インディペンデント・ドリームをかなえた入江悠監督、“ネクスト・ステージ”からの眺めはどうですか?

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夢を追い掛けることのしんどさと諦めるやるせなさの両面を描いた
『SR』シリーズの入江悠監督。北関東三部作を完結させた今の心境を語った。
 日本のインディペンデント映画シーンに新しい伝説を刻み付けた入江悠監督の『SRサイタマノラッパー』シリーズ。映画監督になったもののブレイクできずにいる自分自身のもどかしさをラッパーの姿を借りてブチまけた同シリーズは、地方都市を舞台にしたリアルな青春映画として全国の映画館を熱狂の渦に巻き込んでいった。そして、ついに“SR北関東シリーズ”3部作の完結編となる『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』がDVDとしてリリースされる。DVDのリリース、それは入江監督の手から最終的に『SR』シリーズが離れていくことでもある。『SRサイタマノラッパー』(09)の公開以降、ゼロ年代を代表する最注目監督となった入江監督に、シリーズ最終作に込めた想い、さらに自主映画から商業路線へと活躍の場を広げつつある今の心境について語ってもらった。 ──2009年に池袋シネマ・ロサで封切られた『SRサイタマノラッパー』、続く『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)、そして今年『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』が劇場公開され、北関東3部作が完結。3年間にわたる長い長い祭りが終わったような高揚感と寂しさを感じます。 入江悠監督(以下、入江) そうですねぇ、そう考えると切ないですね。確か3年前、『SRサイタマノラッパー』の公開前に日刊サイゾーで千夏役のみひろさんを取材してもらったんですよね(http://www.cyzo.com/2009/02/post_1488.html)。あの日は、『サイタマノラッパー』が初めてマスコミ取材された日だったんです。あれから、もう3年ですか。
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シリーズ第1作で夢を求めて東京へ出ていった
ブロッコリー農家出身のマイティ(奥野
瑛太)。東京で暴力事件を起こして、栃木
へと流れ着く。
──みひろさんがインタビューに答えているのを、すぐ横で入江監督は不安げに見守っていましたね。3年間は長かった? それともあっという間でした? 入江 やっぱり、この3年間は長かったです。『SR』シリーズと共に走り続けた3年間でした。北海道の夕張から始まって、舞台あいさつで全国をぐるっと回って、バンドのツアーみたいな感じでしたね。ボクの埼玉の実家にみんな泊まり込んで映画の撮影して、それから全国の劇場を回って。次第にメンバーの中から売れてくるヤツが現れて、でもまだ売れないヤツもいて……という。 ──個性の集合体であるバンドって、活動を続けて売れていくうちに方向性やスタンスの違いが生じてきて、解散を余儀なくされますもんね。 入江 そうなんです。ボクたちの場合、そのタイミングが、この『SR3』だったんだと思うんです。シリーズ3作を撮っているうちに、みんな事務所に所属するようになって、仕事がいろいろと回ってくるようになった。作曲家の岩崎太整は大根仁監督のテレビ版&劇場版『モテキ』に参加するようになり、活動の場所を広げていった。これ以上続けると、それまで自由にやってきた『SR』シリーズのスタッフやキャストの足かせになってしまうなと。もちろん、まだまだ『SR』シリーズとしてやりたいことはあるんですけど、インディペンデントの仲間内でやってきたという意味では、『SR3』がちょうどいい区切りになるなと思ったんです。じゃあ、『SR』シリーズでこれまでやり残したことを思い切って全部やってやろうという感じでしたね。 ──『SR1』『SR2』がコメディタッチだったのに対し、『SR3』は思いっきりシリアスな方向にハンドルを切っています。 入江 ボクが飽きっぽい性格だというのが大きいですね(笑)。前2作を同じようなパターンで作っていたので、次は変えたいなと思ったんです。それと『SR1』を作り始めたのは2007年頃だったんですが、その頃に比べて、社会状況がますます悪化していったことも影響を受けているでしょうね。リーマンショックがあり、東日本大震災があり……。 ──社会背景に加え、『SR』シリーズで注目を集めるようになった入江監督自身の立ち位置の変化もあると思います。『SR3』では2つのドラマが交差します。地元に残ってマイペースに自分たちの音楽を追い求めるイック(駒木根隆介)とトム(水澤紳吾)、東京に出て一発勝負してやろうという野心家のマイティ(奥野瑛太)。この相対する2つの立場は、インディペンデント映画シーンとよりメジャーな商業映画路線とのはざまで揺れ動いている、入江監督自身の葛藤なわけですね? 入江 そうなんです。地元に残ってダラダラしているイックとトム、東京に出たものの右往左往してしまうマイティ。どちらもボク自身の分身なんです。イックたちはマイペースで自分たちの好きな音楽を追い求めるけど、でもそこにはある種の限界があるわけです。かといって東京に乗り込んでみても、そこには別のしんどさが待っている。一体、どちらが正解なのか? 自分自身が分からなくなり、それで『SR3』を作ってみたんです。 ──自分では分からないことを、脚本に書き、キャラクターを実際に動かしてみることで解答を探し出そうとしたということですか?
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マイティの同棲相手は、福島出身のぽっちゃり
娘のカズミ(斉藤めぐみ)。入江監督は女優の
知名度よりも、リアリティーにこだわってオー
ディションを重ねた。
入江 その通りです。答えが決まっているものを撮っても、つまらないんです。ロケハンして、脚本を書いて、撮影をすることで、何が自分にとって正解なのかを探っていく。それがボクにとっての映画製作のいちばんのモチベーションなんです。はっきりした答えは出ないかもしれない。でも、ほんの少し、一条の光ぐらいは見えるんじゃないかと。結局、『SR3』を撮り終わっても、何が正解かは分からなかったんです。答えは、そう簡単には見つからないですね(苦笑)。 ■フェスシーンに2,000人を動員、15分間に及ぶ奇蹟の長回し! ──マイティは夢を抱いて上京したものの、昼は解体作業現場での肉体労働、夜は人気ヒップホップグループ“極悪鳥”のパシリというつらい生活。楽屋で暴力事件を起こしたことからマイティは栃木へと流れ、盗難車の転売や違法投棄などの裏ビジネスに従事するように。さらには裏ビジネスの胴元から、参加費をぼったくる詐欺まがいの音楽フェスの企画を命じられる。地方都市のシビアな状況が克明に描かれています。 入江 栃木をはじめ、地方都市は取材でずいぶん回りました。もちろん産廃シーンなどはデフォルメして描いていますが、奴隷同然に労働させられているなど、映画の世界に近いものを感じました。それに地方都市では、ああいう音楽フェスがよく開かれているんです。ヤンキー系の中古車の即売会を、だいたい兼ねているんです。 ──地方で仕事にありつくのは非常に困難。バイトすら、なかなか就くことができない。 入江 就職状況は、すごく厳しいですよね。正社員か正社員じゃないかの違いが、大きな格差を生んでいる。セーフティネットからこぼれ落ちると、もう戻れなくなってしまう。地元で公務員になったボクの同級生は悠々自適な生活を送っているけれど、就職の時点でフリーターの道を選んでしまった知り合いは30歳過ぎてキツい状況に追い込まれていますね。『SR1』を作り始めた頃より、ますます社会状況は厳しくなっている。正社員として就職できずに、一度フリーターになってしまうと、ずっと不安定な生活を送るしかない。敗者復活戦が一度もできない。多分、日本だけじゃなくて、海外でも同じようなことになっていると思うんですけど。 ──そんなマイティの苦悩を知らずに、相変わらず能天気なデブニートのイックが相棒トムと共に栃木へ。イックたちが栃木のヒップホップグループ・征夷大将軍と合流する餃子屋の店長は、名作『いつか読書する日』(05)の緒方明監督。
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『SR』シリーズの顔といえば、デブニート
のイック(駒木根隆介)と相棒トム(水澤
紳吾)。ライブデビューを夢見る2人は皮肉
な形で旧友マイティと再会する。
