"歩く伝説"山本又一朗プロデューサー 小栗旬初監督作の舞台裏を存分に語る!(後編)

mataishi02.jpg
前編はこちら ■『愛・旅立ち』は長谷川和彦監督の復帰作だった!? ──後半は"又一朗伝説"について少々聞かせてください。『愛・旅立ち』では当時噂になっていた近藤真彦、中森明菜の共演をよくぞ実現させましたね。 又一朗 あの作品に関して、いろいろと感じるところがあります。ジャニーズ事務所は近藤真彦をはじめ人気スターを多数抱え、映画でもヒット作を連発していた。そこに中森明菜という歌手としてだけでなく、俳優としても非凡なものを持った表現者が現れた。自分勝手な感想ですが、残念なことに、『愛・旅立ち』の後、彼女の可能性をさらに伸ばしてあげるものを用意することが我々にはできなかった。あのときの彼女は初めてやる映画に対し、怯えがあった。自分よりもっと大きな存在が作品を背負ってくれ、その脇で出演するなら、というのが彼女の希望でした。そこで当時彼女が所属していた研音のOKをもらって、メリー喜多川さんのところに話を持っていき、俳優として歌手として乗りに乗っていた近藤真彦との共演が実現したんです。 ──中森明菜が幽体離脱するスピリチュアルムービーとして最初から企画されていたんでしょうか? 又一朗 『愛・旅立ち』はある種のスピリチュアルムービーだったんだけど、元々は超能力者を描く全然違う内容の企画を用意してました。『太陽を盗んだ男』の長谷川和彦監督の6年ぶりの監督作になるはずだったんです。ゴジ(長谷川監督の愛称)が脚本も書いてくれて『PSI』という、サイキックの頭文字から取ったタイトルでした。面白い内容だったけど、予算が8~9億円かかるものでした。今ならCGを使えば、もっと安くできたんだろうけどね。でも、『太陽を盗んだ男』のときに予算オーバーしてしまったので、ゴジもオレも業界で札付きだった(苦笑)。同じ失敗をプロデューサー、監督としては繰り返せないでしょう。ゴジも思い込んだら一途な性格だから、予算に収まるように脚本を変えることはやらないわけです。ジャニーズ事務所と研音からも「長谷川監督も悪くないけど、マッチの映画を撮ったことのある舛田利雄監督なら心配がない」という意見が出てね。それで舛田監督が、超自然現象の話は面白いから、それなら当時流行っていた丹波哲郎さんのベストセラー『死後の世界の証明』(広済堂ブックス)的なものを若者向けにやろうということで、ああいう内容になった。途中で企画や監督が代わってしまったけど、みんなが面白がる着地点があったので完成まで辿り着いたんです。まぁ、マッチと明菜に関するホントに可愛らしい明るいエピソードもあるけど、それはボクが墓場まで持っていきます(笑)。
mataichi04.jpg
山本又一朗プロデューサーは小栗旬を15歳の
ときから育ててきた。「旬とはお互いに学び合
う関係ですよ。自分の箱庭の中にアイツを閉じ
込めておこうとは考えていません」と又一朗
氏は語る。
■あまりに過激すぎる又一朗・大阪伝説!! ──『クローズZERO』ですが、あの作品は大阪でやんちゃだった三池崇史監督の青春時代を投影した作品という認識だったのですが、実は山本又一朗プロデューサーの自伝的色彩も強いんじゃないでしょうか? 又一朗 いや、当然ながら髙橋ヒロシさんの原作コミック『クローズ』(秋田書店)ありきの世界ですよ。そこに武藤省吾という新進気鋭の脚本家が加わり、さらに三池監督という名匠を得ることができた。ボクの高校時代の話はねぇ、大阪にまだ知り合いが多いからあまりできないんだなぁ(苦笑)。まぁ、高校時代のボクは、ワルでした。今は温厚な顔をしていますが、その頃のボクの人相はかなりなものでね......(iPhoneに取り込んである高校時代の写真を見せる)。 ──ごっつい男前。浪速の石原裕次郎ですね! 又一朗 ハハハ、大阪であんまり暴れすぎたので、兄が東京へ強制送還したんです(笑)。バイクも乗り回してたし、よく遊び回っていたけど、照れ臭くて女の子とは遊ばなかった。硬派ってわけじゃないけどさ。それが、今ではこんなに女性好きになるとはね(笑)。 ──強制送還された経緯を教えてください。 又一朗 阪急梅田駅で他校の有名な不良とぶつかったんだ。「こらッ、ボケッ!! どこ向いて歩いとんじゃ!」「アホンダラ! おのれから当たっとってッ」とね。相手は鋭く磨き上げたヤスリを学ランの内ポケットに入れて持ち歩いている札付きのヤツでね、傷害事件を2度起こして保護観察処分になっているらしい。後から知って、震え上がりました。地元の高校生たちの間で決闘場として知られていた田んぼがあってね、「勝負するから、10日後そこに来い」と呼び出されました。自分は刺し殺されるに違いないと、夜も眠れなかった。眠ると自分が刺される夢を見て、びっしょり寝汗をかいて目が覚めるという日が続いたんです。周囲は「謝ればいいじゃないか」というけど、でもあの頃ってどうしても謝れないものなんですよ(笑)。それで友達のYくんの家にあった日本刀を1日だけ拝借したんです。日本刀は重いから、振り下ろすときは腰を落とさないと自分の足を斬ってしまうので気をつけろって言われてね。夜中に暗闇の中でこっそり振り回す練習をして......。オレは、何してんだろうと......(苦笑)。いよいよ当日がやってきて、もう、それまで10日間溜め込んでいた恐怖が爆発して日本刀をかざして向かったところ、それまで「おい、こら」と言っていた相手が「や、山本くん、危ないよ!」と(笑)。「得物を持っとんのはそっちが先じゃい」ってね。人間が恐怖でおののく表情を初めて見ました。今、考えればホントについてた。自分も傷つかず、誰も傷つけなくて済んだ。
mataichi06.jpg
山本又一朗プロデューサーの若かりし頃の写真を
ご提供いただいた。肉食系の超イケメンでは
ないか。
──『クローズZERO』の世界、そのまんまじゃないですか。 又一朗 『クローズZERO』はピュアな世界だけど、自分の場合はもっとドロドロして生々しかったね。でも、「あの男を倒さないと、オレの明日はない」という気持ちは『クローズZERO』の世界と通じるものでしょうね。それで、そのまま大阪にいてはロクな人間にならないと案じた兄が、東京の高校へ転校するように手続きをしたわけです。言わば東京に島流しになったんだけど、東京は広い。観たいモノが全てある。天変地異の大展開。日本刀を振り回してた高校生はやがて出版業界に出入りするようになり、そして映画の世界に関わるようになったんです。ハハハ、この続きはまた次回やろうよ!  面白すぎる山本又一朗伝説。出版界での修行時代、世界を股に掛けた武勇伝など、まだまだ聞きたいことは尽きない。現在、企画準備中の新作が完成した暁には、ぜひとも伝説の続きを! (取材・文=長野辰次) ●『シュアリー・サムデイ』 プロデューサー/山本又一朗 監督/小栗旬 脚本/武藤将吾 音楽/菅野よう子 出演/小出恵介、勝地涼、綾野剛、鈴木亮平、ムロツヨシ、小西真奈美、妻夫木聡、遠藤憲一、岡村隆史、須賀貴匡、阿部力、笹野高史、モト冬樹、横田栄司、竹中直人、吉田鋼太郎、大竹しのぶ、原日出子、上戸彩、井上真央 配給/松竹 7月17日(土)より全国公開 <www.surely-someday.jp> ●やまもと・またいちろう 1947年鹿児島県出身。さいとう・たかを、小池一夫らに師事し、劇画原作の修行を積んだ後、映画・テレビ業界へ。映画プロデューサーとして、ジャック・ドゥミ監督を起用した実写版『ベルサイユのばら』(79)、長谷川和彦監督による日本映画史に残る金字塔的作品『太陽を盗んだ男』(79)、幽体離脱した中森明菜のロードムービー『愛・旅立ち』(85)、三島由紀夫の過激な生涯を緒形拳主演で映画化した『Mishima』(85)ほか数多くの話題作を製作。芸能プロダクション「トライストーン・エンタテイメント」の代表取締役でもあり、所属俳優・小栗旬を『あずみ』シリーズ(03、05)、『クローズZERO』シリーズ(07、09)でスター俳優へと育て上げた。
クローズZERO スタンダード・エディション こんな高校じゃなくてよかった。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 "小栗旬の後見人"山本又一朗が明かす『TAJOMARU』の過剰すぎる舞台裏!! 「音楽が一秒で降りて来る瞬間、それは幸福な体験」音楽家・菅野よう子の世界(前編) 「小栗旬の映画に出たい!」主演切望の上戸彩&長澤まさみが波乱を呼ぶ!?

"歩く伝説"山本又一朗プロデューサー 小栗旬初監督作の舞台裏を存分に語る!(前編)

