空自の次期主力戦闘機をF-35に決められない「あの理由、この理由」

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最有力候補とされているステルス機「F-35」。
3候補の中では性能面で最も高いというのが専門家の一致した意見。
 航空自衛隊(空自)の次期主力戦闘機(FX)の選定作業がいよいよ佳境だ。空自が現在保有しているF-4ファントムは30年以上も使われており、機体の老朽化は安全上の問題はもちろん、周辺諸国との比較における戦闘能力の低下が危惧されている。政府は年内までに現在の3候補からFXを決定する方針で、来年度予算で4機を購入し、最終的に40機程度を購入する。  中国やロシアが頻繁に領空・領海侵犯を繰り返す現状下で、国土防衛の未来を担うFX選定は極めて重要な問題だ。また、製造工程に日本企業がどの程度絡めるかは、機種により大きな幅がある。影響を受ける国内部品メーカーは大小含めて1,000社を超えると言われており、FX選定が日本経済に与える影響は計り知れない。以上の点から、FX選定のポイントと課題を、専門家の意見を交えながら考察する。  まず、「3候補」とされているのは以下の3機種である。  米を中心に9カ国共同開発の「F-35」(ロッキード・マーチン社)、米国製で米海軍とオーストラリア空軍が使用している「F/A-18E」、イギリスを中心に欧州4カ国が共同で開発した「ユーロファイター・タイフーン」。  このうち、現時点で最有力候補と言われているのがF-35だ。同機を製造しているロッキード・マーチン社は今年の夏から、日本メディア向けのPRイベントを積極的に行っており、他の2社を引き離しにかかっていると見られている。この10月にはF-35のコクピットのシミュレーターを日本へ持ち込み、記者が試乗体験できるプロモーションイベントを敢行した。同イベントに参加した航空専門誌「エアワールド」編集長の竹内修氏は、F-35と他2機種との違いを次のように説明する。 「操作方法の概念が他の機種とまったく違います。一般に戦闘機というと、いわゆるテレビゲームのように画面の中央にスコープがあって、敵に照準合わせて撃墜するというイメージがあります。ところが、F-35は画面がタッチパネルで、スクリーン上に表示された敵のマークと、発射するミサイルのマークを指でタッチして選び、あとはボタンをいくつか押すとミサイルが発射される。戦闘というより、iPadでブラウジングでもしているような感覚になります」  また、F-35は第五世代戦闘機と呼ばれ、レーダーに映りにくいステルス性能が高い点が最大の特徴。戦闘機としての性能は、総合的に見て他の2機種より高いというのが関係者の一致した見方だ。性能が高いほど抑止力も高まるとの考え方から、空自は過去の機種選定でも、常にその時点で最も性能の高い機種を選定してきた。この論でいけば、F-35は決定的とも思える。  ところが、F-35の選定には課題も多い。ひとつは価格の問題で、ロッキード・マーチン社は「量産化が進めば価格は下がり、1機50億円程度で導入できる」とコメントしているが、「開発コストは膨らみ続けているので、逆に上がる可能性」(業界紙記者)も否定できない。  また、F-35の最大の特徴のひとつであるステルス性が、今の日本の防衛体制では発揮できないとの指摘もある。「専守防衛」が大前提の自衛隊は、攻撃を先にしかけることができない。F-35は敵に見つからないうちに先制攻撃できるのが利点だが、専守防衛ではその性能も宝の持ち腐れというわけだ。  さらに、製造過程に日本の企業がどこまで参加できるかも大きな課題だ。9カ国が共同開発をしたF-35は機密度も高く、設計図面を買って国内で製造する「ライセンス生産」が許されていない(他の2機種は一定割合を上限にライセンス生産が可)。機体のどこにどの部品が使われるかというワークシェアリングが厳密に決められており、最終組み立て作業や一部のパーツの製造などが認められる可能性があるものの、経済効果に大きな期待はできないことになる。
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日本経済への波及効果が期待されるユーロファイター。
総合的なメリットは最も高いと支持する声も多い。
