野沢直子 今振り返るカリスマ女芸人の「先駆者としての比類なき存在感」

nozawanaoko0906.jpg
『アップリケ』(ワニブックス)
 8月18日、米在住の「出稼ぎ芸人」として知られる野沢直子が、初めての小説『アップリケ』(ワニブックス)を出版した。この作品は、社会に適応できない子どもたちの青春を描いた群像劇。劇作家・本谷有希子も絶賛するほどの本格的な純文学に仕上がっている。  現在30代以上のテレビ視聴者ならば、野沢直子の名前を知らない者はいないだろう。彼女は、1980年代後半から90年代初頭にかけて、女性芸人としては空前の大ブレイクを果たし、数々のバラエティー番組に出演して人気を博していた。特に、『夢で逢えたら』(フジテレビ系)でウッチャンナンチャンやダウンタウンと並んでコントを演じたり、『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』(日本テレビ系)で珍解答を連発したりしていた姿が記憶に焼き付いている人も多いだろう。元気いっぱいで明るく振る舞う一方、時には鋭く本質を突く発言で笑いを取るセンスもあり、都会的でアカ抜けた奇抜な髪形やファッションでも注目を集めていた。  だが、そんな野沢は、91年、人気の絶頂期に突如としてすべてのレギュラー番組を降板し、単身ニューヨークへと旅立ってしまった。その理由は、本人の発言によると、日本でのタレント活動に行き詰まりを感じていたためだという。  その後、野沢はアメリカ人男性と結婚して、生活の拠点を米国に移した。現在では、年に一度だけ帰国をして、日本のバラエティー番組に顔を出すのが通例になっている。  野沢のテレビタレントとしての最大の魅力は、その自由奔放さにあった。彼女がデビューした80年代当時、テレビに出る女性タレントの多くは、「女」らしく振る舞うことを求められていた。それは、女性芸人も例外ではなかった。たとえ、自分がブスやデブであることをネタにするとしても、それはそれでステレオタイプな「女らしさ」への反発にしかならない。いずれにせよ、そこに縛られていることには変わりがないのだ。  だが、野沢はデビュー当初から、そういうものをあまり意識させない特殊なタイプの女性タレントだった。それは恐らく、祖父が作家の陸直次郎、叔父が演出家・声優の野沢那智、といった芸術家気質の家系に育ったということも関係しているのだろう。彼女は、テレビの中でもごく自然に、男言葉に近い話し方でしゃべり、好き勝手にギャグを連発していた。  約20年前に野沢がテレビで見せていた自由で自然な振る舞いは、2010年現在の基準に照らし合わせると、ごく普通で当たり前のように見える。だが、当時はあれが画期的だったのだ。野沢は、女性はおしとやかに振る舞うべきだという社会通念に対する堂々たる反逆者であり、カリスマだった。女性視聴者にとって嫌みにならず、男性視聴者にも嫌われない。そのバランスを保つことができたのが、彼女が成功した最大の要因だ。  また、野沢は、いわゆる「お笑い」という枠にも縛られていなかった。お笑いの世界には、持ちネタがあり、間合いがあり、技術がある。また、先輩後輩の上下関係があり、求道的なプロ意識がある。野沢は、吉本興業に所属する女性芸人という立場でありながら、初めからそういったものに背を向けて生きてきたようなところがある。もともと、コミックソングを歌うパフォーマーとして世に出てきたということもあり、舞台で漫才やコントを演じる芸人の本道とは全く違うルートから、芸能界に入ってきたのだ。  本人の発言によると、彼女は、『夢で逢えたら』で共演したダウンタウンやウンナンといった男性芸人のお笑いセンスに打ちのめされて、日本での活動を断念したのだという。ただ、率直に言えば、芸人の誰もがダウンタウンやウンナンを目指す必要はない。野沢には野沢にしか持っていないキャラクターがあり、彼女にしかできない仕事があった。『夢で逢えたら』という番組の屋台骨を支えていたのは、自由に動いて場をかき回す野沢の存在だった。そんな器用さを備えていたのは、当時彼女しかいなかったのだ。  目の前にある山の頂上を一心不乱に目指すような立場から見ると、絶頂期にその地位をあっさりと手放す野沢の生き方は不可解にも見える。だが、野沢のそんな身軽で自由奔放な生き様こそが、そのまま彼女のタレントとしての魅力でもあった。日本とアメリカをまたにかけて活躍する野沢は、時代を先取りした天性のエンターテイナーである。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
アップリケ 渡米からもう20年。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第89回】サバンナ 野生の勘で芸能界を疾走する「発展途上のロジカルモンスター」 【第88回】東京ダイナマイト 破壊なくして創造なし! ハチミツ流「笑いのセメントマッチ」 【第87回】トータルテンボス 進化を止めない本格派コンビを育てた「M-1急転直下の挫折劇」 【第86回】ロッチ  シンプルな構図でコントに魂を吹き込む「関係性のスペシャリティ」 【第85回】山崎邦正 ダウンタウンによって強制開花した「ヘタレの天才」が巻き起こす奇跡 【第84回】フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」 【第83回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」 【第82回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第81回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第80回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第79回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第78回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第77回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第76回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

