高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程

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『タカダオカダ 適当ドライブ・
熱海温泉編』(ポニーキャニオン)
 5月28日、高田純次とお笑いコンビ「ますだおかだ」の岡田圭右が、都内で行われた新作DVD『タカダオカダ 適当ドライブ・熱海温泉編』(6月16日発売)の記者発表会に出席した。このDVDは、関西テレビで5月に放送された特別番組に、未公開シーンなどを加えてまとめたもので、2人が熱海で秘宝館に潜入するなど、珍道中を繰り広げる。  高田は「シリーズ化したら共演したいのは沢尻エリカさん。生尻? 触ってって言われれば触るけどね」といい加減なコメントを連発。自身のDVDについても「買いたい人は買って、買いたくない人は買わなくていい」と適当一筋の高田節を貫いていた。  高田純次といえば、現在では「日本一の適当男」として、ダンディーなルックスとは裏腹の超いい加減なキャラクターで世間には知られている。常に行き当たりばったりでその場限りの発言を連発して、「適当」という言葉が彼の代名詞になっているほどだ。  だが、高田に「適当男」というイメージが定着したのは、比較的最近になってからのことである。タレントとしてテレビに出始めの頃には、マイク片手にロケに出て、きっちり笑いを取って場を盛り上げるリポーター役として非凡な才能を発揮していた。その頃には、どちらかといえば「適当・いい加減」というよりも、「破天荒・自由奔放」という印象の方が強かったのだ。  そんな彼のテレビでのブレイクのきっかけになった番組といえば、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)だろう。ここで高田は、番組の名物リポーターの一員として、アクの強い素人や有名人を相手にして一歩も引かず、自由に暴れ回って笑いを取り、一気に世間の注目を集めた。中でも、女優の故・清川虹子の自宅に訪問したときに、彼女が大事にしていたダイヤの指輪を口に含んで吐き出した事件などは、今でも伝説として語り継がれている。  この番組を通して彼は、爆笑を勝ち取るためのリポート術を身につけていったのだろう。その具体的な内容とは、例えば、陽気に振る舞う、とにかくボケの数を多く打つ、自分の言ったことを自分で笑う、というようなことだ。明るい態度でテンションを上げていくことで、共演者を自分のペースに巻き込むことができる。また、間断なくボケ続けていくというのも、編集でどこが使われるかわからないロケだからこそ必要な心構えである。そして、自分の発言で笑ってしまうことで、その前に言った冗談の質や中身を問わず、見る者の警戒心を下げて笑いが生まれやすくなる。このようなテクニックによって、彼は日本一の名リポーターとなった。  その後の高田は、この方法論を他のバラエティー番組にも応用していった。スタジオでトークをするときにも、クイズの回答者として出演するときにも、立て続けにジョークを連発したりして、場の空気を強引にさらっていくことができたのである。  高田のこのスタイルの最大の利点は、歳をとってからもそのパワーが落ちない、ということだ。即座にシャープな言葉をひねり出す瞬発力を売りにしているような芸人は、歳をとって反射神経が衰えたときに、全盛期の力を再現できずに苦しむことになってしまう。だが、高田にはそんな心配はない。彼は、天性の明るさを武器に、自分の言った冗談が本当に面白いのかどうかという価値基準そのものを破壊してしまう。いわば、彼は「面白いこと」を言う能力だけに頼らず、自らが「面白い人」になることによって笑いを生んでいるのだ。  高田のやっていることは、昔からそれほど大きく変わっているわけではない。そんな彼が、近年になって「適当男」のレッテルを貼られているのは、単に彼が年齢を重ねたせいで、実年齢と中身のギャップが大きくなっているからだろう。歳を重ねれば、普通は体力や気力が衰えたり、節度を知って落ち着いたりするはずなのに、そうなっていないのは驚異的だ、というふうに思われているのだろう。  さらに言えば、下ネタやくだらないことを平気で口にしたりするのも、還暦を過ぎた彼がやると、妙にとぼけた味わいが出てくるようなところがある。老いてなお盛んな「平成の無責任男」に死角はない。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
タカダオカダ <適当ドライブ・熱海温泉編 適当、バンザイ! amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

森三中 メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」

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『ブスの瞳に恋してる 3 』マガジンハウス
