美しさを求めるあまり“怪物”と化した哀しい女『モンスター』の高岡早紀が見せた女の情念!

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『モンスター』の主人公・和子(高岡早紀)は、
見た目で人を判断する現代社会の軽薄さを呪う。
だが、そんな彼女自身が誰よりも外見を気にした。
 チキショーッ! チキショーッ! 整形手術を終えたばかりの女は、窓ガラスに映った自分の姿を見て腹の底から絞り出すように叫んだ。整形手術に失敗したから叫んでいるのではない。8万4,000円の費用で二重まぶたにする手術は成功した。それまでのゴツゴツした岩にできた裂け目のようだった一重まぶたが、少女漫画のヒロインのような愛らしいツブラな瞳に変わったのだ。どうして家族は整形手術を勧めてくれなかったのだろう。なぜ自分はもっと早く気が付かなかったのだろう。故郷でモンスターと呼ばれ、暗黒の青春時代を過ごしてきた女は、家族への憎しみ、自分自身の無知さ、世間の不条理さに対する怒りが混然となり、血を吐くように叫び続けた。そして吐き出された感情の中には、これから自分の人生は変わるかも知れないというひと筋の希望と自分をさんざん笑いものにしてきた人間たちへの復讐心が芽生え始めていた。高岡早紀主演の『モンスター』は整形手術によって別人へと生まれ変わろうとするひとりの女の情念を描いたサスペンスタッチの物語だ。  百田尚樹氏の小説『モンスター』は、醜い容姿に生まれつき、心を閉ざしたまま育った女性・和子が主人公。整形手術によって自信を得た和子は、様々な職業と男たちの間を変遷していき、美貌と知性を磨いていく。いわば歪んだ形のビルドゥングスロマンスだ。主演の高岡早紀は毎日2時間かけて特殊メイクを施し、撮影現場を訪問した原作者の百田氏が直視できないほどの異形の顔でヒロイン・和子の悲惨な日々を熱演した。生まれつき醜い和子は整形手術を重ねることで人工的な美しさを手に入れていくが、高岡の場合は逆に特殊メイクで顔を隠した状態からシーンが進むにつれて自分の素顔に戻っていく。美しさを手に入れて、コンプレックスから解放されていく和子の言動の数々には女性の本音が込められているようでゾッとさせられる。
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ずっと目立たないように生きてきた和子だが、
整形手術をきっかけに性格が変わっていく。
自分を笑った同僚を血祭りにする。
 和子が“モンスター”と呼ばれるようになったのは、高校時代に起きた事件がきっかけだった。学校で友達もできず、家族からの愛情を感じることもなく育った和子だが、そんな彼女の心がときめく唯一の存在が高校の同級生・英介だった。実は和子と英介はまだ容姿を気にしない幼少期に一緒に町外れにある灯台まで冒険した思い出があった。夜道を迷子になりながらも英介はずっと和子の手を握ってくれていた。和子はそのときの手の温もりが忘れられない。和子にとって英介は初恋の相手であり、白馬の騎士だった。高校で再会した英介は和子のことをすっかり忘れていたが、他のみんなが外見だけでなく性格も暗い和子を敬遠するのに、彼だけは明るく挨拶を交わしてくれる。やはり自分には英介しかいない。だが、英介は学校中の人気者だ。そこで和子は実家の薬局からメチルアルコールを無断で持ち出し、カラオケパーティーの席上で英介に飲ませようとする。英介の目が潰れればいい。そうすれば、私が一生世話してあげる。幼い頃に灯台まで冒険した2人の淡い初恋物語を美しく完結させることができる。だが和子の企みはあっけなくつまずき、学校中でモンスターと呼ばれるようになった。故郷にいれなくなった和子は実家も追い出され、単身で東京へと向かう。人を愛したがために和子はモンスターと化したのだ。  上京した和子は名前を変え、ひっそり地道に働いていたが、ふと手にした雑誌に掲載されていた美容整形の広告に目が留まる。整形外科を訪ねた和子は感動に震えた。看護士や担当医たちは明るい笑顔で和子を迎え入れ、とても親切に美容整形の素晴らしさを説明してくれる。初めて人間らしい扱いを受けた。汗水流して働いた貯金は瞬く間に手術代に消える。しかしコンプレックスから解放される喜びには換えられない。度々手術を受けることを職場の同僚は笑ったが、自信を手に入れた和子は同僚をボコボコに締め上げる。長年にわたって溜め込んだ彼女のマイナスエネルギーに敵う相手はいなかった。瞳を大きくした次は鼻梁も高くし、さらにはアゴの骨を削って顔の輪郭ごと変えていく。手術費が足りなくなり、SMクラブのM女を振り出しに、ホテトル、ファッションマッサージ、ソープランドと性風俗の世界を渡り歩くようになる。完璧な美貌を手に入れた和子が最後に受けた手術は、顔に“ゆらぎ”をもたらすことだった。整い過ぎた人工的な顔はすぐに飽きられる。そこで左右がビミョーに異なる“ゆらぎ”を施す。そうすることで、右から見るとセクシーな大人の女性、左から見るとイノセントな童女のように映るのだった。男たちは誰もが彼女に夢中になっていく。
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製本工場に勤めながら、SMクラブでM女として働き始めた和子。
男たちにいくら殴られ、辱めを受けても、手術費を稼ぐためなら平気だった。
 無敵の整形サイボーグとなった和子だが、いくつかの弱点があった。すべての歯を抜いて、アゴを細くしたために食事がほとんど摂れなくなってしまった。性風俗で体を酷使し、避妊剤や性病対策の抗生物質を大量に飲み続けたことで内臓が疲弊していた。そして子どもを産むことができない。子どもを産めば、苦労して手に入れた自分の容姿とは似ても似つかぬ我が子と対面することになるからだ。女としての幸せを享受できる時間があまり長くは残されていないことを悟った和子は故郷へと向かう。醜い自分を追い払ったトラウマだらけの町へと。自分が愛した唯一の男性にもう一度だけ逢うために。  整形手術によって“美貌”という武器を手に入れ、人生の勝利者となっていく和子。沢尻エリカ主演の『ヘルタースケルター』(12)と同じ題材を扱っているが、沢尻演じるヒロイン・りりこが芸能界で迷走していくのに対し、和子が暗い青春時代に溜め込んだネガティブパワーを反転させてゴールへと爆走していく様子はある種の快感をもたらす。また、和子は美しくなっていくにつれ、逆に生命力が徐々に衰えていくという設定がはかない。和子の中では、美しさと生命力は反比例の曲線を描いている。もはや和子に生きる気力を与えているのは、初恋の相手に逢いたい、あの腕に抱かれたいという少女期の乙女チックな願望だけだ。大九明子監督をはじめ、脚本、撮影、特殊メイクとメインスタッフは全員女性。高岡早紀が美熟女ボディ(部分的に特殊メイク仕様)をさらしているが、初恋の相手を演じた加藤雅也との絡みのシーンは女性目線のムードを重視したものとなっている。  和子は人を愛することでモンスターへと変貌した哀しい女だ。そして、その愛が成就したことで、和子の中のモンスターは死滅する。『ヘルタースケルター』のヒロイン・りりこが異国の地で異形のモンスターとして生きていく道を選ぶのに比べ、ラストも非常に対照的となっている。いずれにしろ女性モンスターは無敵の存在である。彼女たちに太刀打ちできる男は、今のところ何処にも見当たらない。 (文=長野辰次) monsterz04.jpg 『モンスター』 原作/百田尚樹 監督/大九明子 脚本/高橋美幸 撮影/大沢佳子 特殊メイク/江川悦子 出演/高岡早紀、加藤雅也、村上淳、大杉漣 配給/アークエンタテインメント R15 4月27日より丸の内TOEI、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中 (c)2013「モンスター」製作委員会 <http://www.monster-movie.jp> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第220回]きうちかずひろvs. 三池崇史による“男の世界”!『藁の楯』に立ち込める濃厚なるVシネマの香り [第219回]19世紀末のロンドンで起きた“セックス革命”! 世界初の電動バイブ開発秘話『ヒステリア』 [第218回]ジャッキー先生が体を張って教えてくれたこと。最後のアクション大作『ライジング・ドラゴン』 [第217回]金髪美女への偏愛が傑作サイコホラーを生んだ!? 映画界最強のバディムービー『ヒッチコック』 [第216回]えっ、小泉麻耶が身障者専門のデリヘル嬢に!? “性”のバリアフリー化『暗闇から手をのばせ』 [第215回]サイエントロジーをモデルにした『ザ・マスター』人間は何かに依存しなくては生きていけない? 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[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

きうちかずひろvs. 三池崇史による“男の世界”!『藁の楯』に立ち込める濃厚なるVシネマの香り

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従来の邦画のスケールから逸脱したアクション娯楽作『藁の楯 わらのたて』。
SPの銘苅(大沢たかお)は自分の体を楯にして、凶悪犯を護衛するはめに。
 人間の持つ倫理観ほどモロいものはない。それはまるで藁で編んだ楯のようだ。時代や状況によって、いとも簡単に破れてしまう。だが、そんなフニャフニャな楯でも、追い詰められた人間は藁にもすがる想いで振りかざすしかない。その姿は台風の中でビニール傘を差すようで、あまりにもこっけい過ぎる。木内一裕原作、三池崇史監督の『藁の楯 わらのたて』は人間社会を成り立たせている倫理観をテーマにしたアクションエンターテイメントだ。“作家・木内一裕”という字面にピンと来ない人は音読してほしい。そう、『BE-BOP-HIGHSCHOOL』で一世風靡した漫画家きうちかずひろ氏の作家名義なのだ。長年にわたって“男の世界”を描き続けてきた漫画家きうち氏の処女小説を、バイオレンス&アクション描写では他の追随を許さない三池監督が映画化。むせ返るような2人の男が出会ったとき、そこに何が生まれたのか。男たちのほとばしりが『藁の楯』を匂い立たせる。  『藁の楯』は2004年に小説として発表されたものだが、それは日本映画界への挑戦状だった。1990年代にレンタルビデオ店に通っていた人間なら、Vシネマ初期の傑作と評される竹中直人主演の『カルロス』(91)や中年探偵とヤクザとのバディムービー『鉄と鉛』(97)といったタイトルがアクションコーナーに並んでいたことを覚えているだろう。木内氏は漫画家きうちかずひろとは別に、ガンアクションにこだわりを見せる映画監督としての顔も持っていた。Vシネマは表現の規制がゆるい反面、製作費は非常に限られている。いつかもっと予算をふんだんに使えるようになったときのためにと木内氏がアイデアをしたためていたのが『藁の楯』だった。殺人犯に10億円の懸賞金が懸けられるという破天荒な設定、列島縦断という大掛かりなロケ、新幹線内での銃撃戦、派手なカーチェイス……。従来の邦画だったら、脚本段階で削り落とされるだろう「非・邦画」的要素が目一杯に散りばめてある。こんな常識知らずの企画を監督できるヤツが日本にいるのか? 木内氏からの挑戦状を受け取ったのが三池監督だった。
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幼女陵辱犯の清丸(藤原竜也)はシングルマザーである女性SPの白岩
(松嶋菜々子)にとって許せない存在。サイコ野郎はどう裁くべきか?
