都条例での分裂騒動から3年 東京国際アニメフェアとアニメコンテンツエキスポが統合へ

1309_h_taface.jpg
「アニメコンテンツエキスポ2013」のHPより。
 来年3月に開催予定のアニメの国際見本市・東京国際アニメフェア(通称:TAF)と、アニメコンテンツエキスポ(通称:ACE)が合併することが、関係者への取材を通じて明らかとなった。  そもそも、東京国際アニメフェアから半ば分裂する形でアニメコンテンツエキスポが誕生したのは、2011年のこと。2010年、マンガやアニメの「表現の自由」を抑圧するとして、出版社を中心に反対運動が行われた東京都青少年健全育成条例の改定が原因だ。2010年12月の都議会での改定案可決を受けて、コミック10社会に加盟する出版社は、東京都が主催する東京国際アニメフェアのボイコットを表明。これを受けて、東京国際アニメフェアの実行委員会事務局を務める日本動画協会が、同フェアの開催について「実行不能な事態になる」との声明を発表する事態になった。  その渦中で、角川書店をはじめとするコンテンツ関連企業が開催を発表したのが、アニメコンテンツエキスポである。このイベントはアニメフェアと同日の2011年3月26日、27日の2日間、幕張メッセを会場に開催すると発表。この日程は、幕張メッセが空いていたためであったが、アニメフェアと同日の開催であり事実上の分裂となったのである。  ところが、2011年3月11日の東日本大震災によって両イベントは共に開催中止。その後、2012年、2013年は日程を一週間ずらして2つのイベントが共存することになった。  開催の経緯から業界の分裂とみられている両イベントだが、アニメ業界の見方はまったく違った。2012年に筆者の取材にこたえた、アニメコンテンツエキスポを担当する、アニメ製作会社・アニプレックスのプロデューサーである高橋祐馬氏は次のように答えている。 「分裂開催とかいわれていますけれど、アニメフェアを潰すことが目的で開催するのではありません。その都度、コンテンツエキスポ側の関係者と連絡を取りながら準備を進めています」  また、アニメフェア事務局のチーフプロデューサー・鈴木仁氏は「アニメフェアでは家族連れの来場者と、一部のイベントを目当てに殺到するオタクという2つの層が、混在しており、いずれは会場スペースを分離することも考えていた」とし、経緯はともかく「住み分け」が実現し、業界としてはプラスの方向へ働く見通しを示していた。  こうした中、2013年にはコミック10社会に所属している小学館、集英社の作品を扱う小学館集英社プロダクションがアニメフェアに出展するなど、歩み寄りとも思われる動きも見られていた。そんな中、関係者によれば、来年3月に開催予定の両イベントは統合して開催されることになるという。  今回、統合に至った経緯を関係者は次のように語る。 「直接の原因は経済産業省の行っている“コンテンツ産業強化対策支援事業(アニメ産業を中核とするコンテンツ産業国際展開促進事業)」に係る委託先の公募”だと思います。この事業では1億円あまりの助成が予定されていますが、事業内容は国際見本市の設置・運営です。年度内に、このような事業を行えるのはアニメフェアとコンテンツエキスポしかありません。そのため、両者は統合の良い機会と考えたようなのです」  なお、両者から統合に関する公式な発表はいまだなされておらず、イベントがどのような形になるかは未定だ。 (取材・文=昼間 たかし)

【TAF2013】将来のユーザー獲得のために!『探検ドリランド』アニメ新シリーズ大幅時間変更のワケ

R0036597.jpg
 さまざまな新作、新事業の発表が並んだ東京国際アニメフェア。その中でも特に注目を集めたのは、ビジネスデーの初日、3月21日に行われたネットカードダス『探検ドリランド』(仮)&テレビアニメ『探検ドリランド-1000年の真宝(まほう)-』の制作発表記者会見だ。この発表会に並んだのはグリー、テレビ東京、東映アニメーション、バンダイの4社。  『探検ドリランド』は、グリーで配信されているソーシャルゲーム。2012年7月にはテレビアニメ化され、テレビ東京系列で放送された。今回の記者会見でまず重要だったのは、4月から放送される新たなテレビアニメ『探検ドリランド-1000年の真宝(まほう)-』の放送時間だ。昨年7月から放送された『探検ドリランド』の放送時間は毎週土曜日23時30分からだったが、『探検ドリランド-1000年の真宝(まほう)-』は、毎週土曜日10時30分となった。つまり、テレビアニメ前作と今作とは、想定される視聴者が大きく変わったのである。新シリーズがターゲットとするのは、従来とは違う低年齢層なのだ。  想定するターゲットをさらに明白にするのは、同時に発表されたネットカードダス『探検ドリランド』だ。ネットカードダスは、バンダイが提供しているオンライントレーディングカードゲーム。基本プレイは無料で、コンビニエンスストアや玩具店などで購入したトレーディングカードをパソコンや携帯電話を通じてネットに登録して遊ぶシステムである。これまで主なユーザーは中学生だったが、今回のプロジェクトでは、さらに小学校高学年までをユーザーとして取り込むことがもくろまれている。登壇したバンダイの垰義孝氏は、サービスの開始を今夏と表明すると共に「小学生をターゲットにした子ども向けオンラインカードはチャレンジだと思う」と明言。アニメを制作する東映アニメーションの清水慎治氏も「小学校の高学年から中学生がターゲット」であると語った。  つまり、今回のプロジェクトでグリー、テレビ東京、東映アニメーション、バンダイの4社が目指すのは、ネットを利用したカードバトルを、従来よりも低い年齢層に浸透させていくこと。昨年7月の『探検ドリランド』のテレビアニメ放送時間からも明らかなように、従来のゲームのユーザー層の年齢は高かった。ソーシャルゲームに関するデータはさまざまあるが、『2012CESAゲーム白書』によれば、ソーシャルゲームの利用率が最も高いのは10代後半(15~19歳)女性(34.2%)、次いで10代後半の男性(29%)となっており、さらに20代前半(20~24歳)の男女(共に27.9%)、30代後半(35~39歳)の男性(27.7%)と続く。ソーシャルゲームは、10代後半~30代が主なユーザーとなっているわけだ。また、この白書によれば、調査対象者中のソーシャルゲームへの参加者の割合は13.5%となっている。つまり、ソーシャルゲームの普及は、まだまだ端緒についたばかりで、今後も開拓する余地が多く残されていると見ることができる。  その中で、今回の発表から見えてくるのは、将来を見越してユーザーを育てようとする意図が感じられること。年齢ごとに内容を変えながら、ずっとユーザーでいてもらうことに最も成功しているのはマンガ業界だ。「週刊少年ジャンプ」を卒業したら「ヤングジャンプ」に、その後は……といった具合に各年齢層に沿ったコンテンツが揃っている。いまや、日本では老境に入っても当たり前のようにマンガを読む人がいるわけだが、そうなり得た理由は、子どもの時にマンガを読む習慣を植え付けたからにほかならない。ゲームの場合でも、大人までもが当たり前のようにゲームを楽しんでいる理由は、子どもの頃にファミコンなどで遊び、ゲームの楽しさを覚え、習慣となったゆえである。  昨年は、コンプガチャ問題などに揺れたソーシャルゲームだが、徐々に問題は解決されていき、誰もが気軽に楽しめる新たなゲームのスタイルとして普及する過程に入っている。そうした中で、ソーシャルゲームを一時のブームで終わらせないために、さまざまな企業の努力が始まっているのである。 (取材・文=昼間たかし)

【TAF2012】「まずは、入ってから考えろ」アニメ業界に就職する方法は、これだ!

