スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』

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自分の体を危険な場所にさらすことでしかアイデンティティーを見出せない
バーニー(シルベスター・スタローン)をボスとする傭兵集団『エクスペンダブルズ』。
R15だけど、『ランボー 最後の戦場』に比べると残酷描写は控えめ。
(c) 2010 ALTA VISTA PRODUCTIONS, INC
 吠えろ、肉! ロケットランチャーのごとく解き放て、己の拳を! 血と汗とアドレナリンをジェット噴射して、あの空の向こうまで飛んでいけ! アクション俳優の第一人者シルベスター・スタローンのもとに、"梁山泊"の英傑たちのように筋肉バカたちが続々と馳せ参じた。『トランスポーター』(02)のジェイソン・ステイサム、『HERO』(02)のジェット・リー、『ロッキー4/炎の友情』(85)のドルフ・ラングレン、総合格闘技アルティメット大会のヘビー級王者ランディ・クートゥア、元プロフットボウラーのテリー・クルーズ。さらに『レスラー』(08)で復活を遂げたミッキー・ローク、『ダイ・ハード』(88)のブルース・ウィリス、スタローンとは商売敵だったアーノルド・シュワルツェネッガー州知事まで。ハリウッド史上類を見ない"筋肉共和国"が誕生した。彼らが集まったのには大きな目的がある。近年の映画界を席巻するコンピューターグラフィックスの脅威と戦うためだ。彼らの名前は『エクスペンダブルズ』(消耗品軍団)。10月16日、いよいよ筋肉バカ軍団が日本に上陸する。  スタローンが新旧アクション俳優たちを大同団結させるという超ヘビー級なこの企画を耳にしたときは小躍りするのと同時に、「完成するのか? 途中で空中分解するんじゃないのか?」という不安がよぎった。しかし、今年64歳になるスタローンの人徳、人望の前ではそんなケチな心配は無用だった。筋肉バカたちの結束は傍が思うよりも、ずっと固かったのだ。生身のアクションのすごさを、アクション俳優の生き様をスクリーンに叩き付けてやれ。安易なCG映画がはびこる映画界に、彼らは"筋肉バカ、ここにありき"という熱いクサビをビシッと打ち込んでみせた。  ご存知のとおり、スタローンはそれまでポルノ映画しか主演作がない無名俳優でありながら、29歳のときに3日間で書き上げた『ロッキー』(76)の脚本を「主演はオレだ」を条件に映画会社に売り込んで見事にアメリカンドリームを体現した男。『ロッキー』はアカデミー賞作品賞を受賞するなど大成功を収めたが、その後はゴールデンラズベリー賞13年連続ノミネート&20世紀最低主演男優賞受賞という前人未到の怪挙を達成するわ、前夫人ブリジット・ニールセンからは高額の慰謝料をふんだくられるわ、『ランボー3/怒りのアフガン』(88)は冷戦終結に水を差すと大バッシングを浴びるわ、『ロッキー・ザ・ファイナル』(06)のプロモーションのために入国したオーストラリアではステロイド所持で起訴されるわ、実に起伏の多い人生を歩んできた。だが生存競争が激しく、アクション俳優をそれこそ"消耗品"のように扱うハリウッドで35年間にわたってサバイバルしてきたスタローンを、現役バリバリのステイサムも東洋からの来客ジェット・リーも、レスリングのやりすぎで耳がギョウザ状態になっているランディ・クートゥアも、み~んなリスペクトしてやまない。俳優としての限界を知り、政界に転職したシュワルツェネッガーにしてもそれは同じ。小難しい文芸路線に走ることなく、どこまでもマッチョ街道を突き進む"大根役者"スタローンのことが大好きなのだ。  豪華キャストでいえば、すでにスタローンはジャッキー・チェン、ウーピー・ゴールドバーグとは共演済み。ただし、これは『アラン・スミシー・フィルム』(98)という日本未公開のトホホ系業界コメディ。スタローンは本人役でジャッキー、ウーピーと共に劇中劇『NYトリオコップ』でショットガンと寒々しい空気をぶっ放していた。90年代のスタローンは度々コメディに挑戦しては、滑りまくっていた。ところが、どーだ。本作ではシュワルツェネッガー、ブルース・ウィリスとのアクション界BIG3夢の共演シーンで大いに楽屋ネタで笑わせてくれるのではないか。「オレにはアクション映画しかねーよ」というスタローンの開き直りの美学がステイサムのおでこ以上に輝いている。ビバ、筋肉!!
