同人イベントで、隣のサークルに挨拶したら、けげんな顔をされた。そんな体験をめぐってTwitterなどで、さまざまな議論が繰り広げられている。 議論の発端となっているのは、同人イベントで、設営時間中に隣のサークルに挨拶をしたら、けげんな顔をされるどころか、なぜか笑われたという体験を綴ったツイート。 これに対して「自分も同じような体験をしたことがある」という実体験を語る人たちが登場しているのだ。 同人イベントにサークル参加する場合、両隣のサークルに挨拶をするのは、誰に教わったわけでもないけれども半ば常識なのだが、実は、そう思っているのは限られた人々だけということのようなのだ。 ある同人誌即売会スタッフによれば、ジャンルによって常識や慣例はさまざまだという。 「けっこう殺伐としているのは、男性向け18禁ではないでしょうか。売上を追っているサークルは、スタンドでポスターを掲示する時に周囲の迷惑を顧みずに、自分のところだけが目立つような設置をしたりしますよ」 そんな売上重視ゆえの殺伐さに限らず、もともとサークル参加の場合には挨拶するという慣習を知らないという人も増えているという。 「かつては、一般参加にしてもサークル参加にしても、人に聞くとか、そうした情報が載っている雑誌、あとはカタログなんかを読んで、やっていいこと悪いことを学んでいたんだと思います。でも、最近は、そうした経験がなくてもネットで仕入れた知識だけで、同人誌を制作、サークル参加もできますからね」(同) とりわけ、一般からサークルまで参加者が同人イベントのマナーを学ぶ資料として機能してきたのが『コミックマーケットカタログ』の「まんがレポート」。ここでは、現在も人に喜ばれる行為やひんしゅくを買うケースが実体験に基づいて投稿されている。けれども、これすらも、すべてのコミケ参加者が読んでいるわけではない。 「もうネットで調べるだけで、カタログを読まない人も多いですしね……」(同) 本来、ジャンルの相違はあれど同人イベントというのは、広くさまざまな同好の士が集う場のハズ。半日は一緒に過ごすわけだから、挨拶くらいしようよというのは、年寄りのたわ言なんだろうか? (文=是枝了以)
「7490」タグアーカイブ
『黒子のバスケ』騒動で露呈した、大手同人企業・スタジオYOUの権利意識

スタジオYOU 公式サイトより
最近相次いでいる、漫画『黒子のバスケ』の作者・藤巻忠俊氏の母校や出版社、イベント会場などに脅迫状や薬物のようなものが送り付けられる事件。そんな中、脅迫状が届いた同人誌即売会主催企業が、フジテレビの取材を「無断撮影」だとして、撮影した動画などの廃棄を求めて波紋を呼んでいる。
この事件が起きたのは10月21日のこと。この日、フジテレビは東京ビッグサイトで『黒子のバスケ』を扱う同人誌即売会に脅迫状が届いていたことを知り、取材に訪れた。主催者の「スタジオYOU」の説明によれば、会場を通じて取材の申し出があったが、これを断った。ところが当日夕方のニュース番組で、会場の様子を撮影した映像が流れたため、同社に電話で抗議。ところが同社がそれに応じなかったため、弁護士を通じて謝罪と撮影素材の廃棄を求める内容証明を送付したというものだ。
スタジオYOUの要求は、「撮影等によって本件参加者のプライバシー権を侵害したことについて謝罪の意を表明すること」「貴社ウェッブサイト上にアップロードされている本件動画又は静止画像を削除すること」「貴社内に保管されている本件動画及びその静止画像を廃棄すること」といったもの。さらに、イベント参加者のプライバシー権侵害、業務妨害だと激しく指弾している。
これに対してフジテレビは、11月6日「本件撮影等は適法と認識している」「したがって,当該映像データの一切(静止画像,DVDメディア等を含む)は廃棄する必要がないと考えている」と回答し、いまだに両者の主張は平行線をたどっている。
この事件で最も疑問なのは、フジテレビの取材を「無断撮影」だとするスタジオYOUの主張だ。筆者も当日のニュース映像を見てみたが(本編動画は削除されているが、キャプチャ画像は現在でも掲示板やまとめサイトで見ることができる)、映像は少し離れた場所から会場の風景、参加者の首から下を撮影したもの。おそらくは、敷地外から望遠で撮影したものと思われ、スタジオYOUもホームページで、その可能性が高い旨を述べている。
スタジオYOUは、この点も「敷地外なら、主催者が取材を断っているのに、報道としては間違っていないステップを踏んでいると言い切れるのか? もっと踏み込んで言わせていただけるならば、敷地外なら何をしてもいいのか? 理解できない部分です」と、厳しく口撃している。
果たして、敷地の外から見える光景が「無断撮影」になり「個人のプライバシー」を侵害するものになるのか? 日本雑誌協会編集倫理委員長の山了吉さんの答えはNOだ。
「プライバシーの侵害になるケースは、自宅の室内や病室など私的空間に限定されたものです。誰もが訪れることのできる場所、見ることができる場所で群衆を撮影したものは該当しません。ありえるとしたら、群衆の中のひとりをクローズアップして行動を、ことさらに撮影した場合です。今回の件は、それには該当しないのではないでしょうか。(フジテレビの撮影は)東京駅前で朝の通勤風景を撮影した映像にモザイクをかけていないのと、同じです」
スタジオYOUも法人である以上、この程度のことは理解しているはず。
では、同社が執拗に撮影素材の廃棄までを求める理由は、どうしてだろうか。BL作家の水戸泉さんは語る。
「腐女子の中には、自分の趣味を職場や学校など他人に知られることを恐れる人がとても多いのです。そのため、スタジオYOUとしては顧客に対して、ちゃんと抗議している姿勢を示さなくてはならないのでしょう」
なるほど、あくまで客に対してのポーズを示す、ビジネス上の理由が先ということか。
とはいえ、「プライバシーの侵害」「無断撮影」という言い方は、ちょっと過剰ではなかろうか。
同社をめぐっては、2008年に同人誌業界の企業・団体が多く参加した「児童ポルノ法」改正案に反対する署名活動の際、「ウチの客は中高生が多いから」と参加を拒否した件が思い出される。18禁イベントを開催しながらも、そうした発言をするのが同社のスタンス。今回の一件と併せてみれば、スタジオYOUという企業が「言論・表現の自由」をどのように理解しているか、すべてが露呈してしまったと見ることができる。
なお、当日どういった理由で取材を拒否したのか、フジテレビへの今後の対応などを聞くべくスタジオYOUに取材を申し込んだが、「ホームページに掲載していること以外に、お話しすることはありません」との回答であった。
(取材・文=昼間たかし)
製作総指揮・クリムゾンが語る『蒼い世界の中心で』の魅力とは

