"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』

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スコットランドの離島で育った少女アリスは、パリからやってきた
タチシェフの奇術を本当の魔法だと思い込んでしまう。
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 目の前に立ち塞がるどうしようもない現実の重みを、ほんの一瞬だけでも忘れさせてくれるのが一流のイリュージョニスト(奇術師)だ。ドラえもんの四次元ポケットのように、シルクハットの中から次から次へとサプライズを取り出してみせ、観客にひと時の夢を楽しませてくれる。もちろんシルクハットの底には仕掛けが隠されているが、イリュージョニストは決してタネを明かすことはしない。そそくさとステージを降り、観客が見た一瞬の夢を永遠の夢に変えてしまう。イリュージョニストは"粋"でなくては務まらない職業なのだ。映画『イリュージョニスト』は、フランスの喜劇王ジャック・タチ(1907~1982)が書き残したシナリオ"FILM TATI No.4"を、『ベルヴィル・ランデブー』(02)の人気アニメーション作家であるシルヴァン・ショメ監督が現代に甦らせたもの。ジャック・タチ作品ならではの"粋"の極意を、ショメ監督が哀惜の念を込めて見事にアニメーション化している。  『ぼくの伯父さんの休暇』(52)、『ぼくの伯父さん』(58)で、子どもと犬たちに慕われる"とぼけたオジさん"ムッシュ・ユロを演じ、世界的な人気を博したジャック・タチ。彼の監督作品の中でSEXや暴力が描かれることはなく、その上パントマイム出身だけに台詞もほとんどない。無声映画を思わせる静謐な世界だ。市井の人々の暮らしのおかしみに、額縁職人の家系に生まれた美術センスとシャレた音楽を施すことで、傑作コメディーに仕立てている。"FILM TATI No.4"は、『のんき大将』(48)、『ぼくの伯父さんの休暇』『ぼくの伯父さん』に続く、長編第4作『イリュージョニスト』として人気絶頂期に実写化されるはずだった。
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主人公タチシェフのキャラクターは、往年の
喜劇王ジャック・タチの容姿や立ち振る舞いが
丹念にコピーされている。
 『イリュージョニスト』は1950年代終わりのパリから物語は始まる。ベテラン手品師のタチシェフ(ジャック・タチの本名!)は、パリの劇場でシルクハットから白うさぎが飛び出す昔ながらの演目を続けてきたが、今のパリっ子は誰も見向きもしない。腰をくねらせる長髪の歌手の金切り声に、若者たちは夢中だ。仕事のない老手品師は、やむを得ず、欧州各地へのドサ回りの旅に出る。言葉の通じないスコットランドの離れ島でも淡々と"営業"を続ける老手品師。ただ一人、ボロ旅館で働く無垢な少女アリスだけが、目を輝かせてくれる。世話をしてもらったお礼にと、タチシェフは少女に赤い靴をプレゼントして、島を去っていく。  ところが、少女はタチシェフの奇術を本当の魔法と思い込んで、付いてきてしまう。いまさら、赤い靴は買ったものだとタネ明かしすることもできない。このとき老手品師は思う、自分は大勢の人たちに夢や驚きを与えるプロのエンターテイナーのつもりで生きてきたが、実は純真な子どもを騙してきたペテン師だったのではないかと。身寄りのない少女を島に追い返すことができず、老手品師と白うさぎと少女とのエジンバラでの共同生活が始まる。生まれて初めての都会に驚き、喜ぶ少女。老手品師は、街に似合う新しい靴とコートを魔法で取り出す。もう彼の財布はすっからかんだ。それでも老手品師は言葉の通じない街で不慣れなアルバイトをしながら、少女の前で魔法を使い続ける。  大衆演芸、自転車、駄犬への狂おしいまでの愛情を詰め込んだ『ベルヴィル・ランデブー』での長編デビューを控えていたシルヴァン・ショメ監督に、シナリオ"FILM TATI No.4"の存在を教えたのはジャック・タチの愛娘、ソフィー・タチシェフ。ソフィーはジャック・タチの晩年の作品『トラフィック』(71)や『パラード』(74)にフィルム編集者として参加しており、ジャック・タチの世界観を誰よりも理解している女性だった。ショメ監督が『ベルヴィラ・ランデブー』の劇中に、『のんき大将』の映像を使用したいと頼んだ際、ソフィーは父親の世界観と若いショメ監督のイメージする世界が通じることを感じとり、映像の使用許可だけでなく父親の遺稿を託すことを決める。まさに明断だ。彼女自身が、父親が残した魔法を見たかったに違いない。だが残念なことに、ソフィーは『イリュージョニスト』の映画化をショメ監督に依頼して間もなく、2001年に他界してしまう。
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ウサ公と放浪の旅を続ける手品師のタチシェフ。
旅先の風景や大衆演芸の世界の描写にショメ
監督は並々ならぬ情熱を注いだ。
 でもなぜ、ジャック・タチは『イリュージョニスト』の脚本づくりに2年の歳月を費やしながらも、製作に踏み切らなかったのだろうか。『ぼくの伯父さんの休暇』『ぼく伯父さん』の人気キャラクターであるユロ氏を愛したファンの前に年老いた姿を見せたくなかったから、手品シーンを完璧に演じることができなかったから......さまざまな理由があったようだ。それに加えて、もうひとつ言われているのが、『イリュージョニスト』の内容がジャック・タチにとって、あまりにリアルすぎるため映画化が見送られたという説。というのも、ジャック・タチ自身が映画界に入る前の独身芸人時代に婚外子をもうけていたことが最近になって明らかになったから。若い頃はさぞモテただろう元二枚目の老紳士が、イギリスの片田舎で暮らす少女のために甲斐甲斐しく尽くす『イリュージョニスト』の物語は、"贖罪"の意識で書かれたのではないかと。  もしジャック・タチが映画界に転身せずに、演芸の世界にこだわり続けていたら。そして、もし旅先で生き別れた自分の子どもに会っていたら。『イリュージョニスト』は、ジャック・タチが果たせなかった、切ない願望の世界であるらしい。結局、ジャック・タチは『イリュージョニスト』の企画はお蔵入りさせ、主人公がいない画期的な大作コメディー『プレイタイム』(67)に着手するが、『プレイタイム』は大コケしてしまい、生涯借金に追い立てられることになる。  実写では生々しくなるエピソードを、シャメ監督は温かみのある手描きのアニメーションとして端正な一本の映画に昇華させてみせた。シャメ監督もアニメ製作に理解のないフランス映画界には随分と不満を持っており、フランス映画界の異端児的存在だったジャック・タチに深いシンパシーを抱いていたようだ。喜劇王ジャック・タチの幻の作品が、娘ソフィーからショメ監督へと粋なバトンリレーによって新たに命を吹き込まれて劇場公開される。これを"イリュージョン"と呼ばずして、何と呼ぼうか。 (文=長野辰次) ●『イリュージョニスト』 オリジナル脚本/ジャック・タチ 脚色・作曲・キャラクターデザイン・監督/シルヴァン・ショメ 声の出演/ジャン=クロード・ドンダ、エルダ・ランキンほか 3月26日(土)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国順次公開 配給/クロックワークス、三鷹の森ジブリ美術館 <http://illusionist.jp>
ベルヴィル・ランデブー 食わず嫌いはもったいない。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