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『ロッキー4/炎の友情』以来の共演となった
ドルフ・ラングレンを引き連れて来日した
シルベスター・スタローン。「大作への出演は
『ロッキー4』以来。スタローンには感謝してる」
とドルフはコメント。
 『エクスペンダブルズ』のストーリーは単純明快だ。一般市民はもちろん、米国政府も手を出せないヤバい紛争地域が、バーニー(スタローン)率いる傭兵集団"エクスペンダブルズ"の任務先。彼らは危険な場所で体を張ることでしか生きていけない。成功時の報酬は高額だが、あの世逝きになっても人知れず消えていくだけ。ソマリアの海賊どもを皆殺しにしたのも束の間、バーニーたちに新しい仕事が届く。麻薬の栽培で儲けている南米の島国を牛耳る軍事政権の独裁者を抹殺せよと。鳥類研究家に扮したバーニーは片腕のクリスマス(ジェイソン・ステイサム)を伴って偵察のために孤島に潜入するが、島の警備兵たちは筋肉ムキムキのバーニーを鳥類研究家だとは信じず(当たり前だよ)、危機一髪のところをクリスマスが桟橋を大爆破して脱出する。偵察どころか、相手の警戒心を強めただけ。仕事内容はかなり荒っぽいよ。  一度はケチのついた仕事だが、バーニーは島で出会った女サンドラ(ジゼル・イティエ)のことが忘れられない。自分の生まれ育った島を守るために「一緒に逃げよう」というバーニーの申し出を断ったタフな女。そんな女・サンドラにバーニーは勝手に惚れ込んでしまい、政府軍に捕らわれたサンドラを救出するために、バーニーは危険を冒して島へ再び向かう。バーニーをひとりで向かわせるわけにも行かず、クリスマスにマーシャルアーツの達人・ヤン(ジェット・リー)たち仲間も同行するはめに。綿密な作戦なんかもちろんなし。鍛え上げた自分の肉体を信じて、敵の本拠地を強襲するのみ。百姓娘をお姫さまと思い込んで、風車小屋に突撃するドン・キホーテと同じだね。筋肉の鎧の下には、男たちの小中学生レベルのピュアハートが隠されていたのだった。筋肉バカたちのなけなしの純情ぶりに、思わず鼻の奥がツーン。  クライマックスは、敵軍側の元WWE人気レスラー"ストーン・コールド"スティーブ・オースティンも加わって、マッチョたちの大饗宴。歌えよ、筋肉! 踊れや、筋肉! 肉と肉がぶつかり合い、骨と骨とが軋む合間を縫うように銃弾が飛び交い、爆風が吹き荒れる。スタローンは知っている、60歳を過ぎながらボクサー体型に絞り込んだ『ロッキー・ザ・ファイナル』や半年間にわたってミャンマーとの国境近くのタイのジャングルでロケ撮影を続けた『ランボー 最後の戦場』(08)のように、己の肉体を限界まで追い込むことで初めて観客たちはスクリーンの中の自分に感情移入してくれることを。  9月に来日した際にスタローンは『エクスペンダブルズ』の続編が来年3月にクランクインすると語った。今回はスケジュールが合わずに見送られた"筋肉男爵"ジャン・クロード・ヴァンダムの出演もあるのか。米国の"Vシネ・キング"スティーヴン・セガールの出演はどうなのか。スタローンは筋肉バカ軍団をさらに増強する目論みのようだが、はたしてCG映画の世界制覇にどこまで逆らうことができるのだろうか。無謀であることを承知で老兵スタローンは闘い続ける。それは、最後の最後まで闘う姿を見せることがスタローンのアイデンティティーだからだ。 (文=長野辰次) expentable03.jpg 『エクスペンダブルズ』 監督/シルベスター・スタローン 出演/シルベスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ドルフ・ラングレン、エリック・ロバーツ、ランディ・クートゥア、スティーブ・オースティン、デヴィッド・ザヤス、ジゼル・イティエ、カリスマ・カーペンター、テリー・クルーズ、ミッキー・ローク、ブルース・ウィリス、アーノルド・シュワルツェネッガー 配給/松竹 10月16日(土)より全国ロードショー R15 <www.expendables.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

じわじわと追い込まれる緊張感に耐えられるか!? SF映画『パンドラム』

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 今年のアカデミー賞にもノミネートされた『第9地区』や、月面でひとり黙々と任務を遂行する男の孤独を描いた『月に囚われた男』など、比較的低予算ながら良質のSF映画が最近脚光を浴びている。CGを駆使したド派手なアクションシーンに頼らずとも、説得力のある設定と練り込んだストーリーで観客を魅了する、そんな心意気の作品が評価されているようだ。今回紹介する『パンドラム』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント配給、10月1日公開)も、そうした作品群に加わるであろう注目作だ。  世界人口が膨れ上がる一方で、限られた資源の争奪が激化し、滅亡の危機に瀕した西暦2174年。人類は地球によく似た環境を持つ惑星タニスへの移住計画を実行し、選ばれた者と各種動植物を乗せた宇宙船エリジウムを送り出す。やがて2人の宇宙飛行士、バウアー伍長(ベン・フォスター)とペイトン中尉(デニス・クエイド)が目を覚ますが、冷凍睡眠の影響で記憶を失っている。艦橋への扉は閉ざされ、他の乗組員も見当たらない。動力と電力を供給する原子炉が不調で、わずかな残り時間のうちに再起動をかけないと自爆してしまう。薄暗い船内を探りながら原子炉を目指すバウアーは、異形の凶暴な"何か"から襲撃される......。  物語の鍵は、タイトルにもなっている「パンドラム」。これは軌道機能不全症候群と訳されているが、宇宙船内で生じる閉所恐怖症による心理的障害で、神経症や誇大妄想をもたらすもの。宇宙船の謎だらけの危機的状況に、クルーたちを内面からじわじわと蝕む精神の病が加わり、観客の緊張感と恐怖心もますますあおられることになる。  監督を務めたのはドイツの新鋭クリスチャン・アルバートで、製作は『バイオハザード』シリーズのポール・W・S・アンダーソン監督。本作が実質的な映画デビューとなるドイツ人女優アンチュ・トラウチェが、戦闘とサバイバルに長けた"女版ランボー"のような役でワイルドな魅力を放っている。  『エイリアン』(79年)を想起させる宇宙船内での"異なる存在"との対決。『アンノウン』(06年)のように閉所で登場人物たちの記憶が失われているという状況。『猿の惑星』(68年)を彷彿とさせる終盤の印象的なシーン。過去の名作、話題作の要素を巧みに取り入れ、SF、アクション、ホラー、サイコスリラーの各ジャンルをバランス良く組み合わせた本作は、意外にお得感もあり、この秋じっくり作品に向かい合いたいという映画ファンにオススメの一本だ。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 『パンドラム』作品情報 <http://eiga.com/movie/53908/>
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刑事映画へのオマージュ満載!『コップ・アウト 刑事(デカ)した奴ら』

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(C)2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. 
