みなさん、すでに忘れつつあるかもしれませんが、2014年はメディアを中心に世間の話題をさらった「偽ベートーベン問題」というのがありました。まさしく世間が「聞いてないよ!」と突っ込みたくなる一大事件に発展したことにより、「ゴーストライター」という今まであまり表立って語られることのなかったキーワードが注目されることとなり、流行語大賞にまでノミネートされました。最近では、ゴーストを務めた新垣隆さんがあらゆるメディアで引っ張りだこになっていますね。 それに影響されたかどうなのか分かりませんが、っていうかたぶん間違いなく影響されていると思いますが、文字通り「ゴーストライター」というドラマが最近になって放送されたりもしました。 ところで、マンガの世界でも「ゴーストライターはありまぁす!」ということで、マンガの世界のゴーストライターを描いた作品をご紹介しましょう。その名も『コミックマスターJ』(少年画法社)。漫画界を……いや世界を崩壊させてしまうほどの恐るべき実力を持つ、伝説の漫画アシスタントを描いた作品です。 おいおい、伝説の漫画家じゃなくてアシスタントのマンガかよ……と思った方もいるかもしれません。しかし、ナメてもらっては困ります。『コミックマスターJ』はただの漫画アシスタントにあらず、究極のスーパーアシスタントなのです。 なにしろ、依頼料は1回500万円。ブラックジャック並みの高額報酬ですが、奇跡のスピードとあらゆるペンタッチを有する技術でどんな締め切り寸前の修羅場も切り抜ける、プロ中のプロなのです。 例えば漫画家が急病で倒れたり、失踪したり、入稿直前の原稿が火事で焼けたりしてもコミックマスターJが救ってくれるのです。どんなマンガ家の画のタッチも本物そっくりに再現でき、ストーリー作成からネームまでも超スピードで完璧にこなす、まさしく漫画界究極のゴーストライターでもあるのです。 主人公の「J」は、サングラスに全身白ずくめという現代のベートーベンとは真逆のスタイルですが、実力は本物です。真夏でも決して脱ぐことのないコートの下には、すべての漫画道具がそろっています! これはすごい。職務質問されたら一発アウトなレベルです。 そして一度描き始めれば、ほかのアシスタントを寄せ付けないほどの超スピード。周りのアシスタントがドン引きするほどの迫力で、どんなに締め切り直前でも完璧に間に合わせてくれます。 画のタッチも完璧。専属アシスタントでも本物と見分けがつかないレベルなのです。完璧な仕事っぷりで、単なるアシスタントを超えたゴーストとしての役割を果たすJですが、ただ単に500万円という金さえ積めば依頼できるわけではありません。Jが依頼を受ける作品には、条件があるのです。 それは「魂のある作品」でなければ依頼は受けない、ということです。逆にJが認めた作品であれば、たとえ500万円が払えなくても、依頼を受けてもらえる時があります。この辺は、なんかブラックジャックっぽいですね。 なので、Jが作品を読んで「いい作品です!」と言ったら、ほぼ間違いなく依頼を受けてもらえます。ただし、油断はできません。魂のある作品でも、本当に漫画家先生が追い詰められて原稿を落としそうではない時、まだ余裕がありそうだとJに見抜かれた場合は……。 「身を削り自らの全てを賭け限界を超えても、なおその前に締め切りが立ちはだかるときに私は引き受ける」 などと言われて、断ってしまうこともあります。Jが単なる報酬目当ての金の亡者ではなく、真にマンガを愛するプロフェッショナルであることがお分かりいただけるのではないでしょうか。 さて、そんなプロ中のプロであるコミックマスターJだからこそ、作品中で数々の名言を残しています。漫画界を震撼させるような、強烈な名ゼリフの数々をご紹介しましょう。 「漫画はつねにジャパニーズドリームでなければならない!」 「漫画大国日本で漫画を読めぬ奴は死ねっ」 「どんなに倫理に反していようが、漫画を守るためならどんな者にでもなる。鬼にも悪魔にでもな!」 「紙とペンしかない以上、自分を信じて描くしかない」 「夢であろうが現実でなかろうが、原稿を上げるのが先だ!」 「ギリギリだったな、命も原稿も」 「一家を養うための漫画など必要ないっ」 「逃げられなくなった漫画家達は闘うしかない、漫画という武器でな!」 「一流の漫画家ならば…原稿上げてから病気になれ!!!」 こんな感じで、行き詰まって弱気になった漫画家先生たちに、超厳しい気合を入れます。中にはどう考えても、物理的に無理なこと含まれてますが……。 もちろん、単なる漫画アシスタントが先生に向かってこんなこと言ったら大変なことになりますが、スーパーアシスタントJであれば許されるのです。なぜなら彼は……あらゆる漫画家を超越する存在だから。アシスタントなのに! そんなに実力がある男がなぜアシスタントに甘んじているのか、自分の作品を出せばいいじゃないか! 皆さん当然そう思うことでしょう。そう、Jが自分の作品を世に出さない理由……それが、本作品の隠されたテーマでもあります。実は、Jが一度自分のマンガを描けば、その作品がすごすぎて世界が崩壊してしまうのです! J自身、それが分かっているから自分の作品を世に出せない……そんな苦悩と日々闘い続けているのです。 ちなみに作品の最終章では、Jが自作を世に出してしまった結果、本当に世界大戦が巻き起こり、崩壊してしまった後の世界が描かれています。それはもはや北斗の拳的な暴力が支配する世の中であり、マンガに関わる者を抹殺しようとするカルト組織が世の中を支配する、『20世紀少年』的世界でもありました。 そしてこの終末世界から再び平和な世界を取り戻すべく、漫画家たちが立ち上がる……そんな壮大なストーリーになっています。世界を崩壊させるのも、取り戻すのも、漫画家たちの役目。この世は、漫画家を中心に回っているのです。全然知りませんでしたね。 というわけで、今回は伝説のゴーストライターマンガ『コミックマスターJ』をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。作中では、ここでご紹介しきれないほどのマンガ名言の数々や、超リアルな漫画家の現場エピソードなどもお楽しみいただけます。とにかくゴーストライターを決して侮ってはいけないのです。ひとたびゴーストライターが本気を出したら、世界を滅ぼしてしまうこともあるかもしれません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)『コミックマスターJ』(少年画法社)
「474」タグアーカイブ
理解できたらヤバい!? 『東京都北区赤羽』清野とおるが描く、狂気の創作『ガードレールと少女』
みなさんは『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン)、そしてその続編『ウヒョッ!東京都北区赤羽』(双葉社)という作品をご存じでしょうか? 僕はこの一連の作品を読んだ時、「赤羽! そういうのもあるのか!!」と、まるで初めて『孤独のグルメ』(扶桑社)を読んだ時と同じような衝撃を受け、それ以来すっかり北区赤羽シリーズの虜になっています。 『東京都北区赤羽』および『ウヒョッ!東京都北区赤羽』は、東京の人以外あまりなじみのない、そして東京の人でも誰もが知ってるというほどの知名度でもない「赤羽」という土地にスポットを当て、赤羽に出てくる変な人や変な店、変なスポットなどを清野とおる先生が面白おかしく紹介しているノンフィクション・エッセイマンガです。もともとカルト的な人気を誇っていた作品ですが、今年1月、山田孝之さん主演のドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)が放送されたことで、いよいよメインストリームに進出してきた感があります。赤羽の地価にもさぞや影響を与えていることでしょう。 ところで、作者の清野先生は、かつてこの日刊サイゾーでも「キ○チ○ガ○イと呼ばないで」という、やたらウ○コの話が出てくる文字通りキチxxな連載をされておりました。これがまためちゃくちゃ面白いコラムで、赤羽に限らずあらゆるノンフィクションな題材を面白く仕上げることができる天賦の才を発揮しています。 しかし『東京都北区赤羽』シリーズをはじめ、『Love & Peace~清野とおるのフツウの日々~』『清野とおるのデス散歩』(共に白泉社)などの一連の清野作品を読んでいて、常に感じていたのは、一見おバカなギャグの中に、ある種の狂気ともいえる、読んでいて背筋がゾクゾクとする「何か」が見え隠れしていることでした。 その清野先生の見え隠れしていた「狂気」の部分を凝縮した作品といえるのが、『ガードレールと少女 清野とおるマンガ短変集』(彩図社)です。この単行本は『東京都北区赤羽』のようなノンフィクションではなく完全なる創作マンガ集で、清野先生が描くかわいらしい画の上に、まったく理解不能なナンセンスギャグと、失禁しそうなほどの狂気が惜しみなく散りばめられており、ほとんどの読者が置いてけぼりにされる「読み手を試しているマンガ」と言えるでしょう。 この『ガードレールと少女』がいかに狂気に満ちているか、その内容を一部ご紹介しましょう(※ネタバレあり)。 ・「ま」 道路に書かれている「止まれ」の「ま」の部分だけを盗んで食べる女子高生の話。「ま」だけでなくカタカナの「止マレ」の「マ」を盗んで食べてみたら、あまりのおいしさにハマってしまい、日本中にあるすべての「止マレ」の「マ」を盗みつくすようになる。……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういう内容のマンガなのです。 ・「曲がれない男」 就職活動中に曲がり角を曲がったらカッパに火をふかれて全身火傷し、髪もアフロのようになってしまったトラウマで、曲がり角が怖くて曲がれなくなった男の話。男のお母さんが息子のトラウマを解消しようと、曲がり角に全裸の美女を設置。電信柱でポールダンスをしながら美女が男にこう語りかけるのです。「SHALL WE SEX?」…ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういう内容のマンガなのです。 ・「ロフトの上の人」 賃貸の1LDKマンションを契約してみたら、LDKの「D(ダイニング)」がない物件だった。詐欺じゃないか、騙された! と怒る男。よく見ると、部屋のロフトの上に誰かいる……その男は、実はドッペルゲンガー(もうひとりの自分)だった。なーんだ、LDKの「D」ってドッペルゲンガーのことだったんだ!……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういう内容のマンガなのです。 ・「私のケサランパサラン」 友達の幸代に、手に入れると願いがかなうケサランパサランの都市伝説を教えてもらった由美子。偶然、ケサランパサランを手に入れ、憧れの「先輩と仲良くなれますように」と願う。そして、トラックにはねられそうになったところを憧れの先輩に助けてもらい、急激に2人の仲は親密に……ケサランパサランの噂は本当だったんだ! ・「地獄のケサランパサラン」 ケサランパサランによって由美子と先輩が仲良くなるのを、物陰から見ていた幸代。憧れていた先輩を由美子に奪われ、怒り狂った幸代はケサランパサランにお願いします。「由美子に恐怖を与えたまえ!!!」すると、ケサランパサランはドス黒く変色。黒くてフサフサの謎のバケモノが由美子に襲いかかる……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういう二部構成のマンガなのです。 ・「富士子」 道路を走るカップルの車。道には「危ない!!!子供の飛び出しには注意しましょう。」の看板が。と同時にライフルで武装した小学生ギャングたちが現れ、カップルの車を襲い、男はボコボコに、女はさらわれてしまいます。そう、看板の本当の意味は「『危ない子供』の飛び出しには注意しましょう」だったのでした。ちなみにさらわれた女の名前が富士子です。……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういうマンガなのです。 ・『ガードレールと少女』 少女の家は急な曲がり角の先にあるため、車がしょっちゅう家に突っ込んでくる。家の前に設けられたガードレールはその度に家や命を守ってくれた。父親が浮気をして母が家を飛び出した時も、母がガードレールにつまずいて転んだおかげで家出にならず、夫婦仲が修復された。そんな数々の恩があるガードレールが、度重なるダメージと老朽化で壊れる寸前に……。 今度は私がガードレールをガードする番! そして、少女はガードレールに突っ込んでくるバイクや車や大型バスや脱線した新幹線からガードレールを守るのだった。……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういうマンガなのです。 ちなみに対談企画も収録されており、『東京都北区赤羽』でも登場するコワモテおじさん、ジョージさんとの対談では、ジョージさんがグウの音も出ないレベルの的確な指摘をします。 「こりゃ駄目だな。売れる要素がねえ」 「まず絵がダメだ。薄気味悪くてとっつきにくい。それに何より、話の意味がサッパリ分からねえ。こういうジャンルを不条理っていうのかもしんねえけど、不条理は博打みてえなもんだな。一部のマニアが喜ぶだけで、大衆ウケなんてまずしねえ。売れたきゃこの作風から足を洗え」 はい……メチャクチャ正論です。ただしフォローさせていただくなら、大衆ウケしないというだけで、清野とおる流の高品質なナンセンスギャグがてんこ盛り。分かる人には分かる(ただし分からない人には一生分からない)そういう読者を選ぶ作品がこの『ガードレールと少女』なのです。僕は好きですこの作品集。自分が相当オカシイだけなのかもしれないけど。 ……で、偶然にもそんな『ガードレールと少女』の清野先生の表紙イラストで、偶然にも『ガードレールと少女』を出版した彩図社から、僕のマンガコラム本「このマンガ恐るべし…!!」が4月28日に発売されるのです。……ちょっと何言ってんだかわからない、とかスルーせず、書店で見かけた際には手にとっていただけますよう、よろしくお願いいたします! (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)『ガードレールと少女 清野とおるマンガ短変集』(彩図社)
こんな刑事はイヤだ!! 恐るべき方法で事件を解決する「特殊スキル刑事マンガ」特集
『めしばな刑事タチバナ』というマンガをご存じでしょうか? 立ち食いそば・マイナー牛丼チェーン・カップ焼きそば・ポテトチップス等のB級グルメに異常なこだわりとウンチクを持つタチバナ刑事が、取り調べで容疑者に対し、ガチな「めしばな」をしてB級グルメワールドに引き込み、気がついたら容疑者が自白してしまっているというマンガです。手荒な取り調べはせずに、ほんわかムードで事件が解決します。 世間にはグルメマンガとして認識されている作品ですが、刑事マンガの観点で見ると、これほど異例な存在はありません。実は、今回はこういった一風変わった能力で事件を解決する、特殊スキルを持つ刑事マンガをご紹介したいと思います。 特殊スキル刑事マンガの起源は、『スケバン刑事』にさかのぼります。初代・斉藤由貴、二代目・南野陽子、三代目・浅香唯、四代目・松浦亜弥と、まるで歌舞伎役者のごとく「麻宮サキ」のコードネームを襲名させるドラマシリーズが有名ですが、実のところ原作は「花とゆめ」(白泉社)に連載されていた少女マンガです。「スケバン」+「刑事」という意外性がありすぎるキーワードの組み合わせ、「刑事」と書いて当然のように「デカ」と読ませる語呂のセンスの良さ。銃の代わりにヨーヨーを武器として使うという意味不明なこだわり、あらゆる要素が奇跡的に絡み合った、まさに元祖特殊スキル刑事マンガといえましょう。 では、そのほかに、いったいどんな特殊スキルを持った刑事がいるのでしょうか? ■『占い刑事』(著:桑沢篤夫/ヤングジャンプコミックス)
その名の通り、占い師兼刑事の男が主人公のマンガで、易学の知識で難事件をバンバン解決します。主人公・城戸我宝(きどがほう)は、警察署内にいる時も易者スタイル。誰が見ても、一目で占い師とわかります。むしろ、刑事だとわかる要素はゼロです。 張り込みの際には趣味と実益を兼ねて、町の占い師に扮して張り込みます。しかも、よく当たるという評判で、行列までできてしまいます。もはや、張り込みどころではありません。 取り調べでは、容疑者への聴取そっちのけでいきなり四柱推命占いを開始。続いて姓名判断で画数判断、そして手相……と占いのフルコース。どうやら容疑者の今日の運勢は、最悪の模様です。そりゃそうだろ、捕まって取り調べ受けてるんだから。 次々と容疑者に繰り出される占いがこどごとく的中するため、容疑者のメンタルがかなり揺さぶられます。最後に人相占いをしたところ、女運も最悪でした。ついに観念した容疑者は、女性関係のトラブルが元で金銭を奪ったことを自白してしまうのです。……これこそが、占い刑事の取り調べ術。威圧的な態度も取らず、暴力も使わず……それどころか、証拠さえも必要ありません。ただ占うだけで容疑者を落としてしまうこの能力、まさにスーパー刑事ですね。 ■『キッテデカ』(著:寺沢大介/ビッグコミックス)
これまた文字通り、切手マニアな刑事のマンガです。主人公・前島郵雅(まえじまゆうが)は、署内ではいつも切手のコレクションを眺めているだけのグーダラ刑事ですが、切手はもとより郵便に関する知識がものすごく、証拠品で切手や郵便物が押収されると、それを手がかりにほぼ100%難事件を解決してしまうという、特殊スキルを持った刑事です。 ……いやいや、切手が絡んだ事件なんて、そうそう都合よく発生するわけないだろ! と思う方もいるかもしれませんが、これが大変不思議なことに、ストーリー上の不自然さはまったくなく、頻繁に切手絡みの事件が発生するのです。マンガの世界を甘く見てはいけません。 <事例1> 連続窃盗団が盗んだ盗品の中に、1枚の手紙がありました。手紙に貼ってあった切手は、高価な「見返り美人」。この切手を手がかりに、キッテデカが全国の切手商ネットワークへ連絡。「見返り美人」を切手商に売りに来た人間を指名手配し、まんまと窃盗団を芋づる式に逮捕します。 <事例2> 新宿区で身元不明の老人の誘拐され、老人の物とみられるプレミア切手「月に雁」を綴じたアクセサリーが発見されました。この「月に雁」切手の消印日が特殊であったことから、キッテデカがその切手の消印を押した西新宿の郵便局員に聞き込みを行ったところ、老人の身元が判明。その老人を脅していた地上げ屋の強制捜査で、見事老人は救出されたのでした。 そんな感じの、どう考えても普通の人では分かりかねるディープな郵便知識を駆使し、毎回、難事件をバリバリ解決。しかもその過程で…… 「歴代の前島密1円切手の見分け方」 「切手の印刷時に異物が付着して汚れた状態で印刷されたエラー切手を“定常変種”と呼ぶ」「切手の裏糊はポリビニールアルコール製で、微かに甘味があり、身体には無害」 などなど、刑事マンガを読んでいると思ったら、いつの間にか興味のない人にはまったくどうでもいい、切手についてのマニアックなウンチクが身についてしまうという恐るべき作品です。 ■『胸キュン刑事』(著:遠山光/少年マガジンコミックス)
