
(左から)ジム・オルーク、足立正生、フィリップ・グランドリュー

『美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう』より

『美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう』より

『美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう』より

(左から)フィリップ・グランドリュー、足立正生、ジム・オルーク






『ドラゴン・タトゥーの女』
今週紹介する映画は、スリリングな展開に思わず引き込まれて時が経つのを忘れてしまう、ハリウッド傑作サスペンスの2作品だ。
2月10日に封切られる『ドラゴン・タトゥーの女』は、スウェーデン発の世界的ベストセラー・ミステリーを映画化した『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009)のハリウッドリメイク。オピニオン誌『ミレニアム』のジャーナリスト・ミカエルは、富豪一族の長・ヘンリックから40年前に少女ハリエットが失踪した事件の真相究明を依頼される。調査に乗り出したミカエルは、パンクファッションの下にドラゴンのタトゥーを忍ばせた天才女性ハッカーのリスベットと共に、一族の巨大な闇に迫っていく。
監督は『セブン』(1995)『ファイト・クラブ』(99)のデビッド・フィンチャー。ミカエル役のダニエル・クレイグは期待通りの安定した演技で存在感を示すが、さらに出色なのが、『ソーシャル・ネットワーク』(10)に続きフィンチャー作品のヒロインを演じたルーニー・マーラ。前作の清楚な美人女子大生役から一転、モヒカンに眉脱色に鼻ピアスという超過激な変身ぶりに加え、レイプやセックスの場面ではフルヌードも披露。まさに渾身の演技は、先月発表された第84回アカデミー賞主演女優部門ノミネートも当然。本作はさらに撮影賞、編集賞、録音賞、音響編集賞と計5部門にノミネートされている。作品冒頭では、音楽ビデオ畑出身のフィンチャー監督らしい、暴力・エロス・フェティシズムのイメージが炸裂する官能的なタイトルロールにもぜひ注目してほしい。
続いては、2月17日公開の近未来SFアクションサスペンス『TIME タイム』。科学技術の進歩によりすべての人間の成長が25歳で止まり、その先は腕に埋め込まれた体内時計が示す余命時間だけ生きられる時代。時間が唯一の"通貨"になり、貧困層は余命が限られる一方、富裕層はほぼ永遠に 生きながらえる。貧困街で暮らす青年ウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)は、ある裕福な男を助けたことで100年の時間を譲り受け、富裕層の居住区に潜入。大富豪の娘シルビア(アマンダ・セイフライド)と出会い、時間監視局員に追跡されながらも、時間に支配された世界に立ち向かおうとする。
『ガタカ』(97)『トゥルーマン・ショー』(98)のアンドリュー・ニコル監督が、SF的な設定とサスペンスフルな筋立てに哲学的なテーマを盛り込む独特の作風を今回も発揮。ことわざの「時は金なり」を文字通りに受け止めて映像化したらこうなった、というだけでなく、「限られた時間の人生にはどんな意義があるのだろう」「そもそもお金ってなんだろう。通貨ってなんだろう」といった問いを観客に投げかける。とはいえ、難しいことを考えなくても、気軽にアクションサスペンスを楽しむのももちろん自由。キリアン・マーフィ、オリビア・ワイルドといった助演陣もそれぞれ魅力的で、演技のアンサンブルも合わせて味わいたい。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ドラゴン・タトゥーの女』作品情報
<http://eiga.com/movie/56065/>
『TIME タイム』作品情報
<http://eiga.com/movie/57415/>