公式サイト<http://www.cop-out.jp>
 刑事物のバディ・ムービーはハリウッド映画の定番。そして、アクション映画の刑事役が最も似合うハリウッドスターと言えば、もちろん『ダイ・ハード』シリーズのブルース・ウィリス! 9月4日から公開される『コップ・アウト 刑事(デカ)した奴ら』(ワーナー・ブラザース映画配給)は、そんなウィリスが主演したポリス・アクション・コメディー最新作だ。  ニューヨーク市警のベテラン刑事ジム(ウィリス)は、相棒のポールと共に麻薬密売ルートを探る捜査の途中で大失態を犯し、停職処分を受ける。給料も止められて金欠の折、離婚した妻とリッチな再婚相手のもとで暮らす愛娘の結婚式代を、実父のプライドに賭けて支払うことに。そこで、超レア物の野球選手カードを換金しようとショップに持ち込むが、遭遇した強盗にカードを盗まれてしまう。ジムが相棒と懸命に探すカードの行方は、麻薬密売を仕切るギャング団のリーダーとつながっていた......。  監督のケビン・スミスは、少々世間からズレた店員たちの日常の描写と、映画・漫画オタクらしいネタを軽妙な会話に盛り込んだ『クラークス』シリーズなどで知られ、マニアックな映画ファンから支持を集めてきた。俳優としての出演作も多く、『ダイ・ハード4.0』では素顔に近い映画オタクなハッカー役でウィリスと共演。本作はスミス監督の自作脚本ではないものの、彼のそうした資質が刑事映画への「オマージュ」という形で発揮されている。  特に冒頭の取調室の場面では、ポール役を演じるトレイシー・モーガンが、代表的な刑事映画の名台詞再現をアクション付きで連発し、コメディアンとしてのキャリアで鍛えた物まね芸を披露。それ以降も、刑事物のお約束を微妙にズラしたネタが、会話シーンやアクション場面の中に次々登場する。  ポールがフランス語由来の「オマージュ」を間違って発音する台詞に象徴されるように、刑事物の定型をスミス監督流の愛で"変奏"した本作。気の合う仲間と鑑賞して、見終わった後にどれだけ元ネタが分かったかで盛り上がる楽しみもある。映画好き、特に刑事物が大好きな人にオススメしたい。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) ・『コップ・アウト 刑事(デカ)した奴ら』作品情報 <http://eiga.com/movie/54687/>
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3Dで臨場感が倍増! 手に汗握る格闘シーン満載『バイオハザードIV』

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 数多あるゲーム原作のアクション映画の中でも、ミラ・ジョボビッチ主演の『バイオハザード』シリーズは、知名度と興収の点で横綱級の存在。その第4作『バイオハザードIV アフターライフ』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント配給、9月10日公開)は、シリーズ初の3D映画でもあり、最新の映像技術によるスタイリッシュな格闘アクションを体感できる娯楽作だ。  物語の始まりは、東京・渋谷のスクランブル交差点。T-ウイルスに感染した少女(中島美嘉)が通行人を襲い、人間をアンデッドに変える感染が一気に広がる。4年後、東京の地下でウェスカー(ショーン・ロバーツ)のもと新たな研究を進めるアンブレラ社の本部を、アリス(ジョボビッチ)が急襲。ウェスカーは小型機で脱出して核爆弾で施設もろとも関東一円を破壊し、密かに乗り込んでいたアリスの息の根を止めようとするが、その瞬間、機は山腹に激突――。  事故から生還したアリスは、感染のない安全な場所と生存者たちを求めて、アラスカへ、そしてロサンゼルスへと移動。アンデッドに取り囲まれたロスの刑務所で生存者らと合流したアリスは、沖合に停泊するアルカディア号へ全員で脱出を図るが......。  シリーズ第1作『バイオハザード』(02)でメガホンを取ったポール・W・S・アンダーソンは、2~3作目では製作・脚本に回っていたが、本作で監督に復帰。ジェームズ・キャメロン監督からアドバイスを受け、『アバター』(09)と同じ「フュージョン・カメラ・システム」を採用、全編3D撮影・製作を敢行した(『アリス・イン・ワンダーランド』や『タイタンの戦い』など、今年公開された話題の3D大作は、いずれも2Dで撮影されたものを3Dに変換した作品だった)。3Dでの格闘シーンは、両者の位置関係や距離感がより鮮明になるため従来の方法が通用せず、アクションや演出でリアルに見せるための新たな工夫が盛り込まれたという。  その甲斐あって、ミラの激しくもしなやかな体の動き、飛び交う銃弾や刃物、スクリーンを横切る巨大な斧といった被写体に実体感が伴い、不意に飛び出してくると思わず体をのけぞらせたくなるほど。アクションゲームの映画化ゆえ、観客が作品世界に没入して自らプレイする感覚はシリーズに共通するが、3D映画になったことで臨場感がさらに高まり、敵と戦う場面の興奮と勝利の高揚感も増している。  カプコンの人気ゲームが原作ということも手伝って、日本での興収は1作目が23億円、第2作『バイオハザードII アポカリプス』(04)27億円、第3作『バイオハザードIII』(07)28.5億円と順調に伸ばしてきた同シリーズ。3D化された本作がさらに飛躍できるかどうかも注目される。ゲームファンやアクション映画好きはもちろんのこと、最新の映像技術に触れたいマニアにもぜひ見てほしい意欲作だ。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 『バイオハザードIV アフターライフ』作品情報 <http://eiga.com/movie/55205/>
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女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』

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『ミレニアム2 火と戯れる女』より。リスベットは犯罪組織の黒幕"ザラ"と対決。
無痛症の巨人も現われ、リスベットは苦戦を強いられる。
(C)Yellow Bird Millennium Rights AB, Nordisk Film, Sveriges Television AB, Film I Vast 2009
