という種族は滅亡していたんじゃないですかね。気取りを捨てた女は、サイコーに強いよ! (文=長野辰次) prize5.jpg 『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』 監督/ポール・フェイグ 脚本/アニー・ムモーロ&クリステン・ウィグ 出演/クリステン・ウィグ、マーヤ・ルドルフ、ローズ・バーン、クリス・オダウド、エリー・ケンバー、ウェンディ・マクレンドル=コーヴィ、メリッサ・マッカーシー 配給/東京テアトル 4月28日(土)よりヒューマントラスト渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー R15 <http://bridesmaidsmovie.jp> (C)2011 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! 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[第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』

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山小屋で暮らす良一(瑛太)は、爆弾づくりに情熱を注ぐ。
連続爆弾魔ユナボマーにインスパイアされた、豊田利晃監督の
新作『モンスターズクラブ』。
 豊田利晃監督の新作『モンスターズクラブ』では、瑛太演じる主人公は雪に閉ざされた山小屋で静かに暮らしている。電気も水道もない、自給自足のシンプルな生活だ。そんな彼にとって大切な仕事は、手づくりの爆弾を作ること。木箱の中に火薬を詰め込み、マッチ棒の発火装置を取り付ける。完成させた爆弾は、社会に大きな影響を与える大企業や政治家たちに送りつける。システム化の進み過ぎた現代社会に警鐘を鳴らすためだ。『青い春』(01)、『空中庭園』(05)でカミソリのように切れ味鋭い演出を見せた豊田監督のオリジナル脚本である本作は、1978年から95年の間に3人の死亡者、29人の重軽傷者を出した米国の爆弾魔ユナボナーの犯行声明文、通称“ユナボマー・マニフェスト”にインスパイアされて撮り上げたものだ。  FBIを18年間にわたって翻弄し続けた爆弾魔ユナボマーの本名は、セオドア・ジョン・カジンスキー。教育熱心な家庭に生まれた彼はIQ167の天才少年として育ち、飛び級して16歳でハーバード大学に入学。しかし、極端に内向的な性格で、自分のことを知能指数でしか評価しない社会を憎むようになる。カリフォルニア大学バークレー校の助教授に25歳の若さで就くものの、2年で辞職。モンタナの山奥に引き篭って暮らす。以後、山小屋で作られた小包爆弾は、16回にわたって大学や航空会社などに送りつけられた。95年には「自分の論文を載せれば、爆弾による犯罪行為はやめる」と新聞社に声明文の掲載を迫った。FBIの要請を受けたニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストが3万5,000語にも及ぶ“ユナボマー・マニフェスト”を全文掲載する。『産業社会とその未来』と題された声明文は、「産業革命は悪であり、文明社会を発展させるために追求したテクノロジーの進化によって、それを創造した人類もが支配されてしまう」という主旨のもの。爆弾テロは産業社会のシステムを攻撃するためであることを示唆した。このとき、彼は「フリーダムクラブ」と名乗っている。
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『青い春』(01)でスクリーンデビューした
瑛太にとって、念願の豊田監督による主演作。
山形県最上町で2週間にわたってロケが
行われた。
 この声明文を読んだカジンスキーの弟が「兄の過去の論文と似ている」と気づき、FBIに通報。96年4月、モンタナの山小屋で爆弾魔ユナボマーは取り押さえられることになる。年間の生活費110ドルで暮らしていた彼の身なりは、FBI犯罪史上に残る知能犯と思えないほどボロボロだった。現在、ユナボマーは司法取引により、仮釈放なしの終身刑となっている。以上がユナボマー事件のあらましだが、暴力に訴えた彼の罪とは別に“ユナボマー・マニフェスト”の「効率化の進んだシステム社会が、個人の自由を奪っている」という主張には共感を覚えた人も少なくない。その1人が、豊田監督だった。  「彼が危惧していた社会システムの末路は日本の現状に似ていると感じた」と豊田監督は語っている。『空中庭園』の公開直前に不祥事を起こした豊田監督も、1年間の隠遁生活を岡山の山中で送った。4年ぶりに公開された前作『蘇りの血』(09)は、もともとは鈴木清順監督が「この映画が完成すれば、世の中がひっくり返る」と脚本まで準備を進めていたものの幻の企画に終わった、魯迅の短編小説『鋳剣』をベースにしたもの。生ぬるい映画モドキがはびこる現在の日本映画界に、ガツンと一撃を加える過激さに溢れた作品だった。豊田監督にとっては映画づくりこそが、ぬるま湯に慣れ切った現代人の固定観念を吹き飛ばす爆弾であり、社会に物申すマニフェストなのだ。
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コドクに生きる良一を心配して、妹のミカナ
(草刈麻有)が山小屋を訪ねてくる。兄妹の
関係は、ユナボマーとその弟を投影したもの。
 本作の主人公・垣内良一(瑛太)は、夏目漱石や宮沢賢治といった日本文学を愛する知的でクールな若者だ。山小屋にひとりで暮らし、必要最低限の狩猟によって食料を賄っている。会社を経営していた両親(國村隼、松田美由紀)はすでに他界し、良一に狩猟の仕方を教えてくれた優しい兄・ユキ(窪塚洋介)は若くして自殺してしまった。弟のケンタ(KenKen)もバイク事故で命を散らした。残る肉親は、大学進学を控えた妹のミカナ(草刈麻有)だけ。山小屋を訪ねてきたミカナが「みんな、いなくなっちゃった」とこぼすと、「まだ、オレとお前がいるじゃないか」と励ます。宮沢賢治と妹トシみたいに仲が良い兄妹だ。ただし、宮沢賢治が『グスコーブドリの伝記』などの童話を書き残した代わりに、良一は黙々と爆弾を作り続ける。高度にテクノロジー化の進んだ現代社会に対し、「自然へ帰れ」とメッセージを伝えるために。  岡山での隠遁生活中に“ユナボマー・マニフェスト”を読んだ豊田監督は、「アメリカではなく、日本に向かって言われている気がして」と話す。確かに、勤勉さを美徳とし、和を重んじ、空気を読み合う日本人は、システムのベースが一度固まると、各人が職人的スキルを発揮し、そのシステムを瞬く間にさらに完成度の高いものへと押し上げていく民族だ。高度に洗練されたシステムを築き上げるのと同時に、そのシステムをよりスムーズに機能させるために、途中で立ち止まる者や反対意見を唱える少数派を認めようとしない。過剰に進みすぎたシステムが招いた大惨事が、福島第一原発事故だったのではないか。  日曜日の夕方、テレビの前でしばし夢想する。サザエさん一家では原発事故のニュースを見ながら、どのような会話が飛び交ったのだろう。都内の企業に勤める波平とマスオはシラフではうかつなことは口にできないかもしれないが、舟とサザエは家族のことを考えて3.11以降は慎重に食材を選んでいるはずだ。カツオやワカメの通う学校は福島からの転校生を受け入れているかもしれないし、クラスの中には防災問題や今後のエネルギーの在り方を作文の題材にした級友たちもいたに違いない。出版社に勤めるノリスケは原発問題を取材する機会が少なからずあっただろうし、隣に住む作家の伊佐坂先生は反核小説を構想中かもしれない。まだ幼いタラちゃんやイクラちゃんにとっても、重大な問題だ。いつもと同じように公園の砂場で遊ぼうとしたら、「今日は風が強いから、おうちで遊びましょうね」と言われ、きょとんとしている。「子どもは風の子だって言ってたのに、何でですか~?」「バブー!」  爆弾魔ユナボマーが書いたマニフェストと愉快なサザエさん一家の生活は、決して無関係ではない。 (文=長野辰次) mosters4.jpg 『モンスターズクラブ』 監督・脚本/豊田利晃 出演/瑛太、窪塚洋介、KenKen、草刈麻有、ピュ〜ぴる、松田美由紀、國村隼 配給/ファントム・フィルム 4月21日(土)より渋谷ユーロスペースほかにてロードショー <http://monsters-club.jp> (c)GEEK PICTURES ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! 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行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』

