
撮影=尾藤能暢
物書きであれば誰もが憧れる「芥川賞作家」という肩書を手に入れてもなお、この人の「芸人」「コント」そして「ピース」への熱が冷めることはない。相方である綾部祐二が単身ニューヨークへ、その時期に又吉直樹もまた芸人としての原点ともいえるユニットコントライブ『さよなら、絶景雑技団』の再演と、又吉自身の新たな挑戦となる『「やぁ」、朗読会』の開催を決めた。淡々と話すその言葉一つ一つに、大きな野望が垣間見えるスペシャルインタビュー。
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――『さよなら、絶景雑技団』のリリースのコメント(「今、自分が思いつくことを全部やってみようとおもいます。今、こうしてるあいだにも何か思いつきそうな気配を感じています。毎秒、何かを思いつきそうな予感が増しています。まだ何も思いついていないことが不思議なほど、何か思いつきそうな雰囲気が溢れています」)が、とても面白かったんですけど、これ、要するにまだ何も決まってないということですよね(笑)。
又吉 そういうことですね(笑)。
――2009年、11年、そして今回で3回目の公演。
又吉 だいぶ期間が空いてしまいました。
――11年から今回まで、確かにいろいろなことがありました。
又吉 僕らがピースとしてテレビによく出るようになったのは10年くらいだったんで、1回目、2回目当時はまだメディアへの露出もそんなになくて。あれから6年かぁ……。
――ファンにとっては、まさしく「待ってました!」だと思います。
又吉 「待ってました」ってなってくれる人がいたらいいですけど。待たせすぎて、もうみんなどっか行ってしまったかもしれない。
――プレッシャーは感じてらっしゃいますか?
又吉 う~ん、そうですね。僕が作るものなので、根本のところは前回と似てると思うんですけど、新しいものもできるだけお見せしたいなと。いわゆる「絶景」って、日常的な一瞬だったりするんですけど、その一瞬を「あぁ、こういうものを見せたかったんやな」っていう風景や場面みたいなものがあるコントにしたいなと思っています。
――日常の中の絶景。
又吉 お客さんからしたら「これのどこが絶景?」って思うものがあるかもしれませんが、この人たちはこれを絶景と思ってるんだな、というのを楽しんでもらえたらいいですね。
――『「やぁ」、朗読会』も、とても気になります。
又吉 朗読会だけをするのは初めてです。ライブの中で10分、20分朗読をすることは、これまでもあったんですけど。今のところ、僕とあと芸人2人(グランジ・五明拓弥、しずる・村上純)、今回の「絶景」メンバーですが、それぞれが自分で書いたものを読みたいなと。ただ、まだ書いてないんで(笑)。
――すごい、朗読会のためだけの書き下ろし!
又吉 難しさは感じてます。そもそもよみうりホールは、かなり広いので朗読に適した小屋ではないと思うので、何かしらの演出はあったほうがいいかなとも思います。でも、いわゆる朗読に向いた狭い空間以外でもやってみたかったんです。今後を見据えて。『「やぁ」、朗読会』も、絶景雑技団と同じように継続してやっていきたいと考えています。

――絶景雑技団のメンバーは、どのように集めたのですか?
又吉 09年に初めてやった頃は……情けない話なんですが、全然世に出れてなくて。ライブばっかりやってまして。みんな劇場でネタをやって、営業に行って、それをずっと繰り返している日々の中で、「ほんまにオレたち面白いことできてんのかな?」みたいな焦りがあったんだと思います。そんな中で、親しい後輩たちが「又吉さん、もっと面白いことやりたいですよね」って言ってきてくれて。でも、僕から見たらみんなすごい面白いから、こいつらの言う「もっと面白いこと」ってなんなんやろ? って、実はすごい怖かったんですよ。
――(笑)。
又吉 「やりましょうよ」って言われて「そうやな」って答えたんですけど、内心「怖っ」って(笑)。みんな現状に納得していなくて、「又吉さん、このままじゃダメですよね?」って言われても「なんでみんな俺に言ってくるの?」みたいなことが最初にあって。だから濁していたんです。「せやな、いつかやろな」って、トーンを合わせながら。ちょうどそんなときに、会社の人から「又吉君、劇場が空いてるから、後輩たちとトークライブやってくれへん?」って話があったんですよ。
――ついにその時が来てしまった(笑)。
又吉 もう逃げられない(笑)。それで「コントも何本かやっていいですか?」って了承もらって。メンバーに話したらみんなすごい盛り上がってもうて、「やりましょう!!」って。もうこれは腹をくくるしかない、自分を信じてやるしかないと思って必死でいろいろ考えましたね。とにかく、そういう始まり方なんです。
――ほかのメンバーとの温度差が。
又吉 いざ作り始めたらコントがいっぱいできて、結局トークをすることなく全部コントで通しました。あの時のメンバーがね、みんなその後、有名になってしまって。ライスは『キングオブコント』で優勝したし、パンサー向井も世に出て、しずるも順調で、 井下好井の好井も『(人志松本の)すべらない話』(フジテレビ系)で活躍してる。囲碁将棋も『THE MANZAI』で決勝まで行きました。それなのに、会うたびに「又吉さん忙しそうですけど、来年あたり『絶景』どうですか?」って言ってくる。これ以上時間が空くともうできなくなるなと思いました、恐怖で。
――恐怖ですか?
