
リングス・前田日明が主催するアマチュア総合格闘技大会『THE OUTSIDER』(以下、アウトサイダー)。暴走族、チーマー、ギャングなどの「不良」をリングで戦わせ、格闘技を通じた更生を促すイベントとして人気を集めているが、7年目に突入した今、前田は何を思うのか? 昨年起きた乱入事件の顛末と余波、大会維持の苦労と今後の展望、そして多くの不良と接することで学んだ子育ての神髄などを、格闘王が語り尽くす!
──2008年3月に産声を上げたアウトサイダーも、いよいよ7年目に突入。安定期に入ったと言えるのでは?
前田日明(以下、前田) 全然安定期に入ってないですね。やはり世間の目ですよね。以前から何も変わってなくて……。昨年9月の大阪大会で事件【編注:大阪の地下格闘技団体『強者』の関係者がアウトサイダーの会場に乱入し暴れた事件】があって、世間が我々をどういうふうに見ていたのかということを、強く再確認しましたね。選手から一銭も取らずに、安いチケット料金で応援団も入りやすくして、選手のやる気を出すために賞金まで出して……。ランニングコストを入れると、ディファ有明なんかでは満員になっても赤字ですよ。そういう大会をコツコツ真面目にやってきたつもりなんですけど、世間はそうは見てくれていなかった。
──と申しますと?
前田 事件のあと、スポンサーが3分の2、いなくなりました。放映権料も減額です。正直言って、興行を維持するのが苦しい状態ですよ。だから今、スポンサー探しに孤軍奮闘してますけど、これがなかなか……。
──スポンサーを降りた人たちの声は?
前田 みな、コンプライアンスの問題だと言いますね。格闘技を通じた不良更生という大会趣旨を重々承知の上で協賛してくれていたはずなのに、今さらなんで? とビックリですよ。
──前田さんは一貫して、コンプライアンスを徹底していますよね?
前田 徹底してますよ。今回の事件についても完全に対処しました。事情聴取のために大阪府警の方々が東京まで何度も来てくれたし、自分らも大阪まで何度も足を運びました。
──昨年12月の大阪大会は厳戒態勢でしたね。
前田 アウトサイダーが用意したセキュリティーは110名。全員プロです。警察も90名ほど来て、機動隊のバスも2台。警察からも「サミットができる」と言われましたよ(笑)。
──結局、あの乱入事件の犯人たちは、何が目的だったのでしょう?
前田 俺を挑発して、暴れさせたかったんでしょう。俺が問題を起こせば、アウトサイダーが興行を打てなくなる。彼らは自分たちの団体から、アウトサイダーに選手が流れるのを恐れて、アウトサイダーを潰しにかかった。やり方が用意周到でしたね。ある一班が外で不法駐車して警察を巻き込んで暴れる、別の一班が近くのマンションから消化器を盗んで会場でぶちまける、そして別の一班が消防署に「火事です」と通報する……といった感じに、分担して計画的にやったみたいですね。
──事件後も、彼らから嫌がらせは?
前田 ありましたよ、いっぱい。昨年12月の大会前には、地元・大阪の選手全員や、うちの中心選手に、「(アウトサイダーには)出るな」という脅しが入りました。結果、地元の選手も出ない、地元選手の応援団のチケットも売れない、さらには警備上の問題で2階席も使えないという三重苦で、アウトサイダーの資金を全部吐き出しちゃった感じですね。今はなんとか存続させるために必死でやってます。俺、今年の1月から給料を取ってないんですよ。本当に。

選手からの信頼も厚い
■アウトサイダーにはヤクザのヤの字もない
──今回の事件を踏まえて、地下格闘技とアウトサイダーの違いをあらためて教えてください。
前田 地下格(闘技)は結局、金儲けじゃないですか。リングサイド、いくらですか? 3万とか5万円とかで売ってるでしょう? アウトサイダーは1万円ですよ。地下格で賞金、いったいいくらですか? 出ないでしょう。そのくせ彼らは選手たちに切符を売るノルマを課して、売りに行っても売れないから暴れたりする。うち、そんなことしませんよ。リングスのほうから何枚売ってくれとか一度もない。あり得ない。
──その他、違うポイントは?
