
カブールはこの季節、深い雪。
アメリカのパネッタ国防長官が2月1日、アフガニスタンに駐留する米軍の戦闘任務を13年度までに終結させ、訓練任務を「戦闘任務」から「訓練、支援任務」に移行させる方針を明らかにした。アメリカは既に国防費削減の一環として、現在アフガン駐留中の米軍約9万人を14年度までに撤収するとしているが、オバマ政権がアフガンでの戦闘任務の終結時期を明示したのは初めてのこと。
一方、米軍撤収後のタリバンの地位保全等に関連した協議を、アメリカがアフガン政権の頭越しにタリバンと直接行っていることに対し、アフガンのカルザイ大統領や隣国のパキスタンがアメリカに強い不信感を示しているとも報じられている。こうしたパワーバランスの乱れは、はたして新たな火種を生むのだろうか。現在アフガンを取材中で、『報道ステーション』(テレビ朝日系)などでもおなじみの戦場ジャーナリスト・西谷文和氏から、国際電話でアフガンの現状と今後を語ってもらった(以下、西谷氏の会話要約)。
アフガンの今後を考えるにあたって最初に留意しなければならないことは、「今、起こっている現象だけで判断してはいけない」ということだろう。
米国とタリバンが、カタールのドーハを拠点にして和平交渉に入るというニュースが流れた。これはカルザイ政権の頭越しに行われるので、焦ったカルザイはサウジやパキスタンと組んで、サウジのリヤドで米国抜きの和平交渉、すなわちタリバンとカルザイの「アフガン人同士で」和平会議を開催しようとした。
ここでアフガン情勢に詳しい人なら、「えっ、立場が逆なのでは?」と感じるかもしれない。
すなわち、カルザイ政権は米国の傀儡としてスタートしているし、タリバンはサウジの資金を利用してパキスタンが作り上げた武装組織であるからだ。歴史の流れからすると、米国はまずカルザイ政権と相談すべきだし、パキスタンやサウジはタリバンを支援していくはずだ。今起きている現象は、「昨日の敵が今日の友で、今日の友が明日の敵」である。ちなみにこれは中東でもよくあることだ。
では、私なりに背景を探ってみよう。
まずは米国の事情から。周知の通り、米国はイラク&アフガン戦争で巨額の軍事費を投入しており、財政破綻してしまった。オバマ政権としては、これ以上アフガン戦争に金を突っ込むことは避けたい。アフガンをコントロールするためカルザイを大統領にしたが、予想以上に(あるいはわざと?)戦争が長引き、米国による誤爆や不当逮捕、殺人などでアフガン人の間に強い反米感情が芽生えた。カルザイは当初、米軍をかばっていたが、国民世論を無視できず、反米スタンスを取らざるを得ない状況に追い込まれた。彼の反米スタンスは当初、国民向けのポーズだったが、あまりに米軍の戦争犯罪がひどいので、傀儡として振る舞うことに限界を感じ、本気で米軍撤退を要求するようになった。ちょうど沖縄における仲井眞弘多知事のような存在ではないか、と思う。
オバマ政権内部も一枚岩ではない。アフガンから撤退を主張するグループと、もう少し戦争を続けたいグループがいるはず。米国の失業率は今や10%に届く勢い。どこかで紛争の種をまき、戦争を続けないと軍産複合体も商売できない。しかしアフガン戦争は、もうそれほどうまみがない。トルクメニスタンからアフガン経由で石油パイプラインを引く計画も現在は頓挫しているし、イラクやリビアのように、アフガンからは石油が出ない。
今年は大統領選挙なので、オバマとしては「タリバンと和解成立」を見せて、選挙に勝利したいだろう。でもカルザイは信用できないし、今やアフガン各地でタリバンが復活していて、カルザイが治めているのはカブールだけ。カルザイは今や「カブール市長」といってもよい状態だ。米国はそんなカルザイを見限って、タリバンと直接交渉に踏み切ったのだと思われる。
問題はここから。果たしてこの交渉は、両者、本気なのか、ということ。私は両者ともポーズではないか、と考えている。オバマは「自分は平和主義者である」とアピールできるし、タリバンは「アフガンの実権を握っているのは俺たちだ」と主張できる。しかし本当に和平が実現してしまうと、米国は戦争ができなくなるし、タリバンは恐怖政治でしか民衆を押さえ込むことができないので、和平が実現してしまうと、すぐに統治能力がないことが露呈してしまう。またタリバンと一口に言っても、地方によっては単なる軍閥だったりするので、一枚岩でもない。今のタリバンは「アフガンが戦争状態だからこそ、一定の民衆の支持を取り付けている」だけである。
隣国パキスタンはどうか? 1990年代、パキスタンは軍の諜報機関ISIを使ってタリバンをアフガンにもぐり込ませ、アフガンをコントロールすることに成功した。パキスタンは、石油パイプラインの利権と、隣国インドとの紛争があり、インドとの後背地としてアフガンを手中に収めておきたかった。この点で米国とパキスタンの利害が一致していたが、911事件で状況は一変した。
米国は今までパキスタンとともに支援してきたオサマ・ビンラディンとタリバンに対して戦争を始めた。パキスタンのムシャラフは独裁的だが有能な政治家だったので、米国と協調するふりをしながら、民衆の反米感情にうまく折り合いを付けながらパキスタン軍をコントロールしていた。しかしブット女史の暗殺で、そのムシャラフも国を追われ、「金儲けの才覚はあるが、政治家としては無能なブットの夫」ザルダリに代わった。大統領が無能だと軍部が力をつける。パキスタン軍の力が台頭し、諜報機関であるISI主導で、自爆テロリストの養成が始まって、パキスタン・タリバンやラシュカレ・タイバなどの武装勢力が、アフガンやインドでテロ事件を引き起こすようになった。パキスタン・タリバンが、カブールなど主要都市で、次々と自爆テロや銃撃戦を引き起こし、アフガン人を巻き添えにして殺していったので、オリジナルの「アフガニスタン・タリバン」は、パキスタンと距離を置くようになった。アフガン戦争も、今や米国とアフガン・タリバンとの戦いではなくて、主な戦場はパキスタンとの国境付近、つまりパキスタン・タリバンとの戦争に変化しつつある。そんな中、パキスタンは米国一辺倒の同盟国ではなくなり、特に中国との関係を強め始めた。そしてだんだんとアフガン・タリバンから離れていったと想像される。
よってパキスタンとしても、アフガン・タリバンの敵=カルザイ政権を利用しようという思惑が生じた。
ではサウジはどうか? サウジはサウド家という王族の独裁国家である。日本ではあまり報道されないが、サウジもまた「アラブの春」の渦中にいる。王族の腐敗、独裁に抗議する民衆が、命を賭けてデモをしている。そんな時独裁者はどうするか? 一定の譲歩、つまり福祉や教育など国民生活向上の約束で不満を沈めるとともに、国民の目を国内問題から国外へそらすことができればなおよい。リヤドでアフガン和平会議を成功させて、王族が「平和主義者であり、打倒の対象ではない」ことをアピールしたい。そんな思惑から、カルザイを利用しようとしたのだろう。
ここまでが直接的、政治的背景。ではその裏の裏、経済的背景について考えてみよう。
リーマンショックをはじめとして、実体のないマネーゲームの破綻で世界の金融資本は大打撃を受けた。本来ならマネーゲームを改め、実体経済への投資に切り替えねばならない。しかし、それではあまり儲からない。株式や証券に投資していた巨額の富は、原油や金、穀物などの先物市場にも流れていく。
特に原油市場は中東情勢で動く。イランやイラクで紛争があれば原油は急騰する。結果として産油国と石油産業、そしてそれらの株式を所有する金融機関、原油先物市場で売り買いしているヘッジファンドなどが巨額の利益を得る。イランがホルムズ海峡を封鎖する、とにおわせただけで、原油価格は跳ね上がる。その情報を前もって知っている投資機関があれば、当然「買い」に走るだろうし、「沈静化」のニュースを嗅ぎ取れば、「空売り」すれば良い。
リビアの内戦では、武器の取引はもちろん、このような思惑で動いて巨額の富を手にした投資機関があっただろうと想像する。ちなみにオバマ大統領の選挙資金を支えたのは、ゴールドマン・サックス、JPモルガンなどの投資銀行だった。米国政権が何を考えているか、を前もって知っていれば大儲けできる。いわゆる戦争銘柄、石油銘柄のインサイダー取引だ。
アフガン戦争は、イラク戦争に比べてそれほど金にならない。しかし米国の一部勢力にとって、「戦争を始めるキッカケ」が必要だった。国民世論を戦争に向かせるための仕掛け、それが911事件とそれに引き続くアフガン戦争ではなかったか? 米国、特にネオコンの狙いはイラク戦争であって、アフガン戦争はイラク戦争を引き起こす導火線に過ぎなかった。そのアフガン戦争も10年続き、そろそろ潮時である。
紛争のネタは他にもたくさんある、イランやシリア、イスラエル、エジプト、パレスチナ...。米国はイラク戦争で懲りているので、「よその国に戦争をしてもらって、その協力体制で儲けるほうがわりがよい」と考えているだろう。したがってイスラエルにイランを攻撃させるのが、もっとも望ましいと考えるグループもいるはず。また絶えず緊張関係を作っておいて情勢を不安定にしたほうが、軍産石油複合体にとっても、金融資本にとっても都合がよい。
結論。米国もサウジもパキスタンも、それぞれ国内事情を抱えながら、アフガン戦争については収束の方向で一致し始めている。ただ、戦争は儲かるので、「アフガンを不安定なまま」にしておき、いつでも介入できる態勢にしておきたい。形だけの和平合意を実現させ、米国にとっては、アフガンに中国やイランの影響が及ぶのをできるだけ避けておきたい。よって、現時点の実効支配者であるタリバンと「和解するふり」を始めた、と考える。
(聞き手=浮島さとし)
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西谷文和が永田町で吠えた? 衆院会館でアフガン取材の現地報告会を敢行!