『ドラゴン・タトゥーの女』
今週紹介する映画は、スリリングな展開に思わず引き込まれて時が経つのを忘れてしまう、ハリウッド傑作サスペンスの2作品だ。
2月10日に封切られる『ドラゴン・タトゥーの女』は、スウェーデン発の世界的ベストセラー・ミステリーを映画化した『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009)のハリウッドリメイク。オピニオン誌『ミレニアム』のジャーナリスト・ミカエルは、富豪一族の長・ヘンリックから40年前に少女ハリエットが失踪した事件の真相究明を依頼される。調査に乗り出したミカエルは、パンクファッションの下にドラゴンのタトゥーを忍ばせた天才女性ハッカーのリスベットと共に、一族の巨大な闇に迫っていく。
監督は『セブン』(1995)『ファイト・クラブ』(99)のデビッド・フィンチャー。ミカエル役のダニエル・クレイグは期待通りの安定した演技で存在感を示すが、さらに出色なのが、『ソーシャル・ネットワーク』(10)に続きフィンチャー作品のヒロインを演じたルーニー・マーラ。前作の清楚な美人女子大生役から一転、モヒカンに眉脱色に鼻ピアスという超過激な変身ぶりに加え、レイプやセックスの場面ではフルヌードも披露。まさに渾身の演技は、先月発表された第84回アカデミー賞主演女優部門ノミネートも当然。本作はさらに撮影賞、編集賞、録音賞、音響編集賞と計5部門にノミネートされている。作品冒頭では、音楽ビデオ畑出身のフィンチャー監督らしい、暴力・エロス・フェティシズムのイメージが炸裂する官能的なタイトルロールにもぜひ注目してほしい。
続いては、2月17日公開の近未来SFアクションサスペンス『TIME タイム』。科学技術の進歩によりすべての人間の成長が25歳で止まり、その先は腕に埋め込まれた体内時計が示す余命時間だけ生きられる時代。時間が唯一の"通貨"になり、貧困層は余命が限られる一方、富裕層はほぼ永遠に 生きながらえる。貧困街で暮らす青年ウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)は、ある裕福な男を助けたことで100年の時間を譲り受け、富裕層の居住区に潜入。大富豪の娘シルビア(アマンダ・セイフライド)と出会い、時間監視局員に追跡されながらも、時間に支配された世界に立ち向かおうとする。
『ガタカ』(97)『トゥルーマン・ショー』(98)のアンドリュー・ニコル監督が、SF的な設定とサスペンスフルな筋立てに哲学的なテーマを盛り込む独特の作風を今回も発揮。ことわざの「時は金なり」を文字通りに受け止めて映像化したらこうなった、というだけでなく、「限られた時間の人生にはどんな意義があるのだろう」「そもそもお金ってなんだろう。通貨ってなんだろう」といった問いを観客に投げかける。とはいえ、難しいことを考えなくても、気軽にアクションサスペンスを楽しむのももちろん自由。キリアン・マーフィ、オリビア・ワイルドといった助演陣もそれぞれ魅力的で、演技のアンサンブルも合わせて味わいたい。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ドラゴン・タトゥーの女』作品情報
<http://eiga.com/movie/56065/>
『TIME タイム』作品情報
<http://eiga.com/movie/57415/>

(c)2010 Twentieth Century Fox
今週は、ハリウッドのスター女優の輝きを銀幕で堪能できる珠玉の映画2作品を紹介したい。まず1本目の『ブラック・スワン』(公開中、R15+)は、ナタリー・ポートマンが第83回米アカデミー賞で主演女優賞を獲得し、早くも今年上半期公開作ベストワンの声さえ聞かれる超話題作だ。
ニューヨークのバレエ団に所属するニナ(ポートマン)は、元ダンサーの母とアパートで暮らしながら、バレエ一筋で遊びや恋愛とは無縁の人生を送っていた。そんなニナに、長年の念願だった「白鳥の湖」の主役を踊るチャンスが訪れる。だが、演出家の高い要求とハードな練習、奔放な新人バレリーナ・リリー(ミラ・クニス)へのライバル意識と疑念、過干渉な母親との確執が重なって大きなプレッシャーに。やがてニナは、現実と妄想の境界を見失い、心の闇にとらわれていく。
少女時代にバレエを学び、撮影前の10カ月間に連日5時間の猛特訓をこなしたポートマンは、見事な舞踊シーンを披露。痛々しいほどの緊張感に満ちた稽古場面から、悪魔が乗り移ったかのような鬼気迫る「黒鳥」の舞まで、表情と身体表現が一体となった鮮烈なパフォーマンスはもはや芸術の域。端正な顔立ちが不安や苦悩に揺れ動くさまや、いくつかの官能的なシーンも含め、全身全霊で打ち込んだポートマンの存在感は見る者の脳裏に忘れ難い残像を残すことだろう。
監督のダーレン・アロノフスキーは、『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000)で薬物依存により精神のバランスを失う人々を、『レスラー』(08)で肉体を唯一の武器として闘い自らを破滅へ追い込む男を描いてきた。同監督が過去に扱ってきたこれらのテーマの集大成という面もある今作は、単に美しいだけのバレエ映画では決してない。CGを駆使したホラー風味の演出も印象的で、そうした部分も含めじっくり味わっていただきたい。
2本目は趣を変えて、アマンダ・セイフライド主演の明るくさわやかな恋愛ドラマ『ジュリエットからの手紙』(5月14日公開)。結婚を控えた記者志望のアメリカ人女性ソフィは、シェイクスピア作「ロミオとジュリエット」の舞台となったイタリア・ヴェローナを訪問し、ジュリエットに恋愛アドバイスを求める手紙に返信するボランティアグループと出会う。そこでソフィが偶然見つけた50年前の手紙に返信すると、手紙の主の老婦人クレアと孫のチャーリーがやって来る。ソフィとチャーリーは、クレアの初恋の男性を探す旅に同行するのだが......。
メリル・ストリープと共演した『マンマ・ミーア!』(08)の大ヒットで若手スターの筆頭格に躍り出たセイフライドは、ほかにも出演作の『クロエ』(5月28日公開)、『赤ずきん』(6月10日公開)が相次いで封切られるなど、まさに今が旬の女優。金髪に小顔、コンパクトにまとまった愛らしい目鼻立ちの彼女は、恋愛と仕事に悩みながらもポジティブに行動するソフィ役にぴったり。モデル出身でスタイル抜群、健康的な魅力を放つたたずまいが、イタリアの古風な街や美しい農村部の風景によく映える。
クレアが昔の恋人を見つけられるどうか、若い二人の恋の行方は、といった物語への興味もさることながら、手紙と言葉の持つ「力」を再認識させてくれる本作は、メール世代の若者には新鮮に、それ以上の世代には懐かしく受け止められるはず。優しさと切なさ、示唆と教訓に富むハートウォーミングな感動作だ。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)
「ブラック・スワン」作品情報
<http://eiga.com/movie/55751/>
「ジュリエットからの手紙」作品情報
<http://eiga.com/movie/55523/>