天才子役ダコタちゃんが悩殺パフォーマンス! 『ランナウェイズ』

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配給: クロックワークス
 アカデミー賞受賞作や候補作に話題が集中しがちなこの時期。とは言え、もちろんそれ以外にも隠れた名作はたくさんある。今週紹介する新作2本は、いずれも実在のアーティストを題材にした音楽映画。ふんだんに挿入される楽曲そのものの魅力を味わいつつ、作り手であるアーティストの生きざまと時代の空気に触れられる佳作だ。  3月12日に封切られる『ランナウェイズ』は、1970年代に日本を含め世界中でセンセーションを巻き起こした元祖ガールズロックバンドの軌跡と、10代のメンバーたちの青春を描いた作品。女性ロックスターを夢見てギターを弾き始めたジョーン・ジェット(クリステン・スチュワート)は、地元ロサンゼルスで敏腕プロデューサーのキムに見いだされた美少女、シェリー・カーリー(ダコタ・ファニング)と共に「ザ・ランナウェイズ」を結成。女性だけのロックバンドという物珍しさと、セクシーで過激な歌詞や衣装が話題になり、メジャーデビュー、海外ツアーへと躍進。だが、家庭に問題を抱えるシェリーと、音楽よりもシェリーのルックスばかり注目されることにいら立つメンバーとの関係は次第に悪化する......。  サエない現実から抜け出すため夢に賭け、仲間と出会い、時に傷つけ合いながら成長していく。大人になるまでに誰もが経験する、そうした青春時代の高揚感や切なさが、往年のロックナンバーと共に綴られる。かつての天才子役、ダコタ・ファニングも本作の撮影時で16歳。利発な美少女という従来の役のイメージから打って変わり、下着同然のステージ衣装をまとい悩殺パフォーマンスを披露する。黒髪に革ジャンという外見でマニッシュな魅力を放つクリステン・スチュワート(『トワイライト』シリーズ)は、ボーカルとギターを猛特訓して劇中使用12曲を完全マスター。製作総指揮のジョーン・ジェットを驚かせたという貫禄の演奏ぶりも必見、必聴だ。  一方、現在公開中の『ショパン 愛と哀しみの旋律』は、「ピアノの詩人」とも呼ばれる名作曲家フレデリック・ショパンの激動の半生を描く。19世紀、若き作曲家ショパンは、帝政ロシアの支配下にあったポーランドを離れ、自由な芸術活動を求めてフランス・パリへ。当代随一の人気作曲家フランツ・リストによる計らいで、念願のパリ社交界デビューを果たす。美しい旋律と情感豊かなピアノ演奏で名声を高めるショパンに、恋多き女性作家ジョルジュ・サンドが情熱的にアプローチ。やがて2人の愛が始まる。  創作活動に情熱を注ぎ珠玉の旋律を紡ぎ出していくショパンと、そんな彼を愛し葛藤するサンド、そして2人の関係に深刻な影響を受けるサンドの子どもたち。彼らが織りなす人生のドラマが、時に繊細で、また時に荘重な音楽と共に描かれる。チェロのヨーヨー・マ、『戦場のピアニスト』の演奏で知られるピアノのヤーヌシュ・オレイニチャク、日本を代表する若手ピアニストの横山幸雄など、演奏家の顔ぶれも豪華。ショパンの人生が刻まれた名曲の数々を、当時の欧州の街並みや華麗な室内装飾等とともに、心ゆくまで楽しんでいただきたい。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 「ランナウェイズ」作品情報 <http://eiga.com/movie/55821/> 「ショパン 愛と哀しみの旋律」作品情報 <http://eiga.com/movie/55833/>
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自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』

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"アイルランドの稲妻"と呼ばれた実在のボクサー、
ミッキー・ウォードとその家族を描いた『ザ・ファイター』。
主演のマーク・ウォールバーグは3年かけてボクサー修行を積んだ。
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 聖書に出てくるカインとアベルの時代から、兄弟は妬み、いがみ合うものと相場が決まっている。家族の古いアルバムを開くと、第1子である兄の写真が圧倒的に多く、弟は兄と一緒の写真ばかりで、弟がピンで写っている写真はかなり少ない。シャッターを押された回数が愛情に比例しているようで、ささいなことだが弟には恨めしい。その一方、親の愛情を浴びて伸び伸びと育った兄が奔放に才能を発揮する姿は、弟にとってはいちばん身近な、まぶしい記憶であったりもする。兄弟の間で渦巻く感情は、憎しみと愛情が紙一重の非常に厄介なものなのだ。日本においても海彦と山彦しかり、角川春樹と角川歴彦しかり、若貴しかり......。『ザ・ファイター』は実在のボクサー、ミッキー・ウォードと兄ディッキーを主人公にした壮絶なる家族ゲンカ&家族愛を描いた感動のボクシング映画である。  ボクサーのミッキーは、異父兄ディッキーの影響を受けて、プロの世界に入ったものの、ただいま連戦連敗中。その原因は家族。技巧派ボクサーとして活躍したディッキーは引退した今は、ミッキーの専属トレーナー。だが、数年前からドラッグに手を出し、練習時間になっても姿を見せない。マネジャーである母アリスは、いまだに甘えん坊のディッキーのことを溺愛してやまない。ファイトマネー欲しさで、ミッキーにとって不利な試合をアリスとディッキーは平気で組んでしまう。そんな環境でミッキーが勝てるわけがなかった。ミッキーはリングに上がる前に、まず家族と闘わなくてはならなかったのだ。トレーニングに集中できる大手ジムに移籍したいとミッキーが口にすると、母と兄は「家族を見捨てるつもりか?」と即座に却下する。ミッキーに恋人ができると7人の無職の姉たちが「あんなビッチと付き合うな」と騒ぎ出す。ドラッグ中毒のダメ兄を演じたクリスチャン・ベールと鬼母アリスを演じたメリッサ・レオが、アカデミー賞助演男優賞、助演女優賞をダブルで受賞。そんな実力派俳優たちが生々しい親子ゲンカを繰り広げる、亀田ファミリーもびっくりな濃い人間ドラマだ。
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ドラッグ中毒で、マーシー状態となってしまった
兄ディッキー。ダメ兄を演じたクリスチャン・
ベールは見事、アカデミー賞助演男優賞を受賞。
 ミッキー・ウォードは、アイルランド系の米国人ボクサーで、マサチューセッツ州の工場街ローウェルを拠点に活躍した。地味なローカルボクサーだったが、引退直前の38歳のときに大ブレイクを果たした。2002年に元世界王者アルツロ・ガッティとの試合が組まれ、この一戦は最終ラウンドまでハードパンチの応酬となり、ノンタイトル戦ながら年間最高試合に選ばれている。勝敗抜きに、最後まで闘志を絶やさなかった両者の姿に会場は熱狂。この一戦で株を上げたミッキーは、立て続けにガッティとの同一カードが組まれ、計3戦ともボクシングファンを狂喜させるエキサイティングな試合内容となった。  遅咲きの英雄ミッキー・ウォードの伝記映画の製作に名乗りを挙げたのは、本作で主人公ミッキーを演じたマーク・ウォールバーグ。マーク自身も、ミッキーと同じアイルランド系の血筋でマサチューセッツ州のボストン出身。9人兄弟のビンボー一家に育ち、10代の頃は感化院に送られるワルだった。そんなマークがワルの道から足を洗ってショービジネスの世界に進めたのは、兄ドニーの存在があったから。人気ラップグループ「ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック」の一員だった兄がプロデュースする形で、白人ラッパーとして芸能デビュー。その後、兄弟ともに俳優に転身し、マークは巨根ポルノ男優の成り上がりストーリー『ブギーナイツ』(97)で注目を集め、『ディパーテッド』(06)では主演のレオナルド・ディカプリオやマット・デイモンを喰う熱演ぶりで人気俳優となった。
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兄に優しく、弟に厳しい鬼母アリスを演じた
メリッサ・レオ。父親の異なる合計9人の姉弟
をまとめる家長役で、こちらもアカデミー賞
助演女優賞に。
 マーク・ウォールバーグにとって、ビンボーな家庭に育ち、兄から大きな影響を受けたミッキー・ウォードは、スポーツの世界におけるもうひとりの自分だったのだろう。自腹で専属トレーナーを雇い、3年間にわたってボクサーとしてのトレーニングを積んでいる。ちなみに専属トレーナーに支払ったギャラは、本作での俳優としての出演料を4,000万円も上回るものだったそうだ。出演料以上の金額を投じて役づくりする、役者バカ。そして、そのバカならではの熱気が、さらなるバカを突き動かす。  07年にミッキー・ウォードの伝記映画が製作されると発表された段階では、兄ディッキー役はマーク・ウォールバーグと同じボストン出身の知性派俳優マット・デイモンと報じられていたが、ハリウッド的な事情がいろいろあったらしく、結局はクリスチャン・ベールがヤク中の兄貴を演じることになった。クリスチャン・ベールはマークより実年齢は3歳年下だが、そこは当代一のカメレオン俳優。異常なまでの役づくりで、「本気でボクシング王座を目指した」というマークの役者バカぶりに応えてみせた。13kgの減量だけでは『マシニスト』(04)の30kg減量伝説を上回れないことから、後頭部の地毛を抜き、歯の並びを変えるという熱の入れよう。何よりもドラッグの怖さを広めるためのドキュメンタリー番組の取材クルーのことを、自分がボクサーとしてカムバックするまでを長期取材していると思い込んでいるクレイジーぶりがいい。ボクシング版『サンセット大通り』(50)だよ。  ドラッグ中毒の兄ディッキーがちんけな窃盗罪で刑務所送りとなり、恋人シャーリーンの強い勧めもあり、ようやくミッキーは家族から離れてのトレーニングを開始する。ちゃんとミッキーのコンディションを考慮した試合が組まれ、ミッキーは遅ればせながら連勝街道を進み出す。もともとミッキーには地力があった上に、母や兄との連日の場外乱闘のお陰で精神的なタフさが身に付いていた。そして、もう家族に責任をなすり付けることができないギリギリの状況へ自分を追い込んだ。ずっと溜め込んでいた母や兄への苛立ち、そして失敗はすべて家族のせいにしてきた自分自身への怒りがリング上で大噴火する。
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ミッキーのビッチな恋人を演じたエイミー・
アダムスも好演。ミッキーの7人の姉とドツキ
合う。アダムスは無名時代、「フーターズ」
で働いていた苦労人。
 正直、ここまで見て、『ザ・ファイター』は家族から自立して、恋人と共に新しい環境で成功をつかみとる苦みのあるハッピーエンドの物語だと思っていた。だが、さらなるハードルが劇中のミッキーを待ち受けていた。自分の現状を見つめ、ダメなものはダメと"否定"することでプロとしての新しい第一歩を踏み出すことができたミッキーだが、もうひとつ上のステージ(世界タイトル戦)に進むためには、ただ"否定"するだけでは不充分なことをミッキーは理解していた。自分自身のアイデンティティーである家族、そして兄という存在から、ミッキーはきれいさっぱりと"決別"するのか、それとも"肯定"して胸焼けしそうな家族全員を飲み干してみせるのか。大一番の前に、より大きな難問がミッキーの前に立ちはだかる。  大一番の試合結果は置いといて、ひとつ言えることは、ミッキーとディッキーの兄弟にとって幸いだったのは、親から受け継ぐさしたる財産がなかったことだろう。下手に親の財産があると、兄弟は骨肉の争いを演じることになる。やはり兄弟の縁というヤツは、どうしようもなく生涯付きまとってくるものらしい。 (文=長野辰次) fiter05.jpg 『ザ・ファイター』 監督/デヴィッド・O・ラッセル 出演/マーク・ウォールバーグ、クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、メリッサ・レオ  配給/ギャガ 3月26日(土)より丸の内ピカデリーほか全国順次公開 <http://thefighter.gaga.ne.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

