「ドランク鈴木は群を抜いて性格が悪い」アンジャッシュ渡部が人力舎芸人の酒グセを暴露

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撮影=尾藤能暢
 アンジャッシュの渡部建が、下町の安くておいしい、でも意外と知られていない居酒屋を飲み歩くグルメバラエティ『ハシゴマン』(TOKYO MX/毎週木曜23:30~)。2011年10月にスタートした同番組がいよいよDVDとなり、11月21日に2巻同時リリースされる。  番組は、「ハシゴマン」と化した渡部が、芸人の「ハシゴボーイ」と、女性ゲストの「ハシゴガール」を引き連れ飲み屋をハシゴし、自由なペースで飲み、煮込みなどをつつき、会話をする。  それだけなのに、次第にたがが外れる出演者や、ひとクセある大将、突然話しかけてくるお客さん……それらが複合的に存在する空間が至極魅力的に感じられ、テレビの前で「今すぐ飲みたい!」とウズウズしてくることだろう。  いまやグルメ芸人としてもおなじみの渡部氏に、番組の魅力や、ブレイク中の相方について聞いた。 ――自身のブログ「アンジャッシュ渡部建のわたべ歩き」で居酒屋を紹介されていますが、『ハシゴマン』はそれのテレビ版という感じでしょうか? 渡部建(以下、渡部) そうですね。休みの日に、町を決めてから、4~5軒下町の飲み屋に行くことがよくあって。それを番組にしちゃおうかって感じで始まりました。安くておいしい飲み屋を紹介するカタログ的番組であるのと、さらにほかでは見られないユルい展開や、出演者の酔っ払い具合なんかを楽しんでもらえればと思います。 ――決まりごとは「1軒につき酒1杯と、おつまみ1品のみ注文」。とてもルールの少ない番組ですね。 378A5651.jpg 渡部 最初は「女性ゲストがこれだけ飲んだら写真集が宣伝できる」とか、テレビっぽい企画も考えたんです。でも、それだと普通のバラエティになっちゃうし、空気感を楽しむ番組にしたかったのでやめました。それでも最初は「ただ飲むだけの番組が、面白いのだろうか?」っていう葛藤もあったんです。でも今は、もっと酔っ払って、もっと自由にやりたいと思ってます。 ――そんな自由な番組が、いよいよDVD化されますが。 渡部 DVD1本に9軒分の飲み屋情報が入ってますし、お店情報のブックレットも付いてくるので、東京の飲み屋事情を知りたい方にはおすすめです。 ――1、2巻に収録された6エリア中、町屋、北千住、鐘ヶ淵の3エリアにオアシズ・大久保(佳代子)さんがハシゴレディとして出演されてますね。 渡部 大久保さんは本当に酔っ払ってくれるし、この番組って男芸人が出ても、意外とセクハラみたいなことをしないんですけど、大久保さんはゲストのカワイコちゃんに、ぐいぐいエロく責めてくれるんです。男性視聴者の代わりをやってくれるという意味では助かってますね。ただあの人は、すっごい高いピンマイクをトイレに落として逆ギレしたりするし、もうめちゃくちゃでタチが悪いです。 ――番組最多出演はドランクドラゴン・鈴木拓さんのようですが、今回のDVDには登場されてませんね。 378A5608.jpg 渡部 もしかしたら、3巻以降に出てくるかもしれないですね。ただ、世間にあまりバレてないと思うんですけど、あいつって人力舎の中でも群を抜いて性格が悪いんですよ。番組では、そのへんがお酒の力で出ちゃってるので、DVDには入らないかもしれないですね(笑)。まあ、お酒の力でその人の意地の悪さや、逆に人のよさが出るところも『ハシゴマン』の魅力だと思うんですが。 ――お酒の力といえば、ハシゴガールの緑川静香さんも、身の上話をしたあげく泣き出してましたね。 渡部 ほかにも、塚っちゃん(ドランクドラゴン・塚地武雅)が記憶をなくして、ハシゴガールに担がれて家に帰ったこともありますし、それに飯塚悟志(東京03)はいつもひどいですね。オンエアにはのってないですけど、とあるゲストとイチャイチャしすぎて、オールカットになった回もありましたよ。 ――番組では、渡部さんは飲んでもしっかりされてますが、プライベートではお酒で失敗したこともあるんですか? 渡部 ありますよ。前に、お酒の席で「食にあふれ返ってる日本だけど、食べ物を残すのはよくない!」みたいなことで友達と口論になったんです。でもその後記憶がなくなって、家に帰ったらポケットにパンパンに唐揚げが入ってたことがありましたね。あとは、知らないおじさんのループタイとベストを着て帰ってきたり(笑)。一緒だった後輩に聞いたら、横にいたおっちゃんと「服を交換しよう!」ってなったみたいで。だから、僕の革ジャンやハットもなくなってたんですよ。 ――(笑)。プライベートでは、誰と飲むことが多いですか? 渡部 人力舎の後輩を3人くらい連れていく感じですね。芸能界の友達は、芸人ばっかりなので。 ――堀江貴文さんとも仲が良かったと聞きましたが。 渡部 昔は、堀江さんがしょっちゅうパーティーをやってたんで、そこに参加したり、おうちに行ったり、何度か遊んだことはあります。堀江さんは酔っ払うと穏やかになって、なんでも「いいよ」って言ってましたね。 ――ところで、最近は『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)などに出演中ですが、芸能界での自分の立ち位置って、どこだと思いますか? 渡部 “便利屋”じゃないですかねえ。役割を与えられて、制作意図をくみ取りながら、役を一生懸命まっとうする。悪く言うと、“テレビ制作の犬”ですよね。月曜日に「僕、烏龍茶が大好きでねえ」って言ってたのに、火曜日には「僕、烏龍茶が苦手なんですよ」って言ってますから。それをやり始めてから仕事も増えましたしね。ただ、相方もあんな感じでテレビに出るようになっちゃったので、どうやら最近、世間ではアンジャッシュがコントをしてるイメージがないみたいで。なので、ネタ番組にいっぱい出られたらうれしいですけどね。 ――相方の児嶋一哉さんのブレイクをどう見てますか? 渡部 いや~、彼の本質を世間に浸透するくらいまで知ってもらえたのは、ありがたいですよ。ホントに周りの芸人さんのおかげだなって思いますね。児嶋のおかげで呼んでもらえる番組も、たくさんありますから。 ――仕事以外で、児嶋さんとしゃべることはあるんですか? 378A5556.jpg 渡部 遊びにも絶対行かないですし、楽屋でも全然しゃべらないですね。でも、『ハシゴマン』の1周年記念企画で、19年ぶりに2人で飲んだんです。考えてみたら、ネタ作り以外で2人で飲みに行ったのって、それが人生で2回目だったんですよ。 ――ちなみに弊社では「サイゾーテレビ」というのをやってまして。そこでは渡部さんの事務所の後輩のキングオブコメディを前面に押し出してるんですけど。キンコメ・高橋(健一)さんのあの“ダメさ”も、児嶋さんみたいに世間に認知されてブレイクしないかなあ~なんて。 渡部 児嶋も高橋もダメではあるんですけど、高橋は生い立ちが良くないですからねえ。嫌いじゃないんですけど、人間的に卑しいじゃないですか。だから、残念ながら愛すべきポイントがないんですよ(笑)。逆に、高橋の全部が世間にバレたら、テレビに出れないんじゃないんですかねえ。あいつ見てると、親の教育や愛情って大事だなって思いますよ。 ――なんだか湿っぽい話になったので、話を戻して、最後に『ハシゴマン』についてPRをお願いします! 渡部 とにかくお酒好きな方や、飲み屋情報に困ってる方、あと東京観光をする地方の方に、ぜひ買っていただきたいです。家でお酒を飲みながら、映像付きカタログだと思ってラクに見ていただけたら一番うれしいですね。沿線やエリアごとに収録されてるので、これ通りに店を巡っていただくのも楽しいと思いますよ。 (取材・文=林タモツ)