R0031021.jpg
 日本動画協会が行う文化庁の支援事業「アニメ・クリエイター育成ビジョンづくり」。そのシンポジウムの様子は以前、当サイトでもお伝えしたが(記事参照)、「東京国際アニメフェア2012」(以下TAF)のビジネスデー2日目、アニメ業界を志す学生を対象に、ずばり「業界への就職」を主題としたセミナーが開催された。このセミナー、TAFの会場で開催されるにもかかわらず、なぜか告知は「育成ビジョンづくり」のサイト上程度。登壇した『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)の著者でもある増田弘道氏(日本動画協会データベースWG座長/映画専門大学院大学教授)は、「TAFでも告知されていないイベントにわざわざお越し下さってありがとうございます」とあいさつをした。  このセミナーの趣旨は、アニメ業界を志望する学生に向けて、アニメ業界には具体的にどのような仕事があるのか紹介するというもの。通常、アニメに関わる仕事としてまず思い浮かべるのは、実際の制作に携わるアニメーター。あるいは、指揮を執るアニメプロデューサーといったものだが、実際、アニメ業界の仕事の種類は多種多様だ。単に作品を作って自分の世界を表現したいなら、アーティストになるのが手っ取り早い。これなら、儲けなど考えずにやりたい放題ができる。しかし、多くの人が携わりたいと思っているアニメ業界が扱うのは、アニメーションではなくてアニメ。1960年代に始まった日本式リミテッド・アニメーションによる商業目的の作品だ。要はビジネスが目的なのだから、必要なのは採算と生産性と継続性。中でも生産性はもっとも重要な要素だと、増田氏は説明する。新海誠氏をはじめ、個人で活動するアニメーション作家もいるが、ビジネスを目的とするならば、やはり集団作業は欠かせないのだ。ゆえに、アニメーションではなく、アニメに携わるなら、まずはどこかの会社に所属することから始まるのである。  「制作=作ること」「製作=プロデュースすること」等々、細かい用語の違いまで説明しながら、増田氏は「作るだけなら誰もできる」という。ビジネスである以上、でき上がった作品を運用し、投入した資金を回収、分配することは必然だ。さらに、作品を流通させる過程もあることを考えると、アニメ業界に関わる仕事は無数に存在するのだ。 「制作と製作は無数に入り組んでいます。バンダイやアニプレックスのように製作を主としながら制作にも深く関わる企業があります。かと思えば、アニメイトのように小売りから作る側へとシフトする企業もあります。実は、業界に入るにもいろいろな道があるし、さまざまな形で関わることができるんです」 ■意外に仕事が豊富なアニメ業界  かつては、アニメ制作会社は「誰でも就職できる企業」だったという話はよく知られる。面接に行ったらその場で採用決定、翌日から出社というエピソードはよく聞かれるところ。中には、アニメのことなど何も知らず、資格は運転免許だけなのに、制作進行に採用されて、社長になった人もいる。今ではそこまで「ザル」ではなくなったとはいえ、それでも「なんでもいいからアニメに関わる仕事を」と思うのならば、難関ではない。  とはいえ、気になるのは「ちゃんと給料をもらえるのか」というところだろう。増田氏は、制作会社では一般的な初任給は15~20万程度(ボーナスなし)と、一般に考えられているほど悪いものではないと指摘する。一方、アニメ業界の薄給の代表格といえば、アニメーターだが……。 「アニメーターは、本質的にミュージシャンなどと同じ自営業です。そして職業としての“アニメーター”は“原画”の仕事から。“動画”(原画に中割りを加えて清書した線画)は見習い期間で、本来ならばお金がもらえるような存在ではありません」  と、厳しい意見も。ちなみに、動画を3年やって原画になれないならば、適性がないとの指摘も。逆に、制作の現場で「オイシイ仕事」は、著作権があるので印税が入るメリットのある脚本家なのだとか……。さらに、求人数が増加しているのはCG制作だという。  いずれにせよ、アニメーターへの道は厳しいのだが、実写に比べて優遇されているという側面もある。というのは、アニメーターの場合は、制作スタジオが機能し、そこで職業人として育ててくれるからだ。アニメに関わる仕事がしたい学生に向け、増田氏がひとまずの結論として述べたのは、「とりあえず、何か仕事に就いてから目指す方向性について考えていけばよいでしょう」というものだ。  ただし、アニメ業界を志望する人の多くは、アニメファンということになるだろうが、実際に業界で成功するのは、冷静にビジネス的な感覚で携われるタイプの人々だ。いまや小売りから製作にまで携わる、アニメイトの創業陣の前身が家具屋だったように、他業種から転身した人々が成功する理由もこの部分だ。  いずれにしても、単に消費者として終わりたくないけれど、絵も描けないし、なんの技術もないという人であっても、一旦、業界の端っこに入り込むことができれば道は自ずと開けるはず。結局、必要なのは自分が好きではない作品でも「これは面白いんですよ!」と、作ったり売ったりできる、メンタルの強さなのではなかろうか。 (取材・文=昼間たかし)
もっとわかるアニメビジネス [ ごもっとも。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・【TAF2012】フランスパンが武器? チュニジアから来たスーパーヒーロー「キャプテンゴブザ」【TAF2012】『巨人の星』だけじゃない!? インド市場が秘めるポテンシャルに大注目!【東京国際アニメ祭2011秋】「今後も大幅な品質向上は望めない?」中国アニメビジネスの現状「分裂の危機を回避していきたい」ノイタミナ山本PがTAF問題に言及巨大資本・文教堂の参入で激化する同人誌書店のシェア争いの行方

【TAF2012】「まずは、入ってから考えろ」アニメ業界に就職する方法は、これだ!