 5月22日、森三中の大島美幸と放送作家の鈴木おさむ夫妻が、東京・銀座の教文館で新刊本『ブスの瞳に恋してる3』(マガジンハウス)の出版記念イベントを行った。  同書は、鈴木氏が大島との夫婦生活を記録したエッセー。クレオパトラのコスプレで現れた大島は、山田花子ら女性芸人の結婚ラッシュにも触れて、「自分のことのようにうれしい」と祝福。人妻になっても尻を出して笑いを取る自身の芸風に胸を張り、「花子さんもぜひやってください」と主張していた。  森三中は、「女性の3人組」という珍しいチーム編成の芸人である。今では3人が3人ともそれぞれの個性を発揮して、バラエティで活躍する機会も多い。彼女たちが単なる「ブスキャラ」にとどまらず、現在の地位を築くことができたのは、芸人として実力があったということに加えて、女性トリオとして互いの関係性を売り物にすることができるようになったからだ。  彼女たちはもともと、ネタが評価されて売れたタイプの芸人ではない。若手時代には、かなり前衛的なスタイルのコントを演じて『オールザッツ漫才』(毎日放送)で話題を呼ぶなど、どちらかというと世間よりも同業者に評価されるような芸風だった。だが、それがそのまま彼女たちのブレイクにつながったわけではない。  彼女たちは、バラエティに出演して、体を張った企画にも果敢に挑んでいくことで、少しずつ知名度を上げていったのである。この時期には、大島が先陣を切って過激な企画に飛び込み、3人を引っ張っていた。  特に、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ)での印象は強烈だった。この番組のロケ企画では、大島が浜田雅功に邪険に扱われ、最後は裸になり、胸や尻や局部を堂々と露出して爆笑を勝ち取っていた。これはもちろん、すべてを笑いに変えてしまう『ガキ使』という特殊な空間だからこそ通用するギリギリの企画ではある。ただ、大島の不細工ではあるがどこか憎めないキャラクターによって、いやらしくもなく気の毒でもない雰囲気を作ることができたのである。女性芸人で、服を脱いで笑いが取れるのは大島ぐらいのものだろう。  また、同じ企画の中で、村上知子は浜田に強引に胸をもみしだかれ、真に迫る恥ずかしそうな表情を浮かべていた。これもまた、大島の裸と並んで、お笑い史に残る伝説として語り継がれている。いずれも、従来の女性芸人ではあり得ないようなものを見せられたという衝撃があった。平気で裸になる(ように見える)大島も、胸をもまれて本気で脅えた表情を浮かべる(ように見える)村上も、どちらも女性芸人としての限界を超える決死のパフォーマンスを見せていた。  ただ、彼女たちの個々の魅力が引き出されるのはここからだった。大島、村上の2人は立て続けに結婚を果たしたことで、従来の「ブスキャラ」「女捨ててるキャラ」からの脱却を果たした。もともと、脱いでもどこか品がある大島と、料理や家事などの趣味を持つ村上は、「ブスキャラ」というレッテルを貼られて終わってしまうような存在ではなかったのである。  そして、事態がここに及んで、3人の関係性が一気に変わり、もう1人のメンバーである黒沢かずこに注目が集まるようになった。実は3人の中で最も変わり者だとも言われる黒沢の才能が、ここから一気に開花したのである。「キューティーハニー」の歌詞を適当に変えて熱唱する、お笑いやラジオ番組の熱狂的なファンであることを公言する、大島・村上をねたむ発言を連発するなど、黒沢が負のオーラを身にまとい、つかみどころのない不気味なキャラクターをあらわにしている。黒沢の暗黒面が拡大するのに伴って、彼女自身の体型もどんどん肥大しているというのも恐ろしい。  ただ、これによって、森三中はトリオとしてのバランスが良くなった。比較的影の薄かった黒沢が目立ち始めて、3人それぞれが単体で通用するキャラクターになったのだ。大島が体を張ってもいいし、村上が家庭的な一面を見せてもいいし、黒沢が歌いながらスタジオに乱入してきてもいい。そしてもちろん、彼女たちの組み合わせ次第で、そこでできることの可能性は無限に広がる。3人そろっても良し、1人や2人でテレビに出てもきっちり仕事をこなす。ここでようやく、森三中は本当の意味でトリオとしてのブレイクを果たしたのである。  それぞれが一癖あるキャラを持ち、歌がうまく器用でもある3人が、番組や企画ごとにそれぞれの役割を使い分けながら、互いの関係性そのものを日々更新していく。人々を引きつけてやまない森三中の魅力の源泉は、恐らくその部分にある。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
ブスの瞳に恋してる 3 女を捨てて女になった女です。 amazon_associate_logo.jpg
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●「この芸人を見よ!」書籍のお知らせ
日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が書籍化されました。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オードリー、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる"お笑い愛"で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算や「M-1グランプリ」の進化を徹底分析など、盛りだくさんの内容です。手元に置いておくだけで、お笑いを見るのがもっと楽しくなる。そして、お笑い芸人を通して現代が見えてくる。そんな新時代の"お笑い批評"をお楽しみください。
ラリー遠田×担当編集S「お笑いを楽しむための"ツールとしての批評"でありたい」
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

Wコロン・ねづっち 「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由

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ねづっちです!