(c)2012 Crimson
「最も危険なWEBコミック」というキャッチコピーが躍るWEBコミック『蒼い世界の中心で』が、TOKYO MXほかでテレビアニメ化される!
このニュースを聞いて「いろいろと大丈夫なの?」と、驚きよりも先に、心配をしてしまったオールドゲーマーは少なくないだろう。
覇権(シェア)をめぐり、ニンテルド帝国とセグア王国が激しく争うコンシューム大陸。「炎帝・マルクス」率いる強国ニンテルド帝国は、特殊能力を持つ優秀なキラーの力であっという間に大陸の覇権を握り、近隣諸国をも傘下に収めていた。有効な打開策を見出せないセグア王国は防戦一方。しかし、「青い音速」ことギアの登場で、戦局は大きく動き出していく、という一見ファンタジー戦記モノっぽいあらすじの本作だが、読んでいただければ分かる通り、出てくる名称がいちいちゲーム業界を彷彿とさせるものばかり。こういうネタは誰もが一度は想像するけれども、それを実際に作品として発表し、あまつさえちゃんと「面白い作品」になっているのが本作のすごいところだ。
「もともとこういう漫画は描いてみたいと思っていて、これまで自分を育ててくれた“ゲーム”への感謝の気持ちで描き始めました。“ゲーム”は世界的にはとても評価されているにもかかわらず、日本国内での評価はまだそれに見合うものではないと感じています。国内でも、もっとその価値が認められるようになったらいいなと思います」
そう執筆の動機を語るのは、原作であるWEBコミック『蒼い世界の中心で』の作画を手がけ、アニメ版の製作総指揮も担当するクリムゾン氏だ。
ゲームとともに成長し、ゲームから多くのことを教えてもらった氏が描く『蒼い世界の中心で』の世界は、ゲームへの愛情に満ち溢れている。1980年代以降の国内コンシューマゲーム市場の動向を下敷きに描かれる壮大な戦国絵巻である本作の物語は、ほぼ史実に基づいたものだ。
「やはり一から創作するとなると、よほど練り込まない限りは薄っぺらいファンタジーになってしまうので、実際の歴史をエッセンスのように取り入れてはいます。実際の歴史が8割くらいのつもりです。
物語の細かいところに思い出を詰め込む作業は楽しいですね。とあるゲーマーの方から“『蒼い世界の中心で』は本気でゲームを愛していた人ほど細かい部分で泣けるマンガ”という評価をもらったときはうれしかったですね」

「ニンテルド」と「セグア」の抗争という基礎設定だけで、思わずニヤリとしてしまう読者も少なくはないだろうが、その戦いにニンテルドと友好関係を結んでいた「ハビド」が「ピシエ王国」と結託し、突如第三勢力として参戦。さらに、敵か味方か、北方からやってきた穴に棒を入れたがる謎の傭兵・アレクセイ=テジロフ(好きな数字は4で、パズルと呼ばれる魔道を使って戦う)などが登場し、物語が進むにつれてコンシューム大陸は混迷を深めていく。しかし、覇権を目指して登場人物たちはみな生き生きと戦場を駆け抜け、各陣営は強化戦士である「キラー」を駆使して必死に生き残りをかける。その光景は、まるで活気に溢れていたひところのゲーム業界の縮図そのものといってもいいかもしれない。
そんな驚異の擬人化(?)アニメ『蒼い世界の中心で』だが、冒頭にも書いた通り、原作には「最も危険なWEBコミック」というキャッチフレーズがついたほど「ここまで描いちゃっていいの?」と思えるような業界ネタや、マニアックなゲームネタがたっぷりと盛り込まれている。果たしてアニメ版では、この危険な要素はどの程度再現されるのだろうか。この疑問にクリムゾン氏は、
「製作総指揮を原作者である私自身が務めていますので、その辺りは大丈夫だと思います。キャラクターデザイン、脚本、絵コンテ、アフレコ、動画チェックすべてにおいて参加していますので、原作のテイストを可能な限り残すように頑張りました」
と自信満々に回答。氏のゲームに対する深い理解と愛情は、アニメ版でも健在のようだ。
また、アニメ版では躍動感溢れるアクションシーンはもとより、原作ではまだ一度も戦ったことのないニンテルド最強の男・マルクスの戦闘シーンも描かれるということで、原作ファンも見逃せない内容となっている。個人的にはキャラクターのアクションに加えて、演出やSEといった要素でも、どこまでネタを再現できるのかにも注目したいところだ。
そんな問題作を作り上げてしまったクリムゾン氏。WEBコミックからスタートし、ついにテレビアニメまで成長してしまった本作を作る原動力となった「ゲーム業界」の魅力とは、いったい何なのだろうか?

