そこは地獄なのか、天国なのか? 『監獄学園』にほとばしる妄想の世界

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TBS系『監獄学園-プリズンスクール-』公式サイトより
 なんという凶悪なおっぱいだろうか?   タイトな衣装の胸元から、はちきれんばかりの巨乳を惜しげもなく披露しているのは、白木芽衣子役の護あさなである。  彼女が登場する『監獄学園─プリズンスクール─』(TBS系)は、平本アキラの同名漫画が原作の深夜ドラマ。今時珍しい、深夜ドラマらしいお色気&暴力満載の作品だ。  ドラマに先駆け、今年7月からはTOKYO MXなどでアニメ化。この時も「まさかのアニメ化」などと言われたが、それをさらに実写化。どこまで再現できるのかと危惧されたものの、護を筆頭とする女優たちの説得力あふれるビジュアルと体当たりの演技で、その心配は完全に払拭された。  物語は、共学化したばかりの元女子校に、主人公であるキヨシ(中川大志)を含む5人の男子生徒が入学したことから始まる。男子生徒5人に対し、女子生徒1,000人以上という、ある意味、男の妄想を具現化したかのような、夢の学園生活。  が、男子たちが女子風呂をのぞいたことが発覚し、一転、悪夢のような監獄生活が始まる。理事長の娘で、男を見下している栗原万里(山崎紘菜)を会長とした「裏生徒会」により、懲罰棟に収監されてしまったのだ。その懲罰棟で男子たちを管理するのが、会長に心酔する副会長の芽衣子と、書記の緑川花(森川葵)である。  芽衣子は、男子たちを服従させるため強制労働を強いた上、ムチで叩き、ビンタし、顔を踏みつけ、ツバを吐きかける。さらにジョー(宮城大樹)をかばったアンドレ(ガリガリガリクソン)に対して、こう言い放つ。 「友情ごっこか? ヘドが出る。貴様のせいで靴が汚れた。舐めてキレイにしろ!」  できないなら罰を与える、と迫るのだ。  そんな“恐怖政治”におびえながらも、キヨシは勇気を振り絞って言う。 「いい加減にしろよ。いくらなんでも、そこまですることはないだろ!」  思わぬキヨシの抵抗に、芽衣子はいったん引き下がる。  その日の食事中、「礼ならいいよ」と得意げなキヨシに、アンドレは憮然として言う。 「キヨシくん、明日から作業中はしゃべりかけないでくれるかな?」  その言葉に、ほかの3人も同意する。訳がわからず「悔しかったんだろ?」と問うキヨシに、アンドレは泣きながら言うのだ。 「悔しかったよ! 副会長の靴が舐めれなくて! なんで止めたんだよ!」  そう、4人はドMのド変態。美人でグラマラスな芽衣子に虐められてることで、快感を得ていたのだ。  このドラマの監督は井口昇。スカトロものや、フェティッシュな題材を得意とするAV監督としても有名だ。だから、M心を刺激する、女性の魅力的な撮り方はお手の物。芽衣子の“部下”である花は、ゆるふわ系でファンシーな見た目。それをいまや最注目の若手女優のひとりである森川葵がキュートに演じている。芽衣子の暴力が“プレイ”的なのに対して、その見た目に反し花のそれは空手仕込みのガチ。男子たちから恐れられている。そんな花がキヨシに放尿シーンを目撃された上、さらにキヨシにおしっこをかけられるという恥辱を味わってしまう。  ドSだったり、かわいらしい女性が一転、羞恥に顔を歪めるというのは、まさに井口の真骨頂だ。  深夜といえども、エロやバイオレンスが表現しにくくなってしまった不自由な時代。井口はフェティシズムを追求することで、「これぞ、深夜ドラマ!」という作品を作り上げた。ドラマの舞台は“監獄”。不自由で地獄のような状況だ。だが、変態男子たちは、そんな中でも性的な悦びを見いだしている。  精神は、どこまでも自由なのだ。地獄だって、妄想次第で天国に変わる。井口昇の作る深夜ドラマは、そんな自由な快楽にあふれているのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

スマイレージが“コワイレージ”になっちゃった!? 思春期ホラー『怪談新耳袋 異形』を巡る不思議体験

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個性派俳優としても活躍する井口昇監督。
スマイレージ主演作『怪談新耳袋 異形』を“思春期ホラー”に仕立てている。
 10代の少女たちの中に潜む不安、妬み、性への憧れと怯えといった細やかな感情を巧みに映像化してみせる井口昇監督。イジメ問題に言及した『片腕マシンガール』(07)、ままならない人生に押し潰されそうになる中年男の再起動を描いた『電人ザボーガー』(11)を大ヒットさせた売れっ子監督だ。“日本一スカートの短いアイドル”スマイレージを主演に迎えた『怪談新耳袋 異形』でも、相変わらず豊かな映像的イマジネーションを発揮している。人気納涼シリーズを瑞々しい思春期ホラーとしてオムニバス化した井口監督が、アイドル系ホラー映画になぜファンは魅了されるのか、そして撮影現場で起きた不思議な現象について語った。 ──今年2月に『ゾンビアス』が劇場公開、『怪談新耳袋 異形』に続く最新作『デッド寿司』(13年公開予定)がワールドプレミア中と大忙しの井口監督。実は今年のカンヌ映画祭で受賞されたそうですね。遅ればせながら、おめでとうございます。 井口昇監督(以下、井口) ありがとうございます。そうなんです、カンヌ映画祭がついにボクのことを認めてくれたんです(笑)。カンヌ映画祭といっても“おもしろ(ridiculous)ポスターコンテスト”なんですけど、ボクの『ゾンビアス』が1位、『デッド寿司』が4位に選ばれたんです。トロフィーとかもらえたわけじゃないんですが、“ベストオブおもしろい映画ポスター”として『ゾンビアス』が映画祭の会場に張り出されていたそうです。毎年開催されているコンテストかどうかも怪しいんですけど、そういうところで評価されるのがボクらしいかも(笑)。とりあえず“カンヌが認めた”というフレーズはうれしいですね♪ ──最近の井口作品は勢いを感じさせます。今回の『怪談新耳袋 異形』はあまりの過密スケジュールで心配でしたが、期待以上に楽しめました。
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「安易に使うとチープになるので、CGは極力使
ってないんです」と井口監督。低予算なれど、ホ
ラー映画にはこだわりがあるのだ。
井口 『怪談新耳袋 異形』の撮影1週間前まで、『デッド寿司』の撮影だったんです。『怪談新耳袋 異形』の製作チームがわざわざ『デッド寿司』のロケをしていた那須まで来てくれて、撮影の合間に打ち合わせをしました。正直、時間がない状況で製作が進んだんですが、その分あまり余計な“遊び”を入れずに、ストレートなホラー映画になったんじゃないかと思います。といっても、まァ、ボクの作品なんで多少はギャグが入ってますけど。『新耳袋』シリーズは原作者の木原浩勝さんも言ってますが、幽霊ものではなく、実話系の現代の妖怪目撃談なんです。恐怖の正体が分からないまま投げっ放し。得体の知れない、何も解決しない不気味さを描いてるんです。
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第1話『おさよ』。新人アイドル・しおり(和田彩花)はグラビア撮影で山奥の旅館に宿泊。
優しくナイーヴな性格ゆえに、とんでもない目に遭う。
■ホラー映画の面白さは“吊り橋効果”と同じ ──平均年齢15歳というスマイレージのメンバーは、映画初出演。 井口 演技自体が初体験だったそうです。スマイレージのみんなは、“スマイル”がトレードマークなだけに、いつもニコニコ笑っているんです。そこで今回は撮影中はもちろん、撮影現場では「笑顔禁止」にしたんです。でも、こんなに笑わせないことが大変だとは思わなかった。スマイレージのみんな、無意識のうちにニコニコ顔になっている。スタッフが声を掛けると笑顔で振り返るんです(苦笑)。普段のボクは穏やかな性格なんですが、今回は彼女たちの父親になったつもりで厳しく演出しました。「今の3倍、悲鳴を上げて!」「今の150倍、怖がって!!」と。かなり厳しく指導していたつもりだったんですが、さっきメンバーに聞いたら「全然、怖くなかった」と言われて、ちょっと落ち込んでいるんです(苦笑)。自分では崔洋一監督みたいな鬼監督のつもりだったんですが……。 ──スタッフやキャストから愛される“癒やし系監督”には人知れない苦労があったんですね。過去にも成海璃子主演の『まだらの少女』(05)など優れたアイドル映画を撮っている井口監督ですが、アイドル映画の中でヒロインに求めるものは何でしょうか? やっぱり演技力? 井口 まずは、初々しさですね。監督は、その女優の持ち味をいかに引き出すことができるかが問われるんです。女優の魅力をまず探り、その魅力を大きく膨らませて見せることがアイドル映画を任された監督の仕事でしょうね。特にホラー映画の場合は、怖がるシーンをかわいく見せなくちゃいけない。男性から見たら、女性が恐怖に怯える姿はとてもセクシーで魅力的なものだと思うんです。恐怖に震える表情をいかに魅力的に映し出すかは、常に考えていますね。 ──では、いつも笑顔なスマイレージの新しい魅力を『怪談新耳袋 異形』では引き出したということですね。 井口 そうなりますね。最近よく考えていることがあって、ホラー映画は一種の“吊り橋効果”と同じ作用が働くんじゃないかと。「男女が一緒に吊り橋を渡ると、その男女は恋に陥る」と心理学的に言われていますよね。ホラー映画もそれに似ていると思うんです。ホラー映画を観ている男性客は、スクリーンの中で恐怖に怯えている女優と同じ体験をすることで、その女優に恋をしてしまうんじゃないかとボクは思うんです。ボクは自分が監督した作品では、観客のみなさんを主演女優に恋させたいと思いながらいつも撮っているんです。今回の『怪談新耳袋 異形』を観た人が、スマイレージのことをもっと好きになってくれたらうれしいですよね。 ──スマイレージは、スカートの短さがセールスポイント。彼女たちの膝小僧の裏側やふくらはぎといった、ステージやテレビでは映らない部分をフェチっぽくクローズアップしてますね。 井口 そうです、そうです! 確信犯的にやっています(笑)。スマイレージは、やっぱり“生足”が魅力ですから。その魅力はちゃんと伝えないとダメだなと思いました。足を撮るためにかなり無理な姿勢をさせたり、膝小僧を撮りたいがために正座させたりしています(笑)。普段はあまり見えない部分を、劇場の大きなスクリーンでクローズアップして見せる。観客にとってうれしいことだと思うんです。「えっ、そんなところを見せてくれるの!?」という部位にカメラが向くことで、ファンは楽しんでくれるんじゃないかな。ボクはそんなふうに想像しながら撮っているんです。