mataichi01.jpg
映画を作ったからには必ずヒットさせなくてはいけない。
『太陽を盗んだ男』(79)をヒットに導けなかったことは、
山本又一朗プロデューサーのその後の映画人生に大きな影響を与えた。
 熱い。熱すぎる。日本映画界において、火傷しかねないほどの情熱を作品に注ぎ込む男がいる。メジャー映画らしからぬ、型破りの話題作を常に提供する"生きた伝説"、その名は山本又一朗プロデューサー。29歳にして日本映画史に残る大傑作『太陽を盗んだ男』(79)を放ち、コッポラとルーカスを製作総指揮に迎えた『Mishima』(85)はカンヌ映画祭で芸術貢献賞を受賞(ただし日本未公開)。スピリチュアルムービー『愛・旅立ち』(85)では、当時の大人気スター・近藤真彦と中森明菜を共演させるというミラクルキャスティングを実現させている。また、小栗旬が所属する芸能プロダクション「トライストーン・エンタテイメント」の代表でもあり、小栗旬を主演に据えた『クローズZERO』(07)シリーズのヒットは記憶に新しいところ。映画製作のスリリングさは、すでに『TAJOMARU』(09)の際に語ってもらったが、まだまだ"伝説"について聞きたいことが山ほどある。『シュアリー・サムデイ』の裏話と共に、山本又一朗プロデューサーの伝説の一部をお届けしよう。 ──『シュアリー・サムデイ』は人気俳優・小栗旬が27歳で初監督に取り組んだことで話題を集めています。『クローズZERO』から『TAJOMARU』まで、働きに働いた事務所の稼ぎ頭へのご褒美としてGOサインを出したんでしょうか? 山本又一朗氏(以下、又一朗) いやいや、とんでもない! 映画はご褒美なんかで、やれるもんじゃありませんよ。この作品はね、何よりも小栗が「映画を作りたい」と昔からずっと抱いていた情熱が形になったものなんです。旬に初めて会ったのは、まだアイツが15歳のとき。16歳の頃に食事をしながら「将来、どんな役をやりたいんだ?」と聞いたら、「ボク、監督やりたいです」と答えたんですよ。俳優を志す者の夢としては、最初から他の者と違ってた。ま、それから7年間、旬は俳優業に勤しんだわけだけどね。 ──『花より男子』(05/TBS系)で人気に火がつき、映画『クローズZERO』シリーズのヒット、さらに蜷川幸雄演出による舞台『カリギュラ』の成功で若手俳優の筆頭格に躍り出ました。
mataichi03.jpg
小栗旬初監督作『シュアリー・サムデイ』。
高校を退学処分になった巧(小出恵介)たち
バカ仲間は、美女と3億円をめぐってヤクザ
と抗争を繰り広げる。小栗監督が演技力を認め
る若手俳優たちが集結した。
(c)2010「シュアリー・サムデイ」製作委員会
又一朗 24歳という年齢は、ひとつのターゲットだった。順調に伸びている旬を24歳で一人前の俳優に、世間にきちんと名前の知られる存在にしようと考えて照準を当てていたんです。『クローズZERO』は旬の俳優としての実力を知らしめるために周到に準備していたビッグプロジェクトでした。旬は父親が厳格な舞台監督で、また比較的若い頃から礼儀に厳しい俳優の世界に入ったこともあり、グレることはなかったわけだけど、アイツの内面には、何か抑えがたい熱いものがあるのは分かっていました。絶対、『クローズZERO』をやるにふさわしい奴だとね。それに蜷川さんの舞台を2作品、『お気に召すまま』と『カリギュラ』。どの一本をとってもヘビー級の作品群。さらにはテレビの連続ドラマ『花より男子2』(TBS系)、『花ざかりの君たちへ』(フジテレビ系)、『貧乏男子ボンビーメン』(日本テレビ系)の収録。だから07年から08年にかけての旬のスケジュールは大変過酷なものになってしまった。実は旬が16歳のときに映画監督をやりたいと言ったなんてことは、こっちもすっかり忘れてましたよ。俳優として一人前になるという目標に向かって打ち込んでいたので、それどころではなかったですね。ところが、アイツが23歳のときに、ロケなどでよく世話になっている広島のホテルのオーナーが、改装オープンしたんで遊びに来いと誘ってくれて、旬と新幹線に乗ったんです。乗るといきなり旬が「ボク、監督したいと思ってるんですけど......」と。「おぉ、確か昔そんなことを言ってたな」と、16歳の頃の旬の顔が浮かんだんですよ。「こいつ本気で考えていたのか......」とね。ボクは前日、深酒して寝てなかったので車中で寝る気でいたのに、旬が鞄から台本を出してきてね。何ページか抜けていたんだけど(笑)。それが武藤将吾が書いた『シュアリー・サムデイ』だった。睡眠不足なのに、面白くて最後まで一気に読んでしまった(笑)。 ──小栗旬は「いつか必ず、映画製作を」と、『花ざかりの君たちへ』の若手脚本家・武藤将吾と密かに映画の企画を練っていた。 又一朗 武藤さんの脚本はジャンプ力があり、話の流れを平気で断ち切り、どんどん展開を飛ばす独特の面白さがある。当時同じ20歳代である2人の創作した脚本は、とても新鮮に感じられました。でも、だからといって23歳の売り出し中の俳優に即映画を任せるわけにはいきません。まず、小栗旬を俳優として押しも押されぬ存在にすることが先決でした。ある意味、映画監督をやると俳優としては横道に逸れることになる。24歳という節目を迎えて、まず俳優としてやらねばならない企画が目白押しだったんです。それで「旬、この脚本は面白い。いつかきっと映画化しよう。だけど、今じゃない。それよりこの脚本家をオレに紹介してくれ」と。そういう経緯で、小栗旬主演作として準備を進めていた『クローズZERO』の脚本家に武藤さんを選んだんです。『クローズZERO』の前後は、本当に旬も大変だったでしょう。それこそ寝る間もない1年間は、役者としていいことも嫌なこともたくさん味わったはず。演じるために思考する余裕も、台本を覚えるための最低限の時間もない中で、小栗旬は俳優として急速に成長した。またそういう状況を乗り切ったことで、実は監督をやるときに必要な"人間力"のようなものを身につけていったと思いますよ。だけど、あまりに多忙になりすぎて、旬のスケジュールは次々にやってくるオファーで流され気味になっていたんです。そんなある日、旬が「来年、この映画を撮れないから、もう諦めます」と言ってきた。なんで諦めると口にしたのかと、これはオレの推測なんだけど、若い頃の、旬自身まだ10代の気分の残っているうちに撮りたかったんじゃないかな。年齢を重ねてからでは空気感が損なわれてしまうと考えたんだろうね。旬は極めて自己内省力の強いタイプ。他人の言葉だけではなく、自分の口から発した言葉も、その後もずっと考えて検証したりするような性格の持ち主。その頃の旬は「最近のオレって、面白いですか?」なんて周囲に尋ねたりしていましたからね。そんな言葉が聞こえてきて、ひとつのいい区切りだなと感じたんですよ。「よし、映画やろうか」と。それで思い切って旬のスケジュールを監督をやるために空けたんです。 ──初監督作品ながら全国186館での一斉公開。本人はもっとインディペンデント的な作品を考えていたんじゃないですか?
mataichi05.jpg
又一朗 それは感じました。もっと自主映画っぽいものを本人は考えていたようです。ボクとしても初めての監督作品なんだから、なるべくプレッシャーのかからないような形にしたいとは思っていたんです。でもね、旬の熱意に周囲が応じ、キャスティングをはじめ、予想以上に豪華なセットアップになってしまった(苦笑)。それに従って出資会社も次々と増えていったわけです。初監督である旬に100kgとは言わないけど、80kgくらいの重荷は背負わせた形になったかな。 ──キャスティングは小栗監督が自ら? 又一朗 旬は一緒にやりたい俳優リストを用意していました。各事務所からお小言を受けながらも、旬から積極的に当たっていました。そりゃ、事務所を通さずに、俳優本人に直接出演のオファーが行くと、事務所側は立場がありません。そういうことが若干あったのは確かです(苦笑)。旬も出演依頼するつもりはなくても、現場で会った俳優仲間に「今度、こういう映画を考えているんだ」と話してしまうと、ついついみんな前のめりになります(笑)。その後、正式に事務所を通して話を進めたことで、結果的には旬が望んでいた配役ができたんじゃないですか。 ──ベテラン舞台俳優の吉田鋼太郎がヤクザのボス役。要になる配役に小栗監督のこだわりを感じさせます。 又一朗 吉田さんのキャスティングは、旬がいちばん最初に決めたんです。もちろん、吉田さんの俳優としての力量にはなんら疑いはないのです。舞台で見せる実力はボクもよく知っています。しかしプロデューサーの立場から言うと、やはり宣伝しやすい有名俳優を......と考えてしまうわけです。重要な役なので、テレビや映画でもっと顔の知られているポピュラリティのある俳優にしてはどうかと進言しました。でも、やる気も実力もあっても、なかなかいい役が回ってこない。それこそうちの事務所が設立して間もない頃、ちっぽけで政治力もなく20歳前後まで、旬はかなりの悔しさを味わっていますよ。旬のそういう溜め込んでいた気持ちは、今回の配役に出ていると言えるでしょう。完成した映画を観れば「こんないい役者がいるんだ」と観客は驚くはずです。ただし、吉田鋼太郎さんという俳優はおそらく有名になることなどあまり興味がない人に見えます。舞台俳優としての今の環境がとても気に入ってように見える。でもね、今回の『シュアリー・サムデイ』は吉田鋼太郎さんにして本当に良かったと思います。ストーリー上のネックをね、吉田さんは持ち前の演技力でぴょーんと飛び越えてくれていますよ。 ──小栗旬監督と俳優との信頼関係で作られた映画ということでしょうか。 又一朗 旬としては、これまで俳優である自分と監督との間に感じていた溝みたいなものを極力なくしたいという考えがあった。俳優たちの考えを受け入れて、俳優たちができるだけ自由にやれるような現場を目指していた。でも、そのことから問題が生じたんです。俳優の意見を聞いた旬が、撮影の予定を変更することがあって、前日に徹夜同然で準備をしていたスタッフたちから不満が噴出してしまった。旬は俳優たちが演じやすいようにアイデアを取り入れたことでの変更なんだけど、監督至上主義のスタッフにしてみれば「なんで俳優たちは監督の言う通りに動かないんだ」と。仲直りのために飲み会を開いたところ、飲み会の席がまっぷたつに割れてしまった(苦笑)。俳優の中には「これじゃあ、明日から現場に行けないよ」と言い出す者も出てきてね。 ──『クローズZEROII』(09)のときも鈴蘭高校と鳳仙高校のキャストの間でケンカ寸前だったそうですが、その二の舞ですか? 又一朗 あぁ、『クローズZEROII』のときもあったね(笑)。お互いにいい映画にしたいという同じ想いなのに、双方の間に相違が生じてしまったわけです。誰が悪いとかじゃない。真面目に一生懸命になれば、思いもよらぬ摩擦が起きる。それで今度は飲み会に不参加だったオレが、翌日にもう一度、監督を中心に小出恵介や勝地涼らメーンの俳優陣を集めて焼肉を食いに行きました。彼らの話を聞いた上で、「よし、オレには、いかに君らが真剣にこの映画をよくしたいと一生懸命か、よく分かった。もちろん悪い奴はどこにもいない。スタッフだって同じ気持ちだよ。それはオレが保証する。明日からはみんな初日に戻ったつもりで現場に出ろよ。スタッフにはオレから話をしておくから」と話した。「でも、君たち、普段は監督とここまで気楽に接することはないだろ? 元々、俳優仲間の君たちの監督に対する接し方が、かなり気遣いしていたとしても、全てのスタッフにどう映るかは考えろよ」とだけ言いました。その夜、製作部に電話を入れて、「俳優たちも一生懸命だ。初日に戻ったつもりで明日から頼むよ。小栗旬という俳優出身の監督としての特性もある。俳優たちがやりやすい現場を作ろうと監督も一生懸命になっていることを理解してやって、うまく付き合ってくれ」と話したんです。旬も映画監督としていろんな状況を経験できたことは、俳優を続けていく上でも大変なプラスになったでしょう。 (後編につづく/取材・文=長野辰次) ●『シュアリー・サムデイ』 プロデューサー/山本又一朗 監督/小栗旬 脚本/武藤将吾 音楽/菅野よう子 出演/小出恵介、勝地涼、綾野剛、鈴木亮平、ムロツヨシ、小西真奈美、妻夫木聡、遠藤憲一、岡村隆史、須賀貴匡、阿部力、笹野高史、モト冬樹、横田栄司、竹中直人、吉田鋼太郎、大竹しのぶ、原日出子、上戸彩、井上真央 配給/松竹 7月17日(土)より全国公開 <www.surely-someday.jp> ●やまもと・またいちろう 1947年鹿児島県出身。さいとう・たかを、小池一夫らに師事し、劇画原作の修行を積んだ後、映画・テレビ業界へ。映画プロデューサーとして、ジャック・ドゥミ監督を起用した実写版『ベルサイユのばら』(79)、長谷川和彦監督による日本映画史に残る金字塔的作品『太陽を盗んだ男』(79)、幽体離脱した中森明菜のロードムービー『愛・旅立ち』(85)、三島由紀夫の過激な生涯を緒形拳主演で映画化した『Mishima』(85)ほか数多くの話題作を製作。芸能プロダクション「トライストーン・エンタテイメント」の代表取締役でもあり、所属俳優・小栗旬を『あずみ』シリーズ(03、05)、『クローズZERO』シリーズ(07、09)でスター俳優へと育て上げた。
クローズZERO スタンダード・エディション こんな高校じゃなくてよかった。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 "小栗旬の後見人"山本又一朗が明かす『TAJOMARU』の過剰すぎる舞台裏!! 「音楽が一秒で降りて来る瞬間、それは幸福な体験」音楽家・菅野よう子の世界(前編) 「小栗旬の映画に出たい!」主演切望の上戸彩&長澤まさみが波乱を呼ぶ!?

"製作委員会"映画の悪しき構造欠陥を行動的評論家・江戸木純が一刀両断!

