あまりの心地よさにウトウト……のら猫ファン垂涎のDVD『のら猫ニッポン』


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『のら猫ニッポン~長崎・尾道
から江ノ島・函館まで~』(竹緒)
 サザエさんの有名なテーマソングに、どら猫(のら猫)がお魚をくわえて逃げていく描写がある。今までなにげなく聞き流し、もしこの歌詞についてなんらかを思ったとしても、どちらかというとどら猫ではなく、裸足で駆けてく陽気なサザエさんのことに思いを馳せていた。それが、DVD『のら猫ニッポン~長崎・尾道から江ノ島・函館まで~』(竹緒)を見て、のら猫に対する意識が少しだけ変わった。  『のら猫ニッポン』は、日本全国で撮影したのら猫たちの生活ぶりを、「春夏秋冬のら」「名所のら」「島のら」「西日のら」とテーマ別に編集したDVDで、なんとトータル101分もの間、ひたすらのら猫の衣食住を拝める。しかも、北海道から長崎まで、18カ所にわたるロケ地マップ付き。ナレーションは一切なく、「池の西側を流れる用水路に、猫の姿があった――この場所は猫たちの格好な水飲み場になっているのだろう」といった説明はすべて字幕。聞こえてくるのはのんびりしたBGMに鳥の鳴き声、川の流れる音と、ヒーリング効果は抜群だ。のどかな音を聞きながら、トテトテとのんきに歩く猫、大あくびをする猫、ニューっと伸びる猫を見ていたら、あまりの心地よさに途中で何度もウトウトしてしまった。高すぎるヒーリング効果を逆手にとって、入眠DVDとして使用してもいいかもしれない。
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(c)zeicompany
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n003.jpg  ほとんどが、のんべんだらりと過ごす猫の姿ばかりなのだが、時折ハラハラさせるワンシーンが現れる。特にイチオシなのが、「春夏秋冬のら」チャプター7の三重県志摩市大王町ののら猫たち。ここでは、町の人が干物干しの作業をする一瞬の隙に、干物を盗む猫の様子が撮影されている。作業する街の人たちは、優しいのかあきらめているだけなのか、猫が近寄ってきても厳しく追い返すことはほとんどない。目の前で干物を盗むのを発見したときのみ猫を叱り、そうでなければ黙認している。それでも、中には気の弱い猫もいて、街の人が少し通りかかるだけでも怖がって逃げ出し、干物になかなか近づけない。そして、やっとの思いで干物の作業場に忍び込めたのに、干物の箱が空っぽだったときの落胆した表情のいじらしさたるや。“のら”だから当たり前だが、彼らは危険をかいくぐらないと、ご馳走は得られないのだ。  今後は、サザエさんのあのテーマソングを聞くたびに、「サザエよ、どら猫くらい許してやれよ」と思うのだろうなあ……。 (文=朝井麻由美)
のら猫ニッポン~長崎・尾道から江ノ島・函館まで~ にゃん。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・「家ではゴロニャンしちゃう」俳優・温水洋一が見せる"癒し系"な素顔着ぐるみ姿は反則級のかわいさ! 谷村美月がネコ役でニャンパラリ爆笑必至! "隅におけない"会社員が作るシュールアニメDVD『むっちり村』ツッコミどころ満載? こびとたちの恍惚表情がたまらない『こびと観察入門』脈打つビート! 弾けるパッション! 脱力系映像作家・坂本渉太『真・野球ドラマー外伝』

あまりの心地よさにウトウト……のら猫ファン垂涎のDVD『のら猫ニッポン』


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『のら猫ニッポン~長崎・尾道
から江ノ島・函館まで~』(竹緒)