 警視庁のSPである銘苅(大沢たかお)と白岩(松嶋菜々子)は殺人犯・清丸(藤原達也)の護送を命じられた。要人ではなく、凶悪犯にSPが付くのは異例中の異例。だが、日本中が異常状態となっていた。幼女陵辱殺害犯である清丸に対する憎しみが全国に溢れ、さらに孫娘を殺された資産家・蜷川(山崎努)が「清丸を殺した者に10億円の謝礼を払う」と全国紙に広告を出したのだ。清丸は身の危険を感じて、自ら福岡県警に出頭してきた。もし清丸が殺されれば、日本は法治国家として成り立たなくなる。銘苅、白岩の他、警視庁捜査一課の奥村(岸谷五朗)、神簪(永山絢斗)、福岡県警の関谷(伊武雅刀)の5人が清丸を東京まで護送することに。送検期限は48時間以内。だが、この任務は困難を極める。鬼畜人間はこの世から抹消すべきという社会正義と10億円あれば服役後も楽に暮らせるという打算から次々と刺客が現われる。なぜ、清丸みたいな人間のクズのために自分たちは体を張らなくてはいけないのか? 罪悪感のまるでない快楽殺人鬼を前にして、銘苅たちの倫理観はぐらぐらと揺らぐ。  『藁の楯』は言ってしまえば、三池監督の大ヒット時代劇『十三人の刺客』(10)の逆バージョンだ。襲撃する側ではなく、襲撃される側の視点に立ったロードムービーとなっている。どこから刺客が襲い掛かるか予測できない分、狙う側よりも狙われる側のほうが精神的にはしんどい。しかも、守るべき対象はまるで敬意を払うことのできない相手。護衛にあたる顔ぶれも寄せ集めで、一枚岩ではない。生かしておけば必ずまた罪を犯すサイコパス野郎は、この手で処分したほうがいいのではないか。銘苅と白岩のSPチームは自分たちの倫理観がいかにモロいかを自覚する。それでも2人は清丸の護衛を続ける。それは倫理観ではなく、“職業意識”が体の隅々にまで染み付いているに過ぎない。
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『みなさん、さようなら』でオカマラスを演じた永山絢斗が一転して、
超武闘派の若手刑事に。スクリーンに異様な暑苦しさを与えている。
 法律は守られず、社会秩序はぶっ壊れてしまった。警察側にも内通者がいるらしい。もはや信じられるのは、自分に与えられた任務を最後までやり抜くというシンプルな“職業意識”だけ。この職業意識こそが『藁の楯』という作品を支えている。原作者の木内氏は漫画、小説、邦画という枠に囚われることなく、『藁の楯』を書き上げた。締め切りに追われる中で、とことん読者が喜ぶものを届けたい。エンターテイメントを生業とする者の使命感だ。同じ1960年生まれ、Vシネ育ちの三池監督もその部分に同調したと思われる。Vシネの世界でキャリアを重ねてきた三池監督は、数百円のレンタル料金を払う客たちが「おぉッ」と唸るようなカットを生み出すことに心血を注いできた。限られた条件の中で、それ以上のものを見せてやる。それがVシネ魂だ。  メジャー作品を撮るようになっても、三池監督にはVシネ魂が根づいている。予算やスケジュールは以前に比べるとマシになったが、有名企業が名前を連ねる製作委員会方式では別の制約がいろいろと生じるようになってきた。そんな息苦しい状況から、どうやって突破口を見出すのか。その突破口を見出す作業こそが、三池監督にとってのエンターテイメントなのだ。原作には新幹線の車両内での銃撃戦シーンがあるが、日本のJR相手では絶対に撮影不可能。そこで三池監督は自ら台湾に足を運ぶことで突破口を見出した。台湾高速鉄道と交渉し、日本の700系にそっくりな新幹線700T型を使っての撮影を実現させた。日本とはカラーリングの異なる新幹線が、妖しい三池作品にぴったりだ。台湾は『ボディガード牙/修羅の黙示録』(95)や『極道黒社会 RAINY DOG』(97)など初期三池作品のロケ地でもある。結局は自分の体に染み込ませてきたもので闘うしかない。  『JIN 仁』(TBS系)の大沢たかお、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)の松嶋菜々子。高視聴率ドラマに主演した人気俳優ふたりが、三池作品に初参加している。ワーナー配給らしい、贅沢なキャスティングだ。でも、『藁の楯』にはどこかVシネ臭が漂う。大沢、松嶋も熱演してみせるが、より輝いているのが若手刑事役の永山絢斗。『ふがいない僕は空を見た』(12)や『みなさん、さようなら』(13)と同じ役者と思えないほど、異常に熱い。清丸に襲い掛かる一般市民役の長江健次と高橋和也もいい。長江は「イモ欽トリオ」、高橋は「男闘呼組」で大人気を誇ったが、今ではすっかり見る機会が減ってしまった。漂う哀愁こそが、長江と高橋の体に染み付いた最大の武器だ。ブレイク前の向こう見ずな若手と活躍の場を失ったかつての人気スターがスポットライトを浴びる。そこもまたVシネっぽい。『藁の楯』から漂うVシネ臭、嫌いにはなれない。 (文=長野辰次) waranotate04.jpg 『藁の楯 わらのたて』 原作/木内一裕 脚本/林民夫 主題歌/氷室京介 監督/三池崇史 出演/大沢たかお、松嶋菜々子、岸谷五朗、伊武雅刀、永山絢斗、余貴美子、藤原竜也、山崎努 配給/ワーナー・ブラザース映画 4月26日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー (c)木内一裕/講談社(c)2013映画「藁の楯」製作委員会 <http://wwws.warnerbros.co.jp/waranotate> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第219回]19世紀末のロンドンで起きた“セックス革命”! 世界初の電動バイブ開発秘話『ヒステリア』 [第218回]ジャッキー先生が体を張って教えてくれたこと。最後のアクション大作『ライジング・ドラゴン』 [第217回]金髪美女への偏愛が傑作サイコホラーを生んだ!? 映画界最強のバディムービー『ヒッチコック』 [第216回]えっ、小泉麻耶が身障者専門のデリヘル嬢に!? “性”のバリアフリー化『暗闇から手をのばせ』 [第215回]サイエントロジーをモデルにした『ザ・マスター』人間は何かに依存しなくては生きていけない? [第214回]閉塞化した世界を笑い飛ばす、常識破りの怪作! メタメタおかしい底抜け脱線ホラー『キャビン』 [第213回]若松孝二監督が銀幕に遺した“高貴で穢れた楽園”芸能ものの血が騒ぐ男たちの饗宴『千年の愉楽』 [第212回]裏方スーパースター列伝、あの超絶技が蘇る!『セックスの向こう側 AV男優という生き方』 [第211回]いつもヘラヘラしていた変なヤツ『横道世之介』和製『フォレスト・ガンプ』を思わせる青春回顧録 [第210回]奥西死刑囚は“村社会”を守るための生贄にされた!? 名張毒ぶどう酒事件の闇に迫る再現ドラマ『約束』 [第209回]9.11テロの首謀者ビンラディン抹殺作戦の全貌! アメリカの夜明けは遠く『ゼロ・ダーク・サーティ』 [第208回]チェルノブイリ“立ち入り制限区域”で撮影敢行! オルガ・キュリレンコ主演の社会派作品『故郷よ』 [第207回]“明るい不登校児”のガラパゴスな団地ライフ! 中村義洋監督の箱庭映画『みなさん、さようなら』 [第206回]いつまでもバカやって、尻を追っかけていたい! ぬいぐるみの『テッド』は“永遠のエロ中学生” [第205回]石原慎太郎原作の異色ミステリー『青木ヶ原』ままならない人生の中で出会った恋人たちの行方 [第204回]陶酔と記憶の向こう岸にある世界に3Dで迫る! 松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ』 [第203回]あの低視聴率ドラマ『鈴木先生』が映画版に! “鈴木式教育メソッド”は世界を変えられるか? [第202回]“余命刑事”が家族の絆と細菌兵器を奪回する! 究極の時間制限サスペンス『ブラッド・ウェポン』 [第201回]年末は“女体盛り”パーティーで盛り上がろう! ジェダイの騎士も集う秘密の宴『SUSHI GIRL』 [第200回]もし“理想の恋人”が目の前に現われたどーする!?  情熱的で予測不能な彼女『ルビー・スパークス』 [第199回]“耳フェチ”には堪えられない青春官能ムービー!『耳をかく女』桜木梨奈の無印演技に癒やされたい [第198回]ハリウッドの頑固オヤジがたどり着いた好々爺の境地! イーストウッド、4年ぶりの主演作『人生の特等席』 [第197回]この“明るいヘンタイ”っぷりがいいんじゃない!? 会田誠のアートなエロス『駄作の中にだけ俺がいる』 [第196回]三池監督ならではの“いのちの授業”が始まる! サイコパス教師と過ごす恐怖の文化祭『悪の教典』 [第195回]“絶対的価値”を求める男たちの翔んでもロマン! 井筒監督の犯罪サスペンス『黄金を抱いて翔べ』 [第194回]禁断の蜜が溢れるSM世界『私の奴隷になりなさい』セクシーアイコン・壇蜜がすべてをさらけ出した! [第193回]“無意識の湖”に身を投じたユングと女性患者の行方──クローネンバーグの恋愛サスペンス『危険なメソッド』 [第192回]“お蔵入り映画”が人命救助を果たした!? 実話をベースにした大冒険ロマン『アルゴ』 [第191回]我が家に“食人族”がやって来た! 奇才ジャック・ケッチャムの異形世界『ザ・ウーマン』 [第190回] 裏切り&結託は当たり前。今の政界にそっくり! 極道たちのバトルロワイアル『アウトレイジ ビヨンド』 [第189回] これが全米を熱狂させた“USA版バトル・ロワイアル”! 殺人リアリティーショー『ハンガー・ゲーム』 [第188回]行き詰まった人生の扉を開く鍵は“銭湯”にあり? 内田けんじ監督のオリジナル作『鍵泥棒のメソッド』 [第187回]大家族の伝統料理から超手抜きレシピまで勢ぞろい! 台所から見えてくる中東の家庭事情『イラン式料理本』 [第186回]“世界的な絶滅危惧種”である独裁者に愛の手を!? 政治ネタ&下ネタ満載コメディ『ディクテーター』 [第185回]障害者の性処理も介護の重圧も、すべて笑い飛ばせ! 男たちのバリアフリーな友情ドラマ『最強のふたり』 [第184回]人類を生み出した“創造主”との遭遇!! リドリー・スコットが物語るSF神話『プロメテウス』 [第183回]“校内格差社会”に出現した異分子(ゾンビ)たち! 青春のカタルシス『桐島、部活やめるってよ』 [第182回]カメラマンは法を犯してもかまわない!? 国家の暗部を暴く男の情念『ニッポンの噓』 [第181回]“学校”という名の密室ではびこる児童虐待の事実! 子どもたちは教師を訴える『トガニ 幼き瞳の告発』 [第180回]“神様”との出会いと別れ、そして旅からの帰還  ドキュメンタリー『アニメ師・杉井ギサブロー』 [第179回]親友=お金を貸してくれる、女友達=SEXさせてくれる!? 品性お下劣男の青春『苦役列車』 [第178回]“沢尻エリカ”という名のアトラクションムービー『ヘルタースケルター』が描く無常の世界 [第177回]毒カレー、オウム真理教、光市母子殺害……“悪魔の弁護人”と呼ばれる男の素顔『死刑弁護人』 [第176回]“芸能生活30周年”ニコラス・ケイジの会心作! 被災地に流布する暗号『ハングリー・ラビット』 [第175回]やめろと言われても、今では遅すぎたッ! 妻夫木聡&武井咲主演の過剰なる純愛劇『愛と誠』 [第174回]年間自殺者数3万人を越える現代社会への提言 自殺対策の現状を追った『希望のシグナル』 [第173回]“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』 [第172回]実在の事件を題材にした“命の授業”『先生を流産させる会』がついに劇場公開! 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19世紀末のロンドンで起きた“セックス革命”! 世界初の電動バイブ開発秘話『ヒステリア』

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これが世界初となる電動バイブレーター。女性に貞淑さが求められた
19世紀に開発されただけに、その登場は衝撃的だった。