バレリーナのニナ(ナタリー・ポートマン)は、苦闘の末に黒鳥役を
自分のものにする。ダークサイドに引込まれたアミダラ姫みたい。
(c)2010Twentieth Century Fox
13歳のときに『レオン』(94)で衝撃的デビューを飾ったナタリー・ポートマン。『スターウォーズ』エピソード1~3(99~05)ではアミダラ姫を演じ、知名度は抜群。ハーバード大学を卒業した知性に加え、『Vフォー・ヴェンデッタ』(06)ではスキンヘッドになり、『クローサー』(04)ではストリッパー役、『宮廷画家ゴヤは見た』(06)では廃人役に果敢に挑むなど、与えられた役に情熱を注ぎ自分のものにする根性もある。ただし、女優としてあまりに生真面目な性格が災いして、どの作品でも平均点以上の高評価を受けるものの、デビュー作を上回る代表作を残すことができずにいた。天才少女として世に出てしまった優等生のジレンマってヤツですな。そんな格好の素材を手に入れたのが、ダーレン・アロノフスキー監督。『レスラー』(08)で"過去の人"ミッキー・ロークを再生してみせたアロノフスキー監督が、ナタリー・ポートマンに対して同じようなセミ・ドキュメンタリーの手法を再び使ったのが『ブラック・スワン』。完全なる"2匹目のドジョウ"狙いだが、これが見事に成功した。20代の終わりを迎えたナタリー・ポートマンにアカデミー賞主演女優賞をもたらしている。
10カ月掛けて毎日5時間のトレーニングに励んだというナタリー・ポートマンが今回演じたのは、NYの人気バレエ団に所属するバレリーナ・ニナ役。元バレリーナである母親と小さな頃から二人三脚で稽古を続け、実力は充分にあるが、ブレイクすることができずにいる。長年、バレエ団の看板を背負ってきたプリマのベス(ウィノナ・ライダー)が引退することになり、次回公演「白鳥の湖」は若手から新しいプリマが抜擢されることになった。ルックスもよく、キャリアもあるニナはプリマの有力候補のひとりだ。しかし、演出家のルロイ(ヴァンサン・カッセル)はニナに冷たく言い放つ。「キミは白鳥役は完璧に演じることができる。だが、黒鳥役を表現することができない」と。小さな頃から母ひとり娘ひとりで練習漬けの生活を送ってきたニナには、女性としての色気、人間的な面白みが欠けていたのだ。あまりに図星な指摘を受け、ナタリー・ポートマン演じるニナは動揺を隠せない。