J・デップ×A・ジョリー 美しい古都で繰り広げられるサスペンス『ツーリスト』

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 今週は劇場に居ながらにして、異国情緒を味わいつつ、サスペンスや人間ドラマを堪能できる新作映画2本を紹介したい。  『ツーリスト』(3月5日・日劇ほか全国ロードショー/配給・宣伝:ソニー・ピクチャーズ)は、アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップという、2大スターの初共演が話題のリメイク作。謎めいた美女エリーズ(ジョリー)は、フランスからイタリア・べネチア行きの列車に乗り込む。金融犯罪者の恋人からの指示で、車中でエリーズが身代わりに選んだ男は、旅行中のアメリカ人教師フランク(デップ)。誘われるまま高級ホテルに泊まったことから、警察に追われギャング一味に狙われるハメになったフランクと、エリーズとの危険な恋の行方は? エリーズの正体は、そして、隠された大金を最後に手にするのは誰なのか?  水の都ヴェネチアで三者入り乱れて繰り広げられるチェイスは、激しさの中にも優雅さがあり、クラシカルな街の風情も合わせて楽しめる上品なアクションといった具合。憂いを秘めた表情が魅力のジョニーと、シックな衣装ときらびやかなジュエリーをまとって一層ゴージャスさが引き立つアンジー。美しい古都で絵になる二人の佇まいが、先の読めないサスペンスに華を添える。  同じく3月5日に封切られる『アレクサンドリア』は、ヨーロッパ映画史上最大級の製作費を投じ、本国スペインでゴヤ賞7部門受賞、同国映画史上最高興収を記録した歴史スペクタクルだ。  激動のローマ帝国末期、エジプト・アレクサンドリア。美ぼうと優秀な頭脳を併せ持つ女性天文学者ヒュパティアは、多様な人種が入り混じった弟子たちを分け隔てることなく、宇宙の法則と謎について熱心に講義していた。だが、急速に勢力を強めるキリスト教徒らは科学を否定し、学者たちと対立。激しい戦闘、権力争いの果てに、彼女の身に危険が迫る。  監督は『オープン・ユア・アイズ』『海を飛ぶ夢』のアレハンドロ・アメナーバル。『ナイロビの蜂』でアカデミー賞助演女優賞を獲得したレイチェル・ワイズが、高潔さと知性を持ったヒュパティアを熱演。建物や広場を実際に建設し、最先端のCGも駆使してよみがえらせたという古代アレクサンドリアの壮大な景観を、ぜひ映画館の大スクリーンで体感してもらいたい。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 『ツーリスト』作品情報  <http://eiga.com/movie/55376/>
ナイロビの蜂 レイチェル、ヤバいよ。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" アカデミー賞12部門でノミネート 世界が注目する話題作『英国王のスピーチ』 日本では上映不可の問題作が解禁!バイヤーが語る洋画買い付け裏事情

コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像"