「0と1と夢とで、0から1を生み出すことができることですね」
自身が作詞を手がけ、ネル役の三森すずことオパール役の橘田いずみが歌うEDテーマ「0と1の花」の一節を引用して語るクリムゾン氏。その言葉からは、揺るぎのないゲームへのリスペクトと愛情が感じられる。
クリムゾン氏は、「普通の少年漫画として見てもいいし、壮大なコント作品として見てもいいところ」が本作最大の魅力だと言うが、コントも突き詰めれば立派にドラマを語れるのだ。原作コミックを読んだことのある人なら、誰もがそう感じたことだろう。
前代未聞のチャレンジ精神とゲーム愛。そしてほんのちょっぴりのノスタルジーに満ちた『蒼い世界の中心で』第1話は、10月20日にTOKYO MXにて。11月9日にAT-Xにて放送予定。第2話、第3話は2013年春に放送を予定している。
余談ではあるが、もともとクリムゾン氏といえば同人業界のヒットメーカー。商業ベースの作品を発表する上で、何か違いや新たな発見がないかを尋ねたところ、
「実は今回のアニメ化以外にも、ここ数年の間に携帯コミック化、アダルトビデオ化、OVA化などいろいろやっているのですが、もちろん新しい発見が数多くありました。すごく面白くて貴重な体験もありますので、いずれ自叙伝とか出して語りたいです(笑)」
とのこと。クリムゾンファンは、こちらにも期待してもいいのかもしれない。
(取材・文=有田シュン)
「結局、コミケはニコ動に喰われていくのか?」他誌じゃ書けない本音満載『マンガ論争』Vol.07

『マンガ論争』vol.7 2012年夏号発行
「結局、コミケはニコ動に喰われていくのか?」他誌じゃ書けない本音満載『マンガ論争』Vol.07

『マンガ論争』vol.7 2012年夏号発行
次回は99.5回目!? 老舗同人誌即売会MGMがいよいよ100回目の開催へ王手!

コミケに次ぐ、日本で2番目に古い同人誌即売会MGM(まんが ギャラリー&マーケット)。6月10日、その99回目となる「MGM99」を開催し、いよいよ次回は記念すべき100回目の開催……と思いきや、次回は「MGM99.5」となることに。
コミックマーケットから分離独立する形で1980年から始まったMGMは、二次創作ジャンルが肥大化する同人誌即売会に背を向けて、創作系を中心にして開催されている。現在では、極めて独自色が際立つ即売会だ。今年1月に5年ぶりに開催された「MGM98」では、69サークルが参加。6月の「MGM99」では62サークルが参加と、規模は小さいながらも、70年代からの同人誌文化を知る人々も多数参加している。
「MGM99」では、いよいよ次回は100回目と参加者も考えていたのだが、会場で配布されたチラシで告知されたのは「MGM99.5」だったのだ。
「MGM99.5」の開催にあたっては、会場の都合などさまざまあるが、根本的には記念すべき100回目を盛り上げるためだ。告知チラシでは「MGM100に新刊で参加したくなるMGM」を宣言し、「次回MGM100を目前にして、前夜祭というか、初めての企画でMGM100準備編をやります」としている。つまり、この99.5回目を利用して、参加者にも100回目を記念碑的な即売会に位置付けるためのアイデアや企画を準備してほしいというのが、主催者の狙いなのだ。
開催日は9月1日、会場の都合で15時から19時30分までという、即売会にはおおよそあり得ない時間設定に。しかも翌日には、創作系同人誌即売会の大手である「コミティア」も予定されている。果たして、参加者が2日間続けてイベントを楽しもう! となるか、あるいは「コミティアがあるからMGMはいいや」となるかが気になるところだ。
毎回、即売会終了後には参加者全員で意見交換会、その後は打ち上げという流れになっており、極めて参加者同士のコミュニケーションの機会が多いのがMGMの特徴だ。単に同人誌を売り買いするだけ、あるいは買った同人誌を家に帰って読むのだけが楽しみ、といったサイクルから脱却したいなら、ぜひ参加してみるべきである。
ほかの同人誌即売会にはない、新たな発見があるはずだ。
(取材・文=昼間 たかし)
ヒロイン全員が障害者の恋愛ゲーム「かたわ少女」開発チームインタビュー
null
――ボリュームはフルサイズですが無料で提供されています。無料で提供することにした理由は?
開 私たちは「決して金銭をプロジェクトにかかわらせない」という理念のもとに開発を始めました。この理念を掲げたことにはたくさんの理由があります。一番大きいのは、一度お金がかかわり始めると、開発の雰囲気が大きく変わってしまうことです。これほど大人数、かつ外部からの協力者も多いチームで、誰がどれだけお金をもらうかを決めるのは非常に難しいことです。私たちがこのゲームを作り始めたのは、シナリオ書きや作曲や絵を描くこと等々が好きだったからです。その気持ちのおかげで、私たちはお金を必要とすることなく、最後までやり通すことができました。
――日本語版のリリースはいつ頃を予定していますか?
開 現時点ではなんとも言えません。日本語訳チームが鋭意翻訳中ですが、今のところ日本語版のリリース時期はかたわ少女本編と同じく、「完成したら」といえるでしょう。
――日本語版リリースのときには、コミックマーケットなどでの頒布も考えていらっしゃいますか?
開 可能性はあります。これまで、日本のイベントでの頒布は日本語訳チームが行っています。彼らは素晴らしい仕事をしてくれています。現地の即売会に私たちの作品が並ぶというのは本当にすごいですね。
――これまで、日本でも障害者を扱ったゲームはほとんどありません。そのため、まだ、もの珍しさで注目されていると思います。
ぜひ、多くの方々にプレイしてもらうためにも、日本のゲームファンに一言メッセージをいただけますか。
開 「かたわ少女」を作り始めたとき、私たちは自分たちが満足するだけのゲームを作ろうとしたのではありませんでした。自分のために書くだけでは自己満足の域を出ないと思いました。私たちの目標は人々を楽しませること、商業ビジュアルノベルに匹敵する記憶に残るゲームを作ること、ほかの誰とも違わない人たちについての、普段語られることのない物語を伝えることでした。この目標は達成することができたと思っています。そしてみなさんにも、「かたわ少女」に登場する興味深い人物たちの物語を読んでいただければと思います。
(取材・文=昼間たかし)
●「かたわ少女」オフィシャルサイト(日本語)
<http://katawa-shoujo.com/index.php>
※現在、英語版がダウンロード可能。
美少女マスク
美少女バンザイ!