謎の鬼才が贈る、世にもシュールな短編DVD『喜安浩平の世界』

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痩せた男A 「そっとな、そっと……」 ガッチリ男B 「最初オレがゆっくり押すから、お前は足を上げてじっとしてればいい」 痩せた男A 「あアッ――、俺、こんな態勢初めてだ……」 ガッチリ男B 「そりゃ誰だって最初は“初めて”サ……。イクぞ!」  これは男2人の逢瀬のワンシーン、ではない。俳優で声優の喜安浩平氏が、脚本・演出・出演をすべて担当したアニメーションDVD『喜安浩平の世界』(キングレコード)に出てくる第2話「はじめての自転車」での1コマである。『はじめの一歩』(日本テレビ系)や『テニスの王子様』(テレビ東京系)などを代表作に持つ喜安氏なだけに、メジャーどころを狙った作品なのかと思いきや、これがえらくやりたい放題暴れてくれているのだ。
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 全8編のアニメーションはすべて会話劇。第1話「はじめてのインタビュー」、第2話「はじめての自転車」、第3話「はじめてのお祭り」と、各話は独立しているものの、どれも“はじめての○○”がテーマになっている。どの話も淡々と進む独特の演出が目立つ中、セリフ、カメラワーク、イラスト、どれをとっても妙に力の入っているのが、冒頭の痩せた男Aとガッチリ男Bが登場する「はじめての自転車」だ。  長髪の痩せた男Aと、チョビヒゲでガッチリ体型の男Bが、(おそらく)自転車の練習をしているのであろう場面から始まる。最初の画面に映っているのは、2人の男性の肩のあたりまで。なぜか両者とも、肌を露わにしている。炎天下での自転車の練習は暑いのだろうか? *** 痩せた男A 「いいか……? そーっと、だからな?」 ガッチリ男B 「分かってるって。なんだよ、臆病だな(ウインクしながら)」 痩せた男A 「こっちは初めてなんだからな! あっちょっと! 手ェ動かしちゃダメだってば!」 ガッチリ男B 「動かしてないって。ホラ……ちゃんと支えてるよ……。間違っても手は離すなよ? どこイッちゃうか分かんないんだから」 ***  もう一度言うが、痩せた男Aの、初めての自転車の練習に、ガッチリ男Bが付き合ってやっているシーンである……たぶん。確かに、自転車の練習では後ろを支えてあげないとならないし、手をハンドルから離すと、“どこイっちゃうか分かんない”のは間違いない。甘酸っぱくいやらしい“練習”はこの調子で続く。 *** ガッチリ男B 「お前、震えてるんじゃないか?」 痩せた男A 「震えてなんかないよ(ハァハァ)」 ガッチリ男B 「頑張れ、キモチイイから……」 ***  一連の掛け合いを繰り返し、ようやく発車に成功したラストシーンで初めて、画面に自転車が映る。「登場人物のセリフは全部、“自転車の練習”でのセリフでしょ? 何か?」と喜安浩平氏の高笑いが聞こえてきそうである……。  しかも、この「はじめての自転車」のみ、第2話、第5話、第8話に収録されている3本立てのシリーズモノ。ただでさえこの手のネタは扱いがナイーブだというのに。もしかして、DVDタイトルの“喜安浩平の世界”って、そういうこと? そういう、新しい世界へご案内ということ、なの……? (文=朝井麻由美)

新ジャンル? 「不憫萌え」の女王・高垣彩陽の演技が光る話題作『ソードアート・オンライン』

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『ソードアート・オンライン』公式サイトより
 多くの声優が活躍する百花繚乱のアニメ業界だが、その中でもひときわ光を放っている声優が高垣彩陽だ。誤解を恐れずにいうなら、彼女こそ、現在の若手声優の中で最も「不憫な役が似合う声優」である。  普段は気丈に振る舞っているが、その気の強さゆえに本心をさらけ出すことができず、つらいことがあっても周りに気を使って「大丈夫だよ」と無理に笑顔を作って言ってしまう。そんなナイーブで優しいけれど、なぜか報われないキャラクターを演じさせれば彼女の右に出る者はいない。これまでに彼女が演じた役を振り返っても、『機動戦士ガンダム00』のフェルト・グレイス、『みつどもえ』の丸井みつば、『Fate/Zero』のシャーレイ、『機動戦士ガンダムAGE』のデシル・ガレットなど、男女問わず、なぜかハズレくじを引いてしまう不憫なキャラクターが非常に印象深かったりする。  そんな彼女ならではの不憫萌え演技が炸裂したのが、今クールの話題作『ソードアート・オンライン』第7話「心の温度」である。  この作品で高垣が演じるのは、架空のオンラインRPGの世界で鍛冶屋を営む少女・リズベットだ。ゲーム世界に囚われてしまったプレイヤーのために武器を作ることを生業としている彼女は、主人公・キリトとともに強力な武器の素材を手に入れるためにドラゴンの巣に挑む。当初はキリトに対してツンツンしていたリズベットだが、道中でのやりとりやドラゴンとのバトルを通じてキリトに惹かれていく。そして、キリトに「好きだ」と告白したり(ただし、大事な時に肝心のセリフが聞き取れないという、定番の逆地獄耳が発動しキリトには伝わらず)、「専属のスミス(鍛冶職人)にしてくれ」とお願いしたりと、リズベットは熱烈なアプローチを繰り出すも、親友のアスナがキリトといい雰囲気であることを察知。「そうか」と納得した彼女は、無理に笑顔を作って「悪い人じゃないわね。応援するわ」とあえておどけてその場から去ってしまうも、外で泣いているところをキリトに発見されてしまう。  自身の恋心に気付いたそばから早々に身を引いてしまうことになるわけだが、ここで高垣による不憫力がいかんなく発揮される。「大丈夫」と涙をこらえつつ気丈に振る舞うリズベットの健気な姿を見ていると、「全然大丈夫じゃないじゃん!」と思わず抱きしめたくなること請け合いである。不憫かわいいよ、リズベット。  このように、決して報われることのないかわいそうなキャラクターを多く演じている印象の強い高垣だが、それでもキャラクターに卑屈さや必要以上の暗さを感じさせないのは彼女の演技力もさることながら、自身の性格的な部分によるところも多いのだろう。参加する声優ユニット・スフィアのコンサートでは、小さい体をフルに使って力強いパフォーマンスを見せ、PVなどではクルクルと表情を変えて我々を楽しませてくれる。  暗いニュースに意気消沈しがちな今日この頃の日本だが、そんな時代だからこそ、どんな状況でも明るく振る舞う彼女のような存在にファンも癒やされているのかもしれない。そして、そんな彼女だからこそ、どんなに不憫なシチュエーションでも決して屈することのないキャラクターを演じることが可能なのだろう。まるでパンドラの箱の底に残っていた最後の希望のような存在である高垣彩陽こそ、「不憫萌えの女王」なのだ。  さて今後のリズベットだが、原作ではこのエピソード以降もイチャイチャぶりを見せ付けるキリトとアスナの脇で不憫キャラを貫くということで、高垣の演技にも期待大である。 (文=龍崎珠樹) ■バックナンバー 【第19回】「売りスレ」では計測不能!? アニメDVDの売り上げを陰で支えるレンタル市場 【第18回】「求められるのは声優ソングばかり……」表舞台を追われたアニソン歌手の現在 【第17回】美少女たちが追いつめられる姿にゾクゾク!? リアル系ロボットアニメ『トータル・イクリプス』 【第16回】夏アニメの穴馬!? “いわく付き”SNSゲームアニメ『探検ドリランド』に熱視線 【第15回】 キーワードはホモソーシャルな描写!? 今夏は「乙女ゲーム原作アニメ」が熱い! 【第14回】「まるで90年代の夕方6時枠アニメ!?」『モーレツ宇宙海賊』の大器晩成ぶり 【第13回】もはや“声優アイドルフェス”!? アニソン重鎮不在の「アニサマ2012」に不安の声 【第12回】「期待外れ?」「これぞ京アニ?」 賛否両論『氷菓』の本当の見どころ 【第11回】「燃え上がれ、俺の小宇宙よ!」前作ファンもニヤリ『聖闘士星矢Ω』 【第10回】「見たかったのはコレジャナイ!?」声優アイドルアニメ『夏色キセキ』に早くも黄色信号 【第9回】大コケの『機動戦士ガンダムAGE』を徹底検証! 求められる新たな「ガンダム像」とは? 【第8回】アニメ業界の新トレンド!? “分割2クール作品”急増の裏事情 【第7回】ついに世代交代!? 若手アイドル声優が続々歌手デビュー 【第6回】AKB48 vs 声優アイドルユニット アニメ界もついにアイドル戦国時代突入か!? 【第5回】一流アニメファンなら女児向け作品もチェックせよ!? 『スマイルプリキュア!』 【第4回】過激なピンク描写が男子の下半身を直撃!『アマガミSS+ plus』 【第3回】今クール話題の学園モノを徹底分析!『男子高校生の日常』『Another』 【第2回】ロボット好き必見! 洗練されたメカたちが大活躍『輪廻のラグランジェ』 【第1回】水樹奈々が歌いながらバトル!? 「戦うヒロイン」アニメに大注目!