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"復讐バイオレンスもの"として甦った『トゥルー・グリット』。
作品の知名度に頼った近年の安易なリメイクブームに対して、
コーエン兄弟は現代的テーマを浮かび上がらせることで一線を画している。
(c) 2010 PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.
 暴力と金に支配された現代社会をシニカルに描いた『ノーカントリー』(07)で2008年のアカデミー賞作品賞&監督賞&脚色賞を受賞したコーエン兄弟。同じ価値観を共有する兄弟がタッグを組むことで、年々激しさを増すハリウッドのコマーシャリズムの濁流に抗い、独自の道を歩んでいる。自分たちのアイデンティティーである1960年代のユダヤ人ファミリーを主人公にした半自伝的コメディー『シリアスマン』(現在公開中)に続いて、新作『トゥルー・グリット』では米国人のアイデンティティーである"西部劇"の名作『勇気ある追跡』(69)をリメイクした。『ノーカントリー』が"現代の西部劇"と称されただけに、『勇気ある追跡』の現代的なリメイクはまったく違和感がない。19世紀末の開拓期に起きた殺人事件の顛末を、いつものコーエン兄弟らしくシニカルに描き出している。撮影時13歳だった新人女優ヘイリー・スタインフェルドの健気さと、『クレイジー・ハート』(09)で名優の評価を取り戻したジェフ・ブリッジスの妙演もあり、コーエン兄弟史上最大のヒット作となっている。  原作者は別人だが、コーエン兄弟が監督したことで、『ノーカントリー』と『トゥルー・グリット』はよく似た内容となっている。『ノーカントリー』で無慈悲な殺人鬼に追い掛けられたコーエン作品の常連俳優ジョシュ・ブローリンが、『トゥルー・グリット』では14歳の少女に執拗に追われる。『ノーカントリー』では麻薬の取り引き現場に残されていた大金をネコババしたジョシュ・ブローリンだが、今回は牧場主を殺して、たった2枚の金貨を奪ったことから牧場主の娘マティ(ヘイリー・スタインフェルド)に地の果てまで追い詰められる。とは言え、開拓期の米国南部は少女がひとり旅をすることすら憚れる時代。そこでマティは、殺しのプロである保安官とは名ばかりの酔いどれジジイのコグバーン(ジェフ・ブリッジス)に金を払って復讐代行を依頼する。コグバーンがもらった金で飲んだくれることは容易に予測できたので、ちゃんと復讐を遂行するかどうかを見届けるため、マティは現地まで同行する。テキサス・レンジャーのラビーフ(マット・デイモン)も懸賞金の掛かったお尋ね者を捕らえるため捜索の旅に加わる。
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1,500人のオーディションから選ばれた新人女優
ヘイリー・スタインフェルド。『レオン』(94)、
『片腕マシンガール』(07)、『キック・アス』
(10)に通じる美少女による復讐劇なのだ。
 自分の決めたルールを頑なに守り、周囲の大人にまで強要する14歳の少女、生きるために汚い仕事にも手を染めてきた片目の酔っぱらい、弾道距離の長いカービン銃を持っているが、頭が固くて融通の効かないテキサスの田舎者という波長の合わない3人が、司法の手の及ばないインディアン居住区に逃げ込んだ獲物を追跡していく。マティたちが出発するのは米国南部アーカンソー州のフォートスミスという町だが、「セントルイス以西には法律は存在せず、フォートスミス以西には神も存在しない」と当時の米国では言われていた。法律も神も守ってくれない異界にまで少女は足を踏み入れ、父親殺しの犯人に天罰を与えようとする。だが、そのために予想外の血が流れ、指がもげ、死体の山ができていく。"人を呪わば穴ふたつ"で、少女自身も穴に落ち込み、大きな犠牲を払うことになる。  『勇気ある追跡』で酔いどれ保安官コグバーンを演じたのは、"米国映画史上最大のスター"ジョン・ウェイン。飲んだくれながらも、ここぞというときはバシッと決めるコグバーン役でアカデミー賞主演男優賞を獲得している。40年という時間を経て、この酔いどれ保安官を演じたのがジェフ・ブリッジス。『ラスト・ショー』(71)や『サンダーボルト』(74)で好演し、将来の大スターを約束されていたジェフ・ブリッジスだが、ジョン・ウェインが"無敵のヒーロー"を演じた旧き善き時代はすでに終わり、曲がり角を迎えた米国社会と米国映画界でキャリアを重ねることになる。『800万の死にざま』(86)や『フィッシャー・キング』(91)など、理想と現実の狭間にぱっくりと口を開いた深い溝に落ち込んで、もがき苦しむ"屈折した元ヒーロー"を演じることが多かった。『タッカー』(88)や『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(89)で芸達者ぶりを見せてはいたが、"米国でもっとも過小評価されている男優"と呼ばれ続けてきた。
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アル中の老保安官、コミュニケーション能力に
難のあるテキサス・レンジャー、頑固な14歳の
少女による地獄への三人旅。ジェフ・ブリッジス
はモンタナの牧場主だけに騎乗アクションはさすが。
 『アイアンマン』(08)ではコクのない悪役に甘んじていたジェフ・ブリッジスが、名優として再評価されたのが低予算映画『クレイジー・ハート』。豊かな才能に恵まれながらも、アルコールと女に溺れてしまった老カントリー歌手が、年齢の離れたシングルマザーと出会い、それまでの自堕落な生活を断ち切ろうとする。米国人にとって、西部劇と並ぶもうひとつのアイデンティティーと言える"カントリー・ソング"をジェフ・ブリッジスはしみじみと歌い上げ、昨年のアカデミー賞主演男優賞を受賞した。『トゥルー・グリット』の老保安官コグバーンも、過去のあやまちや日々の生活の煩わしさをアルコールで紛らわして生きながらえてきたが、自分の意思を決して曲げようとしない14歳の少女と出会うことで、コグバーンの心の奥底にずっと長い間眠っていた"トゥルー・グリット"が目覚める。現実世界でも、作品に恵まれ出した最近のジェフ・ブリッジスは俳優としてかつての輝きを取り戻したようだ。  『勇気ある追跡』のジョン・ウェインは"強くて正しいアメリカ"としてのシンボルを揺らぐことなく演じたが、同じ原作の『トゥルー・グリット』でジェフ・ブリッジスは目先の金銭やアルコールに踊らされながらも、心の中の"聖域"だけは懸命に守ろうとする年老いた一人の男をリアルに演じてみせる。両作品の間には40年間という歳月の中で米国社会が失ってきたものと、かろうじて残っているものがくっきりと浮かび上がる。リメイクした意義が、そこにある。そしてコーエン兄弟は、いつものオフビートな笑いの代わりに、泣かせには走らないオフビートな感動をクライマックスに用意した。  最後にジョン・ウェインとジェフ・ブリッジスの接点をもうひとつ。ジェフ・ブリッジスの出世作『ラスト・ショー』で閉館される映画館で最後に上映されるプログラムが、『赤い河』(48)だった。『赤い河』はアメリカの黄金時代に作られたジョン・ウェイン主演の西部劇の代表作だ。ジェフ・ブリッジスは、ヒーローに憧れながらもヒーローになれない男をずっと演じてきた。ジョン・ウェインのようなオールドタイプのヒーローにはなれなかったが、ジョン・ウェイン以上の名優と呼んで何ら差し支えないだろう。 (文=長野辰次) tg04.jpg 『トゥルー・グリット』 原作/チャールズ・ポーティス 製作総指揮/スティーブン・スピルバーグ 監督・製作・脚色/ジョエル&イーサン・コーエン 出演/ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、ヘイリー・スタインフェルド  配給/パラマウント ピクチャーズ ジャパン 3月18日(金)よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開 <http://www.truegritmovie.com/intl/jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