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井口昇ファンのためにサービスカットを掲載。巨匠・野村芳太郎監督の
『影の車』(70)もお薦めホラーだそうです。
■アイドルは霊感が強い子が多い!! ──全4話のオムニバス構成ですが、第1話『おさよ』は和田彩花が主人公。アイドルとして芸能界デビューしたものの、優しい性格のため、いつも周囲にペコペコしてばかり。マネージャーからは「そんな弱気な性格じゃ、この世界でやっていけない」とダメ出しされる姿が涙を誘います。腰が低いところは井口監督と重なりませんか? 井口 あっ、そうですか。そういえば、ボクも「お前は、やたら人に謝ってばかりいるな」と言われてますね(笑)。でも、ボク自身が基本的にオドオドした女の子が好きなんです。自分に自信のない女の子が好き。和田さんがペコペコするシーンは、ちょうどクランクイン直後の撮影だったんです。「オレが撮りたいカットはこれなんだ」というボクなりの意思表示ですね。クランクイン直後で和田さんもまだ緊張している表情を、そのままシンクロして撮ることができるんじゃないかと思ったんです。本人の感情と役がうまくリンクすればいいなという考えでした。 ──第2話『赤い人』は、知らない町に引っ越したばかりの姉妹(竹内朱莉、勝田里奈)が感じる不安や恐怖感がうまく出ています。 井口 『赤い人』はすでに一度テレビシリーズで映像化したんですが、前回はかなり低予算で作っていたので、もう少し違った形で“赤い人”を表現してみたかったんです。原作では、都市伝説にもなっている全身がゴムみたいな“ゴム人間”やクリームソーダみたいな泡でできた“泡人間”が、よく出てくるんです。なんだか得体の分からない人が立っていた、というエピソードをストレートに映画にしてみたんです。 ──続く第3話『部屋替え』は、笑いと恐怖が混在する不思議な味わいの作品。大林宣彦監督の名作ホラー『HOUSE ハウス』(77)にオマージュを捧げた作品でしょうか。 井口 えぇ、ヒロインのモモカ(福田花音)が口紅を塗るシーンは、もろに『ハウス』へのオマージュです。三面鏡はボクの実家にもあって、子供心にすごく怖いものを感じていました。思春期の女の子が三面鏡を見つめている映像を撮りたかったんです。YouTubeでも三面鏡に映っている子供が振り返ると……という恐怖映像が話題になっていたこともあり、映画として三面鏡の怖さを描いてみました。 ──第4話『和人形』は、スマイレージの6人が全員集合。アイドルは感受性が強い子が多いと聞きますが、撮影現場で恐怖体験みたいなことはありました? 井口 確かに、アイドルには霊感が強い子が多いですね。スマイレージでは福田花音さんが霊感強いそうです。『和人形』は、工場の寮だったという廃屋で実際に撮影したんです。福田さんは「ここはヤバいよ」と言ってましたね。その廃屋にスマイレージのメンバー6人で入っていくシーンを撮ったんですが、ボクが「はい、カット」と声を掛けると、カメラマンが「ちょっと待って。2階の窓に誰かいなかった?」と言いだして、現場が騒然となったんです。スマイレージのみんなと撮ったばかりの映像を確認してみたら、確かに誰もいないはずの2階を誰かが通り過ぎているんです。「エッー!!!」ってみんなで悲鳴を上げてしまいました。編集作業中に問題のシーンをボクがもう一度確かめてみたら、光の玉が窓を横切っていたみたいだったので「なんだ、ただのレンズフレアか」と思ってそのまま編集を済ませたんです。でも、後からスマイレージに聞いたら「光の玉が人の形をしていた」と、6人とも口をそろえて話してましたね。ホラー映画の撮影をしていると、不思議なことがよく起きるんです。
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第4話『和人形』はスマイレージが全員集合。怯えた表情は
演技ではなく、廃屋での撮影中に恐怖体験をしたためだった……。
──背筋がゾゾッとするなぁ。では、最後に井口監督が感じる“恐怖”とは? 井口 得体の知れないもの、言葉で説明できないものって怖いですよね。幽霊はまだ人間の容姿をしているから理解できるんです。それよりもボクが怖いのは虫なんです。じっとしていて動かないと思っていたら、急にガサガサって動きだす。生理的にダメなんです。動物なのに、メタリックな硬い感じもイヤ。昆虫型エイリアンが襲ってくる『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)は貞子より怖いかもしれません。幼い頃に壁に止まっていたゴキブリが急にバサバサバサって飛んできて、ボクの口に入りそうになったことがあったんです。その恐怖感が、いまだに忘れられない。もう、ゴキブリが口に入ったら絶望じゃないですか。思い出しただけで、ゾッとします。そのうち、映画のネタにするかもしれません(笑)。 ──2011年に結婚された井口監督。家庭を持ち、守るべきものができると、また恐怖の感じ方が変わってきませんか? 井口 あぁ、それは大きいですね! 全然違ってきますね。自分だけ怖い目に遭うのは自分が我慢すればいいわけですけど、家族に災難が降り掛かるのがいちばん怖いことかもしれません。結婚して、意識が変わったかも。この間、妻と一緒に『クレイマー、クレイマー』(79)を観ていたんですが、すごく怖かった。以前は感動的なドラマだと思ってたんですけど、結婚してから観ると身につまされる内容で驚きました。まるでホラーですよ。ジャングルジムから子供が落ちるシーンもドキッとしますし、何より奥さんが唐突に家を出て行くシーンが怖かった。「もし、自分が同じ立場になったら、どーしよう!?」って。大人になって守るべきものができると、逆に怖いものが増えるのかもしれません。ホラー映画のネタって尽きないですね。 (取材・文=長野辰次/撮影=長谷英史) ●『怪談新耳袋 異形』 原作/木原浩勝、中山市朗 脚本/継田淳 監督/井口昇 出演/スマイレージ 和田彩花、福田花音、竹内朱莉、勝田里奈、田村芽実、中西香菜  配給/キングレコード、アステア 8月11日(土)よりシアターN渋谷ほか全国順次ロードショー http://shinmimi-igyou.jp  (c)2012「怪談新耳袋 異形」製作委員会 ●いぐち・のぼる 1969年東京都生まれ。『片腕マシンガール』(07)は全米で爆発的なセールスを記録。セーラー服姿のヒロインが活躍するサバイバルアクションブームを世界中に巻き起こした。板尾創路主演作『電人ザボーガー』(11)は米ファンタスティック・フェスト・ファンタスティック部門監督賞を受賞。ホラーマスター・楳図かずおの人気漫画を映画化した『まだらの少女』(05)、『猫目小僧』(同)も、この夏、お薦めの逸品。その他、『おいら女蛮』(06)、『ロボゲイシャ』(09)、『富江 アンリミテッド』(11)など見逃せない傑作多数。今年劇場公開された『ゾンビアス』『はらぺこヤマガミくん』もDVD化されたばかり。期待のアクション女優・武田梨奈を主演に迎えた『デッド寿司』は、2013年お正月に公開予定だ。

思わず鼻をつまみたくなる爆笑ホラー 腹痛とゾンビのW攻撃『ゾンビアス』

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お腹すっきり、爽快ムービー『ゾンビアス』に主演した中村有沙と井口昇監督。2人は『まだらの少女』以来となる7年ぶりのコラボ。※2人が手にしているのはカリントウです。
 イマジネーション溢れる独創的なストーリーテリングとキャストの新たな魅力を丁寧に引き出す演出で今、もっともノッてる映像作家・井口昇監督。『片腕マシンガール』(07)でその名を世界に轟かせ、オリジナル作品への愛を惜しみなく注入した『電人ザボーガー』(11)は劇場を感動の渦に巻き込むロングランヒットとなった。そんな井口監督の最新作が『ゾンビアス』。ダイエット用のサナダムシを探しに田舎に出掛けた若者たちが和式トイレから出現した汚物まみれのゾンビたちに襲撃されるという、笑いと恐怖が混然化したサバイバルアクションなのだ。主演の中村有沙は、『楳図かずお恐怖劇場 まだらの少女』(05)で成海璃子とダブル主演して以来となる7年ぶりの井口監督作品への参加。恥ずかしくてオナラができなかったことから妹を自殺に追いやってしまったトラウマを持つ影のあるヒロインを大熱演している。いろんな意味で、従来のイメージを突き破った面白い作品を作っちゃおうという信頼関係で結ばれた2人が、ハードながら笑いの絶えなかった井口組の製作現場を振り返った。 ──井口監督の名作『まだらの少女』に主演した有沙ちゃんは、しばらく芸能活動を休んでいたけど、『ゾンビアス』が復帰作になるわけですね?