サバンナ 野生の勘で芸能界を疾走する「発展途上のロジカルモンスター」

sabannna_0822.jpg
『サバンナのハイエナ』R and C Ltd.
 特定のテーマのもとに集められた芸人たちが、ひな壇に座って毎週熱いトークを展開する。雨上がり決死隊が司会を務めるトーク番組『アメトーーク』は、現代を代表する人気バラエティ番組となった。  高い視聴率を保ち、業界内での注目度もあるこの番組からは、今までに何人もの売れっ子芸人が輩出されてきた。企画との組み合わせ次第で、今まで世間で目立たなかった芸人が、急にその魅力を引き出され、脚光を浴びることがある。  その代表例ともいえるのが、サバンナの高橋茂雄だろう。高橋は、「中学のときイケてない芸人」「太鼓持ち芸人」という2つの企画で、情けなくて調子のいい自分のキャラクターを打ち出して、視聴者のハートをつかんだ。  中学時代に内向的な性格から暗い青春を過ごしたことも、先輩芸人に媚びへつらっていることも、一般人ならば隠しておきたい格好悪い一面である。ただ、お笑いの世界では、やり方次第で欠点やコンプレックスは強力な武器になる。コンプレックスを前向きにさらけ出して笑いに変えることで、高橋は『アメトーーク』が生んだスターの1人に名を連ねることになった。  吉本興業は言わずと知れたお笑い界の最大手であり、吉本芸人たちは巨大な派閥を形成している。だからこそ、バラエティ番組では、その内部での人間関係が常に話題にのぼり、それが番組や企画のキャスティングなどに影響を与えることも多い。  そんな中で、吉本芸人である高橋は、あえて「太鼓持ち芸人」という企画の先導役になった。そこで、吉本芸人同士の閉鎖的な上下関係が視聴者に与えるネガティブなイメージを逆手に取って、目上の人を喜ばせるヨイショの技術を、誰にでも応用可能なテクニックとして面白おかしく提示したのだ。そのことによって、高橋は『アメトーーク』でブレイクすることができた。  一方、相方の八木真澄は、数々の一発ギャグを持ち、日常でも常識外れのボケを連発する、一種の「天然キャラ」として知られている。ただ、八木の天然には、他のタレントや芸人の天然っぽさとは一線を画する特徴がある。それは、一見訳の分からないボケの中にも、彼なりのロジックがあり、一本筋が通っているということだ。  例えば、八木は『人志松本のゆるせない話』の中で、「ね・うし・とら・う・たつ・み・うま・ひつじ・さる......」という干支の覚え方に納得がいかないと語った。序盤はともかく、「うま」以降の並びでは、動物名をそのまま覚えなくてはいけないのは非合理だ、というわけだ。また、十二支の中で「たつ(辰)」だけが架空の動物であるのも納得がいかないという。そこで八木は、十二支すべてが架空の動物から成る新しい干支を提案する。  八木がこの話をしたとき、スタジオでは爆笑が起こっていた。ただ、ここで八木が語っていることは、あまりに突飛で奇想天外ではあるが、それなりにしっかりした理屈に裏打ちされている。大人の常識に縛られず、自由に発想できるからこそ、そういう考えが生まれるのだ。  八木は、最新刊『世界一長続きするダイエット』の中で、22年間続けてきたダイエット術の極意を記している。そこで書かれている内容は、ダイエット本としてはかなりしっかりしたもので、書いてあることもきわめて常識的でオーソドックスだ。  いわば、八木の天然は、知識や知恵が足りない、というよりも、自分なりのロジックを持って物事を見ている、という感じなのである。こういうタイプの人は芸術家に多い。最後には笑いに落とし込むことを義務付けられた「芸人」という職業だからこそ、たまたま「天然」というレッテルを貼られてしまっただけなのだ。  吉本興業が生んだ日本一の太鼓持ち芸人である高橋と、ロジカルな天然ボケを繰り出す八木。サバンナの2人は、それぞれが野生動物のように自分だけの武器を隠し持ち、それを売りにしてお笑い界を渡り歩いている。  彼らの唯一の欠点は、いずれの能力も先輩芸人と絡むことで最も有効に機能するため、必然的に1人の仕事が多くなり、コンビで活躍する機会を奪われてしまうことだ。彼らがお互いを生かすような方法論を身につけ、抜群のコンビネーションを発揮するようになったときにこそ、サバンナがコンビとして真にブレイクしたと言えるようになるだろう。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
サバンナのハイエナ [DVD] つかみどころなし。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第89回】東京ダイナマイト 破壊なくして創造なし! ハチミツ流「笑いのセメントマッチ」 【第88回】トータルテンボス 進化を止めない本格派コンビを育てた「M-1急転直下の挫折劇」 【第87回】ロッチ  シンプルな構図でコントに魂を吹き込む「関係性のスペシャリティ」 【第86回】山崎邦正 ダウンタウンによって強制開花した「ヘタレの天才」が巻き起こす奇跡 【第85回】フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」 【第84回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」 【第83回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第82回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第81回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