日本では上映不可の問題作が解禁!バイヤーが語る洋画買い付け裏事情

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シャルロット・ゲンズブールがカンヌ映画祭主演女優賞を受賞した
『アンチクライスト』。美しい森の中で、大変なことが起きてます。
(c)Zentropa Entertainments 2009
 ビョーク主演の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00)がカンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞したことから、日本では感動作としてよもやの大ヒットを記録したラース・フォン・トリアー監督。その後に発表した『ドッグヴィル』(03)、『マンダレイ』(05)を観れば分かるように、本来は人間の心の暗黒面を執拗にえぐり出し、観てる側が「もう勘弁してください」と涙目で逃げ出したくなってしまうサディスティックな作風が持ち味の監督なのだ。2009年のカンヌ映画祭でシャルロット・ゲンズブールが主演女優賞を受賞した新作『アンチクライスト』は、題名からも察せられるよう、敬虔なキリスト教信者なら卒倒しそうなアブノーマルな内容。セックスの最中に幼い息子を事故死させてしまった夫婦(ウィレム・デフォー、シャルロット・ゲンズブール)が心理治療のために森の中の山小屋で過ごすが、息子を死なせてしまったショックから立ち直れない妻は精神状態がさらに悪化。妻は事故の根源となった性欲を嫌悪するあまり、夫の局部をブン殴るわ、気を失った夫の足にドリルで穴を空けるわ、さらには自分の女性器をハサミで......。観てる側は「ほんと、もう勘弁してください」と涙目で許しを乞いたくなる強烈さ。しかも、おしゃべりするキツネが登場するシュールな展開。オー・アンビリーバボー!  カンヌでも物議を醸した本作は、日本での公開は無理だろうと囁かれていたが、果敢にも手を延ばしたのが近年、マニアックな作品を次々と買い付けているキングレコードだ。同社の第三クリエイティブ本部映像制作部に所属するバイヤー兼セラーの内田顕子さんに、『アンチクライスイト』をはじめとする逸品の数々の買い付けにまつわるエピソードを語ってもらった。 ──『アンチクライスト』がプレミア上映されたカンヌ映画祭での反響はどうだったんでしょうか? 内田 2009年5月のカンヌ映画祭コンペ部門で、無修正版の上映を観たんですが、上映前から"性描写がすごいらしい""かなり痛い内容みたいだ"と大変な評判になっていました。確かに性器が写し出されたり、痛いシーンが多く、ダメな人たちはスクリーンから目を逸らしていましたね。上映終了後は大ブーイングが起き、でも一方では拍手も湧き、まさに賛否両論状態。常に問題作を発表し続けるラース・フォン・トリアー監督らしい反響でした。個人的にも決してキライな作品ではなかったですね(笑)。日本からは他社のバイヤーも多数、カンヌに来ていたんですが、バイヤーみんなが思ったことは「すごい映画。でも、日本の税関を通すのが難しいだろうな」という心配でした。 ──映倫の審査の前に、まず税関でのチェックで引っ掛かるわけですね。 内田 そうです。税関で検査を受け、輸入の許可を受ける保税試写というのが行なわれ、その許可が下りないとそもそも日本に輸入できないんです。性器の映っているシーンにボカシを入れることで、通関することはできたんですが、もうひとつの問題が、日本での配給権がかなり高額で手が出せなかったということです。アスキングプライスといって、セラー側が提示価格を設定するんですが、日本のマーケットは大きく見られていて、以前は"製作費の10%"を要求されたほどで、今でもかなりの高額なんです。最近は日本での洋画不況を海外のライセンス会社の方たちも理解してくれていて、値段は低くなってきてはいるんですが、それでも当初はキングレコードが出せるような金額ではなく、2009年の冬の時点で一度は諦めたんです。
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セックスの最中に子どもを死なせてしまったことから、
妻(シャルロット・ゲンズブール)は情緒不安定に。セラピストの
夫(ウィレム・デフォー)はショック療法で妻を救おうとするが......。
──1度は諦めた作品でも最終的にはゲットできたのは、内田さんのバイヤーとしての情熱と交渉力の賜物ですね。 内田 そんな格好いいものではなく、ひたすら粘り腰です(苦笑)。ラース・フォン・トリアー監督の新作ですし、これだけの衝撃を与える作品はそうありません。これは、ぜひ日本で公開したいという思いですね。税関を通すのが難しそうな内容だったこともあり他社も買い控えたため、いくつかの映画祭のマーケットを経て、だんだんと値段が下がっていったので、会社の了解をもらって再度交渉したんです。ライセンス側からは、「最初の値段から、ずいぶんと下がったことで、製作側から不満が出ている。日本での配給権料、もう少しどうにかならないか」という話にもなったんですが、キングレコードが"ホラー秘宝"という形で近年はホラーやバイオレンス映画の配給実績があることをアピールし、ようやくキングレコードで配給することが決まったんです。それが2010年の3月。映画祭やマーケットで担当者に会う度に交渉し、さらに電話やメールでもずいぶんやりとりを続けましたね。初上映から1年近く交渉し続けたことになります(笑)。 ■R18、でもノーカットでの日本公開に ──ラース・フォン・トリアー監督は、『ドッグヴィル』『マンダレイ』に続く"アメリカ三部作"の完結編『ワシントン』の興行的見通しがつかず、製作が白紙になっています。また『アンチクライスト』は鬱病の治療の一環として製作されたとか。デンマーク在住のトリアー監督の海外での評価は、実際のところはどうなんでしょうか? 内田 確かに、いろいろと気難しい監督のようですね。でも、欧州では、やはり巨匠扱いです。日本では『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が当たりましたが、基本的にトリアー作品は、人間が感じる心的な痛みを美しい映像の中で描くものですね。『アンチクライスト』では、それに加えて物理的な痛みも描いています。映画祭でトリアー監督の独創的な新作が発表されるのを、業界関係者はみんな楽しみにしています。今年2月のベルリン映画祭では、現在製作中の『Melancholia』のフッテージ映像が、バイヤー限定試写で上映されるなど、やはり注目度の高い監督です。『Melancholia』は地球最後の1日をどのように過ごすか、複数の登場人物を追った内容みたいですね。これも楽しみです。 ──今回の『アンチクライスト』は、日本ではR18指定での公開。キングレコードではレイティングを下げようとは考えなかった? 内田 過激なシーンをカットして、レイティングを下げようという意見は社内ではまったく出ませんでした。映倫の審査でR18になってもノーカット版で上映しようという方向でまとまっていましたね。海外でも、だいたいR18かそれ以上になっています。宗教的な問題から、日本以上に厳しい扱いになっている国もあるようです。ライセンス側からは性器部分を見せないようにしたインターナショナル版を使ってもいいとも打診されましたが、そこは迷うことなくオリジナル版に近い形での上映に決めましたね。 ■"ホラー秘宝"で爆走するキングレコード ──『アメリ』(01)などのミニシアター系作品が日本で大ヒットしたことで、日本での配給権料が高騰したと言われていますが、最近はどうなのでしょうか? 内田 日本では洋画離れの状況になっていることは、海外のセラーの方たちも理解しています。映画祭を幾つか経ることで、作品の値段は段々と下がっていくわけですが、映画祭受賞作や人気監督の作品でも売れ残っていることが増えていますから。以前は"プリバイ"と言って、監督名やキャスト名、簡単なあらすじが発表された段階で、日本のバイヤーは買うことがありましたが、最近は買い控える会社が多いですね。かなりの人気キャストの場合は別ですが。日本のアスキングプライスが年々下がってきていることなどもあり、最近はまた各社とも買い付けを再開してきています。今後はキングレコードも大変になるかもしれません(苦笑)。 ──それにしても最近のキングレコードは、フレンチ"哲学"ホラー『マーターズ』(08)、実在の事件を基にしたカルト作家ジャック・ケッチャム原作のバイオレンス映画『隣の家の少女』(07)など、強烈な作品を次々と買い付けていますね。 内田 当社のDVDレーベル"ホラー秘宝"を担当しているディレクターの趣味なんです。決して、私がホラー大好きというわけではないんです(苦笑)。『隣の家の少女』は彼がジャック・ケッチャムの小説の大ファンなので、「じゃあ、こんな"どストライク"な作品があるよ」と私から『隣の家の少女』を紹介して、買い付けたものです。『マーターズ』は「あまりにも凄惨すぎるホラー」と海外での評判を聞いていて、私は見ないようにしていたんです(笑)。幾つかの映画祭で観る機会があったんですが、スルーしていました。ところが、スペインで開かれているファンタスティック系のシッチェス・カタロニア映画祭で上映中に気分の悪くなった観客が救急車で運び出されるというハプニングが起き、映画祭関係者がみんな『マーターズ』の話題ばかり口にするようになり、私がまだ観てないと言うと「なんで観てないんだ!?」と責められたんです(苦笑)。映画祭での熱気や関係者たちの評判に突き動かされて、私からディレクターに勧めた形ですね。ホラーやバイオレンス映画って、なかなか評価される機会がないんですけど、「これは、どうやって撮ったんだろう」と思うような斬新な演出の作品や他にはないようなテーマを扱っている作品に出会うと、「日本にも、この作品の凄さを伝えたい。"ホラー秘宝"が取り上げなくて、どうする!」とつい思ってしまうんです(笑)。でも、ただ単にエログロだったり、人がバンバン死ねばいいってわけじゃないですね。やはり、作品として面白いかどうかなんです。 ■バイヤーが選んだ強烈映画ベスト3とは? ──1年間を通して、世界中の映画祭を観て回っている内田さんの目から観て、「これは強烈だった!!」という作品は何でしょうか? ベスト3を教えてください。
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韓国から、またまたハードコアな傑作が上陸! 
キム・ギドク監督の助監督を務めた新人チャン・
チョルス監督の『ビー・デビル』。これもR18指定。
3月26日(土)よりシアターN渋谷ほかにて全国順次公開
(c)2010 Jeonwonsa Film Co.All Rights Reserved
内田 昨年のカンヌ映画祭で観た作品ですが、韓国のバイオレンス映画『ビー・デビル』。いわゆる韓流ドラマを私は全然観てないのですが、最近の韓国のバイオレンス映画は目を見張ります。『ビー・デビル』は保守的な島で虐げられてきたヒロインが夫や島民に次々と襲いかかるという内容です。女性の私が観て、ヒロインが逆襲に出る後半はスカッとしました(笑)。3月26日(土)から日本でも公開されるので期待してください。いちばんの衝撃作は、『マーターズ』かな。『マーターズ』のパスカル・ロジェ監督は、米国資本で『ヘルレイザー』(87)のリメイク版を監督する予定でしたが、降板しています。欧州で成功した監督は、米国で大予算の作品に起用されることも多いですが、米国側からR指定ではなくPG指定に脚本を直すように言われ、米国から引き上げてくるケースもあります。自分が撮りたい作品を撮らせてくれないのであればクリエイティビティを重視してくれる欧州で撮りたいと考える監督もいるようで、私もそれには賛成というようなニュアンスですね。
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暴力か芸術かで、本国フランスで論争となった残
酷ホラー『マーターズ』。マーターズ(殉教者)
の意味がわかるラストは強烈すぎ!
(c)2008Eskwad-Wild Bunch-TCB films
 逆に最近の米国はリメイクものが多くて、あまり刺激的な作品が出てきてないんじゃないかな。あくまでの私の見解ですが、最近の米国映画はホラー秘宝に見合うような、触手をそそられるようなものが少ないように感じます。あと1本は、やはり『アンチクライスト』ですね。強烈な作品で賛否両論あると思いますが、あまり難しく考えすぎずに、ホラーやサイコサスペンスとして楽しんでもいいし、男と女の哀しいラブストーリーとして観てもいいと思います。カンヌでは、しゃべるキツネが登場するシーンでは劇場内で笑いが起きていましたし、いろんな楽しみ方をしてほしいですね。 ──最後の質問です。内田さんがバイヤーというお仕事の喜びを感じるのは、どんなときでしょうか? 内田 自分が「これだ!」と思った作品を、地道に交渉を続けることで予算内で買い付けできたときですね。それで、宣伝スタッフの頑張りで日本の劇場でも多くの人に観てもらえると、よかったなぁ~と思えるんです。自分が手掛けた作品が日本で反響が起きると、本当にうれしいですよ。それって、「素晴らしい作品だ」という賞賛の声じゃなくて、逆に「なんで、こんな作品を公開するんだ!」というお叱りの声でもいいんです。『アンチクライスト』も、観た方たちの間でケンケンガクガクの意見が飛び交ってくれるとサイコーですね(笑)。 (取材・文=長野辰次) anchikuraisuto003.jpg『アンチクライスト』 監督・脚本/ラース・フォン・トリアー 出演/ウィレム・デフォー、シャルロット・ゲンズブール 配給/キングレコード+iae R18+ 2月26日(土)より新宿武蔵館、シアターN渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中 http://www.antichrist.jp
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アカデミー賞12部門でノミネート 世界が注目する話題作『英国王のスピーチ』

