バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』

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『元気が出るテレビ!!』『浅草橋ヤング洋品店』などの伝説的ヒット番組を生み出してきたテリー伊藤氏が、キャラクタービジネスに参入。テリー氏の被っている帽子にはオリジナルキャラクターNANITYが。(c)「10億円稼ぐ」製作委員/(c)NANITY
 映画というフィクションを生み出す装置を使って、現実社会でお金も生み出そうという"錬金術"のような試みだ。"天才演出家"として知られるテリー伊藤氏の初監督映画『10億円稼ぐ』は、テリー氏の天才ゆえのひらめきと数々のバラエティー番組をヒットさせてきたノウハウを駆使して、ひと儲けを企む景気のいい現在進行形のドキュメンタリーとなっている。今回、テリー氏がその鋭い眼差しを向けたのはキャラクタービジネス。サンリオのハローキティは世界で年間約50億ドルもの売り上げがあるというではないか。タレントショップの先駆けとなった「元気が出るハウス」は『元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)の終了と共に消滅したが、ハローキティやミッフィーのような人気キャラクターを自前で作ってしまえば、その後はTシャツやグッズに使われる際にロイヤリティーが永続的に入ってくる。こんな美味しい話はない。テリー氏は自慢のビンテージジャケットやバイクを売り払うことで軍資金300万円を捻出。ゼロからのオリジナルキャラクターの開発、営業に乗り出す。  テリー氏自身はライセンスビジネスの知識があるわけでも、アパレル業界に強力なコネがあるわけではない。ただし本名の伊藤輝夫ではなく、"天才演出家"テリー伊藤としてカメラの前に立つと奇抜なアイデアが湧き、そのアイデアを実現化するために大胆な行動に打って出ることに躊躇しない。テリー氏はテレビ出演する際にはド派手な革ジャン&ブーツ姿で登場するが、あれはカメラの前に立つ自分を鼓舞するため、強気の自分を演出するための戦闘服なのだ。今回の映画制作でも自分に向かってカメラが回り続けることで、テリー氏はどうすればビジネスが面白い方向に転がっていくかを走りながら常に考え続け、そして判断を下していく。
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ビンテージジャケットを売って、軍資金300万円
を調達。売れっ子コメンテーターとして勝ち
組人生を歩んでいるように思えるテリー氏だが、
批評する側でなく、批評される側でいたいのだ。
 台本のないドキュメンタリーである本作は、テリー氏ならではの出たとこ勝負の連続だ。まずエイベックス所属の暇を持て余している女性タレントたちに声を掛け、自分にはない若い女性ならではのアイデアを募る。さらにmixiで見つけた女性イラストレーター・Paricoさん(23)らとコンタクトを取り、キャラクターの原画を発注。この結果、コウモリ王国のキュートなお姫さまNANITYが誕生する。だが、キャラクターができても、ただ待っていればお金が湧いてくるわけではない。テリー氏は「ハローワークス」と命名されたエイベックスの若手女性タレントたちを率いて、オモチャ会社やアパレル企業へのNANITYの売り込みを開始。さらにラスベガスで開催されるライセンシーマーケットに出展して、世界各国のバイヤーたちに渋谷発のニューキャラクターとして売り込んでいく。  当然ながら筋書きのあるドラマと違って、ドキュメンタリーは当事者たちの思い描いたようには進まない。実際に多額の金額が動くビジネスだけに、いくら有名人であるテリー伊藤からの売り込みといっても企業側は簡単には契約は結べない。撮影開始から1年があっという間に過ぎていく。NANITYのキャラクター買い取り料で25万円、商標登録料として46万円、営業用パンフレットや販促グッズの製作費25万円、プロモーション用のアニメ製作費70万円、ライセンシーマーケットへの出展料80万円......とテリー氏の用意した300万円はすでに消えてしまった。高い授業料で終わってしまうのか。
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ドン小西氏を相手に、左目を負傷して入院して
いた頃の思い出を語るテリー伊藤氏。カメラの前で
トークすることで、意外な記憶が甦ってきたという。
 なかなか好リアクションが得られない現実のビジネスに苛立ちを感じたテリー氏は、『スッキリ!!』(日本テレビ系)で共演するファッションデザイナーのドン小西氏に不安と焦りを打ち明ける。そのときの小西氏のコメントは、「オレ、15億円の借金があったけど、9年間で返済したよ。そのエネルギーは何だったかというと、オレはファッションが好き。オレにはファッションしかないということだよ。その点、テリーさんはどうなの?」。ビジネスはアイデアだけじゃダメ、信念がないと成功しないよというマジな言葉に、テリー氏の脳裏に18歳のときに左目を負傷した思い出が蘇る。天才演出家・テリー伊藤がまだ自分の天才性に目覚める以前の18歳の伊藤輝夫と向き合うこのシーンは、本作のキモといっていいだろう。ライセンスビジネスでひと儲けのはずが、意外にも自分自身のアイデンティティーを見つめ直す作業となる。  北朝鮮の"喜び組"のごとくテリー氏の両脇を彩る「ハローワークス」の面々も、ただのビジュアル要員ではない。若さと今どきのルックスが自慢でエイベックス所属タレントになったものの、その後はパッとしない彼女たち。テリー氏の新ビジネスに参加することで、自分たちも一緒に売り出されちゃおうという他力本願な甘い考えだったのが、テリー氏からの指示待ちだけでは今までと何も変わらないことに気づき、それぞれがNANITYの飛び込み営業を開始する。本業は歌手である光上せあらは営業中のドンキホーテの店長に断られても断られても、執拗に売り込みを続ける。店長の出勤、退社を待ち構える様子はほとんどストーカー状態。ドンキホーテの店舗じゃなくて、本社に直接電話で売り込めばいいじゃんとツッコミたくなるシーンだが、テリー氏の"ビジネスとは汗臭くて泥臭いもの"という演出意図が感じられる。本作はライセンスビジネスのハウツーを伝えるのと同時に、世間知らずで若さを消費していた「ハローワークス」の面々がNANITYというキャラクターを通じて、実社会とコミュニケイトしていく物語でもあるのだ。  テリー氏と「ハローワークス」の2年ごしの努力が実って、NANITYは国内16社、海外11社との契約が成立。すでに国内竿大手の衣料チェーン店「しまむら」ではNANITYグッズが販売されている。最終的には世界40か国と契約を結び、2015年には目標金額10億円を越える見込みだという。だが、テリー氏の野心はこれだけは満たされず、次の新ビジネスへと走り出す。最後にひとつ気になったのは、NANITYの原画を担当したイラストレーターのParicoさん。キャラクター買い取り料ということで25万円を受け取っているようだが、NANITYがヒットした場合のオプション契約などは結んでいないのだろうか。「およげ!たいやきくん」が450万枚の大ヒットを記録しながら、印税契約せずにお金持ちになりそびれた子門真人みたくならなければいいけど。 (文=長野辰次)
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『10億円稼ぐ』 企画・監督/テリー伊藤 出演/テリー伊藤、稲村寿世、光上せあら、杉浦亜衣、真崎麻衣、宮脇詩音、NIGO、ドン小西、ラッキィ池田、彩木エリ、高橋がなり 配給/エイベックス・エンタテインメント 11月20日(土)より渋谷シネクイントにてレイトショー公開 <http://10-oku.com>
テリー伊藤×ピタミン=スッキリ!! 生粋の商売人。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』

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初めて裁判所を訪れたタモツ(設楽統)は傍聴マニア(螢雪次朗)のレクチャーを受け、裁判の面白さにハマっていく。原作者の北尾トロ氏いわく「初めての傍聴は、窃盗など身近なものの初公判を選ぶとよい。殺人とか大変そうなものは避けたほうが無難」とのことだ。
(c)2010「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」
 法廷映画と言えば、シドニー・ルメット監督の古典的名作をベースに現代ロシアの社会事情を盛り込んだリメイク版『12人の怒れる男たち』(07)、オカルト裁判の行方を描いた『エミリー・ローズ』(05)、現在も係争中の冤罪事件の真相に迫った高橋伴明監督の『BOX 袴田事件 命とは』(10)など緊張感溢れる第一級のサスペンス作品が並ぶ。裁く側、裁かれる側の生き様がぶつかり合うことから、脚本の構成力、監督の演出力、通常の映画よりもかなり多くなるキャスト陣の巧みな交通整理が求められるハードルの高いジャンルだ。そんな法廷ものの中に、裁く側でも裁かれる側でもない、第3の視点による新しい作品が誕生した。傍聴席に佇む傍聴人の立場から裁判を描いた豊島圭介監督の『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』がそれだ。面白そうな裁判を見つけては傍聴席に陣取る傍聴マニアのワクワク目線で、実際に起きた珍事件の数々をウォッチングしていく。  原作は傍聴ブームの先駆けとなった北尾トロ氏の『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』と続編『裁判長!これで執行猶予は甘くないすか』(ともに文藝春秋)。どちらも「裏モノJAPAN」(鉄人社)に連載されたもの。オウム事件、音羽幼女殺害事件、清水健太郎の被告席での気になるファッションなど、ニュース番組やワイドショーを賑わした裁判についても触れているが、北尾氏の筆が走っているのは、有名人がらみでも、世間を驚かせた大事件でもない、誰も知らない小さな事件の数々だ。歯が痛かったからという理由で、執行猶予中に覚醒剤に手を出してしまった女性。スピードオーバーでバイクをはね飛ばしてしまった男は謝罪しているものの、着ているトレーナーの背中がドクロマーク入りで心証が台無しなしだ。また、北尾氏の興味対象は被告だけではない。女子高生の集団が社会見学のために傍聴席に並んだ途端、やたらテンションが高くなる裁判官や検事。お金がなくて入れ歯が買えないのか、前歯3本が欠けてフガフガ状態で法廷に立つ迫力のない女弁護士。法廷映画や2時間ドラマが取り上げることのない、あまりに人間臭すぎる裁判所内部の様子を北尾氏は生き生きとスケッチしている。
