“ヤクザ雑誌はダメ”のご時世で、なぜ……「月刊実話ドキュメント」スピード復刊の裏事情

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「月刊実話ドキュメント」(ジェイズ・恵文社)
 今年3月に休刊したヤクザ雑誌「月刊実話ドキュメント」が10月号から復刊した。休刊は珍しくないご時世だが、約半年でスピード復刊したのは異例の話。今回の復刊は、休刊前に発行元だったジェイズ・恵文社が新たな発売元となり、編集部の態勢はそのままで再スタートとなったようだ。  同誌が休刊となった理由にはいろいろな臆測が飛び、警察による圧力説なども浮上していた。しかし、事情を知る出版関係者は「編集者は周囲への影響を考えてハッキリ理由を言っていませんが、警察からの圧力だったら復刊はできません。ただ、ヤクザへの風当たりの強さが影響したことはあった様子」だという。 「4年前、出版社が竹書房からマイウェイ出版に変わったときも、その理由は竹書房が銀行から融資を受ける際、『ヤクザ雑誌はやらない』という条件が出されたという話でした。今回も別の出版社との交渉もあったようですが、やはり交渉先から『ヤクザ雑誌はダメ』で白紙になったりもしたそうです」(同) 「実話ドキュメント」は、かつて竹書房やマイウェイ出版から発行されていた創刊34年のヤクザ雑誌で、暴力団や右翼団体の動向を専門的な視点で追うのがメイン。創刊時の1984年は、山口組と一和会による暴力団抗争「山一抗争」があって大ヒットを飛ばした。二代目の編集長はいまや芸能レポーターとして活躍する井上公造氏。竹書房が同誌を手放したのは、「銀行の融資が必要なくらい、出版社の経営が厳しかったということでは」と関係者。 「当時の竹書房には『ドキュメント』のほか、もう一誌『実話時報』という社内制作のヤクザ誌もありましたが、そちらはアダルト系雑誌にリニューアルさせられていましたからね」(同)  ヤクザ雑誌はあくまでヤクザの動きを伝えるもので、ヤクザと交遊があるメディアではないのだが、休刊は暴力団追放のご時世の悪影響を受けたということなのだろうか。 「ただ、復刊できたことに関しては、取次の力添えもあったと思います」と関係者。  出版社、書店がバタバタと倒産している出版界では、新規参入することはかなり難しく、よほどしっかりした経済的背景があるか、確実に売れるというプランを示さない限り、本を流通させる卸売業者、いわゆる「取次」が首を縦に振らないという。 「そんな中で復刊できたということは、取次が『実話ドキュメント』をそれだけ評価したということでしょうね。実際、復刊部数は休刊前のものを維持しているともいわれていますし。今、雑誌の売り上げは書店よりコンビニの方が大きいですが、本だけを売る専門店である書店と、売れるものだけ置くコンビニとでは、本に対する扱い方が根本的に違います。コンビニは本が売れなければ、その売り場に弁当やジュースを置いた方が良い、とすら考えるもの。そうなれば取次には大打撃なので、コンビニで少しでも売れそうな商品は残そうとしてくれます。『実話ドキュメント』は書店よりもコンビニでの売り上げが大きい雑誌と聞きますから、そこが復刊の決め手になったのでは」(同)  ヤクザ雑誌は暴力団と警察、ともに取材しにくい対象を相手にしながら、出版社や銀行にまで冷たくされる風当たりの厳しい雑誌だが、それでも復刊に漕ぎ着けられたということは、世間のヤクザへの関心はまだ需要があるということでもある。 「でも、それも編集部が細々やっているから続けられているだけで、大儲けできているわけではないでしょう」と前出関係者。 「この業界、昔は実売率が7割を切ったら社長に怒鳴られてました。それが今では、4割売れただけでも御の字。本は委託販売のみですから、出荷した商品の半分以上が平気で返ってきちゃう。それでもなんとか利益を出すには、自分たちの給与や取材経費などを抑えながらやっていくしかないでしょう。お金以外のモチベーションがないとやれないですよね」  この復刊の直後、任侠山口組の織田絆誠代表が銃撃されるという事件が発生した。その犯人として、神戸山口組の直系組員が指名手配され、神戸山口組本部が兵庫県警によって家宅捜査されている。こうした動きがあるとヤクザ雑誌の取材力に期待する向きもある。  復刊した同誌の中身はほぼ休刊前そのままで、新たに片岡亮氏による格闘技連載、三垣篤稔氏による競馬連載などが加わった。公式ブログやツイッターなどもないアナログな「実話ドキュメント」、その古きスタイルには昭和ヤクザに共通するような香りも漂う。 (文=高山登/NEWSIDER)