【関連記事】
・「制作会社に採用されなくてよかった」原作者・竜騎士07の挫折と下克上(前編)
・今、ほほえみの国・タイが生んだ美少女ゲーム『Re Angel』が熱い!
・「筋が通らないことをしている」カリスマ同人作家・ZUNが同人ショップを痛烈批判!

「かたわ少女」公式サイトより
実は、完成を心待ちにしていた人が多かったのではないだろうか。1月4日、待ちに待った同人ビジュアルノベル「かたわ少女」完全版がついにリリースされた。タイトルが示す通り、本作は主要登場人物がほどんど障害者という、前代未聞の設定の18禁ビジュアルノベルだ。両足の膝から下がないツインテール少女。ろうあ者の生徒会長、両手がないけど絵を描くのが好きな少女......。物語は、先天性の心臓疾患を抱える主人公の視点で進んでいくことになる。
そして、本作のもう1つの特徴が、開発スタッフがほぼ日本人以外で進められたこと。開発の始まりは10年以上前に遡る。きっかけは、英語圏で著名な画像投稿掲示板である「4chan」に投稿された「こんなエロゲーあったらいいな」という趣旨の、日本の同人誌(RAITA氏の同人誌『Schuppen Harnische』)のスキャン画像だった。障害を持つヒロインたちの、たった1ページだけのイラスト。それを見た人々の間でゲーム化案は盛り上がり、幾度かの停滞を見せながらも、ついに1本の作品に仕上がったのだ。同人誌が作成されたのは2000年、実際にゲーム化の作業が本格化したのは07年頃からだというから、そこに開発者らの完成に向けた強い意志があったことは想像に難くない。
筆者もできない英語にヒィヒィしながらゲームをプレイしている最中だが、本作は単に障害をネタにして扱う作品では断じてない。本気で感情移入できるクオリティの高い作品なのだ。しかも、膨大なボリュームにもかかわらず無料配布しているのだから、驚く。一体、こんな驚きのゲームを開発したのはどのような人々なのか。日本語翻訳チームを通じて、開発者を取材した。
――最初、開発が呼びかけられたのは「4chan」だと聞いています。まったく、初対面の方々が集まったんですか?
開発チーム氏(以下、開) そうですね。イラストレーターについては1人を除いて全員が知り合いでしたが、彼らはプロジェクトの途中から一緒に参加しました。彼ら以外は、お互いにまったく面識がありませんでした。
――開発者ブログで「かたわ少女の歴史」を読みました。ゲームの開発が呼びかけられるほど、RAITA氏のコンセプトアートには魅力があったのだと思いますが、具体的にはどういった部分ですか?
開 それは人それぞれです。初期の段階で人々が魅了された理由の多くは、元絵のアイデアが実際にゲームを作りたくなるほど異国情緒にあふれていて、ワクワクするような際だった内容だったという点にあると思います。また、今の日本の高校という舞台もなじみやすいもので、それでいて自由な想像の余地を残していました。キャラデザインもバラエティに富んでいて、多くの人たちが少なくとも1人はお気に入りのヒロインを見つけることができました。元気っ子キャラが好きな人は「笑美」に興味を抱く一方、ツンデレキャラが好きな人は「静音」に引かれる、といった具合です。