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被告席で無駄に泣き叫ぶ痴漢の常習犯(バナナ
マン日村勇紀)。見苦しく泣きわめくのは、
傍聴人だけでなく裁判官の心証も悪くするので
気をつけたい。
 映画『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』で主役に起用されたのは、お笑い芸人バナナマンの設楽統。芝居のうまさはコントや『流星の絆』(TBS系)で実証済みだが、本職の俳優ではないというユルい立場が傍聴人役にぴったり。これが高田純次やアンタッチャブル山崎だとあまりに無責任感が漂いすぎだろう。映画初主演ということで設楽が主人公を神妙に演じているところが、いい案配だ。売れない放送作家のタモツ(設楽)は映画プロデューサー(鈴木砂羽)に法廷映画の脚本を書くことを命じられ、シナリオハンティングのため裁判所に通い始める。初めての裁判所に戸惑うタモツだが、百戦錬磨の傍聴マニアたち(螢雪次朗、村上航、尾上寛之)と知り合い、裁判の楽しみ方を伝授される。傍聴席にギャラリーがいることで裁判に緊張感が与えられること、ディープな裁判でヘコんだときは簡易裁判所がおススメなこと、そして美人検事(片瀬那奈)の裁判は人気が高いこと。タモツは脚本の取材であることを忘れ、裁判の面白さにハマっていく。  劇中で取り上げられる裁判は、原作もしくは脚本を担当したアサダアツシ氏が取材中に実際に出くわした実在の事件がモデルとなっている。被害者がいることを考えるとゲラゲラと大笑いできないのだが、ベテラン傍聴マニア(螢雪次朗)いわく"所詮、他人の人生ですから"、思わずニヤッと笑ってしまう。本作は不謹慎なる実録社会派エンタテイメントなのだ。  ただし、映画を作劇する上で大きな問題が生じる。事件をただ高見の見物しているだけでは映画の主人公に成り得ないからだ。主人公自身がリスクを冒し、事件の渦中で悶え苦しみ、その結果として解決策を見出して行動を起こさないことには劇映画(=ドラマ)として成立しない。そこで本作は"傍聴人がいることで裁判に緊張感を与えることができる"という部分に着目し、原作にはない意外な展開をクライマックスに用意している。美人検事(片瀬那奈)から「さぞかし楽しいでしょうね、他人の人生を高見の見物して」と罵られたタモツは一念発起。冤罪と目されている放火事件で逆転無罪を勝ち取るため、傍聴人として出来うる最大限の行動に打って出る。まず地味な弁護士に派手なパフォーマンス術、衣装コーディネイト術をレクチャー。さらに被告の母親に毎日朝と晩に無罪を訴えるチラシを裁判所の前で配らせて、裁判官の心情に訴える。そして裁判当日は他の傍聴マニア(阿曽山大噴火)たちにも呼び掛け、傍聴席を満席にして検察側に無言のプレッシャーを掛ける。傍聴人としての全力を尽くしたタモツ。0.1%の確率と言われる奇跡の逆転無罪はあり得るのか......。  ここまで読まれた方は、映画だけでなく傍聴そのものにかなり関心を抱いているのではないだろうか。そんな方たちのために、原作者である北尾トロ氏に"初心者向け傍聴の心得"についてコメントをもらった。ありがとうございます、北尾さん。 ──裁判関係者は美人が多いと原作本で書かれていますが、女優・タレントに例えるとどういうタイプでしょうか?
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SMの女王様ばりにキリリとした表情で被告人を
責める美人検事(片瀬那奈)。原作によると、
裁判関係者は大人なムードの知的美女が多いらしい。
北尾 検事や判事は、派手派手しくなくクールな感じの人が多い(例えると、堀北真希のような人)。対して、弁護士はメイクも派手でケバケバしい感じの人が多い(例えると、沢尻エリカのような人)。裁判官は、知的で、30代以上のベテランの人(例えば、天海祐希のような人)が多いですね。 ──検事・堀北真希、弁護士・沢尻エリカ、裁判官・天海祐希! これは是非とも傍聴したい! でも、殺人事件などの裁判を傍聴して、ヘコみませんか? そういう場合はどうすればいい? 北尾 ヘコみます。そういう場合はまっすぐ家に帰らず、喫茶店でも飲み屋でもいいのでブレイクを入れて平常心を取り戻すこと。悪いものを持ち帰らないようにすることです。 ──映画のように傍聴人がいるのと、いないのでは裁判が変わってくるもの? 北尾 変わります。たとえ一人でも傍聴人がいると緊張感が出るので、弁護人でも検察でもヘタなことができなくなる。身内だけの裁判はどうしてもダレるので、傍聴人はいたほうがいいんです。  また、北尾氏によると、裁判員制度が始まったことで、検察官や弁護人の尋問の仕方は法律用語ではなく、分かりやすい普通の言葉を使い、身振り手振りでいかに裁判員たちの心を掴むかを意識するようになっているとのこと。なるほど、そう聞くと裁判所がぐ~んと身近に感じられる。被告席はご勘弁だが、一度は裁判所を体験してみるのも楽しげではないか。裁判に興味を持つこと自体は不謹慎じゃないよね? (文=長野辰次) saibancyo04.jpg 『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 原作/北尾トロ 脚本/アサダアツシ 監督/豊島圭介 出演/設楽統、片瀬那奈、螢雪次朗、村上航、尾上寛之、鈴木砂羽、木村了、堀部圭亮、斎藤工、徳永えり、大石吾朗、前田健、廣川三憲、佐藤真弓、阿曽山大噴火、日村勇紀、竹財輝之助、杉作J太郎、千葉雅子、市川しんペー、モト冬樹、平田満 配給/ゼアリスエンタープライズ 11月6日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー <http://www.do-suka.jp>
裁判長!ここは懲役4年でどうすか―100の空論より一度のナマ傍聴 どうすか? amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

豊作ズラリの3D映画 この秋おススメの厳選3本はこれだ!

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(c)2009 TWENTIETH CENTURY FOX
 新世代のデジタル方式による3D映画の上映が徐々に増え始め「3D映画元年」と呼ばれた昨年、そして家電業界では主要メーカーが相次いで3D対応テレビを売り出し「3Dテレビ元年」とも称される今年。さらにゲームやモバイル分野にも3Dコンテンツの波は広がり続け、見る側の目も肥えてきた。そうした観客の期待に応えるべく、制作段階から3Dの演出をしっかり念頭に入れて撮影し、適切な編集や視覚効果を加える作品が増えてきたことで、3D映画全体の質も着実に向上している。   この秋、3D映画を語るならまず、新世代3D映画ブームの立役者であり映画史上最高のヒットメーカーであるジェームズ・キャメロン監督の『アバター 特別編』(20世紀フォックス映画配給、公開中)は外せない。これは昨年末に公開されるや世界各国で特大ヒットを記録し(世界興収約2390億円)、前作『タイタニック』(97年)で10年以上破られなかった世界興収歴代1位の記録を自ら更新したSFアクション超大作『アバター』に、約9分の未公開映像を追加して新たに公開されるもの。衛星パンドラの瑞々しいジャングルに息づくバラエティー豊かな動植物、主人公が「アバター」となって先住民ナヴィに導かれ体験する冒険とロマンス、そして人間対ナヴィの壮絶な戦い。新たに加えられたシーンにより物語の深みが増したおかげで、壮大な世界観と一体化した3D映像に没入する感覚を一層楽しめるようになっている。  3Dアニメ映画の新作では、米興収で3D映画史上歴代5位に躍り出た大ヒット作『怪盗グルーの月泥棒 3D』(東宝東和配給、10月29日公開)がオススメ。バナナから作った小さな手下「ミニオン」たちと共に月を盗もうと企む意地悪な怪盗グルーが、孤児院育ちの幼い三姉妹に出会ったことで、人生の大きな転機を迎えるというストーリー。ファミリー向けの作りではあるが、ジェットコースターのシーンに代表されるように、アトラクション感覚一杯の躍動的な3D映像は大人の鑑賞にも十分堪えるクオリティーだ。  邦画で健闘が期待されるのは、雨宮慶太監督による特撮テレビシリーズの3D劇場版『牙狼<GARO> RED REQUIEM』(東北新社+ゴー・シネマ配給、10月30日公開)。人間の邪心にとりつく魔獣「ホラー」と戦う魔戒騎士(小西遼生)の活躍を描く。予算や日程の都合により通常のカメラで撮影した映像をポストプロダクションで3D変換する作品も多い中、本作は撮影からステレオカメラを用いた「リアル3D」が売り。テレビドラマ時代から話題を呼んだスタイリッシュなVFXと相まって、オリジナリティあふれる3Dアクション娯楽作に仕上がっている。  さらに、この週末から始まる東京国際映画祭の特別招待作品として24分のスペシャル・プレゼンテーション映像が上映される『トロン:レガシー』(ディズニー配給)も、12月17日の公開が待ち遠しい注目作。クールに構築された仮想空間のデザインとスタイリッシュなアクションを垣間見せるフッテージを試写やイベントなどで鑑賞した業界人やファンたちから、「『アバター』を超える3D映像」との呼び声も高い。  質の高い3D映画が豊作のこの秋。ぜひ映画館でお気に入りの作品に出会い、じっくりと味わっていただきたい。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 『アバター 特別編』作品情報 <http://eiga.com/movie/55658/> 『怪盗グルーの月泥棒 3D』作品情報 <http://eiga.com/movie/55464/> 『牙狼<GARO> RED REQUIEM』作品情報 <http://eiga.com/movie/55382/> 『トロン:レガシー』作品情報 <http://eiga.com/movie/55210/>
アバター ブルーレイ版エクステンデッド・エディション まだ見てないけど、もはやもういい。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 "3D映画元年" 巨匠キャメロンが満を持して挑むSF大作『アバター』 ドリームワークス歴代トップ評価を獲得! 3Dファンタジー『ヒックとドラゴン』 3Dで臨場感が倍増! 手に汗握る格闘シーン満載『バイオハザードIV』

名優たちが夢の競演 この秋はオールスターキャスト映画に注目!