入江 『SR1』でボクは映画監督協会新人賞を頂いたんですが、緒方さんも『独立少年合唱団』(00)で同じ賞をもらっていて、そういう縁で緒方さんは何かとボクのことを気に掛けてくれていたんです。餃子屋の大将らしいドッシリした存在感のある役者を探したんですが、最近の役者さんはスラッとしたタイプの人が多くて見つからなくて。それで緒方さんにお願いしたところ、衣装とかも自前で準備して参加してくれたんです。 ──緒方監督は、インディペンデント映画史上最高の伝説となっている石井聰亙(現・石井岳龍)監督の『爆裂都市』(82)に助監督として参加したんですよね。あの映画、飲まず食わずの殺伐とした撮影現場だったと聞いています。 入江 えぇ、『爆裂都市』のあのモブシーンを「どうやって撮ったんですか?」と緒方さんに尋ねたんですが、「大変だぞ」「二度とやりたくねぇ」と言ったきり。フェスシーンについての具体的なアドバイスはもらえませんでした(苦笑)。でも、緒方さんはインディペンデント映画出身者だし、すごく日本映画を観ている人。若いスタッフやキャストにとって、刺激的で面白い存在だったと思います。いとうせいこうさんも『SR』シリーズのファンだということで出演してもらいましたけど、フェスシーンじゃなくて序盤の解体作業シーンでマイティを怒る作業員役。顔はほぼ切れてて、上から音楽がかぶって声も聞こえないので、背中だけの出演になっているんです(笑)。 ──贅沢なカメオ出演ですね。あの餃子屋のシーンで、「腐れマンコ野郎!」をはじめ放送禁止用語が飛び交いますね。あれは、「テレビ放映は考えていない。これは劇場用映画だ」という入江監督としての主張でしょうか? 入江 あぁ、確かに言ってますね(笑)。序盤のラップバトルのシーンでも言語障害うんぬんと触れていて、マスコミ関係の仕事をしているキャストの方が「大丈夫?」と心配してくれました。う~ん、なんだったんでしょうね。確か、『SR3』を撮る前にテレビドラマをちょっと撮ったんですけど、そのとき規制があって、使えない台詞があったんです。無意識のうちに、欲求不満が自分の中にたまっていたのかもしれないですね。まぁ、詳しいことは忘れましたけど、『SR』シリーズはせっかくインディペンデント映画として撮るんだから、テレビの制約に縛られずに自由にやろうということだったと思います。テレビ放映されるかどうかより、まず劇場でお客さんに楽しんでもらうことがいちばんですからね。 ──そしてクライマックスのフェス場面は、インディペンデント映画とは思えない、エキストラ2,000人を動員した大迫力シーンに。
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『SR』シリーズは完結したが、「イックと同様、マイティもボクの分身。
ボクがその気になる時がくれば、またマイティが活動を再開することがあるかも」と話す。
入江 『SR1』『SR2』とシリーズとしてやってきたことで、応援してくれる人たちが多かったんです。今までシリーズを観てくれたファンたちがTwitterなどでの呼び掛けに応じて、北海道や九州からも集まってくれた。自分たちでホテルを予約までして。ボランティアでスタッフを務めてくれた人も多かったんですが、2カ月前から準備していたフェスの会場が撮影前日になって豪雨が直撃して、せっかく用意したセットが吹き飛ばされたりして、大変でした。フェスシーンの長回しは、2日間にわたって13テイクぐらい撮ったんです。事前にリハーサルはしっかりしていたんですが、エキストラの動きが入ったことで、カメラワークが本当に難しかった。マイティ役の奥野くんも1カットの中でやることが多すぎて、テンパってました。でも、その緊張感が追い詰められたマイティの心境と重なって良かったんじゃないかな(笑)。あの長回しシーンは、もう一度やれと言われても絶対無理でしょうね。 ──SHO-GUNGとしてライブデビューすることが夢だったイックとトムは、初めてちゃんとした観客がいるステージに。『SR』シリーズのファンにとっては号泣ものの名場面ですが、ステージを正面から撮ったライブ映像は存在しないんですか? 入江 あぁ、それはないですね。DVDの特典によく入っている別アングル、ボクは嫌いなんです。でもメイキング映像を観てもらえば、フェスシーンがどのように撮影されたのか、会場の雰囲気も伝わってくると思いますので、DVDに収録してある特典映像は観てほしいですね。 ──『SR3』の撮影最終日のラストカットは、どのシーンになるんでしょうか? 入江 映画での最後のシーンが、そのままラストカットになってます。撮り終わった瞬間は「やり切ったな」という感慨よりは、本当にファンへの感謝の気持ちでいっぱいでした。彼らの声援があったから『SR』シリーズを続けることができ、特に『SR3』はファンのみなさんの後押しがなければ絶対に完成しませんでしたから。撮影が終わり、打ち上げも済んで、各地から集まったボランティアスタッフたちが帰っていくのを見送ったんですけど、ひとりの方が「いい夏を過ごさせてもらいました。これで自分にも運が回ってくるといいなぁ」と言い残して去っていったのが印象に残っていますね。『SR』シリーズのファンだからSHO-GUNGのライブシーンは誰よりも生で観たかったはずなのに、スタッフの一員としてステージに背を向けてロケ車の誘導などやってくれていたんです。メイキング映像を編集していて、ボクも泣けてきました。 ■人生を味わった上で、まだ肉を叩き続ける『ロッキー・ザ・ファイナル』がいい ──『SR』シリーズを撮り終え、今春はテレビ東京系の深夜ドラマ『クローバー』全12話の演出を担当。1クール全話をひとりの監督が撮るのはまれなケースです。 入江 連続ドラマは普通、3~4人で撮るそうですね。知らなかった(苦笑)。大根監督はひとりで『モテキ』など撮っているから、自分もできるだろうと思ってやったら、すっごく大変でした。後から聞いたんですが、大根監督は『モテキ』のときは予算も自分の会社で持ち出しているそうですね。限られた予算とスケジュールの中で撮るのは、キツかった。もちろん若いキャストを中心にしたアクションものだったので、自由があり楽しくもありました。どの作品でもそうですけど、いろいろと学ぶことはありましたね。 ──入江監督に聞いてみたいことがあるんです。『SR』シリーズって、日本におけるインディペンデント映画版『ロッキー』(77)だと思うんです。シルベスター・スタローンは脚本&主演作『ロッキー』で成功を収め、ハリウッドのスターダムへと駆け上がっていった。日本でインディペンデント・ドリームをかなえた入江監督は、“ネクスト・ステージ”からどんな風景を眺めているのかなぁと。 入江 『SR』は『ロッキー』シリーズですか……。いいですね、『ロッキー・ザ・ファイナル』(07)みたいにジジイになっても、まだ肉を叩いてるぞと。いろいろやったけど、結局そこに戻るのかと(笑)。ボクも『エクスペンダブルズ』(10)みたいな、思いっきりバカな映画を撮ってみたいですね。『SR』シリーズとは別にテレビドラマは何本か撮りましたけど、テレビドラマの現場は予算も時間の余裕もなく、インディペンデント映画の現場とほとんど変わらないんです。それに第一、ボクはまだメジャー映画を1本も撮ってません(苦笑)。「ネクスト・ステージからの眺めは?」と聞かれても、まだ全然見えてない状況なんです。映画館でもファンの方に「これからどうするんですか?」と尋ねられるけど、逆にボクが「どうすればいいと思います?」と聞きたいですね。実は『クローバー』などを撮っていた頃、あまりに忙しくて、他のオファーを断ってしまったんです。ひとつ断ってしまったら、他のオファーも断らないといけなくなってしまって。先方は驚いてました。「なんでこっちの仕事を断って、深夜ドラマをひとりでやってるの」と不思議に思われたみたいです。あまり断っていたら、仕事がなくなってしまい、また生活が厳しいんですよ(苦笑)。 ──急に忙しくなったため、どの仕事を受けるか断るかという仕事選びの基準が定まってないんですね? 入江 そうなんです。他の監督のみなさんはどうやってるんでしょうね? 瀬々敬久監督は『感染列島』(09)などのメジャー作品を撮ったかと思えば、その直後に『ヘヴンズ ストーリー』(10)みたいなインディペンデント映画を撮ってますよね。廣木隆一監督もインディペンデント映画出身で、『余命1ヶ月の花嫁』(09)みたいなメジャー作品も撮っている。できれば、そういう先輩方に一度じっくりお話を聞きたいなと思ってるところなんです。脚本は、いくつか書いているところです。『SR3』を撮り終えてから1年たってしまったので、早く次の映画を撮りたいですね。 ──メジャー映画では、『SR』シリーズのような1シーン1カットの長回しは難しいですよね。どういうスタイルでメジャーシーンに挑んでいくのか、気になります。 入江 商業映画では、長回しは基本無理ですね。撮影スケジュールが決まっているから、じっくり時間をかけて、撮り直しながら1シーン1カットずつ撮ることはできないでしょう。自分のスタイルについては迷走中です(苦笑)。でもボクとしては、“入江スタイル”とかは、なくて構わないと思っているんです。極論としては「すっげぇ面白い映画があるぞ」と思ってもらえれば、それでいいんです。別に入江スタイルでなくてもいい。内容に手法が合っていれば、トニー・スコット監督みたいな短いカット割りでもいいと思ってます。長回しに対するこだわりはないんです。あるとすれば、面白い映画が撮りたいということですね。 ──では、最後に、『SR』シリーズのファンにひと言お願いします! 入江 ほんと『SR』シリーズは、ファンのみなさんのおかげで続けることのできた作品です。ファンの熱意で作られた『SR』シリーズの熱気が、また別の方に伝わるといいなと思ってます。『SR3』は、DVDのメイキング映像もぜひ観てください。 (取材・文=長野辰次) ●『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 脚本・編集・監督/入江悠 出演/奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、斉藤めぐみ、北村昭博、永澤俊矢、ガンビーノ小林、美保純 11月21日(水)DVDリリース。発売元/アミューズソフト、メモリーテック 販売元/アミューズソフト DVD特典映像には入江監督編集による激闘メイキング、怒涛の舞台挨拶、極悪鳥PV、ムジコロジー体操(入江悠監督)、特報・予告編を収録。