又吉 後輩のみんなとは違う戦いが、僕の中であるんですよ。お客さんの期待にも応えたいし、後輩の期待にも応えたいという。メンバーは気心も知れている分、僕にとっては緊張感がある。
―― なるほど。
又吉 ……ライスの『キングオブコント』優勝が、僕に緊張感をもたらしているんですよ!!
――ああ(笑)。
又吉 ライスは本当に面白いんですけど、なかなか思うような結果が出てなくて。小説の新作を描き上げたらまた「絶景」をやろうって決めてたので、ライスに「『絶景』またやりたいんだけど」って相談したら、めちゃめちゃ喜んでくれて。「こんな状況なのに、又吉さんはまだ僕らのことを見捨てないでいてくれる」って。そしたら、優勝しちゃったんですよ。僕はチャンピオンとコントしなきゃいけなくなったんです(笑)。

――日刊サイゾーのインタビューでも、ライスさん、「又吉さんに、とてもお世話になった」と話されていました(
参照記事)。
又吉 うれしいですね。あの頃ってまだみんな20代だったので、それぞれのコンビの活動も大事じゃないですか。あくまでユニットなんで、「絶景」は。だからメンバーには「コンビやトリオの活動のほうが大事だから、そっち優先してもらってええねんけど、もしも相方に了承してもらえるんだったら、一緒にやってほしい」って伝えました。それでもみんな『やりたい』って言ってくれて。ただね、一番先輩なんですけど、本来僕はそういうみんなをまとめるリーダー的タイプじゃないんですよ。いろいろ考えちゃうんですよ。「俺の言う通りにしろ」みたいなことは言えない……。
――「自分がこれを言ったら、相手はこういうふうに考えちゃうんじゃないか」ということを考えてしまう……。
又吉 そうなんです。「絶景」のグループLINEがあるんですけど、誰かがそこにネタを出して僕が『面白い』って返すじゃないですか。「あれ、こいつのネタを“面白い”って言っちゃったら、ここから全部に俺、“面白い”って言わなきゃバランス取られへんわ」とか思ってしまう(笑)。
――気遣い(笑)。
又吉 今回、みんなが思うそれぞれの“絶景”を舞台でやるんですよ。そのネタが面白いから、いま自分のネタを出すタイミングを完全に見失ってます。
――小説を書くことと、コントを書くこと、やはりギアは違うんですか?
又吉 そうですね。小説はやっぱり長いですからね。途中でやめられないというか、いったん書き始めたら書き終えないといけないじゃないですか。そこが大変ですね。一日で終わるものではないんで、体調が悪い時もあったり、精神的に今やらんほうがええなという時もあったり、その中で仕上げていくので。でも、コントはこれでええんかな? と疑問に感じたら突き詰めて考えてもいいですし、思い切って違うものに変えてもいい。そのへんが違うかもしれないですね。
――小説を書きながら合間にコントを書くとか、逆にコントを書きながら合間に小説を書くとか、そういう同時進行は難しそうですね。
又吉 小説を書きながら合間にコントはできるかもしれませんが、コントを考えてる時に合間に小説は……できないかなぁ。コントは僕にとって日常ですが、小説はやっぱり体力がいるので。仕事部屋として借りているアパートの書斎でずっと新作を書いてたんですけど、書き終わってからその書斎にまだ2回しか行ってないですもん。小説書いてた時期のこと思い出して憂鬱になるから(笑)。 カツアゲされたことのある駅に大人になっても行かれへんのと一緒です。
――(笑)。コントの場合は演じる人ありき……みたいなところもありそうです。
又吉 それがですね……僕が作っているのに、僕が出ないコントができてしまったんですよ。
――そうなんですか!