 まるでディズニーランドのようにチリひとつ落ちていない、美しく清潔な北欧の街で、DV、性的虐待、人身売買、強制売春、連続殺人......と、おぞましいしい事件が次々と発覚する。世界的な大ベストセラーとなった『ミレニアム』三部作(早川書房)はスウェーデンが舞台だ。男女平等、福祉社会の見本とされている洗練されたモダン国家・スウェーデンだが、当然ながら社会の裏側に回れば、そこには洗練されることのない人間の性衝動、システム化の進んだ社会ゆえの、ねじれ曲がって歪んだ欲望が渦巻いている。『ミレニアム』シリーズの女性調査員・リスベットは、ミステリー史上最強にして最凶のヒロインだ。弁護士、医者、大富豪、政治家といった権力者たちが地位や名声を隠れ蓑にして社会的弱者である女性や子どもたちをいたぶり、慰みものにしていることを断じて許さず、徹底的に追い詰める。身長154cm体重42kgと痩せた少年のような体型のリスベットだが、鼻にはピアス、鋲つきのパンクファッション、そして背中には大きなドラゴン・タトゥーを背負う。多感な少女時代を精神病院の閉鎖病棟で不当に過ごしたリスベットは、ちょっとでも気を緩めると自分のトラウマに押し潰されそうになる。その恐怖を踏みこらえるために全身にピアスとタトゥーを刻んでいるのだ。  日本で1月に公開された映画『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』では, リスベット(ノオミ・ラパス)は天才的ハッカー、そして映像記憶能力という特殊な才能を発揮し、社会派雑誌「ミレニアム」の記者ミカエル(ミカエル・ニクヴィスト)と共に巨大企業の経営者一族に隠された少女失踪事件の真相を暴いてみせた。第1部『ドラゴン・タトゥーの女』が1話完結の密室ミステリーとしての味わいがあったのに対し、9月11日(土)より連続上映される『ミレニアム2 火と戯れる女』『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』は2部構成のハードボイルドタッチの社会派サスペンスだ。世界を揺るがす秘密組織との戦いへとスケールアップしている。『ドラゴン・タトゥーの女』ではリスベットが後見人である性悪弁護士ビュルマンからSEXを強要されるくだりが描かれていたが、『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』ではリスベットの忌まわしい生い立ち、精神病院で虐待された地獄の少女時代が明らかにされていく。リスベットは洗練されたモダン社会の中で虐げられてきた女性や子ども、医師や弁護士の一方的な判断で社会的不適合者の烙印を押された人々の怒りや哀しみを一身に背負ったキャラクターだったのだ。  3部作を通してリスベットを演じたノオミ・パラスの素顔はチャーミングな北欧美女だ。「キネマ旬報」(10年1月15日号)のインタビューで、パラスは「スウェーデンという国は他所から見れば表面的にはすごく平穏で、問題のあまりない国のように映る。ところが内部には暗い面があって、それについて人は語ろうともしないし、存在することも認めようとしない傾向にある」と語っている。ハリウッドでのリメイク版は、『セブン』(95)、『ファイト・クラブ』(99)のデヴィッド・フィンチャーが監督することが決定。ミカエル役は『007』シリーズで生身のジェームズ・ボンドを演じたダニエル・クレイグ。気になるリスベット役は、海賊映画からの卒業を表明したキーラ・ナイトレイ、アミダラ姫ことナタリー・ポートマン、『プリティ・プリンセス』(01)のアン・ハサウェイらが名乗りを挙げての争奪戦となった。結局はリメイク版『エルム街の悪夢』(10)の新人女優ルーニー・マーラにお鉢が回った形だが、ハリウッドの人気女優たちが自分の今までのイメージをぶち壊すのにリスベット役を渇望したことは容易に理解できる。女を憎む暴力的な男たちを次々と処刑台送りにするリスベットという異形のヒロイン像は、それほどまでに魅惑的だ。
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ダメ男は私が裁いてあげる! 加護亜依が
『ミレニアム2&3』の宣伝部長に就任。
ヒロイン・リスベットを模したゴスメイク&
ソフトモヒカンヘアでイベントに登壇した。
 『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』の日本公開にあたり、宣伝部長として加護亜依がリスベットばりのボンテージ衣装で試写イベントに登壇した。小さな体ながら、踏まれても踏まれても立ち上がる強靭な精神の持ち主であることが起用理由とのこと。気持ち良さげに女王さまファッションを披露した加護ちゃんは「リスベットって、本当は強くなくてコドクな女性。それでタトゥーやピアスなどで、自分の中の痛みと強さを表現しているんじゃないかと思う。彼女の強さの中にあるコドクな一面に惹かれますね」と語った。喫煙問題からハロー!プロジェクトを離れ、今はひとりぼっちで慣れないジャズを歌う加護ちゃんも、巨大権力を物ともせずに戦い続ける孤高のヒロインに人一倍シンパシーを抱いているらしい。  ひとりぼっちで戦ってきたリスベットだが、『ドラゴン・タトゥーの女』で少年がそのまま大きくなったような正義漢・ミカエルに出会ったのに続き、『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』ではリスベットを守ろうとする仲間が次々と現れる。2メートルの巨人男が殺人マシーンさながらにリスベットに迫るが、リスベットのレズフレンドであるミリアム・ウーや元プロボクサーであるパロオ・ロベルトらが体を張ってリスベットを守る。世間からは社会的落伍者と見なされているハッカー仲間の"疫病神"さえも、数少ない友人であるリスベットの窮地を救うために部屋を飛び出して、夜のストックホルムを走り回る。殺人容疑を掛けられたリスベットが被告席に立つ裁判では、ミカエル、警備会社の元上司、"疫病神"たちが傍聴席からリスベットを見守る。リスベットこそ、神なき時代の信じうる高潔な女神であることを彼らは知っているのだ。ピアスやタトゥーで覆われた肉体の中には、とても純粋な魂が隠されており、その魂こそこの世で真っ先に救済されるべきものだと彼らは信じている。
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シリーズ完結編『ミレニアム3 眠れる女と
狂卓の騎士』は法廷劇へと展開。事件の真相を
つかんだ雑誌記者ミカエルにも危険が迫る。