バブル時代、東京から脱出を志す人々がいた──1989年「SPA!」地方会社の『ゆとり生活』を読む

バブル時代、東京から脱出を志す人々がいた──1989年「SPA!」地方会社の『ゆとり生活』を読むの画像1
「SPA!」(扶桑社/1989年8月30日号)
 何かと地方取材に行く機会が多い、今日この頃。どこの地方でも必ず、都会の喧噪を逃れて移住してきた人には出会うものである。  最近は、地方の自治体が移住者を求めて、広く門戸を開く、いうケースも増えてきた。けれども、移住には覚悟が必要なもの。単に、都会に疲れて逃げてきたような人に、地方の狭い人間関係やしきたりは厳しい。そうして、せっかく移住した地域を恨んで姿を消す人も絶えない。  これだけさまざまな情報が飛び交い、移住のために最低限必要なことがわかっている時代であるにもかかわらず。  現代とは少々違う意識で「なんだかよくわからないが、とにかく忙しい」そんな会社勤めが当たり前だったバブル時代。残業に疲れても、飲み歩くことこそ当時の美学。現代よりも集団行動が強いられていた時代ゆえに、そこに疲弊する人も多かった。  朝から晩まで、仕事に接待にぐるぐる回り、同僚と飲んでは午前様。「24時間戦えますか」というリゲインのCMが流行したりもしたけれど、サラリーマンは疲れていた。  そうした中で入ってくるのが、海外、とりわけヨーロッパの情報である。ヨーロッパでは、もっと休暇が長く、サラリーマンでも優雅にバカンスを楽しむのが当たり前らしい。  そうした優雅な実例として、イタリア人的な生活や文化が理想とされたことを覚えている人は少ない(なお、バブル時代。もっともイタリア的な日本人とされたのが石田純一である)。  この好景気が続けば、日本にもやがてバカンス文化が定着する。そんな分析もされていたけれど、それはいつのことやらわかっていなかった。  だが、もう都会に我慢できなくなった人たちは、早々と地方へと移住していったのである。 「SPA!」(扶桑社)1989年8月30日号掲載の「地方会社の『ゆとり生活』に心ひかれる」は、地方の企業で働きながら、都会とは違い優雅に暮らす人々の姿を紹介している。  もう地方にもバブルの恩恵が普及していた時代である。地方だからといって賃金が低いといったデメリットも顕在化はしていなかった。そして、バブルの恩恵で儲かる企業の福利厚生は、地方でもやっぱりすごかった。  静岡県清水市(当時)にある鈴与倉庫が福利厚生用に購入したのは、総額2,200万円のヨット。 「土日はほとんど船を出します。伊勢の鳥羽や伊豆半島、大島まで足を延ばすこともある。船頭付きの保養所みたいなものですね」  と、同社の社員はコメントしている。なんとも優雅な感じもするが、これって休日にも上司と一緒にヨットで海に出かけなくてはいけないということか。うん、こういった距離感が好きな人には、とても歓迎されそうだ。  この会社を選んだ人は先見の明があったなと思うのが、現在も「おかめ納豆」で知られるタカノフーズ。会社があるのは、都会の喧噪とは無縁な茨城県小美玉市。紹介文で「つくばに近い」というのは少々無理がありそうな気もするが、女子社員の多さがアピールされている。  きっと、記事を見て就職した人もいるだろう。絶対に潰れそうもない安定感のある納豆を生業にして、社内結婚して幸せに暮らしている人もいることだろう。  逆に、記事中で紹介されている企業の中には諸行無常を感じる会社も。  長野県諏訪市のチノンがそれだ。  そう、かつては数々の名機で知られたカメラメーカーである。しかし、90年代に経営の多角化に失敗。コダックの傘下に入り、その歴史を終えた(商標はかつての関連会社が取得し、現在も継続)。  そんな、後の歴史を知ってるがゆえに、記事中に求める人材として「経営の多角化を目指す必要上、型にはまらない活動的な人」と書かれているのは、どこか悲しい。  でも、この時期のチノンは地方企業でありながら、信じられないほどのイケイケムードが詰まっている。  独身寮は、全員個室で温泉付き。40畳の宴会場まであって、寮費は月3,000円。30歳の給与が24万2,200円と記されているが、もう入社早々から、好きなだけ遊んで貯金もできそう。  独身社員の全員が車を所有。「諏訪湖、美ヶ原は庭のようなもの」と、夢のようなライフスタイルが描かれているではあるまいか。  バブル時代。都会から逃げて、地方へと移住していった人は、どこか「負け」の感覚を持っていたかもしれない。  でも、会社選びを間違えなければ、21世紀の今「あの時、決断してよかった……」と人生を振り返っている人が多いように思える。 (文=昼間たかし)

バブル時代、東京から脱出を志す人々がいた──1989年「SPA!」地方会社の『ゆとり生活』を読む

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「SPA!」(扶桑社/1989年8月30日号)
 何かと地方取材に行く機会が多い、今日この頃。どこの地方でも必ず、都会の喧噪を逃れて移住してきた人には出会うものである。  最近は、地方の自治体が移住者を求めて、広く門戸を開く、いうケースも増えてきた。けれども、移住には覚悟が必要なもの。単に、都会に疲れて逃げてきたような人に、地方の狭い人間関係やしきたりは厳しい。そうして、せっかく移住した地域を恨んで姿を消す人も絶えない。  これだけさまざまな情報が飛び交い、移住のために最低限必要なことがわかっている時代であるにもかかわらず。  現代とは少々違う意識で「なんだかよくわからないが、とにかく忙しい」そんな会社勤めが当たり前だったバブル時代。残業に疲れても、飲み歩くことこそ当時の美学。現代よりも集団行動が強いられていた時代ゆえに、そこに疲弊する人も多かった。  朝から晩まで、仕事に接待にぐるぐる回り、同僚と飲んでは午前様。「24時間戦えますか」というリゲインのCMが流行したりもしたけれど、サラリーマンは疲れていた。  そうした中で入ってくるのが、海外、とりわけヨーロッパの情報である。ヨーロッパでは、もっと休暇が長く、サラリーマンでも優雅にバカンスを楽しむのが当たり前らしい。  そうした優雅な実例として、イタリア人的な生活や文化が理想とされたことを覚えている人は少ない(なお、バブル時代。もっともイタリア的な日本人とされたのが石田純一である)。  この好景気が続けば、日本にもやがてバカンス文化が定着する。そんな分析もされていたけれど、それはいつのことやらわかっていなかった。  だが、もう都会に我慢できなくなった人たちは、早々と地方へと移住していったのである。 「SPA!」(扶桑社)1989年8月30日号掲載の「地方会社の『ゆとり生活』に心ひかれる」は、地方の企業で働きながら、都会とは違い優雅に暮らす人々の姿を紹介している。  もう地方にもバブルの恩恵が普及していた時代である。地方だからといって賃金が低いといったデメリットも顕在化はしていなかった。そして、バブルの恩恵で儲かる企業の福利厚生は、地方でもやっぱりすごかった。  静岡県清水市(当時)にある鈴与倉庫が福利厚生用に購入したのは、総額2,200万円のヨット。 「土日はほとんど船を出します。伊勢の鳥羽や伊豆半島、大島まで足を延ばすこともある。船頭付きの保養所みたいなものですね」  と、同社の社員はコメントしている。なんとも優雅な感じもするが、これって休日にも上司と一緒にヨットで海に出かけなくてはいけないということか。うん、こういった距離感が好きな人には、とても歓迎されそうだ。  この会社を選んだ人は先見の明があったなと思うのが、現在も「おかめ納豆」で知られるタカノフーズ。会社があるのは、都会の喧噪とは無縁な茨城県小美玉市。紹介文で「つくばに近い」というのは少々無理がありそうな気もするが、女子社員の多さがアピールされている。  きっと、記事を見て就職した人もいるだろう。絶対に潰れそうもない安定感のある納豆を生業にして、社内結婚して幸せに暮らしている人もいることだろう。  逆に、記事中で紹介されている企業の中には諸行無常を感じる会社も。  長野県諏訪市のチノンがそれだ。  そう、かつては数々の名機で知られたカメラメーカーである。しかし、90年代に経営の多角化に失敗。コダックの傘下に入り、その歴史を終えた(商標はかつての関連会社が取得し、現在も継続)。  そんな、後の歴史を知ってるがゆえに、記事中に求める人材として「経営の多角化を目指す必要上、型にはまらない活動的な人」と書かれているのは、どこか悲しい。  でも、この時期のチノンは地方企業でありながら、信じられないほどのイケイケムードが詰まっている。  独身寮は、全員個室で温泉付き。40畳の宴会場まであって、寮費は月3,000円。30歳の給与が24万2,200円と記されているが、もう入社早々から、好きなだけ遊んで貯金もできそう。  独身社員の全員が車を所有。「諏訪湖、美ヶ原は庭のようなもの」と、夢のようなライフスタイルが描かれているではあるまいか。  バブル時代。都会から逃げて、地方へと移住していった人は、どこか「負け」の感覚を持っていたかもしれない。  でも、会社選びを間違えなければ、21世紀の今「あの時、決断してよかった……」と人生を振り返っている人が多いように思える。 (文=昼間たかし)