 サザエさんの有名なテーマソングに、どら猫(のら猫)がお魚をくわえて逃げていく描写がある。今までなにげなく聞き流し、もしこの歌詞についてなんらかを思ったとしても、どちらかというとどら猫ではなく、裸足で駆けてく陽気なサザエさんのことに思いを馳せていた。それが、DVD『のら猫ニッポン~長崎・尾道から江ノ島・函館まで~』(竹緒)を見て、のら猫に対する意識が少しだけ変わった。  『のら猫ニッポン』は、日本全国で撮影したのら猫たちの生活ぶりを、「春夏秋冬のら」「名所のら」「島のら」「西日のら」とテーマ別に編集したDVDで、なんとトータル101分もの間、ひたすらのら猫の衣食住を拝める。しかも、北海道から長崎まで、18カ所にわたるロケ地マップ付き。ナレーションは一切なく、「池の西側を流れる用水路に、猫の姿があった――この場所は猫たちの格好な水飲み場になっているのだろう」といった説明はすべて字幕。聞こえてくるのはのんびりしたBGMに鳥の鳴き声、川の流れる音と、ヒーリング効果は抜群だ。のどかな音を聞きながら、トテトテとのんきに歩く猫、大あくびをする猫、ニューっと伸びる猫を見ていたら、あまりの心地よさに途中で何度もウトウトしてしまった。高すぎるヒーリング効果を逆手にとって、入眠DVDとして使用してもいいかもしれない。
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n003.jpg  ほとんどが、のんべんだらりと過ごす猫の姿ばかりなのだが、時折ハラハラさせるワンシーンが現れる。特にイチオシなのが、「春夏秋冬のら」チャプター7の三重県志摩市大王町ののら猫たち。ここでは、町の人が干物干しの作業をする一瞬の隙に、干物を盗む猫の様子が撮影されている。作業する街の人たちは、優しいのかあきらめているだけなのか、猫が近寄ってきても厳しく追い返すことはほとんどない。目の前で干物を盗むのを発見したときのみ猫を叱り、そうでなければ黙認している。それでも、中には気の弱い猫もいて、街の人が少し通りかかるだけでも怖がって逃げ出し、干物になかなか近づけない。そして、やっとの思いで干物の作業場に忍び込めたのに、干物の箱が空っぽだったときの落胆した表情のいじらしさたるや。“のら”だから当たり前だが、彼らは危険をかいくぐらないと、ご馳走は得られないのだ。  今後は、サザエさんのあのテーマソングを聞くたびに、「サザエよ、どら猫くらい許してやれよ」と思うのだろうなあ……。 (文=朝井麻由美)
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『猫とあほんだら』著者・町田康さんに学ぶ、猫との微妙なカンケイ

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撮影=尾藤能暢
 売れないアイドルも9年続けるといろいろ不思議なことがあるもので、この度、なぜか、かねてからファンである作家の町田康さんの新刊エッセー『猫とあほんだら』(講談社)についてインタビューをすることに! 緊張で頭が真っ白になった私は、取材前に編集とカメラマンを集めて言いました。 「いいですか、町田さんのエッセー『実録・外道の条件』(角川書店)によると、町田さんは段取りの悪い現場と礼儀知らずなライターが大嫌いと見え、写真を撮られることに関しても『こんなことをしなければ飯を食っていかれないというのは、まことにもって情けない』と書かれています!」  緊張をほぐすには風邪と同様に他人に伝染すのが一番と考え、わざと脅すような箇所を引用してみたわけですが、特に自分の緊張がほぐれることはなく、むしろ同じく町田さんのファンである編集とカメラマンが「ヒッ」と悲鳴を上げ、全員がより緊張しただけでした。不安が隠せない我々の元に、遠方から、ヘビ柄の傘をさし、雨の中でも隠しきれない眼光を放った町田康さんがゆらゆらと現れ、かつてない緊張感の中でインタビューは始まったのでした。 ――あの、自分も猫を飼ってまして、今回は『猫とあほんだら』と併せて、あらためて『猫にかまけて』と『猫のあしあと』(すべて講談社)も読み返したんですが、町田さんちの猫たちは本当によくしゃべりますね。どのように猫語を翻訳されてるんですか? 町田康氏(以下、町田) ......そうですね。基本的にフィクションなんで、どこまで正確に訳せているかはかなり怪しい部分なんですけど......。 ――えっ、フィクションなんですか? 町田 ええ、いわゆる......。でも、まぁ、ずっと一緒に生活していると、だいたい日常会話というか、それぐらいのことは分かりますね。そんな複雑なことは言いませんから、基本的には。 ――今作では奥様がかなりパワーアップされていましたね! エッセーやブログにはご家庭の描写があまり出てこないので、「町田さんと暮らしているのはどんな女性なんだろう?」とずっと疑問だったんです(笑)。 110602bt_0102.jpg 町田 ......はぁ。 ――......あ、えっと、では猫の話を! うちにも何匹か猫がいるんですけど、どんなに手間を掛けても凶悪で......。猫をヒザの上に乗せてパソコンを打っていると、目の前で動いている私の手が気に入らないらしく、突然かみついてきたりして、「なんか悩んでるの?」って心配されそうな手首ができあがってしまいます。 町田 ははは、リストカットみたいな(笑)。でも、それが猫のかわいさでもあるんですけどね。かんできたり、激怒したり。うちなんかだと、猫がヒザの上に乗っているときに、5ミリくらい動いただけで「動物虐待をしてしまった!」っていう話になるんですよ。「1ミリにしなさいよ!」って。 ――動くことさえ許されない......なんてハードな生活を! 町田さんは物事を俯瞰から見たり、斜めから見たりするニヒルなイメージなんですが、猫に対しては基本的に下僕のスタイルですよね。猫の数が増えてから、そのスタイルは変わりましたか? 町田 そうですね、自分がどう、と言うより、みんな性格が違うので、それぞれの主張もありますし、やっていることもありますから......。この本の最後に出てくる"ビーチ"はものすごく人間が大好きで、ものすごい甘えたがり。でも抜け毛がすごくって......。僕のバッグをイスの上に置いて3日くらい放置していたら、素敵なファーのバッグになっていたっていう(笑)。 ――あはは! リアルファーですね。 町田 ブリジット・バルドーに怒られそうな。 ――基本、人間の気に入っているものが好きですよね。パソコンのキーボードとか。以前、原稿用紙をビリビリに破られたことがあるとおっしゃってましたけど、そういう時に怒ったりしないんですか? 町田 犬は怒ると「これやっちゃいけないんだ」って分かりますけど、猫は怒っても怒り返してくるとかで、結局無駄なんですよね。最初のころは僕も怒ったりしていたんですが、無駄です。 ――猫と暮らしていると、どうしても「なんでこのタイミングでこんなことするの!?」って時あるじゃないですか? 今日もこの自分の本(『アイドル墜落日記』)を町田さんにお渡ししようと置いていたら、猫が本の上に尿をしていて......。 町田 ......えっ!?(本から離れる) ――いや、これは新しいものです! 大丈夫です! アハ! ただ、PCの電源を得意げに長押しされたり、そんな時の怒りのやり場というか......。 町田 そういうときは、もう怒っても駄目ですから、あきらめるしかないですよね。「そういうことはこれからちょっとやめていこうか。やめていく方向で、ときどきそんな事をふっと思い出してくれたまえ」みたいな。 ――......その口調で語りかけるんですか? 町田 そうですね。"なな"っていう猫はだいぶ高齢だし女性だし気難しいんで、かなり敬語ですね。彼女は六本木の猫なんで、かなり用心深くて、やっぱり警戒心が強くないと、あの辺では生きていけないんですよ。"ビーチ"は熱海の猫なんでのんびりしていて、"エル"は保健所から焼却処分寸前に引き取って......(中略)で、今度は"エル"が"トナ"を「お前だけは許さん、殺す」って言いだして......。あと、"シャンパン"と"パンク"は......。 ――わー......今、総勢何匹の猫と暮らしているんですか? 町田 その本を書いてから現在までにタイムラグがあって、亡くなった猫も、新しく来た猫もいますから、現在は、ちょっと待って、えーと......(両手の指を折りながら)10匹ですね。 ――ご自分でも把握しきれてないぐらい(笑)。10匹くらいがなんとかなる数なんですか?