 自分の殻の中に籠っていたリスベットは、ミカエルとのSEXを済ませた後はそそくさと自分のベッドに戻る様子が『ドラゴン・タトゥーの女』で描かれていたが、そんなリスベットのクールな態度が、シリーズ完結編『眠れる女と狂卓の騎士』では変化し始める。裁判を通してリスベットの思い出したくない過去がえぐり出されるが、同時にリスベットは自分のために尽力してくれる人たちの存在を受け入れていく。巨人との戦いで重傷を追ったリスベットを献身的に治療した医者のアンデルスには「病院食じゃなくて、ピザが食べたい」と甘えてみせる。裁判中の拘置所では女刑務官の「必要なものがあれば言って」という申し出に、「じゃあ、タバコ」と軽口まで叩くようになる。『ドラゴン・タトゥーの女』では無言に近かったことを思えば、なんという変わりようだろう。  裁判を終えたリスベットはメイクを拭き取り、とても女らしい柔和な表情を浮かべる。現代社会の人身御供、もしくは殉教者的存在だったリスベットが、生きた人間、ひとりの女性になった瞬間である。北欧神話では神々は巨人族との戦いの果てに滅亡への道をたどるが、リスベットは戦う女神からひとりの女性になることで目の前に広がる現実社会で生きて行くことを選択する。まがまがしくドロドロした人間社会だが、リスベットは自分はひとりぼっちではないことを実感する。 (文=長野辰次) m4.jpg 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』 原作/スティーグ・ラーソン 監督/ニールス・アルゼン・オプレブ 出演/ミカエル・ニクヴィスト、ノオミ・ラパス、スベン・バーティル・タウベ、レーナ・エンドレ 販売元/アミューズソフトエンタテインメント 定価(税込み)3990円 DVD発売中 『ミレニアム2 火と戯れる女』R-15 『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』PG-12 原作/スティーグ・ラーソン 監督/ダニエル・アルフレッドソン 出演/ミカエル・ニクヴィスト、ノオミ・ラパス、アニカ・ハリン、ペール・オスカーション、レーナ・エンドレ、ゲオルギ・スタイコフ、ミッケ・スプレイツ、ペーテル・アンデション、ソフィア・レダルプ、ヤスミン・ガルビ、ヨハン・シレーン、ターニャ・ロレンツソン、パオロ・ロベルト、アンデルス・アルボム・ローセンダール 配給/ギャガ 9月11日(土)よりシネマライズ渋谷ほかにて連続公開 <http://millennium.gaga.ne.jp>
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 上質サスペンス。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

「ありえねー!!」 トンデモB級アメリカン・ムービー『特攻野郎Aチーム』

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『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(c)2010 TWENTIETH CENTURY FOX
 爆笑! トンデモ! 痛快! 往年のB級アメリカン・ムービーの雰囲気を醸しながらも、現代的なヒネリと洗練が加わった快作2本が、残暑厳しい8月の日本に上陸する。映画で大いに笑ってスカッと暑さを吹き飛ばしたいなら、『ヤギと男と男と壁と』(8月14日公開)と『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(8月20日公開)は要チェックだ。  まず『ヤギと男と男と壁と』は、ノンフィクション本『実録・アメリカ超能力部隊』(文藝春秋)をベースにしたコメディ映画。超能力部隊と聞くだけでトンデモ感が漂うが、米軍が冷戦時代からイラク戦争まで、大まじめで超能力の軍事利用に取り組んでいたというから驚きだ。映画化にあたり、原作の要素を盛り込みつつ、ユーモラスでノスタルジックな味もあるロードムービーに仕上げている。  時は2003年。地方紙記者のボブ(ユアン・マクレガー)は、妻を編集長に寝取られ、傷心のまま戦下のイラクへ取材に向かう。途上のクウェートで、かつて存在した米軍極秘部隊「新地球軍」の超能力隊員リン(ジョージ・クルーニー)に出会い、同行することに。リンの目的は、同軍の設立者ジャンゴ(ジェフ・ブリッジス)を救出すること。かつての超能力マスターは、嫉妬深く邪悪な隊員ラリー(ケビン・スペイシー)に拉致されていた......。  本作の売りは、とにかく豪華な俳優陣。製作も兼ねるジョージ・クルーニーの元に集まった名優たちが、大真面目で超能力者を演じるのだからたまらない。クルーニーがマクレガーに「私はジェダイだ」と言い切る楽屋オチもある(マクレガーはご存知、『スター・ウォーズ』新3部作でジェダイの騎士オビ=ワン・ケノービを演じていた)。とは言え、抱腹絶倒の展開の中にも、"何かを一途に信じること"の素晴らしさと切なさが丁寧に描かれ、作品をピリッと締めている。  一方の『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』は、80年代の人気ドラマ『特攻野郎Aチーム』を、リドリー&トニー・スコット兄弟の製作で映画化。監督は『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』のジョー・カーナハン。  天才戦略家のリーダー・ハンニバル(リーアム・ニーソン)、プレイボーイの調達屋フェイス(ブラッドリー・クーパー)、機械と運転が得意なバラカス、イカレた敏腕パイロットのマードックは、米軍最強の特殊部隊4人組。軍の枠に収まらない強烈な個性を放ちながら、絶妙のチームワークで荒唐無稽な作戦を成功に導く。  そんな彼らが何者かに無実の罪を着せられ、監獄や病院に送られるが、機を見て脱出。再び合流したAチームは、汚名を晴らすため奇抜な作戦を敢行、陰謀の黒幕に迫る......。  予告編ですでに目にしている方も多いと思うが、パラシュートで落下する戦車に乗った4人が、主砲をぶっ放す反動で落下コースを変えて湖に着水するなど、思わず「ありえねー!」と叫びつつ爆笑してしまうシーンが目白押し。理屈抜きに楽しめるし、ブラッドリー・クーパーとジェシカ・ビールによるロマンチックな場面もあるので、デートムービーとしてもオススメしたい。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ヤギと男と男と壁と』作品情報 <http://eiga.com/movie/55080/> 『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』作品情報 <http://eiga.com/movie/55187/>
特攻野郎Aチーム シーズン 1 DVD-SET おうちでも。 amazon_associate_logo.jpg
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米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』

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いかがわしい宗教セミナーではなく、80~90年代に実在した米軍
"超能力部隊"のトレーニング風景。みんなで断食、瞑想、自己解放ダンスに励んでます。
(c)Westgate Films Services,LLC.All Right Reserved.