前田 少なくとも、人から感謝されることはあっても、非難されることはないですね。過去にいろんな親御さんから感謝の手紙をもらったこともありますし。それに、地下格はほぼ例外なくヤクザとつながってるけど、うちはそういうつながりは一切ない。なんなら自分の身辺調査をすればいいですよ。ヤクザのヤの字も出てきませんから。うち、選手に弁護士もいるんですよ。弁護士が、黒い大会に出るわけがないでしょう。
──アウトサイダーで名を売ったあと、各分野で活躍している選手も多いですね。
前田 黒石(高大)は俳優として頑張って前田敦子のPVにまで出るようになったし、武井(勇輝)なんかはアパレルの世界で成功してる。そういう選手が、地下格にいますか? 選手に正当な道を歩ませるような大会が、ありますか? ないでしょ。せいぜいヤクザの言いなりになって暴力振るって、逮捕される子が出るぐらいのもんでしょう。
──乱入事件の実行犯らも続々と逮捕されていますね。
前田 警察は地下格を全部潰していく方針らしいですね。うちでも使ってるあるレフェリーは、いろんな地下格でもレフェリーをやってたらしいんですけど、先日とうとう彼にも警察から指導が入りました。「もし今後も地下格でレフェリーをするなら、暴力団と利益を共有する密接交際者と認定する」と。そうなると、銀行取引や保険取引が一切できなくなるんですよ。
──警察はそこまで来てますか。
前田 来てます。
──そんな中、アウトサイダーにもゲスト来場し、前田さんとも親しかった出版プロデューサーの高須基仁さんが、地下格闘技の興行に乗り出すという話があります。
前田 あれも結局、警察に潰された連中が、自分たちでは興行を打てないから、高須さんに目を付けて、担ぎ上げただけのことでしょう。高須さん、わかってないんですよ。一度そういう(密接交際者の)認定を受けちゃうと、彼が経営するモッツ出版も終わりますよ。本当にヤバい。軽い気持ちでやると、えげつないことになりますよ。それぐらい暴力団排除条例はハンパじゃないです。それをみんな、わかってない。わかってるのはヤクザだけです。だからヤクザは半グレの子たちを手先として使うんです。そこへノコノコ、高須さんのようなノリのいいおひとよしが来たら、まさに飛んで火に入る夏の虫ですよ。
──高須さんの主催大会は8月に開催予定らしいです。
前田 やったところで大赤字ですよ。そのへんのガキンチョの集まりに、誰が3万や5万出します? 1万円でさえ、チケットを売るのは大変なのに。アウトサイダーがこうして何年も続いてるのは、利益を度外視してやってるからですよ。金がなくなれば、身銭を切ってるからですよ。
──そうまでして続けたいと思う動機は?
前田 動機もクソもないですよ。アウトサイダーをやるまでは、平成の満ち足りた世の中で何をグレることがあるんだろうと不思議だったんですけど、よくよく話を聞くと、本当に不幸な連中も大勢いるんですよね。例えば宮永(一輝)っていう選手は、生まれてこの方、父親の顔も母親の顔も知らない。そのくせ彼は「若いときは両親を恨んだが、今は元気で幸せでいてほしい」なんてことを、リング上でスピーチしたんですよ。彼は以前、実家らしき場所を探して訪ねていったら門前払いされたこともあるのに、そういうけなげなことを言う。これは不幸の闇が深いな、と。なんとかしてやんないといけないな、と。アウトサイダーを通じて、そういう子たちに寄り添ってやりたいんです。
──アウトサイダーの出場者に話を聞くと、前田さんのことを「心の父」と思っている選手が多いです。
前田 確かに、親に反抗するみたいな感じで突っ張ってくる子が多いですよね(笑)。彼らと付き合って、ひとつわかったことがあってね。子どもを育てるときに一番大事なことは何かというと、その子の反抗期に親が真摯に受け止めてあげることなんですよ。あとは、幼児期のスキンシップ。幼児期の深い傷は、人格的なトラウマになる。そして反抗期の受け止め方を間違えると、その子はもう価値観がひっくり返ってしまって、あらぬ方向に行ってしまうんですよね。
──具体的に、どう受け止めるべきだと考えますか?