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作品に清潔感を与えた中村有沙。体を張ったシーンもあるが「やらされている感はなく、やってやる~という感じ。現場の雰囲気がいいんです」。
有沙 はい。意識して復帰作に井口監督の作品を選んだわけではないんですけど、井口組の現場はすごく雰囲気がいいので、また機会があればと思っていたんです。そんなときにマネージャーさんから「井口監督が新作を撮るよ」と聞いて、ぜひオーディションを受けたいと。でも、脚本を読んでみたら汚物ゾンビが出てくるので、「うわぁ~」ってなっちゃいましたね(笑)。 井口 書いたボクが言うのも変だけど、「これは映画化はムリだろうな。引き受けてくれる女優さんがいなだろうな」と思ってたんだ(笑)。脚本を読んで、やめようと思わなかった? 有沙 いえ、そこは井口監督の作品なんで、ただのお下品なだけの映画にはならないだろうなと思ってました(笑)。それに『まだらの少女』に出ていたとき、私はまだ小学生だったんです。それ以来、お会いする機会がなかったので、出演できるかどうかは別にして、井口監督に会いにオーディションを受けようと思ったんです。井口監督に、成長した姿を見せたかったんです。
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「ただ下品なだけでなく、女の子たちをチャーミングに撮りたかった」と語る井口監督。かつてないアイドル映画なのだそうだ。
井口 『まだらの少女』以来だから、7年ぶりか。もうボクは40代になっちゃった。久しぶりに有沙ちゃんに会って、娘の成長に驚く父親気分を味わったよ(笑)。でも、本当によく、あの脚本を読んで引き受けてくれたよね。すっごく感謝してるんだ。 有沙 うふふ。 井口 有沙ちゃんが主役の恵役を引き受けてくれたんで、こちらも期待に応えなきゃなと覚悟を決めたんだ。中途半端に遠慮しないで、思い切って振り切った作品にしようと。そのことが出演してくれた女優陣のためになると思ったんだよ。 ──『まだらの少女』でも蛇娘(成海璃子)に追い込まれたけど、今回はさらに追い詰められる展開ですね。 有沙 『まだらの少女』は楳図かずおさんの原作でしたけど、『ゾンビアス』は井口監督のオリジナルの世界。前回、『まだらの少女』を体験したことで、もっと井口監督の世界に足を踏み入れたくなったんです。 井口 撮影前にも、いろいろ話し合ったよね。今回の『ゾンビアス』は役名こそ変わっているけど、『まだらの少女』の続編的なイメージでやろうと。『まだらの少女』で有沙ちゃんが演じた少女が生き残っていたら、どんな女の子に成長しているんだろうとね。 ──『まだらの少女』では恐怖にただ逃げ惑う小学生だったけど、今回は恐怖に立ち向かう高校生に。7年間を経て、タフになったわけですね? 有沙 そうなんです。意を決して、立ち向かいます。私自身、これまでやったことがなかったアクションにも挑みました。撮影前に時間を作って、アクション指導のかたと練習しました。3回ほど習っただけなので、まだまだなんですけど。 井口 有沙ちゃんはダンスをやっているから、動きがいいよ。それに現場でも思ったけど、有沙ちゃんは走る姿がサマになるんだ。女の人で走る姿がかっこいい人って、あんまりいない。有沙ちゃんの走る姿を見て、動きがフォトジェニックだな、アクションに向くなと思ったよ。飛び蹴り、かかと落とし、すっごく決まってた。今回はこれまでの有沙ちゃんのイメージを突き破るものにしようと考えたんだ。有沙ちゃんの体を張った演技にはファンは「えぇっ」と驚くんじゃないかな。 有沙 私自身、ふだんはおっとりしたイメージがありますからね。そういった自分のイメージを突き破るのって、気持ちよかったです。 井口 けっこー順撮りで撮ったんだけど、編集しながら有沙ちゃんの顔つきがどんどん大人っぽく変わっていくのが分かった。女優として、大人の女として急成長していく貴重な瞬間が記録された作品になったと言えるんじゃないかな。 有沙 ありがとうございます。後半にはセーラー服が破れた姿でのアクションシーンもあるんですけど、井口組のスタッフにはカットの合間にさっと上着を掛けてもらったりと、とても気を遣ってもらいました。それに何よりもキレイに、しかもカッコよく撮ってくれるんです。信頼できるスタッフと仕事ができる心強さがありましたね。 ■和式トイレは日本人の恐怖の源泉! ──『片腕マシンガール』公開時のインタビューで、「日本は流血シーンの規制が厳しい。血の代わりに汚物だらけのホラーにすれば、規制に引っ掛からずに済むはず」と井口監督が話していたアイデアが、本作に活かされたんですね。 井口 あはは、そんなことをボク、話しましたっけ? その夢が叶ったわけですね(笑)。今回、ボクが考えたのは、"日本で撮るなら、日本でしか撮れないゾンビ映画を撮らなくちゃダメ"ということだったんです。日本人にしか撮れないゾンビ映画って何だろうと考えたとき、「日本にはボットントイレがある。ボットントイレからゾンビが登場したら最高に怖い!」と思い浮かんだんです。さすがに有沙ちゃんはボットン体験はないでしょ?
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ボットントイレから、なんとゾンビの群れが出没! こいつらにだけは絶対に捕まりたくねぇ。(c)2011 GAMBIT
有沙 和式トイレは、おばあちゃんの家で見たことはありますよ。夜とかに一人で行くのは怖いですよね。 井口 そうそう。ボクんちは都内だったんだけど、小学生の頃まではボットン式だった。毎日、ボットントイレに股がりながら、下から手が伸びてきたらどうしようと怯えていたんだ。それで、「日本人の恐怖の根源はボットントイレにあるんじゃないか」って考えたんだ。有沙ちゃんみたいな現代的なかわいい女の子たちが、ボットントイレから出てくる汚物まみれのゾンビに追い掛けられるビジュアル的な面白さもあるしね。 ──汚物ゾンビが続々と現われるシーンは壮絶。撮影現場はどんな感じでした? 有沙 10日間と短い期間でしたけど、ロケ先で合宿みたいに過ごして、すごく楽しかったんです。出演の出番のないときも、一人で宿舎にいるのは寂しいので、みんなずっと現場で撮影を見ていました。それで手の空いた女優陣で炊き出しとか作って、みんなで食べてたんですよ。 井口 有沙ちゃん、夜中に温かいミソ汁を作ってくれて、キャストやスタッフに振る舞ってくれたよね。うれしかったなぁ。 有沙 ゾンビのみなさんたちと一緒にご飯を食べましたよね(笑)。 井口 もちろんフェイクなんだけど、汚物まみれのゾンビたちと一緒にお弁当を食べるのは、最初はさすがのボクも躊躇したよ。これはキツイなぁ~と(苦笑)。 有沙 最初は「うわっ」と思いますけど、慣れると意外とヘーキですよね。みんなで記念写真を撮ってましたし。 井口 人間って慣れると、だいたいのものは受け入れられるようになるもんだなぁと改めて思った(笑)。 ■ボクらは生きている。だからウンコをするんだ ──汚物ゾンビたちとの食事シーンは、DVD発売時にメイキングで確認したいと思います(笑)。でも『ゾンビアス』はホラーコメディというスタイルの中で、「汚れても穢れても、それでも生きていけ」という3.11以降の今日的なテーマが内包されていますよね?
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妹を亡くした過去を持つ恵(中村有沙)は意を決して、汚物ゾンビたちと戦うことに。いつまでも逃げていられない。
井口 そうなんです。生きていく上で様々な障害に出くわすけど、それを乗り越えていけという、ということですね。『電人ザボーガー』を撮っていたときも感じていたことなんですが、この数年間、ボク自身がずっと考えていることなんです。日本はこのままじゃマズいんじゃないかと。日本という社会がマズい方向に向かっている。でも、そんな中でも生き抜いていかなくちゃいけない。『ゾンビアス』はひとりの女の子が腹痛に襲われながらも戦い続け、成長していく物語なんです。決してお下劣だけじゃないんです。そもそも、ウンコって生きている証でもあるわけです。人間は死んじゃったらウンコしないわけです。生きているからウンコするんです。 有沙 『ゾンビアス』に出演したことで、私自身も強くなりました。怖いものがなくなりました。『ゾンビアス』という作品に出会えたことで、自分のすべてをさらけ出すことができたと思ってます。 井口 あら~、いいこと言うわねぇ(笑)。有沙ちゃん、すっかり大人のトークもできるようになったわねぇ。 有沙 はい(笑)。ぜひ『ゾンビアス』は女性にも観てほしいですね。カップルで一緒に観るのも楽しいと思います! 井口 うん、この映画を観て、一緒に盛り上がれるカップルだったら一生もの。この映画を観て、引いちゃうような相手じゃダメ。逆に2人の愛が深まるかもしれない。 有沙 カップルで『ゾンビアス』を観て、一緒にゲラゲラ笑え合えるのって素敵ですよね。でも、食事のすぐ後はやめたほうがいいかも(笑)。 井口 そうだね、ポップコーンならギリギリOKかな。 有沙 パスタやカレーライスも、避けてくださいね~! (取材・文=長野辰次/撮影=オカザキタカオ/hair&make=久保田延彦[alter ego])
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久々に井口作品のヒロインとなった中村有沙。「井口監督、しばらくお会いしない間に、ますます癒し系オーラが出るようになりましたね!」
●『ゾンビアス』 監督/井口昇 脚本/村田青、継田淳、井口昇 特殊造型/西村喜廣 撮影/長野泰隆 出演/中村有沙、菅野麻由、護あさな、優希、ダニー(ザ50回転ズ)、岸健太朗、亜紗美、デモ田中、島津健太郎 配給/日活 R15 2011年2月25日( 土)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー http://zombieass.jp ●なかむら・ありさ 1993年東京都生まれ。NHK教育テレビ『天才てれびくんワイド』『天才てれびくんMAX』に出演し、人気子役として活躍。井口昇監督のジュブナイル系名作ホラー『楳図かずお恐怖劇場 まだらの少女』(05)で成海璃子とダブル主演。その他の出演作に『下弦の月 ラスト・クォーター』(04)、テレビドラマ『傍聴マニア09 裁判長! ここは懲役4年でどうすか』など。2011年に大学に進学し、芸能活動を再開した。出演作『The ABCs of Death』2012年公開予定。 ●いぐち・のぼる 1969年東京都生まれ。ガールズアクションムービー『片腕マシンガール』(07)は世界的大ヒットを記録し、数多くの亜流作品を生み出した。『ロボゲイシャ』(09)、『富江アンリミテッド』(11)など監督作多数。テキサスのファンタスティック映画祭で監督賞を受賞した『電人ザボーガー』(11)は日本でロングランヒット中。自伝的著書『恋の腹痛、見ちゃイヤ!イヤ!』(太田出版)を上梓するなど、排泄物には並みならぬこだわりを持つ。3月には『劇場版 はらぺこヤマガミくん』の公開も控えている。
『電人ザボーガー』スタンダードエディション [DVD] こちらは3月28日発売。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・特撮ヒーロー=童貞の概念を破る! 井口監督の集大成『電人ザボーガー』「複雑な感情を、複雑な感情で演じた」『電人ザボーガー』と俳優・板尾創路の複雑な関係妄想超大作『ロボゲイシャ』、堂々完成! 井口昇監督、主演女優と念願のPR活動

思わず鼻をつまみたくなる爆笑ホラー 腹痛とゾンビのW攻撃『ゾンビアス』

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お腹すっきり、爽快ムービー『ゾンビアス』に主演した中村有沙と井口昇監督。2人は『まだらの少女』以来となる7年ぶりのコラボ。※2人が手にしているのはカリントウです。
 イマジネーション溢れる独創的なストーリーテリングとキャストの新たな魅力を丁寧に引き出す演出で今、もっともノッてる映像作家・井口昇監督。『片腕マシンガール』(07)でその名を世界に轟かせ、オリジナル作品への愛を惜しみなく注入した『電人ザボーガー』(11)は劇場を感動の渦に巻き込むロングランヒットとなった。そんな井口監督の最新作が『ゾンビアス』。ダイエット用のサナダムシを探しに田舎に出掛けた若者たちが和式トイレから出現した汚物まみれのゾンビたちに襲撃されるという、笑いと恐怖が混然化したサバイバルアクションなのだ。主演の中村有沙は、『楳図かずお恐怖劇場 まだらの少女』(05)で成海璃子とダブル主演して以来となる7年ぶりの井口監督作品への参加。恥ずかしくてオナラができなかったことから妹を自殺に追いやってしまったトラウマを持つ影のあるヒロインを大熱演している。いろんな意味で、従来のイメージを突き破った面白い作品を作っちゃおうという信頼関係で結ばれた2人が、ハードながら笑いの絶えなかった井口組の製作現場を振り返った。 ──井口監督の名作『まだらの少女』に主演した有沙ちゃんは、しばらく芸能活動を休んでいたけど、『ゾンビアス』が復帰作になるわけですね?