 現代のテレビバラエティーの世界では、「うまいことを言う」という技術の価値が軽視されがちである。駄洒落は「おやじギャグ」として忌み嫌われているし、1つの言葉に2つの意味を持たせて笑いを取るという手法もそれほど一般的ではない。テレビに出る若手芸人が、トークやネタの一部に、このような言葉遊びをさりげなく忍ばせたりするケースはある。だが、それはあくまでも例外にすぎない。ほとんどの芸人は、テレビの中でそういう方向性の笑いを追求したりはしない。  その大きな理由としては、言葉遊びによる笑いの多くが、理解するのに多少の時間を要する「考えオチ」の笑いであり、瞬間的な爆発力が求められるテレビの世界とは相性が悪い、ということがある。今どきの視聴者には、「考えて納得して笑う」というプロセスをいちいちたどってもらうことは期待できないのだ。  落語のオチにあたる「サゲ」の多くには、ダブルミーニングを使った言葉遊びが含まれているし、落語家が余興や大喜利でなぞかけを披露するのは珍しいことではない。「うまいことを言う」という技術は、寄席の世界では生きながらえているが、テレビの世界ではほぼ死滅していたのだ。  そんな中で、Wコロンのねづっちが「なぞかけ芸」で注目を集めているというのは、時代に逆行するようにも見える驚くべき事態である。彼は、浅草を中心に活動する漫才師であり、「バッチグー」などと古臭い死語を連発して、やたらとなぞかけを言いたがる「なぞかけ漫才」を持ち芸としている。漫才の中では、自慢げになぞかけを披露するねづっちのズレっぷりに相方の木曽さんちゅうがツッコむという形で、一種の飛び道具としてなぞかけが用いられている。  そんな彼が、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)『アメトーーク』(テレビ朝日系)などの番組で、与えられたお題で瞬時になぞかけを返す技を披露したところ、それが話題を呼んだのである。彼は、幼い頃から鍛え上げた「うまいことを言う能力」によって、驚異的な速さでなぞかけを繰り出すことで、言葉遊びをテレビで通用するエンターテイメントにしてしまった。速さだけを追い求めることによって、時代遅れの言葉遊び芸が、新たな感心と感動を呼び起こしたのである。  彼がブレイクした要因の1つには、「なぞかけ」を巧妙にパッケージングしたことが挙げられる。なぞかけとは本来、単発で披露されるものであり、ネタを披露したらあとはそれぞれの受け手にその意味を考えてもらうことしかできない。いわば、本来のなぞかけ芸は、かなりの割合で「お客さん任せ」の芸になってしまいがちなのである。  だが、彼は、それを分かりやすく見せるためのフォーマット作りにこだわった。なぞかけネタが頭の中でまとまると、すかさず元気よく「整いました!」と声を張り上げる。そして、ネタを披露し終わると襟元を立てて、「ねづっちです!」と決めポーズを作る。この一連の流れができたことで、なぞかけパフォーマンスの型が明快になり、誰もが楽しめるようになった。  さらに言えば、ここで最も重要なのは、「整いました!」「ねづっちです!」と言うときの彼の屈託のない笑顔である。うまいことを言う人間は、往々にして「してやったり」という表情、いわゆる「どや顔」をしてしまいがちだ。それが見えてしまうと、観客はうまいことを言うことの面白さをなかなか素直に受け入れてはくれなくなる。だが、ねづっちは素直になぞかけを愛し、うまいことを言うことそのものの快楽に溺れている。そんな彼の無邪気な笑顔が、時代を超越して見る者を圧倒するのである。  なぞかけブームを牽引するねづっちは、持ち前の超絶技巧によって、うまいことを言うことの価値を現代によみがえらせてしまった。お笑い界の「音速の貴公子」は、昭和の香り漂う芸風で今日も淡々となぞかけを整えている。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
なぞかけで「脳活」!―脳を活性化させるドリル付き 若年性アルツハイマー予防に。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

所ジョージ 突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」

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『安全第二』(エイベックス・エンタテイメント)