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『英国王のスピーチ』(C)2010 See-Saw Films. All rights reserved.
 当人にとっては人生を左右する深刻な状況が、はたから見るとおかしくてつい笑ってしまう。そんな少々屈折した笑いの要素を巧みに盛り込み、ドラマに仕立てた新作映画2本が2月26日にそろって公開される。  『英国王のスピーチ』は、まもなく発表されるアカデミー賞に最多12部門でノミネートされ、現在最も注目される話題作。現イギリス女王エリザベス2世の父で「英国史上最も内気な国王」と呼ばれたジョージ6世と、あるスピーチ矯正専門家の交流を描く物語だ。  第1次世界大戦後の英国。国王の次男ジョージは吃音障害に苦しんでいた。そして、妻が見つけてきたオーストラリア人ライオネルのもとで、吃音を克服すべく訓練を開始する。まず、ジェフリー・ラッシュ演じる型破りの言語トレーナー、ライオネルがユニーク。平民だが、権威に臆することなくジョージと対等の立場で治療に臨み、その心に隠されたコンプレックスを解きほぐそうとする。対するジョージ役のコリン・ファースの演技も見事の一言。途切れてしまう言葉と苦悩の表情に観客は心を痛めながらも、あの手この手のトレーニングに大真面目に取り組む姿に思わず吹き出し、大一番のスピーチではハラハラドキドキしながら心の中で「がんばれ、がんばれ!」と応援したくなるはず。悩みを抱えている人、現状に壁を感じている人に特におすすめしたい、温かな感動と勇気をもらえる傑作だ。  もう1本の『シリアスマン』は、『ノーカントリー』でアカデミー賞4部門を獲得したジョエル&イーサン・コーエン監督が放つ異色作。降って湧いたような不幸の数々に翻弄される男の運命を描くブラックコメディだ。  1967年のアメリカ中西部。ユダヤ人コミュニティーに暮らす物理学教授のラリーは、真面目だけが取り柄のような男。ひたすら平凡な人生を歩んできたが、ある日妻から突然離婚を切り出される。大学では落第生と、また自宅では隣人との間に、厄介なトラブルが続く。持病がある中年ニートの兄に居候され、妻や娘からは疎まれている。次々に降りかかる災難に困り果てたラリーは、ユダヤ教指導者のラビに助言を求める。個々のトラブルはありがちなものだが、それらが連鎖して真面目なラリーをじわじわと追いつめていく様はなんともシュール。同情を誘う主人公の困惑ぶりもひたすらおかしいが、冒頭と中盤に挿入されたオチが不明瞭な小話、驚天動地の結末という唐突さがやはり笑いを誘う。  まさに人間劇の"王道"を行く「英国王のスピーチ」と、起承転結や因果応報といった定型を拒む不条理劇の「シリアスマン」。好対照な2作品を見比べるのも一興だ。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 「英国王のスピーチ」作品情報 <http://eiga.com/movie/55750/> 「シリアスマン」作品情報 <http://eiga.com/movie/55320/>
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ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代