作者は遠山光先生です。遠山光先生の代表作といえば、ほかにも『ハートキャッチいずみちゃん』があります。どちらも少年マンガの枠の中でエロ表現のチキンレースを行う、いわゆる「寸止めエッチマンガ」で、多くの小中学生たちをイライラムラムラさせてきました。 主人公は音羽署捜査一課に配属された新人女刑事「皇くるみ」(すめらぎくるみ)です。くるみが生まれつき自分に備わっているある超能力を駆使して難事件を解決していくというストーリーなのですが、その超能力がスゴいのです。 なんと、犯罪者が近くにいると、乳首がピーンと反応するのです。しかも的中率は100%、警察犬よりも優秀です。つまり、もうお分かりですね……? 犯人を見つけると胸の乳首がピーンと立つから、『胸キュン刑事』なのです! ストーリーの定番は、容疑者に「胸キュン」したくるみが、おとり捜査を敢行。色仕掛けで容疑者に接触し、犯罪のしっぽをつかみます。ところが、途中でおとり捜査がバレて、くるみは拉致。服を脱がされ、“このままじゃ、ヤラれちゃう!”というところで張り込んでいた同僚の刑事が乗り込み、犯人を現行犯逮捕。一件落着、めでたしめでたし。 一方で、くるみが脱がされるシーンでムラムラさせられた挙げ句、寸止めを食らった小中学生読者は全然めでたくない。というのが、毎回のお約束となっています。 ■『大相撲刑事』(著:ガチョン太朗/ジャンプコミックス)
こちらもタイトルがそのまま内容を物語っていますが、相撲取りの格好をした刑事が主人公のマンガです。本作品は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載され、そのあまりにブッ飛んだ設定と、インパクトの強すぎる絵柄と、常に滑り気味のギャグセンスで、10週打ち切りとなりながらも、多くのジャンプ読者に「伝説の打ち切りマンガ」と評されました。打ち切りになってなお人々の記憶に残る、ある意味で稀有なマンガです。 主人公「大関」の経歴は元FBI捜査官という輝かしいものですが、普段からチョンマゲにまわし一丁の姿という、刑事のくせにいつ職務質問されてもおかしくない姿をしています。さらに、なぜ普段から力士の格好をしているかについては一切説明がありません。 短気で、破天荒かつ感情的であり、バイオレンス。国際線のファーストクラスに土俵を持ち込んで座ったり、取り調べ時の食事でチャンコを頼まなかった犯人にブチ切れたり(普通、頼まないだろ……)、犯人を張り手でブッ叩こうとして、勢い余って警察署の壁を張り手で破壊するという、北斗の拳のラオウも真っ青の壁ドンの威力を持ちます。 どんな凶悪犯罪でも相撲の力技で解決してしまう凄腕刑事なのですが、このマンガでは悪党を改心させるためのお約束のネタがあります。 「明日までにレポート300枚書いてこい! タイトルは、エレキギターと鼻毛切りについてだ!!」 「え、それを書くと罪が軽くなるんスか?」 「ならん!!!」 これが、大相撲刑事の定番ギャグです。悪党に無茶なテーマと無茶な枚数のレポートを課し、でもそれをやったところで一切メリットはないという……。ちなみに、ほかのレポートのテーマも「木工用ボンドと登校拒否について」とか「アイドルと北方領土」とか、ひどいのばかりです。 ■『ちんぽ刑事』(著:丘咲賢作/アッパーズKC)
文字通り、ちんぽがデカい刑事が主人公のマンガ。内容はないに等しく、「ちんぽデカッ!」って言いだけのギャグマンガです。 *** というわけで、後半に行くに従って特殊スキルでもなんでもなかった気もするわけですが、とにかく刑事マンガはあまりに作品数が多すぎて、もはや平凡な設定の刑事マンガでは目立つことができません。エッジの立ったキャラクターの刑事が登場しなければ、差別化できない状況となっているのです。 きっと今後も、より過激で誰も思いもつかないような特殊スキルを持った刑事が登場することになるのでしょうね。ちなみに最近は、未読の『ボディコン刑事』『火星人刑事』あたりがどんな作品なのか気になってます。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)
矢沢永吉『成りあがり』のマンガ版が、原作以上にロックしすぎて“ルイジアンナ”な件
みなさんは、永ちゃんこと矢沢永吉の自伝『成りあがり』(角川書店)を読んだことはありますでしょうか? 永ちゃんの少年時代や青年時代の超貧乏な苦労話に始まり、伝説のバンド「キャロル」の結成から解散までの秘話、そしてソロミュージシャン矢沢永吉として成功する、文字通りロック界のスーパースターの成りあがりの過程が書かれています。 これは幾多のタレント自伝の中でも傑作と言わざるを得ない作品で、永ちゃん独特の「アイラブユーOK」な口調から繰り出される数多くの名言があらゆる世代の心を打つ自伝であり、悩める男たちへの熱いエールであり、ビジネスマン向けの自己啓発本としても役に立つという、すごい名著なのです。 「家に金入れないでヘイベイビーとかって感覚、オレは嫌いなんだよ。ロックンローラーの資格ない」 「マジメなのよ、オレ。えらいマジメ。オレ。えらいマジメなの。結婚前提でどう?」 「バカはダメよ。バカはやめろと言いたい。まわりが迷惑するから。義務教育、ポイントだけ押さえて、あとはファッファッとしてればいい」 「ロックンロールはオレにとっちゃ空気みたいなものなんだから。息を吸って、吐き出せばもうロックンロールができあがってる」 (『成りあがり』より) などなど、ページをめくるたびにロックなノリの名言連発。自伝物によくある、いかにも“ゴーストライターが書いてます”みたいな小ギレイにまとまった文章じゃなくて、永ちゃんらしい、フィーリングが先行するこの感じが逆に新鮮で、普段本を読まないような人たちでも思わず最後まで読んでしまう、そんな不思議な魅力があります。 その名作『成りあがり』がマンガにもなっていたのは、ご存じでしょうか? 実は本作は過去に2回、マンガ化されています。1度目は1993年、2度目は2008年で、どちらも『成りあがり』を原作としながら、とても同じものとは思えない、まったく別のマンガとなっています。今回は、この2つのマンガ版『成りあがり』をご紹介したいと思います。『成りあがり』(角川書店)
■コミック版『成りあがり』(作画:江原良道/風雅書房) 93年に発刊されたコミック版『成りあがり』のストーリーは、原作の時系列に沿って忠実に描かれており、原作の細かいセリフの言い回しや解説についても、マンガでありながら相当細部まで再現。名著のコミカライズとしてかなり気を使って描かれているのが感じられます。 そういう意味では非常に自伝マンガらしい構成なのですが、一方で画についてはまさかのギャグテイストでブッ飛んでいます。幼少期、広島時代の永ちゃんは新聞の4コマ漫画に出てきそうなガキンチョで、コボちゃんやサンワリ君あたりを想起させる画のタッチなのですが、純然たるキッズでありながら、なぜか磯野波平のように両サイドの髪を残して頭頂部がスッカスカという非常にかわいそうなルックスで描かれており、貧乏で苦労しているのがビンビンに伝わってきます。 高校生からバンドデビューするまでの永ちゃんは、頭頂部スカスカからフサフサへと無事トランスフォームしたものの、今度はなぜか西川きよし師匠かシンプソンズかというほどに、目玉が飛び出たギョロ目のキャラクターに変貌します。ところどころで普通にリアル永ちゃんの顔になるシーンがあるので、明らかに意図的にギョロ目キャラとして描いているのですが、その意図が全然わかりません。まあシンプソンズは、アメリカではロック色の強いアニメなので、ロックつながりといえばロックつながりですが……。 さらに驚かされるのが、女子キャラです。男子キャラが軒並みギョロ目のシンプソンズ状態なのに対し、女子キャラはなんと『きまぐれオレンジ☆ロード』を彷彿とさせる、昭和な香り漂う美少女です。永ちゃんの初体験のシーンでは、シンプソンズな永ちゃんがオレンジ☆ロードのひかるちゃんみたいな女子キャラとまぐわって、絶頂とともに富士山がドカーンと爆発するという、シュールな様子が描かれています。この世界観は、ちょっとほかに例えようがありません。 通常自伝マンガといえば、多少なりとも美化して描かれるものですが、この作品は完全にその真逆を行っています。あえてこのブッ飛んだキャラクターでの自伝をOKした永ちゃんの器のデカさが、実にロックであるといえます。