edoki03.jpg
人気連載"日本映画縛り首"の単行本化第2弾
『日本映画空振り大三振 くたばれ!
ROOKIES』(洋泉社)。映画関係者、
映画愛好家は必読だね。
 映画雑誌「映画秘宝」(洋泉社)の人気コーナー「バッド・ムービー・アミーゴスの日本映画縛り首」の3年間にわたる連載が今春で終わり、物寂しさを感じている映画マニアは少なくないだろう。それほどまでに、ガース、エド、クマちゃんの3人が毎月3本の厳選したダメダメ日本映画をメッタ斬りにする様は爽快感に満ちていた。今年6月に発売された『日本映画空振り大三振 くたばれ!ROOKIES』は、前作『バッド・ムービー・アミーゴスの日本映画最終戦争!〈邦画バブル死闘編〉2007-2008年版』に続いて、2009年に公開されたサイテー日本映画46本を俎上に上げ、単に作品を酷評するではなく、映画業界の問題点について言及したもの。連載分に加え、3人によるまとめ対談なども加筆されている。3人の処刑人を代表して、エドこと映画評論家の江戸木純氏にご登場願った。インド映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)、スウェーデン映画『ロッタちゃん』シリーズを日本でヒットさせたことで知られる配給・宣伝マンでもある江戸木氏に、日本映画界の内情について語ってもらおう。 ──3年間にわたって、サイテー日本映画をぶった斬ってきたわけですが、連載を終えた現在の心境は? 江戸木純(以下、エド) もう、精神はもちろん全身が疲弊しきっています。滝に打たれて過ぎておかしくなった状態ですね(苦笑)。毎月3本の作品を誌面で取り上げてきましたが、実際はそれよりもっと多くのダメ映画を観てきたわけです。ですから取り上げた作品は、極めつけのダメ映画ぞろいです。ガース(映画評論家・柳下毅一郎氏)は趣味と実益を兼ねていた部分もあるようだけど、ボクはできれば避けて通りたかった作品ばかりでしたね。人生、時間が限られているわけですから、観なくていい作品はできれば観たくなかった(笑)。連載中は基本的に映画館でチケット代を払って観ていたんですが、連載が終わった今では完全に拒絶反応が出て日本映画はほとんど観ていません。当然ですが、『踊る大捜査線THE MOVIE3ヤツらを解放せよ!』も観ていません。多分、一生見ない。 ──"少しでも日本映画が良くなれば"という志から始まった連載だったんですよね? エド もちろん、最初はそういう志がありました。思い切った批評をブチかますことで、業界に反応が起きれば......と。でも、途中からそれは無理だと気づき、荒んだ連載になってしまいました(苦笑)。監督の演出や俳優の演技のレベルではなく、日本映画の病巣はもっと根深かった。この3年間で日本映画はサイテーの状態に陥ったんじゃないですか。それは作っている人たちに映画的な才能がないからだけど、それを喜んで観る人たちがいるから、『ROOKIES 卒業』(09)みたいな作品が85億円以上を稼ぐわけです。観客のレベルが極端に下がってきて、それに合わせた作品が作られるようになってきていることは明らか。これは映画業界の問題というより、教育の問題。まっとうな映画を鑑賞する若い層がここ十数年間育っていないので、映画がビジネスとして成り立たなくなっている。学級崩壊どころじゃなくて、国家崩壊の危機です。 ■責任者の顔が見えない"製作委員会" ──連載が続いたこの3年間は、テレビ局主導の製作委員会方式で作られたシネコン映画が全盛を極めた時期にあたるかと思います。
edoki02.jpg
LAのフィルムマーケットを訪問中の"エド"こと
江戸木純氏。
エド もはや昔から映画と呼ばれてきたものと、テレビ局が作った『ROOKIES 卒業』や『20世紀少年』(08~09)は別物ですよ。本来の映画とは区物したほうがいい。『踊る大捜査線』シリーズ(98、03)は、完全なテレビ映画ですから、映画と呼ばなくていいと思います。我々映画ファンの人生に必要のないものでしょう。テレビ局の作る映画は、人を映画館にまで足を運ばせ入場料を取れば終わり。作品が面白いかどうかは、テレビ局には関係ないんです。そもそも許認可事業であるテレビ局が自分たちで作った商品を自局でばんばん宣伝していることから問題がある。これに関しては、国がちゃんと取り締まるべきですよ。 ──本作の帯にあるように、"映画はテレビ屋のオモチャじゃねーんだよ!"ということですね。 エド でも、これはテレビ局のせいというよりも、映画屋のだらしなさの表れです。映画を作っている人たちの企画力、戦略、才能のなさ、その全てが露呈している。それでテレビ局におんぶにだっこ状態になってしまった。それが一番の問題点です。テレビ局が作るテレビ映画のダメなところは、自局で放映することを前提に作られているということ。本来は、1,800円払って劇場でしか観ることのできないものを作るのが映画屋の誇りだったはずです。テレビ局を絡めずに作った『告白』が今年ヒットしたことは意外でしたが、製作委員会方式で作られる限りは、本来の意味での映画が作られることはかなり難しいでしょうね。日本で大ヒットした作品が海外でまともな賞を獲ることはほとんどありません。作り手の意志が製作委員会に勝利した『おくりびと』(08)のような例外も中にはあるけど、世界的なレベルで見ると、今の日本映画のレベルは信じられないくらい低いです。 ──海外にも"製作委員会方式"は存在するんでしょうか? エド ハリウッドでも、どの国でもプロデューサーがいろんな企業からお金を集めてくることでは同じなんですが、日本の製作委員会のダメな点は、作品のクリエイティブ・コントロールも、失敗した場合も、誰が責任者か分からないこと。海外の場合は成功しても失敗してもプロデューサーが背負いこむ。それに対して日本の製作委員会方式は、首謀者が誰か分からないようにした円形の"連判状"と同じなんです。失敗しても誰も責任を取らず、「じゃあ、次の企画に移りましょう」となる。すごく日本的なシステムですよね。こういうケースは海外ではないはず。結局、映画は作品にしても宣伝にしても、30人近く集まって会議をやっていては、意見はまとまりません。もし、まとまったとしても当たり障りのないつまらないものに落ち着く。映画はやっぱり独裁的に作られたものじゃないと面白くないですよ。製作委員会は作品がいいか悪いかではなく、どうすれば一円でも多く収益を上げるかしか考えない人たちの集まりです。もちろんビジネスですからそれが一概に悪ということではないのですが、娯楽にせよ芸術にせよ、いかに質の高いものを作るための話し合いというのは委員会では基本的にはないのです。 ──連載中に映画会社からクレームが来たことは? エド 直接的に苦情が来たことはないですね。他の雑誌の記事で編集長がある映画会社に呼び出しを喰らったことはありますけど。あとは、ワーナーから1年間くらい試写状が届かないということがあったくらいかな。『スシ王子! 銀幕版』(08)、『L change the WorLd』(08)、『ICHI』(08)などのワーナー作品が「第2回はくさい映画賞」を賑わした頃でした。ワーナー側によると試写状が届かなかったのは事務処理上のミスだということでしたけど(笑)。まぁ、日本映画は試写室ではほとんど観ないので構いませんけど。最近は、事前に原稿を見せることに同意しないと試写を見せない映画までありますよ。 ──日本には批評文化も存在しないと......。 エド 少なくとも評論の影響力がもの凄く弱まっているのは事実です。特に全国公開規模の作品に関してはまったく機能していないのが現実でしょう。新聞や雑誌は、シニア層しか読まなくなりましたしね。テレビでやっている情報番組は自局が映画を製作しているから、映画コーナーは「凄い! 面白い!」しか言えない。「日曜美術館」みたいな感じでNHKあたりが映画批評の番組をやれば、まだ可能性はあるかもしれません。 ■閉塞的な時代こそ、ブルース・リーが必要!
edoki01.jpg
7月に発売された『世界ブルース・
リー宣言 龍教聖典』(洋泉社)。
──江戸木さんはインド映画『ムトゥ』やスウェーデン映画『ロッタちゃん』シリーズを買い付け・配給・宣伝して渋谷シネマライズや恵比寿ガーデンシネマでロングランヒットさせたことが伝説のように語られていますが、今の日本の映画状況ではもう不可能でしょうか? エド 今の日本では無理でしょう。90年代から00年代前半までは、まだミニシアターの人気があり、若いOL層が足を運んでいた。また目利きが選んだ選りすぐりの秀作ぞろいだったんです。それがミニシアターブームということで各社が乱入し、レベルが下がっていった。全体の7割を占めていた若いOL層は今ではもっぱらエステにお金を使うようになり、ミニシアターから消えています。インディペンデント系の配給会社は成り立たない状態です。ボクが手掛けた『ムトゥ』だって、物珍しさが功を奏したビギナーズラックに近いものです。珍しいものでも観たいと思う余裕が観客側にあったんです。でも、「これからはインド映画がトレンドだ」と勘違いした人が多かった。『ムトゥ』の後に、180度タイプの異なるスウェーデンの児童映画『ロッタちゃん』を手掛けたのも、「みんなと同じことをやってないで、それぞれ違ったことをやろうよ」という意味合いを込めていたんですけど、残念ながらその意図は伝わらなかった(苦笑)。映画ビジネスは、そのギャンブル性の強さを認識していないと大けがをします。基本勝率1割程度と考え、9敗してもやりつづけられる規模の勝負をする余裕と、多少損してもいい映画を見せたいという志、そしてここ一番の勝機を見抜くギャンブル運がないと続けられないんじゃないでしょうか。 ──江戸木さんは配給利益で、ムトゥ御殿を建てたのでは......? エド いやいや、とんでもない。共同事業の母体となった会社が驚くほどいい加減なとことろで、『ムトゥ』と『ロッタちゃん』のヒットでボクが得た利益なんてほんの少しでした。わずかな利益もその後、調子に乗って中国との合作『王様の漢方』(02)、山中貞雄監督の名作時代劇をリメイクした『丹下左膳・百万両の壺』(04)の映画製作で全部消えました(苦笑)。そもそも配給はよほどヒットしないと儲からない仕組みなんです。劇場側と配給側の取り分は基本ほぼ50/50ですが、買付け費用はもちろん宣伝費もすべて配給側が負担することになっています。また、映画が外れた場合は通常のアベレージ分まで配給側が補填しなくちゃいけない場合もある。映画の本数が多いため、映画館が作品を選べる立場なので、どうしても映画館に有利な条件になっているんです。これだけ観客が少なくなっている現状では、中小の配給会社はほとんど続けていけないですよ。海外でおしゃれにパーティーを開いていたワイズポリシーが潰れ、ザナドゥの社長は消息不明のまま、叶井俊太郎のトルネードフィルムも倒産。数年前の邦画バブルの頃は年間800本以上の映画が劇場公開され、その約半分が邦画でしたが、これは異常過ぎたんです。今では現像所にお蔵入りした邦画のフィルムが何百本も眠っているそうですよ。映画のスタッフもちょっと前までみんな忙しそうだったのに、今では製作本数激減で仕事がなくなって町をさまよい歩いています。邦画バブル崩壊後の焼け野原状態ですよ。 ──そんな閉塞的な時代こそ、"ブルース・リー"のようなポジティブなバイタリティーとクリエイティブなエネルギーが必要だと江戸木さんは説いているわけですね。 エド 強引な展開ですねぇ(笑)。でも、確かにそうなんです。『燃えよドラゴン』(73)をはじめとするブルース・リー映画とボクは出会ったことで人生が大きく変わった。映画って上映中だけ楽しめばいいというものじゃなくて、人間の人生を大きく変えてしまうくらいのエネルギーがあるものなんです。そのエネルギーが、今の時代には不足している。ボクの場合はブルース・リー映画だったわけですが、誰にでもその人にとってのブルース・リー的な映画が存在すると思うんです。ブルース・リーの魅力はマーケティングなどで分析できるものではありません。世界中の誰が観ても面白いというブルース・リーの"開かれた魅力"、今までになかったエンタテイメント作品を生み出そうという"飽くなきチャレンジ精神"は忘れてはならないものです。 ──7月17日に発売されたばかりの著書『世界ブルース・リー宣言』(洋泉社)に収録されているブルース・リー映画に対する江戸木さんの評論も過剰なまでのエネルギーに溢れています。 エド 映画評論は評論家自身が前面に出ているものが多いけれど、やはり映画評論は読んだ人がその映画を「観たい!」という熱い気持ちにさせるべきものだと思っています。ボク自身も、"縛り首"の連載を終え、『世界ブルース・リー宣言』の執筆にここ数か月集中していたんですが、安全な場所からあーだこーだ発言しても事態は変わらないということを痛感したので、行動的批評活動に再び取り組むつもりです。やっぱり、何か事を起こすには自分でもリスクを背負わなくちゃいけない。昨年、ロサンゼルスの映画マーケットで、"7,000円で作った感涙のゾンビ映画"と言われる『コリン』というイギリス映画を買い付けました。無名の新人監督が1台のデジカメで撮った作品ですが、低予算で撮ったと思えないほどクオリティーが高い。日本のビデオメーカー数社がボクよりも高値で交渉していたようですけど、「日本でも絶対に劇場公開すべき!」というボクの提案に監督が賛同してくれたんです。映画界をたったひとりで変えていったブルース・リーの熱い志を現代に甦らせるためにも、面白い形で日本での宣伝・公開を考えているところです。『世界ブルース・リー宣言』を書き上げたばかりでボロボロ状態ですが、エネルギーを充填次第やりたいですね。面白い映画を宣伝・配給するのも、けっこーエネルギーが必要なんですよ(笑)。 (取材・文=長野辰次) ●えどき・じゅん 1962年東京都生まれ。東北新社、ギャガで洋画の買い付けや宣伝業務を行ない、『死霊の盆踊り』(65)、『ベルリン忠臣蔵』(85)などのカルト作品を発掘。独立後は映画評論家としての執筆活動の傍ら、"行動的批評"として『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)、『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』(92)、『ロッタちゃんはじめてのおつかい』(93)、『処刑人』(01)など既存の配給会社が扱わない知られざる映画を日本に紹介している。『カブキマン』(01)、『王様の漢方』(02)、『丹下左膳・百万両の壺』(04)などの映画製作も経験済み。主な著書に『地獄のシネバトル』(洋泉社)、共著に『映画突破伝』(洋泉社)、『関根勤×江戸木純シネマ十番勝負』(富士見書房)など。『バッド・ムービー・アミーゴスの日本映画最終戦争!〈邦画バブル死闘編〉2007-2008年版』『日本映画空振り大三振 くたばれ!ROOKIES』(共に洋泉社)に続いて、ブルース・リー映画の評論集『世界ブルース・リー宣言』(洋泉社)が発売されたばかり。
日本映画空振り大三振 ~くたばれ!ROOKIES 『ROOKIES』を好きと言う人とは友達になれない。 amazon_associate_logo.jpg
世界ブルース・リー宣言 ~龍教聖典~ 考えるな、感じるんだ! amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 さよなら&こんにちは、ピンク映画の殿堂「上野オークラ」新たなる旅立ち 自伝漫画『おのぼり物語』が映画化! カラスヤサトシ史上最大の波が来た? 「音楽が一秒で降りて来る瞬間、それは幸福な体験」音楽家・菅野よう子の世界(前編)