 細木数子がテレビから消えたと思ったら、お次はパワースポットブーム。日本人は、スピリチュアルねたが大好き。もちろん米国にもそちら系の信仰者は少なくないわけで、米国陸軍には"第一地球大隊"という名称の超能力部隊が80~90年代に実際に存在したそうだ。じっと見つめるだけで、ヤギの心臓が止まってしまう恐ろしいサイキックソルジャーも所属していたというからスゴい! 2004年に出版された『実録・アメリカ超能力部隊』(文春文庫)は、英国のジャーナリストであるジョン・ロンスンが"第一地球大隊"の関係者たちを取材して回ったノンフィクション小説。70年代末から準備がすすめられた"第一地球大隊"のプロジェクトは、当時大ヒット中だった映画『スター・ウォーズ』(77)にちなんで"ジェダイ計画"と命名され、戦わずして世界を平和に導くスーパー戦士の育成に力を注いだという。この本にオカルト雑誌『ムー』(学研)の読者ムー民よりも早く飛びついたのが、ハリウッドの大物俳優ジョージ・クルーニー。自ら主演&プロデュースを買って出て、『スター・ウォーズ』シリーズでおなじみユアン・マクレガーや、ジェフ・ブリッジス、ケヴィン・スペイシーら実力派キャストを集めて、『THE MEN WHO STARE AT GOATS』(邦題『ヤギと男と男と壁と』)として映画化した。   03年、ミシガン州の地方紙記者ボブ(ユアン・マクレガー)は妻の浮気を知り、傷心を抱いたまま、戦時下のイラク取材を志願。道中のホテルで米国人リン・キャシディ(ジョージ・クルーニー)と知り合う。この男こそ、超能力部隊に所属し、"ヤギ殺し"として恐れられたサイキックソルジャーだったのだ。自分はジェダイ戦士であると名乗るリンによると、「世界の紛争地にパラシュートで降り立ち、キラキラ目線や平和の象徴である音楽や小動物を使って争いを解決すること」がジェダイ戦士の使命だそうだ。なんだかな~。キラキラ目線とは、ニッコリ微笑むだけで相手の戦意を喪失させてしまうジェダイ戦士の必殺技。その他、ジェダイ戦士は必要とあれば、自分の姿を相手から見えなくすることも、壁を通り抜けることも可能らしい。出会ってすぐは「特ダネ、いただき!」とリンにすり寄ったボブだが、もうこのへんの話になると呆れて返す言葉もない。  自分こそは超能力戦士と信じて疑わないリンと半信半疑で行動を共にすることになったボブとのロードムービーとして展開する本作だが、角川春樹プロデューサーの半自伝的アニメ『幻魔大戦』(83)や"幸福の科学"が製作した宗教戦争アニメ『仏陀再誕』(09)みたいなド派手なサイキックバトルを期待していると肩すかしを食らうので用心のほどを。『幻魔大戦』や『仏陀再誕』の実写版というよりは、『ゴーマニズム宣言』で知られる小林よしのりの初期の人気作『異能戦士』に近い、脱力系コメディなのだ(本筋から脱線するが、『異能戦士』はヒロインの知世ちゃんが超ラブリーだった。石原さとみ主演で誰か実写化してくれないだろうか)。
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リン(ジョージ・クルーニー)は見つめただけ
でヤギを殺せる恐るべきサイキック兵士だった。
多くの動物たちが超能力実験の犠牲となっている。
合掌......。
 映画の中でも描かれるが、このトンデモ系超能力部隊が80年代に発足したのは、ベトナム戦争で米国が深いキズを負ったという社会的背景があった。ベトナムに従軍した新兵のうち80~85%は敵兵に遭遇しても忙しいふりをして発砲しないか、もしくは標的に当たらないように射撃していた。そして残りの15~20%のうち、2%はもともと戦場に着く前から精神的に問題があった人間で、そうでなかった兵士たちは敵兵を殺すことを目的で射撃した自分の行為に苦しみ続けたという調査結果が出ている。『実録・アメリカ超能力部隊』の中心人物であるジム・チャノン中佐もベトナムから帰還後に鬱病を患うが、その後ニューエイジ思想にどっぷり浸かり"敵を武力で傷つけることない愛と平和の軍隊"としての超能力部隊の設立を軍の上司に申請する。折しもソ連の超能力兵士が念力による大統領暗殺を企んでいるという噂が米軍上層部の耳に入り、ジェダイ計画にGOサインが出たという経緯があった。  超能力部隊の初代隊長を務めたジム・チャノン役に劇中であたるのが、ジェフ・ブリッジス演じるビル・ジャンゴ陸軍小隊長。映画ではベトナム従軍中に銃撃された際に「優しさこそが武器なのです」という天の啓示を受けたことから一念発起し......というくだりがあるが、ここらへんのエピソードはデイヴィッド・モアハウス著『CAI「超心理」諜報計画 スターゲイト』(翔泳社)に同じような記述がある。『スターゲイト』は米国のCIAにやはり実在したエスパー捜査官による自伝もの。レインジャー隊員だったモアハウスはヨルダンでの演習中に流れ弾が頭を直撃。命に別状はなかったが、このとき天使たちと出会い、「平和を追求しなさい、平和を教えなさい」との啓示を受けたそうだ。その後、幻覚や悪夢を度々見るようになったモアハウスは軍の命令でCAIの遠隔透視諜報計画「スターゲイト」に参加し、遠隔視(リモート・ビューイング)の第一人者となる。遠隔視とは、いわゆる透視能力のこと。遠く離れたターゲットに意識を集中することで、幽体離脱した状態となり、ターゲットに自在に接近できるという。モアハウスは行方不明者の安否、ドラッグを密輸する船の所在地、組織内にいるスパイは誰かなどを次々と当てただけでなく、過去や未来、さらには火星まで旅行したそうだ。  遠隔視できたら、憧れのアイドルの部屋なんか覗き見放題でウハウハじゃんと思いがちだが、リモート・ビューアーになると見たくないものまで見えてしまうので、精神科のお世話にずいぶんとなるらしい。人並みはずれた能力があるというのは、それはそれでまた大変なんスね。それでもアナタは、アイドルの部屋を覗き見したいですか?  さて、超能力部隊は過去の話かと思いきや、原作者ジョン・ロンスンによると超能力部隊の作戦マニュアルにあった"音楽を一種の心理的拷問として利用する"というアイデアは9.11同時多発テロ以降も米軍で継承され、イラク戦争で捕虜となったイラク兵たちにメタリカなどのヘビメタ音楽、さらには子ども向けのアニメソングやセサミストリートの曲をエンドレスで聞かせ自白を迫るなどの拷問が行なわれたそうだ。また、このニュースが流れた際に、米国内では「なぜ『タイタニック』の主題歌を使わないのか」「楽曲の使用料はどうなるのか?」といった意見が飛び交ったとのこと。  最後に本作の邦題について。原題は原作本と同じく『THE MEN WHO STARE AT GOATS(ヤギを見つめる男たち)』だが、CSチャンネル『千原ジュニアの映画製作委員会』の番組内で千原ジュニアの考えた『ヤギと男と男と壁と』なる覚えにくく、口にしにくい邦題が付けられている。この邦題、今から超能力でどうにかならないだろうか? (文=長野辰次) yagi03.jpg 『ヤギと男と男と壁と』 原案/ジョン・ロンスン『実力・アメリカ超能力部隊』 監督/グラント・ヘスロヴ 出演/ジョージ・クルーニー、ジェフ・ブリッジス、ユアン・マクレガー、ケヴィン・スペイシー、スティーヴン・ラング、ロバート・パトリック 配給/日活 8月14日(土)よりシネセゾン渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー公開 <http://www.yagi-otoko.jp/>