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山小屋で暮らす良一(瑛太)は、爆弾づくりに情熱を注ぐ。
連続爆弾魔ユナボマーにインスパイアされた、豊田利晃監督の
新作『モンスターズクラブ』。
 豊田利晃監督の新作『モンスターズクラブ』では、瑛太演じる主人公は雪に閉ざされた山小屋で静かに暮らしている。電気も水道もない、自給自足のシンプルな生活だ。そんな彼にとって大切な仕事は、手づくりの爆弾を作ること。木箱の中に火薬を詰め込み、マッチ棒の発火装置を取り付ける。完成させた爆弾は、社会に大きな影響を与える大企業や政治家たちに送りつける。システム化の進み過ぎた現代社会に警鐘を鳴らすためだ。『青い春』(01)、『空中庭園』(05)でカミソリのように切れ味鋭い演出を見せた豊田監督のオリジナル脚本である本作は、1978年から95年の間に3人の死亡者、29人の重軽傷者を出した米国の爆弾魔ユナボナーの犯行声明文、通称“ユナボマー・マニフェスト”にインスパイアされて撮り上げたものだ。  FBIを18年間にわたって翻弄し続けた爆弾魔ユナボマーの本名は、セオドア・ジョン・カジンスキー。教育熱心な家庭に生まれた彼はIQ167の天才少年として育ち、飛び級して16歳でハーバード大学に入学。しかし、極端に内向的な性格で、自分のことを知能指数でしか評価しない社会を憎むようになる。カリフォルニア大学バークレー校の助教授に25歳の若さで就くものの、2年で辞職。モンタナの山奥に引き篭って暮らす。以後、山小屋で作られた小包爆弾は、16回にわたって大学や航空会社などに送りつけられた。95年には「自分の論文を載せれば、爆弾による犯罪行為はやめる」と新聞社に声明文の掲載を迫った。FBIの要請を受けたニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストが3万5,000語にも及ぶ“ユナボマー・マニフェスト”を全文掲載する。『産業社会とその未来』と題された声明文は、「産業革命は悪であり、文明社会を発展させるために追求したテクノロジーの進化によって、それを創造した人類もが支配されてしまう」という主旨のもの。爆弾テロは産業社会のシステムを攻撃するためであることを示唆した。このとき、彼は「フリーダムクラブ」と名乗っている。
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『青い春』(01)でスクリーンデビューした
瑛太にとって、念願の豊田監督による主演作。
山形県最上町で2週間にわたってロケが
行われた。
 この声明文を読んだカジンスキーの弟が「兄の過去の論文と似ている」と気づき、FBIに通報。96年4月、モンタナの山小屋で爆弾魔ユナボマーは取り押さえられることになる。年間の生活費110ドルで暮らしていた彼の身なりは、FBI犯罪史上に残る知能犯と思えないほどボロボロだった。現在、ユナボマーは司法取引により、仮釈放なしの終身刑となっている。以上がユナボマー事件のあらましだが、暴力に訴えた彼の罪とは別に“ユナボマー・マニフェスト”の「効率化の進んだシステム社会が、個人の自由を奪っている」という主張には共感を覚えた人も少なくない。その1人が、豊田監督だった。  「彼が危惧していた社会システムの末路は日本の現状に似ていると感じた」と豊田監督は語っている。『空中庭園』の公開直前に不祥事を起こした豊田監督も、1年間の隠遁生活を岡山の山中で送った。4年ぶりに公開された前作『蘇りの血』(09)は、もともとは鈴木清順監督が「この映画が完成すれば、世の中がひっくり返る」と脚本まで準備を進めていたものの幻の企画に終わった、魯迅の短編小説『鋳剣』をベースにしたもの。生ぬるい映画モドキがはびこる現在の日本映画界に、ガツンと一撃を加える過激さに溢れた作品だった。豊田監督にとっては映画づくりこそが、ぬるま湯に慣れ切った現代人の固定観念を吹き飛ばす爆弾であり、社会に物申すマニフェストなのだ。
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コドクに生きる良一を心配して、妹のミカナ
(草刈麻有)が山小屋を訪ねてくる。兄妹の
関係は、ユナボマーとその弟を投影したもの。
 本作の主人公・垣内良一(瑛太)は、夏目漱石や宮沢賢治といった日本文学を愛する知的でクールな若者だ。山小屋にひとりで暮らし、必要最低限の狩猟によって食料を賄っている。会社を経営していた両親(國村隼、松田美由紀)はすでに他界し、良一に狩猟の仕方を教えてくれた優しい兄・ユキ(窪塚洋介)は若くして自殺してしまった。弟のケンタ(KenKen)もバイク事故で命を散らした。残る肉親は、大学進学を控えた妹のミカナ(草刈麻有)だけ。山小屋を訪ねてきたミカナが「みんな、いなくなっちゃった」とこぼすと、「まだ、オレとお前がいるじゃないか」と励ます。宮沢賢治と妹トシみたいに仲が良い兄妹だ。ただし、宮沢賢治が『グスコーブドリの伝記』などの童話を書き残した代わりに、良一は黙々と爆弾を作り続ける。高度にテクノロジー化の進んだ現代社会に対し、「自然へ帰れ」とメッセージを伝えるために。  岡山での隠遁生活中に“ユナボマー・マニフェスト”を読んだ豊田監督は、「アメリカではなく、日本に向かって言われている気がして」と話す。確かに、勤勉さを美徳とし、和を重んじ、空気を読み合う日本人は、システムのベースが一度固まると、各人が職人的スキルを発揮し、そのシステムを瞬く間にさらに完成度の高いものへと押し上げていく民族だ。高度に洗練されたシステムを築き上げるのと同時に、そのシステムをよりスムーズに機能させるために、途中で立ち止まる者や反対意見を唱える少数派を認めようとしない。過剰に進みすぎたシステムが招いた大惨事が、福島第一原発事故だったのではないか。  日曜日の夕方、テレビの前でしばし夢想する。サザエさん一家では原発事故のニュースを見ながら、どのような会話が飛び交ったのだろう。都内の企業に勤める波平とマスオはシラフではうかつなことは口にできないかもしれないが、舟とサザエは家族のことを考えて3.11以降は慎重に食材を選んでいるはずだ。カツオやワカメの通う学校は福島からの転校生を受け入れているかもしれないし、クラスの中には防災問題や今後のエネルギーの在り方を作文の題材にした級友たちもいたに違いない。出版社に勤めるノリスケは原発問題を取材する機会が少なからずあっただろうし、隣に住む作家の伊佐坂先生は反核小説を構想中かもしれない。まだ幼いタラちゃんやイクラちゃんにとっても、重大な問題だ。いつもと同じように公園の砂場で遊ぼうとしたら、「今日は風が強いから、おうちで遊びましょうね」と言われ、きょとんとしている。「子どもは風の子だって言ってたのに、何でですか~?」「バブー!」  爆弾魔ユナボマーが書いたマニフェストと愉快なサザエさん一家の生活は、決して無関係ではない。 (文=長野辰次) mosters4.jpg 『モンスターズクラブ』 監督・脚本/豊田利晃 出演/瑛太、窪塚洋介、KenKen、草刈麻有、ピュ〜ぴる、松田美由紀、國村隼 配給/ファントム・フィルム 4月21日(土)より渋谷ユーロスペースほかにてロードショー <http://monsters-club.jp> (c)GEEK PICTURES ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! 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[第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』