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(C)2010「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」製作委員会
 主役級の有名俳優が豪華に顔を揃えるオールスターキャスト映画は過去にも数多く作られてきたが、中には一部俳優がごくわずかなシーンで顔を見せる程度の、本筋には大して絡まない役に起用される例も少なくない。だが今回紹介する邦画2本はいずれも、ベテランから若手まで多彩な人気スターたちが、極限状況の舞台で命を懸けて戦う役どころを演じ切る、見どころたっぷりの話題作だ。  ジャンルを選ばない多作派ながら、過激なバイオレンス描写で海外にもファンが多い三池崇史監督の『十三人の刺客』(東宝配給、公開中)は、1963年に封切られた集団抗争時代劇のリメイク作品。江戸時代末期、罪なき民衆に無法な振る舞いと殺傷を繰り返していた明石藩主、松平斉韶(稲垣吾郎)の暴政を訴えるため家老が切腹。この事件を受け、幕府内で極秘裏に斉韶暗殺が画策され、御目付役の島田新左衛門(役所広司)が命を受ける。早速刺客集めにとりかかった新左衛門の前に、かつて剣の腕を競い今は斉韶の警護を司る鬼頭半兵衛(市村正親)が立ちはだかる......。  刺客として選ばれた俳優は役所のほか、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、高岡蒼甫、伊原剛志、松方弘樹など。ベテラン勢の岸部一徳、平幹二朗、松本幸四郎に、女優陣の吹石一恵と谷村美月。  やはり圧巻は、200を超える明石藩の手勢と13人の刺客が宿場町で激突する後半。先回りして宿場町を要塞化した個性派揃いの刺客団が、高所からの弓矢攻撃、火薬を使った派手な爆破などあの手この手で、暴君に盲従する多勢の敵をなぎ倒していく場面の高揚感はたまらない。刺客たちの得意の武器を活かした痛快な戦いぶりと、凄惨な死にざま。そして、いよいよ終盤の"頂上対決"へ――。  一方、現代の推理サスペンス劇に豪華キャストが結集したのが、『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』(ワーナー・ブラザース映画配給、10月16日公開)。『ザ・リング2』(05年)でハリウッドデビューを果たしたホラーの名手・中田秀夫監督による、米澤穂信のベストセラー小説の映画化だ。  「時給11万2000円のアルバイト」という求人広告に応募した男女10人が、外部と隔絶された「暗鬼館」という施設に招かれる。仕事内容は「ある実験」の被験者になり、24時間、7日間監視されるというもの。鍵のかからない個室、それぞれに用意された凶器、「探偵ボーナス」「犯人ボーナス」などのルール。2日目に1人が射殺体で発見され、疑心暗鬼に陥った参加者たちは恐怖の殺人ゲームに否応なく巻き込まれていく......。  ゲームの参加者に扮するのは、藤原竜也、綾瀬はるか、石原さとみ、阿部力、武田真治、平山あや、石井正則、片平なぎさ、北大路欣也といった個性豊かな演技派俳優たち。唯一新人で抜擢された大野拓朗は、ホリプロ企画の男子大学生を対象とした新人俳優オーディションでグランプリに輝いた注目株だ。  推理モノのファンを喜ばせる小道具や仕掛けの数々と、謎解きとサバイバルが同時進行するスリリングな展開。じわじわと恐怖をあおり、過激な殺害場面で衝撃を与える演出も、ホラーを得意とする中田監督ならでは。  この10月は、すでに当コーナーで紹介した『大奥』(公開中)や、次回取り上げる予定の『エクスペンダブルズ』(10月16日公開)も含め、偶然にもオールスターキャスト映画が大集合する。名優たちの豪華な競演を満喫できる各作品を、映画館の大スクリーンでじっくり見比べる好機と言えそうだ。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 『十三人の刺客』作品情報 <http://eiga.com/movie/54797/> 『インシテミル』作品情報 <http://eiga.com/movie/55381/>
十三人の刺客 こちらも豪華。 amazon_associate_logo.jpg
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元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』

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『おはスタ』出身の人気チャイドルとして活躍した安藤聖が大学、
社会人を経験後に初主演した『バカがウラヤマシイ』。かわいい顔して
「バカは選択肢がないから、悩まなくていい」なんて過激発言が飛び出す。
 アントニオ猪木の名言に「バカになれ」があるが、"燃える闘魂"猪木にケンカを売るようなタイトルではないか。10月9日(土)より公開される映画『バカがウラヤマシイ』。キビシイ氷河期が続く"就活"をテーマに、20代のスタッフ&キャストが生み出した新鮮味に溢れるコメディだ。ヒロインは、ベッキー、蒼井優、平井理央アナといった人気者を次々と輩出した『おはスタ』(テレビ東京系)の元"おはガール"安藤聖。一時期は芸能界を離れ、フツーに大学生、社会人として生活を送っていた安藤だが、女優への道が断ちがたく、小劇場などで地道にキャリアを積み、カムバックした。  『バカがウラヤマシイ』のヒロイン・希(安藤聖)は、美人で頭の回転も良く、何でもそつなくできてしまう。学生時代はずっと成績優秀で通してきた希は就職活動も余裕で楽勝とタカをくくっていたのだが、現実社会の厳しさは学校内で常にトップだった彼女の想像を上回るものだった。人気企業、有名企業はことごとく不採用となる。面接会場ではうまく場の空気を読んで、面接官に対して100%の模範解答をしているのに。なんで? どーして? 生まれて初めて人生でつまずいた希は、自分の全人生、全人格を否定されたような失意に打ちのめされる。  結局、希は誰も知らない地味~な会社に腰掛け入社し、再就職できるチャンスを待つことに。なんで私がこんな地味な会社に? 憤懣やるせない希は、街で「そこの輝いている彼女、芸能界に興味ない?」とスカウトマンに声を掛けられる。やっぱり、見る目がある人には私の良さが分かるのよ~♪ 思わず、芸能プロダクションへの登録料としてなけなしの有り金を振り込んでしまう。当然ながら、その芸能プロダクションは存在しません。まさか自分がブーム遅れの振込め詐欺に遭うとは......。泣きっ面にハチ。弱り目に祟り目。13日の金曜日は仏滅だった。エイリアンに寄生されたジェイソンに襲われたようなダブルショック! 就職活動に失敗して以来、どんどんドツボへと堕ちていく希。  不幸のスパイラルに陥った希は、地味な会社の中でもさらに地味な資料室で社史の編纂をしている先輩社員の曽根さん(古舘寛治)に出会う。開口いちばんの台詞が「仁丹、食べる?」。年頃の女の子は仁丹なんか食べません。見るからにうさん臭い曽根さんだが、「週末だけでも、アルバイトやんない?」と希に声を掛けてくる。ヤバい匂いがぷんぷんするけど、金欠状態の希は背に腹は換えられない。希が曽根さんのアパートを訪ねると、そこには"花おじさん"なる看板が掲げてあった。曽根さんが代表を務める怪しげなこの会社、友達や親戚が少ない訳ありな新郎or新婦のためにニセの友人として結婚披露宴に出席したり、お見合いパーティーの賑やかしとして宴会を盛り上げるのが仕事。よーするに"サクラ"の派遣事業ですな。  ギャラはけっこーいいのだが、まぁ曽根さんをはじめとする"花おじさん"のメンバーたちの仕事に対する取り組みのアバウトなこと。失敗してもヘラヘラと笑っている曽根さんたちに希は腹を立てるが、派遣先ではお得意のそつのなさを生かして、サクラ役をかいがいしく演じる。人にはおおっぴらに言えない秘密のアルバイトだけど、自分の能力を生かせる場所を見つけ、希はちょっぴりうれしい。失敗しながらも懲りずに仕事を楽しんでいる"花おじさん"のメンバーの影響を、希は少しずつ受けていくようになる。
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新入社員の希(安藤聖)は先輩社員の曽根
(古舘寛治)から「仁丹、食べる?」と声
を掛けられる。コメディ映画の新鋭・沖田修一
監督の『このすばらしきせかい』(06)、
『南極料理人』(09)で味のある演技を
見せていた古舘が本作でも好演。