■『成りあがり 矢沢永吉物語』(作画:きたがわ翔/角川グループパブリッシング) 続いて08年、比較的新しめの『成りあがり』コミカライズ作品。こちらは、作画がきたがわ翔先生です。きたがわ翔先生といえば、『19(NINETEEN)』『B.B.フィッシュ』『ホットマン』等の作品でイケメン&美女が多数登場しまくっていますので、この時点で永ちゃんがきっちり美麗イケメンに描かれることは確定路線であり、安心して読むことができる自伝作品であるかのように思われました。 しかし、この『成りあがり 矢沢永吉物語』は、別の意味で壮絶にロックしていました。なにしろこのタイトルですから、普通に考えれば誰もが主人公は永ちゃんだと考えるところですが、実は違うのです。この作品の主人公は「内田忠志」なる、仕事に疲れたサラリーマンなのです。……誰だよ、お前。 忠志の父・平太は熱狂的な永ちゃんファンであり、忠志は子どもの頃から父親・平太に永ちゃんのコンサートに連れて行ってもらっていました。しかし思春期、反抗期となりだんだんと疎遠になってしまい、大人になった今はすっかり話さなくなってしまったのでした。 そんな忠志に、実家からの一本の電話が……。父・平太が病気で亡くなったのです。実家に戻り、父親の形見である永ちゃんのライブビデオや『成りあがり』を発見。忠志が父の遺した『成りあがり』を読み進めるのに合わせて『成りあがり』のシーンがマンガで描かれていくという、非常に凝った構成になっています。 つまり主人公の忠志、父の平太、そして永ちゃんという3人のキーパーソンが作品中に存在し、しかも途中で平太が永ちゃんに影響されてこっそり書いていた手書きの自叙伝『裏・成りあがり』が遺品として見つかるくだりでは、平太の少年・青年時代の回想シーンにさかのぼります。さかのぼったと思ったら現代の忠志の時代に戻ってみたり、今度は永ちゃんのバンド結成時代へ場面転換してみたり……。ちょっとした、バック・トゥ・ザ・フューチャー状態です。 さらにややこしいのは、主人公の忠志、若かりし頃の平太、若かりし頃の永ちゃん……3人とも、きたがわ先生らしいスッキリしょうゆ顔のイケメンとして描かれており、今読んでいるのが3人のうち一体誰の話なのか、だんだんわからなくなってきます。単なる自伝コミカライズにとどまらないこの複雑なギミックこそ、まさにロック……。ロックはロックでも、プログレッシブ・ロック寄りですけど。とにかくナメてかかるとノックアウトされる、ハンパな自伝じゃなかったのです。 *** というわけで名著『成りあがり』と、そのコミカライズ作品を2作品ご紹介しました。マンガ版はどちらも原作を読んだ後なら超絶楽しめること請け合いであり、逆に原作を読んでなければ、あまりのファンキーモンキーベイビーすぎる展開にお口ポカーンになってしまう可能性がありますが、日本人男子ならば3冊とも必読の作品であることは言うまでもありません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)
オトナ男子に読んでほしい、禁断の“変態少女マンガ” 岡田あーみん3部作のススメ
岡田あーみんという少女漫画家をご存じでしょうか? 現在30代の女性であれば知っている人は多いかもしれませんが、サイゾーの中心読者層である男性陣は意外と知らないかもしれませんね。
あーみん先生は1983年にデビューし、集英社の少女マンガ誌「りぼん」に『お父さんは心配症』『こいつら100%伝説』『ルナティック雑技団』という、いわゆるあーみん三部作を連載。カリスマ的人気を誇った後、忽然とマンガ界から消えてしまった伝説の漫画家です。『お父さんは心配症』連載当時は、同じ「りぼん」の『ちびまる子ちゃん』と共に2大少女ギャグマンガとして君臨し、その後、テレビドラマ化されるほどの人気を誇りました。
そんなあーみん先生の作風は「少女漫画家界に咲くドクダミの花」と呼ばれており、今までの少女マンガとは一線を画した、奇行癖を持つ変態キャラたちが猛スピードで意味不明なギャグを繰り出し続けるという内容で、王道的ラブコメ路線に慣れていた当時のりぼん読者の度肝を抜きました。
岡田作品はいたいけな乙女たちの少女マンガ観を、いや、もしかしたらその後の人生観までをも根本から覆すパワーを持っていたんです。まだ10年そこそこしか生きていない少女の人生観を根底から変えるって、並大抵の事象じゃないですよね。
ちなみに変態といっても、ここでは性的な意味での変態を指しているのではありません。当時は、いわゆる奇行癖を持ったギャグマンガキャラクター全般を「変態」と呼ぶ傾向がありました。おそらくそのルーツは、新沢基栄先生の『3年奇面組』にあったと思われます。しかし、昔から多種多様なギャグマンガが存在していた少年マンガならまだしも、お目めキラキララブコメが主流の少女マンガ界に突如として変態キャラを登場させたことが、いかにすさまじいイノベーションであったか想像に難くありません。
では変態少女マンガに疎い、変態少女マンガ童貞なオトナ男子のあなたのために、伝説のあーみん3部作の見どころを、それぞれご紹介していきましょう。
主人公は、女子高生の典子の父、佐々木光太郎。典子がまだ幼い頃に妻と死別しており、男手ひとつで娘を育てているシングルファーザーです。この光太郎(通称パピィ)こそが、あーみん作品を特徴付ける変態キャラのルーツなのです。 典子には同級生の北野くんというボーイフレンドがおり、典子と北野くんの交際を心配性すぎる光太郎が、あらゆる手を使って妨害するというのがこの作品の基本ストーリーです。娘の異性交遊を心配するのは、父親としてごく当然の心理であるかのように思います。しかし、その妨害の仕方が想像を絶しており、今の時代なら家庭内ストーカー状態で接近禁止命令が出されてもおかしくないレベルなのです。 典子に対しては、電話を盗聴する、門限に30分遅れると警察に捜索願を出す、デートを尾行するなどは日常茶飯事。ボーイフレンド北野くんへの攻撃はこんなものでは済まされず、「北野」と書いたわら人形に五寸釘を打ち込む、斧で斬りつける、木に縛りつけて弓矢で狙う、バスガイドに女装して部活の合宿に潜入する、アパレル店員に変装しマネキンの足で殴る、背中を工事用ドリルで突き刺す……。 などなど、常に血しぶきが飛び交う容赦ない妨害工作が行われます。こうしてテキストで書くとまるでホラーマンガのようですが、もちろん完全なるギャグマンガです。しかし間違いなく、ある種の狂気も感じられます。このギャグと狂気の織り成すコンビネーションは大人が読んでもすさまじいと感じるので、子どもの頃にリアルタイムで読んでいた現在30~40代の女性には、さぞや強烈なエクスペリエンスだったことでしょう。『お父さんは心配症』
タイトルからは内容がまったく想像できませんが、忍者3人組が主人公のギャグマンガです。多少ラブコメ要素のあった『お父さんは心配症』に対して、設定を戦国時代の忍者物にしたためか、ギャグ方面がさらにレッドゾーン振り切ってる感じでキレッキレに研ぎ澄まされており、分かる人には超わかるが、理解できない人にはまったく理解できないギャグマンガの境地に入っている作品です。 ストーリーは白鳥城のお姫様・姫子を守る3人の見習い忍者と、そのお師匠様によるドタバタコメディです。3人の忍者は、クールだけど超自己中でサディスティックな極丸(きわまる)、ナルシストで奇抜な変態キャラの危脳丸(あぶのうまる)、かわいらしい見た目で意外とやってることがエグい満丸(まんまる)というキャラ付けがされています。 途中からテコ入れキャラ(?)としてなのか、「ターミネーター」なるデューク東郷顔の殺人サイボーグが突如レギュラーキャラとして参入します。戦国時代なのにターミネーターという、ストーリーの脈絡のなさも本作品のなんでもアリ具合を象徴しています。 変態ギャグの登場頻度は、前作の『お父さんは心配症』を上回るハイペースです。 「ハーフわき毛日本一」 「すみません、ぼくのおちちはおでこにあるんです」 「今日も元気に男好き!! はーっあっ!男好きったら男好き!!」 「要するにおまえがちちさわり魔か?」 「墓石だるま落とし、墓石ドミノ」 「マスター作ってくれよぉ、涙忘れるカステラ」 「鬼頭オパーリン」 ……等々、ここで字面だけ書いたところでさっぱり意味がわからないかと思いますが、かといって実際のコマを見たところでやっぱりよく意味がわからないという、奇妙奇天烈なギャグ三昧のマンガです。結局、何が100%なのかもよくわかりません。『こいつら100%伝説』
あーみん三部作の最終章となる『ルナティック雑技団』では突然、画のテイストがグレードアップして、まるで少女マンガのようになりますが、それはあくまで見た目だけ。やはり少女マンガの皮をかぶった、変態ギャグマンガでした。少女マンガ風の画柄で一瞬油断させられるだけ、逆にタチが悪いです。 本作品のヒロインは星野夢実。両親が海外出張となったために、父の部下である天湖(てんこ)家に下宿することになります。 天湖家には、夢実が通う学園のプリンスであり、孤高の貴公子といわれるスーパーイケメン、天湖森夜(もりや)が住んでおり、憧れの森夜と夢実による一つ屋根の下のあま~いラブコメディになる……かと思われたところが、岡田作品にそんな少女マンガの一般常識は通用しません。 そこに立ちはだかるのは、森夜の母親、ゆり子(通称:マダムゆり子)。この女こそ佐々木光太郎の女版であり、あーみん三部作の中でも群を抜くレベルの変態キャラなのです。 マダムゆり子は、溺愛する森夜と夢実がいい仲になるのを徹底的に妨害します。その一つ一つのセリフがまた狂気を帯びています。 「ご上司さまのご令嬢さまがこんな むさくるしい所にようこそ。わたくし天湖とつがいになっておりますゆり子でございます」 初めはこんなセリフで夢実を丁重に迎え入れるゆり子。まあ、この時点ですでに人として何かがおかしいセリフですが。夢実と森夜が接近しだすと、すぐにタガが外れたように狂気のセリフを連発。 「出てけーめぎつね このいら草でおいはらってやるー」 「思春期から発情期へ通じるけもの道をなんとかなんとか寸前で禁猟区よ!!」 「あの女は魔性の女…男をまどわす夢食い妖婦(バンプ) 少女の仮面の下は獣盛りの東洋毒婦」 「よくもうちの息子を そのイヤらしいひとさし指で なぶり いたぶり もてあそんでくれたわねェ」 ……仮にも、夫の上司の娘へ向けて話す言葉とは到底考えられないレベルです。もちろんマダムゆり子のほかにも、 「学校なんかやめちゃってデカダン酔いしれ暮らさないか、白い壁に『堕天使』って書いて!?」 みたいな「特攻の拓」もビックリの中二病あふれるイカしたセリフを吐く愛咲ルイや、 「その生意気なセーラー服と大人を軽蔑しきった白いソックスがどんなに私をイライラムラムラさせているかわかってらっしゃいますか お嬢様」 ……みたいなセリフで、ダンディなルックスながら下ネタを連発する執事・黒川など、魅力的な変態キャラが多数登場します。変態キャラ選手層の厚さではV9時代の読売巨人軍に匹敵するレベルのマンガなのですが、圧倒的な妖気を漂わせる変態主婦、マダムゆり子こそがやはり最強であると主張しておきます。 *** というわけで、一部の女子にカルト的な人気を誇る岡田あーみん三部作の見どころを、オトナ男子目線でご紹介しました。 私見ではありますが、オトナ男子が初めてあーみんワールドに触れるなら、やはり一見少女マンガ風でおとなしめの『ルナティック雑技団』から読んでみることをオススメします。この作品で少し慣らし運転してから、よりディープで危険な香りのする『こいつら100%伝説』『お父さんは心配症』へと読み進めていくことで、心身へのダメージを最小限にしつつ、変態少女マンガの世界にズブズブと入り込んでいくことができるでしょう。そして、あなたもいつしか、「あー民」と呼ばれるコアなファンになってしまうかもしれません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)『ルナティック雑技団』