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“北関東3部作”完結編となる
『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』。
夢を追い掛けて故郷を離れたマイティのその後が描かれる。
 夢を追い掛けているつもりだったが、いつの間にか現実から逃避しているだけなことに気が付いた。埼玉のブロッコリー畑育ちのマイティは夢をその手でもぎ取るために東京に向かったが、知らず知らずにいろんなものから逆に追い掛けられるはめに陥った。お金にシビアな怖い大人たち、警察、東京でトラブルを起こしてバックレたバンドのメンバー……、みんなでマイティを押さえつけようとする。長回しで繰り広げられるこのクライマックスシーンは、観ている人間をひどく息苦しくする。マイティがいろんなものから追われているように、この映画を観ている自分もいろんなものに追われている。毎月の家賃の支払いだとか、滞納気味の国保だとか年金だとか、今の仕事に未来はあるのかとか、付き合っている彼女とのケジメはどうすんのとか、実家をめぐる火種とか、切実な問題がすぐ後ろから首根っこを捕らえようと手を伸ばして迫ってきている。入江悠監督の地元・埼玉県深谷市を舞台にした『SRサイタマノラッパー』(08)、群馬在住のアラサー女子の葛藤を描いた『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー★傷だらけのライム』(10)に続く『SR』シリーズの第3弾。『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』は“北関東3部作”の完結編となる作品だ。前2作が切なくもおかしいコメディだったのに対し、本作はシリアスな作風へと大きく振り切れている。
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『SR1』で東京へ出ていったマイティ(奥野
瑛太)が『SR3』の主人公。鬱屈した日々
の中で、溜め込んだ情念をMCバトルで
爆発させる。
 『SR』シリーズは、入江監督にとってリアルな自分自身の進行形の物語だ。日大芸術学部を卒業して念願の映画監督になったものの、キャリア不足、ネームバリュー不足、予算不足のないない尽くしで、ままならない日々が続く。もう20代も終わりが近づき、貯金残高も残すところあと僅か。ギリギリに追い詰められた自分の心境を、ニートなダメラッパーのイックら登場キャラクターたちのラップに重ねた。『SR』シリーズは同じような境遇にある地方在住もしくは地方出身者たちの共感を集め、インディーズ映画としては異例のロングランヒットに。入江監督は全国各地の映画館に呼ばれてせっせと舞台挨拶に出掛けたが、その分生活費を稼ぐことができずに、余計に生活は苦しくなった。一時的に深谷の実家に戻るはめに。しばらくして、いろんなところからオファーの声が掛かるようになったが、今度は殺人的スケジュールを乗り切らなくてはならないという別のシビアさに直面する。最初のステージは全力でぶつかることで何とかクリアできたものの、新しいステージではより面倒な難敵たちが手ぐすね引いて待ち構えていた。
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『ムカデ人間』(09)のムカデ人間第1号
として国際的な注目を集めた北村昭博が
「極悪鳥」のメンバー役。今まで以上に
配役もグレードアップ。
 『SR3』の主人公はお調子者のMC・マイティ。『SR1』でイックやトムと一緒にヒップホップグループ「SHO-GUNG」のメンバーとして初ライブする日が来ることを待ちこがれていた。でも、夕方になると真っ暗になる地元の街にはライブハウスはおろかクラブもCDショップもない。一度、公民館でラップを大人たちの前で披露したけど、大恥ぶっこいた。夢を叶えるなら、やっぱり東京に出たほうがチャンスに近い。そう考えたマイティは、イックとトムを裏切るようにして故郷を後にした。これも夢を叶えるためだ。東京で人気ラップグループ「極悪鳥」の見習いメンバーになるものの、実際はただのパシリでステージに立たせてもらえない。福島出身のポッチャリ娘・一美と同棲しているが、まだ自分のラップを聴かせることもできずにいる。昼は日雇い労働で、夜はパシリというサイアクな生活。実家でブロッコリーを収穫しながら、イックやトムと曲づくりしていた日々がずいぶん昔に感じられる。ある日、メンバー入りの約束を反故されたマイティはキレて、メンバーをボコボコに。一美を連れて流れ者となったマイティは、栃木で盗難車の転売を手掛ける違法業者の下請けに身をやつす。夢を叶えるどころか、もはや裏社会の人間になりつつあった。そんな中で、違法業務を仕切るコワモテの胴元から詐欺まがいの野外フェスを開くように命じられる。その野外フェスにカモがネギを背負うようにひょこひょこと現われたのが、相変わらず能天気にラップを続けていたイックとトム。3人はあまりにも皮肉な形で再会することになる。
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埼玉のラップグループ「SHO-GUNG」
のMC、デブニートのイック(駒木根隆介)
と日和見主義のトム(水澤紳吾)。今回は
栃木にやって来ました♪
 夢が重たい。いつから、こんなにも“夢”を持つことが重要視される社会になったのだろうか。人気アーティストは「夢を追い掛けているあなたが好き」と歌い、人気ドラマの主人公は「夢はあきらめない限り、必ず叶う」とのたまう。本当にそうなのか? いや、違う。「夢を持て」とか「夢に向かって走れ」とか言っといたほうが、楽で口当たりがいいから彼ら・彼女らは口走っているだけなのだ。夢の正体を見極めた上で身の程を知りましょう、甘言に惑わされずにまずは生活能力を身に付けましょう、ある段階で路線変更することも視野に入れましょう……そういう地味なテーマでは歌やドラマにしにくいからスルーされる。若者たちに理解を示す寛容な大人のふりをしたエンタメ業界の詐欺師たちは「ビッグな夢をつかもう」「夢に向かってはばたけ」とお題目のように繰り返す。これでは射幸心を煽る新興宗教「ドリーム教」だ。作詞家やドラマの製作者は詐欺罪で捕まる心配がないので、手抜きかつ無責任に「夢」「夢」「夢」と連呼する。主人公が夢を追って走っていく様子が歌やドラマのエンディングを飾る。でも、夢を追い続けて引き返せなくなった人たちの屍が、崖の下には累々と重なっていることに言及する人は極めて少ない。  残念なことにさほどヒットしなかったが、北野武監督&主演作に『アキレスと亀』(08)がある。少年の頃に絵がうまいと誉められた主人公・万知寿は夢を叶えて画家となるが、特出した才能に恵まれていたわけではなかった。そのため、中年になった万知寿の一家は生活にきゅうきゅうとし、離散するはめになるという辛口ドラマだ。アキレスと亀の足並みが一生揃うことがないことに例え、自分の夢を叶えることと幸せな家庭生活を送ることは別問題であることが描かれている。『アキレスと亀』の公開時に北野監督に話を聞いたところ、北野監督は若い頃は数学者になるのが夢だったと語った。でも、自分が数学者として食べていくことは明らかに無理なことが分かっていたので、お笑いの世界に入ったそうだ。「自分が成りたかった職業に就けなかったんだからさ、せめてその世界で売れなくちゃ」という想いで舞台に上がっているうちに、運良くお笑いブームに乗ってツービートとして売れっ子になった。ビートたけしとしての人気と名声は、叶えられなかった夢の代償だった。  話を『SR』シリーズに戻そう。2009年に池袋シネマ・ロサで『SR1』が公開され、3年間にわたって邦画界を盛り上げてきた『SR』シリーズ。入江監督の代名詞ともなった『SR』シリーズは今後どうなるのか。