障害というアイデアはつかみとしては非常に有効でした。本当に珍しいものだし、潜在力を秘めていました。プロジェクトが最初に立ち上がったとき、障害というテーマにどのようにアプローチすべきか、誰もが異なる考え(荒々しい抜きゲーから、「narcissu」のような地に足の着いた現実的な鬱ゲーまで)を持っていました。
――開発にあたっては、どのような形でコミュニケーションを取っていたんですか? オフラインで会合を開くこともあったのでしょうか?
開 コミュニケーションは、主に掲示板(フォーラム)とIRCという2つの手段が使われました。掲示板は決まった情報を書き留めるには非常に役立ちました。一方、IRCはもっと自然な形で議論をするために徹底的に活用しました。掲示板は事務所のホワイトボードのようなもので、IRCは自分たちが仕事をする事務所そのもののようなものでした。開発中、常に話し合いを続けるというわけです。すべての開発者はIRCに毎日出入りをしていました。時差のために多少の困難はありましたが。
開発者同士がニアミスをしたことは何度かありましたが(数時間違いの差で別の飛行機に乗ったなど)、実際にオフラインで会って話をしたのは2回だけです。とても珍しいことで、偶然の出来事でした。すべての作業はオンライン上で行われています。
――「かたわ少女の歴史」によれば、07年の時点で一度、開発は停滞しました。それでも制作を続けようと思った理由はなんでしょうか?
開 07年に起きた重大な問題は、ライターはいても絵がまったくないということでした。いつか絵の描ける人が加わってくれるかもしれない、という希望だけで作業を続けていたようなものでした。その後、奇跡的に6人のイラストレーターが加わってくれました。こういう厳しい時期を「かたわ少女」プロジェクトが乗り越えられたのは、ほかの開発者仲間に対する責任感のためだと思います。誰かがプロジェクトから脱落したら、これまでに作り上げた成果を無駄にし、ほかのみんなをとても苦しい立場に追いやることになります。これは一種の仲間意識につながったといえるかもしれません。
――開発にあたって参考になった日本のゲームなどはありますか?
開 どの開発者も作業のやり方には外部からいろんな影響を受けています。プロジェクト全体にとって最も影響の大きかった2つの作品を上げると、「To Heart2」と「narcissu」だと思います。前者はイラストに、後者はテキストに影響を受けました。
絵描き集団がプロジェクトに加わったとき、最初に決めたことの1つがゲーム中の絵柄でした。各人がそれぞれの流儀を持った絵描き集団ですから、なんらかの共通の基準を決める必要がありました。いくらかの議論を経て、甘露樹(leafのイラストレーター)氏の作品を彷彿とさせる絵柄に落ち着きました。絵描きたち全員がとてもリスペクトしている作家です。「To Heart2」に似た絵柄はどの絵描きも描けるし、「かたわ少女」にも合うと全員が考えました。氏の絵柄はかわいらしく快活ですが、落ち着いていてどこか現実味のあるものでした。
「narcissu」はゲーム中の感情の使い方が、ライター陣の多くに影響を与えました。ゲーム全体が中心的なプロットを軸に、とても注意深く組み立てられています。そしてプレイヤー自身の気持ちをうまく利用することで、メロドラマ風に陥ったり、テンションを上げすぎたりすることなく、プレイヤーの関心をかき立て、感情を揺り動かすことができていました。

――システムが日本人にもなじみ深いビジュアルノベルの形式で違和感なくゲームを楽しむことができました。これまでも日本のゲームはプレイしたことはありましたか? また、海外では日本のゲームはどのような形で流通しているのですか?
開 すべての開発スタッフはビジュアルノベルをプレイしています。人によっては1、2本しかやっていませんし、たくさんプレイしている人もいます。お気に入りのブランドのウェブサイトや、「TECH GIAN」「G'sマガジン」などでビジュアルノベルの新作を常にチェックしている人もいます。ほとんどの場合、ゲームはインターネット経由で入手しています。そして英語・日本語の両方を話すファンによる翻訳パッチを使用しています。私自身のお気に入りはリトルウィッチの「Quartett! 」です。一部のスタッフの期待の作品は、天狐の「英雄*戦姫」です。
――ビジュアルノベル形式を選んだ理由は?
開 最初にプロジェクトの案が出たとき、多数の人の目を集めた要素の1つが、自分たち自身が大好きなジャンルのゲームを作る機会が得られる、ということでした。とても早い段階で、「かたわ少女」はビジュアルノベルの形で制作するという決定がなされました。以来、それを変えようという試みは一度もありませんでした。
――物語の舞台を日本にした理由を教えてください。
開 たくさんの人にとって、多くの作品で使われる日本という舞台設定はビジュアルノベルの魅力の1つなのです。異国情緒があって関心を抱かせる程度には物珍しさがありますが、珍しすぎてほとんどのプレイヤーになじみがない、というほどではありません。開発が進む中で、「現代日本の高校を舞台にしたビジュアルノベルは山ほどあるのだから、舞台設定を変えないか」という意見が一部のメンバーから出ましたが、変更するには時すでに遅しでした。
――さまざまな国籍の人が協力して制作していると聞いています。メンバーの国籍について、教えてください。
開 オーストラリア、アメリカ、フィンランド、イギリス、イタリア、ドイツ、カナダ、そしてインドネシアです。なかなかの顔ぶれですね。
――英語版を公開してから、ダウンロード数はどれくらいですか?
開 残念ながら、私たちにはダウンロード件数を計測する手段がありません。ただ言えることは、ゲームのインストーラファイルを直接ダウンロードできるようにしたことが3回あったのですが、そのたびにダウンロードしようとする人たちが殺到して、数分でサーバーが過負荷状態になってしまいました。なので、相当多くの人がプレイしているようです。
――これまでに寄せられている感想のうち、印象の強いものを教えてください。
開 ゲームをリリースした当初は、Act1(体験版)に反応したようなところから、ほどほどに好印象の驚きのような反応がきてそれでおしまいだろう、という程度に考えていました。リリース後の数日間、たまげるほどの感動的な反応が津波のような怒濤の勢いで盛り上がりました。これは私たちの想像をはるかに超えるものでした。私たちが感銘を受けた反応はいくつもあります。1つや2つの逸話では到底足りません。自分の人生をよりよいものにするために教育を受ける道に進み始めた人、とぎれた人間関係を取り戻した人たち、恵まれない人を助けるために寄付をする人たち。そして全般に、多くの人々が自分自身、そして周りの人たちの暮らしをよりよいものにしよう、と決心しました。「かたわ少女」が人々にこのような影響を与えるのを見るのはうれしいですね。
――ボリュームはフルサイズですが無料で提供されています。無料で提供することにした理由は?
開 私たちは「決して金銭をプロジェクトにかかわらせない」という理念のもとに開発を始めました。この理念を掲げたことにはたくさんの理由があります。一番大きいのは、一度お金がかかわり始めると、開発の雰囲気が大きく変わってしまうことです。これほど大人数、かつ外部からの協力者も多いチームで、誰がどれだけお金をもらうかを決めるのは非常に難しいことです。私たちがこのゲームを作り始めたのは、シナリオ書きや作曲や絵を描くこと等々が好きだったからです。その気持ちのおかげで、私たちはお金を必要とすることなく、最後までやり通すことができました。
――日本語版のリリースはいつ頃を予定していますか?
開 現時点ではなんとも言えません。日本語訳チームが鋭意翻訳中ですが、今のところ日本語版のリリース時期はかたわ少女本編と同じく、「完成したら」といえるでしょう。
――日本語版リリースのときには、コミックマーケットなどでの頒布も考えていらっしゃいますか?
開 可能性はあります。これまで、日本のイベントでの頒布は日本語訳チームが行っています。彼らは素晴らしい仕事をしてくれています。現地の即売会に私たちの作品が並ぶというのは本当にすごいですね。
――これまで、日本でも障害者を扱ったゲームはほとんどありません。そのため、まだ、もの珍しさで注目されていると思います。
ぜひ、多くの方々にプレイしてもらうためにも、日本のゲームファンに一言メッセージをいただけますか。
開 「かたわ少女」を作り始めたとき、私たちは自分たちが満足するだけのゲームを作ろうとしたのではありませんでした。自分のために書くだけでは自己満足の域を出ないと思いました。私たちの目標は人々を楽しませること、商業ビジュアルノベルに匹敵する記憶に残るゲームを作ること、ほかの誰とも違わない人たちについての、普段語られることのない物語を伝えることでした。この目標は達成することができたと思っています。そしてみなさんにも、「かたわ少女」に登場する興味深い人物たちの物語を読んでいただければと思います。
(取材・文=昼間たかし)
●「かたわ少女」オフィシャルサイト(日本語)
<http://katawa-shoujo.com/index.php>
※現在、英語版がダウンロード可能。
寡占化が進む同人誌書店 リブレット撤退は新たな業界再編の布石か