又吉 これだけ達者なメンバーがいるんで、ほんまは出たいんですよ、出たいんですけど……。コントの配役をメンバーに伝えるとき、「又吉さんも出たほうがいいんじゃないですか?」って誰か言ってくれるかなと、かすかに期待していたんですけど、見事に誰も言ってくれなかった(笑)。僕が出ないコントが生まれてしまいました。
――先ほど又吉さんは「20代はコンビとしての活動が一番大事」とおっしゃっていましたが、コンビとしての活動をお休みしている今、あらためて考えることはありますか?
又吉 これは相方もそうだと思いますが、今まではコンビの仕事をとにかく優先していたんですよ。コンビの仕事と個人の仕事がかぶっていたら、コンビの仕事を優先する。ただ今はそういうのがなくなったので、どれを優先するかは自分で決めなければいけない。コンビのときネタは僕が作るんですけど、どんな仕事をやるとかそういうことは綾部が決めていたんですよ。
――コンビとしてのプロデュースみたいな。
又吉 プロデュースって、めちゃめちゃ難しいなと思います。今でもコンビ優先という気持ちは変わってませんし、できればこの『絶景雑技団』を本公演という形で、年1くらいでやっていきたい。さらにこの本公演を母体として、それぞれのコンビに負担がかからない形で、どんどん派生させていきたいですね。
――その時の又吉さんは、プロデューサー的立ち位置ですね。
又吉 そうかもしれません。これからももちろんテレビに出たいですし、綾部がスターになって帰ってきてくれたら、また一緒にやりたい。今までピースとしてルミネで月に10本ぐらいはネタをやっていて、営業もあって、そういうのがなくなるわけで、お笑いの仕事を一人でやらないとダメじゃないですか。それで考えたんです。たとえば朗読会を定期的に続ければ、ライブで読むことを目的として書かれたテキストもたまっていくわけで、今までそういうことをやった人はあまりいないじゃないですか。自分の書いたものを持っていろいろな場所へ行って朗読をする。それなら文章とお笑いを融合させられるというか、60越えても歯が残ってる限り本は読めるので、そういうのはずっとやっていきたいなと。
――ピン芸人として何ができるか……。
又吉 ピン芸人の人が漫談でお客さんを楽しませているとか、ミュージシャンが一人でギターだけ持って弾き語りしてるとか、ああいうのを見ると本当にすごいなと思うんです。僕は「一人でなんかやれ」って言われても、何もできないから。たとえ屋根がある劇場がなくても、道行く人に何かをやって収入を得ることができるタイプの芸人とそれができないタイプの芸人がいて、僕はそれができる芸人さんに対する憧れがすごくあります。「漫談やれ」って言われても、声もちっさいしちょっと暗めやし、でも朗読やったら、みんな「何話してるんやろう」って、耳を傾けてくれるかもしれない。だから、この朗読会は文学的なアプローチというよりは、ピン芸人の人の漫談とか、手品師やミュージシャンの感覚に近いものだと僕は思ってます。綾部は一人でアメリカで挑戦している。だったら僕も一人でお客さんの前で、自分で作ったもので勝負したいと。……と言いながら、最初の朗読会は3人でやるんですけど。
――あ……確かに(笑)
又吉 綾部がニューヨークに行くタイミングで自分もチャレンジしようと意気込んで、「9月にやります」とか言ってしまったけど……でも……正直もうちょっとゆっくりでも良かったかな……張り切ってもうた(笑)。
(取材・文=西澤千央)
●『さよなら、絶景雑技団』
【会場】よみうりホール(東京都千代田区有楽町1−11−1 読売会館)
【日時】9月 9日(土)開演 18:30
9月10日(日)開演 18:00
【出演】ピース・又吉直樹 グランジ・五明拓弥、しずる、ライス、サルゴリラ、
囲碁将棋・根建太一、ゆったり感・中村英将、 井下好井・好井まさお、パンサー・向井慧、スパイク・小川暖奈
【料金】前売6,000円/当日6,500円(税込・全席指定)
●『「やぁ」、朗読会』
【会場】よみうりホール
【日時】2017年9月10日(日)開演 13:30
【出演】ピース・又吉直樹 グランジ・五明拓弥、しずる・村上純
【料金】前売3,000円/当日3,500円(税込・全席指定)