東京ダイナマイト 破壊なくして創造なし! ハチミツ流「笑いのセメントマッチ」

td.jpg
『東京ダイナマイト グレートダイナ
マイトフロムヘル』
よしもとアール・アンド・シー
 8月3日、東京ダイナマイトのハチミツ二郎と元・メロン記念日のリーダーである斉藤瞳が入籍した。2人は今年初めから交際を開始。5月にメロン記念日が解散した際、それを機に故郷に帰ると言った斉藤に対して、ハチミツが「俺が一生面倒見るから新潟に帰るな」と言って指輪を渡したという。  東京ダイナマイトは、不思議なポジションにいる芸人である。一言で表すなら、「メジャーの中のマイナー」または「マイナーの中のメジャー」ということになる。ここ数年はテレビに出る機会もほとんどなかったので、世間での認知度はそれほど高いとは言えない。  だが、お笑い業界の内部に一歩足を踏み入れると、その評価は一変する。芸人、業界関係者、お笑いファンの間では東京ダイナマイトの名は知れ渡っていて、熱烈な愛好者も多い。セオリーから外れたことをやって笑いを取るという確かな実力があり、それが業界内では高く評価されているのだ。彼らが醸し出す「何かやってくれそう」という空気は唯一無二のもので、それが魅力になっている。  東京ダイナマイトというコンビを実質的に引っ張っているのは、ハチミツ二郎である。西口プロレス所属の現役プロレスラーでもあり、重量級の体格を誇る彼は、酒を豪快に飲み干す豪傑のようなイメージがある。だが、一方で、彼の中には計算高くて真面目な一面もある。だからこそ、身体表現力に優れた松田大輔を招き入れ、自分の理想とするネタを演じるためのパートナーに選んだのだ。  彼らの漫才は、ある程度お笑いに精通している人が専門的な目で見れば見るほど、ますます引き込まれてしまうようなところがある。ありがちなネタ運びやボケのパターンを極力避けて、何重にもひねってオリジナルな笑いを生み出していく彼らの芸風は、お笑いマニアの琴線に触れる。声を張らず、日常会話のトーンで淡々とツッコむハチミツの話術は、他の漫才師には真似できない奇妙で独創的なスタイルだ。  ただ、彼らが好まれるのは、そんな独自の芸風の裏に、どこか半笑いのハッタリ臭さが感じられるということだ。例えば、漫才の冒頭で日本刀を持って舞台に現れ、「刀持って来たぞー!」と高らかに宣言するパフォーマンスは、典型的なハッタリ芸である。もちろん、それがネタの本筋とは関係ないただのハッタリであることは、ハチミツも十分に自覚している。彼は、その点ではかなり戦略的に見る者の期待を煽り、自分たちの世界観を印象付けているのだ。彼自身も、初めてM-1の決勝に上がった2004年の時点で、漫才の冒頭で刀を持ち込むことについてこう語っている。 「それをやっても意味なんてないんだけど、なんかすごそうっていうのが好きなんです」  意味はないけど、なんかすごそう。恐らくこれが、「東京ダイナマイト」というコンビをプロデュースするにあたって、ハチミツが常に念頭に置いていることだ。  漫才中に松田が服を着替え、トレーニングマシーンに乗ってエクササイズを始める。漫才が始まってかなりの時間が経過した後に「どうも、東京ダイナマイトです」と自己紹介をする。「カヴァー」と称して、他の芸人の持ちネタをそのまま完全コピーして演じる。  こういった行動はすべて、「なんかすごそう」と思われたいがためにハチミツが仕掛けたものだ。そんな彼の発想の原点にあるのは、恐らく「プロレス」である。プロレスの世界では、ある種のハッタリがエンタテイメントになっている。ルールのもとで真剣に戦うことが求められる他の格闘技とは違って、プロレスではエンタテイメント性が何よりも重視される。ハッタリ、演出、予定調和。いかなる形でも、観客を盛り上げ、彼らの気持ちをつかまなくてはいけない。  いわば、ハチミツはプロレスラーの魂を持ってお笑いの世界を生きている数少ない芸人なのである。豪快にハッタリをかまし、自分の生き方を誇示して、リングに上がれば本気を見せる。たとえ芸人であっても、サラリーマンのように真面目に生きることを強いられがちな時代に、ハチミツはあえてそれを拒否して、型破りなファイトスタイルにこだわることで、同世代の芸人の中でも並外れた存在感を獲得することができた。  芸人にプロレス好きが多いのは偶然ではない。お笑いとは、現代日本で唯一、プロレス的な美学を残して生き延びている珍しいタイプのエンタテイメントだとも言えるからだ。ルチャリブレ(メキシコプロレス)のライセンスも取得している異色の芸人・ハチミツ二郎率いる東京ダイナマイトは、身も心もお笑い界最強のプロレスラーである。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
東京ダイナマイト グレートダイナマイトフロムヘル エンターティナーってやつ。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第88回】トータルテンボス 進化を止めない本格派コンビを育てた「M-1急転直下の挫折劇」 【第87回】ロッチ  シンプルな構図でコントに魂を吹き込む「関係性のスペシャリティ」 【第86回】山崎邦正 ダウンタウンによって強制開花した「ヘタレの天才」が巻き起こす奇跡 【第85回】フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」 【第84回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」 【第83回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第82回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第81回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