「売りスレ」では計測不能!? アニメDVDの売り上げを陰で支えるレンタル市場

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 今回は、一部の業界では当たり前のことだが、意外と知られていないパッケージ商品の売り上げに関する話をしよう。  ここ最近、ネット上でアニメ関連の情報を収集していると、しばしば見かけるのが「覇権アニメ」というワードである。これは「最も売れた新作アニメ」を指すワードであり、「年間覇権」は一年間を通して最も売れたアニメ、「クール覇権」は各クールで最も売れた、そのクールを代表するアニメという感じで使用される。  もともと、ネット掲示板にある「売りスレ」と呼ばれる「アニメDVDの売り上げデータを収集・分析し、それをネタに雑談をする」ことが趣旨のスレッドから発祥したワードらしく、当初は「天下」「ベスト」などさまざまな類義語が存在していたところ、2010年、テレビアニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のネット番組配信中に、アニプレックス広報の高橋祐馬氏が、「このアニメで秋の覇権を握りますよ」と発言したことから現在の「覇権」というワードに統一されたという経緯がある。  くだんの「売りスレ」では、アマゾンランキングやオリコンチャート、映画の興行収入。また、視聴率や話題性、ネット掲示板のスレッド数など、さまざまな要素を踏まえた分析が行われており、業界関係者も密かにチェックしているとかいないとか。2011年には『IS』のヒロインを元ネタにしたマスコットキャラ「モッピー」が誕生し某漫画でネタにされるなど、現在アニメを語る上で無視することのできない存在となりつつあるのだ。  そんな非常に優秀なデータ収集力を持つリサーチャーが集う「売りスレ」だが、そこでどうしても集めることのできないデータがあるのはご存じだろうか? それは「レンタル商品の数字」である。  通常、一般流通に流されるセル商品とTSUTAYA、GEOなどに代表されるレンタルショップに流されるレンタル商品は別物となっており、レンタル商品が各店舗に卸される数は非公開となっている。そのため、現在の「売りスレ」では、全国に数千店舗存在するレンタルショップに卸されるレンタル商品の売り上げ枚数は計上されていないのだ。また、「売りスレ」では、「○○制作のアニメは毎回売り上げ枚数が少ない。資金は回収できているのか」といった会話が飛び出すこともあるのだが、レンタル商品の価格はセル商品の数倍に設定されている。  このことを考慮すると、(すべてのレンタルショップで、すべてのアニメがレンタルされるとは限らないが)売りスレで出てくる数字をはるかに上回る枚数のレンタル商品が市場に出回り、それらが予想以上の利益をアニメ業界にもたらしていることが想像できるだろう。  つまり、現在アニメ業界において、レンタル業界は非常に大きな存在となっているのだ。  「最近は、レンタル業界がアニメのプロモーションに口を出すことが増えましたね。レンタルショップがセル商品に先行して、アニメのDVDや主題歌CDをレンタルすることも増えてきました。話題作を先行してレンタルできれば、レンタルショップも大きな利益を得ますし、アニメ業界としてもタイアップによって確実に利益を見込むことができるということで、win-winの関係なんじゃないでしょうか」 とはレンタル業界関係者の弁だ。  確かにレンタル業界、アニメ業界共に潤う素晴らしいタイアップといえるが、とはいえヒットを見込んでレンタル業界側がプッシュした作品が、フタを開けてみたらそんなに大コケだった……なんてこともないとはいえない。「本当にヒットしている作品」なのか、「レンタルショップが推したい作品」なのか。そういった思惑も踏まえてアニメDVDの売り上げを分析してみると、さらに業界の表と裏が見えてくるのではないだろうか。 (文=龍崎珠樹) ■バックナンバー 【第18回】「求められるのは声優ソングばかり……」表舞台を追われたアニソン歌手の現在 【第17回】美少女たちが追いつめられる姿にゾクゾク!? リアル系ロボットアニメ『トータル・イクリプス』 【第16回】夏アニメの穴馬!? “いわく付き”SNSゲームアニメ『探検ドリランド』に熱視線 【第15回】 キーワードはホモソーシャルな描写!? 今夏は「乙女ゲーム原作アニメ」が熱い! 【第14回】「まるで90年代の夕方6時枠アニメ!?」『モーレツ宇宙海賊』の大器晩成ぶり 【第13回】もはや“声優アイドルフェス”!? アニソン重鎮不在の「アニサマ2012」に不安の声 【第12回】「期待外れ?」「これぞ京アニ?」 賛否両論『氷菓』の本当の見どころ 【第11回】「燃え上がれ、俺の小宇宙よ!」前作ファンもニヤリ『聖闘士星矢Ω』 【第10回】「見たかったのはコレジャナイ!?」声優アイドルアニメ『夏色キセキ』に早くも黄色信号 【第9回】大コケの『機動戦士ガンダムAGE』を徹底検証! 求められる新たな「ガンダム像」とは? 【第8回】アニメ業界の新トレンド!? “分割2クール作品”急増の裏事情 【第7回】ついに世代交代!? 若手アイドル声優が続々歌手デビュー 【第6回】AKB48 vs 声優アイドルユニット アニメ界もついにアイドル戦国時代突入か!? 【第5回】一流アニメファンなら女児向け作品もチェックせよ!? 『スマイルプリキュア!』 【第4回】過激なピンク描写が男子の下半身を直撃!『アマガミSS+ plus』 【第3回】今クール話題の学園モノを徹底分析!『男子高校生の日常』『Another』 【第2回】ロボット好き必見! 洗練されたメカたちが大活躍『輪廻のラグランジェ』 【第1回】水樹奈々が歌いながらバトル!? 「戦うヒロイン」アニメに大注目!