 本作の脚本&監督は、専門学校「東京ビジュアルアーツ」映画学科の学生・鋤崎智哉くん、24歳。スタッフも同校に籍を置く学生たち。下北沢の短編映画館トリウッドと東京ビジュアルアーツが協力して立ち上げた「トリウッドスタジオプロジェクトの」シリーズ第5弾として製作されたもので、鋤崎監督の実体験をベースにしている。明治大学という有名大学に入学し、ずっと苦労知らずで生きてきた鋤崎監督は友人と真顔で「バカがウラヤマシイよ」とこぼしていたそうだ。ところが映画の希同様に就職活動は思うようにいかず、自分が本当にやりたいこと、本気になれることは何かを突き詰めて考えた結果、明治大学卒業後に東京ビジュアルアーツに再入学し、映像製作の道を志すことになった。『バカがウラヤマシイ』は鋤崎監督のちょっとばかり早すぎる、そしてかなり恥ずかしい自伝的ストーリーなのだ。  ヒロイン・希に選ばれた安藤聖の半生も映画には投影されている。8歳のときにミュージカル『アニー』で舞台デビューし、"おはガール"として人気者だった安藤は、その後も『ひとりでできるもん!』(NHK教育)や昼ドラなどに出演。しかし、次第にテレビの仕事からフェードアウト。大学進学後は芸能界から離れ、フツーにイベント制作会社に就職していた。08年2月の「EX大衆」をめくると、チャイドルのその後を追った特集で安藤は社会人時代について語っている。「正直、かなり仕事のデキる子だったんですよ(笑)。でも裏方をやってると、『何で私が前に出てないんだろう?』とか『絶対、私のほうが司会がうまい』って思っちゃうんです。それまで漠然とした想いがハッキリしたものになって、会社をやめて本格的に女優をやろうと決心したんです」。退職後の彼女は、劇団ポツドールなどの舞台を中心に女優業を再開している。結局、いくら才能があってもルックスに恵まれていても、本人が本気モードになってない限り、何も始まらないし、人の心は動かないということですな。  ちなみに『バカがウラヤマシイ』を上映する下北沢のトリウッドは、古着屋の2階にある座席数47席という本当に小さなミニミニシアター。シネコンに行き慣れている人はびっくりするくらい、こじんまりした空間だ。本作のエグゼクティブ・プロデューサーでもある大槻貴宏支配人は、4,000万円の借金を背負って99年にゼロからこの映画館を造っている。開館10周年を迎えた09年、無事に借金を返済。その間、『純喫茶磯辺』(08)、『さんかく』(10)の吉田恵輔監督、『白夜行』など話題作の公開を控える深川栄洋監督、『ほしのこえ』(02)、『雲のむこう、約束の場所』(04)の新海誠監督といった人気監督を世に送り出してきた。個人経営で映画館を運営するなんてかなり大変なはずだが、大槻支配人は鼻歌でも歌っているかのように、いつもヘラヘラ顔で笑っている。『バカがウラヤマシイ』に出てくる"花おじさん"に雰囲気がちょっぴり似ている。効率至上主義のシネコンとは異なる、小さな小さな映画館があることを知っているだけでも、公園の片隅で四葉のクローバーを見つけたような幸せを感じさせるのだ。 (文=長野辰次) baka03.jpg 『バカがウラヤマシイ』 監督・脚本/鋤崎智哉 出演/安藤聖、古舘寛治、山本剛史、鈴真紀史、播田美保 製作・配給/トリウッドスタジオプロジェクト(東京ビジュアルアーツ、トリウッド) 10月9日(土)より下北沢トリウッドにてロードショー公開 <http://ameblo.jp/baka-ura>
くたばれ!就職氷河期 自分が悪いのか、社会が悪いのか。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』

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『おはスタ』出身の人気チャイドルとして活躍した安藤聖が大学、
社会人を経験後に初主演した『バカがウラヤマシイ』。かわいい顔して
「バカは選択肢がないから、悩まなくていい」なんて過激発言が飛び出す。
 アントニオ猪木の名言に「バカになれ」があるが、"燃える闘魂"猪木にケンカを売るようなタイトルではないか。10月9日(土)より公開される映画『バカがウラヤマシイ』。キビシイ氷河期が続く"就活"をテーマに、20代のスタッフ&キャストが生み出した新鮮味に溢れるコメディだ。ヒロインは、ベッキー、蒼井優、平井理央アナといった人気者を次々と輩出した『おはスタ』(テレビ東京系)の元"おはガール"安藤聖。一時期は芸能界を離れ、フツーに大学生、社会人として生活を送っていた安藤だが、女優への道が断ちがたく、小劇場などで地道にキャリアを積み、カムバックした。  『バカがウラヤマシイ』のヒロイン・希(安藤聖)は、美人で頭の回転も良く、何でもそつなくできてしまう。学生時代はずっと成績優秀で通してきた希は就職活動も余裕で楽勝とタカをくくっていたのだが、現実社会の厳しさは学校内で常にトップだった彼女の想像を上回るものだった。人気企業、有名企業はことごとく不採用となる。面接会場ではうまく場の空気を読んで、面接官に対して100%の模範解答をしているのに。なんで? どーして? 生まれて初めて人生でつまずいた希は、自分の全人生、全人格を否定されたような失意に打ちのめされる。  結局、希は誰も知らない地味~な会社に腰掛け入社し、再就職できるチャンスを待つことに。なんで私がこんな地味な会社に? 憤懣やるせない希は、街で「そこの輝いている彼女、芸能界に興味ない?」とスカウトマンに声を掛けられる。やっぱり、見る目がある人には私の良さが分かるのよ~♪ 思わず、芸能プロダクションへの登録料としてなけなしの有り金を振り込んでしまう。当然ながら、その芸能プロダクションは存在しません。まさか自分がブーム遅れの振込め詐欺に遭うとは......。泣きっ面にハチ。弱り目に祟り目。13日の金曜日は仏滅だった。エイリアンに寄生されたジェイソンに襲われたようなダブルショック! 就職活動に失敗して以来、どんどんドツボへと堕ちていく希。  不幸のスパイラルに陥った希は、地味な会社の中でもさらに地味な資料室で社史の編纂をしている先輩社員の曽根さん(古舘寛治)に出会う。開口いちばんの台詞が「仁丹、食べる?」。年頃の女の子は仁丹なんか食べません。見るからにうさん臭い曽根さんだが、「週末だけでも、アルバイトやんない?」と希に声を掛けてくる。ヤバい匂いがぷんぷんするけど、金欠状態の希は背に腹は換えられない。希が曽根さんのアパートを訪ねると、そこには"花おじさん"なる看板が掲げてあった。曽根さんが代表を務める怪しげなこの会社、友達や親戚が少ない訳ありな新郎or新婦のためにニセの友人として結婚披露宴に出席したり、お見合いパーティーの賑やかしとして宴会を盛り上げるのが仕事。よーするに"サクラ"の派遣事業ですな。  ギャラはけっこーいいのだが、まぁ曽根さんをはじめとする"花おじさん"のメンバーたちの仕事に対する取り組みのアバウトなこと。失敗してもヘラヘラと笑っている曽根さんたちに希は腹を立てるが、派遣先ではお得意のそつのなさを生かして、サクラ役をかいがいしく演じる。人にはおおっぴらに言えない秘密のアルバイトだけど、自分の能力を生かせる場所を見つけ、希はちょっぴりうれしい。失敗しながらも懲りずに仕事を楽しんでいる"花おじさん"のメンバーの影響を、希は少しずつ受けていくようになる。
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新入社員の希(安藤聖)は先輩社員の曽根
(古舘寛治)は「仁丹、食べる?」と声
を掛けられる。コメディ映画の新鋭・沖田修一
監督の『このすばらしきせかい』(06)、
『南極料理人』(09)で味のある演技を
見せていた古舘が本作でも好演。
 本作の脚本&監督は、専門学校「東京ビジュアルアーツ」映画学科の学生・鋤崎智哉くん、24歳。スタッフも同校に籍を置く学生たち。下北沢の短編映画館トリウッドと東京ビジュアルアーツが協力して立ち上げた「トリウッドスタジオプロジェクトのシリーズ第5弾として製作されたもので、鋤崎監督の実体験をベースにしている。明治大学という有名大学に入学し、ずっと苦労知らずで生きてきた鋤崎監督は友人と真顔で「バカがウラヤマシイよ」とこぼしていたそうだ。ところが映画の希同様に就職活動は思うようにいかず、自分が本当にやりたいこと、本気になれることは何かを突き詰めて考えた結果、明治大学卒業後に東京ビジュアルアーツに再入学し、映像製作の道を志すことになった。『バカがウラヤマシイ』は鋤崎監督のちょっとばかり早すぎる、そしてかなり恥ずかしい自伝的ストーリーなのだ。  ヒロイン・希に選ばれた安藤聖の半生も映画には投影されている。8歳のときにミュージカル『アニー』で舞台デビューし、"おはガール"として人気者だった安藤は、その後も『ひとりでできるもん!』(NHK教育)や昼ドラなどに出演。しかし、次第にテレビの仕事からフェードアウト。大学進学後は芸能界から離れ、フツーにイベント制作会社に就職していた。08年2月の「EX大衆」をめくると、チャイドルのその後を追った特集で安藤は社会人時代について語っている。「正直、かなり仕事のデキる子だったんですよ(笑)。でも裏方をやってると、『何で私が前に出てないんだろう?』とか『絶対、私のほうが司会がうまい』って思っちゃうんです。それまで漠然とした想いがハッキリしたものになって、会社をやめて本格的に女優をやろうと決心したんです」。退職後の彼女は、劇団ポツドールなどの舞台を中心に女優業を再開している。結局、いくら才能があってもルックスに恵まれていても、本人が本気モードになってない限り、何も始まらないし、人の心は動かないということですな。  