「謎だらけ」リンダパブリッシャーズのラノベレーベル「出版予定中止→取り下げ?」騒動でわかっていること

「謎だらけ」リンダパブリッシャーズのラノベレーベル「出版予定中止→取り下げ?」騒動でわかっていることの画像1
リンダパブリッシャーズ公式サイトより
 先週末、業界内外で注目を集めた出版社・リンダパブリッシャーズのラノベレーベル「レッドライジングブックス」を中心とした新刊書籍の出版中止をめぐる騒動。  すわ、倒産かと思いきや、出版中止のリリースが消える新たな展開となり、さまざまな臆測が流れている。  この騒動のはじまりは先週後半のこと。リンダパブリッシャーズが「当社の9月以降の新刊の出版取りやめについて」というタイトルで「レッドライジングブックス」で予定されていた書籍の刊行を中止する旨の告知を同社サイトで公開したものである。  同時に、既に刊行が予定されていた作家陣がTwitterで悲痛な叫びをツイートしたことで、一気に話題となった。  リンダパブリッシャーズは2006年に創業。TSUTAYA事業を中心に据えるカルチュア・コンビニエンス・クラブ及びニッポン放送と共催した「日本エンタメ小説大賞」など複数の公募制の賞を実施。映画化された水野宗徳の小説『おっぱいバレー』の版元としても関心を集めていた。  ライトノベルレーベル「レッドライジングブックス」は昨年立ち上げられたもので「WEB投稿小説大賞」を実施するなど精力的な活動を続けていた。  そんな出版社が告知した突如の出版中止。 「これは、倒産するのではないか」と騒ぎ立てる声が方々から聞こえてきた。  ところが、週明けになり状況は急変。  公式サイトから出版中止の告知が削除されたのである。 「ホームページに電話番号も掲載されていません。なので、会社を訪問してみたらオートロックで中に入って話を聞くこともできず……事情はまったく不明です。ただ、普通に考えると土日の間に資金繰りがなんとかなったということではないでしょうか」(大手紙記者)  ただ資金繰りの問題と考えるのも疑問が残る。というのも、登記簿を見ると、同社の取締役にはカルチュア・コンビニエンス・クラブのグループ企業役員が多数名を連ねている。  実質、巨大グループの一部門ともいえる企業が、にわかに資金繰りが悪化するとは思えない。  代表取締役の名前も公式サイトでは「新保克典」となっているが、登記簿を見ると「新保勝典」と記載されているなど、さまざまなところで「?」マークが点灯する企業。出版中止の告知取り下げで、刊行予定だった書籍がどうなるのか、注目したい。 (文=特別取材班)