R0031021.jpg
 日本動画協会が行う文化庁の支援事業「アニメ・クリエイター育成ビジョンづくり」。そのシンポジウムの様子は以前、当サイトでもお伝えしたが(記事参照)、「東京国際アニメフェア2012」(以下TAF)のビジネスデー2日目、アニメ業界を志す学生を対象に、ずばり「業界への就職」を主題としたセミナーが開催された。このセミナー、TAFの会場で開催されるにもかかわらず、なぜか告知は「育成ビジョンづくり」のサイト上程度。登壇した『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)の著者でもある増田弘道氏(日本動画協会データベースWG座長/映画専門大学院大学教授)は、「TAFでも告知されていないイベントにわざわざお越し下さってありがとうございます」とあいさつをした。  このセミナーの趣旨は、アニメ業界を志望する学生に向けて、アニメ業界には具体的にどのような仕事があるのか紹介するというもの。通常、アニメに関わる仕事としてまず思い浮かべるのは、実際の制作に携わるアニメーター。あるいは、指揮を執るアニメプロデューサーといったものだが、実際、アニメ業界の仕事の種類は多種多様だ。単に作品を作って自分の世界を表現したいなら、アーティストになるのが手っ取り早い。これなら、儲けなど考えずにやりたい放題ができる。しかし、多くの人が携わりたいと思っているアニメ業界が扱うのは、アニメーションではなくてアニメ。1960年代に始まった日本式リミテッド・アニメーションによる商業目的の作品だ。要はビジネスが目的なのだから、必要なのは採算と生産性と継続性。中でも生産性はもっとも重要な要素だと、増田氏は説明する。新海誠氏をはじめ、個人で活動するアニメーション作家もいるが、ビジネスを目的とするならば、やはり集団作業は欠かせないのだ。ゆえに、アニメーションではなく、アニメに携わるなら、まずはどこかの会社に所属することから始まるのである。  「制作=作ること」「製作=プロデュースすること」等々、細かい用語の違いまで説明しながら、増田氏は「作るだけなら誰もできる」という。ビジネスである以上、でき上がった作品を運用し、投入した資金を回収、分配することは必然だ。さらに、作品を流通させる過程もあることを考えると、アニメ業界に関わる仕事は無数に存在するのだ。 「制作と製作は無数に入り組んでいます。バンダイやアニプレックスのように製作を主としながら制作にも深く関わる企業があります。かと思えば、アニメイトのように小売りから作る側へとシフトする企業もあります。実は、業界に入るにもいろいろな道があるし、さまざまな形で関わることができるんです」 ■意外に仕事が豊富なアニメ業界  かつては、アニメ制作会社は「誰でも就職できる企業」だったという話はよく知られる。面接に行ったらその場で採用決定、翌日から出社というエピソードはよく聞かれるところ。中には、アニメのことなど何も知らず、資格は運転免許だけなのに、制作進行に採用されて、社長になった人もいる。今ではそこまで「ザル」ではなくなったとはいえ、それでも「なんでもいいからアニメに関わる仕事を」と思うのならば、難関ではない。  とはいえ、気になるのは「ちゃんと給料をもらえるのか」というところだろう。増田氏は、制作会社では一般的な初任給は15~20万程度(ボーナスなし)と、一般に考えられているほど悪いものではないと指摘する。一方、アニメ業界の薄給の代表格といえば、アニメーターだが……。 「アニメーターは、本質的にミュージシャンなどと同じ自営業です。そして職業としての“アニメーター”は“原画”の仕事から。“動画”(原画に中割りを加えて清書した線画)は見習い期間で、本来ならばお金がもらえるような存在ではありません」  と、厳しい意見も。ちなみに、動画を3年やって原画になれないならば、適性がないとの指摘も。逆に、制作の現場で「オイシイ仕事」は、著作権があるので印税が入るメリットのある脚本家なのだとか……。さらに、求人数が増加しているのはCG制作だという。  いずれにせよ、アニメーターへの道は厳しいのだが、実写に比べて優遇されているという側面もある。というのは、アニメーターの場合は、制作スタジオが機能し、そこで職業人として育ててくれるからだ。アニメに関わる仕事がしたい学生に向け、増田氏がひとまずの結論として述べたのは、「とりあえず、何か仕事に就いてから目指す方向性について考えていけばよいでしょう」というものだ。  ただし、アニメ業界を志望する人の多くは、アニメファンということになるだろうが、実際に業界で成功するのは、冷静にビジネス的な感覚で携われるタイプの人々だ。いまや小売りから製作にまで携わる、アニメイトの創業陣の前身が家具屋だったように、他業種から転身した人々が成功する理由もこの部分だ。  いずれにしても、単に消費者として終わりたくないけれど、絵も描けないし、なんの技術もないという人であっても、一旦、業界の端っこに入り込むことができれば道は自ずと開けるはず。結局、必要なのは自分が好きではない作品でも「これは面白いんですよ!」と、作ったり売ったりできる、メンタルの強さなのではなかろうか。 (取材・文=昼間たかし)
もっとわかるアニメビジネス [ ごもっとも。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・【TAF2012】フランスパンが武器? チュニジアから来たスーパーヒーロー「キャプテンゴブザ」【TAF2012】『巨人の星』だけじゃない!? インド市場が秘めるポテンシャルに大注目!【東京国際アニメ祭2011秋】「今後も大幅な品質向上は望めない?」中国アニメビジネスの現状「分裂の危機を回避していきたい」ノイタミナ山本PがTAF問題に言及巨大資本・文教堂の参入で激化する同人誌書店のシェア争いの行方

【TAF2012】フランスパンが武器? チュニジアから来たスーパーヒーロー「キャプテンゴブザ」