ちなみに『バカがウラヤマシイ』を上映する下北沢のトリウッドは、古着屋の2階にある座席数47席という本当に小さなミニミニシアター。シネコンに行き慣れている人はびっくりするくらい、こじんまりした空間だ。本作のエグゼクティブ・プロデューサーでもある大槻貴宏支配人は、4,000万円の借金を背負って99年にゼロからこの映画館を造っている。開館10周年を迎えた09年、無事に借金を返済。その間、『純喫茶磯辺』(08)、『さんかく』(10)の吉田恵輔監督、『白夜行』など話題作の公開を控える深川栄洋監督、『ほしのこえ』(02)、『雲のむこう、約束の場所』(04)の新海誠監督といった人気監督を世に送り出してきた。個人経営で映画館を運営するなんてかなり大変なはずだが、大槻支配人は鼻歌でも歌っているかのように、いつもヘラヘラ顔で笑っている。『バカがウラヤマシイ』に出てくる"花おじさん"に雰囲気がちょっぴり似ている。効率至上主義のシネコンとは異なる、小さな小さな映画館があることを知っているだけでも、公園の片隅で四葉のクローバーを見つけたような幸せを感じさせるのだ。 (文=長野辰次) baka03.jpg 『バカがウラヤマシイ』 監督・脚本/鋤崎智哉 出演/安藤聖、古舘寛治、山本剛史、鈴真紀史、播田美保 製作・配給/トリウッドスタジオプロジェクト(東京ビジュアルアーツ、トリウッド) 10月9日(土)より下北沢トリウッドにてロードショー公開 <http://ameblo.jp/baka-ura>
くたばれ!就職氷河期 自分が悪いのか、社会が悪いのか。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"救済"の先にあるものとは一体何? 神なき時代の聖書『ヘヴンズ ストーリー』

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瀬々監督は大分県国東半島生まれ。
「三方を山に囲まれた閉鎖的な環境だったんだけど、前方には海が広がっていた。
海の向こうにはこことは違う別世界があるんだと、子どもの頃から
よく考えていましたね」と語る。
前編はこちらから ──熱演したキャストについても聞かせてください。前半のラスト、家族を殺された主人公のサト(寉岡萌希)は、新しい家庭を築こうとしていたトモキ(長谷川朝晴)の「家族を殺された人間は幸せを願っちゃダメかな」という問いに対し、「ダメだと思います」と言い放つシーンがあまりに強烈です。 瀬々 そうですね。前半はサトにその台詞を言わせるために、それまでの時間をかけるという意気込みで作りました。大事な台詞だったんです。寉岡さんはしっかりとあのシーンを演じてくれた。それは、あの年齢の子が持っていた純粋さゆえに言えた台詞でもある。あの年齢だからこそ、成立した台詞だと思うんです。あのシーンの撮影のとき、彼女は高校2年生でまだ16歳だった。いま思えば一年後の彼女があの台詞が言えたかどうか考えると疑問なんです。社会に直面する年齢になれば、もうあの台詞は口にできなくなる。16歳だったから、ギリギリあの台詞を言うことができたんじゃないか。確かに、あのシーンはドキリとするとよく言われます。そこには自分が失ってしまったものがある気がするんです。あの年齢の頃は、誰もが純粋に世界に立ち向かえてたと思うんです。 ──大人が口にすると、「ウソくせぇ」「お前自身はどうなんだ?」とツッコミを受けかねない。 瀬々 そういうことです(苦笑)。 ■『幕末太陽伝』の主人公のように居残ってやれ ──でも、16歳の寉岡萌希さんに復讐を生き甲斐にする主人公を1年にわたって演じさせるのは酷だったのでは?
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コント集団「ジョビジョバ」出身の長谷川朝晴
が犯人への復讐を誓うトモキ役を熱演。一度
は新しい家庭を手に入れたトモキだが、サトと
出会ったことで再び人生が狂っていく。
瀬々 大人は今さら成長しないけど、寉岡さんは1年間続いた撮影を通して女優ということだけじゃなくて、現実の彼女の日常世界の中でもすごく成長していったわけです。あの年代の女子の1年の成長というのは肉体的にも精神的にも大きいと思う。ボクたちの1年間と彼女の1年間は密度が違う(笑)。ボクなんかの10年分の体験を、彼女はこの1年間で凝縮して過ごしたんじゃないかな。彼女はこの映画と1年間向き合ったわけだけど、撮影とは別に日常生活でも様々な体験をしていると思うんです。サトに関するシーンは時間軸に沿って撮影しているんで、前半の「ダメだと思います」というシーンから後半のラストまで1年間リアルに時間が経過していて、16歳のサトと1年後のサトはある意味違う。ボクらの目論みを超えたサトに後半はなっていた。17歳になったサトは、映画の中でもいろんなことを経験し、トモキへの恋愛感情も芽生え、「ダメだと思います」とはもう言えなくなっている。成長するということは純粋さを失っていくことでもあり、ある意味で残酷ですよ。でもそれが人間なんじゃないかと、いい意味で思い知らされた。大人になったボクらは、そんなことも忘れてしまっているんだけど、そのことを思い出させる作品でもありました。最初は"罪と罰"とか大上段に構えていたけど、それよりも人間にとっては成長や老いといった緩やかな時間の経過という問題のほうが大きいんじゃないかと今になって改めて感じています。 ──後半からはトモキの家族を衝動的に殺してしまったミツオ(忍成修吾)が登場。罪を犯すことによって人間的な成長を遂げていくという非常に皮肉的なキャラクターですね。 瀬々 忍成さんはちょっと独特なタイプの役者さんというか、色で言えば真っ白な感じなんですね。真っ白で挑んできて、現場で起きる化学反応に合わせてどんどん変わっていく役者さん。最初は自分の役を「よく分からない」と言っていたけど、現場で「あ~、こういうことなんだ」とつかみながらどんどん演じていく。多分、彼も撮影を通して役と一緒に、成長という言い方が良いかどうか分かりませんが、入り込んでいったんじゃないかと思います。そういう意味では、いちばん大変だったのはトモキ役の長谷川朝晴さんだったと思うんです。彼は他の登場人物に対して全部受けの芝居をしなくちゃいけなかったから、自分の中のものを発露する機会が少なかった。でも、長谷川さんにこの役をやってもらいたいと思ったのは、彼の持っている等身大の感覚だったんです。トモキは全く普通の人が事件の渦中に放り込まれるという役なんで、こちら側というか、学生時代の友達にいそうなタイプが良かったんです。あ、こいつと学生時代一緒に麻雀したことあるみたいな(笑)。長谷川さんはそういう安心感を与えてくれるんですよね。決して目立たない感じではないんだけど、なにか懐かしいというか、それでいて真面目さを持ってる存在感。そこは、やはり独特だと思いますね。
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10代のときに殺人を犯してしまったミツオ
(忍成修吾)は、人形作家の恭子(山崎ハコ)
に引き取られ、束の間の居場所を得る。
だが、恭子は認知症が進行していた。
(c)2010ヘヴンズプロジェクト
──映画初出演となる山崎ハコさんは、若年性アルツハイマーに冒されながらも、行き場所のないミツオを引き取るという重要な役。 瀬々 ハコさんは、やはりアーティストだけあって、出てきただけで彼女の背後に風景が見えてくる。何もしないでも彼女が背負ってきた人生が見えてくる。ハコさんじゃなかったらこの映画自体が全然違ったものになっていたと思います。それだけ、この映画の色を決めてくれたと思います。最後の撮影では、ハコさん、かなり体重を減らしてから撮影に挑んでくれたんです(※体重36kgだったのを34kgに減らした)。アルツハイマー患者の役だったので、記憶を失うのと同時に自分の存在感もなくすよう体重を落としたそうです。「死ぬということはカゲロウのようになることだと思った」と話していましたね。廃墟でのシーンは、ハコさんは何もせずただ車椅子に座っているだけなんですが、表情だけで訴えかけてくるものがあったと思います。 ──家族を奪われたトモキとミツオが互いに復讐し合うという最悪のクライマックスを迎えるわけですが、その最悪の事態を招いたサトは最終的には"救済"されるんでしょうか? 瀬々 ボクは"救済"だとは考えていないんです。川島雄三監督の『幕末太陽伝』(57)という映画がありますよね。あの映画のラスト、肺病に冒されている主人公のフランキー堺が「地獄も極楽もあるもんけえ」と言って街道を走っていく。ボクはあのラストが大好きなんです。自分の人生、生きて生きて生き抜くんだという決意表明。あのラストを見ると自分自身もそうやって現実に挑んでいきたいといつも思う。劇中のサトにも現実に立ち向かう形で終わらせたかった。トモキとミツオはああいう悲しい結末を迎える中で、お互いに許し合ったというか救われたんじゃないかとボクは考えています。では、サトはどうなるのか? 死んだ家族と再会させてあげることが果たして彼女にとっての"救済"になるのか。それは違うと思ったんです。