 また、一言で最終組み立て作業といっても単純ではない。極めて複雑で精度の高い同機の組み立てには、担当企業となることが確実視されている三菱重工は新たな設備投資が必要となり、これが最終的に価格にはね返るとの見方もあるのだ。  「FXの選定に国内経済の問題を持ち込むべきでない」という意見もある。その一方で、「軍事と経済は地続きの問題」との声もある。この課題を模索するには、国内の部品メーカーが現在どんな状況下にあるかを知る必要があるだろう。これについて、「国内メーカーはかつてない厳しい局面を迎えている」と言うのは、前出の竹内氏だ。 「次世代の主力旅客機として世界中から注目され、その1号機が日本のANAに先般納入されたボーイング787は、胴体パネルや主脚ドアなどの各種部品や内装部品全体の約30~40%以上に三菱重工や富士重工、IHI、川崎重工などの技術が使われています。実はこうした大手メーカーに納品している一部の下請けや孫請けの部品メーカーが、航空機、特に軍用機部門から撤退を始めているのです」  実は、三菱重工や富士重工はボーイング787のような旅客機も作ってはいるものの、これまで受注額の多くは自衛隊からの発注分が占めていた。しかし、ここ数年は防衛費の圧縮やFXの選定作業の遅れなどから、防衛関連の受注が激減。787などの3~4割の生産だけでは、すべての下請けの"食い扶持"を賄うことはできないというのだ。  一方、三菱重工の傘下にある三菱航空機は、国産旅客機「MRJ」の開発を進めている。この量産化による波及効果は期待できないのだろうか。竹内氏はこれについても否定的だ。 「MRJは開発コスト削減などの理由で、実績のある海外メーカーの部品を多く使っています。国内への経済効果、とりわけ中小企業への波及効果という点では、大きくは期待できません」  こうしたことから、国内の中小部品メーカーはFXの早期発注に大きな期待をかけてきたが、選定の大幅な遅れからすでに撤退や倒産した会社も出始めている。  また、仮にF-35に決まった場合、前述した通り国内メーカーが得られる恩恵は他の2機種に比べれば少ない。このままでは、日本の航空産業で大きな役割を果たしてきた中小企業は総倒れという事態にもなりかねない。FXの選定が、下町の工場の未来を分ける分水嶺になる可能性があるというのだ。  こうした中、F-35の製造元であるロッキード・マーチン社はこのほど、ある程度までのライセンス生産を認めると発表。その割合は「一説では最大で20%程度」(関係者)と限定的だが、機密保持に厳格な取り組みを続けてきた同社の歴史の中でも、「異例中の異例の決断」(竹内氏)として関係者を驚かせた。ロッキード・マーチン社が動きを活発化させた背景には、ライバル2社の追い上げに対する焦りに加え、「ユーロ危機が関係しているのでは」と竹内氏は推測する。 「F-35の開発パートナー国には、イタリアやオランダなどのユーロ圏の国が多く、それらの国も当然ながら同機の導入計画がありますが、ここ最近のユーロ危機の影響で、はたして各国が予定通り購入できるかが怪しくなりつつあるのです」  また、中国やロシアの脅威にさらされている日本と違い、欧州は全般的に武力脅威が少ない。各国とも「しばらく様子見で、金があるときに買おう」と言い出しかねない条件がそろっているというのだ。事実、デンマークは9カ国の開発パートナーのひとつでありながら、いまだに導入するかさえ決定していない。 「それに引き換え、日本は不景気といってもまだまだ経済力の信用性は高く、軍事的にも新型戦闘機の必要性に迫られている。多少は出血サービスしても、日本に売りたいと考えても不思議ではありません。今後の交渉次第ではさらに有利な条件を引き出せる可能性も考えられます」  先般のシミュレーターを用いたPRイベントや、5月以降の一連のプロモーション戦略、さらには異例のライセンス生産の許諾など、ロッキード・マーチン社がここへきて売り込み攻勢のネジを巻き始めたのも、こうした要因に基づく同社の「焦り」と無関係ではないだろう。  とはいえ、ライセンス生産をある程度認めるという"譲歩"と、最も高い性能という条件にありながら、単純にF-35に決められない理由は他にもある。FXは防衛省が3候補の中から決定(最終決定は政府の国防会議)するが、実は航空自衛隊や防衛省の中でも各機種を推す3つの派閥的な動きがあると竹内氏は言う。 「F-35を推す勢力は、防衛大出身で純粋に機体の性能を第一に考えている人たちです。一方、F/A-18Eを推す勢力は一般の大学を出ているキャリアたちで、大学の同期に財務官僚がいたりして、要するに安定したコストで機数を揃えたいという現実路線です。最後にユーロファイターを推すグループですが、省内にはまだ国産戦闘機の開発を続けたいと考えている層がいまして、この人たちはユーロファイターを強く推しているのです」