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作品に清潔感を与えた中村有沙。体を張ったシーンもあるが「やらされている感はなく、やってやる~という感じ。現場の雰囲気がいいんです」。
有沙 はい。意識して復帰作に井口監督の作品を選んだわけではないんですけど、井口組の現場はすごく雰囲気がいいので、また機会があればと思っていたんです。そんなときにマネージャーさんから「井口監督が新作を撮るよ」と聞いて、ぜひオーディションを受けたいと。でも、脚本を読んでみたら汚物ゾンビが出てくるので、「うわぁ~」ってなっちゃいましたね(笑)。 井口 書いたボクが言うのも変だけど、「これは映画化はムリだろうな。引き受けてくれる女優さんがいないだろうな」と思ってたんだ(笑)。脚本を読んで、やめようと思わなかった? 有沙 いえ、そこは井口監督の作品なんで、ただのお下品なだけの映画にはならないだろうなと思ってました(笑)。それに『まだらの少女』に出ていたとき、私はまだ小学生だったんです。それ以来、お会いする機会がなかったので、出演できるかどうかは別にして、井口監督に会いにオーディションを受けようと思ったんです。井口監督に、成長した姿を見せたかったんです。
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「ただ下品なだけでなく、女の子たちをチャーミングに撮りたかった」と語る井口監督。かつてないアイドル映画なのだそうだ。
井口 『まだらの少女』以来だから、7年ぶりか。もうボクは40代になっちゃった。久しぶりに有沙ちゃんに会って、娘の成長に驚く父親気分を味わったよ(笑)。でも、本当によく、あの脚本を読んで引き受けてくれたよね。すっごく感謝してるんだ。 有沙 うふふ。 井口 有沙ちゃんが主役の恵役を引き受けてくれたんで、こちらも期待に応えなきゃなと覚悟を決めたんだ。中途半端に遠慮しないで、思い切って振り切った作品にしようと。そのことが出演してくれた女優陣のためになると思ったんだよ。 ──『まだらの少女』でも蛇娘(成海璃子)に追い込まれたけど、今回はさらに追い詰められる展開ですね。 有沙 『まだらの少女』は楳図かずおさんの原作でしたけど、『ゾンビアス』は井口監督のオリジナルの世界。前回、『まだらの少女』を体験したことで、もっと井口監督の世界に足を踏み入れたくなったんです。 井口 撮影前にも、いろいろ話し合ったよね。今回の『ゾンビアス』は役名こそ変わっているけど、『まだらの少女』の続編的なイメージでやろうと。『まだらの少女』で有沙ちゃんが演じた少女が生き残っていたら、どんな女の子に成長しているんだろうとね。 ──『まだらの少女』では恐怖にただ逃げ惑う小学生だったけど、今回は恐怖に立ち向かう高校生に。7年間を経て、タフになったわけですね? 有沙 そうなんです。意を決して、立ち向かいます。私自身、これまでやったことがなかったアクションにも挑みました。撮影前に時間を作って、アクション指導のかたと練習しました。3回ほど習っただけなので、まだまだなんですけど。 井口 有沙ちゃんはダンスをやっているから、動きがいいよ。それに現場でも思ったけど、有沙ちゃんは走る姿がサマになるんだ。女の人で走る姿がかっこいい人って、あんまりいない。有沙ちゃんの走る姿を見て、動きがフォトジェニックだな、アクションに向くなと思ったよ。飛び蹴り、かかと落とし、すっごく決まってた。今回はこれまでの有沙ちゃんのイメージを突き破るものにしようと考えたんだ。有沙ちゃんの体を張った演技にはファンは「えぇっ」と驚くんじゃないかな。 有沙 私自身、ふだんはおっとりしたイメージがありますからね。そういった自分のイメージを突き破るのって、気持ちよかったです。 井口 けっこー順撮りで撮ったんだけど、編集しながら有沙ちゃんの顔つきがどんどん大人っぽく変わっていくのが分かった。女優として、大人の女として急成長していく貴重な瞬間が記録された作品になったと言えるんじゃないかな。 有沙 ありがとうございます。後半にはセーラー服が破れた姿でのアクションシーンもあるんですけど、井口組のスタッフにはカットの合間にさっと上着を掛けてもらったりと、とても気を遣ってもらいました。それに何よりもキレイに、しかもカッコよく撮ってくれるんです。信頼できるスタッフと仕事ができる心強さがありましたね。 ■和式トイレは日本人の恐怖の源泉! ──『片腕マシンガール』公開時のインタビューで、「日本は流血シーンの規制が厳しい。血の代わりに汚物だらけのホラーにすれば、規制に引っ掛からずに済むはず」と井口監督が話していたアイデアが、本作に活かされたんですね。 井口 あはは、そんなことをボク、話しましたっけ? その夢が叶ったわけですね(笑)。今回、ボクが考えたのは、"日本で撮るなら、日本でしか撮れないゾンビ映画を撮らなくちゃダメ"ということだったんです。日本人にしか撮れないゾンビ映画って何だろうと考えたとき、「日本にはボットントイレがある。ボットントイレからゾンビが登場したら最高に怖い!」と思い浮かんだんです。さすがに有沙ちゃんはボットン体験はないでしょ?
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ボットントイレから、なんとゾンビの群れが出没! こいつらにだけは絶対に捕まりたくねぇ。(c)2011 GAMBIT
有沙 和式トイレは、おばあちゃんの家で見たことはありますよ。夜とかに一人で行くのは怖いですよね。 井口 そうそう。ボクんちは都内だったんだけど、小学生の頃まではボットン式だった。毎日、ボットントイレに股がりながら、下から手が伸びてきたらどうしようと怯えていたんだ。それで、「日本人の恐怖の根源はボットントイレにあるんじゃないか」って考えたんだ。有沙ちゃんみたいな現代的なかわいい女の子たちが、ボットントイレから出てくる汚物まみれのゾンビに追い掛けられるビジュアル的な面白さもあるしね。 ──汚物ゾンビが続々と現われるシーンは壮絶。撮影現場はどんな感じでした? 有沙 10日間と短い期間でしたけど、ロケ先で合宿みたいに過ごして、すごく楽しかったんです。出演の出番のないときも、一人で宿舎にいるのは寂しいので、みんなずっと現場で撮影を見ていました。それで手の空いた女優陣で炊き出しとか作って、みんなで食べてたんですよ。 井口 有沙ちゃん、夜中に温かいミソ汁を作ってくれて、キャストやスタッフに振る舞ってくれたよね。うれしかったなぁ。 有沙 ゾンビのみなさんたちと一緒にご飯を食べましたよね(笑)。 井口 もちろんフェイクなんだけど、汚物まみれのゾンビたちと一緒にお弁当を食べるのは、最初はさすがのボクも躊躇したよ。これはキツイなぁ~と(苦笑)。 有沙 最初は「うわっ」と思いますけど、慣れると意外とヘーキですよね。みんなで記念写真を撮ってましたし。 井口 人間って慣れると、だいたいのものは受け入れられるようになるもんだなぁと改めて思った(笑)。 ■ボクらは生きている。だからウンコをするんだ ──汚物ゾンビたちとの食事シーンは、DVD発売時にメイキングで確認したいと思います(笑)。でも『ゾンビアス』はホラーコメディというスタイルの中で、「汚れても穢れても、それでも生きていけ」という3.11以降の今日的なテーマが内包されていますよね?