追悼・山田五十鈴──反骨の大女優の最高傑作はこれだ!『女ひとり大地を行く』

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『女ひとり大地を行く』(新日本映画社)
 今月、95歳で世を去った女優・山田五十鈴。戦前から70年あまりにわたって活躍し、女優として初の文化勲章を得た彼女の死は、一つの時代の終わりを感じさせる。それでも、生涯にわたって数多くの映画・ドラマに出演した彼女の作品は、決して色褪せることがない。  そんな彼女の作品群の中でも、とくに今の時代だからこそ見るべき! という作品がある。それが、亀井文夫監督作『女ひとり大地を行く』(1953)である。日本炭鉱労働組合北海道地方本部加盟の炭鉱労働者が1人33円ずつ資金を出し合い、300万円を集めて制作したという、まさに働く者たちの映画だ。撮影は、夕張炭鉱などでスタッフが寝泊まりしながら進められたという気合いの入りぶり。  物語は昭和7年。秋田県で農業を営む宇野重吉と山田五十鈴の夫婦は、凶作による生活苦に陥る。そのために、宇野は我が身を売って北海道の炭鉱のタコ部屋へ送り込まれるのである。しかし、地獄のようなタコ部屋生活の果ての爆発事故で彼は死んでしまった。夫を追いかけてきた山田は、二人の子どもを抱えて夫の死んだ土地で女炭鉱夫として生きていくことを決意するのだ。  こうして物語は、戦中から戦後へと山田演じる女の一代記として綴られていく。小さな子どもを抱え気丈に生きる時代から老いて死の床に着くまでの長い期間を、一人で演じきっているのは、感嘆するよりほかない。なにより、当時の山田は、すでに文字通りの大女優。まだ戦後の混乱が冷めやらぬ時代とはいえ、それなりのブルジョアだったはず。にもかかわらず、完全にプロレタリアートな女性になりきっているのだから、その演技力は計り知れない。山田は戦後動乱期の大労働争議として、歴史に刻まれている東宝争議の際に、経営側に毅然として戦いを挑んだ反骨精神の持ち主としても知られている。戦前から大衆の支持を得た理由である類い希なる妖艶さ、それに反骨精神、単なる「大女優」という言葉ではくくれない、いくつもの要素が彼女の世界観を豊かなものにし、女の一代記をサラリと演じさせているのである。  まさに、山田の代表作として数えてもよい作品なのだが、公開当時はまったくヒットしなかったそうで、知名度は高くない。現在、DVD化されているのも、ある意味奇跡的といえる。しかし、日本が戦後の動乱期に等しい混迷の時代に突入した今、この作品は再び鑑賞すべき価値を得ているのではないだろうか。  この映画の監督である亀井文夫は、劇映画よりもドキュメンタリーで知られた人物で、 原爆被災者に密着した『生きていてよかった』(56)などの作品で名高い。プロレタリアートが新たな世界を生み出す理想を夢見ながらも、組織の汚さにも気づいていた亀井だけに、山田の周囲の、炭鉱に暮らす人々の描写も目を見張る者がある。物語の中で描かれる、儲け一辺倒の会社の方針に抗議し首を切られそうになった仲間を守るための、炭鉱労働者たちの一致団結っぷり。ストライキを求める労働者たちの熱意に、ビビる組合の幹部たち(なんか、高そうな背広を着ているあたりが亀井らしい演出)。働く者の権利を守るために、挫折することなく希望を持ち続けている登場人物たちの姿を見ていると「なんて、組織された労働者だ。こんなヤツら現実にいたら、とっくに革命が起こっているよ」と、ツッコミを入れながらもなぜか、感動してしまう。  山田の凄まじいまでの演技力、それに加えて、炭鉱労働者たちが会社にも権力にも屈することなく戦っていく様の2つに感動できるからこそ、この作品は素晴らしい。ただ、DVDになっているのは132分版でオリジナルの最長164分版は、観賞できる機会がないのが惜しいところ。山田の偉業を顕彰する意味でも、ぜひ上映の機会を設けてもらいたい。 (文=昼間たかし)

“人妻溺愛文明”の謎が明らかに!? おふざけバラエティ『ジョージ・ポットマンの平成史』

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『ジョージ・ポットマンの平成史Vol.1』「人妻史」より
 この3月まで放送されていた教養風バラエティ番組『ジョージ・ポットマンの平成史』(テレビ東京系)。歴史学部教授で日本近現代史専攻のジョージ・ポットマンなるイギリス人(実在しない)が、平成時代を“歴史”と捉え紹介。「ファミコン史」「巨乳史」「ブログ・ツイッター史」「パワースポット増え過ぎ史」など、さまざまな平成史を、毎週取り上げてきた。  教養風バラエティ番組といえば、1990~91年に放送され人気を博した『カノッサの屈辱』(フジテレビ系)を思い浮かべる人も多いだろう。しかし、『ジョージ・ポットマンの平成史』のおふざけレベルはその比ではなく、さすがテレビ東京、シャレの分かる大人のための上質な番組といっていいだろう。
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「スカートめくり史」より
 そんな同番組のDVDが、4月18日に2巻同時発売。Vol.1では、放送回から「人妻史」「白ブリーフ史」「性教育史」、Vol.2では「童貞史」「スカートめくり史」「ラブドール史」を収録。とくに人気の高かったエッチな回ばかりが収められている。  「人妻史」では、エロ市場で大きなパイを占める平成の人妻人気を多角度から考察。平成の日本は「一億総人妻溺愛文明」であると定義し、その背景や人妻の魅力を、人妻AV女優や、人妻風俗嬢らに話を聞きつつ探っていく。  また、鹿鳴館外交による「夫人=エロい」という言語イメージの誕生経緯や、「人妻ナース」「人妻女教師」「団地妻」など、「人妻」や「妻」を付けることで途端にエロくなる日本人の言語感覚を紹介。その理由を、原題が『エマニエル』にもかかわらず、わざわざ『エマニエル夫人』という邦題を付けた事例などを取り上げながらひも解いていく。
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「白ブリーフ史」より
 同じくVol.1に収録されている「白ブリーフ史」では、1970年代、サーフィンブームの訪れで「浜辺で着替える際に股間がモッコリするのが恥ずかしい」と、衰退の一途をたどる運命となった白ブリーフを研究。いまや、一部のお年寄りと汁男優くらいしか身に着けることのなくなってしまった絶滅寸前のそれを丁寧に見直していく。  ここではAV界の重鎮・村西とおる監督が登場。「ムスコを強調するベストの下着が、ブリーフでございます」と自ら白ブリーフ姿で熱く訴える。その際、村西の話を真剣に聞きながら、「エキベン?」「ガンメンシャワー?」と聞きなれない日本語をいちいち復唱するジョージ・ポットマン。不覚にも彼のことを、次第に愛らしく感じてしまうことだろう。
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「ラブドール史」より
 さらに、どこから見つけてきたのか、元チェッカーズの鶴久政治が「白いブリーフって、温室育ちの人生のシンボルだよね」と白ブリーフを糾弾し、トランクスを推奨する昔の雑誌記事を紹介。ブリーフ文化衰退の原因として、突然、鶴久が取り上げられるこの場面は、DVDの中でも名場面といえるだろう。  DVD『ジョージ・ポットマンの平成史』には、ほかにも映像特典として、テレビ未放送の「ピンクチラシ史」(Vol.1)などを収録。番組を見ていた人も、そうでない人も、平成時代がもうすぐ四半世紀を迎えようとする今、ジョージ・ポットマンと共に時代を見つめ直してみてはいかがだろうか(半笑いで)。 (文=林タモツ)