「謎だらけ」リンダパブリッシャーズのラノベレーベル「出版予定中止→取り下げ?」騒動でわかっていること

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リンダパブリッシャーズ公式サイトより
 先週末、業界内外で注目を集めた出版社・リンダパブリッシャーズのラノベレーベル「レッドライジングブックス」を中心とした新刊書籍の出版中止をめぐる騒動。  すわ、倒産かと思いきや、出版中止のリリースが消える新たな展開となり、さまざまな臆測が流れている。  この騒動のはじまりは先週後半のこと。リンダパブリッシャーズが「当社の9月以降の新刊の出版取りやめについて」というタイトルで「レッドライジングブックス」で予定されていた書籍の刊行を中止する旨の告知を同社サイトで公開したものである。  同時に、既に刊行が予定されていた作家陣がTwitterで悲痛な叫びをツイートしたことで、一気に話題となった。  リンダパブリッシャーズは2006年に創業。TSUTAYA事業を中心に据えるカルチュア・コンビニエンス・クラブ及びニッポン放送と共催した「日本エンタメ小説大賞」など複数の公募制の賞を実施。映画化された水野宗徳の小説『おっぱいバレー』の版元としても関心を集めていた。  ライトノベルレーベル「レッドライジングブックス」は昨年立ち上げられたもので「WEB投稿小説大賞」を実施するなど精力的な活動を続けていた。  そんな出版社が告知した突如の出版中止。 「これは、倒産するのではないか」と騒ぎ立てる声が方々から聞こえてきた。  ところが、週明けになり状況は急変。  公式サイトから出版中止の告知が削除されたのである。 「ホームページに電話番号も掲載されていません。なので、会社を訪問してみたらオートロックで中に入って話を聞くこともできず……事情はまったく不明です。ただ、普通に考えると土日の間に資金繰りがなんとかなったということではないでしょうか」(大手紙記者)  ただ資金繰りの問題と考えるのも疑問が残る。というのも、登記簿を見ると、同社の取締役にはカルチュア・コンビニエンス・クラブのグループ企業役員が多数名を連ねている。  実質、巨大グループの一部門ともいえる企業が、にわかに資金繰りが悪化するとは思えない。  代表取締役の名前も公式サイトでは「新保克典」となっているが、登記簿を見ると「新保勝典」と記載されているなど、さまざまなところで「?」マークが点灯する企業。出版中止の告知取り下げで、刊行予定だった書籍がどうなるのか、注目したい。 (文=特別取材班)

書店に並ぶ本の40%が「返品」されている! 数値から見る出版不況

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 書店に並ぶ本のうち約40%が「返品」されている――出版不況と言葉では聞くが、数で見ると改めて驚くものがある。思えば90年代にはよく聞いた『ミリオンセラー(100万部突破本)』という言葉も聞かなくなった。出版販促コンサルタントの山本豊氏に、前編に続き、移りゆく書店の姿について話を聞いた。 ■問屋が最強――「取次無双」な出版業界 ――出版業界は独特ですよね。出版社という本を作るメーカーがあり、書店という小売があり、取次という問屋がある。メーカー、小売、問屋という構造は他業種でも一緒ですが、出版業界は問屋である取次の権限がとても強いですよね。出版社が取次にそれはそれは気を使っているのを見聞きして、取次とはそんなに恐ろしいのかと思ったほどです。日本出版販売株式会社、株式会社トーハンが日本二大取次ですが、ここまで取次が強い背景には何があるのでしょう。 山本 取次は流通を抑えていますからね。例えば出版社が3000部取次に預けると、取次でこの書店には何冊、あの書店は売れるから何冊、と書店に卸す冊数を取次が決めていたんです。出版社にしてみても自力でやるより取次にお願いした方が、取次が長年の実績に基づいたルート、冊数で配本してくれますから。ですが、最近では出版社が書店から受注をして取次を経由して配本する方向へ変わってきています。  また、最近の傾向として取次が出版社から受け取る本の冊数が減っているというのはありますね。かつては3000部引き受けていたのが、今は2000部になるというような。取次からの受注が少ないと、出版社には在庫が残ることになります。 ――なぜ、取次が出版社から受け取る冊数は減っているのでしょうか? 山本 一番大きな理由は返品です。書店からの返品率は上がっており41%とも言われています。 ――書店にある本の半分弱が返品されているとなると、気が遠くなりますね。 山本 返送時の郵送コストは取次が負担しますから、取次にしてみたら返品率の上昇は死活問題です。 ■読書離れの実態を数字で追う~電車で見かけなくなった雑誌を読む人 ――出版不況は、読者側の読書離れもあるのでしょうか。 山本 実際あると思いますね。文化庁の平成25年の調査では1カ月に一冊も本を読まない人が47.5%でした。およそ10年前の平成14年度では37.6%でしたので、年々増えているんです。 ――この文化庁の『国語に関する世論調査』は毎年行われていますが、平成25年度を最後に、1カ月に読んだ本の冊数を聞く質問そのものがなくなってしまっていますね。電子書籍に移っているのでしょうか? 山本 電子書籍というより、ゲームや動画など「本ではない娯楽」へ流出していると思いますね。特に雑誌は厳しいです。電車の中で紙の雑誌を読む人をずいぶん見かけなくなりました。マンガそのものは好調ですが、マンガをスマホで読む人が増え、紙のマンガ雑誌も発行部数を落としています。 ――聞けば聞くほど出版業界に明るい兆しを感じにくいですが、それでも明るいジャンルを上げるとしたら何でしょう? 山本 「児童書」は手堅いと思います。少子化なので、意外なように聞こえるかもしれませんが、子供の数が減り、親が一人の子供にかけられるお金はむしろ増えていますから。 ――確かに、親は子供の未来に対しては切実ですしね。前編で「萌え」が強いとありましたが、「児童書」「萌え」はどちらも「金を出そうと読者(もしくは読者の親)が切実に思える」点がずば抜けているのでしょうね。 山本 一方で、苦しいジャンルはマニュアル系の書籍でしょう。 ――特にIT系だと内容がすぐ陳腐化してしまいますし、ネットでいくらでも丁寧に解説したサイトが今はありますからね。 ■「ウェブ発ベストセラー」はあれど、「電子書籍発ベストセラー」はない ――今は電子書籍のプラットフォームが整って、誰でも電子書籍を発表できるようになりましたよね。こういった電子書籍の状況はどうでしょうか? 山本 電子書籍(※ここでは、紙の媒体で先に出た書籍が電子化したものでなく、電子のみで出版されているもの)は売れていませんね。100冊売れればいい方とも聞きます。そもそも、「大人気電子書籍、(紙の)書籍化!」という話はあまり聞きませんよね。 ――確かに、「人気ウェブサイトのコラム、(紙の)書籍化!」は聞きますけど、「人気電子書籍、(紙の)書籍化!」は聞かないですね。 山本 もともと紙媒体でヒットしたマンガの電子化作品などは伸びていますが、これも、紙の書籍の大幅減少分を補うほどではありません。出版業界は1996年には2兆6千億の市場規模がありましたが、15年には1兆5千億まで下がっているんです。 ――驚きの下がり具合です。書店が減るわけですね。 山本 なかなかベストセラーは出ていないですよね。ビジネス書において最近のミリオンセラー(100万部突破)は『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)くらいですね。 ――考えてみれば本も音楽も、ネットの一般普及が進む前の90年代は「ミリオンセラー」が結構頻繁に出ていましたよね。 山本 そうですね。出版点数自体は増えていますから、何を読んでいいのかわからない、という人も増えているはずです。他の娯楽により読書離れが進み、また、出版点数が増え選択肢が増す中で、ベストセラーは以前より出しにくくなっているとは思いますね。 ――ありがとうございました。 * * *  私自身、著者として本を出している。一冊目は14年に出したので、書店での取り扱いはかなり少なくなってしまっている。よって、いつでも自著を販売してくれるAmazonにはとても感謝している。しかし、Amazonばかりが大きくなる状況には危機感や違和感も覚える。さらに、宅配便の再配達問題に関わる取材をして配送業者の厳しい状況を知り、私は都市部に住んでいて、小さな子供がいるなど買い物に苦労するような事情もないのだから、そもそも通販自体をあまり使わないようにしようと個人的には思っている。なかなか難しくはあるが。  そのため利用しているのが「e-hon」という、オンラインで本を注文し、それを指定した書店で受け取れるサービスだ(書店の売り上げになる)。正直、Amazonで買うよりも手間だ。しかし「あの書店つぶれちゃったんだ、残念」などと、数年間買い物しなかったであろう書店の閉店をつぶれてから惜しむ人を見るとカッコ悪いと思うので、できる範囲で続けていきたい。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) ■山本豊氏 出版販促サポートサイト 出版SPプラス:http://booksales.jp