ルロイ(ヴァンサン・カッセル)はセクハラ
野郎か、それとも鬼演出家なのか。ニナの周囲
にいる人間それぞれの二面性が描かれている。
バレエの人気演目である「白鳥の湖」は、ひとりのバレリーナが清純なお姫さまの化身である白鳥と、魔性の化身である黒鳥の2役を演じ分けるのが見どころ。いわば聖女と娼婦という真逆の役を、同じ舞台で演じ分けなくてはならない難しい内容なのだ。男性経験の少ないニナに対し、演出家のルロイは「オレが大人の女への手ほどきをしてやろう」とエロい目つき&手つきでセクハラ攻撃を仕掛けてくる。黒鳥パートをセクシーかつ奔放に演じる新人・リリー(ミラ・クニス)もライバルとして現われる。辛うじてニナはプリマに選ばれるものの、今度は想像以上のプレッシャーに押し潰されそうになる。白い肌にジンマシンが浮かび、ニナは無意識のうちに掻きむしってしまい、日を追うごとに血まみれになっていく。さらには自分のドッペルゲンガーと出会うなど、どんどん妄想の世界に引きずり込まれてしまう。
ニナがこっそりルージュを盗むほど、憧れ続けた旧プリマのベスを演じたのは、ウィノナ・ライダー。『ビートルジュース』(88)、『シザーハンズ』(90)などに出演し、10代の頃は絶大な人気を誇ったアイドル女優だった。『シザーハンズ』で恋人役を演じたジョニー・デップと離別してから、次第に人気が下降していき、30歳になって万引き事件を起こす転落人生を味わっている。本作では身も心もルロイに捧げ、プリマを務めてきたものの、浮気性のルロイと破局してからは一気に下降人生をたどってしまう"終わった女"を生々しく演じている。
一時期は人気を博したものの、私生活のつまずきから身を崩してしまう旧プリマ役にウィノナ・ライダー、優等生イメージの殻をなかなか破れずにもがく新プリマ役にナタリー・ポートマン。アロノフスキー監督は露骨なまでに新旧人気女優のパブリックイメージを、そのまんま劇中に持ち込んでいる。物語という虚構の中に現実を織り交ぜる。さらにナタリー・ポートマン演じるニナは、公演が近づくにつれ、ますます悪夢と現実の区別がつかなくなっていく。夢かうつつか、ライバルであるリリーと同じベッドでレズプレイに及んでしまう。そして、ついに「白鳥の湖」は幕を上げ、舞台という虚構がニナというちっぽけな現実を丸ごと飲み込んでしまう。

ナタリー・ポートマンは13歳までバレエを
習っていたが、今回の役作りのために1日5
時間の水泳とバレエの特訓を10か月間続けた。
ライバルのリリーに役を奪われるんじゃないか、自分の母親は娘がプリマに選ばれたことに嫉妬しているのではないか。周囲の人間のネガティブな面ばかり目に入り、ニナは身も心のズタボロ状態。そんな体調で、舞台に立てるのか? いや、ニナは半ば狂気に取り憑かれながら、舞台に出ることに固執する。それまでのいい子ちゃんから、何が何でも「白鳥の湖」の主役の座は手離さないという欲望がドス黒く渦巻き、遅ればせながら優等生のニナの中に自我が芽生える。コンディションは最悪だ。でも、どんな状況でも舞台を演じ切ってみせるのがプロフェッショナルの仕事であり、プリマである証明なのだ。『レスラー』でミッキー・ローク演じる老レスラーが心臓疾患を抱えながらリングに上がったように、ニナも自分の肉体を犠牲にして舞台中央でクルクルと踊り続ける。
もはやニナが立つ舞台は虚構でも現実でもない。その両者の向こう側にある彼岸の境地で、役と一体化したニナは力強く羽ばたく。彼岸の境地では、もう白鳥だろうが黒鳥だろうが、それは大した問題ではない。ニナはたった1回きりの舞台を演じ切るために、自分の演じる役と心中する。彼岸の境地に建てられた特設舞台には、未来とか過去という時間の概念はないのだ。誰にも真似できない、ニナだけが演じられる一生一代の大舞台である。観客は、ただただ唖然として見入るしかない。
『ブラック・スワン』を演じ切ったナタリー・ポートマンは、念願のオスカー像を手中に収めただけでなく、リードダンサー役で共演したベンジャミン・ミルピエの子供を身籠るという二重の喜びを手にした。虚実が渾然となった作品を最後まで演じ切ることで、公私ともにナタリー・ポートマンは大人の女優に転身することに成功した。そして、それはなんだかんだ言っても『レオン』や『ビューティフル・ガールズ』(96)で眩しく輝いていた"アイドル女優"の消滅でもあり、ナタリー・ポートマン自身の青春期の幕引きでもあった。
ひとりのアイドル女優が舞台の上で死んだ。そして、彼女は大人の女優として甦った。
(文=長野辰次)
『ブラック・スワン』
監督/ダーレン・アロノフスキー 振り付け/ベンジャミン・ミルピエ 出演/ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダー 配給/20世紀フォックス映画 5月11日(水)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
<http://www.blackswan-movie.jp>