cyuni001.jpg
 海外からの出展者が目立った東京国際アニメフェア(以下、TAF)2012。その中でも、一際目を引いたのが、チュニジア大使館のブースだ。  ほかの出展国を見てみると、フランス・スイス・フィンランドとそれなりにアニメ産業もあり、日本に売り込むコンテンツもあるだろうと納得がいく。しかし、チュニジアとアニメーションは、これまでの経験則ではまったく結びつかない。いったい、どんなコンテンツを持っているのか、早速ブースを訪問してみた。  まず目を引いたのが、ブース内のテーブルに置かれたお菓子である。ほかの国のブースでも、スイスではチョコレート、フィンランドではキシリトールのお菓子を配ったりしていた。ところが、チュニジアのブースは、テーブルの上の大皿に大学芋のような謎のお菓子が半分ラップを開いた状態で山盛りである(ちなみにマクロードというナツメヤシのペーストを使った揚げ菓子であった)。こういうフランクな国は、筆者の最も好むところである。ブースで説明をしてくれたチュニジア大使館のモハメッド・トラベルシ氏が「これが、今チュニジアで最も人気のあるキャラクターです」と示したのは、覆面姿に長いフランスパンを背負った謎の男。そのキャラクターの名は「Captain 5obza(キャプテンゴブザ)」。昨年のジャスミン革命をきっかけに生まれたスーパーヒーローだという。ブースの壁には、フランスパンを手にデモをする民衆のイラストも。
cyuni002.jpg
これがマクロード。一皿丸ごとでもいけそうだ……。
「明日(ブースを訪れたのは1日目)のシンポジウムでは制作者も講演するし、英語字幕のものを上映しますよ」  というので、翌日ワクワクしながらシンポジウム「チュニジア革命:表現の自由とアニメの創造に対する影響」の会場へと足を運んだ。 ■革命で得た言論の自由がここにある  このキャラクターの生みの親、メヒディ・ラルゲッシュ氏はまず、キャプテンゴブザ誕生までの経緯を説明。ラルゲッシュ氏は、2007年にチュニジアでクリエイター集団「Atelier 216」を設立し、ウェブサイトやアニメーションの制作などさまざまなITサービスを提供している人物。政治にも関心があり、前政権時代はFacebookのアカウントを削除されたこともあるラルゲッシュ氏は、昨年の革命の際に広く報道された一枚の写真に衝撃を受ける。それは、老人がフランスパンを手に機動隊と対峙している写真だった。  自身もデモに参加していたラルゲッシュ氏は、その写真からキャプテンゴブザというキャラクターを生み出したのだという。  そして、いよいよ上映開始。“スーパーヒーロー”と聞いていたのだが、イメージとはちょっと違った。劇中、寒波が来てチュニジアの人々が困っているのに、無意味な議論ばかりを続けている国会議員を批判したり、アメリカのオバマ大統領から「よう、新しいイスの座り心地はどうだい? ところで、シリア大使の追放の件、わかってるんだろうな」と半ば脅しの電話を受けて右往左往する現大統領(モンセフ・マルズーキ氏)を描く。……念のため記しておくが、このシンポジウムはチュニジア大使館の主催である。  キャプテンゴブザは現政権にもシニカルな批判をぶつける、これまでにないヒーローだったのだ。さらに、彼が批判するのは政府だけではない。寒波で困る民衆を描いた作品は、チュニジアでは有名なテレビレポーターに「よく似た人物」たちが民衆の困っている姿だけを撮影し、援助物資が届いた途端に引き揚げていくというストーリーだ。  この皮肉の効いた作品が、今年1月からはテレビ番組として放送されているという。チュニジアの国民が革命を通じて得た「言論の自由」の大きさ、さらには、革命後の諸外国からの干渉に対するチュニジア民衆の意識を見事に描写している作品といえるだろう。
cyuni003.jpg
メヒディ・ラルゲッシュ氏は1979年生まれの若い世代のクリエイターだ。
 シンポジウム後、取材に応じてくれたラルゲッシュ氏にまず聞いたのは、「言論の自由」を獲得したとはいえ、これほど皮肉の効いた作品に対して弾圧はないのかということだ。これに対してラルゲッシュ氏は次のように話してくれた。 「どこの国でも左翼、中道、右翼、それぞれの政治勢力があり、気に入らない作品もあるでしょう。しかし、脅迫や暴力は一度もありません。我々も、ただやみくもに批判をするのではなく、“口汚く罵ることはしない”“ちょっとした笑いを誘う作品に仕上げる”など、線引きはしていますけどね」  ラルゲッシュ氏の発言からは、獲得した「言論の自由」「表現の自由」を錦の御旗にするのではなく、責任を持って防衛し、成長させていきたいという意志が感じられる。さらに、ラルゲッシュ氏は、こう続ける。 「扉は開かれたのだから、閉じさせるわけにはいけません。この作品を続けていくためには、自分の中に越えてはいけない一線を持つ必要もあると思っています。もちろん、時には弁護士に相談することもありますけどね」  キャプテンゴブザを通じて、ラルゲッシュ氏が目指しているのは、若い世代が「言論の自由」の下にクリエイティブな活動が行われていることを知って、それを継承し、よりよい作品づくりをする人々が育っていくことだという。  惜しむらくは、FacebookやYouTubeなどで見ることのできるキャプテンゴブザの作品が、ほぼアラビア語のものしかないこと。せめて英語字幕版は作ってほしいところだ。 「みんなそう言います(笑)。今、ボランティアでやってくれている人もいるけど……日本語字幕でも見られるようにするので、私の会社に投資してくれませんか? それと、(通訳に)あなたも手伝ってヨ!」  おそらくは、日本人のほとんどは「カルタゴの遺跡があるところ」程度の知識しかないチュニジア。昨年の革命も、やはりどこか遠い国の出来事という意識だったろう。日本からみればつながりが希薄に感じられる国で、こんな新たなスーパーヒーローが存在していた! それを知ることができただけ、今回のTAF2012は「国際」の文字を冠しているだけの価値はあったと感じることができた。 ■アニメ以上にチュニジア人は魅力的  キャプテンゴブザのみならず、チュニジアでは『ドラゴンボール』をはじめ、日本のアニメが既に知られているし、現地でもアニメーション制作は盛んに行われているという。