成長していく彼女は、もっと現実に立ち向かっていかなくてはいけない。今の世の中はこんなにも悲惨だけど、その中で生きていかなくてはいけない。自分の居場所を見つけなくてはいけない。もしくは居場所がなくても生きていかなくてはいけない。確かに撮影前は"救済"を考えていました。でも、1年間の撮影を続けることで"救済"の先にあるものを描かなくちゃいけないと考えるようになったんです。 ──『幕末太陽伝』は近世から近代への時代の変換期を描いた作品ですが、本作は20世紀から21世紀、アナログからデジタルへの移行期を描いた作品と言えますね。 瀬々 そうですね。『幕末太陽伝』は一軒の遊郭を舞台にした群像劇だけれども、『ヘヴンズ ストーリー』は西洋的な意味でのヘヴンではなく、"ヘヴン"という大きな屋根の下で暮らす人々の物語と言えるかもしれない。どちらも新しい時代の中でどうやって生きていくかということ。地獄も極楽もあるもんけえ、ですよ(笑)。 (取材・文=長野辰次) ●『ヘヴンズ ストーリー』 脚本/佐藤有記 監督/瀬々敬久 出演/寉岡萌希、長谷川朝晴、忍成修吾、村上淳、山崎ハコ、菜葉菜、栗原堅一、江口のりこ、大島葉子、吹越満、片岡礼子、嶋田久作、菅田俊、光石研、津田寛治、根岸季衣、渡辺真紀子、長澤奈央、本多叶奈、佐藤浩市、柄本明、人形舞台yumehina、百鬼どんどろ 配給/ムヴィオラ PG-12 10月2日(土)より渋谷ユーロスペース、10月9日(土)より銀座シネパトスほか全国順次公開  <http://www.heavens-story.com> ●ぜぜ・たかひさ 1960年大分県出身。京都大学哲学科在学中に、『ギャングよ 向こうは晴れているか』を自主制作。『課外授業 暴行』(89)で商業監督デビュー。"ピンク映画四天王"として話題作を次々と発表する。実在の事件を題材にした『雷魚』『KOKKURI こっくりさん』(97)で一般映画に進出。『トーキョー×エロチカ』(01)では地下鉄サリン事件を背景に描いた。性同一障害者を主人公にした『ユダ』(04)は「映画芸術」ベストテン第1位に。近年は『泪壺』(08)、『フライング・ラビッツ』(08)といったエンターテイメント作やパニック大作『感染列島』(09)などを手掛けた。『ドキュメンタリー 頭脳警察』(09)も上映時間5時間14分という長さで話題を呼んだ。
ドキュメンタリー 頭脳警察 長さでは、負けてない。 amazon_associate_logo.jpg
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"救済"の先にあるものとは一体何? 神なき時代の聖書『ヘヴンズストーリー』

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『ヘヴンズ ストーリー』には瀬々敬久監督自身も出資している。
製作費を捻出するために『フライング・ラビッツ』『感染列島』を引き受けた?
というぶしつけな質問に対して、「違うよ。結果的にはそうなったけど」と
笑って答えた。
 本編時間4時間38分、休憩を含めて上映時間4時間48分という尋常ではない長尺の超シリアスムービー『ヘヴンズ ストーリー』が10月2日(土)より公開される。いかに効率よく客席を回転させるかが求められているシネコン全盛の現代において、上映時間約5時間という非常識とも言える本作を撮り上げたのはピンク映画出身の瀬々敬久監督だ。近年は『フライング・ラビッツ』(08)、『感染列島』(09)とメジャー作品を手掛けていたが、99年に起きた"光市母子殺害事件"をモチーフにした群像劇である本作は、瀬々監督本来のエッジの鋭さがいかんなく発揮されている。映画ファン、映画興行関係者たちを挑発するかのような野心作を完成させた瀬々監督に、その真意のほどを聞いた。 ──全9章に仕立てた構成は巧みで、キャストも熱演しています。とはいえ、約5時間という上映時間は、観客に肉体的にも精神的にも覚悟を強いる作品ですよね? 瀬々 確かにそうですね。今は、パソコンでもケータイでも気軽に映画を見ることができる時代で、映画館で見るだけが映画ではなくなっている。でも、ボクは映画館が好きだし、映画館で育ったと思っているし、映画館で映画を見ることがもっと行なわれてほしい。この映画を見ることが、その人の人生において忘れられないひとコマになってほしいという願いもあります。映画を見ることが、もっと特別な体験であっていいんじゃないかと。 ──園子温監督の『愛のむきだし』(09)も3時間57分の大作でしたが、ラブコメやアクションというエンタメ的要素を交えていました。本作は通り魔に家族を殺された少女が復讐を生き甲斐にして成長していくという超シリアスな人間ドラマ。1日2回だけの上映になると思いますが、興行的な勝算のほどは?
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ヒロインのサトを1年間にわたって演じ続けた
寉岡萌希。家族を通り魔に殺害されるが、
その犯人は自殺したため、サトは怒り
のやり場がない。同じように家族を失い、犯人
への復讐を誓うトモキは、彼女にとって憧れの
存在となる。(c)2010ヘヴンズプロジェクト
瀬々 そこを突かれると弱いんですが......。観客動員的には楽な作品じゃないとは思ってます。そこで、日刊サイゾーさんにも協力してもらいたいわけなんです(笑)。もちろん、ひとりでも多くの人に劇場に来てほしい。でも、例えば、自分が見た作品がすごく良かったと思っても、「キネマ旬報」のその年のベストテンに選ばれることの方が少ないわけですよ。多分、そういう人のほうが多いと思うんですね。その人個人にとっての人生の1本は、必ずしも世間一般の評価とは一致しない。毎回思うんですけど、作品がたとえ万人に受け入れられなくても、たったひとりの心に届くことが出来れば良いと。もちろん、多くの人に見てほしいというのはありますけどね(笑)。 ■ボクはオウム真理教信者と同じ時代に生きた ──瀬々監督はこれまでも札幌テレクラ殺人事件を題材にした『雷魚』(97)、青学生殺人事件を描いた『HYSTERIC』(00)など実在の事件を度々取り上げてきたわけですが、今回は99年に起きた光市母子殺害事件がモチーフ。最初は自主制作として企画を進めていたと聞いています。 瀬々 自主制作のつもりで06年から動き始めたんですけど、最終的にはいろんな方たちが出資してくれたお陰で完成させることができた。でも、製作会社が入っているわけじゃないんで、作り方としては自主制作に近い形ですね。自分自身も出資しています。今、50歳で、29歳でピンク映画の監督としてデビューして、20年近くが経って、そこにはいろんな複雑な気持ちがあるわけです。焦りとか、何やってんだろうとか。それは自分が生きている時代や社会に対してもあるわけです。ピンク映画『課外授業 暴行』で監督デビューした89年前後は昭和から平成に年号が変わり、東西の冷戦が終わったような時代だった。その変化が進んでいって、グローバリゼーションと呼ばれるようになった。ボクは大分出身なんだけど、実家に帰るともう駅前の商店街は消えて、チェーンの量販店が点在するという、どこにでもある風景に変わっている。どんどん変わっていく不安定な社会の中で、みんな確実なものを求めている。そんな日常や世の中、今の社会についてのことも、1本の映画にまとめられないかという考えだったんです。 ──映画の中で描かれるゼロ年代は、瀬々監督がピンク映画から一般映画へと移行していった時期でもありますね。 瀬々 そうです。そういう変化は自分自身の映画作りとも重なっていると思います。ピンク映画をやってた頃は、ピンクは一般映画よりも一段下と見られ、そんなボーダーをぶっ壊してやろう、映画は映画じゃないかという気持ちでやってきた。かつては闘う相手が明確に見えていた時代でもあったんです。でも社会構造が変わり、世の中の均質化が進み、敵の姿が見えにくくなってしまった。映画の世界も当然変わった。ボーダレスな世界を目指して作ってきたんだけど、実際に今、ボーダレスな時代になって果たして本当に幸せな時代になったのかという忸怩たる想いがある。そこでもう一度、ピンク映画を撮っていた頃のように自主映画に近い形でやってみようと。映画界は最近だと『SRサイタマノラッパー』(09)の入江悠さんや、『ライブテープ』(09)の松江哲明くんといったメジャーとかマイナーの枠に捕らわれない若い監督が出てきているけど、50歳のオッサン監督もちょっと挑戦してみようかと(笑)。 ──失礼なことをお尋ねしますが、『フライング・ラビッツ』『感染列島』は本作の製作費を稼ぐために引き受けたんでしょうか? 瀬々 それは違いますよ(爆笑)。メジャーで溜まった鬱憤を晴らすために今回の作品を撮ったなんて言う人もいますけど、『ヘヴンズ ストーリー』のほうが先に企画が進んでいて、たまたまその準備中に2作続けてそういう作品を撮ることになった。まぁ、結果的にはその監督料で今回の製作費が補われているところはありますが(笑)。でも、お金を稼ぐためだけで、大きな資本の作品を撮ろうと思って撮れるもんじゃない。