苦役列車はどこへゆく!? 東スポ1面を飾った芥川賞作家・西村賢太の次なる狙いとは

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『西村賢太対話集』(新潮社)
「そろそろ風俗に行こうかなと思っていました」  文学界の権威である芥川賞の授賞式で、このように発言したことから一躍時の人となった小説家・西村賢太。こればかりでなく、なんと「芥川賞・西村賢太氏『風俗3P告白』」という見出しで、かの東京スポーツ1面にも登場するという快挙まで成し遂げた。これらの発言からわかる通り、常識では計り知れない西村の無頼なキャラクターは、近年おとなしくなってしまった文壇でも異彩を放っている。そんな奇才が、石原慎太郎、町田康、島田雅彦、高田文夫らとの対談をまとめた『西村賢太対話集』(新潮社)を刊行した。  最終学歴は中卒、パソコンも使えず、ローマ字も編集者に手伝ってもらわないと書くことができない。「いつの時代だ?」と疑問に思ってしまうほど、その人となりは一般人を超越している。この対談集では西村の創作の裏側が覗けるとともに、「勝谷誠彦と揉めた」「芥川賞を受賞して3,000万円印税が入ってきた」「中学時代は町田のトシちゃんと言われていた」と西村ファンにはたまらないエピソードを披瀝。さらには、文芸誌編集者を「へなちょこサラリーマン」とこき下ろし、坪内祐三氏とともに、文壇の“枕編集”の実態を暴露するなど、そのイツザイぶりを遺憾なく発揮している。  とくに秀逸なのが、放送作家の高田文夫との対談だ。本人を前に「弟子入りしようと思っていた」「(オールナイトニッポンの)センセイの畳みかけ方と言葉のキレは確実に影響を受けてますね(中略)。『オールナイト』を聴いてなかったら、こういう形で僕の小説は書けなかった」と、憧れの人物を前に、西村の溢れ出る気持ちは止まらない。  では、彼の小説家としての側面はどうだろうか?  芥川賞を受賞した『苦役列車』(新潮社)は、80年代後半と思われる東京を舞台に、北町貫多という19歳の青年が、日雇い労働者としての生活を送る物語だ。作者のキャラクターも奏功してか、発行部数は35万部以上、今夏には森山未來、AKB48の前田敦子らをキャスティングした映画も公開されている(もっとも、この映画について西村自身は「見る価値がない」と不満をぶちまけているようだが……)。  彼が書くのは、実際に自分の身に起こった事件を描く「私小説」。田山花袋や志賀直哉、田中英光など、日本の文学界では伝統的に書かれてきた手法だ。『苦役列車』も、西村が実際に経験した日雇い労働の現場が元に描かれている。江戸言葉のような古風な文体を持ち、20世紀前半に活躍した小説家・藤澤清造に私淑する西村。そのキャラクターとは裏腹に、彼ほどしっかりと日本文学の伝統に根ざしている小説家は多くはないだろう。  本書では、この私小説という文学の伝統的なフィールドで、彼が目指している方向も語られている。  「作品それぞれが連絡をとりあってつながるようにもしちゃっているんですよ。卑怯なやり方かもしれないんですが、そこが僕の唯一の強みでもあるかなと(中略)いわゆる連作とは違う形で無造作にやりながらも、終わってみたら大きな世界になっていたという私小説というのはまだないような気がするんです」  西村自身「超大河小説」と名付けるこの計画の成功は、本人も認めている「まだ書けていないこと」を書ける日が来るかによって決まるだろう。  「そろそろ自分の痛いところをついても揺るがないだけの土台はできたかなと思ってるんでこれを一つのステップとして、自分にとって本当に痛いところを徐々に書いていこうと思っています。逮捕された親父のこととか」  小学校5年生の時、父が性犯罪で逮捕された経験は、西村という人物を形成するにあたって大きな影を落としている。自らの体験を作品に売り渡す私小説というジャンルで書き続ける限り、西村の“苦役”が終わることはない。 (文=萩原雄太[かもめマシーン]) ●にしむら・けんた 1967年、東京都江戸川生まれ。中卒。2007年、『暗渠の宿』(新潮社)で野間文芸新人賞を、2011年『苦役列車』(同)で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』(講談社)、『小銭をかぞえる』(文藝春秋)などがある。
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岩井志麻子×西村賢太──最強の私小説家2人が語る「絶対小説に書けない"借金と性"」

 ホラー作家としての顔のほかに、自らの恋愛や男性遍歴を赤裸々に描く『チャイ・コイ』『私小説』といった著作を持つ岩井志麻子と、"平成の私小説家"として純文学ファンから長く支持を集め、ついに芥川賞を獲得した西村賢太。自らの経験をまるで包み隠さず書く2人にも、書けないことはあるのか!? タブーなど存在しなさそうな、私小説のタブーに迫る!