 4月25日、所ジョージがアニメ映画『トイ・ストーリー3』の声優発表会に出席した。先月中ごろ体調不良でテレビ番組収録を欠席していたのだが、公の場に復帰して元気な姿を見せた。「1、2以上に面白いので、見ないとダメ。あと6月公開の(北野武監督の)『アウトレイジ』もよろしく」とちゃっかり友人の映画の宣伝もするなど、自由奔放な語り口は普段通りだった。  芸能界広しと言えども、所ジョージほどの安定感を誇るタレントはほかにいないのではないだろうか。デビュー以来、その型破りで奔放なキャラクターが支持されて、バラエティーを中心に活躍。いまだにゴールデンタイムに数多くのレギュラー番組を持っている。他の大物タレントの多くは、ある程度の浮き沈みを経験しているものだが、所にはそれもほとんどないと言っていい。脱力した態度で自然体に振る舞うというスタンスを貫きながら、常に第一線に立っている。  本業はミュージシャンと言っているが、彼の作る楽曲はかなり独創的で形容しがたい魅力に満ちている。コミックソングとして万人ウケするほどの爆発力もなく、名曲として語り継がれるほどの圧倒的な音楽性の高さがあるわけでもない。ただ彼は、「笑っても笑わなくても別にいい」ぐらいの態度で、たまにテレビで自作の曲を披露するだけなのである。  また、彼には、マニアックな趣味人というイメージもある。車、アウトドア、ゴルフ、ラジコンなど、多数の趣味を持ち、「世田谷ベース」と称される仕事場を拠点にして、趣味を生かした番組の収録もそこで行っている。  どこを取ってもつかみどころのない不思議な存在。彼がお笑いタレントと呼べるのかどうかすらよく分からないが、タレントとしてビートたけしや明石家さんまとも対等に絡める話術は天下一品である。彼の立ち回りのどこがそんなに評価されているのだろうか。  所のテレビタレントとしての最大の特徴は、乗りたいときだけ乗る、はしゃぎたいときだけはしゃぐ、という徹底した割り切りだ。これは簡単そうに見えてなかなかできることではない。バラエティーの世界では、我先にと言葉を発しなければ置いて行かれてしまう。だが、所はそこで焦らないし、たとえ置いていかれたとしても、そんな自分の立ち位置自体にこだわらない。自分のアンテナに引っかかったものだけを楽しそうに受け入れ、気の利いたコメントで処理するという技術だけを洗練させているのである。  これは、何にでも乗っかり、誰とでも絡み、全てをネタにしようとする明石家さんまのような芸風とは真逆のスタイルである。だが、だからこそ、所とさんまは互いの力を認め合い、一目置いているのである。所は、たけしやさんまがジョークを飛ばしたときに、素直にホメて面白がる、という対処をすることが多い。面白さを単純に認めてほめてしまうというのは、お笑いとは別の視点で物事を見ている彼にしかできない芸当だ。  所は、一人称として「私」というのをよく使う。これも、バラエティータレントとしてはかなり珍しい。男性の用いる「私」には、状況には関わらずに淡々とマイペースを貫くような品の良さのようなものが感じられる。所の悠然とした構えが、「私」という呼び方そのものに現れているのだ。彼がタレントとして飽きられないのも、お笑いや芸能界の戦場そのものには首を突っ込まずに、一定の距離を保っているからだろう。  所ジョージは、単なるお笑いタレントでもなければ、ミュージシャンでもない。職業「所ジョージ」として、誰にも縛られずにテレビの世界を気ままに漂う風来坊だ。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
安全第二 妻の尻に敷かれっぱなしだけどね。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

土田晃之 元ヤン、家電、ガンダム……でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた

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『土田晃之のガンダムにもの申す! 』
(角川グループパブリッシング)
 かつて、本連載の中で品川庄司の品川祐について取り上げたとき、「なぜ品川は嫌われるのか?」という問題について考察してみた(記事参照)。品川には、有吉弘行が命名した「おしゃべりクソ野郎」というあだ名に代表されるような、ネガティブなイメージが常についてまわっている。  だが、ここで、品川に対してある1人の芸人を対置してみると不思議なことがわかる。多趣味で物知り。ガンダムや家電にも詳しい。不良少年だった過去がある。ひな壇を主戦場とする。品川と多くの共通点がありながら、品川ほど世間に嫌われてはいない芸人。そう、土田晃之だ。  土田はなぜ、品川ほど露骨に嫌われていないのだろうか? 土田と品川はどう違うのか? 土田だけが持っている特性とはいったい何なのか? それらの点について考えてみたい。  