トータルテンボス 進化を止めない本格派コンビを育てた「M-1急転直下の挫折劇」

tenbosu.jpg
『漫才ベストライブ「しのびねぇな。
かまわんよ。』
(よしもとアール・アンド・シー)
 トータルテンボスは、今年で芸歴13年を数える中堅芸人だ。ツッコミの藤田憲右のアフロヘアーがトレードマークの彼らは、今では正統派漫才師として確固たる地位を築いている。だが、彼らが現在のポジションを手に入れるまでには多くの苦労があった。  トータルテンボスの2人は、1997年にコンビを結成。もともとコントを専門に演じていた彼らは、M-1をきっかけにして漫才の世界にのめり込んでいった。キャリアを重ねてネタを磨き、次第に観客の笑いを取れるようになってきたものの、M-1ではなかなか決勝に上がれなかった。そんな彼らが初めての決勝進出を果たしたのは、04年のことだ。  このとき決勝に上がることができた理由については、彼らは雑誌のインタビューなどでも冗談めかして語っている。それは、「今年のトータルテンボスはすごいらしいよ」という噂を、自分たちから流す、というものだ。そういう評判が口コミで広まることで、お笑いの専門家であるM-1審査員たちが、彼らに目を付けるきっかけができるのではないか、と考えたのだ。  ただ、もちろんそれだけが理由ではないだろう。04年の時点で、彼らには漫才の実力があったし、さらに、M-1で評価されるようなトリッキーな小技もあった。それは、「ハンパねえ!」「......じゃなくねえ?」などと若者言葉を連発したり、漫才の結末部分で「今日のネタのハイライト」と称して、いま演じたばかりの漫才のワンシーンをスロー再生の要領で演じたりしたことだ。  これらの技は、それだけで爆笑を取るほどの威力はない。だが、他の芸人がやっていないような斬新な試みをすることで、それがトータルテンボスという漫才師の個性となり、審査員からの評価につながったのだろう。この年には決勝7位に終わったが、彼らは確かな手応えを得た。  その後も彼らの挑戦は続いた。06年には二度目の決勝進出。この年には、漫才のライブで全国を回るツアーを開催していた。これは、単に漫才の実力を磨いて全国にファンを増やしていくという効果だけではなく、M-1の審査員に対して、自分たちが漫才に真剣に打ち込んでいることをアピールするという副次的効果も狙ったものだろう。M-1をめぐる戦いは、予選の前からすでに始まっていたのだ。この年の結果は決勝5位だったが、決勝審査員の松本人志からも好評価を得て、彼らはさらに自信をつけた。  翌年の07年には、彼らは優勝候補の一角にいた。前年に引き続いて漫才の全国ツアーも行って、技術はさらに洗練されていった。ここでの経験も生かされて、彼らはこの年も順調に決勝進出。決勝では、2本目のネタであえて1本目とは違ったパターンのオチを見せることで、審査員の心をつかもうとした。これは、M-1で戦い慣れている彼らならではのとっておきの秘策だった。2本目のオチでもきっちり笑いを取り、作戦は功を奏した。ここで勝利すれば、出場資格ギリギリの最後の1年で念願の優勝ということになる。ドラマのお膳立ては整っていた。  ところが、この年のM-1で笑いの神様が用意したシナリオは、彼らの予想の斜め上を行く衝撃的なものだった。それは、敗者復活戦から勝ち上がったサンドウィッチマンの優勝である。M-1史上空前の大逆転劇の前には、優勝に向けて一つ一つ着実に積み上げてきたトータルテンボスの努力さえもかすんでしまうほどだった。彼らにとってのM-1はここで終わった。  だが、芸歴10年を過ぎてから彼らの本当の快進撃が始まった。M-1という難関に正面からぶつかって得たものは、自分たちのネタに対する確固たる自信と、与えられたチャンスを着実にものにする堅実さだった。その後は、M-1での経験を生かして、08年から10年まで、『爆笑オンエアバトル』(NHK)のチャンピオン大会で前人未踏の三連覇を達成。また、お笑い映像コンテスト「S-1バトル」でも、大村朋宏が藤田を罠にかける「今月のいたずら」という企画で、二度の月間王者に輝いている。  悲運のM-1戦士は、あと一歩のところで優勝を逃した悔しさを乗り越えて、どんな舞台でも確実に笑いが取れる安定感抜群の頼もしい芸人になった。彼らは今もなお、押しも押されもしない「ハンパねえ漫才師」へと進化を続けている最中だ。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
漫才ベストライブ「しのびねぇな。かまわんよ。」 パねぇ! amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第87回】ロッチ  シンプルな構図でコントに魂を吹き込む「関係性のスペシャリティ」 【第86回】山崎邦正 ダウンタウンによって強制開花した「ヘタレの天才」が巻き起こす奇跡 【第85回】フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」 【第84回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」 【第83回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第82回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第81回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

ロッチ シンプルな構図でコントに魂を吹き込む「関係性のスペシャリティ」

rotti.jpg
『ロッチラリズム』(ジェネオン・
ユニバーサル)
 笑いを取るための方法には、大きく分けて2つの種類がある。それは、言葉で笑わせる方法と、動きで笑わせる方法だ。漫談や漫才では、前者の手法が主に使われる。また、はんにゃの「ズクダンズンブングンゲーム」や志村けんの「だっふんだ」は、後者の手法の典型である。ちなみに、芸人が実際にネタを演じるときには、それらを組み合わせて用いることが多いので、その区別は必ずしも明確ではない。  さて、そのような視点から考えてみると、ロッチの2人が演じるコントは、かなり特殊なものであるということが分かる。彼らのコントの多くは、言葉や動きで直接笑わせようとするつくりにはなっていない。だが、だからこそ、他の芸人のネタにはない何とも言えない味わいがあり、それが彼らの魅力になっている。彼らのネタは、どのように構築されているのだろうか。  ロッチのコントは、設定がとてもシンプルだ。2人の間にひとつの関係性があって、それを最初から最後まで延々となぞり続ける、というパターンが多い。その多くは、中岡創一が内気で情けないキャラクターを演じて、何らかの格好悪い部分を見せてしまい、それをコカドケンタロウが指摘して、しつこく延々といじり倒す、という形である。ひとつの関係性を保ったままでそれを最後まで引っ張っるというのは、かなり珍しいスタイルである。だが、それで笑いを取れるのは、彼らが笑いにつながるポイントを正確につかんでいて、そこだけを集中的に攻めているからだ。  ロッチのコントのテーマは「情けなさ」である。ほんの少しの下心や気取りが原因で恥ずかしい思いをするというのは、誰でも一度は経験があるだろう。格好悪くて情けない自分の姿は、できればずっと他人の目に触れないようにしたいものだ。だが、それがふと、何らかのアクシデントで他人に気付かれてしまうときがある。こういうときに人間は「情けない」という感覚を味わう。  ロッチのコントでは、中岡がその役回りを引き受けて、情けない姿をさらけ出す。そして、コカドはそれを見逃さずに素早くえぐり出し、その一点だけをどこまでも深く掘り下げて、中岡の格好悪い部分を徹底的にあぶり出していく。  ここで注目すべきは、コカドの怒濤の攻撃を堂々と真正面から受けきる中岡の芯の強さである。彼は、コカドに絡まれて、自分の中の気恥ずかしさを際限なく増幅され、厳しい立場に追い込まれる。それでも、中岡はコカドの攻撃を全部受け止めて、きっちりそれを自分の中に留めるのだ。無闇に反論したり、すねたりしない。とぼけた表情ですべてを受け入れるのである。これがなかったら、彼らのコントは目も当てられないものになりかねない。コカドが中岡を一方的にいじめているように見えてしまうだけだ。そうならないのは、中岡があの風貌とたたずまいで、コカドの波状攻撃をきちんと受けきってしまうからだ。  ロッチのコントには、特定のフレーズや動きに限定されるような笑いどころが少ない。彼らがひとつの関係性を演じることで、気まずい状況そのものを楽しむことができる。ただ、ロッチにはキャラクターやフレーズの飛び道具もある。コカドが演じるリアクション芸人「こんにちは根岸」や、中岡が演じる売れない俳優「十文字アキラ」は、『爆笑レッドシアター』でも人気キャラとして定着しているし、「笑ってまうくらい怒られてるやん!」に代表されるような、独特の言語感覚も魅力である。  ロッチは、言葉にも動きにも頼らず、人間同士の関係性だけを切り取ってコントを作る。それは、短絡的に目先の笑いを欲しがらないという点で、若手芸人の中でも類を見ない芸風だ。たったひとつの関係性を貫く独創的なネタを量産しているロッチは、一点突破主義のコント職人だ。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田) ●お笑いトークラリーpresents 「笑う犬の告白 ~人生で大切なことは全部お笑いで学んだ~」 【日時】8月4日(水) OPEN 18:30 / START 19:30 【出演】ラリー遠田、岩崎夏海 【Guest】吉田正樹 【会場】新宿ロフトプラスワン 前売¥2000/当日¥2500(共に飲食代別) ※前売券は7/3(土)よりローソンチケットにて発売。(Lコード:38927)
ロッチ 単独ライブ 「ロッチラリズム」 新世代、着々と。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第86回】山崎邦正 ダウンタウンによって強制開花した「ヘタレの天才」が巻き起こす奇跡 【第85回】フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」 【第84回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」 【第83回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第82回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第81回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