 世界初の電動バイブレーターを発明した人って、一体どれだけエロかったんだろうか? ドクター中松のようなマッドサイエンティストだったのか、それとも村西とおる監督みたいな飽くなき性の探求者だったのか? 気になるじゃないですか。そんな疑問に答えてくれるのがこの映画。ヒュー・ダノシー&マギー・ギレンホール主演による『ヒステリア』は、電動バイブレーターの開発者である英国人ジョセフ・モーティマー・グランビルにスポットライトを当てたもの。歴史の教科書にその名前が出ることはないが、彼は19世紀末のロンドンで“セックス革命”を巻き起こした性の救世主だったのだ。彼の偉業を知れば、これから電動バイブを手にした際は特別な感慨が湧くかも知れない。  “性の革命児”ジョセフ・モーティマー・グランビル(ヒュー・ダノシー)の職業はお医者さん。時は1880年代、ビクトリア朝時代の英国は第二次産業革命の真っ盛り。米国では電話機や電球を発明したエジソンが活躍していた頃。科学が飛躍的な進歩を遂げていく一方、多くの女性たちを悩ませていたのがヒステリーだった。もともとヒステリーとは古代ギリシア時代に“さまよえる子宮”という意味で名付けられたもの。ヒステリーは女性にだけ見られる症状で、女性器と因果関係があると考えられてきた。中世ではヒステリー症状の女性は、魔女として迫害されていたそうだから恐ろしい。グランビルは情熱みなぎる新進の医師として、ヒステリー患者の治療に当たっていた。当時の治療法というのはヒステリーを訴えるご婦人たちを治療台に乗せ、女性器部分を手でゆっくり時間をかけてマッサージし、オーガズムまで導くというもの。19世紀の欧州では性感マッサージこそがヒステリーに効果のある医療行為だったのだ。1850年代の英国の医師たちによる研究では女性の40%以上がヒステリーであると診断されていたそうだから、グランビル先生は“ゴッドハンド”加藤鷹ばりに大忙しだった。
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ヒステリーを訴えるご婦人の治療に当たる医師のグランビル(ヒュー・ダノシー)。
あまりの患者の多さに、当時の医者はヘトヘトだった。
 患者想いで熱心なお医者さんほど、自分の体を壊してしまうもの。連日にわたってヒステリー患者に接していたグランビル先生の腕はもうパンパン。腱鞘炎になってしまい、満足な治療ができなくなってしまう。肩を壊した救援投手のように塞ぎ込んでいたグランビル先生の目にふと留まったのは、発明好きな親友エドモント(ルパート・エヴェレット)が開発中だった「電動ほこり払い機」だった。何気なく手にしてスイッチオンにしてみたところ、うなる小型モーターの低振動が妙に心地よい。そのとき、グランビル先生の頭にピンク色のランプが点灯した。これだよ、これッ! ひとりの医者の何気ないひらめきによって、セックス大革命の狼煙が上がった。  エドモントとグランビルはさっそく、世界初となる電動バイブレーターの人体実験に取り掛かる。神をも恐れぬ、世紀の大実験。グランビルの手は緊張のためかバイブの振動のためか小刻みに震えている。電動バイブレーター初号機を恐る恐る被験者の股間へと近づける。緊張の一瞬、果たして実験の成果は……? しばし続いたモーターの振動音の後、女性被験者の喜びに満ちた高らかな声がロンドン中に響き渡る。やった! 世界初の電動バイブの実験に無事成功した!! 讃え合う男たち。グランビルの脳裏にはこれまでの苦労が走馬灯のようにフラッシュバックする。奇跡の瞬間を体感した女性被験者はマグダラのマリアのように感動に震えている。NHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX 挑戦者たち』だったら、中島みゆきが歌う「ヘッドライト・テールライト」が流れる感動シーンだろう。  本作のメガホンをとったのはターニャ・ウェクスター監督。女性監督らしく、お下品にならないよう寸止めでまとめています。電動バイブ開発ストーリーだけで終わらせず、主人公の恋愛エピソードを絡めることで人間ドラマへと潤色している点も見どころ。独身のグランビルの前に現われるのは2人の姉妹。グランビルが最初に出会うのは、妹のエミリー(フェリシティ・ジョーンズ)。絵に描いたような貞淑な女性で、女性医療の第一人者である父・ダリンプル医師(ジョナサン・プライス)を常に敬っている。若くて美人のエミリーに、グランビルはぞっこん。父の意向もあり、エミリーは将来有望なグランビルと婚約を交わす。喜びいっぱいのグランビルが遅れて知り合うのはエミリーの姉シャーロット(マギー・ギレンホール)。妹とは真逆の、じゃじゃ馬娘。父の反対を押し切って、社会福祉活動に熱中している変わり者。英国が繁栄を極めたビクトリア朝時代は、社会格差が大きく広がっていった時代でもあったのだ。父親に絶対服従するエミリーとは異なるシャーロットの自由奔放さに、グランビルは次第に魅了されていく。いかに多くの女性たちが本音を口に出せずに生きているのかを、ヒステリー治療を通してグランビルは目の当たりにしてきた。電動バイブは女性たちを抑圧された性から解放しただけでなく、古くさい女性観や権力志向にとらわれていたグランビル自身の固定観念さえ揉みほぐしていく。
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「電動ほこり払い機」を試作中のエドモント(ルパート・エヴェレット)。
世紀の発明は思いがけないところから生まれた。
 でもって、見逃しちゃいけないのがエンディングパート。グランビルの恋の行方を描いた後は、1988年にグランビルが特許を取った電動バイブレーターがどのように進化していったのか追っていく。20世紀になると婦人向け雑誌に「ポータブル・リラクゼーション」という名称で広告が次々と掲載されるようになる。“大人のおもちゃ”としてではなく、当時はあくまでも美容・健康促進を謳い文句に売られていたわけだ。かくして電動バイブレーターは多くの家庭へと普及していき、女性たちは病院に通わずに済むようになった。ヒステリーという概念も医学界からやがて消えていくことになる。  バイブレーターにこんな歴史が秘められていたとは実に感慨深い。女性たちを潤してきた様々な名機がエンディングで紹介される中、1970年代に販売が始まり世界的な人気商品となった日立のハンディマッサージャーも登場する。“バイブレーター界のキャデラック”と呼ばれている一大ロングセラー商品だ。そういえば、これと同じタイプのヤツ、実家にも置いてあったなぁ。古い知人に思いがけない場所でばったり出くわしたようで、ちょっとシミジミしました。 (文=長野辰次) hysteria4.jpg 『ヒステリア』 監督/ターニャ・ウェクスラー 出演/ヒュー・ダンシー、マギー・ギレンホール、ジョナサン・プライス、フェリシティ・ジョーンズ、ルパート・エヴェレット、アシュレー・ジェンセン、シェリダン・スミス  配給/彩プロ PG-12 4月20日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、有楽町スバル座、シネマート新宿ほか全国順次公開  (C)2010 Hysteria Films Limited, Arte France Cinema and By Alternative Pictures S.A.R.L.(C)LIAM DANIEL2(C)RICALD VAZ PALMA <http://hysteria.ayapro.ne.jp> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第218回]ジャッキー先生が体を張って教えてくれたこと。最後のアクション大作『ライジング・ドラゴン』 [第217回]金髪美女への偏愛が傑作サイコホラーを生んだ!? 映画界最強のバディムービー『ヒッチコック』 [第216回]えっ、小泉麻耶が身障者専門のデリヘル嬢に!? “性”のバリアフリー化『暗闇から手をのばせ』 [第215回]サイエントロジーをモデルにした『ザ・マスター』人間は何かに依存しなくては生きていけない? 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? 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ジャッキー先生が体を張って教えてくれたこと。最後のアクション大作『ライジング・ドラゴン』

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ジャッキー先生、最後のアクション大作『ライジング・ドラゴン』。
パリ、南太平洋、中国……とワールドワイドに飛び回ります。
 僕らの大切な先生が、このたび第一線から退くことになった。先生の名前はジャッキー・チェン。ジャッキー先生はしんどいときほどユーモアが大切なことを教えてくれた。またCGにはない生身のアクションの爽快感を、そしてそれには恐怖と痛みが伴うことも教えてくれた。アジアのトップを極めれば、世界に充分通用することも教えてくれた。疲れたときに観る『プロジェクトA』(84)や『ポリス・ストーリー 香港国際警察』(85)は僕らの心のサプリメントだった。長年にわたって体を張ってきたジャッキー先生は現在59歳。いつまでも若々しいジャッキー先生だが、全編ノースタントでの無鉄砲アクションはいつまでもできないよ、ということでケジメをつけることに。ジャッキー・チェン、最後のアクション大作と銘打たれたのが『ライジング・ドラゴン』だ。  今回のジャッキー先生は、『サンダーアーム 龍兄虎弟』(86)『プロジェクト・イーグル』(91)に続くトレジャーハンター役。清朝時代に欧州の列強国によって略奪されてバラバラになった中国の至宝・十二支像を回収せよと大手アンティークディーラー社からの依頼を受け、JC(ジャッキー・チェン)は危険なミッションに赴くことに。『007』シリーズのオープニングばりに、登場シーンからもうフルスロットル。“ローラーブレード・スーツ”を装着したJCは、ストーリーの説明も仲間の紹介も吹っ飛ばしてビュンビュンと突っ走っていく。『五福星』(83)でもローラースケートを履いて見事なスタントを披露したが、今回はこれまでのジャッキー・アクションの集大成といった趣きがある。
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十二支像を盗み出し、模造品とすり替えるトレジャーハンターの
JC(ジャッキー・チェン)。雇われ仕事のはずが、次第に愛国心が芽生えてくる。
 さらにジャッキー先生の身軽さを活かした新アイテムが“ポータブル・ハングライダー”。本来のハングライダーに比べると小さい分だけ浮遊力に欠けるが、ジャッキーのコミカルスタントとの相性はバツグン。十二支像を盗み出すために忍び込んだ屋敷内でのJCと番犬たちとの追いかけっこは、ロイドやキートンたちが活躍した頃の無声映画を彷彿させる。アクションは言葉の壁を軽々と越えてみせる。ジャッキー先生は古き善きものを敬うことの大切さも教えてくれるのだ。  辛亥革命100周年を祝した歴史大作『1911』(11)の総監督を務め、中国のおエラい方たちを喜ばせたジャッキー先生。香港返還後は中国当局ともうまいことやっている。業界を牽引していくには社交的な顔と本音の使い分けも必要なことを身をもって教えてくれているわけだが、映画人ジャッキー・チェンが中国だけでなく世界中のファンのために作ったのが『ライジング・ドラゴン』だと言える。やはりジャッキー先生は大将軍の役より、陽気な冒険家のほうがよく似合う。そんなジャッキー先生のメッセージが込められたシーンがある。失われた十二支像を巡って、中国人留学生ココ(ヤオ・シントン)とおじいちゃんから相続した十二支像の一部を所有するフランス人のお嬢さまキャサリン(ローラ・ワイスベッカー)が口論となる。「中国から盗んだ物を返しなさいよ」と欧米人の過去の悪行を責め立てるココに向かって、JCはこう説く。「やめろよ、現代の価値観で過去を裁くことはできないよ」。世界各国を渡り歩き、多くの人たちと触れ合ってきたJC/ジャッキー・チェンならではの金言ではないか。  「現代の価値観で過去を裁くことはできない」という言葉は、欧米、そして日本も含めての帝国主義を決して肯定するものではない。だが他国が過去に行なった非道の数々をあげつらうために歴史を学ぶのではない。同じ過ちを繰り返さず、これからの共生の道を探るために歴史を検証するのではないか。十二支像は近代アジア史の表と裏の両面を物語るシンボルとしてこそ価値があるはず。そんな十二支像をアンティークオークションの相場を吊り上げるための道具にしか考えない依頼主のゴーマンさに、JCは怒りが込み上げてくる。