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F-35のコクピット。タッチパネルによる操作は革新的だ。
 国産機推進派が欧州製のユーロファイターを推すには理由がある。欧州4カ国が共同開発したというユーロファイターは、日本国内でのライセンス生産を全体の実に95%まで認めている。F-35の最大でも20%程度という数字とは雲泥の差で、それどころか、将来的には日本でライセンス生産した同機の海外輸出までも可能とする破格の条件を提示しているのだ。これは事実上の国産化ともいえる。もちろん、輸出には「武器輸出三原則」という高いハードルが待ち構えているが、95%という数字は戦闘機の生産基盤の維持と産業技術力の向上という面では魅力的だ。  国防の要を担うFXを金勘定だけで選ぶことはできないが、性能面で見てもユーロファイターは「3機の中で速度が一番早く、運動性も機敏」(竹内氏)。スピードや機敏さが性能のすべてではないまでも、領空に侵入してくる他国の軍用機の迎撃を最大の役目としている航空自衛隊にとっては魅力的な要素といえる。前述したとおり、F-35がステルス性の利点を十分に発揮できないのであれば、総合的な判断からユーロファイターを選ぶ考え方も的外れとはいえない。  もちろん、最高性能のF-35をとりあえず選択し、今後の国民的な議論の中で専守防衛の見直しを図る方法もあるが、現与党が国防の議論に消極的な民主党である現状や、憲法改正に国民の半数が否定的であるとの調査結果を鑑みれば、それが簡単でないことは明白だ。 「しかも、戦闘機の製造には1,000社ほどの国内企業が関係してきますから、ユーロファイターは日本の経済界にも応援団が多いのです。経産省にシンパが多いという話もありますし、経団連の幹部が同機に肯定的なコメントも出しています。また、戦闘機の部品製造は民間技術への転用という広がりも期待でき、技術力の底上げや雇用の維持に大きく貢献します。日本の産業力や経済力を含めた広義の安全保障という意味では、ユーロファイターという選択肢は現実的ともいえるのです」(竹内氏)  また、現在のFX候補機が4カ国や9カ国で共同開発していることからも分かる通り、各国とも単独での戦闘機開発は困難になりつつある。F-35のさらに次の世代の戦闘機を見据えたとき、今から欧州と技術交流を進めて体制を固めておくことは、「安全保障の幅も広がり、未来の日本の国防を考えればありえる選択」(竹内氏)ともいえる。  機体性能のF-35と、価格と安定性のF/A-18E、国力全体を勘案したユーロファイター・タイフーン。そして、これらを十分に活用できるための法環境の整備。FX選定にはさまざまな角度からの考察が必要だ。単純に「戦闘機を何にするか」という問題ではない。竹内氏が言う。 「先日も近所の飲み屋さんで、FX関連のニュースをテレビで見ていたあるお客さんが『武器なんていらない、平和が一番だ! こんなもの税金で買うな!』と一喝していました。では、老朽化する今の戦闘機を放置しながら、具体的にどうやって"平和"を維持するのか、日本経済を下支えする下町の優れた工場をどう維持するのか。国内経済の振興をどうするのか。耳障りのいい言葉であいまいにせず、問題を具体的に掘り下げて考えていく必要があるのではないでしょうか」  航空自衛隊の次期主力戦闘機の問題は、実は国民生活の身近なところに深く関係している。政府は年内には3機種の中から決定する方針だ。国民一人ひとりがこの問題を自身の課題として捉え、決定に注目をしていく必要がありそうだ。 (文=浮島さとし)
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「自衛隊はスーパーマンじゃない」被災地で活躍する自衛隊員の知られざる苦労

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写真=名和真紀子