カブールの避難キャンプで現地報告をする西谷氏。自身6度目のアフガン取材となる。
渡部陽一の大活躍(?)でにわかに注目を集め始めた「戦場ジャーナリスト」。砲弾が飛び交う戦場を駆け回り、世界中へニュースを発信する命がけの職業に、日本中の老若男女から熱い視線が集まっている。
そんな中、"浪花の戦場ジャーナリスト"としてテレビ朝日系『報道ステーション』にたびたび登場し、「月刊サイゾー」でもお馴染みの西谷文和氏が、この10月に自身6度目のアフガニスタン取材を敢行。その報告会がこの11月24日、衆議院第一会館会議室で行なわれた。
これまでもISAF(国際治安支援部隊)軍による度重なる誤爆で死に続ける現地一般人の悲劇や、その報復のためにタリバンへ"入隊"して「ニュータリバン化」する農民の現状など、アフガニスタンで起こっている「今」を発信し続けてきた西谷氏。今回は、冬を迎えて夜の気温が氷点下まで下がる首都カブールの避難民キャンプや、市内のインディラ・ガンジー子ども病院、ISAF軍基地本部、アフガニスタン警官訓練所などを取材するとともに、自身が代表を務めるNGO「イラクの子どもを救う会」に集められた募金による食糧や医薬品を届けた。