そう甘いもんじゃないです。関係なく一生懸命に撮っています。例えるなら、大きな作品はビルを建てるようなものだと考えています。いろんな業者が参加するし、ビルにはテナント、オフィス、居住者といろんなお客さんが入る。そういうビルを建てる面白さが大きな作品にはありますよね。それに対して、今回は手作りで一軒家をイチから作ったような感じです。 ──『ヘヴンズ ストーリー』もそうですが、『感染列島』では日本を壊滅に追い込む新型ウィルスを"ブレイム"(神罰、責苦)と名付け、性同一障害者を主人公にした『ユダ』(04)というタイトル作もありました。また、『アナーキー・インじゃぱんすけ』(99)のシナリオタイトルは『神さま、あんたただの役立たずじゃないか』だったそうですね。バイオレンスシーンに目が行きがちな瀬々作品ですが、実は宗教的な意味合いを強く感じているのですが......。 瀬々 そんなに熱心にボクの作品を見てくれている人がいたとは意外でした(笑)。実は、言ってしまうと、死ぬのが怖いんです(笑)。『ヘヴンズ ストーリー』の中でも女医さんが言う台詞がありますが、「自分が死んだ後も未来は続いていくんだ」と子どもの頃、よく眠るときに考えたんです。自分がいなくなっても世の中が延々と続くのが無間地獄みたいに思えて、すごく怖かった。ボクは全共闘世代の下の世代で、誤解を恐れず言うならオウム真理教の幹部たちと同世代なんですよ。庵野秀明監督も同世代で、『新世紀エヴァンゲリオン』を見ていても同じ世代に共通する感覚を感じる。今ある、地ベタな世の中とは別に、それを超える別の世界があるんじゃないかとずっと心のどこかで考えてしまう。だからといって、地ベタな現実社会を重要視しないというわけではないんですが。
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岩手県の鉱山跡の廃墟シーンが印象的だ。復讐
心に取り憑かれたトモキ(長谷川朝晴)は、
家族を奪ったミツオ(忍成修吾)を追い詰めていく。
──瀬々作品は"救済"を求める人々の物語といっていい? 瀬々 まぁ、上からの言葉、形而上学でいえば"救済"かもしれないです。でも、もっと分かりやすく、地ベタの言葉でいえば"居場所探し"じゃないかと自分では考えています。さっきも言ったように、社会が変わり、田舎に帰っても風景が変わってしまっている。便利な世の中になったけど、かつての居場所はなくなってしまった。第1章「夏空とおしっこ」で主人公の少女は肉親の死でおしっこが出なくなるんだけど、そういう感性を持つ子どもや若い人は多いんじゃないかと思うんです。精神的にも肉体的にも安心できる場所がない。確かに、この映画でも最初は"罪と罰"とか"救済"といった発想が頭にあったんだけど、いざ実際の役者さんたちと一緒に撮影を続けていくことで、もっと分かりやすく地に足が着いたリアリティーで描こうと思うようになった。もちろん"救済"と受け止めてもらってもいいんですが、自分の中ではそう難しく考えなくても良いと思ってます。 ──カモメ団地、渡り船、鉱山跡の廃墟......と昭和的な美しい風景が印象的。消えつつあるものを映像として記録しようということでしょうか? 瀬々 単純に、いつか無くなるんじゃないかというような風景を見ると切なくなるんです。もちろん変わっていく風景に対する想いはあります。どんどん変わっていくことに対して、どこかで抵抗を感じている。人間はいろんなことをどんどん忘れていきますよね。一連のオウム事件にしても、大震災にしても、もう語る人は普通にはいない。あんなに大変なことが起きたのに、あたかもそんなことはなかったかのようにボクらは何気なく生きている。それは、人間はそうしなくては生きていけないから。でも、そのことに対して、「ちょっと待ってくれ」という気持ちが心の中にあるんですよ。それは大事件だけに限らない。大きい小さいに関係なく、誰しも心の中に忘れてはいけない出来事が眠っているんじゃないかと思うんです。 (後編につづく/取材・文=長野辰次) ●『ヘヴンズ ストーリー』 脚本/佐藤有記 監督/瀬々敬久 出演/寉岡萌希、長谷川朝晴、忍成修吾、村上淳、山崎ハコ、菜葉菜、栗原堅一、江口のりこ、大島葉子、吹越満、片岡礼子、嶋田久作、菅田俊、光石研、津田寛治、根岸季衣、渡辺真紀子、長澤奈央、本多叶奈、佐藤浩市、柄本明、人形舞台yumehina、百鬼どんどろ 配給/ムヴィオラ PG-12 10月2日(土)より渋谷ユーロスペース、10月9日(土)より銀座シネパトスほか全国順次公開  <http://www.heavens-story.com> ●ぜぜ・たかひさ 1960年大分県出身。京都大学哲学科在学中に、『ギャングよ 向こうは晴れているか』を自主制作。『課外授業 暴行』(89)で商業監督デビュー。"ピンク映画四天王"として話題作を次々と発表する。実在の事件を題材にした『雷魚』『KOKKURI こっくりさん』(97)で一般映画に進出。『トーキョー×エロチカ』(01)では地下鉄サリン事件を背景に描いた。性同一障害者を主人公にした『ユダ』(04)は「映画芸術」ベストテン第1位に。近年は『泪壺』(08)、『フライング・ラビッツ』(08)といったエンターテイメント作やパニック大作『感染列島』(09)などを手掛けた。『ドキュメンタリー 頭脳警察』(09)も上映時間5時間14分という長さで話題を呼んだ。
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【関連記事】 主演作『おにいちゃんのハナビ』が公開!谷村美月もお兄ちゃんが欲しかった!? 映画監督・江川達也の"暴走"トーク!? 第2弾映画は"洗脳の怖さ"が発端だった(前編) "歩く伝説"山本又一朗プロデューサー 小栗旬初監督作の舞台裏を存分に語る!(前編)

マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』

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人の心を読むテレパスである七瀬(芦名星)は、
夜行列車の中で同じテレパスのノリオ(今井悠貴)、
予知能力者の岩淵了(田中圭)と運命的な邂逅を果たす。
(C)2010「七瀬ふたたび」製作委員会
 『時をかける少女』と並んで熱烈な人気を誇る、筒井康隆のSF小説『七瀬ふたたび』が初映画化された。1975年に出版された同作が映像化されるのは、これで5度目となる。ヒロインは人の心を読む、美しき〈テレパス〉火田七瀬(芦名星)。特殊能力に恵まれたゆえにコドクな人生を歩んできた七瀬は、さまざまな能力を持つ仲間たちと出会う一方、異端者の存在を嫌う巨大組織の迫害に遭い、壮絶なサイキックバトルを繰り広げる。これまでのテレビドラマ版にはミステリアスな雰囲気の多岐川裕美(NHK/79年)、ホステス姿がセクシーだった水野真紀(フジテレビ系/95年)、ボーイッシュなイメージの渡辺由紀(テレビ東京系/98年)、介護施設で健気に働く蓮佛美沙子(NHK/09年)と多彩なタイプの七瀬が登場した。いかに映像クリエイターたちが『七瀬ふたたび』という物語と七瀬というヒロインを愛してきたかが分かるだろう。  『時をかける少女』が思春期の淡い初恋を描いたように、『七瀬ふたたび』も単なる超能力バトルに終わらない、美しく悲しく切ない物語だ。七瀬はいくつもの顔を持っている。七瀬と同じ〈テレパス〉である幼いノリオ(今井悠貴)にとっては"慈愛の保護者"であり、離れた物体を動かす〈テレキネシス〉のヘンリー(ダンテ・カーヴァー)にとっては"正しき指導者"、筒井作品でおなじみ〈タイムトラベラー〉の藤子(佐藤江梨子)にとっては心を丸裸にして見せることのできる"唯一の親友"、〈予知能力者〉である岩淵了(田中圭)にとっては未来を大きく揺るがす"運命の恋人"なのだ。過去の七瀬を演じてきた女優たちのタイプがバラバラなのは、製作者たちの思い描く七瀬像がそれぞれ違うからだろう。まるで阿修羅像のように幾つもの顔を持つ七瀬を家長にして、七瀬を慕う超能力者たちは"疑似家族"を構成し、さすらいの旅を続ける。  七瀬たちが目指すところは、世間から異端者の烙印を押された自分たちが静かに暮らせる安息の地。自分の持つ特殊能力に悩まされることなく、仲間と支え合って慎ましく生活できればよい。中国でいうところの"桃源郷"、チベットでいうところの"シャンバラ"、日本最南端の島・波照間島でいうところの"パイパティローマ"、宮沢賢治ならば"イーハトーブ"、宮崎駿でいうなら『未来少年コナン』(NHK)で描かれる"ハイハーバー"ですよ。しかし、どこまで行っても七瀬たちは白眼視され、さらに巨大組織が執拗に追撃してくる。せっかく七瀬という最大の理解者に巡り会えた超能力者たちだが、殉教者のようにひとり、またひとりと抹殺されていく。
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七瀬を中心にした超能力集団。ヘンリー
(ダンテ・カーヴァー)は七瀬の命令に
よって念動力を発揮し、藤子(佐藤
江梨子)は時間をリセットするタイム
リープ能力を持つ切り札的存在だ。