一時は全都道府県を走破するプランも浮上していたが、『SR3』のラストシーンを見る限り、シリーズはいったん封印されることになりそうだ。入江監督の熱いスピリットは、分厚い壁の中に収容される。それだけに、エキストラ2,000人を動員した野外フェスでの長い長い長回しシーンは息苦しく、ひりひりと胸がうずく。観る者にも痛みを伴うフィナーレだ。  『SR3』は、入江監督にとって自身の青春時代のくすぶったネガティブな感情とか、劇中に登場するマイティやイック、トムたちの壊れてしまった夢とかハンパな希望とか、そんな一切合切を燃焼させる“祭り”である。同時に、入江監督がよりメジャーな次のステージに進むための“通過儀礼”でもある。3年間にわたって日本のインディーズシーンを熱くしてきた『SR』という名の祭りの最後の幕が開く。入江監督が『SR』の封印を再び解くことになるのは、何年後になるだろうか。そのときには入江監督は、どのような作風の監督になっているのだろうか。そして、『SR』を追い掛けていた自分たちはどんな風になっているんだろうか。『SR3』で感じた胸のうずきは、多分そのときまで続くはずだ。 (文=長野辰次) sr35.jpg 『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 監督・脚本・編集/入江悠 出演/奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、斉藤めぐみ、北村昭博、永澤俊矢、ガンビーノ小林、美保純 配給/SPOTTED PRODUCTION 4月14日(土)より渋谷シネクイントほかにて全国順次ロードショー、4月21日(土)より渋谷シネクイントほかにて『SR』シリーズ全作上映 <http://sr-movie.com> (c)2012「SR3」製作委員会 ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! 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祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』

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“北関東3部作”完結編となる
『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』。
夢を追い掛けて故郷を離れたマイティのその後が描かれる。
 夢を追い掛けているつもりだったが、いつの間にか現実から逃避しているだけなことに気が付いた。埼玉のブロッコリー畑育ちのマイティは夢をその手でもぎ取るために東京に向かったが、知らず知らずにいろんなものから逆に追い掛けられるはめに陥った。お金にシビアな怖い大人たち、警察、東京でトラブルを起こしてバックレたバンドのメンバー……、みんなでマイティを押さえつけようとする。長回しで繰り広げられるこのクライマックスシーンは、観ている人間をひどく息苦しくする。マイティがいろんなものから追われているように、この映画を観ている自分もいろんなものに追われている。毎月の家賃の支払いだとか、滞納気味の国保だとか年金だとか、今の仕事に未来はあるのかとか、付き合っている彼女とのケジメはどうすんのとか、実家をめぐる火種とか、切実な問題がすぐ後ろから首根っこを捕らえようと手を伸ばして迫ってきている。入江悠監督の地元・埼玉県深谷市を舞台にした『SRサイタマノラッパー』(08)、群馬在住のアラサー女子の葛藤を描いた『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー★傷だらけのライム』(10)に続く『SR』シリーズの第3弾。『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』は“北関東3部作”の完結編となる作品だ。前2作が切なくもおかしいコメディだったのに対し、本作はシリアスな作風へと大きく振り切れている。
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『SR1』で東京へ出ていったマイティ(奥野
瑛太)が『SR3』の主人公。鬱屈した日々
の中で、溜め込んだ情念をMCバトルで
爆発させる。
 『SR』シリーズは、入江監督にとってリアルな自分自身の進行形の物語だ。日大芸術学部を卒業して念願の映画監督になったものの、キャリア不足、ネームバリュー不足、予算不足のないない尽くしで、ままならない日々が続く。もう20代も終わりが近づき、貯金残高も残すところあと僅か。ギリギリに追い詰められた自分の心境を、ニートなダメラッパーのイックら登場キャラクターたちのラップに重ねた。『SR』シリーズは同じような境遇にある地方在住もしくは地方出身者たちの共感を集め、インディーズ映画としては異例のロングランヒットに。入江監督は全国各地の映画館に呼ばれてせっせと舞台挨拶に出掛けたが、その分生活費を稼ぐことができずに、余計に生活は苦しくなった。一時的に深谷の実家に戻るはめに。しばらくして、いろんなところからオファーの声が掛かるようになったが、今度は殺人的スケジュールを乗り切らなくてはならないという別のシビアさに直面する。最初のステージは全力でぶつかることで何とかクリアできたものの、新しいステージではより面倒な難敵たちが手ぐすね引いて待ち構えていた。
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『ムカデ人間』(09)のムカデ人間第1号
として国際的な注目を集めた北村昭博が
「極悪鳥」のメンバー役。今まで以上に
配役もグレードアップ。
 『SR3』の主人公はお調子者のMC・マイティ。『SR1』でイックやトムと一緒にヒップホップグループ「SHO-GUNG」のメンバーとして初ライブする日が来ることを待ちこがれていた。でも、夕方になると真っ暗になる地元の街にはライブハウスはおろかクラブもCDショップもない。一度、公民館でラップを大人たちの前で披露したけど、大恥ぶっこいた。夢を叶えるなら、やっぱり東京に出たほうがチャンスに近い。そう考えたマイティは、イックとトムを裏切るようにして故郷を後にした。これも夢を叶えるためだ。東京で人気ラップグループ「極悪鳥」の見習いメンバーになるものの、実際はただのパシリでステージに立たせてもらえない。福島出身のポッチャリ娘・一美と同棲しているが、まだ自分のラップを聴かせることもできずにいる。昼は日雇い労働で、夜はパシリというサイアクな生活。実家でブロッコリーを収穫しながら、イックやトムと曲づくりしていた日々がずいぶん昔に感じられる。ある日、メンバー入りの約束を反故されたマイティはキレて、メンバーをボコボコに。一美を連れて流れ者となったマイティは、栃木で盗難車の転売を手掛ける違法業者の下請けに身をやつす。夢を叶えるどころか、もはや裏社会の人間になりつつあった。そんな中で、違法業務を仕切るコワモテの胴元から詐欺まがいの野外フェスを開くように命じられる。その野外フェスにカモがネギを背負うようにひょこひょこと現われたのが、相変わらず能天気にラップを続けていたイックとトム。3人はあまりにも皮肉な形で再会することになる。
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埼玉のラップグループ「SHO-GUNG」
のMC、デブニートのイック(駒木根隆介)
と日和見主義のトム(水澤紳吾)。今回は
栃木にやって来ました♪