さよなら&こんにちは、ピンク映画の殿堂「上野オークラ」新たなる旅立ち

uenoop01.jpg
ピンク映画文化を守っていきたいと熱く語る斎藤支配人。
「AVと違ってピンク映画は絡みも演技。
AVとは異なるピンク映画の映画としての面白さを、
若い方にも知ってほしいですね
   『おくりびと』(08)の滝田洋二郎監督、『ヒーローショー』の井筒和幸監督、『BOX 袴田事件』の高橋伴明監督、『トウキョウソナタ』(08)の黒沢清監督、『それでもボクはやってない』(07)の周防正行監督、そして『キャタピラー』の公開を控える若松孝二監督......。日本映画界を支えてきた名監督たちは、み~んなピンク映画出身なのだ。『肉体の市場』(62)から始まったピンク映画は、『ピンク映画館の灯』(自由国民社)によると全盛期には全国に1,000館以上もの成人映画専門館を数えたとされる。中高生の頃はエロいポスターが貼られたピンク映画館の前を通る度にドキドキしたものだが、今ではピンク映画館の数は全国で70~80館程度に。レッドデータブックに登録されかねない状況となっている。そんな中、58年の歴史を誇る映画館「上野オークラ劇場」が8月1日(日)で閉館、さらに8月4日(水)から新館がオープンするという。ピンク映画館の新館が建てられるとは、このご時勢では非常にレアなニュース。上野オークラの名物支配人として親しまれている斎藤豪計支配人にことの真相を尋ねた。 ──"都会のオアシス"上野オークラが建て替えられると聞き、驚きました。それにしても、ずいぶん歴史のある劇場だったんですね。 斎藤豪計支配人(以下、斎藤) もともと「上野公楽座」という名称の東映の封切館として1952年に建てられた映画館なんです。『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)で描かれていた時代ですから、かなりの歴史ですよね。70年頃から、今のようなピンク映画館になりました。当時の名称は「上野OP劇場」。いつから「上野オークラ劇場」となったかはハッキリしません(苦笑)。建物自体はしっかりしていて不都合はないんですが、お客さまの年齢が年々上がってきているので、ここで思い切って建て替え、バリアフリー化しようということなんです。今、建て直さないと、10年後に建て直すことができるかどうか分かりませんから。新館はすぐ隣に建てられ、3スクリーン。聴覚に障害がある方にはヘッドホンを貸し出します。シネコン並みに明るく清潔な内装でシートもかなり高級なので、若い方や女性の方にも気軽に入っていただきたいですね。 ──ピンク映画は1本あたり製作費300万円、かなり過酷な現場だと聞いていますが、配給・興行側は意外とお金があるんですか? 斎藤 いえいえ、当館は大蔵映画の直営館ですが、やはり興行部門も厳しいですよ(苦笑)。不動産部門、レジャー部門の均衡経営で成り立っているのが実情です。かつては日活をはじめ大手映画会社も成人映画を製作・配給していましたが、現在では大蔵映画、新東宝、新日本映像(エクセス)の3社だけです。大蔵映画は毎年36本の新作を公開していますが、新東宝とエクセスは昨年で10本程度。ピンク映画の製作本数は年々減っており、大蔵映画のメイン館である当館がなくなれば、ピンク映画の存在そのものが危うくなるんです。大蔵映画の社内でも、今後もピンク映画産業を守っていこうということでは考えは一致しています。とは言え、ボランティアではやっていけない。そこで新しい客層にアピールできるよう、新館オープンを起爆剤にしたいと考えているんです。 ──03年に斎藤支配人が就任されてから、ちらしをカラー化し、劇場のブログをほぼ毎日更新、人気女優や監督を招いてのトークイベントを催すなど、さまざまな営業努力を積み重ねています。斎藤支配人をそこまで突き動かしているものは何なのでしょうか?
uenoop03.jpg
ロードショー館「上野スタームービー」
跡に建てられた新館。3スクリーンで、
女性も入りやすいよう、明るい色使
いの劇場となっている。不忍池から
の風が心地よい立地だ。
斎藤 大蔵映画に入社して10年目になるんですが、03年に上野オークラの支配人になる前は、やはり大蔵映画が経営するロードショー館「上野スタームービー」に勤めていました。正直に言うと、それまではピンク映画のことはあまり知らなかった。でも、ピンク映画の世界に触れ、「なんて愛しい世界があったんだ」と感銘した。完全に洗脳されてしまったんです(笑)。ピンク映画は1本の上映時間が約1時間と気楽に楽しめる上に、濡れ場さえしっかり押さえていれば、あとは作り手の自由がある程度許されているんです。ドラマ、サスペンス、コメディ、パロディなど多彩な作品が作られている。大手の映画会社が作らないような、何でもないような男女の出会いや別れを描いたものもあり、けっこうホロリとさせられるんです。しかも、テレビや一般映画では省かれる男女の絡みがしっかりと描かれる。今年のピンク大賞で第1位に選出された『壷姫ソープ ぬる肌で裏責め』(09)はソープ嬢になった高校時代の同級生と主人公が再会する何気ない話ですが、もう胸がやばいくらいにキュンキュンしましたね(笑)。お客様の中には80歳に近いような年齢の方もおられるんですが、映画を観た後に「いいものを観せてもらったよ」と言いながら背筋をピンと伸ばして帰っていかれる。そういうのを見ると、何だか自分もうれしくなってくるんです。 ──毎年GWに開催している「OP映画祭り」は、女優や監督たちがピンク映画ファンと触れ合う機会として盛況ですね。
uenoop04.jpg
上野アメ横近くにある"都会のオアシス"
上野オークラ劇場の斎藤支配人(44)。
大蔵映画に入社して10年。上野オーク
ラの支配人に就任して7年。トーク
イベントの司会を務めるなど、ピンク映
画ファンから愛される存在だ。
斎藤 今年で3回目なんですが、3日間連続のイベントを企画したところ、連日大入りでした。最近のピンク映画館は、全国的に見てもいい話題が少ないので、少しでも明るいニュースを当館から発信していきたいという思いですね。女優さんや監督のみなさんは多少の無理を押してでも快く参加してくれるし、ピンク映画ファンのみなさんがまた心優しい方ばかり。劇場内がとても温かい雰囲気になり、イベントの司会を務めているボクに握手を求めてくる方もおられるほど(笑)。皆様から喜ばれているイベントなので、これからもしっかり企画し、もっとファン層を広げていければと考えています。 ──斎藤支配人おすすめの監督、女優はいますか? 斎藤 滝田監督らが一般映画に次々と進出した80~90年代と状況は違うとは思いますが、若手監督では先ほど話した『壷姫ソープ』の加藤義一監督やピンク大賞の常連である竹洞哲也監督の新作はいつも楽しみにしています。新人女優ではAVでも活躍しているかすみ果穂さん。テレビのバラエティー番組(『おねだりマスカット』)では四股を踏んでみせたりしていましたが、あれはテレビ向けに作ったキャラクターだと思います。普段はとっても普通でとっても良い娘なんです。これまでもAVからピンク映画に来た女優さんは少なくありませんが、ピンク映画は1本を3~4日間で撮り上げる厳しい現場で、しかもAVと違ってギャラが低い。お芝居をするのが本当に好きな方じゃないと続かないんです。その点、かすみさんはすでに何本もピンク映画に出演されていて、とても頑張っていらっしゃるので、これからも大いに期待しています。 ──支配人として答えにくい質問かもしれませんが、ピンク映画館に対し"ハッテン場(男性同性愛者の社交場)"というイメージを抱く人もいるかと思います。その点はどうお考えですか? 斎藤 う~ん、それはナイーブな問題ですねぇ。確かにピンク映画館には居心地の良さからなのか、さまざまなお客さまが来られます。支配人としては「こういう人たちには来てほしくない」とは言いたくないんです。当館ではそちら系の方が一般のお客さまにちょっかいを出そうとしていると、スタッフが注意するようにしています。でも、そちら系の方たちは劇場で体調の悪いお客さまが出たときには背負って出口まで運んだりするような、優しい方が多いんですよ......。まず何よりも、みなさんが安心して映画を鑑賞できる劇場であるように今後もいっそう努めたいですね。
uenoop02.jpg
昭和な雰囲気が漂う旧館のロビー。人気女優
たちのサイン会もこちらで行なわれてきた。
──最後に、8月1日の夕方で閉館となる旧館のクロージングイベント、8月4日から始まる新館でのオープニング情報について教えてください。 斎藤 旧館でのフィナーレには、ピンク映画第1号とされる『肉体の市場』に助監督として参加し、これまで400本以上のピンク映画を監督してきた大ベテランの小川欽也監督をフューチャーします。特に7月31日(土)には『新怪談色欲外道 お岩の怨霊四谷怪談』(76)、『怪談バラバラ幽霊』(68)といった貴重なお宝フィルムを1日限定で上映し、小川監督らのトークショーも予定しています。新館では8月1日に"女性限定のピンク映画鑑賞会"を開催します。ユーロスペースやポレポレ東中野といった一般映画館でのピンク映画の上映は女性のお客さまが多いので、新しい上野オークラにも足を運んでもらいたいですね。8月4日からのオープニングは加藤監督、池島ゆたか監督、竹洞監督の最新作の上映の他、人気女優たちの舞台挨拶やサイン会も実施する予定です。ピンク映画の新しい歴史をぜひ体感してください。  面倒な質問に対しても、誠実に答える斎藤支配人。さすが"都会のオアシス"をもり立ててきた好漢である。はたして"都会のオアシス"は今後どのように変わっていくのか。上野オークラの大いなる試みに注目したい。 (取材・文=長野辰次) ●上野オークラ劇場 JR上野駅不忍口から徒歩3分に位置する成人映画専門館。ピンク映画業界の最大手・大蔵映画のメイン館として、連日3本立てのオールナイト上映を週替わりで編成している。サラリーマンやシニアの憩いの空間。斎藤支配人が就任してからは、人気女優や監督を劇場に招いてのトークイベントなどを積極的に催し、サブカル好きな若い世代も足を運ぶように。近年の功績が認められ、10年5月にピンク大賞特別賞が上野オークラ劇場に贈られた。 住所/東京都台東区上野2-14-31 <http://uenookura.blog108.fc2.com/>
日本映画ポスター集 ピンク映画篇 これが日本のカルチャーです。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 担当判事が冤罪を訴える"袴田事件" 映画『BOX』は司法判決を覆せるか? ピンク映画にも高齢化の波? "老人の性"を描いた『たそがれ』

自伝漫画『おのぼり物語』が映画化! カラスヤサトシ史上最大の波が来た?