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ドリフの冒険コント的な展開が繰り広げられる南太平洋パート。
女たちよ、ケンカはひとまず休んで、まずは危機回避を優先しようじゃないか。
 JCはくどくどと自分の歴史観について説明することはしない。言葉で説明するよりも、ここは一発体を張ってみせましょう。十二支像の最後のひとつ龍の首を奪回するため、JCは噴火口上空での決死のスカイダイビングに挑む。いくら中国の至宝とはいえ、ブロンズ像を守るために自分の体を張るバカ。でもバカだからこそ正論が吐けるのだ。損得勘定で動く頭のいい人の発言よりも、映画バカの命を張ったデンジャラス・スタントにこそ世界中の人たちは釘づけとなる。パラシュートなしで空を飛ぶ映画バカ。成龍/ジェッキー・チェンが、本当に龍に成る瞬間がスクリーンに映し出される。  ジャッキー先生には、もうひとつお礼が言いたい。ジャッキー先生のラストスタントは、日本の映像エンタメ文化に長年にわたって受け継がれてきた悲しい風習に「待った!」を掛けてくれたからだ。日本初の連続テレビアニメ『鉄腕アトム』(63年〜66年)の主人公・アトムは地球を守るために太陽へと飛び込んでいった。あまりにも悲しい最終回だった。人類を救うために主人公が人身御供となる―このパターンは、特撮ドラマ『ジャイアントロボ』(67年〜68年)や劇場アニメ『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(78)へと受け継がれていく。太平洋戦争の悲劇を連想させるこのエンディングは、日本人の涙腺を強く刺激するものだろう。ハリウッドSF大作『アルマゲドン』(98)が大ヒットしたのみならず、キムタム主演の実写版『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(10)でもこのパターンが踏襲されていたことに愕然とした。死ぬことを美化して、観客を泣かせることがそんなにも重要なのだろうか。悲しい歴史をいつまでも繰り返すのは、もういいんじゃないかい? ジャッキー先生は明るい笑顔で自身の記念アクション大作のエンディングを締めくくる。それも心憎いサプライズゲストを用意して。  今、日本と中国をはじめ東アジア全体はそれぞれの国益をめぐってシビアな状況にあるけれど、スクリーンの中は別世界だ。映画の中で躍動するジャッキー・チェンのことは世界中のみんなが大好き。映画館は国境のない永世中立地帯であることを、ジャッキー先生は改めて教えてくれる。ありがとう、ジャッキー先生。これからも小粋なアクションと自慢の演技力にますます磨きが掛かることを楽しみにしています。 (文=長野辰次) risingdragon4.jpg 『ライジング・ドラゴン』 製作・脚本・監督/ジャッキー・チェン 出演/ジャッキー チェン、クォン・サンウ、ジャン・ランシン、ヤオ・シントン、リアオ・ファン、ローラ・ワイスベッカー、オリバー・プラット 配給/角川映画 4月13日(土)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー <http://www.rd12.jp/pc/> (C)2012 Jackie & JJ International Limited, Huayi Brothers Media Corporation and Emperor Film Production Company Limited All rights reserved ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第217回]金髪美女への偏愛が傑作サイコホラーを生んだ!? 映画界最強のバディムービー『ヒッチコック』 [第216回]えっ、小泉麻耶が身障者専門のデリヘル嬢に!? “性”のバリアフリー化『暗闇から手をのばせ』 [第215回]サイエントロジーをモデルにした『ザ・マスター』人間は何かに依存しなくては生きていけない? 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金髪美女への偏愛が傑作サイコホラーを生んだ!? 映画界最強のバディムービー『ヒッチコック』

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実在の連続殺人鬼エド・ゲインをモデルにした恐怖映画『サイコ』の撮影風景。
その舞台裏を『ヒッチコック』は再現していく。
 シャワーを浴びている裸の女性が殺人鬼のナイフによって斬り刻まれる―映画史上もっともショッキングなシーンで知られる『サイコ』(60)。ヒッチコック監督の刃物のように研ぎ澄まされた演出が冴え渡り、不朽の名作ホラーとして今なお人気を誇る。公開から50年以上経った今でも強烈なインパクトを放ち続けているのは、連続殺人鬼は実在したという衝撃だけではない。金髪女性への異常なまでの執着心、下着フェチ、覗き見趣味、入浴中の裸女への抑えがたい欲情、強度の潔癖性、人間の暗部を象徴するかのような底なし沼への憧憬、マザーコンプレックス、変身願望、警察への嫌悪感……。ヒッチコック自身が抱えていた内面的なネガティブ要素がすべて作品の中に吐き出され、それらが一編の美しい映画として結晶化したという奇跡に驚嘆させられる。ヒッチコックは人間なら誰しもが隠し持っている心の中の劣情を巧みに映画化してみせることで人気監督となりえた。映画監督という職業に就いてなければ、ヒッチコック自身が変質者の烙印を押されていたのではないか。アンソニー・ホプキンス&ヘレン・ミレン共演による実録映画『ヒッチコック』は、サイコサスペンスの原点『サイコ』がどのようにして生み出されたのかを描いていく。  本作を監督したのは、これが劇映画デビュー作となるサーシャ・ガヴァシ。落ち目のヘビメタバンドの復活ツアーを追い掛けたドキュメンタリー『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』(09)の監督として注目を集めたイギリス人だ。脚本家としてスピルバーグ監督の『ターミナル』(04)、キアヌ・リーブス主演の『フェイク・クライム』(10)などのコメディタッチの作品に参加している。『アンヴィル!』も『ターミナル』『フェイク・クライム』もガヴァシ作品の主人公たちは境遇がよく似ている。周囲からは頭のおかしな変人、異邦人としか思われていないが、自分の信念に基づいて愚直に生きる男たちだ。『ヒッチコック』も同系統のものとなっている。周囲から理解されることはないが、自分の信じる美学に従い、最高傑作を生み出そうと四苦八苦する主人公のドラマである。  『アンヴィル!』がギターのリップスとドラムのロブの腐れ縁の2人が組んだひとつのバンドだったように、ガヴァシ監督は本作の中で“ヒッチコック”はひとつのチームだったと解釈してみせる。ヒッチコックはひとりの監督ではなく、藤子不二雄のような2人でひとつの存在だったと。『見知らぬ乗客』(51)『裏窓』(54)『ハリーの災難』(55)『めまい』(58)などの傑作サスペンスを次々と放ったアルフレッド・ヒッチコックだが、ヒッチコックがヒッチコックでありえたのは、公私にわたるパートナーのアルマ・レヴィルがいたからこそ。アルフレッドが映画界入りする前から、アルマは助監督、脚本家、編集技師として活躍していた。むさ苦しい撮影所できびきびと働く小柄なアルマに新入りスタッフだったアルフレッドは惚れ、アルフレッドが監督に昇進するのを待ってから1926年に2人は結婚した。アルフレッドはそれまで母親との同居生活を続けていたが、結婚を機に独立。ここからチーム・ヒッチコックの快進撃が始まる。切り裂きジャックをモチーフにした初期の代表作『下宿人』(27)で独自のスタイルを確立させ、売れっ子監督への道を走り出した。
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二人三脚で映画を作り続けたアルフレッド(アンソニー・ホプキンス)と
妻アルマ(ヘレン・ミレン)。2人そろって“ヒッチコック”だ。
 母国イギリスからハリウッドに渡り、アルマの名前が作品にクレジットされることは減っていくが、アルマは妻として母としてヒッチコック家を切り盛りし、そしてヒッチコック映画のいちばんの理解者として作品選び、脚本の手直し、編集の仕上げなどに協力し続けた。アルフレッドは判断に悩むと、アルマにアドバイスを求めた。アルマは本人以上に彼の才能を理解し、どうすればその才能が作品の中で生きるかを的確に助言した。アルマがいなければ、ひとりぼっちのアルフレッドは気難しく、わがままで、若いブロンド美女が大好きな子どもみたいなメタボオヤジにしか過ぎなかった。  本作のストーリーは、ノンフィクション本『アルフレッド・ヒッチコック&ザ・メイキング・オブ・サイコ』(白夜書房)をベースにしたもの。アルフレッド・ヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)の『北北西に進路を取れ』(59)が興行的な成功を収め、映画会社の重役たちはご満悦。だが、アルフレッドはヒットメーカーゆえの不安に取り憑かれていた。観客はもう自分のスタイルに飽きているのでは? 「あッ」とみんなが腰を抜かす斬新な作品は作れないものか? そんなアルフレッドが強く惹かれたのが、1950年代の全米を震撼させた連続殺人鬼エド・ゲインの存在だった。ウィスコンシン州の寂れた農場で孤独に暮らしていたエド・ゲインは、女性の死体の皮を剥いで仮面を作っていた正真正銘のサイコパス。エド・ゲインをモデルにしたロバート・ブロックの犯罪小説『サイコ』の映画化を思い立つ。猟奇殺人を題材にした暗い映画よりも人気スターたちを配した明るい娯楽作品を撮ってほしいと映画会社は反対し、仕方なくアルフレッドは自宅を担保にして自費で低予算B級ホラー映画の製作に着手する。味方であるはずの妻アルマ(ヘレン・ミレン)でさえ「悪趣味映画」と見下して関心を示さない。それでも、夫が「ヒロインは途中で殺されちゃうんだ。すごいだろ?」とネタを振ると「殺るなら30分以内で殺るべきね。その方が観客は驚くはずよ」と反射的に閃いたアイデアを提供する。作品ごとに契約する俳優やスタッフと違って、アルマだけがチーム・ヒッチコックの信頼できる仲間だった。  殺人鬼の餌食となる美女マリオンにはジャネット・リー(スカーレット・ヨハンソン)、消息を絶った姉マリオンを探しに向かう妹ライラにはヴェラ・マイルズ(ジェシカ・ビール)がキャスティングされる。殺人鬼となるノーマン・ベイツ役はホモ男優のアンソニー・パーキンス(ジェームズ・ダーシー)。ブロンド女優を偏愛したアルフレッドの特別のお気に入りがヴェラ・マイルズだった。『間違えられた男』(56)に続いて『めまい』(58)のヒロインに起用したが、私生活にまで口出しするアルフレッドから逃げ出すようにヴェラは妊娠を理由に『めまい』を降板。『ダイヤルMを廻せ!』(54)や『泥棒成金』(55)のグレース・ケリーみたいな大スターとして売り出すつもりだったアルフレッドを失望させた。それでも未練がましく、『サイコ』でヒロインの妹役に配役する。自分の圧倒的な才能を見せつけたい、作品の中で彼女を思うようにコントロールしてやりたい。ひとりの男のよこしまな情熱が作品を突き動かす原動力として点火される。女性に対する愛情とその裏返しである憎しみが渾然一体となり、シャワーシーンで演技指導するアルフレッドの表情が鬼気迫る。このシーンを演じたアンソニー・ホプキンスの迫力は、『羊たちの沈黙』(91)に匹敵するもの。俳優アンソニー・ホプキンスの肉体を通して、ハンニバル・レクター、エド・ゲイン、ノーマン・ベイツ、そしてアルフレッド・ヒッチコックの狂気が繋がっていく。
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初代“絶叫クイーン”ジャネット・リー役にスカーレット・ヨハンソン、
巨匠監督のパワハラに悩むヴェラ・マイルズ役にジェシカ・ビール。似てる?