書店に並ぶ本の40%が「返品」されている! 数値から見る出版不況

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 書店に並ぶ本のうち約40%が「返品」されている――出版不況と言葉では聞くが、数で見ると改めて驚くものがある。思えば90年代にはよく聞いた『ミリオンセラー(100万部突破本)』という言葉も聞かなくなった。出版販促コンサルタントの山本豊氏に、前編に続き、移りゆく書店の姿について話を聞いた。 ■問屋が最強――「取次無双」な出版業界 ――出版業界は独特ですよね。出版社という本を作るメーカーがあり、書店という小売があり、取次という問屋がある。メーカー、小売、問屋という構造は他業種でも一緒ですが、出版業界は問屋である取次の権限がとても強いですよね。出版社が取次にそれはそれは気を使っているのを見聞きして、取次とはそんなに恐ろしいのかと思ったほどです。日本出版販売株式会社、株式会社トーハンが日本二大取次ですが、ここまで取次が強い背景には何があるのでしょう。 山本 取次は流通を抑えていますからね。例えば出版社が3000部取次に預けると、取次でこの書店には何冊、あの書店は売れるから何冊、と書店に卸す冊数を取次が決めていたんです。出版社にしてみても自力でやるより取次にお願いした方が、取次が長年の実績に基づいたルート、冊数で配本してくれますから。ですが、最近では出版社が書店から受注をして取次を経由して配本する方向へ変わってきています。  また、最近の傾向として取次が出版社から受け取る本の冊数が減っているというのはありますね。かつては3000部引き受けていたのが、今は2000部になるというような。取次からの受注が少ないと、出版社には在庫が残ることになります。 ――なぜ、取次が出版社から受け取る冊数は減っているのでしょうか? 山本 一番大きな理由は返品です。書店からの返品率は上がっており41%とも言われています。 ――書店にある本の半分弱が返品されているとなると、気が遠くなりますね。 山本 返送時の郵送コストは取次が負担しますから、取次にしてみたら返品率の上昇は死活問題です。 ■読書離れの実態を数字で追う~電車で見かけなくなった雑誌を読む人 ――出版不況は、読者側の読書離れもあるのでしょうか。 山本 実際あると思いますね。文化庁の平成25年の調査では1カ月に一冊も本を読まない人が47.5%でした。およそ10年前の平成14年度では37.6%でしたので、年々増えているんです。 ――この文化庁の『国語に関する世論調査』は毎年行われていますが、平成25年度を最後に、1カ月に読んだ本の冊数を聞く質問そのものがなくなってしまっていますね。電子書籍に移っているのでしょうか? 山本 電子書籍というより、ゲームや動画など「本ではない娯楽」へ流出していると思いますね。特に雑誌は厳しいです。電車の中で紙の雑誌を読む人をずいぶん見かけなくなりました。マンガそのものは好調ですが、マンガをスマホで読む人が増え、紙のマンガ雑誌も発行部数を落としています。 ――聞けば聞くほど出版業界に明るい兆しを感じにくいですが、それでも明るいジャンルを上げるとしたら何でしょう? 山本 「児童書」は手堅いと思います。少子化なので、意外なように聞こえるかもしれませんが、子供の数が減り、親が一人の子供にかけられるお金はむしろ増えていますから。 ――確かに、親は子供の未来に対しては切実ですしね。前編で「萌え」が強いとありましたが、「児童書」「萌え」はどちらも「金を出そうと読者(もしくは読者の親)が切実に思える」点がずば抜けているのでしょうね。 山本 一方で、苦しいジャンルはマニュアル系の書籍でしょう。 ――特にIT系だと内容がすぐ陳腐化してしまいますし、ネットでいくらでも丁寧に解説したサイトが今はありますからね。 ■「ウェブ発ベストセラー」はあれど、「電子書籍発ベストセラー」はない ――今は電子書籍のプラットフォームが整って、誰でも電子書籍を発表できるようになりましたよね。こういった電子書籍の状況はどうでしょうか? 山本 電子書籍(※ここでは、紙の媒体で先に出た書籍が電子化したものでなく、電子のみで出版されているもの)は売れていませんね。100冊売れればいい方とも聞きます。そもそも、「大人気電子書籍、(紙の)書籍化!」という話はあまり聞きませんよね。 ――確かに、「人気ウェブサイトのコラム、(紙の)書籍化!」は聞きますけど、「人気電子書籍、(紙の)書籍化!」は聞かないですね。 山本 もともと紙媒体でヒットしたマンガの電子化作品などは伸びていますが、これも、紙の書籍の大幅減少分を補うほどではありません。出版業界は1996年には2兆6千億の市場規模がありましたが、15年には1兆5千億まで下がっているんです。 ――驚きの下がり具合です。書店が減るわけですね。 山本 なかなかベストセラーは出ていないですよね。ビジネス書において最近のミリオンセラー(100万部突破)は『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)くらいですね。 ――考えてみれば本も音楽も、ネットの一般普及が進む前の90年代は「ミリオンセラー」が結構頻繁に出ていましたよね。 山本 そうですね。出版点数自体は増えていますから、何を読んでいいのかわからない、という人も増えているはずです。他の娯楽により読書離れが進み、また、出版点数が増え選択肢が増す中で、ベストセラーは以前より出しにくくなっているとは思いますね。 ――ありがとうございました。 * * *  私自身、著者として本を出している。一冊目は14年に出したので、書店での取り扱いはかなり少なくなってしまっている。よって、いつでも自著を販売してくれるAmazonにはとても感謝している。しかし、Amazonばかりが大きくなる状況には危機感や違和感も覚える。さらに、宅配便の再配達問題に関わる取材をして配送業者の厳しい状況を知り、私は都市部に住んでいて、小さな子供がいるなど買い物に苦労するような事情もないのだから、そもそも通販自体をあまり使わないようにしようと個人的には思っている。なかなか難しくはあるが。  そのため利用しているのが「e-hon」という、オンラインで本を注文し、それを指定した書店で受け取れるサービスだ(書店の売り上げになる)。正直、Amazonで買うよりも手間だ。しかし「あの書店つぶれちゃったんだ、残念」などと、数年間買い物しなかったであろう書店の閉店をつぶれてから惜しむ人を見るとカッコ悪いと思うので、できる範囲で続けていきたい。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) ■山本豊氏 出版販促サポートサイト 出版SPプラス:http://booksales.jp