カラシニコフで対タリバンを想定した射撃訓練をするアフガン軍兵士。
教官は米兵やイタリア兵などのISAF。

ISAF軍やアフガン軍の基地周辺には大手ゼネコンの社屋が立ち並ぶ。
日本からの支援金の多くもここへ流れているという。
報告会では、劣化ウラン弾の影響が指摘される奇形の赤ん坊や白血病の子どもなど、西谷氏が現地で撮影した衝撃的な映像が流された。さらに同氏は、同病院内のやけど専門病棟の現状にも触れ、貧困な一般家庭では狭い室内で薪を使って熱湯をわかすために、乳幼児が触れて大やけどをする例があとを絶たないという実態を紹介した。西谷氏は言う。
「日本は今年から5年間で最大約50億ドル(約4,000億円)の対アフガン支援が決まっていますが、多くは基地関連工事で大手ゼネコンにわたり、カルザイ政権の汚職に消えるでしょう。アフガン問題は決して日本と無関係ではないことを多くの日本人に知ってほしい。病院でも薬品が激しく不足しています。火傷に効くのは『アブダミン』という薬で、体の内部からたんぱく質を作り、新しい皮膚の創出を助ける働きがあるのですが、これがけっこう高い。我々(NGO「イラクの子どもを救う会」)の資金ではとても満足いく量を買い出せなかった。50億ドルの少しでも、直接ここへまわせるシステムを作るように、これからも外務省や国会議員など、さまざまな方面へ働きかけていくつもりです」

先天性奇形の乳幼児が増えている。
「劣化ウラン弾の影響か?」の問いに現地医師は「誰もがそう思っている」。

熱湯を浴びて火傷をする乳幼児が後を絶たない
(インディラ・ガンディー子ども病院火傷病棟にて)。
外務省国際協力局によれば、50億ドルのうち、すでに約10億ドル(約1,061億円)の支援を実施済みで、治安能力向上へ向けた警察支援や、元タリバン兵士の社会統合支援などを行ってきたという。しかし、今年3月の国連事務総長報告では、09年の月平均治安事件発生件数は960件となり、前年比で約30%も増加。さらに、従来安定的と見られていた地域への武力衝突の拡大により、09年の民間人死者数は、01年タリバン政権崩壊後最悪となる2,412人(前年比14%増)となるなど、今後の見通しは依然として余談を許さない状態が続いている。
(文=浮島さとし)
●にしたに・ふみかず
1960年生まれ。大阪府吹田市役所勤務を経てフリージャーナリストへ。イラクやアフガニスタンを取材し、テレビ朝日系『報道ステーション』などで戦争の悲惨さを訴えている。NGO「イラクの子どもを救う会」代表として現地の子どもへ医療・食糧支援を行なっている。2006年度平和協同ジャーナリスト基金大賞を受賞。2010年10月に、自身6度目となるアフガニスタン取材を終えた。「イラクの子どもを救う会」HP<http://www.nowiraq.com/>
報道されなかったイラク戦争 こちらも体張ってます。
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