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中立公正なんかクソくらえとばかりに主観まるだしの記事を書きなぐった
伝説のフリージャーナリスト、ハンター・S・トンプソン。
型破りな取材スタイルは"ゴンゾー・ジャーナリズム"と呼ばれた。
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 美文麗文と称される記事ほど、事実を描いていない。文章がこぎれいにまとまればまとまるほど、真実がこぼれ落ちて行く。素晴らしい名文ほど、現実から乖離していく。ゴンゾー(ならず者)ジャーナリズムの開祖であるハンター・S・トンプソンは作品を通して、そのことを教えてくれる。トンプソンの記事には、やたらとLSD、メスカリン(幻覚剤)、売春婦、強姦、豚野郎などお上品でない言葉が並ぶ。記事に客観性はまるでなく、内容は取材対象からどんどんと逸脱していく。トンプソンがフリージャーナリストとして活躍した60年代後半から70年代前半の米国は"黄金時代"が終わり、ベトナム戦争のドロ沼化、キング牧師の暗殺、フラワームーブメント......と変動の時代だった。時代のうねりを活写するなら、うねりのある文章でなくては正しく捉えることができない。ロックスターがギターをブチ壊すかのように、トンプソンはタイプライターを叩き続け、時代のヒーローとなった。『GONZO』はゴンゾー・ジャーナリストとして人気を博し、晩年は山荘に篭り、2005年2月20日に拳銃自殺を遂げたハンター・S・トンプソンの破天荒な生涯を検証したドキュメンタリー映画であり、トンプソンの死と"自由の国"米国の死を重ね合わせた追悼作品でもある。  本作のナレーションを務めるのは、俳優のジョニー・デップ。トンプソンの代表的ルポルタージュ『ラスベガスをやっつけろ!』(筑摩書房)が98年に映画化される際に、トンプソンの山荘で共同生活を送り、トンプソンのヘアスタイルからしゃべり口調、タイプの打ち方までコピーしている。役づくりというよりも、反権力のシンボルとして生きたトンプソンのことが好きで好きで堪らなく、トンプソン自身になりたかった。どのくらいトンプソンのことが好きだったかというと、トンプソン自身が生前に発案した葬式とは思えないド派手なお別れセレモニーの運営費用を、ジョニー・デップが払っているほどだ。"限界ってヤツは、限界を越えたヤツらにしか分からない。生きているヤツらは、コントロールできる範囲まで引き返すか減速する。そして俺はまだ限界を超えていない"など、トンプソンの著書から抜粋した文章をジョニー・デップが読み上げながら、『GONZO』はトンプソンの生涯を振り返っていく。  1937年ケンタッキー州に生まれたトンプソンは、父親を早くに亡くし、本家"ロスト・ジェネレーション"の人気作家F・スコット・フィッツジェラルドに憧れるビンボーな少年時代を過ごす。プエルトリコのスポーツ紙の記者を勤めた後、まず"ヘルズ・エンジェルズ"の体験取材で名前を知られるようになる。これはファッションヘルス店の体験ルポではなく、当時の全米を震撼させていた巨大暴走族グループへの潜入ルポだ。処女作『ヘルズ・エンジェルズ 地獄の天使たち 異様で恐ろしいサガ』(国会刊行会)として出版されるが、印税の分け前をよこせというヘルズ・エンジェルズの要求をトンプソンが断ったことから、ボコボコにされる。しかし、トンプソンは怪我の代償として、問題の渦中に自分の体を投じるという取材スタイルをものにする。折られた肋骨の痛みは、ゴンゾー・ジャーナリズムへの陣痛だった。
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トンプソンを取材にきた「タイム誌」の記者に
対して発砲するなど奇人変人ぶりを発揮。愛用
のマグナム44やサブマシンガンを含め、
22丁の銃器を所有していた。
 さらにトンプソンは、シカゴの政治集会でベトナム反戦を唱える学生デモに加わり、警官たちから警棒でボコボコにされる。トンプソンの原稿は、知性や理性ではなく、騒乱の渦中に飛び込むことで体中に湧いてくる大量のアドレナリンで書き進められた。暴走族にボコボコにされるまで接近し、警官にボコボコにされることで権力を憎んだ。ボコボコにされる度に、ゴンゾー・ジャーナリズムは確立されていった。アドレナリンに任せてタイピングした熱気ほとばしる生原稿は、推敲や校正することなく、持ち歩いたファックスで編集部へ速攻送信した。もちろん、編集部が頼んだページ数や文字数など知ったこっちゃない。この部分は、売文稼業の末端にいる身として、ぜひとも見習いたい。  そしてゴンゾー・ジャーナリズムの完成形となったのが、71年に「ローリングストーン誌」で連載された『ラスベガスをやっつけろ!』だ。ヘルズ・エンジェルズの取材中に覚えたLSDをはじめとする極彩色のドラッグ類で終始キメながらサモアの怪人とデロデロ珍道中を繰り広げる。当初の取材目的だった砂漠のバイクレースはスタートだけ立ち会って、後はホテルで車中でバッドトリップしながらのドロドロデロデロな悪夢体験記となる。そんなイカレポンチな記事の底辺に流れているのは、"自由な国"米国の夢の残りかすを探しに"夢の街"ラスベガスに出掛けたけど、どこにもそんなものは在りませんでした~というガッカリ感。やっぱりね、という諦めの境地でさらにドラッグを吸い込み、バカ笑いの果てにどんよりとした空虚さを思い知る。それが、数年後にベトナム戦争で初めての敗北を味わう米国民のリアルな気分だった。  『ラスベガスをやっつけろ!』で注目の存在となったトンプソンは、米国最大のイベントである大統領選挙のルポをするようになる。宿敵だったはずのニクソン大統領と車中でアメフト談義を交わし、支援するジョージ・マクガバン上院議員が民主党大統領候補に選出される際には他の候補者をガセネタで蹴落とした。フィツジェラルドに憧れていたトンプソンは、フィッツジェラルドとは違った形で有名人となる。短パンにコンバースのバスケットシューズを履いたサングラス姿で酒やドラッグをあおり、虚実入り交じった原稿を書きなぐる。気に喰わないことがあると拳銃をぶっ放した。その奇人ぶりで、スタージャーナリストとなったのだ。
独特な文体、政治的発言が多いことから、
日本では紹介される機会が限られていたトンプ
ソン。中島らもさんが本格的ノンフィクションを
残していたら、日本でもゴンゾー・スタイルが
発生したかも。
 トンプソンのジャーナリストとして素晴らしいところは、決して"いい人"と思われようとしなかったことだ。露悪的に努め、世間の常識に飲み込まれることに抗い続けた。気に喰わないことがあるとすぐ発砲したと言われるが、トンプソンの拳銃は世間の常識やしがらみに向かって火を噴いていたのだ。『GONZO』では大統領取材中、トンプソンのアシスタント的役割を果たした年下の作家ティム・クラウスが登場し、ジャーナリストとしていちばんイケイケだった頃のトンプソンの素顔を語っている。取材に同行していたティム・クラウスによると、トンプソンの印象は"温かい人"であり、"ドラッグや酒に決して溺れることがなかった"と証言している。汚物まみれの真実により近づいた原稿をものにするために、"ならず者"という仮面を被って突撃取材していたことが分かる。しかし、やがて、その仮面の姿が一人歩きするようになる。  一連の大統領選挙の取材を経て、トンプソンは全米中にキャラクターが知れ渡り、取材活動に支障をきたすようになり、晩年はスキーリゾート地として知られるアスペンの山荘に篭りがちとなる。2001年9月11日の世界貿易センタービルが崩れ落ちるニュースを見て、ブッシュ政権による弾圧政治の危惧を訴えるが、かつてのような旺盛な執筆活動が再開されることはなかった。『ラスベガスをやっつけろ!』は"アメリカンドリームの終焉"をドタバタ喜劇として描いたが、9.11以降のブッシュ政権が起こした行動は、トンプソンが愛した"自由の国"米国の完全なる崩壊劇だった。笑いを挟む余地が、そこにはまったくなかった。テレビの画面には、毒舌や拳銃では歯が立たないハイテク兵器が飛び交っていた。  2005年2月20日、トンプソンは自宅で拳銃自殺を遂げた。以前から拳銃自殺することを公言していたことから、家族は覚悟していたらしい。トンプソンの遺体を見つけた息子のフアン・トンプソンは澄み渡ったアスペンの青空に向かって、銃を3発ぶっ放している。それは、父ハンター・S・トンプソンが、ハンター・S・トンプソンらしく自分の人生に幕を降ろしたことへの礼砲だったそうだ。 (文=長野辰次) gonzo04.jpg 『GONZO ならず者ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンのすべて』 監督/アレックス・ギブニー ナレーション/ジョニー・デップ インタビュー出演者/ジョージ・マクガバン、ジミー・カーター、パット・ブキャナン、トム・ウルフ、アニタ・トンプソン、フアン・トンプソン、ラルフ・ステッドマン、ソニー・バージャーほか 配給/ファントム・フィルム 2月19日よりシアターN渋谷、シネマート新宿ほか全国順次公開中 <http://gonzo-eiga.com>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

巨匠の新作はソフトSM!? 『ヒア アフター』の隠れた名場面

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 西部劇や刑事アクションの主演でトップスターの座を確立、監督業を兼ねるようになってからは年を追うごとにヒューマンドラマへシフトしてきたクリント・イーストウッド。『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』でアカデミー賞に2度輝いた巨匠が、最新監督作『ヒア アフター(ワーナー・ブラザース映画配給、2月19日公開)で"死後の世界"にとらわれた人々を扱うと聞けば、意外に思うだろうか。だが本作は、オカルトホラーでも宗教モノでもなく、登場人物らが現実の世界で苦悩する姿を描く切実な人間劇だ。  パリでジャーナリストとして活躍するマリー(セシル・ドゥ・フランス)は、休暇で訪れていたタイのビーチリゾートで津波に遭遇し、一時的に呼吸が停止する臨死状態に。その際に見た不思議なビジョンが帰国後も気になり、報道番組出演の仕事を休むことになったのを機に、臨死体験についての本を書き始める。  サンフランシスコ在住のジョージ(マット・デイモン)は元霊能者で、手を触れた相手の身近な故人と対話できる。だが、普通の人付き合いの妨げになることから自己の能力を忌み嫌い、過去を隠して工場で働いている。料理教室で知り合ったメラニー(ブライス・ダラス・ハワード)と親しくなりかけるものの、彼女に請われ能力を使ったことで関係は破局。自分を霊能者として復帰させ金儲けしようと企む兄から距離を置くため、ロンドンへ旅に出る。  一方ロンドンでは、小学生のマーカスが双子の兄を交通事故で亡くし、薬物依存の母親から離されて里親に預けられる。いつも支え合っていた兄とまた話したいと願い、霊能者を探し求めて徒労を重ねた末、ジョージの古いウェブサイトを見つける。  マリーは書き上げた本をPRするため、ロンドンのブックフェアに参加。ジョージもディケンズの朗読イベントを聴きに、またマーカスも里親に連れられて、それぞれブックフェアを訪れる。現実との折り合いに苦しむ3人の人生が交錯し、転機が訪れようとしていた。  本作の映像的な見どころはまず、冒頭のリゾート地を襲う津波のシーン。大波がビーチの行楽客を飲み込み、市街を襲う激流が建物を次々に破壊していく様を、押し流される者の視点でとらえた実写と、質の高いCGを巧みに組み合わせて描き出した。イーストウッド作品には珍しい派手なディザスター場面だが、製作総指揮がスティーブン・スピルバーグと聞けば納得だ。  もう1つ、特に男性にオススメの"隠れた名場面"は、料理教室でブライス・ダラス・ハワードが目隠しをされ、口に入れられる食材を言い当てる一連のシーン。香りをかぐ鼻、味わう舌や歯、唇が特大アップになり、これらのパーツが目隠しによって一層強調され、ソフトSMを思わせる倒錯した性的魅力さえ漂う。  実を言うと、物語の重点は死後の世界そのものよりも、主要人物3人がそれぞれ抱える悩み、周囲の無理解だとか、大切な人との別れといった、誰もが普通に経験する人生の問題に置かれている。だからこそ本作は、誰にも訪れ得る理不尽な暴力や死と隣り合わせの「生」が、たとえ孤独や苦悩を伴ってもやはり愛おしく貴重なものだと、静かな感動と共感とともに改めて思い出させてくれるのだろう。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 「ヒア アフター」作品情報 <http://eiga.com/movie/55325/>
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巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』