価格/3990円(税込) <http://sr-movie.com> ※ 11月22日(木)には、タワーレコード新宿7Fイベントスペースにて、DVD発売記念イベントを19時30分より開催。入江監督、奥野瑛太(マイティ)、駒木根隆介(イック)、水澤紳吾(トム)、上鈴木伯周(TKD先輩)らが出演予定。 ●いりえ・ゆう 1979年神奈川県生まれ、埼玉県育ち。日本大学芸術学部映画学科卒業。『ジャポニカ・ウイルス』(06)で監督デビューを果たすが、地方の映画祭で上映した際に質疑応答の場で観客から吊るし上げ状態となり、このときの体験が『SRサイタマノラッパー』(09)での公民館ライブとして生かされている。『SRサイタマノラッパー』は「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009」オフシアター部門グランプリ、「富川国際ファンタスティック映画祭」最優秀アジア映画賞を受賞。池袋シネマ・ロサで封切られ、インディペンデント映画として異例の大ロングラン快進撃を果たした。続いて『SRサイタマノラッパー2女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)、二階堂ふみらをキャスティングした『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)と立て続けに劇場公開。11年にオンエアされたWOWOWドラマ『同期』も好評を博した。12年4~6月に放映された青春ドラマ『クローバー』(テレビ東京系)が現在DVDリリース中。WOWOWで13年放映予定の『ネオ・ウルトラQ』を監督することが発表されている。また、10月から始まったTOKYO FMのトーク番組『入江悠の追い越し車線で失礼します』(毎週日曜20時30分~)のパーソナリティーを務めている。

「ぬるま湯もウソではないけれど――」入江悠監督『SR3』が叫んだボンクラたちの夢の後先

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『SR』シリーズの大ファンで『SR』イベントにゲスト出演したこともある小明さん。
インタビュー後半には入江監督に意外な要求も……!?
 『SR サイタマノラッパー』シリーズが大好き! そして入江監督も大好き! ということで、己のアイドル特権をフルに活用し、入江悠監督にお話をうかがってきました! アイドル10年もやってて良かったー!! ――お久しぶりです! 唐突ですが、監督は事務所に入ってるんですね、アイドルの私も入っていないというのに。事務所に入って、何か変わりましたか? 入江悠監督(以下、入江) 『SR2』の公開ぐらいに入ったんですけど、とくに変わったことは……。あ、こないだドラマの撮影をしていて病院に行く暇がなかったときに、“飲む点滴”っていうのを差し入れてもらえるようになりましたね。 ――飲む点滴? それってシャ……いや、それ飲むとしばらく献血に行けなくなるとか言われませんでした? 入江 それ、本気のやつじゃないですか(笑)。ちゃんとした病院でもらえる薬です。 ――ドラマの撮影は忙しすぎて、眼球が炎症を起こしたそうですね。『SR』でも、出演者のトム(水澤紳吾)さんのシワが増えたり、イック(駒木根隆介)が太ったり、今回の『SR3』の主役のマイティ(奥野瑛太)も円形脱毛症になったそうで、撮影の過酷さが伝わってきます……。けど、『SR』シリーズも有名になって、埼玉の人たちもうれしいと思いますよ! 入江 それが、埼玉で上映してもぜんぜんお客さんが入らなかったんですよ。以前、浦和のシネコンで上映したとき、みんな吸い込まれるように『踊る大捜査線』とかに入って行っちゃって……。 ――……。でも、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』、すごく良かったです。SHO-GUNGのイックとトムを捨てて東京に行って転落したマイティのやりきれなさ、号泣しながら何度も見ました。あと、マイティのシーンが壮絶なだけに、相変わらずのんきなイックとトムが出てくるとホッとしました。あいつらどうやって生活してるんだ……。 入江 イックとトムはどんどん生活感がなくなっていきますからね。“ラップの妖精”みたいな感じです。あの2人がいなかったら、ものすごくハードになっちゃいますよね、映画もマイティの人生も。 ――『SR3』は今までと趣向を変えて、バイオレンスな方向にいったのはなぜですか? 入江 東映の深作欣二監督の映画が好きで、『仁義なき戦い』とか、ああいうのをやりたいって思っていたから。それに震災以降、いろんなことが剥き出しになったじゃないですか。生きるか死ぬか、いろいろリアルになった。今までの、コタツの中にいるみたいな、ぬるま湯もウソではないけど、もう『SR』シリーズを始めた2009年とは変わってきちゃったんじゃないかな。 IMG_7282_.jpg ――確かにそうですね。『SR2』が群馬のくすぶってる女の子たちに火をつけにいく話だったので、てっきり今回も栃木でそうだろうと思っていたら、主役がまさかのマイティで驚きました。 入江 よぼよぼのお爺さんラッパーとか、ガキんちょラッパーとか、いろいろ考えたんですけど、どっちも撮るのが大変だな、と思って(笑)。 ――栃木、老人だけはいっぱいいますからね……。最近、千葉にあった私の実家が母親の実家近くの栃木に移ったんですけど、母が「千葉ではお婆ちゃん扱いだったけど、栃木だと若者扱いになった」って喜んでました。 入江 そんなに格差が!? ――行ってみたら、確かに市内にいる人間が母よりも年上の、それこそ腰が曲がった方と、たまにその息子夫婦+孫、みたいな感じで……。でも、さすがにあんなにモヒカンだらけの労働者の集う修羅の街ではなかったですよ! 監督、栃木にどんな印象を持っているんですか? 入江 世紀末(笑)。いや、うちの父親も宇都宮出身なんですよ。『北斗の拳』みたいなのがいっぱいいる、殺伐とした街として栃木を描いちゃいましたけど、本当に若い人は昼いないですよね。栃木も全域を回って日光のほうまで行ったんですけど……あ、佐野にはいます。でっかいショッピングモールがあるんで。 ――ああー、行ったことがあります。佐野に限らず、地元のデカいショッピングモールに行くと、必ず同級生が家族連れで来ていたりして……。丸腰でいくと精神的に大けがをする、鬱スポットのひとつです。しかしながら、そんな土地で、よくあのフェスシーンを完成させましたね、インディペンデント映画なのに、出演者が2,000人超えなんてあり得ない! 入江 エキストラさんはみんな自腹で来てくれて、北海道から来てくれている人もいて、そういう人に助けられました。 ――それだけ規模が大きくなったのに、セリフには放送禁止用語がたくさん出てきて……。監督は、これがテレビで流れることなんか考えていないんだなと思いました。
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(c)2012「SR3」製作委員会
入江 なんか、『踊る大捜査線』のときのトラウマで。逆をいってやろうと思って……。 ――(笑)。でも、インディペンデントじゃなくても、予算がなくてエキストラを呼べないってこともけっこうありますよね。たとえばゾンビ映画なら、ラストでゾンビがワーって集まって主人公が襲われるシーンなのに、ゾンビが超少ないとかよくありますもん。監督はメジャーでもできないことをインディペンデントでやってのける。かっこいいです。 入江 そうですね。今回の『SR3』でやりたいことは全部やってやろうと思ってたし、とりあえず、今回でこのシリーズは区切ろうと思ってます。一応、海のない北関東は。 ――なんで!? 私が育った千葉だって充分ダサいですよ! 千葉にも来てくださいよ! 入江 だって、千葉だとディズニーとかまであるんですよ? ――ぐぬぬ……。でも、本当にやってほしい県はいっぱいあるんですよ。シリーズが終わるのは寂しいです。 入江 じゃあ、サイズダウンして、千葉とか神奈川とか茨城とか、興味ないところを5分ぐらいでバババっとYouTubeで……。 ――あからさまに興味ないじゃないですか……。ところで先日、「映画秘宝」(洋泉社)で『SR』シリーズファンの座談会をしたんです。その際に、小説版が面白いと聞き、恥ずかしながら今さら読んだんですけど、いやぁ面白いですね。とくにイックとトムの学生時代の話が最高でした! 文庫化もされるそうで、印税が楽しみなんじゃないですか(いやらしい笑み)? 入江 いや、すごい頑張って1年がかりで書いたんですけど、書き込みすぎて想定よりもかなり分厚くなっちゃって、手に取りにくくなったんですよ。そのせいか、全然売れてないし……。せっかく表紙も『デトロイト・メタル・シティ』の若杉公徳さんが描いてくださったのに。 ――そうなんですか……。でも、映画では描かれなかったイックたちの陰鬱な高校時代の話は本当に素晴らしかったです。勉強ができなくてグレる気力もないけど性欲だけは余ってる、みたいなリアルさ。監督がどんな学生時代を送られたのか興味津々です。 sr32s.jpg 入江 僕は、中学はもう動物園みたいなところで、高校は男子校です。平和というか「週刊少年ジャンプ」みたいな生活ですよね。ステイタス持っているやつが偉い。基本、ぼんくらでした。 ――男子校ですか。