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最後の勇気を振り絞って、取材後にサインを
頂きました。
町田 いや、なんとかなんなかったから田舎に引っ越したんです。家の中がぐちゃぐちゃになってしまって、地価の安いところに。これでなんとかならなかったら、また別のところに移らなきゃね。どこまで移ればいいんだか(笑)。 ――アハハ! ところで、猫と暮らしていると、もし猫が死んでしまったら......なんて考えるだけで怖いですよね。町田さんは何度も猫との別れの辛さを味わった上で、まだ保護団体から猫を預かるじゃないですか? 辛くなりませんか? 町田 そうですね。すごく悲しいですけど、「じゃあ、それを放って置いたらどうなるか?」って話ですよね。放って置いたら、その猫は死ぬわけですから。自分のことを考えれば猫が死んでしまうのは悲しい。ですが、それは猫でも友達でも家族でも同じことですよね。引き取った猫と、預かっている猫、彼らはいずれにしても行き場がないわけですから。......でも、まあ、主に僕の都合というか、僕ができるかどうかの話なんですが。もちろん、すべてできるわけじゃないですからね。 ――今回の東日本大震災では飼い主が亡くなってしまった犬や猫も多いですしね......。 町田 こういう震災って、いろんなボランティア団体が入って、現地に入っている人も、そういう人たちを支援している人もいますよね。ただ、それでも行政から「立ち入らないでください」「そもそも犬や猫のために来ないでくれ」っていう場所があったり、「ペットを連れていく」って言っても、「持ち出すな」って言われている。「なんで?」って感じですよね。結局、割を食うのは年寄りや子ども、自分で生命の主張もできない犬や猫なんですよ。だから、やっぱり飼っている人が責任を持たないといけない。自分の精神の安定を得るためにペットを飼って、いざ危なくなったら見捨てるっていうのは、人としてどうなのかな。 ――そういう、助けきれない動物へのジレンマはありますか? 町田 それって一番難しいところで、例えば一番矛盾を感じるのは、「かわいそうな猫がいます、みなさん助けてください」ってネットとかで言って、なんになる? ってことなんですよね。つまり、自分が何をするかなんですよ。僕だって毎回、猫を見るとすごく嫌なんです。全部は助けきれないですもん。しょうがない時はしょうがない。自分ができないってことも自分で認識しないと。でも、それは「見殺しにする」っていうことですよね。「俺は見殺しにした!」と思うしかないです。僕は、何回も、見殺しにしました......。 ――わーなんていうか......えーと......慈悲深いですね! えっと、猫にそう思う気持ちって、人間に対してもあるんですか? 町田 まっっったくないですね。人間は言葉をしゃべるし、憲法で人権も保障されているじゃないですか。単純に自分が猫や犬がかわいそうだからやっているってだけで、人間には思わないですよ。「バカは死んでも直らない」ってよく良いますけど、本当にそう思ったこともありますよ。「こいつ死ななきゃ駄目だ!」って......(笑)。 ――そうですよね! アハアハ、アハ......。 ***  町田さんの独自の間合いとテンションに完全に飲まれたままインタビューと撮影を終え、ゆらゆらと去っていく町田さんの背を眺めながら、真っ白になる私たち。「......なんとも町田康でしたね」「ええ、町田康でした......」「猫の話しか聞けませんでしたけど、あの最後の『死ななきゃ駄目なやつ』って、もしかして私のことじゃ......」「それはさすがに考えすぎじゃ......」。  後日、恐る恐る聞いた録音テープには、静かにまじめに猫について語られる町田さんの声と、その独自の間合い(突然お黙りになる、遠くをじっと見つめる、笑い出す、など)に恐怖して、「アハハ アハハ」と意味不明な笑いで場をにごしながら間違った敬語で的を射ない質問を繰り返すという、まさに『実録・外道の条件』に出てくる失礼なライターのような声が入っていました。  やっぱりアレは、私のことじゃ......。 (取材・文=小明) ●まちだ・こう 1962年大阪府生まれ。作家、歌手、詩人として活躍。96年に発表した処女小説『くっすん大黒』(文藝春秋)でドゥマゴ文学賞、野間文芸新人賞。2000年『きれぎれ』(同)で芥川賞。01年『土間の四十八滝』(メディアファクトリー)で萩原朔太郎賞。02年『権現の踊り子』(講談社)で川端康成文学賞。05年『告白』(中央公論新社)で谷崎潤一郎賞。08年『宿屋めぐり』(同)で野間文芸賞を受賞。