山崎邦正 ダウンタウンによって強制開花した「ヘタレの天才」が巻き起こす奇跡

houseiyamazaki.jpg
『奇跡』(遊タイム出版)
 ダウンタウンは、笑いの都・大阪から東京にやって来たお笑い文化の伝道師だった。彼らが東京に進出して、全国ネットの人気番組を多数抱えるようになってから、関西弁や関西の笑いのエッセンスが一気に日本中の若者に広まっていった。「サブい(寒い)」「スベる」といった演芸用語の意味が一般に知られ、それが当たり前のように使われるようになったのは、ダウンタウンの登場以降のことである。  そんなダウンタウンが広めた言葉の1つに「ヘタレ」がある。関西弁で「意気地無し」「臆病者」を意味する単語だ。この語が有名になったきっかけは、ダウンタウンが自身の番組の中で、後輩芸人の山崎邦正を指して何度もそれを用いたことだろう。言わば、山崎は「ヘタレ」の代名詞であり、ヘタレという単語が世間に広まるのと時を同じくして、山崎邦正という芸人も有名になっていったのだ。  山崎は、体を張って危険な企画に挑戦することから、出川哲朗やダチョウ倶楽部のような「リアクション芸人」の系譜に位置づけられることが多い。だが、山崎は、どんな番組にも呼ばれる出川や上島竜兵と違って、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ系)というレギュラー番組を持っていて、そこを拠点にして活動している。言わば、山崎は職場を渡り歩くフリーランスのリアクション芸人ではなく、『ガキ使』というホームグラウンドを持つサラリーマン型のリアクション芸人なのだ。もちろん、山崎も他の番組に一切出演しないというわけではない。ただ、彼の才能が最も輝く場所はやはり『ガキ使』というフィールドなのである。  山崎は、お笑い界随一の精鋭集団である「ダウンタウンファミリー」の出身である。今田耕司、東野幸治、木村祐一、板尾創路(130R)といったメンバーに並んで、山崎は軌保博光とのコンビ「TEAM-0」の一員としてダウンタウンの番組に出演していたのだ。  彼は、そのメンバーの中では一種の落ちこぼれに近いポジションにあったと言っていい。大喜利的な発想力、当意即妙のフリートーク能力など、松本人志を頂点とする本物のお笑いセンスが試されるダウンタウンの番組では、山崎はなかなか自分の持ち味を発揮することができなかった。  当時、ダウンタウンのもとで活動する若手芸人に求められた能力は、他のバラエティー番組で芸人が求められるものとはひと味違っていたのだ。木村のような作家型芸人、板尾のような発想力に長けた芸人が重宝されたことからもそれは明らかだろう。そのような「ダウンタウン的な物差し」で測ったとき、山崎は明らかに出来損ないの落ちこぼれ芸人だったのだ。  だが、『ガキ使』のレギュラーメンバーに抜擢されたことで、山崎の運命は急転する。大声でわめき散らし、わが身一つで過激なロケにも挑戦する山崎のファイトスタイルは、低予算の深夜番組である開始当初の『ガキ使』とは非常に相性が良かった。ダウンタウンの2人もまた、山崎のそういう一面を伸ばそうとして、「ヘタレ山崎」という愛称を与えて、彼の秘められたリアクションの才能を徐々に引き出していった。  そんな中で山崎の人気はじわじわと上がり、彼は「ヘタレ芸人」の代名詞として独自のポジションを築いていった。特に、山崎がリングの上でモリマンのホルスタイン・モリ夫と真剣勝負を繰り広げる「山崎vsモリマン」は、『ガキ使』の歴史に残る名物企画となり、2008年の大晦日には『NHK紅白歌合戦』の裏番組として堂々オンエアされる快挙を成し遂げた。  山崎は、決して能力の低い芸人ではない。『ガキ使』以外の番組に出れば、それなりに進行もフリートークもソツなくこなす力はあるし、作曲、落語、卓球、心理学など、さまざまな分野に関心を持ち、それに打ち込む生真面目さを備えている。だが、どの分野にも本気になりきれず、器用貧乏の状態にあった山崎は、「ヘタレ」というフィルターを通すことで、一気にその才能を開花させることができたのだ。  憎めないベビーフェイスと、数々の奇跡を起こしてきた豪運。笑いの神に弄ばれる奇才・山崎は、裸一貫で今日もヘタレの最先端をひた走っている。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田) ●お笑いトークラリーpresents 「笑う犬の告白 ~人生で大切なことは全部お笑いで学んだ~」 【日時】8月4日(水) OPEN 18:30 / START 19:30 【出演】ラリー遠田、岩崎夏海 【Guest】吉田正樹 【会場】新宿ロフトプラスワン 前売¥2000/当日¥2500(共に飲食代別) ※前売券は7/3(土)よりローソンチケットにて発売。(Lコード:38927)
スクールデイズ ザキさんっ!! amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第85回】フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」 【第84回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」 【第83回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第82回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第81回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」