実録・アメリカ超能力部隊 まじっすか!? amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

男性顔負け! アンジーがクールにキメるスパイ・アクション『ソルト』

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 「美しすぎる女スパイ」ことアンナ・チャップマンらロシア人スパイ団が先月米国内で逮捕された事件は、各国のメディアに取り上げられ世間の関心を大いに集めた。今月に入り米ロのスパイ交換で一応の決着をみたが、あれって本当は米政府が加担したハリウッド映画の前宣伝だったんじゃないの? と疑いたくなるくらい、絶妙のタイミングで封切られる女スパイものの映画がある。アンジェリーナ・ジョリー主演、フィリップ・ノイス監督のスパイ・アクション『ソルト』(7月31日公開)がそれだ。  アンジーが演じる主人公イブリン・ソルトは、表向き民間企業の社員だが、実は優秀なCIAエージェント。ある日CIA本部で尋問した初老のロシア人の告白により、ソルトが幼少からロシアでスパイ教育を受け、要人暗殺のために送り込まれていた二重スパイだと疑われる。本部から逃走してCIAから追われる身となったソルトは、ロシア大統領が参列する米副大統領葬儀に変装して潜入。世界を震撼させる大事件を起こす。直後に逮捕されるが、護送中の車から再び逃走、ロシア工作員らと接触したのち、さらにホワイトハウスの米大統領に接近する......。    脚本の初期段階で男性として設定されていたソルト役に、『トゥームレイダー』シリーズや『Mr.&Mrs. スミス』(05)、『ウォンテッド』(08)で男勝りのアクションを披露してきたアンジーは最高のキャスティング。息つく間もなく続くガンファイト、格闘、爆破、カーチェイスをクールにキメるヒロインの凛々しい美しさは、人気ジャンルのスパイ・アクション映画に新たな魅力を加えている。  ソルトが謎めいた存在なのも、観客が引き込まれる大きな要素。濡れ衣を着せられたCIA職員か、男が告白した通りのロシア側のスパイなのか、それとも......? と疑問を抱きながら、ミステリーを解くカギを見逃すまいとスクリーンを注視することになる。ソルトが時折見せる女性らしい表情も、本心なのか偽装なのか、探りながら見入ってしまうはず。  基本的に男の世界であるアクション系映画において、超ハードなアクションをこなせる身体能力とゴージャスな美貌を兼ね備えたアンジェリーナ・ジョリーは貴重な存在。女優が主演の恋愛映画などは例年春や秋の公開が多いこともあり、この夏の公開作品を一通り眺めてみても、男性スターの主演作が並ぶ中、『ソルト』には紅一点ともいうべき華やかさがある。  アクションの興奮と謎解きの面白さに加え、女性の強さと美しさも堪能できる本作。アクション映画好きの男性はもちろん、仲良く盛り上がりたいカップルや、タフなヒロインに元気をもらいたい女性たちにもおすすめだ。 (文:eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ソルト』作品情報 <http://eiga.com/movie/55104/> 『ソルト』特集 <http://eiga.com/movie/55104/special/>
トゥームレイダー 無敵! amazon_associate_logo.jpg
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白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』

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バイセクシャルであることをカミングアウトしているミーガン・フォックス。
主演作『ジェニファーズ・ボディ』では男女を問わず、
妖しい魅力で次々と虜にしていく。まさに適役!
(c)2009Twentieth Century Fox
 今どきの女子たちの生態を赤裸々に描いた"ガールズ・ムービー"。男子には理解しがたい世界だが、しかしそれゆえに興味がそそられるジャンルでもある。ミーガン・フォックス主演の『ジェニファーズ・ボディ』は、ガールズならではの甘美な世界にホラーテイストをブレンドした新しいタイプの米国映画だ。『トランスフォーマー』(07)で顔を売った若手セクシー女優ミーガン・フォックスと『マンマ・ミーア!』(08)でメリル・ストリープの娘役を演じた清純派アマンダ・セイフライドが田舎の女子高生に扮し、女同士の友情、羨望、嫉妬が絡み合う関係を演じる。ミーガンがエロっぽい仕草で男どもを挑発するシーンやアマンダとのレズシーンといったサービスショットを盛り込みつつ、美しくて強いものに純粋に憧れる田舎の高校生たちの心情を伝えている。  米国中西部の田舎町で暮らすアニータ(アマンダ・セイフライド)は内気で目立たない女の子。ボーイフレンドは一応いるものの、正直言ってダサ系。しかし、アニータには高校でいちばん人気の女子ジェニファー(ミーガン・フォックス)と幼なじみの親友であることが何よりもの自慢だった。2人はBFF(Best Friends Forever)と記したペアペンダントをいつも身に付けるほどの仲良しで、周囲からは「レズビアンじゃないの?」と噂されている。そんなある日、アニータはジェニファーに連れられてインディーズバンドのライブに出かけるが、ライブハウスが火事で全焼するという大事故が発生。何とかアニータは生還するが、その晩からジェニファーの様子がおかしい。今までは田舎町にしてはイケてるオネーチャンだったジェニファーが、全身から妖しい美しさを発するミステリアスな美女に変身してしまったのだ。ジェニファーの体に何が起きたの? アニータの心の中に、親友を心配する気持ちと同時に、不安、好奇心、恐怖、嫉妬......といったさまざまな感情が渦巻き始める。やがて高校の男子生徒どもが一人、また一人と惨殺死体となって発見される。そして事件の度にジェニファーは美しさを増していく。
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アニータ(アマンダ・セイフライド)は
親友のジェニファーに連れられてライブ
ハウスに行き、とんでもない事故に巻き込まれる。