書店が6000店も減少している! 懐かしの「ロードサイド書店」をつぶしたのはAmazonか? 

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 2000年には2万店以上あった書店が16年には1万4000店まで減っている――近所の町の書店の閉店などを目にし「書店が前よりも減っている感覚」は多くの人にあるだろう。しかし、こうして数で見ると驚くものがある。そしてこれはいわゆる町の本屋さんだけでなく、紀伊國屋書店新宿南店など、都心の大型書店も含まれているのだ。その要因の一つに当然あるのはAmazonだろう。出版販促コンサルタントの山本豊氏に、移りゆく書店の姿について話を聞いた。 ■2000年時点では、Amazonはまったく脅威だと思われていなかった。 ――00年には2万店以上あった書店が16年には1万4000店まで減っている、というのは衝撃ですね。 山本豊氏(以下、山本) そうですね、後継者不足もありますが、Amazonの影響も大きいですね。 ――Amazonは00年に日本でのサービスを開始し、今や書籍に限らずEC市場を牽引する存在になりましたが、サービス開始時点の段階で、Amazonは書店にどう認識されていたのでしょうか? 山本 Amazonは赤字覚悟で本の送料無料を続けていました。当初は出版社も書店も、このやり方ではもたないと見ていましたね。また、Amazonは外資ですから、出版社にしろ書店にしろ「敵対」とまではいかずとも、「自分たちの土壌に土足で……」のような雰囲気はありましたね。  ただ、その後Amazonが拡大を続けたのはご存知の通りです。書店にとってAmazonはライバルですが、出版社にとってAmazonは販路を広げてくれる存在でもあります。ですが、出版社にしてみればそれまでずっと本を販売してくれた書店への恩義も当然あります。  なので、出版社は表立ってAmazonと何かをすることはせず「書店さんの味方ですよ」というスタンスを取っていました。ですが、そのスタンスも最近そうとも言えなくなってきていますね。 ――書店さんを大事にしていますよ、という出版社の建前もいよいよ崩れつつあるんですね。 ■「Amazonランキング1位」は操作されている? ――山本さんから見て、Amazonのいい点はどこにあると思いますか? 山本 利用者にしてみればいいサービスですよね。品切れはなく、届くのも早いですし。マーケットプレイスでの古本の販売も充実していますよね。 ――マーケットプレイスで、1円で販売されている本はどうやって利益を確保しているのでしょうか。 山本 あちらは送料が一律で257円ですよね。安い配送サービスを利用し、その差額を得ているのでしょう。ただ、当然Amazonも手数料を取るでしょうから、1円本の利益は相当薄いでしょうね。 ――Amazonは本別に売り上げのランキングがついていますが、1位を取ると「ベストセラー1位」のタグが付きます。そのタグやランキング上位の実績欲しさに著者が本を買い占め、ランキングを操作することもあるとも聞きますが……。 山本 一人の方が100冊買っても1カウントにしかならないようですね。「操作」するなら相当大掛かりにやらないといけないでしょう。 ――この「ベストセラー1位」は効力のあるものなのでしょうか? 山本 かつては効力があったと思いますが、今はさほど、という感じですね。内情をわかっている消費者も増えてきましたから。 ■90年代の日本の郊外の風景「ロードサイド書店」は絶滅する? ――書店は上場企業もありますが、最新年度の決算を見ると文教堂が赤字、三洋堂も前年よりも営業利益を落としています。 山本 三洋堂さんは愛知に本社のある書店さんで、いわゆる「ロードサイド書店」の走りですね。 ――東京など車なしでも生活できる都市圏の人にはピンとこないかもしれませんが、私は地方の郊外出身なので「ロードサイド書店」にはグッとくるものがあります。90年代くらいから、地方の郊外にはロードサイドに大型の書店が増えましたね。ネットも普及していなかった時代に、地方でも「文化」を感じる空間でした。 山本 ロードサイド書店は減ってきてしまいましたね。文教堂さんもかつては神奈川近郊でロードサイド店を多く展開していましたが、今は「アニメガ」という店舗形態に力を入れています。アニメガではアニメや関連グッズに注力しており、場所もロードサイドではなく、駅チカだったり、駅ビルのテナントに入っていたりと、路線転換しています。 ――出版不況でも、信者を抱える「萌え」は強いのですね。ロードサイド書店を駆逐したのはAmazonなのでしょうか? 山本 Amazonも当然ありますが、昨今増えたワンストップモールの影響もあるかと思います。それこそイオンのような、一店舗だけですべての買い物が完結するような超大型ショッピングモールの存在ですね。そういった店舗には大型書店も入っていますので。 ――書店という切り口だけで見ても、この20年で随分流通の姿は変わっているのですね。 * * *  なお、Amazonは「法人税を日本に払っていない疑惑」がある。Amazonの16年における日本事業の売上高は1兆1660億(1ドル108円で算出)になる。ちなみに日本経済新聞社のサイトのランキングで調べると、ユニクロのファストリテーリングの16年の売上高は1兆7778億円になり、これは全上場企業中73位になる。  ユニクロを小さくしたくらいの超大企業が日本に法人税を納めていないのは問題だ。しかしAmazonは、そもそも米国にも売上規模の割には法人税をさほど払っていない。Amazonの営業利益率は、16年は3%、15年は2%、14年は0.2%だ。ちなみに楽天の営業利益率は16年は9.9%、15年は13.2%、14年は17.2%になる。Amazonの投資家向け資料を見ると、「短期的な利益よりも中長期的なマーケットでの主導権をつかむための投資を続ける」といった趣旨の記載があり、利益は、徹底的にさらなる拡大のための投資に回す方針なのだ。  利用者にしてみればAmazonは確かに便利なサービスだが、宅配業者の再配達問題などAmazonと利用者「以外」の関係者の疲弊は大きいし、街の書店は6000店が消えて風景も変わった。最後はAmazon以外、草一本も生えてないのかもしれない。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) ■山本豊氏 出版販促サポートサイト 出版SPプラス:http://booksales.jp