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妹を亡くした過去を持つ恵(中村有沙)は意を決して、汚物ゾンビたちと戦うことに。いつまでも逃げていられない。
井口 そうなんです。生きていく上で様々な障害に出くわすけど、それを乗り越えていけという、ということですね。『電人ザボーガー』を撮っていたときも感じていたことなんですが、この数年間、ボク自身がずっと考えていることなんです。日本はこのままじゃマズいんじゃないかと。日本という社会がマズい方向に向かっている。でも、そんな中でも生き抜いていかなくちゃいけない。『ゾンビアス』はひとりの女の子が腹痛に襲われながらも戦い続け、成長していく物語なんです。決してお下劣だけじゃないんです。そもそも、ウンコって生きている証でもあるわけです。人間は死んじゃったらウンコしないわけです。生きているからウンコするんです。 有沙 『ゾンビアス』に出演したことで、私自身も強くなりました。怖いものがなくなりました。『ゾンビアス』という作品に出会えたことで、自分のすべてをさらけ出すことができたと思ってます。 井口 あら~、いいこと言うわねぇ(笑)。有沙ちゃん、すっかり大人のトークもできるようになったわねぇ。 有沙 はい(笑)。ぜひ『ゾンビアス』は女性にも観てほしいですね。カップルで一緒に観るのも楽しいと思います! 井口 うん、この映画を観て、一緒に盛り上がれるカップルだったら一生もの。この映画を観て、引いちゃうような相手じゃダメ。逆に2人の愛が深まるかもしれない。 有沙 カップルで『ゾンビアス』を観て、一緒にゲラゲラ笑え合えるのって素敵ですよね。でも、食事のすぐ後はやめたほうがいいかも(笑)。 井口 そうだね、ポップコーンならギリギリOKかな。 有沙 パスタやカレーライスも、避けてくださいね~! (取材・文=長野辰次/撮影=オカザキタカオ/hair&make=久保田延彦[alter ego])
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久々に井口作品のヒロインとなった中村有沙。「井口監督、しばらくお会いしない間に、ますます癒し系オーラが出るようになりましたね!」
●『ゾンビアス』 監督/井口昇 脚本/村田青、継田淳、井口昇 特殊造型/西村喜廣 撮影/長野泰隆 出演/中村有沙、菅野麻由、護あさな、優希、ダニー(ザ50回転ズ)、岸健太朗、亜紗美、デモ田中、島津健太郎 配給/日活 R15 2011年2月25日( 土)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー http://zombieass.jp ●なかむら・ありさ 1993年東京都生まれ。NHK教育テレビ『天才てれびくんワイド』『天才てれびくんMAX』に出演し、人気子役として活躍。井口昇監督のジュブナイル系名作ホラー『楳図かずお恐怖劇場 まだらの少女』(05)で成海璃子とダブル主演。その他の出演作に『下弦の月 ラスト・クォーター』(04)、テレビドラマ『傍聴マニア09 裁判長! ここは懲役4年でどうすか』など。2011年に大学に進学し、芸能活動を再開した。出演作『The ABCs of Death』2012年公開予定。 ●いぐち・のぼる 1969年東京都生まれ。ガールズアクションムービー『片腕マシンガール』(07)は世界的大ヒットを記録し、数多くの亜流作品を生み出した。『ロボゲイシャ』(09)、『富江アンリミテッド』(11)など監督作多数。テキサスのファンタスティック映画祭で監督賞を受賞した『電人ザボーガー』(11)は日本でロングランヒット中。自伝的著書『恋の腹痛、見ちゃイヤ!イヤ!』(太田出版)を上梓するなど、排泄物には並みならぬこだわりを持つ。3月には『劇場版 はらぺこヤマガミくん』の公開も控えている。
『電人ザボーガー』スタンダードエディション [DVD] こちらは3月28日発売。 amazon_associate_logo.jpg
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特撮ヒーロー=童貞の概念を破る! 井口監督の集大成『電人ザボーガー』

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海外でも熱狂的なファンを持つ井口昇監督。
最新作『電人ザボーガー』は挫折感を抱えた
男たちが、愛する者を守るために再び立ち
上がる感動作だ。
 「今回はボクにとって通過儀礼となる作品なんです」。日本が世界に誇る"奇才"井口昇はそう言った。また、責任という言葉を何度か口にした。これまで『クルシメさん』(98)、『片腕マシンガール』(07)、『ロボゲイシャ』(09)などの井口監督ならではの天衣無縫な演出を楽しんできたファンにとっては「おやおや」と驚く言葉ではないか。製作費3億円を投じたことでも話題となった井口監督史上最大のSF大作『電人ザボーガー』がいよいよ公開される。主演の板尾創路をはじめ、キャストも今までの井口作品に比べちょっぴりメジャー寄りの人たちが並ぶ。でも、心配はご無用。これまで以上の過激さに笑えて、でもホロリとさせられ、最後には爽快感が残る快作に仕上がっているのだ。「ザボーガーって何?」という人がうっかり劇場に入っても、すぐさま作品のはらむ異様な熱気に巻き込まれるはずだ。しかし、井口監督の中で何かが変わりつつあるらしい。井口監督への単独インタビューで、その部分にググッと迫ってみた。 ――1974~75年にフジテレビ系で放映されたピー・プロダクション製作の特撮ドラマ『電人ザボーガー』の劇場版リメイク。『新世紀エヴァンゲリオン』の大月俊倫プロデューサーからのオファーだそうですね。 井口昇監督(以下、井口) そうです。大月プロデューサーはピープロ作品の権利を全部持っていて、(『古代少女ドグちゃん』を撮っていた)ボクに「リメイクしてみない?」と声を掛けてもらったんです。「えぇっ、ザボーガーをやらせてもらえるんですか?」と驚きながらも即答でOKしました。そのときはどんなふうにリメイクするか全然考えはなかったけど。でも、やっぱりピープロ作品は大好きだったので、やりたかった。他の特撮ものの製作会社とピープロは違った質感があるんです。『快傑ライオン丸』(72)とか『鉄人タイガーセブン』(73)とか、なぜかヒーローが動物顔だったりと特異性があって、子供心に印象に残ってました。『ザボーガー』を見ていたのは幼稚園の頃でしたけど、ロボットがバイクに変形するシーンはすごくインパクトがあったことを覚えていますね。
製作費3億円を投じられた特撮大作『電人
ザボーガー』。主人公・大門豊の半生を
第1部青年編、第2部熟年編からなる異例
の2部構成で描く。(c)2011「電人ザボーガー」
フィルム・パートナーズ (c)ピー・プロダクション
――『ウルトラマン』シリーズの円谷プロに比べ、ピープロ作品は見るからにB級感が漂っているのが幼心にも感じられました。 井口 そうですね。ボク、駄菓子屋の息子なんです。店で『仮面ライダー』とかの特撮ヒーローのブロマイドを売ってたんですが、駄菓子屋の中でもピープロのキャラクターは"駄菓子屋感"が漂ってました(笑)。そのことから、いっそう親近感が湧いたんです。自分が駄菓子屋の息子ということもあり、自分の作品には『猫目小僧』(05)、『片腕マシンガール』『ロボゲイシャ』など駄菓子屋感を注入したくなるんです(笑)。安~いお菓子を食べて育った世代。そーゆー人間だからこそ描けるものって、あるんじゃないかと思うんです。そういう意味でも今回の『ザボーガー』はボクの中ですごくぴったりハマった企画でした。 ――『片腕マシンガール』が世界的に大ヒットして、その次の『ロボゲイシャ』も井口監督らしいイマジネーションが炸裂した独創性の高い作品。正直、ここらへんでファン層の拡大を狙った企画に挑む時期かなと思っていたんです。今年、『富江 アンリミテッド』『電人ザボーガー』とリメイクものが続いたのはやや意外でした。 井口 今年はたまたまリメイク作品が2本続いた形になりました。もちろん、『富江』も原作や過去のシリーズが大好きでした。自分の好きな題材を撮らせてもらえて、すごく幸せでした。監督という仕事を選んだ人間の歩む道は、それぞれだと思うんですが、ボクとしては将来的には"人間ドラマ"を撮りたいと考えているんです。特撮も大好きだけど、同じように日本映画も観て育ってきたんです。今回の『ザボーガー』は自分にとっては"通過儀礼"だと思っています。ただの特撮もののリメイクではなく、ひとりの男がさまざまな体験をして人間として成長する姿を描きたかったんです。それに加えて、『ザボーガー』のリメイクには運命的なものを感じていました。生まれて最初にボクが手にしたソフビ人形がザボーガーだったし、自分が映像の仕事を始めるようになってからも、仕事に行き詰まるとピープロの作品のオープニングばかり集めたビデオを栄養ドリンク代わりに観ていました。ピープロ作品に励まされてここまで来たんです。ある意味、今回の『ザボーガー』で自分のキャリアが終わってもいい、くらいの高揚感を感じながら作っていました。
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男に棄てられた恨みを持って甦った
悪のサイボーグ、ミスボーグ
(山崎真実)。敵であるはずの
大門豊の純粋さに心が動かされる
ことに。
――"通過儀礼"ですか。これまでの井口ワールドの集大成と思っていいんでしょうか? 井口 そうですね。ボクも42歳になり、今年の春に結婚して、家庭を持ちました。40歳まで生きたら、やっぱり20代の頃に思い描いていた夢とは異なる壁にもぶち当たるんです。挫折感も覚えるし、自分の限界も見えてくると思うんです。多分、オリジナル版の『ザボーガー』を観ていた世代は、みんなそうなんじゃないかな。家庭を持った人もいるだろうけど、健康を害した人もいるだろうし、うつ病になった人や、会社をリストラされちゃった人もいると思うんです。そういう人生の節目に立つ人たちを励ますものにしたかった。いわば、SF版『ロッキー』なんです。第2部の熟年編の主人公を演じているのは板尾創路さんなんですが、糖尿病の注射を打ちながら戦うという設定になっています。これはボク自身が撮影中、自分は糖尿病なんじゃないかという不安と闘っていたんです。今春、健康診断を受けたら、糖尿病じゃないことが分かり、ホッとしました(笑)。映画の中の糖尿病の注射シーンは、ギャグじゃなくて、ボクにとっては切実な問題だったんです(苦笑)。 ――いつになく、井口監督の話しぶりも熱いですね! 井口 自分にとっては分岐点になる作品だと感じてます。42歳、男の厄年。思うところがやっぱりありますよ。オリジナル版の『ザボーガー』が作られていた時代は、まだ何かを信じることができた。自分の中の正義を信じて、熱くなることができた時代だったと思うんです。今こそ、その熱さをもう一度甦らせるときなんじゃないかなと。奇しくも今年3月に大震災が起き、自分の考えていた"日本人よ、立ち上がれ"というテーマと今の日本社会とがシンクロしたことに驚いているんです。「どうして今、ザボーガーなの?」とよく尋ねられるんですけど、今を生きている人にこそ観てほしいという気持ちで撮り上げた作品なんです。 ■ミスボーグは、男の子にとってのセクスアリス ――井口監督の表情も、今日はキリッとされてますもんね。井口版『ザボーガー』ですが、悪の組織シグマの手先のミスボーグ(山崎真実)が輝いていますね。見事なほどの"悪の華"っぷり。笑顔でムチを打つシーンなどの山崎真実の表情は今まで見せたことのない新しい顔でしょうね。