そういえば以前、『SR』のイベントのゲストに呼んでいただいた際、『SR2』の女の子たちが「こっちは仲良くやりたいと思ってるのに、監督やイックたちはいつも男子だけでキャッキャやってて入る余地がない」と言っていましたね。 入江 そうなんですよ。男子校出身なんで、女子と距離をつめるのが苦手なんです。大人になっても全然苦手です。小説ではイックの高校は共学なんですけど、それも全部妄想。同じ教室で女子と席が並んでいるとか、想像もできないですからね。中学の頃の記憶をかろうじて思い出しながら書きました。 ――イックは女子に対する警戒心も半端ないですよね。ひょんなことから仲良くなったスクールカースト上位の小暮千夏(みひろ)に対する「お前の完璧な自己演出の手段になってたまるか」みたいな捻くれた受け取り方がすごい(笑)。 入江 「こんな子が俺のところに来るわけない」ってやつね。 ――映画の長回しのシーンのふとした間とか、俳優の呼吸と呼吸の間にはこんなに色んな葛藤があったのか、と驚きました。 入江 故・川勝正幸さんに「イックってこんなIQ高かったんだ!」って言われて。それも、まぁ、小説で書いていたら、つい自分のこととリンクしてきちゃってね……。 ――やっぱり、イックはご自分がモデルなんですか? 入江 そうなんです。自分も基本的にインドアで、イックの部屋は自分の部屋ですからね。一応、自分のぼんくらな部分を書いているんですけど、書き込んでいるうちにどんどんその部分を追求したくなっちゃって……。そんなところに熱くなっちゃってるから、分厚くなっちゃうんですよね(笑)。 ――読んでからまた映画を見ると、二度三度と楽しめて良かったです! イックが高校を卒業してから音楽の専門学校に行ったように、監督も大学時代に映画の勉強を始められたんですよね。そこで初めて東京に? sr34s.jpg 入江 そうです。でも、日大の芸術学部が所沢で……。なぜかいつも池袋でUターンしなければならない。東京に出るために大学行ったのに。 ――(笑)。ちなみに、以前ブログに「映画を見せようと努力すればするほど貧乏になる」と書いていましたが、宣伝に行くときは基本的に自腹なんですか? 入江 そう。乗り合いで新潟まで行ったり、北海道まで飛行機で自腹で行っていましたね。最初は旅行気分で楽しかったんですよ。Tシャツとか持って行って物販もやって、なんとかメシ代ぐらいを稼いで、みたいな。札幌では、イックとマイティはパチスロで帰りの交通費とか稼いでましたよ。ろくでなしですよね。 ――そうでもしないと帰れないから(笑)。インディペンデント映画は制作側も出演者側も、想像以上にハードなんですね……。 入江 でも、その札幌で、マイティがそれまでにないぐらいパチスロに大当たりして、人生初の風俗に行ったらしいんです。そしたら、出てきたのがイックみたいな女だったっていう(笑)。 ――そこは『SR』愛で、ぜひチェンジなしでいってほしいですよね! 入江 ね(笑)。そういうことやっていると、赤字になっていくんですよ。 ――あはは! でも、監督みたいな人がお金がなくて映画を撮れないっていう状況がファンとしてはいちばん辛いので、『SR3』は絶対にたくさんの方に見に来てほしいところです。 入江 『SR2』から、もう1年以上空いちゃったんでね。もうちょっと間隔を空けずにやっていかないと、トムさんの老い感が(笑)。もう、あんまりアップが撮れなくなってきたんですよ。早くしないとやばい。あの人、俳優としての欲がないんですよ。カメラに写りたいとかいう気持ちもなくなってきたみたいで、着替えもゴミ袋に入れて持ち運びしていますからね。 ――すごいいい俳優さんなのに、なぜそんなことに……。ちなみに、監督は『SR1』を撮った際に、「この映画が当たらなかったら監督を辞めよう」と思っていたそうですが、その時、監督は29歳ですよね。まだ若いじゃないですか。どうして辞めようと思われたんですか? 入江 僕、19歳のときに映画を勉強しようと思って、東京に……っていうか所沢に出てきて、そこからちょうど10年経つ時期だったんです。10年ってひとつの区切りじゃないですか。映画って、文筆と違って、あんまり晩年でデビューとかってないんですよね。感覚的なセンスもあるし、29歳ぐらいがいろいろ考える節目だろうな、と思っていて。 IMG_7289_.jpg ――監督は劇団も立ち上げていらっしゃいますけど、劇団の人も30歳前後で一気に人数が減っていきますよね。みんな、やりたいことか現実とか、プレッシャーとか家族の事情に挟まれて、だいたいそのあたりでフェードアウトしていく。私は今アラサーで、売れないアイドルも10年目になってるんですけど、もう挟まれすぎて苦しいですもん。完全に節目が来てます。 入江 おお、そうなんですね、すごいですね。 ――最近CDなどを出し始めたので、これでまたしばらくアイドルを名乗ってやろうと思ってるんですが、なにぶん知名度もありませんし……。でも『SR3』で、どん底にいながら叫び続けるマイティを見たら、ついつられて「私はまだアイドルを続けるぞ!」みたいな気持ちになっちゃって……どんどん辞めるタイミングを失っていくんですよ、売れてもないのに。これはもう責任問題だと思うんですよ。だから、もう、ちょっと、嫁に、嫁……。 入江 ああ、嫁に行くか、アイドルを続けるか、みたいな? ――いや、ちょっと監督の嫁に……監督が嫁にもらっ……えーと……(赤面)。 入江 いやぁ、でも10年続けるってすごいですよ。アイドルとして、「これをやりたい!」みたいなものはあるんですか? ――話をそらされた……? いや、明確な目標はそんなにないんですけど、続けているといいことがあるじゃないですか。イックとトムが寅さんみたいに旅をしながらいろんな人に出会うように、私もアイドルライターというのを続けていると、その道すがらでこうして入江監督と会えたり、辞めていたら絶対に不可能だったうれしいことがある。だから続けてる感じです。続けるって大事ですよね。 入江 そうね。ただ、イックとトムは、とにかく食べたり歩いたりしているだけですけどもね。マイティは一度辞めちゃうけど、イックたちは1と2の後にリセットボタン押されて、全部忘れて戻ってくるから(笑)。 ――そういうの、憧れます。けど、どこかで折り合いをつけたり、新しい生き方を見つけて辞めていった人たちも自分が持ってない幸せを持っているし、辞めることと続けること、どっちが正解なのか全然わかりません。監督はどう思いますか? 入江 全然わからなくて。僕も撮りながらも答えが出なくて、折り合いがつけられなくて、だからああいう終わり方になっているんです。だけど、映画を通して伝えたいことっていうのは、やっぱり“続ける”っていうことですね。まぁ難しいし、悪いこともあるんだけど、やっぱり続けてほしいですよね。  * * *  と、映画について熱く語ってくださる監督の話を赤面しながら聞き、頷きながらも随所随所で「嫁にしてくれ」というアピールを挟みましたが、すべてスルーされました。さらに、そのインタビュー後の道すがら、編集さんが宣伝の方に「すみません、次はちゃんとした映画ライターを呼びますので」と謝っているのも聞きました。しかしながら、監督のおっしゃるようにすべては“続ける”こと。言い続けていれば、きっといつか嫁にもらってくれることでしょう。どんどん立場が厳しくなってまいりますが、私もまだまだあきらめない! SHO-GUNGよろしく伸びるグンググーン! (取材・文=小明) ●『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 監督・脚本・編集/入江悠 出演/奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、斉藤めぐみ、北村昭博、永澤俊矢、ガンビーノ小林、美保純 配給/SPOTTED PRODUCTIONS 4月14日(土)より渋谷シネクイントほかにて全国順次ロードショー、4月21日(土)より渋谷シネクイントほかにて『SR』シリーズ全作上映 <http://sr-movie.com> (c)2012「SR3」製作委員会 ●いりえ・ゆう 1979年生まれ。幼少期から19歳までを過ごした埼玉県深谷市を舞台にした『SR サイタマノラッパー』で2009年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門グランプリを受賞しブレイク。『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』など意欲的に作品を発表し続け、インディーズとメジャーの枠を超えた活躍で業界内外の注目を集めている。 ●あかり 1985年生まれ。1985年栃木県生まれ。2002年史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。著作に『アイドル墜落日記』(洋泉社)。 ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/> サイゾーテレビ<http://ch.nicovideo.jp/channel/ch3120>にて生トーク番組『小明の副作用』(隔週木曜)出演中 ニューシングル「君が笑う、それが僕のしあわせ」発売中。<http://www.cyzo.com/akr/

「ぬるま湯もウソではないけれど――」入江悠監督『SR3』が叫んだボンクラたちの夢の後先

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『SR』シリーズの大ファンで『SR』イベントにゲスト出演したこともある小明さん。
インタビュー後半には入江監督に意外な要求も……!?