 「自衛隊ってすごい!」――。今回の大震災であらためて自衛隊の活動に舌を巻いた人は多いことだろう。被災地で活躍するその勇敢な姿は、被災者のみならず、日本中の希望として各メディアにこぞって報道された。しかし、震災現場で自衛隊が具体的にどのような活動を行う集団なのかということはこれまであまり知られてこなかった。はたして、震災現場や社会における自衛隊の役割とはどのようなものなのだろうか。過日、『ありがとう自衛隊 ~ヒゲの隊長が綴る日本再興奮闘記~』(ワニブックスPLUS新書)を出版したばかりの元・自衛官、イラク派遣隊長を務めた際は「ヒゲの隊長」のあだ名で親しまれた参議院議員・佐藤正久氏に、知られざる自衛隊の現場について話を聞いた。 ――今回の震災における自衛隊の活動で、佐藤議員が一番印象に残っているものはどのようなものですか? 「行方不明者の捜索ですね。この任務は、生存率が大きく下がる最初の72時間が勝負と言われます。震災発生当初はガソリンも供給できず、水や食料も届かないという状況の中で自衛隊が活躍をしました。自衛隊は自己完結性を持った組織のため、食事も風呂もガソリンもすべて自ら賄うことができ、備蓄もある。ただ、今回の震災では被災地域が広範囲に渡り、当初は自衛隊でも物資が足りませんでした。ご遺体を発見してもそれを運ぶ担架すら不足しており、ご遺体を背中に背負って運んだり、ゴム長などもないので、カッパを上から着ただけの状態で海水の中に入っていったりしていました。瓦礫で傷んでしまったご遺体の中には手足がなかったり顔がつぶれていたり、とくに津波では服が脱げてしまうため、裸のご遺体もたくさんありました。そのため、泥だらけになったご遺体を洗ったりすることもあったんです。とても厳しい状況でしたが、そういったご遺体の回収作業ができるのは自衛隊しかいないわけですから、やるしかないんです」 ――自衛隊の災害派遣部隊の活動というのは、まず行方不明者の捜索から始まるんですか? 「はい。最初は人命救助、捜索ですね。その際、ご遺体も見つかるわけですから、一番優先順位が高い。同時に後方部隊は食事や水の支援を行います。今回は東北地方に住んでいる500人以上の隊員に出動命令が出ましたが、自分の家族と連絡も取れないまま現地へ向かい、行方不明者の捜索、あるいは孤立者の救出といった任務にあたった隊員も数多くいました。実際に家族が亡くなったり、家が流された隊員もいます。でも、自衛隊員は自分の身内よりも一人でも多くの被災者を救い出し、少しでも早くご遺体を家族の元に戻す、という使命感を持っているんです」 ――自衛隊では行方不明者の捜索や瓦礫撤去など、災害派遣のための特殊な訓練もされているのでしょうか? 「あくまで国防のための訓練であり、災害用の特別な訓練をしているわけではありません。訓練には精神面、肉体面、スキル面の3つがあります。まず、精神面は日ごろから鍛えておかないと、いざ任務にあたる時に心が折れてしまいますよね。今回、若い隊員の中にはご遺体を見たことがなかった者も多く、本当につらい状況だったと思います。さらに雪や雨が降る中、かん水しているところに入り捜索活動を行い、戦闘服は2着しかないので次の日もまた濡れた服を着ていかなければならない。食事も被災者の前で食べるわけにはいかないので、場合によってはご遺体を運んだ車の中で食べなければなりません。精神的な強さというのは、現状よりももっとつらい訓練の中で培っておかなけえれば絶対に耐えられるものではありません。  肉体的な強さについてもそうです。例えば30~50キロの重い荷物を背負いながら、100キロの道のりを歩くという訓練があります。実際の戦場では体力温存のため、そのような長距離を歩くことはありません。しかし、日ごろから訓練を行っていれば、いざという時に無理が利くようになるんです。  スキル面もすべて応用です。日ごろから組織として動くという訓練をしておくことによって現場でバラバラにならず、指揮官の命令一つでどのようにでも動ける。自衛隊というのは人数が十分ではないので、駐屯地ごとにそれぞれ専門部隊が分かれています。任務があると、それぞれの駐屯地から必要な隊員をつまみ出してプロジェクトチームをつくるんです。"ミッション・オリエンティッド"とよく言いますが、日ごろからそういう訓練をしておかないと、現場現場のニーズに対応できないんです」 ――スキルといえば、今回は原子力災害派遣も行われましたが、原子力についても専門的な知識が必要とされると思います。そういった訓練もされているのでしょうか? 「一部の部隊はそういう知識を持っていますが、ほとんどの隊員は持っていません。ですから、今回も専門的な教育を受けた隊員がみんなに教育をしながら活動を行っています。自衛隊員と言っても、大多数の人は放射能や原子力のことまでは分かりませんから。ただやること自体は日ごろの国防の応用です。ヘリから原子炉への散水や、放射能除染もそうです」 ――すべての訓練が応用として現場で生かされているんですね。しかし、そんな自衛隊員でも、精神的にまいってしまうこともあるともあるんじゃないですか? 