 かくして1か月で撮り終わった『サイコ』はかつてない恐怖映画になるはずだった。ところが、関係者を集めて試写を開いたところ、想像していたものとはまるで違うものとなっていた。「とんでもない凡作だ」とアルフレッドは愕然とし、劇場公開は諦めてテレビ映画として放映することを考えたほどだった。こんなときこそ、名編集技師であるアルマの出番である。アルマは客観的な視点から生きたショット、死んだショットを見事に選別し、映倫が文句を付けてくるだろう問題カットを除きつつ、テンポよく巧みにフィルムを繋ぎ合わせていく。夫が反対するのを説き伏せて、シャワーシーンにバイオリンの効果音を加える。ダイヤモンドの原石がカッティングされて輝きを放ち始めるように、『サイコ』はまさしく最高の恐怖映画として完成した。今さらながらアルフレッドは妻アルマに頭が上がらない。  『サイコ』が空前の大ヒットとなったアルフレッドは、次回作として動物パニック映画『鳥』(63)の準備に取り掛かる。『鳥』のヒロインに抜擢されたのはCMモデルだった新人ティッピ・ヘドレン。ブロンド好きなアルフレッドは続いて『マーニー』(64)にもティッピを起用して、尋常ならざる愛情を注ぐことになる。ヴェラ・マイルズから袖にされたのに、このオッサンはちっとも懲りてない。“サスペンス映画の神様”として崇められるアルフレッドだが、カメラが回っていないとどうしようもなく性格の歪んだ醜悪な神様だった。  『サイコ』は母親への思慕と若い女性への嫌悪感から心が2つに引き裂かれた殺人鬼の哀しい物語だが、アルフレッドはアルマと心をひとつにすることで“ヒッチコック”という映画史に名前を刻む偉大なるアイコンとなりえた。アルフレッドは最大の理解者アルマと出会えた、映画史上もっとも幸運な男だった。ガヴァシ監督のデビュー作『ヒッチコック』は、映画界最強のバディムービーと称するべきだろう。 (文=長野辰次) Hitchcock4.jpg 『ヒッチコック』 原作/スティーヴン・レベロ 脚本/ジョン・J・マクロクリン 監督/サーシャ・ガヴァシ 出演/アンソニー・ホプキンス、ヘレン・ミレン、スカーレット・ヨハンソン、ジェシカ・ビール、ダニー・ヒューストン、ジェームズ・ダーシー、トニ・コレット  配給/20世紀フォックス映画 4月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー (c)2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved  <http://www.foxmovies.jp/hitchcock> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第216回]えっ、小泉麻耶が身障者専門のデリヘル嬢に!? “性”のバリアフリー化『暗闇から手をのばせ』 [第215回]サイエントロジーをモデルにした『ザ・マスター』人間は何かに依存しなくては生きていけない? [第214回]閉塞化した世界を笑い飛ばす、常識破りの怪作! メタメタおかしい底抜け脱線ホラー『キャビン』 [第213回]若松孝二監督が銀幕に遺した“高貴で穢れた楽園”芸能ものの血が騒ぐ男たちの饗宴『千年の愉楽』 [第212回]裏方スーパースター列伝、あの超絶技が蘇る!『セックスの向こう側 AV男優という生き方』 [第211回]いつもヘラヘラしていた変なヤツ『横道世之介』和製『フォレスト・ガンプ』を思わせる青春回顧録 [第210回]奥西死刑囚は“村社会”を守るための生贄にされた!? 名張毒ぶどう酒事件の闇に迫る再現ドラマ『約束』 [第209回]9.11テロの首謀者ビンラディン抹殺作戦の全貌! アメリカの夜明けは遠く『ゼロ・ダーク・サーティ』 [第208回]チェルノブイリ“立ち入り制限区域”で撮影敢行! オルガ・キュリレンコ主演の社会派作品『故郷よ』 [第207回]“明るい不登校児”のガラパゴスな団地ライフ! 中村義洋監督の箱庭映画『みなさん、さようなら』 [第206回]いつまでもバカやって、尻を追っかけていたい! ぬいぐるみの『テッド』は“永遠のエロ中学生” [第205回]石原慎太郎原作の異色ミステリー『青木ヶ原』ままならない人生の中で出会った恋人たちの行方 [第204回]陶酔と記憶の向こう岸にある世界に3Dで迫る! 松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ』 [第203回]あの低視聴率ドラマ『鈴木先生』が映画版に! “鈴木式教育メソッド”は世界を変えられるか? 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[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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えっ、小泉麻耶が身障者専門のデリヘル嬢に!? “性”のバリアフリー化『暗闇から手をのばせ』

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障害者専門の派遣型風俗店で働き始めた沙織(小泉麻耶)。
サービス内容はディープキス、フィンガーサービス、フェラチオ、ローションプレイ……。
 身障者専門のデリヘル嬢を主人公にした『暗闇から手をのばせ』が現在、渋谷ユーロスペースで公開中だ。グラビアアイドルとして抜群の人気を誇った小泉麻耶の体を張った演技とメジャー作品が扱わないテーマ性が高く評価され、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013」オフシアター部門でグランプリ&シネガーアワードの2冠に輝いている。障害者プロレスを追ったドキュメンタリー『無敵のハンディキャップ』(93)、脳性麻痺を持つ重度身障者が殺人鬼を演じたバイオレンスホラー『おそいひと』(07)、ベストセラー作家・乙武洋匡原作&主演による熱血教師もの『だいじょうぶ3組』(公開中)など身障者を扱った映画はこれまでも話題を集めてきたが、本作のように“身障者の性”に正面から向き合った作品は非常に珍しい。  本作に風俗好きな常連客役で登場する“身障者芸人”ホーキング青山の著書『お笑い!バリアフリー・セックス』(ちくま文庫)を読むと、身障者にとってセックスは切実な問題であることが伝わってくる。ホーキングが通っていた養護学校では、男子生徒が暴れ出すと鎮静剤を注射されるか、男性教員がトイレへ連れていき手で抜かれていたそうだ。また、保健体育の授業では「身障として生まれてきた以上、刺激の強いもの(AV、風俗)にはできるだけ触れないように」と指導されていたという。だが、ホーキングは性をタブー視する息苦しい環境から飛び出し、高校生のときに原宿でフツーの女子高生のナンパに成功。その女子高生が非常にできた娘だったこともあり、無事に脱童貞を果たす。自信をつけたホーキングはその後もせっせとナンパに励み、トーク術を磨くことになる。「身障者とヤれる機会はそうそうないよ!」がホーキングの口説き文句だ。彼のそんなポジティブさに、女の子たちは身も心も許してしまう。
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初めての客は進行性筋ジストロフィー患者の水谷(管勇毅)。
体が思うように動かないため、沙織は騎乗位でサービスすることに。
 といっても、誰もがホーキング青山のようにオープンマインドの持ち主になれるわけではない。健常者と呼ばれる人でも傷つくことを恐れて、心を固く閉ざしたまま生きている人は少なくない。『暗闇から手をのばせ』の主人公・沙織(小泉麻耶)もそんなひとりだ。煩わしい人間関係を避けて生きているうちに、いつの間にか風俗の世界で働くようになっていた。身障者専門の派遣型風俗店を職場に選んだのは、「楽そうだし、体が動かないから怖くなさそう」という安易な理由からだった。介護に関する知識がまったくないまま、店長(津田寛治)の運転する車で予約客の待つマンションへと向かう。沙織にとって初めての客となったのは進行性筋ジストロフィー患者の水谷(管勇毅)。徐々に筋力が低下し、歩行や起立ができなくなる難病だ。20代で亡くなる患者が多い。全身にタトゥーを入れたコワモテ風の水谷だったが「オレ、34歳になっちゃった。いつまで生きられるかな?」と沙織に問い掛けてくる。自分の人生すらちゃんと考えたことのない沙織は返す言葉が見つからない。水谷の発射した精液がとても苦く感じられる。  悩む間もなく、沙織は次の客が待つラブホテルへと向かう。両手両足に障害を持つ中嶋(ホーキング青山)を電動車椅子からベッドへと移動させるのは難儀だったが、中嶋は底抜けに明るい性格。あまりに達者なトークに、ずっと緊張を強いられていた沙織は吹き出してしまう。調子にのった中嶋は「ホンバンやらせてよ」と何度もおねだりしてくるが、そこはデリヘル嬢としての矜持を守る沙織だった。中嶋も機嫌を悪くすることなく、沙織の懸命なプレイを満喫する。サービス終了後、ホテル街を中嶋と沙織は仲良く並んで歩く。束の間の恋人気分を味わった中嶋はとても幸せそうだ。お客たちは性欲の解消だけでなく、人と人との触れ合いを求めていることに沙織は気づく。  自分を必要とされる喜びを覚えた沙織だったが、3番目の客と出会い、再び厳しい現実を突き付けられる。健司(森山晶之)はバイク事故で脊髄を損傷した後天的な身障者。自分の身に降り掛かった不幸をまだ受け入れられず、自宅に引きこもったまま。性的な刺激を与えることで下半身の機能が回復するかもしれないと母親(松浦佐知子)が勝手に予約を入れたため、余計に機嫌が悪い。裸になった沙織は騎乗位でベッドに寝たきりの健司にサービスを尽くすが、彼の下半身はいっこうに硬くならない。沙織が汗だくで責めれば責めるほど、さらに不機嫌になっていく。自分の無力さに落ち込む沙織。たった1日の体験入店だけでフェードアウトしてしまっていいのか。それまで面倒なことは避けて生きてきた沙織だが、自分の知らない世界に足を踏み入れたことで次第に意識が変わり始めようとしていた。
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風俗好きな中嶋(ホーキング青山)。しかし、電動車椅子からベッドへの移動は容易ではない。
彼にとって風俗遊びは命懸けだった。
 自主映画として本作を完成させたのは、これがデビュー作となる戸田幸宏監督。出版社の編集者、漫画の原作者などを経て、現在はNHKの子会社である製作会社NHKエンタープライズに所属し、ドキュメンタリー番組を手掛けている。実は本作もドキュメンタリー番組にするつもりで、大阪にある障害者専門の派遣風俗店「ハニーリップ」を数回にわたって取材していた。「ハニーリップ」の経営者は介護施設の職員でもあり、同世代の若い身障者たちの最期を看取るうちに「あいつ、生きてるうちにキスくらいしたんやろか」と思うようになり、身障者向けの風俗サービスを考え付いた。身障者の家族たちからは「寝た子を起こすな」と罵倒されたそうだ。身障者の本音と身障者を取り巻く環境を赤裸々に描いたドキュメンタリー番組になるはずだったが、残念なことにNHKではこの企画は採用されなかった。でも「あるものをないことにはできない」と戸田監督は取材した内容を劇映画として構成し直す。  難航することが予測された主人公・沙織役のキャスティングだったが、グラビアアイドルとして活躍し、女優への本格的転身を図っていた小泉麻耶がこの難役のオファーを快諾した。自主映画ゆえスムーズに撮影開始とは運ばず、撮影までに生じた半年間の猶予を使って、小泉は風俗嬢らを自分から積極的に取材するなどして役づくりの時間に当てた。それまで漠然と生きてきた沙織だが、身障者専門のデリヘル嬢として働き始めたことをきっかけに、自分の中の眠っていた感情が湧き上がってくるのを実感する。小泉は「この役は私だ」と感じたそうだ。感情をあまり表に出さない沙織だったが、ホーキング青山演じる常連客のアドリブトークに思わず表情を崩す。演技ではない、小泉の素顔がさらされる。小泉にハグされたホーキングも本気でうれしそうだ。演技とはいえ、肌と肌を合わせた2人の表情がどんどん和らいでいく。  小泉麻耶やホーキング青山らが台本上のキャラクターに息を吹き込むことでフィクションともドキュメンタリーとも判別できないものへと膨らんでいき、戸田監督が当初考えていたイメージとは異なる作品に変わっていったようだ。身障者の性というタブー視されがちな題材を扱っているが、表情の乏しかった主人公が生活スタイルも人生観も多種多様な人々と触れ合い、心をバリアフリー化していく姿が心地よい。偏見と無知と性欲まみれのドブ池に、かれんなハスの花がぽんッと咲いた。そんな清涼感がラストに漂う。 (文=長野辰次) kurayamikara4.jpg 『暗闇から手をのばせ』 監督・脚本/戸田幸宏 主題歌・挿入歌/転校生 出演/小泉麻耶、津田寛治、森山晶之、管勇毅、松浦佐知子、ホーキング青山、モロ師岡 配給/SPOTTED PRODUCTIONS 3月23日より渋谷ユーロスペースにてレイトショー公開中 (c)2013戸田幸宏事務所 <http://www.kurayamikara.com> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第215回]サイエントロジーをモデルにした『ザ・マスター』人間は何かに依存しなくては生きていけない? 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サイエントロジーをモデルにした『ザ・マスター』人間は何かに依存しなくては生きていけない?