 『SR サイタマノラッパー』シリーズが大好き! そして入江監督も大好き! ということで、己のアイドル特権をフルに活用し、入江悠監督にお話をうかがってきました! アイドル10年もやってて良かったー!! ――お久しぶりです! 唐突ですが、監督は事務所に入ってるんですね、アイドルの私も入っていないというのに。事務所に入って、何か変わりましたか? 入江悠監督(以下、入江) 『SR2』の公開ぐらいに入ったんですけど、とくに変わったことは……。あ、こないだドラマの撮影をしていて病院に行く暇がなかったときに、“飲む点滴”っていうのを差し入れてもらえるようになりましたね。 ――飲む点滴? それってシャ……いや、それ飲むとしばらく献血に行けなくなるとか言われませんでした? 入江 それ、本気のやつじゃないですか(笑)。ちゃんとした病院でもらえる薬です。 ――ドラマの撮影は忙しすぎて、眼球が炎症を起こしたそうですね。『SR』でも、出演者のトム(水澤紳吾)さんのシワが増えたり、イック(駒木根隆介)が太ったり、今回の『SR3』の主役のマイティ(奥野瑛太)も円形脱毛症になったそうで、撮影の過酷さが伝わってきます……。けど、『SR』シリーズも有名になって、埼玉の人たちもうれしいと思いますよ! 入江 それが、埼玉で上映してもぜんぜんお客さんが入らなかったんですよ。以前、浦和のシネコンで上映したとき、みんな吸い込まれるように『踊る大捜査線』とかに入って行っちゃって……。 ――……。でも、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』、すごく良かったです。SHO-GUNGのイックとトムを捨てて東京に行って転落したマイティのやりきれなさ、号泣しながら何度も見ました。あと、マイティのシーンが壮絶なだけに、相変わらずのんきなイックとトムが出てくるとホッとしました。あいつらどうやって生活してるんだ……。 入江 イックとトムはどんどん生活感がなくなっていきますからね。“ラップの妖精”みたいな感じです。あの2人がいなかったら、ものすごくハードになっちゃいますよね、映画もマイティの人生も。 ――『SR3』は今までと趣向を変えて、バイオレンスな方向にいったのはなぜですか? 入江 東映の深作欣二監督の映画が好きで、『仁義なき戦い』とか、ああいうのをやりたいって思っていたから。それに震災以降、いろんなことが剥き出しになったじゃないですか。生きるか死ぬか、いろいろリアルになった。今までの、コタツの中にいるみたいな、ぬるま湯もウソではないけど、もう『SR』シリーズを始めた2009年とは変わってきちゃったんじゃないかな。 IMG_7282_.jpg ――確かにそうですね。『SR2』が群馬のくすぶってる女の子たちに火をつけにいく話だったので、てっきり今回も栃木でそうだろうと思っていたら、主役がまさかのマイティで驚きました。 入江 よぼよぼのお爺さんラッパーとか、ガキんちょラッパーとか、いろいろ考えたんですけど、どっちも撮るのが大変だな、と思って(笑)。 ――栃木、老人だけはいっぱいいますからね……。最近、千葉にあった私の実家が母親の実家近くの栃木に移ったんですけど、母が「千葉ではお婆ちゃん扱いだったけど、栃木だと若者扱いになった」って喜んでました。 入江 そんなに格差が!? ――行ってみたら、確かに市内にいる人間が母よりも年上の、それこそ腰が曲がった方と、たまにその息子夫婦+孫、みたいな感じで……。でも、さすがにあんなにモヒカンだらけの労働者の集う修羅の街ではなかったですよ! 監督、栃木にどんな印象を持っているんですか? 入江 世紀末(笑)。いや、うちの父親も宇都宮出身なんですよ。『北斗の拳』みたいなのがいっぱいいる、殺伐とした街として栃木を描いちゃいましたけど、本当に若い人は昼いないですよね。栃木も全域を回って日光のほうまで行ったんですけど……あ、佐野にはいます。でっかいショッピングモールがあるんで。 ――ああー、行ったことがあります。佐野に限らず、地元のデカいショッピングモールに行くと、必ず同級生が家族連れで来ていたりして……。丸腰でいくと精神的に大けがをする、鬱スポットのひとつです。しかしながら、そんな土地で、よくあのフェスシーンを完成させましたね、インディペンデント映画なのに、出演者が2,000人超えなんてあり得ない! 入江 エキストラさんはみんな自腹で来てくれて、北海道から来てくれている人もいて、そういう人に助けられました。 ――それだけ規模が大きくなったのに、セリフには放送禁止用語がたくさん出てきて……。監督は、これがテレビで流れることなんか考えていないんだなと思いました。
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(c)2012「SR3」製作委員会
入江 なんか、『踊る大捜査線』のときのトラウマで。逆をいってやろうと思って……。 ――(笑)。でも、インディペンデントじゃなくても、予算がなくてエキストラを呼べないってこともけっこうありますよね。たとえばゾンビ映画なら、ラストでゾンビがワーって集まって主人公が襲われるシーンなのに、ゾンビが超少ないとかよくありますもん。監督はメジャーでもできないことをインディペンデントでやってのける。かっこいいです。 入江 そうですね。今回の『SR3』でやりたいことは全部やってやろうと思ってたし、とりあえず、今回でこのシリーズは区切ろうと思ってます。一応、海のない北関東は。 ――なんで!? 私が育った千葉だって充分ダサいですよ! 千葉にも来てくださいよ! 入江 だって、千葉だとディズニーとかまであるんですよ? ――ぐぬぬ……。でも、本当にやってほしい県はいっぱいあるんですよ。シリーズが終わるのは寂しいです。 入江 じゃあ、サイズダウンして、千葉とか神奈川とか茨城とか、興味ないところを5分ぐらいでバババっとYouTubeで……。 ――あからさまに興味ないじゃないですか……。ところで先日、「映画秘宝」(洋泉社)で『SR』シリーズファンの座談会をしたんです。その際に、小説版が面白いと聞き、恥ずかしながら今さら読んだんですけど、いやぁ面白いですね。とくにイックとトムの学生時代の話が最高でした! 文庫化もされるそうで、印税が楽しみなんじゃないですか(いやらしい笑み)? 入江 いや、すごい頑張って1年がかりで書いたんですけど、書き込みすぎて想定よりもかなり分厚くなっちゃって、手に取りにくくなったんですよ。そのせいか、全然売れてないし……。せっかく表紙も『デトロイト・メタル・シティ』の若杉公徳さんが描いてくださったのに。 ――そうなんですか……。でも、映画では描かれなかったイックたちの陰鬱な高校時代の話は本当に素晴らしかったです。勉強ができなくてグレる気力もないけど性欲だけは余ってる、みたいなリアルさ。監督がどんな学生時代を送られたのか興味津々です。 sr32s.jpg 入江 僕は、中学はもう動物園みたいなところで、高校は男子校です。平和というか「週刊少年ジャンプ」みたいな生活ですよね。ステイタス持っているやつが偉い。基本、ぼんくらでした。 ――男子校ですか。そういえば以前、『SR』のイベントのゲストに呼んでいただいた際、『SR2』の女の子たちが「こっちは仲良くやりたいと思ってるのに、監督やイックたちはいつも男子だけでキャッキャやってて入る余地がない」と言っていましたね。 入江 そうなんですよ。男子校出身なんで、女子と距離をつめるのが苦手なんです。大人になっても全然苦手です。小説ではイックの高校は共学なんですけど、それも全部妄想。同じ教室で女子と席が並んでいるとか、想像もできないですからね。中学の頃の記憶をかろうじて思い出しながら書きました。 ――イックは女子に対する警戒心も半端ないですよね。ひょんなことから仲良くなったスクールカースト上位の小暮千夏(みひろ)に対する「お前の完璧な自己演出の手段になってたまるか」みたいな捻くれた受け取り方がすごい(笑)。 入江 「こんな子が俺のところに来るわけない」ってやつね。 ――映画の長回しのシーンのふとした間とか、俳優の呼吸と呼吸の間にはこんなに色んな葛藤があったのか、と驚きました。 入江 故・川勝正幸さんに「イックってこんなIQ高かったんだ!」って言われて。それも、まぁ、小説で書いていたら、つい自分のこととリンクしてきちゃってね……。 ――やっぱり、イックはご自分がモデルなんですか? 入江 そうなんです。自分も基本的にインドアで、イックの部屋は自分の部屋ですからね。