猫とあほんだら 町田さん、あほんだらですいませんでした! amazon_associate_logo.jpg
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猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』

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米国ミネソタ州のホスピスで暮らす"おくりねこ"のオスカー。
人間の死を予期する特殊な能力を有している。
(c)La bascule and Ana films
 和歌山県太地町におけるイルカの追い込み漁の実態を告発した米国映画『ザ・コーヴ』は2010年上半期の映画界の話題を独占したが、もう1本、日本人と動物の関係を考えさせるドキュメンタリー作品がフランスから上陸した。ミリアム・トネロット監督による『ネコを探して』がそれだ。19世紀のフランスでは"自立と自由の象徴"としてネコは画家や文化人らに愛されたが、さまざまな仕草のネコを描いた安藤広重の浮世絵が少なからず影響を与えているという。夏目漱石の『吾輩は猫である』も愛読しているトネロット監督は、米国や英国のネコたちも紹介するが、とりわけ日本のネコたちの紹介により時間を割いている。フランスの女性監督の目には、日本人とネコの関係はかなり特殊なものに映っているようだ。  アニメーションを導入に使うことで、ネコの肉球のごとくソフトタッチに始まる本作だが、日本人とネコの関わりを伝える序盤のエピソードにネコ愛好家は鋭いツメでえぐられるような衝撃を受けるだろう。世界初の公害病である水俣病の存在を人間社会に初めて伝えたのは水俣の海辺に暮らすネコたちだったのだ。確かに水俣病問題を最初に報道した1954年8月1日の「熊本日日新聞」の記事内容は『水俣市の漁村で百余匹いた猫が全滅し、ねずみが急増。あわてて各方面から猫をもらってきたが、これまた気が狂ったように死んでいく』というものだった。やがてネコだけでなく、痙攣や神経症状を呈する人間の患者が相次ぎ、"原因不明の奇病"として水俣病の存在が56年に公表される。メチル水銀が魚介類に蓄積され、それを摂取することによって起きたメチル水銀中毒と判明したのは59年。日本政府が公害病として認定したのは68年になってからだ。  水俣病の存在が報告されてからも工場廃水を流し続けたチッソ社は自社の無罪を証明するため、「400号」と名付けたネコに3カ月間にわたって工場廃水を飲ませる動物実験を行なっている。ネコ400号は人間の水俣病患者と同じ症状を見せたが、チッソ社はこの実験結果を公表せず、チッソ工場と水俣病は無関係であることを主張。また、チッソ社の付属病院だけでなく、熊本大学でもメチル水銀で汚染された魚をネコたちに与え続けるという動物実験が行なわれた。水俣病で苦しんでいるのは人間だけではなかったのだ。トネロット監督は水俣病研究の犠牲となったネコたち数万匹を弔う慰霊碑に手を合わせるかのようにカメラを向ける。
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ネコに鍼灸を施す獣医師・石野孝氏。
ペットの高齢化・美食化が進み、成人病の予防
は欠かせない。
 どーんと沈みきったネコ愛好家の気持ちを和ませてくれるのは、和歌山電鐵貴志川線貴志駅のスーパー駅長たま。人気者の駅長たまのお陰で、赤字ローカル線だった貴志川線は廃線を免れた。福を招く"招き猫"たまを写メに収めようと大勢の客が貴志駅を利用する。たまが駅長に就任したことによる経済効果は11億円にもなるという。芸術の国フランスではネコは自由のシンボルとして見られているのに比べ、どうも日本のネコたちは人間に対し献身的な役割を背負わされているようだ。秋田犬ハチが軍国化の進む戦前の日本で主人に尽くす"忠犬ハチ公物語"として美談化されたことを彷彿させる。  公共機関である鉄道を守っているのは、日本のスーパー駅長たまだけではない。英国鉄道では長い年月、信号ケーブルを齧るネズミを駆除するためのネコたちが公費で飼われていた。英国の鉄道員たちはネコをネズミ獲りの職人として認めていたのだ。