 夢が重たい。いつから、こんなにも“夢”を持つことが重要視される社会になったのだろうか。人気アーティストは「夢を追い掛けているあなたが好き」と歌い、人気ドラマの主人公は「夢はあきらめない限り、必ず叶う」とのたまう。本当にそうなのか? いや、違う。「夢を持て」とか「夢に向かって走れ」とか言っといたほうが、楽で口当たりがいいから彼ら・彼女らは口走っているだけなのだ。夢の正体を見極めた上で身の程を知りましょう、甘言に惑わされずにまずは生活能力を身に付けましょう、ある段階で路線変更することも視野に入れましょう……そういう地味なテーマでは歌やドラマにしにくいからスルーされる。若者たちに理解を示す寛容な大人のふりをしたエンタメ業界の詐欺師たちは「ビッグな夢をつかもう」「夢に向かってはばたけ」とお題目のように繰り返す。これでは射幸心を煽る新興宗教「ドリーム教」だ。作詞家やドラマの製作者は詐欺罪で捕まる心配がないので、手抜きかつ無責任に「夢」「夢」「夢」と連呼する。主人公が夢を追って走っていく様子が歌やドラマのエンディングを飾る。でも、夢を追い続けて引き返せなくなった人たちの屍が、崖の下には累々と重なっていることに言及する人は極めて少ない。  残念なことにさほどヒットしなかったが、北野武監督&主演作に『アキレスと亀』(08)がある。少年の頃に絵がうまいと誉められた主人公・万知寿は夢を叶えて画家となるが、特出した才能に恵まれていたわけではなかった。そのため、中年になった万知寿の一家は生活にきゅうきゅうとし、離散するはめになるという辛口ドラマだ。アキレスと亀の足並みが一生揃うことがないことに例え、自分の夢を叶えることと幸せな家庭生活を送ることは別問題であることが描かれている。『アキレスと亀』の公開時に北野監督に話を聞いたところ、北野監督は若い頃は数学者になるのが夢だったと語った。でも、自分が数学者として食べていくことは明らかに無理なことが分かっていたので、お笑いの世界に入ったそうだ。「自分が成りたかった職業に就けなかったんだからさ、せめてその世界で売れなくちゃ」という想いで舞台に上がっているうちに、運良くお笑いブームに乗ってツービートとして売れっ子になった。ビートたけしとしての人気と名声は、叶えられなかった夢の代償だった。  話を『SR』シリーズに戻そう。2009年に池袋シネマ・ロサで『SR1』が公開され、3年間にわたって邦画界を盛り上げてきた『SR』シリーズ。入江監督の代名詞ともなった『SR』シリーズは今後どうなるのか。一時は全都道府県を走破するプランも浮上していたが、『SR3』のラストシーンを見る限り、シリーズはいったん封印されることになりそうだ。入江監督の熱いスピリットは、分厚い壁の中に収容される。それだけに、エキストラ2,000人を動員した野外フェスでの長い長い長回しシーンは息苦しく、ひりひりと胸がうずく。観る者にも痛みを伴うフィナーレだ。  『SR3』は、入江監督にとって自身の青春時代のくすぶったネガティブな感情とか、劇中に登場するマイティやイック、トムたちの壊れてしまった夢とかハンパな希望とか、そんな一切合切を燃焼させる“祭り”である。同時に、入江監督がよりメジャーな次のステージに進むための“通過儀礼”でもある。3年間にわたって日本のインディーズシーンを熱くしてきた『SR』という名の祭りの最後の幕が開く。入江監督が『SR』の封印を再び解くことになるのは、何年後になるだろうか。そのときには入江監督は、どのような作風の監督になっているのだろうか。そして、『SR』を追い掛けていた自分たちはどんな風になっているんだろうか。『SR3』で感じた胸のうずきは、多分そのときまで続くはずだ。 (文=長野辰次) sr35.jpg 『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 監督・脚本・編集/入江悠 出演/奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、斉藤めぐみ、北村昭博、永澤俊矢、ガンビーノ小林、美保純 配給/SPOTTED PRODUCTION 4月14日(土)より渋谷シネクイントほかにて全国順次ロードショー、4月21日(土)より渋谷シネクイントほかにて『SR』シリーズ全作上映 <http://sr-movie.com> (c)2012「SR3」製作委員会 ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! 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すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史

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コーマンパワーが炸裂! 「安い、早い、面白い」がコーマン作品の魅力だ。
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 今日はみんなが大好きなコーマンにまつわる話をしよう。他人から指図されることをひどく嫌い、驚くほどの吝嗇家で、無名の若者たちの情熱を巧みに利用し、詐欺まがいの商法でティーンエイジャーたちの大事なお小遣いを巻き上げてきた男の話だ。その男の名前は、ロジャー・コーマン。“B級映画の帝王”と呼ばれ、監督した映画の本数は50本以上、プロデュースした映画は500本以上になり、85歳になる現在もまだ現役プロデューサーとしていかがわしい作品を作り続けている。ドキュメンタリー映画『コーマン帝国』は、そんなコーマンさまのコーマンちき伝説の数々を、ジャック・ニコルソン、マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ジョナサン・デミといったハリウッドのビッグネームたちが証言するという趣向のものだ。  コーマンのすごさは、出資者や評論家たちから何を言われようとも気にせず、1950年代から延々とチープで悪趣味なインディペンデント映画を作り続けていること。映画興行は、限りなくギャンブルに近い。1~2本ヒット作が出ると、監督やプロデューサーのもとには映画の内容ではなく、お金儲けにしか興味のない出資者が集まる。うぶな監督は「もっと予算をつぎ込めば、もっと素晴らしい作品ができ、もっとヒットするに違いない」と夢想して、ハイリスクハイリターンな大作に手を出すようになる。往々にして自分が撮りたかった作品とは別物になるか、見事にすってんてんになってしまう。その点、コーマンは自分の財布具合に適した作品しか作らない。ホラー、モンスター、ギャングものなど低予算で済むジャンルに特化した。一発大勝負はせずに、そこそこ当たったら、その収益金で次回作に取り掛かった。グロテスクな宇宙人が襲来し、マシンガンが炸裂するクレイジーな映画の内容とは裏腹に、とっても健全な自転車操業を続けた。
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コーマン学校の卒業生であるマーティン・
スコセッシ。コーマン学校を卒業して、
初期の代表作『ミーン・ストリート』(73)
を作り上げた。
 低予算映画を撮り続けるうちに、様々なコーマン伝説が生まれた。若き日のジャック・ニコルソンが自虐的嗜好から歯医者に嬉々として通う変態患者を演じたカルト映画『リトル・ショップ・オブ・ホラー』(60)はわずか2日間で撮り終えた。Vシネなみの早撮りだ。この時期のジャック・ニコルソンはよっぽど暇だったらしく、やはり彼が幽霊に恋する青年将校を演じた『古城の亡霊』(63)は、『忍者と悪女』(63)で使ったセットが豪華だったので壊すのを1週間待ってもらって即席で撮り上げたもの。プロデューサーの引き受け手がいないので、コーマン自身がプロデューサーを務め、助監督も兼任して雑用をこなした。そうやって徹底的に人件費を削った。ギャラの安い脚本家を重宝した。主演俳優のギャラが高い場合は、短期間で集中して撮影することで値引き交渉する。予算をきっちり守り、スケジュール内に撮り終わること。それがコーマンが自分の作品に課したルールであり、映画業界で生き残る唯一の方法だった。  マーティン・スコセッシ監督は、コーマン夫妻がプロデュースした『明日に処刑を…』(72)で商業監督デビューを果たした。「コーマン作品はセンスは二の次」とクサしながらも、「コーマンのお陰で、スケジュール内で撮影を済ませる方法が身に付いた」と感謝の言葉を述べている。一方、フランシス・フォード・コッポラ監督もコーマン組出身だが、“作品の質を上げるためなら、少しぐらい予算やスケジュールはオーバーしてもいいではないか”という考え方だった。コーマンのもとを離れ、『ゴッドファーザー』(72)で大成功を収めるコッポラ監督だが、『地獄の黙示録』(79)では予算とスケジュールが大幅に超過してしまい、生き地獄を見るはめになった。『コーマン帝国』にコッポラが出ていないのが残念だ。