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クリント・イーストウッド監督の最新作『ヒア アフター』。『インビクタス/負けざる者たち』に続いて、マット・デイモンを主演に起用している。
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 現在80歳ながら、『チェンジリング』(09)、『グラン・トリノ』(09)、『インビクタス/負けざる者たち』(10)と近年ますます傑作・快作を連打しまくっている"御大"クリント・イーストウッド監督。撮影はほぼ1テイクという早撮りで、恐ろしく完成度の高い作品を生み出す。もはや、人間業と思えぬ領域に達している。そんな"映画の生き神さま"であるイーストウッド監督の第31作目となる最新作が『ヒア アフター』。日本語に訳すと"あの世"。臨死体験を味わった女性ジャーナリスト、死者とチャネリングする能力を持つ男性、双子の兄の突然の死に戸惑う少年、3人のドラマが交錯する異色の人間ドラマだ。    フランスで人気ニュース番組に出演している女性キャスターのマリー(セシル・ドゥ・フランス)は、番組プロデューサーで恋人でもあるディディエと共に東南アジアのリゾート地でバカンスを楽しんでいたところ、大津波に襲われる。九死に一生を得たマリーだが、意識不明の状態の際に光に包まれた不思議なビジョンを目撃した。いわゆる"臨死体験"だ。しかし、現役のニュースキャスターが"死後の世界"を口にすることを、ディディエをはじめ良識あるマスコミ関係者たちは良しとしない。結局、番組を降ろされたマリーは独自に研究を進めることになる。  一方、サンフランシスコで暮らす独身男のジョージ(マット・デイモン)は、自分に死者と交流する能力があることに悩んでいた。ジョージの噂を聞きつけて、「亡くなった家族ともう一度話しがしたい」と押し掛けてくる人が絶えない。"あの世"の存在に、生きている自分の実人生が振り回されることにジョージはうんざり。気分転換のためにイタリア料理の講習会に通い始め、美女メラニー(ブライス・ダラス・ハワード)といいムードになる。
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ジョージ(マット・デイモン)は子どもの頃に
入院してから、人に触れるだけで、その人と"あ
の世"の繋がりが見えてしまう不思議な能力を
持つようになった。
 そしてロンドンでは、双子の兄が事故死したことで、マーカス少年は心を閉ざしていた。いつも一緒にいた片割れがさよならも言わずに消え去った喪失感、明るく賢い兄ではなく愚図な弟である自分が生き残ったという罪悪感に苦しむ。もう一度兄に逢いたい一心で、マーカスは世間で評判の霊媒師とコンタクトを取ろうとするが、満足なお金を持っていない子どもは相手にされない。霊媒師はお金儲け目的のインチキばかりなことをマーカスは思い知らされる。やがて、パリのマリー、サンフランシスコのジョージ、ロンドンのマーカスは、運命に引き寄せられるように1カ所に集うことに。  ワーナーによると、『ヒア アフター』は〈死〉に直面した3人が出会い、〈生きる〉喜びを見つける"感動のヒューマンドラマ"であり、死者と繋がることをメインテーマにしたSFやファンタジー作品ではないそうだ。確かに、本作は『クイーン』(06)、『ラストキング・オブ・スコットランド』(06)、『フロスト×ニクソン』(08)といった史実劇を手掛けたピーター・モーガンの脚本作で、彼の脚本を読んだスティーブン・スピルバーグが『父親たちの星条旗』(06)、『硫黄島からの手紙』(07)でコンビを組んだイーストウッドを監督に指名したもの。イーストウッド発案の企画ではない。とはいっても、人間の"生"を掘り下げて描くことを命題とする作家や表現者ならば、現代人の"死生観"とじっくり向き合うことは必然だろう。ましてや、俳優・監督として、数多くの死に様を映画の中で見送ってきたイーストウッドである。"あの世"の描写は必要最低限にとどめてあるが、イーストウッドが、"生"と"死"の関係をどのように捉えているのかが興味深い。
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ロンドンで暮らす双子のジェイソンとマーカス
(ジョージ&フランキー・ハワード)。母親が
アルコール依存症のため、お互いに支え合って
生きてきた。
 物語の序盤で、マリーが体験する"臨死体験"とは一体どのようなものなのだろうか。ノンフィクション作家の立花隆がドキュメンタリー番組『臨死体験』(91年、NHKスペシャル)の放送後に収録できなかった取材資料を交えて上梓した著書『臨死体験』(文藝春秋)では、"臨死体験"は酸欠状態に陥った脳が見る幻覚症状という可能性があることに触れつつも、単なる幻覚とは言い切れない不思議な体験の数々を世界中の人たちが語っている。同書に登場する国際臨死体験研究協会の会長ケネス・リングによると、臨死体験者の多くは安らぎに満ちた気持ち良さ、体外離脱、暗闇(トンネル)の中に入る、光を見る、光の世界に入る、人生回顧、何らかの超越的存在との出会い、死んだ親族や知人との出会い......などを体験するらしい。ただし、自殺の場合は光を見る、光の世界に入る、超越的存在と出会うといった経験がほとんどないともある。  "生"と"死"の関係を考えさせる作品が最近少なくない。3月5日(土)からシネマライズ渋谷ほかで公開されるタイ映画『ブンミおじさんの森』は、輪廻転生する男が前世を語る物語だ。現在公開中の二宮和也&松山ケンイチ主演の『GANTZ』は地下鉄事故で亡くなった主人公たちが条件付きで蘇生を果たし、"生"の重みを噛み締める。人間の脳内イメージを形にする映画という表現手段は、"ヒア アフター"の世界を描くのに適した媒体なのだろう。  地方の寂れた映画館に入り、暗闇の中に映写室から一条の光が差し込む様子を眺めていると、遠い親戚の法事にでも参加しているような気分になる。哀しい思い出よりも、年末にみんなで集まって賑やかにモチをついたり、宴会の席で故人が顔を真っ赤にしていたなどの楽しかった記憶が甦る。映画を見るという行為は、自分の記憶を呼び起こし、記憶の中の住人たちと再会するということ、そして現在の自分自身を見つめ直すということでもあるようだ。イーストウッド監督の『ヒア アフター』を見て、そんなことを考えた。 (文=長野辰次) hear-after04.jpg 『ヒア アフター』 監督・製作・音楽/クリント・イーストウッド 製作総指揮/スティーブン・スピルバーグ 出演/マット・デイモン、セシル・ドゥ・フランス、ブライス・ダラス・ハワード、ジョージ&フランキー・ハワード 配給/ワーナー・ブラザース映画 2月19日(土)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー <http://www.hereafter.jp>
ユリイカ2009年5月号 特集=クリント・イーストウッド 生きる伝説。 amazon_associate_logo.jpg
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