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熟年期の大門を演じた板尾創路。愛するもの
を失ったトラウマと闘いながら、シグマの
総帥・悪之宮博士(柄本明)を追い詰める。
井口 ありがとうございます。山崎さんとは一度、WEBで一緒に仕事をしたことがあり、そのときに「動物的勘の持ち主だなぁ」と思ったんです。山口雄大監督の短編映画『魁!みっちゃん』(09)に主演して、ジャッキー・チェンばりのアクションを披露してたんです。そのギラギラ感がすごく良かった。今回のアクション監督のカラサワ イサオさんは『魁!みっちゃん』も手掛けていて、「山崎真実はすごい。坂口拓を本気で殴って『参った』と言わせたのは男も女もアイツだけだ」と推されたこともありますね。運動神経がすごくいいんです。 ――オリジナル版のミスボーグを演じたのは藤山律子さん。『愛の戦士レインボーマン』(72~73)で演じていた「死ね死ね団」の悪の秘書オルガに比べ、昔の宇宙人みたいな衣装がキツいなぁ~と子供心に感じてたんですが、井口版のミスボーグは現代風にそれなりにアレンジを加えてありますね。 井口 本当は昔のままのコスチュームも考えたんですが、当時のままだとただのお笑いになってしまう。モジモジくんみたいになってしまうんで、ちょっとだけ現代風にしています。でも、70年代のB級感は残したかったので、あのツノだけは外せませんでした。ツノを付けたままで大マジメに芝居をしてくれる女優をずいぶん探しましたが、なかなか決まらなかった。それで「山崎さんはどうだろう」と直感的に思い付いて、頼んだら、すごくうまく行きましたね。本人はコスチュームを最初に着たときはゲラゲラ笑ってましたけど、でもあのコスチュームが様になるのは彼女の力。すごいと思います。あと、今回、裏テーマがありまして、劇場に親子で観にきた子供たちをドキッとさせたいんです。
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自分の信じる正義がわからなくなった大門の
前に現われた謎の美少女・アキコ(佐津川
愛美)。『ダークナイト』ばりのハードな
ドラマが展開。
――『ルパン三世』の峰不二子っぽく、男の子たちにヰタ・セクスアリス体験をさせようと? 井口 そうです(笑)。ミスボーグがムチ責めに遭うシーンで、子供たちにドキッとして欲しいなぁと。劇場で映画を観る"後ろめたさ"を感じてほしいんです。最近の映画って、なかなかそういう後ろめたさがないなぁと思うんです。ボクが子供の頃に親と一緒に映画を観にいって、突然のキスシーンやヌードシーンに気まずさを感じた体験を、今の子供たちにも味じあわせてあげたいなぁと思うんですよ。映画で感じる気まずさって、とても大切なものが含まれているとボクは考えているんです。 ■井口監督の恋愛観、女性観を投影したセリフ ――青年期の大門豊(古原靖久)とミスボーグが禁断の愛に陥り、その後、ミスボーグから「あなたに話さなくちゃいけないことがあるの」と言われるシーンは大人の男もドキッとしますよ。 井口 人生はいろんなことがあるんだよってことを描きたかったんです(笑)。大門って純粋な男。正義のため、父親(竹中直人)の復讐のためだけに生きてきた男。そんな男が、使命以外のことを知ったらどーなるのか。もし、オリジナル版の大門が現代社会に生きていたら、どーなるのか、と考えたんです。多分、組織やら会社に疎まれ、つまはじきになって、うつ病になっちゃうんじゃないかと思うんです。 ――あぁ、正義一直線だと、現代社会では"空気の読めないヤツ"になっちゃう。 井口 そうです。大門が考える正義以外にも、企業にとっての正義とか、いろんな正義があることに大門は直面する。そこで大門に様々な体験をさせ、人間として成長していくドラマにしたかったんです。AVや舞台や映画など、ボクがこれまでにいろんな現場で経験してきたことが反映されていると思います。 ――第1部の終盤でのミスボーグ「女はすべてを壊さないと愛を実感できないのよ」、大門「そんなの分かりたくないよ」というやりとりはシビアな男女の会話ですね。井口監督の恋愛観、女性観が集約されているように感じます。 井口 あのシーンに言及してくれる人、あんまりいないんで、うれしいです! "大門は童貞である"というのがボクの解釈なんです。それで自分が童貞だったときに言われて困ったセリフって何だっけなぁと思いながら考えたシーンなんです。今回の『ザボーガー』に出てくる女性はほとんどサイボーグばっかりなんですけど、女たちはみんな、男に向かって過酷なことを要求するんです。 ――自分の信念を貫くのか、愛を選ぶのか、大門の悩みは男全員にとって"究極の選択"ですね。 井口 そうなんです、そうなんです(苦笑)。人生って、しがらみなんです。仕事を取るのか、彼女を選ぶのか。さらに大門が信じる正義にも、いろんな種類の正義が存在することが見えてくる。大門はいろんなものの板挟みになっていくんです。
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NYで井口作品が上映されると、会場はマニア
熱で覆われる。「すごく、うれしい。でも、
その状況に甘えちゃダメだと思うんです」
と堅実なコメント。
――脚本を書いているときは、ご自身の結婚話が進んでいた頃なんでしょうか? 井口 もう付き合い始めてましたけど、まだ具体的な結婚話はしてなかったかな。でも、この作品を撮りながらも感じたことだし、最近もよく思うのが"責任"という言葉ですね。やっぱり、ひとりの女性と一緒に生きていく上で、人としての任務というか責任が生じると思うんです。恋人を自分の家族にするというのは、やっぱりそれはボクの責任だと思うし。大門なら正義をまっとうするという使命があるし。そういうことは、脚本を書きながらも撮影中もずっと考えていましたね。 ――最後に井口ワールドは今後どうなるのか教えてください。マニアックな道を極めるのか、メジャー路線へとシフトチェンジしていくのか? 井口 オファーがあれば何でも撮りたいというのが、ボクのスタンスなんです。自分としては先ほど話したみたいに、人間ドラマを撮りたいんです。ドラマの演出をするのはすごく好きだし、役者さんと芝居を模索しながら作れるものがやりたいですね。今、考えているのは思春期の少年少女を主人公にしたもの。特撮なしで考えています。それに、おじいさんやおばあさんが観ても「面白い」と思ってもらえる作品を撮りたい。高齢化社会と言われているけど、意外とおじいちゃん・おばあちゃんが楽しめる作品は少ないんじゃないかと思うんです。社会問題をテーマに、笑ったり泣いたりできる娯楽作品を撮っていきたいですね。「スシタイフーン」レーベルで作った新作ゾンビもの『ゾンビアス』(2012年2月公開予定)も、もうすぐ完成します。幅広く作品を撮っていきたいなと思っています。意外とまっとうなことを考えているんですよ(笑)。『片腕マシンガール』や『ロボゲイシャ』を撮っているんで、どうしても非常識でアナーキーな人間だと思われがちですけど、そんなことはないんです。信号はちゃんと青になってから渡りますし、ゴミが落ちていたら拾いますよ。常識がないと、逆にハチャメチャな作品は撮れないんです。そのことは声を大にして言いたいですね(笑)。 (取材・文=長野辰次) 『電人ザボーガー』 監督・脚本/井口昇 特殊造型・キャラクターデザイン/西村喜廣 アクション監督/カラサワ イサオ VFXスーパーバイザー/鹿角剛司 出演/板尾創路、古原靖久、山崎真実、宮下雄也(RUN&GUN)、佐津川愛美、木下ほうか、渡辺裕之、竹中直人、柄本明  配給/キングレコード、ティ・ジョイ 10月15日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー公開 <http://www.zaborgar.com> ●いぐち・のぼる 1969年東京都生まれ。8ミリ作品『わびしゃび』(88)がイメージフォーラムフェスティバルで審査員賞を受賞。平野勝之監督らのもとで撮影現場を経験する一方、松尾スズキが主宰する劇団「大人計画」の舞台でも役者として活躍。主な監督作に『クルシメさん』(98)、『恋する幼虫』(03)、楳図かずおの人気コミックを映画化した『猫目小僧』(05)、『まだらの少女』(05)、谷崎潤一郎の文芸作品を映画化した『卍(まんじ)』(06)、永井豪原作コミックをスプラッター化した『おいら女蛮』(06)、北米で爆発的セールスを記録した『片腕マシンガール』(07)、井口流過激なガールズムービー『ロボゲイシャ』(09)、伊藤潤二の原作イメージに近い『富江 アンリミテッド』(11)などがある。TVシリーズ『栞と紙魚子の怪奇事件簿』(日本テレビ)、『ケータイ刑事 銭形命』(BS-TBS)、『古代少女ドグちゃん』(毎日放送)などのチーフディレクターも務めた。自伝的エッセイ集『恋の腹痛、見ちゃイヤ!イヤ』(太田出版)は古書店で見つけたら、ぜひ手に入れたい名著。
片腕マシンガール 世界が認めた才能。 amazon_associate_logo.jpg
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「複雑な感情を、複雑な感情で演じた」『電人ザボーガー』と俳優・板尾創路の複雑な関係

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「お話をいただいた時は、『僕みたいなおっさんでもヒーロー映画の主役ができるんだ』と思うとうれしかったですね」  "ルミネtheよしもと"の控え室、「吉本新喜劇」の出番を終えた彼は、葉巻たばこをふかしながらこう話した。  1974年から全52話がテレビ放送された『電人ザボーガー』(フジテレビ系)が、36年のときを経て劇場版として蘇る。主役の大門豊を演じるのは、芸人一の演技派と賞される板尾創路。 「コミカルで笑える映画でもあるんですが、そういう要素は作品自体が本来持ってるチープさや、強引な設定などに十分詰まっているので、僕は大門豊として感情移入してマジメに演じました。バイクスタントやワイヤーアクションなど、危険な撮影もできるだけ自分でやりましたよ」   そういえば、伝説のコント番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)でも、板尾は度々ヒーロー役を演じていた。そこには"熱血漢"とは無縁の板尾が演じることで漂う奥深さがあり、そのことは今回の起用理由にも共通しているのだろう。  かといって、『電人ザボーガー』がコントちっくなものかといえば、まったく違う。平和を守るため悪に立ち向かい、全力でキックやパンチを繰り出す板尾の姿は、正真正銘のヒーローであった。 「映画は2部構成になっています。古原靖久くん主演の第1部(青年期)は、36年前のアナログっぽさを残しながら撮られていて、僕が出ている第2部(熟年期)は、CG技術やVFXを駆使して作られている。前作をリスペクトしつつもメリハリが効いていて、すごくバランスがいい作品だと思います」 itao100702.jpg  監督は、『ロボゲイシャ』や『片腕マシンガール』の井口昇。過去の井口作品とはケタ違いの総製作費がかけられており、テレビ版からの大胆かつ繊細な調理も、井口ならではの殊功といえよう。近年、映画監督として活躍する板尾も、そんな井口の世界観を賞賛する一人だ。 