イザという時のために覚えておきたい、お役立ち「仕置人マンガ」5作
日刊サイゾーの読者層って、どんな人が多いのでしょうか? やっぱりサラリーマンが多いんでしょうか。それならば、話は早いです。人生の酸いも甘いも知っているサラリーマンなら誰しも、「コイツいつか殺(や)ってやる」なんて思ってしまうムカつくヤツが一人や二人、いるんじゃないかと思います。上司だとか取引先だとかね、あと生意気な後輩とかいけすかない同期とか、セクハラ扱いするOLとか……挙げればキリがないことでしょう。 そんな皆様のお役に立つのが「仕置人」。こんなご時世ですから、ムカつくヤツは仕置人に依頼してチャチャッと成敗してしまいたい……。というわけで、今回はイザという時のために覚えておきたい、お役立ち「仕置人マンガ」特集です。 そもそも「仕置人」ってなんだよ、という方も多いと思います。仕置人というのは文字通り「お仕置き」をする人たちのことで、時代劇ドラマの『必殺仕置人』に由来しています。仕置人も、金を払って依頼すればどんな相手も懲らしめてくれるタイプや、義憤にかられて法で裁けない悪をやっつけるタイプなどさまざまです。 では「仕置人マンガ」は、『ゴルゴ13』とか『シティーハンター』みたいなヒットマン、殺し屋マンガとはどう違うのかといえば、広義では同じジャンルといえるでしょう。ただし、仕置人のほうがもっと情緒的というか、敵の倒し方に美学があって、ヘンテコな技を使うのが特徴です。また昼間は料理人だったり、ソムリエだったり、アイドルだったりと、普通の職業に就いていることが多いため、タイトルが「夜の●●」とか「闇の●●」などとなりがちです。 ■『夜の料理人』(著:たがわ靖之/芳文社コミックス)
主人公は、新宿歌舞伎町でちょっと腕の立つ小料理屋を営む主人公の半次郎。しかし、その裏の稼業は、食えねえネタも料理する「夜の料理人」。法では裁けない小悪党共を、包丁一本で闇へ葬る仕置人なのです。決して、夜食を作る人ではありません。 お仕置きパターンはだいたい決まっており、小料理屋「半次郎」で常連客(たいていホステス)が、小悪党(たいていセクハラオヤジとかホスト)にひどい目に遭わされ困っていると愚痴っているシーンから始まります。半次郎がそれを聞いて激怒。「俺に任せな!」。そして、その夜「夜の料理人」に変身。小悪党を成敗してくれます。 ちなみに「夜の料理人」というだけあって、悪党を成敗するための技の数々に料理技法っぽい名前がついています。 「人間つぼ抜き」……悪党の口の中に長い棒を2本突き刺し、棒をグリッとひねることで内臓をグチャグチャにする、危険極まりない技。本来は魚の焼き物などで見た目を壊さずに内臓を抜き取る技ですが、その料理技法が悪党の成敗にも生きているというわけです。 「鯛の三枚おろし」……悪党の肩と腰と足の付け根の3カ所に空手チョップを食らわして関節を外し、文字通り三枚におろした状態で相手の身動きをとれなくする技。お魚同様、悪党の下ごしらえも完了だ! 「美女巻きずし」……色仕掛けで男をだまし自殺に追い込む極悪女は、ぬか漬けの状態にして、海苔巻きに仕上げます。巻いたまましばらく寝かせておくと、あら不思議! 自慢のナイスバディが漬物のようにシワシワに! もう悪事もできません。 クックパッドもビックリ! とんだシェフがいたものですね。 ■『シオン~闇のソムリエ~』(作:宮崎信二 画:内山まもる/ニチブンコミックス)
夜の料理人がいれば、闇のソムリエもいる……。ということで、お客様に「黒いワイン」を提供するソムリエのマンガが『シオン~闇のソムリエ~』です。 ソムリエの提供する黒いワインを飲めば、客の「黒い願い」がかなう――。そんなウワサがはびこる舞台は、これまた歌舞伎町です。どんだけ仕置人がいるんでしょうか、歌舞伎町という街は。依頼人から依頼を受けた闇のソムリエ「シオン」が、ソムリエナイフで悪党の喉笛をかっ切って暗殺。その血こそが、依頼人に提供する「黒いワイン」なのです。えらい物騒なワインですね。 注意したいのは依頼方法です。背後から近寄ってきた闇のソムリエ「シオン」に「ご注文は赤でございますか? 白でございますか? それともロゼで?」と聞かれたら、必ず「…黒(ノワール)を頼む」と答えなければなりません。 こんな茶番をこなして、ようやく依頼できるのです。しかし「シオン」が話し掛けている時に、決して後ろを振り向いてはいけません。振り向いた瞬間、必殺のソムリエナイフで喉笛をかっ切られます。すげー、めんどくさいルール。ちなみに、依頼料は1回100万円。破格ですね!(いろんな意味で) ■『闇のレオタード』(著:滝沢忍/ゴラク・コミックス)
仕置人業界は、意外と女性の比率が高いです。ウーマノミクスというやつでしょうか。新体操部の女子高生だって、お仕置きしちゃいます! 女子高生のお仕置きなら、むしろご褒美ではないのか? というMっ気の旺盛な読者もいるかもしれませんが、ナメてかかるとえらい目に遭いますよ。 主人公は、新体操部に所属する女子高生アリサ。夜は闇金融の社長とか、連続レイプ魔とか、悪徳商法の元締めとか、ボッタクリ風俗の店長などの、女の敵を懲らしめる女仕置人に変身します。変身後の格好はなんと、レオタードを着て額に星形のシールを貼っただけというシンプルなもの。普通に考えると素性がバレバレなようですが、そこはマンガなのでバレません。 武器は、先が矢尻のようなものでできていて殺傷能力バツグンの改造リボンや、素材が鋼鉄でできた改造こん棒です。いずれも、新体操部になくてはならないマストアイテムですよね。材質が普通じゃないですけど。 ちなみに、悪党を倒すときの決めゼリフは「この世から去世奈落(サヨナラ)しなっ!!」です。全然ご褒美じゃないですね。 ■『白衣のアマゾネス』(作:粕谷秀夫 画:いしわた周一/プレイコミックエクストラ)
仕置人マンガの場合、一人で果敢に悪に立ち向かうパターンが多いのですが、『白衣のアマゾネス』の場合は組織の力で悪を倒します。しかも、ただの組織じゃありません。屈強な女医と看護師たち……通称アマゾネス軍団です。 主人公は迦楼羅(かるら)クリニックの院長である女医、迦楼羅聖湖(かるらせいこ)。一度彼女の怒りに触れる悪党が見つかれば、夜には救急車に乗った屈強な白衣の看護師軍団が悪党のアジトに乗り込み、悪党をボッコボコに。ヤクザの組事務所も、一夜にして壊滅してしまいます。さらに、その後がすごい。 「あんたたちは私の病院に強制入院よ!!」 「治療費はあんたらの全財産! わかったわね!!」 ボコボコにされた悪党は、迦楼羅クリニックに強制入院の上、治療費として全財産が没収されるという、ものすごいビジネスモデルです(マッチポンプともいう)。このマンガを読むと、「白衣の天使」という言葉の概念が根本から覆されます。 ■『アイドルK』(作:工藤かずや 画:峰岸とおる/ぶんか社)
仕置人業界には、なんとアイドルもいます。昼間はテレビやラジオで引っ張りだこの人気女子高生アイドル鷲尾圭。しかし知られざる夜の顔は、法で裁けぬ悪を討つ謎の仕置人Kというこのマンガ。つまり、昼はアイカツ、夜はアイ殺(サツ)というわけなのです。ブラック企業顔負けのハードワークですね。 武器は、指ぬきグローブの中から飛び出す仕込み針。アクターズスクール仕込み(?)の素早い動きで一瞬にして悪党の額を貫き、絶命させます。握手会に行ったら刺されそうで怖いですね。 ちなみにKに依頼するには、「ボン・マリ」という喫茶店のマスターに、殺ってほしい相手とその事情を伝える必要があります。すると、鷲尾圭のマネジャー経由でアイドル仕置人Kが始動するというわけです。マネジャーまでグルっていうのもすごいですね。どんな事務所だよ。 *** というわけで、イザという時に依頼したい「仕置人マンガ」をご紹介してみましたが、いかがだったでしょうか? 劇画の世界では、仕置人設定のマンガは数え切れないほどたくさんあります。メジャーどころでは『ブラック・エンジェルズ』、このほかにも『“殺意”ドクター蘭丸』『女仕置人ゼブラ』『女お仕置き人M』などなど、探せばあなたのニーズにピッタリの仕置人がきっと見つかることでしょう! (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)
飯島愛が歴史を超えて大活躍! 幻のお色気ファンタジーマンガ『タイムトラベラー愛』