一応、自分のぼんくらな部分を書いているんですけど、書き込んでいるうちにどんどんその部分を追求したくなっちゃって……。そんなところに熱くなっちゃってるから、分厚くなっちゃうんですよね(笑)。 ――読んでからまた映画を見ると、二度三度と楽しめて良かったです! イックが高校を卒業してから音楽の専門学校に行ったように、監督も大学時代に映画の勉強を始められたんですよね。そこで初めて東京に? sr34s.jpg 入江 そうです。でも、日大の芸術学部が所沢で……。なぜかいつも池袋でUターンしなければならない。東京に出るために大学行ったのに。 ――(笑)。ちなみに、以前ブログに「映画を見せようと努力すればするほど貧乏になる」と書いていましたが、宣伝に行くときは基本的に自腹なんですか? 入江 そう。乗り合いで新潟まで行ったり、北海道まで飛行機で自腹で行っていましたね。最初は旅行気分で楽しかったんですよ。Tシャツとか持って行って物販もやって、なんとかメシ代ぐらいを稼いで、みたいな。札幌では、イックとマイティはパチスロで帰りの交通費とか稼いでましたよ。ろくでなしですよね。 ――そうでもしないと帰れないから(笑)。インディペンデント映画は制作側も出演者側も、想像以上にハードなんですね……。 入江 でも、その札幌で、マイティがそれまでにないぐらいパチスロに大当たりして、人生初の風俗に行ったらしいんです。そしたら、出てきたのがイックみたいな女だったっていう(笑)。 ――そこは『SR』愛で、ぜひチェンジなしでいってほしいですよね! 入江 ね(笑)。そういうことやっていると、赤字になっていくんですよ。 ――あはは! でも、監督みたいな人がお金がなくて映画を撮れないっていう状況がファンとしてはいちばん辛いので、『SR3』は絶対にたくさんの方に見に来てほしいところです。 入江 『SR2』から、もう1年以上空いちゃったんでね。もうちょっと間隔を空けずにやっていかないと、トムさんの老い感が(笑)。もう、あんまりアップが撮れなくなってきたんですよ。早くしないとやばい。あの人、俳優としての欲がないんですよ。カメラに写りたいとかいう気持ちもなくなってきたみたいで、着替えもゴミ袋に入れて持ち運びしていますからね。 ――すごいいい俳優さんなのに、なぜそんなことに……。ちなみに、監督は『SR1』を撮った際に、「この映画が当たらなかったら監督を辞めよう」と思っていたそうですが、その時、監督は29歳ですよね。まだ若いじゃないですか。どうして辞めようと思われたんですか? 入江 僕、19歳のときに映画を勉強しようと思って、東京に……っていうか所沢に出てきて、そこからちょうど10年経つ時期だったんです。10年ってひとつの区切りじゃないですか。映画って、文筆と違って、あんまり晩年でデビューとかってないんですよね。感覚的なセンスもあるし、29歳ぐらいがいろいろ考える節目だろうな、と思っていて。 IMG_7289_.jpg ――監督は劇団も立ち上げていらっしゃいますけど、劇団の人も30歳前後で一気に人数が減っていきますよね。みんな、やりたいことか現実とか、プレッシャーとか家族の事情に挟まれて、だいたいそのあたりでフェードアウトしていく。私は今アラサーで、売れないアイドルも10年目になってるんですけど、もう挟まれすぎて苦しいですもん。完全に節目が来てます。 入江 おお、そうなんですね、すごいですね。 ――最近CDなどを出し始めたので、これでまたしばらくアイドルを名乗ってやろうと思ってるんですが、なにぶん知名度もありませんし……。でも『SR3』で、どん底にいながら叫び続けるマイティを見たら、ついつられて「私はまだアイドルを続けるぞ!」みたいな気持ちになっちゃって……どんどん辞めるタイミングを失っていくんですよ、売れてもないのに。これはもう責任問題だと思うんですよ。だから、もう、ちょっと、嫁に、嫁……。 入江 ああ、嫁に行くか、アイドルを続けるか、みたいな? ――いや、ちょっと監督の嫁に……監督が嫁にもらっ……えーと……(赤面)。 入江 いやぁ、でも10年続けるってすごいですよ。アイドルとして、「これをやりたい!」みたいなものはあるんですか? ――話をそらされた……? いや、明確な目標はそんなにないんですけど、続けているといいことがあるじゃないですか。イックとトムが寅さんみたいに旅をしながらいろんな人に出会うように、私もアイドルライターというのを続けていると、その道すがらでこうして入江監督と会えたり、辞めていたら絶対に不可能だったうれしいことがある。だから続けてる感じです。続けるって大事ですよね。 入江 そうね。ただ、イックとトムは、とにかく食べたり歩いたりしているだけですけどもね。マイティは一度辞めちゃうけど、イックたちは1と2の後にリセットボタン押されて、全部忘れて戻ってくるから(笑)。 ――そういうの、憧れます。けど、どこかで折り合いをつけたり、新しい生き方を見つけて辞めていった人たちも自分が持ってない幸せを持っているし、辞めることと続けること、どっちが正解なのか全然わかりません。監督はどう思いますか? 入江 全然わからなくて。僕も撮りながらも答えが出なくて、折り合いがつけられなくて、だからああいう終わり方になっているんです。だけど、映画を通して伝えたいことっていうのは、やっぱり“続ける”っていうことですね。まぁ難しいし、悪いこともあるんだけど、やっぱり続けてほしいですよね。  * * *  と、映画について熱く語ってくださる監督の話を赤面しながら聞き、頷きながらも随所随所で「嫁にしてくれ」というアピールを挟みましたが、すべてスルーされました。さらに、そのインタビュー後の道すがら、編集さんが宣伝の方に「すみません、次はちゃんとした映画ライターを呼びますので」と謝っているのも聞きました。しかしながら、監督のおっしゃるようにすべては“続ける”こと。言い続けていれば、きっといつか嫁にもらってくれることでしょう。どんどん立場が厳しくなってまいりますが、私もまだまだあきらめない! SHO-GUNGよろしく伸びるグンググーン! (取材・文=小明) ●『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 監督・脚本・編集/入江悠 出演/奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、斉藤めぐみ、北村昭博、永澤俊矢、ガンビーノ小林、美保純 配給/SPOTTED PRODUCTIONS 4月14日(土)より渋谷シネクイントほかにて全国順次ロードショー、4月21日(土)より渋谷シネクイントほかにて『SR』シリーズ全作上映 <http://sr-movie.com> (c)2012「SR3」製作委員会 ●いりえ・ゆう 1979年生まれ。幼少期から19歳までを過ごした埼玉県深谷市を舞台にした『SR サイタマノラッパー』で2009年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門グランプリを受賞しブレイク。『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』など意欲的に作品を発表し続け、インディーズとメジャーの枠を超えた活躍で業界内外の注目を集めている。 ●あかり 1985年生まれ。1985年栃木県生まれ。2002年史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。著作に『アイドル墜落日記』(洋泉社)。 ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/> サイゾーテレビ<http://ch.nicovideo.jp/channel/ch3120>にて生トーク番組『小明の副作用』(隔週木曜)出演中 ニューシングル「君が笑う、それが僕のしあわせ」発売中。<http://www.cyzo.com/akr/

若手映像作家・入江悠監督の覚悟「メジャーでやれないことをやる」

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注目度No.1の若手映像作家・入江悠監督。言葉にできない感情や
想いをラップで叩き付けた『SR』シリーズでブレイクを果たした。