男性向け同人誌に定評のあるメロンブックスだが、
今回の撤退は果たしてどのような結果をもたらすのか
(2011年末秋葉原店の店頭にて)。
新たな業界再編の動きの一部なのか。1月末、同人誌書店の大手・メロンブックスが女性向け部門のリブレットの事業を2月末で取りやめることを発表し、注目を集めた。これにより、同社は女性向け事業からは完全に手を引き、男性向け同人誌を中心に据えた事業を展開していくことになる。
リブレットは、メロンブックス店内にコーナーとして展開するものも含めて全国に6店舗。中でも池袋店は昨年9月にオープンしたばかりで、早期撤退を決めた背景には、この店舗の売り上げが芳しくなかったことがうかがい知れる。業界の動向に詳しい同人誌書店関係者は語る。
「損失が拡大する前に、早期に不採算部門を切り捨てたのは経営判断としては的確です。その点については英断といえるでしょう」
同人誌市場全体の動向を見ると「市場が縮小している」という分析が大勢を占めるが、その実態は女性向けに限らず男性向けも含めて、飽和状態というのが正しい。需要に対して供給が過剰な状態が続いており、結果として同人誌書店の売り上げも右肩下がりのスパイラルから抜け出せていない。その中で、メロンブックスが女性向けを切り捨て、従来から得意としてきた男性向けに絞って経営戦略を立てるのは妥当といえるだろう。
ただ、メロンブックスの内部にもさまざまな問題が存在するという話もある。
「近年、盛んに経費節減が叫ばれていて社員も苦労しているという話を聞きますね。また、経営陣が同人作家や即売会対応を担っている社員に対して"ルート営業と同じ"と発言したとかで、男性向け同人誌を担当していた幹部社員が一時退社する騒動もあったとか。その後、復帰したそうですが、その発言が事実なら、経営陣はちょっと同人誌について理解が不足しているといえるでしょう」(同前)
いずれにしても、メロンブックスは男性向けに強い同人誌書店として、一定の支持を集めていることは確かだ。リブレットの撤退によってあらためて、そのイメージが顧客層に認識されるのであれば、経営的には吉と出るのではあるまいか。
■アニメイトグループの寡占化は現在進行形
もうひとつ、リブレット撤退の背景としてウワサされているのが、アニメイトグループの事業再編というものだ。本来、女性向け同人誌はアニメイトの得意分野。それをグループの別会社であるメロンブックスが行っているのは、確かに不採算だろう。しかし、業界の事情通たちに話を聞いたところ「もしそうならば、そもそもリブレットを出店しないはず」と否定する。
「アニメイトグループは、出版業界でいえば角川書店に似た経営スタイルです。同じグループ内にユーザーが被る事業があっても、なんら問題にしていません」(事情通)
そもそもアニメイトグループは、かなり奇妙な部分がある。メロンブックスやらしんばんがアニメイトグループに属していることは、同人誌業界では誰もが知っている事実なのだが、アニメイト側が積極的にそれをアナウンスすることはない。昨年、秋葉原に同人誌書店・らしんばんがオープンする際にアニメイトの割引券を配ったときには「ついに正体を明かすとは、一体なにが起こるのだろうか」と、業界内では注目を集めたほど。
なにより、メロンブックスやらしんばんがグループ会社なのは明らかなのに、経営の形態はどうなっているのか等々、肝心なところは公開情報ではまったく見えてこない。また、リブレット撤退が事業再編の一貫という説を補強する「アニメイトは社内の世代交代に向けて再編の真っ最中である」というウワサも、実態はどういうものなのか判然としない。高橋豊社長の子息が社員として働いているのは事実だが、世襲が行われるのかも不明である。
巨大化するアニメイトグループだが、寡占化は業界にどのような影響を及ぼすことになるのだろうか。特定の一社が市場を占有してしまえば、競争力が衰えるのは自明の理。同人誌書店における「競争」の意味もあらためて考えてみたいものだ。
(取材・文=昼間たかし)
寡占化が進む同人誌書店 リブレット撤退は新たな業界再編の布石か