onobori01.jpg
漫画家カラスヤサトシ(井上芳雄)は29歳にして上京。
ひとり暮らしに悶々としながらも漫画家修行に励む。
"ミュージカル界の王子さま"井上の初主演映画としても注目されている。
(c)2010「おのぼり物語」製作委員会
 29歳にしてコネもツテもなく、漫画家を目指して大阪から上京してきた主人公が東京(というより西東京市)で右往左往する姿を綴った四コマ漫画『おのぼり物語』(竹書房)。安アパートから見える田無タワーを東京タワーと勘違いして、うっとりするなど漫画家カラスヤサトシ氏自身のちょっと痛い体験エピソード集は2008年の単行本発売以降、じわじわと人気を呼んでいる。思い切って上京したものの、出版社への営業活動がうまく行かず仕事が見つからないという焦燥感、後半はアパートからの立ち退き、さらには良き理解者だった実家の父親が入院してしまうという四コマ漫画らしからぬシリアスなストーリーが展開される。地方出身者の共感を得やすい題材とはいえ、イケてない西東京市を舞台にした『おのぼり物語』が実写映画化されると知り、驚いたファンも少なくないだろう。原作者本人も「人気作家でもないボクの自伝映画が公開されるなんて、いいんでしょうか?」と戸惑っているほど。しかし、スルメのような味わいのある原作同様に、映画も笑いとペーソスを盛り込んだ好編に仕上がっているのだ。  この日は、主演の井上芳雄、毛利安孝監督と共に映画『おのぼり物語』の完成記念トークイベントに参加したカラスヤ氏。漫画の自画像は三頭身のメタボ体型だが、実際の本人はもっとスリムで体育会系的なボディの持ち主である。同席した竹書房の女性編集者からツッコミを入れられながらも、連載時のこと、編集者との関係、ふだんの生活について屈託なく語った。 ──『おのぼり物語』の映画化、おめでとうございます。36歳にして自伝映画が公開されるなんて、すごいじゃないですか。 カラスヤ ありがとうございます。でも、本当にいいんですかね。藤子不二雄先生みたいな大漫画家ならともかく、自分みたいな売れてない漫画家の自伝が映画になるなんて。友達からも、「こんなこと、もう一生ないぞ」なんて言われています(苦笑)。 ──功成し遂げた人物が自分の青春時代を振り返る作品は多いと思いますが、まだ客観視しにくい比較的最近のエピソードですよね。 カラスヤ そうです。編集者からの依頼だったんですが、普通はこういうハンパなタイミングでやりませんよね(笑)。自分でもまとまりがつかなくて、できれば描きたくなかった作品なんです。最初は「上京時のエピソードを描いてください」という依頼だったんです。ボクは「上京時にいいことなんて、ひとつもありませんでしたよ」と説明したんですが、「それを描いてください」と。連載3回くらいで終わるかなぁと手探りで始めました。2回目で編集者から「単行本が1冊出せるまで続けましょう」と言われたのかな。ボクとしては3回目からはグルメレポート漫画に変更したかったんですが、却下されました(苦笑)。当時の担当編集者は映画の完成を待たずに退職しちゃいましたけど。 ──編集者は手応えを感じていたということですね。本人的には? カラスヤ 自分では連載中に手応えというのは特に感じませんでした。ただ、他の漫画誌では自分の近辺エピソードをギャグ漫画にして描いていたので、それとどう違いを出すかで悩みました。最初は四コマ漫画なのでもっと笑えるものにしなくちゃという意識だったんですが、連載が続くうちに時系列順に自分に起きたことをそのまま描いているうちに、アパートの取り壊しや父親の入院という笑えない出来事も描かざるをえなくなったんです。『おのぼり物語』の単行本が出たときは、普段はボクの本を買ってくれない知り合いたちからも「買うたで!」と連絡がきたので、今までで一番反響があったのは確かですね。意外とみんな、シリアスなものを読みたがってるんですかね。自分では他のギャグ漫画も身を挺して描いているつもりなんですけど(苦笑)。 ──試写会には2度とも遅刻したとか。それは、また何故? カラスヤ 言い訳するつもりはないんですが、1回目の試写は調布で、西武線から京王線の調布まですごく行きにくいんですよ。前日、徹夜してたんで、10分だけ休憩しようと横になって起きたら、すでに試写の開始時間でした。猛スピードで試写会場まで駆けつけたんですが、上映はほぼ終わりかけで、しかも途中入場を最初は断られ、「原作者なのに会場に入れないのはかわいそう」ということで終わりのほうだけ観させてもらいました。2回目の試写は都心の京橋だったんですが、上映時間に間に合うように京橋に到着したものの、試写会場が分かりにくく、さらに携帯電話の充電が切れてしまって場所を確認することができずに遅れてしまったんです。ボクは時間通りに到着してたのに、会場が分かりにくい場所にあったんです。 担当編集 カラスヤ先生、言い訳が長いですよ。
onobori02.jpg
「これから忙しくなるよ。根拠はないけど」と
無責任な励まし方をする編集者(八嶋智人)。
『カラスヤサトシ』(講談社)でおなじみのT田
氏がモデル。
カラスヤ でも、原稿の締め切りはちゃんと守ってるよ。締め切り日ギリギリで数時間は遅れることはあるけど、落とすことはないよね! その点、試写の上映は融通が効かなくて......。 担当編集 締め切りも時間通りにお願いします! ──あの、インタビューに戻ってもいいですか? まだ全編は観ていないということですが、映画の感想について聞かせてください。 カラスヤ 面白いですよ。毛利監督がビジュアル的に印象に残るオリジナルエピソードを加えていて、楽しめました。怪しいロシア人がアパートに暮らしていたり、ロシア人からもらった蟹をペット代わりに飼育したり、漫画家の単調な生活を描く上で、いいアクセントになってますよね。それに主演の井上芳雄さんは、ミュージカル界の王子さまと呼ばれているほど足が長くてカッコいい俳優さんなのに、撮影現場を訪ねるとネルシャツにジーパン姿で何となく漫画家っぽい雰囲気になっていたので、「さすが俳優だなぁ」と感心しました。 ──意外とオレに似てるなぁ......と? カラスヤ いやいや、冗談でもそんなこと口にしたら、井上芳雄さんのファンに八つ裂きにされますよ! 単行本の発売記念でサイン会を開いたりして、「漫画みたいな三頭身じゃないんですね」と好意的な言葉を最近は掛けてもらえるようになっていたんですが、映画を観た人はボクに会ったらガッカリするでしょうね。なんせ、井上さんは八頭身ですから。 ──原作で描かれていた女友達Nさんとの淡いラブロマンスが、映画では胸キュンなラブストーリーに膨らんでいます。 カラスヤ いやー、原作では、編集者に「恋愛的な要素を入れろ」と要求されて、無理矢理入れたネタなんです。Nさんとは確かによく飲みに行く仲でしたが、恋愛を予感させるような関係ではありませんでした。Nさんには内緒で漫画に描いたんです。それで単行本が出たときにNさんから「単行本、買ったで~」というメールが来たので、返事のしようがなくて2週間くらい放ってました。映画になったこと、Nさんに気づかれないか心配です。 ──普通、気づくでしょ。この際、インタビューで謝っておきましょうよ。 カラスヤ そうですね。Nさん、映画の中では"嘘つきで、見栄っ張り"というキャラクターになっていますが、それはボクがそう思っているわけじゃなくて、毛利監督が映画用に考えたキャラクターです。ボクは悪くありませんから......。 ──今じゃ連載も多数抱え、代表作が映画化され、女性にモテモテでしょう? カラスヤ いや、全然そういうことはありません。アパートから一歩も出ずに漫画を描いているので、女性との出会いがありませんよ。 担当編集 人生のモテ期を逃すと大変ですよ~。 カラスヤ だから、来てないよ! ──女性漫画家・東村アキコさんとの飲み会には、東村さんの女性アシスタントが多数参加したそうじゃないですか。 カラスヤ あぁ、去年ですが、東村さんがアパートに籠り気味のボクに気を使って飲み会をセッティングしてくれたんです。そのとき、女性アシスタントさんからバレンタインのチョコレートを渡されたんですが、ボクは酔っぱらっていて、その場で包装紙をビリビリに破いて、チョコを手づかみでみんなに配り回ったそうです。でも、そのチョコを渡されたところから、ちょうど記憶が飛んでしまって......。女性が飲み会に参加すると、どうもテンションが上がって、ついつい酒を飲み過ぎてしまうんです。
onobori03.jpg
自分の近辺で起きた些末なエピソードを
味わいのある四コマ漫画に仕立てる
漫画家カラスヤサトシ。自伝コミック『おの
ぼり物語』が映画化され、じんわりと人
気を集めている。マスコミへの顔出
しを控えているのは、作品のイメージを
壊さないためとのこと。
(c)カラスヤサトシ・竹書房
──せっかくのモテ期が......。 カラスヤ だから、来てませんって! ──話題を変えましょうか。映画の中に、「これから忙しくなると思うよ。根拠はないけど」と無責任な励まし方をするメガネの編集者(八嶋智人)が登場しますが、あれは『カラスヤサトシ』(講談社)でおなじみのアフタヌーン編集部のT田さんがモデルですか? カラスヤ そうです。原作の中では他社のキャラなんで電話だけのエピソードにしていたんですけどね。『カラスヤサトシ』で散々描いてますけど、T田さんは漫画家を誉めたり励ましたりすることが一切ない人なんです。そんなT田さんが「忙しくなると思いますよ。具体的に仕事のオファーが来てるわけじゃないですけど」と言ってくれたんです。ダメなときはダメとはっきり口にする人だから、その分、すごくうれしかった。仕事が本当にない状態のときだったので、「うわ~、そんな風に思ってくれて編集者がおるんや」と自信に繋がりましたね。 ──連載中の『カラスヤサトシ』ではT田氏と罵倒し合ってますが、実は仲良しなんですね。 カラスヤ お互いに、性格が頑ななんです(苦笑)。以前は酒を飲みながらネームの打ち合わせとかもしてたんですが、最近では打ち合わせすらほとんどしていません。 担当編集 でも、T田さん、試写会には早い段階で来てくれて、コメントもくださいましたよ。「オレ、いいこと言っちゃったな」とか言いながら(笑)。 ──へぇ~、漫画家と編集者の知らざれる友情ですね。ちなみに、ご家族は映画はもう観てる? カラスヤ 大阪にいる母には東京で試写会があることを電話で伝えたんですけど、「そうなん。ほんで、あんたは仕事あるの?」みたいな話になって。映画よりも、ボクが食べていけているのかが今だに心配みたいです(苦笑)。 ──『おのぼり物語』は編集者や家族とのやりとりが、そのままリアルに描いてあるんですね。お父さんの入院エピソードは、やはり描きにくかった? カラスヤ 大変は大変でした。でも親との別れは多くの方が経験していることですから。その部分だけクローズアップするつもりはなく、起きたことを淡々と描こうという意識でした。もちろん、父親の入院エピソードに関しては、描いていないネタもたくさんあるんです。正直いうと、きれい事のエピソードを選んでいます。もっと生々しいネタも考えたけど、自分からそういうネタは外しました。自分自身の現在進行形の物語でもあるので、連載の最後は明るく希望を感じさせるものにしたいというのがありました。 ──最後に、上京しようかどうか考えている地方在住者にひと言、どうぞ。 カラスヤ うまくいくかどうかは別にして、一度上京してもてもいいんと違いますか。町の小さな不動産屋に頼むと、意外とアパートを紹介してくれますよ。ボクの場合は29歳で仕事がなくて仕方なく上京したんですが、もっと若い頃に上京していたら、潔く諦めて帰っていたかもしれない。あのとき、あのタイミングで上京したのが良かったように今になっては思いますね。上京は必然だったのかなって。自分の体験が参考になるかどうか分かりませんが、やりたいことをやるのに年齢は関係ないんじゃないですかね。それから、ボクも今が人生のピークにならないよう、これからもっとガンバるつもりです。せっかくですから、映画の公開中にモテ期が来るようにしたいですね(笑)。 (取材・文=長野辰次) 『おのぼり物語』 原作/カラスヤサトシ『おのぼり物語』(竹書房) 監督/毛利安孝 出演/井上芳雄、肘井美佳、チチ松村、キムラ緑子、佐伯日菜子、水橋研二、河井青葉、占部房子、徳井優、江口のりこ、哀川翔、八嶋智人 配給/東京テアトル 7月17日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー公開 <http://www.onoborimonogatari.com> カラスヤ・サトシ 1973年大阪府出身。95年に漫画デビュー。以後、サラリーマンや派遣社員をしながら漫画を描く。01年に上京。03年から「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載中の『カラスヤサトシ』は現在4巻まで単行本化。『おのぼり物語』は「まんがクラブ」(竹書房)にて06~08年に連載され、単行本化された。6月に単行本が発売された『野生のじかん』(竹書房)もヨロシクね。
おのぼり物語 すべてのおのぼりさんへ。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 『東京都北区赤羽』の作者と行く赤羽ディープスポットめぐり(前編) 「マンガを正当なビジネスにしたい」マンガ家・佐藤秀峰 爆弾発言の裏にある思い(前編) ギャグと言うより、下ネタ合戦!?『ギャグ漫画家大喜利バトル!!』予選大会に潜入!