cyuni005.jpg
左がズハイエール・マヒジューブ氏。
中央は通訳の鵜野孝紀さん。
 シンポジウムに登壇したアニメーション作家、マルサ・アニメーション映画および関連芸術振興協会代表のズハイエール・マヒジューブ氏によれば、チュニジアにおけるアニメーション制作の始まりは1960年代からだという。マヒジューブ氏をはじめ、当時の制作者はブルガリア、ルーマニア、チェコなどの東欧諸国でアニメーションの制作を学び、セル、切り絵、パペットなどの手法でチュニジアや、アラブ・イスラム圏などの民話を題材にするものが多かったという。1990年代に入ると西欧で技術を習得し、アマチュアのアニメーションサークルも設立され、現在に至っているそうだ。現在のチュニジアは、ヨーロッパで技術を学んだ人々によるアート志向のアニメーションと、カートゥーンアニメとが交じり合って存在しているといってよい。第一世代であるマヒジューブ氏は違和感があるのか、「最近の若い世代は、制作技術を知らずに日本風のアニメキャラクターのようなものを作ることに熱中しているのです」と批判的とも取れる発言もしていた。けれども、日本のアニメを嫌っているのではない。 「チュニジアではアニメーションの道へ進みたい人は増えているが、専門教育の場が少ないのが現状です。その意味で、日本のアニメシリーズの監督術、レイアウト、キャラの動かし方、背景技術、アニメシリーズの専門的な領域のノウハウは非常に有益です。ぜひ、両国でワークショップを定期的に開催していきたい」(マヒジューブ氏)  マヒジューブ氏は専門領域のみならず、アフリカ諸国でも定期的に子ども向けのアニメーション制作を利用したワークショップを行っているそうで、シンポジウム後のインタビューでは、内戦のあったコートジボアールで行った、戦争で荒んだ心を氷解させた子ども向けワークショップの成功例(戦争を生き抜いた子どもたちと「和解」をテーマに行うという趣旨のもの)を熱く語ってくれた。  日本に対してもワークショップの開催を呼びかけるのは、単に技術交流だけが目的ではない。 「チュニジアの若者は、日本に対してまじめでしっかりした国民性、民主主義の確立した国であることをイメージしています。ぜひ、日本の若者にもチュニジアに来て、新しい民主主義を見てもらい、その目にどう映るかを聞きたいと思っているんです。それに、日本人なら、キャプテンゴブザのようなキャラクターをどのように創るかも知りたいと思っているんです」  資料によれば、マヒジューブ氏は2006年、スタジオジブリの高畑勲氏を招いて日本のアニメーション映画を紹介する初めての試みを行うなど、かなりアクティブに活動している様子。こうした文化交流が、新たな両国のアニメーション制作者にとって創作のヒントになる可能性は高いだろう。ただやはり、惜しむらくは、日本ではチュニジアのアニメーションに触れる機会がほとんどないこと。その旨をマヒジューブ氏に話したところ、3本の短編アニメーションが収録されたDVDをプレゼントしてくれた。取材終了後、さっそく観賞してみたのだが、言葉はわからずとも(字幕がフランス語なので、筆者の語学力だと読んでいる間に話が先に……)、これまでに見たことのない新たな文化に触れワクワク感が止まらなかった。  ワクワク感といえば、チュニジアのブースでビデオ上映していた『Chateaux de sable(砂の城)』という短編作品も、実写とアニメーションを融合しながらチュニジアの歴史を描いていくという内容で、これまた日本では見たことのない表現の固まりであった。この作品の制作者であるムスタファ・タイエブ氏も、シンポジウムの登壇者に名前が記載されていたのだが「シャイなので……(通訳・談)」という理由で、なぜか舞台に上がらず撮影をしていた。てっきり気むずかしいアーティストかと思ったら、シンポジウム後に一緒にタバコを吸いながら、「昨日はメイド喫茶に行ったよ」という話から、革命におけるアメリカをはじめとした諸国の帝国主義的な干渉の問題まで、話の尽きない人物であった。  アニメも魅力的だが、人々も魅力的。がぜん興味を持ってしまった。美人も多いらしいので(ラルゲッシュ氏・談)一度は訪問してみたい! (取材・文=昼間たかし/今回の取材は鵜野孝紀さんの通訳に大変助けられました。ありがとうございました)
パリジャンバゲット 1本 これで日本も立て直したい……。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・【TAF2012】『巨人の星』だけじゃない!? インド市場が秘めるポテンシャルに大注目!【東京国際アニメ祭2011秋】「今後も大幅な品質向上は望めない?」中国アニメビジネスの現状「分裂の危機を回避していきたい」ノイタミナ山本PがTAF問題に言及ヒット作不足のテレビアニメ界 "無難"な「ジャンプ」の一人勝ち?巨大資本・文教堂の参入で激化する同人誌書店のシェア争いの行方

【TAF2012】フランスパンが武器? チュニジアから来たスーパーヒーロー「キャプテンゴブザ」

cyuni001.jpg