「演者最低、制作費最低なのに200点!?」宇多丸の人気ラジオ番組がまさかのドラマ化

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 ヒップホップグループ・ライムスターの宇多丸氏がメインパーソナリティーを務めるTBSラジオの人気番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(毎週土曜 21:30~24:30放送中)。2007年の開始以来、音楽、映画、アイドルなど知識が多岐にわたる宇多丸氏らしい内容で、時にはシャープに切り込み、時にはボンクラトークに花を咲かせ、幅広い世代から支持を得てきた。  そんな同番組から派生したDVD『タマフル THE MOVIE ~暗黒街の黒い霧~』(TCエンタテインメント)が3月28日に発売。ラジオ番組の企画モノDVDといえば、傑作トーク集や番組の裏側など本編に付随した内容が通例だが、今回はなんと番組出演者やスタッフが出演する完全撮りおろしのフェイクドキュメンタリー。しかも『SR サイタマノラッパー』(2008)や『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(2011)で注目を浴び、若手映画監督ナンバーワンの呼び声も高い入江悠監督が手掛けるという。  ラジオ番組の映画化とは一体どういうことなのか。早速、主演の宇多丸氏を直撃した。 ――『タマフル THE MOVIE ~暗黒街の黒い霧~』について、いろいろうかがいたいのですが。 宇多丸 我ながら「コレは何?」っていうようなDVDの取材に来ていただいて、ホント申し訳ない……。 ――いきなり恐縮しないでください(笑)。ラジオの番組DVDがフェイクドキュメンタリー作品とは、不意をつかれました。 宇多丸 普通ならオフショットを収録したりするんでしょうけど、番組DVDの話が出た時に「うちの番組でそれやってもねえ……」って言ってたんです。それでしばらくしたら、入江悠監督にやってもらえることになって、「えー! いいの!?」「でもちょっと待って、僕らが演技するわけ!?」「素人だけど大丈夫?」ってみんな不安と疑問でザワザワしてましたね。 ――フタを開けてみれば、劇場で公開しないのがもったいないほどしっかりとした娯楽作品になりましたね。 宇多丸 役者として最低レベルの僕たちを使って200点出してますから、あらためて入江監督の才能が証明されましたよね。今回、それぞれのキャラクターを理解して作ってくださっているので、“それをやったら一番面白い人”に、ちゃんとそれをやらせてるんですよ。たとえば古川耕(番組構成作家)と近藤夏紀(プロデューサー&ディレクター)のラブシーンなんかも、ラブシーンを演じさせたら一番ギクシャクしそうな荒唐無稽な2人にやらせてる。それでいてラストは、ファンをイヤな気分にさせないところに着地していて、ファンが買う“アイドルビデオ”としてもちゃんと成立してるんです。 120215bt_0032.jpg ――全編“悪フザケ”ではあるんですが、展開が目まぐるしく変化していく中で、いつの間にかグッと引き込まれました。 宇多丸 とくにアクションに振れ出してからは、たとえ番組を知らなくても普通に楽しめますよね。入江監督は、後半に向けて違うところに行くような流れにしたいとおっしゃっていたんです。たとえば、タイトルを挙げるとハードル上がっちゃうけど『第9地区』(2009/ニール・ブロンカンプ監督)なんかがそうですよね。最初はフェイクドキュメンタリー調に始まって、途中からジャンルが変わっていくっていう。 ――宇多丸さんが超つまらないフリートークをするシーンも印象的でした(笑)。 宇多丸 あれは「番組がおかしなことになってる感を漂わせたトークをしてください」って言われて、意外と大変だったんですよ。ほかにも僕が銃の話をしてるのに、古川さんは文房具の話をしていて、2人とも心ここにあらずで噛み合わないシーンもアドリブなんです。 ――宇多丸さんから見て、演者としてとくに光っていたのはどなたですか? 宇多丸 やっぱりMVPは、橋本名誉プロデューサーですよ。一番負担の大きい役でしたし、学生プロレスラー上がりの彼の資質をすべて投入したんじゃないですかね。でも最近、役同様に「これカネになんの?」とかってカネカネ言うようになっちゃって。役柄との見境いが付かなくなる『ブラック・スワン』(2010/ダーレン・アロノフスキー監督)状態が起きていて恐ろしいです(笑)。 ――橋本P以外の方々も、しまおまほさんのスピリチュアルキャラや、荒井マネジャーの横暴キャラなど、濃い役柄を演じられてましたが。 宇多丸 実際、それぞれにああいう要素があるんですよ。しまおさんもあそこまでではないけど、普段からキテレツなこと言うし。この作品でまったくないのは古川さんと夏紀のラブ要素だけ。それぞれの元々ある嫌な部分を増幅して見せられるから、撮り終わったあとに「しまおさんて普段からああいうこと言ってるよね」とか、「橋本Pってああいうとこあるよね。いつもちょっと怖いもんね」とかってみんな本当にイヤな気分になって。ちょっと番組やりづらくなったんですよ。 ――あらら(笑)。DVDには特典として、出演者らの副音声や、入江監督×宇多丸さんの対談映像が収録されているとか。 宇多丸 副音声は、初見の状態で何人かで見ながら録ったんです。だから「ギャーッ」とか「ワーッ」とか、そんなんばっかのやつです(笑)。その分、対談では映画作りについてや、この作品の意図など解説っぽいことを話してます。 ――ちなみに続編の可能性は? 宇多丸 続編っすか(笑)。まあ、フェイクは今回でやり切ってしまった感があるので、やるとしたら違う手でしょうね。ドキュメントとか、ポルノとか、『風雲!たけし城』のパクリとか、さまざまな手がありますから。素材はそろってますので、いろいろな監督に競作してほしいですね。 ――では最後に「日刊サイゾー」読者へ作品の見どころを! 宇多丸 ファン向けの内輪向け企画ではあるんですけど、演者最低、制作費最低という厳しい条件で、入江監督がちゃんと面白い映画にしちゃってます。なのである意味、門外漢の方も日本映画界の試金石として間違いなく必見です。もちろんこの番組のファンの方は絶対に楽しめますし、逆にアンチ宇多丸の方も、あなたの気に入らないハゲの無様な姿が全編に展開してますので、おすすめです! ――確かに宇多丸さん、劇中でボロボロなってますもんね(笑)。 宇多丸 僕に恨みを持ってる人は、僕が出るたびにワロタワロタ言えていいじゃないですか(笑) (取材・文=林タモツ/撮影=尾藤能暢) ●『タマフル THE MOVIE ~暗黒街の黒い霧~』 『ウィークエンドシャッフル』の放送中、事件が起こる!? TBSの大人気ラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』の舞台裏を、実在の人物とフィクションが入り混じるセミドキュメンタリータッチでドラマ化。監督・脚本は日本映画界の新星・入江悠(「SRサイタマノラッパー」シリーズ)。 出演/宇多丸、しまおまほ、古川耕、妹尾匡夫、高橋芳朗、高野政所、コンバットREC、近藤夏紀、橋本吉史ほか スタッフ/監督・脚本:入江悠、製作・企画:TBSラジオ&コミュニケーションズ 定価/3,675円(税込) 3月28日発売 ●宇多丸(ライムスター) ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパーでラジオDJ。自身のTBSラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」で、映画評論の「ザ・シネマハスラー」は単行本化される人気コーナー。最新映写技術「マッピング」を導入したことでも話題となった、ライムスターの全国ツアー『King Of Stage Vol. 9』は、Blu-ray & DVDとなって3月21日待望リリース。
タマフル THE MOVIE ~暗黒街の黒い霧~ まさかまさかの展開。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・宇多丸さんの至言「人にはだいたい『ちょうどいい』ところがあるんです」Kダブシャインさんの至言「宇多丸は、Kダブをシャインさせない」伊集院光さんの至言「結局、うんこを食うしかない状況になるんです」「ラジオは都落ちだと思ってた」"ラジオの女王"小島慶子、今だから語れるホンネ若手映像作家・入江悠監督の覚悟「メジャーでやれないことをやる」