"生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』

hissatsu01.jpg
豊川悦司主演作『必死剣 鳥刺し』。
海坂藩の藩士・兼見三左エ門は不敗の剣"鳥刺し"の使い手だが、
その剣を抜くときは本人も死を覚悟しなくてはならない。
(c)2010「必死剣 鳥刺し」
 生きるということは、ひどくかっこ悪いということである。藤沢周平の時代小説は、そのことをまざまざと教えてくれる。藤沢作品の原作小説で描かれている主人公たちは、およそ時代劇のヒーローらしくなくビンボーで、見苦しい。義憤に駆られて正義の剣をかざすというよりも、生きるのが不器用で藩内の勢力争いに巻き込まれ、知らない間に窮地に立たされてしまう。できれば、命にかかわるやりとりなどしたくない。他の人に代わってほしい。しかし、上司の命令には逆らえない。渋々と覚悟を決めた主人公はとりあえず女を抱き、そして翌朝には誰も引き受けて手のない任務へと赴く。サラリーマンの多くは藤沢作品のストイックな主人公に自分の姿を投影しながら、小説に読み耽る。  藤沢周平の人気短編集「隠し剣」シリーズには、さまざまな秘剣・隠し剣が登場する。隠し剣というと聞こえがいいが、基本的にどれも相手の虚を突く、邪剣・だまし討ち剣ばかり。山田洋次監督の『隠し剣 鬼の爪』(04)を最初に観たときは"鬼の爪"の正体にひどく後味の悪さを覚えたものだ。秘剣はどれも武士として他人には見せられない邪道剣ゆえに封印されてきたものであり、またその剣筋を見た者は口外されぬよう息の根を止めなくてはならない。だが、隠されれば隠されるほど、人はその正体を見たくなるもの。寡黙で目立たない性格ゆえに秘剣を伝授された主人公の前に、その噂を嗅ぎ付けた剣客たちが次々と現れる。皮肉なパラドックスの中で藤沢作品の主人公たちはあがき苦しむ。  平山秀幸監督によって映画化された『必死剣 鳥刺し』は、『隠し剣 孤影抄』(文春文庫)に収録された一編。豊川悦司を主演に起用し、ハードボイルドタッチの本格的時代劇に仕立てている。"必死剣 鳥刺し"とはその剣を抜けば、必ず相手を仕留めるという必勝不敗の剣。しかし、その剣を使うとき、剣の遣い手は半ば死んでいるという。"鳥刺し"はいつ、誰に対して抜かれるのか。緊迫した空気を終止はらみながら、物語は静かに進んでいく。  東北地方の小藩・海坂藩に仕える兼見三左エ門(豊川悦司)は若い頃に剣術修行に励み、秘剣"鳥刺し"を編み出していた。しかし、愛妻・睦江(戸田菜穂)が病気で亡くなり、兼見は生き甲斐を失ってしまう。そんな折、藩主の側室・連子(関めぐみ)が政事に口をはさむことから藩内に不満が噴出していた。愚直な兼見は藩政を憂うあまり、連子を城内で刺殺。自分も切腹する覚悟だった。だが、藩の上層部からのお達しは、1年間の閉門という極めて寛大な処分。もちろん藩主や藩の上層部は兼見への温情から軽い処分を下したのではない。藩主と敵対する分家の帯屋隼人正(吉川晃司)という剣豪が存在するため、"生きた盾"として生かされているに過ぎなかった。藩のために尽くせば尽くすほど、藩の上層部からいいように利用される。江戸時代の下級武士・兼見の苦悩と上司に恵まれない現代のサラリーマンの悲哀がスクリーンの中で溶け合っていく。
hissatsu02.jpg
クライマックスは15分にわたる殺陣シーン
が展開。豊川悦司と立ち回りを演じた吉川
晃司は「グルーヴ感が出るまで、お互いに
徹底的にやりあった」と話す。
 原作者である藤沢周平(1927~97)は、山形県の農家生まれ。苦学の末に鶴岡市で中学校の教員になるが、肺結核のためにわずか2年で休職。生徒たちに慕われる人気教師だったものの教壇に戻ることは叶わず、30歳で上京し食品関係の業界新聞の記者として食い扶持を得ることになる。いくつかの編集部を渡り歩き、59年に同郷の女性・三浦悦子さんと結婚。63年2月に長女・展子さんが生まれるも幸せは長くは続かず、同年10月に28歳の若さで悦子さんが病死。72年に「暗殺の年輪」で直木賞を受賞し、47歳にしてようやくサラリーマン生活に別れを告げ、本格的に作家活動を始めたという大変な遅咲き人生だった。不幸に度々遭いながらも慎ましく生きてきた姿は、『たそがれ清兵衛』(02)をはじめとする藤沢作品の主人公そのものだ。代表作『蝉しぐれ』(文春文庫)では初恋の女性への想いを断ち切って、現実と折り合いをつけていく主人公の姿が切ない。普段は温厚な藤沢作品の主人公たちだが、隠し剣を抜く瞬間だけ、ままならない人生を生きてきた藤沢周平自身の内なる叫び声が聞こえてくる。  『必死剣 鳥刺し』に話を戻そう。物語の中盤までは兼見の蟄居生活が淡々と描かれる。外部との交流を断った兼見が心を許せるのは亡くなった妻の姪である里尾(池脇千鶴)だけ。里尾の献身的な支えに対し、兼見は報いることができずにいる。帯屋隼人正との対決を控え、兼見はひと晩だけ里尾を抱く。そして壮絶を極めるクライマックスへ。身長186cmの豊川と182cmの吉川、ともに上背のある2人の激突だけに殺陣シーンは見応えあり。さらに2人の決着がついた後に、どんでん返しが待っている。  『愛を乞う人』(98)でのDVシーン、『OUT』(02)での死体解体シーンで徹底した演出を見せた平山監督が、本作のラスト15分間にわたる殺陣シーンでも兼見のコドクな戦いを妥協なく撮り上げている。男臭いハードボイルド時代劇の中で、池脇千鶴、戸田菜穂、関めぐみの女優陣が適材適所で配されているのも好ポイント。豊川悦司演じる兼見が藤沢作品の主人公にしてはかっこ良すぎるのが難点だが、そこは商業映画なので仕方ない。ただ、兼見が"鳥刺し"を使う相手は原作通りとはいえ、やはりひどく哀しみを覚える。いくら死を覚悟した剣の達人であっても、兼見は自分が属する藩の枠組みそのものからは最後まで解き放たれることができない。サラリーマンのやり場のない怒りと哀しみがラストに漂う。 (文=長野辰次) hissatsu03.jpg 『必死剣 鳥刺し』 原作/藤沢周平 脚本/伊藤秀裕、江良至 監督/平山秀幸 出演/豊川悦司、池脇千鶴、吉川晃司、戸田菜穂、村上淳、関めぐみ、小日向文世、岸部一徳  配給/東映 7月10日より丸の内TOEIほか全国公開中 <http://www.torisashi.com>
隠し剣孤影抄 人をアゴで使う側に、一度はなってみたいものです。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

ジブリVS.ピクサー 日米国民的アニメ映画、夏の陣! 

toystory000.jpg
(C)2008 WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
 いよいよ夏休み映画の封切りラッシュが始まる7月。今年も各ジャンルの作品が盛り沢山だが、やはり子どもも大人も一緒に楽しめる良質なアニメ映画は夏の風物詩だ。  中でも、ディズニー傘下のピクサーによる『トイ・ストーリー3』(7月10日公開)と、スタジオジブリによる『借りぐらしのアリエッティ』(7月17日公開)の2作品は要チェック。日米の国民的アニメスタジオの新作がほぼ同時期に公開され、興行レースへの関心もさることながら、内容の興味深い関連性や、制作面での共通点など、注目ポイントには事欠かないライバル2作品なのだ。  まず『トイ・ストーリー3』は、ピクサーの名を世界に知らしめた史上初のフルCGアニメ長編映画『トイ・ストーリー』(95)のシリーズ第3作。かつてカウボーイ人形のウッディや宇宙レンジャー人形のバズ・ライトイヤーらと遊んだアンディも、成長して大学に進むのを機に、おもちゃを整理することに。だが手違いで、おもちゃは近所の保育園に寄付されてしまう。「アンディに捨てられた」と傷つき、幼児たちに遊んでもらえる新天地を選んだおもちゃたちだったが、そこには予想外の試練が。一方ウッディは、ただ一人アンディを信じて保育園からの脱出を試みるも......。  監督のリー・アンクリッチは、シリーズ第1作や『バグズ・ライフ』(98)で編集、第2作『トイ・ストーリー2』(99)などでは共同監督を務めたが、単独でメガホンを取るのは本作が初。1作目で監督、2作目で共同監督を務めたジョン・ラセターは今回、製作総指揮に回っている。  一方『借りぐらしのアリエッティ』は、英女流作家メアリー・ノートンの児童文学が原作。身長10センチのアリエッティと両親は、人間が住む屋敷の床下で、「人間に見られてはいけない」という掟を守りながら、さまざまな生活品を借りて暮らしていた。だがアリエッティは、屋敷に引越してきた少年に姿を見られてしまい......。  米林宏昌監督もまた、96年にジブリに入社して以来、多数の宮崎駿監督作品に参加し、今作が長編デビュー。40年前に一度本作の映画化を企画したという宮崎は、企画・脚本を担当。  両作品共に、幼い登場人物が他者との出会い(と別れ)を通じて精神的に成長するという、ファミリー映画の王道をしっかり踏襲。また、サイズが人間の10分の1以下しかない主要キャラからの視点が描かれ、普段見慣れた小物が巨大サイズで見える新鮮さと、それらを小さき者が工夫して生活や冒険に活用する楽しさも共通する。さらには、『トイ・ストーリー3』のおもちゃ群の中に、ジブリ映画のある有名キャラも登場!  そんな具合に、大きなテーマから細部の描写まで、両作品の共通点や相違点、関係性などを家族や友人、カップルで語り合うのも盛り上がるはず。日米アニメ映画界の次世代ホープ同士による"夏の陣"といった趣の2作品は、笑いと涙と感動だけでなく、親しい人との豊かな語らいのひとときももたらしてくれる、まさに夏休みにピッタリの作品たちだ。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 『トイ・ストーリー3』作品情報 <http://eiga.com/movie/53487/> 『借りぐらしのアリエッティ』作品情報 <http://eiga.com/movie/55169/>
トイ・ストーリー トーキングアクションフィギュア NEW バズ ライトイヤー 「映画館で僕と握手!」 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 非日常にもほどがある! 怒濤のトンデモ展開コメディ『ハングオーバー』 理性か本能か? 極限状況に置かれた人間の両面性を描く『ザ・ウォーカー』 冒頭10分間がスゴい! ピクサー最新作『カールじいさんの空飛ぶ家』 

「音楽が一秒で降りて来る瞬間、それは幸福な体験」音楽家・菅野よう子の世界(後編)