前田 ダメなことはダメだということを、はっきり教えてやるべきですよ。親はね、特に父親は、自分の子どもに対して、これを言ったら嫌われるだとか、これをしたら嫌われるだとか、そんなことはどうでもいいんですよ。父親の言うことを理解してもらうのは、父親が死んだあとでいいんです。でも言わなきゃいけないし、やらなきゃいけないんですよ。言って聞かなきゃ、殴らなきゃいけないんです。
■6月22日大会の見どころは?
──選手に説教したことは?
前田 しょっちゅうです。このあいだも、ある選手の応援団がリングに椅子を投げ込んで、それがラウンドエンジェルに当たった事件があったんです。で、ラウンドエンジェルの所属事務所から、賠償だなんだで100万200万請求される事態になって……。だから、椅子を投げた奴と、その友人の選手を呼びつけて土下座させて、2時間みっちり説教しました。
──一件落着しましたか?
前田 一件落着させました。ちゃんと金も出させました。何百万ではないけどね。二人とも猛省してましたよ。椅子を投げた奴は26歳。小2で父親を亡くすなど複雑な家庭で育ってはいるんだけど、それにしたって26歳にもなって何をやってるんだ、と。女手ひとつでお前を育ててきた母親の気持ちを考えたことがあるのか、と。思いっきり怒りましたよ。
──いろいろと大変ですね……。
前田 昔は構われすぎて反抗して一時的に不良になるけど、ある程度の年齢になったら親の言ってることの意味がわかって、「あ、俺、格好わりーな」と気付いて更生するパターンが多かった気がするんです。それが今は、放任主義の名の下の無関心なんですよね。子どもに対して。精神的な捨て子が多いんですよ。だからみんな、根を下ろす場所を探してる。だけど根を下ろせない。だから不安定なんです。自分の好きなことをやりたいけど、それさえもわからない。それを見つけたところで、根を下ろせるかどうか不安なんです。
──不良の質が昔と変わってきている、と。
前田 昔の不良には帰る場所があった。「家」ですよ。頑固オヤジに5~6発ドツかれるけど、謝れば家に入れてくれる。今はそれさえもない。家に帰っても真っ暗で誰もいない、っていうケースが多いんですよ。
──そういう若者たちにとって、アウトサイダーが「家」になっているのかもしれませんね。父親役ともいえる前田さんが2時間本気で説教すると、人の心は変わるものですか?
前田 変わると思いますよ。俺ははっきり言いますからね。ダメなもんはダメ、ならぬことはなりませぬ、と。椅子を投げた奴も刺青入った不良でしたけど、俺に叱られて泣いてましたよ。きっとこれまで真摯に向き合ってくれる大人がいなかったんでしょう。子どもって、ムキになって向き合ってほしいんですよ。生の感情でね。怒ったなら怒った感情で怒ってほしいし、褒めるなら褒める感情で褒めてほしい。怒ってるのに褒めるとかのウソは俺も嫌だし、子どもたちにも逆効果ですよ。
──そんなアウトサイダーですが、6月22日にディファ有明で行われる次回大会では、初めて女子選手が出場しますね?
前田 更生はいいけど、なんで男女差別するのか? と言われて、それもそうだな、と(笑)。俺は感覚が古い部分もあって、女の子が殴り合って顔が腫れるのはどうなんかな、見てられないな、と最初は思ったんだけど、いろんな人に話を聞いたら、今は女性モデルがボクシングをやるような時代ですよ、と言われて。ああ、そういう時代なのか、と。
──女子選手は、どこで探したんですか?
前田 公募しました。一人は武井(勇輝)の道場からのエントリーです。女子の試合は初めてなんで、危険要素をなるべく減らして、とりあえず1試合、様子見でやってみます。で、回を追うごとに女子の試合を増やしていって、応募者が増えてきたら女の子だけの大会をやっても面白いかもね。
──そのほか、近未来のビジョンは?
前田 不良だけに限定せず、まだ見ぬ才能を発掘して世に送り出す場として定着させていって、やがてアウトサイダーという大会を海外にも広めていけたらいいですね。
(取材・文=岡林敬太)
【次回大会告知】
『THE OUTSIDER第31戦』
2014年6月22日(日曜日)東京・ディファ有明
14:00開場(予定)15:00開始(予定)
SRS席/10,000円
RS席/7,000円
S席/6,000円
リングス公式サイト
http://www.rings.co.jp