 海外からの出展者が目立った東京国際アニメフェア(以下、TAF)2012。その中でも、一際目を引いたのが、チュニジア大使館のブースだ。  ほかの出展国を見てみると、フランス・スイス・フィンランドとそれなりにアニメ産業もあり、日本に売り込むコンテンツもあるだろうと納得がいく。しかし、チュニジアとアニメーションは、これまでの経験則ではまったく結びつかない。いったい、どんなコンテンツを持っているのか、早速ブースを訪問してみた。  まず目を引いたのが、ブース内のテーブルに置かれたお菓子である。ほかの国のブースでも、スイスではチョコレート、フィンランドではキシリトールのお菓子を配ったりしていた。ところが、チュニジアのブースは、テーブルの上の大皿に大学芋のような謎のお菓子が半分ラップを開いた状態で山盛りである(ちなみにマクロードというナツメヤシのペーストを使った揚げ菓子であった)。こういうフランクな国は、筆者の最も好むところである。ブースで説明をしてくれたチュニジア大使館のモハメッド・トラベルシ氏が「これが、今チュニジアで最も人気のあるキャラクターです」と示したのは、覆面姿に長いフランスパンを背負った謎の男。そのキャラクターの名は「Captain 5obza(キャプテンゴブザ)」。昨年のジャスミン革命をきっかけに生まれたスーパーヒーローだという。ブースの壁には、フランスパンを手にデモをする民衆のイラストも。
cyuni002.jpg
これがマクロード。一皿丸ごとでもいけそうだ……。
「明日(ブースを訪れたのは1日目)のシンポジウムでは制作者も講演するし、英語字幕のものを上映しますよ」  というので、翌日ワクワクしながらシンポジウム「チュニジア革命:表現の自由とアニメの創造に対する影響」の会場へと足を運んだ。 ■革命で得た言論の自由がここにある  このキャラクターの生みの親、メヒディ・ラルゲッシュ氏はまず、キャプテンゴブザ誕生までの経緯を説明。ラルゲッシュ氏は、2007年にチュニジアでクリエイター集団「Atelier 216」を設立し、ウェブサイトやアニメーションの制作などさまざまなITサービスを提供している人物。政治にも関心があり、前政権時代はFacebookのアカウントを削除されたこともあるラルゲッシュ氏は、昨年の革命の際に広く報道された一枚の写真に衝撃を受ける。それは、老人がフランスパンを手に機動隊と対峙している写真だった。  自身もデモに参加していたラルゲッシュ氏は、その写真からキャプテンゴブザというキャラクターを生み出したのだという。  そして、いよいよ上映開始。“スーパーヒーロー”と聞いていたのだが、イメージとはちょっと違った。劇中、寒波が来てチュニジアの人々が困っているのに、無意味な議論ばかりを続けている国会議員を批判したり、アメリカのオバマ大統領から「よう、新しいイスの座り心地はどうだい? ところで、シリア大使の追放の件、わかってるんだろうな」と半ば脅しの電話を受けて右往左往する現大統領(モンセフ・マルズーキ氏)を描く。……念のため記しておくが、このシンポジウムはチュニジア大使館の主催である。  キャプテンゴブザは現政権にもシニカルな批判をぶつける、これまでにないヒーローだったのだ。さらに、彼が批判するのは政府だけではない。寒波で困る民衆を描いた作品は、チュニジアでは有名なテレビレポーターに「よく似た人物」たちが民衆の困っている姿だけを撮影し、援助物資が届いた途端に引き揚げていくというストーリーだ。  この皮肉の効いた作品が、今年1月からはテレビ番組として放送されているという。チュニジアの国民が革命を通じて得た「言論の自由」の大きさ、さらには、革命後の諸外国からの干渉に対するチュニジア民衆の意識を見事に描写している作品といえるだろう。
cyuni003.jpg
メヒディ・ラルゲッシュ氏は1979年生まれの若い世代のクリエイターだ。
 シンポジウム後、取材に応じてくれたラルゲッシュ氏にまず聞いたのは、「言論の自由」を獲得したとはいえ、これほど皮肉の効いた作品に対して弾圧はないのかということだ。これに対してラルゲッシュ氏は次のように話してくれた。 「どこの国でも左翼、中道、右翼、それぞれの政治勢力があり、気に入らない作品もあるでしょう。しかし、脅迫や暴力は一度もありません。我々も、ただやみくもに批判をするのではなく、“口汚く罵ることはしない”“ちょっとした笑いを誘う作品に仕上げる”など、線引きはしていますけどね」  ラルゲッシュ氏の発言からは、獲得した「言論の自由」「表現の自由」を錦の御旗にするのではなく、責任を持って防衛し、成長させていきたいという意志が感じられる。さらに、ラルゲッシュ氏は、こう続ける。 「扉は開かれたのだから、閉じさせるわけにはいけません。この作品を続けていくためには、自分の中に越えてはいけない一線を持つ必要もあると思っています。もちろん、時には弁護士に相談することもありますけどね」  キャプテンゴブザを通じて、ラルゲッシュ氏が目指しているのは、若い世代が「言論の自由」の下にクリエイティブな活動が行われていることを知って、それを継承し、よりよい作品づくりをする人々が育っていくことだという。  惜しむらくは、FacebookやYouTubeなどで見ることのできるキャプテンゴブザの作品が、ほぼアラビア語のものしかないこと。せめて英語字幕版は作ってほしいところだ。 「みんなそう言います(笑)。今、ボランティアでやってくれている人もいるけど……日本語字幕でも見られるようにするので、私の会社に投資してくれませんか? それと、(通訳に)あなたも手伝ってヨ!」  おそらくは、日本人のほとんどは「カルタゴの遺跡があるところ」程度の知識しかないチュニジア。昨年の革命も、やはりどこか遠い国の出来事という意識だったろう。日本からみればつながりが希薄に感じられる国で、こんな新たなスーパーヒーローが存在していた! それを知ることができただけ、今回のTAF2012は「国際」の文字を冠しているだけの価値はあったと感じることができた。 ■アニメ以上にチュニジア人は魅力的  キャプテンゴブザのみならず、チュニジアでは『ドラゴンボール』をはじめ、日本のアニメが既に知られているし、現地でもアニメーション制作は盛んに行われているという。
cyuni005.jpg
左がズハイエール・マヒジューブ氏。
中央は通訳の鵜野孝紀さん。