kanyoko.jpg
前編はこちらから ──菅野さんはサントラや楽曲提供がメインで、オリジナル・アルバムは出されたことがない。アーティスト「菅野よう子」としての欲求はどこで発散しているのか。そもそもそういうものはないのでしょうか。 菅野 例えば、アーティストとしての欲求ってどういうものですか? ──アニメや映画のタイトルのつかない、「菅野よう子」という名前で作品を発表したり、菅野よう子とはこういう作曲家であるという自己主張ですね。 菅野 そういうの、全くないんです。あるとすれば、「ライブをやりたいな」くらいです。本当はスタジオにこもるよりも、皆の前で踊ったりしたいの! ってのはありますよ。でもサウンド的な、私の訴えたいこととかはないですね。最初からなかったです。自分がないんで(笑)。全くないですよ。どうでもいいんで、そういうの。 ──よく、ファンや熱心なリスナーの間では「菅野節」があるとか言われるけど。 菅野 全然分かんない。あはははは(笑)。 ──核になる音楽性、というものもない。 菅野 ないんですよね。あえて言えば、3、4歳くらいの時から何か見たら曲を書いたり歌ったりしてたってのはあるんですけど、そんなのアーティスト性も何もないですよ。子どもって、何でもかんでも歌にするじゃないですか。「おいしいな♪」みたいな。そういうのの延長なんですよ。CMソングもその延長です。 ──子どもが節をつけて歌う感覚で、今も作曲している。 菅野 そうそう。ずーっとその感覚。 ──菅野さんの音楽って、時代によっていろいろなサウンドを取り入れていて、ジャンルも表現方法もバラバラなのに、なぜか共通点がある気がしていたんです。で、今話を伺って、そのイノセントな節回し感覚っていうのが、「菅野節」なのかなって思いました。 菅野 そうかもしれないですね。ジャンルやアレンジは仕事内容とか、その時代に求められるもの、画面、オーダーに合わせて技術的に変えていけばよくて、「こういう気分のことを言いたい」っていうパッションの大元は子どもの感覚です。この映像に対してこういうことが感情的にこみ上げるぞというのは、小さいときから変わってない。しゃべるよりも曲で言うほうが楽だったんです、ちっちゃいときから。それは変わってないような気がしますね。 ──じゃあ、好きな音楽とかもない。 菅野 ないですね。 ──どんな音楽を聞いてこられたのか、すごく気になるんですが。 菅野 (音楽は)小さい時から自分で作ってたので......。ただ、学生時代にピアノを弾ける子が周りにあまりいなくて、「弾いて弾いて」って友達から頼まれることが多かった。それで、その時に流行っている曲を致し方なく(笑)、「耳コピーで」覚えてっていう経験をたくさんしました。その時に流行った音楽を人づてに自然に聞いてきたと思います。モンタージュ写真作りと似ているかもしれない。皆が歌っているのをコピーして、こんな感じ?と聞き取りながらアレンジして弾いてた。だからあとで原曲を聞くと「えっ、こんな曲だったの?」みたいなことが割と多い(笑)。 ──流しのピアニストみたいな(笑)。 菅野 『宇宙戦艦ヤマト』を「弾いてくれ!」と何度もリクエストを受けて、弾くたびに皆が泣くわけですよ(笑)。「何でみんな泣いてんのかな?」と思いながら、でも、きっともっと泣きたいんだろうとそういうアレンジを施して弾いてあげる。そういうことをやってきた。 ──自分としてはただしゃべっている感覚。 菅野 そうです。このお話を読んでくれって言われて読むと皆が泣く、みたいな感覚(笑)。だから自分としては、そこにオリジナリティか何かあるってことはなかった。(自分にとって)言葉と同じなんですよね、音楽の表現っていうのは。 ──音楽が降りてくる瞬間ってどんな感覚ですか? 菅野 ん~っとね。すごい幸せで快感なんですよ。言葉にしちゃうと何か変なこと言ってる人みたいだけど、時空を超える経験。10分の長さの音楽でも実時間と別に降りてくる。リアルタイムに「ここがこうなって」と構成を考え出すわけじゃなくって「できた!」ってイメージが頭の中に広がる。ボコンって。普通はそれを曲とは言えないですよね。でもそれは私の中では10分の曲なんです。だから時間を超えてるんです。その瞬間、宇宙的というか......私、おかしい人ですか(笑)。その「できた!」って思う瞬間がすごい幸せですね。この感覚って説明できるものじゃないですけど。もちろん毎回そうだというわけではないけれど、そういうふうに出来た曲のことは全部幸せな経験として覚えています。 ──『シュアリー・サムデイ』でそういう曲はありましたか? 菅野 『Because』がそうです。あれ作るのに2秒かかりませんでしたから。歌詞付きで、あ、できた。終わり。みたいな。 ──『Because』は本当に素晴らしい曲だと思いましたが、あれが2秒ですか......。逆に曲ができなくて苦労することってないんですか? 菅野 言葉が出てこなくて苦労することってあります? 言いたいことがうまく言えなかったり、「この人には何て言おうかな~」というのはありますけど、基本的になんか言わなきゃと思ったら、とりあえず言葉は出てくる。それが自然かどうかは別として。 ──オオゥ......。では菅野さんにとって音楽とは何なんでしょうか? 菅野 えーっ(笑)! んー。本当に言葉と同じで、コミュニケーションの手段ですね。音楽をやらずにいられない、みたいなかっこいいことは全然ないんです。別にやらなくても生きていけるんですけど、音楽があったおかげで救われてもいます。こっち(音楽)で言いたいことが言えているから、言葉は多少ベロベロでもいいやみたいな。だから音楽がなかったら、言えないことが溜まってたんじゃないかな。 ──もし音楽がなかったら何をやっていたと思いますか? 菅野 人格として成立していないと思います(笑)。あまりにも小さい時から、言葉を覚える前から音楽をやっていたので、それがなかったら壊れてたかもしれないです。 (取材・文=有田シュン[株式会社n3o]/撮影=毛利智晴) ●『シュアリー・サムデイ』 中止になった文化祭復活のために男子5人で教室を占拠したら、ハッタリのはずの爆弾が誤爆してしまい、そこから彼らの人生はどんどん転げ落ちていく。しまいには、「3億円と女を見つけてこないと沈める」なんて脅しまで受け......起死回生のチャンスを探して5人は奔走する。超売れっ子俳優・小栗旬の念願が叶った初監督作。 監督/小栗旬 プロデューサー/山本又一朗 出演/小出恵介、勝地涼、鈴木亮平ほか 配給/松竹 7月17日より全国順次公開 <http://www.surely-someday.jp/ > 『シュアリー・サムデイ』(C)2010「シュアリー・サムデイ」製作委員会 ●かんの・ようこ 宮城県生まれ。幼少から音楽に親しみ、大学在学中にバンド「てつ100%」のメンバーとしてデビュー。解散後、作編曲家としてゲーム、映画、ドラマ、アニメなどジャンルレスな活動を続け、特にCM音楽では500本以上の楽曲を手がけている。いま、日本でもっとも重要な音楽家のひとりである。
SURELY SOMEDAY 本日発売です。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 多才多芸なヒットメーカー・菅野よう子が "プロの音楽家"たる所以 「声だけで泣ける」奇跡のシンガーソングライター・奥華子インタビュー 「小栗旬の映画に出たい!」主演切望の上戸彩&長澤まさみが波乱を呼ぶ!?

「音楽が一秒で降りて来る瞬間、それは幸福な体験」音楽家・菅野よう子の世界(前編)

kanyoko0706.jpg
 俳優・小栗旬が初めて監督を務める、ということで話題を振りまいている映画『シュアリー・サムデイ』の公開が、いよいよ目前に迫ってきた。  本作の魅力として、ドライブ感あふれるシナリオや濃いキャラを演じる俳優陣の演技などが挙げられるが、それ以外にも日本が誇る音楽界の至宝・菅野よう子が手掛けるサウンドトラックも忘れてはいけない。  特に、トータス松本、曽我部恵一、石毛輝(the telephones)、ROY(THE BAWDIES)、近藤房之助、手嶌葵といった錚々たるアーティストの歌声と菅野よう子の奏でる泥臭く、ソウルフルな音楽が生み出す「熱い」歌モノは必聴ものである。  今回は、菅野よう子の口から映画『シュアリー・サムデイ』、そして自身の手掛けたサウンドトラックの魅力。そして音楽観に至るまでを、たっぷりと語ってもらった。 ──『シュアリー・サムデイ』の音楽制作を請けるまでの経緯を教えてください。 菅野よう子(以下、菅野) 小栗旬さんは『カウボーイビバップ』(註1)が大好きで、私のレコードも全部持っていてくださったんです。そこで今回初めて監督として映画を作るにあたり、「ダメ元でお願いに来ました!」ってまっすぐなオーダーが直接ありました。最終的にお請けするって決めてから制作までの期間は本当に短かったですね。映画の中で演奏シーンがけっこうあり、俳優さんたちの練習期間も考慮してデモを前もってお渡しする必要がありました。 ──最終的に何曲作られたんですか? 菅野 50曲くらいですね。実質の制作期間は、3日か4日くらいしかなかったかな。今回はスケジュールは本当に大変でした。 ──今回のサントラは50~60年代くらいのアメリカ映画の劇伴や、ソウル・ミュージックの影響を感じたのですが、これは監督からそういうイメージというオーダーがあったんですか? 菅野 特に具体的なオーダーはなかったです。ただ監督のたたずまいに、私から見るとそこはかとない虚無感や漂ってくる部分があって。若いんだけど、すごいクールなところとか、やんちゃでガチャガチャしているんだけど視線がどこか冷めている部分を感じたので、ああいうサウンドになりました。内容に沿わせて表面的にはやかましいんですけど、ポイントポイントで、3センチくらい浮いたような楽曲も入れてバランスを取ったという感じですね。 ──本作は音楽が作品で重要な意味を持ちますが、アニメはともかくとして実写作品ではここまで音楽に寄った映画はやられたことはありませんよね? 菅野 邦画ではあまりないです。 ──自分の作った音楽が実写の映像作品とミックスされたのを観て、どう感じましたか? 菅野 今まで邦画の仕事をやらせていただいて、音楽の立ち位置が難しいと思っていたんですけど、今回好き勝手やらせてもらっても、画面に拮抗しているっていうか、音で騒いで邪魔しても成立していた。いっしょにガチャガチャやっている感じがあって、こういう感覚は今までの邦画の仕事ではあまりなかったので、幸せな仕事でした。 ──初めての経験だった。 菅野 そうですね。映画だと、どうしても役者さんの演技を立たせるために音楽はちょっと引いてくださいとか、演技がいまいちなんで音楽で泣かせてください! とか、テンポがイケてないんで音楽でもっていってくださいとか、正直言ってそういう細かなお願いごとって多いんですよね(笑)。感情表現する役割を演じたり、欠けをカバーする繊細な役割を音楽が担わざるを得ず、盛り上げ方にも監督の個性が出て押しの強いものは好まれないことも。アニメはそれに比べれば自由度が高いです。製作期間の長さの違いも大きいです。今回は監督自身、「アニメっぽいカット割りにしたい」「舞台設定も昭和だか日本だか、時代や場所がわからないようにしたい」って仰っていたので、『シュアリー・サムデイ』の音楽はアプローチとしてはアニメに近いです。 ──では、今回は自由でやりやすかった。 菅野 はい。何やっても、画に対してぶち壊さないで済んだっていう(笑)。 ──ぶち壊してしまったことってあるんですか? 菅野 はい(笑)。いつもぶち壊してると思う。でも、分かっていてぶち壊してるつもり。見ている人に何も与えないくらいだったら、ひどくても「何か」は残ったほうがいいと思っています。何にも残らないくらいだったら、まずいものを食べたほうが「食べた!」って感じる方なので(笑)。何もなければ音だけでもと「ワル目立ち」して、孤軍奮闘してしまう傾向があるんですけど、今回はそんなこともなく、音楽は音楽で勝手に遊んでると絵のほうも勝手に遊んでくれてる作品でしたので、ふと気がつくと面白いことになっていました。 ──監督はあえてそれを狙って自由にやらせたのでは? 菅野 (監督は)一生懸命やっていただけだと思います。ただ、素地にエンタテイメントの感性のある方だと思います。これが理屈じゃないんですけど、「エンタテイメントしよう」って思ってる方って「無理」が出ますし、逆に「エンタテイメントなんて関係ないぜ」って思ってる方の作品も見ててきつい。すごく自然に、人に観てもらうのがどういうことなのかっていうのが染み付いている方、という感じがします。マイケル・ジャクソンみたいな。そこに立っているだけでもかっこいいみたいな(笑)。 ──本作のタイトルにもなっているテーマソング『SURELY SOMEDAY』。これがまた泣ける名曲なんですが、作詞&作曲したトータス松本さんとのコラボはいかがでしたか? 菅野 デモをもらった時にすごい詞がいいよねって監督と言っていて、雰囲気もよかったので、デモをそのまま使わせていただきました。デモの時は最後の「ラーララー♪」ってフレーズがなかったんです。アレンジの段階でそのフレーズを入れさせていただいて、サントラの他の曲にもちょっとずつそのフレーズを潜ませたんです。そうすることによって、映画中お客さんが無意識のうちにそのフレーズを何度も聞くことになって、最後にそれが出てきた時に、何となく知ってるという風になりたいな、と思って。で、最後に流れる『Because』って曲までそれが入ってるんです。何回も何回も形を変えて出てきているっていう......、小細工?(笑)。 ──そういう小細工は、よく用意したりするんですか? 菅野 ただガチャガチャといろんなアーティストが参加しているサントラもありえると思うんですけど、今回に関しては小栗監督の初作品なので、寄せ集めでない、もう少し丁寧な感じのサントラを作ってあげたいなというのがありました。全然違う曲なのに統一感があるものにするには、同じフレーズをずっと使っていくのが効果あるかなと思って。 ──映画のサントラであると同時に、コンセプトアルバムのようなイメージですね。 菅野 そうですね。 (後編に続く/取材・文=有田シュン[株式会社n3o]/撮影=毛利智晴) ※註1 『カウボーイビバップ』 1998年に発表されたテレビアニメーション。ハードボイルドタッチな作劇のみならず、70年代のテレビドラマやアニメ、アメリカン・ニュー・シネマを下敷きにした映像、ジャズ、ブルース、ロックを基調とした音楽が、日本のみならず世界各国で高い評価を受けた。2000年日本SF大会で星雲賞メディア部門を受賞。 ●『シュアリー・サムデイ』 中止になった文化祭復活のために男子5人で教室を占拠したら、ハッタリのはずの爆弾が誤爆してしまい、そこから彼らの人生はどんどん転げ落ちていく。しまいには、「3億円と女を見つけてこないと沈める」なんて脅しまで受け......起死回生のチャンスを探して5人は奔走する。超売れっ子俳優・小栗旬の念願が叶った初監督作。 監督/小栗旬 プロデューサー/山本又一朗 出演/小出恵介、勝地涼、鈴木亮平ほか 配給/松竹 7月17日より全国順次公開 <http://www.surely-someday.jp/ > 『シュアリー・サムデイ』(C)2010「シュアリー・サムデイ」製作委員会 ●かんの・ようこ 宮城県生まれ。幼少から音楽に親しみ、大学在学中にバンド「てつ100%」のメンバーとしてデビュー。解散後、作編曲家としてゲーム、映画、ドラマ、アニメなどジャンルレスな活動を続け、特にCM音楽では500本以上の楽曲を手がけている。いま、日本でもっとも重要な音楽家のひとりである。
SURELY SOMEDAY 7月7日発売。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 多才多芸なヒットメーカー・菅野よう子が "プロの音楽家"たる所以 「声だけで泣ける」奇跡のシンガーソングライター・奥華子インタビュー 「小栗旬の映画に出たい!」主演切望の上戸彩&長澤まさみが波乱を呼ぶ!?