「抱きたいカンケイ」(C)2011 DW Studios L.L.C. All Rights Reserved.
今週公開される2本の恋愛映画は、一方がコミカルで他方がシリアス、味わいはまるで異なるが、いずれも現代の愛のかたちを端的に切り取った作品だ。
まず1本目は、ナタリー・ポートマンとアシュトン・カッチャーが共演した恋愛コメディー『抱きたいカンケイ』(4月22日公開)。病院勤務医のエマ(ポートマン)とテレビ番組アシスタントのアダム(カッチャー)は、10代のころに出会い、その後偶然の再会を重ねてきたものの、顔見知り程度の仲。ところがある日、ふたりは一線を越えて肉体関係を持ってしまう。仕事が多忙を極め、自称「恋愛アレルギー」でもあるエマは、面倒な束縛や嫉妬を抜きにしたセックス・フレンドの関係をアダムに提案。メールで相手を呼び出してはあわただしく抱き合うという付き合いを順調に続けるが、やがてそれぞれの感情に変化が訪れて......。
『レオン』(94)の美少女の印象が強いポートマンも、今やすっかり大人の演技派女優になり、『ブラック・スワン』(5月11日公開)では第83回アカデミー賞主演女優賞を獲得。従来はシリアスな役どころが多かった彼女だが、今作ではコメディエンヌぶりを発揮。優秀なのに鈍くさいところもあり、恋愛は苦手なのにセックスは大好きという、少々イタいが愛らしいキャラクターをさわやかに演じている。
対するカッチャーは、この手のラブコメはお手のものといったところ。ポートマンとの掛け合いも楽しいが、オクテな同僚ルーシー(レイク・ベル)と急接近する場面などでも、爆笑の中の甘さと切ない演技が印象に残る。
これとは対照的に、4月23日に公開される『ブルーバレンタイン』(R15+指定)では、あるカップルの恋愛と結婚生活が切々と描かれる。高校を中退し塗装の仕事に就いたディーンと、苦学の末に資格を取って病院で忙しく働くシンディは、娘のフランキーと3人暮らし。夫婦は互いに不満を抱えているが、平穏な日常を壊すことを恐れ口に出せない。出会ったころは若く、互いに相手に夢中で、夢と希望に満ちていた。消えてしまいそうな愛を取り戻そうと、ディーンはある行動に出るが......。
シンディ役のミシェル・ウィリアムズは、本作での胸に迫る演技で今年のアカデミー主演女優賞にノミネートされ、ポートマンと競い合った。ディーン役のライアン・ゴズリングは、『ラースと、その彼女』(07)でラブドールを恋人にする青年を演じており、優しいがナイーブで社会にうまく適合できない男がハマリ役。
よき夫、よき親であることに充足する男と、そんな相手に満たされぬ思いを募らせる女。昔なら男女逆の例が多かっただろうが、昨今はこうしたカップルも少なくないのでは。既婚者や長年交際している相手がいる人が見ると、身につまされる部分も多々ありそうだ。
甘酸っぱいレモンケーキのような『抱きたいカンケイ』と、ほろ苦いビターチョコレートにも似た『ブルーバレンタイン』。好みの味を選ぶもよし、食べ比べるのももちろんアリだろう。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)
「抱きたいカンケイ」作品情報
<http://eiga.com/movie/55795/>
「ブルーバレンタイン」作品情報
<http://eiga.com/movie/55894/>