 地方都市でくすぶる若者の生の叫びが炸裂した『SRサイタマノラッパー』(09)のヒットで一躍、新世代映像クリエイターの旗手に躍り出た入江悠監督。故郷・埼玉に続いて群馬を舞台にした北関東シリーズ第2弾『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』が、劇場での1年近いロングラン上映を経て待望のDVDリリースされる運びとなった。今年4月に封切られた『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールが鳴り止まないっ』も現在絶賛公開中だ。『SR』シリーズのヒットで、入江監督を取り巻く製作環境は果たして変わったのか? それとも変わっていないのか? ――入江監督は埼玉県深谷市育ち。大学浪人中は東京ではなく、群馬の予備校に通ったそうですね。 入江悠監督(以下、入江) そうです。深谷から上り線に乗って東京や大宮に行くよりも、下り線に乗って群馬に行くほうが楽だったんです。それに満員電車に乗りたくなかった。でも群馬の予備校も、半年でドロップアウトしましたけど(苦笑)。 ――東京への"距離"を感じていた? 入江 単純に人混みが嫌いだったんです。高校は私服だったんで東京には服を買いにはよく出てたんですけど、予備校行くのにわざわざ東京に通いたくなかった。生理的にダメというか、東京があまり好きじゃなかった。大学も本当は東京ではなく、関西の大学に進みたかったんです。横浜で生まれて、3歳から深谷で過ごしてきたので、大学4年間は関西で過ごしてみたいなと考えていたんですけどね。
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「生活に根づいた女性の美しさを撮りたかっ
た」という入江監督。女優陣の魅力を独特の
長回しで引き出している。
――ニート男の切ない叫びが耳にこだました『SR1』から一転して、『SR2』は女性ラッパーたちが主人公。 入江 『SR1』はあの1作で完結したものなので、『SR1』に登場したIKKU(駒木根隆介)たちの後日談にはしたくなかったんです。まったく別のものにしたいなと。それで、まだ女性ラッパーを主人公にした映画は誰も作っていないなと気づいたんです。『Sex and the City』ってありますよね? ボクはほとんど観てないんですけど(笑)。洗練された都会の女性たちがカツカツカツとハイヒールの音を響かせながら並んで歩くあのイメージを、北関東を舞台に置き換えてできないかと考えたんです。ハイヒールで砂をジャリジャリ言わせながら女たちが並ん歩いてくるイメージが最初に浮かんだんです(笑)。 ――『SR1』でも、みひろが東京に対して複雑な思いを持つ女性として出てきましたが、『SR2』の女性たちには実在のモデルがいるんでしょうか? 入江 いえ、取材ですね。mixiをやっていたので、女性からの失敗談や恥ずかしい体験を募集したんです。その頃は女性誌もけっこう読みました。具体的にそのまま映画のエピソードに使ったわけじゃないんですけど、「浮気相手とエッチしてる最中に、彼が来た」とか集まったネタの中からローカルならではのものを拾っていきました。でも取材しているうちに、最終的には失敗談って男も女も変わんねぇなぁと思いましたけど(笑)。ネタというよりは、そういうエピソードを集めていくことで、キャラクターが出来てくればいいなと考えたんです。 ――取材を進めながら、映画化の手応えはどのように感じたんでしょうか? 入江 もちろん最初から映画化するつもりでいたんですけど、いちばん悩んだのは、女の子にラップで何を歌わせるかということでした。男だとどうしても夢だとかメイクマネーだとかビッグになってやるぜみたいなことを考えるし、実際にボクも以前はそんなことを考えていました。でも20代で働いている女性はもっと現実的ですよね。結婚や出産という問題もある。『SR1』もそうですけど、ボクが「こういうラップをやりたい」と大まかな歌詞を書いて、ラップ監修の友人に見てもらって直してもらうというスタイルで作っているんですが、今回はその友人と悩みながらのラップ作りでした。ラップはやはり『SR』シリーズの肝。台詞では言えないことをラップにして言うというのが一番大事な部分ですから。ラップがある程度できたとき、「あっ、映画が見えてきた!」と思いましたね。
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『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』(09)
で注目された山田真歩が主演。実家暮らしの
アユム(山田真歩)は高校時代の輝きを取り
戻そうと、女性ラップグループ
「B-hack」を再結成する。
――女性キャストたちは、あえてルックス的にイマイチな子たちをオーディションで選んでますよね? 入江 イマイチというと彼女たちに申し訳ないです(苦笑)。 ――失礼しました! ちょっぴり垢抜けない子たちですね。 入江 そうですね、"グンマ感"のある子たち(笑)。オーディションには美人な子も来てましたけど、群馬を舞台にした作品なんで垢抜けた子じゃリアリティーが出ませんから。まぁ、グンマ感があるという理由で選ばれて、彼女たちはうれしいかどうか分かりませんけど。でも、"生活に根づいた美しさ"ってあるじゃないですか。その部分を出したかったんです。他の監督の映画でも最初は微妙だなぁと思っていた女の子が段々とかわいく思えてくる映画がボクは好きなんです。『SR1』のみひろも最初はダサい服装なんですけど、最後はかっこよく見えるようにしていますしね。 ■タケダ先輩の伝説ライブとエンディングは追加撮影 ――『SR1』がヒットしたことで、『SR2』の製作環境はずいぶん変わりましたか? 入江 製作体制という点では、基本的にほとんど変わってないですね。『SR1』の撮影初日はボクが録音マイクを持ったりしてましたけど、『SR2』はスタッフの人数が2~3人増えたぐらいです。ほとんどのスタッフが半分アマチュアです。ただ『SR1』のときは撮影場所を借りるのに、深谷市のフィルムコミッションに脚本を見せたところ、「こんな地元をバカにした作品に協力できない」と言われたんです。結局、その人は完成した『SR1』を観て泣いてましたけど(笑)。でも、やっぱり脚本だけでは一般の人には理解しづらいし、ラップの歌詞だけ読むと地元をバカにしてるとしか思えないでしょうし、登場人物はどんどん地元を離れて東京に出ていきますしね。そういう意味では『SR1』が完成していたのは大きかった。『SR1』のときのような反対には遭いませんでしたね。クライマックスシーンの法事に出席しているオジサンたちはみんな地元の人たちなんです。 ――『SR1』のラストは奇跡のような感動的シーンでした。『SR2』でも同じように長回しでのラップバトルが繰り広げられますが、よくぞ思い切って挑みましたね。まさか2度目の奇跡が起きるとは......。
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米国の大ヒットドラマ『Sex and the City』
を意識した「B-hack」のメンバー集合
シーン。NYにはない群馬女の生き様をお見せ
します。
入江 『SR2』は、『男はつらいよ』(69~95)、『トラック野郎』(75~79)、『釣りバカ日誌』(88~09)シリーズみたいに前作を踏襲したかったので、『SR2』のラストも最初からラップで長回しと決めてました。でも、『SR1』に比べると登場人物がかなり増えてますから、撮影にはずいぶん時間がかかりました。10分ほどの長回しシーンですが、10回くらい撮り直しましたね。安藤サクラが途中5分くらい経ってから加わるんですが、これまで映画の撮影で緊張したことが一度もないと話すくらい度胸のある彼女が「初めて足が震えた」と言っていましたね。10回も撮り直すと、最後のほうはかなりのプレッシャーだったみたいです。プロデューサーには「撮り切れないと思った」と撮影が終わってから言われました(苦笑)。 ――『SR1』のホロ苦い終わり方と違って、『SR2』は苦さの中にもちょっとした前向きさが感じられるエンディングですね。 入江 多分、エンドロール部分に映像を加えたからだと思うんです。少しだけ前作と変えたいなと思い、撮影が終わってからエンドロール部分のラストシーンを追加で撮影したんです。タケダ先輩の伝説のライブシーンもそうです。埼玉と群馬の県境の河川敷でエキストラを集めて雨を降らせて一度撮ったんですけど、編集していて絵がどうも足りなくて、撮影から2~3カ月経った11月の多摩川に、エキストラのみなさんにもう一度半袖姿で集まってもらいました。 ――予算の限られた自主制作で、追加撮影は大変じゃないですか。 入江 でも、普通はできないことをやるのが自主制作の良さだし、こういう小規模の映画の良いところだと思うんです。メジャー作品ではできないことですよね。商業映画のプロデューサーだったら「これはちょっと」と言われるようなことでも、『SR』シリーズは自分が面白いと思ったことはドンドンやろうという意識なんです。 ■入江監督の今、そしてこれからのこと ――『SR3』の企画を進めていたところ、『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールが鳴り止まないっ』を先に撮ることになったわけですか? 入江 そうです。プロデューサーから「神聖かまってちゃんで映画できない?」と言われて、まぁ『SR3』は別に遅れても問題はないので『劇場版 神聖かまってちゃん』の脚本を書き始めたんです。でも昨年の春から脚本を書き始めたんですけど、予算が限られていたこともあり、「この内容では決められた日数内で撮り切れないよ」と脚本を19稿くらいまで書き直す作業が続きましたね。