2008年に亡くなられた飯島愛さん。ご存じの通り、AV出身のタレントとして最も成功した一人です。現在もブログにファンのコメントが投稿され続けるなど、そのカリスマ性は色あせません。 テレビタレントとしてバラエティ番組にひっぱりだこだった時代の飯島さんはAV出演歴を公にしたがらなかったようですが、自伝『プラトニック・セックス』(小学館)ではあらためてカミングアウトしています。 実は、そんな飯島さんが主人公のマンガがかつて存在していました。その名も『タイムトラベラー愛』という作品です。学研から発売されていた漫画誌「コミックガイズ」に連載され、単行本全3巻が刊行されています。ちなみに「コミックガイズ」のキャッチフレーズは「男が発火するコミック誌!!」でした。「科学と学習」の学研とは思えない、煽り方ですね。 内容は、飯島さんが過去へ未来へとタイムトラベルをするという、タレントマンガとしては異例のファンタジー路線です。しかも、AV女優からタレントへの転身期に当たる1994年の作品ということで、セクシー度も全開の内容になっています。 ストーリーをご紹介しましょう。人気絶頂のアイドル、愛ちゃんが、海でのグラビア撮影中にマネジャー見習いの梅原、カメラマン助手の竹中、新米編集の松田という松竹梅トリオとともに洞窟内に迷い込み、UFOのような形の石像に不思議なネックレスがかかっているのを発見。愛ちゃんは大喜びでそのネックレスを首にかけるのですが、実はそのネックレスは、誘淫パワーで周囲の男たちを悶々とさせる魔力を持っており、愛ちゃんがエクスタシーを感じるとタイムトラベルしてしまうという、ものすごい代物なのでした。エクスタシーでタイムトラベル、すごくダイナミックな設定ですね。 ネックレスの力により発情モードになった松竹梅トリオに襲われ、エクスタシーを感じちゃった愛ちゃんは、松竹梅もろとも古代エジプトにタイムトラベル。そこにはなんと……絶世の美女クレオパトラがいたのでした。 「えーまだ処女なのーっ!?」などと、クレオパトラと女子会のようなトークを交わす愛ちゃん。実にほのぼのしたシーンです。クレオパトラって、女王なのにとっても気さくな人なんですね。そんなクレオパトラに求婚するも、相手にされず悩んでいる男がいました。その名はジュリアス・シーザー。 クレオパトラに相手にされず落ち込むシーザーを、優しく励ます愛ちゃん。 「世界の王がそんなことでぴーぴー泣かないの! いざとなったらこの愛ちゃんが一肌脱いであげっから」 愛ちゃんが「ひと肌脱ぐ」って言うと、妙にリアルです。 慰められたシーザーは、すっかり愛ちゃんを気に入り、「クレオパトラの代わりに女王にならないか」と口説きます。それを聞いた愛ちゃん、突然シーザーを亀甲縛りした上、ムチで叩いたりローソク垂らしたり、犬のカッコをさせて靴をなめさせたりと大ハッスル。そうです、完全に女王様の意味を勘違いしています。ローマの英雄の亀甲縛り姿……歴史の教科書には載らないお宝ショットです。 最終的には、愛ちゃんとのペットプレイで犬にさせられた姿がカワイイということで、クレオパトラがシーザーに惚れ込み、2人は結ばれたのでした。そう、エジプトの歴史を作った恋のキューピッドは愛ちゃんだったのです。歴史の教科書では決して語られない真実が、ここにあります。 そうこうしているうちに、古代エジプトの民衆たちに取り囲まれ、襲われてしまう愛ちゃん。まあ、エジプト中をTバック姿で歩いてたら、そうなりますわな……。再びエクスタシーを感じて、タイムトラベルしてしまうのです。 その次にタイムトラベルしたのは、18世紀フランス革命の時代です。ナポレオンがイギリスの艦隊にビビッて負けを認める寸前だったのですが、愛ちゃんがナポレオンを煽って大砲を撃ち込ませたことにより、逆転勝利します。まさに勝利の女神。愛ちゃんがいなければ、フランス皇帝ナポレオンの存在はありませんでした。 ナポレオンとエッチした勢いで、再びタイムトラベルした愛ちゃん。次の舞台は13世紀のモンゴル。フビライ・ハンとマルコ・ポーロが活躍した時代です。ここでも愛ちゃんがいなければ黄金の国ジパングの発見や東方見聞録が生まれなかったとか、フビライが元寇で二度にわたって日本を攻めたのは愛ちゃんに会いたかったためだったとか、歴史に深刻な影響を与えまくっています。 16世紀のイタリアではレオナルド・ダ・ビンチが登場。実はモナリザのモデルは愛ちゃんだった! という衝撃の事実。確かに、モナリザって巨乳ですもんね。ルーブル美術館に飾られている絵が実は飯島愛だと思うと、胸が熱くなります。 この『タイムトラベラー愛』は三部構成になっており、単行本2巻では「セクシーパイレーツ編」ということで未来の世界にタイムトラベルします。温暖化により地球上のほとんどが海になってしまった世界で、『ワンピース』よろしく海賊たちとちょっとエッチな海上バトルを繰り広げます。 単行本3巻の「艶姿!ニンジャガール編」では再び過去にタイムトラベルし、徳川家康が天下統一を目指す戦国時代で、セクシーくノ一として活躍します。最終的には、まさかの飯島愛型巨大ロボットも登場し、ワケがわからない展開に。 というわけでいろんな意味で、伝説のタレントマンガ『タイムトラベラー愛』をご紹介しました。飯島さんいわく「『タイムボカン』シリーズにインスパイアされた作品」とのこと。確かに、タイムトラベルしまくってるあたりは『タイムボカン』シリーズぽいですが、露出度がドロンジョ様をゆうに超えているあたりは、さすが元Tバックの女王です。いかに、当時の飯島さんの人気が高かったかを象徴するような作品といえますね。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)『タイムトラベラー愛3 艶姿・ニンジャガール編』(GSガイズ)
黄泉の世界から蘇ったバブル広告マンが不況の日本をアツくする『ジェット上司』
消費税法改正による値上げ、円安による値上げ、牛丼が300円から380円に値上げ……値上げ値上げのアゲノミクスなニュースを聞くたびに、日本国民の悲痛な叫びが聞こえてきます。 しかしウン十円、ウン百円の値上げぐらい屁でもねえ、金ならいくらでもあるんだ! そんな豪気な日本人が闊歩する時代がありました。そう、1980年代後半から1990年代初頭にかけてのバブル景気の頃です。あの頃のアホみたいな明るさと空回り気味の元気こそ、憔悴し切った今の日本に必要なのではないでしょうか? 今回ご紹介するマンガ『ジェット上司』こそ、まさに混迷する不況日本における処方箋であり、バブル景気の頃の日本の、バカみたいな明るさを無理やり体感させてくれる劇薬ともいえる作品なのです。 『ジェット上司』の主人公は斉藤誠。大手広告代理店「弁通」の若手社員であり、CMクリエーターを目指す23歳の青年です。両親が他界したため、高校生の妹を一人で養っている頑張り屋でもあります。しかし、時は平成不況まっただ中、誠の勤める弁通も、業績は下降の一途をたどっている状況でした。大手クライアントであるアメリカ最大手のスーパーマーケットチェーン「ボルマート」の女社長には足元を見られて広告費を半額に値切られるなど、苦しい状況に追い込まれていました。 そんな中、突然ボルマートの女社長が絶叫します。 「オウ、クレイジー!?」 「オーマイガーッ!!」 女社長のパイオツを後ろから揉みしだきながら、豪快に登場したうさん臭いチョビヒゲ男。その名は「浅野W」。11年前に事故で死んだと思われていた伝説の広告マンが突如、現世に蘇ったのです。 実は、この男は伝説のスマイケル・ジャクソン湾岸100万人ライブを実現させたり、科学万博を企画してテーマパークブームの仕掛け人として活躍するなど、バブル絶頂期に弁通を業界トップに押し上げた男だったのです。 浅野Wに揉みしだかれた女社長は、なぜか「コノ不況下デモ日本ノ男ニコレダケ迫力ガアルナンテ見ナオシタヨ」「サッキノ宣伝戦略、予算倍増デタノムヨ」などと心変わり。浅野Wが登場して、いきなり弁通のピンチを救ったのでした。さすが、伝説の広告マンですね。女社長のほうも、パイオツ揉みしだかれて心変わりする意味がまったく分かりませんが、とにかくスゴい。これが、バブルが生み出すパワーなのです。 それにしても、「浅野W」って、あからさまに本名じゃなさそう、かつバブル臭漂う名前です。ちなみに、88年に放映されたトレンディドラマ『抱きしめたい!』(フジテレビ系)では浅野ゆう子と浅野温子の2大女優が主演を務め、「W浅野」というバブルを象徴する流行語を生み出しましたが、本作品とはまったく関係ありません。 華々しい復活を果たして浅野Wは、弁通に本格復帰。しかも、なぜか誠の上司になったのです。しかしこの浅野Wという男、思考回路が完全にバブルの頃で停止しており、セリフにいちいちバブル臭漂っています。 「よーし、今夜はみんなでジュリアナ行くかー!」 「俺の極秘プロジェクトで何億倍にもして返してやる!」 「日本を再び世界のトップに押し上げてやる!!」 「知らない女の乳を揉む時も上司の許可をとれーッ!」 さらに、自分の執務室に噴水を設置したり、キャバクラで毎晩数十万円使って経費で落とそうとしたり、CMタレントに「僕は死にましぇーん」とセリフを言わせたり、ランバダを踊らせたり……とにかくバブリーです。ランバダ、懐かしすぎますね。踊ったことある人にとっては、結構な黒歴史なんじゃないでしょうか。 そんな感じで奇跡の復活を果たしたものの、現代のセンスとズレまくった企画がことごとく失敗。社内からの信頼が揺るぎかけていたその時、ついに浅野Wが温めていた超極秘スーパープロジェクトが始動します。そのプロジェクトの内容とは、ズバリ…… 「サッカーワールドカップを日本に招聘すること」 ……そう、浅野Wは、02年にワールドカップが日韓共同開催されていたことを知らなかったのです。 極秘プロジェクトが勘違いで終わった上、膨大なプロジェクト費をほとんどキャバクラ通いで浪費、さらにスマイケル・ジャクソンの来日や科学万博もよく調べてみると、浅野Wの実績ではなかったことがバレ、浅野Wは弁通をリストラ。誠の家に居候として転がり込むことになります。 