ゴダールやトリュフォーらと共にヌーベルバーグを代表する監督として活躍し、2010年に惜しまれつつ他界した巨匠クロード・シャブロル。同監督が最晩年期に手がけた恋愛サスペンス『引き裂かれた女』が4月9日より、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開後、全国順次公開される。
テレビ局でお天気キャスターを務めるガブリエルは、快楽主義者の著名作家シャルルと出会い、肉体関係を持つようになる。一方、親の遺産を相続し遊び暮らす美青年のポールも、ガブリエルを見初めて言い寄るが、食事を共にする程度の仲から進展しない。
シャルルから快楽の手ほどきを受け、愛にのめり込むガブリエル。だが、シャルルに距離を置かれ落ち込んでいるところへ、ポールから旅行に誘われたガブリエルは、旅先でポールの求婚を受けてしまう......。
2人の男に愛され、引き裂かれるような恋愛に苦悩するヒロインを演じるのは、フランソワ・オゾン監督の『スイミング・プール』(03)で大胆なヌードとセックスシーンを披露したリュディヴィーヌ・サニエ。本作での性的な描写は上品で間接的なものにとどまるが、美しい顔立ちの中にも少女のようなあどけなさが残る彼女の魅力を存分に堪能できることには変わりない。
シャルル役には、『トランスポーター』シリーズのトボけた警部役でおなじみのフランソワ・ベルレアン。ポールを演じるのは、ミヒャエル・ハネケ監督『ピアニスト』(01)でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞したブノワ・マジメル。
物語は、20世紀初頭のアメリカで実際に起きたスキャンダラスな事件をもとに、主要人物3人の関係と出来事を現代のフランスを舞台に再構築したもの。ただし、愛憎入り乱れる三角関係の結末は知らない方が、"フランスのヒッチコック"の異名を持つシャブロル監督の意表を突く演出をより一層楽しめるだろう。あまりの唐突さにぼう然となるラストシーンには、タイトルにつながるユーモアが込められていて、哀しさとおかしさが相半ばする複雑な感慨が後に残る。
恋をしているときは誰でも不安定になり、2人の異性の間で気持ちが揺れ動くというのもよくあること。その点で、ヒロインの心情に女性のみならず男性も大いに共感できる物語であり、心を狂わせる愛の魔力をあらためて思い知らせてくれる作品でもある。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)
『引き裂かれた女』作品情報
<http://eiga.com/movie/55935/>

『わたしを離さないで』(c)2010 Twentieth Century Fox
わが国を襲った未曾有の天災によって多くの命が奪われ、日常生活への無条件の信頼も大きく損なわれた。こんな時、自分の暮らしぶりや生きることの意味を、映画を通じて異なる視点から見つめ直すことも気持ちの助けになるのではないだろうか。
現在公開中の『わたしを離さないで』は、カズオ・イシグロの同名小説を、『17歳の肖像』のキャリー・マリガン、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのキーラ・ナイトレイ、『ソーシャル・ネットワーク』のアンドリュー・ガーフィールドの共演で映画化した作品だ。
外界から隔絶され豊かな自然に囲まれた寄宿学校ヘールシャム。仲良しのキャシー(マリガン)、ルース(ナイトレイ)、トミー(ガーフィールド)は、絵や詩の創作活動に励みながら、「特別な子ども」として育てられた。18歳で学校を出て農場のコテージで共同生活を始めるが、恋愛感情から彼らの関係も変化していく。3人はヘールシャムの秘密に迫り、定められた運命に立ち向かおうとするが......。
作品の世界には、あるSF的な設定があり、それがヘールシャムの謎と寄宿生たちの運命に関係している。美しいイギリスの田園地帯を背景に、切ないラブストーリー・衝撃のミステリー・命の意味への問いかけという要素が絡み合いながら展開する本作。ストーリーが進むにつれて、隠された真実が少しずつ明かされていく。三者三様の生き様の中で、悲しみを抑えながら過酷な運命に静かに向き合うキャシーの姿が特に印象に残る。
趣は異なるが、ソフィア・コッポラ監督の新作『SOMEWHERE』(4月2日公開)も、自分の生き方を見つめ直すための気づきをもたらしてくれる一本だ。
ハリウッドにあるスター御用達の伝説的ホテル「シャトー・マーモント」で、華やかなセレブライフを送りながらも、むなしさを感じている映画俳優のジョニー・マルコ。前妻から預けられた11歳の娘クレオと穏やかな日々を過ごすうち、心境に変化が訪れる。
監督自身が父フランシス・フォード・コッポラと過ごしたシャトー・マーモントでの思い出や、2児の母となった実感を投影したという本作。享楽的なホテル暮らしを惰性で続けながら、どこか居場所のなさを感じているジョニーを、『バック・ビート』『パブリック・エネミーズ』のスティーヴン・ドーフが好演している。
クレオ役のエル・ファニングは、言わずと知れたダコタ・ファニングの妹。かつて天才子役として名をはせたダコタが新作『ランナウェイズ』で大人の女性に変ぼうしてみせたのに対し、エルは今がまさに旬の美少女。フィギュアスケートのシーンで発揮されるスラリと伸びやかな肢体、会話の中やプールの水中で見せる天使のように愛くるしい表情など、彼女の魅力を心ゆくまで鑑賞できる作品でもある。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)
「わたしを離さないで」作品情報
<http://eiga.com/movie/55678/>
「SOMEWHERE」作品情報
<http://eiga.com/movie/55730/>