「演者最低、制作費最低なのに200点!?」宇多丸の人気ラジオ番組がまさかのドラマ化

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 ヒップホップグループ・ライムスターの宇多丸氏がメインパーソナリティーを務めるTBSラジオの人気番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(毎週土曜 21:30~24:30放送中)。2007年の開始以来、音楽、映画、アイドルなど知識が多岐にわたる宇多丸氏らしい内容で、時にはシャープに切り込み、時にはボンクラトークに花を咲かせ、幅広い世代から支持を得てきた。  そんな同番組から派生したDVD『タマフル THE MOVIE ~暗黒街の黒い霧~』(TCエンタテインメント)が3月28日に発売。ラジオ番組の企画モノDVDといえば、傑作トーク集や番組の裏側など本編に付随した内容が通例だが、今回はなんと番組出演者やスタッフが出演する完全撮りおろしのフェイクドキュメンタリー。しかも『SR サイタマノラッパー』(2008)や『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(2011)で注目を浴び、若手映画監督ナンバーワンの呼び声も高い入江悠監督が手掛けるという。  ラジオ番組の映画化とは一体どういうことなのか。早速、主演の宇多丸氏を直撃した。 ――『タマフル THE MOVIE ~暗黒街の黒い霧~』について、いろいろうかがいたいのですが。 宇多丸 我ながら「コレは何?」っていうようなDVDの取材に来ていただいて、ホント申し訳ない……。 ――いきなり恐縮しないでください(笑)。ラジオの番組DVDがフェイクドキュメンタリー作品とは、不意をつかれました。 宇多丸 普通ならオフショットを収録したりするんでしょうけど、番組DVDの話が出た時に「うちの番組でそれやってもねえ……」って言ってたんです。それでしばらくしたら、入江悠監督にやってもらえることになって、「えー! いいの!?」「でもちょっと待って、僕らが演技するわけ!?」「素人だけど大丈夫?」ってみんな不安と疑問でザワザワしてましたね。 ――フタを開けてみれば、劇場で公開しないのがもったいないほどしっかりとした娯楽作品になりましたね。 宇多丸 役者として最低レベルの僕たちを使って200点出してますから、あらためて入江監督の才能が証明されましたよね。今回、それぞれのキャラクターを理解して作ってくださっているので、“それをやったら一番面白い人”に、ちゃんとそれをやらせてるんですよ。たとえば古川耕(番組構成作家)と近藤夏紀(プロデューサー&ディレクター)のラブシーンなんかも、ラブシーンを演じさせたら一番ギクシャクしそうな荒唐無稽な2人にやらせてる。それでいてラストは、ファンをイヤな気分にさせないところに着地していて、ファンが買う“アイドルビデオ”としてもちゃんと成立してるんです。 120215bt_0032.jpg ――全編“悪フザケ”ではあるんですが、展開が目まぐるしく変化していく中で、いつの間にかグッと引き込まれました。 宇多丸 とくにアクションに振れ出してからは、たとえ番組を知らなくても普通に楽しめますよね。入江監督は、後半に向けて違うところに行くような流れにしたいとおっしゃっていたんです。たとえば、タイトルを挙げるとハードル上がっちゃうけど『第9地区』(2009/ニール・ブロンカンプ監督)なんかがそうですよね。最初はフェイクドキュメンタリー調に始まって、途中からジャンルが変わっていくっていう。 ――宇多丸さんが超つまらないフリートークをするシーンも印象的でした(笑)。 宇多丸 あれは「番組がおかしなことになってる感を漂わせたトークをしてください」って言われて、意外と大変だったんですよ。ほかにも僕が銃の話をしてるのに、古川さんは文房具の話をしていて、2人とも心ここにあらずで噛み合わないシーンもアドリブなんです。 ――宇多丸さんから見て、演者としてとくに光っていたのはどなたですか? 宇多丸 やっぱりMVPは、橋本名誉プロデューサーですよ。一番負担の大きい役でしたし、学生プロレスラー上がりの彼の資質をすべて投入したんじゃないですかね。でも最近、役同様に「これカネになんの?」とかってカネカネ言うようになっちゃって。役柄との見境いが付かなくなる『ブラック・スワン』(2010/ダーレン・アロノフスキー監督)状態が起きていて恐ろしいです(笑)。 ――橋本P以外の方々も、しまおまほさんのスピリチュアルキャラや、荒井マネジャーの横暴キャラなど、濃い役柄を演じられてましたが。 宇多丸 実際、それぞれにああいう要素があるんですよ。しまおさんもあそこまでではないけど、普段からキテレツなこと言うし。この作品でまったくないのは古川さんと夏紀のラブ要素だけ。それぞれの元々ある嫌な部分を増幅して見せられるから、撮り終わったあとに「しまおさんて普段からああいうこと言ってるよね」とか、「橋本Pってああいうとこあるよね。いつもちょっと怖いもんね」とかってみんな本当にイヤな気分になって。ちょっと番組やりづらくなったんですよ。 ――あらら(笑)。DVDには特典として、出演者らの副音声や、入江監督×宇多丸さんの対談映像が収録されているとか。 宇多丸 副音声は、初見の状態で何人かで見ながら録ったんです。だから「ギャーッ」とか「ワーッ」とか、そんなんばっかのやつです(笑)。その分、対談では映画作りについてや、この作品の意図など解説っぽいことを話してます。 ――ちなみに続編の可能性は? 宇多丸 続編っすか(笑)。まあ、フェイクは今回でやり切ってしまった感があるので、やるとしたら違う手でしょうね。ドキュメントとか、ポルノとか、『風雲!たけし城』のパクリとか、さまざまな手がありますから。素材はそろってますので、いろいろな監督に競作してほしいですね。 ――では最後に「日刊サイゾー」読者へ作品の見どころを! 宇多丸 ファン向けの内輪向け企画ではあるんですけど、演者最低、制作費最低という厳しい条件で、入江監督がちゃんと面白い映画にしちゃってます。なのである意味、門外漢の方も日本映画界の試金石として間違いなく必見です。もちろんこの番組のファンの方は絶対に楽しめますし、逆にアンチ宇多丸の方も、あなたの気に入らないハゲの無様な姿が全編に展開してますので、おすすめです! ――確かに宇多丸さん、劇中でボロボロなってますもんね(笑)。 宇多丸 僕に恨みを持ってる人は、僕が出るたびにワロタワロタ言えていいじゃないですか(笑) (取材・文=林タモツ/撮影=尾藤能暢) ●『タマフル THE MOVIE ~暗黒街の黒い霧~』 『ウィークエンドシャッフル』の放送中、事件が起こる!? TBSの大人気ラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』の舞台裏を、実在の人物とフィクションが入り混じるセミドキュメンタリータッチでドラマ化。監督・脚本は日本映画界の新星・入江悠(「SRサイタマノラッパー」シリーズ)。 出演/宇多丸、しまおまほ、古川耕、妹尾匡夫、高橋芳朗、高野政所、コンバットREC、近藤夏紀、橋本吉史ほか スタッフ/監督・脚本:入江悠、製作・企画:TBSラジオ&コミュニケーションズ 定価/3,675円(税込) 3月28日発売 ●宇多丸(ライムスター) ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパーでラジオDJ。自身のTBSラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」で、映画評論の「ザ・シネマハスラー」は単行本化される人気コーナー。最新映写技術「マッピング」を導入したことでも話題となった、ライムスターの全国ツアー『King Of Stage Vol. 9』は、Blu-ray & DVDとなって3月21日待望リリース。
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性を超越した“映画の伝道師”淀川長治 名調子200タイトルがDVDで甦る!