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新興宗教の教団一家を描いた『ザ・マスター』。
心理療法で人々を悩みから解放していくが、
教団が大きくなるにつれて在り方が変わっていく。
 トム・クルーズがセックス教団の教祖を演じた『マグノリア』(99)や石油王とうさん臭い伝道師との関係を描いた『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)など、ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品では救済を願う主人公と信仰の関係が度々モチーフとなってきた。ベネチア映画祭監督賞を受賞した『ザ・マスター』に登場する“マスター”は、サイエントロジーの創始者であるL・ロン・ハバードをモデルにしたもの。戦場から帰国したものの自分の居場所を見つけることができずにいる主人公がカルト教団の教祖に出会い、ズブズブの関係に陥っていく様子が描かれる。  太平洋戦争が終わり、日本兵を相手に戦ってきた米国海軍兵のフレディ(ホアキン・フェニックス)は本国に帰還する。しかし、戦時中に機械油に柑橘類を絞ったオリジナルカクテルを発案し、すっかり自家製カクテルが手放せなくなってしまった。機械油を主原料にしたそのカクテルは通常のアルコールよりも強烈で、陰鬱な気分を一気に吹き飛ばすことができるが、体にいいわけがない。すっかりアルコール依存症になってしまったフレディは、ようやく見つけた職場で暴れてしまい、ホームレス状態となってしまう。たまたま出航しようとしていたクルーズ船に乗り込んでタダ酒にありつこうとするが、その船はカルト宗教団体「ザ・コーズ」のもので、教祖である“マスター”ことランカスター(フィリップ・シーモア・ホフマン)とフレディは対面。ランカスターは密航者であるフレディを歓迎し、しかも“メソッド”と呼ばれる心理療法で猛烈な虚無感に悩まされていたフレディの苦しみを和らげてくれた。お礼にフレディはオリジナルカクテルを振る舞い、ランカスターもその味の虜になる。年齢差のある2人だが、妙にウマが合い、フレディはそのまま教団に居着いてしまう。
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心的外傷を抱えるフレディ(ホアキン・フェニックス)は教祖ランカスター
(フィリップ・シーモア・ホフマン)の懐の深さに魅了されていく。
 心の問題を抱えた人々がランカスターの元に集まってくる。ランカスターは被験者に暗示をかけ、被験者の過去から前世へと遡っていき、不安の原因を探り当てていく。不安の原因が分かり、安堵する被験者たち。「単なる催眠術ではないのか?」と疑問を唱える記者が現われるが、その手の邪魔者は戦場帰りのフレディが有無を言わさず強制排除していく。悩める者たちを優しく救うランカスターが教団の表の顔、トラブルを力づくで処理するフレディが裏の顔となり、「ザ・コーズ」は信者数を増やしていく。教団においてフレディの存在は欠かせないものになっていく。  ランカスターの妻ペギー(エイミー・アダムス)は部外者の居候であるフレディのことを煙たく思うが、ランカスターはフレディを自分の片腕として寵愛する。教団が大きくなればなるほど、フレディが作ってくれるあのオリジナルカクテルを呑まずにはいられないからだ。多くの信者たちを悩みから解放していくランカスターだが、ランカスター自身の苦しみを理解し、分かち合ってくれるのはフレディしかいない。コドクな王様とそのコドクを癒す道化師のように、ランカスターとフレディは相互依存することで関係を深めていく。  ジョン・トラボルタ主演のトンデモSF映画『バトルフィールド・アース』(00)の原作者であるL・ロン・ハバードの素顔とサンエントロジーの内幕をバンバン暴いた実録ものかと興味津々で観始めたが、サイエントロジーはあくまでもランカスターが作った教団のモデルにとどめ、心的外傷を抱えた戦場帰りの男と新興宗教の教祖との風変わりな友情ものとしてドラマは展開していく。やがて教団が大きくなり、2人の関係は変わらざるを得なくなってくる。教団が社会に大きな影響力を持つようになったこともあり、ペギーはフレディに酒を断ち、教団の一員らしく規律を守るよう命じる。ランカスターもフレディに教団の後継者になることを望む。だが、それはフレディが求めていたものではなかった。より自由に、依存せずに生きられる広い世界へとフレディは飛び出していく。
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教団に息苦しさを感じ、飛び出してしまったフレディ。
だが、“マスター”なしでの生活は、フレディに虚しさを覚えさせるだけだった。
 「(新興宗教に)特に興味を持つことはなかった。多分、そういう人たちはある信条に賛同し、彼らは本当にそれを信じているんだろう。でも、ある時点で、権力に魅せられて堕落する者が出てくる。そういう人がグループを先導し、神と言われるものを作り出していく。それが僕の新興宗教に対する考えだ」。そうコメントしているのは、フレディ役を演じたホアキン・フェニックス。かつて両親が共に新興宗教「神の子供たち」の宣教師を務め、兄リヴァー・フェニックスを薬物の過剰摂取で失ったという過去を持つホアキン。ヤラセドキュメンタリー『容疑者、ホアキン・フェニックス』(10)で「罪深きこの人生やり直させてくれ♪」と自作のラップを披露する姿も、自分の中に巣食う苛立ちを持て余し続ける今回のフレディ役もホアキン自身の持つリアルな側面のように感じられる。  薬物、アルコール、セックス、過食、ギャンブル、職場、スマホ、占い……。現代人は大なり小なり、何かに依存せずには生きていけない。心の目を開いてくれるはずの宗教も盲目的に信仰するようになれば、それはただの宗教依存になってしまう。新興宗教を立ち上げた“マスター”ことランカスターも自分自身を救済してくれる存在を欲していた。ランカスターはエネルギッシュに人々に接する一方、自分の内面の弱さをちゃんと自覚していた。ランカスターのそんな部分も含めてフレディは人間味を感じていた。教団から束縛されることを嫌って放浪の旅に出たフレディだが、結局のところランカスター以上に心が惹かれる人物に出会うことはできない。物語の終わりに2人は再会する。英国に拠点を構えた教団はフレディの想像を遥かに上回る組織に成長を遂げ、かつて宗教家として人々の苦しみに耳を傾けていたランカスターは巨大企業のCEOのようになっていた。もはやランカスターはコドクに打ち震えるちっぽけな心はどこかに置いてきたのだろうか? それとも、もっと別な新しい依存の対象を見つけたのだろうか? (文=長野辰次) the_master4.jpg 『ザ・マスター』 監督・脚本・製作/ポール・トーマス・アンダーソン 音楽/ジョニー・グリーンウッド 出演/ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ローラ・ダーン R15 配給/ファントム・フィルム 3月22日(金)よりTOHOシネマズ・シャンテ、新宿バルト9ほか全国ロードショー  (C)MMXII by Western Film Company LLC All Rights Reserved. <http://themastermovie.jp> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第214回]閉塞化した世界を笑い飛ばす、常識破りの怪作! メタメタおかしい底抜け脱線ホラー『キャビン』 [第213回]若松孝二監督が銀幕に遺した“高貴で穢れた楽園”芸能ものの血が騒ぐ男たちの饗宴『千年の愉楽』 [第212回]裏方スーパースター列伝、あの超絶技が蘇る!『セックスの向こう側 AV男優という生き方』 [第211回]いつもヘラヘラしていた変なヤツ『横道世之介』和製『フォレスト・ガンプ』を思わせる青春回顧録 [第210回]奥西死刑囚は“村社会”を守るための生贄にされた!? 名張毒ぶどう酒事件の闇に迫る再現ドラマ『約束』 [第209回]9.11テロの首謀者ビンラディン抹殺作戦の全貌! アメリカの夜明けは遠く『ゼロ・ダーク・サーティ』 [第208回]チェルノブイリ“立ち入り制限区域”で撮影敢行! オルガ・キュリレンコ主演の社会派作品『故郷よ』 [第207回]“明るい不登校児”のガラパゴスな団地ライフ! 中村義洋監督の箱庭映画『みなさん、さようなら』 [第206回]いつまでもバカやって、尻を追っかけていたい! ぬいぐるみの『テッド』は“永遠のエロ中学生” [第205回]石原慎太郎原作の異色ミステリー『青木ヶ原』ままならない人生の中で出会った恋人たちの行方 [第204回]陶酔と記憶の向こう岸にある世界に3Dで迫る! 松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ』 [第203回]あの低視聴率ドラマ『鈴木先生』が映画版に! “鈴木式教育メソッド”は世界を変えられるか? 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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閉塞化した世界を笑い飛ばす、常識破りの怪作! メタメタおかしい底抜け脱線ホラー『キャビン』

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“マルチ・レイヤー・スリラー”と銘打たれた新種のホラー映画『キャビン』。
2010年公開予定が、米国でも2012年にようやく公開に至った。
 たまたま2時間ドラマを見ていたら、旅館に着いたばかりの片平なぎさと船越英一郎がいきなり毒殺されてしまい、何と真犯人は事件を担当していた監察医の沢口靖子だった! しかも沢口靖子はロボットで、山村紅葉によって遠隔操作されていた!! そのくらいの衝撃ですよ。『キャビン』という何の捻りもないタイトルのホラー映画ですが、まったく期待せずに客席に身を委ねていると、常識破りの展開に目がテン&口あんぐり状態。一見、ゆる~いB級映画と思わせておいて、次々と底が抜けていく快感に身悶えすることに。ぜひ、みなさんも本作を舐めて掛かってください。  物語の始まりは、も~絵に描いたようなホラー映画の定番パターン。夏休みになり、浮かれまくる米国の若者たち。5人の男女はワゴン車に乗り込んで、避暑地にある別荘へレッツゴー! リーダー格はアメフト部のカート(クリス・ヘムズワース)。『マイティ・ソー』(11)『アベンジャーズ』(12)で売り出し中の雷様ですよ。カートにくっついて、いつもイチャイチャしているのは金髪美女ジュールス(アンナ・ハッチソン)。マジメ女子のデイナ(クリステン・コノリー)はカートの親友ホールデン(ジェシー・ウィリアムズ)とちょっとイイ雰囲気。お邪魔虫な感じで、マリファナ大好きなマーティ(フラン・クランツ)もくっ付いてきた。まぁ、ここはお固いことは言わず、人里離れた別荘でセックス&ドラッグを存分に楽しみましょうや。ところが山を越え、谷を渡って到着した先は、別荘とは名ばかりの怪しげな山小屋。すぐ近くには、どこかで見たようなデジャブ感ありありな湖が……。ホラー映画の二大教典『死霊のはらわた』(81)と『13日の金曜日』(80)を合体させたような舞台じゃないですか。こんな不気味な場所からさっさと引き返せばいいのに、5人の若者たちは肝試し感覚で山小屋の扉を開けてしまう。さぁ、未曾有体験の始まりはじまり♪
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よせばいいのに、謎の呪文を唱えてしまうデイナ(クリステン・コノリー)。
ホラー映画のお約束パターンに従って物語が進んでいきます。
 ホラー映画のお約束とばかりに、酔っぱらって調子に乗った若者たちは地下室に残してあった謎の呪文をわざわざ読み上げてしまう。その途端、山小屋の裏にあった墓場から、気持ち悪~いアンデッドたちがモコモコと登場。もちろん、真っ先に殺られるのはビッチな金髪女。「ビンゴ!」と手を叩いて喜んでいるのは、客席にいた我々だけではなかった。山小屋の様子を隠しカメラで眺めていた研究員風の男(リチャード・ジェンキンス)たちも一緒に大喜び。なんだ、このオッサンたちは? これは新しいドッキリカメラか殺人リアリティーショーなのか? どうやらこの盗撮集団は入念なシナリオを準備して、5人の若者たちをまんまと山小屋へと誘導したらしい。呪文を読んでしまったのも、ビッチな金髪女が最初に死んだのも、すべて脚本通り。『死霊のはらわた』&『13日の金曜日』的なホラーテイストが、いきなりSF映画『トゥルーマン・ショー』(98)を彷彿させるブラックな世界に大変貌!  カートたちはどうやら自分らが巧妙な罠にハメられたことに気づくが、『シャッターアイランド』(10)のごとく山小屋と湖の周辺は陸の孤島化しており、脱出できない。地下からはモンスターたちが続々と甦ってくる。焦れば焦るほど、正体不明な相手の思う壺。若者たちが次々と血祭りに遭う様子を、金魚鉢で蟻と蟻地獄を一緒に飼育するかのように冷酷に観察を続ける研究員風の男たち。しかも、この実験は米国だけでなく世界各地で行なわれているらしく、日本ではいたいげな小学生の女の子たちが貞子みたいなお化けと大バトルを繰り広げている真っ最中。一体、これらは何のための実験なのか?  『キャビン』はパターン化されたありふれた風景をひっくり返して見せる。80年代~90年代にアイデアが出尽くして閉塞状態となっていたホラー映画というジャンルを、丸ごと箱庭化してみせる。近年ブームとなっていた主観映像による疑似ドキュメンタリーとは真逆の、超客観的視点に立ったメタフィクションの世界だ。「新しいタイプのホラー映画はもう出てこないでしょ」とタカを括っていた自分の先入観が、ガラガラと音を立てて壊れていく心地よさがある。『キャビン』に登場するモンスターたちが攻撃しているのは、実は山小屋に閉じ込められた若者たちではない。モンスターたちが揺さぶりを掛けているのは、我々が当たり前のように身に付けている“常識”という名のメガネなのだ。常識という名のメガネは社会生活を送る上ではとても大切で便利なものだが、社会基盤が変動してしまうと度の合わないその常識メガネは逆に大きな負担となってしまう。