弁通をクビになってしまった浅野Wは、面接での横柄な態度が災いしてどこの会社にも再就職できず、自ら巨乳ウェイトレスだらけのラーメン屋「巨乳ラーメン浅野屋」開業を目指して近所のラーメン行列店「ラーメン伝説」にバイトとして弟子入りすることにします。そこからは完全にラーメン修業マンガになってしまいます。バブリーな広告代理店マンガだと思っていたら、実はラーメン起業マンガだったとは……。まさかの、斜め上の展開です。 浅野Wは「ラーメン伝説」弟子入り2日目にもかかわらず、独立したいからスープ作りを教えろと店長にすごんだり、女性客のパイオツを揉みしだいたり、店内で勝手に巨乳ウェイトレスオーディションを開いたりと、ムチャクチャな仕事ぶりで何度もクビになりかけますが、最終的には童貞だった店長を巨乳ギャルの色じかけで洗脳。巨乳ラーメンの開業にこぎつけます。それにしてもひどい……。マンガとはいえ、これほどひどい起業ストーリーはなかなかありませんね。 そんなテキトーすぎる巨乳ラーメン「浅野屋」が、まさかの大当たり。全国チェーン展開で浅野Wは社長として再びビジネスの世界に舞い戻ってきます。しかし、これからという矢先に再び事故に遭い、この世を去ってしまいます。 ラストシーンでは浅野Wが広告代理店時代の部下、誠へ一流のCMクリエーターになるためのメッセージを残します。それはズバリ…… 「巨乳を好きになれ!」 ……最後の最後まで、ムチャクチャな内容でした。 こんな感じで前半はバブル全開な広告代理店マンガ、後半はラーメン起業ストーリーとなっている作品ですが、前半後半とも巨乳推しなところだけは終始一貫しています。もしかしたら、日本の復興は巨乳ギャルにかかっているという、浅野Wからのメッセージなのかもしれません(違う気もするけど)。 というわけで、日本の景気回復を願って、バブル時代のいい意味でのアホっぽさ全開のマンガ『ジェット上司』を紹介してみました。ちなみに浅野Wの本名……つまりWと呼ばれる本当の理由が、ラーメン起業編で明らかにされています。ほぼ皆無だと思いますが、もし気になるという奇特な方がいらっしゃいましたら、一度作品を読んでみてはいかがでしょうか? きっと「そんなくっだらねー理由かよ!」「読んで損した!!」と言いたくなること請け合いです。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)『ジェット上司』(ながしま超助/双葉社)
このいじめがスゴい! 『聲の形』だけじゃない、壮絶「いじめマンガ」の世界
毎年、年末に宝島社から発売されるムック本「このマンガがすごい!」。ここで1位にランキングされるマンガは事実上、マンガ読みたちにその年最も面白いと評価されているマンガだといえます。 昨年末に発売された「このマンガがすごい!2015」では、オトコ編第1位が『聲(こえ)の形』、オンナ編第1位が『ちーちゃんはちょっと足りない』でした。 『聲の形』は、作品序盤の先天性聴覚障害を持つ女の子、西宮硝子をめぐる壮絶ないじめシーンがかなりインパクトのある作品です。主人公の石田将也やクラスメイトが、硝子が耳につけている補聴器を引きちぎったり、硝子がコミュニケーションを取るために持っている筆談ノートを池に投げ捨てたり……そして、池に沈んだノートをびしょ濡れになって探す硝子のかわいそうな姿。もちろんいじめのシーンだけではなく、その後の硝子と将也の意外な展開や感動的なラストシーンが評価されている作品でもあります。 ところで、衝撃的ないじめのシーンが掲載されているマンガは過去にもいくつか存在しています。今回はそんな「いじめマンガ」をご紹介しましょう。 ■『元気やでっ』(土屋守、次原隆二、山本純二/集英社)『聲の形』(大今良時/講談社)
この作品は、1995年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で掲載された、いじめをテーマとしたマンガです。当時「いじめ」が社会問題になっていたこと、実体験を元に描かれたリアルな内容だったこと、そして何よりも「ジャンプ」というメジャー誌に掲載されたことで多くの少年少女が目にすることになり、“伝説のいじめマンガ”と呼ばれるようになったのです。 舞台は中学校。おとなしそう、逆らわなさそうという理由でクラスメイトの女子グループにパシリにされていた少女、佐伯幸子(さっちん)。そんなさっちんが次第にパシリからいじめに遭うようになり、どんどんエスカレートしていくというもの。パシリといじめって、紙一重ですよね。非常によくありそうな構図です。 お茶にふりかけを入れられたり、上履きを水の入ったバケツに投げ込まれたり、生徒手帳は盗まれていたずら書きをされ、黒板には教師とホテルに行ったなどとあることないこと書かれ、学校を休んだら机の上に花瓶が置かれ……と、まさに王道いじめが炸裂します。 この作品は『わたしのいじめられ日記』(青弓社)という、実際の中学生のいじめの記録を元に描かれたマンガであり、内容の生々しさ、リアルさが読者の胸を締めつけます。生徒のいじめもさることながら、事なかれ主義でいじめを見て見ぬふりをする先生の態度も、いじめ問題の根深さを象徴しています。 作中に出てくる担任・上沼先生が、いじめられているさっちんに冷たく繰り出す「いじめフェイス」は、まさにいじめ界のクイーンといっても過言ではなく、顔面から漂うネガティブさがハンパじゃありません。一見の価値ありです。 ■『ライフ』(すえのぶけいこ/講談社)『元気やでっ』
いじめがテーマのマンガといえば、すえのぶけいこ先生の『ライフ』を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか? 単行本全20巻、07年に北乃きい主演でドラマ化もされています。 勉強苦手の主人公、椎葉歩(アユム)は親友で秀才の篠塚夕子(しーちゃん)と同じ高校に行きたいために頑張って受験勉強を始めたところ、成績が急上昇。志望校には自分だけ受かって親友のしーちゃんが落ちてしまうという最悪の展開になり、友情関係が崩壊。そのトラウマでリストカットを覚えてしまうという、冒頭からダウナーな展開のマンガです。 受験のトラウマを抱えつつ、孤独な高校生活を送っていた歩に声をかけてくれたクラスの中心的存在、安西愛海(マナ)と親友関係になり、明るい高校生活の兆しが見えてきます。しかし、彼氏命だったマナが彼氏に別れ話を切り出され、ショックで踏切自殺を図ってしまいます。歩によって事なきを得たものの、メンヘラモードに入ってしまったマナを助けようと、マナの彼氏にヨリを戻すように説得する歩。しかし、それが裏目となって、マナに寝取られ疑惑をかけられます。そして、親友だったはずのマナとその仲間グループから壮絶ないじめを受けることになってしまうという、やることなすこと裏目に出まくる女子高生、歩が卑劣ないじめに立ち向かっていくストーリーです。親友だと思っていた友達が、些細なきっかけで突然自分をいじめる敵に回ってしまう、これも人間関係の難しさですよね。 『ライフ』はいじめに立ち向かう少女がテーマのマンガで、女子特有の陰湿ないじめのシーンが、それはもう壮絶です。自殺未遂とかレイプとか、近年少女マンガでマストとなっている展開がしっかり盛り込まれております。 作中に出てくるリストカットシーンの多さが、また驚異的です。落ち込んだ時には迷わずリスカ、ちょっと気分転換にリスカ、三度の飯よりリスカ……。たまにリストカットをしてない時は、コンパスで手首を刺していたりと、とにかく手首がヤバい。思わず、手首をさすりながら読んでしまうマンガです。 ■『ミスミソウ』(押切蓮介/ぶんか社)『ライフ』
今回ご紹介するマンガの中でも、最も精神的にくる、後味の悪さがハンパないダウナー系いじめマンガの最右翼『ミスミソウ』。作者は『ハイスコアガール』でも有名な押切蓮介先生です。押切先生といえば、薄幸の美少女キャラを描かせたら当代一ですから、いじめがテーマのマンガを描くのは、ある意味、必然かもしれません。 主人公の野咲春花は父の転勤の都合で、過疎化が進行して廃校予定の大津馬中学校に転校してきました。しかし閉鎖的な環境で、都会からの転校生を受け入れられないクラスメイトから陰湿ないじめを受けるようになります。さらに、気が弱い担任の先生も生徒に逆らうことができず、学級崩壊状態へ。 初めは家族に心配をかけまいといじめの事実をひた隠しにする春花ですが、次第にエスカレートしていき、ついにはクラスメイトにより家に放火され、家族を失ってしまうという最悪の悲劇が訪れます。もはや、いじめとか言ってるレベルじゃない、超ヘヴィな展開です。 実際のところ、いじめのシーンはストーリー的には前フリ的な感じで、中盤以降は春花による残忍な復讐劇が中心となっており、殺人鬼となった春花無双な展開がメインとなっていきます。マンガのジャンル的にもサイコホラーという扱いなのですが、閉鎖社会におけるいじめ、家族への危害、そして新しいいじめの対象を生み出さなければ自分がいじめられるといういじめの多重構造を描いているという点では、いじめマンガとしても見逃せない部分があります。 ■『イジメをぶっ飛ばせ!!』(もとはしまさひで/共同プレス)『ミスミソウ』