furupon.jpg
『スクールデイズ』(ワニブックス)
 20世紀を代表する「キザでイヤミな男」と言えば、『ドラえもん』に出てくるスネ夫に並ぶ者はいないだろう。豊富なプラモデルやラジコンのコレクションを見せびらかし、芸能界にコネがあることを堂々と自慢する。ジャイアンのような強者にはこびへつらい、のび太のような弱者には厳しい態度を見せる。スネ夫こそは、キザでいけすかない人間の代名詞のような存在だ。  だが、21世紀を迎えて、キザ男のあり方にも微妙な変化が起こっている。スネ夫のように、自分の金やコネを露骨にアピールするような生き方は、バブル期までの日本においては、一定のリアリティがあった。  だが、バブル崩壊以降、このようなタイプのキザ男は減少の一途をたどっている。金を持っていることをひけらかすこと自体が、あまり格好いいイメージではなくなってきているのだ。言わば、絵に描いたような「金持ち」であることの価値が下がっているのである。  むしろ、21世紀に入って新たに台頭してきたのは、エコロジー志向、グルメ、サブカル趣味など、金のかからない思想や流行を持ちネタとして、それをこれ見よがしにアピールしてくるタイプの人々である。彼らは、「地球にやさしい」「おいしいレストランを知っている」「本当のおしゃれが分かる」など、それ自体としては誰にも否定できないような絶対的な価値観を盾にして、傍若無人に遠回しな自慢を繰り返す。金やコネのような分かりやすい尺度がない分だけ、キザ男としてはこちらの方がはるかに厄介だ。  そんなキザ男の生態を描くコントで人気を獲得したのが、フルーツポンチの2人である。フルーツポンチの村上健志が演じるイヤミでウザいキャラクターは、いかにも日常にいてもおかしくないと思われるような絶妙なリアリティを備えていた。  「アンダーグラウンドぶる男」では、村上演じるキザな男が亘健太郎演じる友人を自分の部屋に招待する。亘が「おしゃれな部屋に住んでるんだな」と話を切り出すと、「いや、普通っしょ。北欧のカフェとか行ったらだいたいこんな感じだし」と返してくる。「これ絶対正解」と言いながらお香をたき始め、レコードを聴いては「やっぱアナログだと音の深み全然違うかんね」と悦に入る。  ウザったい自慢を続ける村上だが、ネタの後半では知識が浅いことを見抜かれてしまう。そこで何とか持ちこたえようと必死になる男の心の動揺まで、村上は演じきってみせる。彼は、演技力もさることながら、天然の「訳知り顔」を持っている。そのウザったいキャラが彼の外見にもマッチしているので、見る側はついつい笑ってしまうのだ。  コントとは、現実離れした架空のキャラを演じればいいというものではない。演じる側が、自分の中にある引き出しを開けて、それを誇張することで面白いキャラが生まれる。フルーツポンチのコントにおけるキザ男も、村上の中にもともとあった「気取り屋」の一面が生かされたものだ。彼が気取り屋の要素を持つことは、極度の音痴であることからも明らかだろう。音痴とは、自分の信じる音程が世間一般の音程とずれている人のことだ。村上演じるウザキャラも、自分が演出する格好良さが他人のそれとずれているということが魅力になっている。  一方、こういう人間に直面したときの亘の対応も実にリアルだ。『ドラえもん』ののび太は、スネ夫に自慢されると素直に悔しがり、ドラえもんに泣きつく。だが、村上演じる底の浅いウザキャラは、人にうらやましさを感じさせない。ただ苦笑いしてその場をやり過ごすしかないような気分にさせるのだ。亘は、持ち前の実直な人柄を生かして、キザ男に直面して思わず苦笑してしまう人間を見事に演じてみせる。  フルーツポンチの2人は、このタイプのネタを名刺代わりにして、演技派コントの達人という評価を確立した。村上演じるキザ男は、ポストバブル時代を象徴する「21世紀のスネ夫」そのものである。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田) ●お笑いトークラリーpresents 「笑う犬の告白 ~人生で大切なことは全部お笑いで学んだ~」 【日時】8月4日(水) OPEN 18:30 / START 19:30 【出演】ラリー遠田、岩崎夏海 【Guest】吉田正樹 【会場】新宿ロフトプラスワン 前売¥2000/当日¥2500(共に飲食代別) ※前売券は7/3(土)よりローソンチケットにて発売。(Lコード:38927)
スクールデイズ セット売りには飽きました。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第84回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」 【第83回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第82回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第81回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」