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『ワイルド・エンジェル』『白昼の幻想』に
主演したピーター・フォンダ。コーマンとの
出会いがなければ、『イージー・ライダー』も
誕生しなかった。
 俳優ならジャック・ニコルソン、ロバート・デニーロ、デヴィッド・キャラダイン、シルベスタ・スタローン……、監督ならコッポラにスコセッシ、さらに『ダ・ヴィンチ・コード』(06)のロン・ハワード、『羊たちの沈黙』(90)のジョナサン・デミ、『エイトメン・アウト』(88)のジョン・セイルズ、『グレムリン』(84)のジョー・ダンテ、『ラスト・ショー』(71)のピーター・ボグダノヴィッチらもコーマン育ちだ。安い賃金でコーマンに扱き使われたが、お金がなくて困ったとき、コーマンのもとを訪ねると仕事にありつけた。俳優たちは食いしのぐことができ、スタッフは低予算で早撮りするスキルを磨くことができた。そして、彼らはある時期が来るとコーマンのもとから巣立っていった。コーマンは引き止めることはしなかった。  誰も手を出さない未開拓の分野にも、コーマンは果敢に挑んだ。1960年代の米国を震撼させた暴走族グループ「ヘルズ・エンジェルス」の蒔き散らすパワーに目を付けたコーマンは、ピーター・フォンダ主演のバイク映画『ワイルド・エンジェル』(66)を監督する。エキストラにはモノホンのヘルズ・エンジェルスを集めた。警察から指名手配されているお尋ね者ばかりだった。『ワイルド・エンジェル』で助監督を務めていたのはピーター・ボグダノヴィッチ。エキストラの人数が少なかったため、乱闘シーンに加われとコーマンに命じられ、ヘルズ・エンジェルスたちにボコボコにされている。反社会的な匂いのプンプンする『ワイルド・エンジェル』は大ヒットし、これにほくそ笑んだコーマンは、さらに危険な匂いのする『白昼の幻想』(67)を監督。これはLSDを題材にし、ドラッグをキメるとどんな風になるのかビジュアル化した疑似体験型サイケデリックムービー。『ワイルド・エンジェル』に続いてピーター・フォンダを主演に据え、ドラッグの指南役を兼ねてデニス・ホッパーが共演。LSDを常用していたジャック・ニコルソンが脚本を書いている。今、DVDで見ても斬新な作品だ。『ワイルド・エンジェル』『白昼の幻想』に主演したピーター・フォンダは、デニス・ホッパーを監督に、ジャック・ニコルソンを共演者として呼び、アメリカンニューシネマの金字塔『イージー・ライダー』(69)を完成させる。コーマンなくして、アメリカンニューシネマは語れない。ただし、『イージー・ライダー』にはコーマンは出資しそびれて、儲けそこなっている。
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美人監督として評判のアレックス・ステイプル
トン。『コーマン帝国』が彼女にとって初の
長編デビュー作となった。
 誰も手掛けなかった作品といえば、アメリカ南部を舞台に闘鶏を題材にしたウォーレン・オーツ主演作『コックファイター』(74)もその一本。こちらは、残念ながら大ハズれ。このときのコーマンはさすがに「誰も手掛けなかったのは、誰も興味を持たない題材だったから」と反省している。といってもタダでは転ばないのが、コーマン流。タイトルを『生まれついての殺し屋』と変えて、ジョー・ダンテに新しい予告編を作らせて、さも新作のふりをして再度公開している。よくピンク映画館で旧作をタイトルだけ変えて上映してるけど、あれもコーマン・メソッドだったのか。『コーマン帝国』の元ネタとなっているコーマン自身の筆による自伝『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』(早川書房)は、インディペンデントシーンで戦い続けるためのノウハウが詰め込まれているお薦めの一冊。  『私はいかにハリウッドで−』によると、インディペンデントシーンで名を成したコーマンは、低予算ではない高尚な作品を撮るチャンスもあったそうだ。でも、コーマンは肝心の勝負作になると、自分で監督することなく裏方のプロデュースに回った。インディペンデントシーンでは怖いものなしの無敵の帝王だったが、コーマンも生身の人間だった。映画人としての人生を賭けた大勝負は結局回避したのだ。かつては年間10本前後も撮りまくっていた監督業にも疲れを覚え、1970年代以降はプロデュース業に回る。妻や我が子たちと過ごす家庭での時間を大切にするようになった。B級映画に甘んじたと厳しく見ることもできるが、変動の激しい映画業界で最後の最後まで立っているヤツが勝利者なのだ、というのがコーマン哲学である。  ドキュメンタリー映画『コーマン帝国』の素晴らしい点は、コーマンは誰よりも映画愛に溢れた人でした、いつまでも大きな夢を追い掛けている人です、みたいな甘ったるい表現は避けているところ。コーマンは、あくまでもコーマンちき野郎でなくてはならない。ちなみに本作を企画し、監督したのは若くて美人なアレックス・ステイプルトン。同時期にオスカー受賞監督が、同じ企画を進めており、コーマンから「一緒に撮ったらどう?」と妥協策を提案されたが、その際に彼女は泣きながら「私のほうが先に頼んだのに」と訴えたそうだ。涙という女の武器をフル活用するなど、アレックス監督もかなりのしたたかさ。使えるものは何でも使ってやれ、というコーマン哲学を彼女自身がしっかり取材を通して身に付けたようだ。コーマンちきに生きることの素晴らしさを説いたナイスなドキュメンタリーである。この映画を観れば、あなたはもっともっとコーマンのことが大好きになるだろう。 (文=長野辰次) coman5.jpg 『コーマン帝国』 監督/アレックス・ステイプルトン 出演/ロジャー・コーマン、ジュリー・コーマン、ジーン・コーマン、ロバート・デニーロ、ジャック・ニコルソン、マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ジョナサン・デミ、ピーター・フォンダ、ブルース・ダーン、ポール・W・S・アンダーソン、クエンティン・タランティーノ、アラン・アーカッシュ、ポール・バーデル、ピーター・ボグダノヴィッチ、デヴィッド・キャラダイン、ジョー・ダンテ、パム・グリア、ゲイル・アン・ハード、ジョナサン・カプラン、ポリー・プラット、ジョン・セイルズ、ウィリアム・シャトナー、ペネロープ・スフィーリス、メアリー・ウォロノフ、ジム・ウィノースキー、アーヴィン・カーシュナー、イーライ・ロス  配給/ビーズインターナショナル 4月7日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 <http://corman-movie.com>
ロジャー・コーマン DVD-BOX スリラー代表作。 amazon_associate_logo.jpg
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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! 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懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』

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ライアン・ゴズリング主演のクライムアクション『ドライヴ』。
カンヌ映画祭監督賞を受賞したニコラス・ウィンディング・レフンの硬質な演出が冴える。
(C)2011 Drive Film Holdings, LLC. All rights reserved.