「以前から井口監督の作品を見て、『ブレのない監督さんやな』と思ってました。自分のやりたいことを最大限にやって、他に類を見ない"井口ワールド"が成立している。作品は独特ですが、ご本人はとても礼儀正しいマジメな方ですよ」  大門とザボーガーの最後の決戦、悲し過ぎるシチュエーションの中で、"正義感"や"無償の愛"などさまざまな感情がぐちゃぐちゃにもつれ合う。そんな壮絶なシーンを、やはり板尾も複雑な心情で演じていたという。 「いわゆる修羅場のシーンですよね。"正義"を信じながらもいろいろな気持ちが入り混じる大門を、僕もとても複雑な感情で演じました。でもこのときの大門は、特に"愛情"が強かったんやないかな」  「普段の僕は、大門を演じているときと違ってイキイキしてないです」と話すクールな板尾だが、ネット上では、『舞台出演中に、客席で具合の悪くなった人を助けたことがあるらしい』との熱いエピソードがうわさされていた。  これを半信半疑で本人にぶつけてみたところ、「3~4年前だったと思います。僕がルミネで新喜劇に出てる最中、客席で男性が倒れていて、舞台から降りて助けに行きました」と、真実であることが判明した。  そんな元来のヒーロー気質(?)である板尾創路主演『電人ザボーガー』は、10月15日よりロードショー。ザボーガーと犯罪組織Σ団の攻防戦はもちろん、サイボーグと人間の奇妙な性描写にも注目だ。 「『ザボーガー』というヒーローをまったく知らなくても、子どもから大人まで楽しめる作品になっています。ぜひ、家族で映画館に見に来てください」 (取材・文=林タモツ) itao100703.jpg 『電人ザボーガー』 監督・脚本/井口昇 特殊造型・キャラクターデザイン/西村喜廣 アクション監督/カラサワ イサオ VFXスーパーバイザー/鹿角剛司 出演/板尾創路、古原靖久、山崎真美、宮下雄也(RUN&GUN)、佐津川愛美、木下ほうか、渡辺裕之、竹中直人、柄本明  配給/キングレコード、ティ・ジョイ 10月15日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー公開 <http://www.zaborgar.com> (c)2011「電人ザボーガー」フィルム・パートナーズ ●いたお・いつじ 1963年、大阪府出身。吉本総合芸能学院(NSC)4期生。91年より『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)にレギュラー出演し、全国区に。バラエティーやコントだけでなく、俳優としても数々のドラマ・映画に出演している。映画監督として『板尾創路の脱獄王』(2010)、『月光ノ仮面』(12年1月公開予定)。
板尾創路の脱獄王 才能バクハツ。 amazon_associate_logo.jpg
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危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』

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死んでも死んでも、図太く生き返る富江(仲村みう)。
「美人薄命」という言葉は富江の辞書にはないのだ。
(c)Junji Ito (c)2011東映ビデオ
 富江は人気者だ。『リング』(98)の貞子、『呪怨』(03)の伽倻子にハリウッド進出は先を越されたが、シリーズ第1作『富江』(99)が公開されて以来、劇場版だけで過去7作が作られている。初代富江を菅野美穂が演じた後、宝生舞、酒井美紀らが"魔性の女"富江を代々演じてきた。宮崎あおい主演『富江 最終章・禁断の果実』(02)で打ち止めになるのかと思いきや、その後もしぶとく甦っている。死んでも死んでも、何度でもタフに甦るのが富江という女の魅力だ。わがままな女王さま気質なくせに、ひとりぼっちを嫌がる寂しがり屋でもある。艶やかな黒髪と左目の泣きぼくろに男は一度魅了されてしまうと、「富江のことを一番愛しているのは自分だ」という強迫観念に囚われてしまう。第8作となる『富江 アンリミテッド』で、今まで以上にチャーミングな富江像を創造したのは井口昇監督。成海璃子主演『まだらの少女』(05)、AKB48の前田敦子主演『栞と紙魚子の怪奇事件簿』(08年/日本テレビ系)といったアイドル系ホラー作品で才能をいかんなく発揮した異能の天才である。  井口監督版『富江』のタイトルロールを飾るのは、仲村みう。ローティーン時代から過激な水着やゴスロリファッションで男たちを悩殺してきた"小悪魔系"タレントだ。2009年には17歳にして、所属事務所の取締役に就任して話題となった。多分、世界でもっとも若くて美しい取締役タレントだろう。最近は松本莉緒、あびる優らギャル系の富江が続いていたので、黒髪でミステリアスな雰囲気を漂わせる仲村みうは、伊藤潤二の原作のイメージに近い適役と言える。今回の富江は、高校で写真部に籍を置く内気な少女・月子の姉という設定。人間でないはずの富江に、妹や両親がいるという異色の設定にまず驚かせられる。妹の月子をティーン誌のモデルとしても活躍する若手女優の荒井萌がナイーブに演じた他、月子が憧れる柔道部の俊夫先輩をACのCMで顔なじみになった大和田健介、井口作品に度々登場するヒロインの親友"よしえ"をAKB48の多田愛佳が演じている。
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富江の奔放さ、ミステリアスさに男たちは虜に
なってしまう。そして、また富江を巡って学園内
バトルロワイアルが勃発する。
 井口監督が紡ぐ悪夢の物語は、血の惨劇で開幕する。月子が美しい姉・富江をカメラで撮影していると、建設中のビルから資材が落ちてきて、富江の首筋に突き刺さる。登場してすぐに絶命してしまう不憫な富江。月子はそんな忌まわしい事故から1年経った今でも、なぜ誰からも愛された姉ではなく、ドジでノロマな自分が生き残ってしまったのかと自分自身を責めながら暮らしている。そんなとき、ふいに富江が自宅に帰ってきた。姉を失った心の傷を互いにケアし合うことで辛うじて成り立っていた月子の家庭は、姉が帰還したことで逆にあっけなく崩壊する。帰ってきて早々に「キャビアが食べたい、フォアグラが食べたい」と富江はわがまま放題だ。月子が「姉さんはおかしい」と訴えると、富江は父親に月子を折檻するように命じる。富江の命令を嬉々として受け入れる父親。母親は助けてくれない。でも、富江はイジワルなだけでなく、傷ついた月子のためにお風呂を沸かして、一緒に入浴することでスキンシップを図ることも忘れない。傲慢なくせに優しい富江。美しいけどグロテスクな富江。矛盾していればしているほど、富江は謎めいていて魅力的だ。
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死んだはずの姉・富江が転校生として再び現
われ、妹の月子(荒井萌)は目が点になってしま
った状態。
 大林宣彦監督の青春ファンタジーの名作に『ふたり』(91)がある。事故で死んだ聡明な姉・千津子(中嶋朋子)は内気な妹・美加(石田ひかり)のことが心配で幽霊となり、妹が一人前になるまで励まし続けるというハートフルな怪談ストーリーだ。大林監督の『ふたり』に出てくる姉は心優しい幽霊だが、井口監督版『富江』の姉はとてもイジワルだ。愛情表現の裏返しで、かわいい妹をイジメ倒してしまう。サディスティックな姉とじっと耐える内気な妹との倒錯した姉妹愛が、井口監督独特の美学として闇夜にひっそりと花を咲かせる。冒頭で富江は「写真は、撮った人の心次第で変わるものよ」と月子に教えるが、その台詞はそのまま井口作品に当てはまる。映画には映画を撮った人の想いも一緒に映り込む。被写体のことが好きすぎて、自分が考えうる最上級の方法で追い詰めて行く井口監督の愛情が映像から溢れ出している。  富江は人間じゃなくてモンスターなのに、妹や家族がいるのはおかしいと思う人もいるだろうが、大林監督の『ふたり』の姉・千津子は妹・美加が生み出したイマジナリーフレンドだったように、『富江 アンリミテッド』は月子が見る悪夢の世界なので、物語に矛盾や破綻があってもいっこうに構わないのだ。とりわけ、月子が通う高校で親友の佳恵(多田愛佳)や柔道部を巻き込む"鮮血の放課後"は、悪夢のテーマパークといった趣きとなっている。悪夢なので、どこまで逃げても、富江は追い掛けてくる。夢から醒めれば富江から逃げ切れることは分かっているが、でも不思議と富江と別れるのは寂しくて、目を醒すことをためらってしまう。もう少し、もうちょっとだけ、富江という悪夢を楽しんでいたくなる。
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月子の親友・佳恵を演じる多田愛佳(AKB48)。
井口作品には"よしえ"という名前の女の子が
度々登場し、いつも悲惨な目に遭う。
 それにしても、"富江"とは一体何者なのだろうか? 富江が現われることで、女たちはその奔放さに嫉妬心を抱き、男たちは富江を愛するあまり独占欲に駆られてしまう。その結果、富江は登場する度に殺され、体をバラバラにされてしまう。それでも富江は甦る。バラバラにされた分だけ増殖して。恋愛という行為が先の読めないミステリーであるように、富江の正体を探ることも一種の官能性を伴う行為である。ひとつの仮説として、富江は人間が普段は封印している"欲望"のメタモルフォーゼと考えられないだろうか。社会生活を営む人間は学校でも職場でも、欲望剥き出しのままでは生活できない。大なり小なり、自分の内側から湧いてくる欲望や感情を押し殺しながら暮らしている。感情や欲望の赴くまま素直に行動すれば、「あいつはおかしい」と社会不適合者の烙印を捺されてしまうからだ。その押し殺した感情や欲望の生まれ変わりが富江なのだ。感情や欲望は押し殺せば押し殺すほど、自分の内側に澱として溜まっていく。富江は忘れかけた頃に突然ふいに現われ、学校や職場を混乱に陥れる。富江は殺しても殺しても何度も甦る。それは自分の内側で本来ずっと生き続けているものだからだろう。  富江はモンスターであるが、同時に言いたいことは何でもズバズバと言う口の悪い親友でもある。また、いつまでも若いままでいたい、異性に振り向いてほしい、もっと自由に生きてみたいと願う自分自身の理想像でもある。井口監督の『富江 アンリミテッド』を観ていると、思春期の頃に妄想していた実にさまざまな想いが次々と甦ってくる。富江のことがますます愛おしく思えてくる。 (文=長野辰次) tomie05.jpg 『富江 アンリミテッド』 原作/伊藤潤二 脚本/継田淳、井口昇 監督/井口昇 出演/荒井萌、多田愛佳(AKB48/渡り廊下走り隊)、大和田健介、大堀こういち、川上麻衣子、仲村みう 配給/ティ・ジョイ、CJ Entertainment Japan R15+ 5月14日より新宿バルト9ほか全国ロードショー公開中 <http://www.tomie-unlimited.com>
富江 こちらは菅野美穂主演。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! 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アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼!