いじめマンガの中でも最も異色といえるマンガが『イジメをぶっ飛ばせ!!』です。『ヤンキー烈風隊』『コンポラ先生』などのヤンキーマンガの大御所、もとはしまさひで先生が社会問題となっているいじめの実態に正面から挑んだ長編描き下ろし作品。97年の作品ですので、『元気やでっ』の2年後ぐらいに描かれています。 主人公の探偵・日乃本正義が、日本のいじめ問題の原因を探り、その解決法を提言するという内容。いじめマンガといえば、いじめられっ子の視点から描かれることが多い中で、異色の内容となっています。で、主人公の探偵・日乃本、ビックリするぐらい愛国心に満ちあふれた名前ですけど、見た目は完全にヤンキー。さすがもとはし先生。探偵だろうがなんだろうが、主人公はリーゼントでキメるのが基本のようです。ただ、どっちかというと、お前はルックス的にいじめてる側じゃないのかっていう……。 ツッパリ探偵がいじめ問題を解決するという設定はものすごくぶっ飛んでる感じがしますが、ストーリーはこういう感じです。日乃本の中学時代の後輩、永作が探偵の依頼に来ます。依頼内容は、息子が学校でいじめられているようなので調査してほしいというもの。そして、いじめの調査をするうちに、実は日本の社会構造がいじめを生み出しているということに気づいていきます。ズバリいじめの最大の原因は、日本の団塊世代にあるという衝撃の結論に! これは予想の斜め上の展開でした。 さらにイギリス、ノルウェー、スウェーデン等、諸外国におけるいじめ問題と日本のいじめ問題の比較、そして日本の教育制度改革に向けての提言。最後にはいじめ問題の舞台となった学校の教頭先生がブチ切れて爆弾発言。 「しつけもできてない……箸も持てないようなガキ供のめんどうを何から何まで見てられるか!!」 教師側の本音をぶちまけるいじめマンガというのも、ほかに類を見ないですね。 主人公のヤンキー探偵も「安心して子供を預けられる公立校を作ればイジメは消えるのです!!」など、要所要所ですごく良いこと言ってるのですが、どうしても、お前が言うな感が拭えないところがシュールです。ヤンキー探偵が力ずくでいじめを解決するマンガかと思っていたら、本格的すぎるいじめ研究・考察が始まって予想の斜め上を行く展開となる、ものすごいマンガです。 ■『いじめ』(五十嵐かおる/小学館)『イジメをぶっ飛ばせ!!』
最後にご紹介するのは、どストレートすぎるタイトルの『いじめ』という少女マンガです。この作品は「ちゃお」(小学館)で不定期連載されているもので、小中学校で起こるさまざまなケースのいじめが1話完結方式でマンガになっています。単行本も現在10冊出ており、『いじめ』の後につけられるサブタイトルがなかなか強烈です。 いじめ~ひとりぼっちの戦い~ いじめ~生き地獄からの脱出~ いじめ~見えない悪意~ いじめ~勇気をください~ いじめ~静かな監獄~ いじめ~叶わない望み~ いじめ~凍りついた教室~ 「生き地獄からの脱出」とか、「静かな監獄」とか……サスペンス映画のタイトルとしてそのまま使えそうなものばかりです。しかし、いじめを受けている本人からしたら、まさしくそのような心境なのでしょう。 『いじめ』シリーズは1話完結のため、実際に起こりそうないろいろなタイプのいじめがマンガとして紹介されていて、まさにいじめ事典といっても過言ではありません。 例えば、いじめられっ子を助けたら今度は自分がいじめられたり、部活でカッコいい先輩(男子)のお気に入りになった途端に部活内で露骨にいじめられたり、クラスメイトに万引きを強要されて拒否したらいじめられたりなどなど……確かに身近にありそうな事例ばかりです。ただしこのマンガは毎回、最後はいじめから立ち直ってハッピーエンドになるアッパー系いじめマンガなので、読後感がいいのが救いです。やっぱり小学生読者が多い「ちゃお」だけに、内容はポジティブじゃないといけないですよね。 また、脱いじめの啓蒙として単行本内にさまざまコラムがあって、これがまた実に必読な感じです。 「万引きは、とっても卑怯な犯罪だよ!」 「万引きに誘われたらはっきりと断ろう!」 など、万引きに誘われた時の断り方などもバッチリ載っています。知らないうちに誰かをいじめているかもしれない読者のための「いじめチェックシート」などもあります。こんなの全国民がやるべきですよね。そのほかにも、悩んでいるときの相談先として政府のいじめ相談ダイヤル、警視庁少年課や弁護士会の電話番号まで載っていて非常に実践的。まさに「本気の脱いじめマンガ」です。 *** というわけで、いじめマンガ特集いかがでしたでしょうか? ダウナー系からアッパー系、さらに斜め上の展開系まで、さまざまなタイプのものがあることが分かりますね。特に「ちゃお」の『いじめ』は、お子さんがいる家庭では、ぜひ読んでおいたほうがいいんじゃないでしょうか。 ちなみに、いじめマンガは連続して一気に読むと精神的にかなりダメージを食らうので、まとめ読みはしないほうがいいと思います。しばらく寝つきが悪くなりますよ。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)『いじめ』
「そんな偶然あるわけねーだろ!」突っ込まずにはいられない、伝説の超ご都合主義ラブコメ『くおん…』
「週刊少年ジャンプ」(集英社)の黄金期といえば諸説ありますが、一般的には1984年に発行部数が400万部を突破してから94年ごろまでといわれています。当時のヒット作の多くは、いわゆるジャンプ三原則といわれる「友情・努力・勝利」の方程式に則ったものが多く、このルールに反する作品は比較的短命になる傾向にありました。 このルールを適用しづらいラブコメは、ジャンプにおいて最も生き残ることが難しいカテゴリーだったのです。『きまぐれオレンジ☆ロード』は、ジャンプのラブコメの中では大ヒット作といえますが、主人公が超能力を使える+ちょっとエッチ、という、ある意味“ジャンプらしいギミック”が際立つラブコメ作品であったこともまた事実です。 そして時は86年。『北斗の拳』『ドラゴンボール』『キャプテン翼』『キン肉マン』『魁!!男塾』『聖闘士星矢』『シティーハンター』といったジャンプの黄金期を彩るモンスター作品が連載陣に並び、定価もまだわずか170円だった頃に、ジャンプ読者のごく一部だけに熱狂的なファンを生むことになる伝説的なラブコメが連載開始されるのです。その名は『くおん...』という作品。『タッチ』『みゆき』のあだち充先生のマンガを思わせるような男子と女子による正統派の三角関係ラブコメで、そこには超能力もバトルもエッチもありません。ジャンプ連載作品の中では、異色の雰囲気を放っておりました。 この『くおん...』ですが、実は11話で終了しており、本来であれば読者の記憶に残らない打ち切りマンガとして扱われるところなのですが、そのあんまりすぎる設定が一部のジャンプ読者にとてつもないインパクトを与えたのです。 <この街には14歳になる二人の“まこと”がいます。ひとりは男の子で久遠真(くおんまこと)、もうひとりは女の子で香瀬麻琴(こうせまこと)。そして奇しくもこの二人はお隣同士で幼なじみ。> ストーリーはこのように始まります。ここまでなら単なる偶然、それほど不自然ではない設定です。あだち充先生のマンガにだって、バンバン出てきそうです。 しかし偶然にも、久遠真は幼いころに母親を亡くしており、父に育てられていました。また香瀬麻琴は幼いころに父親を亡くしているため、母親に育てられていたのです。つまりどちらも親子2人暮らしの生活をしていました。この辺から、確率的には天文学的なことになってきます。 そして死んだお父さんが忘れられない麻琴の悲しいエピソードなどを経て、突然真の父親が麻琴の母親にプロポーズ! 麻琴の母親もそれを受け入れて結婚し てしまったため、2人の「久遠まこと」が一つ屋根の下に誕生したのです。こ、これはなんという偶然! それまでに2人の親同士が付き合っていたような描写は一切なかったので、読者もそれはもうビックリ仰天です。まるで視聴率ひと桁台の月9ドラマのようなダイナミックなショートカットぶり。そして、一気にラブがコメり出すのです。 麻琴は、普段は真を叩いたり殴ったりしてツンデレぶりを発揮していますが、実際は真のことが好きだったのです。一方、真は学園のマドンナ理乃ちゃんに首ったけで、麻琴の気持ちにはまったく気がつきません。そんな悶々とした状況の中で一つ屋根の下の兄妹になってしまい、好きとは言えない関係に……。どうですか、実によくできたラブコメになってきたと思いませんか? 天文学的な確率の偶然は、まだ続きます。久遠家の隣に、ある一家が引っ越してきます。その家のイケメン少年の名は紅御悠矢(くおんゆうや)。これが意味することが分かりますでしょうか? つまり、ほぼ同一エリア内が「くおん」姓だらけになったのです。どこの村社会ですか、ここは。 この悠矢は真と麻琴が通う学校の同級生となります。イケメンであり、なおかつサッカーも天才的にうまく、女子にモテモテの悠矢は、学園のマドンナ理乃ちゃんを口説こうと接近。つまり、真の恋敵としてレギュラー登場するようになるのです。いやぁ、実にラブがコメッてますねえ……。 この三角関係は理乃ちゃんと真の両想いにより決着するのですが、敗れたイケメン悠矢は、今度は麻琴にちょっかいを出し始め、“自分の妹に、何ちょっかい出してんだ”と心配する真が、次第に麻琴の気持ちに気づいていくという……抜け出せない泥沼のような展開となっていきます。春風のように爽やかな絵柄で、昼ドラのような複雑な人間関係、度重なる天文学的な偶然、加えてほんのちょっとの思い出補正……これらの要素が奇跡的な融合を果たし、知る人ぞ知る伝説のラブコメへと昇華した作品、それが『くおん…』なのです。 ちなみに『くおん…』は、川島博幸先生の名義で出している初期の単行本全2巻と、鷹城冴貴と改名した後の愛蔵版の2種類が存在しますが、川島先生名義の単行本1巻の表紙に描かれている女の子(たぶん麻琴)がボブ・マーリーを凌駕する勢いの毛髪量でものすごいインパクトがあります。これだけでも一見の価値ありですよ。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)『くおん...1』




