 シンポジウムに登壇したアニメーション作家、マルサ・アニメーション映画および関連芸術振興協会代表のズハイエール・マヒジューブ氏によれば、チュニジアにおけるアニメーション制作の始まりは1960年代からだという。マヒジューブ氏をはじめ、当時の制作者はブルガリア、ルーマニア、チェコなどの東欧諸国でアニメーションの制作を学び、セル、切り絵、パペットなどの手法でチュニジアや、アラブ・イスラム圏などの民話を題材にするものが多かったという。1990年代に入ると西欧で技術を習得し、アマチュアのアニメーションサークルも設立され、現在に至っているそうだ。現在のチュニジアは、ヨーロッパで技術を学んだ人々によるアート志向のアニメーションと、カートゥーンアニメとが交じり合って存在しているといってよい。第一世代であるマヒジューブ氏は違和感があるのか、「最近の若い世代は、制作技術を知らずに日本風のアニメキャラクターのようなものを作ることに熱中しているのです」と批判的とも取れる発言もしていた。けれども、日本のアニメを嫌っているのではない。 「チュニジアではアニメーションの道へ進みたい人は増えているが、専門教育の場が少ないのが現状です。その意味で、日本のアニメシリーズの監督術、レイアウト、キャラの動かし方、背景技術、アニメシリーズの専門的な領域のノウハウは非常に有益です。ぜひ、両国でワークショップを定期的に開催していきたい」(マヒジューブ氏)  マヒジューブ氏は専門領域のみならず、アフリカ諸国でも定期的に子ども向けのアニメーション制作を利用したワークショップを行っているそうで、シンポジウム後のインタビューでは、内戦のあったコートジボアールで行った、戦争で荒んだ心を氷解させた子ども向けワークショップの成功例(戦争を生き抜いた子どもたちと「和解」をテーマに行うという趣旨のもの)を熱く語ってくれた。  日本に対してもワークショップの開催を呼びかけるのは、単に技術交流だけが目的ではない。 「チュニジアの若者は、日本に対してまじめでしっかりした国民性、民主主義の確立した国であることをイメージしています。ぜひ、日本の若者にもチュニジアに来て、新しい民主主義を見てもらい、その目にどう映るかを聞きたいと思っているんです。それに、日本人なら、キャプテンゴブザのようなキャラクターをどのように創るかも知りたいと思っているんです」  資料によれば、マヒジューブ氏は2006年、スタジオジブリの高畑勲氏を招いて日本のアニメーション映画を紹介する初めての試みを行うなど、かなりアクティブに活動している様子。こうした文化交流が、新たな両国のアニメーション制作者にとって創作のヒントになる可能性は高いだろう。ただやはり、惜しむらくは、日本ではチュニジアのアニメーションに触れる機会がほとんどないこと。その旨をマヒジューブ氏に話したところ、3本の短編アニメーションが収録されたDVDをプレゼントしてくれた。取材終了後、さっそく観賞してみたのだが、言葉はわからずとも(字幕がフランス語なので、筆者の語学力だと読んでいる間に話が先に……)、これまでに見たことのない新たな文化に触れワクワク感が止まらなかった。  ワクワク感といえば、チュニジアのブースでビデオ上映していた『Chateaux de sable(砂の城)』という短編作品も、実写とアニメーションを融合しながらチュニジアの歴史を描いていくという内容で、これまた日本では見たことのない表現の固まりであった。この作品の制作者であるムスタファ・タイエブ氏も、シンポジウムの登壇者に名前が記載されていたのだが「シャイなので……(通訳・談)」という理由で、なぜか舞台に上がらず撮影をしていた。てっきり気むずかしいアーティストかと思ったら、シンポジウム後に一緒にタバコを吸いながら、「昨日はメイド喫茶に行ったよ」という話から、革命におけるアメリカをはじめとした諸国の帝国主義的な干渉の問題まで、話の尽きない人物であった。  アニメも魅力的だが、人々も魅力的。がぜん興味を持ってしまった。美人も多いらしいので(ラルゲッシュ氏・談)一度は訪問してみたい! (取材・文=昼間たかし/今回の取材は鵜野孝紀さんの通訳に大変助けられました。ありがとうございました)
パリジャンバゲット 1本 これで日本も立て直したい……。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・【TAF2012】『巨人の星』だけじゃない!? インド市場が秘めるポテンシャルに大注目!【東京国際アニメ祭2011秋】「今後も大幅な品質向上は望めない?」中国アニメビジネスの現状「分裂の危機を回避していきたい」ノイタミナ山本PがTAF問題に言及ヒット作不足のテレビアニメ界 "無難"な「ジャンプ」の一人勝ち?巨大資本・文教堂の参入で激化する同人誌書店のシェア争いの行方

「分裂の危機を回避していきたい」ノイタミナ山本PがTAF問題に言及

taf200101.jpg
 東京都青少年健全育成条例(以下、都条例)改正に伴い、これに反発するコミック10社会が参加を取り止め、開催が危ぶまれていた東京国際アニメフェア(以下、TAF)2011だが、最終的には東日本大震災の影響により中止となった。TAFと同日に開催予定だったアニメコンテンツエキスポも中止となり、以後、この分裂状態は解消されていない。  イベントそのものが中止になってしまったため、TAF2011内で実施を予定していた「第10回 東京アニメアワードコンペティション」(以下、アニメアワード)の表彰式と「第7回 功労賞」の顕彰式も延期になっていたが、その式が10月10日、東京ビッグサイトで行われた。  この会場で一歩踏み込んだ勇気ある発言をしたのが、"ノイタミナ"の山本幸治プロデューサー(株式会社フジテレビジョンクリエイティブ事業局映像コンテンツ事業部)だった。ノミネート作品 テレビ部門 優秀作品賞に『四畳半神話大系』が選ばれ、受賞に際してコメントを発したときのことである。 「ノイタミナという放送枠を、もう7年くらいやっているんですが、『四畳半神話大系』という作品と湯浅政明という監督は圧倒的に個性的な人、作品でした。