 まるで阿修羅像のように、映画『ドライヴ』の主人公は3つの顔を持っている。昼間は薄暗い自動車整備工場で黙々と汗を流す整備工としての地味な顔。そんな男が輝く瞬間がある。映画のカーアクションシーンで人気俳優の身代わりを務めるカースタントマンとしての顔だ。危険なシーンでも愚痴ひとつこぼさず、冷静なドライブ技術を披露し、映画スタッフから信頼されている。ただし、あくまでも人気俳優の影武者であり、その素顔が脚光を浴びることはない。整備工としてもスタントマンとしてもベストの仕事を男は尽くすが、整備工としての稼ぎは限られているし、カースタントの仕事も不定期なため、収入は安定しない。そんなとき、男にとって3つめの顔がもたげてくる。犯罪者を後部座席に乗せて、夜の街を疾走する“逃がし屋”としての裏の顔である。カースタントで鍛えた度胸と整備工として身に付けた知識に裏付けされた華麗なテクニックで、警察の執拗な追跡を振り切ってみせる。そのため、警察は男の素顔をまだつかめていない。  ダッチワイフと暮らす田舎の朴訥な青年を演じた『ラースと、その彼女』(07)、大恋愛の末に結ばれながらも倦怠期を迎えた夫婦の危機を描いた『ブルーバレンタイン』(10)と、クセのある繊細な若者役がハマるライアン・ゴズリング。メジャー大作には出演していないため日本での知名度はもうひとつだが、今が旬の演技派男優だ。大統領選挙戦の内幕を描いた政治サスペンス『スーパー・チューズデー 正義を売った日』(3月31日公開)では正義と権力の座を天秤に掛ける能弁な選挙参謀役をキリッと演じた彼が、本作では往年のフィルム・ノワールを思わせる犯罪ドラマの寡黙な主人公に扮している。作品ごとに幾つもの顔を持ち、地味な役でも黙々と没頭するライアン・ゴズリングの姿は、本作の主人公と重なるものがある。
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『シェイム』ほか話題作に続けて出演中のキャリー・マリガン。童顔女優クリスティーナ・リッチが座っていた席に就いた感あり。
 自動車の整備で油まみれになるのを嫌がらない男の仕事ぶりに惚れた整備工場の上司シャノン(ブライアン・クランストン)は、男に自分が果たせなかった夢を託す。カースタントの先輩でもあるシャノンは怪我を負っており、もう運転することはできない。若くて、卓越した運転術を身に付けている男をレーサーに仕立て、自分はレーシングチームのボスとして、ひと花咲かせようと夢想している。シャノンがそう思うほど、男には限られた人間だけが持ちうる何かが秘められていた。男の内側では、暗い情熱がとぐろを巻いていた。できれば、その情熱は正しい方向に導いてやりたい。シャノンは羽振りのいい実業家のバーニー(アルバート・ブルックス)に話を持ち掛け、男を表舞台へ送り出そうと考える。  一方の男にも近況に変化があった。アパートの隣室に幼い男の子を連れたシングルマザーのアイリーン(キャリー・マリガン)が引っ越してきた。夜のドライブデートに出掛けるほど、2人は懇意になる。長い間、ずっと日陰生活を送ってきた男だったが、どうやら風向きが変わってきたらしい。男は“裏の仕事”から足を洗い、目の前に現われた幸福をつかみとろうとする。そんなとき、アイリーンの夫スタンダード(オスカー・アイザック)が刑務所から出所してきた。スタンダードは刑務所の中で多額の借金を背負っており、その借金が返済できないとアイリーン親子もギャングの標的となってしまう。「これが最後の仕事」と男は自分自身に言い聞かせて、スタンダードと一緒に郊外の小さな質屋を襲撃する。きわめて簡単な仕事のはずだったが……。
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お金の匂いに敏感な実業家のバーニー(アルバート・ブルックス)。「オレの手も汚れているぜ」と握手を求める。
 愛する者のために裏稼業から足を洗おうとするくだりは、ヤン・イクチュン監督の『息もできない』(08)をはじめとするチンピラ映画の定番的ストーリー。男たちが束の間だけ夢を思い描くシーンは、青春時代の終わりを描いたフランス映画の名作『冒険者たち』(67)を彷彿させる。また、静謐な映像を唐突に突き破るかのように挿入されるバイオレンスシーンの過激さは、北野武監督の『ソナチネ』(93)のようでもある。古今東西のさまざまな映画の名シーンのスペアパーツを組み合わせたかのごとく、新しい時代のクライムストーリーへと整合してみせたデンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン監督の手腕がお見事。脚本は『日陰のふたり』(96)のホセイン・アミニが担当している。
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普段は温厚なドライバー(ライアン・ゴズリング)だが、危機回避能力がハンパない。プロのヒットマンと激突する。
 ニコラス監督は助演陣の扱いもうまい。現在公開中の『シェイム』に出演するまではロリ系女優の印象があったキャリー・マリガンを若妻役に起用。車の運転以外に興味を示さなかったクールな主人公が心を開く、イノセントかつ母性的優しさの持ち主としてキャラクター造型されている。男性臭の強いキャスティングの中で出色の存在が、コメディ俳優として知られるアルバート・ブルックス。彼が演じるバーニーというオッサンは、実業家として成功しているが、そこに至るまでには多分、何人もの邪魔者を消してきたのだろう。主人公が「手が汚れているから」と握手するのを避けようとすると、バーニーは「オレの手も汚れている」と答える。おそらく、2人とも幼い頃から家庭環境には恵まれなかったはずだ。2人とも裏の仕事に手を染めることで今まで生き抜いてきた。2人は似たもの同士なのだ。だから、バーニーは若い男がレーサーになろうとする夢に手を貸すが、やがて質屋から奪った大金を巡って対峙することになる。男にとってバーニーはいちばんの理解者であると同時に最大の敵となっていく。  名前がなく、周囲から“ドライバー”と呼ばれている主人公は、天才的なドライブテクニックを持つ孤高のヒーローのように映るが、実は大きな欠陥を抱えている。フツーの人間なら感じるはずの恐怖心を、この男は持ち合わせていない。それゆえ大胆なハンドルさばきを見せることができる。アクセルを踏み込むときだけ、男は生を実感することができるのだ。阿修羅像のように3つの顔を持つ男だったが、アイリーンという愛情を注ぐ対象を見つけたことで、3つの顔は次第に消滅していく。物語のラスト、血まみれとなった男は弱々しく苦しげな表情を浮かべる。どんなときでも、クールさを気取っていた男が見せる、ぶざまな姿だ。だが、その表情はどこかうれしそうでもある。車しか愛することができなかった男が、生身の人間を愛する喜びを知ったからだろうか。 (文=長野辰次) drive_movie05.jpg 『ドライヴ』 原作/ジェイムズ・サリス 脚本/ホセイン・アミニ 監督/ニコラス・ウィンディング・レフン 出演/ライアン・ゴズリング キャリー・マリガン、アルバート・ブルックス、ブライアン・クランストン、オスカー・アイザック、ロン・パールマン 配給/クロックワークス R15 3月31日(土)よりほか新宿バルト9ほか全国ロードショー<http://drive-movie.jp●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』

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自然災害なのか人災なのか、かつてない恐怖が幸せな家庭を持つ
主人公カーティス(マイケル・シャノン)に襲いかかる。
(C) 2011 GROVE HILL PRODUCTIONS LLC All Rights Reserved.