土田の芸人としての最大の特徴は、自分を切り売りしない芸風である、ということだ。土田は、少なくともテレビの中ではあまり自分のことを話したがらない。また、コンビ解散後はお笑いネタを作るという自己表現からも遠ざかってしまった。彼はあくまでも、竜兵会の広報部長として、子だくさんの愛妻家として、ガンダム愛好家として、サッカーファンとして、といった肩書きを背負って登場し、自分以外の何かを紹介するというポジションに立って話を進めていくのだ。  土田は、自分自身をさらけ出して前に出ようとすることはない。半自伝的小説『ドロップ』を書き下ろして、自分の過去を臆面もなく美化してフィクションに仕立ててしまった品川とは、その点が大きく異なる。現代のひな壇芸人が置かれている過酷な状況を知りながらも、自分が主役になりたいという欲望をどこまでも失っていないのが品川だとすれば、そのレースに初めから参加していないのが土田である。土田は、上島竜兵の面白さについて熱く語ることはあっても、自分のことをひけらかそうとはしない。  これは、土田が自分自身のイメージをある程度突き放して見ているからこそできることだろう。キャラが薄くてさほど特別な人生経験を持っているわけでもない自分が、必死で目立とうとしても笑いには結びつかない。それならば、誰もが好きなものや、誰もが興味のあるものを自分が紹介することで笑いが取れればそれでいい、と。  言い換えればそれは、彼が自分の「俗物性」という欠点を「一般人の気持ちがわかる」という利点として生かした、とでも言うことができる。「子煩悩」という属性も、「ガンダムファン」という属性も、世の中の多くの人が共通して備えていて、共感を得やすいジャンルのものである。土田は常に、獲物がいるところで狩りをする。自分だけの狩り場を無理に開拓しようとはしない。効率を最優先して、できることだけをこなそうとするのである。  早口で仏頂面という特徴からしても、土田は決して親しみやすいタイプではない。だが、彼の提供する話題は常にわかりやすくかみ砕かれた形になっていて、受け手を納得させたり笑わせたりするだけの腕がある。態度は無愛想ではあるが、彼は最終的にはきちんと大衆の味方につく。そこが土田の魅力である。  彼が「ひな壇の神」と称されているのは、自分の役割をわきまえてそれをまっとうするということにかけて、彼の右に出る者がいないからだ。土田は、自分を消して相手を輝かせる。だからこそ、熱狂的に好かれたりしない代わりに、忌み嫌われることもない。土田は、生来の俗物性を原動力にして、どこに配置されてもきっちり仕事をこなす「最強の凡人」である。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田) お笑いトークラリー特別編 「ラリー遠田×岩崎夏海 ~もしM-1に挑む若手芸人がドラッカーの『マネジメント』を読んだら~」 お笑い評論家・ラリー遠田が、話題沸騰のベストセラー小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社)の著者である岩崎夏海さんをゲストに招いて、「お笑い」をテーマに熱いトークを繰り広げます! 【日時】5月4日(祝) 【出演】ラリー遠田 【Guest】岩崎夏海 【会場】ネイキッドロフト OPEN18:30 / START19:30 ●ラリー遠田「おわライター疾走」 <http://owa-writer.com/> ●岩崎夏海「ハックルベリーに会いに行く」 <http://d.hatena.ne.jp/aureliano/> 前売りチケットは3月26日からローソンチケットで販売。(Lコード:36287) 問:tel.03-3205-1556(Naked Loft)
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●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ
日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が書籍化されました。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オードリー、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる"お笑い愛"で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算や「M-1グランプリ」の進化を徹底分析など、盛りだくさんの内容です。手元に置いておくだけで、お笑いを見るのがもっと楽しくなる。そして、お笑い芸人を通して現代が見えてくる。そんな新時代の"お笑い批評"をお楽しみください。