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「怖いですねぇ、恐ろしいですねぇ」「さよなら、さよなら、さよなら」などの名フレーズの数々を残した映画評論家・淀川長治氏。32年間にわたって洋画の魅力をテレビからお茶の間に語り掛けた。
(c)テレビ朝日
 『日曜洋画劇場』(テレビ朝日系)の放送45周年を記念して、DVD『淀川長治の名画解説DX』がリリースされた。1966年10月の第1回放送から1998年11月に89歳で亡くなる前日まで同番組の解説を手掛けた映画評論家・淀川長治氏の往年の名調子を、200タイトルにわたって収録したもの。前説と後説を合わせて3分間という限られた秒数の中に、淀長氏はコンパクトに映画の魅力を詰め込んだ。熱の入った口調には、淀長氏の映画に注ぐ愛情が溢れんばかりに満ちていた。同番組の顔として人気者になった淀長氏は講演会を度々開き、トークの達人と思われていたが、もともとは人前でしゃべるのが苦手だったという。中学のときに教師から全校生徒の前でしゃべるよう命じられ、ギリシャ神話に登場する女神がひとりの美少年を見初めて水仙に変えてしまった逸話を話したところ、学校中の失笑を買ってしまった。淀長氏の少年時代の中学校では、全校生徒の前に立つ男子生徒は柔道大会に向けた決意などを語るのが普通だったからだ。その一件以来、淀長氏は人前でしゃべることは自分には不向きだと思うようになった。  その後、成人した淀長氏は幼少の頃から親しみ憧れていた映画の世界に飛び込み、映画配給会社の宣伝マンを経て、映画雑誌『映画の友』の編集長として活躍。雑誌の愛読者である若者たちを集めては懇親会を開いて、交流を楽しんでいた。同じ映画好きな若者たちが相手なら、淀長氏はそれこそ淀むことなく延々と映画エピソードを語り続けることができた。その様子を見ていた人物が後にテレビ朝日(当時はNETテレビ)のプロデューサーとなり、『日曜洋画劇場』の前番組だったテレビ映画『ララミー牧場』の解説者に淀長氏を起用する。淀長氏はテレビでしゃべることに抵抗があったそうだが、『ララミー牧場』にジャズの名曲「スターダスト」の作曲家ホーギー・カーマイケルが俳優として出演していたことから、出演をOKしたそうだ。最初はこわばっていた淀長氏の表情も、プロデューサーやスポンサーの理解があり、持ち前の人なつこい表情と大阪弁ほどキツくない神戸なまりの味のある口調が次第に生きてくるようになった。以降、エンディングで「さよなら、さよなら、さよなら」と手をニギニギする“ニギニギおじさん”としてお茶の間に定着する。淀長氏が愛する洋画を題材に、苦手意識のあった“トーク”を克服することで、豊饒なる世界が開けていった。  淀長氏というと、生涯を独身で通したことでも知られる。淀長氏本人が「映画と結婚した」と語っていたことでも有名だ。家庭を持つことで私生活にエネルギーを割くことになるよりも、自分の愛する映画に全エネルギーを注ぎたいという想いからだった。また、重度のマザコンだったこと、若い頃に男性に惹かれる性癖があったこともカミングアウトしていた。淀長氏が小さな男の子から「なんで結婚しないの?」と質問され、「ボクはね、結婚しないことで男の視線からも女の視線からも映画を観ることができるんですよ」と答えていたのを記憶している。女神に見初められて水仙になった美少年のように、映画を愛し、映画にも愛された淀長氏は性別を超越した存在となった。来日したアーノルド・シュワルツェネッガーの大事な部分に淀長氏がさりげなくタッチしても、シュワちゃんはガハハ笑いで済ませていたそうだ。また、淀長氏をインタビューする男性記者の中にぽっちゃりタイプがいると、「後で一緒にお風呂に入りましょうねぇ」とジョーク交じりに声を掛けた。声を掛けられた男性記者は「あのヨドチョーさんにお風呂に誘われた!」と喜んだ。『プロジェクトA』(83)の解説では「サモ・ハン・キンポー。キをチと間違えないようにしてくださいねぇ」と巧みに下ネタを全国にオンエアした。  本当に映画を愛しているのなら、放送枠に合わせてオリジナル版をカットし、日本語に吹き替えるテレビ版の仕事は断るべきではないのかと批判する声もあったが、淀長氏が32年間にもわたってテレビ解説を続けることができたのは、映画に関する豊富な知識だけでなく、物事に対するポジティブな考え方があったからだろう。明治、大正、昭和、平成と4つの時代を生きた淀長氏は映画文化の黎明期から黄金期の名作を浴びるように観ながら育ってきたが、新作を否定せずに受け入れた。「今の映画はクズ。昔の映画はよかった」という安易な論調に走らず、新しい映画の技術的な進化やキャラクターの心理描写などの演出力の向上に着目した。テレビやビデオが各家庭に普及することで、映画の面白さを知る人が増えると肯定的に捉えた。テレビで温和な表情を見せる一方、「どうせ、こんな映画はヒットしませんよ」と自分が担当する映画に情熱を持たない宣伝マンは容赦なく叱責した。  講演会では「私はこれまで生きてきた中で、一度も嫌いな人に遭ったことがない」と口にしていたが、これも淀長氏のポジティブさを表す言葉だろう。実際には淀長氏が気に食わない業界人はいくらでもいただろうし、評論家としての知名度が上がれば上がるほどアンチの声も高まったはず。だが、「嫌いな人間はいない」と公言することで、自己暗示に掛けるのと同時に、ひと癖もふた癖もある業界人たちを自分の間合いの中に取り込んでいたのだろう。淀長氏が長寿をまっとうしたのは、自分の好きなことを仕事にできたことだけでなく、ポジティブな考え方が大きく影響していたように思える。  淀長氏は晩年の11年間を、当時は六本木アークヒルズにあったテレビ朝日本社に隣接する東京全日空ホテル34階のジュニアスイートで暮らした。鶴見に自宅があったが、両親を看取った後はひとり身だったため、テレビの収録や映画の試写へ行くのに便利な都心のホテルでの生活を選んだ。映画館と同じで、ホテルではひとりの時間を楽しむことができ、でも周囲に人の気配を感じることで孤独感に悩まされずに済む。高級ホテルでの生活というと享楽的な印象があるが、淀長氏はいつ不測の事態に陥っても周囲に迷惑が掛からないよう、葬式代と遺書を用意していた。来るべき日を常に意識してのホテル暮らしだった。全日空ホテルの高層階ラウンジから見渡せる都会の夕焼けを眺めながら、近くで働いていたホテルのスタッフに「キミもちょっと仕事をするのをやめて一緒に見ようよ」と声を掛けていたそうだ。懇意にしていたホテルのスタッフが懐かしそうに回顧している。淀長氏は映画評論の大家であり、“おひとりさま”ライフの先駆者でもあった。  2006年に発売された『日曜洋画劇場』の40周年記念DVD『淀川長治の名画解説』には、名作50本の解説に加え、特典として最後の解説となった『ラストマン・スタンディング』(96)が収録されていたが、今回の『淀川長治の名画解説DX』はアクション、コメディ、ラブロマンス、SF、西部劇……とジャンルごとにセレクトした200本を600分にわたって収録。主人公の2人がホモセクシャルの関係にあることに言及した『太陽がいっぱい』(60)をはじめとする淀長氏の名調子に触れると、すでに何度も観ているはずの作品やスルーしていた作品も、無性に気になってくる。時間が経過しても色褪せないその感染力には驚くばかりである。淀川長治氏は性別も時代も超越した、映画の伝道師だった。 (文=長野辰次) ●『日曜洋画劇場45周年記念 淀川長治の名画解説DX』 BOX5枚組(本編4枚+特典1枚)『熱き血潮篇』『夢見る瞳に乾杯篇』『明日への希望篇』『真理と感慨篇』の各巻に50タイトル、全200タイトルを収録。特典ディスクには番組の撮影風景、全日空ホテルでの仕事風景などの映像も収録。『日曜洋画劇場』の放送全ラインアップと全200作品の解説をまとめた特典冊子付き。BOX価格/10,500円(税込み) 発売元/ビデオ・パック・ニッポン 販売元/ポニーキャニオン 2012年2月より発売中
日曜洋画劇場45周年記念 淀川長治の名画解説DX 「さよなら、さよなら、さよなら」 amazon_associate_logo.jpg
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性を超越した“映画の伝道師”淀川長治 名調子200タイトルがDVDで甦る!