男性向け同人誌に定評のあるメロンブックスだが、
今回の撤退は果たしてどのような結果をもたらすのか
(2011年末秋葉原店の店頭にて)。
新たな業界再編の動きの一部なのか。1月末、同人誌書店の大手・メロンブックスが女性向け部門のリブレットの事業を2月末で取りやめることを発表し、注目を集めた。これにより、同社は女性向け事業からは完全に手を引き、男性向け同人誌を中心に据えた事業を展開していくことになる。
リブレットは、メロンブックス店内にコーナーとして展開するものも含めて全国に6店舗。中でも池袋店は昨年9月にオープンしたばかりで、早期撤退を決めた背景には、この店舗の売り上げが芳しくなかったことがうかがい知れる。業界の動向に詳しい同人誌書店関係者は語る。
「損失が拡大する前に、早期に不採算部門を切り捨てたのは経営判断としては的確です。その点については英断といえるでしょう」
同人誌市場全体の動向を見ると「市場が縮小している」という分析が大勢を占めるが、その実態は女性向けに限らず男性向けも含めて、飽和状態というのが正しい。需要に対して供給が過剰な状態が続いており、結果として同人誌書店の売り上げも右肩下がりのスパイラルから抜け出せていない。その中で、メロンブックスが女性向けを切り捨て、従来から得意としてきた男性向けに絞って経営戦略を立てるのは妥当といえるだろう。
ただ、メロンブックスの内部にもさまざまな問題が存在するという話もある。
「近年、盛んに経費節減が叫ばれていて社員も苦労しているという話を聞きますね。また、経営陣が同人作家や即売会対応を担っている社員に対して"ルート営業と同じ"と発言したとかで、男性向け同人誌を担当していた幹部社員が一時退社する騒動もあったとか。その後、復帰したそうですが、その発言が事実なら、経営陣はちょっと同人誌について理解が不足しているといえるでしょう」(同前)
いずれにしても、メロンブックスは男性向けに強い同人誌書店として、一定の支持を集めていることは確かだ。リブレットの撤退によってあらためて、そのイメージが顧客層に認識されるのであれば、経営的には吉と出るのではあるまいか。
■アニメイトグループの寡占化は現在進行形
もうひとつ、リブレット撤退の背景としてウワサされているのが、アニメイトグループの事業再編というものだ。本来、女性向け同人誌はアニメイトの得意分野。それをグループの別会社であるメロンブックスが行っているのは、確かに不採算だろう。しかし、業界の事情通たちに話を聞いたところ「もしそうならば、そもそもリブレットを出店しないはず」と否定する。
「アニメイトグループは、出版業界でいえば角川書店に似た経営スタイルです。同じグループ内にユーザーが被る事業があっても、なんら問題にしていません」(事情通)
そもそもアニメイトグループは、かなり奇妙な部分がある。メロンブックスやらしんばんがアニメイトグループに属していることは、同人誌業界では誰もが知っている事実なのだが、アニメイト側が積極的にそれをアナウンスすることはない。昨年、秋葉原に同人誌書店・らしんばんがオープンする際にアニメイトの割引券を配ったときには「ついに正体を明かすとは、一体なにが起こるのだろうか」と、業界内では注目を集めたほど。
なにより、メロンブックスやらしんばんがグループ会社なのは明らかなのに、経営の形態はどうなっているのか等々、肝心なところは公開情報ではまったく見えてこない。また、リブレット撤退が事業再編の一貫という説を補強する「アニメイトは社内の世代交代に向けて再編の真っ最中である」というウワサも、実態はどういうものなのか判然としない。高橋豊社長の子息が社員として働いているのは事実だが、世襲が行われるのかも不明である。
巨大化するアニメイトグループだが、寡占化は業界にどのような影響を及ぼすことになるのだろうか。特定の一社が市場を占有してしまえば、競争力が衰えるのは自明の理。同人誌書店における「競争」の意味もあらためて考えてみたいものだ。
(取材・文=昼間たかし)
歴史・人物・雰囲気……同人誌即売会の原点が一挙に集結!『MGM』が5年ぶりに開催