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書店が6000店も減少している! 懐かしの「ロードサイド書店」をつぶしたのはAmazonか? の画像1
 2000年には2万店以上あった書店が16年には1万4000店まで減っている――近所の町の書店の閉店などを目にし「書店が前よりも減っている感覚」は多くの人にあるだろう。しかし、こうして数で見ると驚くものがある。そしてこれはいわゆる町の本屋さんだけでなく、紀伊國屋書店新宿南店など、都心の大型書店も含まれているのだ。その要因の一つに当然あるのはAmazonだろう。出版販促コンサルタントの山本豊氏に、移りゆく書店の姿について話を聞いた。 ■2000年時点では、Amazonはまったく脅威だと思われていなかった。 ――00年には2万店以上あった書店が16年には1万4000店まで減っている、というのは衝撃ですね。 山本豊氏(以下、山本) そうですね、後継者不足もありますが、Amazonの影響も大きいですね。 ――Amazonは00年に日本でのサービスを開始し、今や書籍に限らずEC市場を牽引する存在になりましたが、サービス開始時点の段階で、Amazonは書店にどう認識されていたのでしょうか? 山本 Amazonは赤字覚悟で本の送料無料を続けていました。当初は出版社も書店も、このやり方ではもたないと見ていましたね。また、Amazonは外資ですから、出版社にしろ書店にしろ「敵対」とまではいかずとも、「自分たちの土壌に土足で……」のような雰囲気はありましたね。  ただ、その後Amazonが拡大を続けたのはご存知の通りです。書店にとってAmazonはライバルですが、出版社にとってAmazonは販路を広げてくれる存在でもあります。ですが、出版社にしてみればそれまでずっと本を販売してくれた書店への恩義も当然あります。  なので、出版社は表立ってAmazonと何かをすることはせず「書店さんの味方ですよ」というスタンスを取っていました。ですが、そのスタンスも最近そうとも言えなくなってきていますね。 ――書店さんを大事にしていますよ、という出版社の建前もいよいよ崩れつつあるんですね。 ■「Amazonランキング1位」は操作されている? ――山本さんから見て、Amazonのいい点はどこにあると思いますか? 山本 利用者にしてみればいいサービスですよね。品切れはなく、届くのも早いですし。マーケットプレイスでの古本の販売も充実していますよね。 ――マーケットプレイスで、1円で販売されている本はどうやって利益を確保しているのでしょうか。 山本 あちらは送料が一律で257円ですよね。安い配送サービスを利用し、その差額を得ているのでしょう。ただ、当然Amazonも手数料を取るでしょうから、1円本の利益は相当薄いでしょうね。 ――Amazonは本別に売り上げのランキングがついていますが、1位を取ると「ベストセラー1位」のタグが付きます。そのタグやランキング上位の実績欲しさに著者が本を買い占め、ランキングを操作することもあるとも聞きますが……。 山本 一人の方が100冊買っても1カウントにしかならないようですね。「操作」するなら相当大掛かりにやらないといけないでしょう。 ――この「ベストセラー1位」は効力のあるものなのでしょうか? 山本 かつては効力があったと思いますが、今はさほど、という感じですね。内情をわかっている消費者も増えてきましたから。 ■90年代の日本の郊外の風景「ロードサイド書店」は絶滅する? ――書店は上場企業もありますが、最新年度の決算を見ると文教堂が赤字、三洋堂も前年よりも営業利益を落としています。 山本 三洋堂さんは愛知に本社のある書店さんで、いわゆる「ロードサイド書店」の走りですね。 ――東京など車なしでも生活できる都市圏の人にはピンとこないかもしれませんが、私は地方の郊外出身なので「ロードサイド書店」にはグッとくるものがあります。90年代くらいから、地方の郊外にはロードサイドに大型の書店が増えましたね。ネットも普及していなかった時代に、地方でも「文化」を感じる空間でした。 山本 ロードサイド書店は減ってきてしまいましたね。文教堂さんもかつては神奈川近郊でロードサイド店を多く展開していましたが、今は「アニメガ」という店舗形態に力を入れています。アニメガではアニメや関連グッズに注力しており、場所もロードサイドではなく、駅チカだったり、駅ビルのテナントに入っていたりと、路線転換しています。 ――出版不況でも、信者を抱える「萌え」は強いのですね。ロードサイド書店を駆逐したのはAmazonなのでしょうか? 山本 Amazonも当然ありますが、昨今増えたワンストップモールの影響もあるかと思います。それこそイオンのような、一店舗だけですべての買い物が完結するような超大型ショッピングモールの存在ですね。そういった店舗には大型書店も入っていますので。 ――書店という切り口だけで見ても、この20年で随分流通の姿は変わっているのですね。 * * *  なお、Amazonは「法人税を日本に払っていない疑惑」がある。Amazonの16年における日本事業の売上高は1兆1660億(1ドル108円で算出)になる。ちなみに日本経済新聞社のサイトのランキングで調べると、ユニクロのファストリテーリングの16年の売上高は1兆7778億円になり、これは全上場企業中73位になる。  ユニクロを小さくしたくらいの超大企業が日本に法人税を納めていないのは問題だ。しかしAmazonは、そもそも米国にも売上規模の割には法人税をさほど払っていない。Amazonの営業利益率は、16年は3%、15年は2%、14年は0.2%だ。ちなみに楽天の営業利益率は16年は9.9%、15年は13.2%、14年は17.2%になる。Amazonの投資家向け資料を見ると、「短期的な利益よりも中長期的なマーケットでの主導権をつかむための投資を続ける」といった趣旨の記載があり、利益は、徹底的にさらなる拡大のための投資に回す方針なのだ。  利用者にしてみればAmazonは確かに便利なサービスだが、宅配業者の再配達問題などAmazonと利用者「以外」の関係者の疲弊は大きいし、街の書店は6000店が消えて風景も変わった。最後はAmazon以外、草一本も生えてないのかもしれない。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) ■山本豊氏 出版販促サポートサイト 出版SPプラス:http://booksales.jp