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「怖いですねぇ、恐ろしいですねぇ」「さよなら、さよなら、さよなら」などの名フレーズの数々を残した映画評論家・淀川長治氏。32年間にわたって洋画の魅力をテレビからお茶の間に語り掛けた。
(c)テレビ朝日
 『日曜洋画劇場』(テレビ朝日系)の放送45周年を記念して、DVD『淀川長治の名画解説DX』がリリースされた。1966年10月の第1回放送から1998年11月に89歳で亡くなる前日まで同番組の解説を手掛けた映画評論家・淀川長治氏の往年の名調子を、200タイトルにわたって収録したもの。前説と後説を合わせて3分間という限られた秒数の中に、淀長氏はコンパクトに映画の魅力を詰め込んだ。熱の入った口調には、淀長氏の映画に注ぐ愛情が溢れんばかりに満ちていた。同番組の顔として人気者になった淀長氏は講演会を度々開き、トークの達人と思われていたが、もともとは人前でしゃべるのが苦手だったという。中学のときに教師から全校生徒の前でしゃべるよう命じられ、ギリシャ神話に登場する女神がひとりの美少年を見初めて水仙に変えてしまった逸話を話したところ、学校中の失笑を買ってしまった。淀長氏の少年時代の中学校では、全校生徒の前に立つ男子生徒は柔道大会に向けた決意などを語るのが普通だったからだ。その一件以来、淀長氏は人前でしゃべることは自分には不向きだと思うようになった。  その後、成人した淀長氏は幼少の頃から親しみ憧れていた映画の世界に飛び込み、映画配給会社の宣伝マンを経て、映画雑誌『映画の友』の編集長として活躍。雑誌の愛読者である若者たちを集めては懇親会を開いて、交流を楽しんでいた。同じ映画好きな若者たちが相手なら、淀長氏はそれこそ淀むことなく延々と映画エピソードを語り続けることができた。その様子を見ていた人物が後にテレビ朝日(当時はNETテレビ)のプロデューサーとなり、『日曜洋画劇場』の前番組だったテレビ映画『ララミー牧場』の解説者に淀長氏を起用する。淀長氏はテレビでしゃべることに抵抗があったそうだが、『ララミー牧場』にジャズの名曲「スターダスト」の作曲家ホーギー・カーマイケルが俳優として出演していたことから、出演をOKしたそうだ。最初はこわばっていた淀長氏の表情も、プロデューサーやスポンサーの理解があり、持ち前の人なつこい表情と大阪弁ほどキツくない神戸なまりの味のある口調が次第に生きてくるようになった。以降、エンディングで「さよなら、さよなら、さよなら」と手をニギニギする“ニギニギおじさん”としてお茶の間に定着する。淀長氏が愛する洋画を題材に、苦手意識のあった“トーク”を克服することで、豊饒なる世界が開けていった。  淀長氏というと、生涯を独身で通したことでも知られる。淀長氏本人が「映画と結婚した」と語っていたことでも有名だ。家庭を持つことで私生活にエネルギーを割くことになるよりも、自分の愛する映画に全エネルギーを注ぎたいという想いからだった。また、重度のマザコンだったこと、若い頃に男性に惹かれる性癖があったこともカミングアウトしていた。淀長氏が小さな男の子から「なんで結婚しないの?」と質問され、「ボクはね、結婚しないことで男の視線からも女の視線からも映画を観ることができるんですよ」と答えていたのを記憶している。女神に見初められて水仙になった美少年のように、映画を愛し、映画にも愛された淀長氏は性別を超越した存在となった。来日したアーノルド・シュワルツェネッガーの大事な部分に淀長氏がさりげなくタッチしても、シュワちゃんはガハハ笑いで済ませていたそうだ。また、淀長氏をインタビューする男性記者の中にぽっちゃりタイプがいると、「後で一緒にお風呂に入りましょうねぇ」とジョーク交じりに声を掛けた。声を掛けられた男性記者は「あのヨドチョーさんにお風呂に誘われた!」と喜んだ。『プロジェクトA』(83)の解説では「サモ・ハン・キンポー。キをチと間違えないようにしてくださいねぇ」と巧みに下ネタを全国にオンエアした。  本当に映画を愛しているのなら、放送枠に合わせてオリジナル版をカットし、日本語に吹き替えるテレビ版の仕事は断るべきではないのかと批判する声もあったが、淀長氏が32年間にもわたってテレビ解説を続けることができたのは、映画に関する豊富な知識だけでなく、物事に対するポジティブな考え方があったからだろう。明治、大正、昭和、平成と4つの時代を生きた淀長氏は映画文化の黎明期から黄金期の名作を浴びるように観ながら育ってきたが、新作を否定せずに受け入れた。「今の映画はクズ。昔の映画はよかった」という安易な論調に走らず、新しい映画の技術的な進化やキャラクターの心理描写などの演出力の向上に着目した。テレビやビデオが各家庭に普及することで、映画の面白さを知る人が増えると肯定的に捉えた。テレビで温和な表情を見せる一方、「どうせ、こんな映画はヒットしませんよ」と自分が担当する映画に情熱を持たない宣伝マンは容赦なく叱責した。  講演会では「私はこれまで生きてきた中で、一度も嫌いな人に遭ったことがない」と口にしていたが、これも淀長氏のポジティブさを表す言葉だろう。実際には淀長氏が気に食わない業界人はいくらでもいただろうし、評論家としての知名度が上がれば上がるほどアンチの声も高まったはず。だが、「嫌いな人間はいない」と公言することで、自己暗示に掛けるのと同時に、ひと癖もふた癖もある業界人たちを自分の間合いの中に取り込んでいたのだろう。淀長氏が長寿をまっとうしたのは、自分の好きなことを仕事にできたことだけでなく、ポジティブな考え方が大きく影響していたように思える。  淀長氏は晩年の11年間を、当時は六本木アークヒルズにあったテレビ朝日本社に隣接する東京全日空ホテル34階のジュニアスイートで暮らした。鶴見に自宅があったが、両親を看取った後はひとり身だったため、テレビの収録や映画の試写へ行くのに便利な都心のホテルでの生活を選んだ。映画館と同じで、ホテルではひとりの時間を楽しむことができ、でも周囲に人の気配を感じることで孤独感に悩まされずに済む。高級ホテルでの生活というと享楽的な印象があるが、淀長氏はいつ不測の事態に陥っても周囲に迷惑が掛からないよう、葬式代と遺書を用意していた。来るべき日を常に意識してのホテル暮らしだった。全日空ホテルの高層階ラウンジから見渡せる都会の夕焼けを眺めながら、近くで働いていたホテルのスタッフに「キミもちょっと仕事をするのをやめて一緒に見ようよ」と声を掛けていたそうだ。懇意にしていたホテルのスタッフが懐かしそうに回顧している。淀長氏は映画評論の大家であり、“おひとりさま”ライフの先駆者でもあった。  2006年に発売された『日曜洋画劇場』の40周年記念DVD『淀川長治の名画解説』には、名作50本の解説に加え、特典として最後の解説となった『ラストマン・スタンディング』(96)が収録されていたが、今回の『淀川長治の名画解説DX』はアクション、コメディ、ラブロマンス、SF、西部劇……とジャンルごとにセレクトした200本を600分にわたって収録。主人公の2人がホモセクシャルの関係にあることに言及した『太陽がいっぱい』(60)をはじめとする淀長氏の名調子に触れると、すでに何度も観ているはずの作品やスルーしていた作品も、無性に気になってくる。時間が経過しても色褪せないその感染力には驚くばかりである。淀川長治氏は性別も時代も超越した、映画の伝道師だった。 (文=長野辰次) ●『日曜洋画劇場45周年記念 淀川長治の名画解説DX』 BOX5枚組(本編4枚+特典1枚)『熱き血潮篇』『夢見る瞳に乾杯篇』『明日への希望篇』『真理と感慨篇』の各巻に50タイトル、全200タイトルを収録。特典ディスクには番組の撮影風景、全日空ホテルでの仕事風景などの映像も収録。『日曜洋画劇場』の放送全ラインアップと全200作品の解説をまとめた特典冊子付き。BOX価格/10,500円(税込み) 発売元/ビデオ・パック・ニッポン 販売元/ポニーキャニオン 2012年2月より発売中
日曜洋画劇場45周年記念 淀川長治の名画解説DX 「さよなら、さよなら、さよなら」 amazon_associate_logo.jpg
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