まさか、『ガンダム』(機動戦士ガンダムUC)や『けいおん!!』(2期)に並んで賞がいただけるとは思っていなかったですし、そんなアヴァンギャルドな作品に賞をくれるTAFのアワード、素敵じゃないか、と思っております。  ここからは個人的な話になるんですが、そんな作品やクリエイターを公に評価する、していただける場はなかなかありません。とても貴重な場だと思っておりますが、一連の都条例問題以降のゴタゴタは非常に残念で、力を合わせて、先ほど個人のクリエイターの方のおっしゃってきたように、"日本を元気にする"ため、分裂の危機を回避していきたいと思っております。我々も頑張ります」  公募作品で世界のクリエイターを、ノミネート作品で"アヴァンギャルド"なプロの制作者を、功労賞で道を切り拓いてきた先達を称え、あるいは奨励するアニメアワードは、山本プロデューサーがいうように貴重な場であることは間違いない。  今回、OVA部門では『機動戦士ガンダムUC』が優秀作品賞に輝いているが、同作品の小形尚弘プロデューサーが「なかなかこういった賞とはご縁のないロボットアニメなんですが、こだわりを持ってこれからも作っていきたい」と言うように、賞レース向きではないジャンルアニメに対しても優れた作品であればフェアに評価するという面を持っている。  しかし、それも片肺飛行では意義を失いかねない。TAF2012は来年3月22日から東京ビッグサイトで開催が決まっている。一方、アニメコンテンツエキスポに2回目があるかは未定だ。  統合か、それとも分裂か。あるいは片肺のままTAFだけが開催されるのか。この問題を決着させないとすっきりしない。いつまでも震災でうやむやにしておくわけにもいくまい。  功労賞の顕彰式は素晴らしかった。やはり長い人生を歩んできた人々の言葉は重く、そして深い。  『キューティーハニー』『魔女っ子メグちゃん』『ベルサイユのばら』『聖闘士星矢』で知られるアニメーター荒木伸吾のコメントに込められた思いは多くの制作者に共通するところかもしれない。 「私は約45年間アニメーションの原画を描いてきましたが、その中で自分が一番よかったなと思うのは、アニメを見て育った子どもたちが、私の絵を通して物語の中から素晴らしいものを夢描いてくれたことです。今になって本当に、アニメーションの原画を真剣に描いてきたことを、誇りに思います。アニメーターというのは非常に地味な存在で、でも一番肝心なところを受け持っている絵描きたちです。その人たちが、アニメーションの難しさの中で進んでいくには、目標が必要です。その目標を見失わないように、初めは苦しいんですが、目標に向かって自分を励ましながら描いていってほしいと、後輩たちに言いたいです。  私はこれからもアニメーションや漫画を描いて、その中から、自分としてここまでやってきたんだと、満足できるところまで......手が震えていますが(苦笑)、なんとか自分を励ましながらやっていきたいと思います。今日は本当に私だけじゃなく、アニメーターを代表してこの賞をいただいていきます」
taf201102.jpg
冨永みーなが永井一郎に顕彰状を渡す。
 今回は『サザエさん』の加藤みどり(フグ田サザエ役)、永井一郎(磯野波平役)、麻生美代子(磯野フネ役)、貴家堂子(フグ田タラオ役)が顕彰されている。サザエの弟、三代目磯野カツオ役を演じる冨永みーながサプライズゲストのプレゼンターとして呼ばれ、顕彰状を授与する際には、「ねえさん」である加藤みどりから笑いが漏れた。  日本の本格的な商業アニメには『鉄腕アトム』から数えて既に50年近い歴史がある。最大級の地震、津波、原発事故に襲われたことしがほぼ世紀の折り返し地点。ここからアニメをどうしていくのか。課題が突きつけられている。  受賞者と受賞作品は以下の通り。 ◆アニメアワード《公募作品》/応募396作品 公募作品グランプリ 『Trois Petits Points』(フランス) 一般部門 優秀作品賞 『Thought of You』(アメリカ合衆国)『フルーティー侍』(日本) 学生部門 優秀作品賞 『HONG』(中国)『MOBILE』(ドイツ) 特別賞 『くちゃお』(日本) 企業賞 東京ビッグサイト賞 『SWING』(台湾) CortoonsItalia 2011 『CHILDREN』(日本) 入選 『farm music』(日本)『ユートピアン』(日本) ◆アニメアワード《ノミネート作品》/415作品  アニメーション オブ ザ イヤー 『借りぐらしのアリエッティ』 テレビ部門 優秀作品賞 『けいおん!!』『四畳半神話大系』 国内劇場映画部門 優秀作品賞 『借りぐらしのアリエッティ』 海外劇場映画部門 優秀作品賞 『トイ・ストーリー3』 OVA部門 優秀作品賞 『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』 個人部門 監督賞:米林宏昌『借りぐらしのアリエッティ』、脚本賞:丸尾みほ『カラフル』、美術賞:武重洋二/吉田昇『借りぐらしのアリエッティ』、キャラクターデザイン賞:馬越嘉彦『ハートキャッチプリキュア!』、声優賞:豊崎愛生『けいおん!!』、音楽賞:CECIL CORBEL『借りぐらしのアリエッティ』 ◆第7回 功労賞 有賀健、荒木伸吾、小隅黎、勝間田具治、浦田又治、雪室俊一、神原広巳、千蔵豊、加藤みどり、永井一郎、麻生美代子、貴家堂子 (取材・文・写真=後藤勝)
四畳半神話大系 第1巻 おめでとうございます。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 マンガ・アニメの未来はどうなる? またまた浮上した児童ポルノ法改定問題の行方 「表現の自由」では許されない エロマンガ「自粛案」の顛末と、児童ポルノ法改定強化の危機 ついにロリマンガ消滅へ 業界団体が示した「自粛案」の苛烈さ