住むならどっち!? 多摩と湾岸で迷ったバブル時代と80年代雑誌の“ユルさ”

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「週刊プレイボーイ」(集英社/1989年9月19日号)
 タイトルで「どっち」と書いたけれども21世紀の今、ほぼ決着がついているのは、ご存じの通り。  多摩地域のボロ負けである。  その名前の通り、まるで神殿のような街が建設されたパルテノン多摩は陳腐なものになってしまった。そして、高度成長期以降、多くの人々が夢を抱いて住んだ多摩ニュータウンは、もはや完全なオールドタウン。歩道と車道の完全分離のように考え抜かれた都市計画も、いざやってみると夜道が危ないなどの危険ばかりを生み出した。  片や湾岸地域は、タワーマンションが乱立する完全な未来都市。バブル時代は倉庫を改造したウォーターフロントの店が繁盛していた勝どきや芝浦の風景は、ガラリと変わった。とりわけ勝どきの変貌は著しい。低層団地や倉庫群は完全に取り壊されて、すべてタワーマンションへと生まれ変わった。今後、マンションの価格は下落する=今はバブルといわれはするけども、繁栄を謳歌していることに間違いはない。  そんな多摩と湾岸と、どちらが優れているのか混沌とした時期の記事。「週刊プレイボーイ」(集英社)1989年9月19日号「東京を考える特集 のっぺり東京のふたつの顔『多摩VS湾岸』」が、今回のお題である。  この記事、どちらに住もうかと迷う、子どもも生まれたばかりの若夫婦の対話形式で綴られていく。なんだけれども、まず設定が少々、トンでいる。 「ボクがいま住んでいるのは足立区の綾瀬です。あの『幼女誘拐殺人事件』で影が薄くなっちゃったけど、『女子高生リンチ殺人事件』が起きたあの“狂気の街”綾瀬なのです」  いやいや、現代の雑誌、あるいはネット記事で書いたら、即座に赤字を入れられそうな一文である。この不謹慎なユルさこそが80年代。これとは別だが、雑誌のグルメレポで「原爆が落ちたような美味さ」という、酷い文句を見出しでどーんと書いても「ああ、そんな衝撃的な美味さなのだなあ」程度で受け止めてくれるのが80年代なのである。これも、アゲアゲムードの中での余裕ということなのか。  さて、この記事でたびたび比較対象として提示されるのは、多摩市と江東区。湾岸といっても当時は、まだまだ開発途上にあった地区。  記事は、それぞれの市役所に話を聞いたりして、オススメポイントを提示していくのである。  でも、そうしたデータと共に記されるオススメポイントは、狙っているかのような無軌道ぶり。もんじゃ焼きの本場を「江東区の月島」なんて記していたりする。これが、ネタなのか本気なのか判然とし難いが(月島は中央区です、念のため)、後者だとすれば、今では人気スポットの月島が、いかに見向きもされない街であったかを如実に現しているように思えるのだ。  そんな感じなので、とにかく多摩も湾岸も、オススメされても、まったく住みたい気分にならない。 「湾岸はさ、海があるんだ。親子揃ってウィンド・サーフィンなんてかっこいいぞ」 「多摩の奥のほうでは熊が出るって話もあるし」  こうして、会話形式で綴られる記事は、いつしか青山に住みたいという妻の本音へとシフトしていく。  ここでわかるだろうか。この記事の本質は「多摩VS湾岸」ではないことを。  そう、少し捻くれた形で港区や千代田区といった内陸部に住むことのできない人々の、怨嗟の声を綴りたかったのだ。  家賃が高騰し、買いたいものが溢れても、給料の上昇スピードが遅かった時代。人々は、怨念を内に貯め込んで暮らしていたのだ。 (文=昼間たかし)