 わがままなジェニファーに振り回される親友アニータを好演したアマンダ・セイフライドは、まだ品行方正なアイドルだった時代のリンジー・ローハンが主演したガールズ・ムービー『ミーン・ガールズ』(04)にも出演している。『ミーン・ガールズ』は人気コメディエンヌ兼脚本家である才女ティナ・フェイが仲良し女子高生グループの世界を描いたコメディだが、新しいスカートを買うときやボーイフレンドができたときは必ず事前にグループ内の承諾を得なくてはならないなど、女子の厳しいルールに男子は驚かせられる。かわいい女の子も、グループ内の人間関係をキープするので大変らしい。まだ人格が固定されず、精神的に不安定な彼女たちは、美しくてクールなものに憧れる。美しくてクールなものは、崇拝するに値するものだと彼女たちは信じている。  女子高生を主人公にしたガールズ・ムービーで、もう一本おすすめなのがソーラ・バーチ&スカーレット・ヨハンソンの主演作『ゴーストワールド』(01)。社会に迎合したものを徹底的にバカにしていた2人のトンガリ系女子高生が、高校卒業後2人の関係に少しずつ距離が生じる過程をリアルに描いている。卒業後は割り切ってコーヒーショップで働き始めるスカヨンに対し、ソーラ・バーチは仕事先で無難な人間関係をどうしても築くことができない。自分に正直すぎて、自分の居場所を失っていく姿が哀しい。都会と違って、田舎は気取らずに伸び伸びと暮らせるなんて大間違い。小さな共同体の閉鎖的な空気が、かわい子ちゃんたちを苦しめるのだ。  本作『ジェニファーズ・ボディ』の世界は、デビュー作『JUNO/ジュノ』(07)でアカデミー賞脚本賞を受賞したディアブロ・コディが生み出したもの。ストリッパーやテレフォンセックスのオペレーターなど過激な職歴の持ち主のコディだが、本人は「キャラクターを考えるのに、とても役立った」とサバサバと語っている。歯に衣着せぬ物言いで、バッシングされることも多い。『ジュノ』ではパンクロックとB級ホラー映画が大好きという16歳のヒロインが田舎町でシングルマザーになる道を選び、たくましく生きる姿を描いた。本作でもホラー映画的なスリリングな展開よりも、ジェニファーが周りに媚びることなく強く美しくなっていく様子に主眼が置かれている。その一方、9.11以降、異分子を排斥したがる米国の保守的な空気をチクチクと皮肉る。死傷者を出したライブハウスの事故以降、町中は一斉に自粛ムード、地元のラジオ局からは追悼ソングが連日連夜流される。そんなどんよりした雰囲気を物ともせず、真っ赤なルージュを引いたジェニファーの唇が艶かしく輝く。  失業者が町に溢れ、地方都市のシャッター通り化が進んでいるのは、米国も日本も変わらない。学校を卒業しても、仕事があるかどうか分からない。将来にキラキラとした明るい希望は当分持てそうにない。それなら、昔からの自分を理解してくれている地元の友達を大切にしなくちゃ。そのうち別れるはめになる恋人より大事だもんね。でもって、10代の輝きを記録するため、メイクやファッションの研究も怠りません。ガールズ・ムービーのヒロインたちは、どんどん美しくなっていく。それはまるで社会不安と反比例しているかのようだ。 (文=長野辰次) 『ジェニファーズ・ボディ』 脚本/ディアブロ・コディ 監督/カリン・クサマ 出演/ミーガン・フォックス、アマンダ・セイフライド、アダム・ブロディ、ジョニー・シモンズ、J.K.シモンズ 配給/ショウゲート 7月30日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー公開 <http://www.jennifers-body.jp>
JUNO/ジュノ<特別編> 彼氏がダメダメなんだな。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

潜在意識に潜入せよ! 最高難度のミッションに立ち向かう『インセプション』

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 映画はDVDかテレビで観ればいいと思っている人にも、映画館の大スクリーンで観てほしい、この夏最高の映像エンタテインメントがやって来る。クリストファー・ノーラン監督(『ダークナイト』)、レオナルド・ディカプリオ主演のSFアクション大作『インセプション』(7月23日公開)。グイグイ引き込まれるスリリングなストーリー展開に、トリップ感さえ覚える驚異の映像の数々。知的な興奮と視覚的な快楽を同時に味わえる、お得感いっぱいの作品だ。  『メメント』(00)で米アカデミー賞にノミネートされたノーラン監督が、今作でもオリジナル脚本を執筆。人が眠っている間に夢(潜在意識)に侵入し、他人のアイデアを盗む特殊技術の専門家コブは、共に夢の世界を過ごした妻を失い、国際指名手配犯となったせいで2人の子どもとも会えなくなる。そのコブに、大物実業家のサイトーがある仕事を依頼し、成功すれば犯罪履歴を消して子どもが待つアメリカに帰れるようにすると約束。その仕事とは、侵入したターゲットの潜在意識にあるアイデアを埋め込むという、最高難度のミッション「インセプション」。  コブはそれぞれ専門技術に秀でたメンバーを集め、ターゲットの夢にまんまと侵入。想定外のトラブルに遭遇しながらも、意識の深層へ、さらに深い層へと突き進んでいく......。  現実と夢の両方で世界を駆けめぐるストーリーに対応すべく、ロケーション撮影は東京の超高層ビルのヘリポートに始まり、パリの市街、モロッコの港町タンジール、カナダ・カルガリーのスキーリゾートと縦横無尽。さらに、ロンドン北部の飛行船格納庫では30メートルに及ぶホテルの廊下のセットを丸ごと回転させて無重力状態を作り出し、パリのカフェでは軽量素材による店の調度の爆発を高圧窒素で実現して高速撮影、ロサンゼルスのダウンタウンでは貨物列車のレプリカを実際に走らせる。これらの創意工夫を凝らした実写にCGが巧みにブレンドされ、身たことがないのに奇妙にリアルな、まさに観客自身も夢を見ているかのような映像体験ができる。  共演も、コブの妻役にマリオン・コティヤール(『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』)、サイトー役に渡辺謙、さらにジョセフ・ゴードン=レビット(『(500)日のサマー』)、エレン・ペイジ(『JUNO/ジュノ』)、キリアン・マーフィ(『麦の穂をゆらす風』)等とにかく豪華。特に渡辺謙については、ノーラン監督が『バットマン ビギンズ』での仕事を評価し、今作では最初から彼のために出番の多いサイトーの役を書いたというから必見だ。  映画好きを自認する人なら、これを劇場で見逃すと後悔すること必至。また、普段あまり劇場で映画を観ない人にとっても、映画館の大スクリーン・高音質で鑑賞することが、他には代え難い体験だと実感できるはず。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 『インセプション』作品情報 <http://eiga.com/movie/54466/>
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