yoiko0702.jpg
『とったどー! よゐこの無人島生活』(ナムコ)
 6月2日、女優の前田愛とタロット占い師の濱口善幸が、都内で行われた映画『マイ・ブラザー』の試写会に出席した。濱口善幸は、お笑いコンビ・よゐこの濱口優の実弟で、4月からは兄と同じ「松竹芸能」に所属し、タレントとしても活動している。報道陣から兄・優と倉科カナとの熱愛報道について話を振られると、取材慣れしていない戸惑った様子を見せていた。  デビュー当時のよゐこは、関西では「シュールコントの旗手」として知られていた。だが、お笑いの世界で言われる「シュール」とは一体どういうことなのか、改めて考えてみると意外と難しい。シュールとは、フランス語の「シュルレアリスム(超現実主義)」の略語である。1920年代にフランスで興った前衛芸術運動の総称で、まるで夢の中を覗いているような不条理な世界を描くものだった。  お笑いでは、非現実的な設定を扱ったり、セオリーに反する難解なネタに対して「シュール」という呼び名が与えられることが多い。簡潔に言えば、単純で分かりやすい笑いという意味の「ベタ」の反対語として、複雑で分かりにくい笑いを意味する「シュール」という言葉が用いられるのである。  かつてのよゐこの持ちネタの多くは、妙な設定やキャラクターを使って、2人が淡々とした語り口で話を進めていくものが多かった。特に、ボケとツッコミがはっきり分かれたスタイルの芸人が多い関西では、彼らのネタは異彩を放っていた。そこからシュールな笑いが売りの芸人だというイメージが広まっていったのだろう。  だが、彼らは芸術的な笑いを気取ってシュールコントを作っていたわけではないし、彼らの中にそういうものを志向する要素があったわけでもなかった。その後のよゐこのテレビタレントとしての活躍ぶりを見れば、それは明らかだろう。シュールの一語では説明しきれない個々人の魅力によって、よゐこの2人は人気を獲得していったのだ。  濱口は、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)の抜き打ちテスト企画で、それまで知られていなかった「おバカキャラ」という一面を発掘された。自分の名前をローマ字で「hamaguche(ハマグチェ)」と書いてしまうほどの圧倒的なボケぶりで爆笑を獲得。その後は、『いきなり!黄金伝説。』(テレビ朝日系)のサバイバル企画でも活躍して、小中学生にまで支持層を広げていった。濱口は、知識がなくても物怖じせず、誰に対しても陽気で親しみやすい。子どもたちはそんな彼のキャラクターを自然に読み取り、共感を寄せるのだ。  また、有野晋哉も『ゲームセンターCX』(フジテレビTWO、他)では「有野課長」としてゲーム攻略に闘志を燃やすなど、自分の趣味を生かした企画を多数手掛けるようになってきた。見た目も芸風も地味ではあるが、ぼんやりした口調で鋭い一言を放つ彼は、他の芸人には真似のできない何とも味わい深い芸人へと成長した。  よゐこの魅力は、自然体であるというところにある。2人とも肩の力が抜けていて、ロケでもトークでもコントでも、いかなるシチュエーションにおいても普段通りの状態をキープすることができる。長寿番組『めちゃイケ』の中でも、生真面目なナインティナイン、暴力的で攻撃的な極楽とんぼという2組とは全く異質な芸風で、一歩引いた立場にいる。  彼らにかつて与えられたシュールという称号も、周囲に流されず自分たちのやりたいことを貫く姿が結果的にそういうふうに見えてしまっただけだ。彼らは、難解なコントを作りたかったわけではないし、芸術的な笑いを気取るつもりもなかった。ただ素直な気持ちでそういうネタを演じていただけなのだ。徹底した脱力で独特の地位を築いた2人は、シュールの皮をかぶった気ままな自由人だ。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
とったどー! よゐこの無人島生活 野性派芸人。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第83回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第82回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第81回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」

bg.jpg
『バッファロー吾郎の偽自伝』
(東京ニュース通信社)
 バッファロー吾郎ほど、お笑い業界の内外で評価の分かれる芸人も珍しいだろう。一般的なテレビ視聴者の立場から見れば、「オー、ポカホンタス!」でおなじみの木村明浩は一種のスベリキャラ、竹若元博は目立たない地味キャラ、という程度のイメージしかないかもしれない。ひな壇トークにも今ひとつ馴染めない2人の姿をテレビ越しに眺めているだけでは、彼らの芸風はつかみづらいものがある。  さらに言えば、「キングオブコント2008優勝」という彼らの経歴も、必ずしもプラスに作用しているわけではない。演出面の不備から、数々の問題が噴出したいわくつきの大会を制した、疑惑の王者。それが必ずしもうがった見方だとは言えないくらいに、そのような認識も多くの視聴者の間では共有されている。  だが、お笑い界内部では、彼らの功績を高く評価する声は多い。第一に挙げられるのは、イベント企画者としての実績だ。彼らは、お笑いの真剣勝負を突き詰めた結果として、芸人同士が一対一の大喜利バトルを繰り広げるイベント「ダイナマイト関西」をスタートさせた。まだM-1すら始まっていない、お笑いブームの兆しも見えない1999年にひっそりと動き出したそのプロジェクトは、現在では後楽園ホール、ディファ有明といった巨大会場で行われる日本最大規模の大喜利イベントに成長している。それ以外にも、彼らがプロデュースして成功させたイベントは数多い。テレビとは一線を画すライブの世界で、彼らは着実にお笑いファンの心を掴んでいるのだ。  第二に、後輩芸人の育成能力である。バッファロー吾郎の2人は、吉本興業の若手養成システムの流れから弾かれてしまった芸人の中から、面白い才能を持っている人間を選び出して、彼らにライブでネタを披露する機会を与え、積極的に売り出していった。  そんな「バッファローファミリー」に数えられるのは、ケンドーコバヤシ、友近、笑い飯、千鳥、ザ・プラン9、南海キャンディーズといった面々。女子中高生の観客が集まる若手のライブでは活躍できないでくすぶっていた彼らを、「面白いから大丈夫」と励まして、自分たちの手で売れっ子に育て上げていった。落ちこぼれかけていた芸人を復活させるということにかけて、バッファロー吾郎ほど目覚ましい功績を残している芸人はほかにいない。ファミリーと呼ばれる芸人たちは皆、バッファロー吾郎の2人を心から尊敬している。2人のプロデューサーとしての実力は、バッファローファミリーの面々の現在の活躍ぶりが示している通りだ。  もちろん、本業のネタ作りでも、彼らの姿勢は一貫している。くだらなくてバカバカしいことを徹底的に突き詰める。プロレスやマンガの知識を詰め込んで、固有名詞を使ってマニアックな笑いを取ろうとする。そのスタイルは、若手時代にはあまり評価されなかった。だが、ケンコバが同じような芸風で活躍し、『アメトーーク』(テレビ朝日系)のような人気番組でも芸人同士でマンガやプロレスの話をするのが普通になっている現代から見れば、ようやく時代がバッファロー吾郎のコントに追い付いた、とも言えるほどだ。  世間では、テレビに出て人気を獲得して、最後は司会者になることが芸人の唯一の出世コースのように思われている節がある。だが、芸人がお笑いを極めるための道はそれだけではない。芸人には、芸人の数だけ成功の形がある。バッファロー吾郎の不器用で地道な生き様は、そのことを教えてくれる。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
バッファロー吾郎の偽自伝 「若手の極上の踏み台」(ケンコバ談) amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第82回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第81回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」