ラリー遠田×担当編集S「お笑いを楽しむための"ツールとしての批評"でありたい」
土田晃之のガンダムにもの申す! 知識を芸に変える。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

タカアンドトシ 非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由

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『本音か!!』ワニブックス
 漫才とは、言葉の快楽を追求する芸能である。あるフレーズの響きが気持ちいいかどうか、ということがとても重要で、その理想を求めて漫才師は自分たちの言葉をつむいでいく。  関西と非関西で比較したとき、ツッコミの語彙に文化的な由来があるのは関西の方である。関西では、「なんでやねん」はただのお笑い用語ではなく、一般人が日常的に用いるフレーズである。だが、それ以外の地域では、そもそも「なんでやねん」にあたる自然な語彙が存在しない。すなわち、会話の中で人間関係の距離を詰めて「ツッコミをいれる」という慣習自体が根付いていないのだ。  だから、非関西地域の漫才師にとっては、ツッコミをどういう形式にするか、ということが大きなテーマになる。  漫才ブーム以降の非関西漫才では、ツッコミの形態にはいくつかの大きな流れがある。1つは、ツービート、爆笑問題に代表されるような、ボケが主導権を握り、ツッコミはそれに追従するだけという「薄味ツッコミ」。もう1つは、おぎやはぎやPOISON GIRL BANDに代表されるような、柔らかな口調で決してボケを強く否定しない「同調ツッコミ」。そしてもう1つは、くりぃむしちゅーに代表されるような、ツッコミの中に気の利いた例え話を差し挟んで、笑いどころを増やす「例えツッコミ」である。  「なんでやねん」にあたる自然なフレーズがもともと存在しない以上、非関西のツッコミは、「言葉の快楽」にかけては関西のツッコミに真っ向から勝負はできない。それが従来の常識だった。  だが、近年に入り、新たなツッコミの形を開拓する意欲的な漫才師が現れた。それが、北海道出身のタカアンドトシである。彼らは、オーソドックスでわかりやすいネタ作りを基本にしながらも、ツッコミ担当のトシの器用さと声質を生かして、その可能性を追求し続けてきた。  その過程で生まれたのが、トシがつっこむべき場面でなぜかボケた張本人のタカがトシにつっこんでしまう、という「ツッコミ返し」の技法だった。トシがタカの頭を叩くのに合わせてタカが同時につっこみ返す、いわばツッコミのクロスカウンター。2004年の「M-1グランプリ」の決勝で彼らがそれを披露した瞬間、審査員席の西川きよしは普段以上に目玉を見開いて体をのけぞらせていた。彼らがM-1に持ち込んだこの大技は、百戦錬磨の西川を驚かせるほどの代物だったのだ。  だが、この年のM-1では、アンタッチャブル、南海キャンディーズ、麒麟という強豪にはばまれて、彼らは4位という結果に終わった。結成10年目を迎えていた彼らは、この年のM-1がラストチャンスとなった。  だが、M-1が終わっても、彼らの漫才道は終わらなかった。ツッコミ返しという技を編み出した2人は、「ここにはまだ何かがある」と感じていた。そこで、タカが同じパターンのボケを何度も繰り返し、トシが同じフレーズでつっこみ続ける、という技を開発した。これは、トシのツッコミの切れ味が強調されるという意味で、彼らにぴったりの技法だった。  そして、そんな漫才の進化の果てに、ようやくあの「欧米か!」が生まれた。欧米風の文化に執拗にこだわるというタカの妙なボケに対して、トシはひたすらどっしり構えて「欧米か!」の一言でつっこみまくる。タカトシの漫才が、「うまい漫才」から「すごい漫才」へと進化したのはこの瞬間だった。一定のリズムで「欧米か!」が繰り返されるタカトシの漫才は、言葉の快楽を極めた漫才のお手本のようだった。  そこからの彼らの快進撃については改めて記すまでもないだろう。「欧米か!」は世間でも流行語になり、彼らは一躍人気者になった。タカトシの2人は順調にレギュラー番組を増やし、この3月には深夜の人気番組『お試しかっ!』もゴールデン進出を果たした。  漫才の可能性を追い求めた果てに生まれたキラーフレーズ「欧米か!」の破壊力は絶大だった。タカアンドトシは、安定感抜群のツッコミの力によって、「M-1の向こう側」を見た唯一の漫才師である。