
2万個の木のボールが敷き詰められた「木の砂場」で寝転がる。
「当館は大人が本気で遊ぶ美術館ですので、十分に体調を整えていらしてください」
『東京おもちゃ美術館』に取材依頼をしたら、こんなことを言われた。四谷の廃校を改装して作られた『東京おもちゃ美術館』は、知る人ぞ知る“全力で遊べる美術館”。展示物の7割を触って楽しめるのだという。一体どんなハードなおもちゃ遊びが待っているのだろうか……。十分な睡眠をとった8月某日、現地へ行ってきた。
校舎の教室をそのまま展示室として使い、部屋ごとにそれぞれ「テーブルゲーム系おもちゃ」「昭和系おもちゃ」などテーマが設けられているが、できることは大きく分けて「見る」「作る」「遊ぶ」の3つ。
【おもちゃを見る】……「グッド・トイ展示室」「企画展示室」
【おもちゃを作る】……「おもちゃ工房」
【おもちゃで遊ぶ】……「おもちゃの森」「グッド・トイ展示室」「おもちゃの街 赤」「おもちゃの街 黄色」「ゲームの部屋」
そう、とにかく展示物の数も部屋の数もべらぼうに多い。館内案内図をもらった瞬間、「十分に体調を整えて~~」の意味が分かった。すべての展示おもちゃで遊ぼうとすると、半日は悠に過ごせる。
まずは受付近くの「グッド・トイ展示室」へ。色や形、感触、コミュニケーション性などの観点から選考された歴代の「グッド・トイ」が並ぶ部屋だ。展示のみのものもあるが、触って遊べるものがほとんど。夏休みという時期柄、やはり親子連れは多いが、中には若者が何かに取り憑かれたように木のおもちゃを積み上げている姿も……。単調ながらも病みつきになるタイプのおもちゃが多かった。

「グッド・トイ展示室」
隣の部屋に入ると、そこは「企画展示室」だった。年に数回、さまざまなテーマに沿って作品が飾られるこの部屋、今は日本の都道府県の伝統おもちゃが所狭しと並べられていた。ただ、館内で唯一、触って遊べるものがない展示のみの部屋だからか、やや閑散としていて、ほかの部屋と比べると華やぎに欠ける。ショーケースに近づいてよく見ると、味わい深い人形が多いのに……。

「道祖神土鈴(長野)」。この二頭身と唇の存在感。袖には「米」の字が。

「岐阜の張り子(岐阜)」。見透かされているような目。

「八朔人形(栃木)」。質素な顔立ちが、いい味を出している。
けん玉やだるま落としなど、昔ながらの昭和おもちゃを堪能できるのが「おもちゃの街 赤」の部屋。その隣の「おもちゃの街 黄色」では、ドイツのオストハイマー社製の高級な木のおもちゃや、一風変わったサイエンストイなどで遊べる。

構造学を学ぶおもちゃ「スフィア」。ボール程度大からぐんと広がる。
これだけでもずいぶんな数のおもちゃと触れ合ったが、ここまででまだ半分。部屋だけでなく、廊下にもところどころにおもちゃが置いてあり、通りすがりに軽く遊びつつ、次の部屋を目指す。部屋と部屋の移動ですら絶え間なくおもちゃ。ストイックにおもちゃ。おもちゃ以外のことを考える余裕もない。

足の倍くらいの大きさの巨大ぽっくり。「モクバイク」というおもちゃだ。
奥の部屋「おもちゃ工房」では、かざぐるま作り体験をやっていたので参加してみた(作るおもちゃは日替わり)。

ボランティアスタッフの“おもちゃ学芸員”さんに教えを請う。
上の写真では、楽しそうにスタッフさんに教わっているように見えるが、折り方の表裏を間違え、糊を塗る場所を勘違いしと、あらゆるドラマチックな出来事があった後の、付きっきりで教えてもらってホッとしている図である。図工の授業では誰よりも作品の完成が遅かった記憶が蘇った。工作が不得手な星の下に生まれた以上、もう一生こうなのだろう……。

居残り……。他の参加者はとっくに完成。
意外と没頭するのが、世界中のアナログゲームを体験できる「ゲームの部屋」。見覚えのあるボードゲームにテーブルサッカー、正式名称のよく分からない中国の謎のパズルなどが置いてある。日によっては日本テーブルサッカー協会の日本代表選手が教えに来てくれることもあるらしい。

独楽を回してボウリングをするおもちゃ。

中国のパズル。球体を組み合わせてピラミッドを作る。
そして、最後にして最大のおもちゃ部屋「おもちゃの森」。入った瞬間、ふわっと木の香りに包まれるこの空間は、木のおもちゃを通して森林浴をする部屋だ。木の人形や積木、楽器などの正統派に混じって、箱いっぱいに詰まったそろばんの玉のコーナーが……! おもちゃの美術館なのに、なぜそろばん? と冷静になった今となっては思う。だが、そろばん玉を前にしたときは、それどころではなかった。そろばんの玉といえば、触り心地に定評がある。誰しも、そろばんの玉の一粒一粒をこう、指の腹でツルツル撫でたこと、あるでしょう? あのツルツルが、箱の中に10万個も詰まっているというのだ。干し草のベッド、ねこバス、と並んで、10万個のそろばん玉の中に手を入れるのは憧れの体験なのだ。
そろばん玉の中に、そろばんの枠を入れ、ガサガサと左右に動かし、そろばん作りの過程の一部も体験できる。玉をたくさん拾うには、枠を左右に動かす際に八の字を描くようにするといいそうだ。

永遠にこのツルツルの中にいたい。

特大サイズのそろばんもあった。
そろばんで気持ちが高ぶりすぎて、すっかりクライマックスのような口ぶりになってしまったが、本当のクライマックスはこちら、「木の砂場」である。館内のエース的存在で、これ目当てに来るお客さんも少なくない。北海道産の木で作られた丸い楕円形のボールが2万個敷き詰められた“砂場”。

座るもよし、寝るもよし。埋まるもよし。
●もり度
★★★★★
盛りだくさんの『東京おもちゃ美術館』、外せないのは「おもちゃの森」。他は、和モノが好きなら「おもちゃの街 赤」、変わり種が好きなら「おもちゃの街 黄色」へ。「ゲームの部屋」以外は一人で遊べるおもちゃが多いため、ぼっち参戦も可能。
(取材・文=朝井麻由美)
●「東京おもちゃ美術館」
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http://goodtoy.org/ttm/>
新宿区四谷4-20 四谷ひろば内。丸ノ内線四谷三丁目より徒歩7分。開館時間は10:00~16:00、木曜休館。入館料は子ども500円(3歳~小学生)、大人700円(中学生以上)。なお、「おもちゃ工房」のおもちゃ作り体験は、土日は予約制、平日は午後ならいつでも参加可能。なお、’13年11月に沖縄県に姉妹館「やんばる森のおもちゃ美術館」( http://goodtoy.org/ttm/curator/yambaru.html )が設立される予定。
◆「散歩師・朝井がゆく」過去記事はこちらから