存在感で光る若手女優・安藤サクラ「俳優って地味な仕事だと思います」

andosakura01.jpg
『トルソ』の他にも、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』
『SRサイタマノラッパー2』と出演作が相次ぐ安藤サクラ。
カメラの視線を自然と集めてしまう不思議な魅力の持ち主なのだ。
 若手女優の中で、今もっとも注目の存在なのが、安藤サクラ。『風の外側』(07)で主演デビューとまだキャリアは浅いが、『愛のむきだし』(09)ではカルト教団の幹部・コイケを怪演し、話題を呼んだ。『俺たちに明日はないッス』(08)ではヌードシーンも厭わない女優魂を見せるなど、観客の視線を常に釘付けにしている。そんな逸材を若手監督たちも放っておくはずがなく、6月には『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』が立て続けに公開。さらに『愛のむきだし』で共演した渡辺真起子と姉妹役を演じた『トルソ』が7月10日(土)より公開される。姉の元カレと交際しておきながら、姉の部屋に転がり込むという図々しくも憎めない妹ミナを演じている。これまでの出演作だけでなく、父親である奥田瑛二をはじめとする安藤家のこともぶしつけながら尋ねると、独特の言語感覚でホワホワ~ンと答えてくれたのだ。 ──最新作『トルソ』、姉妹間の心の葛藤がまざまざと描かれていて、思わず作品世界に引き込まれました! 安藤サクラ(以下、安藤) カメラマンでもある山崎裕監督が本当にすごいんです。私が気がついてないような"女"の部分を、カメラに映し出してしまうんです。山崎さんじゃないと撮れない作品だと思います。私、ふだんの山崎さんも大好きなんですけど、カメラを持って被写体を追いかける山崎さんは、人間とは違う別の生き物になるんです。本人が気がついてない部分まで映し出してしまう怪物みたいな存在なんです。 ──日本民俗学に出てくる妖怪サトリみたいじゃないですか。 安藤 あはは、山崎さんは妖怪なのかなぁ(笑)。渡辺真起子さんは山崎さんのことを猛獣と呼んでいましたけどね。私が何もしなくても、山崎さんが勝手に撮ってしまうんです。だから『トルソ』に出てくるヒロコとミナの姉妹は、山崎さんの目から見た女性像なんですかね。 ──山崎監督は『俺たち明日はないッス』のカメラマンでしたね。セーラー服姿の安藤さんの妖しさが強烈でした。でも『トルソ』は台詞が少なく、表情や佇まいで内面を表現するのは難しかったでしょ?
andosakura02.jpg
『愛のむきだし』『クヒオ大佐』(09)
で共演した満島ひかりと共に若手女優
として注目される。「ひかりとは
仲良し。ライバルってよく言われます
が、そんな意識はないです(笑)」
安藤 現場では、山崎さんと真起子さんに頼り切っていました。撮影前は台本読みながらいろいろ考えるんですけど、結局、撮影現場に入ると関係なくなっちゃうんです。なので、今回はミナという役を考えたというよりも、現場で姉役の真起子さんとの関係性がどうなっていくのかということに慎重になりながら作っていきました。 ──サクラさん自身もお姉さん(映画『カケラ』の安藤モモ子監督)がいますね。 安藤 はい。妹って、姉に甘えたり、自分の言いたいことを言っちゃったりする、うざったさってありますよね。私が演じたミナも相当うざいです(笑)。『トルソ』の場合は異父姉妹という設定なので、一緒に生まれ育った姉妹とは違う、別々の女の子と女の子が姉妹になったという独特の関係だと思いますけど。えっ、姉と同じ人を好きになったことがあるか? ない!(きっぱり) ないですよ、ありえない。まず、どっちかに好きな人がいたら、それを知った時点で、その人は好きになれません。うちの姉妹はすっごい仲良しなんです。誰よりも大切な関係。お姉ちゃんさえいれば、彼氏は必要ないやと思ったこともあるぐらいです。だいたい、姉妹と付き合おうなんて人は、気持ち悪い......。姉妹で同じ人と付き合うことはありえません! ──完全否定されたので、話題を変えたいと思います。公開中の『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』でも母性を感じさせる女性・カヨちゃんを好演しています。「自分でブスと言うのはいいけど、好きな人からブスと言われるのはイヤ」というカヨちゃんの台詞、すっごく印象に残るんですけど。 安藤 うれしいです。ありがとうございます。大森立嗣監督が母性的なキャラクターを考えていたので、体重を7~8kg増やしました。「デブになれ」とまでは言われてないんですけど、見た目で安心感を与えられるようにということで太ったんです。昨年の6~7月に撮影した作品ですけど、その前後に出演した作品は、フツーにデブになってます(笑)。でも、自分から進んで太る機会なんて、あまりないことなんで、面白がって太りました。 ──すべてを受け入れる24歳! スクリーンに映し出されるサクラさんは、男の考えることなんか全部お見通しだよと言わんばかりの、経験豊富な女性に見えますよ。
torsomain.jpg
男嫌いで、男性型の人形"トルソ"と静かに暮
らすOL・ヒロコ(渡辺真起子)のマンション
に、妹のミナ(安藤サクラ)が転がり込んで
きた。父親や恋人という"男"をめぐって、2人の
本音がぶつかり合う。
(c)2009"Torso"Film Partners
安藤 え! 経験なんて、人並み以下だと思いますよ! でもお芝居を通して自分自身が学べることや経験できることは沢山あります。だからいろんな役を演じられるのは、すごく幸せなことですよ。あれ、今、気づいたんですが、私、下のチャックが開いてました。うわ~、さっきの撮影中も開けたままだったかも。どーしよう!? ──スクリーンだけでなく、ふだんのサクラさんの言動からも目が離せません(笑)。出演のオファーが殺到してるんじゃないですか? 安藤 (落ち着き直して)そんなことないです。オーディションも一時期はけっこう受けていたんですが、全然ダメでした。オーディション会場に入った瞬間に、「君はないから」と鼻で笑われたこともあります。あんまりオーディション落ちるんで、思いっきりぶりっ子して「こんにちは。安藤サクラです♪」(にっこり笑う)とかもやってみたけど、やっぱりダメでした(苦笑)。オーディションに受かった数少ない作品が『俺たちに明日はないッス』なんです。初めてオーディションに受かって、すっごくうれしかった。 ──決して順風満帆な女優道ではないんですね。デビュー作『風の外側』は実の父親である奥田瑛二監督作、しかもクランクイン4日前に主演女優が降板して急遽バトンタッチ、さらにヌードシーンもあるという大変なハードルでした。 安藤 うちの父と一緒に仕事をするというのが、何よりも試練でしたね。その後、何本か映画に出させていただきましたが、あの現場はかなりしんどかった。最初は台詞のない指揮者の予定だった私が急遽主演することになり、父は理不尽なくらい厳しく当たりました。でも、デビュー作で厳しい目に遭ってよかったと今は思いますね。 ──まさに我が子を千尋の谷に突き落とす獅子のようですね。 安藤 どうでしょう(笑)。私が小さい頃は、父は忙しくてほとんど家にいない状況だったんです。『風の外側』の撮影が終わってから、ようやく父と打ち解けた感じですね。小さい頃は、たまに父が家にいても、地味な格好でぼ~としてるだけだから、「俳優って地味な仕事だな」と思ってすごく憧れてました。他の人が「俳優は華やかな仕事」とか言ってるのを聞いて、急に恥ずかしくなっちゃたんですが。今は地味だけど華やかに見られる仕事だなっていう認識になりました。 ──子どもの頃は「1+1=3」と奥田瑛二さんから教えられていたそうですね? 安藤 そうですね。よく分からないんですけど、たまに家にいると私に向かって「1+1はなんだ?」って聞いてくるんです。それで「2」と答えると怒るんです(苦笑)。その代わり、小学校で先生に言われた色と違う色に絵を塗ったりすると誉められたりしましたね。それでよく、母(エッセイストの安藤和津)は学校に呼び出されてました。そのときは母から「絵を違う色に塗るのは構わないけど、先生の言っていることも理解するようにしようね」って言われたのを覚えてます。
torso_sub01.jpg
(c)2009"Torso"Film Partners
──学生時代はアルバイトに励んでいたとか。 安藤 はい、小学3年生以降はしょっちゅう先生から呼び出しをくらうダメな子になり、現在まで来てしまいました。授業中、みんなと同じようにじっと黒板を観てられないです(苦笑)。でも、アルバイトしてるときの私はけっこー輝いてたと思います(笑)。高校に入学してすぐにジョナサンで働き始めました。その後もいろいろやりましたね。最近もインド料理店で小遣いを稼いでたんですが、楽しかったです。 ──俳優にとってオフの過ごし方は大事。 安藤 すべてが大事ですね。なんだろう、いつも素直に生きたいなと思いますね。朝が来て、昼が来て、夜が来て、その間に何が起きても、すべてのことを素直に感じて生きていきたい。でも、それって難しいです。 ──いろいろ考えて女優業に取り組んでいるんですね~。 安藤 さっき話したような育てられ方をしたせいか分からないんですけど、私ってすごく感覚で動いてしまうんです。でも目に見えないフワフワしたところばかり見ていたら、結局は自分は現実の人間なんで、すごく辛くなるんです。だから、目に見えないことも大事だけど、同じように目に見える現実も大事なんだって考えるようにしています。これって小さい頃に母が言ったことと同じことだなって。目に見えるものも、見えないものも素直に感じながら生きていくことが今の私のテーマですね。誰かが書いた脚本があって、監督が演出する。でも、それを表現するのは自分という肉体。なので自分の体に正直に、仕事も日常生活も素直にきちんと過ごしたいなと思ってます。 ──七光りであぐらをかいている二世タレントとは、ひと味もふた味も違うなぁ。 安藤 う~ん、父と私は正反対のタイプですね。父がひとつの役から違う役に変わるのに苦労してる姿を見てきましたが、父は決して器用な俳優ではないなと思います。父は完全な反面教師。逆に私がこれから子どもを産んで、子育てするようになったら母の気持ちが理解できるようになるでしょうね。まぁ、なんだかんだいっても俳優は外へ出ていく仕事なんで、七光りでも注目されるのはいいんじゃないかと思います。でも父は父、私は私なんで、それ以上にガンバらなくちゃいけないこともあると覚悟してます。まだ、私ほどのキャリアで、「女優です」とは言えません。だから、まずは生きることに正直でいたいなって思ってます。  こちらの質問に対して、間を置きながらじっくり考えてから話す姿は、好感が持てるのだ。また独特の存在感は、若い頃の桃井かおりを彷彿させるではないか。安藤さんちのサクラさん、これからがとっても楽しみな逸材ですぞ。 (取材・文=長野辰次) torso_sub03.jpg 『トルソ』 監督・撮影・脚本/山崎裕 脚本/佐藤有記 出演/渡辺真起子、安藤サクラ、ARATA、蒼井そら、石橋蓮司、山口美也子 配給/トランスフォーマー 7月10日(土)より渋谷ユーロスペースにてレイトショー(初日舞台挨拶あり)ほか全国順次公開。<http://www.torso-movie.com/> ●あんどう・さくら 1986年東京都生まれ。奥田瑛二監督作『風の外側』(07)のヒロイン役で映画デビュー。『俺たちに明日はないッス』(08)、『罪とか罰とか』(09)、『愛のむきだし』(09)などの話題作に出演。現在公開中の『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』ではアジアン・フィルム・アワードにノミネート。『SRサイタマノラッパー2女子ラッパー☆傷だらけのライム』では得意のダンスを披露している。
愛のむきだし ゾクゾクします。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 吉田恵輔監督の溢れ出すフェチ感覚!「焼肉を焼く女子の髪の匂いに惹かれる」 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 熱く、冷酷で、チャーミングな男たちが銃弾と踊る『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』