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公開前から、すでに世界7カ国への配給が決定している『戦闘少女』。
杉本有美(中央)、高山侑子(写真右)、森田涼花の3人がミュータントと化し、
ガールズアクションを披露する。(c)2010東映ビデオ
 すまし顔の美女のポスターを見かけると、とりあえず周囲に誰もいないことを確かめた上で、美女の鼻の下にハミ毛を描き足したくなる。ついでにホクロ毛も加えたくなる。美しすぎるものを、この手で汚したい。完璧なるものを壊してやりたい。誰しもが経験する衝動ではないだろうか。普通の大人は頭の中のイメージだけにとどめているこの欲望を、映像作品へと昇華しているのが井口昇監督だ。井口監督の場合は鼻毛どころの騒ぎではない。八代みなせ主演『片腕マシンガール』(08)や木口亜矢主演『ロボゲイシャ』(09)ではヒロインたちを血まみれ地獄へと追い込み、阿修羅と化したヒロインが放つ美しさ、タフさをクローズアップしてみせた。成海璃子初主演映画『まだらの少女』(05)では蛇娘に変身する直前の成海璃子がゾクゾクするほど美しかった。アイドル映画において特殊な才能を発揮する井口監督が、西村喜廣監督(特殊造型家として大活躍!)、坂口拓監督(アクション俳優として超人気!)という同志たちと強力スクラムを組んだのが『戦闘少女』なのだ。  『戦闘少女』で3人の特殊クリエイターに選ばれたのは、雑誌モデル出身の新進女優・杉本有美、自衛隊全面協力映画『空へ 救いの翼』(08)に主演した高山侑子、アイドリング11号こと森田涼花の3人。『X-MEN』よろしく、3人の美女たちがミュータント戦士として己の運命、そして巨大な敵と戦う。お尻から飛び出した武器で戦うなど『ロボゲイシャ』の井口監督らしいお茶目なギャグあり、『東京残酷警察』(08)の西村監督らしい戦慄の血しぶきシーンあり、実写版『魁!!男塾』(08)の坂口監督らしい生身のアクションシーンあり。アイドル映画の枠を遥かに飛び出した、オーバーフロー気味のエンタテイメント快作となっている。  ストーリーは、『バビル2世』『幻魔大戦』といった往年の名作コミックを彷彿させるもの。女子高生の凛(杉本有美)はクラスメイトからの陰湿なイジメに耐え忍ぶ日々を過ごしていた。しかし、16歳の誕生日に凛に異変が起きる。右腕が疼いて仕方ないのだ。学校から帰ってきた凛を両親は優しく迎え、バースデイケーキで娘の誕生日を祝う。「凛、誕生日おめでとう」。そして父親は自分がミュータントであることを告白する。ガガーン! じゃあ、私にもその血が流れているの? そこへ武装集団が襲いかかり、両親を血祭りに。せっかくのバースデイケーキがクランベリーソースでなく、血のソースでデコレーションされる。ミュータントとしての潜在能力を発揮し、その場は逃れた凛だが、もはや人間として見られることはなかった。やがて凛はミュータント仲間である玲(高山侑子)、佳恵(森田涼花)らと出会い、人間vs.ミュータント族の果てしない抗争に巻き込まれていく。
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怪しいムードの中、鉄仮面を被せられる凛(杉本
有美)。東映ビデオ製作ということで、『スケ
バン刑事 少女鉄仮面伝説』(フジテレビ系)や
『女番長』シリーズへのオマージュあり。
 本作の注目点は、やはり『トリプルファイター』のごとく奇跡の合体を果たした井口&西村&坂口の3監督によるコラボだろう。ライバル心むき出しの監督たちがバラバラに撮ったオムニバス映画と違って、気の合う3監督がそれぞれの特性を活かした演出を施している。家から逃げ出した凛が商店街で"15人斬り"に挑む第1章はアクションを得意とする坂口監督、ミュータント一族に合流した凛が女同士の友情を育みつつ、人間たちを復讐することに苦悶するドラマ部分の第2章は総監督である井口監督、凛&玲&佳恵が強化スーツを装着して活躍するクライマックスの第3章は特殊効果のスペシャリスト・西村監督、と一応の担当パートを決めてから撮影を進めたとのこと。だが、現場が大好きな3監督は、他の監督が撮影中も現場に待機してアシストに努めた。坂口監督がアクション演出で熱くなっているときは、西村監督がカメラを手にクレーンに上がり、西村監督が手いっぱいのときは、井口監督がキャスト陣に優しく毛布を掛けてあげるなど、きめ細かいフォローが行なわれたそうだ。お山の大将タイプの映画監督には普通こうはできないもの。予算規模に関係なく、「とにかく面白い映画をつくりたい」と願う3監督だからこその連携プレーだったに違いない。  現在、劇場版『電人ザボーガー』の製作で忙しい井口監督だが、日刊サイゾー向けに特別にコメントを寄せてくれた。共同監督というシステムの利点について、こう語っている。 「自分の得意分野に専念できて、いい意味で肩の力を抜いて作品に挑むことができたと思います。坂口監督の第1章、西村監督の第3章もそれぞれ監督の色が出ている。この作品はまとまらなくてもいい、バラバラでもいいんだと思いながらやっていたので、ふだんの監督作より気持ち的に楽でした。自由な力が働いて、本能のおもむくままに監督したという感じ。でも、3人で打ち合わせもしていないのに、出来上がった作品はキチンとひとつの作品として成立していますよね。自分の監督ではないパートでは、コーヒー飲んだりお菓子食べたりしていられたのも良かった(笑)」  かつての日本映画界では、それぞれピンを張る実力派の脚本家である菊島隆三、小国英雄、橋本忍の3人が旅館に篭って、黒澤明監督の娯楽大作『隠し砦の三悪人』(58)の脚本を練り上げた。鈴木清順監督の傑作カルト映画として知られる『殺しの烙印』(67)に脚本家としてクレジットされている"具流八郎"は美術監督の木村威夫、アニメ『ルパン三世』の脚本家・大和屋竺らによる創作集団だ。個性豊かなメンバー間のブレーンストーミングによって、日本映画史に残る奇妙奇天烈な作品が生まれた。70年代の全盛期には視聴率30~40%を稼いでいたテレビ時代劇『水戸黄門』(TBS系)の脚本家"葉村彰子"は、プロデューサーの逸見稔をはじめ、任侠映画の大御所・加藤泰監督、『仮面の忍者 赤影』の山内鉄也監督、ホームコメディの名手である脚本家・松本ひろし、紅一点・向田邦子ら創作チームの名称だった。それだけの才能が集まって、アイデアを出し合えば面白い作品にならないはずがない。面白い映画、ドラマにはちゃんとした理由があるのだ。  話題を『戦闘少女』に戻そう。井口監督が特殊な才能に目覚めた過程を赤裸々に綴った名著『恋の腹痛、見ちゃイヤ!イヤ!』(太田出版)の中で、中学2年のときに本屋で団鬼六の官能小説『花と蛇』を立ち読みし、SMの世界に感電してしまったと告白している。美しい女性がイジの悪い女中にイビられて身悶えする姿を想像するのが、三度の飯よりも大好き。井口監督のそんなマニアック嗜好を、また別の特殊才能を持つ同志たちがサポートし、ポップでキュートなトラウマ絵巻が繰り広げられる。  井口監督にとって自分の頭の中の妄想を具象化できる"映画監督"という職業は天職だろう。しかし、キャスティングされた女優陣の全員が井口ワールドを完全に理解した上で参加しているわけではない。そこには見えない火花が散り、現場には緊張感が漂う。ただの妄想ワールドではなく、監督vs.女優、フィクションvs.リアルの攻防があり、それゆえに作品に奥行きが与えられる。『プラトニック・セックス』という飯島愛のベストセラー小説があった。読んではいないが、多分それっぽく言えば、井口監督は"プラトニック・サディスト"なのだ。井口監督はアイドル女優が演じる健気なヒロインを徹底的に追い込んでみせる。耐えて耐えて耐え忍んだアイドル女優の内面で何かが弾け、輝き始める。  井口監督にアイドル映画を撮らせると天才的才能を発揮する。しかし、正確にいうと、それはもうアイドル映画ではない。"純愛系SM映画"と呼んだほうが正しいだろう。アイドルマニアよ、身震いしながら『戦闘少女』を観るがいい。 (文=長野辰次) iguchi0519_2.jpg『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』 監督/井口昇、西村喜廣、坂口拓 出演/杉本有美、高山侑子、森田涼花、坂口拓、島津健太郎、亜紗美、川合千春、いとうまい子、津田寛治、竹中直人 配給/東映ビデオ 5月22日(土)よりシアターN渋谷、池袋シネマ・ロサ(レイトショー)、名古屋シネマスコーレ(レイトショー)ほか全国順次公開 +R15 <http://www.sentoshojo.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学