先日、仙台に行ったときに、自衛隊員の人が「もうつらい」と漏らしていたという話を聞いたんですが。 「今までにないような経験をしていますからね。たとえば、ご遺体にまつわる話ですが、ご遺族の方から探してほしいと頼まれて沼地などにボートや、あるいは胸まで沼に浸かりながら自衛隊員が捜索します。ご遺族はその様子を周りで見ているわけです。ようやく見つかったときに、ご遺体が想像していない状態であっても、自衛隊員はご遺族との対面に立ち会うわけですよね。あるところでは、行方不明だった3歳の男の子のご遺体が自衛隊の捜索で見つかったんですが、ご遺体の状態は直視できるものではなかった。そのご遺体を遺体袋に入れて引き渡すときに、お母さんが『よかったね、自衛隊の人たちが助けてくれたよ。今度生まれ変わって大きくなったら自衛隊に入れてもらおうね』と泣きながら語りかけたそうです。自衛隊員たちはみんなで線香をあげて合掌し、見送ったりするわけですが、そういう場面に何度も立ち会わなければならない。自衛隊員たちにも家族がいるわけですから、やはりつらいものがあります」 ――被災地での活躍ぶりを見ると自衛隊員はスーパーマンだと思ってしまいがちですが、人の死に立ち会うということはやはりつらいことなんですね。本書では災害現場での口内炎や便秘といった、自衛隊員の身体的な苦労も語られていますが、他にも病気などに罹ることはあるのでしょうか? 「自衛隊は大"痔"主と言われています。野外で用を足す場合が多いので、痔になりやすいんです。それと、水虫も多いですね。瓦礫を踏み抜かないようなブーツを履いているので足が蒸れやすいんです」 ――佐藤議員も自衛官の時代はそういった悩みを抱えていたんですか? 「私は痔は大丈夫だったんですが、水虫は今でもダメですね(笑)。あんな水浸しのところを歩くんだから、直るはずがないですよ」 ――自衛隊に対する特別手当が、わずか1,620円ということにも驚かされました。 「そこは言っても仕方がないことですが......。ただ、自衛隊員が一番求めているものは名誉と誇りです。被災者からの感謝の気持ちや、『生まれ変わったら自衛官になりたい』という言葉、それに天皇陛下からの頂いた感謝のお言葉......。自分の身を犠牲にしてでも国のためにというのが自衛隊員の精神的な軸になっています。その見返りはお金ではなく、名誉と誇りなんです」 ――震災から3カ月が経過しました。今後、自衛隊はどのような活動を行っていくのでしょうか? 「災害派遣の現場では、行方不明者の捜索は一段落するでしょう。しかし、仮設住宅ができるまでは引き続き生活支援、つまり水と食事の支援が求められます。また、いまだ収束していない福島第一原発事故でもモニタリングや除染などの活動が続いていきます。現場から離れたところでは、今回の災害派遣を踏まえた教訓づくりが行われます。今回の教訓事項を洗い出し、次に反映させる。首都直下型地震や東海、東南海地震などが発生した場合に備え、準備を進めていきます」 ――復旧活動を通して、あらためて自衛隊の活躍がクローズアップされています。佐藤議員としては、この状況をどのようにご覧になりますか? 「震災の直後から多くの方々を救出し、ご遺体の捜索にあたるなど大活躍する自衛隊の姿は誇らしく感じています。しかし一方で、自衛隊に対して間違ったイメージを持っている人も多くなっていると思いますね。自衛隊を『災害派遣部隊』と見ている人や、災害派遣専用の部隊として強化すべきじゃないかという議論も出てきています」 ――「自衛隊の本来の活動」とはどのようなものでしょう? 「自衛隊の任務には国際貢献や災害派遣もありますが、あくまでも『国防』が中心の軸です。その応用で国際貢献や災害派遣などが可能になるわけで、そちらが中心になってしまったら間違いなく"弱い"自衛隊になってしまうでしょうね」 ――最後に、佐藤議員から、現地で活躍する自衛隊員にメッセージはありますか? 「参加されている隊員の方々の汗と想いが被災者の希望になり、安心の糧になります。だから最後まで力と汗を振り絞って活動していただきたいですね」 (取材・文=萩原雄太[かもめマシーン]) ●さとう・まさひさ 1960年、福島県生まれ。陸上自衛官として国連PKOゴラン高原派遣輸送隊初代隊長や、イラク先遣隊長、復興業務支援隊初代隊長などを歴任。2007年に退官し、現在は自民党参議院議員として外交防衛委員会理事、自民党「影の内閣」防衛副大臣、国防部会長代理などのポストに就任している。
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