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勇敢な若者カート(クリス・ヘムズワース)の横にいるのが、
ヤリマン女のジュールス(アンナ・ハッチソン)。
彼女は自分の運命を知らない。
 三池崇史監督の『悪の教典』(12)もそうだった。学校の先生=未成年の自分たちを守ってくれる存在、という固定観念に縛られている生徒から真っ先にサイコパス教師(伊藤英明)に処刑されてしまった。子どもたちに常識を教えるはずの学校が、殺戮の場となった。三池監督は「悪は滅び、正義が生き残る」という旧態依然としたドラマツルギーを、伊藤英明を遠隔操作することで粉々にブチ壊してみせた。正義が生き残るのではなく、生き残ったものが歴史を作っていくのだ。フィクションの世界だけの話ではない。常識を盲目的に受け入れるととんでもない事態に陥ることを、日本人は最近学んだばかりだ。“日本の原発は安全”という根拠のない常識をみんな鵜呑みにしたために、大惨事を招いてしまった。『キャビン』で若者たちの行動をモニターを通して高みの見物していた研究員風の男たちも、「自分たちは安全」という常識に腰掛けていたために尋常ではない恐怖を味わうはめになる。  次々と底が抜けていく、この常識破りなホラーコメディを手掛けたのはジョス・ウェドン(脚本)&ドリュー・ゴダード(監督)のコンビ。ジョス・ウェドンは金髪女子高生がヴァンパイア退治する学園ホラーシリーズ『吸血キラー 聖少女バフィー』(97年~03年)でカルト的人気を博し、アメコミヒーローたちを呉越同舟させた『アベンジャーズ』に抜擢された監督。ドリュー・ゴダードは怪獣王ゴジラを主観映像で追った『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)や無人島サバイバルミステリー『LOST』(04年~10年)の脚本家で、本作で監督デビューを飾った。ジャンル映画の中で異彩を放つオタクな2人組は、面白さを徹底追及するうちにいつの間にか映画界のお約束はおろか、地球の引力圏からさえも離脱してしまったようだ。  では、この底抜けホラーコメディのクライマックスはどーなるのか? らっきょうの皮をどんどん剥いていくうちに、自分のいる世界まで剥いてしまった、そんな感じ? さぁ、うらぶれた山小屋の扉を開けてみよう。アナタが大切にしていた常識ってヤツは、真っ先にぶっ殺されるだろう。 (文=長野辰次) cabin46xs.jpg 『キャビン』 監督/ドリュー・ゴダード 脚本/ジョス・ウェドン&ドリュー・ゴダード 出演/クリステン・コノリー、クリス・ヘムズワース、アンナ・ハッチソン、フラン・クランツ、ジェシー・ウィイアムズ、リチャード・ジェンキンス、ブラッドリー・ウィットフォード、ブライアン・ホワイト、エイミー・アッカー、あと某大物俳優がカメオ出演!  配給/クロックワークス R15 3月9日よりシネマサンシャイン池袋ほか全国ロードショー中  (C)2011 LIONS GATE FILMS INC.ALL RIGHTS RESERVED <http://cabin-movie.jp> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第212回]裏方スーパースター列伝、あの超絶技が蘇る!『セックスの向こう側 AV男優という生き方』 [第211回]いつもヘラヘラしていた変なヤツ『横道世之介』和製『フォレスト・ガンプ』を思わせる青春回顧録 [第210回]奥西死刑囚は“村社会”を守るための生贄にされた!? 名張毒ぶどう酒事件の闇に迫る再現ドラマ『約束』 [第209回]9.11テロの首謀者ビンラディン抹殺作戦の全貌! アメリカの夜明けは遠く『ゼロ・ダーク・サーティ』 [第208回]チェルノブイリ“立ち入り制限区域”で撮影敢行! オルガ・キュリレンコ主演の社会派作品『故郷よ』 [第207回]“明るい不登校児”のガラパゴスな団地ライフ! 中村義洋監督の箱庭映画『みなさん、さようなら』 [第206回]いつまでもバカやって、尻を追っかけていたい! ぬいぐるみの『テッド』は“永遠のエロ中学生” [第205回]石原慎太郎原作の異色ミステリー『青木ヶ原』ままならない人生の中で出会った恋人たちの行方 [第204回]陶酔と記憶の向こう岸にある世界に3Dで迫る! 松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ』 [第203回]あの低視聴率ドラマ『鈴木先生』が映画版に! “鈴木式教育メソッド”は世界を変えられるか? [第202回]“余命刑事”が家族の絆と細菌兵器を奪回する! 究極の時間制限サスペンス『ブラッド・ウェポン』 [第201回]年末は“女体盛り”パーティーで盛り上がろう! ジェダイの騎士も集う秘密の宴『SUSHI GIRL』 [第200回]もし“理想の恋人”が目の前に現われたどーする!?  情熱的で予測不能な彼女『ルビー・スパークス』 [第199回]“耳フェチ”には堪えられない青春官能ムービー!『耳をかく女』桜木梨奈の無印演技に癒やされたい [第198回]ハリウッドの頑固オヤジがたどり着いた好々爺の境地! イーストウッド、4年ぶりの主演作『人生の特等席』 [第197回]この“明るいヘンタイ”っぷりがいいんじゃない!? 会田誠のアートなエロス『駄作の中にだけ俺がいる』 [第196回]三池監督ならではの“いのちの授業”が始まる! サイコパス教師と過ごす恐怖の文化祭『悪の教典』 [第195回]“絶対的価値”を求める男たちの翔んでもロマン! 井筒監督の犯罪サスペンス『黄金を抱いて翔べ』 [第194回]禁断の蜜が溢れるSM世界『私の奴隷になりなさい』セクシーアイコン・壇蜜がすべてをさらけ出した! [第193回]“無意識の湖”に身を投じたユングと女性患者の行方──クローネンバーグの恋愛サスペンス『危険なメソッド』 [第192回]“お蔵入り映画”が人命救助を果たした!? 実話をベースにした大冒険ロマン『アルゴ』 [第191回]我が家に“食人族”がやって来た! 奇才ジャック・ケッチャムの異形世界『ザ・ウーマン』 [第190回] 裏切り&結託は当たり前。今の政界にそっくり! 極道たちのバトルロワイアル『アウトレイジ ビヨンド』 [第189回] これが全米を熱狂させた“USA版バトル・ロワイアル”! 殺人リアリティーショー『ハンガー・ゲーム』 [第188回]行き詰まった人生の扉を開く鍵は“銭湯”にあり? 内田けんじ監督のオリジナル作『鍵泥棒のメソッド』 [第187回]大家族の伝統料理から超手抜きレシピまで勢ぞろい! 台所から見えてくる中東の家庭事情『イラン式料理本』 [第186回]“世界的な絶滅危惧種”である独裁者に愛の手を!? 政治ネタ&下ネタ満載コメディ『ディクテーター』 [第185回]障害者の性処理も介護の重圧も、すべて笑い飛ばせ! 男たちのバリアフリーな友情ドラマ『最強のふたり』 [第184回]人類を生み出した“創造主”との遭遇!! リドリー・スコットが物語るSF神話『プロメテウス』 [第183回]“校内格差社会”に出現した異分子(ゾンビ)たち! 青春のカタルシス『桐島、部活やめるってよ』 [第182回]カメラマンは法を犯してもかまわない!? 国家の暗部を暴く男の情念『ニッポンの噓』 [第181回]“学校”という名の密室ではびこる児童虐待の事実! 子どもたちは教師を訴える『トガニ 幼き瞳の告発』 [第180回]“神様”との出会いと別れ、そして旅からの帰還  ドキュメンタリー『アニメ師・杉井ギサブロー』 [第179回]親友=お金を貸してくれる、女友達=SEXさせてくれる!? 品性お下劣男の青春『苦役列車』 [第178回]“沢尻エリカ”という名のアトラクションムービー『ヘルタースケルター』が描く無常の世界 [第177回]毒カレー、オウム真理教、光市母子殺害……“悪魔の弁護人”と呼ばれる男の素顔『死刑弁護人』 [第176回]“芸能生活30周年”ニコラス・ケイジの会心作! 被災地に流布する暗号『ハングリー・ラビット』 [第175回]やめろと言われても、今では遅すぎたッ! 妻夫木聡&武井咲主演の過剰なる純愛劇『愛と誠』 [第174回]年間自殺者数3万人を越える現代社会への提言 自殺対策の現状を追った『希望のシグナル』 [第173回]“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』 [第172回]実在の事件を題材にした“命の授業”『先生を流産させる会』がついに劇場公開! 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若松孝二監督が銀幕に遺した“高貴で穢れた楽園”芸能ものの血が騒ぐ男たちの饗宴『千年の愉楽』

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生まれつき容姿に恵まれた半蔵(高良健吾)だが、それゆえ女難が次々と降り掛かる。
信頼できる女性はオリュウノオバ(寺島しのぶ)だけ。
 2012年10月17日、日本映画界は偉大なるゴッドファーザーを失った。17歳のときに家出して上京、ヤクザ時代には拘置所暮らしを経験し、ピンク映画界へ転身、映画を武器に闘い続けた若松孝二監督がそのドラマチックな人生に幕を降ろした。若松監督にとって映画製作は食べていくことであり、同時に自分の中に渦巻く社会への怒りを吐き出すための手段だった。相反する2つの事象を、持ち前のエネルギーできっちり飼い馴らしてみせた。タブーの中に潜む人間の本質を突き詰め、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)、『キャタピラー』(10)、『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12)などの問題作を次々と放った。『海燕ホテル・ブルー』(12)のようなエロい作品もいっぱい撮った。怒ると怖い監督だったが、同時に“父性愛”に溢れた人で、自分の映画に関わった人々や上映会に集まったファン、「若松作品を観るのは初めて」という若い観客に対して、分け隔てなく温かく接する人だった。原発事故、白虎隊、731部隊、沖縄戦など新しい企画を温めていた矢先の訃報となってしまった。  2011年に撮り終えていた『千年の愉楽』が若松監督の最後の作品となった。同名の原作小説は芥川賞作家・中上健次が故郷・和歌山の“路地”と呼ばれる被差別部落を舞台に描いたもので、“高貴で穢れた血”を受け継ぐ男たちが生まれは死に、生まれては死に……を繰り返す神話的ストーリーとなっている。図らずも若松監督は“輪廻転生”をテーマにした作品を最後に残したことになる。
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「ひとりで戦っているヤツは嫌いじゃない」という若松監督の出演要請に応えた高岡蒼佑。
スマートに生きることができない哀しい男・三好を演じる。
 時代は不詳。路地で唯一の産婆であるオリュウノオバ(寺島しのぶ)の目を通して、“高貴で穢れた血”を受け継ぐ中本家の男たちの物語が紡がれていく。中本の男たちはみんな美貌に恵まれているが、同時に若死にするという悲しい業を背負っている。寂しがり屋の半蔵(高良健吾)は、人肌を求めるあまり地元の女全員に手を出してしまった色男。トラブルを起こして大阪の工場に勤めに出ていたが、しばらくして若い女・ユキノ(石橋杏奈)を身籠らせて路地に帰ってきた。母親代わりのオバは家庭を持てば半蔵のビョーキも治まるだろうと安心するが、半蔵は人の良さからまた悪い遊びを再開してしまう。人妻に手を出して、刀傷沙汰に巻き込まれる。半蔵の叔父に当たる三好(高岡蒼佑)も似たような人生を辿る。路地ものゆえに思うような職に就けず、それならばとワルぶってみせる三好。「体から火を噴くように生きたいんじゃ」と言いながら、ヒロポンや盗みに熱中する。三好もまた女性関係でトラブルを招く。中本の男たちを生まれた瞬間から知っているオバは、業に抗うように生き、結局は業に絡めとられていく彼らの生き様と死に様をただただ見守るしかない。中本の血が流れる達男(染谷将太)は気のいい若者だ。達男も同じような人生を進むのか。達男の若いピチピチした肉体を見ていたオバは、思わず後ろからハグしてしまう。大自然の中で重なり合うオバと達男。男と女の営みが続いていく……。  中本の男たちに流れる“高貴で穢れた血”とは何だろうか? 中上作品において路地とは被差別部落を指しているが、中上健次の実際の故郷とは異なり、若松監督が『千年の愉楽』のロケ地に選んだ場所は海に面した美しい集落だ。若松監督が描く路地は、社会からはみ出したヤツらが集う一種のユートピアのように感じられる。中上健次が『千年の愉楽』で綴った“高貴で穢れた血”を、若松監督は映画化することで“芸能ものの血”に塗り替えたように思える。“高貴で穢れた血”と河原ものをルーツに持つ“芸能ものの血”はきっとどこかで繋がっているのだろう。若松監督が“芸能ものの血”を受け継ぐ男たちに選んだのは『軽蔑』(11)に続いての中上作品への主演となった高良健吾、2011年当時Twitter騒動で渦中の人となっていた高岡蒼佑、そして『ヒミズ』(12)や『悪の教典』(12)などの話題作に出演し、将来を嘱望されている若手男優の染谷将太だ。