doradora.jpg
『ライブミランカ ドランクドラゴン
トークライブ 鈴木拓のトークは
俺にまかせなさいっ! ついて来れるか
塚っちゃん!!」』
(ジュネオン・エンタテイメント)
 5月12日、お笑いコンビ・バナナマンの二人が、東京・タワーレコード渋谷店にて、DVD『バナナ炎』(アニプレックス)の発売記念イベントを行った。これは、TOKYO MXほかで放送中の彼らの人気トーク番組をDVD化したもので、vol.3~5まで3枚が同時リリースされた。  このイベントでは、日村の誕生日(5月14日)を祝うために、ドランクドラゴンの鈴木拓がシークレットゲストとして駆けつけていた。"大物が来る"という噂を聞いていた日村は、「お前かよ!」とがっかりした様子。それでも鈴木は「釣りの予定をキャンセルして来ました」と、いつもの飄々とした態度を貫いていた。  ドランクドラゴンは、ボケの塚地武雅とツッコミの鈴木拓から成る二人組。しっかりした構成力と演技力が光るコントで評判を呼び、『はねるのトびら』(フジテレビ系)のレギュラーに抜擢されたことをきっかけにブレイク。お笑い界に確固たる地位を築いた。  ネタ作りを担当している塚地は、若手の頃からその才能を高く買われていた。彼のコント芸人としての存在感は、『はねトび』メンバーの中でも頭一つ抜けていた印象がある。地に足の付いた演技でどこか親近感の沸くキャラクターを演じて、数々の名作コントを生み出した。一方の鈴木は、常にマイペースで塚地に頼りっぱなしで、共演する芸人たちにも徹底的にいじり倒されていた。  ドランクドラゴンのコントでも、主導権を握っているのは塚地である。決まった設定の中で、塚地が役柄に入り込み、おかしな発言を連発して、鈴木がそのひとつひとつにツッコミを入れていく。ネタの中身が簡潔で分かりやすいので、個々のボケで手堅く笑いが取れる。『はねトび』の前身番組である『新しい波8』に出ていた頃から、すでにそのスタイルは完成されていた。  ただ、塚地という芸人の弱みは、あまりにも器用で才能豊かで、自分の世界が完成されすぎているため、笑いが自己完結的になりがちだということだった。何でも自分の中で処理してしまうので、隙がなくて息苦しいところがある。ドランクドラゴンのコントは、言葉の笑いがメインになっているため、余計にそういう窮屈な印象を与えるということもあるかもしれない。すべてを計算して、すべてを説明しつくしてしまう塚地の笑いは、単独で味わうには少し味付けが濃すぎるようなところがあるのだ。  そこで鈴木の存在が生きてくる。鈴木は、周りに流されない独特の感性を持っている。そんな彼は、コントの中でも普段通りに淡々としていて、部外者のような視点で塚地の演劇的な世界観に入り込まず、外部から醒めた口調でツッコミをいれていく。彼は、塚地が構築する完璧な世界をあえて壊しにかかる。それが塚地という器用な芸人の唯一の弱点でもある「そっけなさ」を薄めて、彼らのコントをより魅力的なものにするのだ。  鈴木がいるからああいうネタになったのか、ああいうネタをやるために鈴木を必要としたのか、どちらか分からない。しかし鈴木は一種のノイズとして、ドランクドラゴンのコントを作る上では欠かせない役割を果たしていたのだ。  鈴木は、いつの間にか『はねトび』でもそういうポジションを手にしていた。彼は他の芸人にからかわれたりいじめられたりする「いじられキャラ」の立場ではあるが、それを気にしていないかのような態度をとる。どんな場所にいても、周囲の人間よりも一段低いところに下りて、すぐにラクをしようとしてしまう。ガツガツする若手の中に彼のような芸人が一人混ざっていると、番組全体としてはバランスが取りやすい。その点では、鈴木の存在は『はねトび』メンバーにとっても重要なものになっていると言える。  塚地がアリの入る隙間もない完璧な建築物を造ると、鈴木はそこに無造作に穴を空けて、風通しを良くする。そうやって作られるドランクドラゴンのコントは、繊細さと大胆さを兼ね備えた見ごたえのあるものになる。互いの弱点を補い合う、理想的なコンビの形がそこにはある。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)
ライブミランカ ドランクドラゴン トークライブ 「鈴木拓のトークは俺にまかせなさいっ! ついて来れるか塚っちゃん!!」 これも才能。 amazon_associate_logo.jpg
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第81回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第80回】森三中  メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第79回】Wコロン・ねづっち  「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第78回】所ジョージ  突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第77回】土田晃之  元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ  非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣  嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴  虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一  テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ  キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ   「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」