歴史を刻んできた会場での開催。
今回初めて同人誌を製作し、初サークル参加がMGMという人もいた
1月22日、創作系同人誌即売会MGM(まんが ギャラリー&マーケット)が、5年ぶりに開催された。MGMは、コミックマーケットの創設母体ともなった同人サークル「迷宮」が主催するコミックマーケットに次ぐ歴史を持つ即売会だ。いったい、どんな顔ぶれが集まるのか、ワクワクしながら会場へと向かった。
98回目の開催となった今回のMGMは、創作漫画オンリーの即売会だ。1980年以来、年2回ペースでの開催は続いていたが、2007年に長らく会場としていた川崎市中小企業婦人会館が閉館されたことで開催が中断。11年には、主催者代表の亜庭じゅん氏が死去し、このまま消滅してしまうのではないかと、危惧されていた。
しかし、昨年8月のコミックマーケットにて、MGM98の開催告知のチラシが配布されたことで心配は期待へと変わった。そして、開催当日を迎えたのである。

ずらっと並んだ見本誌。
これなら、全部見て回ることもできるから安心だ。
MGMにおいて注目すべきは、初期の同人誌即売会の雰囲気があちこちに残っていることだろう。参加申込みの必要事項を見ると、特に申込書などは付属しておらず「B5サイズの紙に以下の項目をご記入の上」とあったり、「参加確認書の発送は,開催の10日位前」と、よい意味で妙な緩さが感じられる。
さて、今回の会場は板橋区にある板橋産業連合会館。コミックマーケットの2回目から4回目までが行われた、歴史のある施設である。最寄り駅である地下鉄三田線の板橋区役所前を降りて地上に出ると、早くも「あ、お仲間だな」というにおいをさせている人々の姿が、ちらほらと。ただ、年齢層は高めである。

伝説の「漫画新批評体系」各号。非売品なのも当たり前だ。残念。
会場に到着したのは9時50分。サークル参加者は10時集合だったので、早めに到着してよかったなと思っていたら、既に、みんなで机を並べ始めている最中であった......。とりあえず、早めに到着した人は、荷物をそこいらに置いて、みんなで机を並べることに。やっぱり、このイベントには「お客様」は存在しないのだ。なお、準備の時点で筆者が「若手」に属しそうな年齢構成。周囲は、長い歴史を知る人々でいっぱいだ!
■「オタク」以前からの歴史の証人がゴロゴロ
今回の参加サークル数は、約70サークル。中央に見本誌を読めるコーナーを配置しても、ちょっと広々とした雰囲気。ちなみに、第2回のコミックマーケットでは参加サークル数39で、入場者が550人。サークル数が半分とはいえ、この部屋に550人も入ることができたのだろうかと、原田央男氏(コミックマーケット初代代表)に聞いてみると、「人で溢れかえって大変だった」とのこと。第4回目には参加サークル数が80、入場者が700人と収容できなくなり翌年から大田区産業会館へと移転することになった。
とにかく、75年の第1回コミックマーケット以来、いわゆる「オタク」がいかにして巨大な文化として成長していったか、その原点を教えてくれる雰囲気や人物に溢れるイベントであることは間違いない。そんな中で袈裟を着たお坊さんが同人誌を売っていたので「コスプレでもなさそうだし、本職かな? 変わった人だな」と思っていたら、知人が「あの人ご存じですか? 蛭児神建さんですよ」と言われてびっくり。先日、筆者が連載記事で紹介した『ヘイ!バディー』最終号(※記事参照)のロリコン座談会以来だという漫画評論家の永山薫氏は「27年ぶりですね......」と、しみじみと語るのであった(失礼だけど、同誌での写真と比べると2人とも完全に別人である)。
そして、今回の開催にあたって注目を集めていたのは、故・亜庭じゅん氏の執筆した文章を網羅した「迷宮」の30年ぶりの新刊『亜庭じゅん大全 漫画新批評体系vol.16』が発売されたことだ。昨年、冬のコミックマーケットで初売りされたが「重すぎて」少部数しか搬入できなかったので、今回が初売りの本番。亜庭じゅん氏の評論活動を網羅したというだけあって、ハードカバー832ページ。カバーイラストは樹村みのり氏、中表紙には、いしいひさいち氏がイラストを添える同人誌の枠を超えた豪華本である。にもかかわらず、頒価は2,000円だから、かなりの赤字販売だという。ゆえに発行部数は250部程度とかなり少なめ。今後、漫画の歴史を研究する上で欠かせない史料になることは間違いないが、同時にかなり入手困難な史料にもなることだろう。そのためか、購入時に任意ではあるものの、購入者の名前を控えていた。

このボリュームで頒価2,000円。
1冊あたり製作単価は5,000円を超えているとか。

別室には故・亜庭じゅん氏を追悼する間が儲けられて故人を偲んだ。
午後になると、多くの参加者が詰めかけたので「30分ほど延長します」と、ほかの即売会ではありえない展開も見られたMGM。終了後はみんなで机を片付けて反省会と、きわめてアットホームな雰囲気の中で一日を終えた。「あれを買わなきゃ、これも買わなきゃ」と焦る必要もなく、趣味を同じくする人と交流したり、新たな趣味との出会いも見られるこのイベント。小さいながらも、同人誌即売会の本質を凝縮したイベントであることは、間違いない。
(取材・文=昼間たかし)
<次回開催案内>
・開催日時:2012年6月10(日) 11時~15時30分
・場所:板橋区立グリーンホール1階ホール
詳細はMGM99の公式サイトで
<http://mgm99.anijun.info/news/y5tbwh>