SR2_03.jpg
女性キャストは合宿所、スタッフは入江監督
の実家に泊まりながら、群馬&埼玉で撮影。
入江監督が用意したラップをキャストが撮影
ギリギリまで自己流に手直しする作業が続いた。
――『劇場版 神聖かまってちゃん』は製作委員会方式で作られましたが、その点は問題なかった? 入江 プロデューサーが6人いて、それぞれやりたいことが少しずつ違ったりはしました。でも、全員がかまってちゃん好きだったので一体感があり、別にその点は大丈夫でしたね。ただ製作委員会方式といっても、低予算で作っていたので撮影日数が10日間と限られていたのがキツかった(苦笑)。 ――入江監督は現在もロングラン上映中の『劇場版 神聖かまってちゃん』の舞台あいさつにも精力的に参加していますが、その一方で入江監督が2010年5月23日のブログで書いた記事「なぜか東京を去る理由」(http://blog.livedoor.jp/norainufilm/archives/51672315.html)が大きな反響を呼びました。自分の作品が評価されて各地で劇場公開され、取材や舞台あいさつにマメに対応すればするほど、自分の仕事ができなくなり生活が苦しくなるというジレンマ。その後、多少なりとも状況に変化はありましたか? 入江 う~ん、そんなに反響がありましたか? あの頃、単純に自分が映画の宣伝に追われて仕事をしてなかったってことなんですよね(苦笑)。ただ、自分と同じようにインディペンデント映画を作っている若い監督たちに「自主映画を劇場公開すると、こんなことも起きるよ」という事実を共有したかったんです。でも若い監督たちは自分の作品を作るので精一杯なんで、特にボクの記事に対する反応はなかったですね。ボク自身は『SR2』を完成させた後、『SR1』を観てくれたプロデューサーからオファーをもらい、WOWOWのドラマ『同期』の演出をしました。今年に入って、AKB48のユニットnot yetのPVや、フジテレビ系で放映されたドラマ『ブルータスの心臓』を撮っています。でも、映画業界そのものは『SR』シリーズを作り始めた頃と全然変わってないと思いますね。 ――入江監督個人の経済状態を訴えたわけじゃなく、インディペンデント映画シーンの現状について一石を投じたかったわけですよね。 入江 そうです。自主制作で映画を作って、それが都内で単館上映されるだけでもすごくうれしいんです。このように取材してもらえることも自主映画だとなかなかないし、舞台あいさつにも積極的に参加するわけです。でも地方の劇場へ舞台あいさつに出掛けると、劇場側は交通費は出してくれますけど、その日1日は仕事を休むことになる。パブリシティーに協力すればするほど仕事ができなくなる。映画を作り、劇場公開する環境がどうにか今より少しでも好転しないかと思います。自主映画が単館で上映されるだけでも大変ですが、それを全国公開にまで持っていき、製作費をペイするのは容易なことではありませんから。 ――具体的な解決案は考えられるものでしょうか? 入江 いや、それは分かりません。製作者、それに配給、宣伝、劇場......と、それぞれがそれぞれの立場でしっかり考えてもらうしかないですね。でも各地の映画館を回っていて、支配人の方たちと話していると参考になります。特に『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)、『キャタピラー』(10)をヒットさせた若松孝二監督の話はいろいろと聞くので、すごく勉強になりますね。若松監督は自分のやりたい企画はどうすれば成立するか常に考えている人。自分で製作するだけでなく、自分で配給までやっていますよね。ボクも若い監督から「自主映画を劇場で掛けたい」と相談されたら、自分が『SR』シリーズで学んだことは惜しみなく伝えたいと思っています。 ――入江監督も若松監督のように自主制作を続けていく? 入江 自主制作でなく、製作委員会方式でもいいんですけど、制約なしで作れる、自分の原点に戻れる場所は作っておきたいです。スティーヴン・スピルバーグ監督も自分で会社「ドリームワークス」を立ち上げて映画を作っているので、あれも一種の自主制作ですよね。ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(09)もそう。時間と手間を掛けた壮大な自主映画のモデルが日本でも実現するといいなとは思いますね。 ――『SR』シリーズは全都道府県を制覇する構想もあるんですよね。 入江 はい。でも、よく考えたら、47都道府県を回り切る前に自分が死んじゃうなと(笑)。1年に1本ペースでも間に合わない。まぁ、夢としては短編でもいいから実現させたいですね。各地の映画館に舞台あいさつに行く際も、リサーチを兼ねて地元の名物を食べたり、現地の人の話を聞いたりしてるんです。映画に結びつくかどうかは分かりません。全都道府県巡りは、ほんと夢のような話ですから。 ――最後に、『SR2』についてひと言お願いします! 入江 パート2といっても前作を観てなくても楽しめるようになっています。"サイタマ"や"ラッパー"というキーワードに抵抗を持たずに、まず気軽に観てほしいですね。『Sex and the City』の北関東版を狙ったので、ぜひ女性の方に観てもらいたいです。最初は『Sex and GUNMA』というタイトルも考えたんですけど、さすがにこれじゃお客さんが来ないだろうと思って自分でダメ出ししました(笑)。でも、女性の本音満載という点では『Sex and the City』にも全然負けてないと思いますよ。 (取材・文=長野辰次) 『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』 監督・脚本/入江悠 音楽/岩崎太整 ラップ指導/上鈴木伯周、上鈴木タカヒロ 出演/山田真歩、安藤サクラ、桜井ふみ、増田久美子、加藤真弓、駒木根隆介、水澤紳吾、岩松了 発売・販売元/アミューズソフト 税込価格/3,990円 6月24日(金)よりDVDリリース <http://sr-movie.com> ●いりえ・ゆう 1979年神奈川県生まれ、3歳から埼玉県深谷市で育つ。日本大学芸術学部映画学科卒業。SFロードムービー『ジャポニカ・ウィルス』(06)で長編監督デビュー。『SR サイタマノラッパー』(09)はゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009オフシアター・コンペティション部門グランプリ受賞。さらに韓国プチョン国際ファンタスティック映画祭で最優秀アジア映画賞、第50回日本映画監督協会新人賞受賞。『SR』北関東シリーズ第2弾『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)に続いて、『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールが鳴り止まないっ』も全国各地でロングラン上映を続けている。2011年にはWOWOWでドラマW『同期』(8月5日DVDリリース)、フジテレビ系で東野圭吾原作のミステリー『ブルータスの心臓』の演出を務めた。AKB48の新ユニット「Not yet」のシングル「週末Not yet」のPVの演出も担当。
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