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田) お笑いトークラリー特別編 「ラリー遠田×岩崎夏海 ~もしM-1に挑む若手芸人がドラッカーの『マネジメント』を読んだら~」 お笑い評論家・ラリー遠田が、話題沸騰のベストセラー小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社)の著者である岩崎夏海さんをゲストに招いて、「お笑い」をテーマに熱いトークを繰り広げます! 【日時】5月4日(祝) 【出演】ラリー遠田 【Guest】岩崎夏海 【会場】ネイキッドロフト OPEN18:30 / START19:30 ●ラリー遠田「おわライター疾走」 <http://owa-writer.com/> ●岩崎夏海「ハックルベリーに会いに行く」 <http://d.hatena.ne.jp/aureliano/> 前売りチケットは3月26日からローソンチケットで販売。(Lコード:36287) 問:tel.03-3205-1556(Naked Loft)
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●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ
日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が書籍化されました。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オードリー、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる"お笑い愛"で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算や「M-1グランプリ」の進化を徹底分析など、盛りだくさんの内容です。手元に置いておくだけで、お笑いを見るのがもっと楽しくなる。そして、お笑い芸人を通して現代が見えてくる。そんな新時代の"お笑い批評"をお楽しみください。
ラリー遠田×担当編集S「お笑いを楽しむための"ツールとしての批評"でありたい」
タカアンドトシ 本音か!! かつてはイケメンコンビでした。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

キングコング西野亮廣 嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」

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『逢いたくて五反田』R and C Ltd.
 4月10日に放送された『笑神降臨』(NHK)に出演したのはキングコングの2人。テレビでネタをする機会もほとんどなくなった彼らが、客前で堂々と5本の漫才を演じていた。  キングコングは、デビュー前から現在まで、ずっとスター街道をひた走ってきた芸人である。彼らの芸は、コンビ結成当初から抜群の完成度を誇っており、NSC在学中に出場した「第30回NHK上方漫才コンテスト」で最優秀賞を受賞。プロデビューの前にビッグタイトルを獲得して、お笑い界にその名をとどろかせた。  その後の活躍も目覚ましいものがあった。『新しい波8』(フジテレビ)の出演がきっかけで、深夜コント番組『はねるのトびら』(同)のレギュラーメンバーに選ばれる。ロバート、ドランクドラゴンといった芸人と共に、若い世代を対象にしたコントで人気を博した。  そんな『はねトび』は、2005年にはゴールデンタイムに進出。当初は数字が伸び悩んでいたが、小中学生にターゲットを絞った企画の数々で視聴者をつかみ、以後は安定して高視聴率を獲得するようになった。キングコングの西野亮廣は、仕切り役として『はねトび』メンバーの中心的存在だった。彼らはそれと平行して、『音楽戦士 MUSIC FIGHTER』(日本テレビ系)『笑っていいとも!』(フジテレビ系)などにもレギュラー出演していた。  また、本業の漫才のことも忘れてはいなかった。『M-1グランプリ』では、01年に決勝進出を果たし、その後も07年、08年に決勝に進んでいる。それ以外に、西野はソロ活動にも意欲的に取り組んでいた。舞台の脚本を書き、自作の歌を歌い、1人でトークライブを行い、絵本を描いた。  ただ、これだけ見事な経歴があるにも関わらず、インターネットの世界で、西野ほど嫌われている芸人はいない。Googleで「西野」の後に1文字スペースを入れると、変換候補の中に「西野 嫌い」というのが出てくるほどだ。  彼がウェブ上で嫌われる理由はただ1つ。毎日更新される彼のブログ「西野公論」にある。