 愛が人間を強くする、という考えは間違った認識である。正しくは、人から愛されることで強くなる人間もいるが、愛を知った人間の中には臆病になる者もいる、である。『テイク・シェルター』の主人公カーティスは、何よりも家庭を愛するあまり、常規を逸して破滅の道を歩むはめに陥る。『レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで』(08)で演じた精神を病んだ不動産屋の息子役がインパクト大だった性格俳優マイケル・シャノン主演の本作は、「近いうちに大災害がやって来る」という不安に取り憑かれた一家の主が自宅の庭に地下シェルターを掘り始めるというもの。起きるかどうか分からない災害のために、高額ローンまで組んで自前でシェルターを準備するなんてどうかしてるよ、とは笑い飛ばすことのできない現実と地続きの恐怖がじっとりと尾を引くサイコサスペンスとなっている。  庭付きの一軒家で暮らすカーティス(マイケル・シャノン)は幸せいっぱい。美人の奥さん・サマンサ(ジェシカ・チャステイン)とかわいい盛りの娘ハンナと愛犬に囲まれた、絵に描いたような幸せ家族だ。工事現場での仕事は泥まみれ汗まみれな上にハードスケジュールで大変だが、家族のために働いていると思えば、全然辛くなかった。マジメな働きぶりから上司に期待され、同僚ともうまく付き合っていた。そんなカーティスにとって、唯一の気がかりは娘ハンナに聴覚障害があること。他の子よりも危険にさらされる確率が高い。手話を学ぶ娘の笑顔を、カーティスは愛おしく見つめていた。
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『ヘルプ 心がつなぐストーリー』(3月31日
公開)でオスカー候補となったジェシカ・
チャステインが奥さん。冷静沈着な性格です。
 ある晩、カーティスは夢にうなされる。巨大な竜巻が我が家に接近しており、不気味な黄色い雨が降り続ける。その黄色い雨にうたれた人々はゾンビのように凶暴化し、カーティスやハンナに襲いかかってくる。夢にしては妙に生々しく、しかも毎晩のようにうなされる。これはもしかしたら、予知夢ではないのか? 気になり出したカーティスは、庭に小さな地下シェルターがあったことを思い出す。ソビエトとの冷戦時代に造られたものだろうか。妻や娘に余計な心配を掛けたくないので、カーティスは独断で地下シェルターの手入れを始め、保存食を買いだめするようになる。さらに会社から無断でトラックや重機を持ち出して、トイレや換気扇付きの長期滞在可能なシェルターへと改築を始める。生活は今でもキツキツだが、家族の生命には換えられないのでかなり無理めの長期ローンを組んで改築費用に当てた。娘の耳の手術費用にと考えていた蓄えが勝手に使われたことを、やがて妻のサマンサが知ることになる。  寝室を抜け出して、地下シェルターに篭って寝るようになったカーティスに対して、サマンサの怒りが爆発する。しかし、カーティスには口にはしたくない、もうひとつの心配ごとがあった。カーティスが幼少の頃、カーティスの母親は精神病を患って入院してしまった。母親が発病した年齢に、そろそろ自分も達する。自分も同じ病気になりつつあるのではないかと気が気でないのだ。母親の愛情を充分に感じることなく少年期を育ったカーティスにとって、ようやく出会った良妻賢母なサマンサとひつ粒種のハンナは掛け替えのない宝物だ。この家庭だけは何が何でも守り抜かなくてはいけないという強迫観念が、カーティスをさらに追い込んでいく。カーティス自身もやりすぎかと感じるが、あの悪夢がひょっとして正夢だったらと考えると、どうしてもシェルターを準備する手を休ませるわけにはいかない。どこまでが正常で、どこからが狂気なのか、カーティスにはもはや線引きができなかった。家庭崩壊の危機に瀕したある日、街中にサイレンが鳴り響く。やはり、恐れていた大災害がやって来たのだ……。
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地下シェルターには、防毒マスクと酸素ボンベ
も常備。ついにカーティスの不安が的中する日が
来てしまった……!
 本作を見終わった後、気になって日本でのシェルターの普及状況について調べてみた。2011年3月11日以降、マスコミに度々紹介されているのが、群馬県安中市にある「核シェルター付きマンション」だ。2DKタイプで家賃は月5万4,000円~の格安物件。地下には厚さ70cmのコンクリートで覆われた共用シェルターが備えてある。ここのマンションオーナーは1986年に起きたチェルノブイリ原発事故がきっかけで開発を始め、北朝鮮の核兵器保有宣言が騒ぎとなった直後の2006年にこのマンションを完成させている。独自に開発した特殊フィルター付き空気清浄ダクトを備え、食料と水さえあれば70~80人が3カ月は避難できよう設計されているそうだ。地下シェルターの総工費は約3,000万円。着工時には建設業者から「誰にも見向きされませんよ」と言われたそうだが、現在はほぼ満室状態らしい。現実社会に不安を感じているのは、劇中のカーティスだけではないのだ。「日本核シェルター協会」のHPにアクセスすると、世界各国の核シェルター普及率がグラフで示されており、スイス100%、イスラエル100%、ノルウェー98%、アメリカ82%、ロシア78%……という数字に背筋がぞっとする。ちなみに、このグラフでは日本の核シェルター普及率は0.02%となっている。  『テイク・シェルター』は2011年のカンヌ映画祭国際批評家週間でグランプリを受賞しているが、同年のベルリン映画祭オリゾンティ部門最高賞を受賞したのが塚本晋也監督、Cocco初主演作の『KOTOKO』(4月7日より公開)。家族を愛するあまりに主人公がおかしくなってしまう、というリアルな“痛さ”が両作にはある。東京で暮らすシングルマザーの琴子(Cocco)には幼い息子・大二郎がいる。息子はまだ小さく、とても非力だ。息子は自分が守らなくては、という意識が過剰に働き、琴子の精神を蝕んでいく。いい母親になろうと考えれば考えるほど、充分な子育てができなくなってしまう。歌を歌っているときの琴子は素晴らしい表現力と豊かな感受性を羽ばたかせることができるのだが、子育てという現実の前で琴子は自分の無能さを呪うばかり。生きていることを実感するために、自分の手首に刃物を当ててしまう。琴子は心の世界と現実世界のバランスをとることができずに苦しみ続ける。  誰よりも自分の家族のことを心配し、神経が細やかすぎるために、『テイク・シェルター』のカーティスも、『KOTOKO』の琴子も社会生活から逸脱してしまう。盲目的に「愛は何よりも尊い」と思い込むのは危険だ。過剰すぎる愛は、災害や事故と同じように人間を破綻に追い込んでしまう。愛は両刃の剣であることを心に留めておきたい。 (文=長野辰次) takeshel4.jpg 『テイク・シェルター』 製作/グレッグ&コリン・ストラウス 監督・脚本/ジェフ・ニコルズ 出演/マイケル・シャノン、ジェシカ・チャステイン、トーヴァ・スチュワート、キャシー・ベイカー 配給/プレシディオ 3月24日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー公開  ※新宿バルト9にて本作鑑賞者を対象にした“気象な人割引”を実施。気象な漢字(晴、曇、霧、嵐、雪、霙、霰、雹)が姓か名いずれかに入っている人はチケット購入時に身分証明書を提示すれば当日一般料金1,800円が200円割引 <http://take-shelter-movie.com>
モンベル(mont-bell) ULドームシェルター1型 スプリンググリーン 寝心地はなかなか。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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