『ザ・ファイター』(C)2010 RELATIVITY MEDIA. ALL RIGHTS RESERVED.
東日本大震災の甚大な被害とその影響で、日本中が悲しみと不安に覆われている今日この頃。心の支えになるような何かを映画に求めるとしたら、困難に立ち向かう不屈の闘志だろうか、それとも気持ちやすらぐ癒やしだろうか。
3月26日公開の『ザ・ファイター』は、実在の名ボクサーとその兄を題材にした感動の人間ドラマ。マサチューセッツ州ローウェルに住む元ボクサーのディッキーは、かつてはスター選手とも戦う町の英雄だったが、麻薬に溺れ自堕落な日々を送っている。そんな兄にボクシングを教わったミッキーは、兄がトレーナー、過保護な母親がマネジャーという体制で試合に臨むが、対戦相手に恵まれず一向に勝てない。だが、恋人との出会いと兄の逮捕が転機となり、順調に勝利を重ね、ついには世界タイトルマッチへの挑戦が決まる。そしてちょうどその頃、兄が刑務所から出所する......。
努力家で真面目な弟と、天才肌でお調子者の兄という好対照のふたりを、プロ並みのトレーニングを3年続けて撮影に臨んだマーク・ウォールバーグと、役作りで13キロ減量し髪を抜き歯並びまで変えたクリスチャン・ベールがそれぞれ熱演。ベールと母親役のメリッサ・レオが先月の米アカデミー賞で助演男優賞、助演女優賞をそろって受賞したことも話題となった。
メガホンを取ったのは、『スリー・キングス』のデビッド・O・ラッセル監督。試合のシーンでは、対戦相手に本物のプロボクサーを、撮影にテレビ中継スタッフを起用するこだわりぶり。テレビ画面風の処理を施したショットの挿入も相まって、リング上で実際に行われているファイトを生中継で観戦しているかのような迫力だ。家族と恋人に支えられ、長く苦しい時に耐え、勝利を信じて戦い抜く主人公の姿は、観客の心を振るわせ、明日への活力をもたらしてくれることだろう。
アツイ映画もいいけれど、心を和ませてくれるような作品が見たいという向きには、現在公開中の『ファンタスティック Mr. Fox』がおすすめだ。『チョコレート工場の秘密』で知られるロアルド・ダールの原作小説を、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ライフ・アクアティック』のウェス・アンダーソン監督がストップモーション・アニメで映画化した。
野生のキツネMr.Foxは盗みのプロで、農家からニワトリやアヒルを失敬していたが、妻のMrs.Foxの妊娠と、罠にかかり絶体絶命のピンチに陥ったのを機に足を洗う。数年後、妻と息子の3人で穴ぐら生活を送りながら新聞記者として働くMr.Foxは、見晴らしのいい丘に立つ大木の家への引っ越しを決意。しかし丘の向こうには、意地悪な金持ちの農場主3人が住んでいた。泥棒稼業に復活し、人間たちの農場から獲物を盗むことを繰り返すMr.Foxら動物たちと、激怒してキツネを捕獲しようとする人間との穴ほり合戦が始まる。
これまで実写映画でもアンダーソン監督が一貫して表現してきた箱庭的な世界観と、愛らしい動物のパペットを1コマずつ動かして撮影したストップモーション・アニメの相性は抜群。作り手の愛情が伝わってくるパペットの造形と動きは、眺めているだけで自然と笑みがこぼれてしまう。動物対人間の冒険活劇も心躍るが、夫婦愛、親子愛もしっかり描かれており、大人から子どもまで幅広い世代が楽しめる作品だ。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)
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