ネコと人間がお互いに支え合った古き良き時代。しかし、90年代に英国鉄道は完全民営化され、職員の25%がリストラされたと同時に200匹の職人ネコたちも解雇された。経済効率至上主義の民営企業は、ネコたちに与えるエサ代は無駄な出費と考えたのだ。民営企業はネコのエサ代だけでなく、レールの点検作業や補修費なども省くようになり、民営化された英国鉄道では死者を出す大事故が続発。英国鉄道の民営化は失敗した、として立て直しが進められている。  自由気ままなネコの性質は、よく女性に例えられるが、米国ミネソタ州にあるホテル「キャットハウス」はちょっと妖しげ。オランダの風俗街「飾り窓」のように、さまざまなタイプの美猫たちはお客が来るのを毛づくろいしながら待っている。このホテルでは、お客は指名したお気に入りのネコちゃんと個室でひと晩、ベッドを共にすることができるのだ。自宅でネコを飼っているけど、ちょっと違う種類のネコと浮気してみたい人たちに大人気。1匹のネコを相手に3Pプレイを楽しむ夫婦もいるし、死んでしまったネコにそっくりなネコを見つけてペットロスでぽっかり開いた心の穴を塞ごうとする婦人の姿も。美しいネコたちは、それぞれ得意な仕草でお客の心をトロトロにとろかせる。  ミネソタ州の"猫のホテル"に比べ、せわしく狭苦しい印象を与えるのは、日本の猫カフェ。お気に入りのネコの喉をさすりながら、日本の若者たちは「大人になってもネコはカワイイ」「野良ネコはいやだけど、飼いネコならなってもいい」と口にする。猫カフェに押し込まれたネコたちはツメが切られ、去勢されたおとなしいネコばかり。さらに日本人はネコをペット服で着飾り、健康のために動物専用の鍼灸へ連れていく。人間を癒すために多大なストレスを抱える日本のネコたち。トネロット監督はネコは人間社会を映し出す鏡、過剰なペット・ビジネスに今の日本文化が象徴されていると感じている。  ネコをめぐる旅の最後に登場するのは、超能力ネコのオスカー。人間の死を正確に予期するというスピリチュアル系の不思議ネコだ。オスカーは米国のロードアイランド州にある認知症患者のためのホスピスで暮らしている。普段は人間にあまり寄り付かないオスカーだが、死期が迫った患者を察知すると、亡くなる約4時間前からその患者のベッドに上がり、寝ずの番をするという。認知症で家族さえ判別できなくなっている患者も、かわいいネコが自分の横で丸まっていることで苦しみが和らぐらしい。死を予告するネコと聞くと不吉に考える家族もいるんじゃないかと思うが、オスカーが病室にいることで付き添う家族の気持ちも慰められている。オスカーと共に多くの患者を看取った医者のデイヴィッド・ドーサ氏はノンフィクション本『オスカー 天国への旅立ちを知らせる猫』(早川書房)の中で、人間の体が機能しなくなることで体内にケトン体が分泌され、ケトン体の匂いをオスカーは嗅ぎ分けているのではないかと推測している。戦場では先の長くない負傷兵からは甘い匂いが漂ってくるという衛生兵の談話も紹介している。しかし、それだけではオスカーの不思議な能力は説明できない。危篤患者が2人いる場合は、オスカーは身寄りのいないコドクな患者のベッドを選ぶのだ。オスカーはホスピス内で自分がやらなくてはいけない任務を熟知しているらしい。  本作を見終わって写真家アラーキーこと荒木経惟氏の言葉が思い浮かんだ。アラーキーは人妻熟女だけでなくネコ好きでも知られる。野良ネコのいる風景を撮り続けた『東京猫町』(平凡社)はネコ好きにはたまらない写真集だ。路地裏に佇むネコたちを追った『東京猫町』の中でアラーキーは、"猫が歩いている町はイイ町なのです"と語っている。"猫が消えちゃったら東京は廃墟になっちゃうんだろーニャア"とも言う。東京から、日本から、ネコがいなくなりませんように。 (文=長野辰次)
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(c)Jerome Jouvray
『ネコを探して』 監督/ミリアム・トネロット 出演/"駅長"たま、"おくりねこ"オスカー、"鉄道員"エリカ、"カメラねこ"ミスター・リー、"お泊りねこ"ジンジャー、鹿島茂、石野孝ほか 配給/ツイン 渋谷シアターイメージフォーラムほか全国順次公開中 <http://www.neko-doko.com>
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