 多岐川裕美主演の『七瀬ふたたび』に初遭遇したときは衝撃的だった。原作小説を知らず、「いきなり"ふたたび"と言われてもなぁ」とテレビの前で困惑した覚えがある。またそれ以上に、自分の信じる者のために命を張って巨大な敵と戦う超能力者たちに"滅びの美学"を感じ、胸を締め付けられた。70年代の終わりにNHKで作られた第1作は、たぶんに製作者は"あさま山荘事件"に象徴される学生運動の終焉をドラマに重ね合わせていたように思う。  『ガメラ 大怪獣空中決戦』『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(95)などのヒット作で知られる"時空マスター"伊藤和典が劇場版『七瀬ふたたび』のシナリオを書き上げたのは10年前。原作のクライマックスから始まるケレン味たっぷりの構成にしている。ちなみに兄・小中千昭とのコンビで数多くのSFファンタジー作品を発表してきた小中和哉監督が劇場版の企画に携わったのが13年前。主演女優が見つからず難航したとのことだが、すんなり製作されていれば、オウム事件を彷彿させる問題作として賛否両論が沸き上がったはずだ。  原作者であり、永遠のヒロイン・七瀬を生み出した創造主である筒井康隆氏、いや筒井先生には河崎実監督作『日本以外全部沈没』(06)の劇場公開の際にインタビューする僥倖に恵まれた。テアトル新宿の狭い控え室で、『日本以外全部沈没』や『七瀬ふたたび』を執筆した70年代のエピソードを扇子片手に語ってくれた。70年代当時、『日本沈没』の小松左京氏やショートショートの星新一氏は売れっ子だったものの、SF作家は作家とは認められておらず世間から孤立した存在だったという。SF作家仲間でニューオータニのバーや六本木のイタリア料理店「シチリア」に度々集まっては、気炎を上げていたそうだ。  無礼講の酒の席で小松左京氏は「沈没成金」と囃され、作風と180度違う毒舌ぶりを発揮していた星新一氏は「オレのジョークにみんな笑い転げるのに、オレの小説がつまらないのはなぜだ?」などと自虐的な会話が飛び交っていたとのこと。そんな言葉のやりとりからブレインストーミング的に珍作『日本以外全部沈没』が生まれたんだよ、と筒井先生は振り返った。興に乗ったSF作家御一行は夜中の横浜中華街にまで繰り出し、大騒ぎしていたとも。作家として認められないSF作家たちの抑圧されていたエネルギーが渦巻いていた宴会だったようだ。世間や巨大組織を相手に戦いを挑む七瀬たち超能力者集団は、溢れ出す豊かなイマジネーションを持て余すSF作家たち若き日の写し絵だったのかもしれない。  "クールビューティ"芦名星が演じた劇場版の七瀬は、これまでの七瀬に比べて超ポジティブだ。七瀬と同じ〈テレパス〉でありながら超能力者抹殺計画の現場指揮を執る狩谷(吉田栄作)に対し、狩谷の思い出したくない幼い頃のトラウマを掘り起こし、心の傷のかさぶたをむしる取るという荒業を七瀬は見せつける。"理想郷"とは誰もいない逃走先にあるのではなく、目の前の問題をクリアしなくては手に入らないことを悟った七瀬は、最後まで戦い抜く覚悟を決める。美しくもはかない超能力者だった七瀬は、スクリーンの中で闘うヒロインとして新しく甦った。CGを多用して、もっと派手なサイキックアクションにしても良かったのではという声もある。しかし劇場版『七瀬ふたたび』は、今までになく"ふたたび"という意味を強く感じさせる1作であることは間違いない。 (文=長野辰次) nns0003.jpg筒井康隆作家生活50周年記念映画『七瀬ふたたび』 原作/筒井康隆 脚本/伊藤和典 監督/小中和哉 出演/芦名星、佐藤江梨子、田中圭、前田愛、ダンテ・カーヴァー、今井悠貴、平泉成、吉田栄作 配給/IMJエンタテインメント + マジックアワー 10月2日(土)よりシネ・リーブル池袋、シアターN渋谷ほか全国ロードショー ※本編上映前に中川翔子初監督作となる短編『七瀬ふたたび プロローグ』を上映。出演/芦名星、多岐川裕美 <http://www.7se-themovie.jp>
NHK少年ドラマシリーズ 七瀬ふたたびI 初代。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

主演作『おにいちゃんのハナビ』が公開!谷村美月もお兄ちゃんが欲しかった!?

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(写真=辰巳千恵/ヘアメイク=松嶋慶太[BEACH]/スタイリスト=松尾由美)
 女優・谷村美月ちゃんがスキンヘッドにまでなって挑んだ力作『おにいちゃんのハナビ』が、9月25日からいよいよ公開される。舞台は、ギネスブックにも掲載されている世界最大の花火「四尺玉」を打ち上げることでも有名な、新潟県小千谷市片貝町の「片貝まつり」。  この映画は、片貝町に暮らすとある兄妹がモデルになっている。成人を迎える兄が、白血病で亡くなってしまった妹に花火を捧げるという痛ましくも美しい実話がベースになっており、その妹役を演じたのが谷村美月ちゃんなのだ。 「白血病と闘う女子高生という役柄なので、髪の毛を剃って臨むことになったのですが、台本を読んだときに惚れ込んでいた役なので、坊主頭にはまったく抵抗なかったですね。むしろ、女優としての覚悟が固まったというか......私としても、いい経験になりました」  自ら病魔と闘いながらも、引きこもりの兄を懸命に支える健気な妹という役どころでしたが、美月ちゃん自身、兄弟とは仲良し? 「私には高校生の弟がいるんですが、仲はいいですよ。私が買ってあげた服とかをちゃんと着てくれるかわいい弟です。でも、昔はお兄ちゃんが欲しかったですね。私が通っていた中学校は上下関係が厳しかったので、同じ学校にお兄ちゃんがいたら心強いのになあとか、よく妄想してました(笑)」  映画では、心温まる兄妹愛とともに、壮大で迫力ある花火シーンが魅力のひとつとなっています。美月ちゃんも花火大会に行ったりしますか?
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2010「おにいちゃんのハナビ」製作委員会
「もちろん子どもの頃から何度も花火大会には行っていますが、今回の映画で片貝まつりを実際に拝見して、花火の持つ真の迫力というものに初めて触れたような気がします。ここの花火は、町民の方たちがスポンサーとなり、一発一発に『家内安全』や『長寿祈願』などの願いを込めて打ち上げているんです。この伝統に片貝町の人々はすごく誇りを持っていて......見ていてとても感動しました」  映画『カナリア』でデビューしたときはわずか14歳だった美月ちゃんも、今年でナント20歳! 時の早さを実感するばかりですが......。 「確かに、いろいろ変化はありましたねえ。東京に出てきて1年半くらい経ちますが、それにともない、仕事への姿勢も変わりました。まだ20歳になった実感はあまりありませんが、お酒を飲めるようになるため、ちょっとずつ梅酒などで練習をしています(笑)。今の楽しみは、来年の成人式で地元の友達とお酒を飲むことです。映画でも、結束力がとても強い片貝町の若者たちが登場しますが、私の地元もすごく仲良しなんですよ。ただ、熱い人が多い片貝町とは逆に、私の地元はわりとクールな人が多いので......お酒を飲んだらどうなるのか、とても楽しみです」  スキンヘッドもいとわない、魂の込もった女優さんかと思いきや、成人式の飲み会に備え、ちょっとずつお酒の練習をする20歳の女の子だったりもする......。このギャップが、美月ちゃんの魅力なのかもしれません。 (文=清田隆之/BLOCKBUSTER) ●谷村美月(たにむら・みつき) 1990年6月18日、大阪府生まれ。初主演作の『カナリア』(05年)でデビュー。抜群の演技力を誇る実力派若手女優で、今秋、『谷村美月写真集 LANKA』(学研パブリッシング)が発売されたほか、『おにいちゃんのハナビ』以外にも『十三人の刺客』『行きずりの街』など多数の映画出演作が公開予定。さらに、10月14日にスタートする『医龍 Team Medical Dragon3』(フジテレビにて毎週木曜22時から放送、ただし初回は21~23時8分の拡大版)、10月18日にスタートする『モリのアサガオ』(テレビ東京にて毎週月曜22時から放送)という2つのドラマ出演も控えている。 ●『おにいちゃんのハナビ』 ギネスブックにも掲載されている世界最大の花火「四尺玉」を打ち上げることで有名な「片貝まつり花火大会」の開催地である新潟県小千谷片貝町。この地に住む太郎(高良健吾)は、引きこもり気味の青年だったが、彼の妹・華(谷村美月)は、そんな太郎の世話を焼き、消極的な兄を優しく見守っている。しかし、華が再び白血病で入院することとなりーー。 監督/国本雅広 脚本/西田征史 出演/高良健吾、谷村美月、宮崎美子、大杉漣ほか 9月25日より、有楽町スバル座ほかにて全国ロードショー 公式サイト<http://hanabi-ani.jp/
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