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(写真/江森康之)
 父が起こした性犯罪を契機に15歳で家を飛び出し、日雇い仕事で暮らしながら大家に追い出されるまで家賃は一切払わない......そんな壮絶な生活を私小説にして書き続ける作家、西村賢太。一方の岩井志麻子は、実質デビュー作にして代表作である『ぼっけえ、きょうてえ』(角川書店)など、ホラー作家としての顔が有名だが、それと並行して、自身の恋愛と性愛を赤裸々に描いた私小説群も多数発表している。2人はなぜ、自身の姿をまるで包み隠さず作品にしてしまうのか? そんな2人であっても書けない"プライベート"は存在するのだろうか? その執筆のウラ側に迫る! ──私小説を数多く書かれるお2人には、身の回りに起きたことはどんなことでも書いてしまうイメージがありますが、自分の中でのタブーといいますか、作品には書けないようなエピソードもやっぱりあるのでしょうか? 西村 僕はまだ全然書けていないですよ。本当に言いたいことや、自分が痛いところには手を付けられていません。例えば、一緒に住んでいた女性との最後とか。僕が悪いんだけど、かなり手ひどい裏切られ方をされて、まだ客観視できない。だからその前段階のことを何度も書き続けているんです。事件を起こした父親についても同じで、ちょっと触れるくらいの卑怯なやり方しかできませんね。 岩井 それはいつか書けるようになる? 西村 父親については多分、彼が死ねば書けるんです。絶対迷惑かからないから。作中でも何度か触れていますが、7年間服役して出所したのが昭和60年頃。それからもう26年もたってるんですよ。それを今さら書くのは申し訳ない気がして、手控えちゃうんです。今はどこに住んでいるかも知りませんし。 ──迷惑をかけてしまうのが不安、ということですか? 西村 哀れみなのかな。平穏なまま死なせてあげたいという。 岩井 ほかのご家族や親戚の方とも、連絡は取っていないんですか? 西村 一切ないんです。 岩井 そうなんですか。芥川賞作家になってテレビにも出てますし、気付いてはいらっしゃるんでしょうけどねぇ。 ──作中で「秋恵」という名前でたびたび描かれる、かつて一緒に暮らしていた女性のお母さんからは、受賞後に連絡があったそうですね。 西村 「おめでとう」と言っていただいて。借金があるので「芥川賞の賞金で払います」とお伝えしたんですけど、まだ返してないです。 岩井 あはははっ! そこは返さないと! 西村 もう5カ月くらいたちますね......もう一度連絡が来たら振り込みます(笑)。 岩井 でも西村さんは体が大きくて丈夫だったから肉体労働で食いつなげましたけど、虚弱体質だったらどうなっていたんでしょうね。 西村 その点はもう、本当に親に感謝です。健康じゃなかったら、小説を書こうなんて思わなかったでしょうし。でも、アレは小さいんですよ。 岩井 なんですと! 西村 それだけは親を恨んでますね......。岩井さんは、コンプレックスはないんですか? 岩井 そりゃもうたくさん。でも今はネタにできるし、武器になってきましたよね。ちなみに私の経験上、チンコのデカい男は怠け者ですよ。小さいほうが働き者。 西村 韓国の方は大きいと聞いたんですけど、本当ですか?
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