ここで持論をストレートに述べたり、自己陶酔的な発言を繰り返すことで、ネット上でそれが取り上げられ、何度もバッシングを受けてきたのだ。  それにしても、芸人が数多くいる中で、西野だけがこれほど嫌われるのは不思議な感じがする。彼は、レギュラー番組を除けば、テレビ出演の機会もそれほど多いわけではない。人目につく機会が少ないのに、ネット上の一部の人間は、わざわざ西野のブログを毎日ウォッチして、あら探しに夢中になっているのだ。彼らをそのような行動に駆り立てる原動力はどこにあるのだろうか?  結論から言えば、西野が嫌われるのは、良くも悪くも彼が「天才」だからだ。コンビ結成5カ月で賞レースを制して、結成1年あまりで『M-1』の決勝に駒を進めてしまうというのは、ただの努力だけでは成し遂げられないことだろう。天才とは、「やってみたら、できちゃった」というタイプの人間のことだ。その意味で、彼が一種の天才肌の人間であるのは間違いない。  ただ、天才であるがゆえに、彼のキャラクターの背後には、大衆が望む「物語」がない。自分でも認める通り、西野には人並みの野望や野心というものがないのだ。ルックスも悪くない上に、何でも器用にこなしてしまう彼には、コンプレックスをバネにしてがんばりました、という類の「分かりやすいお話」がない。毎日ブログを更新して、コツコツとモノ作りにいそしむ彼は、多くの人にとっては得体の知れないエイリアンなのだ。  人々は、共感できないものや理解できないものに対しては、一方的にレッテルを貼って処理しようとする。「いけすかないやつ」「ナルシスト」「勘違い野郎」「全然面白くない」......。西野に浴びせられる罵詈雑言の全ては、理解できないものへの恐怖の裏返しだ。  出る杭は打たれる。西野は、インターネット全盛のこの時代には、打たれるために出てきた杭のような人間である。それでも、彼の芸に対する真摯な姿勢は、周囲の人間を納得させるだけのものを常に備えていた。西野バッシングの裏にあるのは、コツコツがんばる優等生は嫉妬されて叩かれる、といういつの世にも見られる光景なのだ。  西野の正体は、今どき珍しい、前しか見えない直球人間。梶原という名のサンチョを引き連れて、風車に突進する時代錯誤のドン・キホーテだ。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田) お笑いトークラリー特別編 「ラリー遠田×岩崎夏海 ~もしM-1に挑む若手芸人がドラッカーの『マネジメント』を読んだら~」 お笑い評論家・ラリー遠田が、話題沸騰のベストセラー小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社)の著者である岩崎夏海さんをゲストに招いて、「お笑い」をテーマに熱いトークを繰り広げます! 【日時】5月4日(祝) 【出演】ラリー遠田 【Guest】岩崎夏海 【会場】ネイキッドロフト OPEN18:30 / START19:30 ●ラリー遠田「おわライター疾走」 <http://owa-writer.com/> ●岩崎夏海「ハックルベリーに会いに行く」 <http://d.hatena.ne.jp/aureliano/> 前売りチケットは3月26日からローソンチケットで販売。(Lコード:36287) 問:tel.03-3205-1556(Naked Loft)
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●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ
日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が書籍化されました。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オードリー、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる"お笑い愛"で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算や「M-1グランプリ」の進化を徹底分析など、盛りだくさんの内容です。手元に置いておくだけで、お笑いを見るのがもっと楽しくなる。そして、お笑い芸人を通して現代が見えてくる。そんな新時代の"お笑い批評"をお楽しみください。
ラリー遠田×担当編集S「お笑いを楽しむための"ツールとしての批評"でありたい」
逢いたくて五反田 こういうのが、イラっとしちゃうんだよな。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」