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半蔵、三好と同じ血が流れる達男(染谷将太)。
汗ばんだ達男の裸体を眺めていたオバは、ついムラムラッとしてしまう。
 若松組に初参加となる3人の男優たちは、劇中すっぽんぽんになる。公開中の『横道世之介』で爽やかなイメージを振りまいている高良健吾だが、本作では路地きっての好色男・半蔵として3Pなどの過激なFUCKシーンに挑戦。Twitter発言で所属事務所を辞めたばかりだった高岡蒼佑は、薬物や窃盗にしか生き甲斐を見いだせず、商売女との快楽に溺れる三好に成り切ってみせる。染谷将太は寺島しのぶとの青姦プレイに励む。男たちは生まれたままの姿で、欲望に身を任せて、あるがままに生きる。若松監督が描く路地は、どこか哀しいユートピアだ。路地内にいる限りは差別を意識することなく過ごすことができるが、路地内でいつまでも惰眠を貪り続けると淀んだ閉鎖環境の中で窒息死しかねない。路地から旅立って、外の世界で生きることができたなら、半蔵や三好はもっと違った人生が開けたかもしれない。達男は路地を飛び出して新天地を求めるが、やがて彼もまた自分の体に流れる血や背負った業と向き合わざるを得ない時がやってくる。  若松監督を家長とする映画の撮影現場では、俳優たちは役を通して自由になり、スタッフは仕事を介して一心同体になることができた。期間限定ゆえの理想郷だった。若松監督は自分のアイデンティティーを見つめ、社会の常識と闘うための“夢の砦”の数々を残して去っていった。お別れの夜、青山の葬儀所には涙雨が降り続けた。明るい黄色いバラやカーネーションで埋め尽くされた祭壇は、豊満な女体をイメージしたものだった。女体の股間部分に置かれた遺影の中でサングラス姿の若松監督は笑っていた。若松監督は亡くなったのではなく、お母さんの子宮の中へ、本当のユートピアへと帰っていったんだなぁと思った。 (文=長野辰次) sennen_yuraku4.jpg 『千年の愉楽』 原作/中上健次 脚本・監督/若松孝二 出演/寺島しのぶ、佐野史郎、高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太、山本太郎、原田麻由、井浦新、増田恵美、並木愛枝、地曵豪、安部智凛、瀧口亮二、岡部尚、山岡一、水上竜士、岩間天嗣、大谷友右衛門、片山瞳、月船さらら、渋川清彦、大西信満、石田淡朗、小林ユウキチ、大和田健介、真樹めぐみ、大西礼芳、石橋杏奈 配給/スコーレ 3月9日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次ロードショー (c)若松プロダクション <http://www.wakamatsukoji.org/sennennoyuraku>

いつもヘラヘラしていた変なヤツ『横道世之介』和製『フォレスト・ガンプ』を思わせる青春回顧録

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主人公たちが人生のスタートラインに立つまでの1年間を描いた『横道世之介』。
高良健吾と吉高由里子の『蛇にピアス』(08)コンビが息の合った芝居を見せている。
 高良健吾&吉高由里子主演の『横道世之介』は吉田修一の同名小説の映画化だが、筆者は学生時代に“世之介”に逢ったことがある。高良健吾ほどの二枚目ではなかったが、九州出身の彼はお調子者で、いつも能天気で、宴会にひょっこり現われては場をさんざん盛り上げて去っていった。その後、彼は役者兼お笑い芸人となり、TVドラマや映画に脇役でちょこちょこ出るようになった。TVの画面やスクリーンの片隅に彼を見つけると「相変わらず、バカなことやってるなぁ」と無性にうれしくなった。多分、『横道世之介』を観た人のほとんどが、「あっ、オレもこいつに逢ったことあるよ」と思うだろう。一緒になってバカやっていた懐かしい友達、それが横道世之介だ。  横道世之介(高良健吾)はごくごく平凡な若者。大学進学のために長崎から上京し、西武線沿線の1Kタイプの安アパートでひとり暮らしを始めた。入学式でたまたま席が隣だった倉持一平(池松壮亮)が勧誘されていたサンバサークルに、クラスメイトの阿久津唯(朝倉あき)と成り行き上、一緒に入会することに。時代は1980年代。バブルに向かう東京を舞台に、地方出身者ならではの純朴さと図々しさを併せ持った世之介のサンバカーニバルのようなニギニギしい大学生活が幕を開ける。サークルの先輩の紹介で高級ホテルでバイトを始め、『ティファニーで朝食を』(61)のホリー・ゴライトリーみたいな正体不明の美女・千春さん(伊藤歩)に片想いする。その一方、同級生の加藤(綾野剛)と通う自動車教習所の女の子たちとちゃっかりWデートする。そこで知り合ったお嬢さま育ちの祥子(吉高由里子)は世之介の気取らない性格をすっかり気に入り、夏休みに世之介の実家まで付いて来てくる。大学の講義に出る暇もないくらい、世之介の1年間がアララッという間に過ぎ去っていく。
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地方から上京したばかりの世之介(高良健吾)はミステリアスな美女・千春さん(伊藤歩)と遭遇。
東京の美人偏差値の高さに驚く。
 流れに身を任せて生きる平凡な世之介だが、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)の主人公ガンプをどこか彷彿させる。ガンプはベトナム戦争や卓球世界選手権を経験し、ケネディ大統領やジョン・レノンら歴史上の著名人たちと次々に遭遇するが、世之介が遭遇するのはもっと身近な人たち。でも、そんな普通な人たちの人生が大きく変わる瞬間に世之介は立ち会うことになる。大学に入って最初に知り合った倉持は早々に大学を去ることになるが、彼が社会人としてスタートを切る記念すべき新居への引っ越しを手伝う。祥子とは故郷・長崎の夜の浜辺でいいムードになるが、初キスを決めようとした矢先にボートピープルの集団が上陸してくる。箱入り娘だった祥子にとって、この一件は衝撃だった。お金持ちのオヤジたちを転がしていた千春さんは、年下の世之介に真っすぐに慕われ、自分の中に意外と気のいいお姉さん気質の部分があることに気づく。世之介本人はまったく自覚がないが、倉持も祥子も千春さんも世之介と出会ったことで確実に人生が変わった。だから、世之介のことを思い出す度に、みんな胸の底から心がキューンとなってしまう。  本作を撮ったのは『このすばらしきせかい』(06)、『南極料理人』(09)で抜群のコメディセンスを披露した若手の沖田修一監督。1977年生まれの沖田監督は1980年代という時代性に強い思い入れはなかったものの、原作を読んで世之介のキャラクターに惹かれたそうだ。沖田監督いわく、「18~19歳の頃って、大学に進学してどこかのサークルに入って、誰か好きになって『ヤベー』みたいな感じで1年間が過ぎてしまうと思うんですよ(笑)。でも、そんな時間の過ごし方の中で、その後の人生が決まっていく。それぞれ人生のスタートラインに立つことになる。『横道世之介』ではそれぞれのキャラクターたちが16年後に自分の人生のスタートラインを振り返り、一緒にいた世之介のことを思い出す。世之介は確かにそこにいたんだと。何者でもない世之介の存在が、とても意味のあることのように思えるんですよね」。
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夏休みに世之介が実家に帰省すると、なぜか祥子(吉高由里子)が付いてきた。
笑い上戸の祥子は世之介家族と妙に打ち解けてしまう。
 コメディを得意とする沖田監督らしいシーンがある。夏休み以降、いろいろあった世之介と祥子だが、世之介は祥子の両親にあいさつを済ませ、晴れて正式に交際することに。お正月、祥子が足を骨折して入院したことを知ると実家に帰省していた世之介はダッシュで祥子の入院先へと向かう。怪我をしたことを知らせなかった祥子を世之介は叱る。「オレたち付き合っているんだろう? もっと心配させてよ」。この言葉に感銘した祥子は「これからはお互いを下の名前で呼び捨てしあうことにしましょう」と提案する。病室の中で「世之介!」「祥子!」「世之介!!」「祥子!!」と互いの名前を連呼しあう2人。キスシーンでもセックスシーンでもない、とてもシンプルな愛の交歓シーンだ。病室の片隅でずっとポーカーフェイスで見守っていた祥子の家のお手伝いさん(広岡由里子)は、この様子を見てボロボロと泣く。お手伝いさんは知っている。2人がようやく本当の恋人同士になれたことを。そして、2人の恋愛は今が最も美しく、この時間はもう二度と戻ってこないことも。  ブラックコメディ『生きているものはいないのか』(11)の前田司郎が脚本を手掛けた本作は、早い段階から各登場キャラクターたちの16年後の姿が描かれ、世之介が思い出の中の人物であることが印象づけられている。16年の間、世の中はいろんなことが起きた。バブル景気はすぐに弾け、阪神大震災とオウム事件が立て続けに起きた。ノストラダムスの大予言は外れたけど、9.11テロのニュース映像に言葉を失った……。オオオッという間の歳月だった。倉持は今も童顔のままだが、阿久津唯との間に産まれた女の子はすっかり反抗期で手を焼いている。千春さんは怪しげな仕事から足を洗い、FM番組のパーソナリティーとして若いリスナーたちのお悩み相談に乗っている。お嬢さまだった祥子は海外留学を経験後、両親が驚くような職業を選択した。日々の生活や仕事に追われて、みんなちょっと疲れ気味。世の中もずいぶん変わってしまった。でも、たまに世之介のヘラヘラ笑っている顔を思い浮かべると、世之介と一緒になってバカやっていた、世間知らずでガムシャラだった頃の自分を思い出すことができる。  映画の中の世之介はとってもかっこいいエンディングを迎えるが、筆者の知っている“世之介”はバイト先でケンカ騒ぎとなり、打ち所が悪くてあっけなくあの世へ旅立ってしまった。お通夜の会場に行くと、先輩芸人や芸能関係者たちからの献花が溢れていて、まるでこれから彼のリサイタルショーでも始まるかのような賑わいだった。お調子者でおっちょこちょいだったけど、最後の最後まで楽しいヤツだった。思い出の中で彼はずっと笑い続けている。 (文=長野辰次) yokomichi4.jpg 『横道世之介』 原作/吉田修一 脚本/前田司郎 撮影/近藤龍人 監督・脚本/沖田修一 音楽/高田漣 出演/高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩、綾野剛、朝倉あき、黒川芽以、柄本佑、佐津川愛美、堀内敬子、大水洋介、田中こなつ、江口のりこ、眞島秀和、ムロツヨシ、黒川大輔、渋川清彦、広岡由里子、井浦新、國村隼、きたろう、余貴美子  配給/ショウゲート 2月23日(土)より新宿ピカデリーほかロードショー  (c)2013『横道世之介』製作委員会  <http://yonosuke-movie.com> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第210回]奥西死刑囚は“村社会”を守るための生贄にされた!? 名張毒ぶどう酒事件の闇に迫る再現ドラマ『約束』 [第209回]9.11テロの首謀者ビンラディン抹殺作戦の全貌! アメリカの夜明けは遠く『ゼロ・ダーク・サーティ』 [第208回]チェルノブイリ“立ち入り制限区域”で撮影敢行! オルガ・キュリレンコ主演の社会派作品『故郷よ』 [第207回]“明るい不登校児”のガラパゴスな団地ライフ! 中村義洋監督の箱庭映画『みなさん、さようなら』 [第206回]いつまでもバカやって、尻を追っかけていたい! ぬいぐるみの『テッド』は“永遠のエロ中学生” [第205回]石原慎太郎原作の異色ミステリー『青木ヶ原』ままならない人生の中で出会った恋人たちの行方 [第204回]陶酔と記憶の向こう岸にある世界に3Dで迫る! 松江哲明監督の『フラッシュバックメモリーズ』 [第203回]あの低視聴率ドラマ『鈴木先生』が映画版に! “鈴木式教育メソッド”は世界を変えられるか? 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